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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】微生物の代謝物の分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20241209BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20241209BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20241209BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C12Q1/02
G01N30/04 A
G01N30/02 N
G01N30/26 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022578253
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2022001459
(87)【国際公開番号】W WO2022163417
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2021010181
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」の委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 真之介
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇伸
(72)【発明者】
【氏名】浦畑 エリカ
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/118167(WO,A1)
【文献】特開2019-184502(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163245(WO,A1)
【文献】特開2013-250186(JP,A)
【文献】日本農薬学会誌,2016年,Vol.41, No.2,pp.216-222
【文献】Anal.Bioanal. Chem.,2020年,Vol.412, No.10,pp.2261-2276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
G01N 30/26
G01N 30/04
G01N 30/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天培地で培養された微生物が該寒天培地とともに収容された容器に、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態にある二酸化炭素を含む移動相を供給することにより、該微生物中及び該寒天培地中に存在する該微生物の代謝物の成分を該移動相に移動させる工程と、
前記代謝物の成分が移動した移動相をカラムに導入する工程と、
前記カラムを通過した移動相に含まれる前記代謝物の成分を質量分析する工程と
を有する微生物の代謝物の分析方法。
【請求項2】
前記容器の外において前記寒天培地上に前記微生物を培養し、
前記微生物を前記寒天培地の一部と共に切り出し、
前記微生物を前記寒天培地の一部と共に容器に収容する、
請求項1に記載の微生物の代謝物の分析方法。
【請求項3】
前記微生物の代謝物の成分が脂溶性成分であって、
前記移動相が二酸化炭素とギ酸アンモニウムメタノールを混合したものである、
請求項1に記載の微生物の代謝物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物に対して遺伝子組み換え操作を行うことにより、当該微生物(組み換え体。以下「組み換え微生物」という)に有用な物質を生産する能力を獲得させたり、生産能力を高めたりすることにより、その組み換え微生物の代謝物から有用な物質を得ることが試みられている。例えば特許文献1には、遺伝子組み換え操作を行ったClostridium属細菌やMoorella属細菌等の細菌からイソプレン又はテルペンを得ることが記載されている。イソプレンは構造式CH2=C(CH3)CH=CH2で表される炭化水素である。テルペンは、イソプレンを構成単位とする炭化水素であって、分子構造の異なる多種の物質の総称である。これらイソプレンやテルペンは、樹脂の原料、香料の原料、食品添加物、洗浄剤、電子材料、医農薬原料等の多様な用途を有する。
【0003】
遺伝子組み換え操作により微生物が予期した通りの能力を獲得したか否かを調べる方法の一つに、クロマトグラフ質量分析装置を用いて微生物の代謝物を分析する方法がある。特許文献1には、寒天培地で培養することにより増殖させた組み換え微生物(細菌株)を液体培地に植菌し、この液体培地を、一酸化炭素、二酸化炭素及び水素の混合ガスと共にバイアル容器内に仕込み、密閉して培養した後、気相部分(バイアル容器内の上部の空間(ヘッドスペース)の気体)をガスクロマトグラフ質量分析装置で分析することが記載されている。バイアル容器内での培養により組み換え微生物の代謝物に含まれるイソプレンが液体培地から揮発するため、気相部分を分析することにより組み換え微生物のイソプレンの生産能力を調べることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/155272号
【文献】特開2019-184502号公報
【文献】国際公開WO2016/084963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、組み換え微生物を液体培地で培養して該組み換え微生物の代謝物に含まれる所望の物質(イソプレン)を十分に揮発させる必要があり、分析に時間がかかる。また、微生物が生産する物質が揮発性を有するものでない場合には、分析することができない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、分析に要する時間を短縮することができると共に、微生物が生産する様々な物質を分析することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る微生物の代謝物の分析方法は、
培地で培養された微生物が該培地とともに収容された容器に、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態にある二酸化炭素を含む移動相を供給することにより、該微生物中及び該培地中に存在する該微生物の代謝物の成分を該移動相に移動させる工程と、
前記代謝物の成分が移動した移動相をカラムに導入する工程と、
前記カラムを通過した移動相に含まれる前記代謝物の成分を質量分析する工程と
を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る方法では、培地で培養された微生物を該培地とともに容器に収容した状態で、二酸化炭素を高い(7.38MPa以上の)圧力で送液し、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態の二酸化炭素を該容器に供給する。高圧条件下で液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態とされた二酸化炭素を含む移動相が容器内において微生物及び培地に接触することにより、それら微生物及び培地が含有する分析対象物質(代謝物)の成分が移動相に移動する。このように代謝物の成分が移動した移動相をカラムに導入し、該カラムを通過した移動相に含まれる物質の成分を質量分析する。
【0009】
本発明に係る方法によれば、微生物が生産する分析対象物質の成分を、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態の二酸化炭素を含む移動相に移動させることから、分析対象物質の成分を揮発させるために組み換え微生物を液体培地で培養する必要がないため、分析に要する時間を短縮することができる。また、分析対象物質の成分が揮発性を有する必要がないため、様々な物質を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る微生物の代謝物の分析方法の実施形態を実施する際に用いる超臨界流体抽出-超臨界流体クロマトグラフ質量分析装置(SFE-SFC-MS)の一例を示す概略構成図。
図2】本実施形態の微生物の代謝物の分析方法を示すフローチャート。
図3】本実施形態の方法において、寒天培地に培養した微生物のコロニーを寒天培地の一部と共に切り出して容器に収容する手順を示す図。
図4】本実施形態の方法で用いる移動相におけるモディファイアの混合比の時間変化の一例を示すグラフ。
図5】本実施形態の方法を用いて、(a)テルペン非生産株、(b)テルペン生産株、及び(c)テルペン高生産株から代謝物の成分を移動相に移動させて取得したクロマトグラム。
図6】テルペン非生産株、テルペン生産株、及びテルペン高生産株につき、本実施形態の方法及び従来の方法を用いて取得したクロマトグラムのピーク面積を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1図6を用いて、本発明に係る微生物の代謝物の分析方法の実施形態を説明する。
【0012】
(1) 本実施形態に係る微生物の代謝物の分析方法を実施するための装置
図1に、本実施形態の微生物の代謝物の分析方法を実施する際に用いるクロマトグラフ質量分析装置の構成を概略図で示す。なお、このクロマトグラフ質量分析装置は、二酸化炭素を送液するだけなく、超臨界状態にするための加圧機能も備えていることから、超臨界流体抽出-超臨界流体クロマトグラフ質量分析装置(特許文献2参照)と呼称されるものであり、以下「SFE-SFC-MS」という。なお、「SFE」は"Supercritical Fluid Extraction"(超臨界流体抽出)の、「SFC」は"Supercritical Fluid Chromatograph"(超臨界流体クロマトグラフ)の、「MS」は"Mass Spectrometer"(質量分析装置)の、それぞれ略語である。ただし、後述するように、本実施形態では、超臨界状態だけでなく、亜臨界状態、液体状態の二酸化炭素が抽出液、又は移動相として用いられる。
【0013】
SFE-SFC-MS10は、液化炭酸送液部11と、超臨界流体抽出(SFE)部12と、超臨界流体クロマトグラフ(SFC)部13と、質量分析(MS)部14とを有する。
【0014】
液化炭酸送液部11は、ガスボンベ111と、ガス流路112と、加圧ポンプ113と、モディファイア容器114と、モディファイア流路115と、送液ポンプ116とを備える。
【0015】
ガスボンベ111は二酸化炭素のボンベであって、ガス流路112に二酸化炭素を供給する。加圧ポンプ113はガス流路112中に設けられており、二酸化炭素を7.38MPa以上の圧力に加圧することにより、二酸化炭素を液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態に維持するものである。
【0016】
モディファイア容器114は、モディファイアを収容する容器である。モディファイアはエントレーナとも呼ばれる。モディファイアは主に極性分子を有する補助溶媒であって、代謝物に含まれる成分を移動させやすくするために二酸化炭素に添加されるものである。使用するモディファイアは、分析対象の代謝物に応じて、モディファイア容器114を交換することによって適宜変更可能である。モディファイア流路115はモディファイア容器114とガス流路112を接続するものであって、第1合流点1121でガス流路112と合流している。送液ポンプ116はモディファイア流路115中に設けられている。モディファイアは、送液ポンプ116の作用によってモディファイア容器114からモディファイア流路115を通ってガス流路112に導入され、ガス流路112を流れる二酸化炭素に混合される。以下、ガス流路112から見て第1合流点1121よりも下流側の流路を移動相流路15と呼ぶ。
【0017】
SFE部12は移動相流路15中に設けられており、分岐流路121と、試料容器(本発明における「容器」に相当)122と、第1~第3開閉弁1231~1233とを有する。分岐流路121は、移動相流路15中の分岐点151で移動相流路15から分岐し、移動相流路15中の分岐点151よりも下流側の第2合流点152で移動相流路15に合流している。試料容器122は分岐流路121中に設置され、後述のように微生物のコロニー22とその周囲の寒天培地21の一部を合わせた被採取物20を収容する容器である。第1開閉弁1231は分岐点151と試料容器122の間の分岐流路121中に、第2開閉弁1232は試料容器122と第2合流点152の間の分岐流路121中に、第3開閉弁1233は分岐点151と第2合流点152の間の移動相流路15中に、それぞれ設けられた開閉弁である。
【0018】
SFC部13は移動相流路15のSFE部12よりも下流側に設けられており、上流側から順に直列に配置されたトラップカラム131とSFC分析カラム132とを備える。トラップカラム131とSFC分析カラム132は、互いに異なる充填剤が充填されている。トラップカラム131に充填される充填剤には、SFC分析カラム132に充填された充填剤よりも分析対象の物質を捕捉しやすいものが用いられる。なお、トラップカラム131を使わず、SFC分析カラム132にトラップカラム131の役割を持たせてもよい。
【0019】
MS部14には、本実施形態ではMS/MS型の質量分析装置を用いるが、他の質量分析装置を用いてもよい。
【0020】
SFC部13とMS部14の間の移動相流路15中には背圧制御弁16が設けられている。背圧制御弁16は、それよりも上流側において、移動相の状態の維持が可能となるように該移動相の圧力を維持するために設けられている。
【0021】
移動相流路15には、SFC部13と背圧制御弁16の間にメイクアップ流路172が設けられ、メイクアップ流路172にはメイクアップ溶液を貯留するメイクアップ容器171が接続されている。メイクアップ液は、MS部14による分析対象成分の検出を促進させるための液体であって、メタノールやエタノール等を用いることができ、必要に応じてメタノールなどにギ酸アンモニウムなどの塩を添加することもできる。
【0022】
(2) 本実施形態に係る微生物の代謝物の分析方法
以下、図2及び図3を用いて、本実施形態の微生物の代謝物の分析方法の詳細を説明する。予め、通常の方法により、微生物を寒天培地21で培養し、該微生物のコロニー22を形成させる(図2のステップ1。図3(a)参照。)。
【0023】
ここで、微生物の代謝物とは、培養プロセスにおいて細胞内に蓄積される、あるいは、培地に排出される有機化合物をいい、発酵産物も含む。微生物の代謝物である有機化合物の例として、炭化水素、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、及びアルコールが挙げられる。
【0024】
炭化水素としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素が挙げられ、脂肪族炭化水素としては、エチル、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等のアルカン類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ブタジエン、イソプレン等のアルケン類;エチン、プロピン、ブチン、ペンチン等のアルキン類が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等が挙げられる。脂環族炭化水素としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等が挙げられる。
【0025】
脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素のうち、水に不溶な物質を脂溶性成分ともいう。脂溶性成分としては、特に、イソプレノイドが挙げられる。イソプレノイドとは、イソプレンを構成単位とする炭化水素であって、イソプレノイド経路により生合成される物質である。イソプレノイドには、テルペン、テルペノイド、ステロイド、カロテノイドなどが挙げられる。テルペンとしては、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペン、セステルテルペン、トリテルペン、テトラテルペン等が挙げられる。テルペノイドとしては、モノテルペノイド、セスキテルペノイド、ジテルペノイド、セスタテルペノイド、トリテルペノイド、テトラテルペノイド等が挙げられる。ステロイドとは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環骨格を有する化合物の総称であり、β-エストラジオール、プロゲステロン等が挙げられる。カロテノイドとは、8つのイソプレン単位で構成されたC4056の基本骨格を有する化合物をいい、カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【0026】
アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、アルギニンが挙げられる。個々のアミノ酸は、側鎖の違いから、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸のいずれかに分類可能である。具体的には、グルタミン酸およびアスパラギン酸は酸性アミノ酸に分類可能であり、リジン、アルギニンおよびヒスチジンは塩基性アミノ酸に分類可能であり、グリシン、アラニン、スレオニン、メチオニン、システイン、セリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、プロリン、グルタミンおよびアスパラギンは中性アミノ酸に分類可能である。
【0027】
有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸、アクリル酸、プロピオン酸、フマル酸が挙げられる。
多糖類としては、例えば、キサンタン、デキストラン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、カードラン、ゲラン、スクレオグルカン、プルランが挙げられる。タンパク質としては、例えば、ホルモン、リンホカイン、インターフェロン、酵素( アミラーゼ、グルコアミラーゼ、インベルターゼラクターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等) が挙げられる。
抗生物質としては、例えば、菌剤( β - ラクタム、マクロライド、アンサマイシン、テトラサイクリン、クロラムェニコール、ペプチド性抗生物質、アミノグリコシド等) 、抗カビ剤( ポリオキシンB 、グリセオフルビン、ポリエンマクロライド等) 、抗がん剤( ダウノマイシン、アドリアマイシン、ダクチノマイシン、ミスラマイシン、ブレオマイシン等) 、プロテアーゼ/ ペプチダーゼ阻害剤( ロイペプチン、アンチパイン、ペプスタチン等) 、コレステロール生合成阻害剤( コンパクチン、ロバスタチン、プラバスタチン等) が挙げられる。
【0028】
アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1 - ブタノール、ソルビットが挙げられる。その他、発酵法により生産される有機化合物として、アクリルアミド、ジエン化合物( イソプレン等) 、ペンタンジアミン等の有機化合物も挙げられる。
【0029】
有機化合物の生産能を有する微生物を培養して上記のような有機化合物を製造する技術は広く知られている。本実施形態は、このような技術に広く適用することが可能である。微生物発酵において、微生物は、炭素源、窒素源等を利用して自らも増殖する。かかる意味において、本実施形態では、代謝物に微生物菌体も包含される。微生物菌体としては、有機化合物の生産能を有する任意の微生物が挙げられる。
【0030】
有機化合物の生産能を有する微生物としては、本来的に有機化合物の生産能を有する微生物と、本来的には有機化合物の生産能を有しない又は実質的に有しないが有機化合物生成遺伝子を遺伝子組み換えにより導入されて後天的に有機化合物の生産能を有するに至った微生物の双方が含まれる。有機化合物の生産能を有する微生物に関しては、有機化合物の種類に応じて種々の微生物が知られており、本実施形態においては、これら既知の微生物を広く使用することが可能である。
【0031】
次に、以下に述べる方法により、寒天培地21で培養された微生物のコロニー22を、該寒天培地21の一部(「寒天培地片211」と呼ぶ)とともに試料容器122に収容する(ステップ2)。まず、コロニー22が形成された位置を含む寒天培地21の一部範囲にピペット23の先端を突き刺し(図3(a), (b))、ピペット23を寒天培地21から引き抜く(同(c))。これにより、コロニー22と寒天培地片211を合わせた被採取物20がピペット23内に切り出される。次に、ピペット23の先端を試料容器122内に挿入し(同(d))、ピペット23内の被採取物20をピペット23から、後述の第1フィルタ1224が底部に載置された試料容器122内に押し出す(同(e))。その後、ピペット23の先端を試料容器122から出し(同(f))、後述の筒状体1225及び第2フィルタ1226を試料容器122内に収容したうえで、試料容器122に蓋1221を装着する(同(g))。
【0032】
試料容器122の底部には底部開口1222が、蓋1221には蓋部開口1223が、それぞれ設けられている。底部開口1222にはそれを覆うように第1フィルタ1224が設けられ、第1フィルタ1224の上に筒状体1225が載置される。被採取物20は筒状体1225の内側に収容する。筒状体1225の上には第2フィルタ1226が載置される。以上の構成により、蓋部開口1223から第2フィルタ1226、筒状体1225(筒状体1225内の被採取物20)、及び第1フィルタ1224を通って底部開口1222に向かう(又はその逆向きの)移動相の流路が試料容器122内に形成される。
【0033】
次に、試料容器122をSFE-SFC-MS10のSFE部12に装着し、試料容器122の底部開口1222及び蓋部開口1223をそれぞれ分岐流路121に接続することにより、従来のSFE-SFC-MS10で用いられているのと同様の方法により、試料容器122内と分岐流路121を連通させる。
【0034】
続いて、第1開閉弁1231を閉鎖し、第3開閉弁1233を開放した状態で、ガスボンベ111から二酸化炭素ガスをガス流路112に供給し、送液ポンプ113で二酸化炭素ガスに所定の圧力を印加する。また、必要に応じて、送液ポンプ116によってモディファイア容器114からモディファイア流路115にモディファイアを供給し、第1合流点1121において二酸化炭素にモディファイアを混合させる。これにより、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態の二酸化炭素を含む移動相が得られる。なお、後述のように分析時間中の一部においてモディファイアの供給を行わないようにしてもよいし、分析対象の物質(代謝物)が非極性分子から成る場合には分析時間の全体に亘ってモディファイアの供給を行わなくてもよい。
【0035】
次に、以下に述べる方法により、移動相を試料容器122に供給することにより、微生物から代謝されコロニー22内及び寒天培地片211内に存在する代謝物の成分を移動相に移動させる(ステップ3:SFE)。ここで、SFEの方法には、静的(スタティック)抽出と動的(ダイナミック)抽出という2通りの方法がある。
【0036】
静的抽出では、まず、第1開閉弁1231を閉鎖、第3開閉弁1233を開放した状態で、第2開閉弁1232を開放することにより、試料容器122内に移動相を供給する。そして、移動相が所定量だけ試料容器122内に供給された時点で第2開閉弁1232を閉鎖する。これにより、試料容器122内に貯留された移動相に(移動相が流れることなく)代謝物の成分が移動する。さらに所定時間経過後、第1開閉弁1231及び第2開閉弁1232を開放して第3開閉弁1233を閉鎖する。これにより、移動相に移動した成分が移動相と共に試料容器122から排出される。なお、移動相を試料容器122内に供給する段階において、第2開閉弁1232を開放して第1開閉弁1231を閉鎖する代わりに、第1開閉弁1231を開放して第2開閉弁1232を閉鎖してもよい。
【0037】
動的抽出では、第1開閉弁1231及び第2開閉弁1232を開放し、第3開閉弁1233を閉鎖する。これにより、試料容器122内を通過するように流れる移動相内に代謝物の成分が移動し、該成分が移動相と共に試料容器122から排出される。
【0038】
本実施形態では、静的抽出と動的抽出のいずれか一方のみを行ってもよいし、両方を行ってもよい。
【0039】
移動相に移動した代謝物の成分は、移動相と共にSFC部13のトラップカラム131に導入され、該トラップカラム131に捕捉される。
【0040】
以上の操作によりステップ3(SFE)が完了した後、第1開閉弁1231及び第2開閉弁1232を閉鎖したうえで、第3開閉弁1233を開放することにより、トラップカラム131内に(代謝物の成分が含まれない)移動相を供給する。これにより、トラップカラム131に捕捉されていた代謝物の成分は、トラップカラム131から排出されてSFC分析カラム132に導入され、SFC分析カラム132において成分毎に時間的に分離される(ステップ4:SFC)。
【0041】
その際、移動相に含まれるモディファイアの混合比を調整することによって、トラップカラム131からの代謝物の成分の排出速度や、SFC分析カラム132での該成分の保持時間を制御することができる。例えば、モディファイアの混合比を高くすることにより、トラップカラム131からの代謝物の成分の排出が促進される。また、トラップカラム131からの排出開始時にはモディファイアの混合比を高くし、その後、混合比を低下させると、トラップカラム131からの排出は促進しつつ、SFC分析カラム132での保持時間を長くして成分毎の時間分離の精度を高くすることができる。モディファイアの種類及び混合比の具体例は後述する。
【0042】
SFC分析カラム132で時間分離された各成分はMS部14に導入され、質量分析が行われる(ステップ5)。これにより、代謝物が含有する目的の有用物質の定量を行うことができる。
【0043】
本実施形態の方法によれば、微生物が生産する分析対象物質の成分を二酸化炭素を含む移動相に移動させることから、分析対象物質の成分を揮発させるために組み換え微生物を液体培地で培養する必要がない。そのため、分析に要する時間を短縮することができる。また、分析対象物質の成分が揮発性を有する必要がないため、様々な物質を分析することができる。
【0044】
本実施形態では、寒天培地21に生成された微生物のコロニー22を寒天培地の一部(寒天培地片211)と共に切り出してそのまま容器に収容している。この方法の他に、寒天培地21からコロニー22を掻き取って試料容器122に収容するという手法も取り得るが、当該手法によれば、掻き取りに手間と時間を要するうえに、寒天培地に生成された微生物のコロニーの全体を確実に掻き取ることが難しい。それに対して本実施形態の方法では、コロニー22の全体を短時間で容易に採取することができる。なお、本発明では、微生物を培地と共に容器に収容する方法は、本実施形態で用いた方法には限定されない。
【0045】
(3) 代謝物の定量分析の具体例
以下、図4図6を用いて、代謝物の定量分析を行った実験の結果を説明する。この実験では、(a)テルペンを生産する能力を有しない野生の大腸菌株(Escherichia coli(以下、「E. coli」という)MG1655 株、寄託番号NITE BP-1686、以下、「テルペン非生産株」と呼ぶ。)と、(b)テルペン非生産株に対して遺伝子組み換え操作を行ってテルペンを生産する能力を付与した株(テルペン生産株)と、(c)テルペン非生産株に対して(b)とは異なる遺伝子組み換え操作を行うことでテルペン生産株よりも高いテルペンの生産能力を付与した株(テルペン高生産株)を微生物として用い、これら3種の微生物の代謝物に含まれるモノテルペンであるリモネン(C1016)を分析対象とした。
【0046】
テルペン(イソプレン)は、イソプレン系ゴムの材料として用いられる炭化水素であり、テルペンの一種であるリモネンは、柑橘類に含まれる香り成分の一つとして知られている、脂溶性化合物である。
【0047】
(b)テルペン生産株は、(a)テルペン非生産株のコンピテントセルを調製し、エレクトロポレーションによりリモネンシンターゼ遺伝子及びファルネシル二リン酸シンターゼ遺伝子を発現するプラスミドpACYC177-Ptac-opt_LMS-ispA*を導入し、取得した。また、(c)のテルペン高生産株は、テルペン非生産株の染色体上のpoxB遺伝子座でdxs遺伝子を増強したMG1655 poxB::Ptac-dxs株を構築し、この株のコンピテントセルを調製し、エレクトロポレーションによりリモネンシンターゼ遺伝子及びファルネシル二リン酸シンターゼ遺伝子を発現するプラスミドpACYC177-Ptac-opt_LMS-ispA*を導入し、取得した。
【0048】
(b)テルペン生産株、及び(c)テルペン高生産株の構築に用いたプラスミドは、特許文献3に記載されている手順に従い、以下のようにして構築した。なお、以下の手順は特許文献3に記載されている通りのため、ここでは、詳しい説明は省略する。
【0049】
(1)植物由来リモネンシンターゼ遺伝子の取得
植物由来リモネンシンターゼ遺伝子を効率的に発現させるため、二次構造を解消させ、P.ananatisのコドン使用頻度と同一となるようにコドンを最適化し、さらに葉緑体移行シグナルを切断した。これによって得られた遺伝子はopt_LMSと名付けられた。なお、植物由来リモネンシンターゼの植物としては、アラスカトウヒ(Picea sitchensis)、アメリカオオモミ(Abies grandis)、スペアミント(Mentha spicata)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)、レモン(Citrus limon)等が挙げられる。本実施例ではスペアミント由来のリモネンシンターゼを用いた。
【0050】
(2)E. coli由来変異型ファルネシル二リン酸シンターゼ遺伝子の取得
E. coliのファルネシル二リン酸シンターゼがコードされているispA遺伝子の変異株である、ゲラニル二リン酸生成活性の高いispA変異体(S80F)遺伝子を効率的に発現させるため、二次構造を解消させるようにコドンを最適化した、E. coli由来変異型ファルネシル二リン酸シンターゼ遺伝子を取得した。この遺伝子は、ispA*と名付けられた。
【0051】
(3)opt_LMS、及びispA*遺伝子の同時発現用プラスミドの構築
opt_LMS、及びispA*をそれぞれ化学合成した後、標準ベクターであるpUC57(GenScript社製)にクローニングして、プラスミドを得た。得られたプラスミドは、それぞれ、pUC57-opt_LMS、及びpUC57-ispA*と名付けられた。
【0052】
次に、所定のプライマーを用い、pUC57-opt_LMSを鋳型として、PCRを行い、得られたPCR断片を用いてさらにPCRを行い、pUC57-opt_LMS断片を得た。また、所定のプライマーを用い、pUC57-ispA*を鋳型としてPCRを行い、pUC57-ispA*断片を得た。pUC57-opt_LMS断片、及びpUC57-ispA*断片を制限酵素PstlとPcalで消化したpACYC177(ニッポンジーン社製)にIn-Fusion HD cloning kit(クロンテック社製)を用いて連結し、opt_LMS、及びispA*遺伝子同時発現用プラスミドを得た。これを、pACYC177-Ptac-opt_LMS-ispA*と名付けた。
【0053】
これら3種の菌株について、従来の定量分析方法で分析を行った。具体的には、上記3種の菌株を、増殖用の寒天培地で培養後、培地表面の菌体を掻き取って、密閉容器に収容されたリモネン発酵用の液体培地で接種し、さらに培養した。培養終了後、密閉容器中のガス成分をガスクロマトグラフで定量分析装置を用いて測定したところ、テルペン非生産株ではリモネンが検出されず、テルペン生産株及びテルペン高生産株ではリモネンが検出された。テルペン高生産株におけるリモネンの検出量はテルペン生産株における検出量の約5倍であった。
【0054】
本実施形態の方法を用いた分析における詳細な条件を説明する。
【0055】
試料は以下のように準備した。各菌株を増殖促進剤である酸素の存在下で寒天培地21上にてコロニー22の直径が3mm程度となるまで培養した後、酸素の供給量を低下させてさらに培養した後、上述の方法により、コロニー22及びその周囲にある直径5mmの範囲内の寒天培地21を切り出し、コロニー22と寒天培地片211を容器に収容した。
【0056】
SFE(ステップ3)では、モディファイアとしてギ酸アンモニウムの濃度が15mmol/L(ミリモル毎リットル)であるギ酸アンモニウムメタノール を用い、以下のように静的抽出と動的抽出を組み合わせて代謝物の抽出を行った(図4参照)。まず、モディファイアの混合比(体積比)が10%である移動相を、試料容器122から流出させることなく試料容器122に圧力15MPa、供給速度1mL/分で0.6分間供給し、静的抽出(図4中の「静的SFE1」)を行った。次に、試料容器122内の移動相を流出させながら、モディファイアを含有しない(混合比0%の)移動相を試料容器122に圧力15MPa、供給速度1mL/分で0.2分間供給し、動的抽出(同「動的SFE1」)を行った。これにより、試料容器122内で移動相に移動した代謝物を、試料容器122に供給する移動相によってSFC部13に排出した。続いて、移動相を試料容器122から流出させることなく、モディファイアを含有しない移動相を試料容器122に圧力15MPa、供給速度1mL/分で1.2分間供給し、静的抽出(同「静的SFE2」)を行った。その後すぐに、移動相を試料容器122から流出させつつ、移動相中のモディファイアの混合比を1分間で0%から12%まで連続的に増加させながら試料容器122に圧力15MPa、供給速度3mL/分で供給し、動的抽出(同「動的SFE2」)を行った。
【0057】
SFC(ステップ4)では、移動相中のモディファイアの混合比を1.5分間で12%から30%まで連続的に増加させながら、SFC部13に移動相を圧力15MPa、供給速度3mL/分で供給した(図4)。SFC分析カラム132の温度は40℃に維持した。
【0058】
SFC分析カラム132から溶出する溶出物は、メイクアップ容器171から供給速度0.1mL/分で供給されるメタノールから成るメイクアップ溶液を混合してMS部14に導入した。
【0059】
(a)テルペン非生産株、(b)テルペン生産株、及び(c)テルペン高生産株の各々について、得られたクロマトグラムの一例を図5に示す。テルペン非生産株のクロマトグラムにピークが出現しない保持時間において、テルペン生産株及びテルペン高生産株のクロマトグラムにリモネン由来のピークが出現している。ピーク面積は、テルペン生産株よりもテルペン高生産株の方が大きい。
【0060】
分析終了後に試料容器122内を確認したところ、寒天培地片211が分析前とほぼ同じ形状及び大きさのまま残存していた。従って、寒天培地片211は、代謝物の抽出の際にほとんど流出しておらず、分析に悪影響を及ぼさないと考えられる。
【0061】
次に、テルペン生産株及びテルペン高生産株についてそれぞれ、複数の試料でクロマトグラムを取得してピーク面積を求めると共に、それら複数の試料についてそれぞれ一部を採取して従来の(液体培地で培養して代謝物の成分を揮発させ、ガスクロマトグラフで分析する)方法で取得したクロマトグラムのピーク面積を求めた。図6に、本実施形態の方法で得られたピーク面積を横軸に、同じ試料について従来の方法で得られたピーク面積を縦軸にとったグラフを示す。このグラフより、従来の方法で得られたピーク面積が大きいほど、本実施形態の方法で得られたピーク面積も大きくなっており、両者の間に相関関係があることがわかる。すなわち、既に確立した分析方法である従来の方法と同様の結果が得られていることから、本実施形態の方法で得られた分析結果は妥当であるといえる。
【0062】
(4) 変形例
上記実施形態ではピペット23を用いて微生物のコロニー22を寒天培地21の一部211と共に採取したが、その他の方法によって採取した微生物を培地と共に試料容器122に収容するようにしてもよい。また、試料容器122の外部で微生物を培養する代わりに、試料容器122内に収容した培地で微生物を培養してもよい。それ以外の点においても、本発明は上記の実施形態には限定されず、発明の主旨に沿って種々の変更が可能である。
【0063】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0064】
(第1項)
第1項に係る微生物の代謝物の分析方法は、
培地で培養された微生物が該培地とともに収容された容器に、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態にある二酸化炭素を含む移動相を供給することにより、該微生物中及び該培地中に存在する該微生物の代謝物の成分を該移動相に移動させる工程と、
前記代謝物の成分が移動した移動相をカラムに導入する工程と、
前記カラムを通過した移動相に含まれる前記代謝物の成分を質量分析する工程と
を有する。
【0065】
第1項に係る微生物の代謝物の分析方法では、培地上で培養された微生物を培地ごと容器に収容した状態で、液体状態、亜臨界状態、又は超臨界状態にある二酸化炭素を含む溶媒を用いて該微生物の代謝物を抽出することにより、代謝物を揮発物の形態で抽出する場合よりも、多量の代謝物を短時間で抽出することができる。そのため、微生物の代謝物を高い精度且つ短時間で定量することができる。
【0066】
微生物は、容器の外で培養した後に培地とともに容器に収容してもよいし、初めから容器内で培養してもよい。
【0067】
前記移動相は、二酸化炭素のみであってもよいし、二酸化炭素とモディファイアを混合した移動相であってもよい。ここでモディファイアは物質を抽出しやすくすると共に所定の時間でカラムから溶出させるために、二酸化炭素に添加されるものである。モディファイアには、通常の液体クロマトグラフにおける移動相の材料から、分析対象の代謝物や使用するカラムの種類に応じて適宜選択することができる。
【0068】
(第2項)
第2項に係る微生物の代謝物の定量方法は、第1項に係る方法において、
前記容器の外において寒天培地上に前記微生物を培養し、
前記微生物を前記寒天培地の一部と共に切り出し、
前記微生物を前記寒天培地の一部と共に容器に収容する。
【0069】
容器の外で寒天培地上に微生物を培養した場合には、第2項に係る微生物の代謝物の定量方法で用いる微生物の採取方法の他に、寒天培地から微生物を掻き取るという手法も取り得る。しかし、当該手法によれば、掻き取りに手間と時間を要するうえに、寒天培地に生成された微生物のコロニーの全体を確実に掻き取ることが難しい。それに対して第2項に係る微生物の代謝物の定量方法によれば、寒天培地に生成された微生物を寒天培地の一部と共に切り出してそのまま容器に収容するため、微生物(のコロニー)の全体を短時間で容易に採取することができる。
【0070】
(第3項)
第3項に係る微生物の代謝物の定量方法は、第1項又は第2項に係る方法において、
前記微生物の代謝物の成分が脂溶性成分であって、
前記移動相が二酸化炭素とギ酸アンモニウムメタノールを混合したものである。
【0071】
第3項に係る微生物の代謝物の定量方法によれば、二酸化炭素とギ酸アンモニウムメタノールを混合した移動相を用いることにより、テルペン等の脂溶性成分効率よく移動相に移動させることができる。
【符号の説明】
【0072】
10…超臨界流体抽出-超臨界流体クロマトグラフ質量分析装置(SFE-SFC-MS)
11…液化炭酸送液部
111…ガスボンベ
112…ガス流路
1121…第1合流点
113…加圧ポンプ
114…モディファイア容器
115…モディファイア流路
116…送液ポンプ
12…超臨界流体抽出(SFE)部
121…分岐流路
122…試料容器
1221…蓋
1222…底部開口
1223…蓋部開口
1224…第1フィルタ
1225…筒状体
1226…第2フィルタ
1231…第1開閉弁
1232…第2開閉弁
1233…第3開閉弁
13…超臨界流体クロマトグラフ(SFC)部
131…トラップカラム132…SFC分析カラム
14…質量分析(MS)部
15…移動相流路
151…分岐点
152…第2合流点
16…背圧制御弁
171…メイクアップ容器
172…メイクアップ流路
20…被採取物
21…寒天培地
211…寒天培地片(寒天培地の一部)
22…微生物のコロニー
23…ピペット
図1
図2
図3
図4
図5
図6