(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】組成物、硬化物、硬化物の製造方法、固体電解質膜、燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池、及び、アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
C08L 81/06 20060101AFI20241209BHJP
C08G 75/20 20160101ALI20241209BHJP
C08G 75/23 20060101ALI20241209BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241209BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241209BHJP
H01M 8/1027 20160101ALI20241209BHJP
H01M 8/1032 20160101ALI20241209BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20241209BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20241209BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C08L81/06
C08G75/20
C08G75/23
H01B1/06 A
H01M8/10 101
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/1072
H01M8/18
H02N11/00 Z
(21)【出願番号】P 2021050900
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】金 済徳
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-037896(JP,A)
【文献】特開2005-302312(JP,A)
【文献】特開2005-019055(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/06
C08G 75/20
C08G 75/23
H01B 1/06
H01M 8/10
H01M 8/1027
H01M 8/1032
H01M 8/1072
H01M 8/18
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記
式2で表される繰り返し単位
からなる高分子化合物と、
熱ラジカル重合開始剤と、
溶媒と、からなる組成物。
【化1】
(式2中、Ar
21
、Ar
22
、及び、Ar
23
はそれぞれ独立に、アリーレン基、又は、ヘテロアリーレン基を表し、L
21
、及び、L
22
はそれぞれ独立に、単結合、又は、-O-、-S-、-CH
2
-、-C(CH
3
)
2
-、-C(CF
3
)
2
-、-C(=O)-、及び、-S(=O)
2
-からなる群より選択される2価の基を表し、複数あるAr
21
、Ar
22
、Ar
23
、L
21
、及び、L
22
は同一でも異なってもよく、pは1~5の整数を表し、qは0~30の整数を表し、前記繰り返し単位の1つあたり、前記Ar
21
で表される基、Ar
22
表される基、及び、Ar
23
で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基が有する水素原子の少なくとも1つがスルホン酸基又はその塩、を有する基で置換されている)
【請求項2】
前記高分子化合物の含有量に対する、前記
熱ラジカル重合開始剤の含有量の質量基準の比が0.05~0.30である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記式2で表される繰り返し単位が、以下の式3で表される繰り返し単位である、請求項
1又は2に記載の組成物。
【化2】
(式3中、L
31、及び、L
32はそれぞれ独立に、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は、-SO
2-を表し、複数あるL
31、及び、L
32は同一でも異なってもよく、X
31、X
32、及び、X
33はそれぞれ独立に、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又は、カリウム原子を表し、mは1~5の整数を表し、rは1~3の整数を表し、nは0~10の整数を表し、y
1、y
2、及び、y
3はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、y
1、y
2、及び、y
3からなる群より選択される少なくとも1つが1以上である)
【請求項4】
前記式3で表される繰り返し単位が、以下の式4で表される繰り返し単位である請求項
3に記載の組成物。
【化3】
(式4中、X
41、X
42、X
43、及び、X
44はそれぞれ独立に、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又は、カリウム原子であり、z
1、z
2、z
3、及び、z
4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、z
1、z
2、z
3、及び、z
4からなる群より選択される少なくとも1つが1以上である)
【請求項5】
前記
熱ラジカル重合開始剤がアゾ系化合物である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記高分子化合物が有する、スルホン酸基又はその塩、を有する基の合計数が、前記繰り返し単位の1つあたり、2~6個である請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物を硬化させた、硬化物。
【請求項8】
前記高分子化合物が、-S(=O)
2-を介して架橋されている、請求項
7に記載の硬化物。
【請求項9】
前記
熱ラジカル重合開始剤を含有しない、請求項
7又は8に記載の硬化物。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物を加熱して硬化物を得る、硬化物の製造方法。
【請求項11】
前記硬化物を、酸性溶液に浸漬することを含む、請求項
10に記載の硬化物の製造方法。
【請求項12】
請求項
7~9のいずれか1項に記載の硬化物を含む固体電解質膜。
【請求項13】
請求項
12に記載の固体電解質膜を含む燃料電池。
【請求項14】
請求項
12に記載の固体電解質膜を含む水電解装置。
【請求項15】
請求項
12に記載の固体電解質膜を含むレドックスフロー電池。
【請求項16】
請求項
12に記載の固体電解質膜を含むアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、硬化物、硬化物の製造方法、固体電解質膜、燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池、及び、アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系プロトン伝導性固体電解質が知られている。特許文献1には、「複数の繰り返しユニットを有するスルホン化ポリフェニル化合物からなるプロトン伝導性高分子電解質であって、1つの繰り返しユニットに平均2個またはさらに多くのスルホン基が導入されたプロトン伝導性高分子電解質。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のプロトン伝導性高分子電解質はイオン伝導性に改善の余地があった。
そこで本発明は、硬化させると優れたイオン(プロトン)伝導性を有する硬化物が得られる組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、硬化物、硬化物の製造方法、固体電解質膜、燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池、及び、アクチュエータを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 後述する下記式1で表される繰り返し単位を有する高分子化合物と、ラジカル重合開始剤とを含む組成物。
[2] 上記高分子化合物の含有量に対する、上記ラジカル重合開始剤の含有量の質量基準の比が0.05~0.30である、[1]に記載の組成物。
[3] 後述する式1で表される繰り返し単位が、後述する式2で表される繰り返し単位である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 上記式2で表される繰り返し単位が、後述する式3で表される繰り返し単位である、[3]に記載の組成物。
[5] 上記式3で表される繰り返し単位が、後述する式4で表される繰り返し単位である[4]に記載の組成物。
[6] 上記ラジカル重合開始剤がアゾ系化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 上記高分子化合物が有するスルホン酸基又はその塩、を有する基の合計数が、上記繰り返し単位の1つあたり、2~6個である[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の組成物を硬化させた、硬化物。
[9] 上記高分子化合物が、-S(=O)2-を介して架橋されている、[8]に記載の硬化物。
[10] 上記ラジカル重合開始剤を含有しない、[8]又は[9]に記載の硬化物。
[11] [1]~[7]のいずれかに記載の組成物を加熱して硬化物を得る、硬化物の製造方法。
[12] 上記硬化物を、酸性溶液に浸漬することを含む、[11]に記載の硬化物の製造方法。
[13] [8]~[10]のいずれかに記載の硬化物を含む固体電解質膜。
[14] [13]に記載の固体電解質膜を含む燃料電池。
[15] [13]に記載の固体電解質膜を含む水電解装置。
[16] [13]に記載の固体電解質膜を含むレドックスフロー電池。
[17] [13]に記載の固体電解質膜を含むアクチュエータ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬化させると優れたイオン伝導性を有する硬化物が得られる組成物が提供できる。また、本発明によれば、硬化物、硬化物の製造方法、固体電解質膜、燃料電池、水電解装置、レドックスフロー電池、及び、アクチュエータも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の燃料電池の実施形態の一例の分解斜視図である。
【
図2】
図1の燃料電池に含まれる積層体の断面図である。
【
図3】本発明の水電解装置の実施形態の一例である。
【
図4】本発明のレドックスフロー電池の実施形態の一例である。
【
図5】本発明のアクチュエータの実施形態の一例の断面模式図である。
【
図6】硬化物中におけるラジカル重合開始剤の存否をFTIR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、後述する式1で表される高分子化合物とラジカル重合開始剤とを含む。本組成物により課題が解決される機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。
【0011】
特許文献1に記載された炭化水素系高分子電解質は、プロトン伝導を担うスルホン酸基の一部を脱水縮合させて-S(=O)2-を介して分子間架橋させて、耐水性とプロトン伝導性とを両立している。この硬化物は、ち密で強固な架橋構造をとりやすかった。
【0012】
本組成物はラジカル重合開始剤を含んでいる。そのため、加熱されると、まず、ラジカル重合開始剤によって発生したラジカル種によって、高分子化合物の末端同士の結合が促進されるなどして、高分子化合物の分子鎖が延長される反応等が起きるものと推測される。
【0013】
その後、更に加熱されると脱水縮合によって-S(=O)2-架橋が形成されるが、先に高分子化合物の分子鎖の一部が延長されていることが影響して、硬化物における架橋点間の分子量がより大きくなる等の変化が生じ、従来の炭化水素系高分子電解質とは異なる架橋構造が得られたものと推測される。この架橋構造の変化が、驚くべきことにイオン伝導性の向上につながったものと推測される。以下では、本組成物が含む各成分について詳述する。
【0014】
<高分子化合物>
(単位1)
高分子化合物は、下記式1で表される繰り返し単位(以下「単位1」ともいう。)を含み、この繰り返し単位の1つあたり、所定の位置に、少なくとも1つのスルホン酸基又はその塩、を有する基を有する。
【0015】
【0016】
式1中、Ar11はアリーレン基、又は、ヘテロアリーレン基を表す。Ar11が有する炭素数は、6~20が好ましく、6~15がより好ましく、6~12が更に好ましい。Ar11は、以下のAR1で表される基であってもよい。
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、Ar11はp-フェニレン基が好ましい。
【0017】
【0018】
式1中、L11は、単結合、又は、2価の基を表す。2価の基としては、例えば、-C(=O)-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-O-、-S-、-S(=O)2-、-NRA-(RAは水素原子又は1価の有機基を表す)、水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0019】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる観点では、L11の2価の基としては、-O-、-S-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-C(=O)-、及び、-S(=O)2-からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましい。
【0020】
式1中、mは2~40の整数を表し、2~20の整数が好ましく、2~10の整数がより好ましい。
【0021】
単位1には、Ar11で表される基、及び、L11で表される基がそれぞれ複数含まれる。この複数含まれるAr11、及び、L11はそれぞれ同一でも異なってもよい。つまり、単位1中に、複数の種類のAr11、及び/又は、L11が含まれていてもよい。
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる観点では、単位1中に複数の種類のAr11、及び、複数の種類のL11が含まれていることが好ましい。
【0022】
・スルホン酸基等含有基
高分子化合物は、単位1の1つあたり1つ以上のスルホン酸基又はその塩(以下「スルホン酸基等」ともいう)、を有する基(以下、「スルホン酸基等含有基」ともいう。)を有する。このスルホン酸基等含有基は、単位1に複数含まれるAr11で表される基のいずれか1つの水素原子を置換して結合している。この置換される水素原子は、Ar11が有する環を構成する炭素原子に直接結合した水素原子であることが好ましい。
【0023】
ここで、スルホン酸基等含有基のうち、スルホン酸基を有する基の構造としては特に制限されないが、下記S1で表される基が好ましい。
【0024】
【0025】
なお、上記式S1中、LS1は単結合、又は、m+n+1価の基であり、m及びnはそれぞれ独立して0以上の整数であり、LS1が単結合のとき、mは0でnは1であり、LS1がm+n+1価の基であるとき、nは1以上の整数、mは0以上の整数を表し、*は結合位置を表す。
式S1中、R1は水素原子、又は、1価の置換基を表し、水素原子が好ましい。
また、より優れた本発明の効果が得られる点で、mが0で、かつ、nが1であることが好ましい。
【0026】
LS1のm+n+1価の基としては特に制限されないが、2価の基としては、式1中における、L11で表される基の2価の基と同様の基が挙げられる。
【0027】
LS1の3価以上の基としては特に制限されないが、例えば、以下の式(1a)~(1d)で表される基が挙げられる。
【0028】
【0029】
式(1a)中、L3は3価の基を表す。T3は単結合、又は、2価の基を表し、3個のT3は互いに同一でも異なってもよい。
L3としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L3の具体例としては、窒素原子、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0030】
式(1b)中、L4は4価の基を表す。T4は単結合又は2価の基を表し、4個のT4は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L4の好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0031】
式(1c)中、L5は5価の基を表す。T5は単結合又は2価の基を表し、5個のT5は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L5の好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及び、シクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0032】
式(1d)中、L6は6価の基を表す。T6は単結合又は2価の基を表し、6個のT6は互いに同一でも異なってもよい。
なお、L6の好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0033】
式(1a)~一般式(1d)中、T3~T6で表される2価の基の具体例及び好適形態は、すでに説明したLS1の2価の基と同様であってよい。
【0034】
なかでも、スルホン酸基を有する基としては、式S2で表される基が好ましい。
【0035】
【0036】
式S2中、LS2は単結合、又は、2価の基を表し、LS2の2価の基は、LS1の2価の基として示した形態が挙げられ、好適形態も上記と同様である。
【0037】
なお、スルホン酸の塩を有する基は、上記スルホン酸基の塩が好ましく、対イオンは金属カチオンが好ましく、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ti、Al、Fe、Rh、Pt、Ru、Ir、及び、Pd等が挙げられ、Li、Na、又は、Kが好ましい。
【0038】
高分子化合物中における単位1の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる観点で、高分子化合物が有する全繰り返し単位を100モル%としたとき、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。高分子化合物は、単位1からなることが好ましい。
【0039】
(単位2)
単位1は、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、以下の式2で表される繰り返し単位(以下、「単位2」ともいう。)であることが好ましい。
【0040】
【0041】
式2中、Ar21、Ar22、及び、Ar23はそれぞれ独立に、アリーレン基、又は、ヘテロアリーレン基を表し、式1中のAr11で表される基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0042】
式2中、L21、及び、L22はそれぞれ独立に、単結合、又は、-O-、-S-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-、-C(=O)-、及び、-S(=O)2-からなる群より選択される2価の基を表す。
【0043】
式2中、pは1~5の整数を表し、1又は2が好ましく、qは0~30の整数を表し、1~20が好ましく、2~10がより好ましい。
【0044】
単位2には、Ar21で表される基、Ar22で表される基、Ar23で表される基、L21で表される基、及び、L22で表される基がそれぞれ複数含まれることがある。これら複数含まれる基は、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0045】
単位2の1つあたり、1つ以上のスルホン酸等基含有基が含まれる。スルホン酸基等含有基は、単位2に複数含まれるAr21、Ar22、及び、Ar23で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基が有する水素原子を置換して結合している。この置換される水素原子は、Ar21、Ar22、及び、Ar23で表される基が有する環を構成する炭素原子に直接結合した水素原子であることが好ましい。
【0046】
高分子化合物中における単位2の含有量は特に制限されないが、すでに説明した単位1の含有量と同様であり、好適形態も同様である。
【0047】
(単位3)
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、単位2は、以下の式3で表される繰り返し単位(以下「単位3」ともいう。)であることが好ましい。
【0048】
【0049】
式3中、L31、L32はそれぞれ独立に、単結合、酸素原子、硫黄原子、又は、-SO2-を表し、酸素原子が好ましい。
また、X31、X32、及び、X33はそれぞれ独立に、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又は、カリウム原子を表し、水素原子、又は、ナトリウム原子が好ましい。また、mは1~5の整数を表し、1又は2が好ましく、rは1~3の整数を表し、2が好ましく、nは0~10の整数を表し、1が好ましい。
【0050】
また、y1、y2、及び、y3はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、少なくとも1つが1以上である。すなわち、y1~y3の和は1以上であり、2以上が好ましく、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、y1、及び、y2は、0~2が好ましく、y3は、0~2が好ましい。
【0051】
高分子化合物中における単位3の含有量としては特に制限されないが、すでに説明した単位1の含有量と同様であり、好適形態も同様である。
【0052】
(単位4)
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、単位3は、以下の式4で表される繰り返し単位(以下「単位4」ともいう。)であることが好ましい。
【0053】
【0054】
式4中、X41、X42、X43、及び、X44はそれぞれ独立に、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又は、カリウム原子であり、水素原子、又は、ナトリウム原子が好ましい。
z1、z2、z3、及び、z4はそれぞれ独立に0~4の整数を表し、z1、z2、z3、及び、z4からなる群より選択される少なくとも1つが1以上である。すなわち、z1~z4の和が1以上であり、2以上が好ましく、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、z1、及び、z2は、0~2が好ましく、z3、及び、z4は、0~2が好ましい。
【0055】
高分子化合物中における単位4の含有量としては特に制限されないが、すでに説明した単位1の含有量と同様であり、好適形態も同様である。
【0056】
高分子化合物は、上記単位1、単位2、及び、単位3以外のその他の繰り返し単位を有していてもよい。その他の繰り返し単位の含有量としては、高分子化合物の全繰り返し単位を100モル%としたとき、10モル%以下であることが好ましい。
【0057】
高分子化合物の分子量としては特に制限されないが、一般に20000~1000000が好ましく、50000~500000がより好ましい。
【0058】
高分子化合物の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。高分子化合物の製造方法としては、例えば、国際公開第2016/072350号の0007~0029段落に記載されており、上記は本明細書に組み込まれる。
より具体的には、高分子化合物は、芳香族ジハロゲン化合物と、芳香族ジヒドロキシ化合物とを用いて、非プロトン性極性溶媒中、炭酸カリウムの存在下で脱塩重縮合する方法が挙げられ、一例を以下のスキーム1に示した。
【0059】
【0060】
上記スキーム1中、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンのスルホン化、及び、再結晶は、例えば以下の方法で行うことができる。まず、ビス(4-フルオロフェニル)スルホンと30質量%発煙硫酸との混合物を加熱し(例えば120℃で12時間)、加熱後の混合物を食塩水に中に注いで生成物を沈殿させ、上記沈殿をろ過してから水に再度溶解し、NaOH水溶液により中和する。次に、食塩を添加して粗生成物の沈殿を得て、粗生成物を水-エタノール混合液で再結晶化すればよい。このようにしてスルホンジフェニルスルホン(上記スキーム中「SFPS」と記載した。)が得られる。
【0061】
次に、上記SFPSと4,4′-ビフェノール(上記スキーム中「BP」と記載した。)とを脱塩重縮合させることにより、2S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、2つのスルホン酸基(上記スキーム1中では対イオンNa+と塩を形成している)が導入された「2スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、式中nは2以上の整数を表す。
【0062】
脱塩重縮合の方法としては、例えばSFPS、BP、K2CO3、DMSO(ジメチルスルホキシド)、及び、トルエンを混合し、この混合物を窒素ガス雰囲気下で加熱する方法(例えば、140℃で24時間)が使用できる。なお、重合後、硫酸中で重合物を沈殿させ、これをろ過して粗生成物を得た後、得られた粗生成物を水に再溶解し、透析し、脱水して乾燥させてもよい。さらに得られた重合体を硫酸で洗浄して、スルホン酸基を活性化(-SO3Naを-SO3Hに)させてもよい。
【0063】
高分子化合物の製造方法としては、例えば、以下スキーム2に記載の方法も使用できる。
【0064】
【0065】
2S-PPSU、及び、濃硫酸を混合し、この混合物を60℃で2日間加熱し、加熱後の混合物を氷水中に注ぎ込み、透析し、脱水して真空オーブン中で80℃で2日間乾燥させることで、上記スキームに記載したとおり4S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、4つのスルホン酸基が導入された「4スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。なお、スキーム2中n1、n2は2以上の整数を表す。
【0066】
また、同様に、PPSU(ポリフェニルスルホン)、及び、30wt%発煙硫酸を混合し、この混合物を50℃程度で3日間以上加熱してスルホン化することで、D6S-PPSU(1個の繰り返し単位につき、6つのスルホン酸基が導入された「6スルホン化ポリフェニルスルホン」)が得られる。この反応をスキーム3に示した。なお、スキーム3中、n1、n2は2以上の整数を表す。
【0067】
【0068】
詳細は後述するが、高分子化合物は、スルホン酸基等含有基を有し、電子密度の高い炭素原子に結合した活性水素原子との間で脱水反応を起こさせることで、架橋構造を形成できる。電子密度の高い炭素原子としてとは、例えば、芳香族環に結合した水素が挙げられる。
このような高分子化合物の架橋反応の例を以下のスキーム4に示す。なお、スキーム4中、nは2以上の整数を表す。下記スキームで示されたとおり、高分子化合物は、-SO2-を介して架橋されている。
【0069】
【0070】
上記架橋反応は、典型的には必要に応じて脱水剤の存在下で特定高分子を加熱することで進行できる。
脱水剤を用いる場合、公知の脱水剤を使用でき、特に制限されないが、五酸化リン、及び、ポリリン酸等が挙げられ、これらを溶媒に溶解して液状の脱水剤として使用してもよい。溶媒としては、メタンスルホン酸、及び、トリフルオロメタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸;クロロベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;等が挙げられる。
【0071】
<ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤としては、光によりラジカル重合を開始させる光ラジカル重合開始剤であってもよいし、熱によりラジカル重合を開始させる熱ラジカル重合開始剤であってもよいし、これらを併用してもよい。本組成物は、ラジカル発生と脱水縮合とを順次起こさせて硬化物を生成することが好ましく、加熱により上記両方の反応が進行する観点では、ラジカル重合開始剤は熱ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
【0072】
ラジカル重合開始剤は公知のものを使用化のであり、例えば、国際公開2018/016614号に記載のものが使用可能である。
【0073】
熱ラジカル重合開始剤としては、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)、2,2′-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、及び、1,1′-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)等のアゾ系化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、及び、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、及び、過硫酸カリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、アゾ系化合物、又は、過酸化物が好ましく、アゾ系化合物がより好ましい。
組成物がアゾ系化合物を含有する場合、得られる硬化物はより優れた柔軟性を有する。
【0074】
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、ビスイミダゾール系化合物、アクリジン系化合物、アシルホスフィン系化合物、及び、オキシムエステル化合物等が挙げられる。
【0075】
組成物中におけるラジカル重合開始剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、組成物中における高分子化合物の含有量に対する、ラジカル重合開始剤の含有量の質量基準の比(ラジカル重合開始剤の含有量/高分子化合物の含有量)が0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.05以上であることが好ましく、0.05を超えることが好ましく、0.30以下が好ましく0.20以下がより好ましく、0.15以下が更に好ましく、0.15未満が特に好ましい。
【0076】
上記比が、0.05を超える場合、得られる硬化物は高温低加湿環境下におけるより優れたイオン伝導性を有する。この場合、上記比は、0.30以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.15以下が更に好ましい。
【0077】
また、上記比が、0.05を超えて、0.15未満であると、得られる硬化物は、低温(低・高加湿)、及び、高温高加湿におけるより優れたイオン伝導性を有する。
【0078】
なお、組成物は、ラジカル重合開始剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上のラジカル重合開始剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0079】
<その他の成分>
組成物は、上記各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、溶媒が挙げられる。溶媒としては、特に制限されないが、組成物を硬化させて得られる硬化物が、より優れたイオン伝導性を有しやすい観点では、高分子化合物と、ラジカル重合開始剤の両方を溶解(又は単分子溶解拡散)可能な溶媒が好ましい。上記観点からは、溶媒は、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、及び、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0080】
組成物中における溶媒の含有量としては特に制限されないが、高分子化合物とラジカル重合開始剤の合計の1gに対して、10~100mLが好ましく、20~80mLがより好ましい。
【0081】
<組成物の製造方法>
組成物の製造方法としては特に制限されず、上記各成分を混合すればよい。混合の順番は特に制限されないが、例えば、高分子化合物を溶媒に溶解させて高分子化合物溶液を調製し、ラジカル重合開始剤を溶媒に溶解させてラジカル重合開始剤溶液を調製し、上記2つの溶液を混合することで製造できる。
【0082】
〔組成物の用途〕
上記組成物によれば、優れたをイオン伝導性を有する硬化物を形成できる。また、得られる硬化物は優れたプロトン伝導性を有する。そのため、硬化物は固体電解質膜として固体高分子形燃料電池(PEFC)に使用することができる。上記組成物は、固体高分子電解質(膜)の製造用として使用できる。
【0083】
また、上記硬化物はイオン(カチオン)交換膜としても使用することができ、上記硬化物を含むイオン交換膜は、例えば、透水性支持体と、上記支持体上に配置された層状の硬化物とを有するカチオン交換膜として使用できる。上記カチオン交換膜は、例えばアニオン交換膜と併用して、電気化学測定装置、水電解装置、及び、排水処理装置等に使用できる。
【0084】
[硬化物]
本発明の実施形態に係る硬化物は、すでに説明した組成物を硬化させて得られた硬化物である。
すでに説明したとおり、本組成物はラジカル重合開始剤を含有しているため、ラジカル重合開始剤から生じたラジカル種が高分子化合物の末端部分に作用し、分子鎖の延長が起こると共に、脱水縮合反応によって分子間の架橋が起こるものと推測される。この2つの反応が起こる順番はどちらかが先であってもよいし、並行してもよいが、より優れたイオン伝導性を有する硬化物となりやすい観点では、先にラジカル種が生成し、順次、脱水縮合反応が起こることが好ましい。
【0085】
上記の観点では、硬化物の製造方法としては、ラジカル重合開始剤が熱ラジカル重合開始剤である場合、30~120℃の温度で6~72時間保持し、その後、160~200℃の温度で6~72時間保持することが好ましい。
このようにすると、熱ラジカル重合開始剤によるラジカル種の発生が、脱水縮合反応の開始よりも先行しやすい。
【0086】
なお、脱水縮合反応では、水分子が発生するため、脱水剤を用いてもよい。この場合、公知の脱水剤を使用でき、特に制限されないが、五酸化リン、及び、ポリリン酸等が挙げられる。
【0087】
得られた硬化物は、洗浄されてもよい。硬化物を洗浄すると、ラジカル重合開始剤等を硬化物から除去できる。洗浄方法としては特に制限されないが、洗浄液に硬化物を浸漬し、除去対象物を洗浄液に溶出させる方法が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する硬化物が得られる点で、アルカリ洗浄液と、酸洗浄液とを順次用いて洗浄することが好ましい。最終的に酸性溶液(硫酸等)に浸漬して、スルホン酸基の塩を解離させ、スルホン酸基に変換(活性化処理)すると、得られる硬化物はより優れたイオン伝導性を発揮しやすい。
【0088】
アルカリ洗浄液としては特に制限されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、及び、水酸化カルシウム水溶液等のアルカリ金属の水酸化物の水溶液等が挙げられる。
【0089】
酸洗浄液としては特に制限されないが、硫酸等が挙げられる。硫酸で洗浄することにより、塩を形成した状態のスルホン酸基を解離させることができるため、より優れたプロトン伝導性を有する硬化物が得られやすい。以下では、酸洗浄を含む洗浄工程を活性化処理という場合がある。
【0090】
なお、酸洗浄液とアルカリ洗浄液以外にも、水を用いて硬化物を洗浄することも好ましい。例えば、アルカリ洗浄、水洗浄、酸洗浄、及び、水洗浄の順に順次洗浄液を変更して洗浄する形態が好ましい。
【0091】
洗浄の際の洗浄液の温度としては特に制限されないが、一般に、10~150℃が好ましく、30℃~100℃がより好ましい。
【0092】
硬化物は、ラジカル重合開始剤を含有しないことが好ましい。洗浄工程によって、未反応のラジカル重合開始剤が硬化物中から除去される。なお、硬化物がラジカル重合開始剤を含有しない、とは組成物に含有されていた遊離状態のラジカル重合開始剤が硬化物中から除去された状態を意味する。
高分子化合物の分子構造の中に取り込まれた(例えば共有結合等により結合した)ラジカル重合開始剤由来の構造は、ここでいう「ラジカル重合開始剤」には含まれない。つまり、ラジカル重合開始剤を含有しない状態の硬化物であっても、ラジカル重合開始剤由来の構造を高分子化合物の分子中に有していてもよい。
【0093】
(乾燥工程)
乾燥工程は、洗浄後の硬化物を乾燥させて乾燥済み硬化物を得る工程である。乾燥方法としては特に制限されないが、硬化物を加熱して、又は、加熱せずに、保持する方法が挙げられる。加熱する場合、温度としては特に制限されないが、一般に、30~80℃が好ましい。
【0094】
〔用途〕
上記硬化物は、高温低湿下においても優れたプロトン伝導性を有する。更に、硬化物が架橋物である場合、架橋構造によって、より優れた力学特性も有する。
本硬化物は上記の様な特性を有するため、固体電解質として固体高分子形燃料電池(PEFC)等に使用することができる。
【0095】
[燃料電池]
図1は本発明の燃料電池の実施形態の一例の分解斜視図である。燃料電池は、上記硬化物を含む固体電解質膜を含む電解質層と、上記電解質層を両側から挟む一対の触媒層と、上記触媒層の上記硬化物とは反対側の面にそれぞれ配置されたガス拡散層とを有する積層体を有する固体高分子形燃料電池である。
【0096】
図1に示すように燃料電池10は積層体11と、積層体11を両側から挟むガス拡散層12及び13と、それぞれのガス拡散層において、燃料電池10とは反対側の面に配置されたセパレータ14及び15とを備えている。
図2は、積層体11の断面図である。積層体11は、硬化物を有する電解質層21と、電解質層を両側から挟む触媒層22、及び、23とを有している。
【0097】
ここで、セパレータ14及び15はそれぞれ導電性を有し、ガスの透過性が低い材料からなる。このような材料としては、特に制限されないが、例えば、耐食処理が施された金属板、及び、焼成カーボン等のカーボン系材料等が挙げられる。
【0098】
セパレータ14は、ガス拡散層12に面して配置され、ガス拡散層12と面する側に櫛形構造からなる流路16を備えており、反応ガスが流通できるよう構成されている。また、同様の流路17がセパレータ15にも設けられている。
また、セパレータ14の流路16の反対側の面には、冷却水流路18が形成され、セパレータ15の流路17の反対側にも、冷却水流路19が形成されている。
【0099】
燃料ガスは、まずセパレータ14の流路16を通り、酸化剤ガスは、まずセパレータ15の流路17を通る。
燃料ガス(例えば、水素、及び、メタン等)は、セパレータ14の流路16を通るうちに、ガス拡散層12を介して、積層体11に供給される。一方、酸化剤ガス(酸素、及び、空気等)は、セパレータ15の流路17を通るうちに、ガス拡散層13を介して、積層体11に供給される。
ガス拡散層12及び13はともに、導電性が高く、かつガスの拡散性が高い材料から成る。この材料としては、特に制限されないが、多孔質材料が好ましい。
ガス拡散層12及び13の厚みは、特に制限されないが、一般にそれぞれ50~1000μmが好ましい。
【0100】
積層体11は、電解質層21と、電解質層21の一方の面に配置された触媒層22と、他方の面に配置された触媒層23とを有している。
【0101】
積層体11は層状に形成された電解質層21を有する。電解質層21が有する硬化物の形態はすでに説明したとおりであり、好適形態も同様であるので、説明を省略する。
電解質層21の厚みは、特に限定されないが、一般に、1~500μmが好ましい。厚みが1μm以上であると、作製及び取り扱いがより容易である点で好ましい。一方、厚みが500μm以下であると、膜抵抗がより小さい点で好ましい。
【0102】
触媒層22及び23は、それぞれ触媒粒子と電解質とを含む。平面から見たときの形状は特に問わないが、略矩形状であると形成が容易である。
【0103】
触媒粒子としては特に制限されないが、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、及び、オスミウム等の白金族元素が使用できる。また、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、及び、アルミニウム等の金属、並びに、これらの合金、酸化物、及び、複酸化物等も使用できる。
触媒層22及び23に用いる電解質は、イオン伝導性を有するものであればよい。
上記燃料電池によれば、硬化物が優れたプロトン伝導性を有するため、結果としてより効率的に電流生成が可能となる。
【0104】
[イオン交換膜]
本発明の実施形態であるイオン交換膜は、すでに説明した硬化物を有するイオン交換膜である。
上記硬化物は、カチオン交換膜として使用できるため、イオン交換膜としては、上記硬化物のみから形成されていてもよいが、より優れた耐久性を有する点で、基材と、基材上に形成された上記硬化物を含有する層(硬化物層)とを有する積層体であることが好ましい。
【0105】
基材としては特に制限されないが、透水性を有する基材が好ましい。透水性のある基材としては、典型的には多孔質部材が挙げられ、多孔質部材としては、例えば、化学的に安定な無機酸化物を含有する連続的な無機酸化物多孔質膜が挙げられる。無機酸化物としては、特に制限されないが、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、及び、酸化ニッケル等が挙げられる。また、多孔質部材としては、ハロゲン化ポリマーを有する多孔質ポリマー等を用いることもできる。
【0106】
また、積層体であるイオン交換膜は、基材において、上記硬化物層が配置された面とは反対側の面に更にアニオン交換膜を有していてもよい。アニオン交換膜としては特に制限されず、公知のアニオン交換膜を用いることができる。
本硬化物は優れたイオン伝導性を有するため、上記イオン交換膜は優れたイオン伝導性を有する。
【0107】
[水電解装置]
図3は、本発明の水電解装置の実施形態の一例である。
水電解装置30は、一対の電極(電極31、及び、電極32)を有し、これらの電極が、イオン交換膜33により互いに隔離されている。また、電極31、32、イオン交換膜33は、容器34内において、電解液35と接するように配置されている。なお、電極31、及び、32はそれぞれ図示しない電位/電流制御装置と電気的に接続されており、電流、及び、電位のそれぞれを制御、及び、測定できるよう構成されている。
【0108】
水電解装置30に原料水が供給されると、上記一対の電極間に電流を流して、上記原料水を電気分解して、水素と酸素を製造することができる。
上記水電解方法は、電解条件(原料水、及び、電流密度等)としては公知の方法を適用可能である。公知の方法としては、例えば、特開昭57-131376号公報等に記載されている。
【0109】
[レドックスフロー電池]
図4は、本発明のレドックスフロー電池の実施形態の一例である。
レドックスフロー電池40は、上記固体電解質膜からなる分離膜41によって正極セル42と負極セル43とに分けられる。正極セル42と負極セル43は、それぞれ正極と負極を含む。正極セル42は、パイプを通じて正極電解液44を供給及び放出するための正極タンク46に連結されている。負極セル43も、パイプを通じて負極電解液45を供給及び放出するための負極タンク47に連結されている。電解液はポンプ48、49を介して循環され、イオンの酸化水が変化される酸化・還元反応(すなわち、レドックス反応)が起きることにより、正極と負極で充電及び放電が起きる。
【0110】
[アクチュエータ]
図5は本発明のアクチュエータの実施形態の一例の断面模式図である。アクチュエータ素子50は、一対の可撓性電極51及び52と、上記可撓性電極の間に配置された電解質層53とを有し、電解質層53は、上記硬化物を含む固体電解質膜からなる。上記硬化物は優れたプロトン伝導性に加えて、優れた柔軟性を有するため、アクチュエータの駆動を妨げることがない。
【0111】
アクチュエータとしては、上記以外にも例えば、特開2018-189452号公報の0054~0075段落、特表2019-511259号公報の0006~0024段落に記載のアクチュエータにも本硬化物が適用できる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
[高分子化合物(SPPSU)の合成]
まず、PPSU(ポリフェニルスルホン)ビーズと硫酸とを混合し、60℃で2日間保持してスルホン化した。その後、スルホン化したPPSUを冷却して析出させ、透析膜を用いてpH7まで洗い、水を除去することでSPPSUを得た。得られたSPPSU中のスルホン酸基の含有量を滴定法により求めたところ、繰り返し単位当たりのスルホン酸基の数は2.3個であった。
合成したSPPSU(IEC=3.68meq/g)をDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させ、SPPSU溶液を得た。
【0114】
[組成物の調製1(SPPSU/BPO)]
SPPSUのDMSO溶液(SPPSU/DMSO)と、BPO(ベンゾイルパーオキシド)のDMSO溶液(BPO/DMSO)を調製し、SPPSU/DMSOにBPO/DMSOを加え、約1時間撹拌した。得られた混合液をシャーレに入れ、80℃、120℃、160℃、及び、180℃でそれぞれ24時間熱処理を行って硬化物を得た。
【0115】
得られた硬化物は、80℃の0.5M NaOHで一晩、次に、沸騰水で2時間、80℃の1M H2SO4で2時間、次に、沸騰水で2時間処理後、乾燥させた。表1は、調製した各組成物の配合である。
【0116】
【0117】
[組成物の調製2(SPPSU/AIBN)]
BPOに代えてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を使用したこと以外は「組成物の調製1」と同様にして、組成物を調製し、硬化物を得た。表2は、調製した各組成物の配合である。
【0118】
【0119】
[例9:硬化物の調製]
BPOを用いなかったこと以外は「組成物の調製1」と同様にして組成物(以下、試料名を「CSPPSU」とする。)を調製し、硬化物を得た。
【0120】
得られた例1~8の硬化物、及び、例9の硬化物を用いて機械特性、FTIR特性、イオン交換容量、及び、プロトン伝導度を以下の方法で測定した。
【0121】
(FTIR特性)
硬化物中におけるラジカル重合開始剤の存否をFTIR(Thermoscitific, Nicolet 6700)を用いて評価した。
図6はその結果である。
【0122】
図6中(a)とあるのはAIBNのスペクトルを表し、(b)とあるのは、SPPSUのスペクトルを表し、(c)とあるのは、例7の組成物を用いて得られた硬化物の洗浄(活性化処理)前のスペクトルを表し、(d)とあるのは例7の組成物を用いて得られた硬化膜の洗浄(活性化処理)後のスペクトルを表している。この結果から、洗浄(活性化処理)後の硬化物では、(a)のAIBNのCH
3の振動に由来する2998cm
-1、2948cm
-1(ν
as CH
3)、及び、2870cm
-1、(ν
sCH
3)が観察されないことから、AIBNが含まれないことが明らかになった。
【0123】
(機械特性)
硬化物の機械特性として、引張強度(MPa)、及び、破断伸び(%)を引張試験機(Shimadzu、EZ-S)を用いて測定した。サンプルはスーパーダンベルカッター(型式:SDMP-1000特、JIS K6251-7号規格に準拠)を用いて作製した。試験は室温で行い、ひずみ速度は1mm/minとした。
図7はその結果である。
【0124】
図7中(A)とあるのは、ナフィオン(登録商標)-212膜(厚み=0.050mm)の結果であり、破断応力は16.9MPaで、破断伸びは150%以上だった。
【0125】
(B)とあるのは、例9の硬化物(CSPPSU)(厚み=0.061mm)の結果であり、破断応力は55.6MPa、破断伸びは69.6%だった。
(C)とあるのは、例3(10%BPO)の組成物を用いて得られた硬化物(活性化処理後)(厚み=0.052mm)の結果であり、破断応力51.3MPa、破断伸び59.2%だった。
(D)とあるのは、例7(10%AIBN)の組成物を用いて得られた硬化物(活性化処理後)(厚み=0.057mm)の結果であり、破断応力41.2MPa、破断伸び134.7%だった。
【0126】
上記の結果から、ラジカル重合開始剤としてアゾ系化合物を含有する例7の組成物を用いて得られた硬化物は、例3の組成物の硬化物と比較して、より大きな破断伸びを有していることがわかった。
【0127】
(イオン交換容量)
硬化物のイオン交換容量(IEC:Ion exchange capacity)はtitration法で評価した。硬化物を80℃で乾燥後、2M NaClに浸し、0.01M NaOHで適定した。
IEC (meq./g) = M1V1/Wdry
(M1はNaOHのモル濃度であり、V1はpH7に適定した量(ml)であり、Wdryは乾燥した硬化物の質量である。)
【0128】
(プロトン伝導度)
硬化物のプロトン伝導度は、PSM1735アナライザ(Newtons4th)を備えた膜抵抗測定システムMTS740(Scribner Associates)を用いた4探針法により測定した。測定は、温度を40、及び、80℃とし、湿度は0~90%RHで実施した。また、インピーダンス測定は、印加電圧10mV(peak to peak)、周波数1Hz~1MHzで実施した。
表3は、イオン交換容量、及び、プロトン伝導度の測定結果である。
【0129】
【0130】
表3中、「-」はデータがないことを表している。また、試料名として記載された「”nafion”212」とは、ナフィオン(登録商標)-212膜を意味している。
【0131】
表3の結果から、例2~例4、及び、例6~例8の組成物を用いて得られた硬化物は、ラジカル重合開始剤を含有しない例9の組成物を用いて得られた硬化膜と比較して、低温(40℃)、及び、高温(80℃)のいずれの場合もより優れたプロトン伝導度を有していた。特に、高温・低加湿(40%RH)の場合でも、より優れたプロトン伝導度を有していた。
【0132】
また、表3の結果からは、ラジカル重合開始剤として、アゾ系化合物を含有する例6の組成物を用いて得られた硬化物は、例2の組成物と比較してより優れたプロトン伝導性を有していることが明らかとなった。
【0133】
また、表3の結果からは、組成物中におけるSPPSU(高分子化合物)の含有量に対する、ラジカル重合開始剤の含有量が0.05を超えて、0.15未満である例7の組成物を用いて得られた硬化物は、例6の組成物を用いて得られた硬化物、及び、例8の組成物を用いて得られた硬化物と比較して、低温における、及び、高温(80℃)高加湿(90%RH)における、より優れたイオン伝導性を有していることが明らかとなった。
【0134】
また、表3の結果からは、組成物中におけるSPPSU(高分子化合物)の含有量に対する、ラジカル重合開始剤の含有量が0.05を超える例7の組成物を用いて得られた硬化物は、例6の組成物を用いて得られた硬化物と比較して、高温(80℃)低加湿(40%RH)におけるより優れたプロトン伝導性を有していることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0135】
10 :燃料電池
11 :積層体
12、13 :ガス拡散層
14、15 :セパレータ
16、17 :流路
18、19 :冷却水流路
21 :電解質層
22、23 :触媒層
30 :水電解装置
31、32 :電極
33 :イオン交換膜
34 :容器
35 :電解液
40 :レドックスフロー電池
41 :分離膜
42 :正極セル
43 :負極セル
44 :正極電解液
45 :負極電解液
46 :正極タンク
47 :負極タンク
48、49 :ポンプ
50 :アクチュエータ素子
51 :可撓性電極
53 :電解質層