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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】熱源装置の性能推定方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/62 20180101AFI20241209BHJP
   F24F 11/30 20180101ALI20241209BHJP
【FI】
F24F11/62
F24F11/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021058552
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155182
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 隆広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大介
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-275323(JP,A)
【文献】特開2019-090585(JP,A)
【文献】特開2011-002111(JP,A)
【文献】特開2019-020070(JP,A)
【文献】特開2012-032055(JP,A)
【文献】特開2005-291642(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0190946(US,A1)
【文献】特開2007-085601(JP,A)
【文献】特開2016-170715(JP,A)
【文献】特開2015-203544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/62
F24F 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源装置の実機の消費動力を表す値の実測値と、消費動力を表す値のメーカ値との関係を表す近似式を導出し、
前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性値を実機に合わせて補正する処理を備え
前記近似式を、該近似式の導出に用いたデータとは運転条件の合致しない動力特性値に適用して該動力特性値を補正すること
を特徴とする熱源装置の性能推定方法。
【請求項2】
前記近似式は、互いに運転条件の合致しない複数のデータを用いて作成すること
を特徴とする請求項1に記載の熱源装置の性能推定方法。
【請求項3】
前記近似式は一次式であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の熱源装置の性能推定方法。
【請求項4】
前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の熱源装置の性能推定方法。
【請求項5】
前記近似式の導出に、所定の要件を満たすデータのみを使用すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の熱源装置の性能推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調に用いられる熱源装置の実機の性能を推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスビルや商業施設、あるいはその他各種の建物においては、空調設備のエネルギー消費量を試算し運転計画を立案する際などに、空調に用いる熱源装置の消費動力を算出する場合がある。
【0003】
熱源装置の性能は、例えば図7に示すような線図にて表される。この図7のグラフでは、熱源装置の性能を示す値(以下、本明細書では必要に応じてこれを「動力特性値」と称する)としてCOP(Coefficient Of Performance)を想定し、該COPの熱源負荷率に対する関係を曲線(「動力特性曲線」と称する)にて表している。ここに示した例では、運転条件として3通りの冷却水の温度(入口温度)を想定し、各冷却水温度(A℃、B℃、C℃)における動力特性曲線を表示している。横軸の熱源負荷率は、生成熱量をその熱源装置の定格生成熱量で割った値である。縦軸のCOPは成績係数とも呼ばれ、生成熱量を消費動力(エネルギー消費量)で割った値である。尚、その他の条件(冷却水の出口温度や流量等)については、固定値として設定されている。
【0004】
このような熱源装置の性能を表す線図(「動力特性線図」と称する)は、例えば熱源装置を製造販売するメーカから提供され、あるいはメーカから表の形で提供されたデータから作成される。そして、冷却水が特定の温度(例えば、入口温度がA℃)であるという条件下において、熱源負荷率に応じた生成熱量と、その際の消費動力(エネルギー消費量)をこのグラフから求めることができる。尚、図7のグラフでは3通りの冷却水温度に応じた3パターンの曲線が図示されているが、これらとは冷却水温度が異なる場合の動力特性曲線も、図示された動力特性曲線に基づいて適宜作成し、これを利用することができる。例えば、冷却水温度がA℃とB℃の中間である場合には、A℃の場合を示す曲線とB℃の場合を示す曲線の中間にあたるような曲線を想定し、該曲線に基づいて生成熱量と消費動力(エネルギー消費量)を求めればよい。
【0005】
ところで、メーカのデータに基づくこのようなグラフは、あくまで仕様上の性能に基づいており、実機においてこの通りの性能が発揮されるとは限らない。熱源装置の性能にはそもそも個体差があり、実機の性能には、仕様値に対し±5~15%ほどの誤差が許容されている。すなわち、熱源装置の性能には、新品の状態で仕様値に対し±5~15%の範囲でばらつきがある。しかも、熱源装置が稼働を開始すると、経年劣化によって時間と共に性能が変化し、動力特性は仕様値から徐々に乖離していく。このため、メーカの仕様値に基づく図7のようなグラフを用いて熱源装置の性能を推定しても、必ずしも実機の性能に応じた最適な推定はできていない可能性がある。
【0006】
実機の性能を正確に推定するためには、実機の運転において採集したデータから図7に示すような動力特性のグラフを新たに作成するという方法が考えられるが、これには各条件毎に熱源負荷率を変更しつつCOPを測定する作業が必要であり、膨大な手間がかかる。また、実際の運転においては、メーカによる試験ほど広範な条件では運転されない場合がほとんどであり、動力特性曲線を描くのに十分なデータを得ることは難しい。
【0007】
そこで、仕様値と実機の性能との差を前提とし、仕様値によるデータを適宜補正することにより、実機の性能をなるべく正確に推定するための技術が種々提案されている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-90585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術をはじめ、仕様値の補正により実機の性能を推定しようとする多くの技術においても、結局、実機においてある程度の量のデータを蓄積する必要があり、実機の運転データが少ない状態で動力特性の全体について満足な補正や性能の推定を行うことは難しかった。また、補正には往々にして複雑な演算が必要であり、熱源装置の実機に関して簡便に且つ精度よく性能を推定し得る方法を確立するには至っていなかった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定し得る熱源装置の性能推定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱源装置の実機の消費動力を表す値の実測値と、消費動力を表す値のメーカ値との関係を表す近似式を導出し、
前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性値を実機に合わせて補正する処理を備え、
前記近似式を、該近似式の導出に用いたデータとは運転条件の合致しない動力特性値に適用して該動力特性値を補正すること
を特徴とする熱源装置の性能推定方法にかかるものである。
【0012】
本発明の熱源装置の性能推定方法において、前記近似式は、互いに運転条件の合致しない複数のデータを用いて作成することができる。
【0014】
本発明の熱源装置の性能推定方法において、前記近似式は一次式とすることができる。
【0015】
本発明の熱源装置の性能推定方法においては、前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いることができる。
【0016】
本発明の熱源装置の性能推定方法においては、前記近似式の導出に、所定の要件を満たすデータのみを使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱源装置の性能推定方法によれば、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施による熱源装置の性能推定方法を実行する手順の一例を説明するフローチャートである。
図2】実機の運転により得られた実際の運転データを動力特性線図にプロットした様子の一例を示すグラフである。
図3】実機の運転により得られた実際の運転データを動力特性線図にプロットした様子の別の一例を示すグラフである。
図4】消費動力比率の実測値とメーカ値の関係の一例を示す散布図である。
図5図4の散布図に基づき算出した消費動力比率の実測値とメーカ値の関係の近似式を表す直線を、散布図中に記載した図である。
図6】補正前および補正後の動力特性線図の一例を示すグラフである。
図7】熱源装置の動力特性線図の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の実施による熱源装置の性能推定方法を実行する手順の一例を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに基づき、熱源装置の実機の性能の推定手順を説明する。
【0021】
まず、メーカの仕様値による動力特性線図を取得する(ステップS1)。この動力特性線図は、それ自体がメーカから提供される場合もあるし、メーカの提供するカタログや仕様書といった資料に記載された動力特性値(COP)を含むデータから、曲線グラフを作成してもよい。ここで取得される動力特性線図は、例えば図7に示す如きグラフである。
【0022】
続いて、実機の運転を行い、熱源装置の動力特性の把握に必要な運転データを取得する(ステップS2)。この熱源装置の実機とは、事務所ビルや病院や工場など実際に営業運転となっている空調システムに組み込まれ、実際の外気の変動や負荷の変動に応じて運転している熱源装置のことである。運転データは、例えば空調システムを構成する熱源装置の制御装置のログから取得することができる。すなわち、EMS(Energy Management System)等と称される制御装置では、例えば熱源装置の消費動力の実測値や、負荷熱量、冷却水の流量、冷却水の入口温度等といった熱源装置の実機の動作に関わる各種のデータを時々刻々記録しているので、この制御装置のログから必要なデータを取得すればよい。
【0023】
このステップS2で得られるデータを仮に図7に示す動力特性線図上にプロットした場合、例えば図2あるいは図3に示す各点のようになる。すなわち、ステップS2で得られるデータからは、実機の運転中の各時点における熱源負荷率と、その時の成績係数値(COP)が取得できるので、各時点におけるそれらのデータを図7の動力特性線図にプロットしたグラフが図2図3である。尚、図2の各点はある短い期間における運転の結果得られたデータを示し、図3の各点はそれより長い期間において広範な条件で運転を行った結果得られたデータを示している。図3と比較すると、図2の各点は、データの取得期間を通して気候がさほど変わらないために運転状況が似通っており、取得されたデータの範囲が狭い。
【0024】
ステップS2で取得された各時点の運転データに関し、熱源機の実機の消費動力の定格値に対する実際の消費動力(実測値)の相対値(以下、「消費動力比率」と称する)を算出する(ステップS3)。消費動力比率は、例えば以下の式で表すことができ、消費動力比率の実測値は、運転データから得られる消費動力の実測値と、メーカの仕様値に基づく定格値から算出することができる。
消費動力比率[%]=(消費動力/定格値)×100 ……(1)
【0025】
続いて、ステップS2で取得された各時点の運転データに関し、同じ運転条件(冷却水入口温度、冷水出口温度、冷却水流量および熱源負荷率)におけるメーカの仕様値から、消費動力比率の仕様上の値(以降、「消費動力比率のメーカ値」と称する)を算出する(ステップS4)。この消費動力比率のメーカ値は、図7に示す如きメーカの仕様値による動力特性線図に基づき、上記式(1)を用いて算出することができる。すなわち、ある冷却水入口温度、冷水出口温度、冷却水流量および熱源負荷率を条件として与えれば、まず図7に示す動力特性線図から、同じ運転条件下でのメーカの仕様値によるCOPを求めることができる。さらに、消費動力は熱源装置における負荷熱量と、COPの逆数の積として求めることができ、負荷熱量は熱源装置の定格能力と熱源負荷率の積として求められるので、図7の動力特性線図と上記式(1)から、消費動力比率のメーカ値を求めることができる。
【0026】
こうして、ステップS3、S4を経て、ある時点における消費動力比率の実測値と、それと同じ運転条件(冷却水入口温度、冷水出口温度、冷却水流量および熱源負荷率)における消費動力比率のメーカ値をそれぞれ算出した。続くステップS5では、それらの比率を算出する。さらに、各時点の運転データに関して同様の作業を繰り返し、図4に示す如く、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す散布図を作成する。
【0027】
ステップS6では、散布図にプロットされたこれらのデータから、所定の要件を満たす安定運転時のデータを、後のステップで近似式の導出および動力特性値の補正に用いるデータとして選択し、抽出する(トリミング処理)。具体的には、例えば下記に該当するデータを除外すると、より適切な近似式を導出し、動力特性値を好適に補正することができる。
・熱源装置の実機が起動してからしばらくの間(例えば、30分間)のデータ。冷水を安定して連続的に生成できるようになるまでの間のエネルギー消費量は近似式に使用できないため。なお冷却水は冷水を生成するための排熱を除去するためものであり、例えば冷凍機の凝縮器などの熱源装置への入口温度が32℃、出口温度が37℃となり、温度が高くなって出てくるものである。
・低負荷時(例えば、熱源負荷率が30%以下での運転時)のデータ。熱源負荷率が連続運転の運転下限未満の条件では、熱源装置は連続運転ではなくオン・オフ運転にて稼働する場合があり、運転が安定していない状態でデータが取得されている可能性があるため。
・熱源停止時のデータ。散布図(図4参照)の原点にあたるデータが近似式に影響することを避けるため。
・メンテナンス時など通常運転と異なる条件の運転時データ。通常運転と異なる運転条件(例えば冷却水流量の変更など)の場合により近似式に影響を与えることを避けるため。
【0028】
こうして抽出したデータに基づき、消費動力比率の実測値とメーカ値の関係を表す近似式を導出する(ステップS7)。近似式は、下記式(2)のような単純な一次式とすると、前記近似式の導出や、その後の動力特性値の補正を簡便に行うことができる。Xは消費動力比率の実測値、Yは補正後の消費動力比率のメーカ値であり、a、bは定数である。この近似式によって表される関係を、図5中に破線にて示す。
Y=aX+b ……(2)
【0029】
さらに、メーカの仕様値として取得されている動力特性として得られる成績係数値(COP)を、上記式(2)に基づいて補正する(ステップS8)。メーカの提示する動力特性として得られる成績係数値は、上に述べた通り、例えば表の形で提供され、あるいは図7に示すような動力特性線図における各点の値として取得することができる。これらの値に基づいて消費動力比率を算出すれば、各々が上記式(2)の右辺のXに相当する値となるが、これらの値を、左辺のYに相当する値が消費動力比率として算出されるような値に補正する。続いて、補正後の動力特性値に基づき、動力特性線図を再作成する(ステップS9)。再作成された動力特性線図における動力特性曲線は、例えば図6に破線で示す如き曲線となる。尚、実線はメーカの仕様値による動力特性曲線を示し、図7に示す動力特性曲線と同じである。ここで動力特性曲線の作成手順について説明すると、
(1)Y=aX+bのXに消費動力比率のメーカ値(例えば10%刻みの複数の値)を代入し補正後の消費動力比率を算出
(2)補正後のCOP値=(消費動力比率のメーカ値の熱源負荷条件における)生成熱量/補正後の消費動力=100×生成熱量/(補正後の消費動力比率×定格値)を算出
(3)補正後のCOP値の各点を補間してCOP曲線を作成
となる。
【0030】
上記一連の手順において、図4図5に示す散布図や、図5および式(2)に示す近似式は、互いに運転条件の合致しない複数のデータを用いて作成することができる。図2図3に点で示すような運転データには、様々な運転条件(冷却水熱源入口温度、冷却水流量、冷水出口温度、熱源負荷率)の下で採集されたデータが混在している。通常であれば、これらのうち互いに運転条件が合致するデータ群を抽出し、それらの群毎に近似式の導出や後の補正といった操作を行う必要があるが、本実施例では、これらを消費動力の実測値とメーカ値の関係という指標を用いて一元化し、これによってひとまとめに扱うことができる。こうすることにより、採集時の運転条件にばらつきのあるデータ群であっても、少ない運転データから補正のための近似式を導出することができる。しかも、ここで近似式の導出に用いる消費動力は、熱源負荷率とCOPを反映した値であるので、この値を用いることで、動力特性を好適に補正することが可能である。また、こうして一元化された値を使用することで、上記のように単純な演算で補正のための近似式を導出することができる。近似式として一次式を用いれば、必要な演算処理はいっそう単純である。
【0031】
また、上記手順においては、式(2)で表される近似式を、該近似式の導出に用いたデータとは運転条件の合致しない動力特性値に適用して、該動力特性値を補正することもできる。すなわち、例えば補正の根拠となる実測データが図2の点に示すように限定的な運転条件でしか得られていない場合であっても、その運転データに基づいてステップS2~S7を実行して上記式(2)に相当する近似式を導出すれば、該近似式を動力特性線図全体に当てはめることにより、実際に得られた運転データの範囲に限らず、広く動力特性線図全体を補正することができる。上に述べたように、本実施例では、各運転データをその運転条件にかかわらず、消費動力の実測値とメーカ値の関係という指標により一元化して扱うので、メーカの仕様値による動力特性値とは異なる運転条件下で採集された運転データであっても、それに基づいて導出された近似式を前記動力特性値の補正に用いることができるのである。例えば実機の運転データを用いて動力特性曲線を描き直すような旧来の方法を用いる場合、図2に点で示すような運転データからは、例えば図2中に破線で示す如き限定的な動力特性曲線しか描き得ないが、本実施例の方法によれば、図6に破線で示すように全体的に補正された動力特性線図を得ることができる。
【0032】
尚、ここでいう「運転条件の合致」とは、全ての運転条件が厳密に一致することのみを意味しない。実用上、同じと見なして扱っても差し支えない程度に運転条件が似通っている場合も、「運転条件が合致する」と表現している。また運転条件の一部が一致することも含まれる。
【0033】
以上の工程は、次のようにまとめることができる。ステップS2で得たある時点の運転データに関し、熱源負荷率とCOPとの関係を動力特性線図にプロットすると、例えば図2に符号P1にて示す点の位置にあったとする。この点P1に該当する時点の運転データには、熱源負荷率とCOPのほかに、冷却水の流量や温度(入口温度)等が含まれている。よって、この点P1に該当する時点の運転データと同じ条件における仕様上のCOPの値(メーカ値)を算出することもできる。このメーカ値は、例えば符号P2にて示す点の位置にプロットされる。
【0034】
そこで、点P1に対応するデータに基づいて消費動力比率の実測値を算出すると共に(ステップS3)、点P2に対応するデータに基づいて消費動力比率のメーカ値を算出し(ステップS4)、これらの比率を算出する。これを各データについて行い、散布図を作成し(ステップS5)、近似式を導出する(ステップS7)。こうして得られた近似式を動力特性曲線全体に適用し(ステップS8、S9)、補正された動力特性線図を得る。こうすることにより、例えば図2に示すように限定的な条件での運転データしか得られていない場合であっても、全体的に補正された動力特性線図を作成し、広い範囲でメーカ値より実情に即した動力特性線図を取得することができるのである。
【0035】
尚、上に述べた手順はあくまで一例であって、本発明を実施する際には、一部の工程の内容を変更したり、ステップ同士の順序を入れ替えるなど、適宜改変を加えてもよい。例えば、ステップS3における消費動力比率の実測値の算出と、ステップS4におけるメーカ値の算出は、前後を入れ替えてもよいし、同時並行で実行することもできる。また、上ではステップS5で散布図を作成した後にステップS6の抽出の工程を実行する場合を説明したが、予め抽出されたデータに基づいて散布図を作成することもできる。
【0036】
また、上では消費動力の実測値とメーカ値の関係を相対値(消費動力比率)で算出する場合を説明したが、図4に示すような散布図を作成したり、図5や式(2)に示すような近似式を導出するにあたっては、消費動力を表す値として相対値ではなく絶対値を使用することもできる。その場合、実測値としては、運転データから得られる消費動力の値そのものを用いることができる。また、メーカ値は図7に示す如き動力特性線図を用いて算出することができる。
【0037】
以上のように、上記本実施例においては、熱源装置の実機の消費動力を表す値の実測値と、消費動力を表す値のメーカ値との関係を表す近似式を導出し、前記近似式に基づき、メーカの仕様値による熱源装置の動力特性値を補正するようにしている。このようにすれば、実機の運転データを用いてメーカの仕様値による動力特性値を補正することにより、実機の運転によって得られているデータが少なくても、実機の運転データに基づいた精度のよい動力特性線図を取得することができる。その際、熱源負荷率とCOPの関わる値である消費動力を用いて近似式を作成し、メーカ値と実測値のずれを補正することにより、単純な演算で良好な補正をすることが可能である。
【0038】
また、本実施例において、前記近似式は、互いに運転条件の合致しない複数のデータを用いて作成することができ、このようにすれば、採集時の運転条件にばらつきのあるデータ群であっても、少ない運転データから実機に合わせた補正のための好適な近似式を導出することができる。
【0039】
また、本実施例において、前記近似式を、該近似式の導出に用いたデータとは運転条件の合致しない動力特性値に適用して該動力特性値を補正することもでき、このようにすれば、実際に得られた運転データの範囲に限らず、広く動力特性線図を補正することができる。
【0040】
また、本実施例において、前記近似式は一次式とすることができ、このようにすれば、近似式の導出や動力特性値の補正を簡便に行うことができる。
【0041】
また、本実施例においては、前記消費動力を表す値として、定格値に対する相対値である消費動力比率を用いることができる。
【0042】
また、本実施例においては、前記近似式の導出に、所定の要件を満たすデータのみを使用することができる。
【0043】
したがって、上記本実施例によれば、熱源装置の実機の性能を簡便に且つ精度よく推定し得る。
【0044】
尚、本発明の熱源装置の性能推定方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7