(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】最適化装置、最適化方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/10 20060101AFI20241209BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20241209BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20241209BHJP
【FI】
G06F17/10 Z
H02J3/00 170
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2021095796
(22)【出願日】2021-06-08
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮平
(72)【発明者】
【氏名】安田 恵一郎
(72)【発明者】
【氏名】相吉 英太郎
【審査官】三坂 敏夫
(56)【参考文献】
【文献】武田 朗子,最適化におけるロバストネス,システム/制御/情報,システム制御情報学会,2011年04月15日,第55巻 第4号,第17頁-第22頁
【文献】武田 朗子,不確実性下での最適化 -ロバスト最適化を中心に-,経営の科学 オペレーションズ・リサーチ,社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会,2006年07月01日,第51巻 第7号,第420頁-第423頁
【文献】KANAMORI, Takafumi et al.,Worst-Case Violation of Sampled Convex Programs for Optimization with Uncertainty,[online],Optimization Online,2010年01月19日,Pages:1-29,[令和6年10月18日検索],インターネット:<URL:https://optimization-online.org/wp-content/uploads/2010/01/2525.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/00/17/18
H02J 3/00
G06Q 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制約条件を満たしつつ、システムを評価する目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化する最適化装置であって、
前記制約条件は、不確実変数を含む等式制約条件であるシステム方程式と、前記不確実変数を含む複数の不等式制約条件とを含んでおり、
前記不確実変数が想定される範囲内のどのような値をとっても、前記複数の不等式制約条件が満たされるような前記決定変数を最適化し、
前記最適化装置は、
前記不確実変数の想定値として有限個のサンプルを選択する選択部と、
各サンプルに対応して前記システム方程式および前記複数の不等式制約条件を緩和した緩和問題を解いて最適解である前記決定変数の候補を算出する算出部と、
前記決定変数の候補を適用した場合に、元の前記複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定する判定部と、
判定された前記不等式制約条件を前記緩和問題に付加して新たな緩和問題を生成する生成部と、を有し、
前記算出部は、新たな前記緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出する、
最適化装置。
【請求項2】
前記緩和問題を解くことによって得られた前記決定変数の候補を元の前記複数の不等式制約条件に適用した場合に、前記複数の不等式制約条件のそれぞれの逸脱量が予め定められた閾値以下になるまで、前記算出部による前記決定変数の候補の算出、前記判定部による判定、および前記生成部による新たな緩和問題の生成を繰り返す、
請求項1に記載の最適化装置。
【請求項3】
前記最適化装置は、曲線で平滑化された前記目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化し、
前記最適化装置は、平滑化の度合いに応じて、前記目的関数の近似精度を調整する、
請求項2に記載の最適化装置。
【請求項4】
最適化における収束速度に応じて、前記閾値を調整する、
請求項3に記載の最適化装置。
【請求項5】
前記選択部は、前記不確実変数の想定値として1つのサンプルを選択し、
前記算出部は、前記1つのサンプルを、前記システム方程式と、前記複数の不等式制約条件とに当てはめて、最適解である前記決定変数の候補と、前記想定値に応じて前記システム方程式によって定まる状態変数とを算出し、
前記判定部は、第1判定部および第2判定部を有し、
前記第1判定部は、前記最適解である前記決定変数の候補を、元の複数の不等式制約条件に当てはめて、前記複数の不等式制約条件のうちで条件を満たさないものがあるか否かを判定し、
前記第2判定部は、前記複数の不等式制約条件のうちで条件を満たさないものがある場合に、前記逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定し、
前記生成部は、元の前記複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい結果を与える前記不確実変数の想定値を新たなサンプルとして選択し、
前記算出部では、前記新たなサンプルを、前記システム方程式と前記複数の不等式制約条件とに当てはめて、最適解である新たな決定変数の候補と、前記新たなサンプルに応じて前記システム方程式によって定まる新たな状態変数とを算出する、
請求項1から4の何れか一項に記載の最適化装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記想定値に応じて前記システム方程式によって定まる状態変数として、前記算出部において得られた状態変数とは独立した変数を用いる、
請求項5に記載の最適化装置。
【請求項7】
前記判定部は、前回の判定において、前記決定変数の候補を適用した場合に条件を逸脱するまでの余裕度が予め定められた値以下の不等式制約条件について、判定対象に含める、
請求項1から6の何れか一項に記載の最適化装置。
【請求項8】
前記選択部は、前記目的関数が前記不確実変数に応じて変化する領域において、前記サンプルを選択する、
請求項1から7の何れか一項に記載の最適化装置。
【請求項9】
前記選択部は、前記不確実変数の想定値として最大値を呈する前記サンプルを選択する、
請求項1から7の何れか一項に記載の最適化装置。
【請求項10】
前記最適化装置は、分散電源が導入された電力系統に対する潮流の最適化装置であり、
前記不確実変数は、前記分散電源の出力変数である、
請求項1から9の何れか一項に記載の最適化装置。
【請求項11】
コンピュータを、請求項1から10のいずれか一項に記載の最適化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項12】
コンピュータにより、制約条件を満たしつつ、システムを評価する目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化する最適化方法であって、
前記制約条件は、不確実変数を含む等式制約条件であるシステム方程式と、前記不確実変数を含む複数の不等式制約条件とを含んでおり、
前記不確実変数が想定される範囲内のどのような値をとっても、前記複数の不等式制約条件が満たされるような前記決定変数を最適化し、
前記最適化方法は、
前記不確実変数の想定値として有限個のサンプルを選択する選択段階と、
各サンプルに対応して前記システム方程式および前記複数の不等式制約条件を緩和した緩和問題を解いて最適解である前記決定変数の候補を算出する算出段階と、
前記決定変数の候補を適用した場合に、元の前記複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定する判定段階と、
判定された前記不等式制約条件を前記緩和問題に付加して新たな緩和問題を生成する生成段階と、を有し
前記算出段階では、新たな前記緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出する、
最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化装置、最適化方法、およびプログラムに関する。
【0002】
従来からロバスト最適化による結果を出力するロバスト最適化方法が知られている(例えば、特許文献1、2、3、4、5参照)。
特許文献1 国際公開WO2018/155319
特許文献2 国際公開WO2017/145664
特許文献3 特開2009-32104号公報
特許文献4 特開2006-293483号公報
特許文献5 特開2013-12185号公報
他の文献として、以下の学術論文が知られている。
(1)I.Gilboa:"Theory of Decision under Uncertainty",Cambridge University Press (2009)
(2)J.Bram:"The Lagrange Multiplier Theorem for Max-Min with Several Constraints,"SIAM J. Applied Mathematics, Vol. 14, pp. 665-667 (1966)
(3)V.F.Demyanov, and V. N. Malozemov:"Introduction to Minmax," John Wiley (1974)
(4)K.Shimizu, and E. Aiyoshi:"Necessary Conditions for min-max Problems and Algorithms by a Relaxation Procedure", IEEE Transactions on Automatic Control, Vol. 25, No. 1 (1980)
(5)A. Ben-Tal, and A. Nemirovski:"Robust Convex Optimization", Mathematics of Operations Research, Vol.23, No. 4, pp. 769-805 (1998)
(6)A. Ben-Tal, L. El Ghaoui, and A. Nemirovski:"Robust Optimization", Prinston University Press (2009)
(7)S. Leyffer, M. Menickelly, T. Munson, C. Vanaret, and S. M.Wild:"A Survey of Nonlinear Robust Optimization", Information Systems and Operational Research, Vol. 58, No. 2, pp. 342-373 (2020)
(8)F.John:"Extremum Problems with Inequalities as Side Conditions", in Studies and Essays, Courant Anniversary Vol. K,O, Friedrichs, O.E. Neugebauer and J.J. Stoker (Eds.), Wiley-Interscience, New York (1948)
(9)K.R. Gehner:"Necessary and Sufficient Optimality Conditions for the Fritz John Problem with Linear Equality Constraints", SIAM J. Control, Vol. 12, pp. 140-149 (1974)
(10) J. W. Blankenship, and J. E. Falk :"Infinitely Constrained Optimization Problems", Journal of Optimization Theory and Applications, Vol. 19, pp. 261-281 (1976)
(11) K. Shimizu, and E. Aiyoshi:"A New Solution to Optimiaztion-Satisfaction Problems by a Penalty Method", Automatica, Vol. 18, No. 1, pp. 37-46 (1982)
(12) 関根泰次・横山明彦・安田恵一郎・林泰弘・田辺隆也・岡本浩・多田泰之:「電力系統の最適潮流計算(OPF; Optimal Power Flow)」,日本電気協会(2002)。
(13)Y. Zhang:"General Robust-Optimization Formulation for Nonlinear Programming",ournal of Optimization Theory and Applications, Vol. 132, pp.111-124 (2007)
(14)M. C.Campi, S. Garatti, and M. Prandini:"The Scenario Approach for Systems and Control Design", Annual Reviews in Control, Vol. 33, No. 2, pp.149-157 (2009)
(15)T. Wada, R. Morita, T. Asai, I. Masubuchi, and Y. Fujisaki:"Randomized solution for robust optimal power flow", 53rd IEEE Conference on Decision and Control (2014)
(16)J. Bessa, P. Pinson, and H. Morais :"Active Distribution Grid Management Based on Robust AC Optimal Power Flow", IEEE Trans. on Smart Grid, Vol. 9, No. 6, (2018)
(17)志水清孝・相吉英太郎:「数理計画法」,11 章,昭晃堂(1984)
(18) O. Stein :"Bi-Level Strategies in Semi-Infinite Programming", Springer (2003)
(19)Ipopt (Interior Point OPTimizer), https://projects.coin-or.org/Ipopt
(20)A. Fischer :"A special Newton-Type Optimization Method", Optimization, Vol. 24, pp. 269-284 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
システムの設計および計画問題では、システムの特性が最適化問題の等式制約条件で記述される。システムの特性が不確実変数の影響を直接受ける場合は、等式制約条件に直接不確実変数が含まれる。しかしながら、不等式制約条件に対してのみロバスト性を考慮するロバスト最適化の考え方をこのような等式制約条件付き最適化問題に直接適用することは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、制約条件を満たしつつ、システムを評価する目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化する最適化装置を提供する。制約条件は、不確実変数を含む等式制約条件であるシステム方程式と、不確実変数を含む複数の不等式制約条件とを含んでよい。最適化装置は、不確実変数が想定される範囲内のどのような値をとっても、複数の不等式制約条件が満たされるような決定変数を最適化してよい。最適化装置は、選択部を有してよい。選択部は、不確実変数の想定値として有限個のサンプルを選択してよい。最適化装置は、算出部を有してよい。算出部は、各サンプルに対応してシステム方程式および複数の不等式制約条件を緩和した緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出してよい。最適化装置は、判定部を備えてよい。判定部は、決定変数の候補を適用した場合に、元の複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定してよい。最適化装置は、生成部を備えてよい。生成部は、判定された不等式制約条件を緩和問題に付加して新たな緩和問題を生成してよい。算出部は、新たな緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出してよい。
【0005】
緩和問題を解くことによって得られた決定変数の候補を元の複数の不等式制約条件に適用した場合に、複数の不等式制約条件のそれぞれの逸脱量が予め定められた閾値以下になるまで、最適化装置は、算出部による決定変数の候補の算出、判定部による判定、および生成部による新たな緩和問題の生成を繰り返してよい。
【0006】
最適化装置は、曲線で平滑化された目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化してよい。
【0007】
最適化装置は、最適化における収束速度を早めるために閾値を大きくしてよい。また最適化精度を高めるために、閾値を小さくしてよい。
【0008】
選択部は、不確実変数の想定値として1つのサンプルを選択してよい。算出部は、1つのサンプルを、システム方程式と、複数の不等式制約条件とに当てはめて、最適解である決定変数の候補と、想定値に応じてシステム方程式によって定まる状態変数とを算出してよい。判定部は、第1判定部および第2判定部を有してよい。第1判定部は、最適解である決定変数の候補を、元の複数の不等式制約条件に当てはめて、複数の不等式制約条件のうちで条件を満たさないものがあるか否かを判定してよい。第2判定部は、複数の不等式制約条件のうちで条件を満たさないものがある場合に、逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定してよい。生成部は、元の複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい結果を与える不確実変数の想定値を新たなサンプルとして選択してよい。算出部では、新たなサンプルを、システム方程式と複数の不等式制約条件とに当てはめて、最適解である新たな決定変数の候補と、新たなサンプルに応じてシステム方程式によって定まる新たな状態変数とを算出してよい。
【0009】
判定部は、想定値に応じてシステム方程式によって定まる状態変数として、算出部において得られた状態変数とは独立した変数を用いてよい。
【0010】
判定部は、前回の判定において、決定変数の候補を適用した場合に条件を逸脱するまでの余裕度が予め定められた値以下の不等式制約条件について、判定対象に含めてよい。
【0011】
選択部は、目的関数が不確実変数に応じて変化する領域において、サンプルを選択してよい。
【0012】
選択部は、不確実変数の想定値として最大値を呈するサンプルを選択してよい。
【0013】
最適化装置は、分散電源が導入された電力系統に対する潮流の最適化装置であってよい。不確実変数は、分散電源の出力変数であってよい。
【0014】
本発明の第2の態様においては、コンピュータを、上記何れか一つの最適化装置として機能させるためのプログラムを提供してよい。
【0015】
本発明の第3の態様においては、コンピュータにより、制約条件を満たしつつ、システムを評価する目的関数を最小化または最大化するように、確定可能な決定変数を最適化する最適化方法を提供してよい。制約条件は、不確実変数を含む等式制約条件であるシステム方程式と、不確実変数を含む複数の不等式制約条件とを含んでよい。最適化方法は、不確実変数が想定される範囲内のどのような値をとっても、複数の不等式制約条件が満たされるような決定変数を最適化してよい。最適化方法は、不確実変数の想定値として有限個のサンプルを選択する選択段階を備えてよい。最適化方法は、各サンプルに対応してシステム方程式および複数の不等式制約条件を緩和した緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出する算出段階を備えてよい。最適化方法は、決定変数の候補を適用した場合に、元の複数の不等式制約条件のうちで逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定する判定段階を備えてよい。最適化方法は、判定された不等式制約条件を緩和問題に付加して新たな緩和問題を生成する生成段階を備えてよい。算出段階では、新たな緩和問題を解いて最適解である決定変数の候補を算出してよい。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における最適化装置の一例を示す図である。
【
図2】最適化装置による最適化方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】初期サンプルの選択処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】初期サンプルの選択処理の他例を示すフローチャートである。
【
図5】最適化装置による最適化方法の他例を示すフローチャートである。
【
図6】2バスシステムのテスト系統を示す図である。
【
図7】4バスシステムのテスト系統を示す図である。
【
図8】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態における最適化装置100の一例を示す図である。最適化装置100は、制約条件を満たしつつ、システム200を評価する目的関数を最小化または最大化するようにシステム200のパラメータを最適化する。システム200の設計および計画問題は、最適化問題として定式化される。
【0020】
システム200が外部環境から受ける影響が不確定の場合、目的関数および制約条件の少なくとも一方に未知のパラメータなどの不確実変数が含まれる。この場合、「不確実下での最適化問題」(以下、「不確実最適化問題」と称する)としてシステム200の設計および計画問題が定式化される。
【0021】
目的関数に不確実変数が含まれる場合は、不確実下での意思決定問題として議論される。不確実下での意思決定問題は、min-max問題(またはmax-min問題)と称されて、その最適性条件や計算法が考察されている。
【0022】
本例の最適化装置100は、最適解の実装後の不確実変数の想定範囲内の変動に対して制約条件の充足についても事前に保障するいわゆる頑健(ロバスト) 性を課すロバスト最適化を実行する。本実施形態における最適化装置100におけるロバスト最適化は、目的関数および制約条件の少なくとも一方が非線形の場合にも適用されてよい。
【0023】
システムの設計および計画問題では、システム200の特性が最適化問題の等式制約条件であるシステム方程式として記述される。そのシステム200の特性が不確実変数の影響を直接受ける場合は、その等式制約条件に直接不確実変数が含まれる。一例において、システム200が電力系統であり、最適化装置100が、分散電源が導入された電力系統に対する潮流の最適化を実現する場合が挙げられる。この場合、不確実変数は、分散電源の出力変数である。したがって、潮流方程式からなる非線形等式制約条件に不確実変数が含まれる問題として定式化される。
【0024】
しかしながら、不等式制約条件に対してのみロバスト性を考慮するロバスト最適化の考え方をこのような等式制約条件付き最適化問題に直接適用することは容易でない。線形等式制約条件を有する線形計画問題に限って、ロバスト最適化の考え方が拡張されているが、非線形等式制約条件にそのまま拡張することは困難である。そのため、非線形等式制約条件付き不確実最適化問題に対しては、その非線形等式制約の線形化に基づくロバスト最適化法や、不確実変数のランダムサンプリングに基づいてその値を確定させるシナリオアプローチとよばれる近似的手法が提案されている。非線形性の強い最適潮流計算に対しても近似的手法が適用されているが、厳密な意味でロバスト性を満たす解を算出することができない。また、シナリオアプローチによる場合は、近似精度を向上させるためには問題規模が増加してしまう。
【0025】
本実施形態の最適化装置100は、不等式制約条件および目的関数だけでなく、システム200の特性が等式制約条件で記述され、かつ等式制約条件に不確実性が含まれる場合の不確実最適化問題の定式化とその解法を提供する。特に、システム200として、分散電源が導入された電力系統の最適潮流計算への適用を実現する。
【0026】
システム200の特性を記述した等式制約条件は、等式の本数以上の個数の変数を有する。したがって、等式の本数を越えた変数の個数分の自由度が存在する。最適化装置100が扱う変数には、不確実変数yと決定変数uとが含まれる。決定変数uは、自由度のある変数のうち人為的にその値を確定することができる変数である。不確実変数yとは、確定することができない未知の変数である。
【0027】
また、等式制約条件には、不確実変数yに応じて決まる状態変数xが含まれる。最適化装置100は、不確実変数yによる不確実性に対処する合理的な基準のもとで、不確実変数yの値を決定変数uに応じて事前に想定する。最適化装置100は、等式制約条件を満たす残りの変数である状態変数xも、不確実変数yの値および決定変数uに従属して想定する。
【0028】
本実施形態における最適化装置100は、このような等式制約条件を満たす変数を区別することによってシステムの特性を考慮する。これにより、最適化装置100は、不確実変数yを含む等式制約条件のある不確実最適化問題を定式化する。この不確実変数yの想定およびそれに伴う状態変数xの想定のための合理的基準として、最適化装置100は、「min-max基準」や「ロバスト性基準」を採用する。
【0029】
最適化装置100は、システム200の特性に対するある種の想定状態(シナリオ)を逐次生成し、増やす。最適化装置100は、目的関数に対してはmin-max基準を満たし、不等式制約条件に対してはロバスト性基準を満たす解を算出することができる。最適化装置100は以上の定式化と解法を、分散電源が導入された電力系統に対する最適潮流計算に適用することもできる。但し、最適化装置100は、電力系統に対する最適潮流計算への適用に限られない。
【0030】
システム200の不確実性を考慮した最適化問題の定式化について説明する。設計および計画の対象となるシステム200は、時間依存性のない静的システムとする。システム200は、システム200を構成する要素の状態量を表す状態変数xと、要素間の関連性を表すシステム方程式によってモデル化される。
【0031】
計画および設計の自由度が存在する場合、等式制約条件であるシステム方程式h(u、y、x)には、上述したとおり、決定変数uが含まれる。最適化装置100は、システム200を評価する目的関数を最小化または最大化するような決定変数uと状態変数xの値を、このシステム方程式を等式制約条件として算出する。
【0032】
一方、システムの外部環境から受ける影響など、人為的に決定することができない未定の変数または未知パラメータである不確実変数yが存在する。ここで決定変数uをu∈R
Nとし、不確実変数yをy∈R
Iとし、状態変数xをx∈R
Lとする。関数h:R
N×R
I×R
L→R
Lを用いてシステム方程式を以下の(1)式で表すことができる。
【数1】
【0033】
また、目的関数および不等式制約条件においても外部環境からの不確定な影響を同じ不確実変数で考慮するものとする。関数f:R
N×R
I×R
L→R
1、および関数g:R
N×R
I×R
L→R
Mを用いて、目的関数が(2)式で表され、不等式制約が(3)式で表される。
【数2】
【0034】
最適化問題は、以下の(4a)式、(4b)式、および(4c)式で表される。
【数3】
【0035】
不確実変数yの値が未定のため、この最適化問題を解くことは事実上不可能である。そこで、最適化装置100は、何らかの基準に基づいて不確実変数yの値を想定する。これにより、最適化装置100は、最適化問題(4a)式、(4b)式、および(4c)式を解く。最適化装置100は、決定変数uの最適値を確定する。最適化装置100によれば、確定された最適値に基づいて実システムの計画および設計が事前になされる。その結果、その実システムが実際に外部環境からの影響を受けた段階で、すなわち不確実変数yの値が確定した段階で、これに対応した実システムの状態変数xの値が初めて確定する。
【0036】
したがって、合理的基準の導入に拠って不確実変数yの値を想定することが、事前の設計および計画段階において望ましい。考察の対象としているシステム200の設計および計画では、この不確実変数yに確率的または統計的な情報すらも伴わないような不確実な状況下にあるとする。
【0037】
一例において、分散電源が導入された電力系統における最適潮流計算において、通常の発電機の動作状態など電源に付帯する変数の値を人為的に確定させることが可能ないわゆる電源(以降では「確定電源」と略記する)以外に、動力源が自然エネルギー由来、もしくは需要家が保有する分散電源に関するすべての情報をもっていない等の理由から、あらかじめ予見が困難な出力特性のためにその動作状態を表す変数の値が不確定な分散電源(以降では「不確定電源」と略記する場合がある)も有する電力系統における最適化問題を考えることができる。このような電力系統のシステム方程式は、あるノードやブランチの集合のパターンをノード集合N(イタリック体)およびブランチ集合B(イタリック体)をもちいて(N、B)とし、電力系統におけるネットワーク関係、および交流法にもとづく電力と電圧の関係をモデル化した潮流方程式として、以下の(5)式でシステム方程式を表すことができる。
【数4】
【0038】
システム方程式である(1)式および(5)式でのuは、予め確定させることが可能な動作状態を表す決定変数である。特に(5)式でのuは、主に確定電源に対する出力設定値および電圧設定値、ならびに不確定電源に対する出力制限値に相当してよい。
【0039】
また、(1)式および(5)式で表されるシステム方程式でのyは不確定電源の動作状態を表す変数であり、xはシステム方程式での状態変数である。一例において、xは、電力系統の電圧および送電線潮流に相当する。このとき決定変数の最適値uアスタリスクを実際の電力系統に実装したのち、不確実変数である不確定電源の検出値yアスタリスクが得られた段階で、これらに応じた電力系統の状態変数の値xアスタリスクが確定する。
【0040】
また、事前に何らかの基準により不確定電源の変数の値yを想定すれば、これと決定変数の値uに対応した状態変数xの値を想定することができる。一般的に、システム200の設計および計画段階で不確実変数yの値が未定な状況下では、たとえば安全および安心を担保するいわゆる危機管理の方略の一つとして、最悪の状況を想定することが合理的とされている。具体的には、まず物理的に課せられる不等式制約条件式である(3)式に対し、不確実変数の値が不等式制約条件にとって最悪の状況が設計および計画の事後に生起しても、制約条件の侵害が回避される安全性の基準、いわゆる「ロバスト性基準」を採用する。すなわち、不等式制約関数の個々の成分関数g
m(u、y、x)ごとにそれを最大にするような不確実変数yの値が生起しても、不等式制約条件を侵害しないように、不等式制約条件である(4b)式 の代わりに、(6)式を導入する。
【数5】
【0041】
ただし、g=(g1、・・・gM)
Tであり、不確実実数yの集合Y(イタリック体)は、その変数の値がとり得る想定範囲を表し、有界閉集合であるとする。また、目的関数f(u、y、x)に対しても同様に、それを最悪にするような不確実変数の値の生起を想定し、このときの状況を最大限改善するいわゆる「min-max基準」に基づいて、(4a)式 の目的関数の最小化の代わりに、(7)式を採用する。
【数6】
【0042】
上記(7)式の目的関数値を覚悟さえすれば、どのような不確実変数の値が事後に生起しても、この値よりは改善されるという意味での安心が保証される。以上のような不確実変数yに対する想定において留意すべきことは、目的関数fや制約関数の複数の成分関数gm、m=1,・・・、Mごとに異なる種類の最悪状況を想定していることである。たとえば不等式制約条件の場合は、異なる安全基準が課せられている場合に、それら安全基準ごとに最悪の状況を想定することに相当する。したがって、物理的には同一の不確実変数であっても、目的関数fおよび制約関数の複数の成分関数gm、m=1、・・・、Mごとに意味的には区別化した添え字付き変数y0、y1、・・・、yMで記し、区別化したこれらの変数を「想定変数」と称する。
【0043】
なお、それら想定変数に固有の制約集合、つまり想定変数y
0、y
1、・・・、y
Mの想定範囲については、不確実変数yに固有の集合Y(イタリック体)で共通であるとする。また、決定変数uの任意の値とそれとは独立に想定される想定値y
mに対応してシステム方程式を満たすように想定される状態変数xについても、同様に目的関数fや制約関数の複数の成分関数ごとに異なる想定変数と見なしてx
m、m=1、・・・、Mと区別化する。システム方程式も(6)式および(7)式におけるy
m、m=1、・・・・、Mに関する最大化演算の個々の制約条件と見なす。したがって、システム方程式の不確実性を考慮して最悪の状況を想定した不確実最適化問題が、(8a)式および(8b)式で表される。
【数7】
【0044】
ここで、U(イタリック体)は決定変数固有の制約集合である。また状態変数xに対する想定変数xm、m=1、・・・、Mに対してもそれらに共通の固有の制約集合X(イタリック体) が考えられる。この制約集合X(イタリック体)は変数xmのみを引数としてもつ不等式制約条件gm(xm)≦0として、gm(u、xm、ym)≦0、m=1、・・・・、Mの一部に組み込まれているものとする。
【0045】
以上のように,本実施形態の最適化装置100における不確実最適化方法においては、決定変数uと区別化した状態変数xを考え、不確実変数yとともにこの状態変数xも想定するシステム方程式として等式制約条件(1)式を位置付ける。このような考察が、不確実変数yを含む「等式制約条件」が最適満足化やロバスト最適化において扱われなかった理由といえる。
【0046】
また、等式制約条件としてシステム方程式を考慮して不確実変数yを想定する場合、システム方程式(1)式を満たす不確実変数yや状態変数xの想定値が存在するような決定変数uに限定すること、すなわち決定変数uに対して陰的な制約条件である(9)式を考慮する必要がある。しかし、ここでは議論の簡略化のために、決定変数固有の制約集合U(イタリック体)の任意の要素に対して(9)式 の条件が成り立つものとする。
【0047】
【0048】
次に、(10)式を満たす、目的関数の上限に相当する変数σを導入する。
【0049】
【0050】
この場合、(8a)式および(8b)式で示される不確実最適化問題は、(11a)式、(11b)式、および(11c)式と等価に置き換えられる。
【0051】
【0052】
さらに、以下のように(12a)式および(12b)式を導入する。
【0053】
【0054】
(12a)式および(12b)を用いると、(11b)式と(11c)式が同時に成立することは、(13)式が成立することと等価である。
【数12】
【0055】
上記(13)式において、外側のmax演算と、G0(u、σ)、Gm(u、σ)、m=1、・・・・、Mにおいて、(12a)および(12b)式を通じて含まれるmax演算とを交換して、後者の最大化変数(xm、ym)を共通化する。これにより、(11b)式と(11c)式とを一つの制約条件として、(14)式にまとめることができる。
【0056】
【0057】
したがって、システム方程式である(1)式を考慮した不確実最適化問題(8a)式および(8b)式は、(15a)式および(15b)式として定式化することができる。
【0058】
【0059】
次に、(15a)式および(15b)式で与えられる問題の解法を考える。緩和法の原理と計算手順について説明する。(15a)式および(15b)式、またはこれらに等価な(11a)から(11c)式で与えられる問題は、その構造から2レベル最適化問題とみなすことができる。ここで、2レベル最適化問題とは、最悪状況を想定した下での制約条件の満足化と同時に、その最悪状況に対してより上位の視点から制約を課したり目的関数で評価したりする手法である。しかし、変数yに応じたシステム方程式から想定される状態変数xまでを考慮した2レベル最適化問題の解法は、知られていない。
【0060】
また、(15b)式で与えられる不等式制約条件が、変数(σ、u)に対する複雑な制約条件となっている。具体的には、不等式制約条件は、複数の成分関数gm、m=1、・・・、Mのうちの最大成分の関数を取り出し(内側の最大化演算max)、その状態変数xと不確実変数yに関する最大化演算(外側の最大化演算max)の最大値がゼロ以下になることを要求する。しかしながら、不等式制約条件(15b)式の左辺の関数は変数(σ、u)に関して微分不可能関数にもなり得る。したがって、(15a)式および(15b)式で示される問題の解法として非線形最適化手法を直接用いることは困難である。
【0061】
一方、(15b)式の変数(x、y)に関する外側の最大化演算は全称記号を用いて、(16)式のように等価的に表現することがでえきる。
【0062】
【0063】
不確実変数yの制約集合Y(イタリック体)が無限個(非可算無限個)の要素からなる場合、この不等式制約条件の個数も、それらあらゆる(x、y) に対応した非可算無限個となる。そこで本明細書では,非加算無限個の不等式制約条件付最適化問題の解法である緩和法を拡張する。
【0064】
図1に示されるとおり、最適化装置100は、選択部110、算出部120、判定部130、および生成部140を備える。本例においては、最適化装置100は、平滑化部150を備える。但し、最適化装置100は、平滑化部150を有しているものに限定されない。平滑化部150は、目的関数を曲線によって平滑化する。
【0065】
最適化装置100は、コンピュータであってよく、選択部110、算出部120、判定部130、生成部140、および平滑化部150は、それぞれCPU等の演算装置の各機能として実現されてよい。
【0066】
選択部110は、不確実変数yの想定値として有限個のサンプルy(s)∈Y(イタリック体)、s=1、・・・、Sを選択する。任意の決定変数u∈U(イタリック体)のもとで不確実変数のサンプルy(s)に応じたある種のシナリオといえるシステム方程式である(17)式と、それから想定される状態量x(s)を考える。
【0067】
【0068】
x(s) がサンプルy(s)に対応した(17)式で示されるシステム方程式を満たす変数であることに留意すると、可算無限個の不等式である(16)式は、(18a)式および(18b)に示されるとおり、サンプルごとに対応したS個の不等式制約条件とシステム方程式の組に緩和される。
【0069】
【0070】
さらに(18a)式は、M+1個の不等式である(19)式が同時に成立することと等価である。
【0071】
【0072】
したがって、(15)式に示される不確実最適化問題の制約条件緩和問題は、次の(20a)から(20e)式で示される。
【0073】
【数19】
このように、(20a)から(20e)式で示される緩和問題において、不確実変数yに関してはサンプルy
(s)が想定値として与えられる。一方、状態変数xに関しては、この想定値y
(s)の下での決定変数uに対応したシステム方程式(20d)式を満たす従属変数としてx
(s)が想定される。最適化装置100は、不確実変数yのサンプル個数分Sの全部でS通りのシステム方程式(20d)式を等式制約として考慮する。したがって、等式制約条件を考慮することができない最適満足化法およびロバスト最適化法とは異なる。
【0074】
最適化装置100は、不確実変数yの複数の想定値y(s)に対応していわば、想定状態(シナリオ)として複数通りのシステム方程式(20d)式を想定する。
【0075】
次に、最適化装置100において算出部120、判定部130、および生成部140について説明する。算出部120は、各サンプルy(s)に対応してシステム方程式および不等式制約条件を緩和した緩和問題(20a)から(20e)を解いて最適解である決定変数uの候補(uバー(式中では、σに上線を付記)(k)およびσバー(式中では、σに上線を付記)を算出する。
【0076】
判定部130は、第1判定部132および第2判定部134を備えてよい。第1判定部132は、緩和問題(20a)から(20e)を算出部120が解いて得られた最適解である決定変数候補を、元の複数の不等式制約条件(15b)に当てはめて、複数の不等式制約条件(15b)のうちで条件を満たさないものがあるか否かを判定する。第2判定部134は、複数の不等式制約条件(15b)のうちで条件を満たさないものがある場合に、逸脱量が最も大きい不等式制約条件を判定する。判定部130は、想定値y(s)に応じてシステム方程式によって定まる状態変数xとして、算出部120において得られた状態変数xとは独立した変数を用いる。すなわち、算出部120による演算過程で得られた状態変数xの情報をあえて、判定部130による最大化処理では用いない。これにより、状態変数xが固定されて自由度がなくなることによって最適化処理が完了できない事態を未然に防止することができる。
【0077】
生成部140は、判定された不等式制約条件を緩和問題(20a)から(20e)に付加して新たな緩和問題を生成する。算出部120は、新たな緩和問題を解いて最適解である決定変数候補を算出する。特に、生成部140は、元の複数の不等式制約条件(15b)式のうちで逸脱量が最も大きい結果を与える不確実変数の想定値yハット(k)を不確実変数の新たなサンプルy(s(k)+1)として選択する。算出部120では、新たなサンプルy(s(k)+1)を、システム方程式と複数の不等式制約条件(15b)に当てはめて、最適解である新たな決定変数候補uバーと、新たなサンプル(s(k)+1)に応じてシステム方程式によって定まる新たな状態変数x(s(k)+1)とを算出する。
【0078】
最適化装置100では、新たな不等式制約条件の追加とともに、それを与える不確実変数yの想定値y(s)に対応する状態変数uを規定する新たなシステム方程式(20d)式が想定状態として追加される。
【0079】
最適化装置100で用いられる緩和法は、非線形最適化手法を用いて、(20a)から(20e)式で示される緩和問題を解く。算出部120は、緩和問題(20a)から(20e)で示される緩和問題を解いてσバー(式中では、σに上線を付記)(k)、uバー(式中では、σに上線を付記)(k)という解を得る。そして、判定部130は、緩和問題で無視した本来解きたい不確実最適化問題(15)式の不等式制約条件式(15b)式をもっとも侵害するような不等式制約条件を見出す。そして、最適化装置100において、生成部140は、不等式制約条件式(15b)式をもっとも侵害するような不等式制約条件を、緩和問題(20a)から(20e)式に付加して、新たな緩和問題を生成する。算出部120は、新たな緩和問題を解きなおす。
【0080】
最適化装置100において、緩和問題を解くことによって得られた決定変数候補を元の複数の不等式制約条件(15b)に適用した場合において、複数の不等式制約条件(15b)のそれぞれの逸脱量が予め定められた閾値ε以下になるまで、算出部120による決定変数候補(σバー、uバー)の算出、判定部130による判定、および生成部140による新たな緩和問題の生成を繰り返す。
【0081】
緩和法の反復手順における反復回数をkとする。第k反復での不確実変数yのサンプル個数をS(k)する。S=S(k)とした緩和問題(20a)から(20e)式の最適解を次のとおりとする。
【0082】
【0083】
第1判定部132は、この解が元の不確定最適化問題の不等式制約条件式(15b)式を満たすか否かの判定を実行する。第2判定部134は、この解が元の不確定最適化問題の不等式制約条件式(15b)式を満たさない場合に、それらのうちでもっとも制約条件を侵害する不等式制約条件を見出す。具体的には、(15b)式、または(14)式の左辺に、(σバー(k)、uバー(k))を代入し、その最大化演算を実行することで、次の(21a)式および(21b)式の最大化問題の最大値が非正であるかどうかによって判定することができる。
【0084】
【数21】
(21a)および(21b)の問題の最大解の一つを(xハット(k)、yハット(k))とすると、その最大値は(22)式で与えられる。
【0085】
【0086】
上記(22)式のφ(σバー(k)、uバー(k))が0以下(実装においては、ε以下:εは予め定められた十分小さい整数)であれば、解は、元の不確実最適化問題の不等式制約条件式(15b)式(これと等価な条件式(16))を満たす。(σバー(k)、uバー(k))が元の不確実最適化問題(15a)および(15b)式の最適解となる。一方、(22)式のφ(σバー(k)、uバー(k))>0(あるいはφ(σバー(k)、uバー(k))>ε)ならば、σバー(k)、uバー(k)が不等式制約(15b)式をもっとも侵害する。これを等価な条件式(16)式を用いて表せば、これら可算無限個の不等式制約条件のうち、(xハット(k)、yハット(k))に対応した不等式制約(23)式をもっとも侵害する。
【0087】
【0088】
そこで、yハット(k)を不確実変数の新たなサンプルy(s(k)+1)とする。状態変数uと、新たなサンプルy(s(k)+1)に対応した新たなシステム方程式(24)式を満たす状態変数x(s(k)+1)を導入する。
【0089】
【0090】
生成部140は、(24)式とともに、(25a)式および(25b)式を、緩和問題((20a)式から(20e)式)に付け加えて新たな緩和問題とする。そして、算出部120は、新たな緩和問題を解きなおすことを繰り返す。
【0091】
【0092】
図2は、最適化装置100による最適化方法の一例を示すフローチャートである。フローチャートを参照しつつ、システム方程式を考慮した緩和法の手順を説明する。
選択部110は、初期サンプルy
(1)∈Y(イタリック体)∩Y´(イタリック体)を選択する(ステップS10)。選択部110は、サンプルの数をS(1)=1とし、繰り返し回数をk=1とおく。但し、Y´(イタリック体)は、(26)式で与えられる。
【0093】
【0094】
算出部120は、S=S(k)とした緩和問題((20a)式から(20e)式)を解いて最適解を次のとおり算出する(ステップS20)。k=1の場合、算出部120は、選択部110によって選択された1つのサンプルを、システム方程式と複数の不等式制約条件(15a)式および(15b)式に当てはめて、最適解である決定変数候補(uバー)と、想定値に応じてシステム方程式によって定まる状態変数(x(s)バー)とを算出する。
【0095】
【0096】
判定部130は、最大化問題である(21a)式および(21b)式を解いて、その最大解を(xハット(k)、yハット(k))とする。判定部130は、(22)式の最大値関数に対して、最大解(xハット(k)、yハット(k))を代入して、最大値関数の値φ(σバー(k)、uバー(k))を計算する。
【0097】
判定部130は、最大値関数の値φ(σバー(k)、uバー(k))>閾値εが成り立つ場合には、元の不等式制約条件(15b)からの逸脱量が閾値εより大きい場合(ステップS30:NO)と判断する。逸脱量が閾値εより大きい場合(ステップS30:NO)、生成部140は、S(k+1)=S(k)+1とし、y(S(k+1))=yハット(k)とする。これにより、生成部140は、対応する不等式制約条件を(20a)から(20e)に加えて新たな緩和問題を生成する。一方、最大値関数の値φ(σバー(k)、uバー(k))≦εであれば(ステップS30:YES)、S(k+1)=S(k)とする(ステップS60)。
【0098】
なお、ステップS30における判定条件に、閾値ε(>0)を導入したのは、不等式制約条件(16)式の充足に予め定められた微小誤差を許容することで、不確実変数yの有限個のサンプル生成によって有限回の反復で緩和法を終了させるためである。
【0099】
S(k+1)=S(k)ならば(ステップS70:NO)、最適化装置100は、処理を終了して、算出部120は、uバー(k)を問題(15)式の最適解uとして出力する(ステップS80)。S(k+1)=S(k)でなければ(ステップS70:NO)、k←k+1として、処理がステップ2に戻る。
【0100】
なお、ステップ30およびステップ40の処理は、最大化問題(21a)式および(21b)式を解くことによりなされてよい。(21a)式および(21b)式においては、目的関数の2つのmax演算を入れ替えることができるため、最大解(xハット(k)、yハット(k))を算出することは比較的容易である。すなわち、問題(21a)式および(21b)式は、次の(27)式と等価である。
【0101】
【0102】
判定部130は、(27)式中の大括弧の中のM+1個の等式制約条件付最大化問題である(28a)、(28b)、(28c)、および(28d)を解く。
【0103】
【0104】
そして、判定部130は、M+1個の最大解(xハットm(k)、yハットm(k))、m=0、1、・・・、Mとこれらに対応したM+1個の関数値f(uバー(k)、xハット0(k)、yハット0(k))―σバー(k)、gm(uバー(k)、xハットm(k)、yハットm(k))、m=1、・・・、Mを算出する。そして、判定部130は、これらの関数値のなかでさらに最大の関数値をφ(σバー(k)、uバー(k))とする。判定部130は、この最大の関数値φ(σバー(k)、uバー(k))を与える(xハットm(k)、yハットm(k))を改めて(xハット(k)、yハット(k))とすることで、最大解(xハット(k)、yハット(k))を算出してよい。
【0105】
本実施形態における最適化方法による収束性を確認するために、まず簡単な数値例を考える。
【0106】
【0107】
この例題では、目的関数fに不確実変数yが含まれていないが、状態変数xが含まれているため、等式制約条件によるmin-max基準であるmin-maxx{f(u、x|h(u、x、y)=0}が適用される。また、決定変数uおよび不確実変数yが含まれていない制約関数g3、g4についても同様である。例えば、g3に対するロバスト性基準が等式制約条件によって、min-maxx{g3|h(u、x、y)=0}となる。
【0108】
以上のことから、この例題に対する緩和問題(20a)から(20e)式は、不確実変数y のS個のサンプルy(s)、s=1、・・・、S に対して想定される状態変数x(s)、s=1、・・・、Sが関数f、g2、およびg3の引数となり、以下の(30a)から(30h)式で表される。
【0109】
【0110】
そして、この問題に対する最大化問題(21a)式および(21b)式は、以下の(31a)式および(31b)式となる。
【0111】
【0112】
なお、緩和法の手順のステップS20における緩和問題((30a)から(30h)式)およびステップ30での最大化問題((31a)および(31b)式)を解くために実際に実行する問題(28)式(本例題では、M=4であり、5個の等式制約条件付最大化問題)に適用する非線形最適化手法として、一例において、IPOPT(Interior Poiont OPTimizer)を用いてよい。また、ステップS30において、閾値である判定条件の許容パラメータεは、1e-7と設定した。このとき不確実変数の初期サンプルをy(1) =5(初期サンプル個数はS(1)=1)として緩和法を適用した結果を表1および表2に示す。
【0113】
【0114】
【0115】
表1の列は順に、生成された不確実変数のサンプルの集合Y(s)(イタリック体)、緩和問題((30a)から(30h)式)の解であるσバー(k)、uバー(k)、およびy(s)に対応した{xバー(s)}を示す。表1によりk=3において、決定変数uアスタリスク=5と、これに対応するmin-max値σアスタリスク=900が得られたことを示すために、アスタリスクをつけている。
【0116】
表2の列は順に、最大化問題((31a)および(31b)式)を解くために実行した問題(28a)から(28d)式における5個の等式制約条件付最大化問題における最大値f―σ、g1、g2、g3、およびg4と、さらにそれらの中のさらなる最大値φ(22)式を示している。そして、これらの値がすべて終了判定条件、すなわちε(=1e-7)以下という条件を満たしたために、k=3で計算が終了したことを表2は示す。
【0117】
計算終了までに至る過程は、次のとおりである。まず表1でのk=1の行の緩和問題の解(σバー(k)と、uバー(k))が、目的関数に関する制約条件(30b)式をもっとも逸脱することが、表2でのk=1の行の最大値1.75e+2=φ(σバー(1)、uバー(1))=f(uバー(1)、xバー(1))-σバー(1)によって判定される。そして、これを与える最大解yハット(1)=10が不確実変数yの新しいサンプルy(2)=10として、これに対応する制約条件が緩和問題に付加される。この緩和問題の解が表1でのk=2の行で、この解がもっとも逸脱する制約条件として表2でのk = 2の行の最大値5=φ(σバー(2)、uバー(2))=g4(xハット(2))によって判定される。そして、これを与える最大解yハット(2)=0が不確実変数yの新たなサンプルy(3)=0として、これに対応する制約条件が緩和問題に付加されてk=3に至る。なお、不確実変数の初期サンプルの位置をランダムに100回変更した場合でも上記と同様の結果が得られており、初期サンプルの選択に対する緩和法の大域的収束性および不確実変数に対するロバスト性も確認された。
【0118】
図3は、初期サンプルの選択処理の一例を示すフローチャートである。選択部110は、目的関数が不確実変数yに応じて変化する領域を抽出する(ステップS100)。選択部110は、目的関数が不確実変数yに応じて変化する領域においてサンプルy
(1)を選択する(ステップS102)。目的関数が不確実変数yに応じて変化しない領域において、初期サンプルy
(1)を選択すると、最適化処理が進行しない場合がある。したがって、目的関数が不確実変数yに応じて変化する領域においてサンプルy
(1)を選択することで、最適化処理を確実に進行させることができる。
【0119】
図4は、初期サンプルの選択処理の他例を示すフローチャートである。選択部110は、不確実変数yの想定値として最大値を呈するサンプルy
(1)を選択する(ステップS110)。
図4の処理によっても、最適化処理が進行しない場合を防止し、最適化処理を確実に進行させることができる。
【0120】
図5は、最適化装置100による最適化方法の他例を示すフローチャートである。
図5に示される最適化方法は、
図2に示される最適化方法に対してステップS65の処理が追加されている。
図5に示される最適化方法においてステップS65以外の処理内容は、
図2に示される最適化方法の処理内容と同様であるので、詳しい説明は省略する。
【0121】
判定部130は、前回の判定において、決定変数候補uバーを適用した場合に条件を逸脱する(逸脱量>閾値εになる)までの余裕度を取得する。判定部130は、余裕度が予め定められた値以下の不等式制約条件については、判定対象に含める(ステップS65)。このように、余裕度が予め定められた値以下の不等式制約条件については、最適化の結果に影響する。このような不等式制約条件を活性となっていると称する。
【0122】
判定部130は、余裕度が予め定められた値より大きい場合には、対応する不等式制約条件について、最適解が不等式制約条件を満たしているか否かについての判定対象に含めなくてよい。このように逸脱する(逸脱量>閾値εになる)までの余裕度が十分にある不等式制約条件は、最適化の結果に影響しづらい。このような不等式制約条件を不活性であると称する。しかしながら、安全率を高くする必要があるパラメータについては、常に、最適解が不等式制約条件を満たしているか否かについての判定対象に含めてもよい。
【0123】
次に、分散電源が導入された電力系統に対する最適潮流計算へ本発明の最適化方法を適用した場合を説明する。電力系統に導入された不確定電源の下で、電力系統を最適に運用する問題を考える。この問題における意思決定者は系統運用者等であってよい。系統運用者等は、保有する系統情報に基づいて最適潮流計算を定式化する。系統運用者は、最適潮流計算に基づいて、送電線の電圧および潮流を管理および維持する。また不確定電源は、発電事業者または需要家が保有する分散電源を想定している。不確定電源は、インバータ連系により電力系統に接続される。これら不確定電源の有効電力の出力は様々な要因により不確実性を有する。不確定電源の有効電力の出力値がとりうる領域は陽に与えられている。系統運用者は、不確定電源の出力に対しては、任意の設定値による出力制限と、それぞれのインバータ出力容量の中での無効電力の出力指令を行うことができる。ここで、以下の変数が導入される。
【0124】
【0125】
pG、vG、pD、qDが系統運用者等による決定変数uとなる。yのみが系統運用者等にとっての不確実変数yとなり、これらの変数に従属する形で、pG0、qQ、p、q、v、およびδが潮流方程式(等価制約条件)を満たす状態変数xとなる。ここで、記述簡略化のために、決定変数uを合成した変数とその直積集合を(32)式で表す。
【0126】
【0127】
同様に、状態変数を合成した変数を(33)式で表す。
【0128】
【0129】
分散電源を考慮した最適潮流計算を定式化すると、(34a)から(34G)式となる。
【0130】
【0131】
ここで、目的関数(34a)の第一項f0は電力系統全体の送電損失であり、主に有効電力に依存する関数とする。目的関数(34a)の第二項は、不確定電源iの有効電力yi の制限値pDiからの超過分に対し、全体のi個の不確定電源のその総和量をできる限り抑制することを表し、ρ(>0) はこの目的関数の重み係数である。また、(34b)から(34e)式は電力系統の状態変数pG0、qQ、p、q、vについての不等式制約条件である。具体的には、(34b)式は、スラック母線の有効電力の上下限制約である。(34c)式は、確定電源の無効電力の上下限制約である。(34d)式は、電圧の上下限制約である。(34e)式は、は線路容量制約である。また(34g)式は、は不確定電源iごとのインバータ出力容量制約である。インバータ出力容量sDiは系統運用者に既知であるとする。さらに(34g)式は、電力系統全体の潮流方程式である。ここで、(34a)から(34g)は、次の(35a)、(35b)、および(35c)と置きなおすことができる。
【0132】
【0133】
目的関数である(35a)式に対しては、min-max基準を適用し、不等式制約関数である(35b)式に対してはロバスト性基準を適用する。これにより、問題(8)式および問題(15)式の定式化、およびこれらの問題に対するシステム方程式を考慮した緩和法の計算手順をそのまま適用することができる。
【0134】
提案手法の有用性を確認するために、2つの簡易なテスト系統に対して、緩和法を適用した。本明細書では、簡易なテスト系統として、2バスシステムと4バスシステムの2種類のテスト系統を示す。
【0135】
図6は、2バスシステムのテスト系統を示す。
図7は、4バスシステムのテスト系統を示す。
図6および
図7においては、最適化装置100は、分散電源(不確定電源)10が導入された電力系統102に対する潮流の最適化装置である。不確実変数yは、分散電源10の出力変数である。
【0136】
制約条件等の設定内容を表3に示す。
図6において、確定電源20がバス0に接続されており、分散電源10がバス1に接続されている。
図7において、確定電源20-1がバス0に接続されており、確定電源20-2がバス3に接続されている。分散電源(DER1)10-1がバス1に接続されており、分散電源(DER2)10-2がバス2に接続されている。また、バス0とバス3との間には、タップ30が設けられている。
【0137】
【0138】
なお、図および表中の値の単位は、すべてPUとする。緩和法の設定としては、許容パラメータをε=1e-4とし、非線形最適化手法であるIPOPTを使用した。本問題(35a)式および(35b)にあるmax演算を含む式は微分不可能点を含む。したがって、このmax演算は、そのまま非線形最適化手法を適用することができない。そこで、平滑化関数であるFischer-Burmeister関数で置き換えることにより、微分不可能性を回避してよい。
【0139】
2バスシステムに対して緩和法を適用して得られた最適解uアスタリスクおよび状態変数x(s)、不確実変数y(s) を表4に示す。また、対応する不等式制約関数値f―σアスタリスク、gを表5に示す。
【0140】
【0141】
【0142】
表5におけるg1は、pG0の下限制約の値であり、g2は、pG0の上限制約の値の値である。g3は、qG0の下限制約の値であり、g4は、qG0の上限制約の値の値である。g5は、v1の下限制約の値であり、g6は、v1の上限制約の値の値である。g7は、インバータ出力容量制約の値である。緩和法の反復回数は2回で終了した。初期サンプルy(1) と最大化問題(21)式を解いたことにより得られたサンプルy(2)によって2つの想定状態(シナリオ)が想定された。結果を見るかぎりそれぞれのシナリオにおける制約条件を満たす解が得られている。具体的には不確実変数である分散電源の有効電力yが最大となるシナリオy(1)=1の場合では、電圧上限制約(表5中のg6)が活性となっており、それを満たすための分散電源の有効電力制限値pD が得られている。一方で、分散電源の有効電力が最小となるシナリオy(2)=0では、活性となっている電圧下限制約(表5中のg5)を満たすための無効電力qDの出力がなされており、不確実変数y のとりうるすべての範囲[0、1] を考慮した運用となっていることがわかる。
【0143】
次に、4バスシステムに対して緩和法を適用して得られた最適解uアスタリスクおよび状態変数x(s)、不確実変数y(s) を表6に示す。また、対応する不等式制約関数値f―σアスタリスク、gを表7に示す。
【0144】
【0145】
【0146】
ここで、表7におけるg
1は、p
G0の下限制約の値であり、g
2は、p
G0の上限制約の値である。g
3、g
4は、p
Gの下限制約の値であり、g
5、g
6は、p
Gの上限制約の値である。g
7はv
1の下限制約の値であり、g
8はv
2の下限制約の値である。g
9はv
1の上限制約の値であり、g
10はv
2の上限制約の値である。さらにg
11からg
16は、線路容量制約の値である。g
17およびg
18は、インバータ出力容量制約の値である。この例題では不確実変数の個数が2つある。緩和法の反復回数は2回で終了する。不確実変数yの2つのサンプルy(1)およびy(2)にもとづき、2つの想定状態(シナリオ)が生成された。とくにスラック母線からより遠方の分散電源2(
図2中のDER2)のノードは電圧変動が比較的大きいと考えられる。実際に電圧上限制約(表7中のg
10)および電圧下限制約(表7中のg
8) がそれぞれ活性となっている。これらの制約を満たすような有効電力制限値p
D2および無効電力設定値q
D2が得られている。
【0147】
本問題では、不確実変数である不確定電源の有効電力の集合Y(イタリック体)は、上下限制約で与えられている。緩和法によって生成されるその変数のサンプルは、その集合の端点が選択される可能性が高い。事実、表4および表6のいずれの場合もその端点が選択されている。とくに4バスシステムでは不確実変数の個数が2個で端点数は4個ある。端点のうちの2個だけのサンプルの生成で、つまり緩和法の2回の反復回数で収束していることわかる。このことから、不確実変数の有効電力の範囲を上下限制約で想定する場合には、その端点の個数と比較してかなり少ない反復で緩和法が収束することか期待される。
【0148】
さらに緩和法によって得られた決定変数uアスタリスクの妥当性を検証するため、固定された決定変数uアスタリスクのもとで、不確実変数yの値をその集合Y(イタリック体)内においてランダムで生起し、それらに対して定まる状態変数xとその目的関数値、および不等式制約関数値をそれぞれ算定した。生起させる点数は2バスシステムでは10点とし、4バスシステムでは100点とした。それぞれの場合において算定された目的関数値はmin-max値σアスタリスクよりも小さく、さらにすべての不等式制約条件を満足していた。したがって、緩和法で得られた解がmin-max基準、およびロバスト性基準それぞれを担保していることを確認した。
【0149】
以上のように、本明細書においては,システム200の特性を記述した等式制約条件を含む不確実最適化問題に対し、目的関数に関してはmin-max基準を、不等式制約条件に対してはロバスト性基準を適用した定式化がされた。システム200の状態を想定状態(シナリオ)として想定した。想定状態(シナリオ)を逐次増やすことで、不確実最適化問題の解を算出する新たな緩和法を実現した。また、分散電源10が導入された電力系統102に対する最適潮流計算への有用性も確認した。
【0150】
ところで、以上の説明では時間依存性のない静的システムを対象としたが、制御対象に蓄電池などの蓄積機能がある場合のシステム最適化は、時間断面ごとに独立した最適化問題ではなくなる。このシステム最適化問題は、状態の時間的遷移が不確実変数も含む差分方程式で記述される最適制御問題となる。このようないわば「不確実最適制御問題」に対しても,本明細書で説明した決定変数と状態変数の区別化による考え方を拡張することができる。
【0151】
より大規模な電力系統の最適化問題、および時系列を変数とする上述の最適制御問題では、変数の個数の増加によって緩和法の計算効率が劣化することが予想される。このような課題に対しては、
図5に示したように、たとえば活性となる可能性の高い制約条件のみを緩和法における最大化問題として考慮するなど、様々な方策を用いることができる。
【0152】
図8は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る方法または当該方法の段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0153】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、およびディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インタフェース2222、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230およびキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0154】
CPU2212は、ROM2230およびRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0155】
通信インタフェース2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD-ROMドライブ2226は、プログラムまたはデータをDVD-ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0156】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0157】
プログラムが、DVD-ROM2201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、またはROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0158】
例えば、通信がコンピュータ2200および外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インタフェース2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インタフェース2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROM2201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0159】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226(DVD-ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0160】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0161】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上またはコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0162】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0163】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0164】
10・・・分散電源、20・・・確定電源、30・・・タップ、100・・・最適化装置、102・・・電力系統、110・・・選択部、120・・・算出部、130・・・判定部、132・・・第1判定部、134・・・第2判定部、140・・・生成部、150・・・平滑化部、200・・・システム、2200・・・コンピュータ、2201・・・DVD-ROM、2210・・・ホストコントローラ、2212・・・CPU、2214・・・RAM、2216・・・グラフィックコントローラ、2218・・・ディスプレイデバイス、2220・・・入/出力コントローラ、2222・・・通信インタフェース、2224・・・ハードディスクドライブ、2226・・・DVD-ROMドライブ、2230・・・ROM、2240・・・入/出力チップ、2242・・・キーボード