(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】粒子解析装置、粒子解析システム、及び、粒子解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/1433 20240101AFI20241206BHJP
【FI】
G01N15/1433
(21)【出願番号】P 2024560362
(86)(22)【出願日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2023009737
【審査請求日】2024-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】執行 航希
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506602(JP,A)
【文献】特表2013-522629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0071452(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/14~15/1492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカメラが互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズを介して結像するレンズアレイを同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部と、
前記取得部によって取得された多視点画像に基づいて、前記粒子から散乱した散乱光の光強度パターンを検出する検出部と、
前記検出部よって検出された散乱光の光強度パターンに基づいて、前記メインレンズの光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析する解析部と、
前記解析部によって解析された散乱光の散乱立体角度に基づいて、前記粒子の分子量及び粒径を算出する算出部とを備える
ことを特徴とする粒子解析装置。
【請求項2】
複数のカメラが互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズを介して結像するレンズアレイを同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部と、
前記取得部によって取得された多視点画像に基づいて、前記粒子を回折した回折光の回折パターンを検出する検出部と、
前記検出部によって検出された回折光の回折パターンに基づいて、前記粒子の粒径を算出する算出部とを備える
ことを特徴とする粒子解析装置。
【請求項3】
前記粒子が含まれる試料に対して、光を照射する光源と、
前記試料からの光を前記レンズアレイに結像するメインレンズと、
前記レンズアレイを互いに異なる視点から撮像する複数のカメラと、
前記複数のカメラに接続される請求項1又は請求項2記載の粒子解析装置とを備え、
前記試料は、前記メインレンズの光軸上に配置され、前記光源と前記メインレンズとの間に配置される
ことを特徴とする粒子解析システム。
【請求項4】
前記光源から出力された光を、前記試料に対して照射する暗視野コンデンサレンズを備え、
前記光源及び前記暗視野コンデンサレンズは、前記メインレンズの光軸上に配置され、
前記試料は、前記メインレンズと前記暗視野コンデンサレンズとの間に配置される
ことを特徴とする請求項3記載の粒子解析システム。
【請求項5】
前記レンズアレイは、
一定のピッチで配置された複数のレンズ、又は、ランダムなピッチで配置された複数のレンズから構成される
ことを特徴とする
請求項3記載の粒子解析システム。
【請求項6】
前記光源は、出力する光の波長及び強度を調整可能とする
ことを特徴とする
請求項3記載の粒子解析システム。
【請求項7】
取得部が、複数のカメラが互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズを介して結像するレンズアレイを同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得するステップと、
検出部が、前記取得部によって取得された多視点画像に基づいて、前記粒子から散乱した散乱光の光強度パターンを検出するステップと、
解析部が、前記検出部よって検出された散乱光の光強度パターンに基づいて、前記メインレンズの光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析するステップと、
算出部が、前記解析部によって解析された散乱光の散乱立体角度に基づいて、前記粒子の分子量及び粒径を算出するステップとを備える
ことを特徴とする粒子解析方法。
【請求項8】
取得部が、複数のカメラが互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズを介して結像するレンズアレイを同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得するステップと、
検出部が、前記取得部によって取得された多視点画像に基づいて、前記粒子を回折した回折光の回折パターンを検出するステップと、
算出部が、前記検出部によって検出された回折光の回折パターンに基づいて、前記粒子の粒径を算出するステップとを備える
ことを特徴とする粒子解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒子解析装置、粒子解析システム、及び、粒子解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子解析装置が提供されている。この粒子解析装置は、解析対象となる粒子に光を照射し、その照射によって生じる散乱光に基づいて、粒子の光学特性を解析するものである。このような、従来の粒子解析装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された粒子解析装置は、散乱体となる粒子からの散乱光の輝度分布及び散乱角度分布を撮像し、観察するものである。特許文献1に開示された粒子解析装置を用いて、粒子の三次元的構造を解析しようとする場合、被写体からの光が結像される光学系を、互いに異なる複数の視点から順次撮像する必要がある。このため、撮像から解析までの時間が多くかかるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、一度の撮像によって、散乱体となる粒子を三次元的に解析することができる粒子解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る粒子解析装置は、複数のカメラが互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズを介して結像するレンズアレイを同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部と、取得部によって取得された多視点画像に基づいて、粒子から散乱した散乱光の光強度パターンを検出する検出部と、検出部よって検出された散乱光の光強度パターンに基づいて、メインレンズの光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析する解析部と、解析部によって解析された散乱光の散乱立体角度に基づいて、粒子の分子量及び粒径を算出する算出部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、一度の撮像によって、散乱体となる粒子を三次元的に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る粒子解析システムの構成を示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る粒子解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1に係る粒子解析方法を示すフローチャートである。
【
図4】多視点画像を示す図である。
図4Aは、メインレンズからの光がレンズアレイの各レンズにおいて結像している場合の多視点画像である。
図4Bは、メインレンズからの光がレンズアレイの前後で結像している場合の多視点画像である。
【
図5】散乱光の散乱立体角度と最小包含円とを対応付けた図である。
【
図6】回折光の回折パターンを含む多視点画像を示す図である。
図6Aは、メインレンズ像を示す図である。
図6Bは、
図6Aの拡大図である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、実施の形態1に係る粒子解析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
【0011】
先ず、実施の形態1に係る粒子解析システム10の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施の形態1に係る粒子解析システム10の構成を示す概略図である。なお、
図1の上段図は、粒子解析システム10の構成を示すものである。また、
図1の下段図は、その粒子解析システム10に対応した幾何光学シミュレーションを示すものである。
【0012】
図1に示すように、粒子解析システム10は、光源11、コリメータレンズ12、遮蔽板13、コンデンサレンズ14、メインレンズ15、レンズアレイ16、複数のカメラ17、及び、粒子解析装置30を備えている。また、粒子解析システム10は、コンデンサレンズ14とメインレンズ15との間に、試料20を取り付け可能としている。試料20は、光を透過可能な材料で形成されている。光源11、コリメータレンズ12、遮蔽板13、コンデンサレンズ14、及び、レンズアレイ16は、メインレンズ15の光軸上において、同軸状に配置されている。
【0013】
光源11は、光を先端から放射状に出力するものである。この光源11は、出力する光の波長及び強度を調整可能としている。光源11は、例えば、レーザ光を出力するレーザ光源である。
【0014】
コリメータレンズ12は、複数の円形状をなすレンズから構成されている。このコリメータレンズ12は、光源11から出力された放射状の光を通過させることで、その放射状の光を、平行光に変換して出力するものである。
【0015】
遮蔽板13は、円板状に形成されている。この遮蔽板13は、コリメータレンズ12とコンデンサレンズ14との間に配置されている。また、遮蔽板13の径は、コリメータレンズ12のレンズ径及びコンデンサレンズ14のレンズ径よりも小径となっている。このため、遮蔽板13は、コリメータレンズ12から出力された平行光に対して、その中心部分を遮蔽することで、当該平行光から、中心部分の光が無い平行光に形成する。
【0016】
コンデンサレンズ14は、遮蔽板13によって形成された、中心部分の無い平行光を、通過させることで、その平行光を、中心部分が無い円錐状の光に変換して出力する。即ち、その中心部分が無い円錐状の光は、コンデンサレンズ14から試料20に向かうに従って、徐々に小径となるような、先細り状の光である。このとき、円錐光の中心部分も、円錐状をなしている。このような、コンデンサレンズ14から出力された円錐光は、試料20に照射される。なお、遮蔽板13及びコンデンサレンズ14は、暗視野コンデンサレンズを構成するものである。
【0017】
ここで、試料20を形成する粒子に上記円錐光が照射されると、その円錐光が照射された1つ以上の粒子において、光散乱が発生する。以下、光を散乱した粒子については、散乱体と称す。このとき、光源11から出力する光を、遮蔽板13に干渉したレーザ光とした場合、散乱体となる粒子は、メインレンズ15側に向けて前方散乱する散乱光と、回折によって生じる回折光とを、生成する場合がある。このため、後述するメインレンズ15には、散乱体によって生成された散乱光及び回折光が、入射されることになる。
【0018】
メインレンズ15は、散乱体から散乱した散乱光、及び、散乱体を回折した回折光を、通過させことで、それらの光を、後述するレンズアレイ16に対して結像させるものである。例えば、メインレンズ15は、対物レンズ15a及び結像レンズ15bから構成されている。又は、メインレンズ15は、マイクロレンズ15cから構成されている。対物レンズ15a及び結像レンズ15bは、試料20側からレンズアレイ16側に向けて順に配置されている。
【0019】
レンズアレイ16は、複数のレンズ16aから構成されている(
図4A参照)。これらのレンズ16aは、一定のピッチで配置され、又は、ランダムなピッチで配置されている。
【0020】
複数のカメラ17は、レンズアレイ16の全てのレンズ16aを含む範囲を撮像範囲とし、各レンズ16aに結像された光を撮像するものである。なお、
図1に示す粒子解析システム10においては、複数のカメラ17のうち、代表して、1つのカメラ17を図示している。各カメラ17は、互いに異なる位置に配置されており、レンズアレイ16の表面に対して、互いに異なる視点又は方向から撮像する。
【0021】
また、各カメラ17は、画像生成部(図示省略)と接続されている。この画像生成部は、各カメラ17によって同時に撮像された全ての画像を、合成することにより、複数の視点からレンズアレイ16を撮像したような、多視点画像を生成する。このため、画像生成部によって生成された多視点画像は、三次元的な画像となる。更に、画像生成部は、生成した多視点画像を粒子解析装置30に出力可能となっている。
【0022】
更に、カメラ17のイメージセンサに対して、撮像したレンズアレイ像が、そのイメージセンサの光軸を回転中心として、回転してずれている場合、当該カメラ17は、レンズアレイ像の回転角度を補正する。
【0023】
次に、実施の形態1に係る粒子解析装置30の構成について、
図2を用いて説明する
図2は、実施の形態1に係る粒子解析装置30の構成を示すブロック図である。
【0024】
図2に示すように、粒子解析装置30は、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35を備えている。
【0025】
取得部31は、複数のカメラ17に接続する画像生成部から、多視点画像を取得する。取得部31は、取得した多視点画像を検出部32に出力する。
【0026】
検出部32は、取得部31から、多視点画像を取得する。検出部32は、取得した多視点画像に基づいて、散乱光の光強度パターン及び回折光の光強度パターンを検出する。各光強度パターンは、三次元的な光強度パターンである。検出部32は、検出した散乱光の光強度パターン及び回折光の光強度パターンを、解析部33に出力する。
【0027】
また、検出部32は、多視点画像から、任意の焦点面の像(以下、リフォーカス像と称す)を生成可能となっている。このリフォーカス像は、1つの多視点画像から複数生成可能であるため、結果的に、三次元像の復元が可能となる。
【0028】
解析部33は、検出部32から、散乱光の光強度パターン及び回折光の光強度パターンを取得する。解析部33は、散乱光の光強度パターンに基づいて、散乱光の散乱立体角度を解析する。また、解析部33は、回折光の光強度パターンに基づいて、回折光の回折パターンを解析する。解析部33は、解析した散乱光の散乱立体角度及び回折光の回折パターンを、算出部34に出力する。なお、散乱光の散乱立体角度とは、メインレンズ15の光軸を中心とした、散乱光の放射角度又は傾斜角度である。
【0029】
算出部34は、解析部33から、散乱光の散乱立体角度及び回折光の回折パターンを取得する。算出部34は、散乱光の散乱立体角度及び既知理論を用いて、散乱体となる粒子の重量及び半径を算出する。また、算出部34は、回折光の回折パターンを用いて、散乱体となる粒子の半径を算出する。
算出部34は、算出した散乱体となる粒子の重量及び半径を、出力部35に出力する。
【0030】
出力部35は、算出部34から、散乱体となる粒子の重量及び半径を取得する。出力部35は、取得した散乱体となる粒子の重量及び半径を、表示部41に出力する。
【0031】
表示部41は、出力部35から、散乱体となる粒子の重量及び半径を取得する。表示部41は、取得した散乱体となる粒子の重量及び半径を、表示画面に表示する。
【0032】
次に、実施の形態1に係る粒子解析方法について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態1に係る粒子解析方法を示すフローチャートである。
【0033】
ステップST11において、取得部31は、複数のカメラ17が同時に撮像した撮像画像を合成することによって得られる多視点画像を、取得する。
【0034】
ステップST12において、検出部32は、散乱体となる粒子から散乱した散乱光の光強度パターン、及び、散乱体となる粒子を回折した回折光の回折パターンを検出する。
【0035】
ステップST13において、解析部33は、散乱光の光強度パターンに基づいて、メインレンズ15の光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析する。
【0036】
ステップST14において、算出部34は、散乱光の散乱立体角度に基づいて、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出する。また、算出部34は、回折光の回折パターンに基づいて、散乱体となる粒子の粒径を算出する。
【0037】
ステップST15において、出力部35は、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を、表示部41に出力する。
【0038】
次に、散乱光の解析について、
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。
図4は、多視点撮像画像を示す図である。
図5は、散乱光の散乱立体角度と最小包含円とを対応付けた図である。
【0039】
図4Aは、メインレンズ15からの光がレンズアレイ16の各レンズ16aにおいて結像している場合の多視点画像である。その各レンズ16aの輝点部分は、焦点が合っており、はっきりと見えている。
図4Bは、メインレンズ15からの光がレンズアレイ16の前後で結像している場合の多視点画像である。そのレンズ16aの輝点部分は、焦点が合っておらず、ぼやけて見えている。なお、
図4Aは、多視点画像から9個のレンズ16aを拡大したものである。また、
図4Bは、多視点画像から1個のレンズ16aを拡大したものである。
【0040】
図4A及び
図4Bにおいて、白色領域は、光が入射しているシグナル領域である。また、黒色領域は、光が入射されていないノイズ領域である。このため、検出部32は、多視点画像において、白色領域となるシグナル領域と、黒色領域となるノイズ領域とを、区分することができる。
【0041】
レンズアレイ16を用いた撮像においては、複数のレンズ16aに対して、同一の散乱体から散乱された光が入射する場合がある。この各レンズ16aに入射された光は、互いに異なる視点から散乱体を観察した結果であり、互いに異なる散乱立体角度から得られた散乱光は、解析上、同一の散乱体から得られた輝点であると識別する必要がある。
【0042】
粒子の配列によっては、レンズアレイ16上で結像する散乱光と、レンズアレイ16の前後で結像する光とが、同じレンズアレイ16上に投影されて、観察される場合がある。この場合には、検出部32は、それらの光の積算光から、各散乱体から入射された光の光強度パターンを分離する必要がある。
【0043】
例えば、
図4Aに示す多視点画像を用いて、散乱光の光強度パターンを検出する場合には、検出部32は、各レンズ16aの輝点部分における輝度を平均した平均輝度と、輝点部分の輝度との差を、その輝点部分に対応するピクセルから減算する。また、
図4Bに示す多視点画像を用いて、散乱光の光強度パターンを求める場合には、検出部32は、各レンズ16aの輝点部分の光強度パターンに対して、平均輝度を減算する。
【0044】
また、検出部32は、散乱体となる粒子の識別を、例えば、レンズアレイ16のおけるレンズ間ピッチと、試料20から対物レンズ15aまでの距離とに基づいて、行う。
【0045】
ここで、粒子の識別を行った後、対物レンズ15aの光軸上に位置する特定の焦点面から散乱光を発する粒子が存在している場合、
図4Aに示すように、その散乱光は、特定の間隔で、レンズアレイ16上に投影される。このような状況は、
図5に示すような、円錐状の散乱光を抽出することに等しい。また、その散乱光は、対物レンズ15aによって取得された光と等しい。この
図5に示すθは、散乱光の散乱立体角度である。
【0046】
このような、複数の輝点部分が存在するレンズアレイ像から、対象となる散乱体のXY座標を算出するためには、
図5に示すように、解析部33は、レンズアレイ16に投影された複数の同一散乱体から検出された光に包含される、最小包含円の中心を算出する必要がある。
【0047】
試料20の内部において散乱体同士の距離が近い場合、レンズアレイ16における一部のレンズ16aには、散乱光の輝点部分が生じる。このとき、所定の散乱体に規定した最小包含円には、当該散乱体に対応した輝点部分が内包される。このため、散乱体となる粒子の識別によって、当該粒子に対して、最小包含円を描くことができる。
【0048】
そして、解析部33は、最小包含円の中心を原点とする、当該最小包含円に含まれた同一粒子から得られた輝点部分の重心座標、及び、メインレンズ15の径等に基づいて、散乱光の散乱立体角度の依存性を解析する。
【0049】
次いで、算出部34は、解析部33によって解析された散乱光の散乱立体角度依存性と、既知理論となるミー散乱理論から得られる角度依存性に関する理論式とを、利用することで、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出する。なお、各散乱立体角度に対応する輝点部分に関する情報は、ミー散乱理論を用いれば、粒子の分子量に変換可能となる。
【0050】
次に、リフォーカス像の生成に利用する光線重なり行列から、リフォーカス像の生成後における特定のピクセルにおける散乱光の散乱立体角度依存性を解析可能となる点について説明する。
【0051】
光線重なり行列は、以下の式(1)を利用して作成可能である。
【0052】
Δ=MLP(1-fmla/(d*M2-a)) ・・・ (1)
Δ:多視点画像中におけるX,Y軸方向の同一光線間距離
MLP:レンズ16aのピッチ
d:描画したいZ軸方向位置(メインレンズ15の物界側焦点面から粒子までの距離)
fmla:メインレンズ15におけるレンズアレイ像側焦点距離
a:メインレンズ15におけるレンズアレイ像側焦点面から、レンズアレイ16の厚さ方向中心までの距離
【0053】
光線重なり行列は、以下の式(2)を用いて変換すれば良い。
【0054】
ΔEI=Δ-(MLP-EIone) ・・・ (2)
EIone:1つのメインレンズ15から正方形で切り出したエレメンタルイメージアレイの一辺の長さ
【0055】
光線重なり行列の行方向は、重なり合うエレメンタルイメージアレイにおける行番号及び列番号と対応する。このため、光線重なり行列をエレメンタルイメージアレイの行、列にそれぞれ適用することによって、最終的に、エレメンタルイメージアレイから、重ね合わせるピクセルのインデックス情報を抜き取ることができる。このインデックス情報は、エレメンタルイメージアレイのi行、j列に存在するピクセル値となるEIA(i,j)と対応する。そこで、リフォーカス像生成後におけるu行、v列に存在するピクセル値R(u,v)は、光線重なり行列Cを用いて表すと、以下の式(3)となる。なお、Cは、1からkまでの正の整数で構成された行数と、リフォーカス像の最大行数=最大列数とを有する、行列である。
【0056】
【0057】
ここで、式(3)の第1項目となるC(1:k|C≠0,u)は、光線重なり行列Cにおける列uのうち、行方向で0を含まない列を示す。
【0058】
散乱立体角度依存性SA[ua,va]は、リフォーカス像生成後に対応するピクセル値(u,v)が、どのような角度依存性を有しているのかを示すものである。このため、散乱立体角度依存性SA[ua,va]に対応するピクセル中に、行列が格納されていることから、当該散乱立体角度依存性SA[ua,va]は、通常の行列とは異なる行列形態となる。例えば、特定のua,vaに対応して、SA[ua,va]=(1,2;3,4)のような、行列が格納されている。これらを加味すると、散乱立体角度依存性SAは、下記の式(4)で示すことができる。
【0059】
【0060】
また、上述したように、各散乱立体角度において得られたピクセル値から、散乱光の光強度パターンにおける散乱立体角度依存性を算出する場合、解析部33は、電力を1mW以下に抑えた光源11の光の強度を徐々に変えて計測し、そのときのキャリブレーションデータに基づいて、散乱光の散乱立体角度を計算する。
【0061】
次に、回折光の解析について、
図6を用いて説明する。
図6は、回折光の回折パターンを含む多視点画像を示す図である。
【0062】
散乱体となる粒子の粒径が、多視点画像の分解能よりも小さい粒径の場合、検出部32は、散乱体となる粒子の粒径を、多視点画像の散乱光に基づいて検出することが困難となる。この場合、検出部32は、多視点画像の回折光を利用して、散乱体となる粒子の粒径を検出する。
【0063】
回折光の回折パターンは、当該回折光のレンズアレイ16に対する入射角に応じて、形成される。検出部32は、多視点画像から生成したリフォーカス像を用いて、回折光の回折パターンを検出する。メインレンズ15の物界側焦点面における回折パターンは、レンズアレイ16に直接投影される。また、その物界側焦点面以外の非焦点面における回折パターンは、対象粒子側の焦点面を再構成することによって取得することができる。
【0064】
また、
図6に示すように、散乱体を回折した回折光の回折パターンは、メインレンズ15の焦点面とレンズアレイ16との間の光学的位置関係に基づいて、レンズアレイ16における1つのレンズ16aに写し出される。算出部34は、そのような単一粒子から得られた回折パターンから、フラウンフォーファー回折近似を利用して、散乱体となる粒子の粒径を算出する。
【0065】
算出部34は、下記の式(5)を用いて、散乱体となる粒子の粒径を算出する。このとき、qは、回折の第1暗円形像の半径、Rは、観察像となるレンズ16aまでの距離、λは、回折光の波長、Dは、粒子の粒径とする。
q=1.22(R*λ/D) ・・・ (5)
【0066】
通常の観察系においては、焦点深度が浅いため、Rは、対物レンズ15aの焦点距離となる。これに対して、算出部34は、互いに異なる焦点面のリフォーカス像を1つの多視点画像から抽出し、Dをフィッテングパラメータとして、qを各Rで測定しているため、散乱体となる粒子の粒径を、精度良く、算出することができる。
【0067】
なお、実施の形態1に係る粒子解析装置30は、散乱体となる粒子からの反射光又は散乱体となる粒子を透過する透過光の解析を目的とするものではない。粒子解析装置30は、メインレンズ15及びレンズアレイ16に対して、上記反射光又は透過光が入射されなければ、解析可能となるものである。このため、粒子解析装置30は、上記反射光又は透過光を解析するための装置とは、構成が大きく異なるものである。
【0068】
次に、実施の形態1に係る粒子解析装置30のハードウェア構成例について、
図7を用いて説明する。
図7A及び
図7Bは、実施の形態1に係る粒子解析装置30のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0069】
図7Aに示す如く、粒子解析装置30は、コンピュータにより構成されており、当該コンピュータは、プロセッサ51及びメモリ52を有している。メモリ52には、そのコンピュータを、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35として機能させるためのプログラムが記憶されている。メモリ52に記憶されているプログラムをプロセッサ51が読み出して実行することにより、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35の機能が実現される。
【0070】
または、
図7Bに示す如く、粒子解析装置30は、処理回路53を有するものであっても良い。この場合、処理回路53は、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35により実現されるものであっても良い。
【0071】
または、粒子解析装置30は、プロセッサ51、メモリ52、及び、処理回路53を有するものであっても良い(不図示)。この場合、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35の機能のうちの一部がプロセッサ51及びメモリ52により実現されて、残余の機能が処理回路53により実現されるものであっても良い。
【0072】
プロセッサ51は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ又はDSP(Digital Signal Processor)のうちの少なくとも一つを用いたものである。
【0073】
メモリ52は、例えば、半導体メモリ又は磁気ディスクのうちの少なくとも一方を用いたものである。より具体的には、メモリ52は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、SSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)のうちの少なくとも一つを用いたものである。
【0074】
処理回路53は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、SoC(System-on-a-Chip)又はシステムLSI(Large-Scale Integration)のうちの少なくとも一つを用いたものである。
【0075】
なお、上述したように、実施の形態1に係る粒子解析装置30においては、散乱光の光強度パターンに基づいて、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出すると共に、回折光の回折パターンに基づいて、散乱体となる粒子の粒径を算出している。これに対して、粒子解析装置30は、散乱光の光強度パターンに基づいて、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出するもの、又は、回折光の回折パターンに基づいて、散乱体となる粒子の粒径を算出するものであっても構わない。
【0076】
粒子解析装置30が、散乱光の光強度パターンに基づいて、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出するものである場合、当該粒子解析装置30は、取得部31、検出部32、解析部33、算出部34、及び、出力部35を備えていれば良い。また、粒子解析装置30が、回折光の回折パターンに基づいて、散乱体となる粒子の粒径を算出するものである場合、当該粒子解析装置30は、取得部31、検出部32、算出部34、及び、出力部35を備えていれば良い。
【0077】
以上、実施の形態1に係る粒子解析装置30は、複数のカメラ17が互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズ15を介して結像するレンズアレイ16を同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部31と、取得部31によって取得された多視点画像に基づいて、粒子から散乱した散乱光の光強度パターンを検出する検出部32と、検出部32よって検出された散乱光の光強度パターンに基づいて、メインレンズ15の光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析する解析部33と、解析部33によって解析された散乱光の散乱立体角度に基づいて、粒子の分子量及び粒径を算出する算出部34とを備える。このため、粒子解析装置30は、一度の撮像によって、散乱体となる粒子を三次元的に解析することができる。
【0078】
また、実施の形態1に係る粒子解析装置30は、複数のカメラ17が互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズ15を介して結像するレンズアレイ16を同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部31と、取得部31によって取得された多視点画像に基づいて、粒子を回折した回折光の回折パターンを検出する検出部32と、検出部32によって検出された回折光の回折パターンに基づいて、粒子の粒径を算出する算出部34とを備える。このため、粒子解析装置30は、一度の撮像によって、散乱体となる粒子を三次元的に解析することができる。
【0079】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは、実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示に係る粒子解析装置は、多視点画像から散乱光の光強度パターン及び回折光の回折パターンに基づいて、散乱体となる粒子の分子量及び粒径を算出することができるので、一度の撮像によって、散乱体となる粒子を三次元的に解析することができ、粒子解析装置等に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0081】
10 粒子解析システム、11 光源、12 コリメータレンズ、13 遮蔽板、14 コンデンサレンズ、15 メインレンズ、15a 対物レンズ、15b 結像レンズ、15c マイクロレンズ、16 レンズアレイ、16a レンズ、17 カメラ、20 試料、30 粒子解析装置、31 取得部、32 検出部、33 解析部、34 算出部、35 出力部、41 表示部、51 プロセッサ、52 メモリ、53 処理回路。
【要約】
粒子解析装置30は、複数のカメラ(17)が互いに異なる視点から、光が照射された粒子からの光がメインレンズ(15)を介して結像するレンズアレイ(16)を同時に撮像した撮像画像を、合成することによって得られる多視点画像を、取得する取得部(31)と、取得部(31)によって取得された多視点画像に基づいて、粒子から散乱した散乱光の光強度パターンを検出する検出部(32)と、検出部(32)よって検出された散乱光の光強度パターンに基づいて、メインレンズ(15)の光軸を中心とした散乱光の散乱立体角度を解析する解析部(33)と、解析部(33)によって解析された散乱光の散乱立体角度に基づいて、粒子の分子量及び粒径を算出する算出部(34)とを備える。