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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】複合化ゼオライト膜およびガス分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20241209BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241209BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241209BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
C01B37/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021035642
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135683
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野村 幹弘
(72)【発明者】
【氏名】堀 顕子
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131184(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141033(WO,A1)
【文献】特開2002-066279(JP,A)
【文献】特開2008-174730(JP,A)
【文献】特開2011-098880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
C01B 33/20-39/54
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体および前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を含む複合化ゼオライト膜であって、
前記ゼオライト膜がMFI型ゼオライトにより構成され、
前記ゼオライト膜表面が一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されている、複合化ゼオライト膜;
【化1】
式中、Rはハロゲン化アリール基を表し、mは1~3の整数を表し、nは0~8の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項2】
がフッ化アリール基である請求項1に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項3】
がペンタフルオロフェニル基である請求項1に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項4】
mが1であり、かつnが0である請求項1~3のいずれか一項に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項5】
前記Si含有化合物がペンタフルオロフェニルトリメトキシシランである請求項1に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項6】
前記多孔質支持体がアルミナにより構成されるアルミナ多孔質支持体である請求項1~5のいずれか一項に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項7】
前記MFI型ゼオライトがシリカライト-1である請求項1~6のいずれか一項に記載の複合化ゼオライト膜。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の複合化ゼオライト膜からなるガス分離膜。
【請求項9】
プロパンに対してエタンを選択的に透過させるために用いられる請求項8に記載のガス分離膜。
【請求項10】
プロピレンに対してエチレンを選択的に透過させるために用いられる請求項8に記載のガス分離膜。
【請求項11】
エタンに対してメタンを選択的に透過させるために用いられるガス分離膜であって、
多孔質支持体および前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を含み、
前記ゼオライト膜がMFI型ゼオライトにより構成され、
前記ゼオライト膜表面が、一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されている、ガス分離膜;
【化2】
式中、R11はハロゲン化アルキル基を表し、mは1~3の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項12】
前記Si含有化合物が3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランである請求項11に記載のガス分離膜。
【請求項13】
前記多孔質支持体がアルミナにより構成されるアルミナ多孔質支持体である請求項11または12に記載のガス分離膜。
【請求項14】
前記MFI型ゼオライトがシリカライト-1である請求項11~13のいずれか一項に記載のガス分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、Si含有化合物により表面処理されたゼオライト膜付多孔質支持体である複合化ゼオライト膜に関する。また、本発明は、複合化ゼオライト膜からなるガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
低級炭化水素の精製プロセスでは、従来、蒸留法が用いられてきた。しかし、特に比揮発度の小さな炭化水素の蒸留分離は、エネルギー消費量が大きい。蒸留法に代わる省エネルギーの精製法としては、吸着剤などを用いた方法のほか、高分子膜やゼオライト膜などのガス分離膜を用いた方法がある。耐熱性・耐圧性・高い機械的強度を有するゼオライトは固有の細孔径を有する結晶性の無機材料であり、膜化することで分子ふるい性や吸着性を利用した分離が可能である。
【0003】
特許文献1では、MFI型ゼオライト膜表面をフェニルトリメトキシシランなどのSi含有化合物により表面処理したゼオライト膜付多孔質支持体が、窒素と炭化水素を含有するガスと接触させた際に、選択的に窒素を透過させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-131184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石油化学工場におけるナフサ等の原料の熱分解によっては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタンなどの多様な炭化水素が得られるため、各製品の精製のためには、多様な炭化水素の分離を可能とするガス分離膜が求められる。
本発明の課題は、低級炭化水素の分離のためのガス分離膜に用いることができる材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決のため検討していたところ、特許文献1に記載のゼオライト膜付多孔質支持体の表面修飾に用いるSi含有化合物としてハロゲンを含む化合物を利用することにより、選択的に透過可能な炭化水素の調整が可能であることを見出し、さらに検討を重ねて、本発明を完成させた。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0007】
<1>多孔質支持体および上記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を含む複合化ゼオライト膜であって、
上記ゼオライト膜がMFI型ゼオライトにより構成され、
上記ゼオライト膜表面が一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されている、複合化ゼオライト膜;
【0008】
【化1】
【0009】
式中、Rはハロゲン化アリール基を表し、mは1~3の整数を表し、nは0~8の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
<2>Rがフッ化アリール基である<1>に記載の複合化ゼオライト膜。
<3>Rがペンタフルオロフェニル基である<1>に記載の複合化ゼオライト膜。
<4>mが1であり、かつnが0である<1>~<3>のいずれかに記載の複合化ゼオライト膜。
<5>上記Si含有化合物がペンタフルオロフェニルトリメトキシシランである<1>に記載の複合化ゼオライト膜。
<6>上記多孔質支持体がアルミナにより構成されるアルミナ多孔質支持体である<1>~<5>のいずれかに記載の複合化ゼオライト膜。
<7>上記MFI型ゼオライトがシリカライト-1である<1>~<6>のいずれかに記載の複合化ゼオライト膜。
【0010】
<8><1>~<7>のいずれかに記載の複合化ゼオライト膜からなるガス分離膜。
<9>プロパンに対してエタンを選択的に透過させるために用いられる<8>に記載のガス分離膜。
<10>プロピレンに対してエチレンを選択的に透過させるために用いられる<8>に記載のガス分離膜。
【0011】
<11>エタンに対してメタンを選択的に透過させるために用いられるガス分離膜であって、
多孔質支持体および上記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を含み、
上記ゼオライト膜がMFI型ゼオライトにより構成され、
上記ゼオライト膜表面が、一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されている、ガス分離膜;
【0012】
【化2】
【0013】
式中、R11はハロゲン化アルキル基を表し、mは1~3の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
<12>上記Si含有化合物が3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランである<11>に記載のガス分離膜。
<13>上記多孔質支持体がアルミナにより構成されるアルミナ多孔質支持体である<11>または<12>に記載のガス分離膜。
<14>上記MFI型ゼオライトがシリカライト-1である<11>~<13>のいずれかに記載のガス分離膜。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ガス分離膜として使用することができる新規複合化ゼオライト膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で行なった液相法による表面処理で用いた装置の概略を示す図である。
図2】実施例で行なった気相法による表面処理で用いた装置の概略を示す図である。
図3】実施例で作製した3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランで表面処理されたゼオライト膜付多孔質支持体のガス透過度評価を示す図である。
図4】実施例で作製したペンタフルオロフェニルトリメトキシシランで表面処理されたゼオライト膜付多孔質支持体のガス透過度評価を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
<<複合化ゼオライト膜:Si含有化合物により表面処理されたゼオライト膜付多孔質支持体>>
本明細書において、複合化ゼオライト膜はSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体を意味する。複合化ゼオライト膜において、多孔質支持体、ゼオライト膜、Si含有化合物による表面処理面はこの順で配置されている。多孔質支持体上にゼオライト膜が形成され、ゼオライト膜表面に表面処理がなされる。
【0018】
複合化ゼオライト膜の形状は、管状、平板状、ハニカム状など想定されるが、特に限定されず、後述の多孔質支持体の形状に沿った形状を取り得る。例えば、管状または円筒状である場合、表面処理面は内側であっても外側であってもよい。
【0019】
<Si含有化合物>
本発明者らは、ハロゲンを含むSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体により、例えば炭素数1~3の炭化水素の相互分離が可能なガス分離膜を提供できることを見出した。本発明において、ハロゲンを含むSi含有化合物としては一般式(1)で表されるSi含有化合物または一般式(11)で表されるSi含有化合物が使用される。Si含有化合物としては一般式(1)で表されるSi含有化合物を2種以上または一般式(11)で表されるSi含有化合物を2種以上組み合わせて用いてもよく、一般式(1)で表されるSi含有化合物および一般式(11)で表されるSi含有化合物両者を組み合わせて用いてもよい。Si含有化合物としては一般式(1)で表されるSi含有化合物または一般式(11)で表されるSi含有化合物とともに他のSi含有化合物(例えば、ハロゲンを含まないSi含有化合物)を使用してもよい。ただし、用いるSi含有化合物の総質量に対して一般式(1)で表されるSi含有化合物または一般式(11)で表されるSi含有化合物は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。表面処理に用いるSi含有化合物の実質的に全量が一般式(1)で表されるSi含有化合物または一般式(11)で表されるSi含有化合物であることがさらに好ましい。
【0020】
[一般式(1)で表されるSi含有化合物]
【化3】
【0021】
一般式(1)において、Rはハロゲン化アリール基を表し、mは1~3の整数を表し、nは0~8の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0022】
で表されるハロゲン化アリール基におけるハロゲン基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。このうち、置換数の調整や合成が容易であるフルオロ基を好ましく用いることができる。すなわち、Rはフッ化アリール基であることが好ましい。アリール基としては、ナフチル基、フェニル基などが挙げられ、フェニル基が好ましい。アリール基における置換可能な水素原子が全てハロゲン化されていてもよく、一部がハロゲン化されていてもよい。例えば、アリール基がフェニル基である場合、1~5個の水素原子が置換されてハロゲン基となっていればよく、3~5個の水素原子が置換されてハロゲン基となっていることが好ましく、5個の水素原子が置換されてハロゲン基となっていることがより好ましい。Rはペンタフルオロフェニル基であることが最も好ましい。
【0023】
mは1~3の整数であり、1~2であることが好ましく、1であることがより好ましい。mが2または3であるときの複数のR、および複数のnはそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。nは0~8の整数を表し、0~4であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0024】
は炭素数1~4のアルキル基を表し、炭素数1または2のアルキル基であることが好ましい。(4-m)が2または3であるときの複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
一般式(1)における、R、R、mおよびnは、複合化ゼオライト膜の用途、例えばガス分離膜が分離しようとするガスの種類や、入手の容易さに応じて選択することができる。
【0026】
一般式(1)で表されるSi含有化合物としては、具体的には、2,4-ジフルオロフェニルトリメトキシシラン、2,4-ジフルオロフェニルトリエトキシシラン、3,4,5-トリフルオロフェニルトリメトキシシラン、3,4,5-トリフルオロフェニルトリエトキシシラン、4-(2,3,4,5-テトラフルオロフェニル)フェニルトリメトキシシラン、4-(2,3,4,5-テトラフルオロフェニル)フェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロベンジルトリメトキシシラン、ペンタフルオロベンジルトリエトキシシラン、2-(ペンタフルオロフェニル)エチルトリメトキシシラン、2-(ペンタフルオロフェニル)エチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらのうち、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランが好ましい。
【0027】
一般式(1)で表されるSi含有化合物は公知の方法で合成することができる。一般式(1)で表されるSi含有化合物としては市販品を用いてもよい。
【0028】
[一般式(11)で表されるSi含有化合物]
【化4】
【0029】
一般式(11)において、R11はハロゲン化アルキル基であり、mは1~3の整数を表し、nは0~8の整数を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0030】
11で表されるハロゲン化アルキル基におけるハロゲン基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。このうち、置換数の調整や合成が容易であるフルオロ基を好ましく用いることができる。すなわち、Rはフッ化アルキル基であることが好ましい。アルキル基としては、炭素数1~16のアルキル基が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基が好ましい。炭素数3~16のアルキル基は直鎖または分岐鎖のいずれであってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などが挙げられ、これらのうちn-プロピル基が好ましい。アルキル基における置換可能な水素原子が全てハロゲン化されていてもよく、一部がハロゲン化されていてもよい。アルキル基における末端のメチル基がトリフルオロメチル基となるように、3個の水素原子がハロゲン化されていることが好ましい。Rは3,3,3-トリフルオロプロピル基であることが最も好ましい。mが2または3であるときの複数のR11は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
一般式(11)におけるRおよびmは、一般式(1)におけるRおよびmとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同一である。
【0032】
一般式(11)で表されるSi含有化合物としては、具体的には、3,3,3-トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらのうち、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0033】
一般式(11)で表されるSi含有化合物は公知の方法で合成することができる。一般式(11)で表されるSi含有化合物としては市販品を用いてもよい。
【0034】
<ゼオライト膜>
ゼオライトは、多孔性の結晶性アルミノケイ酸塩である。本発明の複合化ゼオライト膜におけるゼオライト膜は、MFI型ゼオライトから構成される膜であり、MFI型ゼオライト結晶が緻密に集合することで形成されている。MFI型ゼオライトの骨格構造(具体的には、酸素10員環)に起因して、微細な細孔(分子レベルの細孔)が形成されており、分離膜としての機能を有しうる。このゼオライト膜の表面がSi含有化合物により表面処理されていることにより、透過可能なガスの種類が調整されていると考えられる。
【0035】
本発明の複合化ゼオライト膜において、ゼオライト膜にMFI型ゼオライトが含有されていることは、国際ゼオライト学会による分類で構造コードがMFIであるX線回折(以下、「XRD」という。)パターンとの比較により判断することが可能となる。ゼオライト膜は、MFI型ゼオライトの骨格構造を有している限り、他の成分を含んでいてもよく、他の成分としては、例えば、シリカ、アルミナが挙げられる。
【0036】
本発明の複合化ゼオライト膜において、ゼオライト膜を構成するMFI型ゼオライトとしては、シリカライト-1が好ましい。シリカライト-1は、結晶の骨格構造がケイ素および酸素で構成され、結晶の骨格構造内にアルミニウムを実質的に含まないMFI型ゼオライトである。これによりゼオライト膜はより低分子のガスの透過性能が高く、かつ、より耐久性に優れる。
【0037】
ゼオライト膜の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上100μm以下とすることができる。
【0038】
ここで、多孔質支持体上とは、多孔質支持体の外表面(多孔質支持体に設けられる孔の表面を除いた多孔質支持体の表面)と多孔質支持体の外部につながる孔の開口部(多孔質支持体の外表面に露出する孔の開口部)を指す。つまり、多孔質支持体上に形成されるゼオライト膜は、多孔質支持体の外表面を覆うとともに、多孔質支持体の外部につながる孔を塞ぐ。
【0039】
なお、ゼオライト膜は、多孔質支持体上に形成されていればよく、ゼオライト膜の一部分が、多孔質支持体に設けられる孔の内部に侵入し、その孔の表面上(つまり、内表面上)に形成されていてもよい。すなわち、多孔質支持体とゼオライト膜との間には両者が混在する領域が存在していてもよい。また、ゼオライト膜は、多孔質支持体上の全ての領域に形成されていてもよく、多孔質支持体上の一部の領域のみに形成されていてもよい。
【0040】
<多孔質支持体>
本発明の複合化ゼオライト膜における多孔質支持体としては、圧力差に耐える強度や、耐熱性を有するものであれば特に限定するものではなく、例えば、無機系多孔質支持体、または無機有機ハイブリッド多孔質支持体等が挙げられる。
【0041】
無機系多孔質支持体としては、多孔質であれば特に制限されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、または炭化珪素などのセラミックス焼結体、またはステンレスなどの焼結金属、ガラス、カーボン成形体等を用いることができる。無機有機ハイブリッド多孔質支持体としては、特に限定するものではなく、例えば、上記無機系多孔質支持体と酢酸セルロース等の有機系支持体を混合または積層させたものが挙げられる。強度、耐熱性、耐腐食性の観点で無機系多孔質支持体が好ましく、アルミナから構成されるアルミナ多孔質支持体がより好ましい。
【0042】
多孔質支持体表面層の孔径は、例えば、0.05μm以上4.0μm以下とすることができ、さらには0.08μm以上2.0μm以下であることが好ましく、またさらには0.10μm以上1.5μm以下の範囲であることがより好ましい。当該支持体の孔径の評価は、バブルポイント法や水銀圧入法などで行うことができる。尚、多孔質支持体表面層とは、ゼオライト膜を形成し得る多孔質支持体の表面部分を指し、例えば、多孔質支持体の外表面から、多孔質支持体の厚さの25%程度までの部位である。また、ゼオライト膜を形成する支持体表面層以外の部分の孔径は、特に制限されないが、0.05μm以上4.0μm以下、さらに0.30μm以上1.5μm以下であることが例示できる。また、多孔質支持体の気孔率は混合ガスを分離する際の強度および透過流量を左右するため、20%以上60%以下の気孔率を有するものが好ましい。
【0043】
多孔質支持体の形状は、混合ガスを有効に分離できる形状であれば制限されるものではなく、例えば、平板状、波板状、管状、円柱状、円錐状、円錐台状、円筒状、角柱状、角筒状、角錐状、角錐台状、または円柱状、若しくは角柱状の孔が多数存在するハニカム状などが挙げられる。波板状、管状、円柱状、円錐状、円錐台状、円筒状、角柱状、角筒状、角錐状、角錐台状、または円柱状の多孔質支持体については、中心がくり抜かれた筒状のものが好ましく、筒は貫通しているものでもよいし、試験管状の貫通していないものであってもよい。
【0044】
<<複合化ゼオライト膜の製造方法>>
<ゼオライト膜付多孔質支持体の製造方法>
ゼオライト膜が形成された多孔質支持体(多孔質支持体上にゼオライト膜が形成されている多孔質支持体)は、公知の方法で製造することができる。公知の方法としては、例えば、特開2015-150527号公報に記載の方法や、国際公開第2017/221761号に記載の方法が挙げられる。なお、一例としては、MFI型ゼオライトの種晶を多孔質支持体の外表面に付着し、種晶が付着した多孔質支持体を、ゼオライト膜合成用原料組成物(MFI型ゼオライトの構成成分を含む溶液)に浸漬して水熱合成する方法を挙げることができる。
【0045】
<表面処理>
本発明の複合化ゼオライト膜において、ゼオライト膜表面は、上記のSi含有化合物で表面処理されている。本明細書において、表面処理とは、ゼオライト膜の表面にSi含有化合物を固定する処理を指し、表面処理されているとは、ゼオライト膜の表面にSi含有化合物が固定されていることを指す。Si含有化合物はゼオライト膜表面に、共有結合、水素結合、またはファンデルワールス結合などで固定されていればよい。
【0046】
Si含有化合物はゼオライト膜の表面処理前に上記で説明した一般式(1)または一般式(11)で表される構造を有していればよく、表面処理後は、ゼオライト膜に結合して一部の部分構造が異なる構造となっていてもよい。例えば、各構造中のORのRが脱離して、ゼオライト膜に結合した構造であってもよい。具体的には、ゼオライト膜中のSiと共有結合し、「Si-O-Si」の部分構造を形成していてもよい。
【0047】
ゼオライト膜表面がSi含有化合物で表面処理されていることは、表面処理物の熱重量測定、またはエネルギー分散型X線分析装置搭載走査型電子顕微鏡による元素マッピングで確認することができる。例えば、表面処理されたゼオライトはされていないゼオライトと比較して重量減少が遅くなり、また置換基の脱離に伴うと思われる多段階での減少が見られる。また、元素マッピングによりフッ素などのハロゲンが検出されることにより表面処理を確認することができる。
【0048】
ゼオライト膜の表面処理方法としては、例えば、下記の液相法または気相法を用いることができる。用いる表面処理方法は主にSi含有化合物に応じて選択すればよい。例えば、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランによる表面処理の際は気相法を用いることが好ましい。
【0049】
(液相法)
液相法は、ゼオライト膜が形成された多孔質支持体を、Si含有化合物を含む溶液に浸漬することで、ゼオライト膜の表面にSi含有化合物を固定する方法である。
【0050】
Si含有化合物を含む溶液は、少なくともSi含有化合物と溶媒を含む溶液である。溶媒としては、エタノール、ヘキサン等の溶媒で希釈して使用することができる。Si含有化合物を含む溶液としては、例えば、Si含有化合物1モルをエタノール300モルで希釈した溶液を挙げることができる。
【0051】
ゼオライト膜が形成された多孔質支持体を、Si含有化合物を含む溶液に浸漬する際の温度は、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましい。20℃以上とすることで処理に長時間を要することを防止することができる。また、200℃以下とすることで、ゼオライト膜と多孔質支持体との熱膨張率の差で欠陥が生じることを防止することができる。浸漬は大気圧下で行なっても減圧下で行なってもよい。浸漬時間は特に限定されないが、例えば2時間~24時間であればよい。
【0052】
浸漬後は水や溶媒等で洗浄した後、電気炉等の加熱により乾燥させることが好ましい。乾燥時の加熱温度は300℃以下が好ましい。この温度範囲でゼオライト膜と多孔質支持体との熱膨張率の差で欠陥が生じるのを防ぐことができるからである。また、昇温速度と降温速度は5℃/min以下が好ましく、3℃/min以下が更に好ましい。
【0053】
(気相法)
気相法はSi含有化合物を高温下で気化させ、ゼオライト膜の表面に固定する方法である。具体的には、Si含有化合物をゼオライト膜と共に密閉容器(耐熱性かつ耐圧性)に導入して高温処理する方法である。
【0054】
加熱温度は、ゼオライト膜の耐熱性を考慮し、100~500℃であればよく、130~300℃が好ましく、150~200℃がより好ましい。加熱は電気炉中などで行なえばよい。
【0055】
Si含有化合物の密閉容器中の分圧は、例えば0.7MPa以下であればよく、0.1MPa以下が好ましく、0.05MPa以下がより好ましい。
【0056】
Si含有化合物は、常温にて液体もしくは固体であり、気相法では、密閉容器中にゼオライト膜と直接触れないように配置する。Si含有化合物は、密閉容器中で揮発してゼオライト膜と反応するため、配置方法は特に指定されない。
【0057】
<<ガス分離膜>>
上記の複合化ゼオライト膜はガス分離膜として使用することができる。ガス分離膜は複数種の気体を含む混合ガスから、所望の気体成分を選択的に透過させて分離することができる膜である。本発明のガス分離膜は、処理される複数種の気体を含む混合ガス(被処理ガス)が、表面処理された面側(多孔質支持体に対してゼオライト膜側)から複合化ゼオライト膜を透過させるように使用されることが好ましい。このとき反対側から、所望の気体成分の濃度が被処理ガスにおける濃度よりも増加したガスが得られていればよい。例えば、外側に表面処理面を有する管状の複合化ゼオライト膜は、外側から被処理ガスを導入し、内側から処理後のガスを排出できるように使用することが好ましい。
【0058】
一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、後述の実施例で示すように、C/C透過率比およびC/C透過率比が顕著に高い。したがって、一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、プロパン(C)に対してエタン(C)を選択的に透過させるための分離膜、またはプロピレン(C)に対してエチレン(C)を選択的に透過させるための分離膜として好ましく使用することができる。本明細書において、Aに対してBを選択的に透過させるための分離膜は、透過前の混合ガスにおける(Bの濃度)/(Aの濃度)が増加するものであればよい。一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、例えば、少なくともエタンとプロパンとを含む混合ガスからエタンを選択的に透過させるための分離膜または少なくともエチレンとプロピレンとを含む混合ガスからエチレンを選択的に透過させるための分離膜として使用することができる。
【0059】
一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、膜透過時の実質的な分子サイズがプロパンおよびプロピレンよりも大きいガスと、エタンおよびエチレンよりも小さいガスとの分離に用いることができる。例えば、一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、ブタンに対してメタンを選択的に透過させるための分離膜として用いることもできる。
【0060】
一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のエタン透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以上が好ましく、更には3×10-8mol/m/s/Pa以上であることが好ましい。また、一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のプロパン透過度は透過度は3×10-9mol/m/s/Pa以下が好ましく、更に好ましくは1×10-9mol/m/s/Pa以下であることが好ましい。
【0061】
一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のエチレン透過度は1×10-8mol/m/s/Pa以上が好ましく、更には3×10-8mol/m/s/Pa以上であることが好ましい。また、一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のプロピレン透過度は透過度は5×10-9mol/m/s/Pa以下が好ましく、更に好ましくは2×10-9mol/m/s/Pa以下であることが好ましい。
【0062】
一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体からなるガス分離膜で処理される被処理ガスは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、プロパジエン、ブテン、ブタジエンからなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでいてもよい。また、水素、窒素、二酸化炭素、水、酸素、希ガス等を含んでいてもよい。一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体からなるガス分離膜は、例えば、窒素、二酸化炭素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、およびブタンを少なくとも含む被処理ガスの、窒素、メタン、エタン、およびエチレンを含む混合ガスと、プロパン、プロピレン、およびブタンを含む混合ガスとへの分離に用いることができる。
【0063】
一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、後述の実施例で示すように、CH/C透過率比が顕著に高い。したがって、一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、エタンに対してメタン(CH)を選択的に透過させるための分離膜として好ましく使用することができる。一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、例えば、少なくともメタンとエタンとを含む混合ガスからエタンを選択的に透過させるための分離膜として使用することができる。
【0064】
一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、膜透過時の実質的な分子サイズがエタンよりも大きいガスと、メタンよりも小さいガスとの分離に用いることができる。例えば、一般式(1)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体は、エタンに対して窒素を選択的に透過させるための分離膜として用いることもできる。
【0065】
一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のメタン透過度は2×10-8mol/m/s/Pa以上が好ましく、更には5×10-8mol/m/s/Pa以上であることが好ましい。また、一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体のエタン透過度は透過度は5×10-9mol/m/s/Pa以下が好ましく、更に好ましくは3×10-9mol/m/s/Pa以下であることが好ましい。
【0066】
一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体からなるガス分離膜で処理される被処理ガスは、上記各成分のほか、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、アセチレン、プロピレン、プロパジエン、ブテン、ブタジエンからなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでいてもよい。また、水素、窒素、二酸化炭素、水、酸素、希ガス等を含んでいてもよい。一般式(11)で表されるSi含有化合物で表面処理されているゼオライト膜付多孔質支持体からなるガス分離膜は、例えば、窒素、二酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、およびブタンを少なくとも含む被処理ガスの、窒素およびメタンを含む混合ガスと、エタン、プロパンおよびブタンを含む混合ガスとへの分離に用いることができる。
【0067】
メタン、二酸化炭素、エタン、エチレン、プロパン、プロピレンは天然ガス等の主成分であり、本発明のガス分離膜は工業的に有用である。
【0068】
本発明のガス分離膜は炭化水素が凝縮しない温度で使用されることが好ましい。例えば、メタンは-89℃以上、エタンは-89℃以上、プロパンは-42℃以上、ブタンは0℃以上である。このような温度で使用されることにより、ゼオライト膜の細孔や多孔質支持体の孔内において、メタン等の炭化水素の凝縮が抑制され、より効率的に分離を行うことができる。膜温度は、500℃以下であることが好ましく、更には200℃以下であることが好ましい。
本発明のガス分離膜は0℃以上200℃以下の温度条件下で使用されることが好ましい。
【0069】
本発明のガス分離膜を用いたガス分離においてガス分離膜への被処理ガスの圧力は特に限定されるものではなく、0.10MPa以上が好ましい。このよう圧力により被処理ガスの透過流量が多くなり、必要膜面積を小さくすることができる。すなわち必要なゼオライト膜面積を小さくすることができ、経済的に有利である上に装置の簡素化が可能となる。上記圧力は、0.20MPa以上がさらに好ましい。
【0070】
本発明のガス分離膜は、例えば、ガス分離モジュールに適切に設置して用いることができる。ガス分離モジュールは、本発明のガス分離膜、本発明のガス分離膜を収納するステンレスなど金属製のハウジング、ハウジングと分離膜を接続するゴム製などのシール材、ガス分離膜の表面処理面側に被処理ガスを供給する手段、およびガス分離膜の表面処理面側の反対側から処理後のガスを回収する手段を少なくとも有する構成とすればよい。
【実施例
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
<複合化ゼオライト膜の製造>
[種晶の作製]
水酸化ナトリウム(関東化学製特級)1g、蒸留水58.3g、コロイダルシリカ(日産化学製SI-30)16.2gおよびテトラプロピルアンモニウムブロミド(富士フイルム和光純薬株式会社製特級)5.5gを室温で1時間撹拌混合した後、130℃、20時間で水熱合成を実施した。次いで、合成溶液をろ過し、蒸留水で洗浄した後、100℃で15時間乾燥させ、500℃、15時間で焼成した。得られた種晶に対して、X線回折測定(XRD、装置名:RINT UltimaIII、理学電機製)によって構成相の同定を行い、当該種晶の結晶相がシリカライト-1であることを確認した。
【0073】
[シリカライト-1膜付多孔質支持体の作製]
上記種晶0.4gをエタノール50mlに分散させ、円筒型多孔質支持体(材質:αアルミナ、平均細孔径:0.7μm(表面側:0.15μm)、気孔率:35~45%、長さ:3cm、外径:1cm、内径:0.7cm)を浸漬し、これを100℃で乾燥させることで支持体外表面に種晶を担持した。
【0074】
水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製特級)1g、蒸留水655.5g、テトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)74.6gおよびテトラプロピルアンモニウムブロミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.66gを室温で1時間撹拌混合した後、上記種晶付多孔質支持体を浸漬し、180℃、24時間で水熱合成を実施した。次いで、合成溶液から取り出した支持体を蒸留水で洗浄した後、500℃、15時間で焼成した。得られた多孔質支持体の膜部分に対して、XRDによって構成相の同定を行い、当該ゼオライト膜部分の結晶相がシリカライト-1であることを確認した。
【0075】
[3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランで表面処理されたシリカライト-1膜付多孔質支持体の作製]
図1に示すように、上記シリカライト-1膜付多孔質支持体(1)を、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)3.16gをエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)200gに溶解した溶液(2)に浸漬し、80℃、10時間で還流後、エタノールで洗浄し、220℃、24時間加熱し、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランで表面処理されたシリカライト-1膜付多孔質支持体を得た。
【0076】
[ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランで表面処理されたシリカライト-1膜付多孔質支持体の作製]
図2に示すように、内容量100mlの密閉容器(耐熱性かつ耐圧性)(10)に上記シリカライト-1膜付多孔質支持体(1)を4本設置した。さらに耐圧容器に、0.11g(気化後の容器中の濃度としては約0.004mol/L)のペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン(2)を導入した。ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランは公知の手順で合成した。耐圧容器を電気炉中で170℃にて3時間加熱した。ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランで表面処理されたシリカライト-1膜付多孔質支持体を得た。
【0077】
(ガス透過度評価)
得られた表面処理シリカライト膜付多孔質支持体について、各種ガス透過度を評価した。評価手順は次の通りである。表面処理シリカライト膜表面へ各ガスを供給し、圧力調整弁によりそれぞれ0.2MPaに設定した。膜温度を20℃に保持し、表面処理したシリカライト-1膜付多孔質支持体を透過したガスを石鹸膜流量計および圧力変化法により流量を評価した。透過度、および理想分離係数は次式により算出した。なお、透過度は、上述した条件の試験に基づいて得た。

透過度=(透過流量(mol/s))/(膜面積(m))/(圧力差(Pa))

各ガスの結果を図3および図4に示す。
【0078】
図3からわかるように、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランでの表面処理により、C透過率が63.9×10-9molm-2-1Pa-1から2.52×10-9molm-2-1Pa-1に大きく減少した。その結果、CH/C透過率比が4.1から25.3に向上した。
【0079】
図4からわかるように、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシランでの表面処理により、C透過率が4.94×10-9molm-2-1Pa-1から1.38×10-9molm-2-1Pa-1に大きく減少した。その結果、C/C透過率比が15.0から34.5に向上した。また、C/C透過率比が22.3から42.7に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の複合化ゼオライト膜からなるガス分離膜により低級炭化水素の分離を行なうことができる。本発明のガス分離膜を用いることにより、系外から大量の熱エネルギーを加えることなく、所望のガスを高選択的に透過分離することが可能であり、炭化水素高純度化において省エネルギー製造プロセスを提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 シリカライト-1膜付多孔質支持体
2 Si化合物
10 密閉容器
図1
図2
図3
図4