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特許7599716がんおよび他の疾患の診断および処置のための病原性細胞外マトリックスの同定および標的化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】がんおよび他の疾患の診断および処置のための病原性細胞外マトリックスの同定および標的化
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241209BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241209BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241209BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241209BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20241209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241209BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241209BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20241209BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20241209BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/17
A61K38/17
A61K45/00
A61K31/7068
A61P35/00
A61P35/04
C12Q1/68
G01N33/574 A
C07K14/78
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021520940
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 US2019056576
(87)【国際公開番号】W WO2020081714
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】62/746,286
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルリ ラグー
(72)【発明者】
【氏名】ルブルー バレリー
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヤン
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-291197(JP,A)
【文献】Mol. Genet. Metab.,2011年,vol.104, issue 3,p.373-382
【文献】Cancer Res.,2010年,vol.70, issue 11,p.4366-4374
【文献】Mol. Immunol.,2015年,vol.67, issue 2, Part A,p.95-106
【文献】生化学,2018年08月,vol.90, no.4,p.495-498
【文献】Clin. Cancer Res.,2004年,vol.10, issue 21,p.7427-7437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 35/17
A61K 38/17
C07K 14/78
A61P 35/00
A61P 35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体またはα1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体断片を含む、その必要性がある患者の膵臓がんを処置するための、薬学的組成物。
【請求項2】
前記がん患者が、対照患者と比べて上昇したレベルのα1ホモ三量体I型コラーゲンを発現すると決定されている、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
膵臓がん転移を阻害する方法において使用される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
膵臓がんの成長を阻害する方法において使用される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
少なくとも第2の抗がん療法と組み合わせて使用される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項6】
第2の抗がん療法が、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である、請求項5記載の薬学的組成物。
【請求項7】
抗体が、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも2倍高い、または少なくとも5倍高い、α1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する、または
抗体が、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに検出可能に結合しない
請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞またはCAR NK細胞を含む、患者の膵臓がんを処置する方法において使用するための組成物であって、該CAR T細胞またはCAR NK細胞が、N末端からC末端に、抗原結合ドメイン;ヒンジドメイン;膜貫通ドメイン;および細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARポリペプチドを発現し、該CARポリペプチドがα1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する、前記組成物。
【請求項9】
CAR T細胞またはCAR NK細胞が同種異系細胞である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
CAR T細胞またはCAR NK細胞が自家細胞である、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
CAR T細胞またはCAR NK細胞が、対象にHLA適合している、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
方法が、CAR T細胞の投与前に脱メチル化薬を投与する段階をさらに含む、請求項8~11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
脱メチル化薬が、Col1A2高メチル化を逆転させる、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
脱メチル化薬が、5-アザシチジンまたは5-アザ-2'-デオキシシチジンである、請求項12記載の組成物。
【請求項15】
膵管腺がんを有する患者を分類する方法であって、該方法が、該対象から得られたがん組織におけるI型コラーゲン/CK19比率を決定する段階を含み、参照正常組織における比率よりも低い比率が、該患者がより進行した疾患状態を有することを示す、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2018年10月16日付で出願された米国仮出願第62/746,286号の優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
1. 分野
本発明は広くは、医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、ホモ三量体I型コラーゲンの存在に基づいてがんを検出し、ホモ三量体I型コラーゲンおよびそれによって誘導されるシグナル伝達を妨害することによってがんを処置する方法に関する。
【0003】
2. 関連技術の記述
線維増生、つまり筋線維芽細胞のようなさまざまな細胞集団で構成される高密度間質、およびI型コラーゲン(Col1)のような細胞外マトリックス(ECM)の沈着は、膵管がん(PDAC)の決定的な特徴である。しかしながら、腫瘍形成の支持または抑制時のECMおよび腫瘍間質の特異的役割は、依然として議論の余地がある(Mueller and Fusenig, 2004; Neesse et al., 2015)。PDAC間質の腫瘍支持および腫瘍抑制の両方の寄与を支持する所見が認められている。以前の所見では、PDACの線維形成性間質(活性化膵星細胞[PSC]/筋線維芽細胞およびECMのような)が腫瘍形成促進性微小環境を形成し、薬物送達と治療抵抗性の低下に寄与することが実証された。PDAC間質を標的化することは、ソニックヘッジホッグ(SHH)経路の阻害(Olive et al., 2009)によりまたは間質ヒアルロン酸の除去(Provenzano et al., 2012)により、PDAC異形成を低減させ、薬物送達を改善させることが実証されている。しかしながら、PDAC間質を標的とした臨床試験では、期待のように有望な治療結果を得ることができなかった。さらに、最近の研究では、間質線維芽細胞の不均一性とその複数の役割について議論されている(Ohlund et al., 2014; Kalluri, 2016; Ohlund et al., 2017)。以前の研究では、増殖中のα平滑筋アクチン(αSMA)を発現する活性化PSC/筋線維芽細胞の枯渇が、PDAC間質における線維症とコラーゲン沈着の減少にもかかわらず、PDACの低酸素状態と浸潤性を誘発することが示されている(Ozdemir et al., 2014)。SHHの遺伝的除去またはsmoothened阻害も、より攻撃的で分化度の低いPDACにつながる。これらの議論は、腫瘍間質の抑制機能を示唆する以前の研究と一致している(Rhim et al., 2014)。抗間質療法に対するPDACの応答は、間質のリモデリングを主に決定するPDACの遺伝子型とシグナル伝達が異なるため、大きく異なりうることも報告されている(Laklai et al., 2016)。まとめると、これらのさまざまな、または矛盾する所見は、以前の知識を超えた複雑な生物学とPDAC間質の多重の役割を示しており、これには新しい実験システムを用いたさらなる体系的調査が必要になることは間違いない。
【0004】
古典的なKPC (LSL-KrasG12D/+;Trp53R172H/+またはTrp53loxP/loxP;Pdx1-Cre)モデルのような、現行の遺伝子操作PDACマウスモデル(GEMM)は、ヒトPDACの臨床状況を模倣する貴重なプラットフォームを提供しており、PDACとその治療法の研究に多大な貢献をしてきた(Hingorani et al., 2005)。従来のKPCモデルは、がん細胞におけるfloxed (loxP部位に隣接)遺伝子の(Pdx1-CreもしくはP48-Creのような、同じ膵臓特異的Creを用いた)遺伝子除去と組み合わせて、または遺伝子の全身ノックアウト(KO)と組み合わせて広く使用されている。しかしながら、普遍的なCre-loxP組換え機構のため、これらのGEMMの間質細胞亜集団(筋線維芽細胞または免疫細胞のような)で細胞型特異的な遺伝子操作を達成することは依然として不可能である。また、KO致死性を有する遺伝子、例えばI型コラーゲンα1鎖をコードするCol1a1の全身KOを含むKPCモデルを確立することも不可能である(Lohler et al., 1984)。したがって、特にCol1がそのような必須成分であり、PDACの線維形成と微小環境で最も豊富なタンパク質であることを考慮すると、これまでの間質細胞源におけるCol1の機能的KOがCol1の起源と寄与を証明することを可能にするPDAC GEMMがないことは驚くべきことであるが、合理的である。
【0005】
通常α1鎖およびα2鎖で構成されるI型コラーゲン(Col1)は、PDAC微小環境で最も優勢に沈着する間質性ECM成分の1つである。多くの研究により、活性化されたPSC/筋線維芽細胞がCol1および他のECM材料の主要な細胞源であることが示されている(Haber et al., 1999; Armstrong et al., 2004; Bachem et al., 2005; Fujita et al., 2009; Apte et al., 2012)。それにもかかわらず、Col1はさまざまな種類のがん細胞によって産生され、腫瘍の進行を促進することも示されている。実際、がん細胞由来のCol1は、線維芽細胞または他の正常細胞によって産生される(α1/α2/α1)ヘテロ三量体鎖とは対照的に、独特でMMP耐性のホモ三量体(α1)3鎖からなる(Sengupta et al., 2003; Han et al., 2008; Egeblad et al., 2010; Han et al., 2010; Makareeva et al., 2010)。これらの所見は、がんにおけるがん由来Col1と筋線維芽細胞由来Col1の異なる構造および機能的役割を示唆していた。PDAC間質の積極的な役割に取り組むために、これまで多くの研究が行われてきた。しかしながら、特定の細胞起源に関する、Col1のような、ECM成分の役割は、臨床的に関連するトランスジェニックPDACモデルで体系的に検証または比較されていない。PDAC発生に及ぼす間質の影響をさらに理解するには、がん細胞および線維芽細胞亜集団のような、さまざまな細胞起源に特異的に由来するCol1の正確な機能を分析することが重要である。
【発明の概要】
【0006】
概要
1つの態様において、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体または抗体断片が本明細書において提供される。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに検出可能に結合しない。抗体または抗体断片は、ホモ三量体には存在するがヘテロ三量体には存在しない立体配座または特定の不連続エピトープを認識しうる。
【0007】
いくつかの局面において、抗体断片は、組換えscFv (一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片、またはFv断片である。いくつかの局面において、抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体である。ある種の局面において、キメラ抗体はヒト化抗体である。ある種の局面において、二重特異性抗体は、α1ホモ三量体I型コラーゲンおよびCD3の両方に結合する。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、細胞毒性剤に結合されている。いくつかの局面において、抗体または抗体断片は、診断剤に結合されている。
【0008】
1つの態様において、本発明の態様の抗体または抗体断片をコードするハイブリドーマまたは操作された細胞が本明細書において提供される。いくつかの態様において、本発明の態様の抗体または抗体断片の1つまたは複数を含む薬学的製剤が提供される。
【0009】
1つの態様において、α1ホモ三量体I型コラーゲン特異的抗体または抗体断片の有効量を投与する段階を含む、その必要がある患者を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、α1ホモ三量体I型コラーゲン特異的抗体または抗体断片は、本発明の態様のいずれかの抗体または抗体断片である。
【0010】
いくつかの局面において、患者は、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害を有する。いくつかの局面において、結合組織障害は、コラーゲンに関連する結合組織障害である。ある種の局面において、コラーゲンに関連する結合組織障害は、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である。
【0011】
いくつかの局面において、患者はがんを有する。いくつかの局面において、がん患者は、対照患者と比べて上昇したレベルのα1ホモ三量体I型コラーゲンを発現すると決定されている。ある種の局面において、がんは膵臓がんである。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がん転移を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの局面において、本方法は、少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む。ある種の局面において、第2の抗がん療法は、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法またはサイトカイン療法である。
【0012】
1つの態様において、N末端からC末端に、抗原結合ドメイン; ヒンジドメイン; 膜貫通ドメイン; および細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する前記CARポリペプチドが、本明細書において提供される。いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する第1の抗体に由来するHCDR配列、およびα1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する第2の抗体に由来するLCDR配列を含む。いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体に由来するHCDR配列およびLCDR配列を含む。いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、または10倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する。いくつかの局面において、抗原結合ドメインは、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに検出可能に結合しない。
【0013】
いくつかの局面において、ヒンジドメインは、CD8aヒンジドメインまたはIgG4ヒンジドメインである。いくつかの局面において、膜貫通ドメインは、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインである。いくつかの局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3z細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0014】
1つの態様において、本発明の態様のいずれかのCARポリペプチドをコードする核酸分子が本明細書において提供される。いくつかの局面において、CARポリペプチドをコードする配列は、発現制御配列に機能的に連結されている。
【0015】
1つの態様において、本発明の態様のCARポリペプチドまたは核酸を含む単離された免疫エフェクター細胞が本明細書において提供される。いくつかの局面において、核酸は細胞のゲノムに組み込まれている。いくつかの局面において、細胞はT細胞である。いくつかの局面において、細胞はNK細胞である。いくつかの局面において、細胞はヒト細胞である。1つの態様において、薬学的に許容される担体中に本発明の態様の細胞の集団を含む薬学的組成物が本明細書において提供される。
【0016】
1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つによってCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR) T細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法が本明細書において提供される。いくつかの局面において、CAR T細胞は同種異系細胞である。いくつかの局面において、CAR T細胞は自家細胞である。いくつかの局面において、CAR T細胞は、対象にHLA適合している。いくつかの局面において、対象は、例えば、膵臓がんのような、がんを有する。いくつかの局面において、本方法は、免疫療法のための開始剤(primer)として機能するために、CAR T細胞の投与前に脱メチル化薬を投与する段階をさらに含む。脱メチル化薬は、Col1A2高メチル化を逆転させうる。脱メチル化薬は、5-アザシチジンまたは5-アザ-2'-デオキシシチジンでありうる。いくつかの局面において、本方法は、Col1A2遺伝子のプロモーターのメチル化を妨害する薬物を投与する段階をさらに含む。
【0017】
1つの態様において、本発明の態様のいずれか1つによってCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR) NK細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、CAR NK細胞は同種異系細胞である。いくつかの局面において、CAR NK細胞は自家細胞である。いくつかの局面において、CAR NK細胞は、対象にHLA適合している。いくつかの局面において、対象は、例えば、膵臓がんのような、がんを有する。いくつかの局面において、本方法は、免疫療法のための開始剤(primer)として機能するために、CAR NK細胞の投与前に脱メチル化薬を投与する段階をさらに含む。脱メチル化薬は、Col1A2高メチル化を逆転させうる。脱メチル化薬は、5-アザシチジンまたは5-アザ-2'-デオキシシチジンでありうる。いくつかの局面において、本方法は、Col1A2遺伝子のプロモーターのメチル化を妨害する薬物を投与する段階をさらに含む。
【0018】
1つの態様において、対象から得られたがん組織を本発明の態様のいずれか1つの抗体と接触させる段階、および抗体の組織への結合を検出する段階を含む、患者を疾患を有するものと診断する方法であって、抗体が組織に結合する場合、患者ががんまたはフィブロイド疾患を有するものと診断される前記方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、疾患は、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害である。いくつかの局面において、結合組織障害は、コラーゲンに関連する結合組織障害である。いくつかの局面において、コラーゲンに関連する結合組織障害は、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である。
【0019】
1つの態様において、対象から得られたがん組織におけるI型コラーゲン/CK19比率を決定する段階を含む、膵管腺がんを有する患者を分類する方法であって、参照正常組織における比率よりも低い比率が、患者がより進行した疾患状態を有することを示す前記方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、参照正常組織は、患者から得られたものである。
【0020】
1つの態様において、α1I型コラーゲンホモ三量体を架橋する酵素を阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法が、本明細書において提供される。1つの態様において、α1I型コラーゲンホモ三量体の形成を促進するシャペロンを阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法が、本明細書において提供される。1つの態様において、DDR1受容体を介した発がん促進性シグナル伝達を阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法が、本明細書において提供される。いくつかの局面において、対象は、対照の対象と比べて上昇したレベルのα1ホモ三量体I型コラーゲンを発現すると決定されている。
【0021】
いくつかの局面において、疾患は、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害である。いくつかの局面において、結合組織障害は、コラーゲンに関連する結合組織障害である。いくつかの局面において、コラーゲンに関連する結合組織障害は、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である。
【0022】
いくつかの局面において、疾患はがんである。ある種の局面において、がんは膵臓がんである。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がん転移を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの局面において、本方法は、膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される。いくつかの局面において、本方法は、少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む。ある種の局面において、第2の抗がん療法は、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法またはサイトカイン療法である。
【0023】
本明細書において用いられる場合、「本質的に含まない」とは指定された成分の観点からいうと、指定された成分がどれも、意図を持って組成物中に製剤化されていないこと、および/または単に夾雑物として、または微量に存在することを意味するために本明細書において用いられる。それゆえ、組成物の意図されない夾雑に起因する、指定された成分の総量は、0.05%よりかなり少なく、好ましくは0.01%より少ない。指定された成分の量を標準的な分析方法を用いて検出できない組成物が最も好ましい。
【0024】
本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」とは1つまたは複数を意味しうる。本明細書中の特許請求の範囲において用いられる場合、「含む(comprising)」という単語とともに用いられる時には、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は1つまたは2つ以上を意味しうる。
【0025】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけをいうか、または選択肢が互いに相容れないことをいうと明示されていない限り「および/または」を意味するために用いられるが、この開示は、選択肢だけと「および/または」をいう定義を裏付ける。本明細書において用いられる場合、「別の」とは少なくとも第2の、またはそれより多くを意味しうる。
【0026】
本出願の全体を通して、「約」という用語は、ある値が、この値を求めるために利用されている装置、方法の誤差の固有の変動、試験対象間に存在するばらつき、または記載値の10%以内である値を含むことを示すために用いられる。
【0027】
[本発明1001]
α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体または抗体断片を含む、組成物。
[本発明1002]
抗体が、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも2倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する、本発明1001の抗体または抗体断片。
[本発明1003]
抗体が、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも5倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する、本発明1001の抗体または抗体断片。
[本発明1004]
抗体が、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに検出可能に結合しない、本発明1001の抗体または抗体断片。
[本発明1005]
抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab') 2 断片、またはFv断片である、本発明1001の抗体または抗体断片。
[本発明1006]
抗体が、キメラ抗体であるか、または二重特異性抗体である、本発明1001の抗体または抗体断片。
[本発明1007]
キメラ抗体がヒト化抗体である、本発明1006の抗体または抗体断片。
[本発明1008]
二重特異性抗体が、α1ホモ三量体I型コラーゲンおよびCD3の両方に結合する、本発明1006の抗体または抗体断片。
[本発明1009]
細胞毒性剤に結合されている、本発明1001~1008のいずれかの抗体または抗体断片。
[本発明1010]
診断剤に結合されている、本発明1001~1008のいずれかの抗体または抗体断片。
[本発明1011]
本発明1001~1010のいずれかの抗体または抗体断片をコードする、ハイブリドーマまたは操作された細胞。
[本発明1012]
本発明1001~1010のいずれかの1つまたは複数の抗体または抗体断片を含む、薬学的製剤。
[本発明1013]
α1ホモ三量体I型コラーゲン特異的抗体または抗体断片の有効量を投与する段階を含む、その必要性がある患者を処置する方法。
[本発明1014]
患者が、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害を有する、本発明1013の方法。
[本発明1015]
結合組織障害が、コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1014の方法。
[本発明1016]
コラーゲンに関連する結合組織障害が、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1015の方法。
[本発明1017]
患者ががんを有する、本発明1015の方法。
[本発明1018]
α1ホモ三量体I型コラーゲン特異的抗体または抗体断片が、本発明1001~1010のいずれかの抗体または抗体断片である、本発明1013の方法。
[本発明1019]
がん患者が、対照患者と比べて上昇したレベルのα1ホモ三量体I型コラーゲンを発現すると決定されている、本発明1017の方法。
[本発明1020]
がんが膵臓がんである、本発明1017の方法。
[本発明1021]
膵臓がん転移を阻害する方法としてさらに定義される、本発明1020の方法。
[本発明1022]
膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される、本発明1020の方法。
[本発明1023]
少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む、本発明1017の方法。
[本発明1024]
第2の抗がん療法が、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である、本発明1023の方法。
[本発明1025]
N末端からC末端に、抗原結合ドメイン; ヒンジドメイン; 膜貫通ドメイン; および細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドであって、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する、前記CARポリペプチド。
[本発明1026]
抗原結合ドメインが、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する第1の抗体に由来するHCDR配列、およびα1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する第2の抗体に由来するLCDR配列を含む、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1027]
抗原結合ドメインが、α1ホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体に由来するHCDR配列およびLCDR配列を含む、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1028]
抗原結合ドメインが、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも2倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1029]
抗原結合ドメインが、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに対する親和性よりも少なくとも5倍高いα1ホモ三量体I型コラーゲンに対する親和性を有する、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1030]
抗原結合ドメインが、α1/α2/α1ヘテロ三量体I型コラーゲンに検出可能に結合しない、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1031]
ヒンジドメインが、CD8aヒンジドメインまたはIgG4ヒンジドメインである、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1032]
膜貫通ドメインが、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインである、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1033]
細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3z細胞内シグナル伝達ドメインを含む、本発明1025のポリペプチド。
[本発明1034]
本発明1025~1033のいずれかのCARポリペプチドをコードする、核酸分子。
[本発明1035]
CARポリペプチドをコードする配列が、発現制御配列に機能的に連結されている、本発明1034の核酸分子。
[本発明1036]
本発明1025~1033のいずれかのCARポリペプチドまたは本発明1035の核酸を含む、単離された免疫エフェクター細胞。
[本発明1037]
核酸が細胞のゲノムに組み込まれている、本発明1036の細胞。
[本発明1038]
T細胞である、本発明1036の細胞。
[本発明1039]
NK細胞である、本発明1036の細胞。
[本発明1040]
ヒト細胞である、本発明1036の細胞。
[本発明1041]
薬学的に許容される担体中に本発明1036の細胞の集団を含む、薬学的組成物。
[本発明1042]
本発明1025~1033のいずれかのCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法。
[本発明1043]
CAR T細胞が同種異系細胞である、本発明1042の方法。
[本発明1044]
CAR T細胞が自家細胞である、本発明1042の方法。
[本発明1045]
CAR T細胞が、対象にHLA適合している、本発明1042の方法。
[本発明1046]
対象ががんを有する、本発明1042の方法。
[本発明1047]
がんが膵臓がんである、本発明1046の方法。
[本発明1048]
CAR T細胞の投与前に脱メチル化薬を投与する段階をさらに含む、本発明1042~1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
脱メチル化薬が、Col1A2高メチル化を逆転させる、本発明1048の方法。
[本発明1050]
脱メチル化薬が、5-アザシチジンまたは5-アザ-2'-デオキシシチジンである、本発明1048の方法。
[本発明1051]
本発明1025~1033のいずれかのCARポリペプチドを発現するキメラ抗原受容体(CAR)NK細胞の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、対象を処置する方法。
[本発明1052]
CAR NK細胞が同種異系細胞である、本発明1051の方法。
[本発明1053]
CAR NK細胞が自家細胞である、本発明1051の方法。
[本発明1054]
CAR NK細胞が、対象にHLA適合している、本発明1051の方法。
[本発明1055]
対象ががんを有する、本発明1051の方法。
[本発明1056]
がんが膵臓がんである、本発明1055の方法。
[本発明1057]
CAR NK細胞の投与前に脱メチル化薬を投与する段階をさらに含む、本発明1051~1056のいずれかの方法。
[本発明1058]
脱メチル化薬が、Col1A2高メチル化を逆転させる、本発明1057の方法。
[本発明1059]
脱メチル化薬が、5-アザシチジンまたは5-アザ-2'-デオキシシチジンである、本発明1057の方法。
[本発明1060]
対象から得られたがん組織を本発明1001~1010のいずれかの抗体と接触させる段階、および抗体の組織への結合を検出する段階
を含む、患者を疾患を有するものと診断する方法であって、抗体が組織に結合する場合、患者ががんまたはフィブロイド疾患を有するものと診断される、前記方法。
[本発明1061]
疾患が、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害である、本発明1060の方法。
[本発明1062]
結合組織障害が、コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1061の方法。
[本発明1063]
コラーゲンに関連する結合組織障害が、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1062の方法。
[本発明1064]
対象から得られたがん組織におけるI型コラーゲン/CK19比率を決定する段階を含む、膵管腺がんを有する患者を分類する方法であって、参照正常組織における比率よりも低い比率が、患者がより進行した疾患状態を有することを示す、前記方法。
[本発明1065]
参照正常組織が、患者から得られたものである、本発明1064の方法。
[本発明1066]
α1I型コラーゲンホモ三量体を架橋する酵素を阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法。
[本発明1067]
α1I型コラーゲンホモ三量体の形成を促進するシャペロンを阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法。
[本発明1068]
DDR1受容体を介した発がん促進性シグナル伝達を阻害する組成物の抗腫瘍有効量を投与する段階を含む、疾患を有する対象を処置する方法。
[本発明1069]
疾患が、がん、フィブロイド疾患、ケロイド、臓器線維症、クローン病、狭窄、大腸炎、乾癬、または結合組織障害である、本発明1066~1068のいずれかの方法。
[本発明1070]
結合組織障害が、コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1069の方法。
[本発明1071]
コラーゲンに関連する結合組織障害が、1型コラーゲンに関連する結合組織障害である、本発明1070の方法。
[本発明1072]
疾患ががんである、本発明1070の方法。
[本発明1073]
対象が、対照の対象と比べて上昇したレベルのα1ホモ三量体I型コラーゲンを発現すると決定されている、本発明1068~1072のいずれかの方法。
[本発明1074]
がんが膵臓がんである、本発明1072の方法。
[本発明1075]
膵臓がん転移を阻害する方法としてさらに定義される、本発明1074の方法。
[本発明1076]
膵臓がんの成長を阻害する方法としてさらに定義される、本発明1074の方法。
[本発明1077]
少なくとも第2の抗がん療法を投与する段階をさらに含む、本発明1072の方法。
[本発明1078]
第2の抗がん療法が、化学療法、免疫療法、放射線療法、遺伝子療法、外科手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、またはサイトカイン療法である、本発明1077の方法。
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の趣旨および範囲の中でさまざまな修正および変更が当業者には明らかになるので、例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図面は本明細書の一部をなし、本発明のある種の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書において提示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによりさらに深く理解されうる。
図1A】KPPF;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPF;Col1smaKOといわれる)マウスを用いて膵臓がんとの関連で特にαSMA発現細胞集団においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。対照マウスとしてKPPF (KPPF;Cre陰性;Col1a1loxP/loxP)遺伝子型を有する同腹仔を用いた。
図1B】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、ピクロシリウスレッド、MTS、Col1 (免疫組織化学)、およびαSMA (免疫組織化学)で染色された、KPPFまたはKPPF;Col1smaKOマウスからの膵臓腫瘍の連続切片。
図2A】KPPFおよびKPPF;Col1smaKO腫瘍の凍結切片の代表的な原子間力顕微鏡(AFM)画像。弾性率の定量化は、群あたり3匹のマウスのAFMアッセイに基づいていた。
図2B】KPPFおよびKPPF;Col1smaKOマウスの生存曲線。
図2C】示された群において腹部膨満および腹水を示すマウスのパーセンテージ。
図2D】H&E、CK19 (免疫組織化学)、およびCol1 (免疫組織化学)により染色された、PanINまたはPDAC段階のKPPFまたはKPPF;Col1smaKOマウスの膵臓の連続切片。Col1/CK19比率の定量化は、CK19およびCol1の陽性面積率に基づいて計算された。
図2E】KPPF腫瘍(群あたりのマウスn = 3)またはKPPF;Col1smaKO腫瘍(群あたりのマウスn = 4)からの全トランスクリプトーム(transciptome) RNA配列決定(RNA-Seq)データのGSEA-Hallmark濃縮分析に基づく最も有意に上方制御された細胞シグナル伝達経路に対しての、正規化された濃縮スコア(NES)で示された、GSEA-Hallmark濃縮分析。
図2F】MFにおけるCol1α1のQ-PCR分析。
図3A】KF (FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp)マウスにおいてPdx1-Flp-FRT組換えシステムを用いて発がん性KrasG12Dを誘導するための遺伝的戦略。I型コラーゲンα1 (Col1a1)を、KF;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP (KF;Col1smaKOといわれる)マウスを用いてαSMA発現細胞集団において特異的に欠失させ(図10A参照)、またはKF;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KF;Col1pdxKOといわれる)マウスを用いてPdx1発現がん細胞系統において欠失させた。
図3B】H&EおよびCol1 (免疫組織化学)により染色された、KFまたはKF;Col1pdxKO (同年齢の6ヶ月齢)マウスの膵臓の連続切片。
図3C】KF (左列)、KF;Col1smaKO (右列)またはKF;Col1pdxKO (中央列)遺伝子型を有する同年齢の6ヶ月齢マウスからの膵臓におけるADMおよびPanIN病変のパーセンテージ。
図3D】KF (左列)およびKF;Col1pdxKO (右列)マウスのADM病変におけるCol1免疫組織化学染色。
図3E図3EおよびF: KF (左列)およびKF;Col1pdxKO (右列)マウスのADMおよびPanIN病変におけるSox9陽性(%) (図3E)。Sox9免疫組織化学染色の代表的な画像を(図3F)に示した。
図3F図3Eの説明を参照のこと。
図4A】LSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPC;Col1pdxKOといわれる)マウスを用いて膵臓がんとの関連でがん細胞系統においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。対照動物としてLSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre (KPPC)マウスを用いた。
図4B】KPPC (53日目の時点で下側の線)およびKPPC;Col1pdxKO (53日目の時点で上側の行)マウスの生存。
図4C】同28日齢のKPPC (左列)およびKPPC;Col1pdxKO (右列)マウスのPanIN病変部位のパーセンテージ。
図4D】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、Col1 (免疫組織化学)、およびピクロシリウスレッドで染色された、同53日齢のKPPC (左列)およびKPPC;Col1pdxKO (右列)マウスからの膵臓腫瘍切片の連続切片。
図4E】同53日齢のKPPCおよびKPPC;Col1pdxKOマウスの腫瘍の組織学的評価。
図4F】同53日齢のKPPC (左列)およびKPPC;Col1pdxKO (右列)マウスの膵臓腫瘍量(腫瘍重量/体重)。
図5A図5A~D: 全トランスクリプトームRNA配列決定(RNA-Seq)分析を、KPPC腫瘍(n = 4)およびKPPC;Col1pdxKO腫瘍(n = 5)に対して行った。GSEAプロットは、(図5C)に要約されているように、KPPC;Col1pdxKO腫瘍(図5A)およびKPPC腫瘍(図5B)のGSEA-Hallmark濃縮分析に基づく上方制御遺伝子クラスタの正規化された濃縮スコア(NES)で示された。上位の上方制御遺伝子を(図5D)に記載した。
図5B図5Aの説明を参照のこと。
図5C図5Aの説明を参照のこと。
図5D図5Aの説明を参照のこと。
図5E】KPPC;Col1pdxKO腫瘍およびKPPC腫瘍において濃縮された転写物に基づいて同定された上位の上方制御遺伝子ネットワーク。
図5F図5F~I: 全トランスクリプトームRNA配列決定(RNA-Seq)分析を、KPPCおよびKPPC;Col1pdxKO細胞株に対して行った。GSEAプロットは、(図5H)に要約されているように、KPPC;Col1pdxKO細胞(図5F)およびKPPC細胞(図5G)のGSEA-Hallmark分析に基づく上方制御遺伝子クラスタの正規化された濃縮スコア(NES)で示された。上位の上方制御遺伝子を(図5I)に記載した。
図5G図5Fの説明を参照のこと。
図5H図5Fの説明を参照のこと。
図5I図5Fの説明を参照のこと。
図6A】KPPCおよびKPPC;Col1pdxKO腫瘍から確立された原発性マウスがん細胞株。
図6B】経時的なKPPC (上側の線)およびKPPC;Col1pdxKO (下側の線)細胞株の細胞増殖。さまざまな濃度のゲムシタビンの存在下でのKPPCおよびKPPC;Col1pdxKO細胞株の細胞生存性。
図6C図6CおよびD: KPPCおよびKPPC;Col1pdxKO細胞株から確立された3D腫瘍スフェロイド。KPPC (左列)およびKPPC;Col1pdxKO (右列)細胞株によるスフェロイドの平均直径を(図6D)において定量化した。
図6D図6Cの説明を参照のこと。
図6E】qRT-PCRによって調べた、KPPC (各対の左列)およびKPPC;Col1pdxKO (各対の右列)細胞株におけるさまざまなコラーゲン型の遺伝子発現プロファイル。
図6F】3T3マウス線維芽細胞と比較した、KF、KPF、KPPF、KPPC、KTC、およびPKT系統を含むトランスジェニックマウスモデルの膵臓腫瘍から確立された原発性マウスがん細胞株におけるCol1a1およびCol1a2遺伝子のメチル化DNA免疫沈降(MeDIP)アッセイ。KPPC腫瘍から選別された初代マウス線維芽細胞と比較した、KPPC原発性マウスがん細胞株におけるCol1a1およびCol1a2の相対的発現レベル。それぞれ、KPPCがん細胞、KPPC;Col1pdxKO細胞、および3T3線維芽細胞の細胞培地から精製されたCol1ホモ三量体およびヘテロ三量体のCol1α1鎖およびCol1α2鎖の特性評価。MMP分解に対するCol1ホモ三量体およびヘテロ三量体の感受性を調べた。
図6G】ヒト膵臓がん細胞株および正常ヒト膵臓上皮細胞株(HPNE)の全ゲノムDNAメチル化分析。COL1A1およびCOL1A2遺伝子プロモーター領域でのDNAメチル化が示された。
図6H】BJ線維芽細胞と比較した、ヒト膵臓がん細胞株におけるCOL1A1 (各対の左列)およびCOL1A2 (各対の右列)遺伝子のqRT-PCR検査。
図7A】KPPF (FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp)マウスにおいてPdx1-Flp-FRT組換えシステムを用い発がん性KrasG12Dおよびホモ接合性p53喪失を誘導するための遺伝的戦略。
図7B】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにI型コラーゲン(Col1)免疫組織化学によって染色された、KPPFマウスの正常、PanIN、およびPDAC段階の代表的な膵臓切片。
図7C】KPPC (LSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre)マウスにおいてPdx1-Cre-loxP組換えシステムを用い発がん性KrasG12Dおよびホモ接合性p53喪失を誘導するための遺伝的戦略。
図7D】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)ならびにI型コラーゲン(Col1)免疫組織化学によって染色された、KPPCマウスの正常、PanIN、およびPDAC段階の代表的な膵臓切片。
図7E図7E~F: KPPF;αSMA-Cre;R26DualマウスにおいてRosa26-CAG-loxP-frt-Stop-frt-FireflyLuc-EGFP-loxP-RenillaLuc-tdTomato (R26Dual)トレーサを用いPdx1-Flp系統においてEGFP発現およびαSMA-Cre系統においてtdTomato発現を誘導するための遺伝的戦略。
図7F図7Eの説明を参照のこと。
図7G】内因性EGFP (がん細胞における)およびtdTomato (αSMA発現筋線維芽細胞における)シグナルについて調べたKPPF;αSMA-Cre;R26Dualマウスからの原発性PDAC腫瘍の代表的な画像。
図7H】KPPFまたはKPPF;Col1smaKOマウスから選別されたがん細胞および筋線維芽細胞の初代細胞培養からのDNAのPCR産物の電気泳動。PCR産物の検出によって、具体的にはKPPF;Col1smaKOマウスからの筋線維芽細胞において予想されるレーンが示す遺伝子組換えによるCol1a1の特異的欠失が確認された。
図7I】CMV-Creを用いたCol1a1の全身喪失は、胚の致死をもたらす。
図7J】表示の群における膵臓のH&EならびにADMおよびPanINの定量化(KF;Col1pdxKOは左列であり; KF;Creneg;Col1F/Fは中央列であり; KF;Col1smaKOは右列である)。
図8A図8AおよびB: H&E、CK19、Col1、およびαSMA免疫組織化学によって染色された、ADM/初期PanINからPanIN (図8A)またはPanINからPDAC (図8B)への疾患進行中のKPPFマウスの膵臓の連続切片。
図8B図8Aの説明を参照のこと。
図8C】疾患進行の各段階での、CK19、Col1、およびαSMAの陽性域率、またはCol1/CK19比率の定量化。
図9-1】TCGAデータセットからの膵臓腺がん患者の全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)は、COL1A1発現レベルおよびCK19発現レベル(RNA Seq V2 RSEM)の比率と相関していた。患者は、COL1A1/CK19比率の中央値に基づいて(または対照パネルでは、COL1A1/GAPDH比率またはCOL1A1/ACTB比率によって) 2群に階層化された。
図9-2】図9-1の続きの図である。
図10A】KF;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP (KF;Col1smaKOといわれる)マウスを用い膵臓がんとの関連で具体的にはαSMA発現細胞集団においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。KF (KF;Cre陰性;Col1a1loxP/loxP)遺伝子型を有する同腹仔を、対照マウスとして用いた。
図10B】H&E、MTS、Col1 (免疫組織化学)、およびαSMA (免疫組織化学)によって染色された、KFまたはKF;Col1smaKO (同年齢の6ヶ月齢)マウスの膵臓の連続切片。
図11A】LSL-KrasG12D;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KC;Col1pdxKOといわれる)マウスを用い膵臓がんとの関連でがん細胞系統においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。LSL-KrasG12D;Pdx1-Cre (KC)マウスを対照動物として用いた。
図11B】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、ピクロシリウスレッド、MTS、Col1 (免疫組織化学)、またはαSMA (免疫組織化学)で染色された、KCまたはKC;Col1pdxKOマウスからの膵臓腫瘍切片の連続切片。
図12A】KPPC (60日目の時点で下側の線)、KPPC;Col1pdxKO/+ (ヘテロ接合性Col1a1欠失) (60日目の時点で中央の線)、およびKPPC;Col1pdxKO (60日目の時点で上側の線)マウスの生存。
図12B】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、Col1 (免疫組織化学)、およびピクロシリウスレッドで染色された、エンドポイント段階のKPPCおよびKPPC;Col1pdxKOマウスからの膵臓腫瘍切片の連続切片。
図12C】BJ線維芽細胞と比較した、さまざまなヒト膵臓がん細胞株におけるCOL1A1およびCOL1A2遺伝子のMeDIPアッセイ。
図12D】48時間、表示された濃度のCol1溶液(ラット尾部からのヘテロ三量体)で処理されたKPPCおよびKPPC;Col1pdxKO細胞の細胞生存性アッセイ。
図13】(右パネル) 脱メチル化剤5-アザシチジン(5-AZA)で処理されたKPPCがん細胞、KPPC;Col1pdxKOがん細胞、および3T3マウス線維芽細胞におけるCol1a1およびCol1a2の相対的発現レベル。(左パネル) ウエスタンブロットによる精製Col1ホモ三量体(Panc1ヒトPDAC細胞株由来)およびヘテロ三量体(BJ線維芽細胞株由来)のCol1α1鎖およびCol1α2鎖の特性評価。
図14A】KPPF;Fsp1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPF;Col1fspKOといわれる)マウスを用い膵臓がんとの関連で具体的にはFsp1発現細胞集団においてI型コラーゲンα1 (Col1a1)を欠失させるための遺伝的戦略。KPPF (KPPF;Cre陰性;Col1a1loxP/loxP)遺伝子型を有する同腹仔を、対照マウスとして用いた。
図14B】KPPFおよびKPPF;Col1fspKOマウスの生存。
図14C】KPPFおよびKPPF;Col1fspKO腫瘍からのFsp1抗体で選別された線維芽細胞におけるCol1a1の相対的発現レベル。また、これらの線維芽細胞を組換えPCR検出により調べて、具体的にはKPPF;Col1fspKOマウスからの筋線維芽細胞において予想されるレーンが示す遺伝子組換えによるCol1a1の特異的欠失を確認した。
図14D】ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)、Col1 (免疫組織化学)、およびピクロシリウスレッドで染色された、KPPCおよびKPPC;Col1fspKOマウスからの膵臓腫瘍切片の連続切片。
図15A】KPPF;Fsp1-Cre;R26DualマウスにおいてR26Dualトレーサを用いPdx1-Flp系統においてEGFP発現およびFsp1-Cre系統においてtdTomato発現を誘導するための遺伝的戦略。
図15B】KPPF;Fsp1-Cre;R26Dualマウスからの原発腫瘍の線維芽細胞間でのFsp1誘導性の内因性tdTomatoおよびαSMA免疫蛍光染色の代表的な画像。
図15C】KPPF;Cre陰性;R26Dualマウス(これはPdx-Flp系統のがん細胞においてEGFP発現を有するが、tdTomato発現は有しない)からの原発腫瘍のFsp1およびαSMA免疫蛍光染色の代表的な画像。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
腫瘍は、がん細胞と、線維芽細胞およびI型コラーゲンのような、腫瘍微小環境(TME)の構成要素の両方を含む。腫瘍微小環境が腫瘍成長の促進因子として機能するのか、腫瘍成長を抑制するのかは依然として不明である。TMEのいくつかの局面が腫瘍進行の正の調節因子として機能し、他の局面が腫瘍成長の負の調節因子として機能しうる可能性がある。筋線維芽細胞によって産生されるI型コラーゲン(コラーゲンI)は、2本のコラーゲンIα1鎖(α1(I)コラーゲン)および1本のコラーゲンIα2鎖(α2(I)コラーゲン)を伴うヘテロ三量体であり、これはがん細胞ならびに他の間質細胞(ディスコジンドメイン受容体II-DDR2の可能性が高い)および免疫細胞上の潜在的な受容体との結合を介してがん/腫瘍抑制性である。対照的に、がん細胞は、3本のα1(I)コラーゲン鎖を有するコラーゲンIホモ三量体を産生し、これはがん/腫瘍促進性であり、ディスコジンドメイン受容体1 (DDR1)のようながん細胞における特定の受容体に結合して生存促進シグナル、抗アポトーシスシグナル、増殖シグナル、および発がん促進シグナルを誘導する。ホモ三量体(がん細胞により作られる)は、腫瘍微小環境において筋線維芽細胞により作られるヘテロ三量体と比較した場合、メタロプロテイナーゼおよび他のプロテイナーゼに対して耐性がある。ホモ三量体は、ヘテロ三量体と比較して異なるエピトープの露出で異なる構造を示し、ホモ三量体に対して作出された抗体は、他の機構の中でもとりわけ、がん細胞上の発がん促進受容体を介したシグナル伝達を妨害することにより腫瘍阻害特性を有する。DDR1に対するホモ三量体の特異的阻害につながるDDR1遮断は、がん進行の抑制につながり、抗生存性の、アポトーシスシグナル、抗増殖シグナル、および抗発がんシグナルを誘導する。
【0030】
線維増生およびI型コラーゲン(Col1)のような細胞外マトリックス(ECM)の顕著な沈着は、膵管がん(PDAC)の決定的な特徴である。しかしながら、PDACにおいて最も豊富なタンパク質の1つであるCol1の特異的役割は、依然として議論の余地がある。本明細書で、次世代デュアルリコンビナーゼシステム(DRS)を用いて、マウスのKrasG12D駆動自発的PDACとの関連で具体的には筋線維芽細胞またはがん細胞においてCol1α1の遺伝子除去を達成した。興味深いことに、α-平滑筋アクチン(αSMA)を発現する筋線維芽細胞におけるCol1欠失は、PDAC進行および動物死の加速をもたらしたが、Pdx1系統のがん細胞におけるCol1α1欠失は、PDAC発生の軽減および生存期間の延長につながった。がん由来のCol1は、線維芽細胞によって産生されるCol1ヘテロ三量体(α1/α2/α1)とは対照的に、独特なホモ三量体(α1)3であった。Col1のこれらの異なる構造(ホモ三量体 対 ヘテロ三量体)は、がん細胞の異なる挙動をもたらした。
【0031】
古典的なKPC (LSL-KrasG12D/+;Trp53R172H/+またはTrp53loxP/loxP;Pdx1-Cre)モデルのような、現行の遺伝子操作PDACマウスモデル(GEMM)は、ヒトPDACの臨床状況を模倣する貴重なプラットフォームを提供しており、PDACとその治療法の研究に多大な貢献をしてきた(Hingorani et al., 2005)。従来のKPCモデルは、がん細胞におけるfloxed (loxP部位に隣接)遺伝子の(Pdx1-CreまたはP48-Creのような、同じ膵臓特異的Creを用いた)遺伝子除去と組み合わせて、または遺伝子の全身ノックアウト(KO)と組み合わせて広く使用されている。しかしながら、普遍的なCre-loxP組換え機構のため、これらのGEMMの間質細胞亜集団(筋線維芽細胞または免疫細胞のような)で細胞型特異的な遺伝子操作を達成することは依然として不可能である。また、KO致死性を有する遺伝子、例えばI型コラーゲンα1鎖をコードするCol1a1の全身KOを含むKPCモデルを確立することも不可能である(Lohler et al., 1984)。したがって、特にCol1がそのような必須成分であり、PDACの線維形成と微小環境で最も豊富なタンパク質であることを考慮すると、間質細胞源におけるCol1の機能的KOがCol1の起源と寄与を試験することを可能にするPDAC GEMMがない。
【0032】
PDAC GEMMでのそのような制限を克服するために、Cre-loxPシステムとFlp-FRTシステムの両方を統合する次世代デュアルリコンビナーゼシステムが最近になって開発された(Schonhuber et al., 2014)。初めて、このDRSは、発がん性Kras誘導PDACとの関連で、特定の細胞集団、例えば、筋線維芽細胞またはがん細胞によって産生されるCol1の特異的役割を機能的に解明するためにPDACにおけるCol1の欠失を可能にする。
【0033】
Col1α2だけでは(ホモ三量体またはヘテロ三量体に関係なく)いかなる形態のCol1繊維も生成できないため、Col1α1は全てのCol1繊維に不可欠であるという事実から、Col1α1がCol1の遺伝子除去の標的として選択された。DRSは特にαSMA系統活性化PSC (FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP)でまたはPdx1系統がん細胞(FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)でCol1の遺伝子除去を達成するために用いられた。並行して、Col1は、αSMA系統活性化PSCにおいてホモ接合性p53喪失を担持するさらに急性のDRSモデル(FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP)を用いおよびPdx1系統がん細胞においてホモ接合性p53喪失を同様に有する従来のCre-loxPに基づくKPCモデル(LSL-KrasG12D/+;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)を用い枯渇された。これらのPDAC GEMMの表現型を直接比較することにより、細胞源とPDAC微小環境におけるCol1の明確な寄与が確認された。PanIN/PDAC発生は、αSMA系統活性化PSCでのCol1の遺伝子除去により加速されたが、Pdx1系統がん細胞でのCol1除去により遅延された。これらの結果は、活性化PSC由来Col1の腫瘍抑制機能、およびがん細胞由来Col1の腫瘍保護機能を強調している。
【0034】
例として膵臓がんを用いて、病原性コラーゲンが筋線維芽細胞ではなくがん細胞によって産生されることが示された。がん細胞により作出されるコラーゲンIは、α1ホモ三量体と呼ばれる変種であるが、筋線維芽細胞により作出されるコラーゲンIは非病原性であり、PDACの抑制に役立ち、α1/α2/α1ヘテロ三量体である。ホモ三量体はプロテアーゼおよび酵素に耐性があり、がん細胞の周囲にとどまり、がん細胞の増殖と浸潤を補助する。ホモ三量体は、DDR1のような、受容体と結合して、生存促進および発がん促進のシグナルを誘導する。小分子もしくは抗体によるDDR1およびホモ三量体形成または発がん促進シグナルを誘導するその能力の阻害は、PDACの制御および腫瘍成長の抑制につながる。ホモ三量体の形成を妨害する、がん細胞でのシャペロンの妨害もPDACを制御する。ホモ三量体に特異的なコラーゲン1架橋酵素の阻害を用いて、腫瘍成長を制御することができる。免疫療法アプローチとしての自家T細胞または自家もしくは同種異系NK細胞におけるα1(I)コラーゲンホモ三量体特異的CAR-T構築体の作出は、初期および後期膵臓腫瘍の根絶につながるであろう。一方の腕部を介してα1(I)コラーゲンホモ三量体を標的化し、もう一方の腕部を介してCD3を標的化する二重特異性抗体の作出は、T細胞による免疫標的化につながり、がん細胞を死滅化させるであろう。
【0035】
I. 抗体およびその産生
「単離された抗体」は、その天然の環境の構成成分から分離および/または回収されたものである。その天然の環境の夾雑物の構成成分は、抗体の診断的または治療的な使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質を含みうる。特定の態様において、抗体は、(1) ローリー法により決定された場合に抗体の95重量%より高くまで、最も好ましくは99重量%より高くまで; (2) スピンカップ配列決定装置を用いることによってN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るために十分な度合まで; または(3) クマシーブルーもしくは銀染色を用いた還元もしくは非還元条件下で、SDS-PAGEにより均一になるまで精製される。単離された抗体は組換え細胞内における原位置の(in situ)抗体を含む。というのは、当該抗体の天然環境の少なくとも1つの構成成分が存在しないためである。しかし、通常は、単離された抗体は、少なくとも1つの精製段階によって調製される。
【0036】
基本的な4本鎖の抗体単位は、2本の同一の軽(L)鎖および2本の同一の重(H)鎖からなるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、5個の基本的なヘテロ四量体単位およびJ鎖と呼ばれるさらなるポリペプチドからなり、それゆえ10個の抗原結合部位を含み、一方で、分泌型IgA抗体は重合して、2~5個の基本的な4本鎖の単位およびJ鎖を含む多価の集合体を形成することができる。IgGの場合、4本鎖の単位は、一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖と連結されている一方で、2本のH鎖は、H鎖のアイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結されている。また、各HおよびL鎖は、一定間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端に可変ドメイン(VH)を有し、次いで、αおよびγ鎖の各々について3つの定常ドメイン(CH)、μおよびアイソタイプには4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)、次いでその他方の末端に定常ドメイン(CL)を有する。VLはVHとアライメントされており、CLは重鎖の第1定常ドメイン(CH1)とアライメントされている。特定のアミノ酸残基が軽鎖および重鎖可変ドメインの間の界面を形成すると考えられている。VHおよびVLが一緒になって対合することで、単一の抗原結合部位が形成される。異なる抗体クラスの構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology, 8th edition, Daniel P. Stites, Abba I. Terr and Tristram G. Parslow (eds.), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994, page 71, and Chapter 6を参照されたい。
【0037】
任意の脊椎動物種由来のL鎖は、その定常ドメイン(CL)のアミノ酸配列に応じて、κおよびλと呼ばれる2つの明確に異なる型のうちの一方に割り当てることができる。その重鎖定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンをさまざまなクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。5つの免疫グロブリンのクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる重鎖を有する。γおよびαクラスは、CH配列および機能の比較的軽微な差異に基づいてサブクラスへとさらに分割され、ヒトは以下のサブクラスを発現する: IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2。
【0038】
「可変」という用語は、Vドメインのある種のセグメントでは抗体間で配列が大規模に異なることをいう。Vドメインは抗原結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を定義する。しかし、可変性は、可変領域の110個のアミノ酸の範囲全体にわたって均等に分布しているわけではない。そうではなく、V領域は、各9~12個のアミノ酸の長さの「超可変領域」と呼ばれる可変性が非常に高いより短い領域によって隔てられている15~30個のアミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変のストレッチからなる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域は、各々、大体はβ-シートの立体配置をとっている4つのFRを含み、これらは、β-シート構造を連結し、場合によってはその一部を形成するループを形成する、3つの超可変領域により連結されている。各鎖中の超可変領域は、FRによって非常に近接して形を保ち、他の鎖からの超可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)を参照のこと)。定常ドメインは、抗体を抗原に結合させることに直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、抗体依存性好中球貪食(ADNP)、および抗体依存性補体沈着(ADCD)における抗体の関与のような、さまざまなエフェクター機能を示す。
【0039】
本明細書において用いられる「超可変領域」という用語は、抗原結合か関与する抗体のアミノ酸残基をいう。超可変領域は一般に、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、Kabat付番システムにしたがって付番された場合にVL中のおよそ残基番号24~34 (L1)、50~56 (L2)および89~97 (L3)付近、ならびにVH中のおよそ残基番号31~35 (H1)、50~65 (H2)および95~102 (H3)付近; Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)); ならびに/または「超可変ループ」からの残基(例えば、Chothia付番システムにしたがって付番された場合にVL中の残基番号24~34 (L1)、50~56 (L2)および89~97 (L3)、ならびにVH中の残基番号26~32 (H1)、52~56 (H2)および95~101 (H3); Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)); ならびに/または「超可変ループ」/CDRからの残基(例えば、IMGT付番システムにしたがって付番された場合にVL中の残基番号27~38 (L1)、56~65 (L2)および105~120 (L3)、ならびにVH中の残基番号27~38 (H1)、56~65 (H2) および105~120 (H3); Lefranc, M. P. et al. Nucl. Acids Res. 27:209-212 (1999), Ruiz, M. et al. Nucl. Acids Res. 28:219-221 (2000))を含む。任意で、抗体は、AHo; Honneger, A. and Plunkthun, A. J. Mol. Biol. 309:657-670 (2001))にしたがって付番された場合に以下の点、VL中の28、36 (L1)、63、74~75 (L2)および123 (L3)、ならびにVsubH中の28、36 (H1)、63、74~75 (H2)および123 (H3)の1つまたは複数の位置に対称的な挿入を有していてもよい。
【0040】
「生殖系列核酸残基」は、定常または可変領域をコードしている生殖系列遺伝子中で天然に存在する核酸残基を意味する。「生殖系列遺伝子」は、生殖細胞(すなわち、卵子となる運命の細胞または精子)中に見つかるDNAである。「生殖系列変異」は、生殖細胞または単細胞段階の接合体に起こった特定のDNAの遺伝性変化をいい、子孫に伝わる際、そのような変異は体内の全細胞に取り込まれる。生殖系列変異は、単一の体細胞が獲得する体細胞変異とは対照的である。一部の例では、可変領域をコードしている生殖系列DNA配列中のヌクレオチドが変異しており(すなわち体細胞変異)、異なるヌクレオチドで置き換えられている。
【0041】
本明細書において用いられる「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体をいい、すなわち、集団を構成する個々の抗体は少量存在しうる天然の変異の可能性以外は同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対するものであり、特異性が高い。さらに、さまざまな決定基(エピトープ)に対するものであるさまざまな抗体が含まれるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、他の抗体が夾雑していない状態で合成されうるという点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、任意の特定の方法による抗体の産生を要すると解釈されるべきでない。例えば、本開示において有用なモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)によって最初に記述されたハイブリドーマ方法論によって調製されうるか、あるいは細菌、真核生物の動物もしくは植物細胞において組換えDNA法を用いて(例えば、米国特許第4,816,567号参照)、抗原特異的B細胞、感染もしくは免疫付与に応答する抗原特異的形質芽細胞の単細胞選別、またはバルク選別された抗原特異的コレクションにおける単一細胞からの連結された重鎖および軽鎖の捕捉後に作出されうる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記述されている技法を用いてファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。
【0042】
A. 一般的方法
ホモ三量体I型コラーゲンに結合するモノクローナル抗体にはいくつかの用途があることが理解されよう。これらには、がんの検出および診断、ならびにがんの処置に用いるための診断キットの作出が含まれる。これらの状況において、そのような抗体を診断剤もしくは治療剤に関連付けるか、それらを捕捉剤もしくは競合アッセイにおける競合物として用いるか、またはさらなる薬剤を付着させずにそれらを個別に用いることが可能である。抗体は、以下でさらに論じられるように、変異または改変されうる。抗体を調製および特徴付けるための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; 米国特許第4,196,265号を参照のこと)。
【0043】
モノクローナル抗体(MAb)を作出するための方法は一般に、ポリクローナル抗体を調製するための方針と同じ方針に沿って始まる。これらの両方法の第1段階は、適切な宿主の免疫付与、あるいは以前の自然感染または認可されたワクチンもしくは実験的ワクチンによるワクチン接種により免疫のある対象の特定である。当技術分野において周知のように、免疫付与のための所与の組成物はその免疫原性が異なりうる。それゆえ、ペプチドまたはポリペプチド免疫原を担体にカップリングすることによって達成されうるように、宿主免疫系を追加免疫することが必要な場合が多い。例示的かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンのような他のアルブミンも担体として用いることができる。ポリペプチドを担体タンパク質に結合させるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびbis-ビアゾ化(biazotized)ベンジジンを含む。当技術分野において同様に周知のように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激物質の使用によって増強することができる。動物における例示的かつ好ましいアジュバントは、完全フロイントアジュバント(死滅化された結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する免疫応答の非特異的刺激物質)、不完全フロイントアジュバントおよび水酸化アルミニウムアジュバントを含み、ヒトでは、ミョウバン、CpG、MFP59および免疫刺激分子の組み合わせ(AS01またはAS03のような「アジュバントシステム(Adjuvant Systems)」)を含む。ナノ粒子ワクチン、または物理的送達システム中で(例えば脂質ナノ粒子もしくは金微粒子銃ビーズ上で) DNAもしくはRNA遺伝子として送達され、針、遺伝子銃、経皮的エレクトロポレーション装置で送達される、遺伝子によりコードされる抗原を含めて、がん特異的B細胞を誘導するためのさらなる実験的接種形態が可能である。抗原遺伝子はまた、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、またはアルファウイルスレプリコンのような複製能のあるまたは欠陥のあるウイルスベクター、あるいはウイルス様粒子によってコードされるように運搬することができる。
【0044】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質、および免疫付与に用いられる動物によって変わる。免疫原を投与するために種々の経路(皮下、筋肉内、皮内、静脈内および腹腔内)を用いることができる。ポリクローナル抗体の産生は、免疫された動物の血液を、免疫付与後のさまざまな時点でサンプリングすることによってモニタリングされてもよい。第2の追加免疫注射もなされてもよい。適当な力価に達するまで、追加免疫および力価測定のプロセスが繰り返される。望ましいレベルの免疫原性が得られたら、免疫された動物を採血し、血清を単離および貯蔵することができ、および/またはその動物を用いてMAbを作出することができる。
【0045】
免疫付与の後に、MAb作出プロトコルで用いるために、抗体を産生する能力を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)が選択される。これらの細胞は、生検された脾臓、リンパ節、扁桃腺もしくはアデノイド、骨髄吸引物もしくは生検、肺もしくは消化管のような粘膜器官からの組織生検から、または循環血液から得られうる。次いで、免疫された動物または免疫されたヒトに由来する抗体産生Bリンパ球が、不死骨髄腫細胞、一般的には、免疫された動物と同じ種の不死骨髄腫細胞、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞の不死骨髄腫細胞の細胞と融合される。ハイブリドーマを産生する融合手順で用いるのに適した骨髄腫細胞株は好ましくは、抗体を産生せず、高い融合効率、および所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、ある種の選択培地における増殖を不可能にする酵素欠損を有する。当業者に公知であるように、いくつかの骨髄腫細胞のいずれか1つが用いられうる。HMMA2.5細胞またはMFP-2細胞は、そのような細胞の特に有用な例である。
【0046】
抗体産生脾臓細胞またはリンパ節細胞および骨髄腫細胞のハイブリッドを作出するための方法は、通常、体細胞と骨髄腫細胞とを2:1の比率で混合することを含むが、その比率は、細胞膜の融合を促進する薬剤(化学的または電気的)の存在下において、それぞれ、約20:1から約1:1まで変化しうる。場合によっては、初期段階としてエプスタインバーウイルス(EBV)でヒトB細胞を形質転換すると、B細胞のサイズが大きくなり、比較的大きなサイズの骨髄腫細胞との融合が増強される。EBVによる形質転換効率は、形質転換培地中でCpGおよびChk2阻害剤薬を用いることによって増強される。あるいは、ヒトB細胞はIL-21およびTNFスーパーファミリーのII型メンバーであるヒトB細胞活性化因子(BAFF)のような、さらなる可溶性因子を含有する培地中でCD40リガンド(CD154)を発現するトランスフェクト細胞株と共培養することにより活性化することができる。センダイウイルスを用いた融合法、および37% (v/v) PEGのような、ポリエチレングリコール(PEG)を用いた融合法が記述されている。電気的に誘発される融合法の使用も適切であり、より良い効率のためのプロセスがある。融合手順は通常、約1×10-6から1×10-8の低周波数で実行可能なハイブリッドを作出するが、最適化された手順を用いると、200分の1に近い融合効率を達成することができる。しかしながら、融合の効率が比較的低いことは問題にならない。というのは、生存可能な融合ハイブリッドは選択培地中で培養することにより、親の注入細胞(特に、通常は無期限に分裂し続ける注入骨髄腫細胞)から分化するからである。選択培地は一般に、組織培地中でのヌクレオチドのデノボ合成を遮断する薬剤を含有する培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキサート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートはプリンとピリミジンの両方のデノボ合成を遮断するが、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキサートが用いられる場合、培地にはヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンが補充される(HAT培地)。アザセリンが用いられる場合、培地にはヒポキサンチンが補充される。骨髄腫に融合されていないEBV形質転換株を排除するために、B細胞源がEBV形質転換ヒトB細胞株である場合、ウアバインが添加される。
【0047】
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを有するHATである。HAT培地中では、ヌクレオチドサルベージ経路を動かすことができる細胞しか生き残ることができない。骨髄腫細胞はサルベージ経路の重要な酵素、例えば、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に欠損があり、生き残ることができない。B細胞は、この経路を動かすことができるが、培養状態では寿命は限られており、一般的に、約2週間以内に死滅する。それゆえ、選択培地中で生き残ることができる唯一の細胞は、骨髄腫細胞とB細胞から形成されたハイブリッドである。融合に用いられるB細胞源が、本明細書のように、EBV形質転換B細胞の株である場合、EBV形質転換B細胞が薬物による死滅に対して感受性があるために、ハイブリッドの薬物選択にウアバインも用いられうる。これに対して、用いられる骨髄腫パートナーはウアバイン耐性があることで選択される。
【0048】
培養するとハイブリドーマ集団が得られ、この集団から特定のハイブリドーマが選択される。典型的に、ハイブリドーマの選択はマイクロタイタープレート内での単一クローン希釈によって細胞を培養し、その後に、望ましい反応性について個々のクローン上清を(約2~3週間後に)試験することによって行われる。このアッセイは、感度が高く、簡単で、迅速でなければならず、例えば、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなどがある。次いで、選択されたハイブリドーマは連続希釈されるか、フローサイトメトリー選別によって単一細胞選別され、個々の抗体産生細胞株にクローニングされる。次いで、クローンはmAbを供給するように無期限に増殖することができる。これらの細胞株は2つの基本的なやり方でMAb産生に利用されうる。ハイブリドーマ試料は、動物(例えば、マウス)に(多くの場合、腹腔内に)注射することができる。任意で、注射前に、動物は、炭化水素、特に、油、例えば、プリスタン(テトラメチルペンタデカン)を用いて初回刺激されてもよい。このようにヒトハイブリドーマが用いられる場合、腫瘍拒絶反応を阻止するために、免疫不全マウス、例えば、SCIDマウスに注射することが最適である。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生する。次いで、血清または腹水液などの動物の体液を軽くたたいて、高濃度のMAbを得ることができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、この場合、MAbは天然で培養培地に分泌され、培養培地から高濃度で容易に入手することができる。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで用いて、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。この細胞株は、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために無血清培地中で増殖するように適合させることができる。
【0049】
どちらの手段で産生されたMAbも、所望であれば、ろ過、遠心分離およびさまざまなクロマトグラフィー方法、例えば、FPLCまたはアフィニティクロマトグラフィーを用いてさらに精製されうる。本開示のモノクローナル抗体の断片は、ペプシンもしくはパパインのような、酵素を用いた消化を含む方法によって、および/または化学的還元でジスルフィド結合を切断することによって精製モノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、本開示に包含されるモノクローナル抗体断片は自動ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0050】
モノクローナル抗体を作出するために分子クローニングアプローチが用いられうることも企図される。関心対象の抗原で標識された単一のB細胞を、常磁性ビーズ選択またはフローサイトメトリーによる選別を用いて物理的に選別することができ、次に単一細胞からRNAを単離することができ、RT-PCRによって抗体遺伝子を増幅することができる。あるいは、抗原特異的なバルク選別された細胞集団を微小胞に分離し、一致した重鎖および軽鎖可変遺伝子を、重鎖および軽鎖アンプリコンの物理的連結、または小胞からの重鎖および軽鎖遺伝子の一般的なバーコーディングを用いて単一細胞から回収することができる。単一細胞からの一致した重鎖および軽鎖遺伝子はまた、RT-PCRプライマーを担持する細胞透過性ナノ粒子によりおよび細胞ごとに1つのバーコードで転写物を標識するためのバーコードにより細胞を処理することによって抗原特異的B細胞の集団からも得ることができる。抗体可変遺伝子はまた、ハイブリドーマ株のRNA抽出によって単離することができ、抗体遺伝子をRT-PCRによって得ることができ、免疫グロブリン発現ベクターにクローニングすることができる。あるいは、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリを、細胞株から単離されたRNAから調製し、適切な抗体を発現するファージミドを、ウイルス抗原を用いてパニングすることにより選択される。従来のハイブリドーマ技法より優れたこのアプローチの利点は、約104倍の抗体を1回で産生およびスクリーニングすることができること、およびH鎖とL鎖の組み合わせによって新しい特異性が生み出され、それにより適切な抗体を見出す可能性がさらに高まることである。
【0051】
本開示において有用な抗体の産生を教示する、参照により各々が本明細書に組み入れられる、他の米国特許には、コンビナトリアルアプローチを用いたキメラ抗体の産生について記述する米国特許第5,565,332号; 組換え免疫グロブリン調製物について記述する米国特許第4,816,567号; および抗体-治療剤結合体について記述する米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0052】
B. 本開示の抗体
本開示による抗体は、まず第一に、その結合特異性によって定義されうる。当業者は、当業者に周知の技法を用いて所与の抗体の結合特異性/親和性を評価することにより、そのような抗体が本請求項の範囲内にあるかどうかを決定することができる。例えば、所与の抗体が結合するエピトープは、抗原分子内に位置する3個またはそれ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個)のアミノ酸の単一の連続配列(例えば、ドメイン中の線形エピトープ)からなりうる。あるいは、エピトープは、抗原分子内に位置する複数の非隣接アミノ酸(またはアミノ酸配列) (例えば、立体配座エピトープ)からなりうる。
【0053】
当業者に公知のさまざまな技法を用いて、抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技法としては、例えば、Antibodies, Harlow and Lane (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)に記述されているものなどの、日常の交差ブロッキングアッセイが挙げられる。交差ブロッキングは、ELISA、生体層干渉法、または表面プラズモン共鳴のような、さまざまな結合アッセイで測定することができる。他の方法には、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke (2004) Methods Mol. Biol. 248: 443-63)、ペプチド切断分析、単一粒子再構築を用いた高分解能電子顕微鏡法、cryoEM、または断層撮影、結晶学的研究およびNMR分析が含まれる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出および抗原の化学修飾のような方法を利用することができる(Tomer (2000) Prot. Sci. 9: 487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いることができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般論として、水素/重水素交換法では、関心対象のタンパク質を重水素標識した後に、抗体を重水素標識タンパク質に結合させることを伴う。次に、タンパク質/抗体複合体が水に移入し、抗体複合体によって保護されているアミノ酸内の交換可能なプロトンが、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素から水素への逆交換を起こす。結果として、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は重水素を保持し、それゆえ、界面に含まれないアミノ酸と比較して比較的高い質量を示しうる。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断および質量分析に供され、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基が明らかになる。例えば、Ehring (1999) Analytical Biochemistry 267: 252-259; Engen and Smith (2001) Anal. Chem. 73: 256A-265Aを参照されたい。
【0054】
「エピトープ」という用語は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位をいう。B細胞エピトープは、タンパク質の三次折畳みによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両方から形成することができる。隣接するアミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒への曝露時に保持されるが、三次折畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、少なくとも3個、より一般的には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を独特の空間立体配座で含む。本明細書で、好ましいエピトープは、ホモ三量体I型コラーゲンには存在するが、ヘテロ三量体I型コラーゲンには存在しない立体配座エピトープである。
【0055】
抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても知られる修飾支援プロファイリング(MAP)は、化学的または酵素的に修飾された抗原表面への各抗体の結合プロファイルの類似性にしたがって同じ抗原に対する多数のモノクローナル抗体(mAb)を分類する方法である(参照によりその全体が本明細書に具体的に組み入れられる、US 2004/0101920を参照のこと)。各分類は、別の分類によって表されるエピトープとは明らかに異なるか、部分的に重複している固有のエピトープを反映しうる。この技術により遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングが可能になるため、遺伝的に異なる抗体に特性評価の焦点を当てることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特徴を有するmAbを産生する稀有なハイブリドーマクローンの同定を容易にしうる。本開示の抗体を異なるエピトープに結合する抗体の群に分類するために、MAPが用いられうる。
【0056】
本開示は、同じエピトープまたはエピトープの一部分に結合しうる抗体を含む。同様に、本開示はまた、標的またはその断片への結合を、本明細書において記述される特定の例示的な抗体のいずれかと競合する抗体を含む。当技術分野において公知の日常の方法を用いることにより、抗体が参照抗体と、同じエピトープに結合するか、結合を競合するかどうかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が参照と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体は飽和条件下で標的に結合させられる。次に、標的分子に結合する試験抗体の能力が評価される。試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができる場合、試験抗体は参照抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。その一方で、試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができない場合、試験抗体は、参照抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
【0057】
それぞれが他方の抗原への結合を競合的に阻害(遮断)する場合、2つの抗体は同じまたは重複しているエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の一方の抗体は、競合的結合アッセイにおいて測定された場合、他方の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%またはさらには99%だけ阻害する(例えば、Junghans et al., Cancer Res. 1990 50:1495-1502を参照のこと)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除するいくつかのアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は重複しているエピトープを有する。
【0058】
次に、さらなる日常の実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実行して、試験抗体で観察された結合の欠如が実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものかどうか、または立体的遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認することができる。この種の実験はELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当技術分野において利用可能な他の任意の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて実施することができる。EMまたは結晶学を用いた構造研究も、結合を競合する2つの抗体が同じエピトープを認識するか否かを実証することができる。
【0059】
別の局面において、抗体は、さらなる「フレームワーク」領域を含むその可変配列によって定義されうる。さらに、抗体配列は、以下でさらに詳細に論じられる方法を任意で用いて、これらの配列とは異なる可能性がある。例えば、核酸配列は、(a) 可変領域が軽鎖および重鎖の定常ドメインから分離されている可能性があり、(b) 核酸は、それによってコードされる残基に影響を与えなくても、上述されたものとは異なる可能性があり、(c) 核酸は所与のパーセンテージ、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性によって上述されたものとは異なる可能性があり、(d) 核酸は約50℃~約70℃の温度で約0.02 M~約0.15 M NaClによって提供されるような、低塩および/もしくは高温の条件によって例示される、高ストリンジェンシー条件の下でハイブリダイズする能力によって、上述されたものとは異なる可能性があり、(e) アミノ酸は所与のパーセンテージ、例えば、80%, 85%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%もしくは99%の相同性によって上述されたものとは異なる可能性があり、または(f) アミノ酸は保存的置換(以下で論じられる)を許容することによって、上述されたものとは異なる可能性があるという点で、上述されたものとは異なる可能性がある。
【0060】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列を比較する場合、下記のように、2つの配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の配列が、最大限の一致を得るようにアライメントされるときに同じものである場合、2つの配列は「同一」であると言われる。2つの配列間の比較は、典型的には、比較ウィンドウにわたり配列を比較して、配列類似性の局所領域を同定および比較することによって実施される。本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、少なくとも約20個の連続的位置、通常は30から約75個、40から約50個のセグメントをいい、ここで配列は同数の連続的位置の参照配列と、2つの配列が最適にアライメントされた後に比較されうる。
【0061】
比較のための配列の最適なアライメントは、バイオインフォマティクスソフトウェアのLasergeneスイート(DNASTAR, Inc., Madison, Wis.)中のMegalignプログラムを使い、初期設定パラメータを用いて行われうる。このプログラムは、以下の参考文献において記述されているいくつかのアライメントスキームを具体化している: Dayhoff, M. O. (1978) A model of evolutionary change in proteins--Matrices for detecting distant relationships. In Dayhoff, M. O. (ed.) Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington D.C. Vol. 5, Suppl. 3, pp. 345-358; Hein J. (1990) Unified Approach to Alignment and Phylogeny pp. 626-645 Methods in Enzymology vol. 183, Academic Press, Inc., San Diego, Calif.; Higgins, D. G. and Sharp, P. M. (1989) CABIOS 5:151-153; Myers, E. W. and Muller W. (1988) CABIOS 4:11-17; Robinson, E. D. (1971) Comb. Theor 11:105; Santou, N. Nes, M. (1987) Mol. Biol. Evol. 4:406-425; Sneath, P. H. A. and Sokal, R. R. (1973) Numerical Taxonomy--the Principles and Practice of Numerical Taxonomy, Freeman Press, San Francisco, Calif.; Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. (1983) Proc. Natl. Acad., Sci. USA 80:726-730。
【0062】
あるいは、比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman (1981) Add. APL. Math 2:482の局所同一性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443の同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444の類似検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA)のコンピュータによる実施によって、または視覚的精査によって行われうる。
【0063】
配列同一性%および配列類似性%を決定するのに適したアルゴリズムの1つの特定の例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al. (1977) Nucl. Acids Res. 25:3389-3402およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410に記述されている。BLASTおよびBLAST 2.0を、例えば、本明細書において記述されるパラメータで用いて、本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列同一性%を決定することができる。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、米国国立バイオテクノロジー情報センターを通じて公的に入手可能である。抗体配列の性質の再構成および各遺伝子の可変の長さには、単一抗体配列の複数ラウンドのBLAST検索が必要になる。また、さまざまな遺伝子の手動アセンブリは、困難であり、間違いを起こしやすい。配列分析ツールIgBLAST (ncbi.nlm.nih.gov/igblast/のワールドワイドウェブ)は、生殖細胞系列V、DおよびJ遺伝子との一致、再配列接合部の詳細、IgVドメインフレームワーク領域および相補性決定領域の線引きを同定する。IgBLASTは、ヌクレオチドまたはタンパク質配列を分析することができ、配列をバッチで処理することができ、生殖細胞系列遺伝子データベースおよび他の配列データベースを同時に検索して、おそらく最も一致する生殖細胞系列V遺伝子を見逃す可能性を最小限に抑えることを可能にする。
【0064】
1つの実例において、累積スコアは、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM (一致残基の対に対する報酬スコア; 常に>0)およびN (ミスマッチ残基に対するペナルティスコア; 常に<0)を用いて計算することができる。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下した場合; 1つもしくは複数の陰性スコアの残基アライメントの蓄積により、累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合; または配列のどちらかの末端に到達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)では、初期設定としてワード長(W) 11、および期待値(E) 10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照のこと)アライメント、(B) 50、期待値(E) 10、M=5、N=-4ならびに両鎖の比較を用いる。
【0065】
アミノ酸配列の場合、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算することができる。各方向でのワードヒットの伸長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下した場合; 1つもしくは複数の陰性スコアの残基アライメントの蓄積により、累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合; または配列のどちらかの末端に到達した場合に停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。
【0066】
1つのアプローチにおいて、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアライメントされた配列を、少なくとも20個の位置の比較ウィンドウにわたって比較することにより決定され、ここで比較ウィンドウ中のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適なアライメントのための参照配列(これは付加または欠失を含まない)と比較して、20%またはそれ未満、通常は5~15%、または10~12%の付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含みうる。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基がどちらの配列中にも存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を算出し、一致した位置の数を参照配列中の位置の合計数(すなわち、ウィンドウのサイズ)で除して、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを算出することにより計算される。
【0067】
抗体を定義するさらに別の方法は、以下に記述される抗体およびその抗原結合断片のいずれかの「誘導体」としてである。「誘導体」という用語は、抗原に免疫特異的に結合するが、しかし「親」(または野生型)分子と比べて1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上のアミノ酸置換、付加、欠失または修飾を含む抗体またはその抗原結合断片をいう。そのようなアミノ酸置換または付加は、天然に存在する(すなわち、DNAにコードされる)アミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基を導入しうる。「誘導体」という用語は、例えば、増強されたまたは損なわれたエフェクターまたは結合特性を示す変種Fc領域を有する、例えば抗体などを形成するように、改変されたCH1、ヒンジ、CH2、CH3またはCH4領域を有する変種を包含する。「誘導体」という用語は非アミノ酸修飾、例えば、グリコシル化され(例えば、マンノース、2-N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、グルコース、シアル酸、5-N-アセチルノイラミン酸、5-グリコリルノイラミン酸(5-glycolneuraminic acid)などの含量の変化を有し)、アセチル化され、ペグ化され、リン酸化され、アミド化され、既知の保護基/遮断基により誘導体化され、タンパク質分解切断され、細胞リガンドまたは他のタンパク質に連結されうるなどの、アミノ酸をさらに包含する。いくつかの態様において、炭水化物修飾の改変は以下: 抗体の可溶化、細胞内輸送および抗体分泌の促進、抗体アセンブリの促進、立体配座の完全性、ならびに抗体を介したエフェクター機能の1つまたは複数を調節する。特定の態様において、炭水化物修飾の改変は、炭水化物修飾を欠く抗体と比べて、抗体を介したエフェクター機能を増強する。抗体を介したエフェクター機能の改変をもたらす炭水化物修飾は、当技術分野において周知である(例えば、Shields, R. L. et al. (2002) 「Lack Of Fucose On Human IgG N-Linked Oligosaccharide Improves Binding To Human Fcgamma RIII And Antibody-Dependent Cellular Toxicity」, J. Biol. Chem. 277(30): 26733-26740; Davies J. et al. (2001) 「Expression Of GnTIII In A Recombinant Anti-CD20 CHO Production Cell Line: Expression Of Antibodies With Altered Glycoforms Leads To An Increase In ADCC Through Higher Affinity For FC Gamma RIII」, Biotechnology & Bioengineering 74(4): 288-294を参照のこと)。炭水化物含量を改変する方法は、当業者に公知であり、例えば、Wallick, S. C. et al. (1988) 「Glycosylation Of A VH Residue Of A Monoclonal Antibody Against Alpha (1----6) Dextran Increases Its Affinity For Antigen」, J. Exp. Med. 168(3): 1099-1109; Tao, M. H. et al. (1989) 「Studies Of Aglycosylated Chimeric Mouse-Human IgG. Role Of Carbohydrate In The Structure And Effector Functions Mediated By The Human IgG Constant Region」, J. Immunol. 143(8): 2595-2601; Routledge, E. G. et al. (1995) 「The Effect Of Aglycosylation On The Immunogenicity Of A Humanized Therapeutic CD3 Monoclonal Antibody」, Transplantation 60(8):847-53; Elliott, S. et al. (2003) 「Enhancement Of Therapeutic Protein In Vivo Activities Through Glycoengineering」, Nature Biotechnol. 21:414-21; Shields, R. L. et al. (2002) 「Lack Of Fucose On Human IgG N-Linked Oligosaccharide Improves Binding To Human Fcgamma RIII And Antibody-Dependent Cellular Toxicity」, J. Biol. Chem. 277(30): 26733-26740)を参照されたい。
【0068】
誘導体抗体または抗体断片は、ビーズに基づくアッセイもしくは細胞に基づくアッセイまたは動物モデルでのインビボ研究によって測定された場合に抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、抗体依存性好中球貪食(ADNP)、または抗体依存性補体沈着(ADCD)機能の好ましい活性レベルを付与するように配列またはグリコシル化状態の操作によって作出することができる。
【0069】
誘導体抗体または抗体断片は、特定の化学的切断、アセチル化、製剤、ツニカマイシンの代謝合成などを含むが、これらに限定されない、当業者に公知の技法を用いた化学修飾によって修飾されうる。1つの態様において、抗体誘導体は、親抗体と同様または同一の機能を保有する。別の態様において、抗体誘導体は、親抗体と比べて改変された活性を示す。例えば、誘導体抗体(またはその断片)は親抗体よりも、そのエピトープに強く結合するか、またはタンパク質分解に対して耐性でありうる。
【0070】
C. 抗体配列の操作
さまざまな態様において、発現の改善、交差反応性の改善またはオフターゲット結合の低下のような、種々の理由のため、同定された抗体の配列を操作することを選択してもよい。修飾抗体は、標準的な分子生物学的技法による発現、またはポリペプチドの化学合成を含めて、当業者に公知の任意の技法によって作出されうる。組換え発現のための方法は、本書面の他所で扱われている。以下は、抗体操作のための関連する目標技法の大まかな議論である。
【0071】
ハイブリドーマを培養し、次いで、細胞を溶解し、全RNAを抽出することができる。RTと一緒にランダムヘキサマーを用いてRNAのcDNAコピーを作製し、次いで、全てのヒト可変遺伝子配列を増幅することが予想されるPCRプライマーの多重混合物を用いてPCRを行うことができる。PCR産物をpGEM-T Easyベクターにクローニングし、次いで、標準的なベクタープライマーを用いた自動DNA配列決定によって配列決定することができる。結合および中和のアッセイは、ハイブリドーマ上清から収集し、プロテインGカラムを用いたFPLCによって精製した抗体を用いて行うことができる。
【0072】
組換え完全長IgG抗体は、重鎖および軽鎖Fv DNAをクローニングベクターからIgGプラスミドベクターにサブクローニングすることによって作出することができ、293 (例えば、Freestyle)細胞またはCHO細胞にトランスフェクションすることができ、293またはCHO細胞上清から抗体を回収および精製することができる。他の適切な宿主細胞系は、大腸菌(E. coli)のような細菌、昆虫細胞(S2、Sf9、Sf29、High Five)、植物細胞(例えば、ヒト様グリカンの操作有りもしくは無しの、タバコ)、藻類、または種々の非ヒトトランスジェニックとの関連では、例えばマウス、ラット、ヤギもしくはウシを含む。
【0073】
後続の抗体精製の目的、および宿主処理の目的の両方で、抗体をコードする核酸の発現も企図される。抗体コード配列は、天然RNAまたは修飾RNAのような、RNAであることができる。修飾RNAは、mRNAに安定性の向上および低い免疫原性を付与し、それによって治療的に重要なタンパク質の発現を促進するある種の化学修飾を企図する。例えば、N1-メチル-プソイドウリジン(N1mΨ)は翻訳能力という点で、他のいくつかのヌクレオシド修飾およびその組み合わせよりも優れている。免疫/eIF2αリン酸化依存性の翻訳阻害をオフにすることに加えて、組み入れられたN1mΨヌクレオチドは、リボソームの休止およびmRNAの密度を増加させることにより、翻訳プロセスの動態を劇的に変化させる。修飾mRNAのリボソーム負荷の増加は、同じmRNAでのリボソーム再生利用またはデノボリボソーム動員のいずれかに有利に働くことにより、それらをさらに開始許容にする。そのような修飾は、RNA接種後のインビボでの抗体発現を増強するために用いることができよう。RNAは、天然であろうと修飾されていようと、裸のRNAとしてまたは脂質ナノ粒子のような、送達媒体中で送達されうる。
【0074】
あるいは、抗体をコードするDNAが、同じ目的で利用されうる。DNAは、それが設計される宿主細胞において活性なプロモーターを含む発現カセットに含まれる。発現カセットは、従来のプラスミドまたはミニベクターなどの、複製可能なベクターに好都合に含まれる。ベクターは、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレンチウイルスのような、ウイルスのベクターを含み、これらが企図される。VEEウイルスまたはシンドビスウイルスに基づくアルファウイルスレプリコンのような抗体遺伝子をコードするレプリコンも企図される。そのようなベクターの送達は、筋肉内、皮下、もしくは皮内経路を通じ注射針により、またはインビボ発現が望まれる場合は経皮エレクトロポレーションにより実施することができる。
【0075】
最後のcGMP製造プロセスと同じ宿主細胞および細胞培養プロセスにおいて産生される抗体が迅速に入手できることには、プロセス開発プログラムの期間を短くする可能性がある。Lonzaは、少量(50 gまで)の抗体をCHO細胞において迅速に産生するために、CDACF培地中で増殖させた、プールしたトランスフェクタントを用いる一般的な方法を開発した。本当の一過的なシステムよりもわずかに遅いが、この利点には、産物濃度が高いこと、産生細胞株と同じ宿主およびプロセスが用いられることが含まれる。使い捨てバイオリアクターにおける、モデル抗体を発現するGS-CHOプールの増殖および生産性の例: フェドバッチモードにおいて動作する使い捨てバックバイオリアクター培養(5 L作業容積)では、トランスフェクションの9週間以内に2 g/Lの収集抗体濃度を実現した。
【0076】
抗体分子は、断片、例えば、mAbのタンパク質分解切断によって生じた断片(例えば、F(ab')、F(ab')2)、または一本鎖免疫グロブリン、例えば、組換え手段によって産生可能な一本鎖免疫グロブリンを含む。F(ab')抗体誘導体は一価であるが、F(ab')2抗体誘導体は二価である。1つの態様において、このような断片は互いに、または他の抗体断片もしくは受容体リガンドと組み合わされて、「キメラ」結合分子を形成することができる。重大なことに、そのようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープと結合することができる置換基を含有しうる。
【0077】
関連する態様において、抗体は、開示された抗体の誘導体、例えば、開示された抗体のものと同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラまたはCDR移植抗体)である。あるいは、抗体分子に保存的変化を導入するような、修飾を加えることを望む場合もある。そのような変化を加える際には、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮されうる。相互作用的な生物機能をタンパク質に付与する際のヒドロパシーアミノ酸指数の重要性が当技術分野において一般に理解されている。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、その結果として、これが、タンパク質と、他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を定義すると受け入れられている。
【0078】
親水性に基づいて、類似するアミノ酸を効果的に置換できることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性(greatest local average hydrophilicity)はタンパク質の生物学的特性と相関関係にあることが述べられている。米国特許第4,554,101号に詳述されるように、アミノ酸残基には以下の親水性値が割り当てられている: 塩基性アミノ酸: アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5); 酸性アミノ酸: アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2); 親水性、非イオン性アミノ酸: セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびトレオニン(-0.4)、含硫黄アミノ酸: システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3); 疎水性非芳香族アミノ酸: バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0); 疎水性芳香族アミノ酸: トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
【0079】
アミノ酸は、類似の親水性を有する別のアミノ酸で置換することができ、生物学的または免疫学的に改変されたタンパク質を生成することができると理解される。そのような変化では、親水性値が±2以内のアミノ酸置換が好ましく、親水性値が±1以内のアミノ酸置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
【0080】
上記で概説したように、アミノ酸置換は、一般的に、アミノ酸の側鎖置換基の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づいている。さまざまな前述の特徴を考慮に入れた例示的な置換が当業者に周知であり、アルギニンおよびリジン; グルタミン酸およびアスパラギン酸; セリンおよびトレオニン; グルタミンおよびアスパラギン; ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0081】
本開示はアイソタイプ修飾も企図する。Fc領域を修飾して異なるアイソタイプを持つことにより、異なる機能性を達成することができる。例えば、IgG1に変えることで抗体依存性細胞傷害を増加させることができ、クラスAに切り替えることで組織分布を改善させることができ、クラスMに切り替えることで原子価を改善させることができる。
【0082】
あるいはまたはさらに、アミノ酸修飾を、IL-23p19結合分子のFc領域の補体依存性細胞傷害(CDC)機能および/またはC1q結合を変化させる1つまたは複数のさらなるアミノ酸修飾と組み合わせることが有用でありうる。特に関心のある結合ポリペプチドは、C1qに結合し、補体依存性細胞傷害を示すものでありうる。既存のC1q結合活性を有し、CDCを媒介する能力を任意でさらに有してもよいポリペプチドは、これらの活性の一方または両方が増強されるように修飾されうる。C1qを改変するおよび/またはその補体依存性細胞傷害機能を修飾するアミノ酸修飾は、例えば、参照により本明細書に組み入れられるWO/0042072に記述されている。
【0083】
例えば、C1q結合および/またはFcγR結合を改変し、それによりCDC活性および/またはADCC活性を変化させることにより、エフェクター機能が変化した抗体のFc領域を設計することができる。「エフェクター機能」は、(例えば、対象における)生物学的活性の活性化または減少に関与している。エフェクター機能の例としては、C1q結合; 補体依存性細胞傷害(CDC); Fc受容体結合; 抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC); 貪食; 細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体; BCR)などの下方制御が挙げられるが、これらに限定されることはない。そのようなエフェクター機能は、Fc領域を結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わせる必要がありえ、さまざまなアッセイ(例えば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を用いて評価することができる。
【0084】
例えば、改善されたC1q結合および改善されたFcγRIII結合を有する(例えば、改善されたADCC活性および改善されたCDC活性の両方を有する)抗体の変種Fc領域を作出することができる。あるいは、エフェクター機能を低減または除去することが望まれる場合、変種Fc領域は、低減されたCDC活性および/または低減されたADCC活性で操作することができる。他の態様において、これらの活性の1つのみが増加され、任意で、また他の活性は低減されてもよい(例えば、改善されたADCC活性を有するが、低減されたCDC活性を有する、およびその逆のFc領域変種を作出するため)。
【0085】
FcRn結合
Fc変異は、新生児Fc受容体(FcRn)とのその相互作用を変化させ、その薬物動態特性を改善するために導入および操作することもできる。FcRnへの結合が改善されたヒトFc変種のコレクションが記述されている。FcγRI、FcγRII、FcγRIII、およびFcRnに対するヒトIgG1上の結合部位の高解像度マッピングならびにFcγRへの結合が改善されたIgG1変種の設計(J. Biol. Chem. 276:6591-6604)。アラニンスキャニング突然変異誘発、ランダム突然変異誘発ならびに新生児Fc受容体(FcRn)への結合および/またはインビボでの挙動を評価するためのスクリーニングを含む技法を通じて作出されうるアミノ酸修飾を含めて、半減期の増加をもたらしうる、いくつかの方法が公知である。突然変異誘発に先立って計算戦略も、変異させるアミノ酸変異の1つを選択するために用いられうる。
【0086】
それゆえ、本開示は、FcRnへの結合が最適化された抗原結合タンパク質の変種を提供する。特定の態様において、抗原結合タンパク質の変種は、抗原結合タンパク質のFc領域中に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、ここで該修飾が、親ポリペプチドと比較してFc領域の番号226、227、228、230、231、233、234、239、241、243、246、250、252、256、259、264、265、267、269、270、276、284、285、288、289、290、291、292、294、297、298、299、301、302、303、305、307、308、309、311、315、317、320、322、325、327、330、332、334、335、338、340、342、343、345、347、350、352、354、355、356、359、360、361、362、369、370、371、375、378、380、382、384、385、386、387、389、390、392、393、394、395、396、397、398、399、400、401 403、404、408、411、412、414、415、416、418、419、420、421、422、424、426、428、433、434、438、439、440、443、444、445、446および447からなる群より選択され、ここでFc領域中のアミノ酸の付番がKabatのEUインデックスの付番である。本開示のさらなる局面において、修飾は、M252Y/S254T/T256Eである。
【0087】
さらに、さまざまな刊行物には、FcRn結合ポリペプチドを分子に導入することにより、またはFcRn結合親和性が保存されているが、他のFc受容体に対する親和性が大いに低減されている抗体と分子を融合するもしくは抗体のFcRn結合ドメインと融合することにより、半減期が改変されている生理学的に活性な分子を得るための方法が記述されている。
【0088】
誘導体化された抗体は哺乳類、特にヒトにおける親抗体の半減期(例えば、血清中半減期)を改変するために用いられうる。そのような変化は、15日超、好ましくは20日超、25日超、30日超、35日超、40日超、45日超、2ヶ月超、3ヶ月超、4ヶ月超、または5ヶ月超の半減期をもたらしうる。哺乳類、好ましくはヒトにおける本開示の抗体またはその断片の半減期の増加により、哺乳類における抗体または抗体断片のさらに高い血清力価が生じ、したがって、該抗体もしくは抗体断片の投与の頻度が低減し、および/または投与される該抗体もしくは抗体断片の濃度が低減する。増加したインビボ半減期を有する抗体またはその断片は、当業者に公知の技法によって作出することができる。例えば、増加したインビボ半減期を有する抗体またはその断片は、FcドメインとFcRn受容体との間の相互作用に関与すると同定されたアミノ酸残基を修飾(例えば、置換、欠失または付加)することによって作出することができる。
【0089】
Beltramello et al. (2010)は、デング熱ウイルス感染を増強する傾向があるため、CH2ドメインの位置番号1.3および1.2のロイシン残基(CドメインのIMGT固有の付番による)がアラニン残基で置換されているものを作出することによる、中和mAbの修飾を以前に報告した。「LALA」変異としても知られるこの修飾は、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIaへの抗体結合を無効化する。変種および未修飾の組換えmAbを、4つのデング熱ウイルス血清型による感染を中和および増強するその能力について比較した。LALA変種は、未修飾のmAbと同じ中和活性を保持していたが、増強活性を完全に欠いていた。それゆえ、この性質のLALA変異は、本開示の抗体との関連で企図される。
【0090】
グリコシル化の変化
本開示の特定の態様は、シアル酸、ガラクトースまたはフコースを有しない実質的に均質なグリカンを含有する、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。モノクローナル抗体は重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、このどちらも、それぞれ重鎖または軽鎖定常領域に付着されうる。前述の実質的に均質なグリカンは、重鎖定常領域に共有結合的に付着されうる。
【0091】
本開示の別の態様は、新規のFcグリコシル化パターンを有するmAbを含む。単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、GNGNまたはG1/G2糖型によって表される実質的に均質な組成で存在する。Fcグリコシル化は、治療用mAbの抗ウイルス特性および抗がん特性において重要な役割を果たす。本開示は、インビトロでのフコース不含の抗HIV mAbの抗レンチウイルス細胞媒介性ウイルス阻害の増大を示す最近の研究と一致している。コアフコースを欠く均質なグリカンを用いた本開示のこの態様は、特定のウイルスに対する保護の増大を2倍超だけ示した。コアフコースの除去は、ナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介されるmAbのADCC活性を劇的に改善するが、多形核細胞(PMN)のADCC活性には逆効果を及ぼすように思われる。
【0092】
GNGNまたはG1/G2糖型によって表される実質的に均質な組成を含む、単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、実質的に均質なGNGN糖型を有しない、かつG0、G1F、G2F、GNF、GNGNFまたはGNGNFXを含んだ糖型を有する同じ抗体と比較してFcγRIおよびFcγRIIIに対する結合親和性の増大を示す。本開示の1つの態様において、抗体はFcγRIから1×10-8 Mまたはそれ未満のKdでおよびFcγRIIIから1×10-7 Mまたはそれ未満のKdで解離する。
【0093】
Fc領域のグリコシル化は、通常、N結合型またはO結合型のいずれかである。N-結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着(attachment)をいう。O-結合型グリコシル化とは、糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つがヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンに付着することをいうが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンが用いられることもある。アスパラギン側鎖ペプチド配列への炭水化物部分の酵素的付着の認識配列は、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニンであり、ここでXはプロリン以外の任意のアミノ酸である。したがって、ポリペプチドにおけるこれらのペプチド配列のいずれかの存在が、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。
【0094】
グリコシル化パターンは、例えば、ポリペプチドに見られる1つもしくは複数のグリコシル化部位を欠失すること、および/またはポリペプチドに存在しない1つもしくは複数のグリコシル化部位を付加することによって改変されうる。抗体のFc領域へのグリコシル化部位の付加は、上記のトリペプチド配列(N-結合型グリコシル化部位の場合)の1つまたは複数を含むようにアミノ酸配列を改変することによって好都合に達成される。例示的なグリコシル化変種は、重鎖の残基Asn 297のアミノ酸置換を有する。改変は、元のポリペプチドの配列に対しての、1つもしくは複数のセリンもしくはトレオニン残基の付加または1つもしくは複数のセリンもしくはトレオニン残基による置換によっても行われうる(O-結合型グリコシル化部位の場合)。さらに、Asn 297をAlaに変えることで、グリコシル化部位の1つを除去することができる。
【0095】
ある種の態様において、抗体は、GnT IIIがGlcNAcをIL-23p19抗体に付加するように、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII (GnT III)を発現する細胞において発現される。そのような方法で抗体を産生するための方法は、WO/9954342、WO/03011878、特許公報US 2003/0003097A1、およびUmana et al., Nature Biotechnology, 17:176-180, February 1999において提供されている。Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)のようなゲノム編集技術を用いて、グリコシル化のような、ある種の翻訳後修飾を増強または低減もしくは排除するように細胞株を改変することができる。例えば、CRISPR技術を用いて、組換えモノクローナル抗体を発現させるために用いられる293細胞またはCHO細胞においてグリコシル化酵素をコードする遺伝子を排除することができる。
【0096】
モノクローナル抗体タンパク質配列ライアビリティの排除
ヒトB細胞から得られた抗体可変遺伝子配列を操作して、その製造可能性および安全性を増強することが可能である。潜在的なタンパク質配列ライアビリティは、以下を含む部位に関連する配列モチーフを探索することによって同定することができる:
1) 不対Cys残基、
2) N-結合型グリコシル化、
3) Asn脱アミド化、
4) Asp異性化、
5) SYE切断、
6) Met酸化、
7) Trp酸化、
8) N末端グルタミン酸、
9) インテグリン結合、
10) CD11c/CD18結合、または
11) 断片化
そのようなモチーフは、組換え抗体をコードするcDNAの合成遺伝子を改変することによって排除することができる。
【0097】
治療用抗体の開発分野におけるタンパク質工学の取り組みは、ある種の配列または残基が溶解度の差異に関連することを明示している(Fernandez-Escamilla et al., Nature Biotech., 22 (10), 1302-1306, 2004; Chennamsetty et al., PNAS, 106 (29), 11937-11942, 2009; Voynov et al., Biocon. Chem., 21 (2), 385-392, 2010)。文献における溶解性を変化させる変異の証拠により、 アスパラギン酸、グルタミン酸、およびセリンのような一部の親水性残基は、アスパラギン、グルタミン、トレオニン、リジン、およびアルギニンのような、他の親水性残基よりもタンパク質の溶解性に非常に有利に寄与することが示唆される。
【0098】
安定性
抗体は、生物物理学的特性を増強するように設計することができる。見かけの平均融解温度を使い、高温を用いて抗体をアンフォールドし、相対的安定性を決定することができる。示差走査熱量測定(DSC)は、分子の熱容量Cp (1度あたりの分子の加温に必要な熱)を温度の関数として測定する。DSCを用いて、抗体の熱安定性を調べることができる。mAbのDSCデータは、mAb構造内の個々のドメインのアンフォールディングを分解し、(Fab、CH2、およびCH3ドメインのアンフォールディングから)サーモグラムに最大3つのピークを生成することがあるため、特に興味深い。通常、Fabドメインのアンフォールディングは最も強いピークを生じる。Fc部分のDSCプロファイルおよび相対的安定性は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスの特徴的な差異を示す(Garber and Demarest, Biochem. Biophys. Res. Commun. 355, 751-757, 2007)。CD分光計で実施される円偏光二色性(CD)を用いて、見かけの平均融解温度を決定することもできる。遠紫外線CDスペクトルは抗体に対し、200~260 nmの範囲において0.5 nm刻みで測定される。最終的なスペクトルは、20回の累積の平均として決定することができる。バックグラウンドを差し引いた後に、残基楕円率の値を計算することができる。25~95℃および加熱速度1℃/分で235 nmにて抗体(0.1 mg/mL)の熱変性(thermal unfolding)をモニターすることができる。動的光散乱(DLS)を用いて、凝集の傾向を評価することができる。DLSは、タンパク質を含むさまざまな粒子のサイズを特徴付けるために用いられる。系のサイズが分散していない場合は、粒子の平均有効径を決定することができる。この測定は、粒子コアのサイズ、表面構造のサイズ、および粒子濃度に依存する。DLSは粒子による散乱光強度の変動を本質的に測定するため、粒子の拡散係数を決定することができる。市販のDLA機器のDLSソフトウェアは、さまざまな直径の粒子集団を表示する。安定性の研究は、DLSを用いて好都合に行うことができる。試料のDLS測定では、粒子の流体力学的半径が増加するかどうかを決定することにより、粒子が時間の経過とともに凝集するのか、または温度変化とともに凝集するのかを示すことができる。粒子が凝集する場合、より大きな半径を有する粒子のより大きな集団を調べることができる。温度に依る安定性は、インサイチューで温度を制御することにより分析することができる。キャピラリー電気泳動(CE)技法には、抗体安定性の特徴を決定するための実証済みの方法論が含まれる。iCEアプローチを用いて、脱アミド化、C末端リジン、シアル化、酸化、グリコシル化、およびタンパク質のpIの変化をもたらす可能性のあるタンパク質への他の任意の変化による抗体タンパク質電荷変種を分解することができる。発現された抗体タンパク質の各々は、Protein Simple Maurice機器を用いて、キャピラリーカラム(cIEF)での高速大量処理の、自由溶液等電点電気泳動(IEF)法により評価することができる。等電点(pI)に焦点を合わせた分子の実時間モニタリングのために、カラム全体のUV吸収検出を30秒ごとに実施することができる。このアプローチは従来のゲルIEFの高分解能と、カラムに基づく分離に見られる定量および自動化の利点とを組み合わせ、動員段階の必要性を排除する。この技法は、発現された抗体の同一性、純度、および不均一性プロファイルの再現性のある定量分析をもたらす。この結果により、吸光度とネイティブ蛍光検出モードの両方で、かつ0.7 μg/mLまでの検出感度で抗体の電荷不均一性と分子サイジングが同定される。
【0099】
溶解性
抗体配列の固有の溶解性スコアを決定することができる。固有の溶解性スコアは、CamSol Intrinsicを用いて計算することができる(Sormanni et al., J Mol Biol 427, 478-490, 2015)。scFvのような各抗体断片のHCDR3中の残基番号95~102 (Kabat付番)のアミノ酸配列は、溶解性スコアを計算するためにオンラインプログラムを介して評価することができる。実験技法を用いて溶解性を決定することもできる。溶液が飽和して溶解限度に達するまでの凍結乾燥タンパク質の溶液への添加、または適当な分子量カットオフを備えたマイクロコンセントレータでの限外ろ過による濃縮を含めて、さまざまな技法が存在する。最も簡単な方法はアモルファス沈殿の誘導であり、これにより、硫酸アンモニウムを用いたタンパク質沈殿を伴う方法を用いてタンパク質溶解性が測定される(Trevino et al., J Mol Biol, 366: 449-460, 2007)。硫酸アンモニウム沈殿は、相対的な溶解性の値に関する迅速で正確な情報をもたらす。硫酸アンモニウム沈殿は、明確な水相と固相を有する沈殿溶液を生成し、比較的少量のタンパク質を必要とする。硫酸アンモニウムによるアモルファス沈殿の誘導を用いて実施される溶解性測定も、さまざまなpH値で簡単に行うことができる。タンパク質溶解性はpHに大きく依存し、pHは、溶解性に影響を与える最も重要な外因性要因と考えられている。
【0100】
自己反応性
一般に、自己反応性クローンは個体発生中に陰性選択によって排除されるはずであると考えられている; しかしながら、自己反応性を有する多くのヒト天然抗体が成体の成熟レパートリーに存続していることが明らかになった。初期B細胞発生中の抗体におけるHCDR3ループは、多くの場合、正電荷に富んでおり、自己反応性パターンを示すことが知られている(Wardemann et al., Science 301, 1374-1377, 2003)。顕微鏡検査(接着性HeLaまたはHEp-2上皮細胞を用いる)およびフローサイトメトリー細胞表面染色(浮遊Jurkat T細胞および293Sヒト胚性腎臓細胞を用いる)においてヒト由来細胞への結合レベルを評価することにより、所与の抗体を自己反応性について試験することができる。自己反応性は、組織アレイ内の組織への結合の評価を用いて調べることもできる。
【0101】
好ましい残基(「ヒト類似性」)
献血者からのヒトB細胞のB細胞レパートリーディープシークエンシングは、多くの最近の研究において大規模に実施されている。ヒト抗体レパートリーのかなりの部分に関する配列情報は、健常なヒトでの一般的な抗体配列の特徴の統計的評価を容易にする。ヒト組換え抗体可変遺伝子参照データベースにおける抗体配列の特徴に関する知識により、抗体配列の「ヒト類似性(Human Likeness)」(HL)の位置特異的な程度を推定することができる。HLは、治療用抗体またはワクチンとしての抗体のような、臨床使用における抗体の開発に有用であることが示されている。目標は、抗体のヒト類似性を高めて、抗体薬の有効性の大幅な低下に至るまたは健康に及ぼす深刻な影響を誘導しうる、潜在的な副作用および抗抗体免疫応答を低減させることである。計約4億配列の健常ヒト献血者3名の組み合わせ抗体レパートリーの抗体特性を評価し、抗体の超可変領域に焦点を当てた新しい「相対的ヒト類似性」(rHL)スコアを作成することができる。rHLスコアにより、ヒト(正スコア)と非ヒト配列(負スコア)を簡単に区別することが可能になる。抗体は、ヒトのレパートリーでは一般的でない残基を排除するように操作することができる。
【0102】
D. 一本鎖抗体
一本鎖可変断片(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域が短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと一緒に連結されて融合したものである。このキメラ分子は、定常領域が除去され、リンカーペプチドが導入されていても、元々の免疫グロブリンの特異性を保持している。この改変があっても、通常、特異性は変化しないままである。これらの分子は、ファージディスプレイを容易にするために歴史を通して作り出された。ファージディスプレイは、1本のペプチドとして抗原結合ドメインを発現させることが極めて便利である。あるいは、ハイブリドーマまたはB細胞に由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接、scFvを作り出すことができる。一本鎖可変断片には、完全な抗体分子に見出される定常Fc領域が無く、したがって、抗体を精製するために用いられる共通の結合部位(例えば、プロテインA/G)が無い。これらの断片は、多くの場合、プロテインLを用いて精製/固定化することができる。なぜなら、プロテインLはκ軽鎖の可変領域と相互作用するからである。
【0103】
可動性リンカーは、一般的に、ヘリックスを促進するアミノ酸残基と、ターンを促進するアミノ酸残基、例えば、アラニン、セリン、およびグリシンで構成される。しかしながら、他の残基も機能することができる。Tang et al.(1996)は、タンパク質リンカーライブラリから、一本鎖抗体(scFv)に合わせられたリンカーを迅速に選択する手段としてファージディスプレイを用いた。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの遺伝子が、組成が異なる18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントによって連結されたランダムリンカーライブラリが構築された。scFvレパートリー(およそ5×106個の異なるメンバー)が繊維状ファージ上にディスプレイされ、ハプテンを用いたアフィニティ選択に供された。選択された変種の集団は著しい結合活性増加を示したが、かなりの配列多様性を保持した。その後に、1054の変種を個別にスクリーニングすることによって、可溶型で効率的に産生された触媒活性のあるscFvが得られた。配列分析から、選択されたテザー(tether)の唯一の共通する特徴として、VHC末端の2残基後ろにリンカーの中に保存プロリンがあることと、他の位置にたくさんのアルギニンとプロリンがあることが明らかになった。
【0104】
本開示の組換え抗体はまた、受容体の二量体化または多量体化を可能にする配列または部分を伴ってもよい。このような配列には、J鎖とともに多量体形成を可能にするIgAに由来する配列が含まれる。別の多量体化ドメインはGal4二量体化ドメインである。他の態様において、これらの鎖は、2つの抗体の組み合わせを可能にするビオチン/アビジンなどの薬剤を用いて改変されてもよい。
【0105】
別の態様において、一本鎖抗体は、非ペプチドリンカーまたは化学ユニットを用いて受容体の軽鎖および重鎖をつなげることによって作り出すことができる。一般的に、軽鎖および重鎖は別個の細胞で産生され、精製され、その後に、適切なやり方で一緒に連結される(すなわち、適切な化学架橋を介して重鎖N末端が軽鎖C末端に付着される)。
【0106】
架橋結合試薬は、2つの異なる分子、例えば、安定化剤および凝固剤の官能基を結び付ける分子架橋を形成するのに用いられる。しかしながら、同じ類似体の二量体もしくは多量体または異なる類似体で構成されるヘテロマー複合体を作り出すことができることが企図される。2つの異なる化合物を段階的に連結するためには、不必要なホモポリマー形成を排除するヘテロ二官能性架橋剤を用いることができる。
【0107】
例示的なヘテロ二官能性架橋剤は2つの反応基、一方は一級アミン基と反応する反応基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)、他方はチオール基と反応する反応基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)を含有する。架橋剤は、一級アミン反応基を介して、あるタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリジン残基と反応することができ、既に第1のタンパク質と結び付いている架橋剤は、チオール反応基を介して、他のタンパク質(例えば、選択薬剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0108】
血中で妥当な安定性を有する架橋剤が利用されることが好ましい。標的化薬剤と治療/予防薬剤と結合するのに首尾よく使用することができる非常に多くのタイプのジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体妨害されているジスルフィド結合を含有するリンカーはインビボで高い安定性を付与することが分かっていることがあり、そのため、作用部位に到達する前の標的化ペプチドの放出が妨げられる。したがって、これらのリンカーは、薬剤を連結する基の1つである。
【0109】
別の架橋結合試薬は、隣接するベンゼン環およびメチル基によって「立体妨害」されているジスルフィド結合を含有する二官能性架橋剤であるSMPTである。ジスルフィド結合の立体障害は、組織および血液に存在しうるチオラートアニオン、例えば、グルタチオンによる攻撃から結合を守り、それによって、付着された薬剤が標的部位に送達される前に結合体が分離しないように役立つ機能を果たすと考えられている。
【0110】
SMPT架橋結合試薬は他の多くの公知の架橋結合試薬と同様に、官能基、例えば、システインのSHまたは一級アミン(例えば、リジンのεアミノ基)を架橋する能力を与える。別の可能性のあるタイプの架橋剤には、切断可能なジスルフィド結合を含有するヘテロ二官能性光反応性フェニルアジド、例えば、スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミノ)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートが含まれる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は一級アミノ基と反応し、フェニルアジドは(光分解すると)任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0111】
妨害されている架橋剤に加えて、妨害されていないリンカーも本明細書にしたがって利用することができる。保護されたジスルフィドを含有するか、または作出すると考えられていない他の有用な架橋剤には、SATA、SPDP、および2-イミノチオランが含まれる。このような架橋剤の使用は当技術分野において良く理解されている。別の態様は可動性リンカーの使用を伴う。
【0112】
米国特許第4,680,338号は、リガンドと、アミンを含有するポリマーおよび/またはタンパク質との結合体を生成するのに有用な、特に、キレート剤、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体結合体を形成するのに有用な二官能性リンカーについて記述している。米国特許第5,141,648号および同第5,563,250号は、さまざまな穏やかな条件下で切断可能な不安定結合を含む切断可能な結合体を開示している。このリンカーは、関心対象の薬剤をリンカーに直接結合することができ、切断されると活性薬剤が放出されるので特に有用である。特定の用途には、遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基をタンパク質、例えば、抗体、または薬物に付加することが含まれる。
【0113】
米国特許第5,856,456号は、融合タンパク質、例えば、一本鎖抗体を作出する目的でポリペプチド構成要素を接続する際に用いるためのペプチドリンカーを提供している。このリンカーは長さが約50アミノ酸まであり、荷電アミノ酸(好ましくはアルギニンまたはリジン)に続いてプロリンが少なくとも1回発生することを含み、安定性が大きく、凝集が少ないことを特徴とする。米国特許第5,880,270号は、さまざまな免疫診断法および分離法において有用なアミノオキシ含有リンカーを開示している。
【0114】
E. 多重特異性抗体
ある種の態様において、本開示の抗体は、二重特異性または多重特異性である。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、単一抗原の2つの異なるエピトープに結合しうる。他のそのような抗体は、第1の抗原結合部位を第2の抗原に対する結合部位と組み合わせうる。あるいは、抗原特異的腕部は、細胞の防御機構を感染細胞に集中させて局在化させるように、白血球上のトリガリング分子、例えばT細胞受容体分子(例えば、CD3)、またはIgGに対するFc受容体(FcγR)、例えばFcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)およびFcガンマRIII (CD16)に結合する腕部と組み合わされてもよい。二重特異性抗体を用いて、細胞毒性剤を感染細胞に局在化させてもよい。これらの抗体は、抗原結合腕部および細胞毒性剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサートまたは放射性同位体ハプテン)に結合する腕部を保有する。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab').sub.2二重特異性抗体)として調製することができる。WO 96/16673には二重特異性抗ErbB2/抗FcガンマRIII抗体が記述されており、米国特許第5,837,234号には二重特異性抗ErbB2/抗FcガンマRI抗体が開示されている。二重特異性抗ErbB2/Fcα抗体は、WO98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号には、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体が教示されている。
【0115】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知である。全長二重特異性抗体の従来の産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づいており、ここで2つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al., Nature, 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖の任意組み合わせのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生し、そのうち1つだけが的確な二重特異性構造を有する。通常、アフィニティクロマトグラフィー段階により行われる、的確な分子の精製はかなり面倒であり、生成物の収量は低い。同様の手順がWO 93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J., 10:3655-3659 (1991)に開示されている。
【0116】
異なるアプローチによれば、所望の結合特異性を有する抗体可変領域(抗体-抗原結合部位)が免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。好ましくは、融合は、ヒンジ、CH2、およびCH3領域の少なくとも一部を含む、Ig重鎖定常ドメインとの融合である。融合体の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体および、必要に応じて、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適当な宿主細胞にコトランスフェクトされる。これは、構築において用いられる3つのポリペプチド鎖の不均等な比率が所望の二重特異性抗体の最適な収量を提供する場合の態様において3つのポリペプチド断片の相互比率を調整する際のより大きな柔軟性を提供する。しかしながら、等しい比率での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収量をもたらす場合、または比率が所望の鎖の組み合わせの収量に有意な影響を及ぼさない場合、2つまたは全3つのポリペプチド鎖のコード配列を単一の発現ベクターに挿入することが可能である。
【0117】
このアプローチの特定の態様において、二重特異性抗体は、一方の腕部において第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方の腕部においてハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)から構成される。二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在することにより容易な分離方法が提供されるため、この非対称構造は、不必要な免疫グロブリン鎖の組み合わせからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。このアプローチはWO 94/04690に開示されている。二重特異性抗体の作出のさらなる詳細については、例えば、Suresh et al., Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0118】
米国特許第5,731,168号に記述されている別のアプローチによると、抗体分子の対の間の界面を、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセンテージを最大化するように操作することができる。好ましい界面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、一次抗体分子の界面からの1つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さなもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)で置き換えることにより、大きな側鎖と同一または類似のサイズの代償性の「キャビティ」が、第2の抗体分子の界面に作出される。これは、ホモ二量体のような他の不必要な最終生成物よりもヘテロ二量体の収量を増加させるための機構を提供する。
【0119】
二重特異性抗体は、架橋抗体または「ヘテロ結合体」抗体を含む。例えば、ヘテロ結合体中の抗体の一方はアビジンにカップリングされ、他方はビオチンにカップリングされうる。そのような抗体が、例えば、免疫系細胞を不必要な細胞に標的化するために(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の処置のために(WO 91/00360、WO 92/200373、およびEP 03089)提唱されている。ヘテロ結合体抗体は、任意の好都合な架橋方法を用いて作出されうる。適当な架橋剤は当技術分野において周知であり、いくつかの架橋技法とともに、米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0120】
抗体断片から二重特異性抗体を作出するための技法も、文献に記述されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81 (1985)には、インタクトの抗体がタンパク質分解的に切断されてF(ab')2断片を作出する手順が記述されている。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて、隣接するジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を抑止する。作出されたFab'断片は次いで、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。次に、Fab'-TNB誘導体の1つが、メルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再変換され、等モル量の他のFab'-TNB誘導体と混合されて、二重特異性抗体を形成する。生成された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として用いることができる。
【0121】
化学的にカップリングさせて二重特異性抗体を形成することができる、大腸菌からのFab'-SH断片の直接回収を容易にする技法が存在する。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)には、ヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の産生が記述されている。各Fab'断片は大腸菌から別々に分泌され、インビトロで直接的化学カップリングを受けて二重特異性抗体を形成した。このように形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞および正常ヒトT細胞に結合すること、ならびにヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発することが可能であった。
【0122】
組換え細胞培養物から直接二重特異性抗体断片を作出および単離するためのさまざまな技法も記述されている(Merchant et al., Nat. Biotechnol. 16, 677-681 (1998))。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて産生されている(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553, 1992)。FosおよびJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'部分に連結された。抗体ホモ二量体はヒンジ領域で還元されて単量体を形成し、次に再酸化されて抗体ヘテロ二量体を形成した。この方法を抗体ホモ二量体の産生にも利用することができる。Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)によって記述された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作出するための代替的な機構を提供している。この断片には、同鎖上の2つのドメイン間の対合を可能とするには短すぎるリンカーによってVLに接続されたVHが含まれる。したがって、1つの断片のVHおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVLおよびVHドメインと強制的に対合され、それによって2つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv (sFv)二量体を使用して二重特異性抗体断片を作出するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照されたい。
【0123】
特定の態様において、二重特異性または多重特異性抗体は、DOCK-AND-LOCK(商標) (DNL(商標))複合体として形成されうる(例えば、米国特許第7,521,056号; 同第7,527,787号; 同第7,534,866号; 同第7,550,143号; および同第7,666,400号を参照されたく、これらの各々の実施例のセクションは参照により本明細書に組み入れられる)。一般に、この技法は、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の調節(R)サブユニットの二量体化およびドッキングドメイン(DDD)配列と種々のAKAPタンパク質のいずれかに由来するアンカードメイン(AD)配列との間に生ずる特異的かつ高親和性の結合相互作用を利用する(Baillie et al., FEBS Letters. 2005; 579: 3264; Wong and Scott, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2004; 5: 959)。DDDおよびADペプチドは、任意のタンパク質、ペプチドまたは他の分子に付着されうる。DDD配列は自発的に二量体化してAD配列に結合するため、この技法により、DDDまたはAD配列に付着されうる選択した任意の分子間での複合体の形成が可能になる。
【0124】
3つ以上の結合価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147: 60, 1991; Xu et al., Science, 358(6359):85-90, 2017)。多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞によって、二価抗体よりも速く内在化(および/または異化)されうる。本開示の抗体は、3つまたはそれ以上の抗原結合部位を有する多価抗体(例えば、四価抗体)であることができ、これは、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現によって容易に産生することができる。多価抗体は、二量体化ドメインおよび3つまたはそれ以上の抗原結合部位を含むことができる。好ましい二量体化ドメインは、Fc領域またはヒンジ領域を含む(またはそれからなる)。このシナリオでは、抗体はFc領域および、Fc領域のアミノ末端側の3つまたはそれ以上の抗原結合部位を含む。本明細書における好ましい多価抗体は、3つから約8つの、しかし好ましくは4つの抗原結合部位を含む(またはそれからなる)。多価抗体は、少なくとも1つのポリペプチド鎖(および好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含み、ここでポリペプチド鎖は2つまたはそれ以上の可変領域を含む。例えば、ポリペプチド鎖は、VD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを含むことができ、式中でVD1は第1の可変領域であり、VD2は第2の可変領域であり、FcはFc領域の1つのポリペプチド鎖であり、X1およびX2はアミノ酸またはポリペプチドを表し、nは0または1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-可動性リンカー-VH-CH1-Fc領域鎖; またはVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を含みうる。本明細書における多価抗体は、好ましくは、少なくとも2つ(および好ましくは4つ)の軽鎖可変領域ポリペプチドをさらに含む。本明細書における多価抗体は、例えば、約2つから約8つの軽鎖可変領域ポリペプチドを含みうる。本明細書で企図される軽鎖可変領域ポリペプチドは、軽鎖可変領域を含み、任意で、CLドメインをさらに含んでもよい。
【0125】
電荷修飾は多重特異性抗体との関連で特に有用であり、ここではFab分子におけるアミノ酸置換により、結合腕部の1つ(または複数、3つ以上の抗原結合Fab分子を含む分子の場合)でのVH/VL交換を伴ったFabに基づく二重/多重特異性抗原結合分子の産生において起こりうる、軽鎖と不一致の重鎖(Bence-Jones型の副産物)との誤対合の低減が得られる(PCT公開番号WO 2015/150447、特にその中の実施例も参照されたく、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。
【0126】
F. キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体分子は組換え融合タンパク質であり、抗原に結合することも、細胞質尾部に存在する免疫受容体活性化モチーフ(ITAM)を介して活性化シグナルを伝達することもするその能力によって区別される。(例えば、一本鎖抗体(scFv)から作出される抗原結合部分を利用する受容体構築体は、HLA非依存的に標的細胞表面上の天然抗原に結合するという点で「普遍的」であるという追加の利点をもたらす。
【0127】
キメラ抗原受容体は、当技術分野において公知の任意の手段によって産生することができるが、好ましくは、組換えDNA技法を用いて産生される。キメラ抗原受容体のいくつかの領域をコードする核酸配列は、分子クローニングの標準的な技法(ゲノムライブラリスクリーニング、PCR、プライマー支援ライゲーション、酵母および細菌由来scFvライブラリ、部位特異的突然変異誘発など)により完全なコード配列へ調製およびアセンブルすることができる。得られたコード領域を発現ベクターに挿入し、T細胞またはNK細胞のような、適当な発現宿主同種または自家免疫エフェクター細胞を形質転換するために用いることができる。
【0128】
本明細書において記述されるCARの態様には、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つまたは複数のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)ポリペプチドをコードする核酸が含まれる。ある種の態様において、CARは、1つまたは複数の抗原間の共有空間から構成されるエピトープを認識しうる。いくつかの態様において、キメラ抗原受容体は、a) 細胞内シグナル伝達ドメイン、b) 膜貫通ドメイン、およびc) 抗原結合ドメインを含む細胞外ドメインを含む。任意で、CARは、膜貫通ドメインと抗原結合ドメインとの間に配置されたヒンジドメインを含んでもよい。ある種の局面において、態様のCARは、CARの発現を細胞表面に向けるシグナルペプチドをさらに含む。例えば、いくつかの局面において、CARはGM-CSFからのシグナルペプチドを含むことができる。
【0129】
ある種の態様において、CARは、少量の腫瘍関連抗原が存在する場合の残留性を改善するために膜結合サイトカインと共発現されることもできる。例えば、CARは膜結合IL-15と共発現させることができる。
【0130】
CARのドメインの配置およびドメインにおいて用いられる特定の配列に応じて、CARを発現する免疫エフェクター細胞は、標的細胞に対して異なるレベルの活性を有しうる。いくつかの局面において、異なるCAR配列を免疫エフェクター細胞に導入して、操作細胞、SRCの上昇のために選択された操作細胞、および最大の治療効果を有すると予測されるCAR構築体を同定するための活性について試験された選択細胞を作出することができる。
【0131】
1. 抗原結合ドメイン
ある種の態様において、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、および/またはその抗原結合断片を含むことができる。別の態様において、その特異性は、受容体に結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来する。「相補性決定領域(CDR)」は、抗原を補完し、それゆえその特定の抗原に対するその特異性を受容体に提供する、抗原受容体(例えば、免疫グロブリンおよびT細胞受容体)タンパク質の可変ドメインに見られる短いアミノ酸配列である。抗原受容体の各ポリペプチド鎖は、3つのCDR (CDR1、CDR2、およびCDR3)を含む。抗原受容体は通常2つのポリペプチド鎖で構成されているため、抗原と接触しうる抗原受容体ごとに6つのCDRがある--各重鎖および軽鎖は3つのCDRを含む。免疫グロブリンおよびT細胞受容体に関連するほとんどの配列変異はCDRに見られるため、これらの領域は超可変ドメインといわれることもある。これらの中で、CDR3は、VJ (重鎖およびTCRαβ鎖の場合はVDJ)領域の組換えによってコードされるため、最大の可変性を示す。
【0132】
CAR核酸、特にscFv配列は、ヒト患者の細胞免疫療法を増強するためにヒト遺伝子であることが企図される。特定の態様において、全長CAR cDNAまたはコード領域が提供される。抗原結合領域またはドメインは、特定のマウス、またはヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)のVHおよびVL鎖の断片を含むことができる。断片は、抗原特異的抗体の任意の数の異なる抗原結合ドメインであることもできる。より具体的な態様において、断片は、ヒト細胞での発現のためのヒトコドン使用頻度に向けて最適化された配列によってコードされる抗原特異的scFvである。ある種の局面において、CARのVHおよびVLドメインは、ウィットロー(Whitlow)リンカーのような、リンカー配列によって分離されている。態様によって改変または使用されうるCAR構築体はまた、参照により本明細書に組み入れられる国際(PCT)特許公開番号WO/2015/123642において提供されている。
【0133】
前述のように、原型的なCARは、膜貫通ドメインおよび1つまたは複数の細胞質シグナル伝達ドメイン(例えば、共刺激ドメインおよびシグナル伝達ドメイン)にカップリングされた、1つのモノクローナル抗体(mAb)に由来するVHおよびVLドメインを含むscFvをコードする。したがって、CARは、腫瘍関連抗原のような、関心対象の抗原に結合する抗体のLCDR1~3配列およびHCDR1~3配列を含みうる。しかしながら、さらなる局面において、関心対象の抗原に結合する2つまたはそれ以上の抗体が同定され、以下を含むCARが構築される: (1) 抗原に結合する第1の抗体のHCDR1~3配列; および(2) 抗原に結合する第2の抗体のLCDR1~3配列。2つの異なる抗原結合抗体に由来するHCDRおよびLCDR配列を含むそのようなCARは、抗原の特定の立体配座(例えば、正常組織と比べてがん細胞に選択的に関連する立体配座)への選択的結合という利点を有しうる。
【0134】
あるいは、CAR+ T細胞のパネルを作出するために異なるmAbに由来するVHおよびVL鎖を用いてCARが操作されうることが示されている。CARの抗原結合ドメインは、第1の抗体のLCDR1~3配列および第2の抗体のHCDR1~3配列の任意の組み合わせを含むことができる。
【0135】
2. ヒンジドメイン
ある種の局面において、態様のCARポリペプチドは、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に配置されたヒンジドメインを含むことができる。場合によっては、ヒンジドメインをCARポリペプチドに含めて、抗原結合ドメインと細胞表面との間に適切な距離を提供するか、またはCAR遺伝子改変T細胞の抗原結合もしくはエフェクター機能に悪影響を与える可能性のある立体障害を軽減することができる。いくつかの局面において、ヒンジドメインは、FcγR2aまたはFcγR1aのような、Fc受容体に結合する配列を含む。例えば、ヒンジ配列は、Fc受容体に結合するヒト免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgDまたはIgE)からのFcドメインを含みうる。ある種の局面において、ヒンジドメイン(および/またはCAR)は、野生型ヒトIgG4 CH2およびCH3配列を含まない。
【0136】
場合によっては、CARヒンジドメインは、ヒト免疫グロブリン(Ig)定常領域またはIgヒンジを含むその一部分に由来し、またはヒトCD8α膜貫通ドメインおよびCD8aヒンジ領域に由来しうる。1つの局面において、CARヒンジドメインは、抗体アイソタイプIgG4のヒンジ-CH2-CH3領域を含むことができる。いくつかの局面において、点突然変異を抗体重鎖CH2ドメインに導入して、CAR-T細胞または他の任意のCAR改変細胞のグリコシル化および非特異的Fcガンマ受容体結合を低減させることができる。
【0137】
ある種の局面において、態様のCARヒンジドメインは、Fc受容体結合を低減する野生型Ig Fcドメインと比べて少なくとも1つの変異を含むIg Fcドメインを含む。例えば、CARヒンジドメインは、Fc受容体結合を低減する野生型IgG4-Fcドメインと比べて少なくとも1つの変異を含むIgG4-Fcドメインを含むことができる。いくつかの局面において、CARヒンジドメインは、野生型IgG4-Fc配列と比べてL235および/またはN297に対応する位置に変異(アミノ酸の欠失または置換のような)を有するIgG4-Fcドメインを含む。例えば、CARヒンジドメインは、野生型IgG4-Fc配列と比べてL235Eおよび/またはN297Q変異を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。さらなる局面において、CARヒンジドメインは、位置番号L235でのR、H、K、D、E、S、T、NもしくはQのような、親水性であるまたはDのような「E」と同様の特性を有するアミノ酸へのアミノ酸置換を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。ある種の局面において、CARヒンジドメインは、位置番号N297でのSまたはTのような「Q」と同様の特性を有するアミノ酸へのアミノ酸置換を有するIgG4-Fcドメインを含むことができる。
【0138】
ある種の特定の局面において、ヒンジドメインは、IgG4ヒンジドメイン、CD8aヒンジドメイン、CD28ヒンジドメインまたは操作されたヒンジドメインと約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一である配列を含む。
【0139】
3. 膜貫通ドメイン
抗原特異的細胞外ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインは、膜貫通ドメインによって連結されうる。膜貫通ドメインの一部として使用できるポリペプチド配列は、非限定的に、ヒトCD4膜貫通ドメイン、ヒトCD28膜貫通ドメイン、膜貫通ヒトCD3ζドメイン、もしくはシステイン変異ヒトCD3ζドメイン、またはCD16およびCD8ならびにエリスロポエチン受容体のような、他のヒト膜貫通シグナル伝達タンパク質からの他の膜貫通ドメインを含む。いくつかの局面において、例えば、膜貫通ドメインは、ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第2014/0274909号に提供されているもの(例えばCD8および/もしくはCD28膜貫通ドメイン)または米国特許第8,906,682号に提供されているもの(例えばCD8α膜貫通ドメイン)の1つと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の配列を含む。本発明において特に有用な膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し(すなわち、少なくともそれらの膜貫通領域を含み)うる。ある種の特定の局面において、膜貫通ドメインは、CD8a膜貫通ドメインまたはCD28膜貫通ドメインと85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であることができる。
【0140】
4. 細胞内シグナル伝達ドメイン
態様のキメラ抗原受容体の細胞内シグナル伝達ドメインは、キメラ抗原受容体を発現するように操作された免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。「エフェクター機能」という用語は、分化した細胞の特殊な機能をいう。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性でありうる。ナイーブ、記憶、または記憶型のT細胞におけるエフェクター機能は、抗原依存性増殖を含む。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特殊な機能を実行するように指示するタンパク質の部分をいう。いくつかの局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、天然受容体の細胞内シグナル伝達ドメインに由来する。そのような天然受容体の例としては、T細胞受容体のζ鎖またはその相同体(例えば、η、δ、γ、またはε)のいずれか、MB1鎖、B29、Fc RIII、Fc RI、およびシグナル伝達分子の組み合わせ、例えばCD3ζおよびCD28、CD27、4-1BB、DAP-10、OX40、およびその組み合わせ、ならびに他の同様の分子および断片が挙げられる。活性化タンパク質のファミリーの他のメンバーの細胞内シグナル伝達部分を用いることができる。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体が利用されるが、多くの場合、細胞内ポリペプチド全体を用いる必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分に用途がありうる範囲で、エフェクター機能シグナルを伝達する限り、そのような切断部分がインタクトの鎖の代わりに用いられうる。したがって「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、CARが標的に結合する際に、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分を含むことを意味する。好ましい態様において、ヒトCD3ζ細胞内ドメインは、態様のCARの細胞内シグナル伝達ドメインとして用いられる。
【0141】
特定の態様において、CARにおける細胞内受容体シグナル伝達ドメインは、例えば、単独でまたはCD3ζとのシリーズで、T細胞抗原受容体複合体のもの、例えばCD3のζ鎖、同様にFcγ RIII共刺激シグナル伝達ドメイン、CD28、CD27、DAP10、CD137、OX40、CD2を含む。特定の態様において、細胞内ドメイン(これは細胞質ドメインといわれうる)は、TCRζ鎖、CD28、CD27、OX40/CD134、4-1BB/CD137、FcεRIγ、ICOS/CD278、IL-2Rβ/CD122、IL-2Rα/CD132、DAP10、DAP12、およびCD40の1つまたは複数の一部または全部を含む。いくつかの態様において、細胞内ドメインにおける内因性T細胞受容体複合体の任意の部分を利用する。いわゆる第3世代CARは、相加効果または相乗効果のために一緒に融合された少なくとも2つまたは3つのシグナル伝達ドメインを有するので、1つまたは複数の細胞質ドメインを利用することができ、例えばCD28および4-1BBをCAR構築体において組み合わせることができる。
【0142】
いくつかの態様において、CARは、さらなる他の共刺激ドメインを含む。他の共刺激ドメインは、CD28、CD27、OX-40 (CD134)、DAP10、および4-1BB (CD137)の1つまたは複数を含むことができるが、これらに限定されることはない。CD3ζによって開始される一次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激受容体によって提供されるさらなるシグナルは、T細胞の完全な活性化にとって重要であり、インビボでの残留性と養子免疫療法の治療的成功を改善するのに役立ちうる。
【0143】
ある種の特定の局面において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD137細胞内ドメイン、または4-1BB細胞内ドメインに融合されたCD28細胞内ドメインを含むドメインと85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一の配列を含む。
【0144】
G. ADC
抗体薬物結合体またはADCは、疾患を有す人を処置するための標的療法として設計された新しいクラスの非常に強力な生物製剤薬物である。ADCは、安定した化学リンカーを介して不安定結合によって、生物学的に活性な細胞毒性/抗ウイルスペイロードまたは薬物に連結された抗体(mAb全体または抗体断片、例えば、一本鎖可変断片、またはscFv)で構成される複合分子である。抗体薬物結合体は生物結合体および免疫結合体の例である。
【0145】
モノクローナル抗体の固有の標的化能力を細胞毒性薬物のがん死滅能力と組み合わせることによって、抗体-薬物結合体は健常組織と疾患組織を高感度で区別することができる。このことは、従来の全身的アプローチとは対照的に、健常細胞ががん細胞よりも弱く冒されるように、抗体-薬物結合体が疾患細胞を標的化および攻撃することを意味する。
【0146】
開発ADCに基づく抗腫瘍療法では、抗がん薬(例えば、細胞毒素または細胞毒)は、ある種の細胞マーカー(例えば、理想的には、感染細胞の中にだけ、または感染細胞上にだけ見出されるタンパク質)を特異的に標的化する抗体にカップリングされる。抗体は、体内にある、これらのタンパク質を突き止め、がん細胞の表面に付着する。抗体と標的タンパク質(抗原)との間の生化学反応によって腫瘍細胞内にシグナルが誘発され、次いで、抗体は細胞毒と一緒に吸収または内部移行される。ADCが内部移行された後に、細胞毒性薬物が放出され、細胞を死滅させ、または細胞複製を損なう。この標的化により、理想的なことには、この薬物は他の薬剤よりも副作用が少なく、かつ広範囲の治療可能時間域をもたらす。
【0147】
抗体と細胞毒性剤との間の安定な連結はADCの重要な局面である。リンカーは、ジスルフィド、ヒドラゾン、もしくはペプチド(切断可能)、またはチオエーテル(切断不可能)を含む化学モチーフに基づいており、標的細胞への細胞毒性剤の分布および送達を制御する。切断可能なタイプのリンカーおよび切断不可能なタイプのリンカーは前臨床試験および臨床試験において安全なことが分かっている。ブレンツキシマブベドチン(brentuximab vedotin)は、合成抗悪性腫瘍剤である、強力な、かつ毒性が高い微小管阻害剤モノメチルアウリスタチンEまたはMMAEをヒト特異的CD30陽性悪性細胞に送達する酵素感受性の切断可能なリンカーを含む。この高毒性のために、チューブリン重合を遮断することによって細胞分裂を阻害するMMAEは単一薬剤化学療法剤として用いることができない。しかしながら、抗CD30モノクローナル抗体(cAC10、腫瘍壊死因子またはTNF受容体の細胞膜タンパク質)に連結されたMMAEの組み合わせは細胞外液体中で安定しており、カテプシンによって切断することができ、療法にとって安全なことが分かった。他の認可されたADCであるトラスツズマブエムタンシンは、安定している切断不可能なリンカーによって付着された、マイタンシンの誘導体である微小管形成阻害剤メルタンシン(DM-1)と抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)/Genentech/Roche)の組み合わせである。
【0148】
より優れ、より安定なリンカーが利用できるようになったことで、化学結合の機能が変化した。切断可能なタイプのリンカーまたは切断不可能なタイプのリンカーは、特定の特性を細胞毒性(抗がん)薬物に与える。例えば、切断不可能なリンカーは、薬物を細胞内に保つ。結果として、抗体全体とリンカーと細胞毒性剤は標的がん細胞に入り、標的がん細胞において抗体はアミノ酸のレベルまで分解される。その場合には、結果として生じた複合体であるアミノ酸とリンカーと細胞毒性剤は、活性薬物になっている。対照的に、切断可能なリンカーは、宿主細胞内にある酵素によって触媒され、宿主細胞内で細胞毒性剤を放出する。
【0149】
現在開発されている別のタイプの切断可能なリンカーは、細胞毒性薬物と切断部位との間に余分な分子を加える。このリンカー技術を用いると、研究者らは、切断キネティクスを変える心配をすることなく、もっと大きな可動性をもつADCを作り出すことが可能になる。研究者らはまた、ペプチドのアミノ酸を配列決定する方法であるエドマン分解に基づく新しいペプチド切断方法も開発している。ADC開発における将来の方向には、安定性および治療指数をさらに改善するための部位特異的結合化(TDC)の開発ならびにα放射免疫結合体および抗体結合ナノ粒子も含まれる。
【0150】
H. BiTES
二重特異性T細胞エンゲージャー(Bi-specific T-cell engager)(BiTE)は、抗がん薬物として使用するために研究されている人工二重特異性モノクローナル抗体の一種である。それらは宿主の免疫系を、具体的にはT細胞の細胞毒性活性を感染細胞に向ける。BiTEはMicromet AGの登録商標である。
【0151】
BiTEは、約55キロダルトンの1本のペプチド鎖上にある、異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)、または4つの異なる遺伝子に由来するアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvの一方はCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は特異的分子を介して感染細胞に結合する。
【0152】
他の二重特異性抗体と同様に、かつ通常のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEはT細胞と標的細胞との間に連結を形成する。これにより、MHC Iまたは補助刺激分子の存在とは無関係に、T細胞は、タンパク質に似たパーフォリンおよびグランザイムを産生することによって細胞毒性活性を感染細胞に及ぼす。これらのタンパク質は感染細胞に入り、細胞のアポトーシスを開始する。この働きは、T細胞が感染細胞を攻撃している間に観察される生理学的プロセスによく似ている。
【0153】
I. イントラボディ
特定の態様において、抗体は、細胞内での作用に適した組換え抗体であり、そのような抗体は「イントラボディ」として知られている。これらの抗体は、細胞内タンパク質輸送を改変する、酵素機能を妨げる、およびタンパク質-タンパク質またはタンパク質-DNA相互作用を遮断するなどの、種々の機構により標的機能を妨げうる。それらの構造は、多くの点で、上述の一本鎖抗体および単一ドメイン抗体の構造の模倣であるか、またはそれらと同等である。実際、単一転写物/一本鎖であることは、標的細胞における細胞内発現を可能にする重要な特徴であり、また、細胞膜を介したタンパク質輸送もより実現可能となる。しかしながら、他の特徴も必要である。
【0154】
イントラボディ療法の実現に影響を及ぼす2つの主要な問題は、細胞/組織標的化を含めて、送達、および安定性である。送達に関しては、組織特異的送達、細胞型特異的プロモーターの使用、ウイルスに基づく送達および細胞透過性/膜転座ペプチドの使用のような、種々のアプローチが利用されている。送達の1つの手段には、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2018/0177727号に教示されているように、脂質に基づくナノ粒子、またはエクソソームの使用が含まれる。安定性に関しては、一般に、ファージディスプレイを伴い、配列成熟またはコンセンサス配列の開発を含みうる方法を含めて、力ずくのスクリーニングか、または安定化配列(例えば、Fc領域、シャペロンタンパク質配列、ロイシンジッパー)の挿入およびジスルフィド置換/修飾などの、より直接的な修飾のいずれかに向けたアプローチがとられる。
【0155】
イントラボディが必要としうるさらなる特徴は、細胞内標的化のためのシグナルである。イントラボディ(または他のタンパク質)を細胞質、核、ミトコンドリアおよびERのような細胞下領域に標的化することができるベクターが設計されており、市販されている(Invitrogen Corp.)。
【0156】
イントラボディは、細胞に侵入するその能力によって、他のタイプの抗体では達成しえないさらなる用途を有する。本発明の抗体の場合、生細胞内のDDR1細胞質ドメインと相互作用する能力により、シグナル伝達機能(他の分子への結合)またはオリゴマー形成のような、DDR1に関連する機能を妨げることが可能である。特に、そのような抗体を用いて、例えば、関連するシャペロンまたは架橋結合酵素機能を破壊することによりI型コラーゲンホモ三量体形成を阻害できることが企図される。
【0157】
J. 精製
本開示の抗体は精製されてもよい。本明細書において用いられる「精製された」という用語は、他の成分から単離可能な組成物をいうことが意図され、この場合、タンパク質は、天然に入手可能な状態と比べて任意の程度まで精製される。それゆえ、精製されたタンパク質はまた、天然に生じうる環境を含まないタンパク質もいう。「実質的に精製された」という用語が用いられる場合、この表示は、タンパク質またはペプチドが組成物の主要成分を形成している、例えば、組成物中にあるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成する組成物をいう。
【0158】
タンパク質精製法は当業者に周知である。これらの技法は、あるレベルで、細胞環境をポリペプチド画分および非ポリペプチド画分に粗分画(crude fractionation)することを伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離した後に、部分的または完全に精製するために(または均一になるまで精製するために)クロマトグラフィー法および電気泳動法を用いて、関心対象のポリペプチドがさらに精製されてもよい。純粋なペプチドの調製物に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー; ポリアクリルアミドゲル電気泳動; 等電点電気泳動である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変性と、それに続く遠心分離による沈殿; ゲルろ過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティクロマトグラフィー; ならびにそのような技法と他の技法の組み合わせが含まれる。
【0159】
本開示の抗体を精製する際に、原核生物発現システムまたは真核生物発現システムにおいてポリペプチドを発現させ、変性条件を用いてタンパク質を抽出することが望ましい場合がある。ポリペプチドは、ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティカラムを用いて他の細胞成分から精製されてもよい。当技術分野において一般に公知なように、さまざまな精製段階を行う順序は変えられてもよく、またはある特定の段階は省かれてもよく、それでもなお、実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを調製するために適当な方法をもたらすと考えられている。
【0160】
通常、完全な抗体は、抗体のFc部分に結合する薬剤(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。あるいは、適切な抗体の精製と選択を同時に行うために抗原が用いられることがある。このような方法では、多くの場合、カラム、フィルタ、またはビーズなどの支持体に結合した選択薬剤が利用される。抗体は支持体に結合され、夾雑物は除去され(例えば、洗い流され)、条件(塩、熱など)を適用することによって抗体は放出される。
【0161】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するためのさまざまな方法は本開示を考慮すれば当業者に公知である。これらの方法は、例えば、活性画分の比活性を求める段階、またはSDS/PAGE分析によって画分の中にあるポリペプチドの量を評価する段階を含む。画分の純度を評価するための別の方法は、画分の比活性を計算し、これと初回抽出物の比活性と比較し、したがって、純度の程度を計算する方法である。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、もちろん、発現されたタンパク質またはペプチドが、検出可能な活性を示しても示さなくても、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技法によって決まる。
【0162】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの異なる条件によって、時として大きく変化する場合があることが知られている。それゆえ、異なる電気泳動条件下では、精製されたまたは部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変化する場合があることが理解される。
【0163】
K. 抗体結合体
本開示の抗体を少なくとも1種類の薬剤に連結させて、抗体結合体を形成させてもよい。診断剤または治療剤として抗体分子の効力を高めるために、少なくとも1つの望ましい分子または部分を連結または共有結合または複合体化することは従来のやり方である。そのような分子または部分は少なくとも1つのエフェクターまたはレポーター分子でもよいが、これらに限定されることはない。エフェクター分子は、望ましい活性、例えば、細胞毒性活性を有する分子を含む。抗体に付着されているエフェクター分子の非限定的な例としては、毒素、抗腫瘍剤、治療用酵素、放射性核種、抗ウイルス剤、キレート剤、サイトカイン、増殖因子、およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを用いて検出されうる任意の部分と定義される。抗体に結合されているレポーター分子の非限定的な例としては、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色粒子またはリガンド、例えばビオチンが挙げられる。
【0164】
抗体結合体は、一般的に、診断剤として使用するのに好ましい。抗体診断剤は、一般的に、2つのクラス、種々の免疫アッセイなどインビトロ診断で用いるための抗体診断剤と、「抗体特異的画像化(antibody-directed imaging)」として一般に知られるインビボ診断プロトコルで用いるための抗体診断剤に分類される。多くの適切な画像化薬剤が当技術分野において公知であり、同様に、画像化薬剤を抗体に付着させるための方法も当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、同第4,938,948号、および同第4,472,509号を参照されたい)。使用される画像化部分は、常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMRによって検出可能な物質、およびX線画像化薬剤であることができる。
【0165】
常磁性イオンの場合、一例として、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)、および/またはエルビウム(III)などのイオンが言及される場合があり、ガドリニウムが特に好ましい。X線画像化などの他の状況において有用なイオンには、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、特に、ビスマス(III)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0166】
治療用途および/または診断用途のための放射性同位体の場合、アスタチン21114炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67152Eu、ガリウム673水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム11159鉄、32リン、レニウム186、レニウム18875セレン、35硫黄、テクネチウム99m、および/またはイットリウム90が言及される場合がある。ある種の態様において用いるのに125Iが好ましいことが多いが、テクネチウム99mおよび/またはインジウム111もまた、エネルギーが小さく、長距離検出に適しているために好ましいことが多い。本開示の放射活性標識されたモノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法によって作出されうる。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはヨウ化カリウム、ならびに化学的酸化剤、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、または酵素的酸化剤、例えば、ラクトペルオキシダーゼと接触させることによってヨウ素化することができる。本開示によるモノクローナル抗体は、リガンド交換プロセスによって、例えば、ペルテクナート(pertechnate)をスズ溶液によって還元し、還元されたテクネチウムをSephadexカラムでキレート化し、このカラムに抗体を適用することによってテクネチウム99mで標識されてもよい。あるいは、例えば、ペルテクナート、還元剤、例えば、SNCl2、緩衝溶液、例えば、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液、および抗体をインキュベートすることによって直接標識する技法が用いられてもよい。金属イオンとして存在する放射性同位体を抗体に結合させるために用いられることが多い中間官能基は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。
【0167】
結合体として用いるのに企図される蛍光標識の中には、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー(Pacific Blue)、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン(Renographin)、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはテキサスレッドが含まれる。
【0168】
本開示において企図される別のタイプの抗体結合体は、主にインビトロで用いることが意図される抗体結合体である。この場合、抗体は、二次結合リガンド、および/または発色基質と接触すると色のついた生成物を生じる酵素(酵素タグ)に連結される。適当な酵素の例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)ハイドロゲンペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)またはグルコースオキシダーゼが挙げられる。好ましい二次結合リガンドはビオチンならびにアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。そのような標識の使用は当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号および同第4,366,241号に記述されている。
【0169】
分子を抗体に部位特異的に付着させる、さらに別の公知の方法は、抗体を、ハプテンに基づく親和性標識と反応させることを含む。本質的に、ハプテンに基づく親和性標識は抗原結合部位にあるアミノ酸と反応し、それによって、この部位を破壊し、特異的な抗原反応を遮断する。しかしながら、このことは、抗体結合体による抗原結合の消失の原因となるので有利でない場合がある。
【0170】
アジド基を含有する分子もまた、低強度紫外線によって生じた反応性ニトレン中間体を介してタンパク質との共有結合を形成するために用いられる場合がある。特に、細胞粗抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を特定するための部位特異的フォトプローブ(photoprobe)として、プリンヌクレオチドの2-アジド類似体および8-アジド類似体が用いられている。2-アジドヌクレオチドおよび8-アジドヌクレオチドはまた精製タンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするのにも用いられており、抗体結合剤として用いられる可能性がある。
【0171】
抗体をその結合体部分に付着させ、または結合させるための、いくつかの方法が当技術分野において公知である。付着方法の中には、例えば、抗体に付着された有機キレート剤、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA); エチレントリアミン四酢酸; N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド; および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3を用いた金属キレート錯体の使用を伴うものもある(米国特許第4,472,509号および同第4,938,948号)。モノクローナル抗体はまた、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素と反応されることがある。フルオレセインマーカーとの結合体は、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号では、乳腺腫瘍の画像化がモノクローナル抗体を用いて成し遂げられ、検出可能な画像化部分は、メチル-p-ヒドロキシベンズイミダートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオナートなどのリンカーを用いて抗体に結合される。
【0172】
他の態様において、抗体結合部位を変えない反応条件を用いて免疫グロブリンのFc領域にスルフヒドリル基を選択的に導入することによって免疫グロブリンが誘導体化されることが意図される。この方法にしたがって作出された抗体結合体は、改善した寿命、特異性、および感度を示すことが開示される(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,196,066号)。レポーターまたはエフェクター分子がFc領域にある炭水化物残基に結合される、エフェクターまたはレポーター分子の部位特異的な付着も文献に開示されている。このアプローチは、現在、臨床評価されている、診断および治療に有望な抗体を生じると報告されている。
【0173】
II. 処置の方法
本発明の態様のある種の局面は、膵管腺がんのような、ホモ三量体I型コラーゲンの存在に関連する疾患または障害を予防または処置するために用いることができる。ホモ三量体I型コラーゲンの機能は、任意の適当な薬物によって低減されうる。好ましくは、そのような物質は、抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体であろう。
【0174】
「処置」および「処置する」は、疾患または健康関連状態の治療的利益を得る目的での、対象への治療剤の投与もしくは適用、または対象に対する医療手当もしくはモダリティの実施をいう。例えば、処置は、ホモ三量体I型コラーゲンを単独で、あるいは化学療法、免疫療法もしくは放射線療法の施行、手術の実施またはそれらの任意の組み合わせとの組み合わせで、阻害する抗体の薬学的に有効な量の投与を含みうる。
【0175】
本明細書において用いられる「対象」という用語は、主題の方法が実施される任意の個体または患者をいう。一般に、対象はヒトであるが、当業者によって理解されるように、対象は動物であってもよい。したがって、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、およびモルモットを含む)、ネコ、イヌ、ウサギ、家畜(ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどを含む)、ならびに霊長類(サル、チンパンジー、オランウータン、およびゴリラを含む)のような、哺乳類を含む、その他の動物は、対象の定義のなかに含まれる。
【0176】
本出願を通じて用いられる「治療的利益」または「治療的に有効な」という用語は、この状態の医学的処置に関して対象の健康を促進または増強するもの何でもいう。これには、がんまたはフィブロイド疾患のような、疾患の徴候または症状の頻度または重症度の低減が含まれるが、これらに限定されることはない。例えば、がんの処置は、例えば、腫瘍のサイズの低減、腫瘍の浸潤性の低減、がんの成長速度の低減、または転移の予防を伴いうる。がんの処置は、がんを有する対象の生存期間の延長をいうこともある。
【0177】
本明細書において用いられる「がん」という用語は、固形腫瘍、転移がん、または非転移がんを記述するために用いられうる。ある種の態様において、がんは、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、十二指腸、小腸、大腸、結腸、直腸、肛門、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、首、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮で発生しうる。
【0178】
がんは、具体的には、以下の組織学的タイプのものであってもよいが、これらに限定されることはない: 新生物、悪性; がん腫; がん腫、未分化; 巨細胞および紡錘体細胞のがん腫; 小細胞がん; 乳頭状がん; 扁平上皮がん; リンパ上皮がん; 基底細胞がん; 石灰化上皮腫(pilomatrix carcinoma); 移行上皮がん; 乳頭状移行上皮がん; 腺がん; ガストリノーマ、悪性; 胆管がん; 肝細胞がん; 混合型肝細胞がんおよび胆管がん; 小柱腺がん(trabecular adenocarcinoma); 腺様嚢胞がん; 腺腫性ポリープ内腺がん; 腺がん、家族性大腸ポリポーシス; 固形がん; カルチノイド腫瘍、悪性; 細気管支肺胞腺がん; 乳頭状腺がん; 色素嫌性がん; 好酸性がん; 好酸性腺がん; 好塩基球がん腫; 明細胞腺がん; 顆粒細胞がん; 濾胞腺がん; 乳頭状腺がんおよび濾胞腺がん; 非被包性硬化性がん(nonencapsulating sclerosing carcinoma); 副腎皮質がん; 類内膜がん; 皮膚付属器がん; アポクリン腺がん; 皮脂腺がん; 耳垢腺がん; 粘表皮がん; 嚢胞腺がん; 乳頭状嚢胞腺がん; 乳頭状漿液嚢胞腺がん; 粘液性嚢胞腺がん; 粘液性腺がん; 印環細胞がん; 浸潤性導管がん; 髄様がん; 小葉がん; 炎症性がん; パジェット病、乳房; 腺房細胞がん; 腺扁平上皮がん; 扁平上皮化生随伴腺がん(adenocarcinoma w/squamous metaplasia); 胸腺腫、悪性; 卵巣間質腫、悪性; 莢膜細胞腫、悪性; 顆粒膜細胞腫、悪性; アンドロブラストーマ、悪性; セルトリ細胞腫; ライディッヒ細胞腫、悪性; 脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor)、悪性; パラガングリオーマ、悪性; 乳房外パラガングリオーマ(extra-mammary paraganglioma)、悪性; クロム親和細胞腫; 血管球血管肉腫; 悪性黒色腫; 無色素性黒色腫; 表在拡大型黒色腫; 巨大色素性母斑中の悪性黒色腫; 類上皮細胞黒色腫; 青色母斑、悪性; 肉腫; 線維肉腫; 線維性組織球腫、悪性; 粘液肉腫; 脂肪肉腫; 平滑筋肉腫; 横紋筋肉腫; 胎児性横紋筋肉腫; 胞巣型横紋筋肉腫; 間質性肉腫; 混合腫瘍、悪性; ミューラー混合腫瘍; 腎芽腫; 肝芽腫; がん肉腫; 間葉腫、悪性; ブレンナー腫瘍、悪性; 葉状腫瘍、悪性; 滑膜肉腫; 中皮腫、悪性; 未分化胚細胞腫; 胚性がん腫; テラトーマ、悪性; 卵巣甲状腺腫、悪性; 絨毛がん; 中腎腫、悪性; 血管肉腫; 血管内皮腫、悪性; カポジ肉腫; 血管周囲細胞腫、悪性; リンパ管肉腫; 骨肉腫; 傍骨骨肉腫; 軟骨肉腫; 軟骨芽細胞腫、悪性; 間葉性軟骨肉腫; 骨巨細胞腫; ユーイング肉腫; 歯原性腫瘍、悪性; エナメル芽細胞歯牙肉腫; エナメル上皮腫、悪性; エナメル上皮線維肉腫; 松果体腫、悪性; 脊索腫; 神経膠腫、悪性; 上衣腫; 星状細胞腫; 原形質性星状細胞腫; 線維性星状細胞腫; 星状芽細胞腫; グリア芽細胞腫; 乏突起神経膠腫; 乏突起神経膠芽細胞腫; 未分化神経外胚葉性; 小脳肉腫; 神経節芽細胞腫; 神経芽細胞腫; 網膜芽細胞腫; 嗅神経腫瘍; 髄膜腫、悪性; 神経線維肉腫; 神経鞘腫、悪性; 顆粒細胞腫瘍、悪性; 悪性リンパ腫; ホジキン病; ホジキン; 側肉芽腫; 悪性リンパ腫、小リンパ球性; 悪性リンパ腫、びまん性大細胞性; 悪性リンパ腫、濾胞性; 菌状息肉腫; 明記された他の非ホジキンリンパ腫; 悪性組織球症; 多発性骨髄腫; マスト細胞肉腫; 免疫増殖性小腸疾患; 白血病; リンパ性白血病; プラズマ細胞白血病; 赤白血病; リンパ肉腫細胞性白血病; 骨髄性白血病; 好塩基球性白血病; 好酸球性白血病; 単球性白血病; マスト細胞白血病; 巨核芽球性白血病; 骨髄肉腫; および毛様細胞性白血病。とはいえ、本発明は、非がん性疾患(例えば、真菌感染症、細菌感染症、ウイルス感染症、神経変性疾患、および/または遺伝性障害)を処置するために用いられてもよいことも認識されている。
【0179】
B. 製剤および投与
本開示は、ホモ三量体I型コラーゲンに選択的に結合する抗体を含む薬学的組成物を提供する。そのような組成物は、予防的または治療的に有効な量の抗体またはその断片および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様において、「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、または米国薬局方、もしくは動物で用いるための、さらに詳細には、ヒトで用いるための、一般に認められている他の薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、治療用物質とともに投与される希釈剤、賦形剤、または媒体をいう。そのような薬学的担体は、石油、動物、野菜または合成由来のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などを含む、無菌の液体、例えば水および油であることができる。薬学的組成物が静脈内投与される場合、水は特定の担体である。生理食塩水溶液ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、特に注射可能な溶液の場合、液体担体として利用することができる。他の適当な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。
【0180】
組成物は、望ましければ、湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を微量含むこともできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末、および徐放性製剤などの形態をとることができる。経口製剤は、薬学等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような標準的な担体を含むことができる。適当な薬剤(pharmaceutical agent)の例は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記述されている。そのような組成物は、患者に適した投与のための形態を提供するために適当な量の担体とともに、予防的または治療的に有効な量の抗体またはその断片を、好ましくは精製された形態で含有する。製剤は、経口、静脈内、動脈内、口腔内、鼻腔内、噴霧、気管支吸入、直腸内、膣、局所でありうるか、または機械的人工換気によって送達されうる、投与様式に適合すべきである。
【0181】
抗体の受動移入は一般に、静脈内または筋肉内注射の使用を伴う。抗体の形態はモノクローナル抗体(MAb)としてでもよい。そのような免疫は一般に、ほんの短い間しか持続せず、特に非ヒト由来のγグロブリンからの、過敏反応および血清病の潜在的なリスクもある。抗体は注射に適した、すなわち、無菌で注射可能な、担体中に製剤化される。
【0182】
一般に、本開示の組成物の成分は、単位投与剤形で、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェのような密封容器中に乾燥凍結された乾燥粉末または無水濃縮物として、個別にまたはともに混合して供給される。組成物が注入によって投与される場合、組成物を、無菌薬学等級の水または生理食塩水を含有する注入ボトルに分配することができる。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合されうるように、無菌注射用水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0183】
本開示の組成物は中性または塩の形態として製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから導出されるものなどの陰イオンを用いて形成された塩、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから導出されるものなどの陽イオンを用いて形成された塩を含む。
【0184】
C. キットおよび診断薬
態様のさまざまな局面において、治療剤ならびに/または他の治療剤および送達剤を含有するキットが想定される。本発明の態様は、態様の治療法を調製および/または投与するためのキットを企図する。キットは、本発明の態様の薬学的組成物のいずれかを含有する1つまたは複数の密封したバイアルを含んでもよい。キットは、例えば、少なくとも1つのホモ三量体I型コラーゲン抗体、ならびに態様の成分を調製、処方、および/もしくは投与するための、または本発明の方法の1つもしくは複数の段階を実施するための試薬を含んでもよい。いくつかの態様において、キットは、キットの成分と反応しない容器である適当な容器、例えば、エッペンドルフチューブ、アッセイプレート、注射器、ボトル、またはチューブも含んでもよい。容器は、プラスチックまたはガラスのような、滅菌可能な材料から作製されてもよい。
【0185】
キットは、本明細書において記載される方法の手順段階を概説する指示書をさらに含んでもよく、本明細書において記述されるのと実質的に同じ手順に従うか、または当業者に公知である。指示書の情報は、コンピュータを用いて実行された時に、薬学的に有効な量の治療剤を送達する現実または仮想の手順の表示をもたらす機械可読指示書を含むコンピュータ可読媒体の中にあってもよい。
【0186】
D. ADCC
抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞による抗体被覆標的細胞の溶解につながる免疫機構である。標的細胞は、一般にFc領域のN末端側であるタンパク質部分を介して、Fc領域を含む抗体またはその断片が特異的に結合する細胞である。「抗体依存性細胞傷害(ADCC)の増加/低減を有する抗体」とは、当業者に公知の任意の適当な方法によって決定される、ADCCの増加/低減を有する抗体を意味する。
【0187】
本明細書において用いられる場合、「ADCCの増加/低減」という用語は、上記で定義されたADCCの機構による、標的細胞を取り巻く培地中の所与の濃度の抗体で、所与の時間内に溶解される標的細胞の数の増加/低減、および/またはADCCの機構による、所与の時間内に所与の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り巻く培地中の、抗体濃度の低減/増加のいずれかとして定義される。ADCCの増加/低減は、同じ標準的な産生、精製、処方および貯蔵方法(これらは当業者に公知である)を用いて、同じタイプの宿主細胞により産生されるが、しかし操作されていない、同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。例えば、本明細書において記述される方法によってグリコシル化パターンの改変を有するように(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ、GnTIII、または他のグリコシルトランスフェラーゼを発現するように)操作された宿主細胞により産生される抗体によって媒介されるADCCの増加は、同じタイプの非操作宿主細胞によって産生された同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。
【0188】
E. CDC
補体依存性細胞傷害(CDC)は、補体系の機能である。それは、免疫系の抗体または細胞の関与なしに、病原体の膜を損傷することによって病原体を死滅化する免疫系におけるプロセスである。3つの主要なプロセスがある。3つ全てが病原体に1つまたは複数の膜侵襲複合体(MAC)を挿入し、これによって致死的なコロイド浸透圧膨潤、すなわちCDCが引き起こされる。これは、抗体または抗体断片が細胞毒性効果を発揮する機構の1つである。
【0189】
F. 併用療法
ある種の態様において、本発明の態様の組成物および方法は、化学療法または免疫療法のような、第2のまたは追加の療法と組み合わせて、その活性を阻害するホモ三量体I型コラーゲンに対する抗体または抗体断片を含む。そのような治療法は、ホモ三量体I型コラーゲンの上昇に関連する任意の疾患の処置において適用することができる。例えば、疾患はがんまたはフィブロイド疾患でありうる。
【0190】
併用療法を含む、方法および組成物は、治療もしくは予防効果を増強させ、および/または別の抗がんもしくは抗過剰増殖療法の治療効果を増加させる。治療および予防方法および組成物は、がん細胞の死滅および/または細胞過剰増殖の阻害のような、所望の効果を達成するのに効果的な組み合わされた量で提供することができる。このプロセスは、細胞を、抗体または抗体断片および第2の療法の両方と接触させることを含みうる。組織、腫瘍、または細胞は、薬剤(すなわち、抗体もしくは抗体断片または抗がん剤)の1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の組成物または薬理学的配合物と接触させることができ、または組織、腫瘍、および/もしくは細胞を2つもしくはそれ以上の異なる組成物もしくは製剤と接触させることにより、1つの組成物は、1) 抗体もしくは抗体断片、2) 抗がん剤、または3) 抗体もしくは抗体断片および抗がん剤の両方を提供する。また、こうした併用療法は、化学療法、放射線療法、外科療法、または免疫療法とともに用いることができるものと企図される。
【0191】
「接触された」および「曝露された」という用語は、細胞に適用される場合、それにより治療用構築体および化学療法剤もしくは放射線療法剤が標的細胞に送達されるか、または標的細胞と直接隣接して配置されるプロセスを記述するために本明細書において用いられる。細胞死滅化を達成するには、例えば、両方の薬剤が細胞に、細胞を死滅させるか、またはこれが分裂するのを防止するのに効果的な組み合わされた量で送達される。
【0192】
治療用抗体は、抗がん処置の前に、その間に、その後に、またはそれに関するさまざまな組み合わせで投与されうる。投与は、同時から数分、数日、数週間に及ぶ間隔が置かれうる。抗体または抗体断片が患者に抗がん剤とは別々に提供される態様では、一般的には、2つの化合物が依然として患者に対して有利に組み合わされた効果を発揮することができるように、各送達間で有効期間が切れないことが確保されるであろう。こうした例では、患者に抗体療法および抗がん療法を、互いの約12~24または72時間以内および、より具体的には、互いの約6~12時間以内に提供しうることが企図される。いくつかの状況では、処置期間を顕著に延長することが望ましい場合があり、各投与間で数日(2、3、4、5、6、または7)~数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0193】
ある種の態様において、処置の過程は、1~90日またはそれ以上継続するであろう(こうした範囲は介在する日を含む)。1つの薬剤は、1日目~90日目(こうした範囲は介在する日を含む)のうちのいずれかの日またはこれらのいずれかの組み合わせに投与されることができ、別の薬剤は、1日目~90日目(こうした範囲は介在する日を含む)のうちのいずれかの日またはこれらのいずれかの組み合わせに投与されることが企図される。単日(24時間)以内に、患者は、薬剤の1回または複数回の投与を受けうる。さらに、処置の過程後、抗がん処置が行われていない期間があることが企図される。この期間は、彼らの予後、体力、健康などのような、患者の状態に応じて、1~7日、および/もしくは1~5週間、および/または1~12ヶ月もしくはそれ以上(こうした範囲は介在する日を含む)継続しうる。処置サイクルは必要に応じて繰り返されるものと予想される。
【0194】
さまざまな組み合わせが利用されうる。以下の例の場合、抗体療法は「A」であり、抗がん療法は「B」である。
【0195】
本発明の態様のいずれかの化合物または療法の患者への投与は、薬剤の、もしあれば毒性を考慮して、こうした化合物の投与のための一般的なプロトコルにしたがうであろう。それゆえ、いくつかの態様では、併用療法が原因である毒性をモニタリングする段階がある。
【0196】
1. 化学療法
本発明の態様にしたがって多種多様な化学療法剤が用いられうる。「化学療法」という用語は、がんを処置するための薬物の使用をいう。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を示すのに用いられる。これらの薬剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性モード、例えば、それらが細胞周期に影響を及ぼすか、およびどの段階で影響を及ぼすかにより分類される。あるいは、薬剤は、DNAに直接架橋、DNAにインターカレート、または核酸合成に影響を及ぼすことにより染色体および有糸分裂異常を誘発するその能力に基づいて特徴付けられうる。
【0197】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパおよびシクロスホスファミド; アルキルスルホナート、例えばブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン; アジリジン、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa); アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine); アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone)); カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む); ブリオスタチン; カリスタチン(callystatin); CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビセレシン合成類似体を含む); クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8); ドラスタチン; デュオカルマイシン(合成類似体KW-2189およびCB1-TM1を含む); エリュテロビン; パンクラチスタチン(pancratistatin); サルコジクチン(sarcodictyin); スポンギスタチン(spongistatin); ナイトロジェンマスタード、例えばクロランブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード; ニトロソ尿素、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン; 抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えばカリチアマイシン、特に、カリチアマイシンγ1IおよびカリチアマイシンωI1); ディネミシン(dynemicin)Aを含むディネミシン; ビスホスホネート、例えばクロドロネート; エスペラミシン; ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ユベニメックス、ジノスタチン、またはゾルビシン; 代謝拮抗物質、例えばメトトレキセートおよび5-フルオロウラシル(5-FU); 葉酸類似体、例えばデノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキセート; プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、およびチオグアニン; ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジン; アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン; 抗副腎剤、例えばミトタンおよびトリロスタン; 葉酸補充剤、例えばフォリン酸; アセグラトン; アルドホスファミドグリコシド; アミノレブリン酸; エニルウラシル; アムサクリン; ベストラブシル; ビサントレン; エダトラキサート(edatraxate); デフォファミン(defofamine); デメコルチン; ジアジクオン; エルフォルミチン(elformithine); 酢酸エリプチニウム; エポシロン; エトグルシド; 硝酸ガリウム; ヒドロキシウレア; レンチナン; ロニダイニン; マイタンシノイド、例えばマイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocin); ミトグアゾン; ミトキサントロン; モピダンモール(mopidanmol); ニトラエリン(nitraerine); ペントスタチン; フェナメット; ピラルビシン; ロソキサントロン(losoxantrone); ポドフィリニック酸; 2-エチルヒドラジド; プロカルバジン; PSK多糖複合体; ラゾキサン; リゾキシン(rhizoxin); シゾフィラン(sizofiran); スピロゲルマニウム; テヌアゾン酸; トリアジクオン; 2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン; トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアングイジン(anguidine)); ウレタン; ビンデシン; ダカルバジン; マンノムスチン; ミトブロニトール; ミトラクトール; ピポブロマン; ガシトシン(gacytosine); アラビノシド(「Ara-C」); シクロホスファミド; タキソイド、例えばパクリタキセルおよびドセタキセル ゲムシタビン; 6-チオグアニン; メルカプトプリン; 白金配位錯体、例えばシスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン; ビンブラスチン; 白金; エトポシド(VP-16); イホスファミド; ミトキサントロン; ビンクリスチン; ビノレルビン; ノバントロン; テニポシド; エダトレキサート; ダウノマイシン; アミノプテリン; ゼローダ; イバンドロネート; イリノテカン(例えばCPT-11); トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000; ジフルオロメチルオルニチン(DMFO); レチノイド、例えばレチノイン酸; カペシタビン; カルボプラチン、プロカルバジン、プリカマイシン(plicomycin)、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金(transplatinum)、ならびに前記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が挙げられる。
【0198】
2. 放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広く使用されている他の因子は、γ線、X線、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の特異的送達として一般的に知られているものを含む。マイクロ波、プロトンビーム照射(米国特許第5,760,395および4,870,287号)、ならびにUV照射のような、DNA損傷因子の他の形態も考慮される。これらの因子の全ては、広範囲のDNA損傷、DNA前駆体、DNA複製および修復、ならびに染色体のアセンブリおよび維持に影響を及ぼす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量までに及ぶ。放射性同位体の線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取込みに依存する。
【0199】
3. 免疫療法
当業者であれば、本態様の方法と組み合わせて、またはこれらとともに、免疫療法が用いられうることを理解するであろう。がん処置の文脈において、免疫療法剤は、一般的には、がん細胞を標的化して破壊するための免疫エフェクター細胞および分子の使用に依存する。リツキシマブ(リツキサン(登録商標))はこうした例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体でありうる。抗体単独では、療法のエフェクターとして作用しうるか、細胞死滅化に実際に影響を及ぼすように他の細胞を動員しうる。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)と結合され、標的化剤として単に作用しうる。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接のいずれかで相互作用する表面分子を有するリンパ球でありうる。さまざまなエフェクター細胞は、細胞毒性T細胞およびNK細胞を含む。
【0200】
免疫療法の1つの局面において、腫瘍細胞は、標的化に対して順応性である、すなわち、他の細胞の大半には存在しない、いくつかのマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのうちのいずれかは、本発明の態様の文脈における標的化に適している場合がある。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、がん胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erbB、およびp155が含まれる。免疫療法の代替の局面は、抗がん効果を免疫刺激効果と組み合わせることである。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFNのような、サイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8のような、ケモカイン、FLT3リガンドのような、増殖因子を含む、免疫刺激分子も存在する。
【0201】
現在調査中または使用中の免疫療法の例は、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および同第5,739,169号); サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSF、ならびにTNF; 遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53 (米国特許第5,830,880号および同第5,846,945号); ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185 (米国特許第5,824,311号)である。本明細書において記述される抗体療法とともに1つまたは複数の抗がん療法が利用されうることが企図される。
【0202】
いくつかの態様において、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤でありうる。免疫チェックポイントはシグナルを強くするか(例えば、補助刺激分子)、またはシグナルを弱くする。免疫チェックポイント阻害によって標的化されうる阻害性免疫チェックポイントには、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3 (CD276としても公知)、BおよびTリンパ球アテニュエータ(B and T lymphocyte attenuator; BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (CTLA-4。CD152とも知られる)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3 (lymphocyte activation gene-3; LAG3)、プログラム死1 (programmed death 1; PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3 (T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3; TIM-3)、ならびにT細胞活性化のVドメインIgサプレッサ(V-domain Ig suppressor of T cell activation; VISTA)が含まれる。特に、免疫チェックポイント阻害剤はPD-1 axisおよび/またはCTLA-4を標的化する。
【0203】
免疫チェックポイント阻害剤は、薬物、例えば、低分子、組換え型のリガンドもしくは受容体でありうるか、または特に、抗体、例えば、ヒト抗体(例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際特許公報WO2015016718)でありうる。既知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤またはその類似体が用いられることがあり、特に、キメラ化型、ヒト化型、またはヒト型の抗体が用いられることがある。当業者が知っているように、本開示において言及された、ある特定の抗体について別の名前および/または同等の名前が用いられることがある。このような別の名前および/または同等の名前は本開示の文脈において交換可能である。例えば、ランブロリズマブはMK-3475およびペンブロリズマブという別の名前および/または同等の名前でも知られていることが分かっている。
【0204】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PD-1リガンド結合パートナーはPDL1および/またはPDL2である。別の態様において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL1結合パートナーはPD-1および/またはB7-1である。別の態様において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2とそのリガンド結合パートナーの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL2結合パートナーはPD-1である。前記アンタゴニストは抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドでもよい。例示的な抗体は米国特許第8,735,553号、同第8,354,509号、および同第8,008,449号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において提供される方法で用いるための他のPD-1 axisアンタゴニストは、米国特許出願公開第20140294898号、同第2014022021号、および同第20110008369号に記述のように当技術分野において公知であり、これらは全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0205】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)と融合したPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストはAMP-224である。ニボルマブはMDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても知られ、WO2006/121168に記述の抗PD-1抗体である。ペンブロリズマブはMK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても知られ、WO2009/114335に記述の抗PD-1抗体である。CT-011はhBATまたはhBAT-1としても知られ、WO2009/101611に記述の抗PD-1抗体である。AMP-224はB7-DCIgとしても知られ、WO2010/027827およびWO2011/066342に記述のPDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0206】
本明細書において提供される方法において標的にされることができる別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球タンパク質4 (CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列はGenbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4はT細胞表面に見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合すると「オフ」スイッチとして働く。CTLA4は、ヘルパーT細胞表面に発現し、阻害シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4はT細胞補助刺激タンパク質であるCD28に類似し、両分子とも、抗原提示細胞上の、B7-1とも呼ばれるCD80と、B7-2とも呼ばれるCD86に結合する。CTLA4は阻害シグナルをT細胞に伝達するのに対して、CD28は刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は調節性T細胞の中にも見出され、その機能にとって重要である可能性がある。T細胞受容体およびCD28を介してT細胞が活性化されると、B7分子に対する抑制性受容体であるCTLA-4の発現が増加する。
【0207】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0208】
本発明の方法で用いるのに適した抗ヒト-CTLA-4抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を用いて作出することができる。あるいは、当技術分野において認められている抗CTLA-4抗体を用いることができる。例えば、米国特許第8,119,129号、WO01/14424、WO98/42752;WO00/37504 (CP675,206、トレメリムマブ; 以前はチシリムマブ(ticilimumab)としても知られる)、米国特許第6,207,156号; Hurwitz et al. (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95(17): 10067-10071; Camacho et al. (2004) J Clin Oncology 22(145): Abstract No. 2505 (antibody CP-675206); およびMokyr et al. (1998) Cancer Res 58:5301-5304に開示される抗CTLA-4抗体は、本明細書において開示される方法において用いることができる。前述した刊行物のそれぞれの開示は参照により本明細書に組み入れられる。CTLA-4との結合では、これらの当技術分野において認められている任意の抗体と競合する抗体も用いることができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願番号WO2001014424、WO2000037504、および米国特許第8,017,114号に記述されており、全てが参照により本明細書に組み入れられる。
【0209】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合断片および変種である(例えば、WO01/14424を参照されたい)。他の態様において、前記抗体はイピリムマブの重鎖および軽鎖CDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、前記抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインと、イピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、前記抗体は、前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープとの結合において競合する、および/または前述した抗体と同じ、CTLA-4上のエピトープに結合する。別の態様において、前記抗体は、上述した抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%の可変領域同一性)を有する。
【0210】
CTLA-4を調節するための他の分子には、CTLA-4リガンドおよび受容体、例えば、全てが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5844905号、同第5885796号、ならびに国際特許出願番号WO1995001994およびWO1998042752に記述のCTLA-4リガンドおよび受容体、ならびにイムノアドヘシン、例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8329867号に記述のイムノアドヘシンが含まれる。
【0211】
いくつかの態様において、免疫療法は、エクスビボで作出した自己抗原特異的T細胞の移入を伴う養子免疫治療でありうる。養子免疫治療に用いられるT細胞は、抗原特異的T細胞を拡大するか、または遺伝子工学によってT細胞をリダイレクション(redirection)することによって作出することができる(Park, Rosenberg et al. 2011)。腫瘍特異的T細胞の単離および移入は黒色腫治療に成功したことが示されている。T細胞における新規の特異性は、トランスジェニックT細胞受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子移入することによって首尾良く生じた(Jena, Dotti et al. 2010)。CARは、1つの融合分子の形で1つまたは複数のシグナル伝達ドメインと結合した標的化部分からなる合成受容体である。一般的に、CARの結合部分は、モノクローナル抗体の軽鎖断片および可変断片が可動性リンカーによってつながった一本鎖抗体(scFv)の抗原結合ドメインからなる。受容体またはリガンドドメインに基づく結合部分も首尾良く用いられてきた。第1世代CARのシグナル伝達ドメインはCD3ζの細胞質領域またはFc受容体γ鎖に由来する。CARを用いることで、リンパ腫および固形腫瘍を含むさまざまな新生物に由来する腫瘍細胞の表面に発現している抗原にT細胞は首尾良くリダイレクションされている。
【0212】
1つの態様において、本出願は、養子T細胞療法およびチェックポイント阻害剤を含む、がんを処置するための併用療法を提供する。1つの局面において、養子T細胞療法は自己由来および/または同種異系のT細胞を含む。別の局面において、自己由来および/または同種異系のT細胞は腫瘍抗原に対して標的化される。
【0213】
4. 外科手術
がんを有する人のおよそ60%は、予防手術、診断、または進行度診断のための手術、根治的手術、および姑息的手術を含む何らかの種類の外科手術を受ける。根治的手術は、がん組織の全てまたは一部が物理的に除去、切除、および/または破壊される切除を含み、本発明の態様の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法、および/または代替療法などの他の療法とともに用いられる場合がある。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去をいう。腫瘍切除に加えて、外科手術による処置は、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡的に管理される手術(microscopically-controlled surgery) (モース術)を含む。
【0214】
がんの細胞、組織、または腫瘍の一部または全てを切除すると体内に空洞が形成されることがある。処置は、その領域にさらなる抗がん療法を灌流、直接注射、または局所塗布することによって行われてもよい。そのような処置は、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは7日ごとに、または1週間、2週間、3週間、4週間、および5週間ごとに、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、もしくは12ヶ月ごとに繰り返されてもよい。これらの処置もさまざまな投与量の処置であってもよい。
【0215】
5. 他の作用物質
処置の治療有効性を改善するために、本発明の態様のある種の局面と組み合わせて他の作用物質が用いられうることが企図される。これらのさらなる作用物質には、細胞表面受容体およびギャップ結合の上方制御に影響を及ぼす作用物質、細胞分裂停止物質および分化物質、細胞接着阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が含まれる。ギャップ結合数を増やすことで細胞間シグナル伝達を増大させると、付近の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖作用が増大する。他の態様において、処置の抗過剰増殖有効性を改善するために、細胞分裂停止物質または分化物質は本発明の態様のある種の局面と組み合わせて用いることができる。細胞接着阻害剤は本発明の態様の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は局所接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。処置有効性を改善するために、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他の作用物質、例えば、抗体c225を本発明の態様のある種の局面と併用できることがさらに企図される。
【0216】
III. 免疫検出方法
なおさらなる態様において、本開示は、ホモ三量体I型コラーゲンを結合する、定量化する、そうでなければおおまかに検出するための免疫検出方法に関する。他の免疫検出方法は、対象におけるホモ三量体I型コラーゲンの存在を決定するための特定のアッセイを含む。多種多様なアッセイ形式が企図されているが、具体的には、生検のような、対象から得られた組織試料中のホモ三量体I型コラーゲンを検出するために用いられるものである。これらのアッセイは、使用を可能にするための適切な試薬および説明書を有するキットの形態で包装されうる。
【0217】
いくつかの免疫検出方法は、いくつか述べると、酵素結合免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、免疫放射線測定法、蛍光免疫アッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウエスタンブロットを含む。さまざまな有用な免疫検出方法の段階は、科学文献に記述されている。一般的に、免疫結合方法は、ホモ三量体I型コラーゲンを含有する疑いがある試料を得る段階、および本開示による第1の抗体と試料を、場合によっては免疫複合体の形成を可能とするのに有効な条件の下で接触させる段階を含む。
【0218】
免疫検出方法は、試料中のホモ三量体I型コラーゲンまたは関連成分の量を検出および定量化するための方法、ならびに結合プロセス中に形成される任意の免疫複合体の検出および定量化のための方法も含む。ここでは、ホモ三量体I型コラーゲンを含有する疑いがある試料を得て、試料をホモ三量体I型コラーゲンに結合する抗体と接触させた後に、特定の条件下で形成された免疫複合体の量を検出および定量する。抗原検出に関して、分析される生体試料は、組織切片もしくは標本、均質化された組織抽出物、または生体液のような、ホモ三量体I型コラーゲンを含有する疑いがある任意の試料でありうる。
【0219】
免疫複合体(一次免疫複合体)を形成するのに有効な条件下で、かつ免疫複合体(一次免疫複合体)を形成するのに十分な期間にわたって、選択された生体試料を抗体と接触させる段階は、一般的に、単に抗体組成物を試料に添加し、抗体が免疫複合体を形成するのに、すなわち、ホモ三量体I型コラーゲンに結合するのに十分に長い期間にわたって混合物をインキュベートする事項である。この時間の後に、試料-抗体組成物、例えば、組織切片、ELISAプレート、ドットブロット、またはウエスタンブロットは、一般的に、非特異的に結合した抗体種を除去するために洗浄され、これにより、これらの抗体だけが、検出しようとする一次免疫複合体の中で特異的に結合できるようになる。
【0220】
一般的に、免疫複合体形成の検出は当技術分野において周知であり、非常に多くのアプローチを適用することによって成し遂げられる可能性がある。これらの方法は、一般的に、標識またはマーカー、例えば、放射性タグ、蛍光タグ、生物学的タグ、および酵素タグのいずれかの検出に基づいている。このような標識の使用に関する特許には、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号、および同第4,366,241号が含まれる。もちろん、当技術分野において公知なように、二次結合リガンド、例えば、第2の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合配列を用いることによって、さらなる利点が見出される可能性がある。
【0221】
検出において利用される抗体そのものが、検出可能な標識に連結されてもよい。次いで、この標識が簡単に検出され、それによって、組成物中の一次免疫複合体の量を求めることが可能になる。あるいは、一次免疫複合体の中で結合している第1の抗体は、該抗体に対して結合親和性を有する第2の結合リガンドによって検出されてもよい。これらの場合、第2の結合リガンドは検出可能な標識に連結されてもよい。第2の結合リガンドそのものが抗体であることが多く、したがって、この抗体は「二次」抗体と呼ばれることがある。一次免疫複合体は、二次免疫複合体を形成するのに有効な条件下で、かつ二次免疫複合体を形成するのに十分な期間にわたって、標識された二次結合リガンドまたは抗体と接触される。次いで、二次免疫複合体は、一般的に、非特異的に結合した、標識された二次抗体またはリガンドを除去するために洗浄され、次いで、二次免疫複合体の中にある、残っている標識が検出される。
【0222】
さらなる方法は2段階アプローチによって一次免疫複合体を検出することを含む。第2の結合リガンド、例えば、該抗体に対して結合親和性を有する抗体が、前記のように二次免疫複合体を形成するのに用いられる。洗浄後に、二次免疫複合体は、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体と、これも、免疫複合体(三次免疫複合体)を形成するのに有効な条件下で、かつ免疫複合体(三次免疫複合体)を形成するのに十分な期間にわたって接触される。第3のリガンドまたは抗体は検出可能な標識と連結され、これにより、このように形成された三次免疫複合体が検出される。このことが望ましければ、このシステムはシグナルを増幅する可能性がある。
【0223】
免疫検出方法の1つでは、2つの異なる抗体が用いられる。第1のビオチン化抗体は標的抗原を検出するのに用いられ、次いで、第2の抗体は、複合体化ビオチンに付着されているビオチンを検出するのに用いられる。この方法では、最初に、試験しようとする試料が、第1の段階の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。標的抗原が存在すれば、抗体の一部は抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いで、抗体/抗原複合体は、ストレプトアビジン(もしくはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補的ビオチン化DNAの連続溶液中でインキュベートすることによって増幅され、各段階は、さらなるビオチン部位を抗体/抗原複合体に加える。増幅段階は、適切な増幅レベルに達するまで繰り返される。この時に、試料は、ビオチンに対する第2の段階の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。この第2の段階の抗体は、例えば、発色基質を用いた組織酵素学によって抗体/抗原複合体の存在下で検出するのに使用することができる酵素のように標識されている。適切な増幅があれば、巨視的に見える結合体が生じうる。
【0224】
別の公知の免疫検出方法では免疫-PCR (ポリメラーゼ連鎖反応)法を利用する。PCR法はビオチン化DNAとのインキュベーションまではキャントー(Cantor)法と似ているが、複数回のストレプトアビジンとビオチン化DNAのインキュベーションが用いられるのではなく、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体は、抗体を放出する低pH緩衝液または高塩緩衝液を用いて洗い流される。次いで、結果として生じた洗浄溶液を用いて、適当なプライマーと適切な対照を用いたPCR反応が行われる。少なくとも理論上では、PCRの膨大な増幅能力と特異性を利用して1種類の抗原分子を検出することができる。
【0225】
A. ELISA
免疫アッセイは、最も簡単かつ直接的な意味では、結合アッセイである。ある種の好ましい免疫アッセイは、当技術分野において公知のさまざまなタイプの酵素結合免疫測定法(ELISA)および放射免疫アッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかしながら、検出は、このような技法に限定されず、ウェスタンブロッティング、ドットブロッディング、FACS分析なども用いられてもよいことが容易に理解される。
【0226】
ある例示的なELISAでは、本開示の抗体は、タンパク質親和性を示す、選択された表面、例えば、ポリスチレンマイクロタイタープレートにあるウェルに固定化される。次いで、ホモ三量体I型コラーゲンを含有する疑いがある試験組成物がウェルに添加される。結合と、非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後に、結合している抗原が検出される可能性がある。検出は、検出可能な標識に連結されている別の抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体を添加することによって成し遂げられてもよい。このタイプのELISAは単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第2の抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体を添加し、その後に、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体を添加することによって成し遂げられてもよく、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0227】
別の例示的なELISAでは、ホモ三量体I型コラーゲンを含有する疑いがある試料はウェル表面に固定化され、次いで、本開示の抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体と接触される。結合と、非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後に、結合している抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体が検出される。最初の抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出される可能性がある。これもまた、免疫複合体は、第1の抗ホモ三量体I型コラーゲン抗体に対して結合親和性を有する第2の抗体を用いて検出されてもよく、第2の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0228】
使用した形式に関係なく、ELISAには、共通する、ある種の特徴、例えば、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、ならびに結合している免疫複合体の検出がある。これらを以下に記述する。
【0229】
プレートを抗原または抗体でコーティングする際には、一般的に、プレートのウェルを、抗原または抗体の溶液と終夜または指定された時間にわたってインキュベートする。次いで、プレートのウェルを、不完全に吸着された材料を除去するために洗浄する。次いで、残っている利用可能なウェル表面を、試験抗血清に関して抗原的に中立な非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳溶液が含まれる。コーティングすると、固定化表面にある非特異的吸着部位がブロッキングされ、したがって、表面にある抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドが低減する。
【0230】
ELISAでは、直接的な手順ではなく二次検出手段または三次検出手段を用いることは普通のことである。したがって、タンパク質または抗体がウェルに結合し、バックグラウンドを低減するために非反応性材料でコーティングされ、結合しなかった材料を除去するため洗浄された後に、固定化表面は、免疫複合体(抗原/抗体)を形成するのに有効な条件下で、試験しようとする生体試料と接触される。次いで、免疫複合体の検出には、標識された二次結合リガンドまたは抗体、および二次結合リガンドまたは抗体と、標識された三次抗体または第3の結合リガンドが必要とされる。
【0231】
「免疫複合体(抗原/抗体)を形成するのに有効な条件下で」とは、条件が、好ましくは、抗原および/または抗体を、溶液、例えば、BSA、ウシガンマグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tweenで希釈する段階を含むことを意味する。これらの添加された薬剤は非特異的バックグラウンドの低減を助ける傾向もある。
【0232】
「適当な」条件とは、インキュベーションが、有効に結合するのに十分な温度で、または有効に結合するのに十分な期間にわたって行われることも意味する。インキュベーション段階は、典型的に、約1~2~4時間くらい、好ましくは、25℃~27℃程度の温度であるか、または約4℃くらいで終夜でもよい。
【0233】
ELISAにおいて全てのインキュベーション段階の後に、接触された表面は、複合体化しなかった材料を除去するために洗浄される。好ましい洗浄手順は、溶液、例えば、PBS/Tween、またはホウ酸緩衝液を用いた洗浄を含む。試験試料と、最初に結合した材料との間での特異的免疫複合体の形成、その後の洗浄の後に、さらに微量の免疫複合体が発生したことが確かめられてもよい。
【0234】
検出手段を提供するために、第2の抗体または第3の抗体には、検出を可能にする結合した標識がある。好ましくは、これは、適切な発色基質とインキュベートされると発色する酵素である。したがって、例えば、さらなる免疫複合体形成の発生に有利に働く期間かつ条件下(例えば、PBS-TweenのようなPBS含有溶液中、室温で2時間のインキュベーション)、第1の免疫複合体および第2の免疫複合体を、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはハイドロゲンペルオキシダーゼと結合された抗体と接触またはインキュベートすることが望ましい。
【0235】
標識された抗体とのインキュベーションと、結合しなかった材料を除去するための洗浄の後に、標識の量は、例えば、発色基質、例えば、尿素、もしくはブロモクレゾールパープル、または2,2'-アジド-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、または酵素標識としてペルオキシダーゼの場合にはH2O2とインキュベートすることによって定量される。次いで、定量は、発色の程度を、例えば、可視スペクトル分光光度計を用いて測定することによって成し遂げられる。
【0236】
別の態様において、本開示は、競合形式の使用を企図する。これは、試料中のノロウイルス抗体の検出において特に有用である。競合に基づくアッセイでは、未知の量の分析物または抗体は、既知の量の標識された抗体または分析物に取って代わるその能力によって決定される。したがって、定量化可能なシグナル喪失は、試料中の未知の抗体または分析物の量の現れである。
【0237】
B. ウエスタンブロット
ウエスタンブロット(あるいは、タンパク質免疫ブロット)は、組織ホモジネートまたは抽出物の所与の試料中にある特定のタンパク質を検出するのに用いられる分析技法である。ウエスタンブロットでは、ポリペプチドの長さによって(変性条件)、またはタンパク質の3D構造によって(天然/非変性条件)、天然タンパク質または変性タンパク質を分離するためにゲル電気泳動を用いる。次いで、タンパク質は膜(典型的にはニトロセルロースまたはPVDF)に転写され、膜の中で、標的タンパク質に特異的な抗体を用いてプローブ(検出)される。
【0238】
試料は組織全体から採取されてもよく、細胞培養物から採取されてもよい。ほとんどの場合、最初に、固体組織が、ブレンダーを用いて(試料の体積が多い場合)、ホモジナイザーを用いて(体積が少ない場合)、または超音波処理によって機械的に分解される。細胞はまた、上記の機械的方法の1つによって、こじ開けられてもよい。細胞の溶解を促進するために、およびタンパク質を可溶化するために、雑多な界面活性剤、塩、および緩衝液が用いられてもよい。自身の酵素によって試料が消化されないように、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤が添加されることが多い。タンパク質変性を回避するために組織調製は低温で行われることが多い。
【0239】
試料のタンパク質はゲル電気泳動を用いて分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの要因の組み合わせによるものでもよい。分離がどういったものかは、試料の処理およびゲルがどういったものかに左右される。これは、タンパク質を確かめる非常に有用な手法である。単一の試料からタンパク質を2つの寸法に広げる二次元(2D)ゲルを用いることも可能である。タンパク質は、第1の寸法では等電点(中性の正味荷電を有するpH)にしたがって分離され、第2の寸法では分子量にしたがって分離される。
【0240】
抗体検出に利用可能なタンパク質を作製するために、タンパク質はゲルの内部から、ニトロセルロースまたはフッ化ポリビニリデン(PVDF)で作られた膜に移される。ゲルの上に膜が配置され、膜の上に、ろ紙を積み重ねたものが配置される。ろ紙を積み重ねたものが全て緩衝溶液の中に入れられ、緩衝溶液は毛管作用によってろ紙を上昇し、それにより、タンパク質も緩衝溶液と一緒に動く。タンパク質を転写するための別の方法は電気ブロッティングと呼ばれ、タンパク質をゲルからPVDF膜またはニトロセルロース膜に引っ張るために電流を用いる。タンパク質は、ゲルの内部で保っていた構造を維持しながらゲルの内部から膜の上に動く。このブロッディングプロセスの結果として、タンパク質は、検出のために薄い表面層に曝露される(下記を参照されたい)。両種の膜とも非特異的タンパク質結合特性で選択されている(すなわち、全てのタンパク質に等しく結合する)。タンパク質結合は、疎水性相互作用と、膜とタンパク質との間の荷電相互作用に基づいている。ニトロセルロース膜はPVDFよりも安いが、かなり壊れやすく、反復調査に対する耐性があまりない。ゲルから膜へのタンパク質転写の均一性および全体的な有効性は、膜をクマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で染色することによってチェックすることができる。タンパク質は転写されたら、標識された一次抗体を用いて検出されるか、または標識されていない一次抗体を使用し、その後に、標識されたプロテインAまたは二次標識抗体と、一次抗体のFc領域との結合を用いて間接的に検出される。
【0241】
C. 側方流動アッセイ
側方流動免疫クロマトグラフィーアッセイとしても知られる側方流動アッセイは、特殊かつ高価な機器を必要とせずに、試料(マトリックス)中の標的分析物の存在(または非存在)を検出することを目的とした単純な装置であるが、読み取り装置によって支持される多くの実験室ベースのアプリケーションが存在する。通常、これらの試験は、在宅試験、臨床現場即時検査、または実験室での使用のいずれかのために、低リソースの医療診断として用いられる。広く普及している周知のアプリケーションは、家庭用妊娠検査である。
【0242】
この技術は、多孔質紙片または焼結ポリマーのような、一連の毛細血管床に基づいている。これらの要素の各々は、自発的に流体(例えば、尿)を輸送する能力を有する。第1の要素(試料パッド)はスポンジとして機能し、過剰な試料液を保持する。浸漬されると、流体は第2の要素(結合体パッド)に移動し、この要素には製造業者によって、標的分子(例えば、抗原)と、粒子の表面に固定化されているその化学パートナー(例えば、抗体)との間での最適化された化学反応を保証するためのすべてを含有する塩-糖マトリックス中の乾燥された形態の生物活性粒子(以下参照)、いわゆる結合体が貯蔵されている。試料流体は塩-糖マトリックスを溶解するが、粒子も溶解し、1つの複合輸送作用で、試料および結合体は、多孔質構造を流れながら混ざり合う。このようにして、分析物は、第3の毛細血管床を通ってさらに移動しながら粒子に結合する。この材料には、製造業者によって第3の分子が固定化されている1つまたは複数の領域(ストリップ(stripes)と呼ばれることが多い)がある。試料と結合体の混合物がこれらのストリップに到達するまでに、分析物は粒子に結合しており、第3の「捕捉」分子が複合体に結合する。しばらくして、より多くの流体がストリップ(stripes)を通過すると、粒子が蓄積し、ストリップ(stripe)領域の色が変化する。通常、少なくとも2つのストリップ(stripes)がある: 任意の粒子を捕捉し、それによって反応条件と技術が正常に機能したことを示す1つ(対照)と、もう1つは特定の捕捉分子を含み、分析物分子が固定化されている粒子を捕捉するのみである。これらの反応ゾーンを通過した後、流体は、廃棄物容器として単に機能する最終的な多孔質材料である芯に入る。側方流動試験は、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイのいずれかとして機能することができる。側方流動アッセイは米国特許第6,485,982号に開示されている。
【0243】
D. 免疫組織化学
本開示の抗体はまた、免疫組織化学(IHC)による研究のために調製された、新鮮凍結した組織ブロックおよび/またはホルマリン固定し、パラフィン包埋した組織ブロックと一緒に用いられうる。これらの粒子標本から組織ブロックを調製する方法は、さまざまな予後因子の以前のIHC研究において首尾良く用いられており、当業者に周知である。
【0244】
簡単に述べると、凍結切片は、小さなプラスチックカプセルの中で、50 ngの「微粉砕した(pulverized)」凍結組織をリン酸緩衝食塩水(PBS)に室温で再水和する; 遠心分離によって粒子をペレット化する; 粘性のある包埋剤(OCT)に再懸濁する; カプセルを逆にする、および/もしくは遠心分離によって再ペレット化する; -70℃イソペンタンに入れて瞬間凍結する; プラスチックカプセルを切断する、および/もしくは凍結した円筒形の組織を取り外す; クリオスタットミクロトームチャックに円筒形の組織を固定する; ならびに/またはカプセルから25~50枚の連続切片を切断することによって調製されてもよい。あるいは、連続切片を切断するのに凍結組織試料全体が用いられることがある。
【0245】
永久切片を、50 mgの試料をプラスチック微量遠心管に入れて再水和し、ペレット化し、4時間固定するために10%ホルマリンに再懸濁し、洗浄/ペレット化し、温かい2.5%寒天に再懸濁し、ペレット化し、氷水に入れて冷却して寒天を固め、管から組織/寒天ブロックを取り出し、ブロックをパラフィンに浸透および/もしくは包埋し、ならびに/または50枚までの連続永久切片を切断することを含む同様の方法によって調製してもよい。これもまた、組織試料全体が代用されることがある。
【0246】
E. 免疫検出キット
なおさらなる態様において、本開示は、上記の免疫検出方法で用いるための免疫検出キットに関する。抗体はホモ三量体I型コラーゲンを検出するために用いられうるため、抗体はキットに含まれうる。したがって、免疫検出キットは、適当な容器手段の中に、ホモ三量体I型コラーゲンに結合する第1の抗体、および任意で免疫検出試薬を含む。
【0247】
ある種の態様において、ホモ三量体I型コラーゲン抗体は、固体支持体、例えば、カラムマトリックスおよび/またはマイクロタイタープレートのウェルに予め固定されてもよい。キットの免疫検出試薬は、所与の抗体に結合または連結されている検出可能な標識を含む、種々の形式のいずれか1つをとってもよい。二次結合リガンドに結合されている、または取り付けられている検出可能な標識も企図される。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体である。
【0248】
本発明のキットで用いるための、さらに適当な免疫検出試薬は、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体と、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体を含む2成分試薬を含み、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。前記のように、いくつかの例示的な標識が当技術分野において公知であり、そのような全ての標識が、本開示に関連して利用されてもよい。
【0249】
キットは、標識されていても標識されていなくても、ホモ三量体I型コラーゲンの適当に分注された組成物をさらに含んでもよく、同様に、検出アッセイの標準曲線を作成するのに用いられてもよい。キットは、抗体標識結合体を、完全に結合された形で、中間体の形で、またはキットの使用者によって結合される別々の部分として含んでもよい。キットの成分は水性媒体に溶解した状態で包装されてもよく、凍結乾燥した形で包装されてもよい。
【0250】
キットの容器手段は、一般的に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器、または他の容器手段を含み、この中に抗体が配置されてもよく、好ましくは適当に分注されてもよい。本開示のキットはまた、通常、抗体、抗原を含むための手段、および商業販売のために密に閉じ込められた他の任意の試薬容器も含む。そのような容器は、望ましいバイアルが保持される射出成型プラスチック容器または吹込成形プラスチック容器を含んでもよい。
【実施例
【0251】
IV. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者らが発見した技法が本発明の実践において十分に機能することを示し、したがって、その実践に好ましい様式を構成すると考えられると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解されるはずである。
【0252】
材料および方法
マウス
FSF-KrasG12D/+ (Schonhuber et al., 2014)、Pdx1-Flp (Schonhuber et al., 2014)、Trp53frt/+ (Lee et al., 2012), LSL-KrasG12D/+ (Hingorani et al., 2005)、Trp53loxP/+ (Chen et al., 2005)、Pdx1-Cre (Hingorani et al., 2005)、αSMA-Cre (LeBleu et al., 2013)、およびFsp1-Cre (Xue et al., 2003; Bhowmick et al., 2004)マウス系統がこれまでに立証されている。Col1a1loxP/loxPマウス系統(loxP隣接エクソン2~5を有する)は、European Mouse Mutant Cell Repository (EuMMCR)から購入したCol1a1tm1a(EUCOMM)Wtsi系統から確立された。Rosa26-CAG-loxP-frt-Stop-frt-FireflyLuc-EGFP-loxP-RenillaLuc-tdTomato (R26Dualといわれる)マウス系統には、新規のR26Dual二重蛍光レポーター対立遺伝子が含まれており、これはPdx1-Flp導入遺伝子の制御下でEGFP発現を可能とし、またはαSMA-CreおよびFsp1-Cre導入遺伝子の制御下でtdTomato発現を可能とする。FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp (KFといわれる)またはFSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp (KPPFといわれる)マウスの遺伝子型および疾患表現型の特性評価は、既述(Schonhuber et al., 2014)のように実施された。KFおよびKPPFマウスをαSMA-Cre、Pdx1-Cre、Fsp1-Cre、Col1a1loxP/loxP、またはR26Dualマウス系統と交配させて、KF;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP (KF;Col1smaKOといわれる)、KF;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KF;Col1pdxKOといわれる)、KPPF;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPF;Col1smaKOといわれる)、およびKPPF;Fsp1-Cre;Col1a1loxP/loxP (KPPF;Col1fspKOといわれる)マウスの作出をもたらした。これらのマウスは、αSMAまたはFsp1を発現するPDAC関連線維芽細胞亜集団におけるCol1a1の欠失を可能にする。LSL-KrasG12D;Pdx1-Cre (KCといわれる)またはLSL-KrasG12D;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre (KPPCといわれる)マウスをCol1a1loxP/loxPマウス系統と交配させて、KC;Col1a1loxP/loxP (KC;Col1pdxKOといわれる)およびKPPC;Col1a1loxP/loxP (KPPC;Col1pdxKOといわれる)マウスの作出をもたらした。これらのマウスは、PDAC細胞におけるCol1a1の欠失を可能にする。所望の遺伝子型を有する前述の実験マウスを、無作為化または盲検化することなくモニターおよび分析した。実験用マウスには、PDACに望ましい遺伝子型を有する雌と雄の両方のマウスを用いた。全てのマウスはMD Anderson Cancer Center (MDACC)の動物施設にて標準的な飼育条件下で飼育され、全ての動物手順は、MDACC施設内動物管理使用委員会によって審査および承認された。
【0253】
実施例1. デュアルリコンビナーゼシステム(DRS)マウスモデルは、自然発生的な膵臓がんを誘発し、さまざまな標的細胞集団における遺伝的調節を可能にする
膵臓がんの新規のデュアルリコンビナーゼシステム(DRS)マウスモデルは、フリッパーゼ-FRT (Flp-FRT)システムを利用して、発がん性Kras発現およびp53喪失をPdx1系統(FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp)において誘導し、広く使用されているKPC (LSL-KrasG12D/+;Trp53R172H/+or Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre)マウスモデルにおける従来のCre-loxPシステムを置き換えた。このFlp-FRTに基づくDRS (FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp, 概して「KPPF」)マウスモデルは、元のDRSモデル研究によっても立証される(Schonhuber et al., 2014)ように、従来のCre-loxPに基づく(LSL-KrasG12D/+;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre, 概して「KPPC」)マウスモデルとほぼ同一の方法で膵上皮内腫瘍(PanIN)および膵管腺がん(PDAC)を発症する(図7A~D)。予想通り、両方の膵臓がんマウスモデルシステムが、疾患の発症中に顕著なI型コラーゲン(Col1)の沈着を示した。重要なことに、この新しいDRSモデルシステムは、Flp-FRTに基づくシステムによって誘発される自発的なPDACとは無関係に、Cre導入遺伝子およびfloxed (loxP部位に隣接)対立遺伝子での別の遺伝子操作システムの追加を可能にする。
【0254】
Cre-loxPシステムおよびFlp-FRTシステムの両方を担持しているこのDRSマウスモデルの機能性を試験するために、新規の系統追跡デュアルレポーター(Rosa26-CAG-loxP-frt-Stop-frt-FireflyLuc-EGFP-loxP-RenillaLuc-tdTomato, 以後R26Dualという)を用いてKPPF;αSMA-Cre;R26Dualマウスを作出した(図7E)。このマウス系統のPDAC組織では、Pdx1系統のがん細胞がEGFP発現を示し、αSMA系統で活性化されたPSCはtdTomato発現を示し(図7FおよびG)、それぞれPdx-FlpおよびαSMA-Creによる遺伝子組換えが確認された。
【0255】
実施例2. I型コラーゲン(Col1)の沈着は、PanIN/PDACの発達段階に沿って変化する
連続切片に対してIHC染色法を用い、CK19およびαSMA (それぞれ、がん細胞および活性化PSCのマーカー)の発現レベルと比較して、Col1の発現を、PanIN/PDACの発達中に調べた(図8A~B)。前述のタンパク質の発現は、動的変化を明らかにした(図8C)。正常な膵臓組織は、CK19、αSMA、またはCol1の最小限の/無視できる存在を明らかにした。ADM (または初期PanIN)病変が出現すると、膵臓上皮の異常に応答してPSCが活性化されるため、αSMAはすぐに最高レベルに上昇した。これらの活性化されたPSCは、間質性Col1の生成を開始し、PanINの次の段階でCol1繊維のピークレベルをもたらした。疾患がPanINからPDACに発達し続けると、がん細胞集団は間質成分より大きくなり、αSMAまたはCol1陽性領域の存在の減少と一致していた。
【0256】
特に、CK19レベルはPanIN/PDAC発達の全体を通じて絶えず増加した。αSMAは腺房-導管異形成(ADM)または初期PanIN段階で最高レベルに達し、疾患進行の非常に初期の段階に応答したαSMA陽性PSCの即時の動員および/または活性化を示していた。対照的に、Col1レベルはPanIN段階中に最高レベルに達し、その後、PDAC段階への発達中に減少した。PDAC組織は、Col1およびαSMA陽性の活性化PSCの存在の希釈/減少とともに、優勢ながん細胞の存在(CK19陽性域)を明らかにした。
【0257】
注目すべきことに、Col1レベルの非線形ダイナミクスにもかかわらず、Col1/CK19の比率は疾患が進行するにつれて絶えず減少した。これらの結果は、Col1/CK19比率の低下が、PDACの発達に対する宿主拘束力の低下およびいっそう進行した疾患状態を示しうることを示唆している。
【0258】
実施例3. αSMAを発現する活性化PSCにおけるCol1欠失は、PDACの発達を加速し、動物の生存を短縮する
上記の所見は、PDAC間質におけるCol1の主要な産生細胞として(膵臓がん細胞ではなく)活性化されたPSC集団を示唆した以前の研究と一致していた。したがって、新しいDRSマウスモデルを用いて、活性化されたPSC集団におけるCol1の遺伝子除去が模索された。図1Aに示されるように、Col1は、KPPF;Col1smaKO (FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP)マウスでのPDACのαSMA発現活性化PSCにおいて特異的に欠失された。αSMAを発現する活性化PSCにおけるCol1の欠失は、IHC染色による連続切片で示されるように、PDAC組織における線維性Col1、線維形成、および硬直のレベルの低下をもたらした(図1B)。
【0259】
PDACとの関連でαSMAを発現する活性化PSCにおけるCol1欠失は、動物の生存を有意に短縮し(図2B)、エンドポイント段階で腹水の発生をより高くした(図2C)。KPPF;Col1smaKO腫瘍におけるCol1レベルの低下は、PanINおよびPDAC段階の両方で観察され(図2F)、これは、KPPF腫瘍よりもKPPF;Col1smaKO腫瘍において有意に低下したCol1/CK19比率を伴った(図2D)。これらの所見は、より低いCol1/CK19比率が、PDACの発達に対する宿主拘束力の低下およびいっそう進行した疾患状態と相関しているという概念をさらに支持している。次に、TCGAデータベースのヒトPDACサンプルにおけるCol1a1およびCK19のmRNAレベル(RNA Seq V2 RSEM)を比較することによりCol1/CK19比率を調べた。より低いCol1/CK19比率は、トランスジェニックマウスモデルでの所見と一致して、有意に悪い全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)と相関していた(図9)。
【0260】
発がん性Kras変異を担持しているが、p53喪失は担持していない、KF;Col1smaKO (FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp;αSMA-Cre;Col1a1loxP/loxP)マウスを作出して、PDAC発達の初期段階(ADMおよび/またはPanIN)への影響を観察した(図10A)。同年齢の(6ヶ月齢)動物をADMおよびPanIN病変の発生について調べた。図10Bに示されるように、KF;Col1smaKOマウスは、KF同腹仔対照マウスよりも有意に広い領域のADMおよびPanIN病変を示した。まとめると、これらの所見は、PDAC微小環境における筋線維芽細胞亜集団の腫瘍抑制機能を示す以前の知見と一致している。
【0261】
実施例4. 膵臓がん細胞におけるCol1の欠失は、ADMおよびPanINの発達を遅延させる
いくつかの研究ではCol1の主要な産生細胞としてがん関連線維芽細胞が提唱されているが、他の研究でもがん細胞由来Col1の潜在的にユニークな組成および機能が強調されている(Sengupta et al., 2003; Han et al., 2008; Egeblad et al., 2010; Han et al., 2010; Makareeva et al., 2010)。がん細胞におけるCol1の遺伝子除去を達成するために、別のDRSマウスモデルKF;Col1pdxKO (FSF-KrasG12D/+;Pdx1-Flp;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)が確立された。KF;Col1pdxKO系統は同じKFバックグラウンドを有していたが、Pdx1-Cre導入遺伝子(図3A)を組み込んで、図10Aにおける以前のKF;Col1smaKO系統のαSMA-Cre導入遺伝子を置き換えた。
【0262】
注目すべきことに、KF;Col1pdxKOマウスモデルは、KF;Col1smaKOマウスと同じ対照マウス(KF;Cre陰性;Col1a1loxP/loxP)を共有し、同じ6ヶ月齢の時点でそれら3つの系統(KF対照群、図10Aに示されるようにαSMA発現筋線維芽細胞においてCol1欠失を有するKF;Col1smaKO群、およびPdx1系統がん細胞においてCol1欠失を有するKF;Col1pdxKO群)間での疾患進行状態の直接比較を可能にした。興味深いことに、Pdx1系統がん細胞においてCol1除去を有するKF;Col1pdxKOマウスは、KF;Col1smaKOマウスでの疾患進行の加速とは対照的に、KF対照マウスよりもADMおよびPanIN発達の有意な遅延を明らかにした(図3B~Cおよび7J)。KF;Col1pdxKOマウスの膵臓組織はKF対照マウスよりも有意に良好な組織学および少ないADM/PanIN域を明らかにしたが、同じPanIN段階の任意の所与の視野内のCol1沈着レベル(図3B, 20倍の拡大パネル)はこれらの2つのマウス群間で異なっていなかった。これらの結果から、がん由来のCol1は、その存在がPanIN段階で筋線維芽細胞により産生される豊富なCol1によって覆い隠されうることが多いものの、重要ながん支持機能を有しうることが示唆される。
【0263】
それにもかかわらず、PSCがまさに活性化を受け、大量のCol1を沈着させなかった場合に、疾患進行の初期段階(ADM)でKF;Col1pdxKOマウスにおいてCol1レベルの低下が観察された(図3D)。KF;Col1pdxKOマウスのADM病変は、Col1沈着の低減を示しただけでなく、膵臓器官形成および膵臓がん発生の必須マーカーであるSox9 (Seymour et al., 2007; Kopp et al., 2012)のレベルを有意に低下させた(図3E~F)。これらの所見から、がん発生細胞によるCol1沈着が膵臓がんの初期発達を支持していることが示唆される。
【0264】
KF;Col1pdxKOマウスモデルに加えて、Pdx1系統のがん細胞におけるCol1の遺伝子欠失を達成するために、別のマウスモデルが並行して作出された。ここでは、KC (LSL-KrasG12D/+;Pdx1-Cre)対照マウスと比較して従来のCre-loxPに基づくシステムを用いた、KC;Col1pdxKO (LSL-KrasG12D/+;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)マウス系統が確立された(図11A)。一貫した結果がKC;Col1pdxKOマウスから得られ、同じ6ヶ月齢の時点でKC対照マウスよりも有意に遅延したADMおよびPanINの発達を示した(図11B)。
【0265】
実施例5. 膵臓がん細胞におけるCol1の欠失は、PDACの発達および動物の生存を遅延させる
次に、KPPC;Col1pdxKO (LSL-KrasG12D/+;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)マウスモデルを作出し、これは従来のCre-loxPシステムによって誘発された発がん性Kras変異およびp53ホモ接合性喪失の両方を担持していた(図4A)。KPPCの遺伝的背景を有するこれらのマウスは、45日以内に急性PDACを発症し、約55日齢で動物死に至る。先の所見(図3A~Fおよび11A~B)と一致して、KPPC;Col1pdxKOマウスにおけるがん細胞系統でのCol1の欠失は、KPPC対照マウスと比較した場合、動物の生存を有意に引き延ばし、PDACの発達を遅延させた(図4B)。がん細胞におけるヘテロ接合性Col1a1loxP欠失を有するさらなるKPPC;Col1pdxKO/+系統(LSL-KrasG12D/+;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/+)も作出し、KPPC対照系統のものと同様の動物生存を示した(図12A)。
【0266】
疾患発達の初期段階を同じ28日齢のKPPC;Col1pdxKOマウスおよびKPPC対照マウスにおいて調べた。KPPC;Col1pdxKOマウスの膵臓は、KPPC対照マウスよりも有意に少ないADMおよびPanIN病変を明らかにした(図4C)。同じ52日齢で、KPPC;Col1pdxKO (LSL-KrasG12D/+;Trp53loxP/loxP;Pdx1-Cre;Col1a1loxP/loxP)は、同齢のKPPC対照マウスと比較して、有意に良好な組織学を明らかにし(図4DおよびE)、膵臓腫瘍量を低下させた(図4F)。
【0267】
RNA配列決定分析を同じ53日齢で同齢KPPC;Col1pdxKOマウス(n = 5)およびKPPC対照マウス(n = 4)の腫瘍組織からの全RNAで行った。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、KPPC;Col1pdxKO腫瘍におけるインターフェロン応答、炎症応答、間葉性シグネチャー、IL6/IL2経路、およびKras下方制御シグナル伝達に関連する特徴的な経路において有意に上方制御された転写シグネチャーを明らかにした(図5CおよびD)。これらの結果は、がん細胞におけるCol1欠失時の免疫応答、免疫浸潤、および間質応答の上昇を実証しており、これらがPDAC進行の抑制にさらに寄与している。炎症がPDACの発達に直接寄与することが示されていることを考えると、これは驚くべきことであるが、これらの結果は、がん細胞におけるCol1欠失時のいっそう良好な組織像を伴ったPDAC発達の遅延での炎症経路の上方制御を明らかにしている。対照的に、GSEAは、KPPC腫瘍におけるTGF-βシグナル伝達および有糸分裂紡錘体調節に関連する特徴的な経路で有意に上方制御された転写シグネチャーも明らかにし、これらの腫瘍におけるいっそう進行したPDAC段階と一致していた。
【0268】
RNA配列決定分析は、それぞれKPPCおよびKPPC;Col1pdxKO原発がん細胞株からの全RNAにおいても行われた。がん細胞におけるCol1a1の欠失により、遺伝子発現プロファイルの有意な変化が観察された(図5HおよびI)。
【0269】
実施例6. PDACがん細胞は、Col1欠失時に有意な表現型の変化を示した
原発性膵臓がん細胞株も、それぞれKPPC;Col1pdxKOマウスおよびKPPC対照マウスの腫瘍組織から確立された。図6Aに示されるように、KPPC;Col1pdxKO原発がん細胞株は、KPPCがん細胞株(コロニー中で増殖している石畳形状の細胞)と比較した場合に低下した細胞接着および異なる細胞形態(紡錘形状の細胞)を明らかにした。
【0270】
2D細胞培養システムにおけるKPPC;Col1pdxKO原発がん細胞株の増殖は、KPPCがん細胞株の増殖よりも有意に遅かった(MTT; 図6B)。KPPC;Col1pdxKO原発がん細胞株は、3Dマトリゲル(Matrigel)における腫瘍球形成の能力の妨害も明らかにした(図6CおよびD)。
【0271】
興味深いことに、KPPCマウス由来の初代PDAC細胞は、Col1a2遺伝子のDNA高メチル化およびCol1a2発現の喪失により、いくつかのがんタイプのがん細胞がCol1ホモ三量体(α1)3を発現するという考えと一致して、Col1a2ではなくCol1a1の検出可能な発現レベルを明らかにした(図6E)。注目すべきことに、KPPC;Col1pdxKOマウス由来の初代PDAC細胞は、Col1a1の効率的なノックダウンを示したが、おそらく補完機構のために、Col4a1、Col5a2、およびCol9a1の発現レベルを有意に上昇させた(図6E)。
【0272】
Col1a2遺伝子のDNAメチル化レベルを調べるために、KF、KPF、KPPF、KPC、およびKPPC系統を含むさまざまなPDACトランスジェニックマウスモデルの腫瘍から確立された複数のPDAC細胞株においてメチル化DNA免疫沈降(MeDIP)アッセイを行った(図6F)。MeDIPアッセイにより、これらのマウス初代PDAC細胞におけるCol1a1遺伝子ではなくCol1a2遺伝子のDNA高メチル化(図6F)、およびヒトがん細胞株における一貫した所見(図12C)が明らかにされた。対照的に、KPPCマウス腫瘍から単離された線維芽細胞は、非常に低レベルのCol1a2 DNAメチル化を明らかにし(図6F)、高レベルのCol1a1およびCol1a2の両方を同様のレベルで発現した(図13)。さらに、脱メチル化剤5-アザシチジンの処理により、がん細胞においてCol1a2の発現レベルが部分的に回復したが、線維芽細胞においては回復しなかった(図13)。これらの結果から、DNA高メチル化によるがん細胞でのCol1a2の発現の抑制が確認された。
【0273】
次に、KPPCおよびKPPC;Col1pdxKOがん細胞株を、さまざまな濃度のCol1で処理した際の細胞増殖について調べた。興味深いことに、Col1処理はKPPCがん細胞株の細胞増殖をわずかに阻害したが、KPPC;Col1pdxKOがん細胞株の増殖を有意に阻害した(図12D)。がん細胞由来のホモ三量体Col1とは対照的に、ラット尾腱から単離されたCol1がヘテロ三量体であることを考えると、これは興味深いことである。これらの所見は、特にがん細胞が独自のCol1a1ホモ三量体について欠失されている場合、筋線維芽細胞由来のヘテロ三量体Col1が膵臓腫瘍の増殖を抑制するという結果と一致している。これらの結果は、がん細胞由来のCol1ホモ三量体と正常組織由来のCol1ヘテロ三量体の異なる機能を示している。
【0274】
興味深いことに、KPPC;Col1pdxKOがん細胞は、上皮細胞およびがん細胞におけるCol1の受容体の1つであるDDR1の予想外の増加を明らかにした。次に、DDR1阻害剤(3-(2-(ピラゾロ(1,5-a)ピリミジン-6-イル)-エチニル)ベンズアミド化合物(7rh)の効果をCol1サプリメント(ラット尾部からのCol1ヘテロ三量体溶液)の存在下においてKPPCおよびKPPC;Col1pdxKOがん細胞株の両方について試験した。興味深いことに、KPPC;Col1pdxKOがん細胞はKPPC対照細胞とは違って7rhに応答し、より低投与量の7rhで顕著な細胞増殖の増加を示した。この結果から、低濃度の7rhは供給されたCol1ヘテロ三量体溶液によりKPPC;Col1pdxKOがん細胞に対する増殖阻害を逆転させうるが、より高濃度の7rhはこのシグナル伝達経路を最終的に遮断し、細胞増殖を有意に阻害しうることが示唆される。
【0275】
実施例7. Fsp1を発現する線維芽細胞亜集団におけるCol1の欠失は、PDACの進行に影響を与えなかった
αSMAを発現する活性化PSCのCol1欠失が、PanIN発達の加速をもたらすことを示した以前の所見を考慮して、次に、PDAC内の別の線維芽細胞亜集団におけるCol1欠失も同様の表現型につながりうるかどうかを問うた。KPPF;Col1fspKO (FSF-KrasG12D/+;Trp53frt/frt;Pdx1-Flp;Fsp1-Cre;Col1a1loxP/loxP)マウス(図14A)を、線維芽細胞特異的Fsp1-Cre導入遺伝子を用いて作出した。興味深いことに、Fsp1発現線維芽細胞におけるCol1欠失を可能にするKPPF;Col1fspKOマウスは、KPPC同腹仔対照マウスと比較した場合、動物の生存およびPDACの進行に差がないことを明らかにした(図14B)。KPPF;Col1fspKOシステムは、単離された初代Fsp1発現線維芽細胞において確認されたように、Fsp1発現線維芽細胞においてCol1を効率的に欠失した(図14C)。しかしながら、PDAC組織におけるCol1の全体的なレベルはKPPF対照マウスと比較した場合、KPPF;Col1fspKOマウスにおいて有意に低下していなかったこと(図14D)から、Fsp1発現線維芽細胞亜集団がPDAC間質におけるCol1の主要な寄与因子ではない可能性があることが示唆された。これらの結果は、PDAC微小環境における線維芽細胞亜集団の不均一性およびコラーゲン沈着におけるそれらのさまざまな寄与を裏付けている。
【0276】
線維芽細胞亜集団の不均一性をさらに精査するために、Pdx1系統のがん細胞がEGFPを発現し、Fsp1系統の線維芽細胞がtdTomatoを発現するKPPF;Fsp1-Cre;R26Dualマウス(図15A)を作出した。このマウスモデルにおけるFsp1-Cre導入遺伝子の特異性および有効性は、Fsp1抗体染色とFsp1-Cre誘導tdTomatoシグナルとの間の共局在化によって確認された(図15B)。興味深いことに、Fsp1を発現する線維芽細胞は、PDAC間質の間質局在パターンを明らかにし、これは、αSMAを発現する活性化PSCの腫瘍周囲局在とは有意に異なっていた(図15B)。Fsp1とαSMA線維芽細胞亜集団の間のそのような最小限の共局在化は、αSMA抗体およびFsp1抗体を用いた免疫蛍光染色によっても確認された(図15C)。
【0277】
本明細書において開示および主張される方法は全て、本発明を考慮すれば過度の実験なく作出および実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記述してきたが、本発明の概念、趣旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記述される方法および本明細書において記述される方法の段階または段階の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。さらに具体的には、本明細書において記述される薬剤の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある種の薬剤を用いることができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることが明らかである。当業者に明らかな、このような類似の代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0278】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載されるものを補足する他の詳細を示す程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図8A
図8B
図8C
図9-1】
図9-2】
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C