IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】農業機械
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241209BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20241209BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20241209BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/00 303A
B62D6/00
G05D1/43
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020065146
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163268
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-06-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森本 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐介
(72)【発明者】
【氏名】南方 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】中口 幹太
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/003561(WO,A1)
【文献】特開2010-200674(JP,A)
【文献】特開2018-50491(JP,A)
【文献】特開2020-18236(JP,A)
【文献】特開2002-67990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
A01B 69/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な車体と、
操作された場合に前記車体の自動走行の開始を指令する走行スイッチと、
前記車体の位置を検出する位置検出装置と、
前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令された場合に、走行予定ラインに基づいて前記車体を走行させながら、前記位置検出装置により検出された前記車体の位置が前記走行予定ラインに一致するように、前記車体の操舵を制御する前記自動走行を行う自動走行制御部と、
を備え、
前記走行予定ラインは、前記車体に装着された作業装置により圃場で作業を行うために前記車体を直進させる複数の直進部と、前記車体を旋回させる旋回部とを含み、
前記自動走行制御部は、前記走行予定ラインに基づく前記自動走行の中断後に、作業者により複数の前記直進部のうちのいずれかが前記自動走行を再開する位置として選択され且つ当該選択されたいずれかの前記直進部である選択直進部の周囲に前記車体が手動操作で移動してから、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令された場合、前記選択直進部と前記車体の位置との位置偏差及び前記選択直進部の方位と前記車体の方位との方位偏差のうちの少なくともいずれかが対応する第1閾値以上であり且つ、前記位置偏差及び前記方位偏差が前記第1閾値よりも大きい対応する第2閾値以下であれば、前記車体の切り返しを行って前記位置偏差及び前記方位偏差を前記第1閾値未満にするライン合わせを実行してから、前記自動走行を開始し、
前記自動走行制御部は、前記ライン合わせにおいて、前記車体を前進させて前記選択直進部に近づくように操舵した後に、前記車体を後進させながら操舵することによって前記方位偏差が前記第1閾値未満になるように調整することを1回とする前記切り返しを1回以上行い、
前記自動走行制御部は、前記位置偏差及び前記方位偏差のうちの少なくともいずれかが対応する前記第2閾値よりも大きければ、前記ライン合わせを実行せず、前記自動走行を開始しない農業機械。
【請求項2】
記自動走行制御部は、前記ライン合わせを行うことで、前記位置偏差及び前記方位偏差をゼロより大きい前記第1閾値未満にする請求項1に記載の農業機械。
【請求項3】
前記自動走行制御部は、前記ライン合わせにおいて、前記車体の前記切り返しを複数回行い、前記切り返しの回数が予め定められた回数以上となった場合には、前記自動走行を開始する請求項1又は2に記載の農業機械。
【請求項4】
前記自動走行制御部は、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令されたときの前記車体の位置である車体位置と、前記車体の進行方向における前記選択直進部の端部との距離が予め定められた距離よりも短い場合には、前記ライン合わせを実行しない請求項1~3のいずれかに記載の農業機械。
【請求項5】
前記車体に装着された作業装置の種類を示す装置情報を取得する装置取得部を備え、
前記自動走行制御部は、前記装置取得部が取得した前記装置情報で示される作業装置の種類が予め定められた作業装置である場合には、前記ライン合わせを実行しない請求項1~4のいずれかに記載の農業機械。
【請求項6】
前記自動走行制御部は、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令されたときに、前記位置検出装置により検出された前記車体の位置である車体位置が前記走行予定ラインに定められた開始位置である場合、前記開始位置の周囲で前記車体を前進及び後進させて、前記ライン合わせを実行してから、前記自動走行を開始する請求項1~5のいずれかに記載の農業機械。
【請求項7】
前記作業装置により行う前記作業の精度を選択する入力部を備え、
前記自動走行制御部は、前記入力部により選択された前記作業の精度が高くなるほど、前記第1閾値を小さく設定する請求項1~6のいずれかに記載の農業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トラクタ、コンバイン、田植機等の農業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動走行を行う農業機械として、特許文献1に開示された農業機械が知られている。特許文献1に開示の農業機械(農用作業車)は、自車位置を算定する自車位置算定部と、自車の走行方位を算定する自車方位算定部と、目標走行経路に対する自車の横方向の位置ずれである位置偏差を演算する位置偏差演算部と、目標走行経路の方位線と走行方位との間の方位偏差を演算する方位偏差演算部と、位置偏差と目標位置偏差とを入力パラメータとして第1操舵値を出力する第1制御演算部と、方位偏差と目標方位偏差と位置偏差とを入力パラメータとして第2操舵値を出力する第2制御演算部と、第1操舵値と前記第2操舵値とに基づいて目標走行経路に沿って走行するための目標操舵値を出力する目標操舵演算部と、目標操舵値を入力として操舵駆動信号を出力する操舵駆動制御部と、操舵駆動信号に基づいて操向輪の操舵を行う操舵駆動部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-38535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の農業機械にあっては、位置偏差及び方位偏差によって目標走行経路に沿って農業機械を走行させることができる。しかしながら、特許文献1の農業機械では、自動走行を中断して、目標走行経路からトラクタを離脱させた後に、再び目標走行経路に農業機械を戻した後、スムーズに自動走行に移行することが困難であった。
本発明は、このような実情に鑑みて、少なくとも走行予定ラインから離れた車体を走行予定ラインに近づけた後に自動走行を行う場合に、スムーズに自動走行へ移行することができる農業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の農業機械は、走行可能な車体と、操作された場合に前記車体の自動走行の開始を指令する走行スイッチと、前記車体の位置を検出する位置検出装置と、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令された場合に、走行予定ラインに基づいて前記車体を走行させながら、前記位置検出装置により検出された前記車体の位置が前記走行予定ラインに一致するように、前記車体の操舵を制御する前記自動走行を行う自動走行制御部と、を備え、前記走行予定ラインは、前記車体に装着された作業装置により圃場で作業を行うために前記車体を直進させる複数の直進部と、前記車体を旋回させる旋回部とを含み、前記自動走行制御部は、前記走行予定ラインに基づく前記自動走行の中断後に、作業者により複数の前記直進部のうちのいずれかが前記自動走行を再開する位置として選択され且つ当該選択されたいずれかの前記直進部である選択直進部の周囲に前記車体が手動操作で移動してから、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令された場合、前記選択直進部と前記車体の位置との位置偏差及び前記選択直進部の方位と前記車体の方位との方位偏差のうちの少なくともいずれかが対応する第1閾値以上であり且つ、前記位置偏差及び前記方位偏差が前記第1閾値よりも大きい対応する第2閾値以下であれば、前記車体の切り返しを行って前記位置偏差及び前記方位偏差を前記第1閾値未満にするライン合わせを実行してから、前記自動走行を開始し、前記自動走行制御部は、前記ライン合わせにおいて、前記車体を前進させて前記選択直進部に近づくように操舵した後に、前記車体を後進させながら操舵することによって前記方位偏差が前記第1閾値未満になるように調整することを1回とする前記切り返しを1回以上行い、前記自動走行制御部は、前記位置偏差及び前記方位偏差のうちの少なくともいずれかが対応する前記第2閾値よりも大きければ、前記ライン合わせを実行せず、前記自動走行を開始しない
【0006】
本発明の一態様では、前記自動走行制御部は、前記ライン合わせを行うことで、前記位置偏差及び前記方位偏差をゼロより大きい前記第1閾値未満にする。
【0007】
また、本発明の一態様では、前記自動走行制御部は、前記ライン合わせにおいて、前記車体前記切り返しを複数回行い、前記切り返しの回数が予め定められた回数以上となった場合には、前記自動走行を開始する。
また、本発明の一態様では、前記自動走行制御部は、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令されたときの前記車体の位置である車体位置と、前記車体の進行方向における前記選択直進部の端部との距離が予め定められた距離よりも短い場合には前記ライン合わせを実行しない。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記農業機械は、前記車体に装着された作業装置の種類を示す装置情報を取得する装置取得部を備え、前記自動走行制御部は、前記装置取得部が取得した前記装置情報で示される作業装置の種類が予め定められた作業装置である場合には、前記ライン合わせを実行しない。
また、本発明の一態様では、前記自動走行制御部は、前記走行スイッチにより前記自動走行の開始が指令されたときに、前記位置検出装置により検出された前記車体の位置である車体位置が前記走行予定ラインに定められた開始位置である場合、前記開始位置の周囲で前記車体を前進及び後進させて、前記ライン合わせを実行してから、前記自動走行を開始する。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記農業機械は、前記作業装置により行う前記作業の精度を選択する入力部を備え、前記自動走行制御部は、前記入力部により選択された前記作業の精度が高くなるほど、前記第1閾値を小さく設定する
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少なくとも走行予定ラインから離れた車体を走行予定ラインに近づけた後に自動走行を行う場合に、スムーズに自動走行へ移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トラクタの全体平面図である。
図2】トラクタの全体側面図である。
図3】トラクタの前部の拡大側面図である。
図4】障害物検出装置が検出位置である場合のトラクタの正面図である。
図5】障害物検出装置が退避位置である場合のトラクタの正面図である。
図6】トラクタの制御系のブロック図である。
図7】障害物検出装置を検出位置としてカバーを仮想線で示した平面図である。
図8】障害物検出装置が検出位置である場合のトラクタの前部の側面図である。
図9】カバー本体から分離カバーを取り外した状態の斜視図である。
図10】作成画面M1の一例を示す図である。
図11】運転画面M5の一例を示す図である。
図12A】自動走行開始前の一例を示す図である。
図12B】自動走行中の一例を示す図である。
図12C】自動走行を中断後に、手動走行を行った一例を示す図である。
図12D】ライン合わせの一例を示す図である。
図12E】直進部が折れ曲がっている状態を示す図である。
図12F】走行予定ラインの途中から自動走行を開始した場合の一例を示す図である。
図13】自動走行の動作を示すフローである。
図14】設定画面M6の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1図2は本発明に係る農業機械1の一実施形態を示している。本実施形態では、農業機械1がトラクタ1であるとして説明する。但し、農業機械1は、トラクタの他、コンバイン、田植機等の他の農業機械(農業車両)であってもよい。
以下、説明の便宜上、図1図2の矢印A1の方向を前方、矢印A2の方向を後方、矢印B1の方向を左方、矢印B2の方向を右方、矢印Dの方向を車体幅方向(又は幅方向)という。また、車体幅方向であって車体幅方向の中心から離れる方向(矢印D1方向)を車体幅方向外方(又は外方)、車体幅方向であって車体幅方向の中心に近づく方向(矢印D2方向)を車体幅方向内方(又は内方)という。
【0013】
<トラクタ>
図1図2に示すように、トラクタ1は、車体3と、原動機4と、変速装置5とを備えている。車体3には、走行装置7が設けられている。走行装置7は、車体3を走行可能に支持しており、前輪7F及び後輪7Rを有している。前輪7F及び後輪7Rは、本実施形態の場合はタイヤ型であるが、クローラ型であってもよい。原動機4は、エンジン(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン)、電動モータ等である。変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切り換え可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切り換えが可能である。車体3には運転席10が設けられている。運転席10は、保護装置9により保護されている。本実施形態の場合、保護装置9は、運転席10の前方、後方、上方及び側方を取り囲むことにより運転席10を保護するキャビンであるが、少なくとも運転席10の上方を覆うことにより運転席10を保護するロプス等であってもよい。保護装置9の下方には、フェンダ13が取り付けられており、フェンダ13は後輪7Rの上部を覆っている。
【0014】
車体3の後部には、3点リンク機構等で構成された連結部(図示略)が設けられている。連結部には、作業装置(インプルメント等)2を着脱可能に連結することができる。作業装置2を連結部に連結することによって、車体3によって作業装置2を牽引することができる。作業装置2は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。
【0015】
車体3は、車体フレーム20を有している。図1に示すように、車体フレーム20は、左側に設けられた車体フレーム20Lと、右側に設けられた車体フレーム20Rとを含む。車体フレーム20L及び車体フレーム20Rは、それぞれは変速装置5側から前方に延設されていて、原動機4の下部を支持している。車体フレーム20Lと車体フレーム20Rとは車体幅方向に離間している。車体フレーム20Lの前端部と車体フレーム20Rの前端部とは、前連結板20Fにより連結されている。車体フレーム20Lの中途部と車体フレーム20Rの中途部とは、中途連結板20Mにより連結されている。車体フレーム20L及び車体フレーム20Rは、前車軸ケース29を支持している。前車軸ケース29内には、前輪7Fを回転自在に支持する前車軸15(図6参照)が収容されている。つまり、本実施形態の場合、車体フレーム20は、前車軸15を支持する前車軸フレームである。なお、車体フレーム20は、前車軸ケース29以外の構造体を支持するフレーム(前車軸フレーム以外のフレーム)であってもよい。
【0016】
図1図3に示すように、車体フレーム20の上方にはボンネット25が設けられている。ボンネット25は、車体フレーム20に沿って前後方向に延設されている。ボンネット25は、保護装置9の幅方向の中央部の前方に配置されている。ボンネット25は、左側に設けられた左側壁25Lと、右側に設けられた右側壁25Rと、左側壁25Lと右側壁25Rとの上部を連結する上壁部25Uとを有している。左側壁25L、右側壁25R及び上壁部25Uによってエンジンルームが形成され、エンジンルームに原動機4、冷却ファン、ラジエータ、バッテリ等が収容されている。左側壁25Lの左側方と右側壁25Rの右側方には、それぞれ前輪7Fが配置されている。
【0017】
ボンネット25の前側、即ち、車体フレーム20L、20Rの前側には、ウエイト26が設けられている。ウエイト26は、車体3の前部に設けられたウエイトブラケット(ウエイト取付部)27に取り付けられている。ウエイトブラケット27は、車体フレーム20Lの前連結板20Fにボルト等の締結具により取り付けられている。ウエイト26の周囲は、ウエイトカバー100により覆われている。
【0018】
図6に示すように、トラクタ1は、操舵装置11を備えている。操舵装置11は、ハンドル(ステアリングホイール)11aと、ハンドル11aの回転に伴って回転する回転軸(操舵軸)11bと、ハンドル11aの操舵を補助する補助機構(パワーステアリング機構)11cと、を有している。補助機構11cは、油圧ポンプ21と、油圧ポンプ21から吐出した作動油が供給される制御弁22と、制御弁22により作動するステアリングシリンダ23とを含む。制御弁22は、制御信号に基づいて作動する電磁弁である。制御弁22は、例えば、スプール等の移動によって切り換え可能な3位置切換弁である。また、制御弁22は、操舵軸11bの操舵によっても切り換え可能である。ステアリングシリンダ23は、前輪7Fの向きを変えるアーム(ナックルアーム)24に接続されている。
【0019】
したがって、ハンドル11aを操作すれば、ハンドル11aに応じて制御弁22の切換位置及び開度が切り換わり、制御弁22の切換位置及び開度に応じてステアリングシリンダ23が左又は右に伸縮することによって、前輪7Fの操舵方向を変更することができる。なお、上述した操舵装置11は一例であり、操舵装置11の構成は上述した構成に限定されない。
【0020】
<位置検出装置>
図1図2に示すように、トラクタ1は、位置検出装置30を備えている。位置検出装置30は、保護装置9の天板の前方に装着体31を介して装着されている。但し、位置検出装置30の装着位置は、図示の位置には限定されず、保護装置9の天板上に装着してもよいし、車体3の別の場所に装着してもよい。また、位置検出装置30は、上述した耕耘装置等の作業装置2に装着されていてもよい。
位置検出装置30は、衛星測位システムによって自己の位置(緯度、経度を含む測位情報)を検出する装置である。即ち、位置検出装置30は、測位衛星から送信された信号(測位衛星の位置、送信時刻、補正情報等)を受信し、受信した信号に基づいて位置(緯度、経度)を検出する。位置検出装置30は、測位衛星からの信号を受信可能な基地局(基準局)からの補正等の信号に基づいて補正した位置を、自己の位置(緯度、経度)として検出してもよい。また、位置検出装置30がジャイロセンサや加速度センサ等の慣性計測装置を有し、慣性計測装置によって補正した位置を、自己の位置として検出してもよい。位置検出装置30によって、トラクタ1の車体3の位置(走行位置)を検出することができる。
【0021】
<障害物検出装置>
図1に示すように、トラクタ1は、複数の障害物検出装置45を備えている。複数の障害物検出装置45のそれぞれは、トラクタ1の周囲に存在する物体、即ち、障害物を検出可能である。複数の障害物検出装置45のうち、少なくとも1つは、保護装置9の前方で且つボンネット25の外方に設けられている。即ち、少なくとも1つの障害物検出装置45は、トラクタ1の保護装置9の前方の領域において、ボンネット25の左側壁25Lよりも左側の領域、或いは、ボンネット25の右側壁25Rよりも右側の領域に配置されている。本実施形態の場合、複数の障害物検出装置45は、車体3の左側(ボンネット25の左側)に設けられた障害物検出装置45Lと、車体3の右側(ボンネット25の右側)に設けられた障害物検出装置45Rとを含む。
【0022】
また、障害物検出装置45は、前輪7Fの前方であって且つ前輪7Fよりも外方に設けられている。障害物検出装置45Lは、左側の前輪7Fの前方であって且つ左側の前輪7よりも外方(左方)に設けられている。障害物検出装置45Rは、右側の前輪7Fの前方であって且つ右側の前輪7Fよりも外方(右方)に設けられている。言い換えれば、障害物検出装置45Lは左側の前輪7Fの左前方に設けられており、障害物検出装置45Rは、右側の前輪7Fの右前方に設けられている
障害物検出装置45は、レーザスキャナ45A、ソナー45B等である。レーザスキャナ45Aは、検出波としてレーザを照射することによって物体(障害物)を検出する。レーザスキャナ45Aは、レーザの照射から受光までの時間に基づいて障害物までの距離を検出する。図9に示すように、レーザスキャナ45Aは、投受光部45A1と収容体45A2とを含んでいる。投受光部45A1は、レーザを照射し且つ、照射したレーザが障害物に当たって反射したレーザ(反射光)を受光する。つまり、投受光部45A1は、レーザ(検出波)を照射する照射部と、障害物に当たって反射したレーザ(検出波)を受信する受信部とを含んでいる。収容体45A2は、投受光部45A1を収容して支持するケースである。収容体45A2は、投受光部45A1の上方に配置された上部体45A3と、投受光部45A1の下方に配置された下部体45A4とを有している。上部体45A3と下部体45A4との間、即ち投受光部45A1の周囲は、全部又は一部が開放されており、レーザ(検出波)が通過可能である。
【0023】
ソナー45Bは、検出波として音波を照射することによって物体(障害物)を検出する。図9に示すように、ソナー45Bは、投受音部45B1と収容体45B2とを含んでいる。投受音部45B1は、音波を照射し且つ、当該照射した音波が障害物に当たって反射した反射音を受ける。つまり、投受音部45B1は、音波(検出波)を照射する照射部と、障害物に当たって反射した音波(検出波)を受信する受信部とを含んでいる。収容体45B2は、投受音部45B1を収容して支持するケースである。ソナー45Bは、音波の照射から反射音の受音までの時間に基づいて、障害物までの距離を検出する。
【0024】
図1に示すように、レーザスキャナ45A及びソナー45Bは、前輪7Fの前方であって、前輪7Fよりも外方に配置されている。より詳しくは、レーザスキャナ45A及びソナー45Bは、少なくとも受信部(投受光部45A1、投受音部45B1)が前輪7Fの前方且つ前輪7Fよりも外方に配置されている。
図4に示すように、レーザスキャナ45A及びソナー45Bは、ボンネット25の上壁部25Uよりも下方であって、前輪7Fの上端部よりも低い位置に設置されている。そのため、レーザスキャナ45Aの投受光部45A1及びソナー45Bの投受音部45B1も、ボンネット25の上壁部25Uよりも下方であって、前輪7Fの上端部よりも低い位置に設置されている。また、レーザスキャナ45A(投受光部45A1)及びソナー45B(投受音部45B1)は、前輪7Fの上端部よりも下方であって且つ前車軸15よりも上方に位置している。
【0025】
図1図4に示すように、レーザスキャナ45Aは、ソナー45Bよりも外方に配置されている。具体的には、図1に示すように、レーザスキャナ45A(投受光部45A1)は、前輪7Fが車体3を直進させる位置にある状態(ハンドル11aが切られていない状態)において、前輪7Fの幅方向外端から前輪7Fの幅(トレッド幅)W1の分だけ外方に位置する仮想線X1よりも更に外方に配置されている。ソナー45Bは、仮想線X1よりも内方に配置されている。
【0026】
図7に示すように、障害物検出装置45は、支持部材50によって車体3に支持されている。支持部材50は、障害物検出装置45を検出位置(図4)と退避位置(図5)とに位置変更可能である。支持部材50は、障害物検出装置45を車体3の左方に支持する支持部材50Lと、障害物検出装置45を車体3の右方に支持する支持部材50Rとを含む。支持部材50Lと支持部材50Rとは、車体幅方向の中心線CL1を挟んで対称形である点以外は同じ構成である。支持部材50は、車体フレーム(前車軸フレーム)20側から外方に延びている。具体的には、支持部材50Lは、車体フレーム20Lから左方に延びている。支持部材50Rは、車体フレーム20Rから右方に延びている。これにより、障害物検出装置45は、前輪7Fの前方に位置していて、車体3の側方及び前方の障害物を検出可能である。
【0027】
<制御装置、表示装置>
図6に示すように、トラクタ1は、制御装置40と表示装置80とを備えている。制御装置40は、CPU、電気回路、電子回路等で構成されていて、トラクタ1の様々な制御を行う。表示装置80は、液晶パネル、有機ELパネル等を有していて様々な情報を表示する。
制御装置40には、トラクタ1の駆動状態等を検出する状態検出装置41と、イグニッションスイッチ42とが接続されている。
状態検出装置41は、例えば、走行系の状態を検出する装置等であって、例えば、クランクセンサ、カムセンサ、エンジン回転センサ、アクセルセンサ、車速センサ、操舵角センサ、位置検出装置30)等の状態を検出する。なお、状態検出装置41は、走行系の状態以外を検出する装置、例えば、昇降レバー検出センサ、PTO回転検出センサ等であってもよい。
【0028】
イグニッションスイッチ42は、運転席10の周囲に設置され、作業者が操作可能なスイッチである。イグニッションスイッチ42は、ON/OFFに切り換え可能なスイッチであって、ONにすると原動機4が駆動し、OFFにすると原動機4の駆動が停止する。なお、イグニッションスイッチ42において、電装品への電力の供給を行うためのアクセサリスイッチを含んでいてもよく、この場合には、イグニッションスイッチ42は、原動機4を駆動する第1のONの位置と、電動品に電力を供給する第2のONの位置と、OFFの位置とに切り換え可能となる。
【0029】
<自動走行>
制御装置40は、トラクタ1における走行系の制御、作業系の制御を行う。制御装置40は、例えば、状態検出装置41が検出した検出状態に基づいてエンジン回転数、車速、操舵装置11の操舵角等を制御する。また、制御装置40は、状態検出装置41が検出した検出状態に基づいて、自動走行の制御を行う。具体的には、制御装置40は、自動走行制御部40Aを備えている。自動走行制御部40Aは、制御装置40に設けられた電気電子回路、制御装置40に格納されたプログラム等から構成されている。
【0030】
自動走行を行うにあたっては、図10に示すように、表示装置80等を用いて、走行ルート(走行予定ライン)L1を作成する。まず、走行予定ラインL1の作成について説明する。
図10に示すように、作業者等が表示装置80に対して所定の操作を行うと、当該表示装置80は、走行予定ラインL1を作成する作成画面M1を表示する。例えば、作成画面M1の圃場入力部86に所定の圃場名を入力すると、表示装置80は、当該圃場入力部86に入力された圃場マップ(圃場マップMP2)、即ち、圃場入力部86に入力された圃場H1のマップが圃場マップMP2として作成画面M1に表示される。また、作業者等が表示装置80に対して所定の操作を行うと、圃場マップMP2上に車体3の走行ルート(走行予定ライン)L1を作成することができる。走行予定ラインL1の作成においては、例えば、圃場マップMP2内に、走行予定ラインL1として直進を示す直進部Lan(n=1,2,3・・・n)と、旋回を示す旋回部Lbn(n=1,2,3・・・n)とを作成することができる。例えば、作成画面M1において、作業幅入力部87aに作業幅W1が入力され、ラップ幅入力部87bにラップ幅W2が入力されると、表示装置80は、直進部Lanの間隔K1(K1=W1-2×W2)を演算し、圃場H1内に間隔K1毎に複数の直進部Lanを設定する。また、複数の直進部Lanが選択されると、表示装置80は、複数の直進部Lanのうち、隣接する直進部Lanの端部を結ぶ旋回部Lbnを設定する。なお、直進部Lanの本数等は、任意に設定することができる。
【0031】
また、作成画面M1に表示された走行予定ラインL1上において所定の位置を、ポインタ88で選択すると、表示装置80は、選択した所定の位置を、開始位置P1又は終了位置P2に設定する。つまり、表示装置80では、圃場H1内において、自動走行を行うための、走行予定ラインL1(複数の直進部Lan、複数の旋回部Lbn、開始位置P1、終了位置P2)を設定(作成)することが可能である。なお、サーバ等の外部機器で作成した走行予定ラインL1をトラクタ1で取得して表示装置80に表示してもよい。
【0032】
自動走行制御部40Aは、走行予定ラインL1の作成が完了し且つ、自動走行の開始の指令が行われると、自動走行の制御(自動走行制御)を実行する。図6に示すように、自動走行の開始の指令は、走行スイッチ85により行う。
走行スイッチ85は、操作された場合に車体3の自動走行の開始を指令するスイッチである。走行スイッチ85は、遠隔の操作によって開始の指令(開始指令)を行うことができる機能を有する端末(携帯端末、タブレット等)85a、トラクタ1の運転席等の周辺に設置されて作業者の操作によって開始指令を行う第1操作スイッチ85b、表示装置80に表示されたシンボルマークの選択によって開始指令を行う第2操作スイッチ85cなどである。走行スイッチ85は、操作された場合に車体3の自動走行の中断、終了を指令することが可能なスイッチであってもよい。
【0033】
自動走行制御部40Aは、自動走行制御において、少なくとも車体3の走行位置(位置検出装置30で検出された位置)と、予め設定された走行ルート(走行経路)が一致するように、即ち、車体3と走行予定ラインL1とが一致するように、制御弁22の切換位置及び開度を設定する。言い換えれば、制御装置40は、トラクタ1の走行位置と走行予定ラインL1とが一致するように、ステアリングシリンダ23の移動方向及び移動量(前輪7Fの操舵方向及び操舵角)を設定する。
【0034】
詳しくは、自動走行制御部40Aは、車体3の走行位置と、走行予定ラインL1で示された位置(走行予定位置)とを比較し、走行位置と走行予定位置とが一致している場合は、操舵装置11におけるハンドル11aの操舵角及び操舵方向(前輪7Fの操舵角及び操舵方向)を変更せずに保持する(制御弁22の開度及び切換位置を変更せずに維持する)。自動走行制御部40Aは、走行位置と走行予定位置とが一致していない場合、当該走行位置と走行予定位置との偏差(ズレ量)が零となるように、操舵装置11におけるハンドル11aの操舵角及び/又は操舵方向を変更する(制御弁22の開度及び/又は切換位置を変更する)。
【0035】
なお、上述した実施形態では、自動走行制御部40Aは、自動走行制御において、走行位置と走行予定位置との偏差に基づいて操舵装置11の操舵角を変更するものであるが、走行予定ラインL1の方位とトラクタ1(車体3)の進行方向(走行方向)の方位(車体方位)とが異なる場合、自動走行制御部40Aは、車体方位が走行予定ラインL1の方位に一致するように操舵角を設定してもよい。また、自動走行制御部40Aは、自動走行制御において、偏差(位置偏差)に基づいて求めた操舵角と、方位偏差に基づいて求めた操舵角とに基づいて、自動走行制御における最終の操舵角を設定してもよい。また、上記した自動走行制御における操舵角の設定方法とは異なる方法で操舵角を設定してもよい。
【0036】
また、自動走行制御部40Aは、自動走行制御において、トラクタ1(車体3)の実際の車速が、予め設定された走行予定ラインL1に対応する車速に一致するように、走行装置7、即ち、前輪7F及び/又は後輪7Rの回転数を制御してもよい。
また、自動走行制御部40Aは、障害物検出装置45による障害物の検出結果に基づいて自動走行を制御する。例えば、障害物検出装置45が障害物を検出していない場合は自動走行を継続して行い、障害物検出装置45が障害物を検出した場合に自動走行を停止する。より具体的には、障害物検出装置45が障害物を検出した場合に、自動走行制御部40Aは、障害物とトラクタ1との距離が予め定められた閾値(停止閾値)以下である場合に、トラクタ1の走行を停止することで自動走行を停止する。
【0037】
また、自動走行制御部40Aは、自動走行時において着座検出装置43が着座していると検出している場合は自動走行を継続し且つ、着座検出装置43が着座していないと検出した場合は自動走行を停止する。
図11に示すように、自動走行時(自動走行中)には、表示装置80は、運転画面M5を表示する。運転画面M5では、トラクタ1(車体3)を示す図形G1と、走行予定ラインL1とを表示する。
【0038】
図12Aに示すように、圃場H1において無人で自動走行を行うためには、まず、作業者がトラクタ1に乗車し、手動操作(手動走行)でトラクタ1(車体3)を開始位置P1に向けて移動させ、トラクタ1(車体3)が開始位置P1に達すると、作業者はトラクタ1から降車する(S1)。開始位置P1において、走行開始条件を満たした状態で降車した作業者等が走行スイッチ85を操作することにより、開始指令が制御装置40(自動走行制御部40A)に入力されると、自動走行制御部40Aは、自動走行を開始する(S2)。
【0039】
走行開始条件とは、現在のトラクタ1(車体3)の位置等が、自動走行を開始するのに適しているかを判断するための条件である。図12Aに示すように、トラクタ1(車体3)における所定の位置(基準点)P10と、走行予定ラインL1との位置偏差ΔJ1が閾値J10以下(例えば、5m以下)で且つ、トラクタ1(車体3)の車体方位F1と走行予定ラインL1の方位F2との方位偏差ΔF3が閾値F10以下(例えば、20°(deg)以下)である場合に、制御装置40(自動走行制御部40A)は、走行開始条件が満たされていると判断し、位置偏差ΔJ1が閾値J10超(例えば、5m超)、又は、方位偏差ΔF3が閾値F10超(例えば、20°(deg)超)場合は、走行開始条件が満たされていないと判断する。
【0040】
なお、図12Aに示すように、走行開始条件を判断する位置偏差ΔJ1は、トラクタ1(車体3)の進行方向(車体方位F2)において、トラクタ1(車体3)と走行予定ラインL1との距離のことであり、トラクタ1(車体3)の前端である基準点P10を中心として、円弧の範囲(中心角20°deg)A10で示される。つまり、基準点P10から半径5mの円弧を描いたときに、円弧の範囲A10内に走行予定ラインL1が入っている場合、制御装置40(自動走行制御部40A)は、位置偏差ΔJ1が5m以下であると判断する。基準点P10は、位置検出装置30で検出された走行位置にトラクタ1の前端までの距離を加減算することにより求めることができる。
【0041】
図12Bに示すように、自動走行の開始後は、自動走行制御部40Aは、トラクタ1(車体3)の走行位置P20と、走行予定ラインL1との幅方向における位置偏差ΔJ5とが閾値以下となるように、操舵及び車速の調整を行う。また、自動走行制御部40Aは、トラクタ1(車体3)の車体方位F1と走行予定ラインL1との方位F2との方位偏差ΔF3が閾値以下となるように、操舵角及び車速の設定(調整)を行う。
【0042】
さて、自動走行中において、走行スイッチ85を操作することにより、自動走行を中断することができる。図12Cに示すように、自動走行を中断後、作業者がトラクタ1に乗車した後、手動走行でトラクタ1を別の場所に移動させることが可能である。例えば、図12Cの軌跡KG1に示すように、3本目の直進部La3の途中の位置P30にて自動走行を中断した後、当該位置P30から別の場所に移動することができる。ここで、自動走行を再開する場合、再開する場所、即ち、走行予定ラインL1の任意の位置を選択する。具体的には、図11に示すように、作業者は、表示装置80に表示された複数の直進部Lanのうち、自動走行の再開をしたい所定の直進部Lanを選択する。選択された所定の直進部Lan(選択直進部)Lanに向けては、作業者が手動走行で運転して、選択直進部Lanの周囲にトラクタ1(車体3)を移動させ、選択直進部Lanの周囲にトラクタ1(車体3)が達すると、作業者はトラクタ1を停止して降車する。
【0043】
例えば、図12Cに示すように、トラクタ1を停止して降車した位置(停止降車位置)P31に位置している状況下において、作業者が走行スイッチ85を操作して開始指令を行うと、自動走行制御部40Aは、走行開始条件を満たしているか否かを判断する。例えば、選択直進部Lanが4番目の直進部La4である場合、自動走行制御部40Aは、停止降車位置P31と直進部La4との位置偏差ΔJ1が閾値J10以下(例えば、5m以下)で且つ方位偏差ΔF3が閾値F10以下(例えば、20°(deg)以下)であるため、走行開始条件を満たしていると判断する。一方、選択直進部Lanが6番目の直進部La6である場合、自動走行制御部40Aは、停止降車位置P31と直進部La6との位置偏差ΔJ1が閾値J10超(例えば、5m超)で且つ方位偏差ΔF3が閾値F10以下(例えば、20°(deg)以下)であるため、走行開始条件を満たしていないと判断する。
【0044】
以下、説明の便宜上、選択直進部Lanが4番目の直進部La4であるとして説明を進める。4番目の直進部La4のことを選択直進部La4という。
自動走行制御部40Aは、トラクタ1が停止降車位置P31であるときに、選択直進部La4に対して走行開始条件を満たしている場合、ライン合わせ条件を満たしているか否かを判断する。ライン合わせ条件とは、走行開始条件とは異なり、自動走行を行うに際してトラクタ1(車体3)をラインに合わせることを行うか否かを判断するための条件である。
【0045】
図12Cに示すように、例えば、手動走行によってトラクタ1(車体3)を停止させた停止降車位置P31において、自動走行制御部40Aは、トラクタ1(車体3)の停止降車位置P31と、選択された走行予定ラインL1である選択直進部La4との位置偏差ΔJ5が閾値J11未満(例えば、0.1m未満)であり、且つ、選択直進部La4の方位と車体方位F1とが閾値F11未満(例えば、7°(deg)未満)である場合、ライン合わせ条件を満たしていないと判断する。一方、自動走行制御部40Aは、トラクタ1(車体3)の停止降車位置P31と、選択直進部La4との位置偏差ΔJ5が閾値J11以上、又は、選択直進部La4の方位と車体方位F1とが閾値F11以上(例えば、7°(deg)以上)である場合、ライン合わせ条件は満たしていると判断する。
【0046】
つまり、自動走行制御部40Aは、走行開始の指令が行われた際に、選択された走行予定ラインL1と車体3との位置偏差ΔJ5及び走行予定ラインL1と車体方位F1との方位偏差ΔF3が第1閾値以上(閾値J11以上、閾値F11以上)である場合、位置偏差ΔJ5及び方位偏差ΔF3を第1閾値未満(閾値J11未満、閾値F11未満)にするライン合わせを実行する。なお、ライン合わせ条件の第1閾値(閾値J11、閾値F11)は、走行開始条件の第2閾値(閾値J10、閾値F10)よりも小さい。言い換えれば、
走行開始条件の第2閾値(閾値J10、閾値F10)は、ライン合わせ条件の第1閾値(閾値J11、閾値F11)よりも大きい。
【0047】
図12Dに示すように、ライン合わせを行う場合、自動走行制御部40Aは、車体3を前進させた後(S10)、車体3を後進させる切り返しを行う(S11)。図12Dに示すように、例えば、車体3が選択直進部La4に対して左側にシフトしている場合は、自動走行制御部40Aは、前進時に車体3が選択直進部La4に近づくように右側へ操舵する。一方、車体3が選択直進部La4に対して右側にシフトしている場合は、自動走行制御部40Aは、前進時に車体3が選択直進部La4に近づくように左側へ操舵する。
【0048】
また、ライン合わせにおいて、自動走行制御部40Aは、前進後の後進時に前輪7Fを操舵することによって、方位偏差ΔF3を第1閾値未満(閾値F11未満)になるように調整する。
なお、図12Dに示すように、自動走行制御部40Aは、停止降車位置P31にて走行スイッチ85を操作されて開始指令が行われた場合、車体3の位置である停車降車位置(車体位置)と、車体3の進行方向における走行予定ラインL1の端部(選択直進部La4の端部P40)との距離L40が予め定められた距離よりも短い場合にはライン合わせを実行しない。例えば、自動走行制御部40Aは、距離L40が3.0m未満の場合、ライン合わせを実行しない。なお、図12Eに示すように、直進部Lanが途中で屈曲(変曲)している場合は、自動走行制御部40Aは、車体3の車体位置と、屈曲点P41との距離L40が予め定められた距離よりも短い場合にはライン合わせを実行しないようにしてもよい。
【0049】
また、自動走行制御部40Aは、ライン合わせ時には、車体3を前進させる前進動作(S10)及び車体3を後進させる後進動作(S11)を1回の切り返しとして行う。1回の切り返しによって、位置偏差ΔJ5及び方位偏差ΔF3が第1閾値未満(閾値J11未満、閾値F11未満)にならない場合、自動走行制御部40Aは、トラクタ1に対して制御信号を出力することによって、複数回の切り返しを行う。なお、自動走行制御部40Aは、ライン合わせにおいて、切り返しの回数が予め定められた回数(3回以上)となった場合には、切り返しが終了後に、自動走行を開始する。
【0050】
なお、図6に示すように、制御装置40は、装置取得部40Eを備えていてもよい。装置取得部40Eは、制御装置40に設けられた電気電子回路、制御装置40に格納されたプログラム等から構成されている。装置取得部40Eは、車体3に装着された作業装置2の種類、種別を示す装置情報を取得する。例えば、制御装置40と作業装置2とは車載ネットワークN1により接続されている。作業装置2が車体3に接続されると、作業装置2から車載ネットワークN1に接続された作業装置2の装置情報(種類、種別)が出力され、装置取得部40Eは、車載ネットワークN1に出力された装置情報を取得する。なお、装置取得部40Eは、所定の操作を行った場合に、表示装置80の画面に、装置情報を入力する部分(入力部)を表示し、入力部に入力された装置情報を取得してもよい。
【0051】
自動走行制御部40Aは、停止降車位置P31にて走行スイッチ85を操作されて開始指令が行われた場合であっても、装置取得部40Eが取得した作業装置2の種類、種別が予め定められた作業装置2である場合にはライン合わせを実行せず、予め定められた作業装置2でない場合にはライン合わせを行う。例えば、作業装置2がブロードキャスタ等の散布装置の場合は、自動走行制御部40Aは、ライン合わせを行わず、開始指令が行われた場合、走行開始条件を満たしていれば、自動走行を開始する。なお、上述した作業装置2の種類、種別は、一例であり限定されない。
【0052】
上述した実施形態では、作業装置2の装置情報(種類、種別)に基づいて、ライン合わせを行うか否かを決定していたが、例えば、表示装置80にライン合わせを行うか否かの画面を表示して運転者(ユーザ)の選択によって決定してもよい。
また、作業装置2における作業の精度に基づいて、第1閾値を変更してもよい。図14に示すように、所定の操作を行うと、表示装置80は、設定画面M6を表示する。設定画面M6は、作業の精度(作業精度)を入力する入力部46を表示する画面であり、例えば、複数のレベルに分けられた作業精度を入力可能である。具体的には、入力部46は、「高精度」を入力(選択)する第1入力部46aと、「高効率」を入力(選択)する第2入力部46bと、「通常」を入力(選択)する第3入力部46cと、を含んでいる。高効率は、素早く作業を行うことであり、高精度は、精密に作業を行うことである。
【0053】
例えば、選択画面M6において「通常」が選択されると、自動走行制御部40Aは、第1閾値(閾値J11、閾値F11)をデフォルトとして設定された値(デフォルト値)に設定する。また、選択画面M6において「高効率」が選択されると、自動走行制御部40Aは、第1閾値(閾値J11、閾値F11)を、「通常」に対応するデフォルト値よりも大きな値(第1設定値)にすることで、ライン合わせを行い難くする。
【0054】
また、選択画面M6において「高精度」が選択されると、自動走行制御部40Aは、第1閾値(閾値J11、閾値F11)を、「通常」に対応するデフォルト値よりも小さな(第2設定値)にすることで、通常よりもよりライン合わせを行ないやすくする。このように、作業精度に応じて、第1閾値を変更することによって、作業精度が高くなる(高精度側))ほど、ライン合わせを実行しやすくし、作業精度が低くなる(高効率側))ほど、ライン合わせは行わないようにすることができる。
【0055】
なお、上述した作業精度は一例であり、作業精度を設定するレベル、即ち、入力部の数は、複数であれば数は限定されない。
上述した実施形態では、図12C及び図12Dに示したように、自動走行を中断させた後、手動走行で走行予定ラインL1の所定の位置にトラクタ1を停止させた場合について説明したが、圃場H1において、自動走行を開始する前、即ち、トラクタ1を開始位置P1に近づけた場合も適用可能である。
【0056】
自動走行制御部40Aは、走行スイッチ85による開始指令が行われた際に、位置検出装置P30が検出した車体位置が走行予定ラインL1に定められた開始位置である場合に、車体位置を開始位置に合わす位置合わせを行う。例えば、開始位置P1において、走行開始条件を満たした状態で降車した作業者等が走行スイッチ85を操作したとき、自動走行制御部40Aは、走行開始条件及びライン合わせ条件を満たしているか否かを判断する。ライン合わせを満たしている場合、図12Dと同じように、開始位置P1の周囲にて、車体3を前進及び後進させることによって、トラクタ1(車体3)を1番目の直進部La1に合わせるライン合わせを実行する。
【0057】
上述した実施形態では、位置偏差ΔJ1が閾値J10以下且つ方位偏差ΔF3が閾値F10以下である場合に、制御装置40(自動走行制御部40A)は、走行開始条件が満たされていると判断していたが、位置偏差ΔJ1が閾値J10以下(第1条件)及び方位偏差ΔF3が閾値F10以下(第2条件)のいずれかを満たす場合、走行開始条件が満たされていると判断してもよい。つまり、制御装置40(自動走行制御部40A)は、第1条件及び第2条件のいずれか1つを満たす場合に、走行開始条件が満たされていると判断してもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、位置偏差ΔJ5が閾値J11以上且つ方位偏差ΔF3が閾値F11以上である場合に、制御装置40(自動走行制御部40A)は、ライン合わせ条件が満たされていると判断していたが、位置偏差ΔJ5が閾値J11以上(第3条件)及び方位偏差ΔF3が閾値F11以上(第4条件)のいずれかを満たす場合、ライン合わせ条件が満たされていると判断してもよい。つまり、制御装置40(自動走行制御部40A)は、第3条件及び第4条件のいずれか1つを満たす場合に、ライン合わせ条件が満たされていると判断してもよい。
【0059】
図13は、自動走行の動作のフローを示している。図13に示すように、トラクタ1が圃場H1に入り、当該圃場H1にて初めて自動走行を開始する場合において、走行スイッチ85の操作によって開始指令を制御装置40が取得すると、自動走行制御部40Aは、走行開始条件が満たされているか否かを判断する(S30)。また、走行開始条件が満たされている場合(S30、Yes)、自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされているか否かを判断する(S31)。自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされている場合(S31、Yes)、ライン合わせを実行する(S32)。自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされていない場合(S31、No)、自動走行を開始する(S33)。走行スイッチ85の操作によって中断の指令を制御装置40が取得すると、自動走行制御部40Aは、自動走行を中断(停止)する(S34)。自動走行の中断後、開始指令を制御装置40が取得すると、自動走行制御部40Aは、走行開始条件が満たされているか否かを判断する(S35)。また、走行開始条件が満たされている場合(S35、Yes)、自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされているか否かを判断する(S36)。自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされている場合(S36、Yes)、ライン合わせを実行する(S37)。自動走行制御部40Aは、ライン合わせ条件が満たされていない場合(S36、No)、自動走行を再開する(S38)。また、自動走行制御部40Aは、ライン合わせによる切り返しを少なくとも1回以上行った後、自動走行を再開する(S38)。
【0060】
農業機械1は、走行可能な車体3と、操作された場合に車体3の自動走行の開始を指令する走行スイッチ85と、指令が出力された場合に走行予定ラインL1に基づいて車体3の自動走行を行う自動走行制御部40Aと、を備え、自動走行制御部40Aは、走行スイッチ85による指令が行われた際に、選択された走行予定ラインL1と車体3との位置偏差ΔJ10及び走行予定ラインL1と車体3の方位との方位偏差のいずれかが第1閾値(J11、F11)以上である場合、位置偏差ΔJ5及び方位偏差ΔF3を第1閾値(J11、F11)未満にするライン合わせを実行する。これによれば、自動走行を始めて行う場合又は、自動走行を途中で中断した後、任意の位置から自動走行を再開する場合などにおいて、走行スイッチ85による指令が行われた際、位置偏差ΔJ5及び方位偏差ΔF3を第1閾値(J11、F11)未満にするライン合わせを行うことができる。即ち、少なくとも走行予定ラインL1から離れた車体3を走行予定ラインL1に近づけた後に自動走行を行う場合に、スムーズに自動走行へ移行することができる。
【0061】
走行予定ラインL1は、車体3を直進させる直進部Lanと、車体3を旋回させる旋回部Lbnとを含み、自動走行制御部40Aは、直進部Lanと車体3との位置偏差ΔJ5及び直進部Lanと車体3の方位との方位偏差ΔF3のいずれかが第1閾値(J11、F11)以上であるかを判断し、第1閾値(J11、F11)以上である場合には、ライン合わせとして、直進部Lanに対する位置偏差ΔJ5及び方位偏差ΔF3を第1閾値(J11、F11)未満にする。これによれば、走行予定ラインL1の任意の位置から直進の自動走行を開始する場合に、直進部Lanと車体3との位置偏差ΔJ5及び直進部Lanと車体3の方位との方位偏差ΔF3とのいずれかを小さくしたライン合わせを行うことができるため、直進の自動走行へとスムーズに移行することができる。
【0062】
例えば、図12Fの任意の位置P50にて、自動走行による作業装置2の作業を一旦停止した後、位置P51から自動走行を再開させるときなどに、直進部Lanに対する農業機械1のライン合わせを簡単に行うことができる。その結果、図12Fに示すように、作業装置2の作業済みの場所W30を、任意に変更することができる。なお、図12Fの3本の直進部Lanは同じ直進部Lanである。
【0063】
自動走行制御部40Aは、ライン合わせにおいて、車体3を前進させた後、車体3を後進させる切り返しを行う。これによれば、図12Dに示すように、簡単に車体3を走行予定ラインL1に合わせることができる。
自動走行制御部40Aは、ライン合わせにおいて、切り返しを複数回行い、切り返しの回数が予め定められた回数以上となった場合には、自動走行を開始する。これによれば、複数回のライン合わせによって、走行予定ラインL1に対する車体3の姿勢を整えてから、自動走行を開始することができる。
【0064】
自動走行制御部40Aは、走行スイッチ85による指令が行われたときの車体3の位置である車体位置と、車体3の進行方向における走行予定ラインL1の端部との距離L40が予め定められた距離よりも短い場合にはライン合わせを実行しない。これによれば、途中から自動走行を開始する場合であって、現在の農業機械1の位置(車体位置)から走行予定ラインL1の端部までの距離が短く、切り返しが難しい場合には、ライン合わせを行わずに自動走行に移行することによって、無理な切り返しを抑制できる。
【0065】
農業機械1は、車体3に装着された作業装置を取得する装置取得部40Eを備え、自動走行制御部40Aは、装置取得部40Eが取得した作業装置2が予め定められた作業装置2である場合にライン合わせを実行しない。これによれば、予め定められた作業装置2に対してのみライン合わせを行わずに自動走行を開始することができる。
農業機械1は、車体3の位置である車体位置を検出する位置検出装置を備え、自動走行制御部40Aは、走行スイッチ85による指令が行われた際に、位置検出装置が検出した車体位置が走行予定ラインL1に定められた開始位置である場合に、車体位置を開始位置に合わす位置合わせを行う。これによれば、自動走行を始めて開始するとき、即ち、農業機械1を開始位置に近づけてから自動走行を開始する場合に、農業機械1の姿勢を走行予定ラインL1に合わせやすい。
【0066】
自動走行制御部40Aは、位置偏差及び方位偏差のいずれかが第1閾値よりも大きい第2閾値以上である場合に、車体3の自動走行を行う。これによれば、第2閾値によって自動走行を開始できるか否かを判断した後に、第1閾値によるライン合わせを行うかを判断することができるため、ライン合わせを行わずに自動走行を開始すること、ライン合わせを行ってから自動走行を開始することの両方を行うことができ、状況に応じてスムーズに自動走行を実行することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 :農業機械(トラクタ)
2 :作業装置
3 :車体
30 :位置検出装置
40A :自動走行制御部
40E :装置取得部
85 :走行スイッチ
F10 :閾値
F11 :閾値
F2 :方位
J10 :閾値
J11 :閾値
L1 :走行予定ライン
L40 :距離
Lan :直進部(選択直進部)
Lbn :旋回部
P1 :開始位置
P40 :端部
ΔF3 :方位偏差
ΔJ1,J5,J10:位置偏差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13
図14