IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人関西医科大学の特許一覧

特許7599756結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット
<>
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図1
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図2
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図3
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図4
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図5
  • 特許-結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】結核感染試料のスクリーニング方法及びこれに用いるプローブセット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20241209BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241209BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20241209BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241209BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20241209BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/6883 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023569461
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2022046903
(87)【国際公開番号】W WO2023120524
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2021207106
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】神田 靖士
(72)【発明者】
【氏名】西山 利正
(72)【発明者】
【氏名】下埜 敬紀
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/261373(WO,A1)
【文献】特表2023-523588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N15/00
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDremIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の尿由来試料に含まれるバイオマーカー用miRNAとして、表1に示されているmiRNA(配列ID:2~配列ID:33)から選択される1種、並びにhsa-miR-532-3p(配列ID:49)及びhsa-miR-423-3p(配列ID:56)を検出することにより、結核感染試料をスクリーニングする方法であって、
前記尿由来の試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率〔B/S〕を取得する工程;及び
得られた被験者の比率〔B/S〕を、健常者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率N(B/S)と結核感染者の同比率P〔B/S〕に基づくカットオフ値と比較する工程;
前記比較工程結果に基づいて、前記被験者の尿由来試料を結核感染陽性試料又は陰性試料に分別する工程
を含む結核感染試料のスクリーニング方法。
【表1】
【請求項2】
前記カットオフ値は、健常者群から導出されるB/Sの平均値(N(B/S))に対する結核感染者群のB/S(P(B/S))について、健常者群と結核感染者群とを統計的に区別できるカットオフ値である請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーが表1に示されているmiRNAである分別工程(第1分別工程)と、前記バイオマーカーがhsa-miR-532-3p(配列ID:49)及びhsa-miR-423-3p(配列ID:56)である分別工程(第2分別工程)とを行い、
前記第2分別工程は、前記被験者の〔B/S〕が、前記カットオフ値より小さい場合に結核感染試料に分別する工程であり、
第1分別工程で結核感染試料に分別され、且つ第2分別工程で結核感染試料に分別された場合に、結核感染陽性試料に分別する、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5p、及びマーカー用miRNAとしてのhsa-miR-532-3p(配列ID:49)及びhsa-miR-423-3p(配列ID:56)の含有量を測定する工程;
前記尿由来の試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、前記各マーカー用miRNAの各含有量Bの比率〔B/S〕を取得する工程;及び
得られた被験者の比率〔B/S〕を、健常者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率N(B/S)と結核感染者の同比率P〔B/S〕に基づく、それぞれのバイオマーカーについて設定したカットオフ値と比較する工程;
前記比較工程の結果、前記バイオマーカーの少なくとも1種又は全てについて、カットオフ値よりも低い場合に、前記被験者の尿由来試料を結核感染陽性試料に分別する工程
を含む結核感染試料のスクリーニング方法。
【請求項5】
被験者の尿由来の試料について、活動性結核の陽性試料を分別するための検査用プローブセットであって、
hsa-miR-423-5p(配列ID:1)の相補配列を有し、且つ検出可能な標識を有している標準化用ヌクレオチドプローブ;及び
プローブ3:配列ID49及び配列ID56の各ヌクレオチドに対する相補配列を有し、且つ検出可能な標識を有しているマーカー用ヌクレオチドプローブのセット
を含む活動性結核の検査用プローブセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の検体試料を、結核感染の陽性可能性試料と陰性可能性試料とに分別するスクリーニング方法に関し、特に、尿を検体試料として、一検体あたりのコストを抑制しつつ簡易にスクリーニングできるスクリーニング方法、及び検査用プローブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
世界総人口の1/4が結核に感染しているといわれ、特に発展途上国で感染が広がっている。このため、発展途上国でも実施可能な、迅速で簡易に結核感染の有無を検査できる方法の開発が望まれている。
【0003】
結核感染診断のための検査方法としては、我が国においては、ESAT-6、CFP-10等による抗原刺激によってリンパ球から産生されるインターフェロンγ(INF-γ)を測定する検査方法(クォンティフェロン(登録商標)TB、Tスポット(登録商標)TB)が一般に用いられている。かかる検査方法は、対象者から採血してリンパ球を分離し、抗ヒトインターフェロンγ抗体をコーティングした培養プレートに一定量を分注後、結核菌特異抗原ESAT-6およびCFP-10を添加して、20時間程度培養し、その後、抗ヒトINF-γ抗体と結合したINF―γ産生細胞数を計測するという方法である。BCG接種や非結核性抗酸菌の影響を受けないため、ツベルクリン反応と比較して特異度が高いという特徴があるが、培養が必要であることから、判定までに約2日間要する。また、細胞分離及び細胞培養のための装置が必要であることから、1検体当たりのコストが高く、発展途上国での普及には困難を伴う。
また、INF-γは、結核菌だけでなく、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)の感染者でもある患者(HIV感染と結核感染の重複感染者)では、免疫不全のために結核感染患者であってもINF-γ産生細胞量が少ないため、判定結果が偽陰性となる場合があるという問題がある。
【0004】
また、活動性結核患者に特異的な抗体としてMPB64抗体が知られており、かかる抗体をマーカーとして、血漿中のMPB64抗体量を、例えばドット・ブロット法で検出することで、活動性結核の状態にあるか否かを判定する方法も知られている。MPB64抗体は、尿中にも存在し、血清を測定試料として用いた結果と相関性があることが報告されている(非特許文献1:Yasuko Tamada et.al.,Microbiol immunol 2012;56:740-747)。MPB64抗体をマーカーとして用いる検査方法では、測定試料として、採取が容易な尿を使用することができるので、結核感染が広がりやすい発展途上国で、迅速に感染の有無を知ることができる方法として好適である。しかしながら、交差反応を示す抗体の存在も知られており、BCGワクチン接種者の場合には偽陽性といった検査結果が表れることもある。
【0005】
被験者から採取した喀痰培養による検査では、結核菌の有無を判断することから、正確度は高いが、培養のための設備、さらに培養期間も1~4週間要するため、迅速を要する検査・診断方法として利用することは困難である。
【0006】
このような状況下、発展途上国での結核感染有無の検査には、細胞培養等を行う必要がなく、侵襲性の少ない検体を用いて、迅速に且つ偽陽性、偽陰性といった誤った検査結果を引き起こすおそれが少ない検査・診断方法の開発が望まれている。
【0007】
ところで、近年、抗体、細胞、サイトカインなどとは別に、miRNAを、バイオマーカーとして用いることが提案されている。miRNAの発現異常は、多くの疾患の発症、悪性化に関与することが明らかになり、またmiRNAは血液などの体液からも検出可能であることから、リキッドバイオプシーとしての利用に注目が集まっている。
miRNAの診断マーカーとしての利用は、近年、癌を中心に種々報告されている(特許5156829(各種癌:特許文献1)、特許6489583(膵がん:特許文献2)、WO2019/244575(胃がん:特許文献3))。
【0008】
特許文献2では、バイオマーカーとして2種類のmiRNAを特定し、血液試料中の当該バイオマーカーとなるmiRNAの存在量と健常者の同miRNAの存在量とを比較して膵癌発症の可能性を判定している。2種類のmiRNAは、健常者と比べて、膵癌発症の可能性が高い場合に存在量が多くなるmiRNA及び存在量が少なくなるmiRNAの組み合わせであり、このような組み合わせを使用することで、膵癌発症可能性の判定精度を高めている。miRNA存在量の健常者との比較については、外部コントロールとしてのcel-miR39を用いて補正した後のΔCt値(測定サンプルのCt値から、そのサンプル中に含まれるcel-miR39のCt値を引いたもの)を用いている。陽性、陰性の分別は、バイオマーカーmiRNAについて、ΔCt値に基づき算出したカットオフ値を基準に行っている。
【0009】
特許文献3では、胃癌バイオマーカーとして同定したmiRNAの発現レベルを指標にして胃癌の罹患を判定する方法を提案している。発現レベルの決定には、標準化因子として特定のmiRNA(hsa-miR3610、hsa-miR4669)を使用し、バイオマーカーのCt値から標準化因子のCt値を減じた値(ΔCt値)を使用している。
【0010】
また、特開2021-90451(特許文献4)では、低侵襲性のサンプル(ここでは血清)を使用し、大腸癌の陽性試料と陰性試料を分別するための集団スクリーニングに利用できるバイオマーカーとして、特定のpiRNA(miRNAよりも長い(26~31ヌクレオチド)の非コードRNA分子)を同定し、マーカーRNAの発現レベルを基準発現レベルと比較することが提案されている。
比較に用いる発現レベルは、正規化用マーカー(内因性コントロール)としてのmiR93-5pで正規化した発現レベルであり、分別判定のためのカットオフ値の決定は、健常者群と大腸患者群における、正規化された発現レベルの統計解析によって決定できるとしている。
【0011】
結核患者においても、特有のmiRNAがいくつか報告され(非特許文献2:Naveed Sabir et.al.,Frontiers in Microbiology vol.9,March 2018)、非特許文献2のTable1には、ヒトの末梢血、全血、血清、又はマクロファージを検体として、バイオマーカーの候補となり得るmiRNAが紹介されている。しかしながら、当該Table1に示されているmiRNAについて、ヒトの末梢血、血清に注目してみても、参照文献により区々であり、診断マーカーとして、いずれのmiRNAが、どの程度の特異性を有しているのか、どのように判定するのかということまでは明らかにされていない。
【0012】
また、検体試料としての血液は、リキッドバイオプシーとして優れているものの、検査のためには採血が必要になり、発展途上国における検査方法としては、結核感染の疑いが強い患者に限定したものとなり、結核感染患者を広くスクリーニングする検査方法としての適用には限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許5156829号公報
【文献】特許6489583号公報
【文献】WO2019/244575号公報
【文献】特開2021-90451号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Yasuko Tamada et.al.,“Diagnosis of active tuberculosis using MBP64, a specific antigen of Mycobacterium bovis”,Microbiol immunol 2012;56:740-747
【文献】Naveed Sabir et.al.,“miRNAs in Tuberculosis: New Avenues for Diagnosis and Host-Directed Therapy”,Frontiers in Microbiology vol.9,March 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、侵襲性が低いリキッドバイオプシー、特に検体試料の採取が容易である尿を用いて、短時間で且つ低コストで、感染の有無について有用な情報を提供できるバイオマーカーを用いた結核感染の有無のスクリーニング方法、及びスクリーニング用プローブセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、活動性結核の患者と健常者から採取した尿に含まれるmiRNAを網羅的に検出、解析し、健常者と比べて、結核感染患者では、特異的に亢進/低下発現しているmiRNAを同定し、結核感染の判定の指標として用いることができるmiRNAをバイオマーカー候補として特定し、特許出願をした(PCT/JP2021/023027)。
【0017】
ところで、採取された尿検体に含まれるmiRNA量(miRNA濃度)には個体差がある。このため、バイオマーカーとして選択したmiRNAの発現量(尿検体中の含有量)と健常者の同miRNAの発現量とを、単なる相対含有量で比較した結果に基づく判定は、信頼性に欠けることになる。
この点において、miRNAの発現頻度に着目し、被験者のバイオマーカーmiRNAの発現頻度と健常者の平均的発現頻度とを比較することで、バイオマーカーmiRNAの発現が亢進/低下しているかを判断すれば個体間の濃度差の問題は解決可能である。しかしながら、特定のmiRNAの発現頻度の大小を正確に知るためには、母数となるmiRNA量、すなわち、各個体で発現されている多数のmiRNAを同定、定量して、発現しているmiRNAの総量を求める必要がある。かかる測定には、数百種類以上のmiRNAの同定及び定量を同時に行うことができる次世代シークエンサーのような高価な装置を用いる必要があり、個々のサンプル解析にかかる時間も長くなるため、健康診断のように多数のサンプルから結核感染のおそれのあるサンプルをピックアップする大規模なスクリーニング方法には適用困難である。
【0018】
さらに、バイオマーカーとして用いられるmiRNAは、一般に発現頻度がそれ程高くはなく(約0~2.5%程度)、特に結核感染により、健常者より発現頻度が低下することになるmiRNAについては、母数となる総量を正確に把握することが求められる。また、総量の精度を上げる観点から、多種類のmiRNAを検出しておく必要がある。かかる意味においても、多種類のプライマープローブを備えたRNAアレイ、高価なPCR装置、大量の測定技術者、解析者が必要となる。
【0019】
本発明者らは、各個体で発現されている大多数のmiRNAの総量(トータルリード数)を測定しなくても、健常者と比べて、バイオマーカーとして用いたmiRNAの発現が亢進/低下のいずれとなっているかを判定する方法について、さらなる検討を進めた。そして、個々の個体において、結核感染のバイオマーカーとなるmiRNAの発現が増加しているのか、減少傾向にあるのかを判定するための基準(標準化用内部コントロール)となるmiRNAについて種々検討した。
【0020】
標準化用内部コトンロールとして利用するためには、以下のような要件を充足する必要がある。
a)全個体において、定常的に発現しているmiRNAであること(全個体で、常時ある程度の発現量が期待できること)
b)個体差のばらつきが小さいmiRNAであること(発現頻度について個体差が小さい)
c)結核感染に対する影響が極めて小さいmiRNAであること
【0021】
本発明者らは、上記要件を充足できるmiRNA(標準化用内部コントロール)を特定し、この標準化用内部コントロールのmiRNAに対する相対含有量を指標とすることで、結核感染の有無を判定できることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
本発明の結核感染試料のスクリーニング方法(タイプI)は、被験者の尿由来試料に含まれるmiRNA(配列ID:2~配列ID:33及び/又は配列ID:34~配列ID:73)から選択される1種又は2種以上のバイオマーカー用miRNAを検出することにより、結核感染試料をスクリーニングする方法であって、
前記尿由来の試料中のhsa-miR-423-5p(配列ID:1)の含有量Sに対する、前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率〔B/S〕を取得する工程;及び
得られた被験者の比率〔B/S〕を、健常者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率N(B/S)と結核感染者の同比率P〔B/S〕に基づくカットオフ値と比較する工程;
前記比較工程結果に基づいて、前記被験者の尿由来試料を結核感染陽性試料又は陰性試料に分別する工程を含む。
【0023】
前記カットオフ値としては、健常者群から導出されるB/Sの平均値(N(B/S))に対する結核感染者群のB/S(P(B/S))について、健常者群と結核感染者群とを統計的に区別できるカットオフ値が挙げられる。
前記バイオマーカーとして、hsa-miR-532-3p(配列ID:49)、hsa-miR-423-3p(配列ID:56)、及びhsa-miR-451a(配列ID:37)から選択される少なくとも1種を選択した場合、前記分別工程は、前記被験者の〔B/S〕が、前記カットオフ値より小さい場合に結核感染試料に分別する工程となる。
【0024】
前記分別工程は、バイオマーカーとして、配列ID:2~配列ID:33から選択されるmiRNAを用いた分別工程(第1分別工程)と、配列ID:34~配列ID:73から選択されるmiRNAを用いた分別工程(第2分別工程)とを行い、第1分別工程で結核感染試料に分別され、且つ第2分別工程で結核感染試料に分別された場合に、結核感染陽性試料に分別してもよい。
【0025】
本発明の別の見地による、結核感染試料のスクリーニング方法(タイプII)は、
被験者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5p(配列ID:1)、及びマーカー用miRNAとしてのhsa-miR-532-3p(配列ID:49)、hsa-miR-423-3p(配列ID:56)及びhsa-miR-451a(配列ID:37)の少なくとも2種の含有量を測定する工程;
前記尿由来の試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、前記各マーカー用miRNAの各含有量Bの比率〔B/S〕を取得する工程;及び
得られた被験者の比率〔B/S〕を、健常者の尿由来試料中のhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する前記バイオマーカー用miRNAの含有量Bの比率N(B/S)と結核感染者の同比率P〔B/S〕に基づいて、それぞれのバイオマーカーについて設定されたカットオフ値と比較する工程;
前記比較工程の結果、前記バイオマーカーの少なくとも1種又は全てについて、カットオフ値よりも低い場合に、前記被験者の尿由来試料を結核感染陽性試料に分別する工程を含む。
【0026】
上記タイプIIのスクリーニング方法では、結核感染試料を分別する工程が、タイプIのスクリーニング方法の第2分別工程のみから構成されることになるが、比較工程で使用するバイオマーカーとして複数のマーカーを用いることで、判定の精度を担保することが可能となる。
【0027】
本発明の結核感染試料スクリーニングに用いる検査用プローブセットは、hsa-miR-423-5pとストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有している標準化用ヌクレオチドプローブ;及び下記ヌクレオチドプローブ1及びヌクレオチドプローブ2からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む活動性結核の検査用プローブセットである。
プローブ1:配列ID2~配列ID33から選択される1種又は2種以上とストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有しているヌクレオチドプローブ
プローブ2:配列ID34~配列ID73から選択される1種又は2種以上とストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有しているヌクレオチドプローブ。
【0028】
タイプIの結核感染試料スクリーニングの実施には、プローブ1及びプローブ2の双方が含まれる。
タイプIIの結核感染試料のスクリーニングの実施には、上記標準化用ヌクレオチドプローブと、下記プローブ3との組合せを含む検査用プローブセットを用いる。
プローブ3:配列ID:49及び配列ID:56の各プローブとそれぞれストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有しているマーカー用ヌクレオチドプローブのセット。
【0029】
本明細書において「結核」とは、結核菌の感染症をいう。すでに咳や体重減少などの症状が表れていて、喀痰中から結核菌が検出される活動性結核の状態をいう。一方、症状や胸部X線所見や菌検査所見などの臨床所見の異常がないが、結核菌に感染している潜在性結核の有無の判定は対象としない。
【0030】
本明細書にいう「健常者」とは、喀痰中に結核菌が検出されない結核感染陰性であり、且つCD4陽性T細胞の割合からエイズ陰性であると認定できる者に由来する検体をいう。
【0031】
本明細書において「miRNA(マイクロRNA)」とは、配列ID(配列No)で特定している場合、当該配列により特定されるmiRNAをいう。
特段の限定がない限り、16~25塩基程度の非コード(non-coding)RNAである成熟miRNAのほか、miRNA遺伝子がRNAポリメラーゼIIによって転写された初期転写産物に該当し、ヘアピンループ構造を有しているpri―miRNA、このpri―mRNAがRNaseIII様のDroshaにより一部切断された状態で、miRNAの前駆体に該当するpre―miRNAも含む概念である。
【0032】
本明細書において、「miRNAの含有量」とは、測定試料に含まれるmiRNAの量をいい、通常、リアルタイムPCRにより定量できる。絶対定量により得られる絶対量、サンプル間の比較が行えるように、内在性コントロール(患者、健常者検体で恒常的に存在し、両者で発現に差異を認めないmiRNA)を用いて標準化する相対定量により得られる相対量の双方が含まれる。本発明においては、結核感染陽性、陰性の判別指標として、同一の測定試料に含まれているバイオマーカーmiRNAの含有量Bと標準化用miRNAの含有量Sとの比率〔B/S〕を、パラメータとして用いることから、絶対量、相対量のいずれでもかまわない。
なお、リアルタイムPCRによる相対量の定量については、検量線を用いる方法、ΔΔCt法のいずれであってもよい。

【0033】
本明細書で使用しているパラメータ、すなわち、含有量比率〔B/S〕について、結核感染患者の比率〔B/S〕について一般的に称する場合にP(B/S)と表記し、健常者の比率B/Sについて一般的に称する場合にN(B/S)と表記する。また、サンプルにおける各バイオマーカーの含有量Bについては、例えばバイオマーカーとしてhsa-miR-532-3pを用いた場合、B532-3pのように、B(miRNAの略称)を用いて表記する。そして、該当するバイオマーカーの標準化用内部miRNA(内在性コントロール)に対する含有量比(例えば、hsa-miR-532-3pの場合であれば〔B532-3p/S〕について、結核感染者の場合にP(532-3p)、健常者の場合にN(532-3p)と略記する。
【0034】
本明細書において、「miRNAの発現頻度」とは、次世代シークエンサーでリードした場合の総リード数に対する、ターゲットとするmiRNA(例えば、バイオマーカー)のリード数の割合をいう。試料中に検出可能な程度の量が含有されているmiRNA(通常、200~500種類)の含有量総量に対する、ターゲットmiRNAの含有量の割合(%)に対応する。
【0035】
本明細書において、「サイクル数」とは、ターゲットとするmiRNAを検出することができるまでに行うPCRの繰り返し数を意味し、サイクル数(本明細書では「Ct」で表す)の値が大きいほど、ターゲットmiRNAの含有量は少ないことを意味する。
【0036】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる」とは、標的となるmiRNAの各配列に対する相補的配列を有するヌクレオチド、又は当該相補的配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%一致する配列を有する。
【発明の効果】
【0037】
本発明の結核感染試料のスクリーニング方法は、特定数のmiRNAをバイオマーカーとして使用し、内在性コントロールの含有量に対するバイオマーカーの含有量比率〔B/S〕を判定の指標として利用しているので、発現頻度を算出するためのmiRNAの総量を求める必要がなく、個体間のばらつきも小さくて済む。
よって、本発明のスクリーニング方法であれば、次世代シークエンサーなどの高価な機器を用いなくても、多数の試料を、短時間で、陽性可能性群と陰性可能性群とに分別することが可能となる。
さらに、測定の検体試料として、専門家による採取が不要な尿を用いているので、迅速に且つ安価で、大量の検体から、陽性可能性試料をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例で測定した全個体のhsa-miR23-5pの発現量を示した散布図である。
図2】hsa-miR532-3pの規格化後の含有量比率〔B/S〕を示す散布図である。
図3】hsa-miR423-3pの規格化後の含有量比率〔B/S〕を示す散布図である。
図4】hsa-miR451aの規格化後の含有量比率〔B/S〕を示す散布図である。
図5】検証その3で得られたhsa-miR532-3pの規格化後の含有量比率〔B/S〕を示す散布図である。
図6】検証その3で得られたhsa-miR423-3pの規格化後の含有量比率〔B/S〕を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<標準化用内部miRNA>
本発明の結核感染試料のスクリーニング方法で使用する標準化用miRNAは、個々の検体中に含まれるhsa-miR423-5pである。具体的には、塩基配列「UGAGGGGCAGAGAGCGAGACUUU」(配列ID:1)を有する。
【0040】
hsa-miR423-5pは、様々な正常又は病理組織で定常的な発現が報告されている(Eliana Bignotti et.al.,“Identification of stably expressed reference small non-cording RNAs for microRNA quantification in high-grade serous ovarian carcinoma tissues”, Journal of Cellular and Molecular Medicine 2016 vol.20, No 12, pp.2341-2348、コスモバイオ:RNAi ハンドブック第2版https://www.cosmobio.co.jp/upfiles/catalog/pdf/catalog_11711.pdf)。尿検体においても、健常者及び結核感染者の双方の検体において、比較的ばらつきが少なく、安定的、定常的に発現していることを、本発明者らは、尿検体に含まれているmiRNAの解析(次世代シークエンサ―による解析)、さらにはリアルタイムPCRによる定量によっても確認した(発現頻度0.0086~0.29%)。ここで、「安定的に発現」しているとは、常時、尿中に含まれていて、検出可能であることをいう。
【0041】
<結核感染判定用バイオマーカー>
本発明の結核感染試料のスクリーニング方法でバイオマーカーとして用いることができるmiRNAは、活動性結核の状態では、健常者と比べて、増加発現/減少発現するmiRNAである。
具体的には、健常者と比べて過剰発現するmiRNA(第1グループ)で、表1に示す配列を有するmiRNA(配列ID:2-ID:33);健常者と比べて減少発現するmiRNA(第2グループ)で、表2に示す配列を有するmiRNA(配列ID:34-ID:73)である。
【0042】
【表1】
【表2】
【0043】
これらのmiRNAは、結核感染者の尿試料に含まれているmiRNAを網羅的に検出し、さらに健常者の尿試料に含まれているmiRNAの平均的プロファイルと比べて、発現頻度について、有意に差異が認められたものである。第1グループのmiRNAでは、健常者の発現頻度と比べて有意に亢進発現していると認められ、第2グループのmiRNAでは有意に減少発現していると認められたものである。
【0044】
ここで、「有意」とは、健常者に対して発現頻度が増加(表1)又は減少(表2)したことを示す有意水準が、次世代シーケンサーを用いたRNA配列の解析結果について、Welchのt検定でp<0.1(好ましくはp<0.05)、あるいは、フィシャーの正確確立検定による統計的処理において、p<0.05(好ましくはp<0.01)、あるいは尤度比検定または疑似尤度F検定による統計的処理に基づき有意水準p<0.05(好ましくはp<0.01)で発現頻度が2倍以上(表1)又は1/2以下(表2)をいう。
また、リアルタイムPCRの結果について、対象とするmiRNAの健常者の平均的含有量に対して、Mann Whitney U testでの有意水準としてp<0.05(好ましくはp<0.01)で、含有量が増加(表1)又は減少(表2)した場合をいう。
【0045】
これらのうち、特に、第2グループのバイオマーカーについては、hsa-miR-532-3p(配列ID:49)、hsa-miR-423-3p(配列ID:56)、hsa-miR-451a(配列ID:37)が好ましく用いられる。これらのmiRNAは、比較的、発現頻度が高く、miRNAの含有濃度が薄い尿検体を増幅検出した場合に発生し得る増幅ミスが少なくて済む。
【0046】
以上のようなバイオマーカーは、1種類だけで使用してもよいが、2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。2種以上組み合わせて用いることで、マーカーに基づく判定精度を上げることができる。
特に第1グループに分類されるmiRNAと第2グループに分類されるmiRNAとを組み合わせて使用することが好ましい。結核感染により発現頻度の増減が逆になる2つのグループを組み合わせて用いることで、より信頼性の高い判定結果(結核陽性又は結核陰性)を得ることができる。また、HIV感染の場合であっても、偽陽性、偽陰性といった誤判定のリスクを低減することができる。
【0047】
また、たとえ第1グループ又は第2グループに分類されるmiRNAのみをマーカーとして使用し、判定する場合であっても、複数のマーカーについて、すべての比較結果による判定が同じ場合には、判定結果の信頼性は高いといえる。例えば、第2グループに分類されるマーカーとして、hsa-miR-532-3p(配列ID:49)とhsa-miR-423-3p(配列ID:56)との組合せ、さらにはhsa-miR-451a(配列ID:37)を組み合わせた3種類を使用することで、例えば、偽陽性と判定される検体試料を減らすことができる。
【0048】
<検査用プローブセット>
本発明の検査用プローブセットは、被験者の尿由来の試料について、活動性結核の陽性可能性を判定するためのプローブセットであって、上記バイオマーカーを検出するためのプローブを組み合わせたセットである。具体的には、標準化用miRNA(hsa-miR-423-5p)を検出する内部標準用プローブと、第1グループのバイオマーカーを検出するプローブ1及び/又は第2グループのバイオマーカーを検出するプローブ2(好ましくはプローブ3)を含む。
【0049】
(1)内部標準用プローブ
hsa-miR-423-5pと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるプローブ
具体的には、配列ID:1で表されるhsa-miR-423-5pの塩基配列(UGAGGGGCAGAGAGCGAGACUUU)の相補的配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上一致する配列を有し、検出のために標識化がされている。また、必要に応じて、配列の5’端、3’端に、プライマー配列、担体への固定化のための連結用ヌクレオチド鎖、アダプターなどが連結されていてもよく、リン酸部、糖部分は適宜修飾されていてもよい。
【0050】
(2)プローブ1
表1に示す第1グループ(配列ID:2~配列ID:33)に含まれるmiRNAの1種又は2種以上とストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出のための標識化されているヌクレオチドプローブ又はプローブセット
【0051】
(3)プローブ2
表2に示す第2グループ(配列ID:34~配列ID:73)に含まれるmiRNAの1種又は2種以上とストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出のための標識化されているヌクレオチドプローブ又はプローブセット
【0052】
プローブ2は、配列ID:37、ID:49、及びID:56からなる群より選ばれる少なくとも1種で表されるヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出のための標識化されているヌクレオチドプローブを含んでいることが好ましい。
【0053】
(4)プローブ3
プローブ3は、プローブ2の好ましい一態様であり、配列ID:49及び配列ID:56の各プローブとそれぞれストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有しているマーカー用ヌクレオチドプローブのセットである。
【0054】
プローブ3には、さらに配列ID:37とストリンジェントな条件下でハイブリダイズでき、且つ検出可能な標識を有しているマーカー用ヌクレオチドプローブを含んでもよい。
【0055】
プローブ1、プローブ2、プローブ3は、ターゲットとするmiRNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる配列を有すればよく、必要に応じて、配列の5’端、3’端に、プライマー配列、担体への固定化のための連結用ヌクレオチド鎖、アダプターなどが連結されていてもよく、リン酸部、糖部分は適宜修飾されていてもよい。
【0056】
ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるヌクレオチドとは、標的となるmiRNAの各配列に対する相補的配列を有するヌクレオチド、又は当該相補的配列と85%以上、好ましくは90%以上の一致する配列を有するヌクレオチドであり、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上一致する配列を有するヌクレオチドである。
【0057】
本発明のプローブセットは、内部標準用プローブと、バイオマーカー用プローブとを含むプローブセットであり、以下のような組合せが挙げられる。
・内部標準用プローブとプローブ1
・内部標準用プローブとプローブ2
・内部標準用プローブとブローブ1とプローブ2
・内部標準用プローブとプローブ3
・内部標準用プローブとプローブ1とプローブ3
【0058】
含まれるバイオマーカー用プローブの種類は、適用するスクリーニング方法のタイプ、すなわち採用する分別工程に応じて選択される。
なお、プローブセットは、マイクロアレイ、プローブパネルなどとして供されてもよい。
【0059】
これらのヌクレオチドプローブは、標識に基づき、標的とするmiRNAとハイブリダイズした場合に検出、定量できる。標識は、ヌクレオチドプローブに好適に用いられている公知の直接標識、間接標識のいずれであってもよい。直接標識物質としては、例えば、32Pなどのアイソトープ;間接標識物質としては、抗体、アビジン-ビオチン系などの標識酵素、発光・消光などの化学発光系、蛍光色素、金コロイドなどが挙げられる。
【0060】
<検体及び測定用試料の調製>
検査対象となる検体は、被験者から採取された尿である。ヒトの体液のうち、尿を検査試料として用いることにより、採血といった検体試料の採取が特定技能者に依存しなくて済む。唾液も特定技能者に依存することなく検体を採取できる試料であるが、高齢者のようなドライマウスの被験者では、採取が容易でない場合がある。この点、尿は全ての被験者から容易に採取できる検体試料として優れている。
したがって、本発明のスクリーニング方法は、多数の試料を網羅的に検査するための簡易スクリーニング方法として好適である。
【0061】
尿は、miRNAを含有するエクソソームが血液に比べて少ない傾向にあるが、他の体液と比べて、多量の採取が可能であること、さらに注射器のような採血用器具が不要であることから、針刺し事故等による血液媒介性のウィルス感染症の感染リスクもないので、発展途上国で実施する検査方法として、尿を検体として用いることは好適である。
【0062】
尿中には、血液等の他の体液と同様に、バイオマーカーとなる成熟miRNAを含むエクソソームが含まれている。エクソソーム(exosome)とは、細胞から分泌される膜小胞の1つであって、一般に、電子顕微鏡観察により直径が30~150nmであり、成熟miRNA以外に、pri-miRNA、pre-miRNA、coding-mRNA、DNA、酵素、細胞骨格タンパク質、シグナル分子などが含まれている。
【0063】
被験者から採取した尿をそのまま使用することも可能であるが、通常、ターゲットとするmiRNAを、ハイブリダイズにより検出することとの関係で、ヌクレオチドを含む尿由来試料を、測定用試料として用いることが好ましい。
【0064】
尿由来試料としては、エクソソームが濃縮若しくは粗精製されたフラクション(以下、「エクソソームリッチフラクション」と言う。)、さらにはRNAを抽出した試料などが挙げられる。これらのうち、判定精度の点から、直接RNAを抽出した試料を測定用試料として用いることが好ましい。
【0065】
被験者の尿から測定用試料(RNA単離物)を調製する方法としては、従来より公知の方法を利用することができる。
例えば、尿検体から、サイズ排除クロマトグラフィー、遠心分離方法などによりエクソソームを分離し、得られたエクソソームリッチフラクションからRNAを抽出してもよいし、商業的入手可能なキットを用いてエクソソームの分離、あるいは直接RNA単離を行ってもよい。
【0066】
商業的に入手可能な分離キットとしては、エクソソームの分離キットとして、ExoQuickTM Exosome precipitation溶液シリーズ(例えば、ExoQuick-TC、ExoQuick-CG等、いずれもSystem Biosciences社製)、尿から核酸抽出試料を得るための分離キットとして、miRNeasy mini kit(Qiagen社製)、MagMax mirVana Total RNAkit(Thermo Fisher社)、磁性粒子を利用するMagtration(登録商標)(プレジッションシステムサイエンス社)などを利用することができる。
また、エクソソーム含有試料(尿)をナノワイヤ構造体に送液するだけでエクソソームを回収する方法(ナノバイオデバイス法)を利用してもよい。
好ましくは、例えば、MagMaxTM mirVana Total RNA-Seq kit(Thermo Fisher社)の操作マニュアル(尿サンプル)のプロトコルにしたがって調製される全RNA抽出試料である。
【0067】
<miRNAの検出・定量>
上記により調製した測定用試料(RNA含有試料)からターゲットとするmiRNA(hsa-miR-423-5p、及びバイオマーカーとして用いたmiRNA)を検出、定量する方法としては、本発明のプローブセットを用いてハイブリダイズさせ、プローブに使用した標識の種類の基づき、発光強度、放射能、蛍光強度、酵素活性などを測定すればよい。
【0068】
miRNAの定量には、例えばリアルタイムPCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、液相核酸ハイブリダイゼーション、比色法等が挙げられる。PCR法とイムノクロマトグラフ法を組み合わせて、呈色によりマーカーを検出する方法であってもよい。
これらの方法は、使用したプローブの標識の種類に応じて適宜選択される。例えば、蛍光標識を用いた場合には、ハイブリッド形成により発される蛍光の有無を視覚により観察することで、検出することが可能である。また、蛍光強度など、標識物質の種類に応じた強度をスケーリングすることにより、含有量、含有比率を算出することが可能である。
【0069】
本発明のスクリーニング方法で行う定量は、測定用試料に含まれる目的とするmiRNAの絶対量の測定に限定せず、相対量の定量であってもよい。
後述するように、miRNAの定量は、hsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、バイオマーカーmiRNAの含有量Bの比率〔B/S〕を取得するための定量であることから、サイクル数、試料中に含まれる内在性コントロールとしてのhsa-miR-423-5p及び目的とするバイオマーカーmiRNAそれぞれの含有量を算出しなくても、直接〔B/S〕を取得できる方法であってもよい。
【0070】
例えば、リアルタイムPCR法により定量する場合、検量線法、ΔΔCt法にいずれによっても、測定用試料の〔B/S〕を取得することができる。
【0071】
<活動性結核試料のスクリーング方法>
本発明のスクリーニング方法は、検体となる試料から活動性結核の陽性可能性試料をスクリーニングする方法であり、健康診断のように、多数の検体を陽性試料群と陰性試料群とに分別するためのスクリーニング方法、結核の疑いがある患者の初診としての簡易的検査方法として採用することができる。
【0072】
本発明のスクリーニング方法は、陽性、陰性の判定指標として、検体試料に含まれるhsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、バイオマーカーmiRNAの含有量Bの比率〔B/S〕を用いるところに特徴がある。
【0073】
すなわち、調製した測定用試料に含まれる、hsa-miR-423-5p及び選択したバイオマーカーmiRNAを検出・定量して、hsa-miR-423-5pの含有量Sに対する、バイオマーカーmiRNAの含有量Bの比率〔B/S〕を取得する工程;及び
得られた〔B/S〕を、健常者の尿から同様の処理方法で調製したRNA含有試料の同比率N(B/S)に基づくカットオフ値と比較し、比較の結果、バイオマーカーの種類(第1グループ又は第2グループ)に応じて、前記被験者の尿由来試料を、結核感染陽性試料は陰性試料に分別する工程を含む。
【0074】
被験者の〔B/S〕の取得は、測定用試料に含まれるhsa-miR-423-5p(含有量S)、及び選択したバイオマーカーmiRNA(含有量B)を、前述の検出、定量方法により、それぞれ得た後、当該測定用試料の〔B/S〕を算出してもよいし、ΔΔCt法のように、リアルタイムPCR法で得られる測定値のサイクル数(Ct)に基づき、直接〔B/S〕を算出してもよい。
【0075】
本発明のプローブセットを用いることで、例えば、標識の比強度などにより、直接〔B/S〕を取得することができる。
【0076】
前記カットオフ値とは、〔B/S〕について、健常者群と結核感染者群とを統計的に区別できる閾値であり、ROC解析などにより適宜設定することができる。
例えば、多数の健常者集団から導出されるN(B/S)の平均値で規格化した結核患者の〔B/S〕のデータ集団について、ROC曲線を作成して、結核患者の多数が含まれることになる閾値を、カットオフ値として設定することができる。この場合、カットオフ値は、健常者の同バイオマーカーの発現頻度の何倍であるかということに対応する。
【0077】
規格化のためのN(B/S)の平均値は、健常者の集団について、測定試料の〔B/S〕を取得する方法と同一の方法で、目的とするマーカーmiRNAの検出、定量を行って求められる平均値である。
比較に使用するカットオフ値は、miRNAの種類、測定用試料の調製方法、標識の種類、定量方法などに依存して、適宜定められる。
【0078】
被験者の〔B/S〕の取得工程、比較工程は、各バイオマーカーに応じて行われる。2種類以上のバイオマーカーを使用する場合、個々のバイオマーカーに対して取得した〔B/S〕を基に、対応するカットオフ値と比較し、カットオフ値に対する大小関係に基づき、測定した検体試料を結核感染陽性試料又は陰性試料に分別する。
【0079】
バイオマーカーとして、表1(第1グループ)のmiRNAを選択した場合、取得した〔B/S〕が、上記カットオフ値より高い場合に、結核感染試料に分別する(第1判定)。
バイオマーカーとして、表2(第2グループ)に示されているmiRNAを選択した場合、取得した〔B/S〕が上記カットオフ値より低い場合に、結核感染試料に分別する(第2判定)。
【0080】
2種類以上のバイオマーカーを使用する場合、各バイオマーカーについて、所定のカットオフ値との比較が行われる。
本発明のスクリーニング方法は、第1判定工程又は第2判定工程のいずれか一方を含むだけでもよいが、判定精度を上げる観点からは、第1グループと第2グループの双方からそれぞれバイオマーカーを選択し、第1判定及び第2判定を行うことが好ましい(タイプIのスクリーニング方法)。
【0081】
使用するバイオマーカーが、第1グループ又は第2グループのみの場合、上記第1判定又は第2判定のいずれか一方しか実施されないことになる。しかしながら、第1グループ又は第2グループの属する複数のバイオマーカーを組み合わせて使用し、各バイオマーカーのB/Sの値とカットオフ値との比較結果が、全て一致した場合に、陽性又は陰性と判定するといった判定基準を採用することで、判定精度を担保することが可能となる。
【0082】
第1判定と第2判定の双方を行う場合、これらの判定順序は特に限定せず、第1判定を行った後、第2判定を行ってもよいし、第2判定を行った後に第1判定を行ってもよい。また、第1判定と第2判定を同時に行ってもよい。
本発明のプローブセットを用いることで、複数の判定を同時に行うことが可能である。
【0083】
第1グループ又は第2グループのいずれか一方のみに属するバイオマーカーを用いるスクリーニング方法として、例えば、内部標準用プローブとプローブ3を組合せたプローブセットを用いるスクリーニング方法(タイプII)が挙げられる。
【0084】
この場合、プローブ3として用いたバイオマーカーのB/Sの値とカットオフ値との比較結果について、全てのマーカーについて、カットオフ値よりも低い場合に、結核感染陽性試料であると判定することで、高い判定精度を担保することが可能となる。
あるいは偽陰性を減らした場合、マーカーのいずれか1種のB/Sがカットオフ値よりも低い場合に、結核感染陽性の可能性がある試料であると判定することもできる。
【0085】
本明細書には、PCT/JP2021/023027に記載の内容全体が、参照として、本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0086】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
〔検体〕
ラオス人の健常者19人、ラオス人の活動性結核感染患者19名(うち2名は、HIV感染の重複感染者)、日本人のCOVID19重症患者(結核感染なし)12名の尿検体を用いた。
尿検体は、採取後、凍結保存され、活動性結核患者の尿検体の場合、1年以上の保存期間を経た後に測定用RNA試料の調製に供した。健常者及びCOVID19重症患者の尿検体の場合、凍結保存期間は60日以内であった。
【0088】
〔測定用RNA試料の調製〕
(1)調製方法その1
尿検体3mlから、MagMaxTM mirVana Total RNA-Seq kit(Thermo Fisher社)の操作マニュアル(尿サンプル)のプロトコルにしたがって、全RNA抽出試料を得た。具体的手順は以下のとおりである。
尿3mlに、Lysis Buffer 2.4mlを添加し、7分間振盪した(500rpm)。得られた混合液に、別途調製したBinding Beads Mix(RNA Binding Beads 234μlとLysis/Binding Enhancer 116μlの混合液)350μlを添加し、5分間振盪した(500rpm)。
得られた溶液に、イソプロパノール5.76mlを添加して、ピペッティングした後、20分間インキュベートした(200rpm)。マグネットスタンドに静置して、分離させた後、上澄み液をすて、洗浄液の添加、振盪による洗浄、次いでTurbo DNaseTM溶液の添加によりRNA Binding Beadsに再結合させ、再結合したRNAを再度マグネットにより分離操作した。分離と洗浄を繰り返した後、乾燥したRNA Binding Beadsに、溶出用バッファーを添加し、65℃で5分間インキュベートした。マグネットスタンドに静置し、得られた上澄液を、測定用サンプルとして用いた。
【0089】
(2)調製方法その2
Urine Conditioning Buffer(ZYMO RESEARCH)とRNeasy Mini KitとRNeasy MiniElute Cleanup Kit(Qiagen)を用いて尿検体15mlからmiRNAを含むRNA抽出試料を得た。尿検体15mlを、前処理(20分間室温で遠心(2000 x g)した後、上清をPVDFメンブレンフィルター(Millex-GV Syringe Filter Unit,0.22μm、(MERCK)でろ過)及び濃縮(前処理で得られたろ液に、1.05μmのUrine Conditioning Bufferを添加して、20分間室温で遠心(3000 x g))を行った後、RNeasy Mini Kit のプロトコルに従って、全RNA抽出試料を得た。具体的手順は、以下のとおりである。
上記で得られた沈殿物にQiazol 2.25ml及びイソプロパノール450μlを添加混合し、2分間室温で静置した。その後、30分間4℃で遠心(最大スピード、21100 x g)し、水相をRNeasy Mini Kit付属のカラムに添加し、遠心による分離洗浄を繰り返した(室温で8000 x g以上で15秒間遠心→フロースルーをRNeasy MiniElute Cleanup Kitへ添加→室温で8000 x g以上で15秒間遠心(フロースルーは廃棄)→RNeasy MiniElute Cleanup Kit付属のウォッシュ用バッファーをカラムへ添加→室温で8000 x g以上で15秒間遠心(フロースルーは廃棄)→80%エタノールをカラムへ添加→室温で8000 x g以上で2分間遠心→室温で、最大スピード21100 x gで5分間遠心)。最後に70℃に加温した滅菌水23μlをカラムに添加し、5分間室温で静置後、室温で1分間遠心(8000 x g以上)し、得られたフロースルー液を測定用サンプルとして用いた。
【0090】
〔シークエンス解析方法〕
調製方法その1又はその2で得られたRNA抽出サンプルを用いて、Ion Total RNA-Seq kit v2 for small RNA Libraries(Thermo Fisher社)の操作マニュアルにしたがって、アダプターを付加し、逆転写反応を行って、次世代シークエンサー用cDNAライブラリーを作製した。
作製したcDNAライブラリーについて、次世代シークエンサーIon Torrent S5(Thermo Fisher社)によりシークエンスを解析した。
【0091】
公知のmiRNA(データバンクサイト:miRBaseに登録されているmiRNA)をリファレンス配列として、得られた配列を網羅的に照合し、各miRNAのリード数を算出することで試料中のmiRNAを定量し、トータルmiRNAのリード数に対する割合を算出した。
リファレンス配列との照合・同定は、連続する10塩基以上が一致する場合に、リファンレンス配列に対応するmiRNAであると同定した。
【0092】
検出されたmiRNAを発現頻度順に並べたところ、調製した試料からは、いずれも200種類以上のmiRNAについて定量可能であった。
【0093】
〔miRNAの定量:リアルタイムPCR法〕
尿検体から調製方法その2により調製した測定用サンプルについて、ターゲットとするmiRNAの含有量を、qRT-リアルタイムPCR法により定量した。リアルタイムPCR法による定量方法は以下のとおりである。
【0094】
1.miRNAの逆転写
miRCURY LNA miRNA PCR Starter Kit(Qiagen社)を用いて、RNA抽出試料の逆転写を行った。逆転写反応には、0.2mlチューブに下記組成(添加量については検体当たりの体積μl)を有する反応液(10μl)を用いた。
5×miRCURY RT Reaction Buffer(緩衝液) 2.0μl
10×miRCURY RT Enzyme Mix(逆転写酵素液) 1.0μl
Template RNA 6.5μl
ヌクレアーゼ非含有水 0.5μl
【0095】
逆転写反応は、サーマルサイクラーであるGeneAtlas G02(ASTEC社)を用いて、以下の条件で行った。
ステップ1:42℃で60分
ステップ2:95℃で5分
ステップ3:4℃で保存
【0096】
2.リアルタイムPCR
2-1 リアルタイムPCR反応(SYBR Green法)
上記逆転写で合成されたcDNAについて、リアルタイムPCR法にて定量した。
リアルタイム反応は、合成したcDNAの15倍希釈物(ヌクレアーゼ非含有水による希釈)について、miRCURY LNA miRNA PCR Starter Kit(Qiagen社)で反応液(下記組成、添加量については検体当たりの体積μl)10μlを、Strip Tube(0.1ml)調製し、リアルタイムサーマルサイクラーであるRoter Gene Q(Qiagen社)を用いて行った。
2×miRCURY SYBR Green Master Mix(緩衝液) 5.0μl
PCRプライマー(miRCURY LNA miRNA PCR assay) 1.0μl
cDNA template(15倍希釈) 3.0μl
ヌクレアーゼ非含有水 1.0μl
【0097】
PCR反応は、初期変性(95℃、2分)を行った後、95℃で10秒間、56℃で60秒間を45サイクル行った。融解曲線分析は、60―95℃の範囲について、1.0秒/0.5℃で行った。
【0098】
2-2 Ct値の算出
Ct値は蛍光の増幅曲線が指数関数的に増幅する領域に、補助線となる閾値線(Thereshold line)を引き、この閾値線と増幅曲線との交点をCt値として算出した。
【0099】
2-3 相対定量法によるmiRNA含有量の算出
解析した全ての健常者と患者のcDNA1μlずつを混合した混合物を、基準サンプルとして用いた。
この基準サンプルを、8倍、32倍、128倍、512倍、2048倍に段階希釈した5種類のスタンダードサンプルを用いてリアルタイムPCR反応を行い、検量線を作成した。なお、スタンダードサンプルの濃度(相対値)はそれぞれ256、64、16、4、1となる。
【0100】
〔検体の結核感染及びHIV感染の確認〕
上記シークエンス解析に供した検体の結核感染の有無は、各被験者の喀痰に含まれる結核菌の培養検査、及びGeneXpert(登録商標)システムによる解析により確認した。GeneXpert(登録商標)システムによる結核菌の存否の確認は、喀痰中に含まれるRNAをPCRで増幅した後、結核菌のrpoB遺伝子の薬剤耐性領域をターゲットとするプローブを用いて調べた。
HIV感染の有無については、BD bioscience社のFACS Presto(登録商標)を用いてCD4陽性T細胞の割合を計測することにより、HIV感染の有無を調べた。
【0101】
〔標準化用miRNAの検証〕
健常者、活動性結核感染患者、COVID19患者の尿検体から、調製方法その2にて調製した測定用RNA試料について、リアルタイムPCR法により、hsa-miR-423-5pの同定・定量を行った。定量結果を図1に示す。
【0102】
図1中、縦軸は、各サンプルにおけるhsa-miR-423-5pのCt(各サンプルにおいて、hsa-miR-423-5pが検出されたときのサイクル数)である。Ctの値が大きいほど、含有量が少ないことを示している。
図1中、「Heslthy」は健常者、「TB」は結核患者、「TB+HIV」は結核とHIVの重複感染者、「Covid19」は日本人のCovid19重症患者を示す。
【0103】
結核感染陰性者群(健常者、Covid19)のいずれもCt値は20~24で、群内のばらつきが小さいことがわかる。このことは、hsa-miR-423-5pが人種間で尿における発現頻度として差異がないことを示している。また、結核陰性者群での個体差が小さいことがわかる。
【0104】
TB群のCt値は、25~30であり、群内のばらつきは小さかった。したがって、結核陽性者群においても、hsa-miR-423-5pは個体差が小さいマイクロRNAであることがわかる。
【0105】
結核感染陰性者群(Healthy、Covid19)と結核感染陽性者群(TB、TB+HIV)では、Ct値レンジに差異が認められた。これは、尿検体について、尿採取後、測定用試料の調製及び測定に供するまでの凍結保存期間が異なったためと考えられる。健常者の凍結保存期間は60日以内であったが、陽性者群の試料は、試料の種類にもよるが、1年以上であったため、ターゲットとなるmiRNAの分解が進んだと考えられる。
【0106】
以上から、hsa-miR-423-5pは、尿検体中で定常的に存在し、個体差によるばらつきが小さく、HIV感染、結核感染、他の呼吸器系疾患であるCovid19による発現量の影響が小さく、相対比較のための標準化用miRNAとして好適であることが確認できた。
【0107】
〔本発明のスクリーニング方法によるバイオマーカーの検証その1〕
(1)N(B/S)の設定
調製方法その2により、健常者の検体(No.1~19)から調製した測定用RNA試料について、標準化用内部マイクロRNA(hsa-miR-423-5p)及び第2グループに属するバイオマーカー(hsa-miR-532-3p、hsa-miR-423-3p)について、リアルタイムPCR法で測定されたCt値から検量線法により含有量を算出した。次いで、hsa-miR-423-5pの含有量(S)に対する各バイオマーカーの含有量(B)の含有量の比率〔B/S〕を算出した。健常者の測定、算出結果を表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3のうち、N(532-3p)では、サンプルNo.16を除いて、各バイオマーカーについての含有量比N(532-3p)、N(423-3p)の平均値を算出した。算出結果は以下のとおり。
・hsa-miR-532-3p
N(532-3p)={健常者18人の〔B532-3p/S〕の総和}/18=28.02
・hsa-miR-423-3p
N(423-3p)={健常者19人〔B423-3p/S〕の総和}/19=0.82
【0110】
各検体試料について、平均値で規格化した値(規格化後B/S)も併せて表3に示す。規格化は、平均値を1とした場合に換算することであり、各検体の含有量比率〔B532-3p/S〕をN(532-3p)の平均値28.02で、〔B423-3p/S〕をN(423-3p)の平均値0.82で除することにより求められる。
【0111】
(2)P(B/S)の算出及びカットオフ値の設定
調製方法その2により、結核患者群の検体(No.21~39)から調製した測定用RNA試料について、標準化用内部マイクロRNA(hsa-miR-423-5p)及び第2グループに属するバイオマーカー(hsa-miR-532-3p、hsa-miR-423-3p)について、リアルタイムPCRにより測定されるCt値から含有量を算出した。次いで、hsa-miR-423-5pの含有量(S)に対する各バイオマーカーの含有量(B)の含有量比〔B/S〕を算出した。さらに、算出された各検体の〔B/S〕を、健常者のN(B/S)の平均値で除することにより規格化した値(規格化後B/S)を算出した結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表3及び表4からわかるように、マーカーmiR532-3pを用いた場合、健常者では規格化後の〔B/S〕の値は0.32~1.97の範囲に含まれるのに対して、結核感染者では、0~0.84であった(No.23については検定により棄却されたため考慮せず)。またマーカーmiR423-3pを用いた場合、健常者では規格化後の〔B/S〕の値は0.00~1.96の範囲に含まれるのに対して、結核感染者では、0~1.42であった。
【0114】
また、P(B532-3p/S)の平均値は5.92、P(B423-3p/S)の平均値は0.44であり、いずれもN(532-3p)、N(423-3p)の平均値と比べて顕著に低くなっている。規格化後B/Sで比較した場合、健常者の1.0に対して、それぞれ0.22と0.54で統計的に有意に低く(有意水準P<0.0001およびP<0.0031)、第2グループのバイオマーカーとして有効であることがわかる。
【0115】
統計解析ソフトEZR(参考文献:Bone Marrow Transplantation(2013)48,452-458)を用いてROC解析を行い、カットオフ値を求めた。求められたカットオフ値は以下のとおり。なお、マーカーmiR532-3pを用いたカットオフ値の設定に際しては、群からはずれたNo.23は、検定により棄却した。
マーカーmiR532-3pのカットオフ値:0.46
マーカーmiR423-3pのカットオフ値:0.73
【0116】
(3)スクリーニング方法の検証
表3及び表4の規格化後の〔B/S〕を、図2及び図3に示す。図2,3において、検定で棄却したデータは、プロットしていない。
図中、縦軸は各バイオマーカーについて、規格化後の含有量比率〔B/S〕を示している。すなわち、N(B/S)の平均値が1.0となっている。
【0117】
図2(miR532-3p)に示すように、カットオフ値0.46に設定すると、結核感染陽性に分別されるカットオフ値以下に、約94%の検体が含まれた。
また、図3(miR423-3p)に示すように、カットオフ値0.73に設定すると、結核感染陽性に分別されるカットオフ値以下に、約74%の検体が含まれた。
【0118】
以上から、hsa-miR-423-5pを標準化用内部マイクロRNAとして、マーカーとの含有量比率〔B/S〕に基づいて設定したカットオフ値を基準に、検体を結核感染陽性試料、又は陰性試料に分別することが可能であることが確認できる。
すなわち、本発明のスクリーニング方法によれば、特定数のmiRNAを検出、定量するだけで、簡易に、結核感染陽性可能性が高い試料をスクリーニングできることがわかる。
【0119】
なお、バイオマーカーとして、第1グループ又は第2グループのいずれか一方のみの場合、当該グループに属する複数種類のバイオマーカーを用いることで、偽陰性、偽陽性を減らすことが可能である。
例えば、全てのマーカーについて、カットオフ値との比較結果が一致する場合にのみ結核感染陽性試料であると分別することで、偽陽性を回避できる。
【0120】
一方、健康診断という目的上、偽陰性を減らすという観点から、使用する複数のマーカーのうち、1種でもカットオフ値との比較結果に基づき、結核感染陽性の可能性と判定することが好ましい場合もある。例えば、感染者No.29は、マーカーhsa―miR423-3Pを使用した場合、規格化後B/Sの値が1.42であるために、判定結果は偽陰性であるが、マーカー523-3pの規格化後B/Sの値0.17でカットオフ値0.46よりも小さいので、結核感染陽性可能性の試料に分別され、偽陰性の判定を回避できる。
【0121】
〔本発明のスクリーニング方法によるバイオマーカーの検証その2〕
第2グループに属するバイオマーカーとして、hsa-miR-451a(ID:37)について、その1と同様に、調製方法その2により、健常者の検体(No.1~19)及び結核患者群の検体(No.21~39)から調製した測定用RNA試料について、リアルタイムPCR法を実施した。得られたCt値から、その1と同様にして含有量を算出し、標準化用miRNA(hsa-miR-423-5p)の含有量(S)に対する各バイオマーカーの含有量(B)の含有量の比率〔B/S〕を算出した。
【0122】
健常者の検体群のB/Sの平均値を求め、各B/Sの値を当該平均値で除することにより、規格化した。すなわち規格化後の健常者の平均値(N(B/S))は1.00である。規格化後のB/Sの結果の散布図を図4に示す。尚、健常者のB/Sの平均値N(451a)は0.066であり、結核患者群のB/Sの平均値P(451a)は0.0000089であった。
【0123】
健常者の規格後B/Sの値が0~3.56であるのに対して、結核患者のhsa-miR-451aの規格後B/Sの値は0~0.00072で、且つその平均値は0.00014あった。図4に示すように、仮にカットオフ値0.4を採用しても、結核患者の規格後B/Sの値はカットオフ値よりも低いので、結核感染陽性可能性が高い試料群に分別することができる。
【0124】
一方、マーカーhsa―miR451aを使用した場合に、規格化後B/Sの値が小さいために、陽性と判定され得る試料であっても、他の2つのマーカーの規格化後B/Sの値がカットオフ値以下でない場合には、偽陽性の可能性が高いといった判断が可能となる。例えば、ある健常者のサンプルの規格化後B451a/Sの値は0であったため、陽性と判断され得るが、同サンプルの規格化後B532-3P/S=0.46(カットオフ値0.46)、規格化後B423-3p/S=2.44(カットオフ値0.73)であったことから、偽陽性の可能性が高いといった判断が可能となる。
【0125】
〔本発明のスクリーニング方法によるバイオマーカーの検証その3〕
前記検証その1、その2で使用した検体とは別に取得した尿検体(健常者24人、活動性結核感染患者39人)について、調製方法その2により測定用RNA試料を調製した。得られた測定用RNA試料について、バイオマーカーの検証その1にしたがって、リアルタイムPCR法を実行し、標準化用内部マイクロRNA(hsa-miR-423-5p)及び第2グループに属するバイオマーカー(hsa-miR-532-3p、hsa-miR-423-3p)の含有量を算出した。次いで、hsa-miR-423-5pの含有量(S)に対する各バイオマーカーの含有量(B)の含有量の比率〔B/S〕を算出し、さらに各検体試料について、健常者の平均値で規格化した。
【0126】
規格化後の〔B532-3p/S〕の散布図を図5、規格化後の〔B423-3p/S〕の散布図を図6に示す。
発現量が低すぎて、リアルタイムPCRにおいて所定サイクル増幅させることができなかった試料又は群からかけはなれた試料の値を除いた結核感染者の規格化後の〔B532-3p/S〕の平均値(n=34)に基づき、〔B532-3p/S〕のカットオフ値として0.526、〔B423-3p/S〕のカットオフ値として0.73に設定した。
【0127】
上記カットオフ値を基準に陽性、陰性に分別した結果を、下記表に基づき、感度及び特異度を算出した。
【表5】
【0128】
「感度」とは、結核感染の検体(真陽性)を、正しく結核感染試料であると判定する割合で、下記式により算出される。
感度=a/(a+c)
「特異度」とは、結核でない検体(真陰性)を正しく結核でない試料であると判定する割合で下記式により算出される。
特異度=d/(b+d)
【0129】
バイオマーカーとしてmiR532-3pを用いた場合、感度は0.939で特異度は0.696であった。また、バイオマーカーとしてmiR423-3pを用いた場合、感度は0.818で特異度は0.571であった。
【0130】
したがって、例えば、〔B532-3p/S〕についてカットオフ値との比較による判定で陽性と判別された検体について、さらに〔B423-3p/S〕についてカットオフ値との比較による判定で陽性と判別される検体について、結核感染陽性である可能性が高いと判断してもよい。これにより、偽陽性を減らすことができる。
【0131】
以上から、これらのバイオマーカー及び標準化を用いた場合の結核感染有無の分別には、再現性があり、hsa-miR-423-5pを標準化用miRNAとして用いて規格化する分別は、感度、特異度が高く、複数のバイオマーカーの判定結果を組み合わせることで、陽性試料と陰性試料との分別について、精度が高い分別が可能となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の結核感染試料のスクリーニング方法は、検体試料として、被験者にとって低侵襲性で採取容易な尿検体を用いることができ、しかも結核感染の判定のために、培養等する必要がなく、迅速に判定結果を取得することができるので、発展途上国のように設備が整っていない地域において、活動性結核感染の有無を調べる検査方法として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
0007599756000001.xml