(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】二次電池用負極、その製造方法およびそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20241209BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241209BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241209BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241209BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2020141431
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-07-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「Li金属負極の作製(銅箔上へのLi金属の圧延と各革新電池用表面皮膜制御)」委託研究、および令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「全固体電池を実現する接合プロセス技術革新」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】西川 慶
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-326252(JP,A)
【文献】特開2019-192628(JP,A)
【文献】特許第4465578(JP,B2)
【文献】特開2004-165097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/84
H01M10/00-10/39,10/36-10/39
H01M12/00-16/00
C23C2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に位置するリチウム金属膜と
を備え、
前記リチウム金属膜は、
20μm以上500μm以下の範囲の厚さを有し、25μm
以上40μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からな
り、
前記結晶粒は、<101>方向に優先配向している、二次電池用負極。
【請求項2】
前記リチウム金属膜は、0μm以上1.5μm以下の範囲の表面粗さを有する、請求項
1に記載の二次電池用負極。
【請求項3】
前記リチウム金属膜は、20μm以上
200μm以下の範囲の厚さを有する、請求項1
または2に記載の二次電池用負極。
【請求項4】
前記集電体は、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択される、請求項1~
3のいずれかに記載の二次電池用負極。
【請求項5】
前記リチウム金属膜上に無機化合物膜、有機化合物膜、カーボン膜、多孔質膜、および、これらの複合膜からなる群から選択される膜をさらに備える、請求項1~
4のいずれかに記載の二次電池用負極。
【請求項6】
集電体と、前記集電体上に位置し、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなるリチウム金属膜とを備える二次電池用負極の製造方法であって、
リチウム金属を溶融することと、
前記溶融したリチウム金属を集電体上に滴下することと、
金属板によって前記滴下したリチウム金属を前記集電体とともに圧することと
を包含する、方法。
【請求項7】
前記金属板は、リチウム金属と金属間化合物を形成しない金属からなる、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属板は、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記圧することは、前記金属板の自重によって圧する、請求項
6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記集電体は、さらなる金属板に固定されている、請求項
6~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
正極と負極と電解質とを備えた二次電池であって、前記負極は、請求項1~
5のいずれかに記載の二次電池用負極である、二次電池。
【請求項12】
前記電解質は、リチウムイオン導電性を有する、請求項
11に記載の二次電池。
【請求項13】
前記正極と前記負極との間にセパレータを有する、請求項
11または
12に記載の二次電池。
【請求項14】
前記正極は、空気極である、請求項
11~
13のいずれかに記載の二次電池。
【請求項15】
正極と負極と電解質とを備えた二次電池であって、
前記負極は、集電体と、前記集電体上に位置し、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなるリチウム金属膜とを備える二次電池用負極であり、
前記正極は、空気極である、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極、その製造方法およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、スマートフォン、ノートパソコン等のモバイルバッテリ、自動車、航空機等の車両用バッテリ、電力貯蔵システムにも利用されている。負極にリチウム金属を用いるリチウム二次電池は、リチウム金属が析出・溶解することで充放電を行うが、リチウム金属は、金属中最も軽い金属であることと、標準電極電位(酸化・還元反応を示す電位)が-3.045Vと非常に低いこととから、大きな重量密度と高い電圧を実現できるため、期待されている。
【0003】
このような負極に用いるリチウム金属膜(箔)は、押し出し・圧延といった塑性加工(例えば、特許文献1を参照)、溶湯を用いた圧延加工(例えば、特許文献2、3を参照)、真空蒸着(例えば、特許文献4)が知られている。しかしながら、いずれの技術も、リチウム金属膜の物性について検討されていない。
【0004】
一方、近年の高性能二次電池の需要の高まりにより、リチウムイオン二次電池の研究開発が盛んであるが、リチウム金属膜上に被膜を形成する、電解液を改良するなど、二次電池の負極としての特性の改善は行われているが、リチウム金属膜そのものを改善することはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭55-041841号公報
【文献】特開平02-190482号公報
【文献】特開平02-211970号公報
【文献】特開2019-163513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明の課題は、電池特性を向上させるリチウム金属膜を用いた二次電池用金属負極、その製造方法、および、それを用いた用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による二次電池用負極は、集電体と、前記集電体上に位置するリチウム金属膜とを備え、前記リチウム金属膜は、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなり、これにより上記課題を解決する。
前記リチウム金属膜は、20μm以上60μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなってもよい。
前記リチウム金属膜は、25μm以上40μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなってもよい。
前記リチウム金属膜は、0μm以上1.5μm以下の範囲の表面粗さを有してもよい。
前記結晶粒は、<101>方向に優先配向していてもよい。
前記リチウム金属膜は、20μm以上500μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記集電体は、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択されてもよい。
前記リチウム金属膜上に無機化合物膜、有機化合物膜、カーボン膜、多孔質膜、および、これらの複合膜からなる群から選択される膜をさらに備えてもよい。
本発明による上記二次電池用負極の製造方法は、リチウム金属を溶融することと、前記溶融したリチウム金属を集電体上に滴下することと、金属板によって前記滴下したリチウム金属を前記集電体とともに圧することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記金属板は、リチウム金属と金属間化合物を形成しない金属からなってもよい。
前記金属板は、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択されてもよい。
前記圧することは、前記金属板の自重によって圧してもよい。
前記集電体は、さらなる金属板に固定されていてもよい。
本発明による正極と負極と電解質とを備えた二次電池、前記負極が上記二次電池用負極であり、これにより上記課題を解決する。
前記電解質は、リチウムイオン導電性を有してもよい。
前記正極と前記負極との間にセパレータを有してもよい。
前記正極は、空気極であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二次電池用負極は、上述の特定の範囲の粒径を有する結晶粒からなるリチウム金属膜を用いるため、このようなリチウム金属膜を二次電池の負極に用いると、エネルギー損失を抑制し、電池特性が向上した各種二次電池を提供できる。
【0009】
本発明の二次電池用負極の製造方法は、高価な装置や特別な技術を不要とするので、汎用性に優れる。また、本発明の製造方法を採用すれば、大面積で二次電池用負極を提供できるため、実用化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明による二次電池用負極を構成するリチウム金属膜の細部を示す模式図
【
図3】本発明の二次電池用負極を製造する工程を示す模式図
【
図4】本発明のリチウムイオン二次電池を示す模式図
【
図5】例1のリチウム金属膜を製造するプロシージャを示す図
【
図9】例1のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図
【
図10】例2のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図
【
図11】例3のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図
【
図12】例4のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図
【
図13】例5のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図
【
図14】例1のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性を示す図
【
図15】例2のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の二次電池用負極およびその製造方法を詳述する。
【0012】
図1は、本発明による二次電池用負極を示す模式図である。
図2は、本発明による二次電池用負極を構成するリチウム金属膜の細部を示す模式図である。
【0013】
本発明による二次電池用負極100は、集電体110と、その上に位置するリチウム金属膜120とを備える。ここで、リチウム金属膜120は、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒210~230(
図2)からなる。このようにリチウム金属膜120の結晶粒の粒径に着目し、特定の範囲の粒径(平均粒径)を有する結晶粒からなるリチウム金属膜120を二次電池の負極に用いることにより、エネルギー損失を抑制し、電池特性を向上できることを本願発明者が初めて見出した。
【0014】
図2に示すように、リチウム金属膜120は、複数の結晶粒210、220、230からなる。
図2では、簡単のため、3種類の結晶粒のみを示すが、これに限らない。本明細書において、結晶粒の平均粒径は、電子線後方散乱回折(EBSD)測定装置に付属する画像解析ソフト(HKL CHANNEL5、HKL Tango、ver.5.12.72.0、オックスフォードインスツルメンツ株式会社)によって解析、算出される。
【0015】
結晶粒210~230の平均粒径の下限は、好ましくは20μm、さらに好ましくは25μm、平均粒径の上限は、好ましくは60μm、さらに好ましくは40μmである。結晶粒210~230の平均粒径の範囲は上記下限および上限から任意に設定可能であるが、例えば、20μm以上60μm以下の範囲の平均粒径とすることにより、二次電池の電池特性を向上できる。あるいは、25μm以上40μm以下の範囲の平均粒径とすることにより、二次電池の電池特性をさらに向上できる。このような粒径制御による二次電池の電池特性の向上は実験により見出された。
【0016】
図2に示すように、リチウム金属膜120は、好ましくは、複数の結晶粒210~230の中でも特定の方向に向いた結晶粒210が多く存在している。これにより、二次電池の特性を向上し得る。各結晶粒が優先配向しているか否かは、電子線後方散乱回折法(EBSD)による逆極点図(IPF)マップを測定すればよい。本願明細書においては、電子線後方散乱回折(EBSD)測定装置に付属する画像解析ソフト(HKL CHANNEL5、HKL Tango、ver.5.12.72.0、オックスフォードインスツルメンツ株式会社)を用いたIPFマップにおいて均一密度の倍数(MUD、Multiples of Uniform Density)が3以上となる方位があれば、各結晶粒はその方位に優先配向していると判断した。
【0017】
結晶粒210は、好ましくは、<101>方向に優先配向する。結晶粒210が<101>方向に優先配向すれば、二次電池の特性をさらに向上できる。
【0018】
リチウム金属膜120は、好ましくは、0μm以上1.5μm以下の範囲の表面粗さを有する。本発明のリチウム金属膜120は比較的平滑であるため、電流密度が均一化され、二次電池の特性を向上できる。さらに好ましくは、リチウム金属膜120は、0μm以上1μm以下の範囲の表面粗さを有する。これにより、二次電池の特性を向上できる。表面粗さは、レーザ顕微鏡により測定される。
【0019】
リチウム金属膜120は、好ましくは、20μm以上500μm以下の範囲の膜厚を有する。これにより負極として機能する。リチウム金属膜120は、さらに好ましくは、20μm以上200μm以下の範囲の膜厚を有する。これにより二次電池の特性を向上できる。
【0020】
集電体110は、リチウム金属と金属間化合物を形成しない任意の金属を使用できるが、例示的には、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択される。これらの金属板であれば、後述する製造方法において、リチウム金属膜120と反応することはない。中でも、Cu板やNi板を用いれば、二次電池用負極を安価に提供できるため、好ましい。
【0021】
集電体110は、好ましくは、1μm以上50μm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば、リチウム金属膜120を支持するとともに、電流をリチウム金属膜120に供給できる。
【0022】
リチウム金属膜120は、その上に、無機化合物膜、有機化合物膜、カーボン膜、多孔質膜、および、これらの複合膜からなる群から選択される膜を有してもよい。これらの膜は、活性なリチウム金属膜120に対して不活性であるため、リチウム金属膜120の表面におけるイオン濃度分布を均一にする機能を有し、局所的なリチウムの充電、デンドライトの生成を抑制し、二次電池の特性を向上し得る。また、選択する材料によっては、セパレートとしても機能し、リチウム金属膜120を保護し得る。
【0023】
無機化合物膜は、例えば、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、カリウム(K)、ケイ素(Si)、リン(P)、ホウ素(B)およびアルミニウム(Al)からなる群から少なくとも1種選択される元素の酸化物または硫化物の膜である。代表的には、Li2O、SiO2、P2O5、Li2S等がある。
【0024】
また、無機化合物膜は、ボロンナイトライド(BN)、硫化モリブデン(MoS2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、酸化亜鉛(ZnO)等であってもよい。
【0025】
有機化合物は、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、アルミニウムアルコキシド(alcone)、ナフィオン、ポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDA)、ポリ尿素(PolyUrea)、および、これらの誘導体からなる群から少なくとも1つ選択される高分子の膜である。
【0026】
カーボン膜は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバ、フラーレンまたはその誘導体、および、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなる群から選択されるカーボンの膜である。
【0027】
多孔質膜は、織布または不織布であるが、例示的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、および、アラミド樹脂からなる群から少なくとも1種選択される樹脂製、あるいは、ガラス繊維製である。これらはセパレータとして機能し得る。
【0028】
このようなリチウム金属層120上の膜は、好ましくは、50nm以上50μm以下の範囲の厚さを有する。上述した膜を複数重ねる場合には全体の厚さが50nm以上50μm以下の範囲となるようにすればよい。
【0029】
次に、本発明の二次電池用負極の製造方法を説明する。
図3は、本発明の二次電池用負極を製造する工程を示す模式図である。
【0030】
ステップS310:リチウム金属を溶融する。
ステップS320:ステップS310で溶融したリチウム金属を集電体上に滴下する。
ステップS330:金属板によって滴下したリチウム金属を集電体とともに圧する。
本願発明者は、単に、金属板を用いることによって溶融したリチウム金属を集電体とともに圧するだけで、
図1、
図2を参照して説明した二次電池用負極100が得られることを見出した。本発明の方法は、特別な技術や装置は不要であり、大面積化も容易であり、二次電池負極製造のコスト削減を可能にする。
【0031】
各ステップを詳細に説明する。
ステップS310において、リチウム金属の塊をリチウムとの反応性がなく、金属間化合物を形成しない金属るつぼに投入し、融点(180.5℃)以上の温度に加熱すればよい。例示的には、200℃以上300℃以下の温度範囲に加熱すればよい。加熱温度は低いため、特別な炉は不要であり、通常のホットプレート、雰囲気炉を使用できる。
【0032】
ステップS320において、集電体は、
図1を参照して説明した集電体を採用できる。滴下はステップS310後ただちに行うことが望ましい。溶融したリチウム金属の滴下によって、集電体が移動したり、集電体が波打ったりしないように、集電体をさらなる金属板に固定してもよい。このような金属板も、リチウム金属との反応性がなく、金属間化合物を形成しない金属であればよい。固定の方法は、テープ、接着剤等で止めればよい。
【0033】
必要に応じて、集電体およびさらなる金属板を加熱しておき、溶融したリチウム金属が集電体上で凝固するタイミングを制御するようにしてもよい。
【0034】
ステップS330において、金属板は、リチウム金属との反応性がなく、金属間化合物を形成しない金属を採用できる。例示的には、集電体と同様に、金属板は、銅(Cu)板、ニッケル(Ni)板、ベリリウム(Be)板、鉄(Fe)板、クロム(Cr)板、マンガン(Mn)板、モリブデン(Mo)板、ニオブ(Nb)板、タンタル(Ta)板、バナジウム(V)板、ジルコニウム(Zr)板、および、これらの合金板からなる群から選択される。
【0035】
ステップS330において、圧する方法は、好ましくは、単に、金属板の自重によって溶融したリチウム金属と集電体とを圧せばよい。これにより、急冷凝固が達成され、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなり、平滑な表面のリチウム金属膜が得られる。得られるリチウム金属の厚さは、溶融したリチウム金属の量、金属板の重さ等によって異なるが、例えば、5g~15gのリチウム金属を溶融し、300g~600gの金属板で圧した場合、100μm~400μmの範囲の厚さのリチウム金属膜が得られる。
【0036】
金属板を予め冷却しておいてもよい。これにより、急冷凝固を促進させ、粒径の小さな結晶粒からなるリチウム金属膜が得られる。例えば、冷蔵庫中で保管した金属板を使用したり、圧する前に金属板を液体窒素と接触させたりしてよい。
【0037】
このようにして集電体上にリチウム金属膜を備えた二次電池用負極が得られるが、リチウム金属膜上にさらに上述した無機化合物膜、有機化合物膜、カーボン膜、多孔質膜、これらの複合膜等を設けてもよい。
【0038】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の二次電池用負極を用いた二次電池について説明する。
【0039】
図4は、本発明のリチウムイオン二次電池を示す模式図である。
【0040】
本発明の二次電池400は、負極100、正極410、および、これらに挟まれた電解質420を備える。ここで、負極100は、
図1を参照して説明した本発明の二次電池用負極100であるため、説明を省略する。
【0041】
正極410は、集電体430とその上に位置する正極活物質440とをさらに備える。集電体430は、電流を供給可能なものであれば特に制限はないが、例示的には、ステンレス鋼、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、チタン、カーボンシート、酸化インジウムスズ(ITO)基板、酸化スズアンチモン(ATO)基板などを用いることができる。
【0042】
正極活物質440は、リチウムイオン二次電池において通常用いられる活物質を使用でき、例示的には、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムの三元系材料(NCM)、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウムの三元系材料(NCA)、マンガン酸リチウム(LMO)、リン酸鉄リチウム(LFP)、ケイ酸鉄リチウム(LFS)を使用することができる。具体的には、LiNi(CoAl)O2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.5O2、Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Ni、Mn)、Li1+xMn2-xO4、Li(MnAl)2O4、LiMn1.5Ni0.5O4、LiMnPO4、LiFePO4、LiCoPO4、Li2FePO4F、Li2FeSiO4等が挙げられる。
【0043】
正極活物質440は、必要に応じて、導電性材料、結着剤(バインダ)、増粘剤、分散媒を含んでもよい。導電性材料には、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、メソポーラスカーボン等を使用できる。バインダは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用できる。
【0044】
なお、正極410は、正極活物質440と必要に応じて導電性材料、バインダ、増粘剤、分散媒を混合し、集電体430上に塗布し、乾燥することによって得られる。
【0045】
電解質420は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば、特に制限はないが、好ましくは、溶媒、および、これに溶解するリチウム塩を含有する電解質溶液である。
【0046】
溶媒は、リチウムイオン導電性の通常用いられる溶媒を用いることができる。例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、などの環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)などの鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどの環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、プロピオン酸イソブチルなどの鎖状カルボン酸エステル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、イオン液体、水、これらの中から二種類以上を混合した溶媒を採用できる。
【0047】
リチウム塩は、リチウムイオン二次電池に通常用いられるリチウム塩を用いることができる。例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)[(CF3SO2)2NLi]、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムハロゲン化物を採用できる。
【0048】
図4には示さないが、負極100と正極410との間にセパレータを設けてもよい。セパレータは、多孔質膜は、織布または不織布であるが、例示的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイミド樹脂、および、アラミド樹脂からなる群から少なくとも1種選択される樹脂製、あるいは、ガラス繊維製である。
図1を参照して説明したように、負極100がリチウム金属膜上に多孔質膜を備えている場合には、セパレータを設ける必要はない。
【0049】
図4では、リチウム二次電池400を説明してきたが、正極410として空気極を用い、リチウム空気二次電池を提供することもできる。この場合、正極活物質440として、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、グラファイト、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、メソポーラスカーボン等の多孔質炭素材料を用いればよい。ここでも、多孔質炭素材料とともに、導電性材料、結着剤、増粘剤が添加されてもよい。多孔質炭素材料が自立可能であれば、集電体430を省略することができる。
【0050】
ポリエチレン、ポリカーボネート等のポリマー膜、あるいは、アルミニウム、ニッケル等の金属膜からなる外装体に、
図4に示す積層体を1以上封入し、コイン型、円筒型、角型、シート型などの形状を有する二次電池を提供できる。このような二次電池は、電子機器、自動車等の各種バッテリに利用され得る。
【0051】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0052】
[例1]
例1は、
図3の製造方法によってCu箔上にリチウム金属膜を形成し、二次電池用負極を製造した。
【0053】
図5は、例1のリチウム金属膜を製造するプロシージャを示す図である。
【0054】
リチウム塊0.8g(本荘ケミカル株式会社製)をニッケルるつぼに入れ、ホットプレートで300℃に加熱し、溶融させた(
図3のステップS310)。溶融したリチウム金属510を、Cu箔520(ニラコ製、100mm×120mm、厚さ0.02mm)の集電体上に滴下した(
図3のステップS320)。直ちに、Ni板530(15cm×15cm、重さ400g)の自重によって滴下したリチウム金属をCu箔510とともに圧した(
図3のステップS330)。なお、Cu箔520は、Ni板530によって圧した際に動かないよう、さらなるNi板540に固定された。
【0055】
このようにして得られた例1のリチウム金属膜560の外観を
図6に示す。また、例1のリチウム金属膜の表面を、電子線後方散乱回折(EBSD)検出器を備える走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製製、JSM-7800F)により観察した。得られた画像から平均粒径および膜厚を算出した。例1のリチウム金属膜の表面粗さを表面粗さ測定機(キーエンス製、VK-X200)によって測定した。これらの結果を
図7~
図9および表1に示す。
【0056】
次に、得られたCu箔上のリチウム金属膜を用いて、リチウム金属対称セルを製造し、その充放電特性を測定した。具体的な製造手順は以下である。得られたCu箔上のリチウム金属膜を2.0cm×3.0cmに型抜きし、電極とした。
【0057】
正極および負極として得られた電極を、セパレータとしてガラスセパレータ(Whatman製)を介してラミネートタイプ電池ケース内に積層し、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:1(v/v)で混合し、1mol/Lの濃度でLiPF6を溶解した電解液を注入して対称セル(例1の対称セル)を得た。電極はそれぞれ電源に接続された。
【0058】
このようにして得られた例1のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性を測定した。具体的には、室温下において、ドライルーム雰囲気中、電流値2.0mA/cm
2、カットオフ電位プラスマイナス0.5V、25分(3300秒)放電と25分(3300秒)充電とを100サイクル繰り返した。測定には、充放電試験機(北斗電工株式会社製、HJ1001D8)を用いた。結果を
図14に示す。
【0059】
[例2]
例2は、ロールツーロールによって得られたリチウム金属膜を用い、二次電池用負極を製造した。リチウム金属膜は、本城金属株式会社より入手し、圧延リチウムフォイル(厚さ200μm)であった。例2のリチウム金属膜を、例1と同様に、SEMで観察し、粒径および表面粗さを測定した。結果を
図10および表1に示す。
【0060】
例2のリチウム金属膜を、例1と同様のCu箔に貼り合わせ、電極とした。例1と同様に、対称セルを製造し、充放電特性を測定した。結果を
図15に示す。
【0061】
[例3]
例3は、押し出し・圧延加工したリチウム金属膜を用い、二次電池負極を製造した。リチウム金属膜を次のようにして得た。リチウム塊5g(本荘ケミカル株式会社製)を専用の押し出し機(株式会社スプリード製)、圧延機(テスター産業製)によって0.2mm厚さのリチウム膜を得た。この時の押し出し加工の速度は5mm/minであり、圧延加工は1段ロール方式であった。ロール素材はポリプロピレン、ロール間隔を0.05mmずつ狭めて加工を繰り返し所定の厚さのリチウム金属膜を得た。なお、ロール速度は60mm/minであった。
【0062】
このようにして得られた例3のリチウム金属膜を、例1と同様に、SEMで観察し、粒径および表面粗さを測定した。結果を
図11および表1に示す。例3のリチウム金属膜を用いて、例2と同様にして対称セルを製造し、充放電特性を測定した。
【0063】
[例4]
例4は、
図3の製造方法によってNi箔上にリチウム金属膜を形成し、二次電池用負極を製造した。
【0064】
Cu箔に代えてNi箔(竹内金属箔工業製、100mm×120mm、厚さ0.02mm)を用いた以外は、例1と同様であるため説明を省略する。このようにして得られた例4のリチウム金属膜を、例1と同様に、SEMで観察し、粒径および表面粗さを測定した。結果を
図12および表1に示す。例4のリチウム金属膜を用いて、例1と同様にして対称セルを製造し、充放電特性を測定した。
【0065】
[例5]
例5は、特許文献4にしたがって、Ni基板上に真空蒸着によりリチウム金属膜を形成した。このようにして得られた例5のリチウム金属膜を、例1と同様に、粒径および表面粗さを測定した。結果を
図13および表1に示す。
【0066】
以上の結果をまとめて説明する。
図6は、例1のリチウム金属膜の外観を示す図である。
図6によれば、
図3に示す方法によって、平滑な表面を有するリチウム金属膜が得られたことが分かった。図示しないが、例4のリチウム金属膜も同様の外観を示し、平滑な表面を有した。
【0067】
図7は、例1のリチウム金属膜のSEM像を示す図である。
図8は、例1のリチウム金属膜のFSD像を示す図である。
図7および
図8によれば、例1のリチウム金属膜は、数十μmの粒径を有する結晶粒からなることが分かる。図示しないが、例4のリチウム金属膜も、数十μmの粒径を有する結晶粒からなった。
【0068】
図9は、例1のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図である。
図10は、例2のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図である。
図11は、例3のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図である。
図12は、例4のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図である。
図13は、例5のリチウム金属膜のEBSDの結果を示す図である。
【0069】
図9、
図12および
図13は、それぞれ、(A)結晶粒マッピング像と(B)逆極点(IPF)マップとを示す。
図11および
図12は、測定領域に対して結晶粒数が小さく、IPFマップの解析は実施できなかったため、結晶粒マッピング像のみ示す。
【0070】
図9~
図13の結晶粒マッピング像によれば、例1~例5のリチウム金属膜は、複数の結晶粒からなることが確認された。結晶粒マッピング像から平均粒径および膜厚を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1によれば、
図3に示す本発明の方法によって得られた例1および例4のリチウム金属膜は、15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有することが分かった。一方、ロールツーロールや圧延加工による例2および例3のリチウム金属膜は、数百μm以上の大きな粒径を有する結晶粒からなり、蒸着による例5のリチウム金属膜は、15μmの小さな粒径を有する結晶粒からなった。なお、例1~例5のリチウム金属膜の表面粗さは、0(測定限界)μm以上1μm以下の範囲であった。
【0073】
図9(B)、
図12(B)および
図13(B)に示すIPFマップは、グレースケールで示すが、実際には、リチウム金属膜表面に対して垂直方向(Z軸方向)と垂直になっている結晶面の面指数を求め、カラーキーにしたがって表示されている。また、均一密度の倍数(MUD)の最大値が5に近いほど、配向していると言える。
【0074】
図9(B)および
図12(B)のIPFマップは、<101>方向に4に近い強度値を示した。一方、
図13(B)のIPFマップによれば、<101>方向の強度値は1.5を超える程度であった。このことから、
図3に示す本発明の方法によって得られた例1および例4のリチウム金属膜は、<101>方向に優先配向した結晶粒からなることが示された。
【0075】
図14は、例1のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性を示す図である。
図15は、例2のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性を示す図である。
【0076】
図中、横軸は時間、縦軸は電池セルの電圧を示す。
図14と
図15とを比較すると、例1のリチウム金属膜を用いることにより、充電反応(縦軸が0Vより下)、放電反応(縦軸が0Vより上)ともに、例2のリチウム金属膜を用いた対称セルに比べ電圧が小さく抑えられており、反応の進行に必要な過電圧が小さいことが分かった。図示しないが、例4のリチウム金属膜を用いた対称セルの充放電特性も例1のそれと同様であった。
【0077】
このことから、集電体上に15μmより大きく100μm以下の範囲の粒径を有する結晶粒からなるリチウム金属膜を備えた負極は、二次電池用の負極に有効であり、リチウムイオン二次電池を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の二次電池用負極は、特定の粒径を有するリチウム金属膜を用いることにより、優れた特性を有する各種二次電池を提供できる。このような負極は、真空装置など高価な装置を不要とし、大面積化も容易であるため、実用化に有利である。
【符号の説明】
【0079】
100 二次電池用負極
110、430 集電体
120 リチウム金属膜
210、220、230 結晶粒
400 リチウムイオン二次電池
410 正極
420 電解質
440 正極活物質