(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】絶対角度位置検出方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
(21)【出願番号】P 2021157320
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2024-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000203634
【氏名又は名称】多摩川精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】新井 真一
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-315634(JP,A)
【文献】特開2005-37254(JP,A)
【文献】特開平3-282215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/12-5/252
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2相励磁/2相出力のレゾルバ(1)により多回転検出を行う絶対角度位置検出方法であって、
通電時に、
切換部(120)内部の接続が通電時接続状態に切り換えられ、
AC励磁部(132)において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、前記切換部(120)経由で前記レゾルバ(1)の2つの励磁相に入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から2相のレゾルバ信号を得るステップと、
前記2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部(131)において処理して1回転データを生成するステップと、
前記2相AC励磁信号からタイミング部(133)において2相のタイミング信号を生成するステップと、
回転数カウント部(142)において前記2相のタイミング信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成するステップと、
前記1回転データと前記通電時多回転カウントデータとを演算部(150)において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有し、
停電時に、
前記切換部(120)内部の接続が停電時接続状態に切り換えられ、
パルス励磁部(141)において生成された1相パルス励磁信号を、前記切換部(120)経由で、前記2つの励磁相の1つずつに交互に入力して励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得るステップと、
前記回転数カウント部(142)において前記1相パルス励磁信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成するステップと、
前記停電時多回転カウントデータを前記演算部(150)において演算して前記絶対角度位置信号を生成するステップと、を有する、
ことを特徴とする絶対角度位置検出方法。
【請求項2】
前記回転数カウント部(142)は、2つの励磁相を1つずつ交互に励磁して得られるそれぞれの停電時多回転カウントデータを比較し、前記停電時多回転カウントデータの異常の有無を判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項3】
前記回転数カウント部(142)は、前記比較において、一致、または、前記レゾルバ(1)の電気角で1象限以下のずれを検出した場合、前記停電時多回転カウントデータを正常であると判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項4】
前記回転数カウント部(142)は、前記比較において、前記レゾルバ(1)の電気角で2象限以上のずれを検出した場合、前記停電時多回転カウントデータを異常であると判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項5】
停電時には、前記パルス励磁部(141)と前記回転数カウント部(142)とがバックアップ電源により駆動される、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の絶対角度位置検出方法。
【請求項6】
2相励磁/2相出力のレゾルバ(1)により多回転検出を行う絶対角度位置検出装置であって、
互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成するAC励磁部(132)と、
前記2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換するタイミング部(133)と、
前記レゾルバ(1)から供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成するレゾルバ/デジタル変換部(131)と、
1相パルス励磁信号を生成するパルス励磁部(141)と、
前記2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータまたは停電時多回転カウントデータを生成する回転数カウント部(142)と、
前記2相AC励磁信号と前記1相パルス励磁信号との一方を切り換えて前記レゾルバ(1)に供給する切換部(120)と、
前記1回転データ、前記通電時多回転カウントデータ及び前記停電時多回転カウントデータを処理する演算部(150)と、を備え、
通電時には、
前記切換部(120)は、内部の接続を通電時接続状態に切り換え、
2つの励磁相に前記2相AC励磁信号を入力して2相励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得て、
前記2相のレゾルバ信号を前記レゾルバ/デジタル変換部(131)において処理して1回転データを生成し、
前記回転数カウント部(142)は、前記2相のタイミング信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして前記通電時多回転カウントデータを生成し、
演算部(150)は、前記1回転データと前記通電時多回転カウントデータとを演算して絶対角度位置信号を生成し、
停電時には、
前記切換部(120)は、内部の接続を停電時接続状態に切り換え、
前記2つの励磁相の1つずつに交互に前記1相パルス励磁信号を入力して励磁し、前記レゾルバ(1)から前記2相のレゾルバ信号を得て、
前記回転数カウント部(142)は、前記1相パルス励磁信号により前記2相のレゾルバ信号をカウントして前記停電時多回転カウントデータを生成し、
前記演算部(150)は、前記停電時多回転カウントデータを演算して前記絶対角度位置信号を生成する、
ことを特徴とする絶対角度位置検出装置。
【請求項7】
前記回転数カウント部(142)は、前記2つの励磁相を1つずつ交互に励磁して得られるそれぞれの停電時多回転カウントデータを比較し、前記停電時多回転カウントデータの異常の有無を判定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の絶対角度位置検出装置。
【請求項8】
前記回転数カウント部(142)は、前記比較において、一致、または、前記レゾルバ(1)の電気角で1象限以下のずれを検出した場合、前記停電時多回転カウントデータを正常であると判定する、
ことを特徴とする請求項7に記載の絶対角度位置検出装置。
【請求項9】
前記回転数カウント部(142)は、前記比較において、前記レゾルバ(1)の電気角で2象限以上のずれを検出した場合、前記停電時多回転カウントデータを異常であると判定する、
ことを特徴とする請求項7に記載の絶対角度位置検出装置。
【請求項10】
前記パルス励磁部(141)と前記回転数カウント部(142)とは、停電時において、バックアップ電源により駆動される、
ことを特徴とする請求項6~9のいずれか一項に記載の絶対角度位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶対角度位置検出方法及び装置に関し、特に、2相励磁/2相出力のレゾルバを使用し、通電時及び停電時共に連続して多回転カウントデータを検出するための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルバを用いた絶対角度位置検出方法及び装置において、通電時はAC励磁による励磁を行い、停電時は電池バックアップによるパルス励磁を行うことが提案されている。従来、用いられていたこの種の絶対角度位置検出方法及び装置としては、例えば、特許文献1に示される構成を挙げることができる。
【0003】
ここで、特許文献1に記載された絶対角度位置検出装置は、1相励磁/2相出力のレゾルバを使用しており、通電時には、レゾルバを1相AC励磁すると共に、レゾルバ/デジタル変換部からの1回転データと、回転数カウント部からの通電時多回転カウントデータとを演算回路にて演算し、多回転位置を示す絶対角度位置検出信号を生成する。
一方、停電時において、絶対角度位置検出装置は、レゾルバを1相パルス励磁すると共に、通電時と共通の回転数カウント部を用いて、停電時多回転カウントデータを生成するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の特許文献1記載の絶対位置検出装置は、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることができるものの、1相励磁/2相出力のレゾルバを使用しているために高精度の絶対角度検出を行えない問題があった。
すなわち、1相励磁/2相出力のレゾルバは、2相の出力信号の振幅のアンバランスがそのまま誤差になる。このため、1相励磁/2相出力のレゾルバを用いた場合、高精度な絶対角度検出を実現することは難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するために、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバを用いた多回転検出による絶対角度検出を実現し、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることが可能な絶対角度位置検出方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る絶対角度位置検出方法は、2相励磁/2相出力のレゾルバにより多回転検出を行う絶対角度位置検出方法であって、通電時に、切換部内部の接続が通電時接続状態に切り換えられ、AC励磁部において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、切換部経由でレゾルバの2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得るステップと、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部において処理して1回転データを生成するステップと、2相AC励磁信号からタイミング部において2相のタイミング信号を生成するステップと、回転数カウント部において2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成するステップと、1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算部において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有し、停電時に、切換部内部の接続が停電時接続状態に切り換えられ、パルス励磁部において生成された1相パルス励磁信号を、切換部経由で、2つの励磁相の1つずつに交互に入力して励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得るステップと、回転数カウント部において1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成するステップと、停電時多回転カウントデータを演算部において演算して絶対角度位置信号を生成するステップと、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
この発明に係る絶対角度位置検出装置は、2相励磁/2相出力のレゾルバにより多回転検出を行う絶対角度位置検出装置であって、互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成するAC励磁部と、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換するタイミング部と、レゾルバから供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成するレゾルバ/デジタル変換部と、1相パルス励磁信号を生成するパルス励磁部と、2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータまたは停電時多回転カウントデータを生成する回転数カウント部と、2相AC励磁信号と1相パルス励磁信号との一方を切り換えてレゾルバに供給する切換部と、1回転データ、通電時多回転カウントデータ及び停電時多回転カウントデータを処理する演算部と、を備え、通電時には、切換部は、内部の接続を通電時接続状態に切り換え、2つの励磁相に2相AC励磁信号を入力して2相励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得て、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部において処理して1回転データを生成し、回転数カウント部は、2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成し、演算部は、1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算して絶対角度位置信号を生成し、停電時には、切換部は、内部の接続を停電時接続状態に切り換え2つの励磁相の1つずつに交互に1相パルス励磁信号を入力して励磁し、レゾルバから2相のレゾルバ信号を得て、回転数カウント部は、1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成し、演算部は、停電時多回転カウントデータを演算して絶対角度位置信号を生成する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明において、回転数カウント部は、2つの励磁相を1つずつ交互に励磁して得られるそれぞれの停電時多回転カウントデータを比較し、停電時多回転カウントデータの異常の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
この発明において、回転数カウント部は、比較において、一致、または、レゾルバの電気角で1象限以下のずれを検出した場合、停電時多回転カウントデータを正常であると判定する、ことを特徴とする。
この発明において、回転数カウント部は、比較において、レゾルバの電気角で2象限以上のずれを検出した場合、停電時多回転カウントデータを異常であると判定する、ことを特徴とする。
【0011】
この発明において、停電時には、パルス励磁部と回転数カウント部とがバックアップ電源により駆動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバを用いて、2相のレゾルバ信号を使用した多回転検出により高精度な絶対角度検出を実現すると共に、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1の絶対角度位置検出装置の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1の絶対角度位置検出装置における励磁信号供給の切り換えの様子を示す構成図である。
【
図3】実施の形態1の絶対角度位置検出処理時における励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示す説明図である。
【
図4】実施の形態1の絶対角度位置検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の絶対角度位置検出方法と絶対角度位置検出装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における絶対角度位置検出装置100の基本的な構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100の構成を示す構成図である。なお、絶対角度位置検出装置100は、絶対角度位置検出方法の各処理ステップを実行する装置である。
【0016】
[絶対角度位置検出装置100の構成]
図1において、絶対角度位置検出方法を実行する絶対角度位置検出装置100は、主に、電源監視部110と、切換部120と、第1信号処理部130と、第2信号処理部140と、演算部150と有している。絶対角度位置検出装置100には、2相励磁/2相出力のレゾルバ1が接続されている。絶対角度位置検出装置100には、通電時には図示されない通電動作用電源から電力の供給を受け、停電時には図示されないバックアップ電源から電力の供給を受ける。なお、バックアップ電源は、電池などを供給源とする停電時等のための限定的な電源である。
【0017】
電源監視部110は、通電動作用電源の状態、すなわち、通電時であるか停電時であるかを監視しており、通電時と停電時とで切換部120内部の接続状態を設定する切換制御信号を生成する。ここで、通電時とは通電動作用電源が有効であるときを意味しており、停電時とは通電動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効であるときを意味している。
【0018】
切換部120は、通電時と停電時とで、内部の接続状態を通電時接続状態と停電時接続状態とに切り換える。
すなわち、切換部120は、電源監視部110からの切換制御信号に基づいて、通電時には通電時接続状態に設定され、第1信号処理部130からの2相のAC励磁信号(以下、「2相AC励磁信号」)をレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。
また、切換部120は、電源監視部110からの切換制御信号に基づいて、停電時には停電時接続状態に設定され、第2信号処理部140からの1相パルス励磁信号をレゾルバ1の2つの励磁相の一つずつに交互に供給する。
【0019】
第1信号処理部130には、レゾルバ/デジタル変換部131と、AC励磁部132と、タイミング部133とが設けられている。ここで、第1信号処理部130は、通電動作用電源の供給を受け、通電時に動作する。
【0020】
レゾルバ/デジタル変換部131は、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を供給され、1回転データを生成し、生成した1回転データを演算部150に供給する。また、レゾルバ/デジタル変換部131は、2相AC励磁信号を生成するための2相励磁用データをAC励磁部132に供給する。AC励磁部132は、レゾルバ/デジタル変換部131から2相励磁用データの供給を受け、互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を生成する。生成された2相AC励磁信号は、通電時に、切換部120を経由してレゾルバ1の2つの励磁相に供給される。タイミング部133は、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換し、後述する第2信号処理部140内の回転数カウント部142に供給する。
【0021】
第2信号処理部140には、パルス励磁部141と、回転数カウント部142とが設けられている。なお、第2信号処理部140は、通電動作用電源とバックアップ電源との供給を受け、通電時と停電時とに動作する。
【0022】
パルス励磁部141は、停電時にバックアップ電源により駆動され、1相パルス励磁信号を生成する。生成された1相パルス励磁信号は、停電時に、回転数カウント部142に供給されると共に、切換部120を経由してレゾルバ1の2つの励磁相の一つずつに交互に供給される。
回転数カウント部142は、通電時と停電時とに共に動作する。すなわち、通電時において、回転数カウント部142は、2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、通電時多回転カウントデータを生成する。また、停電時において、回転数カウント部142は、1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、停電時多回転カウントデータを生成する。
回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータを生成する際に、レゾルバ1の2つの励磁相の一つずつに1相パルス励磁信号を交互に供給して得たレゾルバ信号の正常/異常判定を行い、判定結果を演算部150に通知する。
【0023】
演算部150は、通電時において通電動作用電源を供給され、レゾルバ/デジタル変換部131からの1回転データと通電時多回転カウントデータとを合成する演算を行い、多回転位置を示す絶対角度位置信号を生成する。一方、演算部150は、停電時においてバックアップ電源を供給され、回転数カウント部142から正常の判定結果を受けた場合、または回転数カウント部142から異常の判定結果を受けない場合、回転数カウント部142からの停電時多回転カウントデータを受けて演算して絶対角度位置信号を生成する。また、演算部150は、停電時において、回転数カウント部142から異常の判定結果を受けた場合、予め定められたエラー処理を実行する。
【0024】
以下、切換部120の内部における接続状態の設定について、
図2の(a)~(c)を参照して説明する。
図2は、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100における励磁信号供給の切り換えの様子を示す構成図である。
【0025】
切換部120は、第1信号処理部130からの2相AC励磁信号と、第2信号処理部140からの1相パルス励磁信号とのいずれか一方を、切換制御信号に応じた接続状態の設定により、レゾルバ1の2つの励磁相に供給する。
【0026】
図2の(a)は、通電時の切換制御信号を受けた場合の切換部120の内部の接続状態を示している。この状態において、切換部120は、2相AC励磁信号のA相のaをレゾルバ1の励磁相Aに供給し、2相AC励磁信号のB相のbをレゾルバ1の励磁相Bに供給する。これにより、通電時に、AC励磁部132からの2相AC励磁信号は、切換部120を経由して、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bに供給される。
【0027】
図2の(b)は、停電時の切換制御信号を受けた場合の切換部120内部の第1の停電時接続状態(以下、「停電時第1接続状態」)を示している。この停電時第1接続状態において、切換部120は、1相パルス励磁信号cを、レゾルバ1の励磁相Aに供給する。
【0028】
図2の(c)は、停電時の切換制御信号を受けた場合の切換部120内部の第2の停電時接続状態(以下、「停電時第2接続状態」)を示している。この停電時第2接続状態において、切換部120は、1相パルス励磁信号cを、レゾルバ1の励磁相Bに供給する。
そして、切換部120は、停電時において、任意のタイミングで内部の接続を、停電時第1接続状態(
図2の(b))と停電時第2接続状態(
図2の(c))とを交互に切り換えて、1相パルス励磁信号をレゾルバ1の2つの励磁相A,Bの一つずつに交互に供給する。
【0029】
[絶対角度位置検出方法の説明]
次に、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100において実行される絶対角度位置検出方法について説明する。
【0030】
実施の形態1において、絶対角度位置検出装置100は、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を使用するものであり、通電時のみ動作する第1信号処理部130と、通電時と停電時の両方で動作する第2信号処理部140とのそれぞれの機能を、2相励磁/2相出力のレゾルバ1に対応させて、通電時には2相AC励磁信号によりレゾルバ1を2相励磁することにより2相のレゾルバ信号を得ると共に、停電時にはレゾルバ1の2つの励磁相A,Bの一つずつに交互に1相パルス励磁信号を入力してレゾルバ1を励磁することにより2相のレゾルバ信号を得ることで、通電時と停電時とで連続した多回転カウントデータを得ることを特徴としている。
【0031】
[通電時の2相AC励磁信号による2相励磁]
以下、通電時における、2相励磁/2相出力のレゾルバ1の2相AC励磁信号による2相励磁について詳細に説明する。
2相励磁/2相出力のレゾルバ1は、sinωtとcosωtの2相AC励磁信号を用いて励磁されると、レゾルバ1の角度θに応じて位相の変化を有する位相変調信号を、レゾルバ信号として出力する。
そして、出力信号の振幅のアンバランスがそのまま誤差になる1相励磁/2相出力のレゾルバと比較すると、2相励磁/2相出力のレゾルバ1は、ノイズの影響を受けにくい位相変調信号を用いるため高精度であるという特長を有している。
【0032】
ここで、レゾルバ1において、2相AC励磁信号の供給を受ける励磁相A,Bについて、励磁相Aは励磁巻線R1と励磁巻線R3により形成され、励磁相Bは励磁巻線R2と励磁巻線R4により形成されているとする。また、レゾルバ1において、2相のレゾルバ信号を出力する出力相A,Bについて、出力相Aは検出巻線S1と検出巻線S3により形成され、出力相Bは検出巻線S2と検出巻線S4により形成されているとする。
この場合、次のような出力電圧方程式(1)~(4)が成立する。ここで、Eは電圧、Kは変圧比、θはレゾルバ1の角度、ωは励磁角周波数を意味している。なお、倍角数をNとする。
励磁相A:ER1-R3=Ecosωt …(1)
励磁相B:ER2-R4=Esinωt …(2)
出力相A:ES1-S3=K(ER2-R4・sinNθ+ER1-R3・cosNθ)
=KEcos(ωt-Nθ) …(3)
出力相B:ES2-S4=K(ER2-R4・cosNθ-ER1-R3・sinNθ)
=KEsin(ωt-Nθ) …(4)
【0033】
以上の出力電圧方程式(3)と(4)とが示すとおり、2相励磁/2相出力のレゾルバ1の出力信号は位相変調信号である。この位相変調信号は、それぞれ電圧は等しく、位相がずれた励磁信号の振幅変調信号が合成された結果として得られるものである。従って、いずれか一方の励磁相のみを用いてレゾルバ1を励磁した場合、1相励磁/2相出力のレゾルバ信号と同じ振幅変調信号が得られることになる。よって、実施の形態1の絶対角度位置検出装置100において実行される絶対角度位置検出方法は、レゾルバ1についての2相励磁/2相出力と1相励磁/2相出力とを併用可能な特徴的な性質を、積極的に利用する。
【0034】
絶対角度位置検出装置100において、通電時にレゾルバ1を2相AC励磁信号により励磁している場合、レゾルバ信号の各励磁相に対する出力相の位相関係を基に、通電時多回転カウントデータを生成可能である。
【0035】
ここで、
図3を参照してレゾルバ信号の位相関係を説明する。
図3は、実施の形態1の絶対角度位置検出処理時における励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示す説明図である。
図3において、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を2相AC励磁信号により励磁した際の、レゾルバ角度毎の励磁信号とレゾルバ信号の位相関係を示している。
【0036】
図3は、レゾルバ1の角度0°~90°、90°~180°、180°~270°、270°~360°の象限ごとに、各励磁信号に対するそれぞれのレゾルバ信号の位相が、4種類の組合せに分けられることを示している。ここで、基準となる励磁信号に対して、レゾルバ信号の位相が0°~+180°を「進み」と定義している。また、基準となる励磁信号に対して、レゾルバ信号の位相が-180°~0°を「遅れ」と定義している。
【0037】
図3における「進み」と「遅れ」の組み合わせの状態から、象限を判定することが可能であり、従来技術におけるA相信号、B相信号を生成できることが明らかである。従って、回転数カウント部142は、通電時において、2相のレゾルバ信号と、タイミング部133において2相AC励磁信号から生成した2相のタイミング信号とから、A相/B相の通電時多回転カウントデータを生成することができる。
【0038】
[停電時の1相パルス励磁信号による交互励磁]
以下、停電時において、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bの一つずつに交互に1相パルス励磁信号を供給する交互励磁について詳細に説明する。
【0039】
停電時においては、2相ある励磁相A,Bのうち、一方のみをパルス励磁すれば、レゾルバ1からレゾルバ信号が振幅変調信号として出力される。回転数カウント部142において、このようなレゾルバ信号を1相パルス励磁信号によりカウントし、停電時多回転カウントデータを生成することができる。
【0040】
1相パルス励磁信号によりレゾルバ1の2つの励磁相A,Bのどちらをパルス励磁した場合でも、得られるレゾルバ信号の極性が異なるだけであり、振幅変調信号であることは変わらない。このため、励磁相Aをパルス励磁して得られた停電時多回転カウントデータ(A)と、励磁相Bをパルス励磁して得られた停電時多回転カウントデータ(B)とは、極性の違いを除いて、同じ内容のデータが得られる。
【0041】
このような特性を利用し、切換部120により励磁相Aのパルス励磁と励磁相Bのパルス励磁とを任意のタイミングで切り換え、回転数カウント部142は、励磁相Aをパルス励磁して得られた停電時多回転カウントデータ(A)と、励磁相Bをパルス励磁して得られた停電時多回転カウントデータ(B)を比較して、停電時多回転カウントデータの異常の有無を判定する、
【0042】
回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)とを比較して、一致または、レゾルバ1の電気角で1象限の範囲内に収まっている場合、停電時多回転カウントデータを正常であると判定する。
なお、回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)を区別せずに、停電時多回転カウントデータのずれを常時検出しておき、ずれを検出しない場合、及び、検出したずれが1象限以下の場合を正常と判定してもよい。
【0043】
一方、回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)とを比較して、レゾルバ1の電気角で2象限以上のずれを検出した場合、停電時多回転カウントデータを異常であると判定する。このような判定を停電時に行うことで、停電時多回転カウントデータの信頼性を高めることができる。
なお、回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)を区別せずに、停電時多回転カウントデータのずれを常時検出しておいて、2象限以上のずれを検出した場合に異常と判定してもよい。
また、回転数カウント部142は、停電時多回転カウントデータについて、正常であるかの判定をおこなわず、異常の有無の判定のみを行うようにしてもよい。
【0044】
[絶対角度位置検出の処理手順]
次に、絶対角度位置検出装置100の動作である絶対角度位置検出方法について、
図4を参照して説明する。
図4は、実施の形態1の絶対角度位置検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0045】
まず、ステップS100において、電源監視部110は、通常動作用電源が有効な通電時であるか、通常動作用電源が無効であってバックアップ電源が有効な停電時であるか、を監視している。この後、通電時には処理がステップS111に進み、停電時には処理がステップS121に進む。
【0046】
ステップS111において、通電時には、切換部120は
図2の(a)に示す通電時接続状態に切り換わる。この後、処理はステップS112に進む。
【0047】
ステップS112において、AC励磁部132は、2相AC励磁信号を生成し、生成した2相AC励磁信号を切換部120経由でレゾルバ1の2つの励磁相に供給する。この後、処理はステップS113に進む。
【0048】
ステップS113において、レゾルバ1は、2相励磁されて2相のレゾルバ信号を生成する。レゾルバ1は、生成した2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部131と回転数カウント部142とに供給する。この後、処理はステップS114に進む。
【0049】
ステップS114において、レゾルバ/デジタル変換部131は、レゾルバ1から供給された2相のレゾルバ信号をデジタル変換して1回転データを生成し、生成した1回転データを演算部150に供給する。この後、処理はステップS115に進む。
【0050】
ステップS115において、タイミング部133は、2相AC励磁信号を2相のタイミング信号に変換し、第2信号処理部140内の回転数カウント部142に供給する。この後、処理はステップS116に進む。
【0051】
ステップS116において、回転数カウント部142は、レゾルバ1からの2相のレゾルバ信号と、タイミング部133からの2相のタイミング信号とを受け、2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントし、A相/B相の通電時多回転カウントデータを生成する。この後、処理はステップS117に進む。
【0052】
ステップS117において、演算部150は、レゾルバ/デジタル変換部131からの1回転データと、回転数カウント部142からのA相/B相の通電時多回転カウントデータとを受けて、1回転データと通電時多回転カウントデータとを合成する演算をすることで、従来の1相励磁/2相出力のレゾルバよりも高精度な絶対角度位置信号を生成することができる。そして、処理はステップS100に戻り、電源判定以降の処理を繰り返し実行する。
【0053】
一方、ステップS121において、停電時には、切換部120が停電時第1接続状態と停電時第2接続状態とに交互に切り換わる。ここで、切換部120は、停電時において内部の接続を、任意のタイミングで、停電時第1接続状態(
図2の(b))と停電時第2接続状態(
図2の(c))とを交互に切り換える。この後、処理はステップS122に進む。
【0054】
ステップS122において、パルス励磁部141は、バックアップ電源により駆動されて1相パルス励磁信号を生成し、生成した1相パルス励磁信号を切換部120経由で、レゾルバ1の2つの励磁相A,Bの一つずつに交互に供給する。この後、処理はステップS123に進む。
【0055】
ステップS123において、レゾルバ1は、励磁相Aと励磁相Bとが交互に1相パルス励磁信号により励磁されて、2相のレゾルバ信号を生成する。レゾルバ1は、生成した2相のレゾルバ信号を回転数カウント部142に供給する。この後、処理はステップS124に進む。
【0056】
ステップS124において、回転数カウント部142は、バックアップ電源により駆動され、レゾルバ1において生成された2相のレゾルバ信号と、パルス励磁部141からの1相パルス励磁信号とを受け、2相のレゾルバ信号を1相パルス励磁信号のパルス幅によりカウントし、停電時多回転カウントデータを生成する。この後、処理はステップS125に進む。
【0057】
ステップS125において、回転数カウント部142は、励磁相Aを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(A)と、励磁相Bを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(B)とを比較して、正常/異常判定の結果を演算部150に通知する。この後、処理はステップS126に進む。
【0058】
ステップS126において、ステップS125の比較により正常であると判定された場合、または、比較により異常と判定されなかった場合、処理がステップS127に進む。
ステップS127において、演算部150は、回転数カウント部142からの停電時多回転カウントデータを受けて演算し、絶対角度位置信号を生成する。そして、処理はステップS100に戻り、電源判定以降の処理を繰り返し実行する。
【0059】
一方、ステップS126において、ステップS125の比較により異常であると判定された場合、演算部150は、予め定められたエラー処理を実行する。
【0060】
以上のように、回転数カウント部142は、通電時と停電時とにおいて共用されるため、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことができる。また、停電時には、間欠的なパルス励磁信号を用いてレゾルバ1の2つの励磁相を交互にパルス励磁することで、通電時よりも消費電流を低減することができる。
また、停電時に、励磁相Aと励磁相Bとを交互に1相パルス励磁信号により励磁し、励磁相Aを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(A)と、励磁相Bを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(B)とを比較して正常か異常かを判定するため、停電時多回転カウントデータの信頼性を高めることができる。
【0061】
[実施の形態により得られる効果]
実施の形態1に説明した絶対角度位置検出装置100及び絶対角度位置検出方法によれば、2相励磁/2相出力のレゾルバ1を用いて、以下のように、高精度な絶対角度検出を実現する。
【0062】
通電時には、切換部120内部の接続が通電時接続状態に切り換えられ、AC励磁部132において生成された互いに位相が90°ずれた2相AC励磁信号を、切換部120経由でレゾルバ1の2つの励磁相に入力して2相励磁し、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を得て、2相のレゾルバ信号をレゾルバ/デジタル変換部131において処理して1回転データを生成し、2相AC励磁信号からタイミング部133において2相のタイミング信号を生成し、回転数カウント部142において2相のタイミング信号により2相のレゾルバ信号をカウントして通電時多回転カウントデータを生成し、1回転データと通電時多回転カウントデータとを演算部150において演算して絶対角度位置信号を生成する。
一方、停電時には、切換部120内部の接続が停電時第1接続状態と停電時第2接続状態とに交互に切り換えられ、パルス励磁部141において生成された1相パルス励磁信号を切換部120経由で、2つの励磁相の一つずつに交互に入力して励磁し、レゾルバ1から2相のレゾルバ信号を得て、回転数カウント部142において1相パルス励磁信号により2相のレゾルバ信号をカウントして停電時多回転カウントデータを生成し、停電時多回転カウントデータを演算部150において演算して絶対角度位置信号を生成する。
【0063】
通電時には、1相励磁/2相出力のレゾルバに比べて高精度な2相励磁/2相出力のレゾルバ1を使用することで、絶対角度検出を実現することが可能になる。
また、停電時には、間欠的なパルス励磁信号を用いてレゾルバ1の2つの励磁相をパルス励磁することで、通電時よりも消費電流を低減することができる。
そして、回転数カウント部142は、通電時には通電時多回転カウントデータを生成し、停電時には停電時多回転カウントデータを生成するため、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことができる。
【0064】
停電時に、2つの励磁相A,Bを交互に1相パルス励磁信号により励磁し、励磁相Aを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(A)と、励磁相Bを励磁したときの停電時多回転カウントデータ(B)とを比較して正常か異常かを判定するため、停電時多回転カウントデータの信頼性を高めることができる。
【0065】
停電時に、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)とを比較し、一致、または、レゾルバ1の電気角で1象限以下のずれを検出した場合、停電時多回転カウントデータを正常であると判定することにより、停電時多回転カウントデータの信頼性を高めることができる。
【0066】
停電時に、停電時多回転カウントデータ(A)と停電時多回転カウントデータ(B)とを比較し、レゾルバ1の電気角で2象限以上のずれを検出した場合、停電時多回転カウントデータを異常であると判定することにより、停電時多回転カウントデータの信頼性を高めることができる。
【0067】
停電時においてパルス励磁部141と回転数カウント部142とはバックアップ電源により駆動されるため、通電動作用電源からの電源供給が停止した場合であっても、レゾルバ1の励磁と回転数カウント部142でのカウントの動作を継続することができ、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を確実に行うことが可能になる。
【0068】
回転数カウント部142は、通電時と停電時とにおいて共用され、通電時及び停電時を通して連続した多回転検出を行うことにより、通電時及び停電時を通して、途切れることなく、連続した多回転検出を行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明してきた絶対角度位置検出装置100は、レゾルバ1に限られず、シンクロと呼ばれる角度検出器に対して適用することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 レゾルバ、100 絶対角度位置検出装置、110 電源監視部、120 切換部、130 第1信号処理部、131 レゾルバ/デジタル変換部、132 AC励磁部、133 タイミング部、140 第2信号処理部、141 パルス励磁部、142 回転数カウント部、150 演算部。