(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20241209BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241209BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C08L33/08
C08K3/36
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2021048814
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】浅井 文雄
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
(72)【発明者】
【氏名】関 隆広
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111498(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148496(WO,A1)
【文献】特開2006-226389(JP,A)
【文献】特開平07-286083(JP,A)
【文献】特開2021-036022(JP,A)
【文献】特開2022-094687(JP,A)
【文献】国際公開第2020/047674(WO,A1)
【文献】特開2020-094094(JP,A)
【文献】特開2022-106281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/08
C08K 3/36
C08K 3/013
C08K 3/04
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーを含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
0は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)をモノマーユニットとして含有し、
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上10μm未満であり、
前記熱伝導性フィラーは、グラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン、および多層グラフェンから選ばれる少なくとも1種であって、比表面積が200~1100m
2
/gであり、
ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して、
前記シリカ粒子の含有量が
18~56重量%であり、
前記熱伝導性フィラーの含有量が2~8重量%であり、
前記シリカ粒子と前記熱伝導性フィラーの合計含有量が25~58重量%であり、そして
前記樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートを使用して、JIS-R1611に基づくフラッシュ法によって求められる熱伝導率が0.55
W/m・K以上を示す、ことを特徴とする、上記樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上500nm未満である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリカ粒子の含有量が20~56重量%である、請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
R
0がメチル基である、請求項1~3いずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーを含有する樹脂組成物からなるエラストマー材料であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化2】
[式(1)中、R
0は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)をモノマーユニットとして含有し、
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上10μm未満であり、
前記熱伝導性フィラーは、グラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン、および多層グラフェンから選ばれる少なくとも1種であって、比表面積が200~1100m
2
/gであり、
ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して、
前記シリカ粒子の含有量が
18~56重量%であり、
前記熱伝導性フィラーの含有量が2~8重量%であり、
前記シリカ粒子と前記熱伝導性フィラーの合計含有量が25~58重量%であり、そして
前記樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートを使用して、JIS-R1611に基づくフラッシュ法によって求められる熱伝導率が0.55
W/m・K以上を示す、ことを特徴とする、上記エラストマー材料。
【請求項6】
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上500nm未満である、請求項5に記載のエラストマー材料。
【請求項7】
前記シリカ粒子の含有量が20~56重量%である、請求項5または請求項6に記載のエラストマー材料。
【請求項8】
R
0がメチル基である、請求項5~7いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項9】
引張破断応力として、少なくとも3.0MPa有する、請求項5~8いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項10】
引張破断ひずみとして、少なくとも350%を示す、請求項5~9いずれかに記載のエラストマー材料。
【請求項11】
アクリレートモノマー、シリカ粒子および熱伝導性フィラーを含有する分散液であって、
前記アクリレートモノマーが、
下記一般式(1):
【化3】
[式(1)中、R
0は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)を含有し、
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上10μm未満であり、
前記熱伝導性フィラーは、グラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン、および多層グラフェンから選ばれる少なくとも1種であって、比表面積が200~1100m
2
/gであり、
前
記アクリレートモノマー、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して、
前記アクリレートモノマーが75~42重量%であり、
前記シリカ粒子の含有量が
18~56重量%であり、
前記熱伝導性フィラーの含有量が2~8重量%であり、
前記シリカ粒子と前記熱伝導性フィラーの合計含有量が25~58重量%である
ことを特徴とする、上記分散液。
【請求項12】
前記シリカ粒子は平均粒子径が110nm以上500nm未満である、請求項
11に記載の分散液。
【請求項13】
前記シリカ粒子の含有量が20~56重量%である、請求項
11または請求項
12に記載の分散液。
【請求項14】
R
0がメチル基である、請求項
11~
13いずれかに記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、熱伝導性に優れたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムに代表されるエラストマー材料は、その優れた柔軟性と靭性から、自動車、工業製品、生活資材に至る数多くの製品の構成部材として広く使用されている。
【0003】
近年、パソコンやスマートフォン等の電子機器内の部品の小型化、集積化、ならびに高性能化に伴って、それら機器内から発生する熱は増加しており、その熱対策を実施しない場合、電子機器の機能低下や寿命の低下を招くだけではなく、電子機器の発熱による低温やけどや発火の原因となる恐れがある。
【0004】
これら部品の熱対策として、機器内部の発熱部材を金属部品と接触させ放熱を促進する、または、ヒートシンクを接合して積極的な冷却作用を生じさせることで、発熱部材の温度低下を測っているのが一般的である。
【0005】
こうした金属材料を介した放熱においては、その接触部分における熱伝導パスの形成が重要であり、熱伝導性フィラーを含有する柔軟性の高いエラストマーやそれらを発泡させた熱伝導性シートを接合に用いる、または、熱伝導性フィラーを含むスラリー組成物を接合部に滴下し、滴下後に金属材料と接合する熱硬化型材料が用いられており、例えば、特許文献1には、エラストマー樹脂と熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性発泡体シートが開示されている。
【0006】
熱伝導性材料の性能は、熱伝導性フィラーの熱伝導性能とその充填量に左右されるが、近年、熱伝導性フィラーの中でも極めて高い熱伝導性を有するグラフェンの利用が検討されている。
【0007】
グラフェンは炭素原子が二次元に連なったシート状であって、それぞれのシート同士はファンデルワールス力による相互作用によって互いに接近し、複数のシートが積層した凝集体を作りやすい特性を有していることから、グラフェンを用いた熱伝導性材料の実現においてはグラフェンを母材である樹脂中に高度に分散する技術が重要である。
【0008】
例えば、非特許文献1には、溶液を用いて、グラフェンとエラストマー材料を混合することで熱伝導性複合材料を得る方法が開示されているが、非極性のグラフェンをエラストマー材料中に分散させるために多量の溶媒を必要とし、溶媒回収および処理に必要なエネルギー消費と環境負荷が大きい。また、非特許文献2には、グラフェンのエラストマー材料への分散性と、グラフェンとエラストマー材料からなる複合材料の強度向上を目的に、酸化グラフェンの表面にシリカ粒子を形成させ、力学的特性と熱伝導性に優れた熱伝導性複合材料を得る方法が開示されているが、熱伝導性材料を得る工程が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Araby, S.; Meng, Q.; Zhang, L.; Kang, H.; Majewski, P.; Tang, Y.; Ma, J. Polymer. 2014, 55 (1), 201-210.
【文献】Dong, H.; Jia, Z.; Luo, Y.; Zhong, B.; Jia, D. Polym. Compos. 2019, 40, E1633-E1641.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、特に、伸張性および靭性に優れた機械的特性を有し、熱伝導性に優れたたエラストマー材料として好適に使用することができる樹脂組成物および該樹脂組成物からなるエラストマー材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を、ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子と熱伝導性フィラーを含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアクリレート樹脂が、少なくとも、
下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
0は、水素原子、メチル基またはエチル基を表す;R
1は水素原子またはメチル基を表す;nは1~9の整数を表す。]で示されるアクリレートモノマー(A)をモノマーユニットとして含有し、ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して、
前記シリカ粒子の含有量が15~62重量%であり、
前記熱伝導性フィラーの含有量が2~8重量%であり、
前記樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートを使用して、JIS-R1611に基づくフラッシュ法によって求められる熱伝導率が0.55以上を示す、ことを特徴とする、上記樹脂組成物により達成できることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、新規な樹脂組成物を提供した。
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として特に適している。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、熱伝導性に優れ、かつ伸張性および靭性等の機械的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図2】実施例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図3】比較例1で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図4】比較例2で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図5】比較例3で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【
図6】比較例4で得られた樹脂組成物の応力/ひずみ曲線。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、ポリアクリレート樹脂とシリカ粒子と熱伝導性フィラーを含有するものである。
【0016】
まず、前記樹脂組成物に含まれるポリアクリレート樹脂について説明する。
前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)を、モノマーユニットとして含有することが必要である。
【化2】
【0017】
式(1)中、R0は、水素原子、メチル基またはエチル基、好ましくは水素原子またはメチル基、より好ましくはメチル基を表す。R1は水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基を表す。nは1~9、好ましくは1~5、より好ましくは1~3、さらにより好ましくは1~2、最も好ましくは2の整数を表す。
【0018】
上記一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)は、熱重合または光重合によりアクリレート樹脂とすることができる。
【0019】
一般式(1)で示されるアクリレートモノマーの具体例として、例えば、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量300)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(数平均分子量1100)が挙げられる。シリカ粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、より好ましくは、2-メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、さらにより好ましくは2-メトキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートである。最も好ましくは、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートである。一般式(1)で示されるアクリレートモノマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0020】
本発明の樹脂組成物に含まれる前記ポリアクリレート樹脂は、架橋剤として二官能以上のアクリレートモノマーをモノマーユニットとして用いてもよい。例えば、二官能アクリレートモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレングリコール鎖の分子量100~10000)など、三官能アクリレートモノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなど、四官能以上のアクリレートモノマーとして、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリペンタエリスリトールオクタアクリレート、テトラペンタエリスリトールデカアクリレート、ペンタペンタエリスリトールドデカアクリレートなどが挙げられる。シリカ粒子の分散性および得られる樹脂組成物の物理的特性から、好ましくは、二官能アクリレートモノマー、好ましくは、エチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、より好ましくは、ジエチレングリコールジアクリレートである。二官能以上のアクリレート類は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0021】
上記一般式(1)において、R1が水素原子であるアクリレートモノマーを使用する場合、得られるアクリレート樹脂が、ガラス転移点が零度を大きく下回る高粘着性となり、取り扱いが難しくなるとの理由から、前記二官能以上のアクリレートモノマーを架橋剤として使用することが好ましい。
【0022】
前記二官能以上のアクリレートモノマーは、全モノマーユニット100モル%に対して、5モル%未満、好ましくは2モル%未満、より好ましくは1モル%未満、さらにより好ましくは0.6モル%未満の範囲になる量が樹脂組成物に含有されてもよい。前記二官能以上のアクリレート類が5モル%以上の場合、エラストマー材料の引張破断伸度が著しく低下する。
【0023】
本発明の樹脂組成物に含まれる前記ポリアクリレート樹脂は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤をモノマーユニットとして含有してもよい。
【化3】
【0024】
式(2)中、R2は、水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基を表す。R3は、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメトキシ基を表す。R4は、メチル基、メトキシ基またはエトキシ基、好ましくはメチル基またはメトキシ基を表す。
【0025】
一般式(2)で示されるシランカップリング剤の具体例として、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。機械的特性の向上の高さから、好ましくは3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランまたは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、より好ましくは3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。一般式(2)で示されるシランカップリング剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0026】
前記シランカップリング剤は、使用する場合、シランカップリング剤のシリカ粒子に対する表面被覆比が0.005~0.080、好ましくは0.006~0.076、より好ましくは0.007~0.080、さらにより好ましくは0.010~0.075の範囲になる量が樹脂組成物に含有されるようにすればよい。
【0027】
ここで、表面被覆比は下記式で得られる値である。
[表面被覆比]=[樹脂組成物に含まれるシランカップリング剤の量(g)]×[シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)]÷[樹脂組成物に含まれるシリカ粒子の表面積(m2)の和]
【0028】
「シランカップリング剤の最小被覆面積(m2/g)」とは、シランカップリング剤1gがシリカ等の材料表面上にて反応、吸着等したときに、ランカップリング剤がその表面を被覆する面積を意味しており、通常、各シランカップリング剤の最小被覆面積は以下のようにして計算することができる。すなわち、トリアルコキシシランが加水分解して得られるSi(O)3 を半径2.10Åの球形からなるSi原子1個と半径1.52Åの球形からなるO原子3個、Si-Oの結合距離1.51Å、四面体角109.5°と仮定し、更にはシリカ表面のシラノール基とモデル中の3個のO原子が全て反応するとして、3個のO原子が被覆することができる最小の円形面積を計算する。その結果、1分子当たりの被覆面積は1.3×10-19m2/分子、これにアボガドロ定数6.0×1023分子/モルを掛けてモル当たりに換算すると7.8×104m2/モルとなる。各カップリング剤の最小被覆面積は、1モル当たりの被覆面積値を各シランカップリング剤の分子量で割ることにより得られる値をいう。
【0029】
市販されているシランカップリング剤については、その特性値が表示記載されており、本発明においては、販売元が表示記載している値を使用するようにすればよい。
【0030】
また、「シリカ粒子の表面積(m2)の和」は、「平均粒子径から求めたシリカ粒子の表面積(m2)」×「シリカ粒子の添加量(g)÷「シリカ粒子の密度(g/cm3)」÷「平均粒子径から求めたシリカ粒子の体積(m3)」を計算することにより得られる値である。
【0031】
本発明の樹脂組成物中のポリアクリレート樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般式(1)で示されるアクリレートモノマー(A)の他に異なるアクリレートモノマーを組み合わせてもよく、一般式(2)で示されるシランカップリング剤(B)の他に異なるシランカップリング剤を組み合わせてもよい。
【0032】
次に、本発明で使用するシリカ粒子について説明する。
本発明においてシリカ粒子は、本発明の樹脂組成物をエラストマー材料として使用できるようにするため、また樹脂組成物の強靭性向上のために重要な構成要素である。シリカ粒子を含有させないと、大きな変形に耐えられない脆弱な材料となる。また、シリカ粒子と熱伝導性フィラーを共存させることで、アクリレートモノマーへの熱伝導性フィラーの分散性が向上し、より多くの熱伝導性フィラーの添加が可能になる。
【0033】
本発明で使用するシリカ粒子の形状は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、アクリレートモノマーへの分散性の観点から「球状」であることが好ましい。
【0034】
本発明において、「球状」とは、棒状、板状のものを除き、真球、略球状、回転楕円体である場合をいい、表面に凹凸があるものでもよい。「球状シリカ粒子」とは、そのような「球状」の形状をしたシリカ粒子である。
【0035】
このような球状シリカ粒子としては、公知のもの、例えば、粉末状の球状シリカ粒子、コロイダルシリカ(シリカゾル)等を使用することができ、異なる平均粒子径を有する種々の公知のものが知られており、市販もされている。
【0036】
本発明で使用するシリカ粒子は、平均粒子径が10μm未満であり、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満、さらにより好ましくは500nm未満、最も好ましくは200nm未満、さらに最も好ましくは150nm以下である。本発明において平均粒子径とは、遠心沈降式粒子径分布測定装置により測定したモード径で表している。
【0037】
前記シリカ粒子の含有量は、ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して15~62重量%、好ましくは16~60重量%、より好ましくは18~58重量%、さらにより好ましくは、18~56重量%、最も好ましくは20~56重量%である。シリカ粒子の含有量が少ない程、シリカ粒子充填によるポリマー材料の補強効果が小さく、引張破断応力、引張破断ひずみに劣るエラストマー材料となる。シリカ粒子の含有量が多すぎる場合、シリカ粒子のアクリレートモノマーへの均一分散が困難になる。
【0038】
次に、本発明で使用する熱伝導性フィラーについて説明する。
本発明において熱伝導性フィラーは、本発明の樹脂組成物の熱伝導性向上のために重要な構成要素である。熱伝導性フィラーを含有させないと、熱伝導性に劣る材料となる。熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルク、窒化アルミニウム、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン、多層グラフェン等が挙げられ、種々の公知のものが知られており、市販もされている。
【0039】
上記伝導性フィラーは、粉末状、微小板状、針状、積層状、それらの組み合わせ等の種々の形状形態をした公知または市販のものを使用できる。熱伝導性フィラーのサイズ(径、長さ、厚さ、幅、積層数等)は、少なくともアクリレートモノマーとシリカ粒子と熱伝導性フィラーを含む分散液を調製した際に、その分散液を重合して本発明の樹脂組成物を製造するに支障が生じない限り、特に限定されず、種々公知または市販のものを使用することができる。「支障が生じない限り」とは、分散液を調製する際に、分散液の粘度が高すぎるまたは低すぎるため、本発明の樹脂組成物を得られないようなことがない限り、あるいは、本発明のエラストマー材料としての特性、効果を有する樹脂組成物を得られないようなことがない限り、ということを意味している。
【0040】
熱伝導性フィラーとしての酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、タルクおよび/または窒化アルミニウムは、粒状の場合、粒径)が、0.1~200μm、好ましくは0.5~150μmの範囲にあるもので、市場で入手可能なもの使用するようにすればよい。針状の場合は、粒径が1~500μm、好ましくは5~200μmで、アスペクト比が100:1~5:1、好ましくは30:1~10:1の範囲にあるもので、市場で入手可能なものを使用するようにすればよい。上記粒径は、数平均粒径または重量平均粒径のいずれで表されていてもよい。本発明の樹脂組成物を製造するに支障が生じない限り、本発明の観点からすればいずれの粒径で表されていても使用できるからである。
【0041】
本発明で使用するに好ましい熱伝導性フィラーは、グラフェン、酸化グラフェン、還元グラフェン、多層グラフェンである。このようなグラフェンは、例えば、形状が粉末、微小板、積層体等種々の形状形態をした、厚さが1~5層あるいは6~8nm、および/または幅サブμm~数十μm、より具体的には、幅0.3~30μm、好ましくは0.4~27μmの規格値、および/または比表面積が200~1100m2/g、好ましくは300~1000m2/gの範囲にある規格値を有するグラフェンが市販されており、本発明においてはそれらを適宜使用することができる。多層グラフェンが入手容易性と価格の観点から好ましく使用される。上記記載の種々のグラフェンは、例えば、富士フィルム和光純薬株式会社より入手可能である。
【0042】
前記熱伝導性フィラーの含有量は、ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して2~8重量%、好ましくは2.5~8重量%である。熱伝導性フィラーの含有量が少ないほど、熱伝導性フィラーによる熱伝導性効果が小さくなる。熱伝導性フィラーの含有量が多い程、アクリレートモノマーとシリカ粒子と熱伝導性フィラーを含む分散液の粘度が高くなる。流動性は用途により調整するようにすればよい。例えば、流動性を高くしすぎるとポッティングや塗布による加工が困難となる。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)、シリカ粒子、熱伝導性フィラーを含む分散液を重合することにより得られる。
【0044】
この際、シリカ粒子と熱伝導性フィラーは、その合計含有量がポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して25~58重量%、好ましくは27~58重量%、より好ましくは28~58重量%、さらにより好ましくは29~58重量%の含有量となるように使用する。その量が多すぎると、流動性がなくなりシートを得ることが困難となり、また、その量が少なすぎても流動性が大きくなりシートを形成することが困難となる。
アクリレートモノマー(A)は、ポリアクリレート樹脂、シリカ粒子および熱伝導性フィラーの合計量に対して、75~42重量%、好ましくは73~42重量%、より好ましくは72~42重量%の含有量になるように使用される。また、アクリレートモノマー(A)の含有量は、得られるポリアクリレート樹脂組成物中のポリアクリレート樹脂の含有量をも表している。
【0045】
重合方法としては、熱重合開始剤による熱重合、光重合開始剤による紫外線等の活性エネルギー線照射を伴う光重合などを用いることができ、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その他の重合方法を用いても良い。
【0046】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、加熱によってラジカルを発生し、樹脂組成物中の重合性官能基の重合を開始させるために用いられものであれば特にその構造が限定されるものではない。例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられ、反応性から2,2‘-アゾイソブチロニトリル(AIBN)が好ましい。熱重合開始剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらの熱重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本発明において「アクリルモノマー成分」とは、アクリロイル基、メタクリロイル基を含む化合物を意味しており、上記式(1)で表される成分に加え、その他適宜使用されるアクリロイル基、メタクリロイル基を含む化合物成分を含む。
【0047】
<光重合開始剤>
光重合開始剤は、紫外線照射によりラジカルが発生し、樹脂組成物中の重合性官能基の重合を開始させるために用いられものであれば特にその構造が限定されるものではない。光重合開始剤としては、波長360nmから470nmの光吸収をもつ開始剤を使用することが好ましく、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系、αアミノアセトフェノン系、ベンゾフェノン系、カンファーキノン系およびチオキサントン系の開始剤が挙げられる。これらの開始剤を使用することにより、樹脂組成物内部まで重合が効率良く進行するため力学的強度が向上し、開始剤やモノマー等の残留成分量が低減される。光重合開始剤として、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4-(1-メチルビニル)フェニル)プロパノン)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1,2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-[4-(メチルチオベンゾイル)]-2-(4-モルホリニル)プロパン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、[4-[4-メチルフェニル]チオ]フェニル]フェニルメタノン、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、4,4’-ビス-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、1-[4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]-2-メチル-2-[(4-メチルフェニル)スルフォニル]プロパン-1-オン、(メチルイミノ)ジエタン-2,1-ジイル(4-ジメチルアミノベンゾエ-ト)、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム等が挙げられ、反応性から2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムが好ましく、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドがより好ましい。光重合開始剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらの光重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
また、重合反応において、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸等のメルカプトカルボン酸類;メルカプト酢酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸n-オクチル、3-メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、3-メルカプトプロピオン酸ステアリル、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等のメルカプトカルボン酸エステル類;エチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、1,2-ジメルカプトエタン等のアルキルメルカプタン類;2-メルカプトエタノール、4-メルカプト-1-ブタノール等のメルカプトアルコール類;ベンゼンチオール、m-トルエンチオール、p-トルエンチオール、2-ナフタレンチオール等の芳香族メルカプタン類;トリス〔(3-メルカプトプロピオニロキシ)-エチル〕イソシアヌレート等のメルカプトイソシアヌレート類;2-ヒドロキシエチルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のジスルフィド類;ベンジルジエチルジチオカルバメート等のジチオカルバメート類;α-メチルスチレンダイマー等の単量体ダイマー類;四臭化炭素等のハロゲン化アルキル類等が挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、アクリルモノマー成分100重量部に対して、0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、7質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
シリカ粒子として、粉末状のシリカ粒子を用いる場合、まず、シリカ粒子をアクリレートモノマー(A)に分散させることが好ましい。シリカ粒子のアクリレートモノマー(A)への分散方法は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されないが、分散効果の高さから超音波処理による方法が好ましい。
【0050】
シリカ粒子として、コロイダルシリカ(シリカゾル)を用いる場合、有機溶媒としては、前記アクリルモノマー成分を混合するものを用いることが好ましく、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類が挙げられる。脱溶媒のしやすさから、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系の有機溶媒が挙げられ、具体的には、メタノール、イソプロピルアルコールあるいはメチルエチルケトンに分散されたコロイダルシリカ(シリカゾル)が好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物の好ましい製造方法は、所定量のシリカ粒子と熱伝導性フィラーを、一般式(1)で表されるアクリレートモノマー(A)に混合分散させた分散液を作製し、該分散液に必要により重合開始剤、その他のアクリルモノマー、所望の添加剤を混合分散させ、得られた分散液を重合することからなる。該所望の添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、架橋剤、有機溶剤等が挙げられ、目的に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で添加使用することができる。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、エラストマー材料として好適に使用できる。
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、熱伝導性に優れており、かつ伸張性および靭性等、特に、引張破断応力、引張破断ひずみ等の機械的特性に優れている。
【0053】
本発明において、「熱伝導性」は、本発明の樹脂組成物からなる厚さ1mmのシートを使用して、JIS-R1611に基づくフラッシュ法によって求められる熱伝導率により評価される特性を意味している。より具体的には、該熱伝導率は、下記実施例中に記載された方法により得られる値を使用している。熱伝導率は、その値が大きい程、熱伝導性に優れる。本発明の組成物からなるエラストマーは、該熱伝導率が0.55以上、より高くは0.60以上を有する熱伝導性を有することができる。
【0054】
本発明において、引張破断応力、引張破断ひずみ等の機械的特性は、JIS K7161-2に準じて得られる応力/ひずみ曲線に基づき得られる引張破断応力、引張破断ひずみを意味している。より具体的には、下記実施例中に記載している。
【0055】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断応力として、3.0MPa以上、好ましくは3.3MPa以上、さらに好ましくは3.5MPa以上を有する。
【0056】
本発明の樹脂組成物からなるエラストマー材料は、引張破断ひずみとして、350%以上、好ましくは400%以上、より好ましくは450%以上を有する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性のエラストマー材料として好適に使用でき、フィルム、シート、ディスプレイ用部材、コーティング剤、粘着剤、接着剤などに成形または加工され、自動車、鉄道、航空機、家電・OA機器、建築機械、土木建築物などに適応される熱伝導材、放熱材として好適に利用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例中の各特性値の測定、評価方法は以下のように行った。
(1)樹脂組成物中のシリカ粒子の重量%および熱伝導性フィラーの重量%
アクリレートモノマーとシリカ粒子と熱伝導性フィラーの総量に対する、シリカ粒子または熱伝導性フィラーの仕込み量から、樹脂組成物中のシリカ粒子と熱伝導性フィラーの重量%を計算した。
【0059】
(2)重合前の分散液の流動性
シリカ粒子と熱伝導性フィラーをアクリレートモノマー中に分散させた分散液を、60度に傾けたガラス板に滴下して、滴下後の液滴の流れから流動性を評価した。
〇:液滴が流れ、流動性が高い
×:液滴が流れず、流動性が低い
【0060】
(3)機械的特性
JIS K7161-2に準じて、応力/ひずみ曲線を得、引張破断応力、引張破断ひずみを測定した。
【0061】
引張試験は、厚さ1mmの樹脂組成物のシートから、打ち抜き型を用いて7号ダンベル試験片(JISK7161-2)を作製した。
島津製作所社製、引張試験機(EZ-LX)を用いて、標準環境(温度23±2℃、空気中、湿度(50±10%))下、ひずみ0.3%までは0.1mm/minの引張速度にて行い、ひずみ0.3%以降は50mm/minの引張速度にて行った。
【0062】
(3-1)引張破断応力
下記の基準で、引張破断応力を評価した。
〇:3.0MPa≦引張破断応力
×:引張破断応力<3.0MPa
【0063】
(3-2)引張破断ひずみ
下記の基準で、引張破断ひずみを評価した。
〇:350%≦引張破断ひずみ
×:引張破断ひずみ<350%
【0064】
(4)熱伝導率
厚み約1mmの樹脂組成物のシートを試験片とし、熱拡散率測定装置LFA447(NETZSCH社製)を用いて、測定温度25℃の条件でフラッシュ法(JIS R1611)により熱拡散率を測定した。
上記の測定温度において得られた熱拡散率から熱伝導率を算出し、熱伝導性を評価した。なお、熱伝導率が大きいほど熱伝導性能が高い。
〇:熱伝導率≧0.55
×:0.55>熱伝導率
【0065】
実施例1
ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(MEO2MA、アルドリッチ社製)3386質量部、平均粒径110nmの球状シリカ粒子(Silbol 110、富士化学社製)1056質量部、厚さ6-8nm、幅25μm多層グラフェン(グラフェンナノプレートレット、東京化成社製)360質量部を試験管に仕込み、超音波ホモジナイザー(UP200St、ヒールッシャー社製)にて5℃で20分間かけて分散させた。
次に、重合開始剤として、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(関東化学社製)4.43質量部を加え、混合した。
その後、得られた分散液を、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)シートを張り付けたガラス板2枚で挟んだ厚み1mmの型枠に注入し、70℃のオーブンで15時間加熱し、厚み1mmのシートを得た。
【0066】
厚み1mmのシートを使用して、引張試験を行った。引張試験は5点の試験片で行い、その平均値を表1中に示した。また、5点の試験片で得られた応力/ひずみ曲線チャートのうち、平均値に近い値の結果を
図1に示す。
【0067】
また、重合前の分散液の流動性、応力/ひずみ曲線から得られる機械的特性(引張破断応力、引張破断ひずみ)、熱伝導率の測定結果・評価結果をまとめて表1に示した。
【0068】
実施例2、比較例1~8
シリカ粒子と熱伝導性フィラーの充填量を表1に示すものになるように変更した以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し評価した。
【0069】
実施例2、比較例1~4で得られた各シートを使用して得られた応力/ひずみ曲線を
図2~6に示す。
結果を実施例1と同様に表1中に合わせて示した。
【0070】
【0071】
表1から明らかなように、実施例1および2で得られた樹脂組成物は、引張破断応力および引張破断ひずみの大きい、高靭性の優れた機械的特性を有するものであった。また、熱伝導率は0.55以上であり、熱伝導性にも優れている。
【0072】
一方、比較例1~2の樹脂組成物は、引張破断応力および引張破断ひずみの小さい、脆弱な材料であり、熱伝導率にも劣る。機械的特性に劣るのは、シリカ粒子を含有していない、または、含有量が少ないためと考えられる。熱伝導率に劣るのは、シリカ粒子と熱伝導性フィラーとの合計量が少ないためと考えられる。
【0073】
比較例3の樹脂組成物は、機械的特性は優れているが、熱伝導率に劣る。シリカ粒子と熱伝導性フィラーとの合計量が少ないためと考えられる。
【0074】
比較例4の樹脂組成物は、シリカ粒子および熱伝導性フィラーのいずれも含有しておらず、機械的特性と熱伝導性の両者に劣るものであった。
【0075】
比較例5では、シリカ粒子を含有しておらず、アクリレートモノマー(A)に熱伝導性フィラーを分散する際に、分散液が高粘度になり、分散が困難になったため、樹脂組成物を得ることができなかった。
【0076】
比較例6~7ではアクリレートモノマー(A)にシリカ粒子と熱伝導性フィラーを分散する際に、分散液が高粘度になり、分散が困難になったため、樹脂組成物を得ることができなかった。
【0077】
比較例8ではアクリレートモノマー(A)にシリカ粒子を分散する際に、シリカ粒子の量が多く、分散液が高粘度になり、分散が困難になったため、樹脂組成物を得ることができなかった。