(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】真空断熱材の取付け構造
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20241209BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
F16L59/065
E04B1/80 100P
(21)【出願番号】P 2021086320
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【氏名又は名称】荒井 滋人
(74)【代理人】
【識別番号】100097205
【氏名又は名称】樋口 正樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀哉
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-35433(JP,A)
【文献】特開2005-297235(JP,A)
【文献】特開2013-91898(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/029727(JP,A1)
【文献】特開2019-135094(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/047701(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0230918(US,A1)
【文献】中国実用新案第208169832(CN,U)
【文献】独国特許出願公開第102015008160(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/065
E04B 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱材であって、
ポリビニルアルコールを除くビニル基を含む樹脂層であるガスバリア層と、
該ガスバリア層を含む外装フィルムと、
該外装フィルムにて覆われている芯材とを含む、真空断熱材と、
該真空断熱材が取付けられている建物の外壁と、
該外壁と前記真空断熱材との間に介装されていて互いを接着している接着部材と、
該接着部材とともに前記外壁と前記真空断熱材との間に配されている空気が流通できる通気部とを備えたことを特徴とする真空断熱材の取付け構造。
【請求項2】
前記外装フィルムは、アルミナ蒸着が施された樹脂からなるアルミナ蒸着層を含むことを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材の取付け構造。
【請求項3】
前記接着部材は、前記真空断熱材の前記外壁への取付面の面積に対して30%以下を覆う面積となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材の取付け構造。
【請求項4】
前記接着部材の厚みが1mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材の取付け構造。
【請求項5】
前記接着部材は、直線形状であって鉛直方向に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空断熱材の取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材特有の劣化現象を生じさせないための真空断熱材の取付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物内部への断熱効果を図るため、外壁に真空断熱材を配している。この真空断熱材は、多孔質体やグラスウール等からなる芯材をフィルムにて覆って形成されている。ガスバリア性のあるフィルムで覆うことで、内部の真空を維持している。従来、このフィルムは多層構造にて形成され、アルミニウム箔からなる層(アルミ層)が配されていた(例えば特許文献1参照)。したがって、芯材はこのアルミ層を含むフィルムにて覆われていた。
【0003】
このアルミニウムは熱伝導性が高いため、アルミ層を伝わって熱が移動しやすい。すなわち、フィルムの一部としてアルミ層を用いると、断熱材としての性能を維持することが困難であった。
【0004】
そこで近年では、EVOH樹脂(エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂)を用いた層がフィルムの一部として利用されている。このEVOH樹脂は、特に酸素や窒素の透過を防止する性能が高く、これに水蒸気を含むガスの透過を防止するアルミニウムを蒸着させることによりガスバリア性能が高く、さらには熱も通しにくいフィルムを得ることができる。
【0005】
しかしながら、EVOH樹脂には高相対湿度環境下でガスバリア性が低下する性質があり、EVOH樹脂にアルミニウムを蒸着させて層を形成しても、高相対湿度環境下でのガスバリア性を維持することが困難であった。真空断熱材は非常に温度変化が大きい建物外壁に取付けられるので、温度変化による高相対湿度環境によって水蒸気を含むガスがフィルムを通過して真空が維持できなくなり、断熱性能が低下するおそれがあった。また、内部にガスが流入することは、内部が真空に保持されてこそ性能を発揮するように設計された真空断熱材の性能劣化の原因となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、結露が発生するような高相対湿度状態における水蒸気を含むガスの透過性を低減させることができる真空断熱材の取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、真空断熱材であって、ポリビニルアルコールを除くビニル基を含む樹脂層であるガスバリア層と、該ガスバリア層を含む外装フィルムと、該外装フィルムにて覆われている芯材とを含む、真空断熱材と、該真空断熱材が取付けられている建物の外壁と、該外壁と前記真空断熱材との間に介装されていて互いを接着している接着部材と、該接着部材とともに前記外壁と前記真空断熱材との間に配されている空気が流通できる通気部とを備えたことを特徴とする真空断熱材の取付け構造を提供する。
【0009】
好ましくは、前記外装フィルムは、アルミナ蒸着が施された樹脂からなるアルミナ蒸着層を含む。
【0010】
好ましくは、前記接着部材は、前記真空断熱材の前記外壁への取付面の面積に対して30%以下を覆う面積となるように形成されている。
【0011】
好ましくは、前記接着部材の厚みが1mm以上である。
【0012】
好ましくは、前記接着部材は、直線形状であって鉛直方向に形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空断熱材と外壁との間に通気部が形成されるため、ここを空気が流通することにより、結露が発生するような高相対湿度状態を防止できる。したがって、高相対湿度環境下でフィルムのガスバリア性の低下を抑制することができるので、水蒸気を含むガスが真空断熱材の外装フィルムを透過して真空断熱材内部の真空度が低下することを防止できる。特に、ガスバリア層は高相対湿度環境下でのガスバリア性が脆弱であることから、このような外装フィルムで覆うことを前提とした真空断熱材に適した取付け構造といえる。
【0014】
また、外装フィルムにアルミナ蒸着層を含めることで、水蒸気を含むガスの透過を防止することができる。すなわち、アルミナ蒸着は水蒸気を含むガスのガスバリア性を有しているため、通気部と相俟って、さらなる水蒸気を含むガスの透過を防止することができる。
【0015】
また、接着部材が取付面の面積に対して30%以下となるように形成されることで、取付面の面積に対する通気部の面積が70%を超えるので、より空気の流れとなる領域を確保することができ、結露が発生するような高相対湿度状態を防止できる。
【0016】
また、接着部材の厚みを1mm以上とすれば、通気部の高さが確保されるので、空気の流れとなる領域を確保することができ、結露が発生するような高相対湿度状態を防止できる。
【0017】
また、接着部材が直線形状であって鉛直方向に形成されているので、通気部も鉛直方向に形成されることになり、したがって空気の流れも鉛直方向となる。空気の流れは温度差で生じる。建物でいえば上下方向(鉛直方向)に温度差がつきやすいため、通気部がこの流れに沿って形成されることになるのでスムーズな空気の流れを形成することができ、結露が発生するような高相対湿度状態を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る真空断熱材の取付け構造の概略断面図である。
【
図2】真空断熱材を取付面側から視たときの概略図である。
【
図4】接着部材の高さと結露発生との因果関係を調べた際の結果を示す表である。
【
図5】接着部材の取付面に対する面積と結露発生との因果関係を調べた際の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る真空断熱材の取付け構造1は、建物の外壁2に真空断熱材3を取付けた際の構造である。建物の外壁2はビルや戸建て等の外壁となる部分である。
図1を参照すれば明らかなように、真空断熱材3は外装フィルム4に覆われた芯材5で形成されている。真空断熱材3の内部は真空に保たれている。芯材5は、グラスウール等の無機繊維や多孔質体の材料等で形成されている。真空断熱材3は接着部材6を介して建物の外壁2に接着されて保持されている。すなわち、接着部材6は外壁2と真空断熱材3との間に介装されていて、外壁2と真空断熱材3とを互いに接着している。
【0020】
図2を参照すれば明らかなように、真空断熱材3の外壁2への取付け面側には、接着部材6が配されていて、それ以外の部分は通気部7となっている。すなわち、通気部7は接着部材6とともに外壁2と真空断熱材3との間に配されている。この通気部7は空気が流通できる空間となっている。
【0021】
図3を参照すれば明らかなように、外装フィルム4は多層構造を有し、少なくともガスバリア層8を備えている。ガスバリア層8は、ポリビニルアルコールを除くビニル基を含む樹脂層であるが、好ましくはEVOH樹脂である。このガスバリア層8には、アルミニウムが蒸着されてアルミ蒸着層8aが形成されている。これにより、ガスバリア層8による酸素及び窒素のガスバリア性に加え、アルミ蒸着層8aによる水蒸気のガスバリア性が備わる。なお、外装フィルム4の芯材5側(内側)には接着層9が形成されていて、外壁2に取付ける側(外側)には第1の保護層10が形成されている。接着層9は例えば低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂又はエチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマーのフィルムからなる。また、第1の保護層10は例えばポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート)系フィルム、ポリスチレンフィルム、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリルーブタジエンースチレンフィルム、メタクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、ナイロンフィルム、ポリアミド樹脂フィルムからなっている。なお、ガスバリア層8は10μm~20μm、アルミ蒸着層8aは0.02μm~0.07μm、接着層9は25μm~60μm、第1の保護層10は10μm~25μmである。
【0022】
このような構成を有する真空断熱材の取付け構造1によれば、真空断熱材3と外壁2との間に通気部7が形成されるため、ここを空気が流通することにより、急激な温度変化があっても結露が発生することを防止できる。したがって、結露が発生するような高相対湿度状態を防止できるので、水蒸気を含むガスが真空断熱材3の外装フィルム4を透過して芯材5に影響を与えることを防止できる。特に、ガスバリア層8は高相対湿度環境下でのガスバリア性が脆弱であることから、このような外装フィルム4で覆うことを前提とした真空断熱材3に適した取付け構造といえる。
【0023】
高相対湿度状態による結露の発生原因としては、真空断熱材3の取付けに際して、接着部材6の施工時に接着部材6内に存する空気や、外壁2を通過して流入する水蒸気によるものもある。このような空気や水蒸気の対流が生じたとしても、本発明では効果的に外装フィルム4によるガスバリア性を発揮できる。特に、アルミ蒸着層8aにて水蒸気を含むガスの透過を防止しようとしているが、これだけでは水蒸気を含むガスの透過を完全に防止することができないので、やはり接着部材6を設けることによる通気部7の形成は重要である。
【0024】
ここで、
図3に示すように、外装フィルム4にさらにPETからなる第2の保護層11を形成してもよい。この第2の保護層11にはアルミナ蒸着が施されて、アルミナ蒸着層12を形成してもよい。第2の保護層11の厚みは10μm~20μmである。アルミナ蒸着層12は、水蒸気を含むガスの透過防止性能が優れている。このような層を設けることで、さらに水蒸気を含むガスのガスバリア性を高めることができる。ただし、アルミナ蒸着層12を設けたのみでは水蒸気を含むガスの透過を十分に防止できないため、通気部7による高相対湿度環境の抑制は必須である。あくまでアルミナ蒸着層12は、通気部7と相俟って、さらなる水蒸気の透過防止に寄与する。
【0025】
また、接着部材6の厚みは1mm以上であることが好ましい。今回、接着部材6の厚みを変更して真空断熱材の取付け構造を形成し、結露の発生を検証した。
図4に示すように、接着部材6の厚みが1mmの場合は結露が少し発生し、10mmの場合は結露が発生しなかった。一方、接着部材6の厚みを0mmとした場合は結露が発生した。なお、この結露発生の検証は4時間かけて、45℃から25℃に変化させ、さらに湿度も90%から95%に変化させた環境下で行った。1mmでも少しの結露が発生したが、使用には耐えうる程度の発生であった。したがって、接着部材6の厚みを1mm以上とすれば、通気部7の厚み(高さ)が確保されるので、空気の流れとなる領域を確保することができ、結露が発生するような高相対湿度状態を防止することができることがわかった。通気部7の厚みがますほど結露の発生防止効果が高まることが分かったが、10mm以上であれば真空断熱材3に結露の発生の影響が及ぼされることはない。
【0026】
また、接着部材6は、真空断熱材3の外壁2への取付面の面積に対して30%以下を覆う面積であることが好ましい。すなわち、
図2でいえば、真空断熱材3の面積に対して接着部材6の面積がその30%以下となっているということである。今回、この接着部材6の面積を10%、30%、50%にして検証を行った。この検証では、接着部材6の厚みは全て10mmで統一した。なお、この結露発生の検証は4時間かけて、45℃から25℃に変化させ、さらに湿度も90%から95%に変化させた環境下で行った。
図5に示すように、接着部材6の面積を50%とすると、通気部7の面積が相対的に減少するため、結露が少し発生した。一方で30%や10%では結露の発生がなかった。したがって、接着部材6が取付面の面積に対して30%以下となるように形成されることで、取付面の面積に対する通気部7の面積が70%を超えるので、より空気の流れとなる領域を確保することができ、結露が発生するような高相対湿度状態を防止することができることが分かった。
【0027】
この結果より、接着部材6の厚みを10mmとすれば、通気部7の高さを確保でき一定の結露発生防止効果を得ることができるが、さらにこの効果を高めるためには、このような接着部材6の取付面に対する面積割合も考慮することが重要であることが分かる。接着部材6の厚みと面積割合とが相俟って、さらなる結露が発生するような高相対湿度状態を防止する効果を得ることができるということになる。
【0028】
ここで、本発明に係る真空断熱材の取付け構造において、接着部材6は直線形状であって鉛直方向に形成されている。すなわち、真空断熱材3を外壁2に取付けた際に、接着部材6が直線の帯形状であり、縦方向に配置されている。
図2のような配置である。このように、接着部材6を直線形状であって鉛直方向に形成することで、通気部7も鉛直方向に形成されることになる。したがって空気の流れも鉛直方向となる。空気の流れは温度差で生じる。建物でいえば上下方向(鉛直方向)に温度差がつきやすいため、通気部7がこの流れに沿って形成されることになるので、スムーズな空気の流れを形成することができ、結露が発生するような高相対湿度状態をさらに抑制することができる。
【0029】
以上説明したように、本発明は真空断熱材の取付け構造1として、まずは芯材5を覆う外装フィルム4について従来から用いられているEVOHのような水蒸気(高相対湿度環境)に対する脆弱性を補うためにアルミ蒸着をEVOHに施すことだけではなく、これにさらにガスバリア性をアルミナ蒸着層12にて高めることにしている。そしてそれだけでは足りない場合に、さらに通気部7を所定条件で設けることで真空断熱材施工箇所が高相対湿度環境になることを抑え、真空断熱材3へのガスの流入の影響を抑止させようとするものである。
【符号の説明】
【0030】
1:真空断熱材の取付け構造、2:建物の外壁、3:真空断熱材、4:外装フィルム、5:芯材、6:接着部材、7:通気部、8:ガスバリア層、8a:アルミ蒸着層、9:接着層、10:第1の保護層、11:第2の保護層、12:アルミナ蒸着層