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  • -リキュールの製造方法及びリキュール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】リキュールの製造方法及びリキュール
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20190101AFI20241209BHJP
   C12G 3/021 20190101ALI20241209BHJP
【FI】
C12G3/04
C12G3/021
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024062726
(22)【出願日】2024-04-09
【審査請求日】2024-04-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517171923
【氏名又は名称】合同会社ねっか
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 斉弘
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-119920(JP,A)
【文献】新酒、にごり酒、本日蔵出し!,吉乃川株式会社[online],2015年10月23日,[2024年6月24日検索],<URL:https://yosinogawa.co.jp/2015/10/新酒、にごり酒、本日蔵出し!/>
【文献】[飛弾 日本酒&桃カクテル]天使の歓喜 500ml,飛弾の地酒販売 中田酒店[online],2019年03月08日,[2024年6月24日検索],<URL:https://nakadasaketen.hida-ch.com/e976470.html>
【文献】甘酒入り日本酒スパークリング,クックパッド,2019年02月08日,[2024年6月24日検索],<URL:https://cookpad.com/recipe/5495470>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リキュールの製造方法であって、
絞り工程を経て得られる無色透明な麹甘酒を醸造酒に添加する麹甘酒添加工程を含み、
当該麹甘酒の原料が米、麹、及び水である、リキュールの製造方法。
【請求項2】
リキュールの製造方法であって、
麹甘酒を醸造酒に添加する麹甘酒添加工程、及び、
米焼酎を醪に添加する米焼酎添加工程を含み、
当該米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm以上であり、
当該醪中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm未満であり、
当該米焼酎に含まれるエタノール及び当該醪の仕込みに使用された白米の総量に占める当該米焼酎に含まれるエタノールの割合が5~25質量%であり、
当該米焼酎添加工程で得られる当該醸造酒中のカプロン酸エチルの含有量が3.6ppm以上、かつカプロン酸エチルの含有量(ppm)/炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量(mM)が20~35の範囲である、リキュールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたリキュールの製造方法において、前記醸造酒が清酒である、リキュールの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載されたリキュールの製造方法において、α米及び有色米からなる群から選ばれる少なくとも1つが原料として使用されていない、リキュールの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載されたリキュールの製造方法により製造されたリキュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リキュールの製造方法及びリキュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好が多様化しており、様々な風味の清酒、リキュール等の酒類が販売されたり、開発されたりしている。特許文献1は、もろみ作りに用いる掛米として無精米の紫黒米を使用し、紫黒米の糠に含まれるアントシアニン系色素を発酵中のもろみの液部に移行させ、赤紫色に呈色する清酒の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-60528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、米、大麦等の穀物又は果実、及び水のみを原料として、風味を調整できるリキュールの製造方法が希求されていた。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、米麹、大麦等の穀物又は果実、及び水のみを原料として、風味を調整できるリキュールの製造方法、及び当該リキュールの製造方法で製造されるリキュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、麹甘酒の醸造酒への添加により、リキュールの風味を調整できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明は、絞り工程を経て得られる無色透明な麹甘酒を醸造酒に添加する麹甘酒添加工程を含み、当該麹甘酒の原料が米、麹、及び水である、リキュールの製造方法に関する。
本発明は、リキュールの製造方法であって、麹甘酒を醸造酒に添加する麹甘酒添加工程、及び、
米焼酎を醪に添加する米焼酎添加工程を含み、当該米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm以上であり、当該醪中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm未満であり、当該米焼酎に含まれるエタノール及び当該醪の仕込みに使用された白米の総量に占める当該米焼酎に含まれるエタノールの割合が5~25質量%であり、当該米焼酎添加工程で得られる当該醸造酒中のカプロン酸エチルの含有量が3.6ppm以上、かつカプロン酸エチルの含有量(ppm)/炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量(mM)が20~35の範囲である、リキュールの製造方法に関する。
前記醸造酒、好ましくは清酒である。
好ましくは、α米及び有色米からなる群から選ばれる少なくとも1つは、前記リキュールの製造方法において、原料として使用されていない。
【0008】
前記リキュールの製造方法は、好ましくは、米焼酎を醪に添加する米焼酎添加工程を更に含み、該米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm以上であり、当該醪中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm未満であり、当該米焼酎に含まれるエタノール及び当該醪の仕込みに使用された白米の総量に占める当該米焼酎に含まれるエタノールの割合が5~25質量%であり、前記米焼酎添加工程で得られる前記醸造酒中のカプロン酸エチルの含有量が3.6ppm以上、かつカプロン酸エチルの含有量(ppm)/炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量(mM)が20~35の範囲である。
【0009】
前記醸造酒、好ましくは清酒である。
【0010】
好ましくは、α米及び有色米からなる群から選ばれる少なくとも1つは、前記リキュールの製造方法において、原料として使用されていない。
【0011】
さらに本発明は、前記リキュールの製造方法により製造されたリキュールに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリキュールの製造方法は、米麹、大麦等の穀物又は果実、及び水のみを原料として、風味を調整できるリキュールの製造方法を提供する。本発明のリキュールは、米麹、大麦等の穀物又は果実に由来する有機物のみを含有し、添加物を含有しない酒類である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】米焼酎添加工程を含む醸造酒の製造方法の1実施形態のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について更に詳細に説明する。
【0015】
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0016】
本発明のリキュールの製造方法は、麹甘酒を醸造酒に添加する麹甘酒添加工程を含む。米麹を原料として製造される通常の甘酒であり、市販されている。前記麹甘酒は絞り工程を経て無色透明になっているものでも、絞り工程を経ていない白濁しているものでもよい。なお、清酒用醸造酒に甘さを調整し発酵を促進するため、麹甘酒を添加する場合、通常絞り工程を経ずに製造された白濁している麹甘酒が添加されている。さらに麹甘酒はリキュールの製造において使用されていなかった。前記醸造酒は、好ましくは清酒、ワイン、又はビールであり、より好ましくは清酒である。
【0017】
前記醸造酒は、米焼酎を醪に添加する米焼酎添加工程を含む醸造酒の製造方法により製造されてよい。前記米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量は10ppm以上であり、前記醪中のカプロン酸エチルの含有量は10ppm未満であり、前記米焼酎に含まれるエタノール及び前記醪の仕込みに使用された白米の総量に占める前記米焼酎に含まれるエタノールの割合は5~25質量%であり、前記米焼酎添加工程で得られる前記醸造酒中のカプロン酸エチルの含有量は3.6ppm以上、かつカプロン酸エチルの含有量(ppm)/炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量(mM)が20~35の範囲である。前記米焼酎添加工程を含む醸造酒の製造方法の1実施形態のフローチャートを図1に示す。
【0018】
前記醸造酒は、例えば特開2023-119920号公報に記載されている醸造酒の製造方法により製造される。
【0019】
本発明のリキュールの製造方法において、α米及び有色米からなる群から選ばれる少なくとも1つが原料として使用されても、使用されなくてもよい。リキュールの風味及び透明性の観点から、好ましくは、α米及び有色米からなる群から選ばれる少なくとも1つは原料として使用されない。
【0020】
<不可能・非実際的事情>
本発明のリキュールの風味は、米麹、大麦等の穀物又は果実に由来する有機物のみを含有し、添加物を含有しない酒類であり、添加物を含有する従来のリキュールの風味と異なる。しかしながら、本発明のリキュールの風味の数値化は不可能・非実際的であり、前記風味は人の飲酒により評価可能である。したがって、本発明のリキュールは、製造方法により規定されるべきである。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
【0023】
<アルコール含有量>
各試料に含まれるアルコール含有量を、京都電子工業株式会社製SD式迅速アルコール測定システムを用い、国税庁所定分析法に準拠して測定した。
【0024】
<カプロン酸エチルの含有量>
後述する各清酒及び米焼酎(醸造用アルコール)を2倍に希釈してアルコール度数15質量%にしたものを試料として用いた。各試料に含まれるアルコール含有量を、ガスクロマトグラフシステム(アジレント・テクノロジー株式会社製7890B)、及びヘッドスペースサンプラー(アジレント・テクノロジー株式会社製7697A)を用い、下記条件でヘッドスペース法により、各試料に含まれるカプロン酸エチルの含有量を測定した。
-ガスクロマトグラフィーの測定条件-
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製DB-WAX(内径0.32cm×長さ30cm)
キャリアガス:窒素
流量:2.0ml/分
カラム温度:85℃
注入口温度を250℃、FID温度を250℃とした。試料1.0mlと内部標準液(カプロン酸メチル)0.1mlを20ml容ガラスバイアルに入れ密栓してヘッドスペースサンプラーにて50℃で30分間加熱した後、ヘッドスペースガスを自動的にガスクロマトグラフに注入した。検量線はカプロン酸エチルの標品を15%(v/v)エタノール溶液に溶解し内部標準法により定量した。
【0025】
<炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量>
和光純薬工業株式会社製NEFA C-テストワコーを使用し、カプロン酸が15v/v%エタノール水溶液に溶解されたカプロン酸溶液を標準試料とし、550nmにおける吸光度を測定して、各試料に含まれる炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量を算出した。
【0026】
<清酒用醪の調製>
麹米および掛米として福島県産「夢の香」を使用し、精米機(株式会社サタケ製EDB15A)を用い、精米歩合40%まで精米し、表1に示す仕込み配合にて酒母省略仕込みで試験醸造を行った。
【0027】
使用した麹は清酒用の種麹として株式会社菱六社製白夜を用い、常法通り製造した。また、麹汁培地(Brix.11)で前培養した酵母を麹汁培地(Brix.11)に添加し、30℃にて3日間静置培養を行った後、3000rpmで10分間遠心分離を行い、殺菌水で洗浄したものを5×10[cells/mL]となるよう添仕込み時に添加した。醪の温度経過は6.5℃で留仕込みを行い、0.5℃/日にて昇温させ、11℃を最高品温として以降は10℃を基本として発酵経過により適宜調整した。
【0028】
前記酵母として、福島県ハイテクプラザが所有するうつくしま夢酵母F7-01を使用し、清酒用醪のアルコール含有量が15.5質量%程度になった時点で発酵が完了したとみて、清酒用醪を9000rpmで5分間遠心分離して酒粕を除去し、得られた試料中のカプロン酸エチルの含有量を測定した。前記醪中のカプロン酸エチルの含有量は3.3ppmであった。
【0029】
<米焼酎の調製>
米焼酎用醪を0.098Pa、30℃で減圧蒸留する工程を含む製造方法で製造された合同会社ねっか製ねっかを水で希釈した。調製された米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量は16.3ppm、炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量は0.19mM、アルコール含有量は25質量%であった。
【0030】
<うつくしま夢酵母F7-01を使用して調製した醪を使用した清酒の調製>
醸造用アルコールとして前記米焼酎を、うつくしま夢酵母F7-01を使用して調製した醪に、当該醪の原料白米の質量に対する前記米焼酎中のエタノールの質量が10質量%又は40質量%となるように添加し、調製された各清酒中のアルコール濃度が17.5質量%程度となるように加水し、次いで濾過により酒粕を除去して各清酒を調製した。さらに、市販の醸造用アルコール(カプロン酸エチルの含有量が10ppm未満)を、当該醪の原料白米の質量に対する当該醸造用アルコール中のエタノールの質量が10質量%となるように添加し、次いで濾過により酒粕を除去して清酒を調製した。各清酒中のカプロン酸エチルの含有量及び炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<麹甘酒の調製>
麹:蒸米を2:1(質量比)で混合し、得られた混合物に水を、前記混合物:水=3:1(質量比)となるように添加し、60℃で6時間糖化させた。次いで、得られた糖化物を絞り、無色透明の麹甘酒を得た。
【0033】
[実施例1]
前記麹甘酒1Lを、うつくしま夢酵母F7-01を使用して調製した前記清酒100Lに添加し、リキュールを製造した。製造されたリキュールの風味は良好であった。
【要約】
【課題】米麹、大麦等の穀物又は果実、及び水のみを原料として、風味を調整できるリキュールの製造方法、及びこのリキュールの製造方法で製造されるリキュールを提供する。
【解決手段】リキュールの製造方法が、麹甘酒を醸造酒に添加する甘酒添加工程を含む。このリキュールの製造方法は、好ましくは米焼酎を醪に添加する米焼酎添加工程を更に含む。この米焼酎中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm以上であり、この醪中のカプロン酸エチルの含有量が10ppm未満であり、この米焼酎に含まれるエタノール及びこの醪の仕込みに使用された白米の総量に占めるこの米焼酎に含まれるエタノールの割合が5~25質量%であり、この米焼酎添加工程で得られるこの醸造酒中のカプロン酸エチルの含有量が3.6ppm以上、かつカプロン酸エチルの含有量(ppm)/炭素数6以上の遊離脂肪酸の含有量(mM)が20~35の範囲である。
【選択図】なし
図1