(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】可視化装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20241209BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20241209BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/06 Z
G01N27/22 Z
(21)【出願番号】P 2020213863
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 敬高
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】江頭 誉志幸
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 光二
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195343(JP,A)
【文献】特開2012-202924(JP,A)
【文献】特開2015-017852(JP,A)
【文献】特開平03-252784(JP,A)
【文献】特開2004-077465(JP,A)
【文献】特開2012-052941(JP,A)
【文献】特開2001-241639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の液相である第一相内に配置される複数の電極棒と、
前記複数の電極棒に対し電流又は電圧を印加する電源と、
前記電源からの電流又は電圧を印加する前記複数の電極棒の組合せを切り替えて、前記複数の電極棒の選択された組合せについて電圧測定又は電流測定を実行して、インピーダンス値を取得する制御部と、
前記インピーダンス値に基づいて、前記第一相内における第二相の出現前後において、導電率分布、誘電率分布、又は位相分布のうちの1つを示す電気的特性分布を算出して、前記電気的特性分布から再構成した画像を出力する算出部と、
を備える、可視化装置。
【請求項2】
前記第二相は固相、液相、又は気相である、請求項1に記載の可視化装置。
【請求項3】
前記複数の電極棒は、延伸方向に複数の小電極を有する、請求項1又は2に記載の可視化装置。
【請求項4】
前記複数の電極棒を三次元的に移動させる移動機構部をさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の可視化装置。
【請求項5】
前記移動機構部は、前記複数の電極棒の互いの間隔を変更するようにさらに構成される、請求項4に記載の可視化装置。
【請求項6】
前記移動機構部は、前記複数の電極棒を前記第一相の液面に平行な方向である水平方向に回転させるようにさらに構成される、請求項4又は5に記載の可視化装置。
【請求項7】
前記電気的特性分布は、前記第二相の体積率、組成、温度、又は周波数のうちの少なくとも1つを示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の可視化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高温炉内の相の時間変化を可視化する可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温炉内の相において様々な化学変化が起こることにより、固相、液相、又は気相の状態をとり得る異物が出現する。このような高温炉内の異物を検出する技術の例として、特許文献1には、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、ガラス溶融炉内の測定電圧から電気インピーダンス分布画像を再構成するトモグラフィ装置が開示されている。特許文献1に記載の技術は、電気インピーダンス分布画像から不純物が残留している箇所を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、不純物(異物)が残留している箇所を特定するものであり、異物の空間分布の時間変化を計測するものではない。このような異物の空間分布の時間変化を計測可能とするように、高温炉内の相の時間変化を可視化する技術が望まれている。
【0005】
そこで本開示は、高温炉内の相の時間変化を可視化する可視化装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る可視化装置は、高温の液相である第一相内に配置される複数の電極棒と、複数の電極棒に対し電流又は電圧を印加する電源と、電源からの電流又は電圧を印加する複数の電極棒の組合せを切り替えて、複数の電極棒の選択された組合せについて電圧測定又は電流測定を実行して、インピーダンス値を取得する制御部と、インピーダンス値に基づいて、第一相内における第二相の出現前後において、導電率分布、誘電率分布、又は位相分布のうちの1つを示す電気的特性分布を算出して、電気的特性分布から再構成した画像を出力する算出部と、を備える。
【0007】
本開示の一側面に係る可視化装置では、高温の第一相内に配置される複数の電極棒に対し、選択された組合せを切り替えながら電流又は電圧が印加されることにより、電圧測定又は電流測定が実行され、インピーダンス値が取得される。また、インピーダンス値に基づいて、第一相内に第二相が出現する前後における電気的特性分布(導電率、誘電率、又は位相のうちの1つの分布)が算出され、さらに電気的特性分布から再構成された画像が出力される。このような構成によれば、高温炉内に存在する第一相とは異なる第二相が出現する前後における電気的特性分布を画像化することによって、第二相の出現前後における第二相の空間分布の時間変化が画像に現れる。このような画像により、高温炉内の相の時間変化を可視化することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高温炉内の相の時間変化を可視化する可視化装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図9】制御部及び算出部のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図10】高温炉内の可視化方法の一例を示すフローチャートである。
【
図12】スラグの導電率の組成及び温度に対する依存性を示す図である。
【
図13】結晶晶出によるキャパシタンス変化を示す図である。
【
図14】実施例1における可視化装置を示す概略図である。
【
図15】実施例1における再構成画像を示す図である。
【
図16】実施例2における第二相の配置パターンを示す図である。
【
図17】実施例2における第二相の配置パターンを示す図である。
【
図18】実施例2における画像再構成の精度を示すグラフである。
【
図19】実施例3における仮想の高温炉を示す概略図である。
【
図20】実施例3における再構成画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
[高温炉内の可視化装置]
図1は、可視化装置1の一例を示す概略図である。可視化装置1は、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、高温炉内の電気的特性分布を画像化して出力することによって、高温炉内の相の時間変化を可視化する装置である。具体的には、可視化装置1は、高温炉内に存在する第一相とは異なる第二相が出現する前後における電気的特性分布を画像化することによって、第二相の空間分布の時間変化の計測を支援する。以下、可視化装置1が鉄鋼業界の製銑・製鋼工程に適用される例を説明するが、これに限られない。
【0012】
可視化装置1のユーザとしては、例えば、製銑・製鋼工程の作業者が挙げられる。製銑・製鋼工程には、例えば溶鉱炉、転炉、及び電気炉等の高温炉が用いられる。高温炉内は、例えば800℃~2200℃の温度範囲となり得る。第一相としては、例えば溶融金属が挙げられる。第二相としては、例えばスラグが挙げられる。ここでの相とは、マクロ的にみて均質な状態のことである。マクロ的とは0.001モル程度(気体分子6×10
19個存在)の十分に多い分子が存在する規模を示す。作業者は、製銑・製鋼工程の一つである連続鋳造工程において、高温炉内の溶融金属を流出させる。このとき、作業者はスラグが溶融金属と共に流出しないように溶融金属の流出制御を行う必要がある。しかしながら、従来は、溶融金属内にスラグがどのような状態で、いつ、どこに、どれだけ存在するか等を計測することが困難であり、作業者にとって溶融金属の流出制御が困難であった。可視化装置1は、高温炉内の相の時間変化を可視化することにより、スラグの空間分布の時間変化の計測を支援する。
図1に示されるように、可視化装置1は、高温炉10と、複数の電極棒20と、電極支持部21と、電源22と、パワーリレー23と、制御部24と、算出部25と、を備える。
【0013】
高温炉10は、耐火レンガ等により構成される耐熱容器である。高温炉10には、例えば、鉄鉱石と石炭とを原料にして銑鉄をつくる溶鉱炉、その後工程で精錬し鉄鋼をつくる転炉、電気ジュール熱により鉄スクラップを溶かし鉄鋼をつくる電気炉、及び製品である溶鋼を半製品に凝固させる連続鋳造機等が含まれる。高温炉10は、投入された原料を融解させるように加熱される。
【0014】
融解された原料は、高温の液相である第一相11となる。第一相11には、例えば溶融鋼鉄、溶融スラグ、溶融ガラス等が含まれるが、これらに限られない。また、高温炉10内の第一相11において様々な化学変化が起こることにより、第一相11とは異なる物質の第二相12が出現する。第二相12には、例えば二酸化ケイ素、酸化カルシウム、五酸化二リン、酸化鉄、酸化マグネシウム等を成分とするスラグ、及び反応生成物が含まれるが、これらに限られない。第二相12は、固相、液相、又は気相の状態をとり得る。すなわち、第二相12の出現後において、高温炉10内では、高温の液相である第一相11、並びに、固相、液相、又は気相の状態をとり得る第二相12が混在し、相全体が絶えず変化している。
【0015】
電極棒20は、高温環境下(例えば1600℃程度)で使用可能な耐熱性を有する棒状の電極である。電極棒20は、例えば円柱、四角柱等の形状を有するが、これらに限られない。以下、電極棒20は円柱形状であるとして説明する。電極棒20は、例えば一端(基端)側から他端(先端)側に向けて延伸している。基端とは、電極棒20の使用状態において、他部品により保持される側の端部をいう。先端とは、電極棒20の使用状態において、他部品により保持されない側の端部をいう。電極棒20は、一つ又は複数の小電極(導電体)を有する。電極棒20は、例えば延伸方向に複数の小電極を有する。
【0016】
小電極は、例えば白金-ロジウム系合金、タングステン-レニウム系合金、遷移金属系の消耗電極、又は導電性が鉄族元素と同様の第IV族元素の炭化物およびホウ化物セラミックス系の材料により構成される。また、電極棒20には、電極棒20を固定するための電極支持器(不図示)が基端側に取り付けられる。電極支持器は、小電極と同様に、高温環境下で使用可能な耐熱性を有する材料(例えば、再結晶質の高純度アルミナ等)により構成される。電極棒20は、外界からのノイズを除去するガード電極が配置されてもよく、静電遮蔽が施されてもよい。
【0017】
図2の(a)部~(e)部は、電極棒20の一例である電極棒20Aの構造を示す図である。
図2の(a)部に示されるように、電極棒20Aは、円柱形状の小電極201と、円柱形状の誘電体202と、導電線203と、を有する。電極棒20Aは、基端側から先端側に向けてEX方向(以下、単に「EX方向」という。)に延伸している。小電極201は、例えばEX方向に沿った順に3つの小電極201A、201B、及び201Cを含んで構成される。誘電体202は、電極棒20Aの両端、並びに、3つの小電極201A、201B、及び201Cのそれぞれの間に配置される。3つの小電極201A、201B、及び201Cのそれぞれの端面と、隣り合う誘電体202の端面とが接する。導電線203は、3つの導電線203A、203B、及び203Cを含んで構成される。3つの導電線203A、203B、及び203Cは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸する。
【0018】
図2の(c)部は、
図2の(b)部のA-A線に沿う断面図である。小電極201Aは、一方の端面から他方の端面にかけて貫通した2つの貫通孔201Ab及び201Acを有する。誘電体202は、小電極201Aの2つの貫通孔201Ab及び201Acをそれぞれ閉塞するように形成された閉塞部202Ab及び202Acを有する。導電線203Aは、小電極201Aと電気的に接続される。導電線203B及び203Cは、それぞれ閉塞部202Ab及び202Acの内方をEX方向に延伸し、小電極201Aを通過する。
【0019】
図2の(d)部は、
図2の(b)部のB-B線に沿う断面図である。小電極201Bは、一方の端面から他方の端面にかけて貫通した1つの貫通孔201Bcを有する。誘電体202は、小電極201Bの貫通孔201Bcを閉塞するように形成された閉塞部202Bcを有する。導電線203Bは、小電極201Bと電気的に接続される。導電線203Cは、閉塞部202Bcの内方をEX方向に延伸し、小電極201Bを通過する。
【0020】
図2の(e)部は、
図2の(b)部のC-C線に沿う断面図である。導電線203Cは、小電極201Cと電気的に接続される。
【0021】
図3の(a)部~(c)部は、電極棒20の一例である電極棒20Aの構造を示す図である。
図3の(a)部に示されるように、電極棒20Aは、EX方向の先端側に誘電体202が設けられなくてもよい。
図3の(b)部に示されるように、電極棒20Aは、EX方向の基端側に誘電体202が設けられなくてもよい。
図3の(c)部に示されるように、電極棒20Aは、EX方向の基端側及び先端側に誘電体202が設けられなくてもよい。
【0022】
図4の(a)部~(e)部は、電極棒20の一例である電極棒20Bの構造を示す図である。
図4の(a)部に示されるように、電極棒20Bは、小電極201と、円柱形状の誘電体202と、導電線203と、を有する。電極棒20Bは、EX方向に延伸している。小電極201は、例えばEX方向に沿った順に3つの小電極201D、201E、及び201Fを含んで構成される。3つの小電極201D、201E、及び201Fは、円柱形状の誘電体202に対してその側面の全周を囲んで接着された状態で、所定の間隔でそれぞれが離間して配置される。3つの小電極201D、201E、及び201Fは、EX方向に垂直な方向から見たときそれぞれ矩形状である。導電線203は、3つの導電線203D、203E、及び203Fを含んで構成される。3つの導電線203D、203E、及び203Fは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸する。
【0023】
図4の(c)部は、
図4の(b)部のD-D線に沿う断面図である。導電線203Dは、誘電体202の内方から誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Dと電気的に接続される。導電線203E及び203Fは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸し、小電極201Dを通過する。
【0024】
図4の(d)部は、
図4の(b)部のE-E線に沿う断面図である。導電線203Eは、誘電体202の内方から誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Eと電気的に接続される。導電線203Fは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸し、小電極201Eを通過する。
【0025】
図4の(e)部は、
図4の(b)部のF-F線に沿う断面図である。導電線203Fは、誘電体202の内方から誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Fと電気的に接続される。
【0026】
図5の(a)部~(e)部は、電極棒20の一例である電極棒20Cの構造を示す図である。
図5の(a)部に示されるように、電極棒20Cは、小電極201と、円柱形状の誘電体202と、導電線203と、を有する。電極棒20Cは、EX方向に延伸している。小電極201は、例えばEX方向に沿った順に3つの小電極201K、201L、及び201Mを含んで構成される。3つの小電極201K、201L、及び201Mは、円柱形状の誘電体202に対してその側面の半周に接着された状態で、所定の間隔でそれぞれが離間して配置される。3つの小電極201K、201L、及び201Mは、EX方向に垂直な方向から見たときそれぞれ矩形状である。3つの小電極201K、201L、及び201Mは、それぞれが配置された側面側に指向性を有してもよい。導電線203は、3つの導電線203K、203L、及び203Mを含んで構成される。3つの導電線203K、203L、及び203Mは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸する。
【0027】
図5の(c)部は、
図5の(b)部のK-K線に沿う断面図である。導電線203Kは、誘電体202の内方から、小電極201Kが接している誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Kと電気的に接続される。導電線203L及び203Mは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸し、小電極201Kを通過する。
【0028】
図5の(d)部は、
図5の(b)部のL-L線に沿う断面図である。導電線203Lは、誘電体202の内方から、小電極201Lが接している誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Lと電気的に接続される。導電線203Mは、それぞれ誘電体202の内方をEX方向に延伸し、小電極201Lを通過する。
【0029】
図5の(e)部は、
図5の(b)部のM-M線に沿う断面図である。導電線203Mは、誘電体202の内方から、小電極201Mが接している誘電体202の側面に向けて延伸し、小電極201Mと電気的に接続される。
【0030】
図6は、導電線203の構造の一例を示す図である。
図6の(a)部に示されるように、導電線203は、心線2031と、誘電体2032と、外部導体2033と、保護誘電体2034と、を有する。心線2031は、小電極201と電気的に接続される。誘電体2032及び保護誘電体2034は、例えば耐熱性のセラミックス等により構成される。外部導体2033は、内部からの信号の漏洩を防止すると共に、外部からのノイズを遮断する。
図6の(b)部は、
図6の(a)部のN-N線に沿う断面図である。
図6の(b)部に示されるように、導電線203は、心線2031を中心とし、誘電体2032、外部導体2033、保護誘電体2034の順に周囲を被覆する同軸構造である。導電線203のそれぞれが互いに電気的に接続されることはない。
【0031】
図1に戻り、電極棒20は、高温の液相である第一相11内に配置される。電極棒20は、例えば延伸方向に沿って高温炉10内に挿入され、第一相11に浸漬するように配置される。一例では、電極棒20のすべての小電極201が第一相11に浸漬するように配置される。電極棒20は、高温炉10内の第一相11に浸漬した状態で、電源22から電流又は電圧が印加される。電極棒20は、電流が印加されると小電極201における電圧値を制御部24に出力し、電圧が印加されると小電極201を流れる電流値を制御部24に出力する。
【0032】
電極棒20は、複数の電極棒20を含んで構成される。電極棒20の構成数は、例えば4、6、8、12、16、32、又は64等の偶数である。複数の電極棒20は、高温炉10内において等間隔、又は等円周間隔に配置されてもよい。以下、複数の電極棒20が等円周間隔に配置される例を説明する。
【0033】
図7は、電極棒20の指向性を示す概念図である。電極棒20は、センサ領域として指向性を有してもよいし、無指向性(全指向性)であってもよい。電極棒20が無指向性である場合、電極棒20は、それらが配置される円周の径方向における内側だけでなく外側もセンサ領域AR1として電圧値又は電流値の計測を行うことができる。電極棒20が指向性を有する場合、電極棒20は、特定の位置(例えばそれらが配置される円周の径方向における内側)をセンサ領域AR2として電圧値又は電流値の計測を行うことができる。指向性を有する電極棒20は、該特定の位置に対しセンサの感度を向上させることができる。
【0034】
再び
図1に戻り、電極支持部21は、1つ又は複数の電極棒20を固定する部材である。電極支持部21は、例えば高温炉10の鉛直線上において上方に配置される。電極支持部21は、電極棒20の基端側を保持し、電極棒20の先端側が鉛直下向きとなるように固定する。電極支持部21は、すべての電極棒20を保持するように一つの電極支持部21により構成されてもよく、電極棒20を個別に保持するように複数の電極支持部21により構成されてもよい。以下、電極支持部21は、すべての電極棒20を保持する例を説明する。
【0035】
電源22は、予め設定された電圧または電流を供給可能な電源回路である。電源22は、パワーリレー23を介して電極棒20に接続されている。電源22は、複数の電極棒20に対し電流又は電圧を印加する。電源22は、例えば交流電流を電極棒20に印加する。一例では、高温炉10の炉容量が20~120トンの場合、電源22は、15,000~45,000Aの電流、又は300~700Vの電圧を供給可能なように構成される。
【0036】
パワーリレー23は、制御部24の制御信号に応答して、電流又は電圧を印加する対象を切り替える回路である。パワーリレー23は、例えば複数の電極棒20のうち、選択された組合せの電極棒20にのみ電流又は電圧が印加されるように負荷開閉(スイッチング)を行う。パワーリレー23は、選択された組合せの電極棒20を連続して高速に切り替える。
【0037】
制御部24は、電源22からの電流又は電圧を印加する複数の電極棒20の組合せを切り替えて、複数の電極棒20の選択された組合せについて電圧測定又は電流測定を実行して、インピーダンス値を取得する。制御部24は、電流又は電圧を印加する複数の電極棒20の組合せを示す制御信号をパワーリレー23に出力して、電流又は電圧の負荷対象を切り替えさせる。制御部24は、例えば印加する電流の周波数、振幅の大きさ、印加する時間を制御してもよい。また、制御部24は、複数の電極棒20が有する複数の小電極201の選択された組合せを切り替えるように構成されてもよい。複数の小電極201は、それぞれのセンサ領域を組み合わせて、より精緻な電圧測定又は電流測定を行うことができる。
【0038】
制御部24は、複数の電極棒20が出力した電圧値又は電流値を基に、電圧測定又は電流測定を実行してインピーダンス値を取得する。制御部24は、例えば印加電流及び測定電圧から複数の電極棒20間のインピーダンス値を測定し、算出部25に出力する。
【0039】
算出部25は、インピーダンス値に基づいて、第一相11内における第二相12の出現前後において、導電率分布、誘電率分布、又は位相分布のうちの1つを示す電気的特性分布を算出して、電気的特性分布から再構成した画像を出力する。
【0040】
算出部25は、制御部24が出力したインピーダンス値を基に、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて画像を再構成する。電気インピーダンス・トモグラフィ法による画像再構成アルゴリズムとしては、従来の常温環境下における画像再構成と同様に、順問題及び逆問題を解く手法を用いることができる。
【0041】
順問題とは、印加電流Iと導電率分布σが既知である場合の電圧ベクトルVをあらかじめ計算することである。順問題は、次式(1)に示されるように、支配方程式を計算する。
【0042】
【0043】
ここで、σは導電率、Vは電圧、σnはn番目メッシュの導電率、Φnはn番目メッシュの電位、Ωはセンサ領域である。境界条件は、次式(2)に示す境界条件である。
【0044】
【0045】
Lは電極番号、Sは電極面積、nは境界上の外向き法線単位ベクトル、zlは、l番目電極の接触抵抗(インピーダンス)、elは、l番目の電極、Ulは、電極lの電位である。式(1)を解くには、シミュレーション上で有限要素法(FEM)を使用する。
【0046】
メッシュ数Nにおける導電率分布ベクトルの変動Δσ∈RN(Rはベクトル)、及びそれに伴う測定電圧ベクトルの変動ΔV関係を線形近似と仮定すると、次式(3)に示す連立一次方程式が表される。
【0047】
【0048】
以降の式(3)は、表記の便宜上、次式(4)のように簡略化する。
【0049】
【0050】
ここでベクトルJ∈RM×N(Rはベクトル)は、次式(5)に示されるヤコビ行列である。
【0051】
【0052】
Jは、メッシュ一つの導電率変化による電圧の感度を意味する。Jは、電流印加パターン、電圧測定パターン、センサ形状、電極数によって異なる為、有限要素法などの数値解析により計算する。Jの要素であるJmnは、次式(6)を用いて計算される。
【0053】
【0054】
ここで、Anはn番目のメッシュ面積を示す。Vm(e、d)は、測定パターンmにおける測定電圧Vを示す。eは、測定パターンmにおける電流印加電極ペアを示し、dは、測定パターンmにおける電圧測定電極ペアを意味する。Φ(ie)は、電流印加電極ペアeへの電流印加により誘発された、電圧測定電極ペアd間の電位を示す。Φ(id)は電圧測定電極ペアdへの電流印加により誘発された、電流印加電極ペアe間の電位である。
【0055】
逆問題とは、測定電圧ベクトルVから導電率分布σを求めることである。式(3)は、式の数より解の数が多い不適切逆問題であり、一意の解が得ることができないため、次式(7)により逐次計算により近似解σ^を計算する。
【0056】
【0057】
ここで、λ|σ|2は正規化項である。
【0058】
図8は、移動機構部26の一例を示す図である。可視化装置1は、複数の電極棒20を三次元的に移動させる移動機構部26をさらに備えてもよい。移動機構部26は、例えばアクチュエータ等により構成される。移動機構部26は、電極支持部21を介して複数の電極棒20を移動させる。移動機構部26は、自律的に複数の電極棒20の移動を制御してもよいし、制御部24等からの制御信号に応答して、複数の電極棒20の移動を制御してもよい。
【0059】
移動機構部26は、複数の電極棒20をX方向、Y方向、及びZ方向に移動させるように構成される。移動機構部26は、例えばX方向、Y方向、及びZ方向の少なくとも一方向に複数の電極棒20を移動させることにより、第一相11内における複数の電極棒20の位置を三次元的に調整する。このような調整により、移動機構部26は、例えば電極棒20のセンサ領域を第一相11内の浅い領域とするか、又は深い領域とするか、あるいはX方向若しくはY方向に偏りを持たせる領域とするか、又は均一な領域とするか、等の所定の計測条件に応じて電極棒20の位置を変更することができる。
【0060】
移動機構部26は、複数の電極棒20の互いの間隔を変更するようにさらに構成されてもよい。移動機構部26は、例えば複数の電極棒20が配置された円の径方向に対し、複数の電極棒20を移動させることにより、第一相11内における複数の電極棒20の位置を調整してもよい。この場合、複数の電極棒20が配置された円の径が拡大するか、又は縮小する。このような調整により、移動機構部26は、例えば電極棒20のセンサ領域を局所的な領域とするか、又は全体的な領域とするか等の所定の計測条件に応じて電極棒20の位置を変更することができる。
【0061】
移動機構部26は、複数の電極棒20を第一相11の液面に平行な方向である水平方向に回転させるようにさらに構成されてもよい。液面に平行な方向とは、X方向及びY方向に平行な方向をいう。移動機構部26は、例えば複数の電極棒20が配置された円の中心を回転軸として、一定の角速度で複数の電極棒20を回転させる。複数の電極棒20は、回転中に電流又は電圧が印加され、電圧値又は電流値を出力する。複数の電極棒20を回転させることにより、電極棒20のそれぞれの測定位置が増加するため、電極棒20の数をより少ない構成とすることができる。このように電極棒20の数が少ない構成としても、可視化装置1は高解像度の画像を出力することができる。
【0062】
[ハードウェア構成]
可視化装置1の各機能は、物理的又は論理的に結合した1つの装置により実現されてもよいし、物理的又は論理的に分離した2つ以上の装置を直接的又は間接的に接続し、これら複数の装置により実現されてもよい。
【0063】
図9は、制御部24及び算出部25のハードウェア構成の一例を示す図である。制御部24及び算出部25は、プロセッサ1001、メモリ1002、ストレージ1003、通信装置1004、入力装置1005、出力装置1006、バス1007などを含むコンピュータ装置として構成されてもよい。
【0064】
制御部24及び算出部25における各機能は、プロセッサ1001、メモリ1002などのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることで、プロセッサ1001が演算を行い、通信装置1004による通信や、メモリ1002及びストレージ1003におけるデータの読み出し又は書き込みを制御することで実現される。
【0065】
プロセッサ1001は、例えば、オペレーティング装置を動作させてコンピュータ全体を制御する。プロセッサ1001は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)で構成されてもよい。例えば、制御部24及び算出部25の各種処理等は、プロセッサ1001で実現されてもよい。また、プロセッサ1001は、プログラム(プログラムコード)、ソフトウェアモジュールやデータを、ストレージ1003又は通信装置1004からメモリ1002に読み出し、これらに従って各種の処理を実行する。制御部24及び算出部25の各種処理を実行する機能は、メモリ1002に格納され、プロセッサ1001で動作する制御プログラムによって実現されてもよく、他の機能ブロックについても同様に実現されてもよい。なお、制御部24及び算出部25における各種処理は、1つのプロセッサ1001で実行されてもよいが、2以上のプロセッサ1001により同時又は逐次に実行されてもよい。
【0066】
メモリ1002は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、RAM(Random Access Memory)などの少なくとも1つで構成されてもよい。
【0067】
ストレージ1003は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。ストレージ1003は、例えば、ハードディスクドライブ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc ROM)などの光ディスク等の少なくとも1つで構成されてもよい。上述の記憶媒体は、例えば、メモリ1002又はストレージ1003を含むデータベース、サーバその他の適切な媒体であってもよい。
【0068】
通信装置1004は、有線又は無線ネットワークを介して、コンピュータ間、あるいはパワーリレー23、移動機構部26等のデバイスとコンピュータとの間の通信を行うためのデバイスである。例えば、制御部24及び算出部25の各種処理の一部は、通信装置1004で実現されてもよい。
【0069】
入力装置1005は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えば、キーボード等)である。出力装置1006は、外部への出力を実施する出力デバイス(例えば、ディスプレイ等)である。
【0070】
上記の各装置は、情報を通信するためのバス1007で接続される。バス1007は、単一のバスで構成されてもよいし、装置間で異なるバスで構成されてもよい。
【0071】
[高温炉内の可視化方法]
図10は、高温炉10内の可視化方法の一例を示すフローチャートである。可視化方法には、第二相12の出現前の手順(ステップS1~S2)、及び第二相12の出現後の手順(ステップS3~S5)が含まれる。可視化方法は、可視化装置1によって実施される。
【0072】
ステップS1において、可視化装置1は、ヤコビ行列の計算を行う。可視化装置1は、例えば上述した式(6)の計算を行う。
【0073】
ステップS2において、可視化装置1は、第二相12出現前の第一相11の導電率分布σ0における参照電圧ベクトルV0∈RM(Rはベクトル、Mは測定パターン数)を各電極棒20の小電極201間で測定する。
【0074】
ステップS3において、可視化装置1は、第二相12出現後の第一相11の導電率分布σにおける電圧ベクトルV∈RMを各電極棒20の小電極201間で測定する。
【0075】
ステップS4において、可視化装置1は、第二相12出現前後の電圧ベクトルの差分ΔV=V-V0から、参照導電率分布σ0と導電率分布σとの差分Δσを求める。ここで、VはステップS3で測定した電圧ベクトル、V0はステップS2で測定した参照電圧ベクトルである。測定パターンの種類として、例えば隣接法、順隣接法が挙げられるが、これに限られない。
【0076】
ステップS5において、可視化装置1は、例えばステップS1で予め計算されたヤコビ行列を基に、上述した式(7)を用いて画像再構成アルゴリズムの逐次計算を行い、メッシュごとの電気特性分布から再構成した画像を出力する。
【0077】
なお、上述した可視化装置1において実行される可視化方法は一例であり、適宜変更可能である。例えば、上述したステップ(処理)の一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0078】
上述した式(1)~(7)は、導電率分布σの可視化方法であるが、電圧の代わりにリアクタンス又は位相差(電流と電圧の時間的な差)を用いて同様の処理を行うことにより、誘電率分布又は位相分布についても可視化することができる。
【0079】
図11は、再構成画像の一例を示す概念図である。
図11の再構成画像は、第一相11及び第二相12の電気的特性分布の時間変化を示す。
図11は、時間の経過(0分後、30分後、及び60分後)に伴って、第二相12の体積率φが増加していることを示す。可視化装置1は、導電率分布σ、誘電率分布ε、又は位相分布θについて、印加周波数fごとに画像化することができる。このような再構成画像により、どのような状態の第二相12が、いつ(時間)、どこに(3D空間)、どれだけ(色相、濃淡等)出現したかを表現することができる。再構成画像において、電気的特性分布の値は、例えば色相、濃淡等により表されてよい。
【0080】
上述の可視化方法によれば、可視化装置1は、電気インピーダンス・トモグラフィ法を用いて、高温炉内の電気的特性分布を画像化して出力することによって、高温炉10内の相の時間変化を可視化することができる。具体的には、可視化装置1は、高温炉10内に存在する第一相11とは異なる第二相12が出現する前後における電気的特性分布(導電率分布σ、誘電率分布ε、又は位相分布θ)を画像化することによって、第二相12の出現前後における第二相12の体積率φの空間分布の計測を支援することができる。
【0081】
電気的特性分布(導電率分布σ、誘電率分布ε、又は位相分布θ)は、第二相12の体積率φだけでなく、第二相12の組成、温度T、及び印加する周波数fに依存する。すなわち、電気的特性分布は、第二相12の体積率、組成、温度、又は周波数のうちの少なくとも1つを示す。本実施形態では、電気的特性分布として第二相12の体積率を画像化することを説明するが、電気的特性分布が組成、温度、又は周波数のうちの少なくとも1つを示してもよい。可視化装置1は、これらの依存性に対応して、電気的特性分布を補正してもよい。
【0082】
図12は、スラグの導電率の組成及び温度に対する依存性を示す図である。
図12の表は、CaO-SiO
2-Al
2O
3系スラグの一定の印加周波数fにおける導電率σと組成と温度との関係を示す。温度Tを一定としたとき、導電率σの高温融体の組成変化による影響は多くて4倍程度である(例えば1550℃のとき、σ=0.671~0.175)。その一方、スラグにおける酸化物結晶のσは、その出現過程において高温融体のσよりも急激に減少することが知られている。一例では、CaO-SiO
2-TiO
2系スラグの導電率σは、その出現過程において、高温融体の導電率σよりも数百倍減少する。従って、高温融体の電気的特性分布が組成に対する依存性を有していてもその影響は少なく、導電率σから酸化物結晶体積率φの線形的検出が可能である。一方、
図12において高温融体の組成と印加周波数fを一定としたとき、温度Tによる電気的特性分布への影響に比べ、酸化物結晶の晶出による導電率σへの影響の方が圧倒的に大きいため、高温融体の電気的特性分布が温度Tに対する依存性を有していても、導電率σから酸化物結晶体積率φの線形的検出が可能である。さらに、高温融体の温度と電気的特徴量には次式(8)に示すArrheniusの式が成り立つことを利用して補正を行ってもよい。温度補正を行う場合は、高温融体の温度と電気的特徴量との間に成り立つArrheniusの式を利用することができる。
【0083】
【0084】
ここで、Qは物体固有の活性化エネルギーであり、スラグなどの酸化物高温融体の場合、10~50kcal/g・molである。Rは気体定数、Bは温度に依存しない定数である。この式の正確なQやBは実験より、回帰的に求めることができる。参照電圧値V0を、結晶晶出状態で測定した電圧値Vと等しい温度で測定した参照電圧値V0と同等の補正参照電圧V0~にArrheniusの式により変換することで、電気的特徴の温度依存性を補正できる。
【0085】
図13は、結晶晶出によるキャパシタンス変化を示す図である。具体的には、
図13は、高温融体(50CaO-50SiO
2)をT=1600℃からT=1250℃まで冷却する過程のキャパシタンス測定値を示している。測定は、定電流I=10mA、周波数f=10kHzにより行われている。
図13に示されるように、T=1600~1360℃の間は、高温融体に組成変化が起こっておらず、温度によるキャパシタンスの変化も数nF程度である。一方、T=1350℃において、高温融体内に酸化物結晶の晶出が起こったことにより、急激なキャパシタンスの減少(100nF程度)がみられる。
【0086】
高温冶金プロセスにおいて生成される酸化物高温融体は、重合したシリケートイオンと金属イオンおよび酸素イオンで構成されているため、それらのイオンの配向分極や界面分極が生じる非常に分極能が高い液体である。一方、晶出した酸化物結晶は、それらのイオンが結晶格子に固定されているため、一般的に分極能が低い。すなわち、高温融体内の酸化物結晶の検出には、温度変化による誘電率εへの影響は問題とならないと考えることができる。
【0087】
以下、実施例を具体的に説明するが、本開示はそれらに何ら限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
図14は、実施例1における可視化装置1を示す概略図である。実施例1では、実験室に適用可能な小型の可視化装置1を用いて、二次元の再構成画像を出力する例を示す。
図14の(a)部に示すように、底付き円筒形状の高温炉10内には、第一相11である高温融体(60ZnO-40B
2O
3(mol%)、温度T=1200℃)が存在する。電極棒20は、プラチナ製(Pt-20mass%Rh)であり、外界からのノイズを除去するためにセラミックス被膜により保護されている。電極棒20は、先端に小電極201を有する。電極棒20は、第一相11内に小電極201が浸漬するように、等円周間隔に8本配置されている。高温炉10内には、第二相12として円柱形状のAl
2O
3が配置されている。第二相12はまた、第一相11の液面から露出するように配置されている。この第二相12は、晶出した酸化物結晶を模擬したものである。
図14の(b)部は、
図14の(a)部のN-N線に沿う断面図である。
【0089】
制御部24は、例えばマイクロコントローラユニット、アナログマルチプレクサ等の組合せにより構成されている。制御部24は、電流(f=10.485kHz)を印加する電極棒20の組合せを切り替えながら、電圧測定を行う。制御部24はまた、算出部25とデータの送受信が可能なように、無線通信により接続されている。算出部25は、PC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。
【0090】
図15は、実施例1における再構成画像を示す図である。
図15は、高温炉10内のX方向及びY方向における二次元の断面について、導電率分布をハッチングによって示した再構成画像である。第二相12(Al
2O
3)の導電率は、第一相11(60ZnO-40B
2O
3(mol%)、温度T=1200℃)の導電率よりも低いため、再構成画像内にその差が現れる。
図15では、導電率の値が-0.2程度に対応するハッチング箇所が第二相12の導電率分布であることを示す。また、再構成画像内における当該ハッチングの位置、大きさが高温炉10内における第二相12の位置、大きさに対応する。このように、可視化装置1は、高温炉10内における第二相12の存在位置及び第二相12の大きさ(体積率φの空間分布)を可視化することができる。
【0091】
[実施例2]
実施例2では、第二相12の個数及び大きさの精度を評価する例を示す。高温炉10にはAl2O3製の坩堝が内部に配置され、坩堝内に底付き円筒形状の試験炉がさらに配置される。高温炉10内には、第一相11である高温融体(60ZnO-40B2O3(mol%)、温度T=1200℃)が存在する。電極棒20は、プラチナ製(Pt-20mass%Rh)であり、直径2mmの円柱形状を有する。電極棒20は、先端に小電極201を有する。電極棒20は、第一相11内に小電極201が浸漬するように、内径24mmとなる等円周間隔に8本配置されている。高温炉10内には、第二相12として円柱形状のAl2O3が配置されている。第二相12は、第一相11の液面から露出するように配置されている。この第二相12は、晶出した酸化物結晶を模擬したものである。
【0092】
制御部24は、例えばマイクロコントローラユニット、アナログマルチプレクサ、インピーダンスアナライザ等の組合せにより構成されている。制御部24は、電流を印加する電極棒20の組合せを切り替えながら、電圧測定を行う。制御部24はまた、算出部25とデータの送受信が可能なように接続されている。算出部25は、PCにより構成されている。
【0093】
図16の(a)部~(d)部は、実施例2における第二相12の配置パターンを示す図である。実施例2では、大きさ及び個数の異なる4つの配置パターンを用いて第二相12を高温炉10内に配置した。具体的には、円柱形状の第二相12は、
図16の(a)部に示す直径3mm×1本、
図16の(b)部に示す直径3mm×2本、
図16の(c)部に示す直径8mm×1本、
図16の(d)部に示す直径3mm×1本+直径8mm×1本、の4パターンを用いて配置した。実施例2では、当該4パターンのそれぞれについて、高温炉10内の電圧を計測し、画像再構成を行った。
【0094】
図17の(a)部~(d)部は、実施例2における再構成画像を示す図である。
図17は、実施例2における導電率分布について、2値化した二次元の再構成画像である。
図17の(a)部~(d)部は、
図16の(a)部~(d)部の4つの配置パターンとそれぞれ対応している。
図17の(a)部~(d)部に示されるように、いずれの配置パターンにおいても、第二相12の位置及び大きさが可視化できているが、
図17の(d)部のように直径3mm×1本+直径8mm×1本を配置した場合、第二相12の互いの間隔における感度が低い。画像再構成の精度を評価するため、次式(9)のように面積相対誤差Eを定義する。
【0095】
【0096】
ここで、Atrueは面積の真値、Acalは再構成画像内のピクセル値0(黒)のピクセル数を基に算出された面積である。
【0097】
図18は、実施例2における画像再構成の精度を示すグラフである。
図18において、横軸が第二相12であるAl
2O
3の4つの配置パターンを示し、棒グラフがA
true、及びA
calのそれぞれの面積を示し、折れ線グラフが面積相対誤差Eを示している。
図16の(a)部に示す直径3mm×1本、
図16の(b)部に示す直径3mm×2本、
図16の(c)部に示す直径8mm×1本、
図16の(d)部に示す直径3mm×1本+直径8mm×1本、の4パターンについて、それぞれE=9.48、E=27.44、E=7.02、E=3.09[%]、平均(E)=11.76[%]であった。いずれの配置パターンにおける面積相対誤差Eは、許容範囲である。
【0098】
[実施例3]
実施例3では、電極棒20の構造を仮定し、電磁気シミュレーションによって、高温炉10内の三次元導電率分布の再構成を行った例を示す。
図19は、実施例3における仮想の高温炉10を示す概略図である。
図19の(a)部は仮想の高温炉10の構造図であり、
図19の(b)部はそのメッシュ分割図である。
【0099】
実施例3では、高導電率の物質で満たされた円柱容器(半径10cm、高さ20cm)である高温炉10内に、電極棒20(半径1cm、高さ18cm)が円柱の端面に垂直となるように等円周間隔で6本配置されている。それぞれの電極棒20には、延伸方向に3個並んだ小電極201(半径1cm、高さ2cm)が配置され、それぞれの小電極201の間には、誘電体202(半径1cm、高さ4cm)が配置される。また、高温炉10の中央には、第二相12として酸化物結晶を想定した低伝導率の球(半径1cm)が配置されている。実施例3では、電流印加パターンと電圧測定パターンとを切り替えながら、各小電極201を用いて多点で測定を行う。電極棒20の切り替え方法は隣接法を用いた。
【0100】
図20は、実施例3における再構成画像を示す図である。
図20に示されるように、円柱の中央に導電率の低い部分が三次元画像に現れている。このように、導電率分布から三次元画像を再構成した場合においても、三次元の存在位置及びその体積量が再構成画像に現れる。
【0101】
[作用効果]
次に、本実施形態に係る可視化装置1の作用効果について説明する。
【0102】
本実施形態に係る可視化装置1は、高温の液相である第一相11内に配置される複数の電極棒20と、複数の電極棒20に対し電流又は電圧を印加する電源22と、電源22からの電流又は電圧を印加する複数の電極棒20の組合せを切り替えて、複数の電極棒20の選択された組合せについて電圧測定又は電流測定を実行して、インピーダンス値を取得する制御部24と、インピーダンス値に基づいて、第一相11内における第二相12の出現前後において、導電率分布、誘電率分布、又は位相分布のうちの1つを示す電気的特性分布を算出して、電気的特性分布から再構成した画像を出力する算出部25と、を備える。
【0103】
本実施形態に係る可視化装置1では、高温の第一相11内に配置される複数の電極棒20に対し、選択された組合せを切り替えながら電流又は電圧が印加されることにより、電圧測定又は電流測定が実行され、インピーダンス値が取得される。また、インピーダンス値に基づいて、第一相11内に第二相12が出現する前後における電気的特性分布(導電率、誘電率、又は位相のうちの1つの分布)が算出され、さらに電気的特性分布から再構成された画像が出力される。このような構成によれば、高温炉10内に存在する第一相11とは異なる第二相12が出現する前後における電気的特性分布を画像化することによって、第二相12の出現前後における第二相12の空間分布の時間変化が画像に現れる。このような画像により、高温炉10内の相の時間変化を可視化することができる。
【0104】
本実施形態に係る可視化装置1において、第二相は固相、液相、又は気相であってもよい。一般的に、液相又は気相の状態の第二相について、空間分布の時間変化を計測することは非常に困難である。一方、本実施形態に係る可視化装置1では、第二相の出現前後における第二相の空間分布の時間変化が画像に現れるため、第二相の状態にかかわらず、高温炉内の相の時間変化を可視化することができる。
【0105】
本実施形態に係る可視化装置1において、複数の電極棒20は、延伸方向に複数の小電極201を有してもよい。このような構成によれば、複数の小電極201のそれぞれのセンサ領域を組み合わせて、より精緻な計測を三次元的に行うことができる。
【0106】
本実施形態に係る可視化装置1は、複数の電極棒20を三次元的に移動させる移動機構部26をさらに備えてもよい。このような構成によれば、電極棒20のセンサ領域を第一相11内の浅い領域とするか、又は深い領域とするか、あるいはX方向若しくはY方向に偏りを持たせる領域とするか、又は均一な領域とするか、等の所定の計測条件に応じて電極棒20の位置を変更することができる。これにより、高温炉10内の相の計測精度を向上させることができる。
【0107】
本実施形態に係る可視化装置1において、移動機構部26は、複数の電極棒20の互いの間隔を変更するようにさらに構成されてもよい。このような構成によれば、センサ領域を局所的な領域とするか、又は全体的な領域とするか等の所定の計測条件に応じて電極棒20の位置を変更することができる。これにより、高温炉10内の相の計測精度を向上させることができる。
【0108】
本実施形態に係る可視化装置1において、移動機構部26は、複数の電極棒20を第一相11の液面に平行な方向である水平方向に回転させるようにさらに構成されてもよい。このような構成によれば、電極棒20のそれぞれの測定位置が増加するため、電極棒20の数をより少ない構成とすることができる。このように電極棒20の数が少ない構成としても、可視化装置1は高解像度の画像を出力することができる。
【0109】
本実施形態に係る可視化装置1において、電気的特性分布は、第二相の体積率、組成、温度、又は周波数のうちの少なくとも1つを示してもよい。このような構成によっても、電気的特性分布から再構成した画像には、第二相の出現前後における第二相の電気的特性分布が現れる。
【0110】
[変形例]
本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0111】
実施形態において、複数の電極棒20に対して電流を印加して、電圧測定を実行する例を記載したが、複数の電極棒20に対して電圧を印加して、電流測定を実行してもよい。この場合であっても、可視化装置1は、インピーダンス値を取得して後続の処理を実行することができる。
【0112】
実施形態において、電気的特性分布について導電率分布を算出する例を記載したが、誘電率分布、又は位相分布を算出してもよい。この場合であっても、可視化装置1は、誘電率分布、又は位相分布から再構成した画像を出力することができる。
【0113】
実施形態において、複数の電極棒20は、高温炉10内の第一相11に浸漬するように配置されると説明したが、高温炉10の側面(外周面)に当接するように配置されてもよい。複数の電極棒20は、例えば高温炉10の側面に垂直、且つ互いに等間隔となるように配置されてもよい。
【0114】
可視化装置1の各機能モジュールは、プロセッサ1001又はメモリ1002の上に高温炉内の可視化プログラムを読み込ませてプロセッサ1001にそのプログラムを実行させることで実現される。可視化プログラムは、可視化装置1の各機能モジュールを実現するためのコードを含む。プロセッサ1001は可視化プログラムに従って入出力ポート38を動作させ、メモリ1002又はストレージ1003におけるデータの読み出し及び書き込みを実行する。このような処理により可視化装置1の各機能モジュールが実現される。
【0115】
可視化プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、及び半導体メモリなどの非一時的な記録媒体に固定的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、可視化プログラムは、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…可視化装置、10…高温炉、11…第一相、12…第二相、20…電極棒、21…電極支持部、22…電源、23…パワーリレー、24…制御部、25…算出部、26…移動機構部、201…小電極、202…誘電体、203…導電線。