(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】gp100特異的TCR-抗CD3 scFv融合タンパク質の投薬レジメン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241209BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20241209BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241209BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
A61K39/395 E
A61K39/395 G
A61K39/395 T
A61K39/395 U
C07K14/725
C07K16/28
C07K19/00 ZNA
(21)【出願番号】P 2018562926
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(86)【国際出願番号】 GB2017051596
(87)【国際公開番号】W WO2017208018
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-04
(32)【優先日】2016-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2016-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コフリン,クリスティナ
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】冨永 みどり
【審判官】田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-504595(JP,A)
【文献】特表2014-515921(JP,A)
【文献】特表2012-531904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0099775(US,A1)
【文献】CANCER RESEARCH,2014年,Vol. 74, Issue 19,Abstract CT329
【文献】CANCER RESEARCH,2013年,Vol. 73, Issue 8,Abstract 1238
【文献】Lilly and Immunocore Announce Immunotherapy-based Clinical Trial Collaboration in Melanoma,Lilly,2015年,URL,https://investor.lilly.com/news-releases/news-release-details/lilly-and-immunocore-announce-immunotherapy-based-clinical-trial,[検索日:2021年4月27日]
【文献】「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(薬新薬第四三号)各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬,1992年,第1-12頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に結合するターゲティング部分と、(ii)該ターゲティング部分が融合した、CD3結合性のT細胞再指向化部分とを含んでなり、各用量が5~10日ごとに投与され、T細胞再指向化二重特異的治療剤を患者に
(a)
10~30μgの範囲内の第1の用量
で投与し、次に;
(b)
20~40μgの範囲内の第2の用量(ここで、各第2の用量は第1の用量より高い)
で投与し、その後
(c)少なくとも1つの、少なくとも
60μgの用量
で投与することを含む患者のgp100陽性ガンの治療方法に用いるT細胞再指向化二重特異的治療剤。
【請求項2】
各用量が7日ごとに投与される、請求項1に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項3】
第1の用量が20μgであり、第2の用量が30μgであり、及び/又は第2の用量の後の用量が少なくとも
60μgである、請求項1又は2に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項4】
第2の用量が2回投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項5】
ターゲティング部分がT細胞レセプター(TCR)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項6】
TCRが、YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に関して、配列番号2の細胞外α鎖配列及び配列番号3の細胞外β鎖配列を有するTCRのものの少なくとも2倍の結合親和性及び/又は結合半減期を有する、請求項5に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項7】
CD3結合性T細胞再指向化部分が抗CD3抗体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項8】
下記:
(i)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がSである配列番号2のTCR α鎖配列;
(ii)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がAである配列番号2のTCR α鎖配列;
(iii)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がGである配列番号2のTCR α鎖配列;
(iv)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がSである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列;
(v)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がAである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列;
(vi)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がGである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列
からなる群より選択されるTCR α鎖アミノ酸配列、及び下記:
(vii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(viii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(ix)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(x)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、108位~131位のアミノ酸がRTSGPGDGGKGGPGKGPGGEGTKGTGPGG(配列番号6)で置換され、254位~258位のアミノ酸がGGEGGGSEGGGS(配列番号7)で置換された配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xi)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xiii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xiv)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xv)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xvi)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xvii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xviii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xix)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列
からなる群より選択されるTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列を含む、請求項6又は7に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項9】
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(vii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(x)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(ix)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(viii)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(vii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xi)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiii)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiv)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xv)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xvi)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xvii)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xviii)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xix)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xi)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xii)である;及び
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiii)である、
請求項8に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項10】
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(viii)である請求項9に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項11】
1又は2以上の抗ガン治療剤との組合せで投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項12】
抗ガン治療剤がデュルバルマブ、トレメリムマブ、ガルニセルチブ及びメレスチニブである、請求項11に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項13】
抗ガン治療剤がメレスチニブであり、メレスチニブの用量が一日一回で40~120mgの範囲内、好ましくは一日一回で80~120mgの範囲内である、請求項12に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【請求項14】
gp100陽性ガンがメラノーマである、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用のための二重特異的治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガン、特にgp100陽性ガンの治療に関する。具体的には、本発明は、CD3結合性でありT細胞を再指向化させる部分(T cell redirecting moiety)に融合した、YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に結合するターゲティング部分を含んでなる、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤の投薬レジメンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト糖タンパク質100(gp100)は、人体に天然の免疫応答を惹起させることができるメラノーマ関連抗原の1つである。このタンパク質は661アミノ酸のメラノソーム膜関連糖タンパク質であって、正常なメラノサイトで発現し、メラノーマガン細胞の多くで広く過剰発現しているタンパク質である。例えば、或る研究(Trefzerら(2006),Melanoma Res. 16(2):137-45)により、28人のメラノーマ患者に由来する192のメラノーマ転移の82%がgp100を発現していることが見出された。幾つかの研究により、メラノーマ組織におけるgp100のより高い発現レベルが報告された(Hofbauerら(2004),J Immunother. 27(1):73-78;Barrowら(2006),Clin Cancer Res. 12:764-71)。gp100陽性ガンの多くはメラノーマであるが、文献には、例えばHMB-45と呼ばれる抗体(広く用いられるgp100特異的診断用抗体)を用いる免疫組織化学により検出されるようにgp100を発現する他の形態のガン、例えば淡明細胞肉腫及び種々の脳ガンサブタイプについての多くの報告が含まれる(Huangら(2015),Int J Clin Exp Pathol. 8(2):2171-5;Ozuguzら(2014),Indian Dermatol Online J 5(4):488-90;Taddeiら,Appl Immunohistochem Mol Morphol (2001) 9(1):35-41)。このタンパク質の正確な機能は未知であるが、メラノソーム成熟に関与しているようである(Hoashiら,2005;Kawakami及びRosenberg,1997)。gp100抗原は、幾つかの免疫療法ベースのメラノーマ臨床試験の標的となっており、標的であり続ける。
【0003】
初期のgp100標的免疫療法には、ペプチド又はgp100タンパク質全体若しくはその部分を発現するウイルスを用いるワクチン接種ストラテジが含まれていた(Lens(2008),Expert Opin Biol Ther. 8(3):315-323に概説)。これら試験は限定的な成功しか得られず、これは標的の妥当性を反映するものというよりむしろ不十分な免疫応答の生成の結果であると考えられる。したがって、メラノーマ標的としてgp100を用いるという基本は、依然として、メラノーマ特異的免疫療法に関して妥当なアプローチである。
T細胞レセプターベースのgp100特異的なターゲティング部分と、これに融合した、CD3結合性でありT細胞を再指向化させる部分とを含んでなる新規な二重特異的治療剤の開発は、新たな治療選択肢を提供する(Liddyら(2012),Nat Med. 8:980-987)。このような治療剤の作用機序は、先行の他の免疫療法とは顕著に異なり、インビトロで、非gp100特異的T細胞のgp100陽性細胞殺傷への迅速で強力な再指向化をもたらす;よって、患者における臨床効果、及びgp100陽性正常組織(例えば皮膚メラノサイト)に対する活性によるオンターゲットオフ腫瘍毒性(on-target, off-tumour toxicity)の両方の改善を期待する根拠が存在する。
【0004】
ペプチドYLEPGPVTA(配列番号1)はgp100のアミノ酸残基番号280~288に相当する。YLEPGPVTA(配列番号1)ペプチドは、クラスI HLA分子によってgp100+/HLA-A*02+ガン細胞で提示される(Salgallerら(1996),Cancer Res 56:4749-4757)。WO2011/001152は、ペプチド-HLA-A*02複合体として提示されるYLEPGPVTAペプチドに結合するTCRを記載する。このTCRは、天然型gp100 TCR α及び/又はβ可変ドメインに対して、該複合体に関して改善された結合親和性及び/又は結合半減期を有するように変異し、治療剤と(共有結合その他で)連結させることができる。1つのこのような治療剤は、抗CD3抗体又はその機能的フラグメント若しくはバリアント(例えば、単鎖可変フラグメント(scFv))である。抗CD3抗体又はフラグメントは、TCRのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有結合的に連結され得る。このTCRは、患者のメラノーマを治療するために用いられている(臨床試験識別番号NCT01211262)。
【0005】
IMCgp100は、YLEPGPVTAペプチド-HLA-A*02複合体に結合する可溶性の親和性増強TCRと、これが融合した抗CD3 scFvとを含んでなる、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤である。IMCgp100は、gp100陽性標的細胞に結合し、腫瘍特異的T細胞及び非腫瘍特異的T細胞の両方の動員によって殺傷を誘導することによりインビトロで機能することが示されている。gp100陽性標的細胞の表面でペプチド-HLA-A*02複合体に結合すると、IMCgp100は、その抗CD3 scFv部分の相互作用により該標的細胞とT細胞とを架橋する。これら2つの細胞の二重特異的治療剤による架橋は、免疫シナプスの形成、T細胞の活性化及びT細胞応答のgp100陽性標的細胞に対する再指向化をもたらす。IMCgp100はCD4+T細胞及びCD8+T細胞の両方を活性化することができる;しかし、その主要な機能はCD8+T細胞応答を誘導することである。CD8+T細胞は、細胞毒性Tリンパ球(CTL)としても知られるが、ガンと戦うための天然免疫系のレパートリにおいて重要な役割を演じる。CTLは細胞溶解性であり、アポトーシス経路による腫瘍細胞の溶解を誘導するように機能する。
【0006】
上記のとおり、gp100は、メラノサイトを含む正常な健常細胞で発現し、このことは、臨床状況でオンターゲットオフ腫瘍反応性の可能性を惹起する。メラノサイトにおけるgp100の発現レベルは、腫瘍においてより低いことが知られている。IMCgp100の前臨床試験の間に、IMCgp100は、T細胞活性を正常メラノサイトに対して再指向化させることが可能である(ただし、効力は腫瘍細胞より低い;この点に関して、効力は、標的細胞の表面にディスプレイされるエピトープの数に正比例する)ことが確証されている(Liddyら(2012),Nat Med. 8:980-987)。これらデータはオン腫瘍反応性とオフ腫瘍反応性との間に治療ウィンドウが存在する可能性があることを示す一方、オンターゲットオフ腫瘍反応性はIMCgp100治療では排除できない。臨床試験の間、皮膚メラノサイトに対する何らかの反応性は、皮膚関連毒性(例えば、発疹、白斑、並びに局所的なサイトカイン及びケモカイン遊離の影響;これらはヒドロコルチゾン治療で対処し得る)として顕現すると予想された。IMCgp100のインビトロ前臨床試験の間には、オフターゲット交差反応性に関する証拠がないことも含め、その他の安全性に対する懸念は特定されなかった。このデータに基いて、IMCgp100は臨床試験が認可された。当業者が理解しているように、適切な治療用量レベルは演繹的に予測できず、薬物の作用機序及び標的抗原の発現プロフィールの両方に依存する。結果として、病院で評価されてきた多くのgp100特異的ワクチン及び自家T細胞療法のオンターゲットオフ腫瘍毒性が知られているが、T細胞を再指向化させる治療剤の適切な治療用量を演繹的に予測することは依然として不可能である。なぜならば、ワクチン及び自家T細胞療法は、患者において、gp100陽性細胞を認識することができるT細胞を僅かにしか生じない一方、T細胞を再指向化させる治療剤は、理論的には、患者のあらゆるCD3陽性T細胞に、gp100陽性細胞を認識してこれに反応する能力をもたらすことができるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
進行メラノーマ患者におけるIMCgp100の安全性及び忍容性は第I相試験(臨床試験識別番号NCT01211262)で調べられた。この臨床試験の中間結果が示されている(Middletonら(2015),Cancer Res 2015;75(15 Suppl):Abstract nr CT106)。週1回投与の最大忍容用量は600ng/kgと決定され、これにより、推奨される第II相用量(RP2D)は、患者体重にかかわらず50μg/投薬とされた。臨床試験の用量漸増パートの間、重症(グレード3/4)低血圧が主な用量制限毒性として観察された。その後、患者コホートにRP2Dで週1回投薬したところ、重症低血圧の更なる発症が報告された。他の共通の有害事象には、発疹、掻痒、発熱及び浮腫が含まれた。有害事象は、代表的には、第1又は第2の投薬直後に顕現した。2回の投薬後更なる週1回のIMCgp100投薬は、有害反応の減少及びこれら事象の重症度の全般的寛解をもたらした。初期投薬の間の忍容性を増大させるため、IMCgp100の第1の週1回用量を定法のとおり20%低減させて40μgとし、その後の数週間はRP2Dで投薬した。しかし、重症低血圧の症例は発生し続けた。皮膚メラノサイトにおけるgp100の発現は、身体で最大の器官に抗原陽性細胞の大きな溜まり場を提供する。IMCgp100によるgp100陽性細胞の強力なターゲティングは、gp100陽性皮膚メラノサイトに対して再指向化されたT細胞活性を導く。このことは患者において皮膚関連毒性として顕現する。患者の血清及び生検サンプルの分析により、皮膚及び腫瘍の両方での局所的サイトカイン及びケモカイン放出が、大量のT細胞の末梢循環から組織への極短時間での移動をもたらすことが証明されている;この迅速なT細胞移動に伴う実質的な流体シフトが低血圧を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点において、本発明は、患者におけるgp100陽性ガンの治療方法に用いる、(i)YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に結合するターゲティング部分と、(ii)該ターゲティング部分が融合した、CD3結合性のT細胞再指向化部分とを含んでなる、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤であって、前記方法が該二重特異的治療剤を患者に投与することを含み、各用量が5~10日ごとに投与され、少なくとも第1及び第2の用量が40μg以下であり、第2の用量が第1の用量より高い、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤を提供する。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、T細胞再指向化媒介作用機序を利用する二重特異的治療剤によるgp100陽性腫瘍治療について忍容性改善を提供する患者内用量漸増レジメンを見出した。本発明は、望ましくない副作用(例えば、重症低血圧)を顕著に低減させる漸増投薬レジメンを提供する。この投薬レジメンは、患者におけるオンターゲットオフ腫瘍毒性の重症度を低減させ、これにより治療の最初の数週間に患者を入院させ及び/又は集中治療室に収容したままとする必要性の低減に有用である。更なる驚くべき有益性は、本投薬レジメンの使用によりオンターゲットオフ腫瘍のT細胞活性に対する影響を寛解するが、患者は、その後に、50μgという既存のR2P2より高い全体治療用量レベル(臨床効力の改善をもたらすと予測されるレベル)を安全に忍容できることである。理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、低血圧という用量制限毒性が、本二重特異的治療剤のCmax曝露レベル、皮膚区画内の大量のgp100陽性メラノサイトの存在、並びに患者の疾患量及び患者腫瘍内でのgp100の発現レベルの両方に関する患者内の腫瘍gp100発現の程度により引き起こされるという仮説を考えている。本発明者らは、本投薬レジメンが、gp100を高レベルで発現する正常皮膚メラノサイトの十分な破壊を可能にし、続いて、より高い治療用量のより安全な投与を可能にして、残るgp100陽性腫瘍細胞のターゲティングの向上をもたらすことにより、臨床効力が改善するものと考えている。
【0010】
本発明者らは、大きな径又は高い全疾患量の腫瘍を有する患者が、小さな腫瘍又は疾患量を有する患者より高いIMCgp100全曝露量で目的の腫瘍応答を経験したことを見出した。このデータに基いて、本発明者らは、本発明の投薬レジメンを用いて用量制限毒性を軽減させた後、薬物を増大させて数週間投与することが、腫瘍応答の増大を導くという仮説を立てている。
【0011】
本発明において、二重特異的治療剤は、以下のように投与されてもよい:
(a)少なくとも1つの、10~30μgの範囲内の第1の用量;
(b)少なくとも1つの、20~40μgの範囲内の第2の用量(ここで、各第2の用量は第1の用量より高い);次いで
(c)少なくとも1つの、少なくとも50μgの用量
【0012】
本発明において、それぞれの用量は、患者の体重にかかわらず、又は患者に適切な投薬量の算出に慣用される他の方法(例えば、体重kg、体表面積又は除脂肪筋肉量あたりの治療剤の重量など)の1つにより計算した場合に同じ量の治療剤が投与されるかどうかにかかわらず、治療剤の特定の重量として表現されてもよい。当該特定重量の治療剤は、週1回の間隔で、例えば、治療レジメンの1日目、8日目、15日目、22日目などに、投与されることが好適であるが、投薬間隔はより長くすることもより短くすることもできる。投薬間隔は、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤の抗原結合特性及びクリアランス半減期に依存してもよい。よって、各用量は、6~9日ごと又は6~8日ごとに投与されてもよい。好ましくは、各用量は7日ごとに投与される。それぞれの用量は、異なる期間隔てられていてもよい。或いは、それぞれの用量は、同じ期間隔てられていてもよい。
【0013】
第1の用量は10~30μgの範囲内であってもよい。第1の用量は、13~27μg、15~25μg又は18~22μgの範囲内であってもよい。該用量は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25μgであってもよい。1つの好適な第1の用量は20μgであり、この用量は週1回ベースで投与されてもよい。1つの第1の用量が投与されてもよい。或いは、2以上の第1の用量、好ましくは2~5つの第1の用量、より好ましくは2つの第1の用量が投与されてもよい。2又は3以上の第1の用量が投与される場合、それらは同じであることが好ましい。しかし、それらは異なってもよい。
【0014】
第2の用量は20~40μgの範囲内であってもよく、第1の用量より高くてもよい。第2の用量は、第1の用量より1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10μg高くてもよい。第2の用量は、23~37μg、25~35μg又は28~32μgの範囲内であってもよい。その後の用量は、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34又は35μgであってもよい。1つの好適な第2の用量は30μgであり、この用量は週1回ベースで投与されてもよい。1つの第2の用量が投与されてもよい。或いは、2つ以上の第2の用量、好ましくは2~5つの第2の用量、より好ましくは2つの第2の用量が投与されてもよい。2又は3以上の第2の用量が投与される場合、それらは同じであることが好ましい。しかし、それらは異なってもよい。
【0015】
第2の用量後の用量は少なくとも50μgであってもよい。当該用量は50~300μg、50~250μg、50~200μg、50~150μg、50~100μg、50~90μg、50~80μg、50~70μg又は50~60μgの範囲内であってもよい。この用量は、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240又は250μgであってもよい。1つの好適な第2の用量後の用量は50μgである。別の1つの用量は60μgであり、更に別の1つの用量は70μgである。同一用量がその後に用いられてもよい。或いは、用量は漸増されてもよい。例えば、用量は5、10、15、20、30、40又は50μg高くてもよい。
第1の用量は20μgであってもよく、第2の用量は30μgであってもよく、及び/又は第2の用量後の用量は50μg以上であってもよい。
【0016】
本発明において有用である、T細胞を再指向化させる二重特異的治療剤は、(i)YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に結合するターゲティング部分と、(ii)該ターゲティング部分が融合したCD3結合性のT細胞再指向化部分とを含んでなる。
ターゲティング部分はT細胞レセプター(TCR)であってもよい。TCRは、国際免疫遺伝学(International Immunogenetics;IMGT)のTCR命名法を用いて説明され、TCR配列についてのIMGT公開データーベースに関連する。IMGT命名法により規定される独特な配列は、広く知られており、TCR分野の当業者に利用可能である。例えば、それらは「T cell Receptor Factsbook」(2001) LeFranc and LeFranc, Academic Press, ISBN 0-12-441352-8;Lefranc(2011),Cold Spring Harb Protoc 2011(6):595-603;Lefranc(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 1O;Lefranc(2003), Leukemia 17(1):260-266及びIMGTウェブサイト(www.IMGT.org)に見出すことができる。
【0017】
本発明において有用なTCRは、当業者に公知である任意の形態であってよい。例えば、TCRはαβヘテロダイマーであってもよいし、単鎖形式であってもよい(例えば、WO9918129に記載のもの)。単鎖TCRは、随意に逆向きであってもよいVα-L-Vβ型、Vβ-L-Vα型、Vα-Cα-L-Vβ型、Vα-L-Vβ-Cβ型又はVα-Cα-L-Vβ-Cβ型(式中、Vα及びVβはそれぞれTCRα及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCRα及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)のαβTCRポリペプチドを含む。TCRは好ましくは可溶形態(すなわち、膜貫通ドメインも細胞質ドメインも有しない形態)である。安定性のために、このような可溶性TCRは、好ましくは、例えばWO 03/020763に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基同士間に導入されたジスルフィド結合を有する。このタイプの好適なTCRは、TRAC1のThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57がシステイン残基で置換され、該システインがTCRのTRAC1定常ドメイン配列とTRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列との間にジスルフィド結合を形成していることを除きTRAC1定常ドメイン配列及びTRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を有するものを含む。しかし、TCRは、完全長のα鎖及びβ鎖を含んでいてもよい。
【0018】
α鎖及び/又はβ鎖定常ドメインは、天然型/天然に存在するTRAC/TRBC配列に比して短縮されていてもよい。加えて、TRAC/TRBCは改変を含有してもよい。例えば、α鎖細胞外配列は、天然型/天然に存在するTRACに対して、TRACのアミノ酸T48(IMGT番号付けによる)がC48で置換される改変を含んでいてもよい。同様に、β鎖細胞外配列は、天然型/天然に存在するTRBC1又はTRBC2に対して、TRBC1又はTRBC2のS57(IMGT番号付けによる)がC57で置換される改変を含んでいてもよい。天然型α鎖及びβ鎖細胞外配列に対するこれらシステイン置換によって、リフォールディングした可溶性TCR、すなわち細胞外α鎖及びβ鎖のリフォールディングにより形成されたTCRを安定化する非天然型鎖間ジスルフィド結合の形成が可能になる(WO 03/020763)。この非天然型ジスルフィド結合により、正確にフォールディングしたTCRのファージ上でのディスプレイが容易となる(Liら,Nat Biotechnol 2005 Mar;23(3):349-54)。加えて、安定なジスルフィド連結可溶性TCRの使用により、結合親和性及び結合半減期のより簡便な評価が可能になる。非天然型ジスルフィド結合を形成するための代替位置はWO 03/020763に記載されている。
【0019】
本発明において有用なTCRは、変異を含むように操作されていてもよい。変異高親和性TCRバリアントを作製する方法は、例えばファージディスプレイ及び部位特異的変異誘発であり、当業者に公知である(例えば、WO 04/044004及びLiら,Nat Biotechnol 2005 Mar;23(3):349-54を参照)。
本発明において有用なTCRは、YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に関して、配列番号2の細胞外α鎖配列及び配列番号3の細胞外β鎖配列を有するTCRのものの少なくとも2倍の結合親和性及び/又は結合半減期を有していてもよい。本発明において有用なTCRは、当該複合体に関して、≦8μM、≦5μM、≦1μM、≦0.1μM、≦0.01μM、≦0.001μM若しくは≦0.0001μMのKD及び/又は≧1.5s、≧3s、≧10s、≧20s、≧40s、≧60s、≧600s若しくは≧6000sの結合半減期(T1/2)を有していてもよい。1つの好適なKD及び/又は結合半減期(T1/2)は、それぞれ約10~100pM及び約6~48時間である。1つの特に好適なKD及び/又は結合半減期(T1/2)は約24pM及び約24時間である。
【0020】
結合親和性(平衡定数KDに反比例する)及び結合半減期(T1/2と表される)は、任意の適切な方法により測定することができる。TCRの親和性が2倍になればKDは1/2になることが理解される。T1/2はln2/解離速度(koff)として算出する。よって、T1/2が2倍になればkoffは1/2になる。TCRのKD値及びkoff値は、通常、可溶形態のTCR、すなわち疎水性膜貫通ドメイン残基を除去するように短縮された形態のTCRについて測定する。したがって、所与のTCRは、その可溶形態がYLEPGPVTA-HLA-A2複合体に関して結合親和性及び/又は結合半減期を有するという要件を満たす場合には、該要件を満たすと理解すべきである。好ましくは、所与のTCRの結合親和性又は結合半減期は、同じアッセイプロトコルを用いて数回(例えば、3回以上)測定して、結果の平均をとる。1つの好適な実施形態において、これら測定は、WO2011/001152の実施例3の表面プラズモン共鳴(BIAcore)法を用いて行う。参照gp100 TCR-配列番号2の細胞外α鎖配列及び配列番号3の細胞外β鎖配列を有するTCR-は、前記方法により測定したとき約19μMのKDを有し、約1s-1のkoff(すなわち約0.7sのT1/2)を有する。
【0021】
本発明において有用なTCRは、抗CD3抗体、又は該抗CD3抗体の機能的フラグメント若しくはバリアントと結合されていてもよいし、WO2011/001152に記載のとおりであってもよい。本明細書に記載の組成物及び方法における使用に適切な抗体フラグメント及びバリアント/アナログとしては、ミニボディ、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、dsFv及びscFvフラグメント、ナノボディTM(Ablynx(ベルギー)から市販され、ラクダ科動物(例えば、ラクダ又はラマ)抗体に由来する合成の単鎖イムノグロブリン可変重鎖ドメインを含む構築物)及びドメイン抗体(Domantis(ベルギー);これは、親和性成熟単鎖イムノグロブリン可変重鎖ドメイン又はイムノグロブリン可変軽鎖ドメインを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明において有用なTCR-抗CD3融合体は、下記:
(i)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がSである配列番号2のTCR α鎖配列;
(ii)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がAである配列番号2のTCR α鎖配列;
(iii)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がGである配列番号2のTCR α鎖配列;
(iv)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がSである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列;
(v)アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がAである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列;
(vi) アミノ酸1~109が配列番号4の配列で置換され1位のアミノ酸がGである配列番号2のTCR α鎖配列であって、α鎖のC末端が配列番号2の番号付けに基いてF196からS203までの8アミノ酸短縮されている、配列番号2のTCR α鎖配列
からなる群より選択されるTCR α鎖アミノ酸配列、及び、下記:
(vii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(viii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(ix)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(x)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、108位~131位のアミノ酸がRTSGPGDGGKGGPGKGPGGEGTKGTGPGG(配列番号6)で置換され、254位~258位のアミノ酸がGGEGGGSEGGGS(配列番号7)で置換された配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xi)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xiii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれD及びIであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xiv)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xv)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xvi)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びQであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xvii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、257位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xviii)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、256位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列;
(xix)1位及び2位のアミノ酸がそれぞれA及びIであり、255位のアミノ酸がSであり、258位のアミノ酸がGである配列番号5のTCR β鎖-抗CD3配列
からなる群より選択されるTCR β鎖-抗CD3アミノ酸配列を含む。
【0023】
このようなTCR-抗CD3融合体の例は、
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(vii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(x)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(ix)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(viii)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(vii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xi)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xii)である;
α鎖アミノ酸配列が(i)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiii)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiv)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xv)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xvi)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xvii)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xviii)である;
α鎖アミノ酸配列が(v)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xix)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xi)である;
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xii)である;及び
α鎖アミノ酸配列が(vi)であり、β鎖-抗CD3アミノ酸配列が(xiii)である、
TCRである。
【0024】
1つの好適なTCR-抗CD3融合体は、それぞれ配列番号4及び5のα鎖及びβ鎖を有する。1つの好適なTCR-抗CD3融合体は、(v)のα鎖アミノ酸配列及び(viii)のβ鎖-抗CD3アミノ酸配列を有する。
或いは、ターゲティング部分は抗体であってもよい。用語「抗体」は、本明細書で用いる場合、イムノグロブリン分子及びイムノグロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、天然のものであるか又は部分的若しくは全体的に合成されたものかにかかわらず、抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子)をいう。用語「抗体」には、天然のものであるか又は部分的若しくは全体的に合成されたものかにかかわらず、抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能的等価物及びホモログ、ヒト化抗体(イムノグロブリン結合ドメインを含んでなる任意のポリペプチドを含む)、抗体の結合ドメインであるか又はそれと相同である結合ドメインを有する任意のポリペプチド又はタンパク質が含まれる。したがって、別のポリペプチドに融合したイムノグロブリンの結合ドメイン又は等価物を含んでなるキメラ分子も含まれる。キメラ抗体のクローニング及び発現は、EP-A-0120694及びEP-A-0125023に記載されている。ヒト化抗体は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の可変領域及びヒト抗体の定常領域を有する改変抗体であってもよい。ヒト化抗体の作製方法は、例えば、米国特許第5225539号に記載されてる。抗体の例は、イムノグロブリンアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)及びそれらアイソタイプのサブクラス;抗原結合ドメインを含んでなるフラグメント、例えばFab、scFv、Fv、dAb、Fd;及びダイアボディである。抗体はポリクローナルであってもよいし、モノクローナルであってもよい。モノクローナル抗体は、本明細書において、「mAb」と表すこともある。
【0025】
抗体、例えばモノクローナル抗体を取得し、組換えDNA技術を利用して、元の抗体の特異性を保持する他の抗体又はキメラ分子を作製することが可能である。このような技法は、抗体のイムノグロブリン可変領域又は相補性決定領域(CDR)をコードするDNAを、異なるイムノグロブリンの定常領域又は定常領域及びフレームワーク領域に導入することを含み得る(例えば、EP-A-184187、GB 2188638A又はEP-A-239400を参照)。ハイブリドーマ(又は抗体を産生する他の細胞)は、遺伝子変異又は他の変化(産生される抗体の結合特異性を変更してもよいし、変更しなくてもよい)に供されてもよい。
【0026】
全体抗体のフラグメントは抗原に結合するように機能し得ることが示されている。結合性フラグメントの例は、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VH及びCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVL及びVHドメインからなるFvフラグメント;(iv)1つのVHドメインからなるdAbフラグメント(Ward, E.S.ら,Nature. 1989 Oct 12;341(6242):544-6);(v)単離されたCDR領域;(vi)F(ab')2フラグメント、2つの連結されたFabフラグメントを含んでなる二価フラグメント;(vii)単鎖Fv分子(scFv)、この分子では、VHドメイン及びVLドメインが(この2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成することを可能とする)ペプチドリンカーにより連結している(Birdら,Science. 1988 Oct 21;242(4877):423-6;Hustonら,Proc Natl Acad Sci U S A. 1988 Aug;85(16):5879-83);(viii)二重特異的単鎖Fvダイマー(PCT/US92/09965);及び(ix)「ダイアボディ」、遺伝子融合により構築された多価又は多重特異的フラグメント(WO94/13804;P. Hollingerら,Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 Jul 15;90(14):6444-8)である。ダイアボディは、各ポリペプチドがイムノグロブリン軽鎖の結合性領域を含む第1のドメイン及びイムノグロブリン重鎖の結合性領域を含む第2のドメインを含んでなり、該2つのドメインは(例えば、ペプチドリンカーにより)連結されているが、互いに会合して抗原結合部位を形成することはできないポリペプチドのマルチマーであって、抗原結合部位は、該マルチマー中の或るポリペプチドの第1のドメインと、該マルチマー中の別のポリペプチドの第2のドメインとの会合により形成される、マルチマーである(WO94/13804)。二重特異的抗体が用いられる場合、それらは従来型の二重特異的抗体であってもよく、これらは種々の方法で作製することができ(Hollinger & Winter,Curr Opin Biotechnol. 1993 Aug;4(4):446-9)(例えば、化学的に、又はハイブリッドハイブリドーマから作製される)、又は上記の二重特異的抗体フラグメントのいずれかであってもよい。全体抗体よりむしろscFvダイマー又はダイアボディを用いることが好ましい場合もあり得る。ダイアボディ及びscFvは、Fc領域なしで、可変ドメインのみを用いて構築することができ、これによりおそらくは抗イディオタイプ反応の影響が低減する。他の形態の二重特異的抗体としては、Trauneckerら,EMBO J. 1991 Dec;10(12):3655-9に記載された単鎖「Janusins」が挙げられる。二重特異的全体抗体ではない二重特異的ダイアボディもまた有用であり得る。なぜならば、それらは、E. coliにおいて容易に構築して発現させることができるからである。適切な結合特異性のダイアボディ(及び多くの他のポリペプチド、例えば、抗体フラグメント)は、ライブラリからファージディスプレイを用いて容易に選択することができる(WO94/13804)。ダイアボディの一方のアームを一定に、例えば、抗原Xに対する特異性を有するように維持しようとする場合、他方のアームを変化させたライブラリを作製して、適切な特異性の抗体を選択することができる。「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全てに特異的結合し、これに相補的である領域を含む抗体の部分である。抗原が大きい場合には、抗体は抗原の特定の部分(エピトープと呼ばれる)にのみ結合してもよい。抗原結合ドメインは、1又は2以上の抗体可変ドメインにより提供されてもよい。抗原結合メインは抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)を含んでなってもよい。
【0027】
結合性部分は、ペプチド-MHC複合体に特異的に結合するように設計されたTCR様分子であってもよい。TCR模倣抗体(例えば、WO2007143104及びSergeevaら,Blood. 2011 Apr 21;117(16):4262-72及び/又はDahan and Reiter,Expert Rev Mol Med. 2012 Feb 24;14:e6に記載のもの)が特に好ましい。
操作されたタンパク質足場をベースにする結合性部分も本発明に含まれる。タンパク質足場は、興味対象の標的分子の結合部位を提供するように改変された安定な可溶性天然タンパク質構造に由来する。操作されたタンパク質足場の例としては、アフィボディ(これは、スタフィロコッカスのプロテインAのZドメインをベースにし、2つのαヘリックス上で結合性界面を提供するものである(Nygren,FEBS J. 2008 Jun;275(11):2668-76);アンチカリン(これは、リポカリンに由来し、βバレルフォールドの開放末端に小リガンド用の結合部位が組み込まれている(Skerra,FEBS J. 2008 Jun;275(11):2677-83))、ナノボディ及びDARPinsが挙げられるが、これらに限定されない。操作されたタンパク質足場は、代表的には、抗体と同じ抗原性タンパク質に結合するように標的付けられ、潜在的な治療剤である。これらは、インヒビター若しくはアンタゴニストとして作用してもよいし、又はインビボで標的分子、例えば毒素、特定の組織への送達ビヒクルとして作用してもよい(Gebauer and Skerra,Curr Opin Chem Biol. 2009 Jun;13(3):245-55)。短いペプチドも、標的タンパク質に結合するために用いてよい。フィロマー(Phylomer)は細菌ゲノムに由来する天然の構造化ペプチドである。このペプチドは、多様なタンパク質構造的フォールドを表し、タンパク質-タンパク質相互作用をインビボで阻害/妨害するために用いることができる(Watt,Nat Biotechnol. 2006 Feb;24(2):177-83)。
TCRに関して上記したように、CD3結合性T細胞再指向化部分は、抗CD3抗体、又は該抗CD3抗体の機能的フラグメント若しくはバリアントであってもよく、WO2011/001152に記載のとおりであってもよい。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、本発明の方法は、患者に20μg以下の用量のT細胞再指向化二重特異的治療剤を第1週に、30μg以下の用量を第2週に、少なくとも50μgの用量を第3週及びそれ以降に投与することを含んでなり、二重特異的治療剤のTCR部分が、T細胞再指向化抗CD3抗体又はそのフラグメントに結合しており、YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に関して、配列番号2の細胞外α鎖配列及び配列番号3の細胞外β鎖配列を有するTCRのもの少なくとも2倍の結合親和性及び/又は結合半減期を有する。
T細胞再指向化二重特異的治療剤は静脈内注入により投与されることが好適である。代替の投与経路としては、他の非経口経路、例えば、皮下又は筋肉内注入、経腸経路(経口又は直腸経路を含む)、吸入又は鼻内経路が挙げられる。
【0029】
本発明において用いる二重特異的治療剤は、単独療法として投与されてもよい。或いは、二重特異的治療剤は、1又は2以上の抗ガン治療剤、好ましくは免疫調整治療剤と組み合わせて投与されてもよい。併用療法を用いた更なる免疫活性化の可能性は、オンターゲットであるがオフ腫瘍である毒性のリスクを増大させる。このような治療剤としては次のものが挙げられる:
・化学療法剤、例えば、ダカルバジン及びテモゾロミド、
・免疫療法剤、例えば、インターロイキン-2(IL-2)及びインターフェロン(IFN)
・チェックポイントインヒビター、例えば、PD-1又はPD-L1を標的する薬剤、例えば、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ及びデュルバルマブ、並びにCTLA-4を標的する薬剤、例えば、イピリムマブ及びトレメリムマブ、
・BRAFインヒビター、例えば、ベムラフェニブ及びダブラフェニブ、
* MEKインヒビター、例えば、トラメチニブ、
・TGF-βインヒビター、例えば、ガルニセルチブ、
・METキナーゼインヒビター、例えば、メレスチニブ(merestinib)。
【0030】
好適な併用療法は、デュルバルマブ、トレメリムマブ、ガルニセルチブ及びメレスチニブを、上記のT細胞再指向化二重特異的治療剤と組み合わせて用いる。メレスチニブ(WO2010011538を参照;又は前記刊行物に記載される類似するアミドフェノキシインダゾール)を二重特異的治療剤と組み合わせて用いる場合、メレスチニブの用量は、1日1回で40~120mgの範囲内、好ましくは1日1回で80~120mgの範囲内であり得る。
二重特異的治療剤は、第1の用量及び続く幾つかの用量については単独で投与され、その後、追加の治療剤が組み合わされてもよいし、その逆であってもよい。T細胞再指向化二重特異的治療剤及び別のガン治療剤を組み合わせて投与する本発明の実施形態においては、第1週及び第2週にT細胞再指向化二重特異的治療剤を単独で投与し、第3週及びそれ以降に他方の治療剤を加えてもよい。
併用療法は、サイトカイン及びケモカインの分泌並びにリンパ球移行を含む免疫活性化の増大を導き得、よって副作用(例えば、重症低血圧)のリスク増大を導き得る。したがって、T細胞再指向化二重特異的治療剤は、最初、組合せ投与に先立って、単一薬剤として投与され得る。1つの好適な実施形態において、20μg以下の用量が第1週に投与され、30μg以下の用量が第2週に投与され、少なくとも50μgの用量が第3週及びそれ以降に投与される。1又は2以上の追加の免疫調整療剤が第3週から投与されてもよい。
【0031】
本発明はgp100陽性ガンの治療に関する。このようなガンの1つはメラノーマである。悪性メラノーマは、世界中で主要な公衆衛生上の課題であり続けている。米国では、2016年にほぼ76,000人が新たにメラノーマと診断され、ほぼ10,000人がメラノーマで死亡したと推定されている(American Cancer Society Statistics, 2016)。加えて、メラノーマの診断率は相当な割合で上昇し続けている;2015年のSurveillance, Epidemiology, and End Resultsのデータによれば、平均発生率は最近の10年間で毎年1.4%上昇し、メラノーマは今や米国で5番目に多く診断されるガンである。初期疾患を有する患者の予後は、外科的切除後に良好である一方、メジアン生存率は疾患の進行と共に急速に低下し、遠位転移疾患を有する患者については1年未満に下落する(Garbeら,Oncologist 2011;16:5-24)。メラノーマ発生率の上昇は、標準的化学療法による不良な転帰及び免疫ベース治療法の初期徴候と併せて、抗腫瘍免疫応答を増強する新規なアプローチ及び組合せの集中的な研究を導いた。
【0032】
本発明に従って治療すべきメラノーマは、皮膚メラノーマ又はぶどう膜メラノーマ(眼内メラノーマとしても知られる)であってもよい。或いは、本発明に従って治療すべきメラノーマは、悪性黒子型メラノーマ、表在拡大型メラノーマ、末端部黒子型メラノーマ、粘膜メラノーマ、結節性メラノーマ、ポリープ様(polypoid)メラノーマ、線維形成性メラノーマ、メラニン欠乏性メラノーマ、軟組織メラノーマ、小母斑様細胞を有する小細胞メラノーマ及びスピッツ母斑様メラノーマの任意の1つであってもよい。
治療すべきメラノーマは、一般に、後期疾患(進行疾患)、典型的には転移病巣により特徴付けられる後期疾患、例えば、ステージIII及び/又はステージIVの疾患である(BalchらJ Clin Oncol 2009;27:6199-206)。
【0033】
ぶどう膜メラノーマ(UM)は、皮膚メラノーマとは生物学的に異なる稀なタイプのメラノーマである。UMは、眼の血管層(虹彩、毛様体及び脈絡膜)に罹患する極めて悪性の新生物である。その発生率は稀である(メラノーマ症例の約3%、世界中で約4,000症例/年に相当)(Papastefanouら(2011),J Skin Cancer;2011:573974)。UMにおける抑制環境及びチェックポイント阻害の活性欠如により、腫瘍特異的な活性化T細胞の動員がこの疾患状況において抗腫瘍活性を有する可能性が示唆される。
上記のとおり、他の非メラノーマガンも文献においてgp100陽性であると報告されており、その例は、淡明細胞肉腫及び神経学的ガン(例えば、幾つかのグリオーマ)である。本発明はこのようなガンの治療にも用いることができる。
【0034】
1つの更なる観点において、本発明は、T細胞を再指向化する二重特異的治療剤を患者に投与することを含んでなり、各用量が5~10日ごとに投与され、少なくとも第1及び第2の用量が40μg以下であり、第2の用量が第1の用量より高い、患者におけるgp100陽性ガンを治療する方法を提供する。
【0035】
1つの更なる観点において、本発明は、(i)YLEPGPVTA-HLA-A2複合体に結合するターゲティング部分と、(ii)該ターゲティング部分が融合したCD3結合性T細胞再指向化部分とを含んでなるT細胞再指向化二重特異的治療剤であって、以下の逐次工程:
(a)患者に10~30μgの範囲内の週用量(weekly dose)の二重特異的治療剤を投与する工程;
(b)(i)患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下の場合、患者に投与する用量を、20~40μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤に増加させ、
(b)(ii)患者に生じる治療関連低血圧がグレード2以上の場合、患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下となるまで、10~30μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤を患者に投与し続け、その後、患者に投与する用量を、20~40μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤に増加させる工程;及び
(c)(i)患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下の場合、患者に投与する用量を、少なくとも50μgの週用量の二重特異的治療剤に増加させ、
(c)(ii)患者に生じる治療関連低血圧がグレード2以上の場合、患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下となるまで、20~40μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤を患者に投与し続け、その後、患者に投与する用量を、少なくとも50μgの週用量の二重特異的治療剤に増加させる工程
を含む患者においてgp100陽性ガンを治療する方法に用いる、T細胞再指向化二重特異的治療剤を提供する。
【0036】
この観点において、当該方法は、工程(b)と工程(c)との間に、次の工程:
(d)(i)患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下の場合、患者に投与する用量を、30~45μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤に増加させ、
(d)(ii)患者に生じる治療関連低血圧がグレード2以上の場合、患者に生じる治療関連低血圧がグレード1以下となるまで、20~40μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤を患者に投与し続け、その後、患者に投与する用量を、30~45μgの範囲内の週用量の二重特異的治療剤に増加させる工程
を更に含んでいてもよい。
低血圧のグレードは医師によって評価され得る。
【0037】
本発明の各観点の好適な特徴は、他の観点の各々についてと同様である(ただし、必要な変更は加える)。本発明の或る複数の特徴(明確化のためには、別々の実施形態に関して記載した複数の特徴)は単一の実施形態において組合せで提供されてもよいことが理解される。逆に、本発明の種々の複数の特徴(簡潔化のためには、単一の実施形態に関して記載した複数の特徴)は、別々に又は任意の適切なサブコンビネーションで提供されてもよい。gp100陽性ガンの治療に使用ため及び該治療方法のためのT細胞再指向化二重特異的治療剤に関する実施形態の全ての組合せは、本発明に具体的に包含され、全ての各組合せが個別的かつ明示的に開示されているかのように本明細書に記載される。本明細書で言及する刊行物は法が許容する最大限度で本明細書に組み込まれる。本出願における如何なる書類の引用又は特定も、当該書類が本発明の先行技術として利用可能であることを自認するものではない。
下記で、添付図面に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、参照gp100 TCRのα鎖細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号2)を示す;
【
図2】
図2は、参照gp100 TCRのβ鎖細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号3)を示す;
【
図3】
図3は、gp100特異的TCR α鎖のアミノ酸配列(配列番号4)を示す;
【
図4】
図4は、gp100特異的TCR β鎖のN末端にリンカー、すなわちGGGGS(下線)を介して融合した抗CD3 scFv抗体フラグメント(太字)のアミノ酸配列(配列番号5)を示す;
【
図5】
図5は、IMCgp100の投薬回数に対する毒性(重症及び/又は重篤低血圧)の発生を示す;
【
図6】
図6は、第1の用量のIMCgp100の投薬後の、末梢からのリンパ球移動を示す;
【
図7】
図7は、抗CTLA-4の存在下又は非存在下でのIMCgp100によるT細胞増殖を示す;
【
図8】
図8は、抗PD-L1の存在下又は非存在下でのIMCgp100によるT細胞増殖を示す;
【
図9】
図9は、抗CTLA-4の存在下又は非存在下でのIMCgp100によるサイトカインIFNγ、TNFα及びIL-2の分泌を示す;及び
【
図10】
図10は、抗CTLA-4の存在下又は非存在下でのIMCgp100によるサイトカインIFNγの分泌を示す。
【実施例】
【0039】
実施例
実施例1-薬物関連重症低血圧を寛解し、上限用量の増大を可能にするIMCgp100の投薬レジメンの同定
IMCgp100は、YLEPGPVTAペプチド-HLA-A*02複合体に結合する可溶性の親和性増強TCRと、これが融合した抗CD3 scFvとを含んでなるT細胞再指向化二重特異的薬剤である[IMCgp100のα鎖及びβ鎖はそれぞれ配列番号4及び5である]。IMCgp100を、ヒトに初めて投与する(FIH)非盲検用量設定試験において調べて、進行悪性メラノーマを有する患者におけるIMCgp100の安全性及び忍容性を評価した(臨床試験識別番号:NCT01211262)。この試験は、2回反復投薬レジメン:(治療群1)週1回投薬(RP2D-QW)及び(治療群2)1日1回投薬×4日(RP2D-QD)におけるIMCgp100の最大耐量(MTD)又は推奨第II相用量(RP2D)を特定するために設計された。
【0040】
ステージIV又は切除不能のステージIIIの悪性メラノーマを有する患者をこの試験に参加させた。全ての患者はHLA-A*02陽性であり、18歳以上であり、RECIST 1.1基準に従って測定可能な疾患を有すると分類され、推定余命が3ヶ月を超え、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のパフォーマンスステータスが1以下であった。以前の治療回数は制限しなかった。患者を妥当な血液学的、腎、肝及び心機能について評価した。症候性脳転移を有する患者は本試験から排除した。合計84人の患者が治療を受けた。
IMCgp100は、制御された注入ポンプを用いる静脈内注入により投与した。適格性を確立するスクリーニング手順及び試験は、投薬開始前28日以内に行ったHLA型決定、MRIスキャン、眼科学的検査、聴覚科学的検査及びエコー心臓検査を除き、IMCgp100投薬開始前14日以内に行った。インフォームドコンセントを全ての患者から得た。血液学的、生化学的及び薬物動態学的(PK)分析用の血液サンプルは、スクリーニング時、注入前1日目、注入開始後4、10及び24時間、並びに2、8及び30日目に得た。
【0041】
週1回投薬:用量上昇の結果
標準の3+3第I相用量上昇プロトコルに従って、最大耐量(MTD)を規定した。簡潔には、IMCgp100の用量を3(+3)人の患者からなるコホートにおいてMTDの基準を満たすか又は目標の制限用量に達するまで上昇させた。用量上昇は3倍ずつ増加させ、安全性及びPKプロフィールに従って、又は用量制限毒性(DLT)が報告された場合、修正Fibonacci変法に移行した。MTDは、参加患者の33%以上でDLTが生じる最高用量レベルとして規定した。DLTを治療後8日間のウィンドウ内で観察し、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)バージョン4.0に従って評価した。一時的なグレード3又はグレード4のリンパ球減少、及び非致命的皮膚発疹は、薬物の予想される薬理学的効果に起因する用量制限基準としては排除した。
【0042】
用量上昇の間、31人の患者を8つの用量コホートで処置し、該患者に5ng/kg~900ng/kgの薬物を投与した。グレード3又は4の低血圧の用量制限毒性(DLT)が、用量上昇の間に、405ng/kg(n=6中1)、600ng/kg(n=6中1)及び900ng/kg(n=6中2)で4人の患者に観察された。グレード3又は4の低血圧の4つのDLT症例のうちの3症例で、当該事象は、第1の用量のIMCgp100の投薬後約12~18時間で生じた;1つのDLT低血圧事象は、同時の抗高血圧治療を受けた患者において、405ng/kgでの第2の用量により生じた。これら4症例の低血圧はIV輸液(通常生理食塩水及びコロイド注入)で対処した;いずれの患者も血圧について薬理学的(強心剤)サポートを必要とせず、全ての患者をIVコルチコステロイド療法で処置した。グレード3又は4の低血圧の全ての症例は、輸液療法及びIVコルチコステロイド療法で2日以内に解消した。
【0043】
【表1】
このデータに基いて、週1回投薬についてのMTDは600ng/kgであるとした。
【0044】
週1回投薬:RP2D-QWコホートの結果
週1回用量上昇コホートのPK及び安全性データを検討すると、IMCgp100のより重症の毒性及びより高い薬物曝露が、より高い絶対投与用量と関連することが示唆された。これらデータ及び600ng/kgのMTDで絶対投与用量の範囲(n=5患者、範囲34~66μg QW、メジアン用量54μg)に基いて、週1回投薬レジメンの推奨第2相用量(RP2D-QWと呼ぶ)は、当初、週1回投与での50μgのフラット用量であると決定された。
【0045】
この期間中、3人の患者に有害事象(グレード2以上の低血圧を含む)が生じた。これら事象は、最初の2投薬(例えば、サイクル1の1日目(C1D1)及びサイクル1の8日目(C1D8))に限られていることに気付いた(
図5)。重症低血圧事象の回避を試みて、以降、第1の用量のIMCgp100を40μgに低減させた;しかし、2人の患者でC1D1及び/又はC1D8の投薬後に低血圧(グレード3/4)が観察された;1人の患者では第3の用量での投薬後にもグレード2の低血圧が生じた。以降の投薬後には重症低血圧の症例は報告されなかった。本発明者らは、低血圧の頻度及び重症度と患者腫瘍内でのgp100発現レベルとの間の連関、ぶどう膜メラノーマを有する患者はgp100発現レベルが特に高く、したがって毒性リスクがより高いことを見出したことに留意されたい。
【0046】
腫瘍内の高いgp100発現レベルに起因して毒性リスクが高い7人の患者(6人のぶどう膜メラノーマ患者及び1人の皮膚メラノーマ患者)を、週1回用量拡大フェーズに参加させ、当該患者に20μgの第1の用量(C1D1)、続いて30μgの第2の用量(C1D8)を投与し、最終的には、第3の用量以降については、50μgのフラット用量とした。驚くべきことに、これら7人の患者については、gp100発現が媒介する毒性を生じるリスクが高いにもかかわらず、重症(グレード3/4)低血圧は報告されなかった。
下記の表2は、この研究に用いた3つの投薬レジメン、各レジメンで処置した患者数及び報告された低血圧有害事象数をまとめたものである。
【0047】
【表2】
これらデータは、gp100陽性ガンを有する患者を治療したときの薬物関連重症低血圧の寛解について、2段階の患者内用量上昇レジメンの驚くべき有益性を証明する。
【0048】
低血圧は、リンパ球移動及びサイトカイン放出に起因する
週1回のRP2Dで投薬された患者サブセットの血液分析により、IMCgp100投与後の顕著なリンパ球移動が示された。リンパ球レベルは、注入後約12~24時間で実質的に低下し、8日目までにベースラインレベルに復帰した。この影響は、重症及び/又は重篤の低血圧を有する症例でより著明であった(
図6)。サイトカイン分析により、1又は2以上の炎症性サイトカインが控えめな(modest)レベルであることが明らかとなった。末梢で最大増加が観察されたのは、組織化学誘引物質ケモカインのレベルであった。これは、末梢循環性リンパ球の一時的低下(投薬後48時間までにほぼ消失し、8日目までに投薬前のレベルに達した)と平行する。
【0049】
患者内投薬レジメンの更なる検証
上記第1相試験において処置した患者の腫瘍応答データの遡及的検討により、概して、目的とする応答がより高い絶対用量(約65~85μg)を投与した患者で得られることに気付いた。したがって、C1D1で20μgを用い、C1D8で30μgを用いることにより、サイクル1の15日目(C1D15)以降に、より高い絶対用量、すなわち50μg以上の使用が可能となり、おそらくは効力が改善するという仮説を立てた。
このことを検証するため、IMCgp100を、進行中の第I相非盲検多施設試験において、進行ぶどう膜メラノーマの患者で更に調べている(臨床試験識別番号:NCT02570308)。この試験の第1部は標準の3+3用量上昇設計に従うものである。第1の患者コホートには、IMCgp100を静脈内注入により、C1D1に固定用量20μgで、C1D8に30μgで投与し、続いてC1D15からは60μgで投与している。初期データは、このコホートの患者(n=3)に関して重症低血圧関連事象が報告されなかったことを示している。更なる患者コホートには、C1D15により高い用量(例えば、70μg、80μg又はそれ以上)を投与する予定である。
【0050】
実施例2-他の免疫調整薬との組合せで投与したIMCgp100について重症低血圧リスク増大の証拠
IMCgp100媒介免疫活性化をインビトロでPD-L1/PD-1及びCTLA-4に対するチェックポイントインヒビター抗体の存在下又は不在下にて調べた。
IMCgp100と抗CTLA-4との組合せによるT細胞応答効力の増大
本実験では、T細胞増殖を効力の指標として用いた。IMCgp100は、濃度80pMで、40μg/mlの抗CTLA-4(クローンL3D10;Biolegend)の存在下又は不在下にて用いた。10nM又は100nMのgp100ペプチドでパルスしたHLA-A
*02陽性単球を、標的抗原提示細胞として用い、10,000細胞/ウェルでプレートした。エフェクターCD3+ T細胞をCell Tracker Violetで標識した。T細胞増殖は、5日後にFACSベースのIntellicytアッセイを用いて測定した。
図7に示す結果は、IMCgp100と抗CTLA-4との組合せが、IMCgp100単独と比較して向上したT細胞応答を(より低いペプチド濃度で)もたらすことを示す。このことは、この組合せで処置した患者において、効力及びgp100特異的オンターゲット・オフ腫瘍毒性の両方が、IMCgp100単独療法より高レベルである可能性を示している。
【0051】
IMCgp100と抗PD-L1との組合せによるT細胞殺傷効力の増大
本実験では、T細胞殺傷を効力の指標として用いた。IMCgp100は、濃度80pM及び100pMで、10μg/mlの抗PD-L1(クローン29E.2A3;BioLegend)の存在下又は不在下にて用いた。HLA-A
*02陽性Mel624細胞を標的抗原提示細胞として用いた。CD8+ T細胞をエフェクター細胞としてエフェクター標的比5:1で用いた。T細胞殺傷は、Incucyte ZOOMアッセイを用いて3日間にわたって測定した。標的細胞におけるカスパーゼ-3/7活性化をアポトーシスの尺度としてモニターした(2時間ごとに撮像)。
図8に示す結果は、IMCgp100と抗PD-L1との組合せが、IMCgp100単独と比較して増強したT細胞殺傷をもたらすことを示す。このことは、この組合せで処置した患者において、効力及びgp100特異的オンターゲット・オフ腫瘍毒性の両方が、IMCgp100単独療法より高いレベルである可能性を示している。
【0052】
IMCgp100と抗CTLA-4又は抗PD-L1との組合せによる炎症促進性サイトカイン産生の増大
本実験では、サイトカイン分泌を、Meso Scale DiscoveryのV-PLEXヒト炎症促進性パネル1アッセイキットを用いて評価した。
IMCgp100と抗CTLA-4又は抗PD-L1との組合せについては、上清サンプルを、それぞれ増殖アッセイ及び殺傷アッセイから24時間の時点で採取した。
図9に示すデータは、(低ペプチド濃度での)IFNγ、TNFα及びIL-2分泌が、IMCgp100及び抗CTLA-4の存在下で、IMCgp100単独に比して増強することを証明する。
図10に示すデータは、IFNγの分泌が、IMCgp100及び抗PD-L1の存在下で、IMCgp100単独に比して増強することを証明する。
これらデータは、IMCgp100併用療法による免疫活性化が、IMCgp100単独療法に比して増大し、したがって併用療法を受けた患者に関して、gp100陽性メラノサイトのオンターゲット・オフ腫瘍標的化に起因して、重症低血圧のリスクが増大する可能性を示している。
【配列表】