(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】チタン合金、その製造方法およびそれを用いたエンジン部品
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20241209BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20241209BHJP
F01L 3/02 20060101ALI20241209BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20241209BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241209BHJP
F01D 25/00 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
F01L3/02 G
F02C7/00 C
F02C7/00 D
C22F1/00 630A
C22F1/00 640B
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
F01D25/00 L
F01D25/00 X
(21)【出願番号】P 2020151292
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】増山 晴己
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 容子
(72)【発明者】
【氏名】松永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】戸田 佳明
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095941(JP,A)
【文献】特開平09-031572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00
C22F 1/18
F01D 25/00
F01L 3/02
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Al:6%以上7.5%以下、
Nb:1%以上2.5%以下、
Zr:3.6%以上5%以下、
Sn:4.1%以上5.5%以下、
Mo:0.5%以上3.5%以下、
Si:0.1%以上0.6%以下、および、
C:0.01%以上0.1%以下
を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するチタン合金。
【請求項2】
前記等軸α-Ti相は、体積率は40%以下である、請求項
1に記載のチタン合金。
【請求項3】
前記等軸α-Ti相の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲であり、
前記層状組織内のα相の厚さは、50nm以上1μm以下の範囲である、請求項1
又は2に記載のチタン合金。
【請求項4】
前記等軸α-Ti相の粒径は、5μm以上30μm以下の範囲であり、
前記層状組織内のα相の厚さは、100nm以上1μm以下の範囲である、請求項1
又は2に記載のチタン合金。
【請求項5】
α
2-Ti
3Al相をさらに含有する、請求項1~
4のいずれかに記載のチタン合金。
【請求項6】
シリサイド相をさらに含有する、請求項1~
5のいずれかに記載のチタン合金。
【請求項7】
室温、550℃、および650℃においてひずみ速度が3x10
-4/sで圧縮試験を行った場合の強度が、室温で1250MPa以上、550℃で800MPa以上、および650℃で550MPa以上である、請求項1~
6のいずれかに記載のチタン合金。
【請求項8】
質量%で、Al:
6%以上
7.5以下、Nb:1%以上
2.5%以下、Zr:
3.6%以上
5%以下、Sn:
4.1%以上
5.5%以下
、Mo:0.5%以上
3.5%以下、Si:0.1%以上
0.6%以下および、C:0.01%以上
0.1%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物である材料を溶解法によりインゴットを溶製することと、
前記インゴットを、
800℃以上1100℃以下の温度範囲において溶体化処理することと、
前記溶体化処理されたインゴットを
800℃以上1100℃以下の温度範囲において鍛造および/または圧延することと、
鍛造および/または圧延された加工材料を
800℃より大きく1100℃以下の温度範囲において熱処理することと、
前記熱処理後の加工材料を1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で室温まで冷却すること
を包含する、請求項1~
7のいずれかに記載のチタン合金の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理することは、前記加工材料を30分以上10時間以下の時間範囲で熱処理する、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記冷却することは、前記加工材料を1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で冷却する、請求項
8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記冷却することに続いて、時効処理をすることをさらに包含する、請求項
8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記時効処理することは、前記加工材料を300℃以上800℃以下の温度範囲で30分以上10時間以下の時間時効処理する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記時効処理することに続いて、水冷することをさらに包含する、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~
7のいずれかに記載のチタン合金からなるエンジン部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた高温強度を示す耐熱チタン合金、その製造方法およびそれを用いたエンジン部品に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、合金の中でも特に耐腐食性が優れ、比強度も高いため、この60年間、構造材料として急速に開発が進められてきた。近年、軽量化により高効率化された輸送手段が期待されており、構造材料の重量軽減や性能改善への要求が増している。そのため、航空機分野において、航空機エンジンの重量を軽減し、燃料消費量を抑えるために、より高性能、より軽い材料をエンジンに搭載する必要があり、チタン合金は航空機エンジン圧縮機のディスクやブレードとして使われている。
【0003】
これまで、耐熱チタン合金は主に英国、アメリカ、ロシア、中国で開発されており、高温600℃以下に曝される航空機エンジン内部やエアフレームなど重要部材の必要不可欠な構造材料となっている。従来、航空機エンジンなどに用いられた耐熱チタン合金として、Ti-6242(Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si,mass%)、Ti-1100(Ti-6Al-2.8Sn-4Zr-0.4Mo-0.45Si)、TIMETAL 834(Ti-5.8Al-4Sn-3.5Zr-0,3Mo-1Nb-0.3Si-0.06C)が知られている。しかし、これらの合金も600℃以上では、酸化やクリープ変形が進み、長時間の使用に耐えられないため、600℃以上で安定に長時間使用に耐えられるチタン合金の開発が求められている。
【0004】
特許文献1には熱間加工性が良好で、高温強度および高温クリープ特性に優れ、しかも高温における耐スケール剥離性に優れた耐熱チタン合金として、mass%で、Al:6.0~8.0%、Mo:1.0~3.0%、Si:0.05~3.0%、C:0.08~0.25%を含み、残部Tiおよび不可避不純物からなる合金が開示されている。760℃28MPa下で100時間後のひずみが2%以下であり、750℃酸化試験で100時間後に酸化皮膜が剥離しない合金組成を見出した。しかし、この場合、実際にどの程度酸化が進んでいるかが示されておらず、酸化が進んで厚い酸化膜が生成した場合でも剥離しなければ、耐酸化特性が優れていると評価される可能性がある。
【0005】
特許文献2には冷間圧延により薄板を製造可能であり、かつ十分な耐高温酸化性および加工性を有する耐熱チタン合金として、mass%で、Zr:0.1以上5.0%以下、Nb:0.1以上5.0%以下、Fe:0.1%以下および酸素:0.1%以下残部Tiおよび不純物からなる合金が開示されている。これらの合金は冷間加工性が良く、600℃における酸化増量が0.5mg/cm2であることが示されているが、クリープ特性については触れられておらず、高温力学特性に優れているかどうかは判断できない。
【0006】
特許文献3には高温での使用に対応できる高強度で室温延性に優れた耐熱チタン合金として、mass%で、Alを5から10%,Sn、Zrのうちの1種以上を0.1から10%、Mo、Vのうちの1種以上を0.1から5%、Scを0.01から5%、及び、OをScとのモル比でSc:O=2:3の割合以下に含有し、残部がTiと不可避不純物からなる合金が開示されている。特許文献3は、固溶強化により優れた高温強度を有するα相をメインとし、Sc2O3とα2-Ti3Al化合物により更に強化し、加工性に優れたβ相を5%以下導入することにより、室温延性と高温強度のバランスに優れることを報告する。しかしながら、クリープ特性については触れられていないため、クリープ特性が優れているかどうかは不明である。
【0007】
特許文献4には耐酸化特性に優れたチタン合金として、Al:0.1-12質量%、Sn:0-7質量%、Ga:0.1-10質量%、Zr:0.1-7質量%、Mo:0-5質量%、W:0-4質量%、Nb:0-3質量%、Ta
:0-4質量%、Si:0-2質量%を含有し、残部がTiと不可避的不純物からなる組成を有する合金が開示されている。特に、特許文献4の表1を参照すると、上記組成を満たし、Snを含有しないが、Gaを含有する実施例1~3の合金は、Snを含有するが、Gaを含有しない比較合金1および2の合金に比べて、試験温度750℃での耐酸化特性が優れていることを報告する。
【0008】
さらに、特許文献4は、上記組成を満たすチタン合金が、V:4質量%以下、Hf:2質量%以下、Cu:1質量%以下、B+C:0.2質量%以下、Y:0.2質量%以下、La:0.2質量%以下、Ce:0.2質量%以下の元素のいずれかを単独あるいは複合的に含有してもよいことを開示する。ここでは750℃における酸化試験で240時間後に重量増加が2mg/cm2以下であることが示されているが、クリープ強度については開示されておらず、クリープ特性が優れているかどうかは判断できない。また、提案されている合金は溶解が難しいGaやWを含んでおり、特に、Wは溶解中に介在物を生成するため、製造現場では持ち込みが禁止されている元素である。
【0009】
特許文献5には、耐酸化特性とクリープ特性とのバランスが取れたチタン合金として、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上10%以下、Zr:1%以上8%以下、Mo:0%以上8%以下、Sn:0%以上2%以下、およびSi:0%以上1%以下を含有し、残部がTiと不可避的不純物からなる組成を有する合金が開示されている。750℃における耐酸化特性が商用合金であるTIMETAL834と比較して優れているが、クリープ特性については比較がなされておらず、クリープ特性がTIMETAL834より優れているかどうか判断できない。
【0010】
非特許文献1は、関連する組成の合金(near α型チタン合金)におけるGaとSnとの添加の効果を報告する。詳細には、等軸α相とα相とβ相の2相層状組織で形成されるバイモダル組織を有する試料の600℃310MPa下におけるクリープ特性が示されており、クリープ寿命はGaのみ添加合金は22時間、GaとSnとの同時添加合金は27時間、Snのみ添加合金は45時間と、Sn添加がクリープ特性改善には必須であることが示されている。
【0011】
非特許文献2には、質量%で、Ti-5.7Al-3.9Nb-3.8Zr―0.3Si合金の等軸組織の強度およびクリープ特性が示されている。600℃における強度は270MPa、550℃240MPa下において、破断寿命は236時間、600℃137MPa下において、破断寿命は257時間であることが報告されている。
【0012】
非特許文献3は、質量%で、Ti-7.5Al-3.9Nb-3.8Zr合金の等軸α相とα/β層状組織で構成されるバイモダル組織の600℃137MPa下におけるクリープ特性が示されており、クリープ寿命は2492時間であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-283062号公報
【文献】特開2013-087306号公報
【文献】特開2012-251219号公報
【文献】特開2014-208873号公報
【文献】特開2020-026568号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】T. Kitashima, Y. Yamabe-Mitarai, S. Iwasaki, S. Kuroda, Metall. Mater. Trans. A, 47A, (2016) 6394-6403
【文献】K. Shimagami, T. Ito, Y. Toda, A. Yumoto, Y. Yamabe-Mitarai, Mater. Sci. Eng. A, 756(2019)46-53.
【文献】H. Masuyama, K. Shimagami, Y. Toda, T. Matsunaga, T. Ito, M. Shimojyo, Y. Yamabe-Mitarai, Mater. Trans., 60, 11(2019)2236-2345.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、優れた高温強度を示す耐熱チタン合金、その製造方法およびそれを用いたエンジン部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[1]本発明のチタン合金は、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上1%以下、および、C:0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するものである。
[2]本発明のチタン合金は、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0.3%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上0.9%以下、および、C:0.01%以上0.15%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するものである。
[3]本発明のチタン合金は、質量%で、Al:6%以上7.5%以下、Nb:1%以上2.5%以下、Zr:1.5%以上6%以下、Sn:1%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上3.5%以下、Si:0.1%以上0.6%以下、および、C:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するものである。
[4]本発明のチタン合金は、質量%で、Al:6%以上7.5%以下、Nb:1%以上2.5%以下、Zr:3.6%以上5%以下、Sn:4.1%以上5.5%以下、Mo:0.5%以上3.5%以下、Si:0.1%以上0.6%以下、および、C:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するものである。
【0017】
[5]本発明のチタン合金において、好ましくは、前記等軸α-Ti相は、体積率は40%以下であるとよい。
[6]本発明のチタン合金において、好ましくは、前記等軸α-Ti相の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲であり、前記層状組織内のα相の厚さは、50nm以上1μm以下の範囲であるとよい。
[7]本発明のチタン合金において、好ましくは、前記等軸α-Ti相の粒径は、5μm以上30μm以下の範囲であり、前記層状組織内のα相の厚さは、100nm以上1μm以下の範囲であるとよい。
[8]本発明のチタン合金[1]~[7]において、好ましくは、α2-Ti3Al相をさらに含有するとよい。
[9]本発明のチタン合金[1]~[7]において、好ましくは、シリサイド相をさらに含有するとよい。
[10]本発明のチタン合金において、好ましくは、室温、550℃、および650℃においてひずみ速度が3x10-4/sで圧縮試験を行った場合の強度が、室温で1250MPa以上、550℃で800MPa以上、および650℃で550MPa以上であるとよい。
【0018】
[11]本発明のチタン合金の製造方法は、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上1%以下および、C:0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物である材料を溶解法によりインゴットを溶製する工程と、前記インゴットを、α+β2相域の温度において溶体化処理する工程と、前記溶体化処理されたインゴットをα+β2相域の温度において鍛造および/または圧延する工程と、鍛造および/または圧延された加工材料をα+β相域の温度において熱処理する工程と、前記熱処理後の加工材料を1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で室温まで冷却する工程を包含するものである。
【0019】
[12]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記熱処理することは、前記加工材料を800℃より大きく1100℃以下の温度範囲で熱処理するとよい。
[13]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記熱処理することは、前記加工材料を30分以上10時間以下の時間範囲で熱処理するとよい。
[14]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記冷却することは、前記加工材料を1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で冷却するとよい。
[15]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記冷却することに続いて、時効処理をすることをさらに包含するとよい。
[16]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記時効処理することは、前記加工材料を300℃以上800℃以下の温度範囲で30分以上10時間以下の時間時効処理するとよい。
[17]本発明のチタン合金の製造方法において、好ましくは、前記時効処理することに続いて、水冷することをさらに包含するとよい。
【0020】
[18]本発明のチタン合金は、エンジン部品に使用されるとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のチタン合金は、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zrが4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、および、Si:0.1%以上1%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなる。これらの元素はSnを除いていずれも耐酸化特性を向上させる元素であるため、耐酸化特性に優れる。さらに本発明のチタン合金は、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を形成する。本発明のチタン合金は、このような特異な組織によって高温強度に優れ、本発明のチタン合金は、エンジン部品に好適である。
【0022】
本発明のチタン合金の製造方法は、上述の組成を満たす材料を溶解法によりインゴットを溶製することと、それをα+β2相域の温度において溶体化処理することと、それをα+β2相域の温度において鍛造および/または圧延することと、鍛造および/または圧延された加工材料をα+β相域の温度において熱処理することと、それを室温まで1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で冷却することとを包含する。熱処理温度をα+β相域の温度とし、冷却速度を30℃/秒以下と制御することにより、上述の特異な組織が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明のチタン合金の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2A】
図2(a)は例1の試料の組織を示すSEM像である。
【
図2B】
図2(b)は例2の試料の組織を示すSEM像である。
【
図2C】
図2(c)は例3の試料の組織を示すSEM像である。
【
図2D】
図2(d)は例4の試料の組織を示すSEM像である。
【
図2E】
図2(e)は例5の試料の組織を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
本願発明者らは、耐酸化特性を向上させる元素を添加したチタン合金に着目し、チタン合金の組成により合金を強化し、高温強度を改善させることに成功した。
【0025】
本発明のチタン合金は、アルミニウム(Al):5%以上8%以下、ニオブ(Nb):1%以上3.5%以下、ジルコニウム(Zr):1%以上8%以下、スズ(Sn):0%以上10%以下、Sn+Zrが4%以上12%以下、モリブデン(Mo):0.5%以上4%以下、シリコン(Si):0.1%以上1%以下、および、炭素(C):0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がチタン(Ti)および不可避不純物からなる。なお、不可避不純物の例としては、窒素(N)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、塩素(Cl)、銅(Cu)、水素(H)等を挙げられ、原料中に含有する不可避不純物である。本発明のチタン合金の組織は、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有する。このような組織により合金が強化され、高温強度が向上し得る。
【0026】
Al:Alは、耐酸化特性を向上させるとともに、等軸α-Ti相を安定化させる。5質量%以上であれば、等軸α-Ti相の固溶強化できる。さらに、α2-Ti3Al相が析出し、クリープ特性の向上が期待される。また、8質量%以下であれば、脆性のTi3Alなどの化合物の析出を抑制し、加工性に優れる。好ましくは、Alは、6質量%以上7.5質量%以下の範囲である。
【0027】
Nb:Nbは、耐酸化特性を向上させる。1質量%以上であれば、耐酸化特性の向上に有利である。3.5質量%を超えると、シリサイドがβ-Ti相に析出しにくくなり得る。好ましくは、Nbは、1質量%以上3質量%以下の範囲である。より好ましくは、Nbは、1質量%以上2.5質量%以下の範囲である。
【0028】
Zr:Zrは、耐酸化特性を向上させるとともに、等軸α-Ti相を安定化させ、強化させる。1質量%以上であれば、耐酸化特性を向上し、等軸α-Ti相の安定化および強化に有利である。また、8質量%以下であれば、優れた耐酸化特性とともに加工性に優れる。8質量%を超えると加工性が悪くなる恐れがある。好ましくは、Zrは、1.5質量%以上6質量%以下の範囲である。
【0029】
Sn:Snは、必須ではないが、等軸α-Ti相を安定させ、強化させるため好ましい。10質量%以下であれば、等軸α-Ti相の安定化および強化に有利である。Snは耐酸化特性を低下させる恐れがあるが、Zrと同時に添加することにより、耐酸化特性低下が低減される。このことから、Snを添加する場合は、Zrが必須であり、Sn+Zrは、4質量%以上必要である。12質量%以上であると、加工性が悪くなる。
【0030】
Mo:Moは耐酸化特性を向上させるとともに、β―Ti相を強化させるために必要である。0.5質量%以上であればβ―Ti相強化に有利である。4質量%を超えると、α―Ti相を不安定にする恐れがある。好ましくは、Moは、0.5質量%以上3.5質量%以下の範囲である。
【0031】
Si:Siはシリサイドが析出するため必要である。このことから、1質量%以下であれば、耐酸化特性の向上、等軸α-Ti相の強化およびシリサイド析出による強化に有利である。1質量%を超えると、粗大なシリサイドが生成し、強化に有効でない。好ましくは、Siは、0.1質量%以上0.9質量%以下の範囲である。より好ましくは、Siは、0.1質量%以上0.6質量%以下の範囲である。なお、シリサイドはTi5Si3相であり、チタン合金を強化する。
【0032】
C:Cは、等軸α-Ti相を安定化させ、強化させるため必要である。このことから、0.2質量%以下であれば、α-Ti相の強化に有利である。1質量%を超えると、炭素がα-Ti相に固溶できなくなり、炭化物が生成し、脆化する。好ましくは、Cは、0.01質量%以上0.15質量%以下の範囲である。より好ましくは、Cは、0.01質量%以上0.1質量%以下の範囲である。
【0033】
なお、それぞれの元素の組成の組み合わせは上述した範囲から任意に選択できるが、例示的には上述した[1]~[4]のような組成がある。
本発明のチタン合金は、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するが、等軸α-Ti相の体積率は40%以下である。これにより、本発明のチタン合金は、優れた高温強度を示す。好ましくは、等軸α-Ti相は、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織に対して、体積%で0.5%以上20%以下の範囲を満たす。これにより、本発明のチタン合金は、優れた高温強度を示す。より好ましくは、等軸α-Ti相は、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織に対して、体積%で0.5%以上15%以下の範囲、なお好ましくは、1%以上15%以下の範囲を満たす。なお、等軸α-Ti相およびα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織の割合は、例えば、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡観察による画像診断によって算出できる。
【0034】
本発明のチタン合金において、等軸α-Ti相の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲であり、層状組織内のα-Ti相の厚さは、50nm以上1μm以下の範囲である。これにより、本発明のチタン合金は、優れた高温強度を示す。さらに好ましくは、等軸α-Ti相の粒径は、5μm以上30μm以下の範囲であり、層状組織内のα-Ti相の厚さは、100nm以上1μm以下の範囲である。なお、等軸α-Ti相の粒径や層状組織内のα-Ti相の厚さは、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡観察による画像中の複数の組織に対して測定し、平均を求めればよい。
【0035】
本発明のチタン合金は、上述したように、高温強度に優れるため、コンプレッサブレードやコンプレッサディスクなどの航空機エンジン部品や火力発電所のタービン部材、内燃機関の耐熱性部材に用いられる。
【0036】
図1は、本発明のチタン合金の製造工程を示すフローチャートである。
ステップS110:質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上1%以下および、C:0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物である材料を溶解法によりインゴットを溶製する。材料は、上述の組成を満たす限り、スポンジチタンのような単体金属であってもよいし、合金であってもよいし、化合物であってもよい。なお、上述の材料の組成は、本発明のチタン合金の組成と同様に選択できる。溶解法は任意の溶解法を採用できるが、例示的には、アーク溶解、電子ビーム溶解、高周波溶解などがある。
【0037】
ステップS120:ステップS110で得られたインゴットを、α+β2相域の温度において溶体化処理する。これにより添加元素が固溶する。好ましくは、インゴットを800℃以上1100℃以下の温度範囲で溶体化処理する。また、溶体化処理の時間は、特に制限はないが、例示的には、30分以上24時間以下の時間である。
【0038】
ステップS130:ステップS120で得られた溶体化処理されたインゴットをα+β2相域の温度において鍛造および/または圧延する。なお、以降では、鍛造および/または圧延加工されたものを意図して加工材料と称する。
【0039】
鍛造および/または圧延は、好ましくは、インゴットを800℃以上1100℃以下の温度範囲で、変形量が50%以上となるように鍛造および/または圧延する。上限は特にないが、例示的には、変形量は、100%以下であればよい。鍛造や圧延には特に制限はないが、例示的には、鍛造には、熱間鍛造、冷間鍛造、油圧鍛造等を、圧延には、溝ロール圧延、ひずみ速度制御圧延、冷間圧延等を採用できる。
【0040】
ステップS140:ステップS130で鍛造および/または圧延された加工材料をα+β相域の温度において熱処理する。これにより、加工により導入されたひずみや転位を駆動力としてα相とβ相が成長する。また、熱処理の時間は、特に制限はないが、例示的には、30分以上10時間以下の時間である。熱処理には、雰囲気炉、電気炉、管状炉等の任意の炉を用いてよい。
【0041】
ステップS150:ステップS140で得られた熱処理後の加工材料を1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度で室温まで冷却する。この範囲の冷却速度で冷却することにより、β相中にα相が板状に生成し、層状組織となる。好ましくは、加工材料を2℃/秒以上25℃/秒以下、さらに好ましくは、5℃/秒以上20℃/秒以下の範囲の冷却速度で冷却する。この範囲であれば、上述の組織の形成が促進される。なお、熱処理の雰囲気は、大気、不活性ガス、真空等である。
【0042】
図示しないが、ステップS150に続いて、時効処理を行う。具体的には、ステップS150で得られた加工材料(または本発明のチタン合金)を300℃以上800℃以下の温度範囲で30分以上10時間以下の時間時効処理する。これにより、等軸α-Ti相内にα2-Ti3Al相およびα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織内にシリサイド(例えば、Ti5Si3相)の析出が促進され、さらに強化し得る。時効処理後に水冷(>100℃/秒の冷却速度)してもよい。
【0043】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0044】
[例1~例5]
例1~5の試料は、次のようにして調製された。表1の組成を満たすよう、スポンジTi、Alペレット、Nb粒状原料、Zr粒状原料、Sn粒状原料、Mo粒状原料、Si粒状原料、TiC粒状原料を秤量し、高周波溶解によって溶解し、インゴットを溶製した(
図1のステップS110)。次いで、得られたインゴットを1000℃で30分間、溶体化処理した(
図1のステップS120)。その後、溶体化処理したインゴットを、1000℃で鍛造および溝ロール圧延した(
図1のステップS130)。このようにして、15mm角の棒状の加工材料を得た。加工材料を表1に示す熱処理温度で3時間、大気雰囲気中、熱処理した(
図1のステップS140)。次いで、熱処理後の加工材料を表1に示す冷却速度で室温まで冷却した(
図1のステップS150)。さらに、冷却後、650℃で5時間時効処理を施し、水冷した。なお、水冷を冷却速度に換算すると、100℃/秒をはるかに超えた。
【0045】
【0046】
例1~例5の試料の組成を、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散型X線分光器(EDS)による元素分析によって確認したところ、表1の組成となっていることを確認した。例1~例4の試料をSEMにより観察した。観察結果を
図2に示す。
【0047】
図2は、(a)例1、(b)例2、(c)例3、(d)例4、(e)例5の試料の組織を示すSEM像である。
【0048】
図2(a)によれば、例1の試料は、黒いコントラストで示される等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有した。等軸α-Ti相の粒径は10μm、量は10%あった。層状組織内のα相の幅は1μm以下であった。
図2(b)によれば、例2の試料は、黒いコントラストで示される等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有した。等軸α-Ti相の粒径は8μm、量は3%あった。層状組織内のα相の幅は1μm以下であった。
図2(c)によれば、例3の試料は、黒いコントラストで示される等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有した。等軸α-Ti相の粒径は10μm、量は15%あった。層状組織内のα相の幅は1μm以下であった。微細な白い粒状のものはシリサイドであった。
図2(d)によれば、例4の試料は、等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有した。等軸α-Ti相の粒径は5μm、量は40%あった。層状組織内のα相の幅はSEM像では観察できないほど微細であった。
図2(e)によれば、例5の試料は、黒いコントラストで示される等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有した。等軸α-Ti相の粒径は10μm、量は10%あった。層状組織内のα相の幅は1μm以下であった。
【0049】
以上の結果から、
図1に示す製造工程によって、質量%で、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上1%以下および、C:0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するチタン合金が得られたことが示された。特に、上記組成を満たし、かつ、α+β相域の温度での熱処理(ここでは、800℃より大きく1100℃以下の温度範囲)と、1℃/秒以上30℃/秒以下の範囲の冷却速度との組み合わせが有効であることが示された。
【0050】
次に、例1~例5の試料について室温、550℃、および650℃において一定のクロスヘッド速度0.1mm/分で圧縮試験を行った。室温における圧縮試験は、試料をジグの間に挟み、0.1mm/分の速度で変形をおこなった。550℃、および650℃の試験では、試験機に付属する炉の温度を試験温度まで昇温した後に、試料を挿入し、試料温度が試験温度に達するまで30分保持後、0.1mm/分の速度で変形をおこなった。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2によれば、商用合金である例5と比較して、例2~例4は室温では強度が高く、550℃、650℃においても強度が同程度か高い強度を示す。
【0053】
次に、例1~例5の試料について650℃において500時間までの酸化試験を行った。酸化試験中の酸化皮膜生成による重量増加を測定した。500時間後の重量増加量を表3に示す。
【0054】
【0055】
表3によると、例3、例4は、酸化増量が商用合金と同程度であった。表2の高温強度と表3の酸化試験から例3、例4の組成は、商用合金に匹敵する、あるいはより高い強度を有することが示された。
【0056】
以上の結果から、質量%で、Al:5%以上8%以下、Nb:1%以上3.5%以下、Zr:1%以上8%以下、Sn:0%以上10%以下、Sn+Zr:4%以上12%以下、Mo:0.5%以上4%以下、Si:0.1%以上1%以下および、C:0.01%以上0.2%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相とα-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するチタン合金は、600℃以上の温度における高温強度に優れた材料であり、エンジン部品に好適であることが示された。
【0057】
特に例3の元素組成のチタン合金は、600℃以上の温度における高温強度に優れた材料である。そこで、例3の元素組成に、工業的に使用する場合の許容誤差として±0.5%から±1.0%を考慮して、質量%で、Al:6%以上7.5%以下、Nb:1%以上2.5%以下、Zr:3.6%以上5%以下、Sn:4.1%以上5.5%以下、Mo:0.5%以上3.5%以下、Si:0.1%以上0.6%以下、および、C:0.01%以上0.1%以下を含有し、残部がTiおよび不可避不純物からなり、等軸α-Ti相と、α-Ti相とβ-Ti相が交互に積層した層状組織で構成されるバイモダル組織を有するチタン合金が好ましい。この場合、室温、550℃、および650℃においてひずみ速度が3x10-4/sで圧縮試験を行った場合の強度が、室温で1250MPa以上、550℃で800MPa以上、および650℃で550MPa以上である。圧縮試験を行った場合の強度は、例3の測定値に、測定誤差として10%程度を考慮すると、強度の上限値は、室温で1464MPa以下、550℃で1045MPa以下、および650℃で700MPa以下となる。ここで、室温は25℃である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のチタン合金は、上述の組成および組織を有することにより、耐酸化特性および高温強度に優れるため、コンプレッサブレードやコンプレッサディスクなどの航空機エンジン部品や火力発電所のタービン部材、内燃機関の耐熱性部材に適用される。