IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマデンタルの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】義歯床用熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20241209BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20241209BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20241209BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20241209BHJP
   A61C 13/267 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
A61K6/60
A61K6/15
A61K6/80
A61C13/01
A61C13/267
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020173091
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064455
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】滝田 京子
(72)【発明者】
【氏名】中島 慶
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039243(WO,A1)
【文献】特開2005-002237(JP,A)
【文献】特開2001-214078(JP,A)
【文献】特開2010-018729(JP,A)
【文献】特開2011-219667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00
A61C 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯用の材料として使用される義歯用熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性ポリエステル樹脂:100質量部及び非晶性熱可塑性樹脂:5~25質量部を含み、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とを1モル:1モルの割合で重縮合して得られる、JIS規格K7191-2:2007のB法に準拠して測定した荷重たわみ温度が85~125℃であり、且つJIS規格K7202-2:2001のLスケールに準拠して測定したロックウェル硬度が90~120であるポリエステル樹脂であって、
前記ジオール成分(A)は、環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)及びエチレングリコール(A2)を含み、
前記ジオール成分(A)に含まれる全てのジオール化合物の総モル数を基準とする前記(A1)及び前記(A2)の含有率が、夫々、(A1):15~95モル%及び(A2):5~85モル%以下で、且つ前記(A1)及び前記(A2)の合計含有率が20~100モル%以下であり、
前記ジカルボン酸成分(B)は、
多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)及び/又はそのエステル(B1´)を含み、
前記ジカルボン酸成分(B)含まれる全てのジカルボン酸化合物の総モル数を基準とする前記(B1)及び前記(B1´)の合計含有率が15~100モル%であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、
ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル及びグリコール変性ポリエチレンテレフタラートから成る群より選ばれる少なくとも1種からなり、
JIS K7191のA法に従い測定した荷重たわみ温度が60~150℃の範囲にある、
ことを特徴とする、義歯用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸化合物(B1)が、ナフタレンジカルボン酸である請求項1に記載の義歯用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記非晶性熱可塑性樹脂が、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂から成る群より選ばれる少なくとも1種からなり、且つ酢酸エチルに対し溶解性を有する、請求項1又は2に記載の義歯用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
部分床に人工歯が固定された義歯部と、当該義歯部を鉤歯に装着するためのクラスプを有し、
前記部分床の少なくとも一部及び前記クラスプが請求項1~3の何れか1項に記載された義歯用熱可塑性樹脂組成物の成形体からなる、
ことを特徴とするノンメタルクラスプデンチャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンメタルクラスプデンチャーの義歯床やクラスプの材料として好適な義歯用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
齲蝕や事故等により一部の歯牙が欠損した場合の治療には、補綴修復物として部分床義歯(局部義歯)を用いることが多い。この部分床義歯は、通常、欠損部領域の口腔粘膜を覆う義歯床(部分床)に欠損歯牙の代替となる人工歯を固定した義歯部と、それが外れないように、隣接する残存天然歯牙からなる鉤歯に装着するための維持装置であるクラスプ(clasp:鉤)と、を有するが、歯列内の離れた位置にある床と床や維持装置とを連結するための大連結子や、クラスプを義歯床や大連結子と連結する小連結子を有する場合もある。
【0003】
上記クラスプとしては、強度や耐久性等の観点から金属材料が使用されることが多いが、金属アレルギー対策、審美性、装着感等の観点から樹脂材料が使用されることもある。クラスプを熱可塑性樹脂材料で構成した部分床義歯は、(金属材料を全く使用しないケースの他に、メタルレストやメタルフレームなど一部金属材料を使用したケースも含めて)ノンメタルクラスプデンチャーとも呼ばれ、上記したような利点から、その需要は高まっている。
【0004】
従来作製されてきた総義歯や部分床義歯には、加熱重合型アクリル系レジンの他、射出成型可能なポリメチルメタクリレート系(以降PMMA系と略す)樹脂が多く使用されていたが、近年ノンメタルクラスプデンチャー用として、同様に射出成型可能なポリアミド系、ポリエステル系、ポリカーボネート系といった様々な熱可塑性樹脂が各メーカーより発売されるようになっている(非特許文献1)。
【0005】
ノンメタルクラスプデンチャーはクラスプの薄く細い部分を構成するため、口腔内に装着し食物を咀嚼してもずれたり撓んだりしない強靭さや口腔外で落下させてもクラスプが破折しない柔軟さが求められる。そのため、これら新たな熱可塑性樹脂としては、一般に、加熱重合型アクリル系レジンと比べて柔軟性のより高い(曲げ弾性率の低い)ものが多く使用されている。一方で、義歯床やクラスプの材料として提案されている熱可塑性樹脂に関しては、加熱重合型アクリル系レジンに比べると、強度(例えば曲げ強度)が低めで、また、表面が傷つきやすく研磨が難しいことも指摘されている(非特許文献1)。
【0006】
上記熱可塑性樹脂におけるその他の物性に関しては、樹脂系に応じて、一定の傾向があり、それぞれの特長に応じて選択されている。たとえば、ポリエステル系樹脂に関しては、義歯床の修理やリライニングに使用される即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材との接着が良好であるという共通した特徴を有し、曲げ弾性率が低く耐衝撃性の高い材料も開発されている。しかしながら、同じ樹脂系においても各物性値は、材料ごとにまちまちであり、また、熱可塑性樹脂の具体的な構造は明らかにされていないことが多い(非特許文献1)。
【0007】
なお、食品包装材やプラスチックレンズ等の光学用成形品に使用されるポリエステル樹脂に関しては、耐熱性、透明性、機械的性能、成形性に優れたポリエステル樹脂として、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、「SPG」ということがある)等の特定の構造を有するスピログリコールを5モル%以上60モル%以下(以下、「x以上、y以下」を単に「x~y」と表記することもある。)、及びエチレングリコールを30モル%~95モル%(但し、前記モル%はスピログリコールとエチレングリコールの合計量に基づく)含むジオール成分と、テレフタル酸及び/又はそのエステルを80モル%~100モル%含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂であって、極限粘度、溶融粘度、分子量分布及びガラス転移温度が夫々所定の範囲であるポリエステル樹脂が知られている(特許文献1)が、義歯用熱可塑性樹脂としての適性は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-260964号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】笛木賢治他「熱可塑性樹脂を用いた部分床義歯(ノンメタルクラスプデンチャー)の臨床応用」日本補綴歯科学会会誌、5巻、4号、387-408頁、2013年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況に鑑み、本発明は、射出成型により義歯床を成形することが可能で柔軟性が高く且つ即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材との接着が良好であるというポリエステル樹脂の特長を有し、従来の義歯床用ポリエステル樹脂より高強度で且つ切削性及び研磨性に優れる義歯用熱可塑性樹脂材料を提供し、更には当該義歯用熱可塑性樹脂材料の成形体からなるクラスプを有するノンメタルクラスプデンチャーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を行った結果、前記特許文献1に開示されるポリエステル樹脂の中で特定の構造を有するポリエステル樹脂は、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第一の形態は、義歯用の材料として使用される義歯用熱可塑性樹脂組成物であって、熱可塑性ポリエステル樹脂:100質量部及び非晶性熱可塑性樹脂:5~25質量部を含み、
前記熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とを1モル:1モルの割合で重縮合して得られる、JIS規格K7191-2:2007のB法に準拠して測定した荷重たわみ温度が85~125℃であり、且つJIS規格K7202-2:2001のLスケールに準拠して測定したロックウェル硬度が90~120であるポリエステル樹脂であって、
前記ジオール成分(A)は、環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)及びエチレングリコール(A2)を含み、
前記ジオール成分(A)に含まれる全てのジオール化合物の総モル数を基準とする前記(A1)及び前記(A2)の含有率が、夫々、(A1):15~95モル%及び(A2):5~85モル%で、且つ前記(A1)及び前記(A2)の合計含有率が20~100モル%であり、
前記ジカルボン酸成分(B)は、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)及び/又はそのエステル(B1´)を含み、
前記ジカルボン酸成分(B)含まれる全てのジカルボン酸化合物の総モル数を基準とする前記(B1)及び前記(B1´)の合計含有率が15~100モル%であり、
前記非晶性熱可塑性樹脂は、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル及びグリコール変性ポリエチレンテレフタラートから成る群より選ばれる少なくとも1種からなり、
JIS K7191のA法に従い測定した荷重たわみ温度が60~150℃の範囲にある、
ことを特徴とする、義歯用熱可塑性樹脂組成物である。
【0013】
上記本発明の第一の形態の義歯用熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物」ともいう。)の主要成分を構成する、上記の“ジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とを1モル:1モルの割合で重縮合して得られるポリエステル樹脂”(以下、「特定ポリエステル」ともいう。)は、その原料であるジオール成分(A)及びジカルボン酸成分(B)の観点からは上記のように定義されるものであるが、各成分に由来する構造の観点から特定すると、次のように表すこともできる。すなわち、“ジオール化成分に由来する構造ユニットの全数を基準として、環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)に由来する構造ユニット数が15~95%であり、エチレングリコール(A2)に由来する構造ユニット数が5%~85%であり、且つ両ユニット数の合計が20~100%以下であり、ジカルボン酸成分に由来する構造ユニットの全数を基準として、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)及びそのエステル(B1´)由来する合計の構造ユニット数が15~100%であるポリエステル樹脂”と定義することもできる。
【0014】
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物において、特定ポリエステルは、前記多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)が、ナフタレンジカルボン酸であることが好ましい。また、前記非晶性熱可塑性樹脂は、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂から成る群より選ばれる少なくとも1種からなり、且つ酢酸エチルに対し溶解性を有する、ことが好ましい。

【0015】
本発明の第二形態は、部分床に人工歯が固定された義歯部と、当該義歯部を鉤歯に装着するためのクラスプを有し、前記部分床の少なくとも一部及び前記クラスプが本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物の成形体からなる、ことを特徴とするノンメタルクラスプデンチャーである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物は、射出成型により義歯床を成形することが可能で柔軟性が高く且つ即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材との接着が特に良好で、更に高強度で且つ切削性及び研磨性に優れるという特長を有する。
【0017】
そして、このような本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物を用いたノンメタルクラスプデンチャーは、適度な柔軟性により耐衝撃性に優れ、破折などが起こり難いことに加え、強度が高く、表面が滑らかで光沢を有するという高い審美性を有し、更に即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材を用いた修理やリライニングにも適しているという特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を行った結果、種々存在するポリエステル樹脂の中でも前記特定ポリエステルは、射出成型により義歯床を成形することが可能で柔軟性が高く、且つ各種裏装材等との接着が良好であるという、従来の義歯床用ポリエステル樹脂の特長を有するばかりでなく、更に、高強度で且つ切削性及び研磨性に優れるという特長を有することを見出し、新規な義歯床用ポリエステル樹脂として既に提案している(特願2019-108422)。
【0019】
特定ポリエステルは、特許文献1に記載された上記ポリエステル樹脂と比べて、ジカルボン酸由来の骨格として、ベンゼン環が、単環ではなく、複数縮環した形で導入された点で異なっており、そのことにより樹脂の剛性が高くなり、荷重たわみ温度とロックウェル硬さも向上している。そして、これらの物性向上により、切削性や耐摩耗性が向上し、さらに切削による透明性低下も起こり難い義歯床材料として適したものとなっている。すなわち、乾式での切削時、義歯床にかかる熱は低くても50℃、長く同じ場所を切削すると70℃~80℃程度に上昇する。このため、荷重たわみ温度が低い場合、樹脂が軟化して切削バーや義歯床に溶着して切削性が低下し、研磨時においても発熱によって軟化した樹脂が表面に残ることで、光沢性が低下する。また、ロックウェル硬度が低い場合には、切削バーによる負荷により削りすぎや樹脂のたわみによる変形が起こりやすく、更に研磨砂による研磨傷が表面につきやすくなる。これに対し、特定ポリエステルは、これら樹脂の剛性が向上することにより切削性及び研磨性が向上している。
【0020】
本発明は、このような優れた特長を有する特定ポリエステルを義歯床材として用いた義歯について更に検討を行った結果、特定の非晶性熱可塑性樹脂(Amorphous Thermoplastic Resin)を一定の範囲内で配合することにより、裏装処理時における裏装材との接着性が更に良好となることを見出し、なされたものである。すなわち、特定ポリエステルからなる義歯床に対する裏装材との接着強度は5~6MPa程度であったのに対し、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)及びグリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)から成る群より選ばれる少なくとも1種の非晶性熱可塑性樹脂(以下、単に「特定非晶性樹脂」ともいう。)を特定ポリエステル100質量部に対して5~25質量部配合した樹脂組成物を義歯床材料として用いた場合には、10MPa以上に向上する。このような効果が得られる理由は、裏装処理の際に使用されるプライマーに溶媒として一般的に含まれる酢酸エチルに対する溶解性または膨潤性が付与されたことで、プライマー処理による粗造化により、裏層材との接着性が高まったことによるものと思われる。
【0021】
以下、本発明の義歯用熱可塑性樹脂の主成分となる特定ポリエステル、及び特定非晶性樹脂について説明した上で、本発明の義歯用熱可塑性樹脂について詳しく説明する。
【0022】
1.特定ポリエステル
特定ポリエステルは、義歯床用の材料として好適に使用されるポリエステル樹脂であり、従来のポリエステル樹脂と同様にジオール成分とジカルボン酸成分とを1モル:1モルの割合で重縮合して得られるものである。そして、これら両成分として、夫々特定の組成を有するものを使用している点に特徴を有する。すなわち、ジオール成分は、環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)及びエチレングリコール(A2)を含み、前記ジオール成分(A)に含まれる全てのジオール化合物の総モル数を基準とする前記(A1)及び前記(A2)の含有率が、夫々、(A1):15~95モル%及び(A2):5~85モル%で、且つ前記(A1)及び前記(A2)の合計含有率が20~100モル%である必要がある。また、ジカルボン酸成分は、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)及び/又はそのエステル(B1´)を含み、前記ジカルボン酸成分(B)含まれる全てのジカルボン酸化合物の総モル数を基準とする前記(B1)及び前記(B1´)の合計含有率が15~100モル%である必要がある。
【0023】
別言すれば、特定ポリエステルは、ジオール化合物とジカルボン酸化合物とを1:1の割合で重縮合して得られるポリエステル樹脂であって、前記ポリエステル樹脂における前記ジオール化合物に由来する構造ユニットの全数を基準として、環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)に由来する構造ユニット数が15~95%であり、エチレングリコール(A2)に由来する構造ユニット数が5~85%であり、且つ両ユニット数の合計が20~100%であり、前記ポリエステル樹脂における前記ジカルボン酸化合物に由来する構造ユニットの全数を基準として、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)由来する構造ユニット数が15~100%であるポリエステル樹脂からなることを特徴とする。
【0024】
1-1.ジオール成分(A)
特定ポリエステルは、ジオール成分(A)に環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)を含むことで樹脂の耐熱性、透明性、成型性、機械的性能を兼ね備えるという特徴が得られる。ジオール成分(A)中の前記環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)の含有率は、15モル%~95モル%であればよいが、30~80モル%、特に40~65モル%であることが好ましい。
【0025】
また、エチレングリコール(A2)の含有率は、5~85モル%以下であればよいが、10~70モル%、特に15~55モル%であることが好ましい。このとき、前記(A1)及び(A2)の合計含有率は、その下限は、20モル%以上、好ましくは40モル%以上、特に55モル%以上となり、上限は常に100モル%以下となる。
【0026】
環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)とは、化1で表される構造式の化合物{ビス(ヒドロキシピバルアルデヒド)ペンタエリトリトールアセタール環状アセタール:CAS No.1455-42-1}を意味する。
【0027】
【化1】
【0028】
さらに、前記ジオール成分(A)は、前記(A1)及び(A2)のみからなることが好ましいが、前記環状アセタール骨格を有するスピログリコール(A1)及びエチレングリコール(A2)以外のジオール化合物(以下、「その他ジオール化合物」ともいう。)を、これら成分の含有率に応じて、両者の合計含有率が100モル%未満の場合の残余成分として含有することができる。また、その他ジオール化合物の種類にもよるが、たとえばシクロヘキサンジメタノールのような特定の「その他ジオール化合物」を用いた場合には、当該化合物の含有量を前記(A2)の含有量よりも高くした方が、効果が高くなる場合もある。このようなケースでは、「その他ジオール化合物」の含有率は、35~60モル%、特に40~50モル%とすることが好ましい。ただし、効果の観点から、前記(A1)の含有率は40~65モル%であることが好ましい傾向があるので、上記したような「その他ジオール化合物」を含む場合は、前記(A1)の含有率がこの範囲内になるように保ちつつ、前記(A2)の一部を置換するようにして含有させることが好ましい。
【0029】
使用可能な「その他ジオール化合物」としては、例えばトリメチレングリコール、2-メチルプロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5-デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6-デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7-デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’-(1-メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’-スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’―ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等を例示することができる。これらの中でも、加工性が向上するという理由から、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0030】
1-2.ジカルボン酸成分(B)
ジカルボン酸成分(B)は、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸(B1)及び/又はそのエステル(B1´)を含む。しかも、前記ジカルボン酸成分(B)含まれる全てのジカルボン酸化合物の総モル数を基準とする前記(B1)及び前記(B1´)の合計含有率が15~100モル%である必要がある。このことによって、樹脂の剛性が向上し、良好な切削性と研磨性が得られる。ジカルボン酸成分(B)における上記(B1)及そのエステル(B1´)の合計含有率の下限は、25モル%以上、特に50モル%以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸(B1)とは、分子内にナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、コランニュレン、コロネン、オバレンなどの多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸及びそれらのエステル化物等が例示できる。これらの中でも、生体安全性の観点からナフタレンジカルボン酸を使用することが好ましい。
【0032】
ナフタレンジカルボン酸のジカルボン酸の置換位置は特に限定されないが、別々の芳香環に一つずつカルボン酸が置換しているナフタレンジカルボン酸であることが好ましく、2,6-ナフタレンジカルボン酸であることが特に好ましい。
【0033】
また、上記多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸(B1)のエステル(B1´)とは、前記ジオール成分とエステル交換反応してポリエステル樹脂を形成し得る化合物であって、その際に脱離するアルコール化合物と前記(B1)とのエステルを意味する。当該アルコール化合物としては、通常、炭素数1~6の1価のアルコールが使用される。(B1)としては、上記と同じ理由により、ナフタレンジカルボン酸のエステルが好ましく、当該エステルを例示すれば、ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジプロピル、ナフタレンジカルボン酸ジイソプロピル、ナフタレンジカルボン酸ジブチル、ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルなどを挙げることができる。
【0034】
前記ジカルボン酸成分(B)は、前記(B1)以外のジカルボン酸化合物及び/又はそのエステル(以下、「その他ジカルボン酸化合物等」ともいう。)を含有することもできる。「その他ジカルボン酸化合物等」としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;及びそれらのエステル化物等が例示できる。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2-メチルテレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸及びそれらのエステル化物を用いることが好ましく、さらにはイソフタル酸、テレフタル酸及びそれらのエステル化物を用いることがより好ましい。
【0035】
1-3.縮重合方法
前記ジオール成分(A)と前記ジカルボン酸成分(B)とを1モル:1モルの割合で縮重合させる方法は、従来のポリエステル樹脂の製造方法として知られているエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法等が、特に限定なく採用できる。たとえば、特許文献1に記載された前記“SPG等を含む特定のジオール成分と特定のジカルボン酸成分とを重縮合して得られるポリエステル樹脂”を製造する方法として、前記特許文献1に開示されている方法を、本発明の原料系に適用することにより、好適に行うことができる。
【0036】
なお、特許文献1には、前記製法に関し、「例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法または溶液重合法を挙げることが出来る。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、また重合に用いる重合触媒、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。エステル交換触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエステル化触媒として、マンガン、コバルト、亜鉛、チタン、カルシウム等の化合物、またエーテル化防止剤としてアミン化合物等が例示される。重縮合触媒としてはゲルマニウム、アンチモン、スズ、チタン等の化合物が例示される。また熱安定剤としてリン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸等の各種リン化合物を加えることも有効である。その他光安定剤、耐電防止剤、滑剤、酸化防止剤、離型剤等を加えても良い。SPGの添加時期は特に限定されず、エステル化反応若しくはエステル交換反応終了後に添加しても良い。またその際、直接エステル化法において、スラリー性改善のために水を加えても良い。」と記載されている。
【0037】
このようにして製造されたポリエステル樹脂(特定ポリエステル)は、常法によりペレット化又は粉末状にされて使用に供される。たとえば、ペレット化する場合には、混錬機又は押出成型機などの装置により一定の太さのストランド状に成型し、カッター、ペレッタイザー、粉砕機などを用いて一定の長さに細かく切断し、ペレット状とされる。
【0038】
1-4.特定ポリエステルの確認方法
前記したような方法で得られるポリエステル樹脂の中には、樹脂材料として(当該樹脂材料が義歯床用材料として使用できることは知られていないものの)ペレット化又は粉末化された状態で入手可能なものも存在するので、それを特定ポリエステルとしても良い。ポリエステル樹脂が、特定ポリエステルに該当するか否かは、重クロロホルムに溶解させた溶液についてH-NMR測定を行ない、ピークの帰属を行なったのち、ピークの積分値から各成分の含有比率を算出することにより、確認することもできる。
【0039】
以下に参考として各成分由来のピークの帰属を示す。
【0040】
・エチレングリコール由来(δ=4.70 4H)
・スピログリコール由来(δ=4.52 2H、δ=4.32 2H、δ=4.19 4H、δ=3.54 4H、δ=3.32 2H、δ=1.04 12H)
・シクロヘキサンジメタノール由来{δ=4.29(cis)、4.19(trans) 4H、δ=2.05(cis)、1.80(trans) 2H、δ=1.94(trans)、1.14(cis) 4H、δ=1.66(cis)、1.56(trans) 4H}
・テレフタル酸由来(δ=8.10 4H)
・ナフタレンジカルボン酸由来(δ=8.62 2H、δ=8.12 2H、δ=8.03 2H)。
【0041】
また、熱可塑性樹脂においては、分子中における共重合ユニットの分散状態や分子量分布などにより物性値が変化することが多いが、これらを分析して熱可塑性樹脂の構造を詳細に規定することは困難であり、物性値の範囲等により樹脂を規定することも行われている。
【0042】
特定ポリエステルにおいては、前記したような方法で得られるポリエステル樹脂のなかでも、前記したような効果が高いという理由から、JIS規格K7191-2:2007(ISO75-2:2004)のB法に準拠して測定した荷重たわみ温度が85℃以上、125℃以下であり、JIS規格K7202-2:2001(ISO2039-2:1987)のLスケールに準拠して測定したロックウェル硬度が90以上、120以下であるポリエステル樹脂を用いる
【0043】
2.特定非晶性樹脂
次に、本発明の義歯用熱可塑性樹脂に用いる、非晶性熱可塑性樹脂(特定非晶性樹脂)について説明する。
【0044】
2-1.非晶性熱可塑性樹脂
非晶性熱可塑性樹脂とは、固化している時の分子構造に規則的に並んだ結晶部分をもたず、不規則に絡み合っているランダム構造を有する熱可塑性樹脂を意味する。非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリエーテルスルホン(PESまたはPESU)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリスルホン(PSFまたはPSU)などが一般的に知られている。また、通常は結晶性として知られるポリエチレンナフタレート(PET)にシクロヘキサンジメタノールを加えて改良したグリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)や、ビスフェノールAをエチレングリコールの代わりにジオール成分として用いたポリアリレート(PAR)なども非晶性樹脂である。また、シクロオレフィンポリマー(COP)も非晶性樹脂である。
【0045】
2-2.特定非晶性樹脂
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物では、特定非晶性樹脂として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)及びグリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)から成る群より選ばれる少なくとも1種を使用する。
【0046】
これら特定非晶性樹脂は、裏装処理を行う際の前処理剤であるプライマーや接着剤等に溶媒として含まれる酢酸エチルに対し溶解性または膨潤性を有することが多いため、特定非晶性樹脂を含むことにより裏装材との接着性が向上したものと考えられる。このような理由から、特定非晶性樹脂としては酢酸エチルに対し溶解性または膨潤性を有するものを使用することが好ましい。ここで、酢酸エチルに対し溶解性または膨潤性を有するとは、非晶性熱可塑性樹脂の成形体を過剰量の酢酸エチルに浸して37℃で放置したときに、膨潤や溶解によって成形体の形状が変化することを意味する。酢酸エチルに対し溶解性または膨潤性を有するか否かは、例えば次のようにして確認することができる。すなわち、ペレット径及び/又はペレット長が3~5mm程度の非晶性熱可塑性樹脂ペレット1粒を37℃の酢酸エチル1mlに24時間浸漬した後に目視で観察して確認することができる。一般に樹脂成形品を溶媒に浸して放置した場合、樹脂がその溶媒に対して膨潤性及び溶解性を有しない場合には、変化が起こらない。また、溶媒に溶解する場合には、樹脂成型品の白濁→樹脂成型品の膨潤(見かけ体積増加)→樹脂成型品の形状崩壊→溶解のプロセスを経るのが一般的であることから、上記目視観察で、膨潤により体積が明らかに増大している、溶解により形状の崩壊が見られる、又は完全に溶解している、の何れかの状態である場合には、溶解性または膨潤性を有すると判断され、変化がない、又は単にペレットが白濁している状態である場合には、溶解性または膨潤性を有しないと判断される。
【0047】
特定ポリエステルとの相溶性又はブレンド性の観点から、特定非晶性樹脂としては、ISO75(JIS K7191)のA法(1.8MPa)に従い測定した荷重たわみ温度が60~150℃の範囲にあるものを用いる。特定非晶性樹脂の荷重たわみ温度がこの範囲内である場合には、ブレンド時(溶融混錬時)に容易に均一化することができる。

【0048】
3.本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物は、義歯床やクラスプ等の義歯部材として専ら使用される熱可塑性樹脂組成物であり、特定ポリエステル:100質量部に対して特定非晶性樹脂を5~25質量部含むものである。このような組成を有することにより、特定ポリエステルの特長を損なうことなく、裏装材に対する接着性をより高いものとすることができる。特定ポリエステルの本来有する物理的性質をできるだけ損なわないようにしながら接着性を発現する必要があると言う理由から特定非晶性樹脂の上記配合量は5~20質量部であることが好ましく、10~15質量部であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分は、特定ポリエステル及び特定非晶性樹脂のみからなることが好ましいが、本発明の硬化を阻害しない範囲であれば他の熱可塑性樹脂を含むこともできる。また、樹脂以外の成分として、顔料や染料等の着色材料、無機充填材や有機充填材等の充填材、離型剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤等を適宜配合してもよい。
【0050】
本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物は、特定ポリエステルの粉末又はペレット、特定非晶性樹脂の粉末又はペレット及び必要に応じて配合される顔料等の各種添加剤(通常紛体)の混合物であってもよいが、これらを溶融混錬して粉末状又はペレット状として使用することが好ましい。溶融混錬するには加熱式の二軸押出混錬機などの装置を用いるのが一般的である。例えば、予め調製した前記混合物を二軸押出混錬機のフィーダーに投入し、例えばバレル温度を270℃~280℃に設定し、50~150rpmのスクリュー回転速度で混錬すればよい。なお、スクリュー構成は樹脂を送る送りスクリューとせん断力を加えて混錬するニーディングディスクを組み合わせて適切な構成とされる。このようにして混錬された樹脂は、常法によりペレット化又は粉末状にされて使用に供される。たとえば、ペレット化する場合には、混錬機又は押出成型機などの装置により一定の太さのストランド状に成型し、カッター、ペレッタイザー、粉砕機などを用いて一定の長さに細かく切断し、ペレット状とされる。
【0051】
本発明の義歯用熱可塑性樹脂は、射出成型により義歯床を成形することが可能で柔軟性が高く且つ即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材との接着が良好であるという、従来の義歯床用ポリエステル樹脂の特長を有するばかりでなく、更に高強度で且つ切削性及び研磨性に優れるという特長を有する。このため、本発明の義歯用熱可塑性樹脂を用いて製造される義歯床を有する本発明の有床義歯や、義歯床やクラスプ部が本発明の義歯用熱可塑性樹脂で形成される本発明のノンメタルクラスプデンチャーは、適度な柔軟性により耐衝撃性に優れ、破折などが起こり難いことに加え、強度が高く、表面が滑らかで光沢を有するという高い審美性を有し、更に即時重合レジン、(メタ)アクリレート系硬質裏装材、シリコーン系軟質裏装材、粘膜調整材を用いた修理やリライニングにも適しているという特徴を有する。
【0052】
4.本発明のノンメタルクラスプデンチャー及びその製造方法
ノンメタルクラスプデンチャーは、義歯床を有する有床義歯の範疇に属する部分床義歯(局部義歯)の1種であって、欠損部領域の口腔粘膜を覆う義歯床(部分床)に欠損歯牙の代替となる人工歯を固定した義歯部と、それが外れないように、隣接する残存天然歯牙からなる鉤歯に装着するための維持装置であるクラスプ(clasp:鉤)を有する。そしてノンメタルクラスプデンチャーでは、前記クラスプが熱可塑性樹脂材料等の非金属材料で構成されている。ただし、金属材料の使用を完全に否定するものではなく、クラスプ以外の部分においては、メタルレストやメタルフレームなどの金属材料からなる部材を含んでいても良い。
【0053】
本発明のノンメタルクラスプデンチャーは、部分床に人工歯が固定された義歯部と、当該義歯部を鉤歯に装着するためのクラスプを有し、前記部分床の少なくとも一部及び前記クラスプが本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物の成形体からなることを特徴とする。
【0054】
本発明のノンメタルクラスプデンチャーにおいては、そのクラスプを及び/又は義歯床の少なくとも一部が本熱可塑性樹脂材料からなっていればよいが、クラスプ及び樹脂製義歯床の全てが本熱可塑性樹脂材料からなり、更に両者が一体に形成されているものであることが好ましい。
【0055】
本発明のノンメタルクラスプデンチャーは、本熱可塑性樹脂材料を射出成型することにより、前記クラスプ及び/又は前記義歯床の少なくとも一部を形成する射出成型工程を含む、製造方法により、好適に製造することができる。
【0056】
上記射出成型工程は、射出成型用の原料樹脂として、本熱可塑性樹脂材料を用いる以外は、従来の熱可塑性樹脂を用いた射出成形法によるノンメタルクラスプデンチャーの製造方法と特に変わる点は無く、たとえば、患者から採取した口腔内印象を基に作成した石膏製の型を成形型とし、当該成形型を射出成型機にセットしてその内部に、加熱されて軟化した本熱可塑性樹脂材料を射出し、冷却した後に型から取り出す方法等が採用できる。成形型において、クラスプ部となる部分を有しないものを用いた場合には、クラスプ部を有しない本発明の有床義歯を製造することができ、クラスプ部となる部分を有するものを用いた場合には、本発明のノンメタルクラスプデンチャーを製造することができる。
【0057】
以下、上記方法について具体的に説明する。すなわち、上記方法では、成形型作成のために、先ず、シリコーン系印象材またはアルジネート系印象材または寒天印象材を用いて採取された、患者口腔内形状の印象に石膏を流し込み、患者の口腔内の形状を模った石膏模型を作製する。次に得られた石膏摸型に基礎床の設計を施した後、常温重合レジンと呼ばれる硬化性組成物を模型上の設計線に合わせて圧接し、前記石膏模型の上に(必要に応じてクラスプを有する)基礎床を作製する。その後、基礎床の上に歯科用パラフィンワックスを土手のように盛り付け、蝋堤と呼ばれる人工歯を排列する部分を作製し、当該蝋堤が形成された前記基礎床を前記石工模型から取り外して咬合床とする。この咬合床を患者の口腔内に装着し、咬合採得を行ない、咬合床の調整を行なう。調整後の咬合床を再び石膏模型にセットしたものを咬合器に取り付け、口腔内の顎運動や咬合状態を再現し、蝋堤に人工歯を排列して、蝋義歯(咬合床に人工歯を排列したもの)を作成する。得られた蝋義歯の陰型が射出成型用の成形型となる。
【0058】
上記成形型は、通常、以下に説明する様な3段階の埋設操作を経て作成される。すなわち、先ず、歯科用射出成型器のフラスコ下部に、石膏模型及びこれにセットされた蝋義歯を配置してから、石膏模型のみが埋没し、蝋義歯はフラスコより上に出るようにして混錬した石膏を流し込んで硬化させる一次埋没を行なう。次に、混和した石膏を蝋義歯の上から覆うように盛り付けて、二次埋没を行なう。その後、フラスコ上部をフラスコ下部に適合させフタをした状態とし、フラスコ上部に空いた穴から混和した石膏を流し込み、三次埋没を行なう。そして、三次埋没の石膏が硬化した後、一旦、フラスコの上部と下部を分割し、基礎床と蝋堤を除去する。蝋堤が除去しにくい場合はお湯をかけて溶解させる。すると、人工歯のみが石膏に埋まっている状態となる。再びフラスコ上部をフラスコ下部に適合させ、密閉した状態としものが成形型となる。
【0059】
射出成型は、予め真空乾燥させて水分を除去した本熱可塑性樹脂材料のペレットを、上記成形型がセットされた射出成形機に供給して行われる。具体的には、必要量計量された前記本熱可塑性樹脂材料を供給し、射出成型器の樹脂溶融部で150℃~400℃程度の範囲で5~60分間程度熱をかけてペレットを溶融させた後、エアーコンプレッサーで射出成型器に0.1~2.0MPaの空気圧をかけ、溶融した樹脂を射出し、セットしたフラスコ(成形型)内部に樹脂を充填する。樹脂が冷えて硬化した後、フラスコを分割して木槌などを用いて石膏を分割し、樹脂と人工歯が一体となった義歯(本義歯)が取り出される。
【0060】
取り出された本義歯の全周にはバリが付着しているため、スタンプバー又は、レジンポイントで床縁を保護しながら切削する。ポイント類を用いて切削した面は、荒・中・細の種類のうち中から細へとサンドペーパーコーンを用いて研磨を行なったのち、レーズを用いた研磨を行なう。レーズによる研磨はまずフェルトコーンに磨き砂、硬毛ブラシに磨き砂の順で使用し、表面を滑沢にしたのち、よく水洗してから仕上げ研磨にうつる。軟毛ブラシに亜鉛華、布バフに研磨剤の順で使用し、表面のつや出しを行なう。研磨面の乾燥、発熱を防ぐためにレーズは低速回転で用いる。そして、口腔内に適合させ最終的な調整を行なうことによって、完成品である本発明の有床義歯や本発明のノンメタルクラスプデンチャーを得ることができる。
【実施例
【0061】
本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。
【0062】
1.参考実施例1~4及び参考比較例1~7
まず、本発明の熱可塑性樹脂組成物の主成分である特定ポリエステルが義歯床用ポリエステル樹脂として優れたものであることを参考実施例及び参考比較例を挙げて説明する。
【0063】
以下に示す市販の熱可塑性樹脂A~Kについて分析を行い、特定ポリエステルに該当するか否かについて判断した上で、各熱可塑性樹脂について、荷重たわみ温度、ロックウェル硬度、切削性及び研磨性を測定し、その評価を行った。以下に、その詳細を示す。
【0064】
1-1.熱可塑性樹脂
・A:アルテスタS1000(三菱瓦斯化学株式会社製)
・B:アルテスタS2000(三菱瓦斯化学株式会社製)
・C:アルテスタS3000(三菱瓦斯化学株式会社製)
・D:アルテスタS4500(三菱瓦斯化学株式会社製)
・E:アルテスタSN1500(三菱瓦斯化学株式会社製)
・F:アルテスタSN3000(三菱瓦斯化学株式会社製)
・G:アルテスタSN4500(三菱瓦斯化学株式会社製)
・H:アルテスタSH(三菱瓦斯化学株式会社製)
・I:アクリショット(山八歯材工業株式会社製:義歯床用PMMA樹脂)
・J:エステショット(株式会社アイキャスト製:義歯床用PET樹脂)
・K:エステショット ブライト(株式会社アイキャスト製:義歯床用ポリエステル樹脂)
【0065】
1-2.特定ポリエステルに該当するか否かの判断
(1)熱可塑性樹脂Iについて
熱可塑性樹脂Iは、義歯床用として市販されているアクリル系樹脂であり、特定ポリエステルには該当しない。
【0066】
(2)熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂)A~H、J及びKについて
熱可塑性樹脂A~Hの各種アルテスタ樹脂は、三菱瓦斯化学株式会社から販売されているポリエステル樹脂であり、ディスプレイ用シート・フィルム、食品用容器、シーラントフィルム、飲料容器、化粧品容器、医薬品容器、調味料ボトル、雑貨・文具、保護カバーなどの用途に使用できるとされている。また、熱可塑性樹脂J及びKは義歯床用として市販されているポリエステル樹脂である。
【0067】
これら熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂)A~H、J及びKについて次のようにして分析を行ない、特定ポリエステル樹脂に該当するか否かを判断した。すなわち、各樹脂のペレットを一粒、1mlの重クロロホルム(内部標準としてテトラメチルシランを含む)に浸漬し、37℃で6時間放置して完全に溶解させ、NMRチューブに溶解液を移し、H-NMR測定を行なった。測定はJEOL RESONANCE社製JNM-ECA 400II型で、積算回数16回、400MHzで行った。得られたNMRチャートについて、ピークの帰属を行なったのち、SPGに帰属されるピークが確認されなかったものについては特定ポリエステルには該当しない非特定ポリエステル樹脂であると判断し、スピログリコール(SPG)に帰属されるピークが確認されたものについては、テレフタル酸(TPA)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NDCA)、エチレングリコール(EG)、スピログリコール(SPG)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)に帰属されるピークの積分値から各成分の含有比率を算出した。分析結果を表1に示す。
【0068】
表1より、熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂)A~D、J及びK(J及びKについては、ナフタレンジカルボン酸由来のピークも確認されなかった。)は、特定ポリエステルに該当しない非特定ポリエステル樹脂であること、並びに、熱可塑性樹脂(ポリエステル樹脂)E~Hは、特定ポリエステルに該当することが判る。
【0069】
【表1】
【0070】
1-3.熱可塑性樹脂A~Kの各種物性測定方法と評価基準
(1)荷重たわみ温度(HDT)測定
加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-11D2-C)とSUS製のモールドを用いて、気泡のない10mm×80mm×4mmの平滑な試験片を作製した。荷重たわみ温度(℃)の測定はJIS規格K7191-2:2007(ISO75-2:2004)に準拠して測定を行なった。条件は0.45MPaの荷重をかけるB法で、フラットワイズ法で行った。測定には株式会社東洋精機製作所製のHDT試験装置S6-MHを使用した。
【0071】
(2)ロックウェル硬度(HRL)測定
加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-11D2-C)とSUS製のモールドを用いて、気泡のない20mm四方、厚さ6mmの平滑な試験片を作製し、JIS規格K7202-2:2001(ISO2039-2:1987)に準拠して、試験荷重588.4N、鋼球圧子直径6.35mmのLスケールでロックウェル硬度(HRL)の測定を行なった。なお、測定にはAkashi社のAR-10を使用し、1試料につき3枚の試験片を用いて各試験片につき3回測定し、全9回の平均値をロックウェル硬度(HRL)とした。
【0072】
(3)曲げ強さ測定
加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-11D2-C)とSUS製のモールドを用いて樹脂を15mm×30mm、厚み2mmの板状に成型した。その成型体を精密切断機(株式会社ビューラー製、Isomet LS)を用いて2mmずつ切り出し、2mm×2mm×30mmの試験片を作製した。寸法を計測して37℃のイオン交換水に1週間浸漬し、曲げ試験に用いた。曲げ試験は、試験片を精密万能試験機(株式会社島津製作所製、AG-Xplus50kN)にセットし、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で行った。1試料に5個の試験片について測定を行い、その平均値を曲げ強さ(MPa)とした。
【0073】
(4)切削性評価
各種樹脂を真空乾燥し、歯科技工用の射出成型器(山八歯材工業株式会社製、プロ・ジェットII)を使用して、10mm×10mm×12mmのブロック状の成形体を得た。この成形体に切削加工用のピンを接着し、乾式の切削加工機(RolandDG株式会社製、DWX-50)に取り付け、切削バー(山八歯材工業株式会社製、CAD/CAMミリングバーダイヤコートタイプφ2mm、φ0.8mm)を用いてクラウン形状に切削加工し、切削中の様子と切削カスの大きさを観察し、評価を行なった。なお、乾式の切削加工機を用いたのは、技工士が義歯床の切削・研磨を行なう場合は通常乾式で行うことによる。
【0074】
切削性の評価基準を以下に示す。
◎:切削に何ら問題なし。切削カスが微細で、切削カスが切削バーにまとわりつかない。
○:切削可能。切削カスは大きいねじり状であるが、切削カスが切削バーにまとわりつかず、切削可能である。
△:切削に問題あり。切削中に何度も樹脂が切削バーに溶着するが切削物は完成する。
×:切削不可。切削中に樹脂が切削バーに大量に溶着し切削を続行できない。
【0075】
(5)研磨性評価
加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-11D2-C)を用いて20mm四方、厚み4mmに成型した樹脂の試験片を1試料につき3枚用意し、それを自動研磨機用試料ホルダの底面に両面テープで3点に均等に力がかかる位置に張り付けた。ホルダを自動回転研磨機(株式会社ビューラー製、Automet250&Ecomet250)にセットし、耐水研磨紙#800で30秒、#1500で30秒、#3000で60秒、バフ研磨布にバイカロックス液体研磨剤(アルミナ懸濁液0.3um)を塗布して60秒、研磨を行なった。自動回転研磨機はヘッド回転速度40rpm、ベース回転速度300rpm、全体荷重6Lbsの条件に設定した。試験片の研磨面を目視及びレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、VK-9700)で観察し、評価を行なった。レーザー顕微鏡の対物レンズは20倍を使用した。以下に評価基準を示す。
【0076】
◎:平滑な研磨面が形成されており、レーザー顕微鏡で観察してもほとんど研磨傷がついていない。
○:目視では平滑な研磨面が形成されているが、レーザー顕微鏡で観察すると一部に研磨傷がついている。
△:目視では平滑な研磨面が形成されているが、レーザー顕微鏡で観察するとやや高頻度で研磨傷がついている。
×:目視で無数の研磨傷が確認される。レーザー顕微鏡で観察すると大きい傷から小さい傷まで無数の研磨傷がついている。
【0077】
1-4.測定・評価結果
熱可塑性樹脂A~Kについての測定・評価結果を表2にまとめる。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示されるように特定ポリエステルに該当する熱可塑性樹脂E~H(参考実施例1~4)は、何れも、荷重たわみ温度(HDT):85℃以上、ロックウェル硬度(HRL):90以上、曲げ強さ:99MPa以上、切削性評価:○、研磨性評価:○であり、良好な物性を示した。特にジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸のみを含有し、第3のジオール成分としてシクロヘキサンジメタノールを含有する熱可塑性樹脂Hは、荷重たわみ温度、ロックウェル硬度及び曲げ強さとも最高の値を示している。
【0080】
一方、ポリエステル樹脂であっても、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のみを含有し、多環芳香族炭化水素骨格を有するジカルボン酸化合物(B1)及び/又はそのエステル(B1´)を使用しないため特定ポリエステルに該当しない熱可塑性樹脂A~D(参考比較例1~4)では、ロックウェル硬度が90以上となるものは無く、曲げ強さも参考実施例と比べると低めの値となっていた。また、切削性の評価はいずれも×であり、樹脂が切削バーに大量に溶着し、切削を続行することができず、研磨性評価もいずれも△であった。
【0081】
また、義歯床用PMMA樹脂であるI(参考比較例5)は、切削性及び研磨性評価は◎であったが、曲げ強さについては最も低い66MPaであり、強度が不十分であった。
【0082】
また、特定ポリエステルに該当しない義歯床用PET樹脂であるJ(参考比較例6)の切削性の評価は△であり、切削中に何度も樹脂が切削バーに溶着していた。また、研磨性の評価は×であり、目視で無数の研磨傷が確認された。更に曲げ強さは81MPaであり参考実施例1~4と比較すると低い値であった。
【0083】
さらに、特定ポリエステルに該当しない義歯床用ポリエステル樹脂であるK(参考比較例6)の研磨性の評価は×であり、目視で無数の研磨傷が確認された。更に曲げ強さは75MPaであり参考実施例1~4と比較すると低い値であった。
【0084】
2.実施例1~13及び比較例1~5
次に、実施例および比較例を挙げて本発明の義歯用熱可塑性樹脂について説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。以下に示す市販の熱可塑性樹脂を単独で又は所定の組み合わせ及び割合でブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用いてプレス成形により実施例及び比較例で用いた評価用試料を作製し、(メタ)アクリレート系硬質裏装材及びシリコーン系軟質裏装材に対する接着性の評価を行った。以下に、その詳細を示す。
【0085】
2-1.熱可塑性樹脂
(1)特定ポリエステル
前記E~H。すなわち、
・E:アルテスタSN1500(三菱瓦斯化学株式会社製)
・F:アルテスタSN3000(三菱瓦斯化学株式会社製)
・G:アルテスタSN4500(三菱瓦斯化学株式会社製)
・H:アルテスタSH(三菱瓦斯化学株式会社製)。
【0086】
(2)特定非晶性樹脂
・L:硬質ポリ塩化ビニル(サン・アロー化成株式会社製硬質サナーコンパウンド SC-2100)
・M:ポリスチレン(PSジャパン株式会社製GPPS HF77)
・N:PMMA(三菱ケミカル株式会社製アクリペット VH001)
・O:ABS(旭化成株式会社製スタイラック 026)
・P:ポリカーボネート(帝人株式会社製パンライト L-1225Y)
・Q:イソソルバイドを原料としたポリカーボネート(三菱ケミカル株式会社製DURABIO D7340)
・R:変性ポリフェニレンエーテル(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ユピエース AH80)
・S:グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(イーストマンケミカルカンパニー社製PET-G GN071)。
【0087】
(3)特定非晶性樹脂以外の非晶性熱可塑性樹脂(以下、「非特定非晶性樹脂」ともいう。)
・T:ポリサルフォン(BASF欧州会社製ウルトラゾーン S2010)
・U:シクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製ZEONEX 790R)。
【0088】
なお、非晶性熱可塑性樹脂が特定非晶性樹脂に該当するか又は非特定非晶性樹脂に該当するかの判断は、各ATRについて、ペレット一粒を37℃の酢酸エチル1mlに浸漬して24時間後に目視観察し、完全に溶解したものを◎、一部溶解して形状が崩壊したもの及び膨潤により明らかな体積膨張が見られたものを○、白濁のみが見られたものを△、全く変化が見られなかったものを×とし、◎及び○であったものを特定非晶性樹脂とし、△及び×であったものを非特定非晶性樹脂とした。参考までに各種ATRの酢酸エチルに対する溶解性または膨潤性の評価結果及び荷重たわみ温度と曲げ強さを表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
2-2.評価用試料の作製
真空乾燥した各樹脂を用い、表4に示す組成となるように、そのまま(比較例1)又は混合して(実施例1~13及び比較例2~5)から、溶融混錬してペレット化した。具体的には、二軸押出し混練機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製HAAKE process11)を用い、バレルの温度280℃、ダイの温度240℃とし、スクリューの回転速度50rpm~150rpmで溶融混錬し、吐出されたブレンド樹脂は水で冷却後、ペレタイザーを使用してペレット化した。
【0091】
次いで、得られたペレットを用い加熱プレス機(株式会社井元製作所製、IMC-11D2-C)とSUS製のモールドを用いて、気泡のない15mm四方、厚さ2mmの平滑な板状試験片1;2cm四方、厚み5mmの平滑な板状試験片2;及び15mm×30mm、厚み2mmの平滑な板状試験片3;を作製した。
【0092】
2-3.評価方法
(1)(メタ)アクリレート系硬質裏装材に対する接着性評価
前記板状試験片1を、1.5cm四方、厚み2mmのSUS製の板に接着して裏打ちし、樹脂の表面を#800耐水研磨紙で研磨して被着体を作製した。(メタ)アクリレート系硬質裏装材としてトクヤマリベースIIIノーマル(トクヤマデンタル社製)を使用し、接着剤は酢酸エチル含有プライマーである、リベース接着剤(トクヤマデンタル社製)を使用した。被着体の表面に直径3mmの孔を有する両面テープを張りつけて接着面積を規定し、リベース接着剤をブラシで塗布した。その上から直径8mmの孔を有する0.5mm厚のパラフィンワックスを上記直径3mmの孔と同心円となるように貼り付け、模擬修復部とした。トクヤマリベースIIIノーマルの粉と液をP/L比1.7となるよう練和して得た餅状物を前記模擬修復部に充填し、その上からポリプロピレン製フィルムにて軽く圧接した。37℃湿潤下に1時間放置してトクヤマリベースIIIノーマルを硬化させた後、試験片を37℃24時間の水中浸漬を行なった。取り出した試験片のトクヤマリベースIIIノーマルの上に、引張り試験で使用する金属性アタッチメントを接着した。引張り強度の測定は試験片を精密万能試験機(AG-Xplus50kN、株式会社島津製作所製)にセットし、クロスヘッドスピード2mm/minの条件で行った。試験は1つの試料について5個の測定を行い、その平均値を引張り強度とした。
【0093】
(2)シリコーン系軟質裏装材に対する接着性評価
前記板状試験片2の表面を#800耐水研磨紙で研磨して2枚1セットの被着体とした。シリコーン系軟質裏装材としてはソフリライナータフミディアム(トクヤマデンタル社製)を、接着剤には酢酸エチル含有プライマーである、付属の接着用プライマーを使用した。被着体2枚の表面上にソフリライナータフミディアムに付属の接着用プライマーをディスポ筆で薄く均一に塗布した。2枚の被着体のうち一方の被着体上に直径10mmの孔のあいた3mm厚のフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)製モ-ルドを乗せ、模擬修復部とした。ソフリライナータフミディアムをミキシングチップで練和し、それを前記模擬修復部に充填し、その上からもう一枚の被着体の接着剤塗布側を裏装材と接触するようにのせ、圧接した。37℃湿潤下に一時間放置してソフリライナータフミディアムを硬化させた後、試験片を37℃24時間の水中浸漬を行なった。その後、取り出した試験片の上下、すなわち被着体の両裏側に引張り試験で使用する金属性アタッチメントを接着した。引張り強度の測定は試験片を精密万能試験機(AG-Xplus50kN、株式会社島津製作所製)にセットし、金属製アタッチメントをクロスヘッドスピード5mm/minの条件で両側に引張り試験を行った。試験は1つの試料について4個の測定を行い、その平均値を引張り強度とした。本試験において引張強度の上限は2.0~3.0MPa程度の低い値となる。これは、試験に用いている軟質裏層材の強度に由来するためである。従って、本試験における接着性は破壊形態で判断するのが適切である。接着良好な場合は軟質裏層材がバルク破壊を起こし、接着不十分な場合は被着体と軟質裏層材の間で界面破壊を起こすので、バルク破壊か界面破壊かで接着性を評価した。
【0094】
(3)曲げ強さ測定
板状試験片3を用い、参考実施例の曲げ強さ測定と同様にして測定を行った。
【0095】
2-4.評価結果
実施例及び比較例の評価結果を表4に示す。なお、表4中の「添加量」とは特定ポリエステル100質量部に対する非晶性熱可塑性樹脂(特定非晶性樹脂又は非特定非晶性樹脂)の配合量(質量部)を表す。
【0096】
【表4】
【0097】
表4に示されるように、本発明の義歯用熱可塑性樹脂組成物を用いた実施例1~13では、比較例1との対比から明らかなように、特定ポリエステルが本来有する特長を維持したまま、裏装材に対する接着性が向上している。これに対し、非特定非晶性樹脂をブレンドした比較例2~3では、このような裏装材に対する接着性が向上効果はみられない。また、特定ポリエステル100質量部に対して1質量部の特定非晶性樹脂をブレンドした比較例4では接着性の向上効果がみられず、50質量部の特定非晶性樹脂をブレンドした比較例5では物性の低下が顕著にみられた。