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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】炭化ケイ素セラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/569 20060101AFI20241209BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20241209BHJP
   C04B 41/80 20060101ALI20241209BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C04B35/569
C04B35/80 600
C04B41/80 Z
C04B41/87 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019518774
(86)(22)【出願日】2018-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2018018601
(87)【国際公開番号】W WO2018212139
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2017096885
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檜木 達也
(72)【発明者】
【氏名】柳川 翔平
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】小野 久子
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第10342580(DE,A1)
【文献】特表2006-514912(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063923(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093360(WO,A1)
【文献】特表2016-515994(JP,A)
【文献】特開2015-171985(JP,A)
【文献】特開2001-146492(JP,A)
【文献】SON T. Nguyen, et al.,Strength improvement and purification of Yb2Si2O7-SiC nanocomposites by surface oxidation treatment,Journal of American Ceramic Society,米国,2017年04月03日,Vol.100, No.7,PP.3122-3131,ISSN:0002-7820, DOI:10.1111/jace.14831
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/569
C04B 35/80
C04B 41/80-41/91
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
Wiley Online Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素セラミックスを製造する方法であって、
(1)分散媒中で炭化ケイ素形成原料、及び金属酸化物を分散する工程、
(2)工程(1)で得られた分散物を1400~1890℃で焼結する工程、
(3)工程(2)で得られた焼結物を1100~1700℃、酸化雰囲気で熱処理して、母材である炭化ケイ素セラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程、
を含むことを特徴とする、炭化ケイ素セラミックス(但し、希土類とケイ素のみからなる希土類ケイ化物を含有する炭化ケイ素セラミックスを除く)を製造する方法、
ここで、
当該表面改質層中、ケイ酸塩の含有量は50重量%以上であり、
当該炭化ケイ素セラミックスは、炭化ケイ素セラミックスの形成原料である金属酸化物を含有し、
当該金属酸化物は次の(ア)又は(イ)のみからなり、
(ア)酸化スカンジウム(Sc)、酸化イットリウム(Y)、酸化エリビウム(Er)、酸化イッテルビウム(Yb )及び酸化ルテチウム(Lu)からなる群から選ばれた一ならびにアルミナ(Al
(イ)酸化スカンジウム(Sc )、酸化イットリウム(Y )、酸化エリビウム(Er )、酸化イッテルビウム(Yb )及び酸化ルテチウム(Lu )からなる群から選ばれた一種、
当該金属酸化物が前記(ア)のみからなる場合、当該ケイ酸塩は次の(ウ)又は(エ)のみからなり、
当該金属酸化物が前記(イ)のみからなる場合、当該ケイ酸塩は次の(エ)のみからなる、
(ウ)スカンジウムシリケート(Sc Si )、イットリウムシリケート(Y SiO )、エリビウムシリケート(ErSiO )、イッテルビウムシリケート(Yb SiO )、イッテルビウムシリケート(Yb Si )及びルテチウムシリケート(LuSiO )からなる群から選ばれた一種ならびにケイ酸アルミニウム(Al SiO )、
(エ)スカンジウムシリケート(Sc Si )、イットリウムシリケート(Y SiO )、エリビウムシリケート(ErSiO )、イッテルビウムシリケート(Yb SiO )、イッテルビウムシリケート(Yb Si )及びルテチウムシリケート(LuSiO )からなる群から選ばれた一種
【請求項2】
前記表面改質層が、ケイ酸塩からなる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(3)が、工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材である炭化ケイ素セラミックスの表面にケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程である、請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物は次の(イ)のみからなり、前記ケイ酸塩は次の(エ)のみからなる、請求項1~3のいずれかに記載の方法
(イ)酸化スカンジウム(Sc )、酸化イットリウム(Y )、酸化エリビウム(Er )、酸化イッテルビウム(Yb )及び酸化ルテチウム(Lu )からなる群から選ばれた一種、
(エ)スカンジウムシリケート(ScSi)、イットリウムシリケート(YSiO)、エリビウムシリケート(ErSiO)、イッテルビウムシリケート(YbSiO)、イッテルビウムシリケート(YbSi )及びルテチウムシリケート(LuSiO)からなる群から選ばれた一種。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下「SiC」とも記す。)からなるセラミックス材料(以下「SiCセラミックス材料」とも記す。)は、軽量、耐熱性(高温強度)、耐摩耗性(高硬度)、化学的安定性(耐酸化、耐食性等)、高熱伝導率、低熱膨張率、低誘導放射化、低崩壊熱等の優れた物性を有する。航空宇宙分野ではエンジンにSiCセラミックス材料が採用されており、航空機素材にSiCセラミックス材料を用いる航空機開発が進められている。原子力分野では、水素爆発のリスクを下げることを目的に、燃料被覆管等へのSiCセラミックス材料の適用が検討されている。
【0003】
従来、セラミックス基材上に、希土類の硝酸水和物とテトラエトキシシランを出発物質として用いてゾル-ゲル法により成膜し、コーティングした皮膜を熱処理することにより、希土類シリケート皮膜を形成する技術が開示されている(特許文献1)。特許文献1では、セラミックス基材上に皮膜を形成させる為にゾル-ゲル法を採用しており、実際にはセラミックス基材として窒化ケイ素セラミックスを開示するのみである。しかし、特許文献1で開示されたゾル-ゲル法による成膜技術、或いは一般的なプラズマ溶射による成膜技術等では、十分に緻密な被膜を形成することができず、形成させた被膜とセラミックス基材(母材)との密着性が高くなく、その結果、被覆が剥がれて、耐環境特性が損なわれてしまうという問題が生じていた。
【0004】
そして、特許文献1の技術は、炭化ケイ素セラミックス基材が形成された後、その基材表面に希土類硝酸水和物とテトラエトキシシランを出発物資とするゾルーゲル法により、希土類シリケートからなる耐水蒸気腐食皮膜を形成する。この技術では、耐水蒸気腐食皮膜に剥離などの損傷が生じた場合、再度、損傷部分にゾルーゲル法を施す等、希土類シリケートの原料となる希土類金属成分を外部から供給しない限り、耐水蒸気腐食皮膜の自己修復は期待できない。
【0005】
本発明者らは、これまで、SiC相と、SiCに対して反応性の低い物質からなる相を含む多相構造のマトリックスと、該マトリックス中に配置されたSiC繊維を含むSiC繊維強化SiC複合材料(以下「SiC/SiC複合材料」とも記す。)を開発している(特許文献2)。
【0006】
このSiC/SiC複合材料は、SiC繊維と複合化することによってSiCセラミックスの靭性が改善されており、しかも、高温の酸化性雰囲気下においてもシリカの酸化膜の形成により酸化が抑制されることから優れた耐久性を有する。このSiC/SiC複合材料を用いても、高温水蒸気のようにシリカが反応してしまう環境において、耐久性を維持することについては検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-299948号公報
【文献】国際公開WO2016/093360A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優れた耐環境被覆を有するSiCセラミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の炭化ケイ素(SiC)セラミックスである。本発明のSiCセラミックスは、金属酸化物を含有し、ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、当該表面改質層が母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来するという特徴を有することから、表面改質層の破損が基材に達したとしても、外部から材料を供給することを要せずに新たな表面改質層を形成する自己修復性を発揮する。
【0010】
項1.
金属酸化物を含有する炭化ケイ素セラミックスであって、
ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、
当該表面改質層が母材である炭化ケイ素セラミックスの形成原料に由来する、
ことを特徴とする炭化ケイ素セラミックス。
【0011】
項2.
前記表面改質層が、ケイ酸塩を50重量%以上含む、前記項1に記載の炭化ケイ素セラミックス。
【0012】
項3.
前記ケイ酸塩を含む表面改質層が、前記母材である炭化ケイ素セラミックス表面付近に生成されている、前記項1又は2に記載の炭化ケイ素セラミックス。
【0013】
項4.
前記金属酸化物が、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化エリビウム(Er2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ルテチウム(Lu2O3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物である、前記項1~3のいずれかに記載の炭化ケイ素セラミックス。
【0014】
項5.
前記ケイ酸塩が、スカンジウムシリケート(Sc2Si2O7)、イットリウムシリケート(Y2SiO5)、エリビウムシリケート(ErSiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2SiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)及びルテチウムシリケート(LuSiO5)からなる群から選ばれた少なくとも一種のケイ酸塩である、前記項1~4のいずれかに記載の炭化ケイ素セラミックス。
【0015】
項6.
炭化ケイ素セラミックスを製造する方法であって、
(1)分散媒中で炭化ケイ素形成原料、及び金属酸化物を分散する工程、
(2)工程(1)で得られた分散物を焼結する工程、
(3)工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材である炭化ケイ素セラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程、
を含むことを特徴とする方法。
【0016】
項7.
前記表面改質層が、ケイ酸塩を50重量%以上含む、前記項6に記載の方法。
【0017】
項8.
前記工程(3)が、工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材である炭化ケイ素セラミックスの表面付近にケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程である、前記項7又は8に記載の方法。
【0018】
項9.
前記金属酸化物が、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化エリビウム(Er2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ルテチウム(Lu2O3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物である、前記項6~8のいずれかに記載の方法。
【0019】
項10.
前記ケイ酸塩が、スカンジウムシリケート(Sc2Si2O7)、イットリウムシリケート(Y2SiO5)、エリビウムシリケート(ErSiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2SiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)及びルテチウムシリケート(LuSiO5)からなる群から選ばれた少なくとも一種のケイ酸塩である、前記項6~9のいずれかに記載の方法。
【0020】
項11.
前記項1~5のいずれかに記載の炭化ケイ素セラミックスを母材とし、セラミックス繊維を含むことを特徴とするセラミックス繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【0021】
項12.
前記セラミックス繊維が、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれた少なくとも一種のセラミックス繊維である、前記項11記載のセラミックス繊維強化炭化ケイ素複合材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属酸化物を含有するSiCセラミックスは、優れた耐環境被覆を有する。本発明の金属酸化物を含有するSiCセラミックスは、ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、当該表面改質層が、母材である炭化ケイ素セラミックスの形成原料に由来するので、優れた自己修復性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のSiCセラミックスの製造方法の一態様を示す図である。
図2】実施例のYb2O3を含有する液相焼結SiCの熱処理後(1,350℃-24h)の比較を示す図である。
図3】実施例のYb2O3を含有する液相焼結SiCの熱処理後の組織(20w%材、1,350℃-24h)を示す図である。
図4】実施例のYb2O3を含有する液相焼結SiCの熱処理後の組成分析(20w%材、1,350℃-24h)を示す図である。
図5】実施例のYb2O3を含有する反応焼結SiCの熱処理後の組成分析(1,350℃-24h)を示す図である。
図6】実施例のYb2O3を含有する液相焼結SiC繊維強化複合材料の熱処理後の組成分析(1,500℃-100h)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1]SiCセラミックス
本発明炭化ケイ素(SiC)セラミックスは、
金属酸化物を含有するSiCセラミックスであって、
ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、
当該表面改質層が母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来する、
ことを特徴とする。
【0025】
本発明のSiCセラミックスは、母材に含まれるSiCの酸化により表面に形成されるシリカと含有されている金属酸化物との反応により、前記表面改質層が形成される。つまりその表面改質層の原料物質は母材であるSiCセラミックスに含有されていることから、自己修復性を発揮する。その自己修復性とは、その表面改質層が母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来するので、高温酸化や高温水蒸気などの実環境下での酸化雰囲気において表面改質層の破損が基材に達したとしても、外部から材料を供給することを要せずに、破損が生じた場所でSiCの酸化により生じる新たなシリカと含有されている金属酸化物の反応により、新たな表面改質層を形成するという効果である。
【0026】
本発明のSiCセラミックスは、後述する製造方法の通り、分散工程及び焼結工程を経た後、酸化熱処理工程により、母材に含まれるSiCがセラミックスの表面で酸化されてシリカ(SiO2)を生じる。ついで、このシリカ(SiO2)は、母材に含まれる金属酸化物(Yb2O3等)と反応して、セラミックスの表面付近にケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等のシリケート)の表面改質層を形成する。この様にして、母材であるSiCセラミックスの表面に、その成分をSiCセラミックス母材の形成原料を由来とする緻密なケイ酸塩を含む表面改質層が形成される。
【0027】
本発明のSiCセラミックスにおいて、表面改質層の形成原料は、主に、主材であるSiC、例えば添加する金属酸化物(Yb2O3、Y2O3等)等を含む。
【0028】
(1)炭化ケイ素(SiC)
後述する製造方法の通り、SiCセラミックスを形成するSiC成分としては、SiC粉末を用いることができる。また、反応焼結法を用いる場合は、SiC粉末、C粉末、Si粉末を混合して炭化ケイ素形成原料として用いる。
【0029】
(2)金属酸化物
金属酸化物は、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化エリビウム(Er2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ルテチウム(Lu2O3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物であることが好ましい。金属酸化物は、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)等がより好ましい。
【0030】
金属酸化物は、一種単独で用いてもよく、或いは、二種以上の物質を混合して用いてもよい。
【0031】
(3)ケイ酸塩を含む表面改質層
SiCセラミックスの表面改質層に含まれるケイ酸塩は、スカンジウムシリケート(Sc2Si2O7)、イットリウムシリケート(Y2SiO5)、エリビウムシリケート(ErSiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2SiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)及びルテチウムシリケート(LuSiO5)からなる群から選ばれた少なくとも一種のケイ酸塩であることが好ましい。
【0032】
ケイ酸塩は、イッテルビウムシリケート(Yb2SiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7)からなる群から選ばれた少なくとも一種の希土類元素のケイ酸塩、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)であることがより好ましい。また、ケイ酸塩として、マグネシウムシリケート等の各種シリケート、バリウム-ストロンチウムアルミノ珪酸塩(BSAS:barium - strontium aluminosilicate)等とすることも可能である。
【0033】
ケイ酸塩は、耐熱及び耐環境性に優れ、熱膨張係数が3~8[×10-6/K]の範囲にあることが好ましい。この熱膨張係数は、温度上昇によって物体が膨張する割合を温度あたりで示したものであり、JIS規格で単位は毎ケルビン(/K)である。
【0034】
ケイ酸塩は、一種単独となる場合もあり、或いは、二種以上となる場合もある。
【0035】
SiCセラミックスの表面改質層は、これを構成するケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)を含めて、母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来する。本発明のSiCセラミックスの耐環境を考えると、その表面改質層にはケイ酸塩が含まれていれば良い。表面改質層は、得られる炭化ケイ素セラミックスが耐熱及び耐環境性に優れるという点で、ケイ酸塩を50重量%以上含むことが好ましい。表面改質層に含まれるケイ酸塩の含有量の上限は、100重量%近い値である。この場合、表面改質層は、実質的に、ケイ酸塩からなる。表面改質層は、ケイ酸塩を50~100重量%含むことが好ましい。また、表面改質層は、ケイ酸塩を100重量%含むことが好ましいが、ケイ酸塩を50~80重量%含む態様であっても良い。
【0036】
後述する製造方法の通り、母材であるSiCセラミックスを熱処理することにより、SiCセラミックス表面付近(又は表面)にケイ酸塩を含む表面改質層が生成される。SiCセラミックスに対して、ケイ酸塩を含む表面改質層の形成量は、特に限定的ではないが、SiCセラミックス部材が使用される環境に応じて形成量は最適化される。SiCに対するケイ酸塩を含む表面改質層の厚さは、適用する部材により最適に設計される。ケイ酸塩を含む表面改質層の厚さを、例えば100μm程度に形成することも可能である。また、ケイ酸塩を含む表面改質層の厚さは、1~50μm程度である態様や、2~20μm程度である態様であっても良い。
【0037】
本発明のSiCセラミックスでは、表面の酸化により形成されるシリカ(SiO2)と材料内部の添加物(Yb2O3等)との反応により、ケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)を含む表面改質層が形成される。本発明のSiCセラミックスは、それらYb2Si2O7、Al2SiO5等のケイ酸塩を含む表面改質層を含み、ケイ酸塩は耐熱性及び耐環境性に優れるので、表面改質層により、優れた耐環境被覆を有し1,600℃程度の耐水蒸気性能を有する。
【0038】
[2]SiCセラミックスの製造方法
本発明の炭化ケイ素(SiC)セラミックスは、
(1)分散媒中で炭化ケイ素形成原料(SiC形成原料)、及び金属酸化物を分散する工程、
(2)工程(1)で得られた分散物を焼結する工程、
(3)工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材であるSiCセラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程、
を含むことを特徴とする方法により製造することができる。
【0039】
図1に、本発明のSiCセラミックスの製造方法の一態様を示す。
【0040】
(1)分散工程(試料作製工程)(1)
工程(1)では、分散媒中で、母材であるSiC形成原料及び金属酸化物を分散する。
【0041】
SiC形成原料は、液相焼結ではSiC粉末、必要に応じて、焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤を添加することによって、焼結温度が低い場合であっても、十分な破壊強度を付与することが可能となる。焼結助剤の添加量は、例えば、分散物に含まれるSiC(粉末状等)と金属酸化物(粉末状のYb2O3等)との原料粉末の合計100重量部に対して、0.1~25重量部程度とすればよい。焼結助剤の添加量を上記範囲とすることで、SiCに、良好にケイ酸塩(シリケート)の表面改質層を形成させることが可能である。
【0042】
反応焼結法ではSiC粉末、C粉末、Si粉末を用いることが好ましい。SiCとして、SiC粉末を用いる場合、その粒径は特に限定的ではない。SiC粉末の平均粒径は、0.02~20μm程度の微粉末を用いることが好ましい。SiCの種類は、特に限定的でない。SiC形成原料は、例えば、立方晶の結晶粉末であるβ-SiC粉末、六方晶系の結晶粉末であるα-SiC粉末等を用いることが好ましい。
【0043】
金属酸化物は、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化エリビウム(Er2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)及び酸化ルテチウム(Lu2O3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物であることが好ましい。
【0044】
金属酸化物は、希土類の金属酸化物が好ましく、例えば酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化エリビウム(Er2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、及び酸化ルテチウム(Lu2O3)からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属酸化物であることが好ましい。
【0045】
金属酸化物は、表面改質層を形成するケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)の原料となる。金属酸化物として、使用環境において安定な物質の粉末を用いることが好ましい。分散媒に、原料であるSiC(粉末状等)及び金属酸化物(粉末状のYb2O3等)を分散させて、分散物(スラリー)を形成する。分散媒として、水、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)等の有機溶媒を用いることが好ましい。分散媒中で、SiC形成原料と酸化物とを均一に分散させることができる。分散物(スラリー)中の原料(SiC及び金属酸化物)の濃度は特に限定的でない。分散物中の原料の濃度は処理が容易な濃度とすればよい。例えば、分散物中で、固形分量として、5~50重量%程度とすることが好ましく、10~30重量%程度とすることがより好ましい。
【0046】
(2)焼結工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた分散物(スラリー)を焼結(液相焼結等)し、SiCセラミックス焼結体を得る。
【0047】
焼結前に、分散物(スラリー)を所望の形状に成形し乾燥させる。乾燥温度及び乾燥時間は、適宜設定することで良い。乾燥時の雰囲気は、大気中で自然乾燥させてもよいし、真空乾燥であってもよい。
【0048】
焼結温度は、通常、1,400℃程度以上とすればよい。焼結温度は、十分な破壊強度を付与するためには、液相焼結法では1,700℃程度以上とすることが好ましい。焼結助剤を添加した場合には、焼結温度を低めに設定することが可能になり、例えば、1,600℃程度の焼結温度であっても、十分な破壊強度を付与することができる。焼結温度の上限については、SiC(母材)の耐熱温度とすればよい。
【0049】
反応焼結法の場合は、成型のために加圧しても良いが、焼結のためには特に加圧を必要としない。液相焼結法における焼結時の圧力については、特に限定的ではない。焼結時の圧力は、圧力が高い程、短時間で十分な強度を付与できる。通常、5MPa程度以上の圧力とすればよく、特に、10~30MPa程度の圧力とすることが好ましい。
【0050】
焼結時間は1時間程度であるが、部材の形状や大きさによって最適に設定される。焼結時の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気、又は還元性雰囲気が好ましい。
【0051】
(3)熱処理工程(表面改質層の形成工程)(3)
工程(3)では、工程(2)で得られた焼結体を熱処理して、母材であるSiCセラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる。
【0052】
ケイ酸塩は、形成原料として添加される金属酸化物に応じたケイ酸塩を生じる。例えば、金属酸化物の種類によってスカンジウムシリケート(Sc2Si2O7)、イットリウムシリケート(Y2SiO5)、エリビウムシリケート(ErSiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2SiO5)、イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)及びルテチウムシリケート(LuSiO5)が生成し、表面改質層を形成する。
【0053】
熱処理は、大気雰囲気、水蒸気雰囲気等の酸化雰囲気で熱処理することが好ましい。熱処理温度は、800~1,700℃程度が好ましく、1,100~1,500℃程度がより好ましい。熱処理時の圧力は、特に限定的ではない。熱処理時間は、100時間程度が好ましく、0.5~72時間程度がより好ましい。
【0054】
1,100℃程度以上の高い温度で加熱処理を行なうことで、下記の化学式(1)の様に下地のSiC(基材)表面が酸化されてシリカ(SiO2)を生じる。シリカ(SiO2)は、原料の酸化物(Yb2O3等)と、例えば化学式(2)で表される反応が生じ、ケイ酸(Yb2Si2O7、Yb2SiO5等のシリケート)組成の皮膜が形成される。
【0055】
本発明のSiCセラミックスの自己修復性を考えると、その表面改質層にケイ酸塩が形成されていれば良い。表面改質層は、得られる炭化ケイ素セラミックスが耐熱及び耐環境性に優れるという点で、ケイ酸塩を50重量%以上含むことが好ましい。表面改質層に含まれるケイ酸塩の含有量の上限は、100重量%近い値である。この場合、表面改質層は、実質的に、ケイ酸塩からなる。表面改質層は、ケイ酸塩を50~100重量%含むことが好ましい。また、表面改質層は、ケイ酸塩を100重量%含むことが好ましいが、ケイ酸塩を50~80重量%含む態様であっても良い。
【0056】
焼結物を熱処理することによって、母材であるSiCセラミックス(基材)の表面付近(又は表面)にケイ酸塩を含む表面改質層を形成させることが好ましい。この表面改質層は緻密なケイ酸層であり、これは自己修復性を発揮する。
【0057】
SiC + 2O2 → SiO2 + CO2 (1)
Yb2O3 + 2SiO2 → Yb2Si2O7 (2)
【0058】
本発明のSiCセラミックスは、表面改質層が破損した時、下地のSiCの酸化により生じるシリカ(SiO2)とSiC中の金属酸化物(Yb2O3等)とが反応し、更にケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)の表面改質層が形成されて、その皮膜破損を自己修復する機能を有する。
【0059】
本発明のSiCセラミックスは、前記表面改質層が母材であるSiCセラミックス(基材)の表面付近(又は表面)に形成され、その形成原料に由来することから、つまりその表面改質層を形成するケイ酸塩の原料物質は全て母材であるSiCセラミックスに含有されていることから、自己修復性を発揮する。
【0060】
上記一連の工程は、モノリシックSiCセラミックスの製造工程である。
【0061】
[3]上記SiCセラミックスを母材とするセラミックス繊維強化複合材料
セラミックス繊維強化炭化ケイ素複合材料は、上記本発明のSiCセラミックスを母材とし、セラミックス繊維とを含む。そのSiCセラミックスとは、金属酸化物を含有するSiCセラミックスであって、ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、当該表面改質層が母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来するSiCセラミックスである。
【0062】
本発明のSiCセラミックスを用いて、セラミックス繊維強化複合材料を作製する場合、スラリーをシート状にしたグリーンシートを作製し、セラミックス繊維の織物を重ね合わせて積層物を形成することができる。また、セラミックス繊維複合材料を作製する場合、繊維の織物に前記スラリーを含浸させ、または前記スラリーを塗り込んだプリプレグシートと呼ばれるもの作製し、それを積層することで積層体を形成することもできる。これら積層物を最終的に焼結させることで、セラミックス繊維強化炭化ケイ素複合材料を作製することが可能である。
【0063】
セラミックス繊維
セラミックス繊維には、SiC繊維、炭素繊維(C繊維)、アルミナ繊維等が含まれる。
【0064】
SiC繊維として、Tyranno SA(宇部興産製)、Hi-Nicalon-S(日本カーボン製)等の商標名で市販されている高結晶性SiC繊維や、より結晶性の低い繊維も用いることが好ましい。SiC繊維として、特に高結晶性炭化ケイ素繊維を用いると、その耐熱温度が高い点で有利である。
【0065】
炭素繊維は、高温において強度低下が少なく、安価な点において有利な材料である。アルミナ繊維として、Nextel 312、 Nextel 440(住友スリーエム製)等の商標名で市販されているアルミナ繊維を用いることが好ましい。
【0066】
セラミックス繊維の形状は、用途や求める機械的強度に応じて適宜選択でき、例えば、セラミックス繊維の連続繊維である長繊維や、これを切断した短繊維等を用いることができる。複合材料の破壊靭性を向上させる目的で、長繊維を用いることが好ましい。長繊維とは連続した繊維であればよく、繊維長については特に限定はない。
【0067】
最終的に目的とする複合材料の長さと同程度の長さの繊維を用いることが好ましい。複合材料に十分な強度を付与できる場合、目的とする複合材料より短い長繊維も使用することができる。短繊維とは、長繊維を切断したものである。短繊維は、1~10mm程度の長さの繊維である。
【0068】
セラミックス繊維の直径は特に限定的でない。セラミックス繊維の直径は、直径5~200μm程度の繊維を用いることが好ましい。セラミックス繊維は、通常は、500~2,000本程度の繊維の束(バンドル)、又はこれを用いた編物、織物等の繊維構造物として供給される。本発明では、目的とする複合体の形状等に応じて、この様な束状のセラミックス繊維、セラミックス繊維の繊維構造物等を用いることができる。セラミックス繊維強化複合材料の製造の効率の点から、織物等の繊維構造物の状態のセラミックス繊維を用いることが好ましい。
【0069】
SiC/SiC複合材料
複合材料の構造は、原料として、本発明の粉末状SiCセラミックスを分散媒中に分散させたスラリーを用い、SiC繊維の原料として編物、織物等の繊維構造物を用いた場合には、SiCセラミックスからなる層と繊維構造物が積層した状態となり、SiCセラミックスの一部が、SiC繊維間に浸透した状態となる。
【0070】
SiC繊維として、束状のSiC繊維を用いた場合には、SiCセラミックス中にSiC繊維の束が埋め込まれた状態となる。複合材料は、SiC繊維の配置状態に応じて、本発明のSiCセラミックス中にSiC繊維が配置された強度を強化した部分の他に、SiC繊維が配置されていない非強化部分が存在してもよい。
【0071】
SiC繊維の含有量は、特に限定的ではなく、複合体に十分な破壊強度を付与できればよい。複合体の材料全体を基準として、SiC繊維の体積割合を10~90%程度とすることが好ましく、30~70%程度とすることがより好ましい。
【0072】
SiC/SiC複合材料は、SiCセラミックスとSiC繊維との結合強度が適度に低下する。SiC/SiC複合材料は、SiCセラミックスに亀裂が発生した場合に、亀裂がそのままSiC繊維に進行することが抑制され、繊維方向に沿って亀裂の進行を偏向させることができる。更に、SiC繊維との界面の滑りやSiC繊維の引き抜け等によって、擬延性と称される延性に類似した挙動を示し、高い破壊靱性を示す。
【0073】
[4]SiC/SiC複合材料の製造方法
SiC/SiC複合材料の製造方法は特に限定的ではない。SiC/SiC複合材料は、下記の液相焼結法、反応焼結法等によって、製造することができる。
【0074】
(1)液相焼結法
液相焼結法では、粉末状の原料を分散媒中に分散させてスラリーとし、これを所定の形状に配置したSiC繊維と混合して焼結に用いる混合体を得た後、この混合体を焼結させることによって、SiC/SiC複合材料を得ることができる。
【0075】
液相焼結法に用いる原料の内で、本発明のSiCセラミックスとして、粉末を用いればよい。本発明のSiCセラミックスには、上記説明の通り、金属酸化物を含有する。SiCセラミックスの粉末の粒径は特に限定的ではない。SiCセラミックスの粉末は、均一なスラリーが形成される範囲の微粒子であればよい。例えば、平均粒径が0.02~20μm程度の微粉末を用いることができる。
【0076】
粉末状の原料を含むスラリーは、分散媒として、水や、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)等の有機溶媒を用いることが好ましい。分散媒中に、SiCセラミックスの粉末を均一に分散させることによって得ることができる。スラリー中の粉末状原料の濃度については特に限定はない。処理が容易な濃度とすればよい。例えば、固形分量として、5~50重量%程度とすることが好ましく、10~30重量%程度とすることがより好ましい。
【0077】
上記した方法で調製されたスラリーとSiC繊維とを混合して焼結に用いる混合体を作製する。焼結に用いるための粉末状原料とSiC繊維との混合体を作製するための具体的な方法としては、SiC繊維を編物、織物等の繊維構造物として用い、上記スラリーをSiC繊維の繊維構造物に塗布して、含浸させることが好ましい。
【0078】
束状のSiC繊維を用いる場合には、粉末状の原料を分散させたスラリーを型に入れ、その中に束状のSiC繊維を任意の形状に配置することが好ましい。この場合、束状のSiC繊維は一方向に配置することに限定されず、交差する二方向に配置してもよく、それ以外の任意の方向に配置することが好ましい。
【0079】
粉末状原料を含むスラリーを乾燥させてシート状に成形し、これをSiC繊維からなる繊維構造物との積層体として、焼結に用いる混合体とすることが好ましい。束状のSiC繊維を用いる場合には、目的とする複合材料中のSiC繊維の存在状態に対応するように束状のSiC繊維を配列させ、配列させた状態の束状のSiC繊維の層と、シート状に成形したスラリー層とを積層して、焼結に用いる混合体とすることが好ましい。
【0080】
目的とする複合材料の厚さに応じて、シート状に成形したスラリー層とSiC繊維とからなる層を夫々2層以上の積層構造とすることが好ましい。この場合には、SiC繊維の配向する方向は、層毎に異なる方向とすることが好ましく、強度をより向上させることが可能である。
【0081】
上記した焼結前の混合体には、必要に応じて、焼結助剤として、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、アルミナ(Al2O3)等の粉末を添加することが好ましい。焼結助剤は、例えば、粉末状原料を含むスラリーに添加すればよい。これら酸化イットリウム(Y2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)及びアルミナ(Al2O3)は、前述の通り、金属酸化物として表面改質層の原料であり、焼結助剤としての役割も併せ持つ。焼結助剤の添加量は、例えば、スラリーに含まれるSiCセラミックスの原料粉末の合計100重量部に対して、0.1~25重量部程度とすることが好ましい。焼結助剤を添加することによって、焼結温度が低い場合であっても、十分な破壊強度を付与することが可能となる。
【0082】
上記した方法でSiCセラミックスとSiC繊維との混合体を作製した後、この混合体を加圧下で焼結させることによって、目的とするSiC/SiC複合材料を得ることができる。
【0083】
焼結温度は、通常、1,400℃程度以上とすることが好ましい。SiC/SiC複合材料に十分な破壊強度を付与する目的で、1,700℃程度以上とすることがより好ましい。焼結助剤を添加した場合には、例えば、1,600℃程度の焼結温度であっても、十分な破壊強度を付与することができる。焼結温度の上限については、強化するSiC繊維の耐熱温度とすればよく、高結晶性炭化ケイ素繊維を用いる場合は、2,000℃程度までとすることが好ましい。
【0084】
焼結時の圧力については、特に限定的ではなく、圧力が高い程、短時間で十分な強度を付与できる。通常、5MPa程度以上の圧力とすればよく、特に、10~30MPa程度の圧力とすることが好ましい。焼結時の雰囲気については、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。焼結時に炭素材料が酸化することを防止するために、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気下で焼結させることが好ましい。
【0085】
更に、熱処理を行い、表面改質層を形成することができる。
【0086】
(3)反応焼結法
反応焼結法では、炭素成分を含む粉末や樹脂、Si粉末、及び必要に応じてSiC粉末を含むマトリックス形成用原料をスラリーとし、これを所定の形状に配置したSiC繊維と混合して焼結に用いる混合体を得た後、シリコンの融点以上の温度に加熱して、炭素とSiを反応させることによって、SiC相のマトリックスが形成される。前記スラリーには、本発明のSiCセラミックスに含まれる金属酸化物を含有する。これにより、SiC繊維がマトリックス中に埋め込まれた状態となり、目的とするSiC/SiC複合材料を得ることができる。
【0087】
スラリーを作製するための原料の内で、炭素成分を含む粉末としては、通常、炭素粉末を用いればよいが、シリコンの融点以下で炭化する、フェノール樹脂等の樹脂を用いることもできる。炭素成分を含む粉末として樹脂を用いる場合には、シリコンの融点以上の温度に加熱する工程において、シリコンの融点である1,414℃に達する前に樹脂が炭化し、次いで、シリコンの融点に達した段階で樹脂の炭化した成分と熔融シリコンとが反応してSiCが形成される。
【0088】
マトリックス相形成用原料を含むスラリーには、更に、SiC粉末を添加してもよい。SiC粉末を添加することによって、SiC粉末が核となり、その周囲に反応によって生じたSiCが成長して、マトリックスが形成される。これにより、マトリックス相の形成効率を高めることができる。SiC粉末の添加量は、例えば、スラリーに含まれる、炭素成分を含む粉末、Si粉末、及び第二相を形成する原料粉末の合計100重量部に対して、0.1~50重量部程度とすればよい。
【0089】
炭素成分を含む粉末、Si粉末、SiC粉末及び金属酸化物の夫々の粒径やスラリーを形成する方法等については、液相焼結法と同様とすればよい。各成分の混合比率については、制限はないが、炭素成分に対してSiを過剰に加えることによって、緻密な構造のマトリックス相を形成することも可能である。反応焼結に用いるためのマトリックス相形成用原料とSiC繊維との混合体を作製する方法についても液相焼結法と同様とすればよい。
【0090】
上記した方法でマトリックス相形成用原料とSiC繊維との混合体を作製した後、この混合体をシリコンの融点以上の温度に加熱して、炭素とSiとを反応させることによって、SiCが形成され、SiC相と第二相を含む多相構造のマトリックスが形成される。
【0091】
加熱温度は、シリコンの融点である1,414℃程度以上とすればよいが、十分な破壊強度を付与するためには、1,450℃程度以上とすることが好ましい。加熱温度の上限については、強化するSiC繊維の耐熱温度とすればよく、高結晶性炭化ケイ素繊維を用いる場合は、2,000℃程度までとすることが好ましい。加熱時の雰囲気については、真空雰囲気とすることが好ましい。窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0092】
更に、熱処理を行い、表面改質層を形成することができる。
【0093】
本発明の表面改質技術による優れた耐環境被覆性能
本発明は、従来のPVD(物理蒸着)等とは全く異なる方法により、SiC表面に耐水蒸気特性に優れるケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)の表面改質層を形成する技術である。つまり、本発明のSiCセラミックスは、SiC(母材)がケイ酸塩(Yb2SiO5、Yb2Si2O7等)で表面改質されている。
【0094】
本発明のSiCセラミックスには、BSAS(1-xBaO-xSrO-Al2O3-2SiO2, 0≦x≦1)の耐水蒸気層を設けなくても、優れた耐高温水蒸気被覆を有するものも含まれる。本発明のSiCセラミックスは、SiCとケイ酸塩との熱膨張係数が近いものであれば、BSAS+Mullite(3Al2O3・2SiO2)等の熱膨張係数差緩和層を設けることなく、SiCとケイ酸塩とは熱膨張係数差が緩和されている。また、本発明のSiCセラミックスは、例えば、ケイ酸塩の主成分としてYb2Si2O7を含む場合には、SiCとケイ酸塩との熱膨張係数が近く、母材と表面改質層との間で熱膨張性係数差が小さいため、熱膨張係数差緩和層を設けなくても良い点に優れている。
【0095】
従来の被覆技術では、SiC基材に耐水蒸気被覆等の耐環境被覆とSiC基材を十分に結合させることができなかった。その為、従来、Si等の耐酸化被覆を兼ねた結合層を形成し、その上に結合層と耐環境被覆の熱膨張緩和層を形成して、耐環境被覆層を形成していた。本発明は母材の表面を直接表面改質層に変換させるため、結合層は必要としない。
【0096】
本発明のSiCセラミックスは、高コストで複雑な多層被覆を必要とせず、熱処理のみで、SiC母材の表面をケイ酸塩により改質させることができ、簡単であり低コストで調製できる。本発明のSiCセラミックスは、SiCの表面を直接酸化することでケイ酸塩の表面改質層(被覆層)を形成させるので、外部から付加的に表面改質層の追加することを必要としない。本発明のSiCセラミックスは、SiCとその表面のケイ酸塩(表面改質層)との間でSiO2層が形成されないよう制御することが可能であり、SiO2層が形成されない場合にはSiO2層に起因する亀裂の進展の恐れが無い。本発明のSiCセラミックスは、その表面改質層が剥離したり、その表面改質層に亀裂が入ったりしても、酸化により新たにケイ酸塩の表面改質層が形成されて、自己修復性を有する。
【0097】
本発明の表面改質技術は、金属酸化物(Yb2O3等)とSiO2(SiCと酸素との反応物)の反応によるものであるから、緻密な表面改質層を形成することができる。本発明のSiCセラミックスは、例えばYb2Si2O7、Al2SiO5等のケイ酸塩を含む表面改質層を含むと、1,600℃程度の耐水蒸気性能が期待される。本発明の表面改質技術は熱処理のみで行うことができ、BN粒子分散SiC複合材料(Yb2Si2O7)の組み合わせた場合には、簡便で低コストの耐水蒸気SiC複合材料を調製することが可能である。耐酸化特性に優れるBN粒子分散複合材料と酸化物(Yb2O3等)とを組み合わせることで、耐高温水蒸気材料として、BN粒子分散複合材料の表面にケイ酸塩(Yb2Si2O7)の表面改質層を形成することができる。
【0098】
従来のSiC複合材料では、耐酸化被覆のSi層や熱膨張係数緩和層が必要であり、亀裂が入った時のSi層の酸化により、被覆に剥がれが生じる問題があった。
【0099】
本発明のSiCセラミックスでは、表面改質層に含まれるケイ酸塩(Yb2Si2O7等)とSiCとの熱膨張係数が近いことから、従来必要であった熱膨張係数緩和層の中間層を省いても、熱膨張差から生じる表面改質層の界面剥離を生じ難い。また、耐酸化被覆を兼ねた被覆層とSiC母材を結合するための結合層であるSi層等も省いた状態で、本発明は表面の化学反応により直接表面改質層を形成することができる。
【0100】
本発明のSiCセラミックスは、SiCが母材の複合材料(C繊維強化SiC複合材料(C/SiC)、SiC繊維強化SiC複合材料(SiC/SiC)等)にも適用できる。例えば、SiC/SiCの母材に酸化物(Yb2O3等)を加えて、ケイ酸塩(Yb2Si2O7)を表面に形成させることで、優れた複合材料を作製することができる。この場合、母材全体でなくても、少なくとも母材表面付近だけ、酸化物(Yb2O3等)が含まれていれば良く、つまり母材の一部に酸化物(Yb2O3等)が含まれていれば良い。
【0101】
本発明の表面改質のみで形成される被覆層よりも厚い被覆が必要な場合、本発明の表面改質技術に従来の被覆技術を組み合わせることも可能である。本発明の表面改質技術を用いれば、表面改質材と同じ耐環境被覆であれば、熱膨張係数差も無いため直接被覆を施すことができ、結合層と熱膨張係数緩和層を省くことができる。この技術は、例えば、本発明の表面改質技術を用いて母材である炭化ケイ素セラミックスにYb2Si2O7を形成して、その上に既存の技術を用いてYb2Si2O7を被覆する態様である。この技術は、実用性の点で好ましい態様である。
【実施例
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0103】
実施例1
(1)分散媒中でSiC及び金属酸化物を分散する工程、(2)工程(1)で得られた分散物を焼結する工程、(3)工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材であるSiCセラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程、を経て、SiCセラミックスを製造した。
【0104】
金属酸化物:酸化イッテルビウム(Yb2O3
焼結条件:1,850℃、20MPa、1時間
熱処理条件:1,350℃、大気雰囲気下又は水蒸気雰囲気下、24時間
ケイ酸塩:イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7
【0105】
図2に、実施例のYb2O3(焼結助剤)を用いた液相焼結SiCの熱処理後(1,350℃-24h)の比較を示す。焼結助剤及び金属酸化物の一例として、Al2O3とYb2O3が含まれる。Yb2O3は、金属酸化物であり、液相焼結において焼結助剤としても機能し、表面改質としてその表面改質層を形成する。
【0106】
図2では、各実施例の表面改質層に含まれるケイ酸塩の含有量を記した。Yb2O3を6wt%含むSiCの分散物(Yb-SiC6)を液相焼結し、次いでこれを大気雰囲気下で熱処理を施すと、表面改質層に含まれるケイ酸塩(Yb2Si2O7)の含有量は、その画像解析に基づくと、50vol%(体積%)であった。また、水蒸気雰囲気下で熱処理を施した場合、表面改質層に含まれるケイ酸塩(Yb2Si2O7)の含有量は、その画像解析に基づくと、79vol%であった。
【0107】
Yb2O3を20wt%含むSiCの分散物(Yb-SiC20)を液相焼結し、次いでこれを大気雰囲気下で熱処理を施すと、表面改質層に含まれるケイ酸塩(Yb2Si2O7)の含有量は、その画像解析に基づくと、60vol%であった。また、水蒸気雰囲気下で熱処理を施した場合、表面改質層に含まれるケイ酸塩(Yb2Si2O7)の含有量はその画像解析に基づくと、53vol%であった。
【0108】
本発明のSiCセラミックスは、金属酸化物を含有し、ケイ酸塩を含む表面改質層を含み、当該表面改質層が母材であるSiCセラミックスの形成原料に由来する。その為、本発明のSiCセラミックスでは、実施例でその画像解析に基づき測定した「vol%(体積%)」を、「wt%(重量%)」に変換しても差し支えない。
【0109】
図3に、実施例のYb2O3(焼結助剤)を用いた液相焼結SiCの熱処理後の組織(20w%材、1,350℃-24h)を示す。図4に、実施例のYb2O3(焼結助剤)を用いた液相焼結SiCの熱処理後の組成分析(20w%材、1,350℃-24h)を示す。
【0110】
実施例2
(1)分散媒中でSiC、C、Si及び金属酸化物を分散する工程、(2)工程(1)で得られた分散物を焼結する工程、(3)工程(2)で得られた焼結物を熱処理して、母材であるSiCセラミックスにケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程、を経て、SiCセラミックスを製造した。
【0111】
金属酸化物:酸化イッテルビウム(Yb2O3
焼結条件:1,460℃、2時間
熱処理条件:1,350℃、大気雰囲気下、24時間
ケイ酸塩:イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7
【0112】
図5に、実施例のYb2O3金属酸化物を用いた反応焼結SiCの熱処理後の組成分析を示す。
【0113】
実施例3
(1)分散媒中でSiC、BN及び金属酸化物を分散する工程、(2)工程(1)で得られた分散物をSiC繊維に含侵させプリプレグシートを形成する工程、(3)工程(2)で得られたプリプレグシートを積層し焼結する工程、(4)工程(3)で得られた焼結物を熱処理して、母材であるSiC繊維強化複合材料にケイ酸塩を含む表面改質層を形成させる工程を経て、SiC繊維強化複合材料を製造した。
【0114】
金属酸化物:酸化イッテルビウム(Yb2O3
焼結条件:1,890℃、20MPa、1時間
熱処理条件:1,500℃、大気雰囲気下、100時間
ケイ酸塩:イッテルビウムシリケート(Yb2Si2O7
【0115】
図6に、実施例のYb2O3金属酸化物を用いた液相焼結SiC繊維強化複合材料の熱処理後の組成分析を示す。Yb2O3は、金属酸化物であり、液相焼結において焼結助剤としても機能し、表面改質としてその表面改質層を形成する。
【0116】
本発明の表面改質技術による優れた耐環境被覆性能
本発明のSiCセラミックスは、焼結体を更に熱処理(酸化処理)するのみで、表面改質が起こり、ケイ酸塩層(表面改質層)を形成することが可能である。本発明によれば、従来技術と比べて、多くの装置を設備する必要は無く、エネルギーやコストも低く抑えることが可能である。
【0117】
本発明のSiCセラミックスは、表面改質層を構成するケイ酸塩がSiCセラミックスのSiCに由来することから、従来技術のコーティング技術による成膜とは異なる技術である。本発明によれば、ケイ酸塩を含む表面改質層が、SiC(母材)との界面で、剥離が生じる恐れも無い。本発明の金属酸化物を含有するSiCセラミックスは、表面改質層が母材であるSiCセラミックスに由来することから、つまり母材であるSiCセラミックス由来のケイ酸塩層(表面改質層)であり、仮にケイ酸塩の表面改質層が剥離しても、自己修復が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6