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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】医薬容器および液体組成物
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
A61M5/315 512
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020043957
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2020146465
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】19163313
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】323001797
【氏名又は名称】ショット ファーマ シュヴァイツ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Pharma Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】St. Josefen-Strasse 20, 9000 St. Gallen, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エルマー ホルシュ
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0243508(US,A1)
【文献】特開2016-042902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送達用の医薬容器であって、
-前記医薬容器は、バレルおよびストッパを有し、前記ストッパは、前記バレル内に摺動可能に配置され、
-前記ストッパは、プランジャロッドに接触するのに適した近位端部と、医薬組成物に接触するのに適した遠位端部と、を有し、
-前記ストッパは、前記バレルの内面に部分的に接触する円周面を有し、
-前記ストッパは、前記ストッパが遠位方向に移動するときに前記バレルの前記内面に接触する1つまたは複数の環状突起を有し、
-前記環状突起は、それぞれ、近位-遠位方向で立上りエッジと立下りエッジとを有する、薬剤送達用の医薬容器において、
最も近位の前記環状突起の前記立上りエッジと前記バレルの前記内面とは、前記遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の前記環状突起の前記立下りエッジと前記内面とは、前記近位方向で角度Aに広がり、比率X/Aは、少なくとも1.05であり、
前記医薬容器は、解放力および滑走力試験中に、滑走力(GF)に対する解放力(BLF)の比率BLF/GF≦2を呈し、前記ストッパが始端位置からその終端位置まで移動させられる際に測定される総滑走力変動TGFV=GFmax-GFminは、TGFV<2Nである、
医薬容器。
【請求項2】
ストッパを摺動可能に受容するよう構成されたバレルを有する、薬剤送達用の医薬容器であって、
前記医薬容器は、解放力および滑走力試験中に、滑走力(GF)に対する解放力(BLF)の比率BLF/GF≦2を呈し、前記ストッパが始端位置からその終端位置まで移動させられる際に測定される総滑走力変動TGFV=GFmax-GFminは、TGFV<2Nであり、
前記ストッパは、プランジャロッドに接触するのに適した近位端部と、医薬組成物に接触するのに適した遠位端部と、前記バレルの内面に接触するのに少なくとも部分的に適した円周面と、前記ストッパが遠位方向に移動するときに前記バレルの前記内面に接触する1つまたは複数の環状突起であって、それぞれが近位-遠位方向で立上りエッジおよび立下りエッジを有する1つまたは複数の環状突起と、を有し、
前記ストッパは、さらに、最も近位の前記環状突起の前記立上りエッジと前記バレルの前記内面とが前記遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の前記環状突起の前記立下りエッジと前記内面とが前記近位方向で角度Aに広がり、比率X/Aが少なくとも1.05であることを特徴とする、
医薬容器。
【請求項3】
前記比率X/Aは、1.1(1.1>)~1.7である、
請求項1または2記載の医薬容器。
【請求項4】
前記Aは、130°~170°である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項5】
前記ストッパは、少なくとも2つの環状突起を有する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項6】
前記医薬容器は、シリンジ、カートリッジおよびカープルから選択される、
請求項1から5までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項7】
前記バレルの前記内面は、少なくとも80°の水接触角を有する、
請求項1から6までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項8】
前記バレルの前記内面は、
-100nm未満の表面粗さRa、
-150nm未満の表面粗さRms、
-45mN/m未満の表面エネルギ、および/または、
-バレルあたり100μg未満のシリコーン含有量を有する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項9】
前記ストッパは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、高密度延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロエチレンコポリマ、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマ、テトラフルオロエチレン-エチレンコポリマ、トリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ポリビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、ペルフルオロアルコキシポリマからなる群から選択されるポリマのフッ素化ポリマ、ならびにこれらのコポリマ、ブレンドおよび組合せの樹脂でコーティングされている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項10】
前記バレルは、部分的または全体的にガラスまたは、COCもしくはCOPのポリマで製作されている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項11】
前記医薬容器は、解放力および滑走力試験中に、12N以下の最大解放力および滑走力を呈する、
請求項1から10までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項12】
前記滑走力(GF)に対する前記解放力(BLF)の前記比率は、105日間の加速エージング後にBLF/GF≦3によって特徴付けられる、
請求項1から11までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項13】
前記バレルの前記内面は、コーティングされていない、
請求項1から12までのいずれか1項記載の医薬容器。
【請求項14】
前記バレルの前記内面の表面粗さは、前記ストッパの始端位置からその終端位置まで少なくとも3%Raおよび/またはRmsだけ減少する、
請求項1から13までのいずれか1項記載の医薬容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤送達用の医薬容器、および液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤送達用の医薬容器は、従来技術で知られているものである。これらの容器は通常、容器の内容物を出口から溶出するのに役立つストッパを特徴として備える。このストッパは、容器内で摺動させる必要がある。
【0003】
これらの容器の大半においては、ストッパは近位始端位置から遠位終端位置まで指の力を使用して移動する。指の力には限界があるため、ストッパをその始端位置から外すのに必要な力(解放力)を過度に大きくすることはできない。また、薬剤の意図した適用の前に、ストッパが誤って移動しないようにするため、この解放力を過度に小さくすることはできない。さらに、同じ理由から、ストッパをその始端位置からその終端位置まで移動させるのに必要な力(滑走力)を過度に大きくしてはいけない。
【0004】
全般に、非常に小さい解放力値および滑走力値は、容器の内径に比べて外径が非常に小さいストッパを選択することにより実現することができる。しかしながら、ストッパの外径が小さすぎると、ストッパが容器を十分に封止しなくなるため、容器の内容物、つまり薬剤組成物がストッパから漏れるおそれがある。
【0005】
国際公開第2018/157097号は、医薬容器のストッパを教示している。容器の適切な封止を実現するため、このストッパは容器の内径に比べて非常に大きな外径を有している。この先行技術文献で教示されているストッパは、適切な解放力および滑走力を実現するためにプラズマ処理またはオートクレーブする必要があるが、これは生産コストの増大を伴う。さらに、ストッパを容器内にセットするのに必要な強い圧縮は、容器内でストッパを傾斜させるリスクを増大させ、生産プロセスは中断されるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服する医薬容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態では、本発明は、薬剤送達用の医薬容器であって、
-バレルおよびストッパを有し、このストッパはバレル内に摺動可能に配置され、
-ストッパは、プランジャロッドに接触するのに適した近位端部と、医薬組成物に接触するのに適した遠位端部と、を有し、
-ストッパは、バレルの内面に部分的に接触する円周面を有し、
-ストッパは、このストッパが遠位方向に移動するときにバレルの内面に接触する1つまたは複数の環状突起を有し、
-環状突起はそれぞれ、近位-遠位方向で立上りエッジと立下りエッジとを有する、薬剤送達用の医薬容器に関する。
【0008】
近位-遠位方向は、近位端部から遠位端部を指すベクトルの方向と同じである。最も近位の環状突起の立上りエッジとバレルの内面とは遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジとこの内面とは近位方向で角度Aに広がり、比率X/Aは好ましくは少なくとも1.05であってよい。
【0009】
この容器は、解放力および滑走力(BLGF)試験中に、滑走力(GF)に対する解放力(BLF)の比率BLF/GF≦2を呈してよい。BLFとGFとの比率を制御することが重要であることが判明した。なぜならば、BLFがGFに比べて高すぎる場合、容器のユーザは、ストッパをその始端位置から外すために非常に強く押さなければならず、それによりストッパの解放後に、ストッパが終端位置までの全行程にわたって過度に速く押し込まれるおそれがあるからである。比率BLF/GFをバランスのとれた範囲に保つことによって、不必要な痛みを患者に与えることなく制御された薬剤送達が容易になる。また、解放後にストッパの加速が制限される場合、容器の内容物の漏れのリスクはより小さくなる。比率BLF/GFは>1であってよい。投与中の容器を保管した後でも、BLF/GF比率を本質的に一定に保つことは、本発明の一態様である。
【0010】
好ましくは、ストッパが始端位置からその終端位置まで移動させられる際に測定される総滑走力変動TGFV=GFmax-GFminはTGFV<2Nであってよい。最大GFと最小GFとの差は、容器に収容されている薬剤組成物を適切に投薬するのにユーザの能力に大きく影響するため、TGFVを制御することは重要である。
【0011】
他の実施形態では、本発明は、ストッパを摺動可能に受容するよう構成されたバレルを有する薬剤送達用の医薬容器であって、
この容器は、BLGF試験中に、GFに対するBLFの比率BLF/GF≦2を呈し、ストッパが始端位置からその終端位置まで移動させられる際に測定される総滑走力変動TGFV=GFmax-GFminがTGFV<2Nであり、
前記ストッパは、プランジャロッドに接触するのに適した近位端部と、医薬組成物に接触するのに適した遠位端部と、バレルの内面に接触するのに少なくとも部分的に適した円周面と、ストッパが遠位方向に移動するときにバレルの内面に接触する1つまたは複数の環状突起であって、それぞれが近位-遠位方向で立上りエッジおよび立下りエッジを有する1つまたは複数の環状突起と、を有し、
ストッパはさらに、最も近位の環状突起の立上りエッジとバレルの内面とが遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジとこの内面とが近位方向で角度Aに広がり、比率X/Aは少なくとも1.05であることを特徴とする、薬剤送達用の医薬容器に関する。
【0012】
BLF、GFおよびBLGFは、本明細書で以下にBLGF試験として説明される方法に従って測定することができる。
【0013】
角度X、Aおよびそれらの比率X/A
最も近位の環状突起の立上りエッジとバレルの内面とは、遠位方向に開く角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジとこの内面とは、近位方向に開く角度Aに広がる。本発明の文脈における「立上りエッジ」は、ストッパがバレルに挿入されているときに、近位-遠位方向でストッパの円周面に続いてバレルの内面の方向に延びる、環状突起のエッジである。「立下りエッジ」は、ストッパがバレルに挿入されているときに、近位-遠位方向でストッパの円周面に続いてバレルの中心長手方向軸線に向かう方向に延びる、環状突起のエッジである。
【0014】
好ましい実施形態では、比率X/Aは、1.1(1.1>)~1.7である。比率X/Aが少なくとも1.05である場合、BLGF値は改善される。好ましい実施形態では、比率X/Aは少なくとも1.1、少なくとも1.15、少なくとも1.2または少なくとも1.25である。この比率は、好ましくは、最大1.7、最大1.65、最大1.6、最大1.55、最大1.5、または最大1.45に制限されてよい。
【0015】
角度Xおよび/または角度Aは、90°(>90°)~180°(<180°)であってよい。好ましくは、Aは130°~170°である。Aの最小値は少なくとも100°、少なくとも110°、少なくとも120°または少なくとも130°であってよい。Aの上限は、170°、160°、150°または140°であってよい。好ましくは、Xは131°~175°である。Xの最小値は、少なくとも101°、少なくとも111°、少なくとも121°または少なくとも131°であってよい。Xの上限は、170°、160°、150°または140°であってよい。
【0016】
これらの角度とそれらの比率とを適切な範囲内に保つことは、本発明の根底にある問題の解決に寄与することになる。特に、角度Xが小さすぎると、比率BLF/GFが増加することになる。角度比率に関連して、プランジャロッドによって入力された力は、プランジャの内部で封止リップに向かって均一なかつ制御された方法で分散かつ分配する必要があり、これは強度線で描くことができ、プランジャの制御されない変形は、設計角度の前述の比率によって回避することができる。
【0017】
環状突起
ストッパは、少なくとも2つの環状突起を有してもよい。一実施形態では、ストッパは、1~5つの環状突起、例えば2~4つの環状突起を有する。特定の実施形態では、ストッパは、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの環状突起を有してもよい。環状突起は、バレルの内面とストッパの円周面との間の接続箇所を閉じるのに役立つ。ストッパの直径は、環状突起の位置でストッパの平均直径よりも大きくなっている。ストッパが遠位方向に移動するとき、例えばストッパを使用して医薬容器の内容物を容器から押し出すとき、環状突起はバレルの内面に接触する。環状突起の表面は、ストッパの円周面の一部を形成する。
【0018】
少なくとも1つ、好ましくはすべての環状突起は、バレルの内径を超える直径を有してよい。少なくとも1つ、好ましくはすべての環状突起の直径は、バレルの内径を少なくとも0.05mm、または少なくとも0.1mm、または少なくとも0.15mmだけ超える。環状突起の外径は、ストッパの外径と同じであってもよい。直径はバレルの長手方向軸線に垂直に測定される。
【0019】
表面粗さ
表面粗さの値は、例えば、射出成形中に温度を調整することにより制御することができる。実施形態では、バレルの内面は、100nm未満の表面粗さRaを有してよい。本明細書で示される表面粗さRaは、平均または最大表面粗さであってよい。好ましくは、バレルの内面の表面粗さRaは、80nm未満、70nm未満、60nm未満、50nm未満または40nm未満である。表面粗さRaは、少なくとも1nm、少なくとも3nmまたは少なくとも7nmであってよい。好ましい範囲には、1nm~80nmの、3nm~70nmの、または7nm~50nmの表面粗さRa値が含まれる。
【0020】
表面粗さは、追加的にまたは代替的に、Rms粗さとして与えられ得る。実施形態では、バレルの内面は、150nm未満の表面粗さRmsを有してよい。本明細書で示される表面粗さRmsは、平均または最大表面粗さであってよい。好ましくは、バレルの内面の表面粗さRmsは、120nm未満、100nm未満、80nm未満、70nm未満または60nm未満である。表面粗さRmsは、少なくとも2nm、少なくとも5nmまたは少なくとも8nmであってよい。好ましい範囲には、2nm~120nmの、5nm~100nmの、または8nm~60nmの表面粗さRa値が含まれる。表面の粗さは、バレルの内面に接触している間のストッパの移動能力に影響する。例えば、表面粗さが非常に大きい場合、摩擦係数は非常に高くなる可能性がある。
【0021】
バレルの内面の表面粗さは、ストッパの始端位置からその終端位置まで少なくとも3%Raおよび/またはRmsだけ、始端位置での粗さ値に対して減少してよい。好ましい実施形態では、表面粗さRaは、ストッパの始端位置から終端位置まで、少なくとも5%、少なくとも7%、少なくとも10%だけ、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%だけ減少する。表面粗さRmsは、ストッパの始端位置から終端位置まで、少なくとも5%、少なくとも7%、少なくとも10%だけ、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%だけ減少してよい。
【0022】
ストッパの始端位置は、容器が薬剤送達に使用される前に、ストッパがバレル内に配置される位置である。実施形態では、医薬容器は充填済みシリンジである。充填済みシリンジでは、始端位置は使用前においてストッパがある箇所である。これは通常、ストッパの最も近位の位置となる。ストッパの終端位置は、容器の公称容量をバレルから押し出した後にストッパが配置される位置であり、例えばストッパがバレルの遠位端部に触れるときである。ストッパの始端位置は、容器の近位端部から容器の長さの最大20%の距離内に配置してよい。終端位置は、容器の近位端部から容器の長さの80%~100%の距離内に配置してよい。
【0023】
バレルの内面は、始端位置SP、中間位置MP、および終端位置EPで測定された表面粗さが次のとおりであるような表面粗さ分布を有していてよく、中間位置は始端位置と終端位置との中間に配置されてよい。
SP 100%
MP 40~60%
EP 20~35%
【0024】
表面粗さを制御することは、非常に低いTGFVに寄与し得る。表面粗さは、溶融温度、成形時間、ポリマブレンドなどの生産パラメータを調整するか、コーティングやプラズマ処理などの表面処理によって制御することができる。医薬容器は、射出成形によって製作してよい。射出成形では、容器を少なくともわずかに円錐形状にする必要があり、つまり、バレルの内径は始端位置から終端位置まで減少することになる。したがって、始端位置から終端位置までストッパの圧縮が増加するため、GFmaxが増加し、TGFVも増加する。本明細書では、特に明記しない限り、バレルの内径への言及はバレルの最大内径を意味する。
【0025】
説明した表面粗さ分布は、例えば、射出成形中に射出ノズルを始端位置よりも終端位置の近くに位置させることにより、射出中にポリマ溶融温度が始端位置よりも終端位置で高くなるようにすることで達成してよい。あるいは、金型温度が部分加熱および/または部分冷却の影響を受けて、バレル方向に温度勾配が生じるようにしてもよい。
【0026】
表面粗さの値は、(DIN EN ISO 4288:1998およびDIN EN ISO 3274:1998と合わせて)DIN EN ISO 25178-2:2012、DIN EN ISO 25178-6:2010およびDIN EN ISO 25178-604:2013-12に準拠した白色光干渉計を使用して測定することができる。
【0027】
ストッパ
ストッパは、少なくとも1つの環状突起と円周面とを有する本体を有する。「円周面」は、ストッパがバレル内に配置されたときにバレルの内面に面するストッパの表面である。円周面は、環状突起の表面を含む。ストッパがコーティングされている場合、バレルの内面に面するコーティングの表面は、円周面の一部であるか、円周面を構成する。「接触面」は、ストッパがバレルに挿入されたときにバレルの内面に触れる円周面の一部である。
【0028】
「環状突起」は、バレルの長手方向軸線に垂直に測定した、平均直径よりも大きい直径を有するストッパの部分である。環状突起は、ストッパとバレルとの間の接続箇所を封止するようにバレルの内面に触れる。平均直径よりも大きいが、遠位方向へのストッパの移動中に少なくとも80%、90%、99.9%または100%程度バレルの内面に触れていないストッパのいかなる部分も「環状突起」とは考えられない。環状突起は、ストッパをバレル内の意図した位置に保つのに役立ち、近位-遠位方向の向きを安定させ、それにより容器のBLF値およびGF値に影響を与える。さらに、環状突起は、ストッパとバレルの内面との間の接続箇所を封止する。
【0029】
ストッパは、任意選択で1つまたは複数の後続リブを特徴として備えてもよい。「後続リブ」とは、バレルの長手方向軸線に垂直に測定された、平均直径よりも大きい直径を有するストッパの部分である。ただし、後続リブは環状突起よりも小さい直径を有するため、ストッパが近位-遠位方向に移動したときにバレルの内面に大きく触れることはない。そのような後続リブは、ストッパと内面との間の接続箇所を効果的に封止することなく、バレル内でのストッパの向きを安定させる目的に役立ち得る。後続リブは、内面との接触があったとしても限られているため、通常、BLFおよびGFに大きな影響を与えない。
【0030】
ストッパはコーティングで被覆してもよい。コーティングはポリマであってよい。一実施形態では、コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、高密度延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロエチレンコポリマ、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマ、テトラフルオロエチレン-エチレンコポリマ、トリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ポリビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、ペルフルオロアルコキシポリマからなる群から選択されるポリマなどのフッ素化ポリマ、ならびにこれらのコポリマ、ブレンドおよび組合せなどの樹脂を含む。コーティングは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリパラキシルキシレン、ポリ乳酸、ならびにこれらのコポリマ、ブレンドおよび組合せを含む層によって形成してもよい。PTFEコーティングは、好ましいコーティングの選択肢である。これらのコーティングは、バレルの内面上でのストッパの円周面の摩擦係数を低減する。実施形態では、バレルの内面と接触することになる、ストッパの円周面の少なくとも一部がコーティングされる。
【0031】
ストッパは、ISO 527-2:2012(E)に準拠して測定される少なくとも10MPaの降伏応力、および/またはDIN EN ISO 8295/2004-10に準拠して測定される、鋼に対する0.23未満の低い滑り摩擦係数をもつ弾性体を有してもよい。ストッパは、熱可塑性エラストマ製、および/または天然ゴムや合成ゴムなどのゴム製であってよい。適切なゴム材料は、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、イソプレン-イソブチレンゴム、ニトリルゴム、ならびにこれらの組合せおよび混合物からなる群から選択されてよい。特に、ストッパの本体は、上に列挙したゴム製および/または熱可塑性エラストマ製であってよい。
【0032】
本体は、上記のように樹脂でコーティングしていてよい。コーティングは、1mm未満、特に0.5μm~200μm、特に10μm~125μm、または30~100μmの厚さを有し得る。これらの厚さは、容易に適用でき、しかも所望の摩擦効果に十分であることが証明されている。
【0033】
ストッパの円周面は、少なくとも100°、さらには少なくとも110°の水接触角を有していてよい。ストッパの円周面は超疎水性であってもよい。本発明の容器に超疎水性のストッパを使用することは、低い滑り摩擦係数に起因して、低い付着性と共同して有益なBLGF値に寄与する。
【0034】
本発明の医薬容器は、ストッパの圧縮が比較的低い場合であっても、環状突起とバレルの内面との間の優れた封止を可能にする。ストッパ圧縮(SC)は、次のように計算することができる。SC=(OD-ID)/OD、ここでODはストッパの外径を示し、IDはバレルの内径を示す。ストッパ圧縮は、0.1未満、0.075未満、またはさらに0.05未満であってもよい。低ストッパ圧縮を使用すると、ストッパをバレル内で容易に滑走させることができるため、TGFVを非常に低く保ち、BLFを低減することができる。
【0035】
ストッパの円周面とバレルの内面とは、接触領域で少なくとも部分的に互いに接触してよい。接触領域は、封止領域とも呼ばれることもある。実施形態において、接触領域は少なくとも8mm、最大で48mmとなる。接触領域は、8~48mmまたは10~40mm、15~30mm、16~24mmであってよい。複数の環状突起の場合、各突起が接触領域に寄与する。最小の接触領域は、十分な封止を実現するために有用となる。接触領域が大きすぎる場合、BLGF値が過度に増大するおそれがある。
【0036】
医薬容器
医薬容器は、シリンジ、カートリッジおよびカープルから選択されてよい。
【0037】
バレルの内面は、少なくとも80°の水接触角を有していてよい。大きな水接触角は、内面が疎水性であることを示す。水接触角が90°を超える場合、表面は超疎水性と呼ばれる。好ましくは、バレルの内面は超疎水性である。その水接触角は、少なくとも95°、または少なくとも100°の大きさでもあり得る。好ましい実施形態では、バレルの内面はプラズマ処理されておらず、かつ/またはその他の方法で親水性が増加されていない。典型的なプラズマ処理された内面は、90°を大幅に下回る水接触角を有することになる。
【0038】
好ましくは、ストッパの円周面の水接触角θとバレルの内面の水接触角θとの比率は、θ/θ>0.9である。好ましくは、θ/θは0.9~2であり、または1(>1)~1.5である。好ましい実施形態では、上記比率θ/θは、>1、>1.1または>1.2である。水接触角を制御することで、BLGFの特性が向上する。ストッパおよびバレルの内面の水接触角を一定の範囲内に保つことが、所望の特性を達成するのに役立つことが判明した。
【0039】
水接触角は、DIN 55660-2:2011-12の5.2.2章に準拠し、2μlの滴下量を用いた静的法を使用して測定することができる。
【0040】
バレルの内面は、45mN/m未満、または40mN/m未満の表面エネルギを有していてよい。好ましくは、内面の表面エネルギは、ストッパの円周面の表面エネルギよりも高い。表面エネルギは、DIN 55660-2:2011-12、6.2章に準拠した接触角測定からOwens-Wendt-Rabel-Kaelble(OWRK)法を用いて値を計算することで間接的に測定することができる。
【0041】
医薬容器は本質的に潤滑剤フリーであってよい。「潤滑剤フリー」とは、容器あたりの潤滑剤の量が100μm未満、30μg未満、またはさらには10μg未満であることを意味する。上記の制限は、潤滑剤としてのシリコーンに特に当てはまり得る。
【0042】
医薬容器および/またはバレルは、部分的または全体的に医薬一次包装に適した材料で製作されていてよい。適切な材料には、ガラスまたはポリマが含まれる。ポリマはアモルファスポリマであってよい。透明なポリマが好ましい。適したポリマは、環状オレフィンコポリマ(COC)、環状オレフィンポリマ(COP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、およびメチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマ(MABS)を含む群から選択されてよい。これらのポリマは、低密度、高透明性、低複屈折、極低吸水率、優れた水蒸気バリア性、高い剛性、強度および硬度、優れた生体適合性、酸およびアルカリに対する非常に良好な耐性、ならびに非常に良好な溶融加工性において利点を有する。
【0043】
バレルおよび/または医薬容器は、ポリマ製であってよい。好ましくは、0.9~1.2g/cmの密度、好ましくは1(>1)~1.1g/cmの密度のような、ガラスと比較して低い密度を有するポリマが選択される。低密度材料を使用した場合、輸送コストを削減することができる。密度は、ISO 1183-1:2013-04に記載されている方法を使用して決定してよい。
【0044】
長期保管のためには、水蒸気透過性が0.1g・mm/m・d未満、好ましくは0.07g・mm/m・d未満、さらには0.05g・mm/m・d未満の材料をバレルに使用することが好ましい。水蒸気透過性は、ISO 15106-3:2003に記載されている方法を使用して試験され得る。
【0045】
BLFおよびGFが4℃~25℃のような生物学的活性剤に関連する温度範囲にわたって十分に一定であり続けるためには、バレルに使用する材料の線熱膨張係数(CTE)が0.3~0.8×10-4-1、または0.4~0.7×10-4-1、または0.3~0.8×10-4-1の範囲内にあることが好ましい。好ましい実施形態では、ストッパの材料とバレルの材料とのCTEの比率CTE/CTEは、7未満、好ましくは6未満または最大でも5である。この比率が高すぎる場合、容器を冷蔵庫で例えば4℃まで冷却した際にストッパは大幅に収縮することになる。これは漏れを引き起こすおそれがある。
【0046】
本発明の効果はコーティングされていないバレルによっても達成され得るため、本発明は大きな設計自由度を提供する。したがって、バレルの内面はコーティングされていなくてもよい。
【0047】
バレルは、容器の長手方向軸線に垂直に測定される内径IDを有する。内径IDは、3mm~40mm、好ましくは4mm~20mmの範囲であってよい。全般に、バレル容積が大きいほど内径は大きくなる。直径が大きくなると、ストッパの円周面とバレルの内面との接触領域が増加するため、BLF値およびGF値はしばしば、相応して大きくなる。
【0048】
バレルの壁は透明な材料で製作されていてよい。この透明な材料は、1mmの材料の厚さで測定して、400~700nmの波長範囲内の少なくとも100nm幅の波長間隔内で少なくとも60%の最小透過率を有していてよい。好ましくは、最小透過率は少なくとも70%である。
【0049】
バレル壁の材料は、1.5~1.6の屈折率および/または50~60のアッベ数によって特徴付けられる回折を有していてよい。適切な屈折率をもつ材料を使用することは、医薬組成物の内容物の良好な目視検査を可能にするのに有用である。本発明の医薬容器は、非経口薬剤組成物の投与に適しており、そのため、不純物、沈殿、結晶化、および粒子についての容器の視覚的検査が最も重要である。
【0050】
バレルの壁の厚さは、1mm~2.5mmまたは1.2mm~2mmまたは1.3mm~1.9mmであってよい。
【0051】
液体組成物
本発明はまた、手術または療法により人体または動物の体を治療するための方法で使用するための、かつ/または人体または動物の体に対して行われる診断方法で使用するための液体組成物に関する。この液体組成物は、液体および/または無菌であってよい。医薬容器は、バレル内に液体組成物を収容してよい。
【0052】
組成物は少なくとも1つの医薬的活性成分を含む。「医薬的活性成分」には、治療的活性成分および/または診断的活性成分が含まれる。
【0053】
この方法は、本発明の医薬容器を使用して、上記医薬的活性成分の有効量を対象に投与することを含む。
【0054】
医薬的活性成分は、抗体、酵素、ワクチン、受容体などのようなペプチドまたはタンパク質であってよい。本発明の医薬容器は、この容器がBLGFに関して温度変化に対して非常に耐性的であるため、ペプチドやタンパク質などの生物学的活性成分を投与するのに特に適している。これは、4℃~25℃の温度範囲内でBLGFが大幅に変化しないことを意味する。生物学的薬剤は通常、製品の貯蔵寿命を延ばすために冷蔵庫に保管されるため、これは重要である。
【0055】
実施形態では、医薬的活性成分は免疫抑制剤または抗癌剤である。活性成分は、免疫チェックポイント阻害剤またはTNFα抗体であってよい。
【0056】
医薬容器は注射装置と組み合わせてもよい。注射装置は、容器の遠位開口部にて容器に取り付けられてよい。注射装置は針であってよい。医薬容器は自動注射器の一部であってよい。
【0057】
解放力および滑走力
本発明の医薬容器は、BLGF試験中に12N以下の最大BLGFを呈してよい。好ましい実施形態では、最大BLGFは、9N、8N、7N、6N、5Nまたはさらに4Nに制限されてよい。BLFは、ストッパの意図しない移動を回避するために、少なくとも0.1Nまたは少なくとも0.5Nであってよい。
【0058】
実施形態では、最大BLGFは、バレルの内径と相関してもよい。好ましくは、最大BLGFとバレルの内径IDとの比率は、BLGF/ID<1N/mmである。好ましくは、BLGF/IDは少なくとも0.5N/mm、または少なくとも0.6N/mmであってよい。実施形態では、BLGF/IDは、≦0.95N/mm、≦0.9N/mm、≦0.85N/mmまたは≦0.8N/mmに制限されてよい。
【0059】
容器は、BLGF試験中、GFに対するBLFの比率BLF/GF≦2を呈する。好ましくは、GFに対するBLFの比率は、105日間の加速エージング後でもBLF/GF≦3によって特徴付けられる。好ましい実施形態では、本発明の容器について、比率BLF/GFは、<2、<1.8、<1.7、またはさらに<1.5である。好ましい実施形態では、105日間の加速エージング後の本発明の容器について、比率BLF/GFは、<2、<1.8、<1.7、またはさらに<1.5であってよい。好ましくは、エージングした容器(105日間の加速エージング)とエージングしていない容器とのBLF/GF比率の相対的な差(BLF/GF105d-BLF/GF0d)/BLF/GF105dは、10%未満、好ましくは5%未満である。
【0060】
ストッパが始端位置からその終端位置まで移動させられる際に測定される総滑走力変動TGFV=GFmax-GFminはTGFV<2N、<1.8Nまたはさらに<1.6Nであってよい。好ましくは、エージングした容器(105日間の加速エージング)と、エージングしていない容器とのTGFVの相対的な差(TGFV105d-TGFV0d)/TGFV105dは、40%未満、好ましくは35%未満である。
【0061】
BLFの平均値およびGFの平均値は、少なくとも12個の容器、好ましくは少なくとも15個の容器を使用して計算されてよい。本発明の医薬容器の平均BLFは、<9N、<8N、<7N、<6N、<5N、<4N、<3N、またはさらに<2Nであってよい。本発明の医薬容器の平均GFは、<9N、<8N、<7N、<6N、<5N、<4N、<3N、またはさらに<2Nであってよい。好ましくは、エージングした容器(105日間の加速エージング)と、エージングしていない容器とのBLFの相対的な差(BLF105d-BLF0d)/BLF105dは、25%未満、<20%、<15%、<10%、またはさらに<5%である。エージングした容器(105日間の加速エージング)と、エージングしていない容器とのGFの相対的な差(GF105d-GF0d)/GF105dは、25%未満、<20%、<15%、<10%、またはさらに<5%である。
【0062】
BLF値およびGF値を本発明の範囲内に保つことは、適用中の容器からの液体組成物の十分に一定の溶出に寄与する。特に、BLFがGFよりもはるかに大きい場合、ストッパがバレルの内面から解放されたときに大きな塊が溶出するおそれがある。また、GFが十分に一定でない場合、液体組成物の溶出速度は一様でなくなるおそれがある。
【0063】
「加速エージング」とは、それぞれの容器が40℃、相対湿度75%で保管されるエージングプロセスを指す。例えば、いくつかの容器は、比較のためにこれらの条件で105日間保管されてよい。加速エージングは、本発明の医薬容器の特性へのエージングの影響を推定するために実施することができる。
【0064】
解放力および滑走力試験
BLGF試験は、室温下、例えば23℃で、ユニバーサル試験機で実施される。この目的のため、50Nの試験カップを備えたBLGF試験装置が使用される。サンプルは、スイス、CH-6331 ヒューネンベルクにあるTesT AG社製のユニバーサル試験機モデル106,2kNに垂直向きで固定した。
【0065】
この試験では、平坦な端部を有する、つまりいかなるねじ山もないプランジャが使用される。
【0066】
BLFは、ストッパをその原点位置から移動させるのに必要な力である。GFは、プランジャの解放後にプランジャを移動させ続けるために必要な力である。
【0067】
医薬容器には注射用の水が満たされている。被検体を充填した後、これらの被検体は、試験目的に応じて、保管されるかまたはすぐに試験される。被検体は針なしで試験される。
【0068】
被検体をホルダに挿入し、圧力スタンプを20mm/minの速度でプランジャに向けて移動させる。0.25Nの力が測定されると、試験機は100mm/minの試験速度に切り替わり、データの記録を開始する。実験は、測定された力が35Nを超えると終了し、これは通常、バレルの遠位端部に到達した場合である。
【0069】
BLFは、ストッパの最初の4mmの移動において測定される最大の力である。GFの平均値および最大値は、4mmの移動後から始まりバレルの遠位端部に到達する前10mmで終わる試験範囲内で測定される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】従来技術の医薬容器を示す図である。
図2】従来技術で使用されるストッパを示す図である。
図3A】本発明の実施形態に従って使用されるストッパを示す図である。
図3B】本発明の実施形態に従って使用されるストッパを示す図である。
図4】本発明の実施形態によるストッパを備えた医薬容器を示す図である。
図5】本発明による医薬容器についてのBLGFグラフを示す図である。
図6】105日間の加速エージング後の図5の医薬容器についてのBLGFグラフを示す図である。
図7】本発明による医薬容器についてのBLGFグラフを示す図である。
図8】105日間の加速エージング後の図7の医薬容器についてのBLGFグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
図1には医薬容器1が示されている。この医薬容器は、バレル2とストッパ3とを備える。ストッパ3はバレル2内に摺動可能に配置されている。ストッパ3は、バレル2の内面5に部分的に接触している円周面4を有する。ストッパ3は、プランジャロッド6に接続されている。さらに、医薬容器はフランジ7を特徴として備える。この容器はその遠位端部に注射装置(図示せず)またはキャップ9を取り付けるためのねじ山8を有する。医薬容器は、液体組成物10を収容してよい。液体組成物10は、プランジャロッド6の操作によってバレル2から押し出すことができる。バレル2内へのプランジャロッド6の押し込みは、ストッパ3を出口11の方向へ移動させることになる。ストッパの遠位端部は、出口11の領域でバレルの形状に適合し得る円錐形状を有していてよい。本明細書において「近位」とは、フランジ7により近い箇所を説明するために使用され、一方、「遠位」とは、出口11により近い箇所を示すために使用される。
【0072】
図2には、従来技術のストッパ3が示されている。ストッパは、ストッパの本体13を覆うコーティング11を有する。ストッパは、ストッパの外径が平均外径よりも大きい環状突起12も有する。この図に示されるストッパは、立上りエッジおよび立下りエッジをもつ2つの環状突起を有する。最も近位の環状突起の立上りエッジ15と最も遠位の環状突起の立下りエッジ16とは、バレル(図示せず)の内面に対して同じ角度(X/A=1)に広がっている。ストッパは後続リブ14も有する。ストッパは、後続リブ14の箇所では環状突起12の箇所の外径と比べて小さい外径を有する。ストッパがバレル(図示せず)内で遠位方向に移動するとき、後続リブ14はバレルの内面に触れない。したがって、後続リブは、解放力および滑走力に影響を及ぼし得ないことから本発明による環状突起とは考えられない。
【0073】
図3Aには、本発明によるストッパ3が示されている。ストッパは2つの環状突起12を有し、このストッパが医薬容器のバレル内に配置されているときに、最も近位の環状突起の立上りエッジ15とバレル(図示せず)の内面とは遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジ16とこの内面とは近位方向で角度Aに広がる。比率X/Aは少なくとも1.05である。ストッパ本体13は、プランジャロッド(図示せず)を挿入するための、ねじ山を有する受容部17を備えている。
【0074】
図3Bには、本発明の実施形態によるストッパ3が示されている。このストッパは3つの環状突起12を有し、このストッパが医薬容器のバレル内に配置されているときに、最も近位の環状突起の立上りエッジ15とバレル(図示せず)の内面とは遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジ16とこの内面とは近位方向で角度Aに広がる。比率X/Aは少なくとも1.05である。
【0075】
図4には、本発明の実施形態による医薬容器1が示されている。この医薬容器は、内面5と、バレル2内に摺動可能に配置されたストッパ3と、を有する。ストッパは、2つの環状突起12を有し、最も近位の環状突起の立上りエッジ15とバレル2の内面5とは遠位方向で角度Xに広がり、最も遠位の環状突起の立下りエッジ16と内面5とは近位方向で角度Aに広がる。比率X/Aは少なくとも1.05である。この図には出口11も示されている。
【実施例
【0076】
複数の試験を、ストッパ1~3および国際公開第2018/157097号のストッパの例である比較ストッパ4を有する1ml容量の複数の医薬容器を使用して実施した。試験に使用したすべての容器は、コーティングされていない内面を有するものとした。
【0077】
試験した容器は、注射用の水または純水で満たした。これらの容器は、スイス、CH-6331 ヒューネンベルクにあるTesT AG社製のユニバーサル試験機モデル106,2kNに垂直向きで固定した。ユニバーサル試験機で、0.25Nの初期力に達するまで、20mm/minの速度でストッパを容器内に押し込んだ。その後、ストッパを100mm/minの試験速度で容器内に押し込み、その力を35Nの遮断値に達するまで記録する。
【0078】
【表1】
【0079】
ストッパ1の結果が図5に説明されている。図6には、加速エージング後でも値が依然として優れていることが示されている。
【0080】
ストッパ2の結果が図7に説明されている。図8には、加速エージング後でも値が依然として優れていることが示されている。
【0081】
粗さの値
実施例1~3で使用したバレルの内面の表面粗さの値を得た。その結果を以下の表に示す。すべてのバレルはコーティングしていなかった。
【0082】
【表2】
【0083】
表面粗さの値は、(DIN EN ISO 4288:1998およびDIN EN ISO 3274:1998と合わせて)DIN EN ISO 25178-2:2012、DIN EN ISO 25178-6:2010およびDIN EN ISO 25178-604:2013-12に準拠した白色光干渉計で測定した。
【0084】
染料侵入試験
15個のエージングしたサンプルと15個のエージングしていないサンプルとのセットに対して、染料侵入試験を実施した。試験条件は以下のとおりとした。
【0085】
試験サンプルの準備
試験すべきシリンジは、それらの先端を閉じた後、公称容量まで水で満たす。次に、プランジャストッパを、シリンジ内に2~5mmの空気を残して慎重に挿入する。封止突起の間にすでに液体が入ってしまっているシリンジは、試験から除外する。
【0086】
試験手順
デシケータをフルオレセインナトリウム塩溶液で満たし、準備したシリンジをこの溶液に入れる。次に、シリンジが溶液に完全に浸されていることを確認するために、シリンジを穴の開いた蓋で覆う。その後、デシケータを閉じて、真空ポンプ(例えば、スイス、CH-8484 タイリンゲンにあるVacuubrand GmbH&Co. KG社製の型式PC2001 Vario[ブランド番号29951114-299512]など)に接続する。デシケータを、大気圧より270mbar低い圧力で30分間保持する。その後、デシケータを大気圧まで排気し、シリンジを溶液中にさらに30分間放置する。最後に、シリンジを溶液から取り出し、水で慎重にすすぎ、リントフリー布で乾燥させ、UV光の下で目視的に検査する。目視検査の結果は、合格または不合格として記録する。故障の場合、漏れの位置も詳細に記録する。
【0087】
【表3】
【0088】
これらの結果は、本発明の医薬容器が、105日間の加速エージング後であっても、ストッパとバレルの内面との密封を提供することを示している。
【0089】
軸線方向圧縮
15個のエージングしたサンプルと15個のエージングしていないサンプルとのセットに対して軸線方向圧縮試験を実施した。試験条件は以下のとおりとした。試験すべきシリンジを水で満たし、閉鎖し、スイス、CH-6331 ヒューネンベルクにあるTesT AG社製のユニバーサル試験機モデル106,2kNに垂直向きで固定した。ユニバーサル試験機で、プランジャに2.5barの圧力を30秒間加えた。その後、シリンジを、封止突起間に形成された水滴について目視的に検査し、その結果を合格または不合格として記録した。
【0090】
【表4】
【0091】
これらの結果は、本発明の医薬容器が、105日間の加速エージング後であっても、軸線方向圧縮試験に合格することを示している。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8