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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】耐凍上受圧構造体、及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20241209BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20241209BHJP
   E02D 31/14 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D5/80
E02D31/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023127542
(22)【出願日】2023-08-04
【審査請求日】2023-11-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://thesis.ceri.go.jp/db/documents/public_detail/69806(グラウンドアンカーに作用する凍上力抑制に関する試験施工の論文(公開日:令和4年9月10日))
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2023/subject/III-124/advanced (令和5年度土木学会全国大会のアブストラクト (公開日:令和5年8月1日))
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 寒地土木研究所月報第835号(発行日:令和4年9月10日)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】池田 淳
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 孝之
(72)【発明者】
【氏名】山木 正彦
(72)【発明者】
【氏名】林 宏親
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 厚子
(72)【発明者】
【氏名】御厩敷 公平
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-184094(JP,A)
【文献】特開2008-215029(JP,A)
【文献】特開平11-131487(JP,A)
【文献】特開2010-255229(JP,A)
【文献】特開2017-179719(JP,A)
【文献】特開平05-214728(JP,A)
【文献】特開2016-156126(JP,A)
【文献】特開2003-261943(JP,A)
【文献】特開2004-244937(JP,A)
【文献】特許第4122641(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 5/80
E02D 31/14
E21D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に定着されたアンカー材の頭部側に設けられる耐凍上受圧構造体であって、
合成樹脂を含む材料で形成されていて下面は平坦状であって、前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接する第一受圧板と、
金属製であって前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねられる第二受圧板と、を備え、
前記第一受圧板は、ガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂発泡体で形成されていて厚みが10~80mmである耐凍上受圧構造体(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)。
【請求項2】
地盤に定着されたアンカー材の頭部側に設けられる耐凍上受圧構造体であって、
合成樹脂を含む材料で形成されていて下面は平坦状であって、前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接する第一受圧板と、
金属製であって前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねられる第二受圧板と、を備え、
前記第一受圧板は、押出法ポリスチレンフォームで形成されていて厚みが10~80mmである耐凍上受圧構造体(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)。
【請求項3】
前記第一受圧板の端部は、前記第二受圧板の端部の外側に位置する請求項1又は2に記載の耐凍上受圧構造体。
【請求項4】
地盤に定着されたアンカー材の頭部に設けられる耐凍上受圧構造体の施工方法であって、
合成樹脂を含む材料で形成されている第一受圧板であって、下面は平坦状であってガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂発泡体で形成されていて厚みが10~80mmである前記第一受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接するように設置する工程と、
金属製の第二受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねる工程と、を含む施工方法(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)。
【請求項5】
地盤に定着されたアンカー材の頭部に設けられる耐凍上受圧構造体の施工方法であって、
合成樹脂を含む材料で形成されている第一受圧板であって、下面は平坦状であって押出法ポリスチレンフォームで形成されていて厚みが10~80mmである前記第一受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接するように設置する工程と、
金属製の第二受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねる工程と、を含む施工方法(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐凍上受圧構造体、及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切土法面等における地盤の補強を図る工法として、グラウンドアンカー工やロックボルト工などのアンカー工が用いられている。
【0003】
グラウンドアンカー工では、地盤に穿孔した挿入孔に対して強度の高いPC鋼材等のアンカー材を挿入し、その先端部を地盤深部に定着させる。そして、アンカー材の頭部に受圧板を挿入した後、アンカー材の頭部を油圧ジャッキ等で引張しながら定着具をアンカー材の頭部に取り付ける。これにより、アンカー材の緊張力が受圧板を介して地盤表層部に作用するため、地盤が締め付けられてこれを補強することができる。
【0004】
またロックボルト工では、地盤に穿孔した挿入孔に対してアンカー材であるロックボルトを挿入し、モルタルやセメントミルク等によって挿入孔に挿入したロックボルトの全体を地盤に定着させる。そして、アンカー材の頭部に受圧板を挿入した後、ナット等の定着具をアンカー材の頭部に取り付ける。ここで、地盤が変形しようとすると、ロックボルトに受動的に引張力が生じて土塊のすべり力に対して抵抗させることができるため、地盤への補強効果を得ることができる。
【0005】
ところで寒冷地においては、冷気によって地盤表層部の温度が低下すると、地盤内の水分が凍結して地盤表層部が膨張する凍上が発生する。このような凍上が生じると、膨張した地盤表層部によってアンカー材が塑性域まで変形してしまい、凍結した地盤表層部が解凍して収縮した際に地盤補強効果が損なわれることがある。
【0006】
このような凍上による不具合を抑制する技術として、例えば特許文献1には、アンカー材の頭部側に設けられる耐凍上受圧構造体が示されている。この構造体は、皿ばね、受圧板、第1の支持板、及び第2の支持板を備えていて、皿ばねと受圧板との間に第1の支持板が介装され、また第2の支持板は、皿ばねに対して第1の支持板の反対側から当接する。そして、凍上時に生じる地盤の膨張を皿ばねで吸収することによってアンカー材の変形を抑制し、地盤解凍時でも補強効果を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4122641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1の耐凍上受圧構造体は、上述したように皿ばねの他、第1の支持板や第2の支持板が必要であるため、部材費が増えるうえ、施工時の工費も嵩むことになる。
【0009】
このような従来の問題点に鑑み、本発明では、従来に比して費用を抑えつつ凍上による不具合を抑制することができる地盤改良体造成装置、及びその施工方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、地盤に定着されたアンカー材の頭部側に設けられる耐凍上受圧構造体であって、合成樹脂を含む材料で形成されていて下面は平坦状であって、前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接する第一受圧板と、金属製であって前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねられる第二受圧板と、を備え、前記第一受圧板は、ガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂発泡体で形成されていて厚みが10~80mmである耐凍上受圧構造体(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)である。
【0012】
また本発明は、地盤に定着されたアンカー材の頭部側に設けられる耐凍上受圧構造体であって、合成樹脂を含む材料で形成されていて下面は平坦状であって、前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接する第一受圧板と、金属製であって前記頭部の周囲を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねられる第二受圧板と、を備え、前記第一受圧板は、押出法ポリスチレンフォームで形成されていて厚みが10~80mmである耐凍上受圧構造体(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)である。
【0013】
前記第一受圧板の端部は、前記第二受圧板の端部の外側に位置することが好ましい。
【0014】
また本発明は、地盤に定着されたアンカー材の頭部に設けられる耐凍上受圧構造体の施工方法であって、合成樹脂を含む材料で形成されている第一受圧板であって、下面は平坦状であってガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂発泡体で形成されていて厚みが10~80mmである前記第一受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接するように設置する工程と、金属製の第二受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねる工程と、を含む施工方法(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)でもある。
また本発明は、地盤に定着されたアンカー材の頭部に設けられる耐凍上受圧構造体の施工方法であって、合成樹脂を含む材料で形成されている第一受圧板であって、下面は平坦状であって押出法ポリスチレンフォームで形成されていて厚みが10~80mmである前記第一受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記地盤の表面に前記下面が全面的に接するように設置する工程と、金属製の第二受圧板を、前記頭部を取り囲んだ状態で前記第一受圧板の表面に重ねる工程と、を含む施工方法(但し、前記第一受圧板の下面と前記地盤との間又は前記第一受圧板の上面と前記第二受圧板との間に繊維ネットが設けられるものを除く)でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐凍上受圧構造体は、金属製の第二受圧板によって地盤補強に必要とする耐力を確保することができる。また合成樹脂を含む材料で形成された第一受圧板が地盤の表面に接するように設けられるため、冷気が地盤内側に侵入し難くなって水分の凍結を抑制する(凍結深度を浅くする)ことができる。すなわち、凍上による地盤表層部の膨張が抑えられるため、凍上による不具合を抑制することができる。また特許文献1の構造体に比して部材点数が減るため、費用も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る耐凍上受圧構造体の一実施形態に関し、(a)は地盤に施行した状態を模式的に示した図であり、(b)はその平面図であり、(c)は他の実施形態の平面図である。
図2】載荷試験を行う状態を模式的に示した図であって、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。
図3】載荷試験に使用した耐凍上受圧構造体を模式的に示した図であって、(a)第1実施例、(b)は第2実施例、(c)は第3実施例、(d)は第4実施例である。
図4】第1実施例の載荷試験結果を示した図である。
図5】第2実施例の載荷試験結果を示した図である。
図6】第3実施例の載荷試験結果を示した図である。
図7】第4実施例の載荷試験結果を示した図である。
図8】寒冷地の地盤に耐凍上受圧構造体を施行して行う実地試験に関し、この試験に使用した耐凍上受圧構造体を模式的に示した図であって、(a)は第5実施例、(b)は第6実施例、(c)は第7実施例、(d)は比較例である。
図9図8の実地試験におけるアンカー材に加わる緊張力に関する試験結果を示した図である。
図10図8の実地試験における第5実施例の地中温度に関する試験結果を示した図である。
図11図8の実地試験における第6実施例の地中温度に関する試験結果を示した図である。
図12図8の実地試験における第7実施例の地中温度に関する試験結果を示した図である。
図13図8の実地試験における比較例の地中温度に関する試験結果を示した図である。
図14図9の実地試験を行った冬期期間とは別の冬期期間に実施した実地試験に関し、アンカー材に加わる緊張力に関する試験結果を示した図である。
図15図9図14の実地試験を行った冬期期間とは別の冬期期間に実施した実地試験に関し、アンカー材に加わる緊張力に関する試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る耐凍上受圧構造体、及びその施行方法の一実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る耐凍上受圧構造体の一実施形態である耐凍上受圧構造体1に関し、これをアンカー工によって地盤10に施行した状態を示している。本実施形態では、アンカー工としてグラウンドアンカー工を用いた場合を示している。地盤10には、削岩機やボーリングマシンなどを用いて挿入孔11が設けられる。また挿入孔11には、PC鋼材等のアンカー材12が挿入され、アンカー材12の先端部13は、モルタルやセメントミルク等によって地盤10の深部に定着されている。ここでアンカー材12は、頭部14が地盤10の表面から突出する状態で定着されていて、耐凍上受圧構造体1は、この頭部14に取り付けられている。
【0019】
本実施形態の耐凍上受圧構造体1は、第一受圧板2と、第二受圧板3と、定着具4を備えている。
【0020】
第一受圧板2は、合成樹脂を含む材料で形成されていて、頭部14を取り囲んだ状態で地盤10の表面に接するように取り付けられる。第一受圧板2に使用される合成樹脂を含む材料は、図示のように定着具4を頭部14に取り付けた状態(本実施形態では、グラウンドアンカー工におけるアンカー材12の緊張力が第二受圧板3を介して第一受圧板2に加わる状態)でも押し潰されない(緊張力が加わった状態でも復元可能な変形に留まる)ものが選択される。
【0021】
このように第一受圧板2は、熱伝導率が低くなる合成樹脂を含む材料で形成されているため、熱の伝達が抑えられている。従って第一受圧板2が接している地盤10には、外気温度が低くなっても冷気が伝わり難いため、地盤10の温度低下を抑制することができる。
【0022】
第一受圧板2の一例としては、硬質樹脂発泡材を無機繊維で補強した複合材が挙げられる。硬質樹脂発泡材は、例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂であって硬質のものが使用される。また無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等が使用される。強度やコストの観点から、ガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂発泡体、特には硬質ウレタン樹脂を用いたFFU(Fiber reinforced Foamed Urethane)が好適である。
【0023】
第一受圧板2の他の例としては、押出法ポリスチレンフォーム(XPS)が挙げられる。押出法ポリスチレンフォームとしては、アンカー材12に定着されている状態での押し潰れによる影響を考慮して、許容圧縮応力度が100~200kN/m、圧縮強さが200kN/m以上のものが好適である。なお、合成樹脂を含む材料としてビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)がある。EPSは許容圧縮応力度、及び圧縮強さが低いため(一般にEPSの許容圧縮応力度は20~90kN/m程度で、圧縮強さは40kN/m以上(高くても180kN/m以上))、地盤10の表面に対して不陸調整を行うには好適であるが、アンカー材12に定着されている状態で押し潰されて耐凍上の効果が得られないおそれがある。このため、EPSを超える許容圧縮応力度と圧縮強さを持つ材料を選択することが好ましい。
【0024】
第一受圧板2の形状は、種々選択可能であって、平面視において第二受圧板3と同一形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。但し耐凍上性を考慮すると、第一受圧板2の端部は第二受圧板3の端部の外側に位置することが好ましい。すなわち第一受圧板2は、第二受圧板3よりも平面視において大きいことが好ましい。第一受圧板2が大きくなることで地盤10を覆う面積が広くなるため、地盤10に冷気がより伝わり難くなる。また、第二受圧板3に比して硬度の低い第一受圧板2が地盤10に接することで、硬さの低い地盤10に対しても追従しやすくなるため、補強効果を維持することができる。第一受圧板2の形状としては、一例として平面視で正方形状になるものが挙げられる。なおこの場合、第一受圧板2の中央部には、頭部14が挿入される孔を設けておく。また第一受圧板2は1個で構成されるものに限られず、図3(d)に示すように、頭部14を取り囲むようにして複数個の第一受圧板部分2aを縦横に配置することによって1つの第一受圧板2となるように構成してもよい。また第一受圧板2の厚みは、アンカー材12に定着されている状態での押し潰れ、熱の伝達性、コスト等に応じて適宜選択可能であるが、一例として10~80mmが好ましく、20~70mmがより好ましく、30~60mmが更に好ましい。
【0025】
第二受圧板3は金属製であって、頭部14を取り囲んだ状態で第一受圧板2の表面に重ねられるように取り付けられる。第二受圧板3に使用される金属は、鋼、アルミニウム等が挙げられるが、アンカー材12の高い緊張力への耐力が十分に得られることを考慮して、鋼製の第二受圧板3を使用することが好ましい。
【0026】
また第二受圧板3の形状は、種々選択可能である。第二受圧板3の形状の一例としては、図1(b)に示すように概略四角形状であってスクエアタイプと称されるものや、図1(c)に示すように概略十字形状であってクロスタイプと称されるものが挙げられる。また第二受圧板3の大きさも適宜選択可能であって、例えばスクエアタイプであれば対角線長さが1600~2900mm程度で厚みは100~200mm程度であり、クロスタイプであれば、一端部から他端部に至る長さが1600~2900mm程度で厚みは100~230mm程度である。なお第二受圧板3の中央部にも、頭部14が挿入される孔を設けておく。
【0027】
定着具4は、頭部14に取り付けられて第一受圧板2と第二受圧板3を地盤10に向けて押し付ける機能を有する。定着具4は、頭部14の形状に応じて適宜選択され、例えばくさび状になるものや、ナット状になるものが使用される。
【0028】
このような耐凍上受圧構造体1を図1に示した地盤10に施行するにあたっては、以下のような方法が採用可能である。
【0029】
まず、削岩機やボーリングマシンなどを用いて地盤10に挿入孔11を設ける。次いで、アンカー材12を挿入孔11に挿入する。なおアンカー材12は、頭部14が地盤10の表面から突出する状態にしておく。その後、モルタルやセメントミルク等を挿入孔11注入し、先端部13を地盤10の深部に定着させる。
【0030】
次いで、第一受圧板2の中央部に設けた孔に頭部14を挿入して、第一受圧板2を地盤10の表面に設置する。なお、図3(d)に示すように複数個の第一受圧板部分2aで1つの第一受圧板2が構成される場合は、頭部14を取り囲むようにしてこれらを地盤10の表面に設置する。
【0031】
その後、第二受圧板3の中央部に設けた孔に頭部14を挿入して、第二受圧板3を第一受圧板2の表面に重ねるようにしてこれを設置する。
【0032】
しかる後は、油圧ジャッキ等で頭部14を引張するとともに、定着具4を頭部14に取り付ける。これにより、第二受圧板3と第一受圧板2が地盤10に向けて押し付けられ、地盤10が締め付けられてこれを補強することができる。
【0033】
上述したように第一受圧板2は合成樹脂を含む材料で形成されているため、熱の伝達が抑えられている。すなわち、冬期において外気温度が低くなっても、第一受圧板2が接している地盤10には冷気が伝わり難いため、地盤10の温度低下が抑制される。従って、地盤10内の水分が凍結しにくくなり、凍上の被害を効果的に防止することができる。
【0034】
次に、本発明に係る耐凍上受圧構造体で得られる効果について、実際に行った試験結果に基づいて詳細に説明する。
【0035】
まず、耐凍上受圧構造体に対してアンカー材から緊張力が加わる際の各部材の変形量と挙動を確認するため、図2(a)に示した方法による載荷試験を行った。載荷試験は、コンクリート反力台20(アンカー材に見立てたロッド21が設置されている)に、地盤を模したポリエチレンフォーム22を敷設し、その上に第一受圧板2と第二受圧板3を順に敷設する。そして、不図示の油圧ジャッキでロッド21を牽引することによって載荷を行う。なお、載荷試験における荷重は、ロッド21に挿通させたロードセル23で計測する。また第一受圧板2と第二受圧板3の変形量は、図2(b)に示した測定点P1~P9に設置した変位計により計測する。
【0036】
載荷試験では、図3(a)~(d)に示した第1~4実施例の耐凍上受圧構造体を使用した。第1~4実施例の第二受圧板3は何れも、1辺が1623mmで厚みが106mmの鋼製スクエアタイプである。また、第1~4実施例の第一受圧板2は何れもFFUであって、図3(a)の第1実施例は1辺が1630mmの正方形であって厚みは30mm、図3(b)の第2実施例は1辺が1630mmの正方形であって厚みは60mm、図3(c)の第3実施例は1辺が2400mmの正方形であって厚みは60mm、図3(d)の第4実施例は1辺が800mmの正方形であって厚みが60mmのものを縦横に4つ組み合わせたものである。
【0037】
また図4図7において、横軸は計測を行った時間を示し、縦軸は計測時におけるロードセル23で得られた荷重値と各変位計で得られた変位量を示す。
【0038】
第1実施例を用いた載荷試験においては、図4における荷重値に示すように、ロッド21を第二受圧板3の許容荷重の1.5倍程度まで段階的に牽引し、その後、ロッド21への牽引を緩め、更にロッド21を第二受圧板3の許容荷重まで一気に牽引し、その後ロッド21への牽引を緩めるという手順で測定点P1~P5における変位量を計測した。図4を参照して明らかなように、測定点P1~P5での変位量は、牽引時の荷重値と同様の挙動で変化していた。
【0039】
そして第2実施例を用いた載荷試験においては、図5における荷重値に示すように、ロッド21を第二受圧板3の許容荷重まで段階的に牽引し、その後、ロッド21への牽引を緩め、再びロッド21を第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引して更に許容荷重の1.5倍程度まで段階的に牽引し、その後ロッド21への牽引を緩めた後、再び第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引した後、ロッド21への牽引を緩めるという手順で測定点P1~P5における変位量を計測した。図5を参照して明らかなように、測定点P1~P5での変位量は、牽引時の荷重値と同様の挙動で変化していた。
【0040】
また第3実施例を用いた載荷試験においては、図6における荷重値に示すように、ロッド21を第二受圧板3の許容荷重まで段階的に牽引し、その後、ロッド21への牽引を緩め、再びロッド21を第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引して更に許容荷重の1.5倍程度まで段階的に牽引し、その後ロッド21への牽引を緩めた後、再び第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引した後、ロッド21への牽引を緩めるという手順で測定点P1~P9における変位量を計測した。図6を参照して明らかなように、測定点P1~P9での変位量は、牽引時の荷重値と同様の挙動で変化していた。
【0041】
そして第4実施例を用いた載荷試験においては、図7における荷重値に示すように、ロッド21を第二受圧板3の許容荷重まで段階的に牽引し、その後、ロッド21への牽引を緩め、再びロッド21を第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引して更に許容荷重の1.5倍程度まで段階的に牽引し、その後ロッド21への牽引を緩めた後、再び第二受圧板3の許容荷重程度まで一気に牽引した後、ロッド21への牽引を緩めるという手順で測定点P1~P9における変位量を計測した。図7を参照して明らかなように、測定点P1~P9での変位量は、牽引時の荷重値と同様の挙動で変化していた。
【0042】
このように上述した載荷試験においては、想定される最大限の力が繰り返し加わっても、第一受圧板2と第二受圧板3は加わる力と同様の挙動で変位していることから、第一受圧板2と第二受圧板3が押し潰されたり破損したりする不具合は認められず、意図した性能が発揮されると認められる。従って本発明に係る耐凍上受圧構造体を地盤に施行した際も、地盤を安定して補強できると予想できる。また第一受圧板2は、複数個を組み合わせたものでも効果が認められるため、第一受圧板2のサイズが大きくなる場合には小型のものを複数組み合わせてもよいことが分かる。
【0043】
次に、寒冷地の地盤に耐凍上受圧構造体を施行して行った実地試験について説明する。実地試験では、図8(a)~(c)に示した第5~7実施例の耐凍上受圧構造体を使用した。また比較のために、図8(d)に示した比較例の耐凍上受圧構造体も使用した。ここで第5実施例は、第二受圧板3として1辺が2358mmで厚みが131mmの鋼製スクエアタイプを使用し、第一受圧板2として1辺が2400mmで厚みが50mmのXPSを使用している。また第6実施例は、第二受圧板3として1辺が1623mmで厚みが106mmの鋼製スクエアタイプを使用し、第一受圧板2として1辺が2400mmで厚みが60mmのFFUを使用している。そして第7実施例は、第二受圧板3として1辺が2358mmで厚みが131mmの鋼製スクエアタイプを使用し、第一受圧板2として1辺が2400mmで厚みが60mmのFFUを使用している。なお比較例は、第一受圧板2は使用せずに、第二受圧板3として1辺が2358mmで厚みが131mmの鋼製スクエアタイプを使用している。そして第5~7実施例、及び比較例の耐凍上受圧構造体を寒冷地の地盤に対して図1に示す如きに施行し(比較例は、第一受圧板2は使用せずに第二受圧板3を地盤の表面に設置し)、冬期期間においてアンカー材の緊張力と第一受圧板2の直下における地中温度を計測した。なお第6実施例におけるアンカー材の緊張力は、計測器の不具合によって途中で計測不能となったため、図9においては不具合が生じる前までの結果を示している。
【0044】
図9は、実地試験で計測したアンカー材の緊張力の変化を示している。図9における横軸は測定日であり、縦軸はアンカー材の緊張力(アンカー材の頭部に取り付けたロードセルによる荷重値)であって、冬期期間の初期から終期に亘って計測をおこなっている。図9から明らかなように、比較例においてはアンカー材の緊張力が大きくなっていて、凍上の影響を受けていることが分かる。一方、第5~7実施例においては、同様の環境下であってもアンカー材の緊張力が比較例に比して小さくなっていて、凍上の影響が抑えられていることが分かる。特に第一受圧板2にXPSを使用した第5実施例は、第一受圧板2にFFUを使用した第6、7実施例に比してアンカー材の緊張力が小さくなっていて、凍上の影響がより抑えられることが分かる。
【0045】
図10~13は、実地試験で計測した第一受圧板2の直下における地中温度の変化(比較例においては第二受圧板3の直下における地中温度の変化)を示していて、図10は第5実施例、図11は第6実施例、図12は第7実施例、図13は比較例の結果である。また図10~13における横軸は測定日であり、縦軸は地中温度であって、冬期期間の初期から終期に亘って計測をおこなっている。なお図示した地中温度は、第一受圧板2が接する地盤表面(GL.0)、地盤表面から深さ20cm(GL.-20cm)、地盤表面から深さ50cm(GL.-50cm)での温度である。
【0046】
図13に示したように、比較例では地中温度が大きく低下している。特に、計測期間の中期からは地盤表面から深さ50cmでも0℃を下回ることが殆どであって、凍上の影響が大きくなっていることが分かる。一方、第5~7実施例は、図10~12と図13を比較して明らかなように、比較例に対して地中温度が高くなっている。すなわち第5~7実施例は、比較例に比して凍上の影響が抑えられることが分かる。また第一受圧板2にXPSを使用した第5実施例と、第一受圧板2にFFUを使用した第6、7実施例とを比較すると、第5実施例は計測期間初期段階での温度が高くなっていて温度低下が緩やかであるため、XPSの方がFFUよりも凍上の影響がより抑えられることが分かる。
【0047】
なお本発明の耐凍上受圧構造体による効果が確実に得られることを確認するべく、本発明者は寒冷地の地盤に耐凍上受圧構造体を施行して行う実地試験を複数回実施している。ここで図14は、図9の実地試験を行った冬期期間とは別の冬期期間に実施した実地試験に関し、アンカー材に加わる緊張力に関する試験結果を示した図である。また図15は、図9図14の実地試験を行った冬期期間とは別の冬期期間に実施した実地試験に関し、アンカー材に加わる緊張力に関する試験結果を示した図である。図14図15に示した実地試験では、図8(a)~(c)に示した第5~7実施例を用いて確認を行っている。なお第8実施例は、図8(b)と同様に、第二受圧板3として1辺が1623mmで厚みが106mmの鋼製スクエアタイプを使用しているが、第一受圧板2として1辺が2400mmで厚みが50mmのXPSを使用したものである。そして第5~8実施例の耐凍上受圧構造体を寒冷地の地盤に対して図1に示す如きに施行し、冬期期間においてアンカー材の緊張力を計測した。なお図9と同様に、図14図15においても横軸は測定日であり、縦軸はアンカー材の緊張力であって、冬期期間の初期から終期に亘って計測をおこなっている。
【0048】
図14図15に示したように、第一受圧板2にXPSを使用した第5、8実施例は、第一受圧板2にFFUを使用した第6、7実施例に比してアンカー材の緊張力が小さくなっていて、XPSの方がFFUよりも凍上の影響がより抑えられることが分かる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0050】
例えば説明は省略したが、本発明に係る耐凍上受圧構造体、及びその施工方法は、ロックボルト工に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0051】
1:耐凍上受圧構造体
2:第一受圧板
3:第二受圧板
4:定着具
10:地盤
11:挿入孔
12:アンカー材
13:先端部
14:頭部
20:コンクリート反力台
21:ロッド
22:ポリエチレンフォーム
23:ロードセル
【要約】
【課題】従来に比して費用を抑えるとともに凍上による不具合を抑制することができる地盤改良体造成装置、及びその施工方法を提案する。
【解決手段】耐凍上受圧構造体1は、地盤10に定着されたアンカー材12の頭部14側に設けられるものであって、合成樹脂を含む材料で形成されていて頭部14を取り囲んだ状態で地盤10の表面に接する第一受圧板2と、金属製であって頭部14の周囲を取り囲んだ状態で第一受圧板2の表面に重ねられる第二受圧板3と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15