(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20241209BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20241209BHJP
C30B 19/10 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B19/04
C30B19/10
(21)【出願番号】P 2020141981
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・発行者名 :公益社団法人 日本金属学会 刊行物名 :日本金属学会 2019年秋期(第165回)講演大会 講演概要 発行年月日:2019年(令和1年)8月28日 ・集 会 名:日本金属学会 2019年秋期(第165回)講演大会 開 催 日:2019年(令和1年)9月11日~13日 ・発行者名 :公益社団法人 日本金属学会 刊行物名 :日本金属学会 2020年春期(第166回)講演大会 講演概要 発行年月日:2020年(令和2年)3月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 A-STEP機能検証フェーズ試験研究タイプ「低環境負荷次世代紫外光源の高効率化と低コスト化を目指す 窒化アルミニウム単結晶の新規作製法の開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】安達 正芳
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
(72)【発明者】
【氏名】神原 新
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306638(JP,A)
【文献】特開2019-194133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 19/04
C30B 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む合金の融液を、窒化アルミニウムを含む焼結体に接触させた状態で、前記融液中で窒化アルミニウム結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後、前記融液中に、少なくとも表面に窒化アルミニウムを有する被析出体を浸漬させた状態で、前記融液を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中で前記被析出体の表面に窒化アルミニウム結晶を析出させる析出工程と、
前記析出工程の後、前記被析出体を前記融液から取り出す回収工程とを有し、
前記被析出体の表面に析出した前記窒化アルミニウム結晶の上に、繰り返し窒化アルミニウム結晶が析出して成長するよう、前記加熱工程と前記析出工程と前記回収工程とを複数回繰り返すことを
特徴とする窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程および前記析出工程を、窒素を含む雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項3】
(1)式で表される前記窒化アルミニウム結晶の形成の反応が平衡しているときのAlNの活量をa
eq.
AlN、前記融液中のAlの活量をa
eq.
Al、窒素の分圧をp
eq.
N2とし、前記雰囲気中の窒素の分圧をp
N2、前記(1)式の平衡定数をKとすると、
前記最低温度は、(3)式で表される前記窒化アルミニウム結晶の成長の駆動力Δμの値が0となる温度であることを
特徴とする請求項2記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
2Al(l)+N
2(g)→2AlN(s) (1)
【数1】
【数2】
【請求項4】
前記被析出体は、少なくとも表面に、単結晶の窒化アルミニウム種結晶を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム結晶の製造方法。
【請求項5】
AlN焼結体から成り、内部にAlを含む合金の融液を収納したるつぼと、
前記るつぼに収納された前記融液を、前記融液中で窒化アルミニウム結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱可能に設けられたヒーターと、
前記るつぼの内部まで伸びるよう設けられ、下端部に取り付けた被析出体を昇降させて、前記融液に前記被析出体を浸漬させたり、前記融液から前記被析出体を引き上げて回収したりするよう構成された種結晶ホルダーとを有し、
前記種結晶ホルダーは、前記ヒーターで加熱するとき、前記被析出体を引き上げて、前記融液と前記種結晶ホルダーとが接触しないように保持すると共に、加熱後、前記融液の温度を前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させたとき、前記被析出体の表面に窒化アルミニウム結晶を析出させるよう、前記種結晶ホルダーを下降して、前記被析出体を前記融液に浸漬させて保持するよう構成されており、
前記被析出体の表面に析出した前記窒化アルミニウム結晶の上に、繰り返し窒化アルミニウム結晶を析出させて成長させるよう、
前記種結晶ホルダーにより前記融液から前記被析出体を引き上げて、前記ヒーターで
、前記融液を前記最低温度より高い温度に加熱する工程と、
加熱後、前記種結晶ホルダーを下降して、前記被析出体を前記融液に浸漬させた状態で、前記融液の温度を前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記窒化アルミニウム結晶を析出させる工程とを
、複数回繰り返すよう構成されていることを
特徴とする窒化アルミニウム結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外発光素子は、殺菌光源や蛍光体と組み合わせた高輝度白色光源、高密度情報記録光源、樹脂硬化光源など、幅広い用途での使用が期待される次世代光源である。この紫外発光素子は、AlGaN系窒化物半導体から成っている。
【0003】
このAlGaN系窒化物半導体の基板材料の候補として、AlGaNとの格子整合性の高さから、SiC、GaN、およびAlN(窒化アルミニウム)が挙げられる。しかし、SiCやGaNは、それぞれ380nm、365nmよりエネルギーの高い光を吸収するため、取り出せる波長領域が制限されてしまう。一方、AlNは、AlGaNよりも広いバンドギャップを有し、SiCやGaNのような波長領域の制限がないため、基板材料として最も優れていると考えられる。しかし、AlNは、高温において高い解離圧を示すため、常圧下では融液状態にはならない。このため、シリコン単結晶のように、自身の融液からAlN単結晶を作製することは、極めて困難である。
【0004】
そこで、従来、AlN単結晶を作製するために、ハイドライド気相成長(HVPE)法や液相成長法、昇華法などの製造方法が試みられている。例えば、高圧下でIII族元素とアルカリ金属とを含む融液に基板を接触させることにより、III族窒化物結晶を成長させる方法(例えば、特許文献1参照)や、III族金属元素の融液に、窒素原子を含有するアンモニアガスを注入して、III族元素の融液内でIII族窒化物微結晶を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、これらのAlN結晶の製造方法では、高圧や高温が必要となり、サイズ、品質およびコストに対して、実用化に耐えうる結晶を製造することはできないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、本発明者等は、低温・常圧下で、安価かつ良質な窒化アルミニウム(AlN)結晶を得る方法として、Alを含む合金融液の表面に,Nを含む気体を接触させることにより,融液の表面に結晶を成長させるAlN単結晶の液相成長法を開発している(例えば、特許文献3参照)。この方法は、テンプレート基板などを使用しないため、成長したAlN結晶中に貫通転位やミスフィット転位、歪みが発生するのを防ぐこともできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-224600号公報
【文献】特開平11-189498号公報
【文献】特開2019-194133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載のAlN単結晶の液相成長法は、非常に良質なAlN単結晶を安価に製造することができるが、融液の表面のみで結晶成長が進むため、成長速度がやや遅いという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、安価かつ、より大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を製造することができる窒化アルミニウム結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、Alを含む合金の融液を、窒化アルミニウムを含む焼結体に接触させた状態で、前記融液中で窒化アルミニウム結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記融液を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中で窒化アルミニウム結晶を析出させる析出工程とを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、加熱工程で、Alを含む合金の融液を、融液中で窒化アルミニウム結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度(以下、「分解最低温度」という)より高い温度に加熱することにより、融液に接触した焼結体に含まれる窒化アルミニウム結晶が分解されるため、融液中に窒素を供給することができる。その後、析出工程で、融液を、合金の液相線温度以上かつ分解最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、窒化アルミニウム結晶の分解が停止すると共に、融液中の合金に含まれるAlと、融液中に供給された窒素とが反応するため、融液表面や融液中に窒化アルミニウム(AlN)結晶を析出させることができる。
【0011】
本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、分解最低温度より高い温度まで加熱すればよく、昇華法よりも低い温度で、安価に窒化アルミニウム結晶を製造することができる。また、融液中でもAlと窒素との反応が進むため、融液の表面のみで結晶成長が進む従来の液相成長法と比べて、より大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を製造することができる。
【0012】
本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法で、窒化アルミニウムを含む焼結体は、いかなるものであってもよく、例えば、融液を収納するるつぼ自体や、融液を収納するるつぼの内面に設けられていてもよい。また、本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法で、融液の合金は、Alと、Alよりも窒化物を形成しにくく、融点が窒化アルミニウムの解離温度または融点より低い元素とを、主成分として含んでいることが好ましく、例えば、Alと、Ni、Cu、Fe、Coのうちの少なくとも1つの元素とを、主成分として含んでいてもよい。これらの場合、効率良く窒化アルミニウム結晶を製造することができる。
【0013】
本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法は、前記加熱工程および前記析出工程を、窒素を含む雰囲気中で行うことが好ましい。この場合、加熱工程および析出工程で、雰囲気中の窒素が融液中に溶解して供給されるため、さらに効率良く窒化アルミニウム結晶を製造することができる。
【0014】
また、この場合、融液中のAlと融液中に供給されたNとが反応して窒化アルミニウム結晶が形成されるときの反応式は(1)で示される。
2Al(l)+N2(g)→2AlN(s) (1)
【0015】
このとき、(1)式の反応が平衡しているときのAlNの活量をa
eq.
AlN、融液中のAlの活量をa
eq.
Al、窒素の分圧をp
eq.
N2とすると、(1)式の平衡定数Kは、(2)式で表される。
【数3】
【0016】
ここで、AlNは固体であるため、AlNの活量a
eq.
AlNは1となる。また、AlN結晶の成長の駆動力Δμは、雰囲気中の窒素の分圧をp
N2とすると、気体中の窒素の化学ポテンシャルと、(1)式が平衡しているときのNの化学ポテンシャルとの差により与えられ、(3)式で表される。
【数4】
【0017】
(3)式より、AlN結晶の成長の駆動力Δμは、雰囲気中の窒素の分圧pN2、平衡定数Kおよび融液中のAlの活量aeq.
Alで表されることがわかる。このことから、雰囲気中の窒素の分圧、温度、および融液の合金組成により、AlN結晶の成長の駆動力Δμを制御することができる。このため、例えば、雰囲気中の窒素の分圧と、融液の合金組成とを決めれば、融液の温度によってAlN結晶の成長の駆動力Δμの値を調整することができ、AlNを成長させるか(Δμ>0)、AlNを分解させるか(Δμ<0)を制御することができる。なお、このとき、Δμ=0となる温度が、分解最低温度である。
【0018】
本発明に係る窒化アルミニウム結晶の製造方法で、前記析出工程は、前記融液中に、少なくとも表面に窒化アルミニウムを有する被析出体を浸漬させた状態で、前記融液の温度を低下させることにより、前記被析出体の表面に前記窒化アルミニウム結晶を析出させることが好ましい。この場合、被析出体の表面に窒化アルミニウム結晶を析出させて成長させることができる。また、析出して成長した窒化アルミニウム結晶を、被析出体と共に容易に回収することができる。
【0019】
また、この場合、前記析出工程の後、前記被析出体を前記融液から取り出す回収工程を有し、前記被析出体の表面に析出した前記窒化アルミニウム結晶の上に、繰り返し窒化アルミニウム結晶が析出して成長するよう、前記加熱工程と前記析出工程と前記回収工程とを複数回繰り返してもよい。析出工程では、窒化アルミニウムを含む焼結体からの窒素の供給がなくなるため、徐々に窒化アルミニウム結晶の成長が滞ってしまう。そこで、再び加熱工程を行うことにより、窒素を融液中に供給することができる。また、窒素を含む雰囲気中で行うときには、析出工程で、融液の表面が析出した窒化アルミニウム結晶で覆われていくと、雰囲気からの窒素の供給が阻害され、徐々に窒化アルミニウム結晶の成長が滞ってしまう。そこで、再び加熱工程を行うことにより、融液表面の窒化アルミニウム結晶を分解して、雰囲気中から融液中に窒素を供給可能にすることができる。このため、加熱工程と析出工程と回収工程とを繰り返すことにより、析出した窒化アルミニウム結晶の上に、繰り返し窒化アルミニウム結晶を成長させることができる。
【0020】
また、この場合、前記被析出体は、少なくとも表面に、単結晶の窒化アルミニウム種結晶を有していることが好ましい。これにより、窒化アルミニウム種結晶上に、良質な窒化アルミニウム単結晶を成長させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価かつ、より大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を製造することができる窒化アルミニウム結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法に関し、様々な組成のNi-Al合金の、1barの窒素分圧の雰囲気下における、AlN結晶の成長の駆動力Δμと温度(T)との関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法で使用するAlN結晶成長装置の全体構成を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法により、1883Kで24時間保持してAlN結晶を成長させたときの、(a)融液の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(b)融液の表面の(a)とは別の場所で成長したAlN結晶の表面のSEM像、(c)AlN焼結体の種結晶の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(d) (c)の一部を拡大したSEM像である。
【
図4】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法により、1943Kで24時間保持してAlN結晶を成長させたときの、(a)融液の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(b)融液の表面の(a)とは別の場所で成長したAlN結晶の表面のSEM像、(c)AlN焼結体の種結晶の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(d) (c)の一部を拡大したSEM像である。
【
図5】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法により、1883Kで1時間保持してAlN結晶を成長させたときの、(a)融液の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(b)融液の表面の(a)とは別の場所で成長したAlN結晶の表面のSEM像、(c)AlN焼結体の種結晶の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像、(d) (c)の一部を拡大したSEM像である。
【
図6】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法により、1883Kで1時間保持してAlN結晶を成長させる工程を3回繰り返したときの、AlN焼結体の種結晶の表面に成長したAlN結晶の表面のSEM像である。
【
図7】本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法により、1883Kで1時間保持してAlN結晶を成長させる工程を3回繰り返したときの、AlN単結晶の種結晶の表面に成長したAlN結晶の断面のSEM像である。
【
図8】
図7に示すAlN結晶の断面の、(a)SEMの反射電子像、(b)実体顕微鏡写真である。
【
図9】
図8(a)および(b)中のAlN結晶の断面の矩形の範囲の、EBSD法によるイメージクオリティマップ(Image Quality Map)である。
【
図10】
図8(a)および(b)中のAlN結晶の断面の矩形の範囲の、(a)ND(Normal Direction)、(b)TD(Transverse Direction)、(c)RD(Reference Direction)の逆極点図方位マップ(白黒で示した)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面および実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法は、以下のようにして、窒化アルミニウム結晶を製造することができる。すなわち、まず、窒素を含む雰囲気中で、加熱工程により、Alを含む合金の融液を、窒化アルミニウムを含む焼結体に接触させた状態で、所定の温度に加熱する。ここで、加熱する所定の温度は、例えば、以下のようにして設定することができる。
【0024】
すなわち、例えば、融液として、AlとNiとを主成分として含むNi-Al合金を用い、雰囲気中の窒素の分圧p
N2を1barとしたとき、(3)式から、Ni-Al合金の各組成でのAlN結晶の成長の駆動力Δμと温度(T)との関係を求めることができる。そのようにして求めた関係を、
図1に示す。なお、
図1に示す各合金組成に対応する線での低温側の端点は、その合金組成における液相線の温度を示している。また、主成分としてAlと共に融液の合金を構成する元素は、Alよりも窒化物を形成しにくく、融点が窒化アルミニウムの解離温度または融点より低い元素であればよく、Niに限らず、Cu、Fe、Coであってもよい。
【0025】
各合金組成において、AlN結晶の成長の駆動力Δμ=0となる温度が、その合金融液中で窒化アルミニウム結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度(分解最低温度)となり、Δμ>0のときAlN結晶が成長し、Δμ<0のときAlNが分解する。
図1に示すように、各合金組成において、融液の温度によってAlN結晶の成長の駆動力Δμの値を調整することができ、AlNを成長させるか(Δμ>0)、AlNを分解させるか(Δμ<0)を制御することができる。例えば、融液がNi-30mol%Alの合金組成のとき、1998Kより高い温度ではΔμが負となるため、AlN結晶は融液中に分解し、1998Kより低い温度ではΔμが正となるため、AlN結晶が成長する。
【0026】
このことから、加熱工程では、焼結体から窒化アルミニウムを分解させるために、所定の温度として、Δμ<0となる温度、すなわち分解最低温度より高い温度まで加熱する。これにより、融液に接触した焼結体に含まれる窒化アルミニウム結晶が分解されるため、融液中に窒素を供給することができる。また、雰囲気中の窒素も、融液中に溶解して供給される。
【0027】
加熱工程の後、析出工程により、融液を、その合金の液相線温度以上かつ、Δμ>0となる温度、すなわち分解最低温度よりも低い温度まで低下させる。これにより、窒化アルミニウム結晶の分解が停止すると共に、融液中に供給された窒素が過飽和となり、融液中の合金に含まれるAlと、融液中に供給された窒素とが反応して、融液表面や融液中に窒化アルミニウム結晶が析出する。また、このとき、少なくとも表面に窒化アルミニウムを有する被析出体を、融液中に浸漬させておくことにより、融液表面や融液中で、被析出体の表面に窒化アルミニウム結晶を析出させることができる。
【0028】
このように、本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法は、分解最低温度より高い温度まで加熱すればよいため、昇華法よりも低い温度で、安価に窒化アルミニウム結晶を製造することができる。また、融液中でもAlと窒素との反応が進むため、融液の表面のみで結晶成長が進む従来の液相成長法と比べて、より大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を製造することができる。
【0029】
以下では,本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法を使用して,AlN結晶を成長させる実験を行った。
【0030】
[AlN結晶成長装置]
図2に示す装置を用いて、AlN結晶の成長実験を行った。
図2に示すように、AlN結晶成長装置は、反応容器1とヒーター2と断熱材3とガス給気管4とガス排気管5とを有している。ヒーター2は、内側にるつぼ6を収納し、収納したるつぼ6の側面を覆うよう、反応容器1の内部に設けられている。ヒーター2は、るつぼ6を加熱可能である。断熱材3は、ヒーター2およびるつぼ6の周囲を覆うよう、反応容器1の内部に設けられている。ガス給気管4は、反応容器1の内部に雰囲気ガスを供給可能に設けられている。ガス排気管5は、反応容器1の内部のガスを排出可能に設けられている。
【0031】
実験では、るつぼ6はAlN焼結体から成り、るつぼ6の内部にAlを含む合金の融液7を収納して、融液7をAlN焼結体に接触させている。なお、るつぼ6は、全体ではなく、内面のみがAlN焼結体から成っていてもよい。また、実験では、反応容器1の上部からるつぼ6の内部まで伸びる種結晶ホルダー8を設け、種結晶ホルダー8の下端部に取り付けた種結晶(被析出体)を昇降させて、融液7に種結晶を浸漬させたり、融液から種結晶を引き上げて回収したりするよう構成している。また、実験では、雰囲気ガスとして、窒素を含むガスを用いた。
【0032】
実験では、まず、反応容器1の内部を真空排気した後、ガス供給管4から雰囲気ガスを供給し、反応容器1を雰囲気ガスで満たしておく。また、種結晶ホルダー8を引き上げ、融液7と種結晶ホルダー8とが接触しないように保持しておく。この状態で、ヒーター2に通電し、AlN成長の駆動力Δμが負となる温度まで融液7を加熱し、その温度を保持することにより、AlN焼結体で作製されたるつぼ6および雰囲気中の窒素を融液7に溶解させる。一定時間経過後、融液7の温度を低下させ、AlN成長の駆動力Δμが正になる温度で、種結晶ホルダー8を融液7に浸漬させて保持する。これにより、融液7に溶解している窒素が融液7中のAlと反応し、融液7の表面および、浸漬した種結晶ホルダー8の種結晶上などにAlN結晶を成長させる。
【0033】
また、種結晶上に繰り返しAlN結晶を成長させるために、種結晶上にAlN結晶を成長させた後、種結晶ホルダー8と共に種結晶を融液7から引き上げ、融液7を再びAlN成長の駆動力Δμが負となる温度まで加熱して、その温度を保持する。これにより、融液7の表面に生成したAlN結晶および、るつぼ6中の窒素を融液7に溶解させる。一定時間経過後、再びAlN成長の駆動力Δμが正となる温度まで融液7の温度を低下させて、種結晶を融液7に浸漬させる。この工程を繰り返すことにより、種結晶上に断続的にAlN結晶を成長させることができる。
【実施例1】
【0034】
Alを含む合金として、Ni-30mol%Alを用い、反応容器1の雰囲気窒素分圧を1 barとして、AlN結晶の成長を行った。まず、Ni-Al合金の融液7を、
図1に示すΔμ<0となる温度の2053Kまで加熱して5時間保持した後、
図1に示すΔμ>0となる温度の1883Kまで温度を低下させるとともに、種結晶として焼結体AlNを融液7に浸漬させた。種結晶は、温度低下時の、
図1のΔμ=0となる温度の1997Kのとき、浸漬させた。融液7を1883Kの温度で24時間保持した後、種結晶を融液7から引き上げた。引き上げた種結晶上には、AlN結晶が成長している様子が確認された。また、このとき、融液7の表面全体を覆うよう、AlN結晶が成長している様子も確認された。
【0035】
融液7の表面に生成して成長したAlN結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)像を、
図3(a)および(b)に、種結晶の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図3(c)および(d)に示す。
図3(a)および(b)に示すように、融液7の表面全体には、様々な形態のAlN結晶が形成されていることが確認された。また、
図3(c)および(d)に示すように、種結晶上に成長したAlN結晶は、厚さが約20μmであることが確認された。
【実施例2】
【0036】
Alを含む合金として、Ni-30mol%Alを用い、反応容器1の雰囲気窒素分圧を1 barとして、実施例1と同様に、AlN結晶の成長を行った。まず、Ni-Al合金の融液7を2053K(Δμ<0)まで加熱して5時間保持した後、1943K(Δμ>0)まで温度を低下させるとともに、種結晶として焼結体AlNを融液7に浸漬させた。融液7を1943Kの温度で24時間保持した後、種結晶を融液7から引き上げた。引き上げた種結晶上には、AlN結晶が成長している様子が確認された。また、このとき、融液7の表面全体を覆うよう、AlN結晶が成長している様子も確認された。
【0037】
融液7の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図4(a)および(b)に、種結晶の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図4(c)および(d)に示す。
図4(a)および(b)に示すように、融液7の表面全体には、様々な形態のAlN結晶が形成されていることが確認された。また、
図4(c)および(d)に示すように、種結晶上に成長したAlN結晶は、厚さが約20μmであることが確認された。
【実施例3】
【0038】
Alを含む合金として、Ni-30mol%Alを用い、反応容器1の雰囲気窒素分圧を1 barとして、実施例1と同様に、AlN結晶の成長を行った。まず、Ni-Al合金の融液7を2053K(Δμ<0)まで加熱して5時間保持した後、1883K(Δμ>0)まで温度を低下させるとともに、種結晶として焼結体AlNを融液7に浸漬させた。融液7を1883Kの温度で1時間保持した後、種結晶を融液7から引き上げた。引き上げた種結晶上には、AlN結晶が成長している様子が確認された。また、このとき、融液7の表面全体を覆うよう、AlN結晶が成長している様子も確認された。
【0039】
融液7の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図5(a)および(b)に、種結晶の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図5(c)および(d)に示す。
図5(a)および(b)に示すように、融液7の表面全体には、様々な形態のAlN結晶が形成されていることが確認された。また、
図5(c)および(d)に示すように、種結晶上に成長したAlN結晶は、厚さが約10μmであることが確認された。
【0040】
図3と
図5とを比べると、成長時間が24倍違うにもかかわらず、種結晶上に成長したAlN結晶の厚さの違いは2倍程度であり、成長時間の増加とともにAlN結晶の厚さは増加するものの、成長時間と厚さとは比例していないことが確認された。これは、一定時間、AlN結晶が成長した後、るつぼ6からの窒素供給が途絶えたことや、融液7の表面にAlN結晶が生成して、融液7の表面全面を覆ったため、雰囲気から融液7への窒素の供給が遮断されたことによるものと考えられる。
【実施例4】
【0041】
そこで、高い成長速度を維持するために、種結晶上に繰り返しAlN結晶を成長させる実験を行った。すなわち、一旦、種結晶上にAlN結晶を成長させた後、種結晶を融液7から引き上げ、融液7を再びAlN成長の駆動力Δμが負となる温度まで加熱することにより、るつぼ6および雰囲気からの窒素供給を行った後、再びAlN成長の駆動力Δμが正となる温度まで融液7の温度を低下させ、再び種結晶を融液7に浸漬してAlN結晶を成長させた。実験では、この工程を繰り返して、AlN結晶の成長を3回行った。
【0042】
実験では、Alを含む合金として、Ni-30mol%Alを用い、反応容器1の雰囲気窒素分圧を1 barとして、AlN結晶の成長を行った。まず、Ni-Al合金の融液7を2053K(Δμ<0)まで加熱して5時間保持した後、1883K(Δμ>0)まで温度を低下させるとともに、種結晶として焼結体AlNを融液7に浸漬させた。融液7を1883Kの温度で1時間保持した後、種結晶を融液7から引き上げた。再度、融液7を2053K(Δμ<0)まで加熱して5時間保持した後、1883K(Δμ>0)まで温度を低下させるとともに、種結晶を融液7に浸漬させて1時間保持した。この手順を繰り返し、計3回AlN結晶の成長を行った後、種結晶を融液7から引き上げた。
【0043】
種結晶の表面に生成して成長したAlN結晶のSEM像を、
図6に示す。
図6に示すように、種結晶(焼結体AlN)上に、AlNが積層して成長しており、繰り返しAlN結晶を成長させることができることが確認された。
【実施例5】
【0044】
種結晶としてAlN単結晶を貼り付け、実施例4と同様の条件および手順で、AlN単結晶上へのAlN結晶の成長を行った。種結晶の表面に生成して成長したAlN結晶の断面のSEM像を、
図7に示す。
図7中の破線で示した部分よりも右側の箇所が、融液7に浸漬していた部分である。
図7中の一点鎖線より下側が種結晶のAlN単結晶であり、一点鎖線の上側が成長したAlN結晶である。
図7に示すように、AlN単結晶の表面に、厚さ270μmのAlN結晶が成長していることが確認された。3時間の浸漬時間で、厚さ270μmのAlN結晶が得られたことから、AlN結晶の成長速度は、90μm/hとなる。
【0045】
得られたAlN結晶に対して、EBSD(電子線後方散乱回折)法による結晶方位解析を行った。得られたAlN結晶の断面の、SEMの反射電子像および実体顕微鏡写真を、それぞれ
図8(a)および(b)に示す。なお、
図8(b)中の破線より下側が種結晶、上側が成長したAlN結晶である。
図8(a)および(b)中の矩形の範囲(300μm×1000μm)を試料として、結晶方位解析を行った。EBSD法では、試料断面の傾斜角度を70°、電子線の加速電圧を15kV、測定ステップを2μmとした。
【0046】
EBSD法で得られたイメージクオリティマップ(Image Quality Map)を、
図9に示す。また、ND(Normal Direction)、TD(Transverse Direction)、RD(Reference Direction)の逆極点図方位マップを、それぞれ
図10(a)~(c)に示す。なお、
図9および
図10(a)~(c)中の破線が、種結晶部とAlN結晶(液相成長部)との境界を示している。
図10(a)~(c)に示すように、種結晶と、液相成長したAlN結晶の結晶方位が揃っていることが確認された。
【0047】
以上の実験結果から、本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法では、製造過程での最高温度が2053Kであり、AlN結晶を成長させるために約2400Kまで加熱する必要がある昇華法と比べて、低い温度で安価に窒化アルミニウム結晶を製造することができるといえる。また、本発明の実施の形態の窒化アルミニウム結晶の製造方法では、AlN結晶の成長速度として、90μm/h以上を達成可能であると考えられ、Ga-Alを用いた液相成長法(成長速度:約0.24μm/h)やHVPE法(成長速度:約40μm/h)と比べて、より大きい成長速度で窒化アルミニウム結晶を製造することができるといえる。
【符号の説明】
【0048】
1 反応容器
2 ヒーター
3 断熱材
4 ガス給気管
5 ガス排気管
6 るつぼ
7 融液
8 種結晶ホルダー