(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】直流遮断器
(51)【国際特許分類】
H02H 1/00 20060101AFI20241206BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H02H1/00
H02J1/00 301D
(21)【出願番号】P 2024559095
(86)(22)【出願日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2024022374
【審査請求日】2024-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 卓志
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック ペイジ
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭佑
【審査官】新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】特許第7134375(JP,B1)
【文献】特開2022-531820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H1/00
H02J1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流線路に流れる事故電流を遮断するコア遮断器と、前記事故電流を遮断した後に前記直流線路に流れる残留電流を絶縁ガス中で遮断するガス遮断器である残留電流遮断器と、前記コア遮断器及び前記残留電流遮断器を制御する制御部とを備え、
前記コア遮断器は、機械接点によって前記事故電流を遮断するメインブランチと、前記機械接点に電流零点を形成し、前記機械接点の極間に発生するアークを消弧するテンポラリブランチと、前記直流線路を含む直流系統に残留するエネルギーを吸収し、前記事故電流を電流値が零になるまで減衰させるエネルギー処理ブランチとを備え、
前記メインブランチ、前記テンポラリブランチ及び前記エネルギー処理ブランチは、互いに並列に接続されており、
前記制御部は、前記アークが消弧される熱的遮断及び前記機械接点の開極による前記テンポラリブランチ及び前記エネルギー処理ブランチへの前記事故電流の転流に伴って発生する過電圧に前記コア遮断器が耐える誘電的遮断が完了した後に前記残留電流遮断器に前記残留電流を遮断させ
、
前記制御部は、前記コア遮断器及び前記残留電流遮断器に同時に開極指令を出力し、
前記残留電流遮断器は、前記開極指令が入力されてから予め設定された遅れ時間が経過した後に、開極動作を行うことを特徴とする直流遮断器。
【請求項2】
直流線路に流れる事故電流を遮断するコア遮断器と、前記事故電流を遮断した後に前記直流線路に流れる残留電流を絶縁ガス中で遮断するガス遮断器である残留電流遮断器と、前記コア遮断器及び前記残留電流遮断器を制御する制御部とを備え、
前記コア遮断器は、機械接点によって前記事故電流を遮断するメインブランチと、前記機械接点に電流零点を形成し、前記機械接点の極間に発生するアークを消弧するテンポラリブランチと、前記直流線路を含む直流系統に残留するエネルギーを吸収し、前記事故電流を電流値が零になるまで減衰させるエネルギー処理ブランチとを備え、
前記メインブランチ、前記テンポラリブランチ及び前記エネルギー処理ブランチは、互いに並列に接続されており、
前記制御部は、前記アークが消弧される熱的遮断及び前記機械接点の開極による前記テンポラリブランチ及び前記エネルギー処理ブランチへの前記事故電流の転流に伴って発生する過電圧に前記コア遮断器が耐える誘電的遮断が完了した後に前記残留電流遮断器に前記残留電流を遮断させ、
前記制御部は、前記コア遮断器が、前記熱的遮断の完了後かつ前記誘電的遮断の実行中に、前記残留電流遮断器に開極指令を出力し、
前記残留電流遮断器は、前記開極指令が入力されてから予め設定された遅れ時間が経過した後に、開極動作を行うことを特徴とす
る直流遮断器。
【請求項3】
前記絶縁ガスは、合成空気であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の直流遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多端子高電圧直流送電系統へ適用される直流遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧直流送電には、二か所の交直変換器を送電ケーブル及び架空送電線の少なくとも一方によって接続する二端子高電圧直流送電が用いられている。三か所以上の交直変換器を接続した高電圧直流送電系統は、多端子高電圧直流送電系統と称されている。一例を挙げると、四端子高電圧直流送電系統は、四つの交直変換器を直流線路でリング状に接続して構成される。
【0003】
世界的な洋上風力発電の急拡大、発電地域から需要地への長距離電力輸送等のニーズ等より、多端子高電圧直流送電系統による送電の注目が高まっている。
【0004】
直流系統において事故が発生した場合には、事故点に向かって流れる電流を止めることで、事故除去することができる。二か所の交直変換器を一つの直流線路で接続する二端子高電圧直流送電系統では、交流系統に設置した交流遮断器の開極動作及び交直変換器の停止によって、事故点に向かって流れる電流を止めることで、事故除去が可能となる。しかし、多端子高電圧直流送電系統の場合には、二端子高電圧直流送電系統と同様の手法で事故除去すると、全ての送電を止めることになり、事故とは無関係な健全区間における送電も止まるため、大規模停電が発生する可能性がある。
【0005】
このため、多端子高電圧直流送電系統では、直流系統を構成する各直流線路に直流遮断器を設置し、事故区間を含む直流線路において事故電流を遮断する手法が用いられる。
【0006】
直流遮断器は、電流を遮断するコア遮断器と、残留電流を遮断する残留電流遮断器とによって構成される。残留電流遮断器には、一般的には絶縁ガス中で電流を遮断するガス遮断器が用いられる。絶縁ガスには、六フッ化硫黄が広く適用されている。
【0007】
特許文献1には、直列接続されたガス断路器と真空遮断器からなる機械式開閉器と、機械式開閉器に並列接続された半導体スイッチとを備えた直流遮断器が開示されている。特許文献1に開示される直流遮断器は、残留電流遮断器の機能がコア遮断器の一部分であるガス遮断器に組み込まれているが、一般的な直流遮断器と同様に、絶縁ガス中で残留電流を遮断する。直流遮断器を多端子高電圧直流送電系統に適用し、交流系統ではなく直流系統で事故区間を健全な区間から切り離して事故電流を遮断することにより、健全な区間では送電を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、絶縁ガスとして広く用いられている六フッ化硫黄ガスは、地球環境保全の観点から排出規制が加速しており、合成空気などの代替ガスへの置き換えが進められている。
【0010】
ガス遮断器は、消弧室内の遮断部極間が開極すると、極間に発生するアークを介して電流が流れる。絶縁ガスが六フッ化硫黄である場合は、アークに曝されることで絶縁ガスが一旦は分解するが再結合する特性があるため、六フッ化硫黄を絶縁ガスに用いたガス遮断器は、遮断性能を大きく低下させることなく繰り返し電流を遮断することができる。一方、絶縁ガスが合成空気のような代替ガスの場合、アークに曝されて分解した絶縁ガスが再結合しにくいため、代替ガスを絶縁ガスに用いたガス遮断器は、繰り返しの遮断に伴い遮断性能が大きく低下してしまう。この問題は、特にアーク電流が大きい場合には顕著となる。
【0011】
特許文献1に開示される直流遮断器は、ガス遮断器で残留電流を遮断するため、コア遮断器とは別に残留電流遮断器を備えた直流遮断器と同様に上記の問題が発生する。
【0012】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、残留電流の遮断を繰り返し行っても残留電流を遮断するガス遮断器内の絶縁ガスが劣化しにくい直流遮断器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る直流遮断器は、直流線路に流れる事故電流を遮断するコア遮断器と、事故電流を遮断した後に直流線路に流れる残留電流を絶縁ガス中で遮断するガス遮断器である残留電流遮断器と、コア遮断器及び残留電流遮断器を制御する制御部とを備える。コア遮断器は、機械接点によって事故電流を遮断するメインブランチと、機械接点に電流零点を形成し、機械接点の極間に発生するアークを消弧するテンポラリブランチと、直流線路を含む直流系統に残留するエネルギーを吸収し、事故電流を電流値が零になるまで減衰させるエネルギー処理ブランチとを備える。メインブランチ、テンポラリブランチ及びエネルギー処理ブランチは、互いに並列に接続されている。制御部は、アークが消弧される熱的遮断及び機械接点の開極によるテンポラリブランチ及びエネルギー処理ブランチへの事故電流の転流に伴って発生する過電圧にコア遮断器が耐える誘電的遮断が完了した後に残留電流遮断器に残留電流を遮断させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、残留電流の遮断を繰り返し行っても残留電流を遮断するガス遮断器内の絶縁ガスが劣化しにくい直流遮断器を得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係る直流遮断器を用いた多端子高電圧直流送電系統の構成を示す図
【
図2】実施の形態1に係る直流遮断器の構成を示す図
【
図3】実施の形態1に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図
【
図4】実施の形態2に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図
【
図5】実施の形態3に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図
【
図6】実施の形態1、実施の形態2又は実施の形態3に係る直流遮断器が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、実施の形態に係る直流遮断器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る直流遮断器を用いた多端子高電圧直流送電系統の構成を示す図である。多端子高電圧直流系統80は、四つの交流系統1と直流系統2とを備えている。交流系統1の各々と直流系統2との間には、交直変換器3が設置されている。直流系統2は、四つの直流線路4を備えている。交直変換器3の各々は、直流線路4によってリング状に接続されている。このため、交流系統1の各々は、直流線路4及び交直変換器3を介してリング状に接続されている。実施の形態1に係る直流遮断器5は、直流線路4上に設置されている。交流系統1には、交流電源7と交流遮断器6とが設置されている。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る直流遮断器の構成を示す図である。直流遮断器5は、コア遮断器51と、残留電流遮断器52と、コア遮断器51及び残留電流遮断器52を制御する制御部53とを備える。コア遮断器51は、電流を遮断する機械接点を備えたメインブランチ511と、機械接点に電流零点を形成するテンポラリブランチ512と、エネルギー処理及び事故電流の減衰を行うエネルギー処理ブランチ513とを有する。メインブランチ511、テンポラリブランチ512及びエネルギー処理ブランチ513は、互いに並列に接続されている。エネルギー処理ブランチ513には、高電圧が印加されると通電抵抗が小さくなる避雷器を適用することができる。直流遮断器5は、メインブランチ511にのみ機械接点が適用された機械式直流遮断器である。残留電流遮断器52は、絶縁ガス中で電流を遮断するガス遮断器である。絶縁ガスの例には、六フッ化硫黄及び合成空気を挙げることができるが、例示したものとは異なる種類のガスを適用してもよい。
【0019】
制御部53は、保護リレー8から入力される事故検出信号に基づいて、コア遮断器51及び残留電流遮断器52に開極指令を出力する。保護リレー8は、直流線路4とグラウンドとを接続する
図1には不図示の計器用変圧器41と、直流線路4上に設置された
図1には不図示の変流器42とに接続されている。保護リレー8は、変流器42を介して検出される直流線路4に流れる電流の大きさ及び計器用変圧器41を介して検出される直流線路4に印加される電圧の大きさの少なくとも一方に基づいて、制御部53に事故検出信号を出力する。事故検出は、直流線路4を流れる電流の電流値が予め定められた閾値以上となった場合、及び直流系統2に印加される電圧である系統電圧U
sが予め定められた閾値以下の電圧となった場合の少なくとも一方の条件を満たすことによって判断することができる。
【0020】
図3は、実施の形態1に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図である。
図3において、右下がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52が開極動作を行っている開極期間を示し、右上がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52にアークが発生しているアーク期間を示す。また、
図3において、ドットのハッチングは、残留電流遮断器52において開極動作の開始を遅延させている遅延期間を示す。
【0021】
定常時は、メインブランチ511及び残留電流遮断器52の経路を電流が流れる。時刻T0において高電圧直流送電系統において事故が発生すると、予め定められた閾値以上の電流である事故電流Ifが保護リレー8によって検出される。
【0022】
事故電流Ifを検出した保護リレー8は、事故検出信号を制御部53に出力する。事故検出信号が入力された制御部53は、時刻T0から事故検出時間trelayが経過後の時刻T1にコア遮断器51に開極指令を出力する。開極指令を受け取ったコア遮断器51は、メインブランチ511に適用されている機械接点の開極を開始する。時刻T1からコア遮断器開極動作時間tcbopが経過した後の時刻T2にメインブランチ511の機械接点が開極すると、機械接点の極間にはアークが発生する。また、メインブランチ511に適用されている機械接点が開極することにより、事故電流はテンポラリブランチ512及びエネルギー処理ブランチ513に転流する。
【0023】
時刻T2からコア遮断器アーク時間tcbarc経過後の時刻T3に、テンポラリブランチ512に通じる不図示のスイッチがオンされ、テンポラリブランチ512が備える電流零点形成回路により、機械接点に電流零点が形成され、メインブランチ511に流れる電流が遮断される。時刻T3は、電流遮断後に極間に印加される過渡遮断電圧に耐えられる距離まで極間が開いたタイミングである。メインブランチ511による事故電流の遮断は、機械接点の極間に発生するアークが消弧されることにより完了する。メインブランチ511による事故電流の遮断は、一般的には「熱的遮断」と称される。
【0024】
メインブランチ511の機械接点が事故電流を遮断すると、エネルギー処理ブランチ513が、電圧を過渡遮断電圧UTIVに制限する。過渡遮断電圧UTIVは、エネルギー処理ブランチ513によって制限する系統電圧Us以上の電圧である。時刻T4において過渡遮断電圧UTIVが系統電圧Usを超えると、エネルギー処理ブランチ513に電流が流れることにより、直流遮断器5に流れる電流は、ピーク電流値Ipfをピークに限流し始める。ここで、限流中に直流遮断器5に流れる電流を、限流Isとする。過渡遮断電圧UTIVは、エネルギー処理ブランチ513にて設定される電圧電流特性に応じて過電圧が抑制される。このため、過渡遮断電圧UTIVは、時刻T5にピーク値をとった後に減少に転じている。一般的には、過渡遮断電圧のピーク値であるUTIVpkは、系統電圧Usの1.5倍から1.7倍程度である。
【0025】
限流Isは、エネルギー処理ブランチ513を流れることによりエネルギーが吸収される。エネルギー処理ブランチ513でエネルギーが吸収されることにより、限流Isの電流値が減少する。これにより、限流Isの絶対値は、残留電流遮断器52の極間において発生するアークによる絶縁ガスの分解が、遮断性能に影響を与えることのない程度の大きさまで小さくなる。限流Isにて発生するアークが残留電流遮断器52の遮断性能に影響を与えることのない程度の大きさであれば、残留電流遮断器52の極間は開極することができ、これを残留電流遮断器開極可能期間という。限流Isの電流値が零になるまで減衰し、コア遮断器51が事故電流の転流に伴って発生する過渡遮断電圧UTIVに耐えることは、一般的には「誘電的遮断」と称される。
【0026】
制御部53は、コア遮断器51に開極指令を出力するのと同じタイミングである時刻T1に残留電流遮断器52にも開極指令を出力している。開極指令を受け取った残留電流遮断器52は、時刻T1から予め設定された遅れ時間trcsdが経過した時刻T6に開極動作を開始する。残留電流遮断器52が開極動作に要する時間を残留電流遮断器開極動作時間trcsopとすると、限流Isの電流値が初めて零になるのは、時刻T1から遅れ時間trcsd+残留電流遮断器開極動作時間trcsopが経過した後の時刻T8である。したがって残留電流遮断器52は、時刻T8に開極動作を終える。このため、時刻T8において、熱的遮断と誘電的遮断との両方が達成され、事故電流の遮断は完了する。
【0027】
なお、限流Isが残留電流遮断器52の極間において発生するアークによる絶縁ガスの分解が遮断性能に影響を与えることのない大きさまで減衰されるのは、限流Isの電流値が初めて零になる時刻よりも早いタイミングの時刻T7とできる。したがって、残留電流遮断器52のアーク期間は、限流Isの電流値が初めて零になる時刻T8よりも早いタイミングの時刻T7から始まるようにすることができる。
【0028】
ここで、制御部53がコア遮断器51に開極指令を出してからコア遮断器51が誘電的遮断を終えるまでに要する時間を遮断時間tbreakとする。実施の形態1に係る直流遮断器5において、遅れ時間trcsdは、遮断時間tbreak≦遅れ時間trcsd+残留電流遮断器開極動作時間trcsopとなるように設定されている。すなわち、遅れ時間trcsdは、残留電流遮断器52が開極動作を終える時刻T8が、残留電流遮断器開極可能期間の始まる時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも遅い時刻となるように設定されている。
【0029】
なお、残留電流遮断器開極動作時間trcsopは機器固有の値であるため、残留電流遮断器52が開極動作を終える時刻T8を、残留電流遮断器開極可能期間の始まる時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも遅い時刻とできるのであれば、遅れ時間trcsdは、ゼロであってもよい。
【0030】
時刻T8に残留電流遮断器52が開極動作を終えることにより、残留電流遮断器52の極間にアークが発生するが、コア遮断器51において熱的遮断及び誘電的遮断が完了しているため、時刻T8以降に残留電流遮断器52に流れる残留電流は、残留電流遮断器52において遮断可能な振動性電流まで減衰されており、残留電流の電流値は小さく抑えられる。時刻T8から残留電流遮断器アーク時間trcsarcが経過した後の時刻T9において、残留電流遮断器52による残留電流の遮断が完了し、直流遮断器5による事故除去動作が終了する。
【0031】
実施の形態1に係る直流遮断器5は、コア遮断器51と同じタイミングで残留電流遮断器52にも開極指令を入力するため、残留電流遮断器52に開極指令を入力するタイミングを決定するための複雑な計算が不要である。また、残留電流遮断器52が開極動作を終える時刻T8が、残留電流遮断器開極可能期間の始まる時刻T7よりも遅い時刻であることから、残留電流遮断器52において残留電流の遮断が繰り返されたとしても、絶縁ガスが劣化することを抑制することができる。また、遅れ時間trcsdを残留電流遮断器52の特性に合わせて設定することにより、残留電流遮断器開極可能期間の開始後速やかに残留電流を遮断することができる。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態2に係る直流遮断器5の構成は、実施の形態1に係る直流遮断器5と同様であるが、制御部53が残留電流遮断器52に開極指令を出力するタイミングが実施の形態1に係る直流遮断器5と相違する。
【0033】
図4は、実施の形態2に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図である。
図4において、右下がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52が開極動作を行っている開極期間を示し、右上がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52にアークが発生しているアーク期間を示す。また、
図4において、ドットのハッチングは、残留電流遮断器52において開極動作の開始を遅延させている遅延期間を示す。
【0034】
コア遮断器51の動作は、実施の形態1に係る直流遮断器5と同様である。制御部53は、メインブランチ511が電流を遮断した後、過渡遮断電圧UTIVがコア遮断器51に印加されている期間に残留電流遮断器52に開極指令を出力する。
【0035】
制御部53は、メインブランチ511に流れる電流I
fmがゼロであること、及び過渡遮断電圧U
TIVが、予め定められた閾値U
th以上であることの少なくとも一方に基づいて、メインブランチ511において事故電流I
fが遮断されてコア遮断器51に過渡遮断電圧U
TIVが印加されていると判断する。
図4に示す例においては、時刻T3において、メインブランチ511に流れる電流I
fmがゼロになることにより、制御部53は、メインブランチ511において事故電流I
fが遮断されてコア遮断器51に過渡遮断電圧U
TIVが印加されていると判断する。このため、
図4に示す例においては、制御部53は、時刻T3に残留電流遮断器52に開極指令を出力する。
【0036】
開極指令を受け取った残留電流遮断器52は、時刻T3から予め設定された遅れ時間trcsdが経過した時刻T10に開極動作を開始する。残留電流遮断器52の開極動作に要する時間を残留電流遮断器開極動作時間trcsopとすると、限流Isの電流値が初めて零になるのは、時刻T3から遅れ時間trcsd+残留電流遮断器開極動作時間trcsopが経過した後の時刻T11である。したがって、残留電流遮断器52は、時刻T10から残留電流遮断器開極動作時間trcsopが経過した後の時刻T11に開極動作を終える。
【0037】
ここで、遅れ時間trcsdは、遮断時間tbreak-コア遮断器開極動作時間tcbop+コア遮断器アーク時間tcbarc≦遅れ時間trcsd+残留電流遮断器開極動作時間trcsopとなるように設定されている。すなわち、遅れ時間trcsdは、残留電流遮断器52が開極を終える時刻T11が、残留電流遮断器開極可能期間の始まる時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも遅い時刻となるように設定されている。
【0038】
なお、残留電流遮断器開極動作時間trcsopは機器固有の値であるため、残留電流遮断器52が開極動作を終える時刻T11を、残留電流遮断器開極可能期間の始まる時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも遅い時刻とできるのであれば、遅延時間trcsdは、ゼロであってもよい。
【0039】
時刻T11に残留電流遮断器52が開極動作を終えることにより、残留電流遮断器52にアークが発生するが、コア遮断器51において熱的遮断及び誘電的遮断が完了しているため、残留電流遮断器52に流れる残留電流の電流値は小さく抑えられる。時刻T11から残留電流遮断器アーク時間trcsarcが経過した後の時刻T12において、残留電流遮断器52による残留電流の遮断が完了し、直流遮断器5による事故除去動作が終了する。
【0040】
このように、実施の形態2に係る直流遮断器5において、制御部53は、時刻T1からコア遮断器開極動作時間tcbop及びコア遮断器アーク時間tcbarc経過後の時刻T3以降、かつ、時刻T1から遮断時間tbreak経過後の時刻T7までの間に残留電流遮断器52に開極指令を出力し、時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも遅い時刻T11に残留電流遮断器52が開極動作を終える。
【0041】
実施の形態2に係る直流遮断器5は、直流遮断が交流遮断よりも困難な原因である熱的遮断が完了した後に残留電流遮断器52に開極指令が入力される。したがって、実施の形態2に係る直流遮断器5は、コア遮断器51が誘電的遮断性能を備えていれば、事故電流Ifを確実に遮断することができる。したがって、実施の形態2に係る直流遮断器5は、実施の形態1に係る直流遮断器5と比較してコア遮断器51において事故電流Ifの遮断に失敗する可能性が低く、コア遮断器51での事故電流Ifの遮断失敗にともなって残留電流遮断器52が損傷するリスクを低く抑えることができる。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態3に係る直流遮断器5の構成は、実施の形態1に係る直流遮断器5と同様であるが、制御部53が残留電流遮断器52に開極指令を出力するタイミングが実施の形態1に係る直流遮断器5と相違する。
【0043】
図5は、実施の形態3に係る直流遮断器の事故電流遮断動作を示す図である。
図5において、右下がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52が開極動作を行っている開極期間を示し、右上がりのハッチングは、コア遮断器51又は残留電流遮断器52にアークが発生しているアーク期間を示す。
【0044】
コア遮断器51の動作は、実施の形態1に係る直流遮断器5と同様である。制御部53は、コア遮断器51における熱的遮断及び誘電的遮断が完了した後に、残留電流遮断器52に開極指令を出力する。
【0045】
制御部53は、限流I
sが予め設定された閾値I
sth以下であること、及び過渡遮断電圧U
TIVが、予め定められた閾値U
th以上であることの少なくとも一方に基づいて、熱的遮断及び誘電的遮断が完了していると判断する。
図5に示す例においては、時刻T7において、限流I
sが予め設定された閾値I
sth以下となることにより、制御部53は、熱的遮断及び誘電的遮断が完了したと判断する。このため、
図5に示す例においては、制御部53は、時刻T7に残留電流遮断器52に開極指令を出力する。
【0046】
開極指令を受け取った残留電流遮断器52は、遅延無く開極動作を開始する。残留電流遮断器52の開極動作に要する時間を残留電流遮断器開極動作時間trcsopとすると、残留電流遮断器52が開極動作を終えるのは、時刻T7から残留電流遮断器開極動作時間trcsopが経過した後の時刻T14となる。
【0047】
時刻T14に残留電流遮断器52が開極動作を終えることにより、残留電流遮断器52にアークが発生するが、限流Isの電流値が初めて零になる時刻T13には熱的遮断及び誘電的遮断が完了しているため、残留電流遮断器52に流れる残留電流の電流値は小さく抑えられる。時刻T14から残留電流遮断器アーク時間trcsarcが経過した後の時刻T15において、残留電流遮断器52による残留電流の遮断が完了し、直流遮断器5による事故除去動作が終了する。
【0048】
このように、実施の形態3に係る直流遮断器5において、制御部53は、熱的遮断及び誘電的遮断が完了する時刻T7と同じ時刻又は時刻T7よりも後の時刻に残留電流遮断器52に開極指令を出力し、時刻T7よりも遅い時刻に残留電流遮断器52が開極動作を終える。
【0049】
実施の形態3に係る直流遮断器5は、コア遮断器51が熱的遮断及び誘電的遮断を完了した後に残留電流遮断器52に開極指令が入力される。したがって、実施の形態3に係る直流遮断器5は、コア遮断器51において再点弧が生じて電流の遮断に失敗する可能性が実施の形態1,2に係る直流遮断器5よりも低く、コア遮断器51での事故電流Ifの遮断の失敗にともなって残留電流遮断器52が損傷するリスクを低く抑えることができる。
【0050】
つづいて、制御部53のハードウェア構成について説明する。
図6は、実施の形態1、実施の形態2又は実施の形態3に係る直流遮断器が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御部53は、各種処理を実行するプロセッサ91と、メインメモリであるメモリ92と、情報を記憶する記憶装置93とを備えた処理回路によってコンピュータシステムとして実現される。
【0051】
プロセッサ91は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、メモリ92には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリを用いることができる。記憶装置93には、コア遮断器51及び残留電流遮断器52に開極指令を出力する処理を実行するためのプログラムが格納されている。プロセッサ91は、記憶装置93に格納されているプログラムをメモリ92に読み出して実行する。プロセッサ91が記憶装置93に格納されているプログラムをメモリ92に読み出して実行することにより、制御部53の機能が実現される。
【0052】
以上の実施の形態に示した構成は、内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 交流系統、2 直流系統、3 交直変換器、4 直流線路、5 直流遮断器、6 交流遮断器、7 交流電源、8 保護リレー、41 計器用変圧器、42 変流器、51 コア遮断器、52 残留電流遮断器、53 制御部、80 多端子高電圧直流系統、91 プロセッサ、92 メモリ、93 記憶装置、511 メインブランチ、512 テンポラリブランチ、513 エネルギー処理ブランチ。
【要約】
直流遮断器(5)は、直流線路(4)に流れる事故電流を遮断するコア遮断器(51)と、直流線路(4)に流れる残留電流を遮断するガス遮断器である残留電流遮断器(52)と、コア遮断器(51)及び残留電流遮断器(52)を制御する制御部(53)とを備え、コア遮断器(51)は、機械接点によって事故電流を遮断するメインブランチ(511)と、機械接点の極間に発生するアークを消弧するテンポラリブランチ(512)と、直流線路(4)を含む直流系統に残留するエネルギーを吸収し、事故電流を減衰させるエネルギー処理ブランチ(513)とを備え、制御部(53)は、アークが消弧される熱的遮断及びテンポラリブランチ(512)及びエネルギー処理ブランチ(513)への事故電流の転流に伴って発生する過電圧にコア遮断器(51)が耐える誘電的遮断が完了した後に残留電流遮断器(52)に残留電流を遮断させる。