(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】対数尤度比算出回路および無線受信装置
(51)【国際特許分類】
H03M 13/19 20060101AFI20241209BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H03M13/19
H04L27/00 B
(21)【出願番号】P 2020186372
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢晃
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-133536(JP,A)
【文献】特表2004-528781(JP,A)
【文献】米国特許第06785342(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 13/19
H04L 27/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側において多値数が16の直角位相振幅変調方式で変調され
、4bit
のデータで変調された受信信号のうち、
理想シンボル点の位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されているbitについては、
前記受信信号の位相角度を用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出し、
振幅に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「振幅区別シンボル点」と呼ぶ)と位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「位相区別シンボル点」と呼ぶ)とに分けられるbitについては、
前記振幅区別シンボル点と前記位相区別シンボル点とのうちのどちらであるかを前記受信信号の振幅に基づいて判断したうえで、
前記振幅区別シンボル点について、前記受信信号の振幅を用いて、振幅に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出し、
前記位相区別シンボル点について、前記受信信号の位相角度を用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出する、
ことを特徴とする対数尤度比算出回路。
【請求項2】
前記理想シンボル点の位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されているbitである1bit目について下記の数式1に従って対数尤度比を算出するとともに3bit目について下記の数式3に従って対数尤度比を算出し、
前記振幅区別シンボル点と前記位相区別シンボル点とに分けられるbitである2bit目について下記の
数式2A又は数式2Bに従って対数尤度比を算出するとともに4bit目について下記の
数式4A又は数式4Bに従って対数尤度比を算出する(但し、
R
thre2
<R
thre1
において、x
R≧R
thre1 または x
R≦R
thre2 のときに数式2Aおよび数式4Aが用いられ、R
thre2<x
R<R
thre1 のときに数式2Bおよび数式4Bが用いられる)、
【数1】
【数2A】
【数2B】
【数3】
【数4A】
【数4B】
ここに、
xφ:受信信号の位相角度
x
R:受信信号の振幅
φ
i:理想シンボル点の位相角度(但し、φの添字i=0,1,2,・・・,11)
R
i:理想シンボル点の振幅(但し、Rの添字i=0,1,2)
σ
2:雑音分散
R
thre1:第1の振幅閾値
R
thre2:第2の振幅閾値
ことを特徴とする請求項1に記載の対数尤度比算出回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載の対数尤度比算出回路を備える、
ことを特徴とする無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対数尤度比算出回路および無線受信装置に関し、特に、低密度パリティ検査復号における誤り訂正において使用される対数尤度比を算出する回路および前記回路を含む無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低密度パリティ検査(LDPC:Low Density Parity Check の略)復号において、受信信号の熱雑音の分布に基づいて算出した対数尤度比(LLR:Log-Likelihood Ratio の略)を使用して誤り訂正を行う手法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高多値の変調方式では、受信信号の位相雑音やフェージングなど熱雑音以外の影響も大きく、低密度パリティ検査の誤り訂正能力が低減する、という問題がある。具体的には、従来の対数尤度比の算出方法では、受信信号の熱雑音によって理想シンボル点を中心として正規分布/ガウス分布に基づいて受信信号の振幅が変動することを前提としている。しかしながら、この方法では、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が回転した際の変動を考慮することができない。このため、特に位相雑音が存在する環境下において対数尤度比の算出精度が劣化し、延いては低密度パリティ検査の誤り訂正能力が低減してしまう。
【0005】
そこでこの発明は、対数尤度比の算出精度を向上させて低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能な、対数尤度比算出回路および前記対数尤度比算出回路を含む無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、送信側において多値数が16の直角位相振幅変調方式で変調され、4bitのデータで変調された受信信号のうち、理想シンボル点の位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されているbitについては、前記受信信号の位相角度を用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出し、振幅に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「振幅区別シンボル点」と呼ぶ)と位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「位相区別シンボル点」と呼ぶ)とに分けられるbitについては、前記振幅区別シンボル点と前記位相区別シンボル点とのうちのどちらであるかを前記受信信号の振幅に基づいて判断したうえで、前記振幅区別シンボル点について、前記受信信号の振幅を用いて、振幅に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出し、前記位相区別シンボル点について、前記受信信号の位相角度を用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比を算出する、ことを特徴とする対数尤度比算出回路である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の対数尤度比算出回路において、所定の数式に従って各bitの対数尤度比を算出する、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の対数尤度比算出回路を備える、ことを特徴とする無線受信装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1や請求項2に記載の発明によれば、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が正規分布/ガウス分布に基づいて回転・変動した際の確率分布も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音が支配的な環境下においても対数尤度比の算出精度を向上させることが可能となり、延いては、低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、対数尤度比を使用して低密度パリティ検査復号における誤り訂正を行う無線受信装置において上記の作用効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部を含む、実施の形態における無線受信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】16QAM方式の理想シンボル点の配置および各理想シンボル点に割り当てられているbit列を示す図である。
【
図3】対数尤度比の算出に纏わる変数の設定を説明する図である。
【
図4】1bit目の対数尤度比の算出式の考え方を説明する図であり、特に1bit目が0の領域と1bit目が1の領域とを説明する図である。
【
図5】1bit目の対数尤度比の算出式の考え方を説明する図である。
【
図6】2bit目の対数尤度比の算出式の考え方を説明する図であり、特に振幅にbit情報をのせているシンボルと位相にbit情報をのせているシンボルとを説明する図である。
【
図7】2bit目の対数尤度比の算出式の考え方を説明する図である。
【
図8】従来の対数尤度比の算出方法の問題点とこの発明に係る対数尤度比算出回路による対策とを説明する図である。
【
図9】この発明に係る対数尤度比算出回路の有効性の検証例で用いられた評価系の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。また、各図では、複素信号を構成する実部(I信号;別言すると、同相成分,I信号成分)を伝送する信号線と虚部(Q信号;別言すると、直交成分,Q信号成分)を伝送する信号線とをまとめて1本の信号線で表示している。また、下記の説明における「以上」と「より大きい」とは相互に置き換えられてもよく、さらに、「以下」と「未満」とは相互に置き換えられてもよい。
【0013】
図1は、この発明の実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20を含む、実施の形態における無線受信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0014】
アンテナ10は、図示していない無線送信装置から送出された信号波を受信して、前記信号波を受信信号としてチャネルフィルタ11へと転送する。
【0015】
ここで、無線送信装置は、送信対象の無線フレームを、低密度パリティ検査符号化を施すとともに多値数が16の直角位相振幅変調方式(即ち、16QAM方式;QAMは Quadrature Amplitude Modulation の略)で変調したうえでアンテナから送出する。つまり、無線受信装置1は、低密度パリティ検査符号化が施されて多値数が16の直角位相振幅変調方式(16QAM方式)で変調された多値変調信号を受信する。
【0016】
チャネルフィルタ11は、受信帯域を制限するためのフィルタであり、具体的には例えばバンドパスフィルタによって構成され得る。チャネルフィルタ11は、アンテナ10から転送される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対して帯域制限処理を施して、前記受信信号から所望の周波数帯域の受信信号を抽出して出力する。
【0017】
ミキサ13は、チャネルフィルタ11から出力される受信信号の入力を受けるとともに局部発振器12から出力されるローカル信号の入力を受け、前記受信信号に前記ローカル信号を乗算して、前記受信信号の周波数を変換(具体的には、ダウンコンバート)して出力する。
【0018】
自動利得制御部14は、ミキサ13から出力される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対して前記受信信号のレベルが所定のレベルで一定になるように利得調整処理を施して、利得調整処理後(言い換えると、レベル補正後)の受信信号(尚、アナログ信号である)を出力する。
【0019】
A/D変換器15(Analog-to-Digital converter)は、自動利得制御部14から出力される受信信号の入力を受け、前記受信信号に対してアナログ-デジタル変換処理を施して、アナログ信号からデジタル信号への変換を行う。すなわち、A/D変換器15は、デジタルの受信信号を出力する。
【0020】
デジタル直交検波部16は、A/D変換器15から出力されるデジタルの受信信号の入力を受け、前記受信信号を直交検波によってベースバンド信号に変換する。デジタル直交検波部16は、具体的には、数値制御発振器からcos波が入力されて前記受信信号の同相成分を同期検出する乗算器と、数値制御発振器からsin波が入力されて前記受信信号の直交成分を同期検出する乗算器とを備える。デジタル直交検波部16は、デジタル信号処理による多値変調の直交検波を行い、実部を構成する実数成分(I信号)と虚部を構成する虚数成分(Q信号)とのIQ直交座標で表現される複素信号(別言すると、同相成分および直交成分の検波信号)を生成して出力する。
【0021】
デジタル直交検波部16の数値制御発振器は、設定値に応じた周波数で発振する発振器であり、位相が90°だけ相互に異なるcos波とsin波とを発生させて2つの乗算器のそれぞれへと供給する。
【0022】
ロールオフフィルタ17は、デジタル直交検波部16から出力されるベースバンド信号(別言すると、同相成分および直交成分の検波信号)の入力を受け、前記ベースバンド信号の同相成分と直交成分とのそれぞれに対して符号間干渉を除去するための処理を施して、前記ベースバンド信号のスペクトラム波形を所望のロールオフとなるように整形して出力する。
【0023】
等化器18は、ロールオフフィルタ17から出力されるベースバンド信号の入力を受け、前記ベースバンド信号の同相成分と直交成分とのそれぞれに対して、周波数選択性フェージングによる符号間干渉を除去するための適応等化処理を施して、適応等化処理後のベースバンド信号(受信信号)を出力する。
【0024】
復号部19は、LLR算出部20から出力される対数尤度比(LLR:Log-Likelihood Ratio の略)の入力を受け、前記対数尤度比を使用して例えばsum-product復号法に従って低密度パリティ検査復号処理を行う。
【0025】
LLR算出部20は、低密度パリティ検査復号における誤り訂正において使用される対数尤度比を算出する回路であり、無線受信装置1に組み込まれる。
【0026】
実施の形態に係るLLR算出部20は、送信側において多値数が16の直角位相振幅変調方式で変調され、4bitのデータで変調された受信信号のうち、理想シンボル点の位相角度φiに応じて0になるか1になるかが区別されているbitについては、受信信号の位相角度xφを用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比LLRφmを算出し、振幅に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「振幅区別シンボル点」と呼ぶ)と位相角度に応じて0になるか1になるかが区別されている理想シンボル点(「位相区別シンボル点」と呼ぶ)とに分けられるbitについては、振幅区別シンボル点と位相区別シンボル点とのうちのどちらであるかを受信信号の振幅xRに基づいて判断したうえで、振幅区別シンボル点について、受信信号の振幅xRを用いて、振幅に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比LLRφmを算出し、位相区別シンボル点について、受信信号の位相角度xφを用いて、位相角度に応じて0になる確率密度分布と1になる確率密度分布とに基づいて対数尤度比LLRφmを算出する、ようにしている。
【0027】
まず、16QAM方式の理想シンボル点の配置および各理想シンボル点に割り当てられているbit列(言い換えると、16QAMの信号空間ダイヤグラム)を
図2に示す。なお、
図2において、A
iは理想シンボル点配置の同相成分であり、B
iは理想シンボル点配置の直交成分である(但し、i=1,2,3,4)。また、
図2に示す理想シンボル点の配置に対して規定される、下記の数式1乃至数式7で用いられる変数の設定を
図3に示す。
【0028】
LLR算出部20は、下記の数式1A,1Bに基づいて、m bit目の対数尤度比LLRφ
mを算出する。
【数1】
【0029】
上記の数式1A,1Bにおける各記号・変数の意味は下記のとおりである。なお、下記のうちの理想シンボル点の位相角度の「φ」は、図面では「Φ」として表示している。
m:ビット番号(但し、m=1,2,3,4)
xφ:受信信号の位相角度
xR:受信信号の振幅
φi:理想シンボル点の位相角度(但し、φの添字i=0,1,2,・・・,11)
Ri:理想シンボル点の振幅(但し、Rの添字i=0,1,2)
σ2:雑音分散
Ri(m)=1:m番目のbitが1である理想シンボル点(振幅区別シンボル点)の振幅
Ri(m)=0:m番目のbitが0である理想シンボル点(振幅区別シンボル点)の振幅
φi(m)=1:m番目のbitが1である理想シンボル点(位相区別シンボル点)の位相
φi(m)=0:m番目のbitが0である理想シンボル点(位相区別シンボル点)の位相
【0030】
R
i(m)およびφ
i(m)について、
図3に示すマッピング方式で且つm=2の場合には具体的には、R
i(m)=1はR
0であり、R
i(m)=0はR
2であり、また、φ
i(m)=1はφ
2,φ
3,φ
8,およびφ
9であり、φ
i(m)=0はφ
0,φ
5,φ
6,およびφ
11である。
【0031】
上記の数式1Aは、受信信号の振幅x
Rが下記の数式2を満たして、対応する理想シンボル点が同位相に複数存在する場合に用いられ、上記の数式1Bは、前記以外の場合に用いられる。16QAM方式の場合で
図3に示す例(別言すると、設定)の場合には、下記の数式2におけるRの添字iは1である。
【数2】
【0032】
対応する理想シンボル点が同位相に複数存在する場合とは、すなわち、或る理想シンボル点の位相角度φ
i(図面ではΦ
i)について理想シンボル点が複数存在する場合のことであり、
図3に示すマッピング方式では具体的には例えば、bit列「0000」と「0101」とが存在する理想シンボル点の位相角度Φ
1やbit列「1000」と「1101」とが存在する理想シンボル点の位相角度Φ
4などのような場合のことである。
【0033】
上記の数式1は、16QAM方式の場合のビット番号m=1,2,3,4のそれぞれについて展開すると、下記の数式3乃至数式6のようになる。数式3乃至数式6における各記号・変数の意味は下記のとおりである。なお、下記のうちの理想シンボル点の位相角度の「φ」は、図面では「Φ」として表示している。
xφ:受信信号の位相角度
xR:受信信号の振幅
φi:理想シンボル点の位相角度(但し、φの添字i=0,1,2,・・・,11)
Ri:理想シンボル点の振幅(但し、Rの添字i=0,1,2)
σ2:雑音分散
Rthre1:第1の振幅閾値
Rthre2:第2の振幅閾値
【0034】
1bit目の対数尤度比LLRφ
1は、下記の数式3に従って算出される。
【数3】
【0035】
2bit目の対数尤度比LLRφ
2は、受信信号の振幅x
Rが第1の振幅閾値R
thre1以上または第2の振幅閾値R
thre2以下(即ち、x
R≧R
thre1 または x
R≦R
thre2)の場合に下記の数式4Aに従って算出され、受信信号の振幅x
Rが第1の振幅閾値R
thre1未満かつ第2の振幅閾値R
thre2より大きい(即ち、R
thre2<x
R<R
thre1)の場合に下記の数式4Bに従って算出される。
【数4】
【0036】
3bit目の対数尤度比LLRφ
3は、下記の数式5に従って算出される。
【数5】
【0037】
4bit目の対数尤度比LLRφ
4は、受信信号の振幅x
Rが第1の振幅閾値R
thre1以上または第2の振幅閾値R
thre2以下(即ち、x
R≧R
thre1 または x
R≦R
thre2)の場合に下記の数式6Aに従って算出され、受信信号の振幅x
Rが第1の振幅閾値R
thre1未満かつ第2の振幅閾値R
thre2より大きい(即ち、R
thre2<x
R<R
thre1)の場合に下記の数式6Bに従って算出される。
【数6】
【0038】
上記の数式3乃至数式6は下記の考え方に基づいている(
図4乃至
図7参照)。
【0039】
1bit目は、位相角度が-90°から+90°(言い換えると、270°から360°/0°を経て90°;即ち、
図4において理想シンボル点の位相角度Φ
9からΦ
11,Φ
0を経てΦ
2までを含むIQ直交座標系の第4象限および第1象限)のときに0になり、位相角度が+90°から-90°(言い換えると、90°から180°を経て270°;即ち、
図4において理想シンボル点の位相角度Φ
3からΦ
5,Φ
6を経てΦ
8までを含むIQ直交座標系の第2象限および第3象限)のときに1になる。したがって、受信信号の位相が正規分布/ガウス分布に基づいて揺らぐと考えた場合、1bit目が0になる確率密度は
図5Aのように示され、1bit目が1になる確率密度は
図5Bのように示される。これに基づいて、これら確率密度分布を各項として考慮することにより、1bit目の対数尤度比LLRφ
1を算出する上記の数式3が導出される(
図5C参照)。
【0040】
3bit目も1bit目と同様の考え方に基づいており、すなわち、3bit目は、位相角度が0°から+90°を経て+180°(即ち、
図4において理想シンボル点の位相角度Φ
0からΦ
2,Φ
3を経てΦ
5までを含むIQ直交座標系の第1象限および第2象限)のときに0になり、位相角度が+180°から+270°を経て0°(即ち、
図4において理想シンボル点の位相角度Φ
6からΦ
8,Φ
9を経てΦ
11までを含むIQ直交座標系の第3象限および第4象限)のときに1になる。これに基づいて、3bit目が0になる確率密度分布と3bit目が1になる確率密度分布とを各項として考慮することにより、3bit目の対数尤度比LLRφ
3を算出する上記の数式5が導出される。
【0041】
また、2bit目については、IQ直交座標系のすべての象限で同じ考え方ができるため、IQ直交座標系の第1象限を例に挙げて説明する。2bit目は、
図6に示すように、0となるか1となるかが振幅によって区別されている理想シンボル点(同図中の「振幅にbit情報をのせているシンボル」;尚、振幅区別シンボル点である)と、0となるか1となるかが位相によって区別されている理想シンボル点(同図中の「位相にbit情報をのせているシンボル」;尚、位相区別シンボル点である)とに分かれる。このため、受信信号の振幅x
Rを第1の振幅閾値R
thre1および第2の振幅閾値R
thre2と比較することにより、受信した信号/シンボルがbit情報を振幅と位相とのうちのどちらにのせているかを判断して、それぞれで対数尤度比の算出方法を変えるようにしている。振幅にbit情報をのせているシンボルについて2bit目が0になる確率密度分布と2bit目が1になる確率密度分布とはそれぞれ
図7Aのように示され、位相にbit情報をのせているシンボルについて2bit目が0になる確率密度分布と2bit目が1になる確率密度分布とはそれぞれ
図7Bのように示される。これに基づいて、これら確率密度分布を各項として考慮することにより、2bit目の対数尤度比LLRφ
2を算出する上記の数式4が導出される(
図7C参照)。
【0042】
4bit目も2bit目と同様の考え方に基づいており、振幅にbit情報をのせているシンボルについては2bit目と同様に、また、位相にbit情報をのせているシンボルについては、4bit目が0になるのは理想シンボル点の位相角度がΦ2,Φ3,Φ8,およびΦ9であるとともに1になるのは理想シンボル点の位相角度がΦ0,Φ5,Φ6,およびΦ11であることを踏まえて、振幅にbit情報をのせているシンボルについて4bit目が0になる確率密度分布と4bit目が1になる確率密度分布ならびに位相にbit情報をのせているシンボルについて4bit目が0になる確率密度分布と4bit目が1になる確率密度分布とを各項として考慮することにより、4bit目の対数尤度比LLRφ4を算出する上記の数式6が導出される。
【0043】
第1の振幅閾値Rthre1や第2の振幅閾値Rthre2は、特定の値に限定されるものではなく、例えば第1の振幅閾値Rthre1は理想シンボル点の振幅R1とR2との間に設定されるとともに第2の振幅閾値Rthre2は理想シンボル点の振幅R0とR1との間に設定されたうえで振幅にbit情報をのせているシンボルと位相にbit情報をのせているシンボルとを良好に判別し得る(言い換えると、対応する理想シンボル点が同位相に複数存在する場合を適切に抽出し得る)ことが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。具体的には例えば、第1の振幅閾値Rthre1は下記の数式7Aのように設定され、第2の振幅閾値Rthre2は下記の数式7Bのように設定されることが考えられる。
(数7A) Rthre1 = R1+(R2-R1)/2
(数7B) Rthre2 = Ro+(R1-R0)/2
【0044】
LLR算出部20は、等化器18から出力されるベースバンド信号(受信信号)の入力を受け、前記ベースバンド信号から受信信号の位相角度xφおよび受信信号の振幅xRを取得し、前記受信信号の振幅xRと第1の振幅閾値Rthre1や第2の振幅閾値Rthre2との大小関係も考慮したうえで、上記の数式3乃至数式6に従ってm bit目の対数尤度比LLRφmを算出して出力する。
【0045】
そして、復号部19が、LLR算出部20から出力される対数尤度比LLRφmの入力を受け、前記対数尤度比LLRφmを使用して例えばsum-product復号法に従って低密度パリティ検査復号処理を行う。
【0046】
実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20によれば、受信信号の位相雑音やフェージングなどによってシンボルの位相が正規分布/ガウス分布に基づいて回転・変動した際の確率分布も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音が支配的な環境下においても対数尤度比の算出精度を向上させることが可能となり、延いては、低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0047】
具体的には、
図8に示すように、従来の対数尤度比の算出方法では、受信信号の熱雑音によって理想シンボル点を中心として正規分布/ガウス分布に基づいて受信信号の振幅が変動することを前提としている(同図中の破線円Cf参照)。このため、受信信号の位相雑音によってシンボルの位相が回転した際の変動(同図中の円弧矢印Fp参照)があると、受信した確率が高いと判断した信号Sfが実際の送信信号Ssとは異なってしまう。これに対して、実施の形態に係る対数尤度比算出回路としてのLLR算出部20では、受信信号の位相雑音による変動の分布を考慮するようにしているので、すなわち、受信信号の位相雑音によってシンボルが包絡線E上で変動する状況も考慮して対数尤度比を算出するようにしているので、受信信号の位相雑音によってシンボルの位相が回転した際の変動(同図中の円弧矢印Fp参照)があっても、受信した確率が高いと判断した信号が実際の送信信号Ssと一致して低密度パリティ検査の誤り訂正能力を向上させることが可能となる。
【0048】
この発明に係る対数尤度比算出回路の有効性の検証例を下記に説明する。
【0049】
この検証例では、位相雑音が存在する環境下において従来の対数尤度比の算出方法とこの発明に係る対数尤度比算出回路との対数尤度比の算出精度を比較することを目的として、
図9に示す評価系が用いられた。この検証例の評価系は、所定のサンプル信号を16QAM方式で変調する(同図中の符号31)とともに位相雑音を付加した(符号32)うえで、受信信号の熱雑音の分布に基づいて対数尤度比を算出する従来手法(符号33)と、受信信号の位相雑音も考慮して対数尤度比を算出するこの発明に係る対数尤度比算出回路(符号20)とのそれぞれの対数尤度比の算出精度を比較する系として構成された。
【0050】
ここで、対数尤度比は、送信bitが0である確率が高いときに正の値をとり、送信bitが1である確率が高いときに負の値をとる。このことを利用し、実際の送信bitと従来手法(
図9中の符号33)で算出した対数尤度比の符号とを比較して符号が誤っている回数を計数する(符号34)とともに、実際の送信bitとこの発明に係る対数尤度比算出回路(符号20)で算出した対数尤度比の符号とを比較して符号が誤っている回数を計数した(符号35)。
【0051】
図9に示す評価系による結果として、従来の対数尤度比の算出方法の場合の符号の誤り率は0.829%となり、この発明に係る対数尤度比算出回路の場合の符号の誤り率は0.307%となった。この結果から、この発明に係る対数尤度比算出回路によれば、従来の対数尤度比の算出方法と比べて、符号の誤り率がおよそ3分の1に低減することが確認された。
【0052】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0053】
具体的には、上記の実施の形態ではこの発明に係る対数尤度比算出回路が
図1に概略構成を示す無線受信装置1にLLR算出部20として組み込まれるようにしているが、この発明に係る対数尤度比算出回路が組み込まれ得る無線装置の構成は
図1に概略構成を示す無線受信装置1に限定されるものではなく、この発明に係る対数尤度比算出回路が他の構成の無線装置に組み込まれるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 無線受信装置
10 アンテナ
11 チャネルフィルタ
12 局部発振器
13 ミキサ
14 自動利得制御部
15 A/D変換器
16 デジタル直交検波部
17 ロールオフフィルタ
18 等化器
19 復号部
20 LLR算出部