(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】スラリ投射体
(51)【国際特許分類】
B24C 5/06 20060101AFI20241209BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B24C5/06 A
B24C11/00 G
B24C5/06 D
(21)【出願番号】P 2024068374
(22)【出願日】2024-04-19
【審査請求日】2024-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】村山 一成
(72)【発明者】
【氏名】大倉 弘至
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-122768(JP,A)
【文献】中国特許第111251194(CN,B)
【文献】国際公開第2013/141297(WO,A1)
【文献】特開平09-038862(JP,A)
【文献】中国特許第111267006(CN,B)
【文献】米国特許第05637029(US,A)
【文献】特開平08-323629(JP,A)
【文献】特開昭61-257774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と液体とが混合されたスラリが抽出されるスラリ吐出孔が形成された軸部材と、
前記軸部材と同軸に配置されると共に、当該軸周りに回転可能に配置された羽根車と、を備え、
前記羽根車の回転に伴って前記スラリが投射され、ワークに投射された前記スラリを衝突させるスラリ投射体において、
前記スラリ吐出孔は、前記羽根車の回転方向の正方向又は逆方向に移動可能な移動手段を備え、
前記軸部材は、先端側に前記スラリ吐出孔が形成され、前記スラリ吐出孔の基端側の側面に前記スラリを導入するスラリ導入孔が形成され
、
前記スラリ導入孔は、前記スラリが貯留されたスラリ貯留室内に配置されることを特徴とするスラリ投射体。
【請求項2】
請求項1に記載のスラリ投射体において、
前記羽根車は、所定の間隔で羽根部が形成されていることを特徴とするスラリ投射体。
【請求項3】
請求項1に記載のスラリ投射体において、
前記スラリ導入孔は、前記軸部材の周方向に沿って所定の間隔で複数形成さ
れることを特徴とするスラリ投射体。
【請求項4】
請求項1に記載のスラリ投射体において、
前記移動手段は、第1のモータを備え、
前記羽根車は、第2のモータによって回転駆動されることを特徴とするスラリ投射体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射材(例えば、砥粒と水などの液体とが混合されたスラリ)をワーク等に対して衝突させてワーク表面を処理するスラリ投射体に関し、特に羽根車(インペラ)を用いて投射材をワークに衝突させるスラリ投射体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークの表面の汚れやバリなどを除去するためのスラリ投射体として、種々のスラリ投射体が知られている。このようなスラリ投射体は、例えば、特許文献1に記載されたスラリ投射体が知られており、当該スラリ投射体は、ワークに液体と砥粒とを混合したスラリを羽根車により投射して衝突させるものであり、このスラリの衝突によってワーク表面の汚れやバリなどが除去される。
【0003】
従来のスラリ投射体100は、
図6に示すように、スラリ導入口110から導入されたスラリをスラリ吐出孔130から吐出し、羽根車120を図示しない駆動モータの回転力が伝達されたプーリ140で回転させることで、スラリ吐出孔130から吐出されたスラリを搬送手段150によって搬送されたワークWに向けて投射する。このようなワークの処理は、ウェットショットブラスト処理と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のスラリ投射体100によると、
図6および
図7に示すように、羽根車120の軸部に配置されたスラリ吐出孔130の向きが固定されているため、ワークWとスラリ吐出孔130の角度θ´が一定となる。この状態で羽根車120の回転によってスラリをワークWに向けて投射すると、スラリが羽根車120の接線方向を中心とした略扇状に投射されるので、羽根車120の接線方向直下近傍の位置P1が削れ量が最も大きく、当該位置P1から羽根車120の径方向(ワークWの水平方向)に向けて離れるにつれて削れ量が減少することになる。このため、従来のスラリ投射体100は、ワークWの位置によって処理の均一性が一定ではないという課題があり、より高い処理品質を実現するために、当該処理の均一性を向上が求められている。即ち、従来のスラリ投射体100は、
図6においてワークWの羽根車120直下の部分が最も削れ量が大きく、
図6の紙面鉛直方向に沿って徐々に削れ量が減少することとなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、羽根車によるスラリの投射によって処理を行った場合であっても、ワークの位置によらず処理の均一性が高く、より高い処理品質を実現することができるスラリ投射体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係るスラリ投射体は、砥粒と液体とが混合されたスラリが抽出されるスラリ吐出孔が形成された軸部材と、前記軸部材と同軸に配置されると共に、当該軸周りに回転可能に配置された羽根車と、を備え、前記羽根車の回転に伴って前記スラリが投射され、ワークに投射された前記スラリを衝突させるスラリ投射体において、前記スラリ吐出孔は、前記羽根車の回転方向の正方向又は逆方向に移動可能な移動手段を備え、前記軸部材は、先端側に前記スラリ吐出孔が形成され、前記スラリ吐出孔の基端側の側面に前記スラリを導入するスラリ導入孔が形成され、前記スラリ導入孔は、前記スラリが貯留されたスラリ貯留室内に配置されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るスラリ投射体において、前記羽根車は、所定の間隔で羽根部が形成されていると好適である。
【0010】
また、本発明に係るスラリ投射体において、前記スラリ導入孔は、前記軸部材の周方向に沿って所定の間隔で複数形成されると好適である。
【0011】
また、本発明に係るスラリ投射体において、前記移動手段は、第1のモータを備え、前記羽根車は、第2のモータによって回転駆動されると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスラリ投射体によれば、羽根車の軸部に配置されたスラリ吐出孔は、前記羽根車の回転方向の正方向又は逆方向に移動可能な移動手段を備えるので、スラリの投射方向を調整することができ、ワークの位置によらず処理を均一とすることができ、高い処理品質を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るスラリ投射体の平面図。
【
図3】本発明の実施形態に係るスラリ投射体の正面図。
【
図5】本発明の実施形態に係るスラリ投射体の削れ量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るスラリ投射体の平面図であり、
図2は、
図1におけるA-A断面図であり、
図3は、本発明の実施形態に係るスラリ投射体の正面図であり、
図4は、
図3におけるB-B断面図であり、
図5は、本発明の実施形態に係るスラリ投射体の削れ量を示す図である。
【0016】
図1から
図3に示すように、本実施形態に係るスラリ投射体10は、投射材Sをワーク搬送部によって搬送されるワークの表面に対して投射して投射材Sを衝突させて表面処理を施す。
【0017】
投射材Sは、液体と砥粒とを混合した混合物であるスラリを用いると好適である。スラリに含まれる液体は、後述する砥粒を被加工物の表面に運ぶ役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であれば、引火性のある物質を除き、いかなる液体をも用いることができる。具体的には、環境面への配慮やコストの関係から水を用いることが好ましい。
【0018】
砥粒は、上記液体によって被加工物表面に運ばれ、被加工物表面に対し所望の加工を施す役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であればいかなる砥粒をも用いることができる。
【0019】
具体的には、砥粒の材質としては、セラミックス、樹脂、および金属などを挙げることができ、より具体的には、アルミナ、ガラス、ジルコニア、およびステンレスなどを挙げることができる。また、砥粒の形状としては、多角形状、球形状、真球形状などを挙げることができる。また、砥粒の大きさとしては、1μm程度から800μm程度のものを適宜選択して用いることができる。
【0020】
砥粒のスラリ全体に対する含有割合についても特に限定されることはなく、被加工物の材質や加工面積、さらには所望する加工の程度などに応じて適宜設計可能である。
【0021】
また、スラリは、上記液体および砥粒の他に、種々の機能を有する混合材を用いることができ、例えば、防錆剤を含有することも可能である。ウェットショットブラスト処理方法において用いられるスラリ中に防錆剤を含有することにより、被加工物の表面に従来通りのウェットショットブラスト処理を施すと同時に、防錆効果をも付与することが可能となる。また、防錆剤に変えて、各成分の作用効果を阻害しない程度において、各種添加剤を添加してもよい。
【0022】
本実施形態に係るスラリ投射体10は、
図1に示すように、羽根車20と羽根車20と同軸に配置された軸部材30とが収納された処理室60と、軸部材30を回転可能に保持する移動手段40と、羽根車20を回転せしめる第2のモータ50と、後述するワークWを搬送するワーク搬送部80とを備えている。
【0023】
図2に示すように、羽根車20は、概略円盤状の羽根車本体22と、羽根車本体22の側面(盤面上)から立設すると共に、それぞれが放射状に伸びる複数の羽根部21を有している。羽根部21は、所定の間隔で配置されており、本実施形態に係るスラリ投射体10は、8つの羽根部21を備えている。また、羽根部21の中心側の端部は、斜面が形成されており、当該斜面によって、後述するスラリ吐出孔31から吐出されたスラリを円滑に羽根部21側に導くことが可能となっている。
【0024】
図1に示すように、羽根車20は、処理室60に近接して配置された第2のモータ50によって回転駆動されており、第2のモータ50の回転力は、第2のモータ50に取り付けられた第1のプーリ52及び羽根車20に取り付けられた第2のプーリ53にそれぞれ掛け渡された駆動ベルト51によって羽根車20に伝達される。なお、羽根車20は、処理室60の一方の側壁61に取り付けられたベアリング23によって回転可能に保持されている。
【0025】
図1から
図4に示すように、軸部材30は、先端側が閉塞された有底筒状の部材であって、側壁の先端側にスラリ吐出孔31が穿孔されており、当該スラリ吐出孔31によって軸部材30の内部と外部とが連絡している。
【0026】
軸部材30のスラリ吐出孔31よりも基端側の側面(軸部材30の概略中央近傍)には、複数のスラリ導入孔32が形成されている。スラリ導入孔32は、軸部材30の周方向に所定の間隔で形成されている。なお、スラリ導入孔32の数は、投射するスラリの種類やワークWの処理の削れ量に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、本実施形態に係るスラリ投射体10では、略90°間隔で4つのスラリ導入孔32が形成されている。
【0027】
また、軸部材30の基端部は、移動手段40を構成する第1のモータ41及び減速機42が取り付けられており、当該第1のモータ41によって軸部材30は、羽根車20の回転方向の正方向または逆方向に回転可能に配置されている。なお、第1のモータ41は、サーボモータなどが好適に用いられる。第1のモータ41は、図示しない制御部からの指令に従って、任意の速度、移動方向および移動距離でスラリ吐出孔31を軸周りに移動可能に制御している。軸部材30がこのように構成されることで、スラリ吐出孔31の移動方向は、羽根車20の回転方向に対して、正方向及び逆方向のいずれの方向にも移動可能となっている。
【0028】
なお、第1のモータ41は、処理室60の一方の側壁61と対向する他方の側壁62に取り付けられており、羽根車20と軸部材30は、それぞれ対向する一方の側壁61と他方の側壁62から互いに向き合うように突出して処理室60内に配置されている。
【0029】
また、他方の側壁62の内面(処理室60の内壁)には、スラリ貯留室70が形成されている。スラリ貯留室70は、他方の側壁62に形成されたスラリ供給口71に取り付けられた図示しないホースによって図示しないスラリ貯留タンクから上述したスラリが供給される。また、
図4に示すように、スラリ貯留室70には、軸部材30のスラリ導入孔32が配置され、スラリ導入孔32を介して軸部材30の内部にスラリを導入可能とされている。
【0030】
処理室60は、上述したように互いに対向する一方の側壁61及び他方の側壁62を有する密閉された箱体であり、下方に配置されたワーク搬送部80に向けた開口63を有している。なお、本実施形態に係るスラリ投射体10では、処理室60を立方体形状の箱状に形成した場合について説明を行ったが、処理室60の形状はこれに限らず、例えば、上方が羽根車20の形状に倣って円弧状に湾曲したドーム状に形成されても構わない。
【0031】
ワーク搬送部80は、搬送方向に沿って複数の搬送ローラ81が回転自在に配置されており、搬送ローラ81の回転によって当該搬送ローラ81上をワークWが搬送される。なお、ワーク搬送部80の開口63の直下には、スラリ回収部82が形成されており、当該スラリ回収部82から投射されたスラリが回収される。
【0032】
なお、本実施形態に係るスラリ投射体10では、処理するワークWとして平板状のプリント基板などが好適に用いられるが、ワークWはこれに限らず、例えば、棒状部材や複雑形状の部材に対して処理を行う事も可能である。
【0033】
次に、
図5を参照して本実施形態に係るスラリ投射体10の動作について説明を行う。
【0034】
本実施形態に係るスラリ投射体10は、従来のスラリ投射体と同様に羽根車20の軸部分に配置されたスラリ吐出孔31から吐出されたスラリを羽根車20の羽根部21によってワークWに向けて投射することで、ワークWの表面を所定の削れ量で処理する。
【0035】
このとき、スラリ吐出孔31が羽根車20の回転方向に対して正方向及び逆方向に移動可能であるので、スラリ吐出孔31から吐出されるスラリが角度θの範囲で吐出角度を変更することができる。したがって、従来のスラリ吐出孔の角度θ´よりも大きな角度から、角度θ´よりも小さな角度とすることができる。これにより、複数のスラリ吐出孔31の角度によってスラリを投射することができ、これにより、スラリ吐出孔31の角度に応じて複数の処理(T1~T4)を行うことが可能となる。なお、最も大きい角度でスラリを投射した場合のスラリの投射範囲の遠方端L1が、従来の範囲の遠方端L2よりも羽根車20から遠い位置まで位置することができることで、処理することができる範囲を広げることも可能となる。
【0036】
詳述すると、スラリの投射範囲が最も遠い遠方端L1に投射できるスラリ吐出孔31の角度(第1の角度)による削れ量T1、第1の角度よりもスラリ吐出孔31の位置が正方向に移動した第2の角度による削れ量T2、第2の角度よりも正方向に移動した従来同様角度(第3の角度)による削れ量T3及び第3の角度よりも正方向に移動した第4の角度による削れ量T4を重ね合わせることで、ワークWの位置によらず均一な処理を行う事が可能となる。なお、上述した削れ量T1~T4は、一回の処理に4回の投射を行う場合について説明を行ったが、投射の数は処理するワークWの形状や求められる処理品質に応じて適宜増減することが可能である。
【0037】
また、本実施形態に係るスラリ投射体10は、羽根車20の羽根部21の数を8つとし、軸部材30に形成したスラリ導入孔32の数を4つとして説明を行ったが、これらの数は、投射するスラリや処理の条件等に応じて適宜増減することが可能である。また、スラリ吐出孔31の移動角度を第1の角度から第4の角度までと4段階に移動する場合について説明を行ったが、スラリ吐出孔31の移動角度については、必要に応じて適宜その数を増減することが可能である。また、本実施形態に係るスラリ投射体10は、ワーク搬送部80によって搬送されるワークWに対してウェットショットブラスト処理を行う場合について説明を行ったが、テーブル等に載置されたワークに対してスラリ投射体自体を移動させてウェットショットブラスト処理を行っても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0038】
10 スラリ投射体, 20 羽根車, 21 羽根部, 22 羽根車本体, 30 軸部材, 31 スラリ吐出孔, 32 スラリ導入孔, 40 移動手段, 41 第1のモータ, 50 第2のモータ, 51 駆動ベルト, 52, 第1のプーリ, 53 第2のプーリ, 60 処理室, 70 スラリ貯留室, 71 スラリ供給口, 80 ワーク搬送部, 81 搬送ローラ, 82 スラリ回収部。
【要約】
【課題】羽根車によるスラリの投射によって処理を行った場合であっても、ワークの位置によらず処理の均一性が高く、より高い処理品質を実現することができるスラリ投射体を提供する。
【解決手段】砥粒と液体とが混合されたスラリが抽出されるスラリ吐出孔が形成された軸部材と、前記軸部材と同軸に配置されると共に、当該軸周りに回転可能に配置された羽根車と、前記羽根車の回転に伴って前記スラリが投射され、ワークに投射された前記スラリを衝突させるスラリ投射体において、前記スラリ吐出孔は、前記羽根車の回転方向の正方向又は逆方向に移動可能な移動手段を備える。
【選択図】
図3