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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】紙含有立体構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B31D 5/04 20170101AFI20241209BHJP
【FI】
B31D5/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022526561
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019718
(87)【国際公開番号】W WO2021241543
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2020090550
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020151562
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】重宗 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】前田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】細矢 直基
(72)【発明者】
【氏名】三枝 優弥
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-350906(JP,A)
【文献】特表平10-500638(JP,A)
【文献】特開2003-300265(JP,A)
【文献】特開昭52-56693(JP,A)
【文献】重宗 宏毅 Hiroki SHIGEMUNE Hiroki SHIGEMUNE,有機アクチュエータを用いた印刷法による紙ロボットの製作 Design of printed paper robot with organic actuator,ロボティクス・メカトロニクス 講演会2014 講演論文集 Proceedings of the 2014 JSME Conference on Robotics and Mechatronics ,一般社団法人 日本機械学会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31D 5/04
B31F 1/36
A63H 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートが折り曲げられて構成された、紙含有立体構造体の製造方法であって、
前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させることにより、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製する工程(A)と、
前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において、自律的に折り曲げる工程(B)と、
を有し、前記工程(A)では、前記紙含有シートの前記一方の面に水あるいは水のみを溶媒成分とし常温下において5質量%以下で水和パラメーターが0.5~20.0である溶質を含む水溶液を付着させ、前記一方の面に付着させた前記水あるいは前記水溶液中の水を前記紙含有シートに浸透させる紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(B)において、前記紙含有シートの両面のうち、前記水の濃度が高い側の面を内向きにして、前記紙含有シートを自律的に折り曲げる、請求項1に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、前記紙含有シートに浸透させる前記水の量を、1.0×10-12~10g/mmとする、請求項1又は2に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)において、前記水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに、実線状又は点線状に作製する、請求項1~3のいずれか一項に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B)において、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを、常圧下で、温度-273.15~1.0×10℃、相対湿度0~100%の条件下で乾燥させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項6】
前記工程(A)において、前記紙含有シートの表面方向において、前記水の浸透量が互いに異なる、前記水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製する、請求項1~5のいずれか一項に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)において、互いに異なる2種以上の水溶液を、前記紙含有シートの互いに異なる領域に対して、別々に付着させることによって、前記紙含有シートの表面方向において、前記水の浸透量が互いに異なる、前記水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製する、請求項6に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【請求項8】
前記2種以上の水溶液として、溶質の水和パラメーターがすべて互いに異なるものを用いる、請求項7に記載の紙含有立体構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙含有立体構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
折り紙技術は、1枚の紙を折ることによって、多様な立体構造を形成できる利点を有しており、折り曲げのパターンを工夫することによって、展開と収納の機能の繰り返し利用が可能となったり、機械的強度が比較的高い構造体の形成が可能となることから、種々の分野での応用が期待されている。例えば、3次元電子デバイスの製造、軽量かつ安価な衝撃緩衝材の製造、シートの折り畳みによる省スペース化等に、折り紙技術の適用が想定される。
【0003】
このような中、紙に対して、その外部から何らかの働きかけを行うことにより、紙が自ら折れ曲がるようにする、自律的な紙の折り曲げ技術が注目されており、このような技術は、“self-folding”(自己折り畳み)という用語で語られることもある。このような紙の自律的な折り曲げ技術の開発によって、上記のような折り紙の特性の利用が大きく進展することが期待される。
【0004】
このような折り曲げ技術としては、紙に、その外部からの刺激に対して応答する材料を配置しておき、刺激を加えたときのこの材料の応答を利用することで、紙を自律的に折り曲げる技術が、これまでに報告されている。ここで刺激としては、電流、熱等が挙げられる。
しかし、このような折り曲げ技術では、電流、熱等の、何らかのエネルギーの供給が必要であるため、利用環境が制限される可能性があるという問題点があり、さらに、紙も特殊な材料で修飾する必要があるため、高コストであるという問題点があった。
【0005】
このような問題点を解決できる手法として、インクジェットプリンターを用いて、2-プロパノールを含有する水溶液を紙に吐出し、乾燥させる手法が開示されている(非特許文献1参照)。この手法では、電流、熱等のエネルギーの紙への供給も不要であり、紙を特殊な材料で修飾する必要もないため、実用性が高いという利点を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hiroki Shigemune,Shingo Maeda,Yusuke Hara, and Shuji Hashimoto.“Design of paper mechatronics:Towards a fully printed robot” Proceedings of 2014 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS 2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1で開示されている手法は、これまでのその他の手法の問題点を解決できる点で有用であるが、実用的な立体構造体の製造方法へと適用するために、さらなる改良が望まれる。また、このような折り曲げ技術は、紙だけでなく、紙と他の材料を併用した複合紙へも適用できれば、有用性がさらに高まる。
【0008】
本発明は、折り紙技術を利用した、実用性が高い、新規の立体構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、紙からなるか、又は紙を主成分とする紙含有シートが折り曲げられて構成された、紙含有立体構造体の製造方法であって、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させることにより、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製する工程(A)と、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において、自律的に折り曲げる工程(B)と、を有し、前記工程(A)では、前記紙含有シートの前記一方の面に水あるいは水のみを溶媒成分とし常温下において5質量%以下で水和パラメーターが0.5~20.0である溶質を含む水溶液を付着させ、前記一方の面に付着させた前記水あるいは前記水溶液中の水を前記紙含有シートに浸透させる紙含有立体構造体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(B)において、前記紙含有シートの両面のうち、前記水の濃度が高い側の面を内向きにして、前記紙含有シートを自律的に折り曲げることが好ましい。
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(A)において、前記紙含有シートに浸透させる前記水の量を、1.0×10-12~10g/mmとすることが好ましい。
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(A)において、前記水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに、実線状又は点線状に作製することが好ましい。
【0011】
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(B)において、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを、常圧下で、温度-273.15~1.0×10℃、相対湿度0~100%の条件下で乾燥させることが好ましい。
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(A)において、前記紙含有シートの表面方向において、前記水の浸透量が互いに異なる、前記水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製することが好ましい。
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記工程(A)において、互いに異なる2種以上の水溶液を、前記紙含有シートの互いに異なる領域に対して、別々に付着させることによって、前記紙含有シートの表面方向において、前記水の浸透量が互いに異なる、前記水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製してもよい。
本発明の紙含有立体構造体の製造方法においては、前記2種以上の水溶液として、溶質の水和パラメーターがすべて互いに異なるものを用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、折り紙技術を利用した、実用性が高い、新規の立体構造体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(A)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図1B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(A)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図1C】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(A)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(A)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法において、紙含有シートに対して形成する、水の濃度勾配を有する部位の形状の一例を、模式的に示す平面図である。
図3B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法において、紙含有シートに対して形成する、水の濃度勾配を有する部位の形状の一例を、模式的に示す平面図である。
図3C】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法において、紙含有シートに対して形成する、水の濃度勾配を有する部位の形状の一例を、模式的に示す平面図である。
図3D】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法において、紙含有シートに対して形成する、水の濃度勾配を有する部位の形状の一例を、模式的に示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法において、水の濃度勾配を有し、水の浸透量が互いに異なる部位を作製した紙含有シートの一例を、模式的に示す断面図である。
図5A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(B)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図5B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、工程(B)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
図6A】紙含有シートの折れ曲がりの角度の測定方法を説明するための模式図である。
図6B】紙含有シートの折れ曲がりの角度の測定方法を説明するための模式図である。
図7A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の一例を模式的に示す斜視図である。
図7B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の一例を模式的に示す斜視図である。
図7C】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の一例を模式的に示す斜視図である。
図8】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法で用いる、紙含有シートの他の例を、模式的に示す平面図である。
図9A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図9B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図10A】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図10B】本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図11】実施例1において、工程(A)を行った後の紙含有シートを示す平面図である。
図12】実施例1において、工程(B)を行った後の、紙含有シートの折れ曲がりの角度の測定結果を示すグラフである。
図13】実施例1で測定された紙含有シートの折れ曲がりの角度の測定結果を、規格化したインク吐出量とともに示すグラフである。
図14】実施例1における、紙含有立体構造体の折れ曲がり部の角度の測定結果の一例を示すグラフである。
図15】実施例2における、紙含有立体構造体とその製造工程を説明するための概略図である。
図16】実施例3における、紙含有立体構造体とその製造工程を説明するための概略図である。
図17】実施例4における、紙含有立体構造体とその製造工程を説明するための概略図である。
図18】実施例5における、紙含有立体構造体とその製造工程を説明するための概略図である。
図19】実施例6における、紙含有立体構造体とその製造工程を説明するための概略図である。
図20】実施例7で製造した紙含有立体構造体の撮像データである。
図21】試験例1における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの膨張し易さと、の関係を示すグラフである。
図22】試験例2における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの乾燥し易さと、の関係を示すグラフである。
図23】試験例3における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質の種類と、紙含有シートの膨張し易さと、の関係を示すグラフである。
図24】試験例4における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質の種類と、紙含有シートの乾燥し易さと、の関係を示すグラフである。
図25】実施例8における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの折れ曲がりの角度と、の関係を示すグラフである。
図26】実施例9における、紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、浸透させた領域の幅と、紙含有シートの折れ曲がりの角度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<紙含有立体構造体の製造方法>>
本発明の一実施形態に係る紙含有立体構造体の製造方法は、紙からなるか又は紙を主成分とする紙含有シートが折り曲げられて構成された、紙含有立体構造体の製造方法であって、前記紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させることにより、前記紙含有シートの厚さ方向に水の濃度勾配を有する部位を、前記紙含有シートに1又は2以上作製する工程(A)と、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させることにより、前記紙含有シートを、その前記水の濃度勾配を有していた部位において、自律的に折り曲げる工程(B)と、を有する。
【0015】
本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法によれば、特殊な材料を用いることなく、紙含有シートへのエネルギーの供給も必要とせず、実用的かつ効率的に、紙含有シートを用いて紙含有立体構造体を製造できる。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。なお、以降の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
図1A図1Cは、本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法における、工程(A)の一例を、模式的に説明するための断面図である。
【0017】
<工程(A)>
前記工程(A)においては、紙含有シートに対して、その一方の面から水を浸透させる。そのためには、例えば、図1Aに示すように、紙含有シート1の一方の面1aに、水9を付着させる。このとき、紙含有シート1の厚さTを考慮して、過剰量とはならない適切な量の水9を、紙含有シート1の一方の面1aに付着させることにより、図1B又は図1Cに示すように、紙含有シート1に対して、その一方の面1aから水9を浸透させることができる。図1Bは、紙含有シート1が、その一方の面1aが凸状となるように反った状態であり、典型的には、このような状態を経た後、図1Cに示すように、反りが解消された状態となる。
【0018】
図1Bに示すように、紙含有シート1が反る理由は、紙含有シート1の一方の面1aから、他方の面1bへ向けて、水9が浸透して行く過程で、紙含有シート1の一方の面1a側が、他方の面1b側よりも、水9の濃度が高く(含有量が多く)なることによって、紙含有シート1の一方の面1a側が膨張するためである。時間の経過とともに、この水9の濃度差が小さくなるにしたがって、紙含有シート1の膨張の影響が緩和され、図1Cに示すように、紙含有シート1の反りが解消される。
【0019】
紙含有シート1は、紙からなるシート(すなわち紙製シート)、又は紙を主成分とするシートであり、主成分としてセルロースを含有する。
【0020】
前記紙からなるシート(紙製シート)としては、例えば、トレーシングペーパー等が挙げられる。
【0021】
紙を主成分とするシートは、紙と、それ以外の他の成分を含有する。
前記他の成分は、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の成分として、より具体的には、例えば、樹脂、シリカゲル等が挙げられる。
【0022】
紙を主成分とするシートが含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に選択できる。
【0023】
紙を主成分とするシートにおいて、このシートの総質量に対する、前記他の成分の含有量の割合([紙を主成分とするシート中の前記他の成分の量(質量部)]/[紙を主成分とするシートの総質量(質量部)]×100)は、40質量%以下であることが好ましく、例えば、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、及び5質量%以下のいずれかであってもよい。前記割合が前記上限値以下であることで、紙含有シートを1より効率的に折り曲げることができる。
一方、前記割合は0質量%超であり、例えば、1質量%以上であってもよい。前記割合の下限値が大きいほど、前記他の成分を含んでいることにより得られる効果が、より高くなる。
【0024】
紙含有シート(紙からなるシート、紙を主成分とするシート)1は、1層(単層)からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよい。紙含有シートが複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
【0025】
本明細書においては、「複数層が互いに同一でも異なっていてもよい」とは、「すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよいし、一部の層のみが同一であってもよい」ことを意味し、さらに「複数層が互いに異なる」とは、「各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なる」ことを意味する。
【0026】
紙含有シート1の厚さTは、目的に応じて任意に選択できるが、1.0×10-6~1,0×10μmであることが好ましく、1~1000μmであることがより好ましい。Tがこのような範囲であることで、紙含有シート1をより高精度に折り曲げることができる。
ここで、「紙含有シートの厚さ」とは、紙含有シート全体の厚さを意味し、例えば、複数層からなる紙含有シートの厚さとは、紙含有シートを構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0027】
紙含有シート1の形状は、シート状であれば特に限定されず、目的とする紙含有立体構造体の構造に応じて、任意に選択できる。これらの形状及び構造については、後ほど詳細に説明する。
【0028】
水9は、例えば、インクジェット印刷法等により、水滴として、紙含有シート1の一方の面1aに付着させる(吐出する)ことができる。
【0029】
工程(A)において、紙含有シート1に浸透させる水9の量(付着量)は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、1.0×10-12~10g/mmとすることが好ましく、1.0×10-6~1g/mmとすることがより好ましい。浸透させる水9の量を、紙含有シート1の単位体積あたり、このような範囲とすることで、紙含有シート1をより効率的に折り曲げることができる。
【0030】
工程(A)においては、紙含有シート1に対して、その一方の面1aから水9を浸透させることにより、図1B又は図1Cに示すように、紙含有シート1の厚さT方向に水9の濃度勾配を有する部位11を、紙含有シート1に1又は2以上作製する。図1では、水の濃度勾配を有する部位11を、便宜上、1だけ示している。
【0031】
本明細書において、紙含有シートが、その厚さ方向に水の濃度勾配を有する、とは、紙含有シートが、その両面を最短距離で結ぶ方向において、単位体積あたりの水の含有量(水の濃度)が異なる領域を有する、ということを意味する。図1B及び図1Cにおいては、紙含有シート1の一方の面1aから他方の面1bへ向かって、紙含有シート1の水9の含有量が徐々に少なくなっていく状態を示している。本実施形態においては、通常はこのように、水9の浸透方向、すなわち、紙含有シート1の水9を付着させた面(前記一方の面1a)から、その反対側の面(前記一方の面1b)へ向かう方向において、紙含有シート1中の水9の量が減少していく。ただし、ここに示すのは、紙含有シート1中での水9の量の変化の一例である。
工程(A)においては、紙含有シート1の厚さTを考慮して、過剰量とはならない適切な量の水9を、紙含有シート1の一方の面1aに付着させることにより、このような水の濃度勾配を容易に形成できる。
【0032】
図1B及び図1Cでは、紙含有シート1に浸透させた水9は、紙含有シート1の他方の面1bには到達していないが、工程(A)においては、上記のように水9の濃度勾配が生じていれば、例えば、図2に示すように、紙含有シート1に浸透させた水9は、紙含有シート1の他方の面1bに到達していてもよい。
なお、図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0033】
工程(A)においては、このような水の濃度勾配を有する部位11を、紙含有シート1に1又は2以上作製する。
水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の折り曲げたい箇所に作製する。例えば、紙含有シート1を、その前記一方の面1a側の上方から見下ろして平面視したときの、水の濃度勾配を有する部位11の形状、大きさ及び数は、目的とする紙含有立体構造体に応じて決定する。
【0034】
図3A図3Dは、水の濃度勾配を有する部位11の形状の一例を、模式的に示す平面図である。ここでは、紙含有シート1を、その前記一方の面1a側の上方から見下ろして平面視したときの、水の濃度勾配を有する部位11の形状を示している。
【0035】
図3Aにおいて、水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向(換言すると表面方向)に、直線状に形成されている。すなわち、ここに示す水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向に、一繋がりとなって設けられている。
【0036】
図3Bにおいて、水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向に、点線状に形成されている。すなわち、ここに示す水の濃度勾配を有する部位11は、水の濃度勾配を有する個々の局所的な部位(図3B中、点で示している部位)が、互いに近接し、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向に、相互に間欠的に繋がりながら設けられている。本実施形態においては、このように、水の濃度勾配を有する局所的な部位が、互いに近接して設けられ、全体として何らかの形状を形成している場合に、1つの「水の濃度勾配を有する部位」として取り扱うことがある。
【0037】
図3Cにおいて、水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向に、一点鎖線状に形成されている。ここに示す、水の濃度勾配を有する部位11は、個々の局所的な部位のうち、一部の形状が異なっている点を除けば、図3Bに示す水の濃度勾配を有する部位11と同じである。
【0038】
図3Dにおいて、水の濃度勾配を有する部位11は、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向に、実線状に形成され、さらに、その実線の一方の端部からは、連続して点線状に形成されている。ここでは、水の濃度勾配を有する部位11のうち、実線状の部位には符号111を付し、点線状の部位には符号112を付している。
【0039】
本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位は、このように、異なる形状又はパターンが組み合わされて、形成されていてもよい。
図3Dにおいては、組み合わされている形状又はパターンが2種であるが、本実施形態において、1つの水の濃度勾配を有する部位を構成するのに組み合わされている、形状又はパターンは、3種以上であってもよい。
【0040】
工程(A)においては、水の濃度勾配を有する部位11を、紙含有シート1に、実線状又は点線状に作製することが好ましい。このようにすることで、紙含有立体構造体として、折り目を有する、所謂折り紙式のものを、容易に製造できる。
【0041】
工程(A)において、水の濃度勾配を有する部位11を、紙含有シート1に、実線状、点線状等の線状に作製する場合には、線幅は、1.0×10-6~1.0×10μmであることが好ましく、1.0×10-3~1.0×10μmであることがより好ましく、1.0~1.0×10μmであることがさらに好ましい。前記線幅がこのような範囲であることにより、紙含有シート1の自律的な折り曲げを、より効率的に行うことができる。
【0042】
工程(A)において、水の濃度勾配を有する部位が線状である場合の線幅は、経時と共に変化する可能性がある。本実施形態においては、特に断りのない限り、前記線幅とは、線幅が経時と共に変化しない場合には、その一定値の線幅を意味し、線幅が経時と共に変化する場合には、線幅の最大値を意味する。
例えば、図1Bに示すように、紙含有シート1が反った状態で、前記線幅が最大となる場合には、図1Bに示す線幅Wが上述の数値範囲であることが好ましい。一方、図1Cに示すように、紙含有シート1が反っていない状態で、前記線幅が最大となる場合には、図1Cに示す線幅Wが上述の数値範囲であることが好ましい。
前記線幅は、例えば、紙含有シート1を、その前記一方の面1a側の上方から見下ろして平面視することで、測定できる。
【0043】
工程(A)においては、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向(換言すると表面方向)において、水9の浸透量が互いに異なる、水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製してもよい。図4は、このような水の濃度勾配を有する部位として、第1部位12と、水の浸透量が前記第1部位12よりも多い第2部位13と、を作製した紙含有シート1の一例を、模式的に示す断面図である。
【0044】
水の濃度勾配を有する第1部位12と、水の濃度勾配を有する第2部位13と、の相違点は、水9の浸透量だけであり、これら部位は、この相違点以外は同じである。
このように、水9の浸透量が互いに異なる部位(前記第1部位12及び第2部位13)を作製することにより、水9の浸透量の違いに基づいて、後述する工程(B)において、これら部位での折り曲げの速度に差をつけることができる。そして、このように折り曲げの速度に差をつけることによって、より複雑な形状の紙含有立体構造体を製造できる。さらに、紙含有立体構造体として、これら部位での折り曲げの角度が互いに異なるものを製造できる。
【0045】
水の濃度勾配を有する第1部位12と第2部位13は、いずれも、上述の水の濃度勾配を有する部位11と同様の形態とすることができる。
【0046】
水の濃度勾配を有する第1部位12と第2部位13は、紙含有シート1の一方の面1aに付着させる水9の量を、互いに変えることで作製できる。
【0047】
紙含有シート1の一方の面1aに、水9を付着させるときには、水溶液(図示略)を用いてもよい。すなわち、水9として、水溶液中の水を、紙含有シート1の一方の面1aに付着させてもよい。この場合も、水のみを用いた場合と同様に、紙含有シート1に対して水9を浸透させることができる。この場合、水溶液中の溶質も、紙含有シート1に浸透することがある。
本明細書においては、水と水溶液を包括して「水性媒体」と称することがある。
【0048】
前記水溶液中の溶質としては、例えば、塩等の電解質、染料等が挙げられる。
前記水溶液中の溶質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0049】
前記水溶液中の、常温で液状の水以外の成分の濃度は、低いほど好ましく、例えば、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0050】
本実施形態においては、このように溶媒成分の大部分が水である前記水溶液、又は、溶媒成分として水のみ、を紙含有シート1に付着させることによって、紙含有シート1の自律的な折り曲げを、より速く、より大きな折り曲げ角度で行うことができる。
【0051】
例えば、上述の非特許文献1には、2-プロパノールを含有する水溶液として、水と2-プロパノールを「水:2-プロパノール=90:10」の質量比で含有するものを用いて、紙からなるシートを自律的に折り曲げる技術が開示されている。しかし、2-プロパノールのような低級アルコールは、水とよく混和するものの、紙含有シートを自律的に折り曲げる作用を有しないか、又は有していても、作用が水よりも著しく劣っている。そのため、同量で比較した場合、上述の2-プロパノールを含有する水溶液を用いた場合には、上述の溶媒成分の大部分が水である水溶液、又は、溶媒成分として水のみ、を用いた場合よりも、紙含有シートの自律的な折り曲げは、速度が遅く、小さな折り曲げ角度にとどまる。
すなわち、本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法は、従来よりも、紙含有シートの自律的な折り曲げを、より速い速度、より大きな折り曲げ角度で行うことができる点で、顕著な効果を奏する。
【0052】
工程(A)において、添加物を含有する水溶液を、紙含有シート1の一方の面1aに付着させる場合には、前記添加物の濃度が互いに異なる2種の水溶液を、紙含有シート1の互いに異なる領域に対して、別々に付着させてもよい。
【0053】
工程(A)においては、水溶液を用い、水9として、水溶液中の水を、紙含有シート1の一方の面1aに付着させる場合には、互いに異なる2種の水溶液を、紙含有シート1の互いに異なる領域に対して、別々に付着させてもよい。このようにすることで、紙含有シート1の前記一方の面1aに対して平行な方向(換言すると表面方向)において、水9の浸透量が互いに異なる部位(前記第1部位12及び第2部位13)を、紙含有シート1中に作製できる。
【0054】
水の濃度勾配を有する第1部位12と第2部位13の作製に用いる2種の水溶液中の溶質は、互いに同一でも異なっていてもよい。
すなわち、これら2種の水溶液は、互いに同一の溶質を含有し、かつ溶質の濃度が互いに異なっていてもよいし、互いに異なる溶質を含有し、かつ溶質の濃度が互いに異なっていてもよいし、互いに異なる溶質を含有し、かつ溶質の濃度が互いに同一であってもよい。
これら2種の水溶液のいずれか一方又は両方が、2種以上の塩を含有する場合には、前記塩の濃度とは、含有する全ての塩の合計濃度である。
【0055】
例えば、紙含有シート1の前記一方の面1aに、溶質の種類が同じで、溶質の濃度が異なる2種の水溶液を、同量付着させた場合には、付着させた水溶液中の水9の量が異なるために、紙含有シート1中に浸透する、これら水溶液中の水9の量は、互いに異なる。水溶液の溶質の濃度が低いほど、紙含有シート1中への、水溶液中の水9の浸透量が多くなる傾向にある。また、この場合には、紙含有シート1中への水9の浸透速度も、これら水溶液同士の間で、互いに異なる。水溶液の溶質の濃度が低いほど、水9の浸透速度が速くなる傾向にある。
【0056】
また、例えば、紙含有シート1の前記一方の面1aに、溶質の種類が異なり、溶質の濃度(M)が同じである2種の水溶液を、同量付着させた場合には、これら溶質の水和パラメーターが互いに異なっていれば、紙含有シート1中に浸透する、これら水溶液中の水9の量は、互いに異なる。これは、溶質の水和パラメーターが異なることで、溶質を水和する水分子の量が異なり、紙含有シート1中への水9の浸透し易さ(水の浸透速度)が異なってくるからである。通常は、溶質の水和パラメーターが小さいほど、溶質を水和する水分子の量が少なくなり、紙含有シート1へ水9が浸透し易くなり、紙含有シート1中への、水溶液中の水9の浸透量が多くなる傾向にある。また、この場合には、紙含有シート1中への水9の浸透速度も、これら水溶液同士の間で、互いに異なる。溶質の水和パラメーターが小さいほど、水9の浸透速度が速くなる傾向にある。
【0057】
このように、互いに異なる2種の水溶液を、又は、水と水溶液を、併用することで、紙含有シート1中への水9の浸透速度及び浸透量を調節することで、前記第1部位12及び第2部位13を、容易に作製できる。
【0058】
前記溶質は、水溶性を有する(換言すると、水和可能である)ものであれば特に限定されず、任意に選択できる。
前記水溶液は、中性であることが好ましい。
【0059】
前記溶質のうち、前記塩は、有機塩及び無機塩のいずれであってもよいが、無機塩であることが好ましい。
前記無機塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl、水和パラメーター:7.1)、塩化ナトリウム(NaCl、水和パラメーター:3.5)、塩化カリウム(KCl、水和パラメーター:1.9)、塩化ルビジウム(RbCl、水和パラメーター:1.2)等のアルカリ金属の塩化物;臭化リチウム(LiBr、水和パラメーター:7.6)、臭化ナトリウム(NaBr、水和パラメーター:4.2)、臭化カリウム(KBr、水和パラメーター:2.1)、臭化ルビジウム(RbBr、水和パラメーター:0.9)等のアルカリ金属の臭化物;ヨウ化リチウム(LiI、水和パラメーター:9.0)、ヨウ化ナトリウム(NaI、水和パラメーター:5.5)、ヨウ化カリウム(KI、水和パラメーター:2.5)、ヨウ化ルビジウム(RbI、水和パラメーター:0.6)等のアルカリ金属の臭化物;塩化マグネシウム(MgCl、水和パラメーター:13.7)、塩化カルシウム(CaCl、水和パラメーター:12.0)、塩化ストロンチウム(SrCl、水和パラメーター:10.7)等の第2族金属の塩化物;臭化マグネシウム(MgBr、水和パラメーター:17.0)、臭化カルシウム(CaBr、水和パラメーター:14.6)、臭化ストロンチウム(SrBr、水和パラメーター:12.7)等の第2族金属の臭化物;ヨウ化マグネシウム(MgI、水和パラメーター:19.0)、ヨウ化カルシウム(CaI、水和パラメーター:17.0)、ヨウ化ストロンチウム(SrI、水和パラメーター:15.5)等の第2族金属のヨウ化物;塩化マンガン(MnCl、水和パラメーター:11.0)、塩化第一鉄(FeCl、水和パラメーター:12.0)、塩化コバルト(CoCl、水和パラメーター:13.0)、塩化ニッケル(NiCl、水和パラメーター:13.0)等の遷移金属の塩化物等が挙げられる。
【0060】
前記溶質は、例えば、入手性及び使用適性の点で、水和パラメーターが0.5~20.0であるものが好ましい。
【0061】
紙含有シート1に対して、水溶液中の水9を浸透し易くするためには、溶質として、例えば、その水和パラメーターが0.5~9であるものを選択できる。
紙含有シート1に対して、水溶液中の水9の浸透を抑制気味にするためには、溶質として、例えば、その水和パラメーターが15~20であるものを選択できる。
【0062】
前記水溶液中の溶質の濃度は、特に限定されず、飽和濃度以下であればよい。前記水溶液中の溶質の濃度は、例えば、1~20Mであってもよいが、1~7Mである場合には、工程(A)と、後述する工程(B)を、より安定して行うことができる。
【0063】
ここでは、互いに異なる水溶液を2種用いて、水の濃度勾配を有する第1部位12と、水の濃度勾配を有する第2部位13と、を作製する場合について説明したが、本実施形態で用いる、互いに異なる水溶液の種類は、水9の浸透量が互いに異なる、水の濃度勾配を有する部位の作製数に応じて、任意に選択でき、3種以上であってもよい。
すなわち、工程(A)においては、互いに異なる2種以上の水溶液を、紙含有シートの互いに異なる領域に対して、別々に付着させることによって、紙含有シートの表面方向において、水の浸透量が互いに異なる、水の濃度勾配を有する部位を、2以上作製してもよい。
この場合、例えば、前記2種以上の水溶液としては、溶質の水和パラメーターがすべて互いに異なるものを用いることができる。
【0064】
工程(A)において、紙含有シート1に水9を付着させ、浸透させるときの、環境の圧力は、0~1.0×1012Paであることが好ましく、1.0×10~1.0×10Paであることがより好ましく、1.0×10~1.0×10Paであることがさらに好ましく、例えば常圧(大気圧)下であってもよい。このような圧力条件下においては、水9をより良好に紙含有シート1に浸透させることができる。
【0065】
工程(A)において、紙含有シート1に水9を付着させ、浸透させるときの温度は、-273.15~1.0×10℃であることが好ましく、-10~1.0×10℃であることがより好ましく、1.0×10-12~100℃であることがさらに好ましく、例えば、10~35℃であってもよい。このような温度条件下においては、水9をより良好に紙含有シート1に浸透させることができる。
【0066】
工程(A)において、紙含有シート1に水9を付着させ、浸透させるときの相対湿度は、0~100%であることが好ましく、10~80%であることがより好ましく、例えば、20~65%、及び20~40%のいずれかであってもよい。このような相対湿度の条件下においては、水9をより良好に紙含有シート1に浸透させることができる。
【0067】
工程(A)において、紙含有シート1に水9を付着させてから、浸透させるときの時間は、このときのその他の条件に応じて、任意に設定でき、特に限定されない。例えば、前記時間は、100000分以内であってもよい。
【0068】
工程(A)においては、紙含有シート1に水9を付着させてから、浸透させるときの環境の圧力、温度、相対湿度及び時間からなる群より選択される2以上を、上述の条件に設定することが好ましく、紙含有シート1に水9を付着させてから、浸透させるときの環境の圧力、温度、相対湿度及び時間のすべてを、上述の条件に設定してもよい。
例えば、工程(A)においては、紙含有シート1に水9を付着させてから、浸透させるとき、これらの工程を、常圧下で、温度-273.15~1.0×10℃、相対湿度0~100%の条件下で行うことが好ましく、例えば、常圧下で、温度10~35℃、相対湿度20~65%の条件下で行ってもよい。ただし、これは、水9の付着及び浸透の好ましい条件の一例である。
【0069】
<工程(B)>
前記工程(A)の後、前記工程(B)においては、前記水の濃度勾配を有する状態の前記紙含有シートを乾燥させる。これにより、例えば、図5Aに示すように、紙含有シート1は、その水の濃度勾配を有する部位11において、一方の面1aが凹状となるように、折れ曲がりはじめ、乾燥(換言すると水9の除去)が進行するとともに、折れ曲がりの角度が大きくなり、例えば、図5Bに示すように、乾燥が終了した状態で、目的とする紙含有立体構造体10が形成される。
本実施形態においては、このように、水の濃度勾配を有する状態の(換言すると、水の濃度勾配を有する部位11が存在する)紙含有シート1を乾燥させることにより、紙含有シート1を、その水の濃度勾配を有していた部位11’において、自律的に折り曲げる。
【0070】
紙含有シート1中では、当初、セルロース分子同士が水素結合によって結合している。 前記工程(A)において、紙含有シート1に水9を浸透させると、先の説明のように、その一方の面1a側が膨張するが、紙含有シート1中では、水分子がセルロース分子間の水素結合を切断し、セルロース分子間に水分子が介在した状態となり、セルロース分子-水分子-セルロース分子の分子間結合が形成されると推測される。
一方、紙含有シート1は、その製造方法に起因して、外力によってひずみが生じた状態のまま製造されている。このような紙含有シート1に対して、工程(A)に次いで工程(B)を行うと、乾燥によって、紙含有シート1中の水9が低減されるに従って、紙含有シート1中では、再度、セルロース分子同士が水素結合によって結合する。このとき、紙含有シート1は、当初の状態よりも、ひずみが低減又は解消されて安定した状態となり、水9の浸透前よりも収縮すると推測される。このとき生じる収縮力によって、紙含有シート1は、最終的に図5Bに示すように、その水の濃度勾配を有していた部位11’において、自律的に折れ曲がると推測される。
【0071】
工程(B)においては、このように、紙含有シート1の両面(すなわち、一方の面1aと他方の面1b)のうち、水9の濃度が高い側の面(すなわち、一方の面1a)を内向き(すなわち、他方の面1bを外向き)にして、紙含有シート1を自律的に折り曲げる。
【0072】
紙含有シートを自律的に折り曲げたとき、折り曲げ部位は、必ずしも明確な折り目を有するとはいえず、折り曲げ部位の表面は曲面となっていることが多い。紙含有シートの折れ曲がりの角度は、折り曲げ部位が明確な折り目を有する場合には容易に測定できるが、折り曲げ部位の表面が曲面となっている場合には、折り目を有する場合と同様の方法では、測定が困難である。このような場合、紙含有シートの折れ曲がりの角度は、以下の方法で測定できる。図6A図6Bは、このような場合の、紙含有シートの折れ曲がりの角度の測定方法を説明するための模式図であり、図6Aは折り曲げる前の紙含有シートを示す平面図であり、図6Bは折り曲げた後の紙含有シート(すなわち紙含有立体構造体)を示す正面図である。
【0073】
図6Aに示す紙含有シート8には、工程(A)により、幅W81の線状(太線状)の、水の濃度勾配を有する部位81が作製されている。紙含有シート8のうち、前記幅W81方向(換言すると、紙含有シート8の幅方向)において、水の濃度勾配を有する部位81よりも右側の部位は、第1部位802であり、左側の部位は、第2部位803である。前記第1部位802の幅W802と、前記第2部位803の幅W803は、W802≧W803の関係にある。
【0074】
工程(B)により、紙含有シート8を自律的に折り曲げることで、図6Bに示すように、紙含有立体構造体80が形成された場合を考える。
紙含有立体構造体80(紙含有シート8)中の、水の濃度勾配を有していた部位81’においては、その一方の面8aが凹状(他方の面8bが凸状)の曲面となっている。
【0075】
ここで、紙含有シート8の第1部位802のうち、水の濃度勾配を有していた部位81’との境界から、1/2W81の長さだけ、前記第1部位802の表面方向と同じ方向に、線分を伸ばし、その先端部を仮想端部Pとする。
前記第1部位802の、水の濃度勾配を有していた部位81’の側とは反対側の端部を第1端部Pとし、前記第2部位803の、水の濃度勾配を有していた部位81’の側とは反対側の端部を第2端部Pとする。
図6Bにおいては、仮想端部P、第1端部P及び第2端部Pを、これらを判り易くするために、便宜上、黒点を付して示している。
【0076】
この場合、第1端部Pと仮想端部Pを結ぶ線分を、さらに仮想端部Pを超えて延長した延長線分を作製し、この延長線分の延長部分と、第2端部Pと仮想端部Pを結ぶ線分と、の為す角度θ(°)を、紙含有シート8の折れ曲がりの角度として採用する。θは、通常、0°<θ<180°の条件を満たし、ここではθ>90°である場合を例示している。
一方、第1端部Pと仮想端部Pを結ぶ線分と、第2端部Pと仮想端部Pを結ぶ線分と、の為す角度θ(°)は、紙含有立体構造体80の折れ曲がり部の角度であり、180-θ(°)と同義である。θも、通常、0°<θ<180°の条件を満たし、ここではθ<90°である場合を例示している。
【0077】
工程(B)において、紙含有シート1を乾燥させるときの圧力は、0~1.0×1012Paであることが好ましく、1.0×10~1.0×10Paであることがより好ましく、1.0×10~1.0×10Paであることがさらに好ましく、例えば常圧(大気圧)下であってもよい。このような圧力下で紙含有シート1を乾燥させることにより、紙含有シート1の自律的な折り曲げを、より効率的に行うことができる。
【0078】
工程(B)において、紙含有シート1を乾燥させるときの温度(乾燥温度)は、-273.15~1.0×10℃であることが好ましく、-10~1.0×10℃であることがより好ましく、1.0×10-12~100℃であることがさらに好ましく、例えば、20~70℃であってもよい。このような温度条件下で紙含有シート1を乾燥させることにより、紙含有シート1の自律的な折り曲げを、より効率的に行うことができる。
【0079】
工程(B)において、紙含有シート1を乾燥させるときの相対湿度は、0~100%であることが好ましく、10~80%であることがより好ましく、例えば、20~65%、及び20~40%のいずれかであってもよい。このような相対湿度の条件下で紙含有シート1を乾燥させることにより、紙含有シート1の自律的な折り曲げを、より効率的に行うことができる。
【0080】
工程(B)において、紙含有シート1を乾燥させる時間(乾燥時間)は、乾燥時のその他の条件に応じて、任意に設定でき、特に限定されない。例えば、紙含有シート1を乾燥させる時間は、1.0×1030分以内であってもよいし、100000分以内であってもよいし、10000分以内であってもよい。
【0081】
工程(B)においては、紙含有シート1を乾燥させるときの圧力、温度、相対湿度及び時間からなる群より選択される2以上を、上述の条件に設定することが好ましく、紙含有シート1を乾燥させるときの圧力、温度、相対湿度及び時間のすべてを、上述の条件に設定してもよい。
例えば、工程(B)においては、水の濃度勾配を有する状態の紙含有シート1を、常圧下で、温度-273.15~1.0×10℃、相対湿度0~100%の条件下で乾燥させることが好ましく、例えば、常圧下で、温度20~70℃、相対湿度20~65%の条件下で乾燥させてもよい。ただし、これは、紙含有シート1の好ましい乾燥条件の一例である。
【0082】
工程(B)は、例えば、図1Bに示すように、紙含有シート1が反った状態で開始してもよいし、図1Cに示すように、紙含有シート1が反っていない状態で開始してもよい。
本実施形態においては、工程(A)を行った後、紙含有シート1を置く環境の条件(圧力、温度及び相対湿度等)を、乾燥を行うように人為的に変化させていない(すなわち、放置している)場合であれば、紙含有シート1中の水9の量の減少が明確に確認できた時点で、工程(B)を開始したものとすることができる。また、例えば、工程(A)を行った後、紙含有シート1を置く環境の条件を、乾燥を行うように人為的に変化させた場合には、この条件を変化させた時点で、工程(B)を開始したものとすることができる。
紙含有シート1中の水9の量の減少は、例えば、水9が浸透している紙含有シート1の質量を測定することで、確認できる。
【0083】
工程(A)において、互いに異なる2種以上の水溶液を、紙含有シート1の互いに異なる領域に対して、別々に付着させることによって、紙含有シート1の表面方向において、水9の浸透量が互いに異なる、水9の濃度勾配を有する部位を、2以上作製した場合には、前記2種以上の水溶液の使用方法に依存して、工程(B)において、前記2以上の部位間では、紙含有シート1の自律的な折れ曲がりの態様に、差を生じさせることができる。
【0084】
例えば、先の説明のとおり、工程(A)において、紙含有シート1へ水9を浸透させるときに、水溶液の溶質の濃度を調節するか、又は、溶質の種類を調節することにより、前記2以上の部位を作製し、次いで工程(B)を行うことにより、前記2以上の部位間で、紙含有シート1の自律的な折り曲げの角度又は速度に差を生じさせることが可能である。
【0085】
このように、互いに異なる2種以上の水溶液を、又は、水と水溶液を合計で2種以上、併用することで、紙含有シート1に、態様が互いに異なる、2以上の自律的な折れ曲がり部位を、より容易に形成できる。
【0086】
◎紙含有シートの形状
紙含有シートの形状は、目的とする紙含有立体構造体の構造に応じて、任意に選択できる。
図7A図7Cは、本実施形態で用いる紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の一例を模式的に示す斜視図である。
【0087】
図7Aに示す紙含有シート2は、2辺のうちの1辺の長さが長い十字型の形状を有している。
紙含有シート2を、同じ大きさの6枚の正方形状のシートの接合体とみなした場合、紙含有シート2に対して、工程(A)を行い、図7Bに示すように、これら正方形状のシートの接合部に相当する部位に、水の濃度勾配を有する部位21、22、23、24及び25を作製することができる。このとき、これら水の濃度勾配を有する部位21、22、23、24及び25は、すべて、紙含有シート2の同じ側の面、すなわち、一方の面2a側から水を浸透させることにより、作製することができる。
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート2を、その水の濃度勾配を有していた部位21’、22’、23’、24’及び25’において、前記一方の面2a側に自律的に折り曲げる。
以上により、図7Cに示すように、立方体状の紙含有立体構造体20を製造できる。
【0088】
図8は、本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法で用いる、紙含有シートの他の例を、模式的に示す平面図である。
ここに示す紙含有シート200は、図7Aに示す紙含有シート2において、その外周が90°の角度を成している4箇所の角部に、円周の約3/4に相当する円弧状の切欠き部29が設けられ、その直線状の外周上に位置し、かつ、上述の2枚の正方形状のシートの接合部と見做せる2箇所に、円周の約1/2に相当する円弧状の切欠き部28が設けられたものに相当する。
紙含有シート200は、このように、その外周のうち、折り曲げ予定箇所と重複する箇所に、切欠き部(4箇所の切欠き部29と、2箇所の切欠き部28)が設けられていることにより、図7Aに示す紙含有シート2の場合よりも、工程(B)における自律的な折り曲げが、より容易である。紙含有シート200を用いて、工程(B)を行うことにより、略立方体状の紙含有立体構造体を製造できる。
【0089】
◎変形例
本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法は、上述の態様に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、一部の構成が変更、削除又は追加されたものであってもよい。
【0090】
例えば、ここまでは、紙含有シートに対して、水の濃度勾配を有する部位を複数作製するときに、すべての水の濃度勾配を有する部位を、紙含有シートの同じ面(前記一方の面)側に作製する場合について説明したが、本実施形態においては、紙含有シートの両面(前記一方の面と前記他方の面)側に、それぞれ、1又は2以上の、水の濃度勾配を有する部位を作製してもよい。
【0091】
図9A図9Bは、本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図9Aに示す紙含有シート3は、その平面形状が矩形状であり、工程(A)を行うことにより、その一方の面3a側の2箇所に、直線状の水の濃度勾配を有する部位31が作製されており、その他方の面3b側の3箇所に、直線状の水の濃度勾配を有する部位32が作製されている。
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート3を、その水の濃度勾配を有していた部位31’において、前記一方の面3a側に自律的に折り曲げ、その水の濃度勾配を有していた部位32’において、前記他方の面3b側に自律的に折り曲げる。
以上により、図9Bに示すように、波型の紙含有立体構造体30を製造できる。
【0092】
ここまでは、紙含有シート中の水の濃度勾配を有する部位を、1本の独立した線状として作製し、この部位に沿って平面状の紙含有シートを、自律的に直線的に折り曲げる場合について説明したが、本実施形態においては、紙含有シート中の水の濃度勾配を有する部位の配置と、紙含有シートの自律的な折り曲げ方は、これに限定されない。
【0093】
図10A図10Bは、本実施形態における、水の濃度勾配を有する部位が作製され紙含有シートと、目的とする紙含有立体構造体と、の他の例を模式的に示す断面図である。
図10Aに示す紙含有シート4は、その平面形状が矩形状であり、工程(A)を行うことにより、その一方の面4a側には、直線状の多数の水の濃度勾配を有する部位41が、僅かな隙間を空けて、互いに平行に作製されている。これに対して、紙含有シート4の他方の面4b側には、水の濃度勾配を有する部位は作製されていない。
【0094】
次いで、工程(B)を行うことにより、紙含有シート4を、その水の濃度勾配を有していた部位41’において、前記一方の面4a側に自律的に折り曲げる。
以上により、紙含有シート4には、水の濃度勾配を有していた部位41’が、水の濃度勾配を有する部位41と同数存在するため、図10Bに示すように、半円筒状の紙含有立体構造体40を製造できる。
【0095】
なお、紙含有シート4への水の浸透量、又は水の濃度勾配を有する部位41の幅を調節することで、紙含有シート4の折り曲げの角度を調節できるため、紙含有立体構造体40を半円筒状以外の形状とすることも可能である。例えば、図10Bの場合よりも水の浸透量を増やすか、又は水の濃度勾配を有する部位41の幅を広くすることで、円筒状の紙含有立体構造体や、ロール状に巻き取った形状の紙含有立体構造体を製造することが可能である。
【0096】
ここまでは、概ね、紙含有シート中の水の濃度勾配を有する部位として、形状が線状であるもの示しているが、水の濃度勾配を形成可能であれば、水の濃度勾配を有する部位の形状は、例えば、線よりも表面積が明確に大きい何らかの塗り潰し形状(例えば、多角形状、円状、楕円状、及びこれらのいずれにも該当しない不定形状、並びにこれら形状の1種又は2種以上が組み合わされた複合形状等)であってもよい。
【0097】
本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法は、従来とは異なり、紙含有シートへの電流、熱等のエネルギーの供給が不要であり、紙を特殊な材料で修飾する必要もないため、実用性が高いという利点を有する。
さらに、本実施形態の紙含有立体構造体の製造方法は、従来法よりも、紙含有シートの自律的な折り曲げを、より速い速度、より大きな折り曲げ角度で行うことができるという利点を有する。
【0098】
このような特性を生かし、本実施形態の製造方法は、3次元電子デバイスの製造、衝撃緩衝材の製造、シートの折り畳み等への適用に有用である。
【実施例
【0099】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0100】
なお、本明細書において、濃度の単位「M」とは、「mol/L」を意味する。
【0101】
[実施例1]
<<紙含有立体構造体の製造(紙含有シートに対する水の付着量を変化させたときの、紙含有シートの折れ曲がりの角度の調査)>>
<紙含有シートの厚さの測定>
紙含有シートとして、A4サイズ(210mm×297mm)の7種のトレーシングペーパー(以下、それぞれ、「TP1」、「TP2」、「TP3」、「TP4」、「TP5」、「TP6」、「TP7」と称することがある)を用意した。
温度24℃、相対湿度52%の条件下で、マイクロメータを用いて、これらトレーシングペーパー(TP1~TP7)の任意に選択した2箇所において、厚さを測定した。このような厚さの測定を、トレーシングペーパー1種ごとに、10枚ずつ行い、7種のトレーシングペーパーごとに、20の測定値の平均値を算出し、これをトレーシングペーパーの厚さとして採用した。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
<紙含有立体構造体の製造>
TP1から、縦95mm、横65mmの大きの試験片(以下、「TP1試験片」と称することがある)を切り出し、相対湿度を30%に保持した保管庫内で、このTP1試験片を保管し、TP1試験片の状態を安定化させた。
次いで、前記保管庫からTP1試験片を取り出し、A4サイズの紙の表面のうち、中心部に、再剥離可能なスプレー糊を用いて、このTP1試験片を貼り付けて固定した。そして、温度24℃、相対湿度47%の条件下で、インクジェットプリンターを用い、水性黒色インクの吐出量を0.0017g、0.0043g、0.0093g、0.0172g及び0.0314gの5通りとすることで、黒色印刷濃度を20%、40%、60%、80%、100%の5通りに調節し、黒色インクの吐出量1水準ごとに、上記の固定後のTP1試験片に対して、図11に示すように、インクジェット印刷を行った(工程(A))。図11は、本実施例で工程(A)を行った後の紙含有シート(黒色インクを印刷後のTP1試験片)を示す平面図である。
【0104】
次いで、この印刷後のTP1試験片を、そのまま温度24℃、相対湿度47%の条件下で10秒静置することで、黒色インクをTP1試験片に浸透させた。
次いで、直ちに、TP1試験片を、これを固定していたA4サイズの紙から剥離させ、相対湿度30%の環境下で、温度を60℃に調節したサーモプレートの上に、この剥離後のTP1試験片を約5分静置することにより、TP1試験片を乾燥させ、TP1試験片を自律的に折り曲げた(工程(B))。このとき、TP1試験片の印刷面とは反対側の面がサーモプレート側を向くように、サーモプレートの上にTP1試験片を配置した。乾燥が終了する前の時点で、TP1試験片の自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
【0105】
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0106】
このようにして得られた、折り曲げ後のTP1試験片(紙含有立体構造体)について、図6A図6Bを参照して説明した方法により、その折れ曲がりの角度(θ)を測定した。このとき、折り曲げ後のTP1試験片の撮像データを取得し、この撮像データとソフトウエアを用いることで、折れ曲がりの角度(θ)を測定した。
結果を表2及び図12に示す。
【0107】
さらに、TP1に代えてTP2~TP7を用いた点以外は、上記のTP1試験片の場合と同じ方法で、TP2試験片、TP3試験片、TP4試験片、TP5試験片、TP6試験片、及びTP7試験片の、それぞれの折れ曲がりの角度(θ)を測定した。
結果を表2及び図12に示す。なお、図12においては、TP4試験片、TP5試験片及びTP6試験片での結果の図示を省略している。
【0108】
【表2】
【0109】
表2及び図12から明らかなように、インク吐出量を同じとして比較すると、トレーシングペーパーの厚さが厚い方が、折れ曲がりの角度が小さい傾向にあり、インク吐出量が一定水準以上(例えば、0.0093g以上)の場合に、その傾向が顕著であった。また、インク吐出量の変化に伴う、折れ曲がりの角度の変化は、トレーシングペーパーの厚さが厚い方が、緩やかとなる傾向にあった。
さらに、トレーシングペーパーの厚さが89μm以下(すなわち、TP4試験片、TP5試験片、TP6試験片、TP7試験片)の場合に、より折れ曲がり易い傾向がみられた。
【0110】
TP1試験片~TP7試験片の各試験片の厚さを、試験片の番号に対応させて、h(iは1~7のいずれかの整数である)としたとき、試験片中の印刷対象部位の体積Vは、下記式:
=10×95×h(mm
で算出される。
インク吐出量mを、この印刷対象部位の体積Vで規格化した規格化インク吐出量Mは、下記式:
M=m/V(g/mm
で算出される。
上記で得られた結果(折れ曲がりの角度)を、この規格化インク吐出量ごとにプロットしたグラフを、図13に示す。
【0111】
図13から明らかなように、トレーシングペーパーの厚さが97μm以下(すなわち、TP3試験片、TP4試験片、TP5試験片、TP6試験片、TP7試験片)の場合に、折れ曲がりの角度が概ね近い値となることが確認された。これは、厚さが97μm以下程度の比較的薄いトレーシングペーパーであれば、その厚さによらず、目的とする折れ曲がりの角度を達成し易いことを意味していた。
【0112】
TP3試験片における、インク吐出量と、得られた紙含有立体構造体の折れ曲がり部の角度(θ=180-θ(°))と、の関係を図14に示す。
【0113】
<<紙含有立体構造体の製造>>
[実施例2]
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ89.2μm、大きさ105mm×148mm)を用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図15に示すように、略立方体状の紙含有立体構造体を製造した。
図15中、左側の図中の細実線は、トレーシングペーパーの切断部位を示しており、中央寄りの図中の太実線は、トレーシングペーパーにおける、インクジェット印刷法での水性媒体の吐出部位を示しており 右側の図は、製造された紙含有立体構造体の撮像データである。
【0114】
工程(A)においては、温度22℃、相対湿度54%の条件下で、トレーシングペーパーに水性媒体を吐出した(付着させた)。トレーシングペーパーへの水性媒体の吐出量(浸透させる水の量と同義である。以下、同様。)は0.000140823g/mmとし、実線の線幅は6mmとした。トレーシングペーパーに水を浸透させるとき、温度と相対湿度は、水性媒体を吐出したときと同じとし、時間は300秒とした。
工程(B)においては、トレーシングペーパーを、温度22℃、相対湿度54%、時間10分の条件で乾燥させた。乾燥が終了する前の時点で、トレーシングペーパーの自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0115】
[実施例3]
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ89.2μm、大きさ210mm×297mm)を用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図16に示すように、略球状の紙含有立体構造体を製造した。
図16中、左側の図中の細実線は、トレーシングペーパーの切断部位を示しており、中央寄りの図中の実線は、トレーシングペーパーにおける、インクジェット印刷法での水性媒体の吐出部位を示しており 右側の図は、製造された紙含有立体構造体の撮像データである。
【0116】
工程(A)においては、温度22℃、相対湿度54%の条件下で、トレーシングペーパーに水性媒体を吐出した(付着させた)。トレーシングペーパーへの水性媒体の吐出量は、0.000140823g/mmとした。トレーシングペーパーに水を浸透させるとき、温度と相対湿度は、水性媒体を吐出したときと同じとし、時間は300秒とした。 工程(B)においては、トレーシングペーパーを、温度22℃、相対湿度54%、時間30分の条件で乾燥させた。乾燥が終了する前の時点で、トレーシングペーパーの自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0117】
[実施例4]
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ89.2μm、大きさ210mm×297mm)を用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図17に示すように、サッカーボール状の紙含有立体構造体を製造した。
図17中、左側の図中の細実線は、トレーシングペーパーの切断部位を示しており、中央寄りの図中の太実線は、トレーシングペーパーにおける、インクジェット印刷法での水性媒体の吐出部位を示しており 右側の図は、製造された紙含有立体構造体の撮像データである。
【0118】
工程(A)においては、温度22℃、相対湿度54%の条件下で、トレーシングペーパーに水性媒体を吐出した(付着させた)。トレーシングペーパーへの水性媒体の吐出量は、0.000140823g/mmとし、実線の線幅は5mmとした。トレーシングペーパーに水を浸透させるとき、温度と相対湿度は、水性媒体を吐出したときと同じとし、時間は300秒とした。
工程(B)においては、トレーシングペーパーを、温度22℃、相対湿度54%、時間30分の条件で乾燥させた。乾燥が終了する前の時点で、トレーシングペーパーの自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0119】
[実施例5]
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ89.2μm、大きさ210mm×297mm)を用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図18に示すように、紙飛行機状の紙含有立体構造体を製造した。
図18中、左側の図中の細実線は、トレーシングペーパーの切断部位を示しており、中央寄りの2枚の図中の太実線は、トレーシングペーパーの両面における、インクジェット印刷法での水性媒体の吐出部位を示しており 右側の図は、製造された紙含有立体構造体の撮像データである。
【0120】
工程(A)においては、温度22℃、相対湿度54%の条件下で、トレーシングペーパーに水性媒体を吐出した(付着させた)。トレーシングペーパーへの水性媒体の吐出量は、0.000140823g/mmとし、実線の線幅は7mm、15mmとした。トレーシングペーパーに水を浸透させるとき、温度と相対湿度は、水性媒体を吐出したときと同じとし、時間は300秒とした。
工程(B)においては、トレーシングペーパーを、温度22℃、相対湿度54%、時間30分の条件で乾燥させた。乾燥が終了する前の時点で、トレーシングペーパーの自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0121】
[実施例6]
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ89.2μm、大きさ40mm×50mm)を用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図19に示すように、略円筒状であり、その凸状面に銀配線が設けられている立体配線基板を、紙含有立体構造体として製造した。
より具体的には、折り曲げ前のトレーシングペーパーの一方の面に、インクジェットプリンターを用いて、銀ナノ粒子を含むインク組成物を吐出することによって、図19中に示す印刷データとなるように印刷パターンを形成し、次いで、この印刷パターンを60℃で加熱乾燥させることにより、トレーシングペーパー上に銀配線を形成した。
【0122】
次いで、工程(A)を行った。すなわち、この銀配線を形成済みのトレーシングペーパーの他方の面(銀配線が形成されている側とは反対側の面)に、インクジェットプリンターを用い、水性媒体としてイオン交換水を用いて、図19中に示す印刷データとなるように水性媒体を吐出した。このとき、温度24℃、相対湿度48%の条件下で、トレーシングペーパーに水性媒体を吐出した(付着させた)。トレーシングペーパーへの水性媒体の吐出量は、0.000140823g/mmとし、実線の線幅は8mmとした。インクジェットプリンターとしては、上記の銀ナノ粒子を含むインク組成物の吐出で用いたものを、そのまま用いた。水性媒体は、前記インク組成物を充填したカートリッジとは異なるカートリッジに充填した。トレーシングペーパーに水を浸透させるとき、温度と相対湿度は、水性媒体を吐出したときと同じとし、時間は300秒とした。
【0123】
次いで、工程(B)を行った。すなわち、水を浸透させたトレーシングペーパーを、温度24℃、相対湿度48%、時間30分の条件で乾燥させた。乾燥が終了する前の時点で、トレーシングペーパーの自律的な折り曲げは、すでに停止していた。
【0124】
ここまでの全工程は、常圧下で行った。
【0125】
以上により、1台のインクジェットプリンターを用いることで、前記インク組成物と水性媒体が相互に干渉することなく、簡略化された方法で、立体配線基板を製造できた。
【0126】
[実施例7]
銀ナノ粒子を含むインク組成物と、水性媒体と、の印刷パターンを変更した点以外は、実施例6の場合と同様の方法で、図20に示すように、略円筒状であり、その凸状面に銀配線が設けられているウエアラブルデバイスを、紙含有立体構造体として製造した。
【0127】
[試験例1]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの膨張し易さと、の関係の確認>>
濃度が0M、3M、6M、9M、12M、15M及び18Mである、塩化リチウム(LiCl)水溶液を調製した。なお、本試験例と、これ以降の試験例及び実施例における、濃度が0Mの電解質水溶液とは、水を意味する。
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ125μm、大きさ15mm×15mm)を用い、このトレーシングペーパーを、上記で得られたそれぞれの塩化リチウム水溶液に別々に浸漬した。
次いで、浸漬開始からt秒後(0<t≦1800)に、顕微鏡(オリンパス社製「SZX16」)を用いて、この浸漬中のトレーシングペーパーを、その表面の直上から観察し、トレーシングペーパーを構成しているセルロース繊維の長さ方向に対して直交する方向(以下、「繊維長方向に直交する方向」と称する)における、トレーシングペーパーの長さL(mm)を測定した。
次いで、塩化リチウム水溶液へ浸漬する前の、前記繊維長方向に直交する方向における、トレーシングペーパーの長さL(=15mm)と、Lと、を用いて、塩化リチウム水溶液へ浸漬する前後での、前記繊維長方向に直交する方向における、トレーシングペーパーの長さの割合LRを下記式:
LR=L/L
により算出した。
このとき、塩化リチウム水溶液へ浸漬する前のトレーシングペーパーの、前記繊維長方向に直交する方向の両端部に、あらかじめ黒色のドットを印刷しておき、これらドット間の間隔を測定して、この測定値をL又はLとした。
以上の測定及び算出を3回繰り返して行い、その平均値を正式なデータとして採用した。
結果を図21に示す。
【0128】
図21から明らかなように、塩化リチウム水溶液の濃度が0M、すなわち水の場合に、トレーシングペーパーが最も速く膨張し、塩化リチウム水溶液の濃度が0~9Mの範囲では、前記濃度が低いほど、トレーシングペーパーが速く膨張した。前記濃度が9M及び12Mの場合には、経時の途中で、LRが1未満となっているが、これは、浸漬中のトレーシングペーパーがカールしたためであった。前記濃度が12Mの場合には、経時の途中からLRが1未満のままであったが、浸漬時間を1800秒超に延長した場合には、LRは1超になるものと推測された。前記濃度が15M及び18Mの場合には、LRが概ね1程度でほぼ不変、すなわち、概ねL=Lであったが、浸漬時間を1800秒超に延長した場合には、前記濃度が12Mの場合よりも長時間を要するものの、前記濃度が12Mの場合と同様に、LRは1超になる可能性があった。
このように、塩化リチウム水溶液の濃度が低いほど、トレーシングペーパーが速く膨張する傾向が認められた。これは、塩化リチウム水溶液中の塩化リチウムの量(mol)が少ないほど、塩化リチウムを水和する水分子の量が少なくなり、トレーシングペーパーへ水が浸透し易くなるためであると推測された。
【0129】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、電解質水溶液の濃度を調節することで、紙含有シート中への水の浸透速度及び浸透量を調節できることを示していた。さらに、紙含有シートの乾燥によって、紙含有シートの自律的な折り曲げの角度に、差を生じさせることが可能であることを示していた。
【0130】
[試験例2]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの乾燥し易さと、の関係の確認>>
濃度が0M、3M、6M、9M、12M、15M及び18Mである、塩化リチウム(LiCl)水溶液を調製した。
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ125μm、大きさ40mm×40mm)を用い、このトレーシングペーパーを、上記で得られたそれぞれの塩化リチウム水溶液に別々に浸漬した。
次いで、浸漬開始から1800秒(30分)経過直後に、トレーシングペーパーを塩化リチウム水溶液から取り出した。そして、さらに50秒経過後から、温度20~22℃、相対湿度53~55%の条件下で、電子天秤(A&D社製「GH-252」)を用いて、このトレーシングペーパー中の水の量を測定した。この測定は、電子天秤にトレーシングペーパーを載せてから12000秒(200分)が経過するまで行った。そして、測定開始からt秒後(0<t≦12000)の、トレーシングペーパー中の水の量の測定値Mと、測定開始時の、トレーシングペーパー中の水の量の測定値Mと、を用いて、トレーシングペーパーの乾燥率DRを下記式:
DR=M/M
により算出した。結果を図22に示す。
【0131】
図22から明らかなように、塩化リチウム水溶液の濃度が0M、すなわち水の場合に、トレーシングペーパーが最も速く乾燥し、塩化リチウム水溶液の濃度が0~6Mの範囲では、前記濃度が低いほど、トレーシングペーパーが速く乾燥した。前記濃度が9~18Mの場合には、経時に伴い、DRが1超となっていた。これは、塩化リチウムが吸湿性を有するため、電子天秤中で乾燥が進まずに、逆に吸湿が進行したためであると推測された。塩化リチウム水溶液の濃度がこの範囲(9~18M)では、前記濃度が高いほど、速く吸湿した。
このように、塩化リチウム水溶液の濃度が低めの場合には、前記濃度が低いほど、トレーシングペーパーが速く乾燥する傾向が認められた。これは、トレーシングペーパー中の塩化リチウムの量(mol)が少ないほど、トレーシングペーパー中で塩化リチウムを水和する水分子の量が少なくなり、トレーシングペーパーから水が気化し易くなるためであると推測された。
【0132】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、電解質水溶液の濃度を調節することで、紙含有シートの乾燥速度を調節できることを示していた。さらに、紙含有シートの自律的な折り曲げの進行度に差を生じさせることが可能であることを示していた。
【0133】
[試験例3]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の種類と、紙含有シートの膨張し易さと、の関係の確認>>
濃度が4Mである塩化カリウム(KCl)水溶液と、濃度が4Mである臭化ナトリウム(NaBr)水溶液と、濃度が4Mである塩化リチウム(LiCl)水溶液と、を調製し、さらに水を用意した。なお、これら電解質の水和パラメーターは、それぞれ、以下のとおりである。
塩化カリウム(KCl):1.9
臭化ナトリウム(NaBr):4.2
塩化リチウム(LiCl):7.1
【0134】
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ125μm、大きさ15mm×15mm)を用い、このトレーシングペーパーを、上記で得られた3種の水溶液と水に、別々に浸漬した。
次いで、浸漬開始からt秒後(0<t≦5)に、顕微鏡(オリンパス社製「SZX16」)を用いて、この浸漬中のトレーシングペーパーを、その表面の直上から観察し、前記繊維長方向に直交する方向における、トレーシングペーパーの長さL(mm)を測定した。
次いで、前記水溶液又は水へ浸漬する前の、前記繊維長方向に直交する方向における、トレーシングペーパーの長さL(=15mm)と、L(t=5のときのL)と、L以外のLと、を用いて、前記水溶液又は水へ浸漬中のトレーシングペーパーの膨張率ERを下記式:
ER=(L-L)/(L-L
により算出した。
このとき、前記水溶液又は水へ浸漬する前のトレーシングペーパーの、前記繊維長方向に直交する方向の両端部に、あらかじめ黒色のドットを印刷しておき、これらドット間の間隔を測定して、この測定値をL、L又はLとした。
結果を図23に示す。
【0135】
図23から明らかなように、水の場合に、トレーシングペーパーが最も速く膨張した。そして、3種の電解質水溶液では、概ね、電解質の水和パラメーターが小さい順、すなわち、塩化カリウム水溶液、臭化ナトリウム水溶液及び塩化リチウム水溶液の順に、トレーシングペーパーが速く膨張した。
このように、電解質水溶液の場合には、電解質の水和パラメーターが小さいほど、トレーシングペーパーが速く膨張する傾向が認められた。これは、電解質の水和パラメーターが小さいほど、電解質を水和する水分子の量が少なくなり、トレーシングペーパーへ水が浸透し易くなるためであると推測された。
【0136】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、電解質の種類を調節することで、紙含有シート中への水の浸透速度及び浸透量を調節できることを示していた。さらに、紙含有シートの乾燥によって、紙含有シートの自律的な折り曲げの角度に、差を生じさせることが可能であることを示していた。
【0137】
[試験例4]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の種類と、紙含有シートの乾燥し易さと、の関係の確認>>
濃度が4Mである臭化カリウム(KBr)水溶液と、濃度が4Mである臭化ナトリウム(NaBr)水溶液と、濃度が4Mである塩化リチウム(LiCl)水溶液と、濃度が4Mである塩化カルシウム(CaCl)水溶液と、を調製し、さらに水を用意した。なお、これら電解質の水和パラメーターは、それぞれ、以下のとおりである。
臭化カリウム(KBr):2.1
臭化ナトリウム(NaBr):4.2
塩化リチウム(LiCl):7.1
塩化カルシウム(CaCl):12
【0138】
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ125μm、大きさ40mm×40mm)を用い、このトレーシングペーパーを、上記で得られた4種の水溶液と水に、別々に浸漬した。
次いで、浸漬開始から1800秒(30分)経過直後に、トレーシングペーパーをこれら4種の水溶液又は水から取り出した。そして、さらに50秒経過後から、温度20~22℃、相対湿度48~51%の条件下で、電子天秤(A&D社製「GH-252」)を用いて、このトレーシングペーパー中の水の量を測定した。この測定は、電子天秤にトレーシングペーパーを載せてから12000秒(200分)が経過するまで行った。そして、試験例2の場合と同じ方法で、トレーシングペーパーの乾燥率DRを算出した。結果を図24に示す。
【0139】
図24から明らかなように、水の場合に、トレーシングペーパーが最も速く乾燥した。そして、4種の電解質水溶液では、電解質の水和パラメーターが小さい順、すなわち、臭化カリウム(KBr)水溶液、臭化ナトリウム(NaBr)水溶液、塩化リチウム(LiCl)水溶液及び塩化カルシウム(CaCl)水溶液の順に、トレーシングペーパーが速く乾燥した。
このように、電解質水溶液の場合には、電解質の水和パラメーターが小さいほど、トレーシングペーパーが速く乾燥する傾向が認められた。これは、電解質の水和パラメーターが小さいほど、トレーシングペーパー中で電解質を水和する水分子の量が少なくなり、トレーシングペーパーから水が気化し易くなるためであると推測された。
【0140】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、電解質の種類を調節することで、紙含有シートの乾燥速度を調節できることを示していた。さらに、紙含有シートの自律的な折り曲げの進行度に差を生じさせることが可能であることを示していた。
【0141】
[実施例8]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、紙含有シートの折れ曲がりの角度と、の関係の確認>>
濃度が0M、6M、12M及び18Mである、塩化リチウム(LiCl)水溶液を調製した。
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ60μm、大きさ65mm×95mm)を用い、A4サイズの紙の表面のうち、中心部に、再剥離可能なスプレー糊を用いて、このトレーシングペーパーを貼り付けて固定した。そして、温度20~22℃、相対湿度49~53%の条件下で、インクジェットプリンターを用い、上記で得られたそれぞれの塩化リチウム水溶液を別々に、トレーシングペーパーに印刷した(工程(A))。このとき、トレーシングペーパーの長手方向における中央部に、短手方向に沿って、幅15mmの太線状に、印刷を行った。
次いで、この印刷後のトレーシングペーパーを、これを固定していたA4サイズの紙から剥離させ、密閉容器中に配置し、静置した。そして、この状態でトレーシングペーパーを乾燥させ、自律的に折り曲げた(工程(B))。この間、密閉容器中の相対湿度を55~60%に調節した。そして、この間のトレーシングペーパーの折れ曲がりの角度(図6Bにおけるθ)(°)を測定した。結果を図25に示す。
【0142】
図25から明らかなように、塩化リチウム水溶液の濃度が0M、すなわち水の場合に、トレーシングペーパーの折れ曲がりが最も速く、前記濃度が6Mの場合に、トレーシングペーパーの折れ曲がりが最も遅かった。前記濃度が12M及び18Mの場合に、前記濃度が6Mの場合よりも、トレーシングペーパーの折れ曲がりが速く、前記濃度が18Mの場合に、前記濃度が12Mの場合よりも、トレーシングペーパーの折れ曲がりが速かった。これは、塩化リチウムが吸湿性を有するため、特に前記濃度が12M及び18Mの場合に、トレーシングペーパーがその乾燥中に、吸湿したためであると推測された。すなわち、前記濃度が0~6Mの範囲では、前記濃度が低いほど、トレーシングペーパーの折れ曲がりが速いと推測された。
【0143】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、電解質水溶液の濃度を調節することで、紙含有シートの自律的な折り曲げの速度に差を生じさせることが可能であることを示していた。
【0144】
[実施例9]
<<紙含有シートへ電解質水溶液を浸透させたときの、電解質水溶液の濃度と、浸透させた領域の幅と、紙含有シートの折れ曲がりの角度と、の関係の確認>>
濃度が0M、6M、12M及び18Mである、塩化リチウム(LiCl)水溶液を調製した。
紙含有シートとしてトレーシングペーパー(厚さ60μm、大きさ65mm×95mm)を用い、A4サイズの紙の表面のうち、中心部に、再剥離可能なスプレー糊を用いて、このトレーシングペーパーを貼り付けて固定した。そして、温度20~22℃、相対湿度58~62%の条件下で、インクジェットプリンターを用い、上記で得られたそれぞれの塩化リチウム水溶液を別々に、トレーシングペーパーに印刷した(工程(A))。このとき、トレーシングペーパーの長手方向における中央部に、短手方向に沿って、幅dが1mm、3mm、5mm及び7mmの太線状に、それぞれ印刷を行った。
次いで、この印刷後のトレーシングペーパーを、これを固定していたA4サイズの紙から剥離させ、密閉容器中に配置し、静置した。そして、この状態でトレーシングペーパーを2日間乾燥させ、自律的に折り曲げた(工程(B))。この間、密閉容器中の相対湿度を64%に調節した。そして、この間のトレーシングペーパーの折れ曲がりの角度(図6Bにおけるθ)(°)を測定した。結果を図26に示す。
【0145】
図26から明らかなように、幅d(印刷領域)が同じ場合には、塩化リチウム水溶液の濃度が0M、すなわち水の場合に、前記濃度が6Mの場合よりも、トレーシングペーパーの折れ曲がりの角度が大きかった。前記濃度が12M及び18Mの場合に、前記濃度が0Mの場合よりも、トレーシングペーパーの折れ曲がりの角度が大きく、前記濃度が18Mの場合に、前記濃度が12Mの場合よりも、トレーシングペーパーの折れ曲がりの角度が大きかった。これは、塩化リチウムが吸湿性を有するため、特に前記濃度が12M及び18Mの場合に、トレーシングペーパーがその乾燥中に、吸湿したためであると推測された。すなわち、幅dが同じ場合には、前記濃度が0~6Mの範囲では、前記濃度が低いほど、トレーシングペーパーの折れ曲がりの角度が大きい傾向が認められた。
一方、塩化リチウム水溶液の濃度が同じである場合には、幅dが太くなるほど、トレーシングペーパーの折れ曲がりの角度が大きくなることを示していた。
【0146】
以上の結果は、電解質水溶液を用いて、紙含有シートへ水を浸透させるときに、浸透させる領域の幅を調節することで、紙含有シートの自律的な折り曲げの角度に差を生じさせることが可能であることを示していた。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、3次元電子デバイスの製造、衝撃緩衝材の製造、シートの折り畳み等をはじめとする、折り紙技術の適用が可能な分野全般で利用可能である。
【符号の説明】
【0148】
1,2,3,4,8,200・・・紙含有シート
1a,2a,3a,4a・・・紙含有シートの一方の面
1b,3b,4b・・・紙含有シートの他方の面
11,21,22,23,24,25,31,32,41,81・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有する部位
12・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有する部位(第1部位)
13・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有する部位(第2部位)
111・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有する部位(実線状の部位)
112・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有する部位(点線状の部位)
11’,21’,22’,23’,24’,25’,31’,32’,41’,81’・・・紙含有シートの水の濃度勾配を有していた部位
9・・・水
10,20,30,40,80・・・紙含有立体構造体
・・・紙含有シートの厚さ
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26