(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】量子装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/06 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L29/06 601N
(21)【出願番号】P 2020102530
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】棚本 哲史
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-537239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/06
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースとドレインとゲートとを有し、ソース・ドレイン間の複数本のチャネル構造部を有するトランジスタ構造部と、
1つ以上の量子ドット構造部とを備え、
前記量子ドット構造部は、前記複数本のチャネル構造部によって挟まれており、
前記量子ドット構造部内には、電子もしくはホールが蓄積可能であり、
前記電子もしくは前記ホールのスピン状態を制御する磁場を発生させる量子ビット制御電流が流れる量子ビット制御電流ラインを備える量子装置。
【請求項2】
上記量子ドット構造部を挟む前記複数本のチャネル構造部を有する前記トランジスタ構造部が、マルチゲート型トランジスタである、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項3】
前記ゲートは、前記チャネル構造部の上部、横側および下側のいずれかに配置されている、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項4】
前記トランジスタ構造部が、前記ゲートとして、2つ以上のゲートを有する、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項5】
前記トランジスタ構造部は、基板部を有し、
前記量子ビット制御電流ラインが、前記量子ドット構造部より前記基板部に近い位置に配置されている、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項6】
前記量子装置が、前記量子ドット構造部として、少なくとも第1量子ドット構造部と、第2量子ドット構造部とを備え、
前記複数本のチャネル構造部には、前記第1量子ドット構造部と前記第2量子ドット構造部との間に配置された第1チャネル構造部が含まれ、
前記量子ビット制御電流ラインに量子ビット制御電流を流すことにより発生する磁場を利用することによって、前記第1量子ドット構造部内の電荷スピンの量子状態を変化させ、前記第1量子ドット構造部内の電荷スピンと前記第2量子ドット構造部内の電荷スピンとの間の相互作用を、前記第1チャネル構造部内の電荷を介した間接相互作用とする、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項7】
前記量子装置が操作モードを有し、
前記操作モードでは、前記量子ビット制御電流ラインの電流がゼロではない値に設定され、前記ゲートの電圧がゼロより大きい値に設定され、前記ソースの電圧がゼロではない値に設定され、前記ドレインの電圧がゼロではない値に設定され、少なくとも前記量子ビット制御電流ラインによって発生させられる磁場がゼロではない値に設定され、RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)相互作用が利用される、
請求項
6に記載の量子装置。
【請求項8】
前記量子装置が測定モードを有し、
前記測定モードでは、前記ゲートの電圧がゼロより大きい値に設定され、前記ソースの電圧が前記ドレインの電圧より低い値に設定され、ソース・ドレイン間の電流に基づいて、前記量子ドット構造部内の電荷スピンの状態が推定される、
請求項
7に記載の量子装置。
【請求項9】
前記量子ドット構造部内の電荷スピンが、前記量子ドット構造部内の電荷の状態に応じて異なったエネルギー準位を有することを利用し、
前記複数本のチャネル構造部に含まれる第1チャネル構造部と第2チャネル構造部とによって挟まれている前記量子ドット構造部内の電荷スピンの状態を、前記第1チャネル構造部に流れるソース・ドレイン間の電流の測定値に基づいて推定する、
請求項
1に記載の量子装置。
【請求項10】
前記量子ドット構造部が自然もしくは人工的に作成されたものであり、
前記量子ドット構造部のエネルギー準位がトラップ準位である、
請求項
1に記載の量子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータと量子アニーリング機械に関する研究開発が進んでいる。例えば、非特許文献1、2では、超伝導体を用いた量子ビットを50個以上作成した例が報告されている。また、非特許文献3は、量子アニーリング機械の実験例であり、この技術はすでに商用化されている。
量子コンピュータに関する技術としては、この例のように超伝導体を用いた関連技術の発展が進んでいる。これは量子状態を保つのに必要な時間(コヒーレンス時間)を抵抗のない超電導状態が実験的に比較的に実現しやすいからである。ただし、超伝導デバイスでは従来集積化が難しい。
【0003】
一方、現在のコンピュータはシリコンなどの半導体でできている。現在のスマートフォンなどに使われているトランジスタのゲート長はすでに15nm以下であり、今後5nm以下まで技術ロードマップが作られつつある。量子ビットを半導体技術で作ることができれば、これまで何十年にもわたって蓄積されてきた集積化に関する技術を利用できるので、高い信頼性と汎用性を兼ね備えた量子コンピュータ関連技術が実現できることが期待されている。
具体的に量子ビットを半導体で作成するには、電子やホールのスピンを使う方法(非特許文献4)と電荷量そのものを使う方法(非特許文献5)が提案されている。
図22に簡単なスピン量子ビットの模式図を記す。スピン量子ビットは外部磁場に対して、上向きスピン状態|↑>と下向きスピン状態|↓>が決まり、この軸も周りの任意の回転で、一般の量子重ね合わせ状態|Ψ>=a|↑>+b|↓>を実現する(a,bは任意の複素数)。ただし、スピンや電荷状態のコヒーレンスを保つのは一般的には難しいため、この分野の技術は超伝導に比べてこれからの進展が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2019/0393328号明細書
【文献】特表2011-512525号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Veldhorst, C. H. Yang, J. C. C. Hwang, W. Huang, J. P. Dehollain, J. T. Muhonen, S. Simmons, A. Laucht, F. E. Hudson, K. M. Itoh, A. Morello & A. S. Dzurak “A two-qubit logic gate in silicon” Nature volume 526, pages410-414(2015)
【文献】Frank Arute, Kunal Arya他 “Quantum supremacy using a programmable superconducting processor” Nature volume 574, pages505-510(2019)
【文献】M. W. Johnson他 “Quantum annealing with manufactured spins” Nature vol 473, pp.194-198 (2011).
【文献】Guido Burkard, Daniel Loss, and, David P. DiVincenzo “Coupled quantum dots as quantum gates” Physical Review B59, p.2070 (1999).
【文献】T Tanamoto, Y Higashi, J Deguchi “Calculation of a capacitively-coupled floating gate array toward quantum annealing machine” Journal of Applied Physics Vol.124, 154301(2018)
【文献】Ruoyu Li, Luca Petit1, David P. Franke, Juan Pablo Dehollain1, Jonas Helsen, Mark Steudtner, Nicole K. Thomas, Zachary R. Yoscovits, Kanwal J. Singh, Stephanie Wehner, Lieven M. K. Vandersypen, James S. Clarke and Menno Veldhorst “A crossbar network for silicon quantum dot qubits” Science Advances 06 Jul 2018: Vol. 4, no. 7, eaar3960:DOI: 10.1126/sciadv.aar3960
【文献】R. Xia, T. Bian, and Sabre Kais “Electronic Structure Calculations and the Ising Hamiltonian” arXiv:1706.00271
【文献】Yoshiaki Rikitake and Hiroshi Imamura “Decoherence of localized spins interacting via RKKY interaction” Phys. Rev. B 72, 033308 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来トランジスタを拡張して量子コンピュータもしくは量子アニーリング機械の基礎構成単位となる量子装置を提供することを目的とする。
詳細には、本発明は、従来トランジスタ構造をできる限り利用しつつ現状の工場施設で製造可能であって、簡便に測定を行うことができる量子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ソースとドレインとゲートとを有するトランジスタ構造部と、電荷が局在できる1つ以上の量子ドット構造部と、前記量子ドット構造部内の電荷の状態を変化させることができる量子ビット制御電流ラインとを備え、前記ゲートの長さが30nm以下である量子装置である。
【0008】
本発明の一態様は、ソースとドレインとゲートとを有し、ソース・ドレイン間の複数本のチャネル構造部を有するトランジスタ構造部と、1つ以上の量子ドット構造部とを備え、前記量子ドット構造部は、前記複数本のチャネル構造部によって挟まれており、前記量子ドット構造部内には、電子もしくはホールが蓄積可能であり、前記電子もしくは前記ホールのスピン状態を制御する磁場を発生させる量子ビット制御電流が流れる量子ビット制御電流ラインを備える量子装置である。
【0009】
本発明の一態様の量子装置では、上記量子ドット構造部を挟む前記複数本のチャネル構造部を有する前記トランジスタ構造部が、マルチゲート型トランジスタであってもよい。
【0010】
本発明の一態様の量子装置では、前記ゲートは、前記チャネル構造部の上部、横側および下側のいずれかに配置されていてもよい。
【0011】
本発明の一態様の量子装置では、前記トランジスタ構造部が、前記ゲートとして、2つ以上のゲートを有してもよい。
【0012】
本発明の一態様の量子装置では、前記トランジスタ構造部は、基板部を有し、前記量子ビット制御電流ラインが、前記量子ドット構造部より前記基板部に近い位置に配置されていてもよい。
【0013】
本発明の一態様の量子装置では、前記量子装置が、前記量子ドット構造部として、少なくとも第1量子ドット構造部と、第2量子ドット構造部とを備え、前記複数本のチャネル構造部には、前記第1量子ドット構造部と前記第2量子ドット構造部との間に配置された第1チャネル構造部が含まれ、前記量子ビット制御電流ラインに量子ビット制御電流を流すことにより発生する磁場を利用することによって、前記第1量子ドット構造部内の電荷スピンの量子状態を変化させ、前記第1量子ドット構造部内の電荷スピンと前記第2量子ドット構造部内の電荷スピンとの間の相互作用を、前記第1チャネル構造部内の電荷を介した間接相互作用としてもよい。
【0014】
本発明の一態様の量子装置では、前記量子装置が操作モードを有し、前記操作モードでは、前記量子ビット制御電流ラインの電流がゼロではない値に設定され、前記ゲートの電圧がゼロより大きい値に設定され、前記ソースの電圧がゼロではない値に設定され、前記ドレインの電圧がゼロではない値に設定され、少なくとも前記量子ビット制御電流ラインによって発生させられる磁場がゼロではない値に設定され、RKKY(Ruderman-Kittel- Kasuya-Yosida)相互作用が利用されてもよい。
【0015】
本発明の一態様の量子装置では、前記量子装置が測定モードを有し、前記測定モードでは、前記量子ビット制御電流ラインの主に電流がゼロに設定され、前記ゲートの電圧がゼロより大きい値に設定され、前記ソースの電圧が前記ドレインの電圧より低い値に設定され、ソース・ドレイン間の電流に基づいて、前記量子ドット構造部内の電荷スピンの状態が推定されてもよい。なお、高周波をかけ続けるときなどは前記量子ビット制御電流ラインの主に電流がゼロでない値を取っても構わない。
【0016】
本発明の一態様の量子装置では、前記量子ドット構造部内の電荷スピンが、前記量子ドット構造部内の電荷の状態に応じて異なったエネルギー準位を有することを利用し、前記複数本のチャネル構造部に含まれる第1チャネル構造部と第2チャネル構造部とによって挟まれている前記量子ドット構造部内の電荷スピンの状態を、前記第1チャネル構造部に流れるソース・ドレイン間の電流の測定値に基づいて推定してもよい。
【0017】
本発明の一態様の量子装置では、前記量子ドット構造部が自然もしくは人工的に作成されたものであり、前記量子ドット構造部のエネルギー準位がトラップ準位であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来トランジスタ構造をできる限り利用しつつ現状の工場施設で製造可能であって、簡便に測定を行うことができる量子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の量子装置の基本構造の一例を示す図である。
【
図2】従来のFINFET構造と第1実施形態の量子装置1との違いを示すための断面図である。
【
図3】第2実施形態の量子装置の一部の一例を示す図である。
【
図4】第3実施形態の量子装置の一例を説明するための図である。
【
図5】量子ビットのメモリーモードの一例を説明するための図である。
【
図6】RKKY相互作用とデコヒーレンスの関係の一例を示す図である。
【
図7】スピンフィルター効果の原理を示す図である。
【
図9】多数の伝導チャネルがある場合の測定方法の一例を示す図である。
【
図10】6つの量子ビット(N=5)を制御する場合の一例を示す図である。
【
図11】第8実施形態の量子装置の第1例を示す図である。
【
図12】第8実施形態の量子装置の第2例を示す図である。
【
図13】第9実施形態の量子装置の第1例を示す図である。
【
図14】第9実施形態の量子装置の第2例を示す図である。
【
図15】第9実施形態の量子装置の第3例を示す図である。
【
図16】第10実施形態の量子装置の一例を示す図である。
【
図17】第11実施形態の量子装置の第1例などを示す図である。
【
図18】第11実施形態の量子装置の第3例などを示す図である。
【
図19】第12実施形態の量子装置の一例を示す図である。
【
図20】第13実施形態の量子装置の適用例を示す図である。
【
図21】第14実施形態の量子装置の適用例を示す図である。
【
図23】本発明の量子装置を適用可能なナノワイヤー型のトランジスタの一例を示す図である。
【
図24】第15実施形態の量子装置の一例を示す図である。
【
図25】第16の実施形態の等価回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の量子装置の実施形態を説明する前に、量子装置の構造、測定などに関する従来技術について説明する。
【0021】
(構造に関する従来技術)
電子スピンもしくはホールスピンを用いた量子ビットについては進展が遅れている。これはスピン間の相互作用が短距離なため、スピン間の距離を近づける必要がある。一方、スピンの状態を変化させるのに必要な磁場を発生する構造は極端に近づけることはできない。したがって、量子ビットが二つまでの実験は可能であったが、3つ以上の量子ビットについては実験が進んでこなかった。例えば非特許文献1の構造では3つ以上を近づけることは困難である。これは多数の量子ビットを集積化する上で障害となる。
【0022】
(測定に関する従来技術)
また、スピンを用いた量子装置には、スピン状態の測定過程にも難しい課題があった。スピン状態を測定するには電子回路が必要となるが、スピンは磁気的な性質であるが、通常の電子回路には直接、磁化に関する量を測定する機構がないため、磁気的性質を電荷状態に変換する必要があった。
具体的には、スピンブロッケイドと言われている方法などがある。これは量子ドットを一つ追加して、中の電子スピンの向きを固定すると、量子ビットから入ってくるスピンが上向き下向きかで、電子がブロックされたり流れたりすることを利用する方法である。ここにはスピンが同じ向きの電子が二つ同じエネルギー準位を占有できないというパウリの排他原理がもとになっている。
従来の方法では、このスピンブロッケイドの測定のために余分な電極と電流ラインが必要となる。例えば非特許文献1では、二つの量子ビットの測定に5個以上の電極が必要となっており、これは量子ビットを集積化する上で、やはり好ましくない。
【0023】
(製造費用)
さらに新規のデバイス構造は作成上に大きな課題が残る。非特許文献1、または非特許文献6などでは、新規の超微細構造が必要となる。現在のスマートフォンに用いられているシリコントランジスタのゲート長は16nm以下であり、チップ作成に1兆円を超えている。40nmでも4000憶円程度必要である。新しい微細構造である量子ビットには、巨額の開発費が必要となることが予想されるので、産業化には大きな障害である。従って、できるだけ従来の構造を用いることが望ましい。
【0024】
(量子アニーリング技術)
量子アニーリング技術は人工知能に関連して、最適化問題を解く手段として研究が進展している。まず、西森らが物理的な理論を展開し、カナダのD-waveの開発・販売で研究が加速した(非特許文献3)。量子アニーリングは、古典的なアニーリング計算手法を量子的に拡張したものであり、トラベルセールスマン問題などのいわゆるNP-hardの問題で、計算時間が短縮することが期待されている。まず問題をイジングハミルトニアンにマッピングする。この時点では古典的なイジングハミルトニアンとして次の式(1)のように表される。
【0025】
【0026】
(1)式において、最初の項がスピン間の相互作用の項であり、二番目の項は磁場の項(ゼーマン項)である。変数siは二値である(si=±1)。
量子アニーリング機械のモデルでは、式(2)のように、トンネリング項が加わる。
【0027】
【0028】
量子アニーリング機械の場合、変数は二値ではなく、パウリ行列σX,σZで表されている。最後のトンネリングの項はスケジュールにより、△(t→∞)→0となる様に調整し、計算結果を得る。ハミルトニアンの式(2)は、簡単な形をしているので様々な物理系で議論されてきたが、量子アニーリング機械として利用するためには、このハミルトニアンを自由に加工できることが必要である。つまり、相互作用のJijと磁場の項hjを自由に変化させることができる構成にする必要がある。
また、ハミルトニアンの相互作用部分が式(2)のようなイジング型ではなく、式(3)のようにハイゼンベルグ型の場合であるが、非特許文献7にあるように、通常のイジングハミルトニアンにマッピングすることができる。非特許文献7にあるように量子化学計算にも使うことができる。
【0029】
【0030】
以下、本発明の量子装置の実施形態について説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の量子装置1の基本構造の一例を示す図である。
図1に示す例では、第1実施形態の量子装置1が、基本構造として、例えばFINFET(Fin Field-Effect Transistor)構造を用いる。量子装置1は、トランジスタ構造部11(例えば通常のFINFET構造と同様に構成されたFINFET構造)と、電荷が局在できる量子ドット構造部12と、量子ビット制御電流ライン13とを備えている。
トランジスタ構造部11は、基板部1Tと、基板部1Tから
図1の上向きに延びているFIN形状部分とを有する。また、トランジスタ構造部11は、ソース1Sとドレイン1Dとゲート1Gとを有する。トランジスタ構造部11は、
図1に矢印で示す向きの電流が流れるソース・ドレイン間のチャネル構造部1Cを有する。ゲート1Gの長さは30nm以下である。
図1に示す例では、6本のチャネル構造部1C-0、1C-1、1C-2、1C-3、1C-4、1C-5が、チャネル構造部1Cに含まれている。
他の例では、6以外の任意の数(ただし複数)のチャネル構造部が、チャネル構造部1Cに含まれていてもよい。
【0032】
図1に示す例では、量子ドット構造部12内には、電子もしくはホールが蓄積可能である。量子ドット構造部12の材料としては、例えばポリシリコンなどの電荷を蓄積することができるものが用いられる。また、量子ドット構造部12は、人工的に作成されたものであっても、欠陥などの自然に作成されたものであってもよく、量子ドット構造部12のエネルギー準位がトラップ準位であってもよい。
図1に示す例では、5つの量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5が、量子ドット構造部12に含まれている。
他の例では、5以外の任意の数の量子ドット構造部が、量子ドット構造部12に含まれていてもよい。
【0033】
図1に示す例では、量子ドット構造部12-1がチャネル構造部1C-0、1C-1によって挟まれ、量子ドット構造部12-2がチャネル構造部1C-1、1C-2によって挟まれ、量子ドット構造部12-3がチャネル構造部1C-2、1C-3によって挟まれ、量子ドット構造部12-4がチャネル構造部1C-3、1C-4によって挟まれ、量子ドット構造部12-5がチャネル構造部1C-4、1C-5によって挟まれている。
量子ビット制御電流ライン13は、例えばCuなどによって形成されており、量子ドット構造部12内の電荷の状態を変化させることができる。具体的には、量子ビット制御電流ライン13には、電子もしくはホールを制御する磁場を発生させる量子ビット制御電流が流れる。
図1に示す例では、5つの量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5に対応する5本の量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5が、量子ビット制御電流ライン13に含まれている。量子ビット制御電流ライン13-1が主に量子ドット構造部12-1内の電荷の状態を変化させ、量子ビット制御電流ライン13-2が主に量子ドット構造部12-2内の電荷の状態を変化させ、量子ビット制御電流ライン13-3が主に量子ドット構造部12-3内の電荷の状態を変化させ、量子ビット制御電流ライン13-4が主に量子ドット構造部12-4内の電荷の状態を変化させ、量子ビット制御電流ライン13-5が主に量子ドット構造部12-5内の電荷の状態を変化させる。
他の例では、2本のチャネル構造部1Cによって複数の量子ドット構造部12が挟まれ、2本のチャネル構造部1Cに挟まれている複数の量子ドット構造部12内の電荷の状態が、1本の量子ビット制御電流ライン13によって変化させられてもよい(
図19参照)。
【0034】
図1に示す例では、
図1中に構成要素が記載されていない部分(つまり、
図1中の空間部分)が、例えばSiO
2などの絶縁体によって構成されている。
図1に示す例では、ゲート1Gが、チャネル構造部1Cの上部に配置されているが、他の例では、ゲート1Gが、チャネル構造部1Cの横側および下側のいずれかに配置されていてもよい。
【0035】
図1に示す例では、量子ビットである電荷スピンを入れる量子ビットもしくは、チャネル構造を挟んで設けられる。この量子ドット内に蓄積されたカウント可能な電子またはホールのスピンを量子装置1の基本ユニットである量子ビットとして用いる。ソースとドレイン間の伝導チャネルには絶縁膜を介してゲート電極(ゲート1G)が設置される。このゲート電極構造の上部に絶縁膜を介して、各量子ビットを制御する配線ライン(量子ビット制御電流ライン13)を設ける。また電荷は電子またはホールを意味する。ホールの場合、加える電極の極性が電子と逆になるなどするが説明としては同じなので、以下、主に電荷として記述する。
【0036】
量子ビットとなるのは電荷のスピンである。電荷のスピンの向きが量子状態(|↑>と|↓>)に対応する。電荷スピンの量子状態を変えるのは、外部磁場である。外部磁場は量子装置1の全体にかける静的な磁場と量子ビット制御電流ライン13に電流を流すことのより生じる動的な磁場の二種類を用いる。静的な外部磁場をかけると、スピンは向きによってゼーマン分離を起こす。例えば上向きの磁場がかけられているとき、スピンは磁場に沿って上向きに並びやすい。従って、上向きスピンのエネルギーが低く、下向きスピンのエネルギーは高くなる。これによりスピン状態を区別することができる。実験的には例えば1T(テスラ)から数T程度の磁場が用いられる。動的な磁場の大きさはアンペールの法則を用いて見積もることができる。
【0037】
図1に示す例では、FINFET構造(トランジスタ構造部11)のチャネル構造部1Cの間(チャネル構造部1C-0、1C-1の間、チャネル構造部1C-1、1C-2の間、チャネル構造部1C-2、1C-3の間、チャネル構造部1C-3、1C-4の間、およびチャネル構造部1C-4、1C-5の間)に、量子ドット構造部12(量子ドットもしくはトラップ準位)が埋めこまれる。
図1に示す量子装置1の作成方法としては、量子ドット構造部12が量子ドットである場合、従来のFIN構造(FIN形状部分)がシリコンなどの基板(基板部1T)上に生成された後、ポリシリコンなどの埋め込みエッチングによって、量子ドット構造部12が生成される。これらの生成には、例えばSide-wallを用いたパターニング技術が用いられる。
量子ドット構造部12としてトラップ準位を利用する場合、従来のFIN構造(FIN形状部分)がシリコンなどの基板(基板部1T)上に生成された後、FIN構造(FIN形状部分)の間にゲート1G用のゲート電極材料が注入される前に、層間絶縁膜層が生成され、自然発生的にできるトラップが、量子ドット構造部12として利用される。
または直接P(リン)、B(ボロン)などをFIN構造(FIN形状部分)の間に直接、イオン注入することによって、量子ドット構造部12が生成される。ゲート絶縁膜の生成後、FIN構造(FIN形状部分)に共通のゲート電極(ゲート1G)が生成される。層間絶縁膜層の生成後、動的磁場を制御する量子ビット制御電流ライン13(電流ライン構造)が形成される。これ以降は通常のFINFET構造作成プロセスと同じとなる。
【0038】
図2は従来のFINFET構造と第1実施形態の量子装置1との違いを示すための断面図である。
図2(A)が従来のFINFET構造の断面図である。ここではFIN(FIN形状部分)の数を6としているが、FINの数はこれより多くても構わないし、少なくても構わない。
図2(B)に第1実施形態の量子装置1の断面図を示す。
図2(A)(従来例)との違いはFIN(FIN形状部分)(チャネル構造部1C)の間に量子ビットとなる電荷スピンを保持する量子ドット構造部12(トラップ準位でも可能)と共通電極(ゲート1G)の上部に磁場を発生させる量子ビット制御電流ライン13を用いていることである。量子ビット制御電流ライン13は量子ドット構造部12内の電荷スピン状態を変化させるため、量子ドット構造部12の数と等しいことが望ましいが、多少少なくても構わない。以下、トラップ準位を含めて量子ドット構造部12という表現を使う。
図2(B)に示す例では、ゲート1Gがチャネル構造部1Cの上側および横側(左側および右側)に位置するため、トランジスタ構造部11が、トライゲート型(マルチゲート型)トランジスタである。
【0039】
本発明は、主にFIN構造がある程度の高さを持った場合について示すが、
図23に示すようなナノワイヤー型のトランジスタにも当てはまる。
図23は本発明の量子装置1を適用可能なナノワイヤー型のトランジスタの一例を示す図である。
図23に示す例では、量子装置1が、ソース1Sとドレイン1Dとゲート1Gとを有するトランジスタ構造部11と、電荷が局在できる1つ以上の量子ドット構造部(
図23には図示せず)と、量子ドット構造部内の電荷の状態を変化させることができる量子ビット制御電流ライン(
図23には図示せず)とを備えている。
詳細には、
図23に示す例では、量子装置1が、ソース1Sとドレイン1Dとゲート1Gとを有し、ソース・ドレイン間の複数本のチャネル構造部1C-1、1C-2を有するトランジスタ構造部11と、チャネル構造部1C-1、1C-2に挟まれている量子ドット構造部(
図23には図示せず)とを備えている。量子ドット構造部内には、電子もしくはホールが蓄積可能である。量子装置1は、電子もしくはホールを制御する磁場を発生させる量子ビット制御電流が流れる量子ビット制御電流ライン(
図23には図示せず)を更に備えている。
図23に示す例では、ゲート1Gがナノワイヤーのすべての面を囲むことができるので、トランジスタ構造部11が、全周型トランジスタである。
【0040】
[第2実施形態]
以下、本発明の量子装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0041】
図3は第2実施形態の量子装置1の一部の一例を示す図である。
図3に示す例では、量子装置1が、量子ドット構造部12として、少なくとも量子ドット構造部12-1、12-2とを備えている。また、チャネル構造部1Cには、量子ドット構造部12-1、12-2の間に配置されたチャネル構造部1C-1が含まれている。
FINFET構造では、ゲート1Gに電圧をかけるとソース・ドレイン間のチャネル構造部1C-1(電荷の伝導路)にゲート1Gの電界効果により電荷が集まり反転層を形成する。量子ビット間の相互作用(量子ドット構造部12-1、12-2間の相互作用)では、FINFET構造のチャネル構造部1C-1のうちのゲート1Gの近くの部分に電荷が集まり反転層を形成する。
量子ビット間の相互作用(量子ドット構造部12-1、12-2間の相互作用)はこのチャネル内の表面近くに集まってきた電荷を利用する。量子ドット構造部12-1とチャネル構造部1C-1との間の絶縁体、および、量子ドット構造部12-2とチャネル構造部1C-1との間の絶縁体は十分薄くする。例えば、絶縁体がシリコン酸化膜の場合、絶縁体の厚さは2nm以下とする。この場合、量子ドット構造部12-1とチャネル構造部1C-1との間、および、量子ドット構造部12-2とチャネル構造部1C-1との間には量子力学的なトンネリングが発生する。トンネリング現象を介して、チャネル構造部1C-1の両側にある二つの量子ドット構造部12-1、12-2内の電荷スピンは相互作用を形成する。これはRKKY(Ruderman Kittel Kasuya Yosida)相互作用といわれるものである。RKKY相互作用H
RKKYと、量子ドット構造部12-1のスピン演算子S
1と、量子ドット構造部12-2のスピン演算子S
2との関係は、次の式(4)のように表される。
【0042】
【0043】
量子ドット構造部12-1内のスピンと伝導チャネル(チャネル構造部1C-1)の電荷との間には、薄膜を通したトンネリングが起きる。また、量子ドット構造部12-2内のスピンと伝導チャネル(チャネル構造部1C-1)の電荷との間にも、薄膜を通したトンネリングが起きる。量子ドット構造部12-1内の電荷はこのトンネリングを介して、伝導チャネル(チャネル構造部1C-1)内電荷と相互作用し、伝導チャネル(チャネル構造部1C-1)内で伝導電荷は移動できるので、チャネル構造部1C-1の反対側にたどり着く。ここでまたトンネリングを介して別の量子ドット構造部12-2内のスピンと相互作用する。
このように伝導チャネル(チャネル構造部1C-1)内の電荷の移動を介した量子ドット構造部12-1、12-2内の電荷、つまり量子ビットの相互作用がRKKY相互作用の具体的な説明となる。ここで相互作用の強さは非特許文献8に示されている。
表2にそのパラメータ依存性を示す。
【0044】
【0045】
表2においるJ
d
RKKYが上記式(4)のRKKY相互作用の強さであり、d=1は伝導チャネル(チャネル構造部)が
図23に示すナノワイヤーなどの一元電子状態、d=2は通常のFINFET構造(
図1などに示すFINFET構造)のように二次元電子状態の場合を示す。非特許文献8に示されているように量子ビットとしてのコヒーレンスが十分に保たれることが示されている。
【0046】
図6はRKKY相互作用とデコヒーレンスの関係の一例を示す図である。詳細には、
図6は2次元のRKKY相互作用の強さをデコヒーレンスの強さで割ったものをゲート幅Wと電子密度n平方根の関数でプロットしたものである。縦軸がログなので、
図6より、例えばW=10nm、電子数1018個/cm
3で1000回以上の演算ができることを示す。また、RKKY相互作用は近藤効果と競合することもあるが設計値を選べばRKKY相互作用を利用することができる。
【0047】
つまり、第2実施形態の量子装置1では、
図3に示すように、量子ビット制御電流ライン13(
図1および
図2(B)参照)に量子ビット制御電流を流すことにより発生する磁場を利用することによって、量子ドット構造部12-1内の電荷スピンの量子状態を変化させる。また、量子ドット構造部12-1内の電荷スピンと量子ドット構造部12-2内の電荷スピンとの間の相互作用を、チャネル構造部1C-1内の電荷を介した間接相互作用とする。
【0048】
[第3実施形態]
以下、本発明の量子装置の第3実施形態について説明する。
第3実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第3実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0049】
図4は第3実施形態の量子装置1の一例を説明するための図である。詳細には、
図4(A)は二つの量子ドット構造部12-1、12-2の間のFIN構造(チャネル構造部1C-1)を表している。
図4(B)および
図4(C)はエネルギーバンドを用いた
図4(A)に示す量子装置1の動作の一例を示す。詳細には、
図4(B)は操作モード(manipulation mode)(RKKY相互作用がONの状態)を示しており、
図4(C)は測定モード(measurement mode)を示している。
表1は
図4(B)の操作モード、
図4(C)の測定モード等に対応する操作(operation)(モード)の一例を示している。
【0050】
【0051】
表1に示す例では、量子ビット(量子ドット構造部12-1、12-2)の操作モード(manipulation mode)において、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2(
図1参照)の電流I
ctrlがゼロではない値に設定され、ゲート1G(
図1参照)の電圧V
Gがゼロより大きい値に設定され、ソース1S(
図1参照)の電圧V
Sがゼロではない値に設定され、ドレイン1D(
図1参照)の電圧V
Dがゼロではない値に設定され、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2などによって発生させられる横磁場がゼロではない値に設定される。また、量子ビット制御電流ライン13以外の磁場発生手段(図示せず)によって発生させられる磁場(magnetic field)B
Zがゼロではない値に設定される。
量子ビット(量子ドット構造部12-1、12-2)の測定モード(measurement mode)では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2の電流I
ctrlがゼロに設定され、ゲート1Gの電圧V
Gがゼロより大きい値に設定され、ソース1Sの電圧V
Sが、ドレイン1Dの電圧V
Dより低い値に設定される。その結果、ソース・ドレイン間に電流が流れる。また、ソース・ドレイン間の電流に基づいて、量子ドット構造部12内の電荷スピンの状態が推定される。なお回路の対称性によっては電圧V
Sが電圧V
Dよりも高くても構わない。また、量子ビット制御電流ライン13以外の磁場発生手段(図示せず)によって発生させられる磁場(magnetic field)B
Zがゼロではない値に設定される。
量子ビット(量子ドット構造部12-1、12-2)のメモリーモード(memory mode)では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2の電流I
ctrlがゼロに設定され、ゲート1Gの電圧V
Gがゼロより大きい値に設定され、ソース1Sの電圧V
Sがゼロではない値に設定され、ドレイン1Dの電圧V
Dがゼロではない値に設定される。また、量子ビット制御電流ライン13以外の磁場発生手段(図示せず)によって発生させられる磁場(magnetic field)B
Zがゼロではない値に設定される。
【0052】
図4に示すように、静的な磁場をかけた状態で電子スピンは上向きと下向きで異なったエネルギー準位を取る。
図4に示す例では、例としてゲート長は30nm以下、量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2)のサイズも20nm以下を想定する。このように微細化された量子ドットでは電子が余計に量子ドットに入ろうとすると電荷同士のクーロン力が無視できない。
図4(B)および
図4(C)において、「U」はクーロンエネルギーの大きさを示している。量子ドットに二つ目の電子は量子ビットのエネルギー準位からU上のエネルギー準位を持つ。
【0053】
図4に示す例では、量子装置1の動作モードとして、表1に示したように、代表的には量子ビット(量子ドット構造部12-1、12-2)の操作モード(manipulation mode)と、量子ビットの量子状態を測定するモード(measurement mode)と、量子ビットに何もしないモード(メモリーモード)(memory mode)とがある。モードの違いは使用する量子ドット内のエネルギー準位の位置で区別される。
まず、量子ビットの状態を制御する場合は、チャネルのFermi面が下の量子ビットのエネルギー準位の近くにあるとする。このようにすれば、チャネル反転層の電子を介した上述したRKKY相互作用を利用することができる(
図4(B)に示す操作モード)。
図4(C)に示す測定モードでは、ゲート電圧をさらにかけ、チャネル内の電荷量を増やすことによりFermi面の位置を上昇させ、量子ドット内の上の電位を利用する。量子ドット内の上の二つの準位はスピン状態により異なって現れるので、量子ビットのスピン状態を測定することができる。
【0054】
図4などにおいて、△
Zは磁場によるゼーマンエネルギーの違いを示している。
図4(B)および
図4(C)における量子ドット構造部12-1、12-2の間の部分は、FIN構造(チャネル構造部1C-1)を示している。
図4(B)において、QD1(量子ドット構造部12-1)は上向きのスピン状態であり、QD2(量子ドット構造部12-2)は上向きのスピン状態である。
図4(B)に示す例では、QD1(量子ドット構造部12-1)用の制御電極(量子ビット制御電流ライン13-1)の電流と、QD2(量子ドット構造部12-2)用の制御電極(量子ビット制御電流ライン13-2)の電流とは互いに反対向きである。
図4(B)に示す例では、QD1とQD2との間のFINの部分でV
S=V
Dの制御が行われているのみならず、QD1の左側のFINの部分(
図4(B)には図示せず)でV
S=V
Dの制御が行われ、QD2の右側のFINの部分(
図4(B)には図示せず)でV
S=V
Dの制御が行われている。
図4(C)に示す例では、QD1とQD2との間のFINの部分でV
S<V
Dの制御が行われている。
図4に示す例では、測定モードと相互作用モードでFermi準位が異なる。また、測定のときは、量子ビットの有するエネルギー準位とは違う量子準位を利用する。
【0055】
図5は量子ビットのメモリーモードの一例を説明するための図である。
ゲート電圧V
Gをかけたチャネル(チャネル構造部1C(
図1参照))の両側には、量子ビットが形成されるが、両側の量子ビットは常に相互作用しあう形となる。量子ビットを単独で保持したい場合の例を
図5に示す。
図5に示す例では、保持する量子ビットはQD1とQD4となる。量子ビット間を独立に保持するためには間にQD2,QD3のような量子ドットを置く必要がある。
チャネルを通した量子ビット間のRKKY相互作用は同時にコヒーレンスを劣化させる。非特許文献8の式に基づき、RKKY相互作用の大きさをデコヒーレンス割合の大きさで割った関係を計算したのが、上述した
図6である。上述したように、
図6において、Wはゲート幅を示しており、nは反転層の電子数である。この割合が、一度のコヒーレンスが保たれている間の計算できる回数を示す。
量子ビットの向きを変えるのには磁場コントロールラインを用いる。例えば量子ビットから磁場コントロールラインまでの距離が20nmとして、量子ビットの位置に1mT(テスラ)の磁場を発生させるためには、式(6)に示す電流Iを流せばよい。式(6)において、μ
B=1.256563*10
-6mkgs
-2A
-2はシリコンの透磁率である。
【0056】
【0057】
[第4実施形態]
以下、本発明の量子装置の第4実施形態について説明する。
第4実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第4実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0058】
(量子アニーリング機械の操作)
量子アニーリング機械の操作は以下のようになる。まず量子アニーリング機械の場合は、量子コンピュータとして使うよりも強磁場(例えば10T(テスラ))で利用する。この時、RKKY相互作用は、式(3)に示すようにx,y,zの3方向に成分を持っている。非特許文献7に示すような変換を行うことによって式(3)のようなイジングハミルトニアンにマップすることで、組み合わせ最適化問題を解くことが可能になる。ここでJijは各問題に合わせて値を変化させる必要がある。Jijの大きさは表2に示すように各チャネルのFermiエネルギーでコントロールすることができる。各チャネルを独立して制御できるようにしているので、ゲート電極が共通でも、ソース・ドレインの電位を下げれば、それにつれて、電子のFermiエネルギーの位置も変化させることができる。つまり、表2に示すようにFermiエネルギーの位置の変化によりベッセル関数の中にFermi波数kFが入っているが、これはFermiエネルギーEFと式(5)に示す関係で結ばれている。
【0059】
【0060】
式(2)の横磁場はコントロール電流ライン(量子ビット制御電流ライン13)に電流を流して生成した磁場で制御する。つまり電流を流している間は量子トンネリングが行われ、電流がゼロになった場合に式(3)のハミルトニアンになるので、答えを得ることができる。
【0061】
[第5実施形態]
以下、本発明の量子装置の第5実施形態について説明する。
第5実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第5実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0062】
(測定過程1)
最後に電子スピンが上向きか下向きかを読み出す必要がある。本発明ではこれをFINFET構造の通常のチャネル電流で読み出す。本発明では量子ドット(量子ドット構造部12)がチャネル(チャネル構造部1C)と量子トンネリングを介して接続されている。チャネル(チャネル構造部1C)のソース1Sから入った電荷は、量子ドット(量子ドット構造部12)内の準位と電気的に結合するために、量子ドット(量子ドット構造部12)内のエネルギー準位の影響を受ける。量子ドット(量子ドット構造部12)内のエネルギー準位は磁場によって、スピンの向きによって異なったものとなるため、チャネル(チャネル構造部1C)の電流(ソース・ドレイン間の電流)によって、量子ドット(量子ドット構造部12)内のスピンの向きを測定できることになる。これをここではスピンフィルター効果と呼ぶ。
【0063】
図7はスピンフィルター効果の原理を示す図である。
図7(A)、
図7(B)、
図7(C)および(D)において、左側は量子ドットQD(量子ドット構造部12)を示しており、右側がチャネル(チャネル構造部1C)を示している。この場合、量子ビットを表すスピンのエネルギー準位よりクーロンエネルギー分だけ上のエネルギー準位を利用する。このことにより、測定による量子ビット状態の直接変化を和らげることができる。量子ビットのスピン状態によりチャネルを流れる電流を変化させるためには
図7に示したようにチャネルのFermi準位E
Fが量子ドット(量子ドット構造部12)内の磁場のより分離した電荷準位の間にあるのが好ましい。
【0064】
図7(A)および
図7(B)はスピン量子ビットが上向き状態|↑>のときの状態を示す。チャネル(チャネル構造部1C)内の電荷は上向きスピンと下向きスピンをもっていて、
図7(A)はチャネルの電荷が上向きの場合を示す。この場合、量子ドット(量子ドット構造部12)内にある電荷からUだけ上にあるエネルギー準位E
S↓はチャネルのFermi準位E
Fよりも下にあるので、チャネルの下向きスピンをもった電荷は量子ドットに入りやすい。一方、
図7(B)に示すように上向きスピンが量子ドットに入るためには、量子ドットの上の方の準位にはいるしかない。しかしこの準位はチャネルのFermi準位より上位にあるので、この電荷は量子ドットに入りにくい。
図7(B)および
図7(C)は量子ドット内の量子ビットの状態が下向き状態|↓>の場合を示す。この場合、これらの準位はチャネルのFermi準位より上位にあるので、これらの図に示したようにチャネル内の電荷はスピンが上向きでも下向きでも入りにくい。以上
図7(A)~
図7(D)から量子ビットの状態が上向き状態|↑>か下向き|↓>かで電流(ソース・ドレイン間の電流)が変化することになる。
【0065】
図8はこのようすと線形応答の理論である久保公式から電気伝導度を導き、シミュレーションしたものである。詳細には、
図8(A)はシミュレーション結果を示す図である。モデルとしては一般的なトンネリングハミルトニアンを用いており、式(7)のように記述される(yはチャネル方向を示す)。式(7)において、E2とE4が量子ドットのエネルギー準位、E
ki(i=1,3,5)が3つのチャネルを示す。
【0066】
【0067】
久保公式により導かれる電気伝導の式は、式(8)のように表される。
【0068】
【0069】
式8において、k
1=1,k
2=πnW
2はそれぞれチャネルの伝導が1次元と2次元の場合を示す(nは電子数)。e1,e3,e5はチャネル内の実効電子エネルギー、s
ijは自己エネルギー、Γ
iは量子ドットとチャネルのトンネリングの強さを示す。
図8(A)からわかるようにE2とE4の差が大きくなるに従い、コンダクタンスσ
yyが増加することがわかる。これはFINFETを測定装置に使う場合、二つの量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2)がちょうど浮遊ゲートとなり、その二つの浮遊ゲートの差動増幅回路と似た形なっているからである。上記は伝導チャネルが三つの場合であるが、伝導チャネルが多くても同じ原理が成り立つ。
【0070】
つまり、第5実施形態の量子装置1では、量子ドット構造部12内の電荷スピンが、量子ドット構造部12内の電荷の状態に応じて異なったエネルギー準位を有することが利用される。複数本のチャネル構造部1Cに含まれる例えばチャネル構造部1C-1とチャネル構造部1C-2とによって挟まれている量子ドット構造部12内の電荷スピンの状態が、例えばチャネル構造部1C-1に流れるソース・ドレイン間の電流の測定値に基づいて推定される。
【0071】
[第6実施形態]
以下、本発明の量子装置の第6実施形態について説明する。
第6実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第6実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0072】
(測定過程2)
図9は多数の伝導チャネルがある場合の測定方法の一例を述べたものである。伝導チャネル(チャネル構造部1C)に電流を流すためにはソース・ドレイン間に電位差を与えればよい(表1)。多数の伝導チャネル(チャネル構造部1C-0、1C-1、1C-2、…)がある場合、一本一本測定し、隣り合った量子ドット(量子ドット構造部12)内のエネルギー差を
図8に示すように測定してもいいが、この
図9に示すように、同時に一つ隔てた伝導チャネルを同時に測定する(VS<VD)とすることで、測定の効率化を図ることができる。もちろん、二つおきに諮っても良いし、それ以上の間隔をおいた伝導チャネルを同時にはかってよい。また一つの伝導チャネルの測定が終わる前に数ナノ秒などの間隔を置いて、連続して伝導チャネルを次から次へと測定してもよい。
二つの特定の量子ビットだけを測定したい場合、この量子ビットの間の伝導チャネルをONした電流とどちらの外側の伝導チャネルをONした場合の電流を比較するなど多様な測定方法を実現することができる。
【0073】
[第7実施形態]
以下、本発明の量子装置の第7実施形態について説明する。
第7実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第7実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0074】
(クロストーク)
量子ビット間の距離(例えば量子ドット構造部12-1、12-2間の距離)が近いので、問題となるのは量子ビット間のクロストークが発生する可能性がある。これを防ぐためには非特許文献6に示されているように、隣り合った電流ラインに流す電流の向きを反対方向にするという手法がある。N+1本の磁場コントロールライン(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、…)があり、それぞれに電流Ii(0≦i≦N)場合、基板(基板部1T)に対してrの距離にある量子ビットには、式(9)に示す磁場を発生させることができる。式(9)において、p=r/(r2+W2)1/2である。
【0075】
【0076】
n番目の量子ビットへの磁場だけを発生させたい場合、磁場に関して、式(10)に示す関係である必要があるが、この条件は、式(11)に示す電流条件で実現できる。
【0077】
【0078】
【0079】
図10は6つの量子ビット(N=5)(量子ドット構造部12-1~12-6)を制御する場合の一例を示す図である。
図10に示す例において、4番目の量子ビットにだけ磁場を発生されるためには、式(12)に示す電流を流せばよいことになる。
【0080】
【0081】
この場合、4番目の量子ビットが受ける磁場の大きさは、式(13)に示す大きさとなる。一般にnp2≠1(n=1,2,…)とL≠r(n-1)1/2である必要がある。
【0082】
【0083】
[第8実施形態]
以下、本発明の量子装置の第8実施形態について説明する。
第8実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第8実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0084】
図11は第8実施形態の量子装置1の第1例を示す図である。
図11に示す例では、量子ビット制御ライン(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3)は、通常のFINFET構造に追加する構造となる。従って、従来のソース・ドレインのビアなどの構造を避けて設置する必要がある。
図11に示す例では、量子装置1が、トランジスタ構造部11(例えば通常のFINFET構造と同様に構成されたFINFET構造)と、電荷が局在できる量子ドット構造部(
図11には図示せず)と、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3とを備えている。
トランジスタ構造部11は、基板部(
図11には図示せず)と、FIN形状部分とを有する。また、トランジスタ構造部11は、ソース1S-1、1S-2、1S-3とソース電極1SC-1、1SC-2、1SC-3とドレイン1D-1、1D-2、1D-3とゲート1Gとを有する。トランジスタ構造部11は、ソース1S-1とドレイン1D-1との間のチャネル構造部と、ソース1S-2とドレイン1D-2との間のチャネル構造部と、ソース1S-3とドレイン1D-3との間のチャネル構造部とを有する。
図11に示す例では、3本のチャネル構造部が量子装置1に含まれている。また、量子ビット制御電流ライン13-1に対応する量子ドット構造部と、量子ビット制御電流ライン13-2に対応する量子ドット構造部と、量子ビット制御電流ライン13-3に対応する量子ドット構造部とが、量子装置1に含まれている。
【0085】
図11に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1に対応する量子ドット構造部が、ソース1S-1とドレイン1D-1との間のチャネル構造部と、ソース1S-2とドレイン1D-2との間のチャネル構造部とによって挟まれている。
量子ビット制御電流ライン13-2に対応する量子ドット構造部は、ソース1S-2とドレイン1D-2との間のチャネル構造部と、ソース1S-3とドレイン1D-3との間のチャネル構造部とによって挟まれている。
図11に示す例では、ソース1S-1とドレイン1D-1との間に流れる電流と、ソース1S-2とドレイン1D-2との間に流れる電流と、ソース1S-3とドレイン1D-3との間に流れる電流とを互いに異ならせることができる。
【0086】
図12は第8実施形態の量子装置1の第2例を示す図である。
図12に示す例では、
図11に示す例と同様に、量子ビット制御ライン(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3)は、通常のFINFET構造に追加する構造となる。従って、従来のソース・ドレインのビアなどの構造を避けて設置する必要がある。
図12に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3が、屈曲させられているため、ソース電極1SC-1、1SC-2、1SC-3との干渉などを避けることができる。
図12に示す例では、
図11に示す例と同様に、量子装置1が、トランジスタ構造部11(例えば通常のFINFET構造と同様に構成されたFINFET構造)と、電荷が局在できる量子ドット構造部(
図12には図示せず)と、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3とを備えている。
トランジスタ構造部11は、
図11に示すトランジスタ構造部11と同様に構成されている。
【0087】
図12に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1に対応する量子ドット構造部と、量子ビット制御電流ライン13-2に対応する量子ドット構造部とが、
図11に示す例と同様に構成されている。
図12に示す例では、
図11に示す例と同様に、ソース1S-1とドレイン1D-1との間に流れる電流と、ソース1S-2とドレイン1D-2との間に流れる電流と、ソース1S-3とドレイン1D-3との間に流れる電流とを互いに異ならせることができる。
【0088】
[第9実施形態]
以下、本発明の量子装置の第9実施形態について説明する。
第9実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第9実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0089】
図13は第9実施形態の量子装置1の第1例を示す図である。
上部電極への接続部分のビアのソース・ドレインとゲート電極(ゲート1G)の間には、
図13に示す部分P(空間)および部分Q(空間)が存在する。この部分と磁場をコントロールする電極(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2)との間は電気的には寄生キャパシタンスが存在する。従って、磁場をコントロールする電極(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2)の電位を上下させると、それにつれて、チャネル(ソース・ドレイン間のチャネル構造部1C)の電位も上下することになる。チャネル(チャネル構造部1C)にはドレイン1Dの電位を下げることで電流が流れるので、この部分Qの電位を上げれば、電流が流れないことになる。このようにして、磁場をコントロールする電極(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2)の電位の上下で、チャネルの電流をON/OFFが可能となることから、
図13に示す例では、
図11および
図12に示す例と違い、ソース1Sとドレイン1Dを共通化している。これにより、量子装置1の作成コストを大きく削減することができる。
図13に示す例では、ソース電極1SCがソース1Sに接続され、ドレイン電極1DCがドレイン1Dに接続されている。
【0090】
図14は第9実施形態の量子装置1の第2例を示す図である。
図14に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1とチャネル構造部1C-0との間の寄生キャパシタンスと、量子ビット制御電流ライン13-1とチャネル構造部1C-1との間の寄生キャパシタンスとが利用され、量子ビット制御電流ライン13-2とチャネル構造部1C-1との間の寄生キャパシタンスと、量子ビット制御電流ライン13-2とチャネル構造部1C-2との間の寄生キャパシタンスとが利用され、量子ビット制御電流ライン13-3とチャネル構造部1C-2との間の寄生キャパシタンスと、量子ビット制御電流ライン13-3とチャネル構造部1C-3との間の寄生キャパシタンスとが利用され、量子ビット制御電流ライン13-4とチャネル構造部1C-3との間の寄生キャパシタンスと、量子ビット制御電流ライン13-4とチャネル構造部1C-4との間の寄生キャパシタンスとが利用され、量子ビット制御電流ライン13-5とチャネル構造部1C-4との間の寄生キャパシタンスと、量子ビット制御電流ライン13-5とチャネル構造部1C-5との間の寄生キャパシタンスとが利用される。
図14に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-5がlowに設定され、量子ビット制御電流ライン13-3、13-4がhighに設定される。また、チャネル構造部1C-0、1C-1、1C-4、1C-5がoffに設定され、チャネル構造部1C-2、1C-3がonに設定される。
【0091】
図15は第9実施形態の量子装置1の第3例を示す図である。
図13に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3が直線状であるが、
図15に示す例では、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3が屈曲させられている。
図15に示す例においても、磁場発生電極(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3)を利用して、FIN(トランジスタ構造部11のチャネル構造部)の電位を上げ、電流を遮断することができる。
【0092】
[第10実施形態]
以下、本発明の量子装置の第10実施形態について説明する。
第10実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第10実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0093】
図16は第10実施形態の量子装置1の一例を示す図である。詳細には、
図16は
図1に示すような量子装置1を複数用いて構成されるものの一例の平面図(二次元配置図)である。
量子ビット間の相互作用をRKKY相互作用で行うために、量子ビット間の位置を近くする必要がある。二次元的に量子ビット間を配置するためには、上述した共通ゲートの下に量子ビットを配置する以外に、
図16に示す例のように、異なったゲート間に共通のチャネルを設置し、縦方向の量子ビット間を接続する。量子ビット間が共通のチャネルで接続されれば、この例の限りでなく、二つ以上の量子ビットを接続し、量子演算を行うことができる。また、3次元構造としてもよい。
図16に示す例では、量子ドット構造部12を挟む複数本のチャネル構造部1Cを有するトランジスタ構造部11が、マルチゲート型トランジスタである。
つまり、
図16に示す例では、トランジスタ構造部11が、ゲート1Gとして、2つ以上のゲートを有する。
【0094】
[第11実施形態]
以下、本発明の量子装置の第11実施形態について説明する。
第11実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第11実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0095】
図17は第11実施形態の量子装置1の第1例などを示す図である。詳細には、
図17(A)は第1実施形態の量子装置1の一例(
図2(B)に示す例と同様のもの)を示しており、
図17(B)は第11実施形態の量子装置1の第1例を示しており、
図17(C)は第11実施形態の量子装置1の第2例を示している。
量子装置1の電極構造(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5)は共通ゲート(ゲート1G)の上に設置する
図17(A)が基本系であるが、
図17(B)に示すように量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)の下に埋め込むことができる。この場合、量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5による量子ビットの制御がより容易になる。また
図17(C)にように量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5を量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)の上に埋め込むことができる。この場合ゲート電極(ゲート1G)の量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)への影響を減らせる代わりに、チャネル(チャネル構造部1C-1、1C-2、1C-3、1C-4)の反転層の電子と量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)のトンネリングの強さがやや弱くなる。
【0096】
図17(B)に示す例では、量子ビット制御電流ライン13(13-1、13-2、13-3、13-4、13-5)が、量子ドット構造部12(12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)より基板部1Tに近い位置に配置されている。
【0097】
図18は第11実施形態の量子装置1の第3例などを示す図である。詳細には、
図18(A)は第11実施形態の量子装置1の第3例を示しており、
図18(B)は第11実施形態の量子装置1の第4例を示しており、
図18(C)は第11実施形態の量子装置1の第5例を示している。
図18は、FINFET構造の発展形として使われているナノワイヤー構造に適用した場合の実施例である。ここでは二段のナノワイヤー構造を記述しているが3つ以上のナノワイヤー構造でも同じである。
つまり、
図18(A)~
図18(C)に示す例では、チャネル構造部1C-0が二段のナノワイヤー構造によって構成され、チャネル構造部1C-1が二段のナノワイヤー構造によって構成され、チャネル構造部1C-2が二段のナノワイヤー構造によって構成され、チャネル構造部1C-3が二段のナノワイヤー構造によって構成され、チャネル構造部1C-4が二段のナノワイヤー構造によって構成され、チャネル構造部1C-5が二段のナノワイヤー構造によって構成されている。
図18(A)に示す例では、二段のナノワイヤー構造の一部(上段)が量子ビットと結合させられる。
図18(B)に示す例では、電流ライン(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5)が下段のナノワイヤー構造の横に設置される。
図18(C)に示す例では、磁場コントロールライン(量子ビット制御電流ライン13-1、13-2、13-3、13-4、13-5)の配線が上段のナノワイヤー構造と同じ層(
図18(C)の同じ高さ)に設置され、量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)が主に下段のナノワイヤー構造の間に埋め込まれている。
【0098】
[第12実施形態]
以下、本発明の量子装置の第12実施形態について説明する。
第12実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第12実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0099】
図19は第12実施形態の量子装置1の一例を示す図である。
図1に示す例では、1つの量子ドット構造部12-1がチャネル構造部1C-0、1C-1によって挟まれ、1つの量子ドット構造部12-2がチャネル構造部1C-1、1C-2によって挟まれ、1つの量子ドット構造部12-3がチャネル構造部1C-2、1C-3によって挟まれ、1つの量子ドット構造部12-4がチャネル構造部1C-3、1C-4によって挟まれ、1つの量子ドット構造部12-5がチャネル構造部1C-4、1C-5によって挟まれている。
一方、
図19に示す例では、2つの量子ドット構造部12-1がチャネル構造部1C-0、1C-1によって挟まれ、2つの量子ドット構造部12-2がチャネル構造部1C-1、1C-2によって挟まれ、2つの量子ドット構造部12-3がチャネル構造部1C-2、1C-3によって挟まれ、2つの量子ドット構造部12-4がチャネル構造部1C-3、1C-4によって挟まれ、2つの量子ドット構造部12-5がチャネル構造部1C-4、1C-5によって挟まれている。
図19に示す例では、量子ビットの部分の量子ドット(量子ドット構造部12-1、12-2、12-3、12-4、12-5)がチャネル(チャネル構造部1C-0、1C-1、1C-2、1C-3、1C-4、1C-5)に沿って二つずつ並べられている。量子ドットが二つ並ぶと二つの量子ドットの間のエネルギー準位は二つの元素からなる分子のように結合軌道と反結合軌道を取る。この場合、上記の外部磁場とかけなくて済むこともあるので、より制御が容易な量子コンピュータを完成させることができる。
【0100】
[第13実施形態]
以下、本発明の量子装置の第13実施形態について説明する。
第13実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第13実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0101】
図20は第13実施形態の量子装置1の適用例を示す図である。
図20に示す例では、第13実施形態の量子装置1としての量子ビットチップ(量子ビット部分)が極低温の冷凍機に入れられている。
図20に示す例は、最終的に室温のコンピュータ(通常LSI)で動かす場合の例であり、中間の低温のLSI部分(中間LSI)は量子ビット部分(量子ビットチップ)と通常コンピュータ部分(通常LSI)の橋渡しをする役目をもつLSIである。ここで低温とは例えば4Kから77Kぐらいを指す。
【0102】
[第14実施形態]
以下、本発明の量子装置の第14実施形態について説明する。
第14実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第14実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0103】
図21は第14実施形態の量子装置1の適用例を示す図である。
図21に示す例では、第14実施形態の量子装置1としての量子コンピュータの部分と制御回路LSI部分(制御用LSI)がバスラインで結ばれている。本発明の量子ビット(量子装置1)はFINFETなどのスマートフォンなどで使われている通常のトランジスタを利用している。従って、
図21に示すように、一般のLSIとの混載が可能であり、また量子コンピュータ部分(量子装置1)の制御を通常のLSI回路で行うことが多いので、バスで回路同士を接続する。
【0104】
上述した各例において、複数のFINの部分と、それらの間の絶縁体および量子ドット(ポリシリコン)とが作られる手法(順序)としては、例えば、複数のFINの部分の全体を作った後に絶縁体および量子ドット(ポリシリコン)を作る手法、複数のFINの部分を作りながら(つまり、FINを長くしていきながら)絶縁体および量子ドット(ポリシリコン)を並行して作る手法、それらの組み合わせの手法などがある。
【0105】
[第15実施形態]
以下、本発明の量子装置の第15実施形態について説明する。
第15実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第15実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0106】
図24は第15実施形態の量子装置1の一例を示す図である。
図24に示す例では、量子装置1が、
図1に示す例の量子装置1よりも更に小型化されている。詳細には、
図1に示す例では、通常のFINFETが量子装置1に用いられているのに対し、
図24に示す例では、通常のFINFETの伝導チャネル部分が新たな量子装置として用いられている。
つまり、
図24に示す例では、伝導チャネルICが通常のFINFETよりさらに小さくなり、チャネルのソースとドレインに囲まれた部分も量子ドットとなる。
図24には、2つの量子ドットと、2つの量子ドットを囲む3つの伝導チャネルとが示されている。
図24に示す例では、
図23に示すナノワイヤー型よりもさらに微細化が進められている。
図24では、(source1、量子ドット1,drain1), (source3、量子ドット3,drain3), (source5、量子ドット5,drain5)が、それぞれ、通常のFINFETが小さくなった状態を表している。
【0107】
[第16実施形態]
以下、本発明の量子装置の第16実施形態について説明する。
第16実施形態の量子装置1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様に構成されている。従って、第16実施形態の量子装置1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態の量子装置1と同様の効果を奏することができる。
【0108】
図25は第16実施形態の量子装置1の一例を示す図である。
図25に示す例では、
図4に示すようなチャネル部分と2つの量子ドット部分とが回路シミュレータとして記述されている。具体的には、量子ドット部分がフローティングゲートとして記述され、チャネル部分が2つのトランジスタとして記述されている。
【0109】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…量子装置、11…トランジスタ構造部、1S、1S-1、1S-2、1S-3…ソース、1SC、1SC-1、1SC-2、1SC-3…ソース電極、1D、1D-1、1D-2、1D-3…ドレイン、1DC…ドレイン電極、1G…ゲート、1C、1C-0、1C-1、1C-2、1C-3、1C-4、1C-5、1C-6…チャネル構造部、1T…基板部、12、12-1、12-2、12-3、12-4、12-5、12-6…量子ドット構造部、13、13-1、13-2、13-3、13-4、13-5、13-6…量子ビット制御電流ライン