(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】濾過用フィルターおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
B01D39/20 Z
B01D39/20 D
(21)【出願番号】P 2020198095
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清貴
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-284316(JP,A)
【文献】特表2000-510808(JP,A)
【文献】特公昭59-048646(JP,B1)
【文献】実開昭62-144518(JP,U)
【文献】特開2000-185209(JP,A)
【文献】国際公開第93/006912(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00 - 39/20
B01D 29/11
B01D 29/01
B01D 29/07
B01D 65/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質かつ中空状の基材と、
該基材の外面側に積層された固体粉末の第1の焼結層と、
を備え、
前記第1の焼結層のうち少なくとも割れで生じた亀裂を充填して前記第1の焼結層に積層された補修用粒子の第2の焼結層をさらに備え
、
前記基材は、多孔質の濾材シートと、中空筒状に巻かれた前記濾材シートの両端開口部が全周に亘って他の部材に接合されている部分である第1接合部と、中空筒状に巻かれた前記濾材シートの周方向における両端部の継目が開口方向で全長に亘って接合されている部分である第2接合部と、を有し、前記第1接合部及び前記第2接合部において前記濾材シートの内部構造が不連続となる、
濾過用フィルター。
【請求項2】
多孔質かつ中空状の基材と、
該基材の外面側に積層された固体粉末の第1の焼結層と、
を備え、
前記第1の焼結層のうち少なくとも割れで生じた亀裂を充填して前記第1の焼結層に積層された補修用粒子の第2の焼結層をさらに備え、
前記基材は前記外面から内面に向けて複数層を有し、
前記第1の焼結層は、前記複数層のうち最外層よりも内方の内層から外方に向けて形成されている、
濾過用フィルター。
【請求項3】
前記固体粉末は粒子である、請求項1又は請求項2に記載の濾過用フィルター。
【請求項4】
前記補修用粒子の中心粒径は前記粒子の中心粒径以下である、
請求項3に記載の濾過用フィルター。
【請求項5】
前記最外層は前記第1の焼結層よりも外方へ突出した状態となっている、
請求項2に記載の濾過用フィルター。
【請求項6】
固体粉末を溶媒中に分散させて第1の懸濁液を生成するステップと、
前記固体粉末を捕捉可能な多孔質かつ中空状の基材で前記第1の懸濁液を濾過して、前記基材の外面側に前記固体粉末を堆積させるステップと、
前記基材に堆積した前記固体粉末を焼結して第1の焼結層を形成するステップと、
前記基材及び前記第1の焼結層で捕捉可能な補修用粒子を溶媒中に分散させて第2の懸濁液を生成するステップと、
前記第1の焼結層のうち割れで生じた亀裂に前記第2の懸濁液を通過させて、少なくとも前記亀裂に前記補修用粒子を堆積させるステップと、
少なくとも前記亀裂に堆積した前記補修用粒子を焼結して第2の焼結層を形成するステップと、
を含み、
前記第1の焼結層を形成するステップの後であって前記補修用粒子を堆積させるステップの前に、前記第1の焼結層の表面に圧力を加えて外形を調整するステップをさらに含む、濾過用フィルターの製造方法。
【請求項7】
固体粉末を溶媒中に分散させて第1の懸濁液を生成するステップと、
前記固体粉末を捕捉可能な多孔質かつ中空状の基材で前記第1の懸濁液を濾過して、前記基材の外面側に前記固体粉末を堆積させるステップと、
前記基材に堆積した前記固体粉末を焼結して第1の焼結層を形成するステップと、
前記基材及び前記第1の焼結層で捕捉可能な補修用粒子を溶媒中に分散させて第2の懸濁液を生成するステップと、
前記第1の焼結層のうち割れで生じた亀裂に前記第2の懸濁液を通過させて、少なくとも前記亀裂に前記補修用粒子を堆積させるステップと、
少なくとも前記亀裂に堆積した前記補修用粒子を焼結して第2の焼結層を形成するステップと、
を含
み、
前記基材は、多孔質の濾材シートと、中空筒状に巻かれた前記濾材シートの両端開口部が全周に亘って他の部材に接合されている部分である第1接合部と、中空筒状に巻かれた前記濾材シートの周方向における両端部の継目が開口方向で全長に亘って接合されている部分である第2接合部と、を有し、前記第1接合部及び前記第2接合部において前記濾材シートの内部構造が不連続となる、濾過用フィルターの製造方法。
【請求項8】
固体粉末を溶媒中に分散させて第1の懸濁液を生成するステップと、
前記固体粉末を捕捉可能な多孔質かつ中空状の基材で前記第1の懸濁液を濾過して、前記基材の外面側に前記固体粉末を堆積させるステップと、
前記基材に堆積した前記固体粉末を焼結して第1の焼結層を形成するステップと、
前記基材及び前記第1の焼結層で捕捉可能な補修用粒子を溶媒中に分散させて第2の懸濁液を生成するステップと、
前記第1の焼結層のうち割れで生じた亀裂に前記第2の懸濁液を通過させて、少なくとも前記亀裂に前記補修用粒子を堆積させるステップと、
少なくとも前記亀裂に堆積した前記補修用粒子を焼結して第2の焼結層を形成するステップと、
を含み、
前記基材は前記外面から内面に向けて複数層を有し、
前記複数層のうち最外層よりも内方の内層が前記第1の懸濁液を濾過して前記固体粉末を捕捉可能である、濾過用フィルターの製造方法。
【請求項9】
固体粉末を溶媒中に分散させて第1の懸濁液を生成するステップと、
前記固体粉末を捕捉可能な多孔質かつ中空状の基材で前記第1の懸濁液を濾過して、前記基材の外面側に前記固体粉末を堆積させるステップと、
前記基材に堆積した前記固体粉末を焼結して第1の焼結層を形成するステップと、
前記基材及び前記第1の焼結層で捕捉可能な補修用粒子を溶媒中に分散させて第2の懸濁液を生成するステップと、
前記第1の焼結層のうち割れで生じた亀裂に前記第2の懸濁液を通過させて、少なくとも前記亀裂に前記補修用粒子を堆積させるステップと、
少なくとも前記亀裂に堆積した前記補修用粒子を焼結して第2の焼結層を形成するステップと、
を含み、
前記補修用粒子を堆積させるステップは、前記亀裂を除く部分をマスキングして行われる、濾過用フィルターの製造方法。
【請求項10】
前記固体粉末は粒子である、請求項6~請求項9のいずれか1つに記載の濾過用フィルターの製造方法。
【請求項11】
前記固体粉末を堆積させるステップは、
前記最外層が前記固体粉末の堆積層から外方へ突出している状態で堆積を完了させる、
請求項8に記載の濾過用フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過用フィルターおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体粉末を分散させた懸濁液に多孔質の中空筒状基材を浸漬させ、この基材の内部を吸引して基材の外周面に固体粉末を堆積させ、この堆積した固体粉末を基材とともに焼結してなる濾過用フィルターが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体粉末を焼結してなる焼結層には、焼結収縮等に起因した割れが発生するおそれがある。焼結層に割れが発生した濾過用フィルターでは、濾過の対象流体が濾過抵抗の比較的低い割れ部(亀裂)に集中しやすくなって、対象流体中の捕捉すべき物質が割れ部を介して焼結層ひいては基材を通過してしまい、実質的に濾過精度が低下するという問題がある。
【0005】
一方、焼結前に固体粉末の堆積層の圧縮によって密度を予め上昇させて、焼結前後の体積減少幅を低減させることで、固体粉末の焼結収縮を抑えることも考えられる。しかし、固体粉末の堆積層の圧縮によって密度を予め上昇させると、濾過フィルターにおいて焼結層の空隙率が低下して濾過抵抗の著しい上昇を招くおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は以上のような問題点に鑑み、濾過抵抗の著しい上昇を抑えつつ、焼結層の割れによる濾過精度の実質的な低下を抑制する濾過用フィルターおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る濾過用フィルターは、多孔質かつ中空状の基材と、該基材の外面側に積層された固体粉末の第1の焼結層と、を備え、第1の焼結層のうち少なくとも割れで生じた亀裂を充填して第1の焼結層に積層された補修用粒子の第2の焼結層をさらに備える。
【0008】
本発明に係る濾過用フィルターの製造方法は、固体粉末を溶媒中に分散させて第1の懸濁液を生成するステップと、固体粉末を捕捉可能な多孔質かつ中空状の基材で第1の懸濁液を濾過して、基材の外面側に固体粉末を堆積させるステップと、基材に堆積した固体粉末を焼結して第1の焼結層を形成するステップと、基材及び第1の焼結層で捕捉可能な補修用粒子を溶媒中に分散させて第2の懸濁液を生成するステップと、第1の焼結層のうち割れで生じた亀裂に第2の懸濁液を通過させて、少なくとも亀裂に補修用粒子を堆積させるステップと、少なくとも亀裂に堆積した補修用粒子を焼結して第2の焼結層を形成するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の濾過用フィルターおよびその製造方法によれば、濾過抵抗の著しい上昇を抑えつつ、焼結層の割れによる濾過精度の実質的な低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る濾過用フィルターの縦断面を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1のA-A線における横断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】基材アセンブリの一例を模式的に説明する斜視図である。
【
図4】固体粉末の堆積層の形成方法の一例を示す構成図である。
【
図5】第1の焼結層の割れを模試的に示す断面図である。
【
図6】割れ部分に積層された第2の焼結層を示す断面図である。
【
図7】割れ部分の第2の焼結層の焼結前駆体の形成例を示す断面図である。
【
図8】第2実施形態に係る濾過用フィルターの内部構造を示す断面図である。
【
図9】バブルポイント試験の供試品仕様を示すテーブルである。
【
図10】バブルポイント試験の結果を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について、詳細に説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
(濾過用フィルターの基本的な構成)
図1~
図3を参照して、第1実施形態に係る濾過用フィルターの基本的な構成について説明する。
図1は、濾過用フィルターの縦断面を模式的に示し、
図2は、濾過用フィルターの横断面を模式的に示している。
【0013】
濾過用フィルター1は、対象流体(液体、気体)を濾過して、対象流体中に含まれる固体を分離するフィルターである。濾過用フィルター1は、例えば、河川水、湖沼水若しくは海水、各種産業の原料流体や中間工程における流体や製品流体、あるいは、各種装置の冷却用流体等といった様々な濾過用途で使用される。
【0014】
濾過用フィルター1は、中空筒状のフィルターエレメント2を備えている。フィルターエレメント2の一端の開口部には、この開口を閉塞する閉塞部材3が設けられる。また、フィルターエレメント2の他端の開口部には、この開口を外部と接続するための接続部材4が設けられる。このような濾過用フィルター1の構成により、対象流体が中空筒状のフィルターエレメント2の外部から内部に向けて流れて濾過され、内部の濾過後の濾液が接続部材4を介して外部へ流出する(
図1の白抜き矢印)。
【0015】
フィルターエレメント2には、中空筒状の基材5と、基材5の外周面5a側に積層された第1の焼結層6と、が含まれる。第1の焼結層6は、基材5の外周面5a側に堆積させた固体粉末を焼結前駆体として、この固体粉末の堆積層を焼結することで形成される。固体粉末の堆積層は、その固体粉末を溶媒中に分散させた懸濁液(第1の懸濁液)を基材5で濾過したときに、固体粉末が基材5に捕捉されることで形成される。したがって、基材5は、これに堆積させる固体粉末を濾過して捕捉可能な濾過精度を有する多孔質体である。ここで、濾過精度は、一定の効率(例えば99.9%)以上で捕捉可能な粒子の最小粒径を示しているものとする。
【0016】
本明細書において、「基材の外周面(外面)側に」とは「基材の外周面(外面)側から基材に向けて」という意味で用いられ、「基材の内周面(内面)側に」とは「基材の内周面(内面)側から基材に向けて」という意味で用いられる。したがって、「基材の外周面(外面)側に」及び「基材の内周面(内面)側に」という表現は、基材5の外周面(外面)5aや内周面(内面)5bに限定されず、基材5の内部の空隙や基材5と中間層(例えばスペーサ等)を介して離間した位置も含み得る。
【0017】
なお、図示省略するが、濾過用フィルターの対象流体がフィルターエレメントの内部から外部に向けて流れて濾過される場合には、基材5の外周面5a側に代えて、基材5の内周面5b側に堆積させた固体粉末の堆積層を焼結することで第1の焼結層6が形成される。
【0018】
図3は、基材アセンブリの一例を示す。基材アセンブリ9は、基材5に閉塞部材3及び接続部材4が接続された状態の半製品ないし仕掛品である。基材5において、一端の開口部に嵌合した閉塞部材3が開口部の全周に亘って溶接や加締め等で接合されてなる一端接合部7(第1接合部)が形成される。また、基材5において、他端の開口部に嵌合した接続部材4が開口部の全周に亘って溶接等で接合されてなる他端接合部8(第1接合部)が形成される。一端接合部7及び他端接合部8では、基材5の内部の多孔質構造が不連続となっている。基材アセンブリ9の基材形式は、濾過用フィルター1に要求される濾過精度や対象流体の性状に応じて適宜選択可能である。
【0019】
図3に示す基材アセンブリ9の基材5としてはシート端部接合基材が用いられる。シート端部接合基材は、多孔質の濾材シート10を筒状に巻いて(
図3(a)参照)、その周方向における両端部の継目どうしを軸方向(開口方向)で全長に亘って溶接や加締め等で接合した継目接合部11(第2接合部)を有する中空筒状の基材形式である(
図3(b)参照)。継目接合部11では、濾材シート10の内部の多孔質構造が不連続となっている。濾材シート10としては、パンチングプレートや、ミクロン単位の金属繊維のフェルトを積層して焼結した不織布焼結体(いわゆるメタルファイバー)や、複数の金網を積層して焼結一体化した金網焼結体(例えば出願人製品の「フジプレート(登録商標)」)等があげられる。あるいは、濾材シート10は、パンチングプレート、不織布焼結体及び金網焼結体のうち少なくとも2つをそれぞれ1つ以上積層して形成されてもよい。金網焼結体における各層の金網の織り方としては、平織り、綾織り、朱子織り、畳織り、綾畳織り等がある。これらの濾材シート10に用いられる金属としては、オーステナイト系ステンレス鋼が代表例としてあげられるが、他にニッケル合金や銅合金等、焼結可能な金属であれば種類を問わず用いることができる。
【0020】
シート端部接合基材が形成された後、この基材5の両端開口部にそれぞれ閉塞部材3と接続部材4とが嵌合されて(
図3(a)参照)、シート端部接合基材の両端開口部にそれぞれ全周に亘って接合されることで(
図3(b)参照)、基材アセンブリ9が形成される。なお、
図3(b)では、閉塞部材3とシート端部接合基材との接合状態を明らかにするため、閉塞部材3の一部を切り欠いて示している。
【0021】
基材アセンブリ9の別例としては、図示省略するが、単に金属製パイプに径方向の孔加工を施したものを基材5として、両端開口部の一方に閉塞部材3を接合し他方に接続部材4を接合したものを用いることができる。
【0022】
第1の焼結層6の焼結前駆体となる固体粉末を基材5上に堆積させるために上記の懸濁液を基材5で濾過するときに、基材5が濾過圧力に対して自己形状を維持することが困難である場合には、基材5を支持する支持構造体を用いることができる。例えば、シート端部接合基材に用いる不織布焼結体や金網焼結体等の濾材シート10が自己形状を維持することが困難であることが想定される。この場合には、厚肉のパンチングプレートを筒状に巻いたものや金属製パイプに径方向の孔加工を施したものを支持構造体とし、その周囲に濾材シート10を巻き付けて接合してもよい。
【0023】
逆に、基材5として用いるパンチングプレートや金属製パイプに、固体粉末を分散させた懸濁液を濾過して固体粉末を捕捉可能な微細な濾過孔を設けることが困難である場合も考えられる。この場合には、筒状に巻いたパンチングプレートや径方向の孔加工を施した金属製パイプの外周面に濾過補助材として不織布焼結体や金網焼結体等の多孔質の濾材シート10を巻き付けて基材5とすることができる。
【0024】
第1の焼結層6の焼結前駆体として基材5上に堆積させる固体粉末としては、例えば、ミクロン単位の粒径を有するステンレスパウダー(以下、「SUSパウダー」という)等の粒子が用いられる。ただし、第1の焼結層6を形成するための焼結時に基材5に影響を与えない固体粉末であれば、ステンレスに限らず、種類を問わずに用いることができる。例えば、不織布焼結体、金網焼結体等の焼結体の濾材シート10で形成されたシート端部接合基材には、これらの焼結体よりも焼結温度が低い金属を基材5上に堆積させる固体粉末として用いることができる。固体粉末は、例えば、アトマイズ法、粉砕法、酸化物還元法、回転電極法等、種々の製法で得ることができる。
【0025】
第1の焼結層6の焼結前駆体として基材5上に堆積させる固体粉末は濾過用フィルター1に要求される濾過精度に応じて予め分級されて、固体粉末を一定のサイズ分布に揃えられた固体粉末群として得られる。固体粉末は、SUSパウダーであれば一定の粒径分布に揃えられた粒子群として得られる。焼結条件が同一であれば、固体粉末群の中心サイズ(固体粉末群のサイズ分布における中央値又は平均値)が大きくなると濾過用フィルター1の濾過精度が低下する一方、固体粉末群の中心サイズが小さくなると濾過用フィルター1の濾過精度が上昇する。
【0026】
(濾過用フィルターの基本的な製造方法)
次に、
図4を参照して、濾過用フィルター1の基本的な製造方法について説明する。
図4は、第1の焼結層の焼結前駆体として基材の外周面側に固体粉末を堆積させる方法の一例を示す。固体粉末の堆積層は、その固体粉末を溶媒中に分散させた懸濁液を基材5の外部から内部へ吸引して基材5の外周面5a側に固体粉末を捕捉する吸引濾過を行うことで形成される。
【0027】
懸濁液は、基材5の外周面5a側に堆積させる固体粉末を撹拌槽100内の溶媒(例えばイソプロパノールまたはその希釈液)に投入して撹拌機101で撹拌し、その固体粉末を溶媒に分散させることで得られる。そして、撹拌槽100内の懸濁液中に、これに分散させた固体粉末を捕捉可能な基材5を備えた基材アセンブリ9を浸漬する。
【0028】
基材アセンブリ9の内部は、接続部材4を介して、密閉された吸引鐘102に連通接続されている。吸引鐘102は吐出口103aが大気開放された真空ポンプ103の吸入口103bに連通接続され、真空ポンプ103を駆動することで吸引鐘102の内圧が大気圧未満の負圧に低下する。吸引鐘102の内圧が負圧に低下すると、撹拌槽100の懸濁液にかかる大気圧と吸引鐘102の内圧との圧力差が発生し、これにより、懸濁液は基材5で濾過されて基材アセンブリ9の外部から内部へ吸引される。そして、懸濁液が基材5で濾過されるときに懸濁液中の固体粉末が捕捉されて、その固体粉末が基材5の外周面5a側に堆積する。懸濁液が基材5で濾過されて生成された濾液は、接続部材4を介して、吸引鐘102の内部に配置された濾液槽104に導かれる。
【0029】
なお、図示省略するが、基材5の内周面5b側に、第1の焼結層6の焼結前駆体として固体粉末を堆積させる場合には、基材アセンブリ9が吸引鐘102中の濾液槽104内に配置されて、基材アセンブリ9の内部が接続部材4を介して撹拌槽100内の懸濁液中に開放される。そして、真空ポンプ103を駆動し、撹拌槽100内の懸濁液を基材アセンブリ9の内部から外部へ吸引して基材5の内周面5b側に固体粉末を捕捉する吸引濾過を行うことで、固体粉末の堆積層が基材5の内周面5b側に形成される。
【0030】
固体粉末の堆積厚が濾過フィルターに要求される濾過精度に応じた所望の厚さに達したと推定されるタイミングで、基材アセンブリ9を撹拌槽100から取り出して、その後、真空ポンプ103の駆動を停止する。基材アセンブリ9を取り出すタイミングは、例えば、真空ポンプ103の吸入圧力から定まる吸入流量と固体粉末の堆積層が所望の厚さに達するまでに要する懸濁液の濾過量とに基づいて設定可能である。そして、基材5の外周面5a側に堆積した固体粉末の堆積層を乾燥させることで、第1の焼結層6の焼結前駆体が得られる。
【0031】
なお、基材5の外周面5a側に堆積した固体粉末は、使用する固体粉末が粗くなるに従って乾燥中に崩れやすくなるため、固体粉末の粗さに応じて撹拌槽100内の懸濁液にバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、ラッカー、ポリビニルアルコール、水溶性セルロースエーテル等を使用することができる。また、アトマイズ法で得られた固体粉末は球形に近い形状に起因して粒径が大きくなるに従って流動性が高くなるため、基材5の外周面5a側に堆積した固体粉末の保形性を向上させるべく、焼結前に冷間プレスにより粒径に応じた圧力で予め圧縮してもよい。ただし、この圧力で固体粉末を圧縮して焼結したときに、焼結層の空隙率低下による濾過抵抗の著しい上昇を招かないことを条件とする。
【0032】
基材5の外周面5a側に堆積させて乾燥させた固体粉末の堆積層を、これが形成されている基材アセンブリ9と共に雰囲気炉(例えば水素炉や真空炉)中において所定の焼結温度及び焼結時間で焼結する。これにより、基材5の外周面5a側に第1の焼結層6が形成される。懸濁液にバインダーを含む場合は、焼結の前に、一度熱処理を行って熱分解をさせてもよい。なお、基材5の内周面5b側に固体粉末の堆積層を形成した場合にも、基材5の外周面5a側に固体粉末の堆積層を形成した場合と同様にして、基材5の内周面5b側に第1の焼結層6が形成される。
【0033】
基材5の外周面5a側に形成された第1の焼結層6の外形(層厚)は、第1の焼結層6の表面に圧力を加えて調整することができる。基材5が中空円筒形である場合には、例えば、冷間で回転金型(ダイス)により第1の焼結層6の表面を周囲から連続的に叩くスウェージング加工により、第1の焼結層6の外径を所定の寸法に調整する。スウェージング加工を行う加工機には加工可能な外径の上限寸法が定められているため、第1の焼結層6の外径が上限の寸法を超えている場合には、前処理として圧延加工を行って第1の焼結層6の外径を小径化する。なお、スウェージング加工及び圧延加工の少なくとも一方は、スタティックプレスや型押し等で代替することができる。
【0034】
濾過用フィルター1は、基本的には上記のようにして製造されるが、第1の焼結層6には
図5に示すような欠陥が生じる場合がある。
【0035】
図5は、
図2のB部を拡大したものであり、固体粉末としてSUSパウダー等の粒子を用いた場合の第1の焼結層における欠陥を示す。焼結により第1の焼結層6が形成されるとき、焼結前駆体となる固体粉末の堆積層の体積は、体積減少が僅かな基材5と比較すると、焼結収縮によって著しく減少し(例えば半減し)、固体粉末の堆積層に働く周方向の引張力は内周面から外周面に向けて上昇する。このため、第1の焼結層6において周方向の引張力が最大となる外周面から内周面に向かう亀裂という形で割れ12が発生しやすくなる。特に、アトマイズ法で得られた固体粉末は球形に近い形状に起因して流動性が高くなるため、このような固体粉末の堆積層を焼結してなる第1の焼結層6では割れ12がより多く発生する傾向にある。また、焼結後に第1の焼結層6の表面に圧力を加えて行う外形調整加工を行った場合には、第1の焼結層6に割れ12が発生するおそれがある。さらには、焼結前の固体粉末の堆積層において何らかの理由によりすでに割れが発生しており、この割れが焼結後の第1の焼結層6において拡大するおそれもある。そして、焼結収縮や焼結後の外形調整加工ひいては焼結前の固体粉末の堆積工程に起因して発生する第1の焼結層6の割れは、特に、シート端部接合基材を基材5として基材アセンブリ9に用いた場合に、濾材シート10における、一端接合部7、他端接合部8又は継目接合部11とそれ以外との境界、すなわち、濾材シート10の内部の多孔質構造が不連続となる部分において顕著にみられる。
【0036】
このように第1の焼結層6に割れが発生した濾過用フィルター1では、濾過の対象流体が濾過抵抗の比較的低い割れ部(上記の亀裂)に集中しやすくなって、濾過精度が実質的に低下するという問題がある。
【0037】
ところで、第1の焼結層6の割れ12は、焼結収縮による固体粉末の堆積層の体積減少が基材5の体積減少に比べて大きいことにより発生する。このため、例えば国際公開公報第1993/06912号に記載されているように、焼結前に固体粉末の堆積層を圧縮して堆積層の密度を予め上昇させることで、固体粉末の焼結収縮に伴う体積減少幅を低減させることも考えられる。しかし、基材5に堆積した固体粉末を圧縮することは、基材5の形状によっては困難であるとともに、第1の焼結層6の空隙率が低下して濾過抵抗の上昇を招くおそれがある。このため、濾過用フィルター1では、濾過抵抗の著しい上昇を抑えつつ、焼結層の割れに起因した濾過精度の実質的な低下を抑制すべく、第1の焼結層6の割れが第2の焼結層で補修され、基材5、第1の焼結層6及び第2の焼結層でフィルターエレメント2が形成される。
【0038】
(第2の焼結層)
第2の焼結層は、第1の焼結層6の割れ部に、SUSパウダー等の粒子(以下、「補修用粒子」という)を堆積させ、この補修用粒子の堆積層を焼結前駆体として焼結することで形成される。補修用粒子は、固体粉末と同様に、例えば、アトマイズ法、粉砕法、酸化物還元法、回転電極法等、種々の製法で得ることができる。
【0039】
補修用粒子は、第1の焼結層6の焼結前駆体である固体粉末の焼結温度以下で焼結されることが前提条件となる。これは、補修用粒子の焼結温度が第1の焼結層6の焼結前駆体である固体粉末の焼結温度より高くなると、第1の焼結層6の焼結がさらに進んで、その空隙率が顕著に低下したり割れ12が拡大あるいは新たに発生したりして、濾過用フィルター1として要求される濾過精度を実現することが困難となるからである。
【0040】
図6は、
図5における第1の焼結層の割れを補修する第2の焼結層を示す。第1の焼結層6の割れ12によって生じた亀裂では濾過時の濾過抵抗が低くなって濾過の対象流体が集中しやすくなるため、第2の焼結層13は、割れ12による亀裂を充填して第1の焼結層6に積層される。例えば、第2の焼結層13が形成されたときに、第1の焼結層6の表面と第2の焼結層13の表面とが略面一となるか(破線参照)、ひいては、第2の焼結層13が第1の焼結層6の全体を覆うように第1の焼結層6に積層されてもよい。第2の焼結層13は、第1の焼結層6の全体を覆うように積層される場合でも、第1の焼結層6よりも層厚を薄くして形成される。
【0041】
第1の焼結層6に発生した割れ12を補修する第2の焼結層13の焼結前駆体としての補修用粒子は、以下のような条件を全て満たす粒径を有している。
【0042】
第1に、補修用粒子は、第1の焼結層6の割れ12による亀裂の内部に進入可能な粒径を有している。例えば、補修用粒子が亀裂の内部に侵入したときに、補修用粒子が第1の焼結層6の表面から突出しない粒径を有している。亀裂の大きさは、第1の焼結層6を形成するたびに実測される実測値、あるいは、基準となる1つ又は複数の濾過用フィルター1の第1の焼結層6で予め実測された実測値に基づいて推定された推定値により決定することができる。
【0043】
第2に、補修用粒子は、これを分散させた懸濁液を第1の焼結層6で濾過したときに、第1の焼結層6で捕捉可能な粒径を有している。これは、補修用粒子が第1の焼結層6で捕捉されないと、第2の焼結層13の焼結前駆体として補修用粒子を堆積させることができなくなるからである。
【0044】
第3に、補修用粒子は、第1の焼結層6の焼結前駆体となる粒子の中心(平均)粒径以下の中心(平均)粒径を有する。これは、補修用粒子が、第1の焼結層6の焼結前駆体である固体粉末の焼結温度以下の焼結温度で焼結されるという上記の前提と、粒径が小さいほど焼結が促進される温度が低くなるという事実と、に基づくものである。このような粒径を有する補修用粒子を第1の焼結層6の焼結前駆体である固体粉末の焼結温度以下で焼結すると、補修用粒子の焼結が促進される一方、第1の焼結層6の方で焼結が抑制される。また、補修用粒子の中心粒径が第1の焼結層6の焼結前駆体となる粒子の中心粒径より小さくなればなるほど補修用粒子の焼結温度が低くなるので、第1の焼結層6の割れの拡大や第2の焼結層13の割れの発生も抑制される。
【0045】
(第2の焼結層の形成方法)
第2の焼結層13の焼結前駆体となる補修用粒子の堆積層は、例えば
図4に示すように、第1の焼結層6の焼結前駆体となる固体粉末の堆積層の形成方法と同様に形成することができる。すなわち、補修用粒子の堆積層は、補修用粒子を溶媒中に分散させた懸濁液(第2の懸濁液)を補修前の濾過用フィルター1の外部から内部へ吸引して補修用粒子を捕捉する吸引濾過を行うことで形成可能である。
【0046】
先ず、懸濁液は、補修用粒子を撹拌槽100内の溶媒(例えばイソプロパノール)に投入して撹拌機101で撹拌し、その補修用粒子を溶媒に分散させることで得られる。懸濁液には、前述のように必要に応じてバインダーを添加してもよい。そして、撹拌槽100内の懸濁液に、補修前の濾過用フィルター1を浸漬する。
【0047】
補修前の濾過用フィルター1の内部は、接続部材4を介して、吸引鐘102に連通接続されている。真空ポンプ103を駆動することで吸引鐘102の内圧が大気圧未満の負圧に低下すると、撹拌槽100の懸濁液にかかる大気圧と吸引鐘102の内圧との圧力差が発生し、これにより、懸濁液は第1の焼結層6及び基材5を通って補修前の濾過用フィルター1の内部へ吸引される。第1の焼結層6のうち割れ部では濾過抵抗が低下しているので、割れ部を通過する懸濁液の流量割合が大きくなる。このため、補修用粒子は、第1の焼結層6のうち割れ部に優先的に堆積する。懸濁液が第1の焼結層6及び基材5で濾過されて生成された濾液は、接続部材4を介して、吸引鐘102の内部に配置された濾液槽104に吸引される。
【0048】
補修用粒子が少なくとも第1の焼結層6のうち割れ部を充填したと推定されるタイミングで、基材アセンブリ9を撹拌槽100から取り出して、その後、真空ポンプ103の駆動を停止する。基材アセンブリ9を取り出すタイミングは、例えば、真空ポンプ103の吸入圧力から定まる吸入流量と割れ部のうち最も大きいものを充填するまでに要する懸濁液の濾過量とに基づいて設定可能である。そして、補修用粒子の堆積層を乾燥させることで、第2の焼結層13の焼結前駆体が得られる。
【0049】
乾燥後の補修用粒子の堆積層を、これが形成されている濾過用フィルター1と共に雰囲気炉(例えば水素炉や真空炉)中において所定の焼結温度及び焼結時間で焼結する。この焼結温度は、前述のように、第1の焼結層6を形成したときの焼結温度以下である。これにより、基材5上に第2の焼結層13が形成される。なお、懸濁液にバインダーを含む場合は、焼結の前に、一度熱処理を行って熱分解をさせてもよい。
【0050】
第2の焼結層13の外形(層厚)は、第1の焼結層6と同様に、圧延加工やスウェージング加工により、第2の焼結層13の表面に圧力を加えて調整してもよい。
【0051】
このように、第2の焼結層13の焼結前駆体となる補修用粒子の堆積層を吸引濾過によって第1の焼結層6のうち割れ部に形成し、この堆積層を焼結することで、第1の焼結層6の割れを補修する第2の焼結層13を形成することができる。
【0052】
第2の焼結層13の焼結前駆体となる補修用粒子の堆積層は、前述のような吸引濾過によらずに、
図7に示すように、溶媒に補修用粒子を分散させてなる懸濁液を第1の焼結層6のうち割れ部に選択的に滴下して形成してもよい。
【0053】
先ず、撹拌槽100等において溶媒に補修用粒子を分散させた懸濁液をピペット等の液体移動手段105によって少量吸い取り、第1の焼結層6の割れ12によって生じた
図7の割れ部(亀裂)に滴下する。すると、付着した懸濁液のうち溶媒は第1の焼結層6及び基材5を通過するが、補修用粒子は第1の焼結層6及び基材5によってこれらの表面に捕捉される。これにより、第1の焼結層6の割れ部に補修用粒子が堆積する。このようにして堆積した補修用粒子の堆積層を乾燥させて、第1の焼結層6を形成したときの焼結温度以下で焼結する。なお、滴下時ないしこれから所定時間が経過するまで、補修前の濾過用フィルター1の内部を負圧にしてもよい、これにより、懸濁液が、割れ部に集中しやすくなり、ひいては、懸濁液中の溶媒が亀裂を通過しやすくなる。
【0054】
また、吸引濾過及び第1の焼結層6のうち割れ部への選択的滴下のいずれにおいても、第1の焼結層6のうち割れ部を除く部分をマスキングして補修用粒子を堆積させて、無駄な補修用粒子の使用を抑えることができる。
【0055】
このような濾過用フィルター1によれば、第1の焼結層6のうち少なくとも割れ部に、補修用粒子が焼結されてなる第2の焼結層13を備えている。このため、濾過の対象流体が第1の焼結層6の割れ部に集中しにくくなって、対象流体中の捕捉すべき物質の焼結層の通過を低減できるので、濾過用フィルター1の濾過精度の実質的な低下を抑制することが可能となる。
【0056】
なお、第2の焼結層13を形成しても、未だ亀裂が残っている場合には、再度、補修用粒子を吸引濾過や自然濾過によって亀裂に堆積させて、さらに焼結層を形成してもよい。
【0057】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る濾過用フィルターについて説明する。なお、第1実施形態と類似の構成については、同一の符号を付して、その説明を簡略化ないし省略する。以下の実施形態において同様である。
【0058】
上記の濾過用フィルター1は、主に焼結工程における収縮により第1の焼結層6に発生した割れを第2の焼結層13で補修することで濾過精度の実質的な低下を抑制するものであった。これに対し、第2実施形態に係る濾過用フィルター1Aは、焼結前及び焼結後の欠陥発生を未然に抑制することで、濾過精度の実質的な低下を抑制する効果をさらに増進するものである。
【0059】
濾過用フィルター1Aの基材5は、濾材シート10である金網焼結体を用いたシート端部接合基材である。この基材5は、具体的には、金網焼結体を筒状に巻いて、その周方向における両端部の継目を軸方向(開口方向)で全長に亘って溶接等で接合した継目接合部11を有する。
【0060】
図8は、基材及び第1の焼結層を有するフィルターエレメントの断面を示す。基材5に用いられる金網焼結体は外周面5aから内周面5bに向けて複数層を有している。
図8に示す例では、基材5に用いられる金網焼結体は、外周面5aから内周面5bに向けて順番に、第1金網層14、第2金網層15、第3金網層16、第4金網層17及び第5金網層18の5つの層を有している。これら5つの層において、第1金網層14は基材5の外周面5aを担う最外周層であり、第5金網層18は基材5の内周面5bを担う最内周層である。また、第1の焼結層6の焼結前駆体となる固体粉末の堆積層を外周面5a側に形成すべく、固体粉末を分散させた懸濁液を基材5で濾過したときに、第2金網層15は他の金網層と比較すると固体粉末を捕捉しやすい濾過精度を有し、第1金網層14及び第3~5金網層は第2金網層15と比較すると固体粉末を捕捉しにくい濾過精度を有する。
【0061】
このような基材5を有する基材アセンブリ9を撹拌槽100内の懸濁液中に浸漬させて吸引濾過を行うことで、懸濁液が基材アセンブリ9の外部から内部へ吸引され、懸濁液中の固体粉末は、第1金網層14を通過して第2金網層15で捕捉される。そして、固体粉末は、第2金網層15の外方へ、すなわち、第1金網層14内の空隙に堆積していって、固体粉末の堆積層が形成される。ただし、吸引濾過は、保形性の比較的低い固体粉末の堆積層を第1金網層14で保護すべく、第1金網層14が固体粉末の堆積層から外方へ突出している状態で完了する。
【0062】
基材5上に堆積させて乾燥させた固体粉末の堆積層を、これが形成されている基材アセンブリ9とともに雰囲気炉中において所定の焼結時間及び焼結時間で焼結する。これにより、
図8に示すように、基材5の外周面5a側に第1の焼結層6が形成されるが、固体粉末の堆積層は焼結により収縮するので、少なくとも第1金網層14が第1の焼結層6より外方へ突出した状態となっている。
【0063】
なお、図示省略するが、第1の焼結層6を基材5の内周面5b側に形成する場合には、第1金網層14を基材5の最内周層とし、第5金網層18を基材5の最外周層として、第1の焼結層6を外周面5a側に形成するときの外周面5aから内周面5bへの金網焼結体の金網層の順番を逆にする。そして、吸引濾過は、保形性の比較的低い固体粉末の堆積層を第1金網層14で保護すべく、第1金網層14が固体粉末の堆積層から内方へ突出している状態で完了する。この状態で焼結を行うことで、基材5の内周面5b側に第1の焼結層6が形成されるが、固体粉末の堆積層は焼結により収縮するので、少なくとも第1金網層14が第1の焼結層6より内方へ突出した状態となっている。
【0064】
このような濾過用フィルター1Aによれば、焼結前の基材5に形成されている固体粉末の堆積層が第1金網層14で保護されているため、外部の物体との接触による固体粉末の堆積層の剥離や変形等で第1の焼結層6に欠陥が発生する可能性を低減できる。また、焼結後に形成される第1の焼結層6においても第1金網層14で保護されているため、外部の物体との衝突で第1の焼結層6に割れ等の欠陥が発生する可能性を低減できる。したがって、濾過用フィルター1Aによれば、焼結前及び焼結後の欠陥が抑制されるので、濾過精度の実質的な低下を抑制する効果をさらに増進することができる。
【0065】
なお、上記のように、最外周層である第1金網層14を第1の焼結層6より外方に突出させて、あるいは、最内周層である第1金網層14を第1の焼結層6より内方に突出させて、濾過用フィルター1Aを形成した場合でも、第1の焼結層6に割れ12が発生することが想定される。この割れ12に対しては、第1実施形態で説明したように、第2の焼結層13を形成することで補修すればよい。
【0066】
また、上記のように、第2金網層15で固体粉末を捕捉して固体粉末の堆積層を形成したが、このように形成した堆積層を焼結してなる第1の焼結層6では、濾過用フィルター1Aに要求される濾過精度に対して層厚が不足する場合が想定される。この場合には、第2金網層15よりも深い位置の第3~5金網層のいずれかで固体粉末を捕捉できるように、各金網層の濾過精度を設定すればよい。
【実施例】
【0067】
第1の焼結層の焼結前駆体となる固体粉末をアトマイズ法により得られた粒子であるSUSパウダーとした濾過用フィルターについて、バブルポイント試験の結果に基づく濾過精度の評価を行うべく、
図9に示される仕様の2つの濾過用フィルターを供試品として作製した。バブルポイント試験では、イソプロパノール希釈液中に濾過用フィルターを浸漬し、濾過用フィルターの内側から空気圧を加えてフィルターエレメントの外側表面に発泡が生じるときの内外間の差圧を計測した。
【0068】
供試品となる濾過用フィルターの基材は、5つの金網を積層して焼結した金網焼結体「フジプレート(登録商標)」を直径12.5[mm]かつ長さ150[mm]の円筒状に巻いて、その周方向の両端(継目)を円筒の軸方向(開口方向)で全長に亘って溶接したシート端部接合基材とした。そして、シート端部接合基材において、一端の開口部に閉塞部材3を溶接し、他端の開口部に接続部材4を溶接して、基材アセンブリを作製した。
【0069】
基材に用いた金網焼結体では、濾過面側から順に、第1金網層を60[メッシュ]とし、第2金網層を後述のメッシュ数とし、第3金網層を100[メッシュ]とし、第4金網層を60[メッシュ]とし、第5金網層を28[メッシュ]とした。ここで、「メッシュ」とは、1インチ当たりの網目の数を示している。
【0070】
基材に用いた金網焼結体の第2金網層には、縦325/横2400[メッシュ]の綾畳織りで線径が縦0.035[mm]/横0.024[mm]の金網「ファインメッシュ」を用いた。
【0071】
参考のために、基材アセンブリの状態でバブルポイント試験を行った。その結果を
図10に示す。フィルターエレメント(基材アセンブリ状態では基材)の外側表面に最初に発泡が生じるときの差圧(イニシャルバブルポイント、以下「IBP」という)は平均で5.10[kPa]となった。また、フィルターエレメント(基材アセンブリ状態では基材)の外側表面全体から均一な気泡が発生するときの差圧(バーストバブルポイント、以下「BBP」という)は平均で5.74[kPa]となった。なお、IBP及びBBPは、基材アセンブリを実際に浸漬したときの水温及び水深にかかわらず濾過性能を適切に評価できるように、水温20[℃]かつ水深0[mm]の状態の差圧に換算した値とした。以下、濾過用フィルターについてのIBP及びBBPについても同様である。
【0072】
次に、供試品となる基材アセンブリを懸濁液に浸漬させて0.15[MPa]の吸引圧力かつ1~2分の吸引時間で吸引濾過を行った。供試品の基材アセンブリを浸漬させる懸濁液については、第1の焼結層の焼結前駆体となる固体粉末として2[μm]の中心粒径に分級されたSUSパウダーを撹拌槽内のイソプロパノール希釈液に分散させて作製した。
【0073】
吸引濾過は、基材の第1金網層がSUSパウダーの堆積層から突出した状態で終了した。そして、基材に堆積したSUSパウダーの堆積層を乾燥させた後、雰囲気炉中において、SUSパウダーの堆積層を基材アセンブリとともに1時間の焼結時間で焼結して第1の焼結層を形成し、濾過用フィルターを作製した。焼結温度は、820[℃]とした。なお、焼結工程後において、供試番号1,2のいずれについてもスウェージング加工ないし圧延加工を実施しなかった。
【0074】
このようにして作製した濾過用フィルターの濾過精度を確認するために、バブルポイント試験を行った。その結果を
図10に示す。供試品の濾過用フィルターにおいてIBP及びBBPは共に基材アセンブリ状態のものと比較して全て上昇し、IBPの平均値で8.91[kPa]となり、BBPの平均値で17.0[kPa]となった。
【0075】
上記のようにして作製した濾過用フィルターにおいて、第1の焼結層に割れが発生していることが確認された。このため、濾過用フィルターの割れを補修するために、以下のようにして第2の焼結層を形成した。先ず、供試品の濾過用フィルターを懸濁液に浸漬させて0.15[MPa]の吸引圧力かつ3~10分の吸引時間で吸引濾過を行った。供試品の濾過用フィルターを浸漬させる懸濁液については、第2の焼結層の焼結前駆体となる固体粉末として2[μm]の中心粒径に分級されたSUSパウダーを撹拌槽内のイソプロパノール希釈液に分散させて作製した。
【0076】
吸引濾過により第1の焼結層上に堆積した補修用SUSパウダーの堆積層を乾燥させた後、補修用SUSパウダーの堆積層を1時間の焼結時間で焼結して第2の焼結層を形成し、濾過用フィルターを補修した。焼結温度は、820[℃]とした。
【0077】
補修後の濾過フィルターの濾過精度を確認するためにバブルポイント試験を行った。その結果を
図10に示す。補修後の濾過用フィルターでは、IBP及びBBPは共に補修前の濾過用フィルターのものと比較して全て上昇し、IBPの平均値で17.60[kPa]となり、BBPの平均値で48.53[kPa]となった。
【0078】
バブルポイント試験の結果、補修後の濾過用フィルターでは、補修前の濾過用フィルターと比較して、濾過精度が向上していることが確認できた。したがって、補修後の濾過用フィルターでは、第1の焼結層の割れに起因した濾過精度の実質的な低下を抑制できることがわかった。
【0079】
また、補修後の濾過用フィルターにおいて、第2金網層よりも深い金網層からSUSパウダーを堆積させて第1の焼結層の層厚を増大させればBBPの値が上昇することが予想できた。
【0080】
なお、第2実施形態に係る濾過用フィルター1Aでは、基材5の外周面5a側に積層した第1の焼結層6よりも、最外周層である第1金網層14を外方へ突出した状態としていた。あるいは、基材5の内周面5b側に積層した第1の焼結層6よりも、最内周層である第1金網層14を内方へ突出した状態としていた。しかし、第1の焼結層6が第1金網層14内の空隙に形成されることで、第1金網層14による第1の焼結層6の構造的強化を図ることができる。また、このように形成される第1の焼結層6の焼結前駆体となる固体粉末の堆積層も第1金網層14内の空隙に形成されるので、固体粉末の堆積層の保形性が第1金網層14によって向上し、ひいては第1の焼結層6の欠陥が抑制される。したがって、第1金網層14を第1の焼結層6から突出させずに、第1金網層14を全て第1の焼結層6で覆うようにしてもよい。
【0081】
また、前述の第1~第3実施形態において、基材5の形状は中空筒状に限らず、キャンドル、リーフディスク、ディスクプリーツ等、中空状であれば種々の形状を採用することができる。このような種々の形状の基材に第1の焼結層6を形成しても、第1の焼結層6に発生する欠陥を第2の焼結層13で補修することが可能である。
【0082】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想および教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。また、上記の第1~第3実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合せて使用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1,1A…濾過用フィルター、2…フィルターエレメント、5…基材、5a…外周面、5b…内周面、6…第1の焼結層、9…基材アセンブリ、10…濾材シート、11…継目接合部、12…割れ、13…第2の焼結層、14…第1金網層、15…第2金網層、16…第3金網層、17…第4金網層、18…第5金網層