(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】劣化が抑制された凝集処理剤
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20241209BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20241209BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20241209BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B01D21/01 107A
B01D21/01 101A
C08L33/26
C08K3/16
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2020185500
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000142148
【氏名又は名称】ハイモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】林田 豪一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆雄
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-107513(JP,A)
【文献】特開2013-255863(JP,A)
【文献】特開2013-023520(JP,A)
【文献】特開2014-028348(JP,A)
【文献】特開2020-033480(JP,A)
【文献】特開2014-233647(JP,A)
【文献】特開2011-194348(JP,A)
【文献】特開2014-024051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-21/34
C02F1/52-1/56
C08L33/26
C08K3/16、5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体
として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物20~
80モル%
、及び非イオン性単量体
として、(メタ)アクリルアミド20~
80モル%を構成単位とする水溶性高分子と酸性物質
として、酢酸、ギ酸、クエン酸、フマル酸、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、リンゴ酸、サリチル酸から選択される一種以上を凝集処理剤製品に対して0.7~10質量%、緩衝塩として、前記酸性物質のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選択される一種以上を凝集処理剤製品に対して0.05~2質量%の範囲で含有
し、前記水溶性高分子の形態が、油中水型エマルジョンであることを特徴とする凝集処理剤。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は水素、炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体
として、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物20~
80モル%
、及び非イオン性単量体
として、(メタ)アクリルアミド20~
80モル%を構成単位とする水溶性高分子と酸性物質
として、酢酸、ギ酸、クエン酸、フマル酸、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、リンゴ酸、サリチル酸から選択される一種以上を凝集処理剤製品に対して0.7~10質量%、緩衝塩として、前記酸性物質のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩から選択される一種以上を凝集処理剤製品に対して0.05~2質量%の範囲で、前記水溶性高分子の重合時に単量体混合物を含む水相中に含有するか、重合後の製品に含有
し、前記水溶性高分子の形態が、油中水型エマルジョンであることを特徴とする凝集処理剤の劣化抑制方法。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は水素、炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化が抑制された凝集処理剤に関する。更に詳しくは、従来品に比べて製品及びその溶解液の劣化抑制、長期安定可能な凝集処理剤及びその劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凝集処理剤はその用途により排水や汚泥処理用の排水処理剤、汚泥脱水剤、汚泥沈降剤、あるいは製紙用薬剤としての歩留及び/又は濾水性向上剤、凝結剤、紙力増強剤、湿潤紙力向上剤、サイズ定着剤、脱墨助剤等として幅広く用いられている。これら凝集処理剤として水溶性高分子が使用されるが、中でもポリアクリルアミド(PAM)系水溶性高分子が汎用されている。
【0003】
PAM系水溶性高分子製品、特に油中水型エマルジョンや塩水中分散重合液等の分散液タイプの高濃度製品は、製造後、時間が経過すると高分子の構造変化等により製品が劣化、性能が低下するといった問題が発生する。溶解液では高分子が加水分解により経時劣化し溶解液の粘度が低下する結果、凝集処理性能が低下する。又、これらの傾向は単量体濃度が増加する程に顕著となるため、高品質な高濃度製品及びその溶解液を得ることは困難である。
【0004】
そこで、PAM系水溶性高分子の劣化抑制に関する様々な提案がなされている。例えば、特許文献1では、カチオンモノマーの構成比率が50モル%以下である水溶性高分子の水溶液のpHをスルファミン酸やクエン酸等で5.5以下とすることによりカチオン劣化が抑制できることが開示されている。
特許文献2では、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩を(共)重合反応系や(共)重合体に添加することによって、水溶性ポリマーの劣化を防止することが記載されている。
特許文献3には、高分子凝集剤と、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の還元剤および該高分子凝集剤を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを6以下にする量のスルファミン酸、クエン酸等の酸性物質の三成分を組み合わせることにより高分子凝集剤溶解液の安定化を図ることが開示されている。
しかし、これらの技術では水溶性高分子の形態や構造、組成によっては満足な効果が得られない場合もあり、又、製品自体及び溶解液の劣化の両方を抑制できる訳ではない。そこで、水溶性高分子凝集処理剤の製品と溶解液の両方の劣化を抑制し長期保存安定性が得られる凝集処理剤が要望されている。
【0005】
【文献】特開昭54-69582号公報
【文献】特開昭58-40306号公報
【文献】特開2008-18344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凝集処理剤及びその溶解液の長期保存安定性の改善を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造単位を有する水溶性高分子に酸性物質及び緩衝塩を共存させることにより製品及びその溶解液の長期保存安定性改善が可能となることを見出し本発明に達した。
【0008】
凝集処理剤に含有する酸性物質及び緩衝液は重合時に添加しても良いし、重合後の製品に添加することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明における特定の構造単位を有する水溶性高分子は、長期保存安定性に優れるため凝集処理剤として広範囲で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における水溶性高分子は、下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体0~99モル%、下記一般式(2)で表されるアニオン性単量体0~99モル%、及び非イオン性単量体1~100モル%を含有する単量体混合物を重合して製造したものである。
一般式(1)
R
1は水素又はメチル基、R
2、R
3は炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基、R
4は水素、炭素数1~3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2~4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X
1は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(2)
R
5は水素、メチル基又はカルボキシメチル基、QはSO
3、C
6H
4SO
3、CONHC(CH
3)
2CH
2SO
3、C
6H
4COOあるいはCOO、R
6は水素又はCOOY
2、Y
1あるいはY
2は水素又は陽イオンをそれぞれ表わす。
【0011】
本発明で使用する一般式(1)で表されるカチオン性単量体は、以下の様なものがある。即ち、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である。その例として一般式(1)で表わされるカチオン性単量体は、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物である。これらから選択される一種以上を使用する。
【0012】
本発明で使用する一般式(2)で表されるアニオン性単量体は、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸あるいはp-カルボキシスチレン酸等が挙げられる。これらから選択される一種以上を使用する。
【0013】
本発明で使用する非イオン性単量体は、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。これらから選択される一種以上を使用する。
【0014】
本発明における水溶性高分子の製品形態は特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、油中水型分散重合、塩水中分散重合等によって重合した後、水溶液、塩水中分散液、油中水型エマルジョンあるいは粉末等、任意の製品形態にすることができる。これらの中でも高分子量で高濃度のものが製造しやすく、より製品の長期安定性が要望される油中水型エマルジョン重合が好ましい。
【0015】
これら前記の種々の重合は、常法により実施する。例えば、窒素雰囲気下にて、重合開始剤、例えば2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物又は2、2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩化水素化物のような水溶性アゾ系重合開始剤、あるいは過硫酸アンモニウム及び亜硫酸水素ナトリウム併用のような水溶性レドックス系重合開始剤を添加し、撹拌下あるいは無攪拌下ラジカル重合を行う。
【0016】
油中水型エマルジョンの製造方法としては、特開昭55-137147号公報、特開昭59-130397号公報、特開平10-140496号公報、特開2011-99076号公報等に挙げられる方法に準じて適宜に製造することができる。カチオン性単量体及び/又はアニオン性単量体及び非イオン性単量体含有する単量体混合物を水、水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合する。
【0017】
又、分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類或いは灯油、軽油、中油等の鉱油、或いはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度等の特性を有する炭化水素系合成油、或いはこれらの混合物が挙げられる。含有量としては、油中水型エマルジョン全量に対して20質量%~50質量%の範囲であり、好ましくは20質量%~35質量%の範囲である。
【0018】
油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB3~11のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。これら界面活性剤の添加率としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5~10質量%であり、好ましくは1~5質量%の範囲である。
【0019】
単量体の重合濃度は20~60質量%の範囲であり、単量体の組成、開始剤の選択によって適宜重合の濃度と温度を設定する。重合温度としては20~80℃、好ましくは20~60℃の範囲で行なう。重合開始はラジカル重合開始剤を使用する。これら開始剤は油溶性或いは水溶性のどちらでも良く、アゾ系、レドックス系、過酸化物系の何れでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2、2’-アゾビスイソブチレート、1、1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2、2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2、2’-アゾビス-2-メチルプロピオネート、4、4’-アゾビス-(4-メトキシ-2、4-ジメチル)バレロニトリル等が挙げられる。
【0020】
水溶性アゾ開始剤の例としては、2、2’-アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’-アゾビス[2-(5-メチル-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩化水素化物、4、4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。又、レドックス系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等との組み合わせが挙げられる。更に過酸化物系の例としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム或いはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
アゾ系あるいは過酸化物系開始剤の添加率としては、重合開始時、単量体当たり50~5000ppm、好ましくは100~500ppmである。しかし、これら開始剤一回の添加では重合率が低くなるので、数回に分けて添加することが好ましい。
【0021】
又、重合時に構造改質剤、即ち、高分子を構造変性する架橋性単量体を使用しても良い。この架橋性単量体は、単量体総量に対し質量で0.5~200ppmの範囲で存在させる。架橋性単量体の例としては、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸-1,3-ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N-ビニル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシラン等があるが、水溶性ポリビニル化合物がより好ましく、最も好ましいのは、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。
【0022】
又、ギ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール、メタリルスルホン酸ナトリウム等の連鎖移動剤を併用することも重合度を調節する手法として効果的である。添加率としては、単量体総量に対し0.0005~5質量%、好ましくは0.01~0.5質量%存在させる。
【0023】
重合後は、転相剤と呼ばれる親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中の水溶性高分子が溶解しやすくする処理を行ない、水で希釈して用いる。親水性界面活性剤の例としては、カチオン性界面活性剤やHLB9~15のノ二オン性界面活性剤であり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレンアルコールエーテル系等である。
【0024】
本発明における凝集処理剤は、酸性物質及び緩衝塩を含有する。酸性物質として、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、スルファミン酸、クエン酸、フマル酸、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、リンゴ酸、サリチル酸等が挙げられる。これらの中でも酢酸、ギ酸、スルファミン酸、クエン酸、フマル酸、フタル酸、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、リンゴ酸、サリチル酸等のカルボン酸が好ましい。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。緩衝塩として、前記酸性物質のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。これらの中でもカルボン酸塩が好ましい。これらを二種以上、組み合わせても差し支えない。
本発明における凝集処理剤に含有する酸性物質及び緩衝塩は、組成や物性によっても多少の変動はあるが、酸性物質は凝集処理剤製品に対して0.7~10質量%の範囲で含有させることが好ましい。緩衝塩は凝集処理剤製品に対して0.05~2質量%の範囲で含有させることが好ましい。酸性物質0.7質量%以上、緩衝塩0.05質量%以上ないと本発明の大きな効果が得られず、酸性物質10質量%、緩衝塩2質量%をそれぞれ超えても大幅な改善効果は認められない。更に好ましくは、酸性物質0.8~10質量%、緩衝塩0.1~2質量%である。
【0025】
本発明における酸性物質及び緩衝塩は、重合時に単量体混合物を含む水相中等に添加しても良く、重合後に添加しても良い。又、重合体製品の水溶解液に添加しても効果を発揮する。製品及びその溶解液両方の長期保存安定効果を得るためには、重合時に単量体混合物を含む水相中に含有するか、重合後の製品に含有する必要がある。製品の安定製造と効率の観点から重合時に単量体混合物に含有することが好ましい。
酸性物質及び緩衝塩を添加することで高分子濃度0.2質量%溶解液pHが5.5以下であることが好ましく、pH4.5以下がより好ましい。
凝集処理剤製品は、製造後の保管や、使用現場への輸送等により使用するまで長時間経過したり、保管場所が高温になったりする場合に、製品が劣化し性能が低下することがある。又、使用時に一般的に0.01~1.0質量%濃度に水で希釈して使用されるが、希釈溶解液が使用されるまで数日を要することにより加水分解により溶解液粘度が低下し、凝集処理性能が不良となる。
しかし、本発明における凝集処理剤は、水溶性高分子と酸性物質及び緩衝塩を含有することにより、製品並びにその溶解液の劣化の両方を抑制することができ、長期保存安定性が改善、特に油中水型エマルジョンの高濃度製品の長期保存安定性に有効であることを見出したものである。
【0026】
本発明における凝集処理剤の用途としては、排水や汚泥処理用の排水処理剤、汚泥脱水剤、汚泥沈降剤、あるいは製紙用薬剤としての歩留及び/又は濾水性向上剤、凝結剤、紙力増強剤、湿潤紙力向上剤、サイズ定着剤、脱墨助剤等が挙げられる。凝集処理剤として使用する際には原液をそのまま対象物に添加しても良く、任意の濃度に水で溶解して添加しても良い。溶解濃度としては0.01~1.0質量%の範囲であり、0.05~0.5質量%が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
特開昭55-137147号公報、特開昭59-130397号公報、特開平10-140496号公報、特開2011-99076号公報等に開示されている油中水型エマルジョンの常法により、本発明における基本とする水溶性高分子試料1~4を製造した。これらの組成、物性を表1に示す。
【0029】
(表1)
DMQ;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
AAM;アクリルアミド
【0030】
(実施例1)
(表1)の試料1の製造時、単量体混合物を含む水相中に凝集処理剤製品に対して、酸性物質としてクエン酸を2.5質量%及び緩衝塩としてクエン酸ナトリウム(以下、クエン酸Na)を0.3質量%含有させた凝集処理剤を製造調製し、実施例1とした。これを表2に示す。
【0031】
(実施例2~10)
実施例1と同様にして水溶性高分子試料、酸性物質、緩衝塩の種類や添加率を変えて凝集処理剤を製造調製し、実施例2~10とした。これらを表2に示す。
【0032】
(比較例1~8)実施例1と同様にして水溶性高分子試料、酸性物質の種類や添加率を変えて本発明の範囲外の凝集処理剤を製造調製し、比較例1~8とした。これらを表2に示す。
【0033】
【0034】
(実施試験例1)
(製品劣化率測定試験)
高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において回転粘度計にて測定した4質量%食塩水溶液粘度(mPa・s、0.5質量%塩水溶液粘度;SLV)は分子量の指標となり、このSLVの測定値から凝集処理剤製品が劣化しているかどうか判断できる。実施例1の凝集処理剤試料を800rpmで30分間攪拌溶解し、0.5質量%塩水溶液を調製した。B型粘度計により回転数60rpm、2号ローターで0.5質量%塩水溶液粘度を測定(25℃)した結果、117mPa・sであった。又、実施例1の凝集処理剤試料を55℃で保温、7日後に同様に0.5質量%塩水溶液粘度を測定(25℃)した結果、74.5mPa・sであった。初日の塩水溶液粘度と7日後の塩水溶液粘度の比率により製品劣化率36.3%を算出した。又、実施例2~10の凝集処理剤試料についても実施例1と同様な試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0035】
(比較試験例1)本発明の範囲外の凝集処理剤試料比較例1~8について実施試験例1と同様な操作で同様な製品劣化率測定試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0036】
(実施試験例2)
(溶解液劣化率測定試験)
実施例1の凝集処理剤試料を水道水(pH7.0、電気伝導度110mS/m)で高分子濃度0.2質量%になる様に調製、800rpmで30分間攪拌溶解後、B型粘度計により回転数30rpm、2号ローターで溶解液粘度を測定(25℃)した結果、278mPa・sであった。次いで、この溶解液を25℃で保温、24時間後に同様に溶解液粘度を測定した結果、270mPa・sであった。溶解時の溶解液粘度と24時間後の溶解液粘度の比率により溶解液劣化率2.9%を算出した。この結果を表3に示す。又、実施例2~10の凝集処理剤試料についても実施例1と同様な試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0037】
(比較試験例2)本発明の範囲外の凝集処理剤試料比較例1~8について実施試験例2と同様な操作で同様な溶解液劣化率測定試験を実施した。これらの結果を表3に示す。
【0038】
(表3)
0.5質量%塩水溶液粘度:4質量%食塩水中に高分子濃度が0.5質量%になるように溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
0.2質量%溶解液粘度:高分子濃度が0.2質量%になるように水で溶解したときの25℃において測定した粘度(mPa・s)。
【0039】
実施試験例1、2より、本発明における凝集処理剤試料を適用した場合、製品の0.5質量%塩水溶液粘度と0.2質量%溶解液粘度の両方の低下を抑制できることが分かった。一方、比較試験例1、2で酸性物質のみを含有する場合では、酸性物質の添加率を上げることで溶解液粘度の低下を抑制することは可能となるが、製品劣化の抑制効果は低いことが分かった。
【0040】
以上、本発明における特定の構造単位を有する水溶性高分子と酸性物質及び緩衝塩を含有する凝集処理剤は、製品及び溶解液両方の劣化を抑制することができ長期安定性が可能な凝集処理剤として幅広く適用できることが可能である。