(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】皮膚癌又はその前癌病変治療用医薬用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20241209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241209BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241209BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241209BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20241209BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241209BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
A61K31/197
A61P35/00
A61P17/00
A61K45/00
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2020146700
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 新樹
(72)【発明者】
【氏名】船越 敦子
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】Veronique Mathieu et al,Neoplasia,2005年,Vol.7, No.10,pp.930-943
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレシストキニン受容体拮抗物質を有効成分と
し、
前記コレシストキニン受容体拮抗物質が、ロルグルミド、プログルミド、ロキシグルミド、デキシロキシグルミド、及びKSG-504からなる群より選択される1種以上であり、
皮膚癌又はその前癌病変の治療に用いられる、医薬用組成物。
【請求項2】
メラノーマ、有棘細胞癌、日光角化症、又は基底細胞癌の治療に用いられる、請求項1
に記載の医薬用組成物。
【請求項3】
皮膚癌又はその前癌病変の治療薬の候補化合物をスクリーニングする方法であって、
低分子化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、又はペプチドライブラリーに対して、コレシストキニン
A受容体に対する
結合試験を行い、コレシストキニンA受容体との解離定数(KD)がコレシストキニンよりも小さい物質を、前記候補化合物として選抜する、スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚癌又はその前癌病変の治療に用いられる医薬用組成物、及び皮膚癌又はその前癌病変の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚癌は、悪性細胞が生じる細胞によって、主に、有棘細胞癌(皮膚の扁平上皮癌)、基底細胞癌、悪性黒色腫(メラノーマ)に分類される。特に、メラノーマは、皮膚腫瘍の中でも悪性度が高く、5年生存率が低い腫瘍である。メラノーマの悪性度が高い原因の一つとして、高率に他臓器へ転移することが挙げられる。メラノーマは、病型により、末端黒子型、表在拡大型、結節型、及び悪性黒子型に分類される。日本では、末端黒子型が全体の約40%を占める。一方、米国では、全体の約60%が表在拡大型である。発癌には、BRAF等の遺伝子異常が関与しており、BRAF遺伝子変異が認められる患者が、日本人では全体の30%未満であるが、白人では全体の40~60%である。
【0003】
メラノーマの治療は、病変部を切除する外科療法が基本であるが、他臓器への転移が認められた場合は、薬物療法又はそれに加えて放射線療法が必要となる。メラノーマは、従来の抗がん剤に抵抗性を示すことが多かったが、2014年に、化学療法に加えて、ニボルマブ等の免疫チェックポイント阻害薬が上市され、次いでダブラフェニブ、トラメチニブ等の分子標的薬の新薬が実用化された。しかし、免疫チェックポイント阻害薬は、免疫関連副作用(immune-related adverse effect:irAE)と総括される自己免疫疾患を発症することがある。また、実用化された分子標的薬は、BRAF遺伝子変異を有する場合に適用が限られるため、BRAF遺伝子が変異していないメラノーマの治療では使用できない。そこで、これらの薬剤とは異なるメカニズムで効果を発揮し、副作用の少ない新規治療薬の開発が望まれている。
【0004】
コレシストキニン(CCK)はペプチドホルモンであり、その特異的受容体としては、CCKA受容体とCCKB受容体の2種類がある。CCK受容体は、主に消化管及び中枢神経系の細胞表面に存在しており、CCKは、胃液や胆汁、膵液の分泌を調節する作用を有する。このため、CCK受容体拮抗物質(CCK受容体アンタゴニスト)は、胃腸障害の治療薬の有効成分となり得る(特許文献1)。実際に、CCKA及びCCKBの両受容体に対する非選択的CCK受容体拮抗物質であるプログルミド(CAS No.:6620-60-6)の経口投与用製剤は、胃炎及び胃潰瘍を治療するために用いられていた。プログルミドは、経口投与以外にも、静脈内投与、腹腔内投与によっても、CCK受容体拮抗作用を発揮することが、動物実験により証明されている(非特許文献1)。
【0005】
CCKは膵臓腺房に対し栄養作用を有しており、CCKB受容体のリガンドであるペプチドホルモンのガストリンは、消化上皮に対し栄養作用を有している。これらの作用を利用して、プログルミドはこれらの消化器系腫瘍に対して抗腫瘍効果を奏する。実際に、マウスモデルを用いた研究により、プログルミドを全身投与することによって、膵癌及び結腸癌の成長が抑制されることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-539929号公報
【文献】特公平6-67832号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Makovec,et al.,Arzneimittel Forschung Drug research, 1987, vol.37, p.1265-1268.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、メラノーマをはじめとする皮膚癌又はその前癌病変の治療に用いられる新規な医薬用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の薬物とは異なるメカニズムをもつ新規薬剤を開発するために、メラノーマ細胞の増殖及び生存維持に関与する因子を探索した結果、CCK受容体拮抗物質がメラノーマ細胞の増殖抑制作用やアポトーシス誘導作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[1] コレシストキニン受容体拮抗物質を有効成分とし、
前記コレシストキニン受容体拮抗物質が、ロルグルミド、プログルミド、ロキシグルミド、デキシロキシグルミド、及びKSG-504からなる群より選択される1種以上であり、
皮膚癌又はその前癌病変の治療に用いられる、医薬用組成物。
[2] メラノーマ、有棘細胞癌、日光角化症、又は基底細胞癌の治療に用いられる、前記[1]の医薬用組成物。
[3] 皮膚癌又はその前癌病変の治療薬の候補化合物をスクリーニングする方法であって、
低分子化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、又はペプチドライブラリーに対して、コレシストキニンA受容体に対する結合試験を行い、コレシストキニンA受容体との解離定数(KD)がコレシストキニンよりも小さい物質を、前記候補化合物として選抜する、スクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る医薬用組成物は、コレシストキニン受容体拮抗物質を有効成分としており、従来のメラノーマ等の皮膚癌又はその前癌病変に対する治療薬とは作用機序が異なる新たな治療薬である。このため、本発明に係る医薬用組成物は、従来の治療薬に耐性のメラノーマ等に対する治療薬としても期待される。
また、本発明に係るスクリーニング方法により、当該医薬用組成物の有効成分の候補化合物を、効率よくスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】参考例1において、メラノーマ患者から採取された病変部の組織切片に対して、抗CCKA受容体抗体を用いて免疫染色を行って得られた染色像である。
【
図2】参考例1において、マウスメラノーマ由来B16細胞及びヒトメラノーマ由来A375細胞を、抗CCKA受容体抗体又は抗CCKB受容体抗体と蛍光標識した二次抗体とを用いて染色した後、フローサイトメーターを用いて分析した結果を示した図である。
【
図3】参考例1において、マウスメラノーマ由来B16細胞及びヒトメラノーマ由来A375細胞から抽出したRNAに対してRT-PCRを行い、CCKのmRNAのPCR増幅産物の電気泳動像である。
【
図4】参考例1において、ヒト扁平上皮癌由来のHSC-1細胞及びA431細胞を、抗CCKA受容体抗体又は抗CCKB受容体抗体と蛍光標識した二次抗体とを用いて染色した後、フローサイトメーターを用いて分析した結果を示した図である。
【
図5】実施例1において、ロルグルミドで処理したB16細胞(A)及びA375細胞(B)に対してWST-8試薬を用いたアッセイを行い、波長450nmの吸光度の測定結果を示した図である。
【
図6】実施例1において、ロルグルミド、プログルミド、又はロキシグルミドで処理したB16細胞に対してWST-8試薬を用いたアッセイを行い、波長450nmの吸光度の測定結果を示した図である。
【
図7】実施例1において、ロルグルミドで処理したB16細胞のCFSEの平均蛍光強度の測定結果を示した図である。
【
図8】実施例2において、ロルグルミドで処理して48時間培養したB16細胞(A)及びA375細胞(B)の、細胞全体に対する早期アポトーシス細胞と後期アポトーシス細胞の合計細胞数の割合(%)の測定結果を示した図である。
【
図9】実施例3において、ロルグルミドで処理して48時間培養したB16細胞の、カスパーゼ3/7活性の相対値(%)の測定結果を示した図である。
【
図10】実施例3において、カスパーゼ3特異的阻害剤であるZ-DEVD-FMKで前処理した後にロルグルミドで処理して48時間培養したB16細胞の、細胞全体に対する早期アポトーシス細胞と後期アポトーシス細胞の合計細胞数の割合(%)の測定結果を示した図である。
【
図11】実施例4において、細胞増殖を停止させた後にロルグルミドで処理したB16細胞の単層に傷をつけた後、当該傷を含む領域を、顕微鏡下で経時的に観察して得た透過光画像である。
【
図12】実施例4において、細胞増殖を停止させた後にロルグルミドで処理したB16細胞の単層に傷をつけた後に24時間培養した後の、当該傷の細胞間隙の相対面積(%)の測定結果を示した図である。
【
図13】実施例5において、B16細胞を皮下移植したマウスに、ロルグルミドを経時的に腫瘍内投与し、腫瘍体積(mm
3)の経時的変化を測定した結果を示した図である。
【
図14】実施例5において、B16細胞を皮下移植したマウスに、ロルグルミドを経時的に腫瘍内投与し、ロルグルミド投与開始から14日目における腫瘍重量(mg)の測定結果を示した図である。
【
図15】実施例5において、B16細胞を皮下移植したマウスに、ロルグルミドを経時的に外用投与(皮膚に塗布)し、腫瘍体積(mm
3)の経時的変化を測定した結果を示した図である。
【
図16】実施例5において、B16細胞を皮下移植したマウスに、ロルグルミドを経時的に外用投与し、ロルグルミド投与開始から14日目における腫瘍重量(mg)の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<医薬用組成物>
本発明に係る医薬用組成物は、CCK受容体拮抗物質を有効成分とし、皮膚癌又はその前癌病変の治療に用いられる。本発明に係る医薬用組成物が治療に用いられる皮膚癌としては、有棘細胞癌、基底細胞癌、メラノーマのいずれであってもよい。また、本発明に係る医薬用組成物が治療に用いられる皮膚癌の前癌病変としては、日光角化症等が挙げられる。本発明に係る医薬用組成物は、メラノーマ、有棘細胞癌、日光角化症、又は基底細胞癌の治療に用いられるものであることが好ましく、メラノーマの治療に用いられるものが特に好ましい。以降において、「皮膚癌又はその前癌病変」を、「皮膚癌等」と称することがある。
【0014】
後記実施例に示すように、CCK受容体拮抗物質は、メラノーマ細胞をはじめとする皮膚癌細胞又はその前癌病変細胞に対する増殖抑制作用、アポトーシス誘導作用、及び走化性(遊走能)抑制作用を有する。CCK受容体拮抗物質は、従来のメラノーマ等の治療薬とは異なり、CCK受容体を標的とする新規な作用機序に基づく抗腫瘍作用を奏する。このため、本発明に係る医薬用組成物は、BRAF遺伝子変異の有無にかかわらず、メラノーマ細胞をはじめとする皮膚癌細胞等に対する抗腫瘍効果を奏する。
【0015】
本発明において有効成分とするCCK受容体拮抗物質は、CCK受容体に対する拮抗作用を有する物質であれば、特に限定されるものではなく、競合的拮抗作用を有する物質であってもよく、非競合的拮抗作用を有する物質であってもよい。当該物質としては、低分子化合物であってもよく、核酸アプタマーであってもよく、ペプチドアプタマーであってもよく、抗体等のタンパク質であってもよい。
【0016】
本発明において有効成分とするCCK受容体拮抗物質は、CCKA受容体に対する選択的拮抗物質であってもよく、CCKB受容体に対する選択的拮抗物質であってもよく、CCKA受容体とCCKB受容体の両方に対して非選択的に作用する拮抗物質であってもよい。本発明において有効成分とするCCK受容体拮抗物質としては、CCKA受容体に対する拮抗作用を有する物質が好ましい。
【0017】
本発明において有効成分とするCCK受容体拮抗物質としては、CCK受容体拮抗作用を有する公知の物質の中から適宜選択して用いることができる。CCK受容体拮抗物質のうち、低分子化合物としては、例えば、プログルミド、ロルグルミド(CAS No.:97964-56-2)、ロキシグルミド(CAS No.:107097-80-3)、デキシロキシグルミド(119817-90-2)、スピログルミド(CAS No.:137795-35-8)、イトリグルミド(CAS No.:201605-51-8)、KSG-504(CAS No.:137005-17-5)、YM022(CAS No.:145084-28-2)、及びこれらの誘導体等が挙げられる。なかでも、プログルミドは、胃炎及び胃潰瘍を治療するための経口投与薬として広く使用されてきたものであり、安全に摂取可能なため好ましい。
【0018】
本発明に係る医薬用組成物は、CCK受容体拮抗物質を、その薬理学的に許容される塩として含有していてもよい。薬理学的に許容される塩としては、無機酸塩であってもよく、アミンのような塩基性部位を有する有機酸塩であってもよく、アルカリ塩であってもよく、有機塩であってもよい。
【0019】
本発明に係る医薬用組成物の有効成分としては、遊離のCCK受容体拮抗物質の溶媒和物、又はCCK受容体拮抗物質の薬理学的に許容される塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る医薬用組成物に含有させるCCK受容体拮抗物質の量は、皮膚癌等に対する治療上有効な量、すなわち、皮膚癌等に対する治療効果が得られるために十分な量であれば特に限定されるものではなく、皮膚癌の種類、投与経路、投与の形態(剤型)、1日当たりの投与回数、投与間隔、投与対象の生物種、性別、年齢、体重等を考慮して適宜決定される。
【0021】
本発明に係る医薬用組成物が、プログルミド等の現在又は過去に既に医薬品として承認を受けている薬剤を有効成分とする場合、投与経路、剤型、1回の投与における有効成分の投与量、投与間隔等の用法用量は、これらの薬剤が既に承認を得ている他の疾患に対する治療薬に準ずることができ、これらを改良してもよい。
【0022】
本発明に係る医薬用組成物の投与経路は、特に限定されるものではなく、経口投与、静脈投与、経皮投与、経腸投与、経鼻投与等、各種の投与経路の中から適宜選択することができる。本発明に係る医薬用組成物は、目的の投与経路等を考慮して、通常の方法によって、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤、徐放剤などの経口用固形剤、溶液剤、シロップ剤などの経口用液剤;貼付剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、スプレー剤、ローション剤、リニメント剤などの外用剤;注射剤、坐剤などに製剤化することができる。
【0023】
本発明に係る医薬用組成物に含まれるその他の成分としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等の薬理学的に許容される添加剤が挙げられる。また、当該医薬用組成物は、CCK受容体拮抗物質以外の他の有効成分を含有していてもよい。
【0024】
賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、デンプン、結晶セルロースなどのセルロース類、エリスリトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンなどが挙げられる。結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D-マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン(架橋ポリビニルピロリドン)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動化剤としては、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム化合物、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが挙げられる。溶解補助剤としては、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、トロメタモール、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤又は乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。等張化剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素などが挙げられる。安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロクレゾール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。矯味矯臭剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される甘味料、香料などが挙げられる。着色剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0025】
本発明に係る医薬用組成物は、皮膚癌等を発症している動物又は発症している疑いのある動物に対して投与される。当該医薬用組成物は、哺乳動物に投与されるものであることが好ましく、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物に投与されるものであることがより好ましく、ヒトに投与されるものであることがさらに好ましい。
【0026】
<皮膚癌等の治療薬の候補化合物をスクリーニングする方法>
メラノーマ細胞を始めとする皮膚癌細胞やその前癌病変細胞の細胞表面にもCCK受容体が発現しており、当該受容体の下流のシグナリングは、細胞増殖、アポトーシス、走化性等に関与している。このため、CCK受容体拮抗物質は、皮膚癌細胞等に対して増殖抑制作用、アポトーシス誘導作用、及び走化性抑制作用を有しており、抗腫瘍効果を奏する。そこで、CCK受容体に対する拮抗作用を有する物質を、皮膚癌等の治療薬の候補化合物として選抜することができる。
【0027】
CCK受容体拮抗物質は、例えば、各種の低分子化合物ライブラリー、核酸ライブラリー、ペプチドライブラリー等に対して、CCK受容体に対する結合試験を用いたスクリーニングを行うことにより選抜することができる。選抜された物質のうち、CCKよりもCCK受容体に対する結合親和性が高い、すなわち、解離定数(KD)が小さい物質は、メラノーマ細胞をはじめとする皮膚癌細胞等におけるCCK受容体の下流の細胞シグナリングをより効果的に競合阻害でき、皮膚癌等の治療薬の候補化合物として有望である。
【0028】
CCK受容体拮抗物質は、例えば、CCK受容体を発現しており、CCK刺激によって特定の物質が分泌される細胞を用いてスクリーニングすることもできる。例えば、胃体部壁細胞のように、CCK受容体が発現しており、CCK刺激によって胃酸分泌がなされる細胞を用いることができる。当該細胞をCCKと候補化合物を含有する培養培地で培養した場合の胃酸分泌量が、CCKのみを含有する培養培地で培養した場合の胃酸分泌量よりも明らかに少ない場合に、当該候補化合物をCCK受容体拮抗物質として選抜される。
【実施例】
【0029】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[参考例1]
メラノーマ細胞におけるCCKA受容体の発現を調べた。
【0031】
(1)メラノーマ病変部組織におけるCCKA受容体の発現
治療目的で採取したメラノーマ患者の病変部組織におけるCCKA受容体の発現を、免疫組織学的手法により調べた。具体的には、表在拡大型メラノーマ患者3名と末端黒子型メラノーマ患者3名からそれぞれ採取されたメラノーマ病変部の組織切片に対して、ウサギ抗CCKA受容体抗体(Invitrogen社製)を用いて免疫染色を行った。染色像を
図1に示す。図中、矢印で示した部位は、抗CCKA受容体抗体で染色された部位である。
図1に示すように、表在拡大型及び末端黒子型のメラノーマ病変部において、CCKA受容体の発現が認められた。
【0032】
(2)メラノーマ由来培養細胞におけるCCKA受容体及びCCKB受容体の発現
マウスメラノーマ由来B16細胞及びヒトメラノーマ由来A375細胞のCCK受容体発現を、フローサイトメトリー法により調べた。具体的には、各細胞を、ウサギ抗CCKA受容体抗体(Bioss社製)で1時間インキュベートした後、蛍光標識した二次抗体(抗ウサギIgG抗体、Biolegend社製)と30分間インキュベートして染色した。また、ウサギ抗CCKA受容体抗体に代えて、ウサギ抗CCKB受容体抗体(Alomone labs社製)を用いた以外は同様にして、B16細胞及びA375細胞を染色した。染色後の細胞を、フローサイトメーターを用いて分析した。対照として、蛍光標識した二次抗体のみで染色した細胞についても同様にフローサイトメーターを用いて分析した。分析結果を
図2に示す。
図2に示すように、B16細胞とA375細胞の両方とも、CCKA受容体の発現が確認された。CCKB受容体については、A375細胞において、抗CCKB受容体抗体で染色した細胞のヒストグラムが、二次抗体のみで染色した細胞のヒストグラムよりも右にシフトしていたことから、A375細胞ではCCKB受容体が発現していることが確認された。
【0033】
細胞からRNAを抽出し、RT-PCR法により、CCKの発現を調べた。対照として、β-アクチンの発現も調べた。RT-PCRの結果、得られた増幅産物のアガロースゲル電気泳動像を
図3に示す。
図3に示すように、B16細胞とA375細胞の両方とも、CCKのmRNAのRT-PCR増幅産物が確認され、両細胞においてCCKが発現していることが確認された。これらの結果から、メラノーマ細胞は、オートクリン/パラクリン機構によってCCKによる制御を受けていることが示唆された。
【0034】
(3)非メラノーマ皮膚癌由来培養細胞におけるCCKA受容体及びCCKB受容体の発現
ヒト扁平上皮癌由来のHSC-1細胞及びA431細胞のCCK受容体発現を、フローサイトメトリー法により同様にして調べた。分析結果を
図4に示す。
図4に示すように、HSC-1細胞とA431細胞の両方とも、CCKA受容体とCCKB受容体の両方の発現が確認された。
【0035】
[実施例1]
CCK受容体拮抗物質のメラノーマ細胞に対する増殖抑制作用を調べた。CCK受容体拮抗物質として、CCKA受容体選択的拮抗物質であるロルグルミド、並びに、非選択的CCK受容体拮抗物質であるプログルミド及びロキシグルミドを用いた。細胞の増殖能は、WST-8試薬を用いたWSTアッセイ、又は、CFSE(Carboxyfluorescein Succinimidyl Ester)を用いたアッセイで測定した。
【0036】
(1)B16細胞及びA375細胞の増殖に対するロルグルミドの作用
B16細胞及びA375細胞を、96ウェルプレートに播種して一晩培養した後、ロルグルミドを添加して、48時間培養した。その後、WST-8試薬(Dojindo社製)を各ウェルに10μLずつ添加して、更に3時間培養した後、プレートリーダーを用いて波長450nmの吸光度を測定した。WST-8は細胞内の脱水素酵素によって還元され、黄色を呈するホルマザンが生成される。このため、WSTアッセイにおいて、吸光度と生細胞数は比例関係にある。
【0037】
各ウェルの波長450nmの吸光度の測定結果を
図5に示す(**:p<0.01 vs. 無処置対照群)。図に示すように、B16細胞とA375細胞の両方において、ロルグルミドは濃度依存的に生細胞数を減少させた。
【0038】
(2)B16細胞の増殖に対するロルグルミド、プログルミド及びロキシグルミドの作用
B16細胞を、96ウェルプレートに播種して一晩培養した後、ロルグルミド、プログルミド、又はロキシグルミドを添加して、48時間培養した後、前記(1)と同様にしてWST-8試薬を用いたアッセイを行った。
【0039】
各ウェルの波長450nmの吸光度の測定結果を
図6に示す(*:p<0.01 vs. 無処置対照群、**:p<0.01)。図に示すように、プログルミド及びロキシグルミドも、ロルグルミドと同様に濃度依存的に生細胞数を減少させたが、その細胞数減少効果は、ロルグルミドが最も高かった。
【0040】
(3)細胞増殖アッセイ
標識したB16細胞にロルグルミドを添加して48時間培養した。次いで、フローサイトメーターを用いて、培養後の細胞のCFSEの輝度(蛍光強度)を測定した。CFSEの輝度は、細胞分裂のたびに半減する。CFSE標識は、CFSE Cell Division Assay Kit(Cayman社製)を用いて行った。
【0041】
CFSEの平均蛍光強度の測定結果を
図7に示す。ロルグルミド添加群では、無処置対照群と比較して、細胞のCFSEの平均蛍光強度が有意に高く、すなわち細胞分裂回数が少ないことが明らかとなった(**:p<0.01 vs. 無処置対照群)。これらの結果から、ロルグルミドは、メラノーマ細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。
【0042】
[実施例2]
CCK受容体拮抗物質のメラノーマ細胞に対するアポトーシス誘導作用を調べた。CCK受容体拮抗物質としてロルグルミドを用いた。アポトーシス誘導作用は、蛍光標識Annexin Vを用いたアポトーシス検出アッセイを用いて調べた。Annexin Vは、細胞膜構成脂質であるホスファチジルセリンと結合する。ホスファチジルセリンは、生細胞では細胞膜内側に存在しており、アポトーシスが誘導されると細胞膜表面に露出するため、蛍光標識Annexin Vにより、アポトーシスが誘導された細胞は蛍光を発する。
【0043】
B16細胞又はA375細胞にロルグルミドを添加して48時間培養した後、蛍光物質PE(R-Phycoerythrin)で標識されたAnnexin Vと、死細胞核染色剤7AAD(7-Amino-Actinomycin D)で染色した。染色後の細胞をフローサイトメーターで分析した。アポトーシスの初期段階の細胞は、7AADでは染色されないが、後期アポトーシス細胞は7AADで染色される。すなわち、早期アポトーシス細胞は7AAD-/AnnexinV+、後期アポトーシス細胞は7AAD+/AnnexinV+、生細胞は7AAD-/AnnexinV-の分画に、それぞれ出現する。
【0044】
フローサイトメーターの分析結果に基づき、細胞全体に対する、早期アポトーシス細胞と後期アポトーシス細胞の合計細胞数の割合(%)の測定結果を
図8に示す。図に示す通り、ロルグルミドを添加して培養したB16細胞とA375細胞では、早期及び後期アポトーシス細胞の割合が有意に増加した(**:p<0.01 vs. 無処置対照群)。これらの結果から、ロルグルミドは、メラノーマ細胞にアポトーシスを誘導することが明らかとなった。
【0045】
[実施例3]
細胞にアポトーシス誘導シグナルが伝わると、カスパーゼと呼ばれるシステインプロテアーゼ群から成る複雑なカスケードが開始され、アポトーシスが実行される。カスパーゼは、誘導型、実行型、及び炎症性の3種類に分類されるが、実行型カスパーゼに分類されるカスパーゼ3、6及び7は、アポトーシス実行のシグナル伝達経路において特に重要な役割を果たす。そこで、CCK受容体拮抗物質により誘導されたアポトーシスにおけるカスパーゼ3/7活性を調べた。カスパーゼ3/7活性は、Caspase-Glo 3/7 Assay System(Promega社製)を用いて調べた。
【0046】
B16細胞を96ウェルプレートに播種し、ロルグルミド(200μM)を添加して、48時間培養した。試薬の提供元のマニュアルに従い、培養後の細胞に基質溶液を加えて更に2時間培養した後、プレートリーダーを用いて相対発光量(%)をカスパーゼ3/7活性として測定した。測定結果を
図9に示す。図に示すように、ロルグルミドを添加して培養した群では、カスパーゼ3/7活性が、無処置対照群の1.7倍程度に亢進していた(**:p<0.01 vs. 無処置対照群)。
【0047】
そこで、カスパーゼ3の特異的阻害剤であるZ-DEVD-FMKでB16細胞を2時間前処置した後、ロルグルミドを添加して48時間培養し、アポトーシス陽性細胞をフローサイトメーターで分析した。分析結果を
図10に示す。図に示す通り、Z-DEVD-FMKで前処置することにより、アポトーシスが有意に抑制された。これらの結果から、ロルグルミドによって誘導されるアポトーシスのシグナル伝達には、カスパーゼ3が関与することが示唆された。
【0048】
[実施例4]
CCK受容体拮抗物質のメラノーマ細胞に対する走化性抑制作用を調べた。CCK受容体拮抗物質としてロルグルミドを用いた。
【0049】
細胞の増殖を停止させるために、B16細胞をマイトマイシンCで1.5時間前処置した後、96ウェルプレートに単層に播種して一晩培養した。培養後のB16メラノーマ単層にイエローチップで傷をつけた後、ロルグルミドを添加して24時間培養した。当該傷を含む領域を、顕微鏡下で経時的に観察した。観察結果を
図11に示す。図に示すように、ロルグルミド無処置の対照群では、傷をつけた領域へ細胞が遊走し、経時的に間隙の面積が縮小した。一方、ロルグルミドを添加した群では、細胞遊走が抑制され、間隙の面積はほとんど縮小しなかった。傷をつけたのち24時間培養後における、傷により生じた間隙の面積を、画像解析ソフトウェアImage Jを用いて算出した。傷をつけた後、24時間の培養後の細胞間隙の相対面積(%:[傷をつけてから24時間培養した時点の間隙の面積]/[傷をつけた時点の間隙の面積]×100)の測定結果を
図12に示す。図に示すように、ロルグルミドの濃度が高い程、培養後の間隙の相対面積は広く、B16細胞の遊走能が低かった。これらの結果から、CCK受容体拮抗物質は、メラノーマ細胞の遊走を抑制することが明らかとなった。細胞の遊走能は、局所での組織浸潤や遠隔転移に深く関与することから、CCK受容体拮抗物質は、アポトーシス誘導作用により抗腫瘍効果を発揮するのみならず、細胞の遊走を抑制することにより腫瘍の成長や転移を抑制する可能性が示唆された。
【0050】
[実施例5]
メラノーマ皮下移植モデルマウスにおける、ロルグルミドの抗腫瘍効果を調べた。メラノーマ皮下移植モデルマウスは、C57BL/6マウスの腹部皮下に、B16細胞(105個)を移植して作製した。
【0051】
(1)ロルグルミドの腫瘍内投与の効果
皮下移植したB16細胞による腫瘍の体積が10~30mm
3に達したところで、ロルグルミド(100μg、4mg/kg)を腫瘍内に投与した。対照として、ロルグルミドに代えて、同量の生理食塩水を腫瘍内に投与した。その後、3~4日おきに同様のロルグルミド投与を繰り返した。各マウスの腫瘍体積([腫瘍体積(mm
3)]=[長径(mm)]×[短径(mm)]
2×1/2)を経時的に計測した結果を
図13に示す。また、ロルグルミド投与開始から14日目に、腫瘍塊を採取し、腫瘍重量(mg)を測定した。腫瘍重量の測定結果を
図14に示す。
【0052】
図13に示すように、ロルグルミド投与群では、生理食塩水投与群と比較して、腫瘍体積の増加が有意に抑制された(**:p<0.01 vs. 生理食塩水投与群)。また、
図14に示すように、ロルグルミドを投与することにより、腫瘍重量も有意に減少した(*:p<0.05 vs. 生理食塩水投与群)。
【0053】
(2)ロルグルミドの外用療法の効果
皮下移植したB16細胞による腫瘍が肉眼で観察できるようになったメラノーマ皮下移植モデルマウスに対して、親水軟膏に溶解したロルグルミド(400μg)を、2、5、9及び12日目を除く毎日、1日1度腫瘍に塗布した。対照群には、ロルグルミド含有親水軟膏に代えて、同量の親水軟膏を塗布した。また、いずれのマウスも、皮膚透過性を高めるために、ロルグルミド含有親水軟膏塗布直前に、腫瘍組織にアセトン(30μL)を塗布した。各マウスの腫瘍体積及びロルグルミド投与開始から14日目の腫瘍重量を、ロルグルミド腫瘍内投与のマウスと同様にして測定した。
【0054】
各マウスの腫瘍体積(mm
3)を経時的に計測した結果を
図15に、ロルグルミド投与開始から14日目の腫瘍重量(mg)の測定結果を
図16に、それぞれ示す。
図15に示す通り、ロルグルミドを外用することにより、腫瘍体積の増加が有意に抑制された。また、
図16に示す通り、ロルグルミド外用開始から14日後の腫瘍重量は、ロルグルミド外用群の方が対照群と比較して、有意に低かった。これらの結果から、マウスの腫瘍モデルにおいて、CCK受容体拮抗物質を腫瘍内投与又は外用することにより、腫瘍の成長を抑制できることが明らかとなった。