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特許7599835マイコバクテロイデス・アブセッサス亜種を検出するためのプライマーセット、キット及び方法
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  • 特許-マイコバクテロイデス・アブセッサス亜種を検出するためのプライマーセット、キット及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】マイコバクテロイデス・アブセッサス亜種を検出するためのプライマーセット、キット及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6895 20180101AFI20241209BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241209BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20241209BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6813 Z
C12N15/11 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020066306
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021159023
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 仁彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光範
(72)【発明者】
【氏名】佐野 創太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 重彦
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/003550(WO,A1)
【文献】特開2019-097493(JP,A)
【文献】Journal of clinical microbiology,2014年,Vol.52,p.251-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus abscessus)をマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティ(Mycobacteroides abscessus bolletii)、及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンス(Mycobacteroides abscessus massiliense)と識別して検出するためのプライマーセットであって、
3'末端に以下の(a)又は(d)に記載のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチド
d)配列番号1の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むフォワードプライマー(A)と、
3'末端に以下の(e)又は(h)に記載のポリヌクレオチド:
(e)配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチド
h)配列番号2の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むリバースプライマー(B)からなる第1のプライマーセットを含むプライマーセット。
【請求項2】
前記フォワードプライマー及び前記リバースプライマーの一方が、標識物質と結合可能なタグ又は標識物質である標識部を更に含み、他方が、固相担体の少なくとも一部分と結合可能なタグである結合部を更に含む、請求項1記載のプライマーセット。
【請求項3】
請求項2に記載のプライマーセットと、前記結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体とを含む、マイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサスをマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティ、及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスと識別して検出するためのキット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いて得られる核酸増幅産物の有無を解析することによるマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサスをマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティ、及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスと識別して検出するための方法。
【請求項5】
マイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティ(Mycobacteroides abscessus bolletii)をマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus abscessus)及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンス(Mycobacteroides abscessus massiliense)と識別して検出するためのプライマーセットであって、
3'末端に以下の(i)又は(l)に記載のポリヌクレオチド:
(i)配列番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチド
l)配列番号3の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むフォワードプライマー(C)と、
3'末端に以下の(m)又は(p)に記載のポリヌクレオチド:
(m)配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド
p)配列番号4の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むリバースプライマー(D)からなる第2のプライマーセットを含む、
プライマーセット。
【請求項6】
前記フォワードプライマー及び前記リバースプライマーの一方が、標識物質と結合可能なタグ又は標識物質である標識部を更に含み、他方が、固相担体の少なくとも一部分と結合可能なタグである結合部を更に含む、請求項5記載のプライマーセット。
【請求項7】
請求項6に記載のプライマーセットと、前記結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体とを含む、マイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティをマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスと識別して検出するためのキット。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のプライマーセットを用いて得られる核酸増幅産物の有無を解析することによるマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティをマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスと識別して検出するための方法。
【請求項9】
マイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンス(Mycobacteroides abscessus massiliense)をマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus abscessus)及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティ(Mycobacteroides abscessus bolletii)と識別して検出するためのプライマーセットであって、
3'末端に以下の(q)又は(t)に記載のポリヌクレオチド:
(q)配列番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチド
t)配列番号5の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むフォワードプライマー(E)と、
3'末端に以下の(u)又は(y)に記載のポリヌクレオチド:
(u)配列番号6の塩基配列からなるポリヌクレオチド
y)配列番号6の塩基配列において任意の位置のチミン(T)が、ウラシル(U)に置換されている塩基配列からなるポリヌクレオチド
を含むリバースプライマー(F)からなる第3のプライマーセットを含む、
プライマーセット。
【請求項10】
前記フォワードプライマー及び前記リバースプライマーの一方が、標識物質と結合可能なタグ又は標識物質である標識部を更に含み、他方が、固相担体の少なくとも一部分と結合可能なタグである結合部を更に含む、請求項9記載のプライマーセット。
【請求項11】
請求項10に記載のプライマーセットと、前記結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体とを含む、マイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスをマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティと識別して検出するためのキット。
【請求項12】
請求項9又は10に記載のプライマーセットを用いて得られる核酸増幅産物の有無を解析することによるマイコバクテロイデス・アブセッサス・マシリエンスをマイコバクテロイデス・アブセッサス・アブセッサス及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・ボレティと識別して検出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコバクテロイデス・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus)亜種を識別検出するためのプライマーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗酸菌は、抗酸性、非運動性のグラム陽性桿菌である。抗酸菌は結核菌、らい菌、及び非結核性抗酸菌の3つに大別され、それぞれ結核、ハンセン病、非結核性抗酸菌症の原因菌である。
【0003】
非結核性抗酸菌は現在までに170種類以上の菌種が報告されており、その内30種類程度がヒトに病原性を示すことが分かっている。マイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)による非結核性抗酸菌症(Mycobacteroides abscessus complex症)は、既存の抗菌薬が効き難く有効な治療法が確立されていないため、患者数は蓄積し、重症者は増加傾向にある。
【0004】
本邦においても、肺Mycobacteroides abscessus complex症の患者数が急増しており、最新の疫学調査から罹患率は10万人あたり0.5人と推定され、前回調査から約5倍に増えていることが判明した。
【0005】
原因菌群であるマイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックスは、マイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種アブセッサス(Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus)、マイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種ボレティ(Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii)、及びマイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種マシリエンス(Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense)の3亜種により構成され、それぞれの亜種により抗菌薬に対する感受性や、抗菌薬に対する感受性獲得能、及び治療成績に違いが見られることが報告されていることから、3亜種を鑑別することは適切な治療法を選択する上で重要である。
【0006】
しかしながら、Mycobacteroides abscessus complexを亜種レベルで鑑別するためには、ゲノム情報に基づく系統解析、hsp65遺伝子やrpoB遺伝子等のハウスキーピング遺伝子、及びスペーサー領域を用いたマルチローカスシーケンス解析、又はパルスフィールド電気泳動による解析が必要であるが、これらの方法は煩雑かつ高額な費用負担が必要であり、また迅速性の面からも臨床現場における応用には適さない。特許文献1には、PCR法を用いて、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessusとMycobacteroides abscessus subsp. bolletii、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseの3亜種を識別する手法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の手法は、得られたPCR産物を電気泳動し、核酸増幅産物のサイズを解析する必要があり、簡便・迅速性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-97493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、非結核性抗酸菌であるMycobacteroides abscessus subsp. abscessus、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii、及びMycobacteroides abscessus subsp. massilienseの3亜種を、核酸増幅反応に供し、核酸増幅産物の有無により識別検出するプライマーセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)マイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)亜種を識別検出するためのプライマーセットであって、3'末端に配列番号1と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(A)と、3'末端に配列番号2と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(B)からなる第1のプライマーセット、3'末端に配列番号3と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(C)と、3'末端に配列番号4と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(D)からなる第2のプライマーセット、及び3'末端に配列番号5と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(E)と、3'末端に配列番号6と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(F)からなる第3のプライマーセット、のいずれか1以上を含むプライマーセット。
【0010】
(2)前記第1のプライマーセット、前記第2のプライマーセット、及び、前記第3のプライマーセットのいずれか1以上に含まれるフォワードプライマー及びリバースプライマーの一方が、標識物質と結合可能なタグである又は標識物質である標識部を更に含み、他方が、固相担体の少なくとも一部分と結合可能なタグである結合部を更に含む、(1)のプライマーセット。
【0011】
(3)前記プライマーセットと、前記結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体とを含む、マイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)亜種を識別検出するためのキット。
【0012】
(4)前記プライマーセットを用いて得られる核酸増幅産物の有無を解析することによるマイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)亜種を識別検出するための方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マイコバクテロイデス・アブセッサス・コンプレックス(Mycobacteroides abscessus complex)の、マイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種アブセッサス(Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus)、マイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種ボレティ(Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii)、マイコバクテロイデス・アブセッサス・亜種マシリエンス(Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense)の3亜種を、核酸増幅産物の有無により簡便・迅速に識別検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のプライマーセットを利用した核酸増幅反応による増幅産物を検出するための核酸検出デバイスの一実施形態の模式図である。
図2図2は、本発明のプライマーセットを利用した核酸増幅反応による増幅産物を検出するための核酸検出デバイスの別の一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
<設計>
本発明者らは、Mycobacteroides abscessus complexの塩基配列情報に基づき、各亜種に由来するDNAを特異的に増幅するプライマーセットを作製した。このプライマーセットを用いて核酸増幅反応を実施し、核酸増幅産物の有無を解析することで、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseの3亜種を識別検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
<用語>
本発明において「ポリヌクレオチド」とは、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)を指す。RNAにおいては、チミン(T)をウラシル(U)と読み替えることができる。ポリヌクレオチドとしては、任意の位置のTをUに置換して合成したUを含むDNAや、任意の位置のUをTに置換して合成したTを含むRNAも使用することができる。ポリヌクレオチドはイノシン(I)等の修飾ヌクレオチドを一部に含んでいてもよい。
【0018】
ポリヌクレオチドは一本鎖として存在していてもよいし、二本鎖として存在していてもよい。ポリヌクレオチドが二本鎖として存在する場合は、少なくとも一方の鎖が、以下に規定する所定の特徴を備えるポリヌクレオチドであればよい。
ポリヌクレオチドの製造方法は特に限定されず、ポリヌクレオチド合成装置を利用して製造してもよいし、受託合成サービスを利用して製造してもよい。
【0019】
本発明において「塩基配列Xと相同な塩基配列Y」、或いは、「塩基配列Xと塩基配列Yとが相同である」、というとき、塩基配列Xの相補配列からなるポリヌクレオチドと、塩基配列Yからなるポリヌクレオチドとが、核酸増幅反応のアニーリング条件においてハイブリダイズして安定な二本鎖を形成するのに十分な水素結合を形成することができる組み合わせである限り、塩基配列XとYとが同一であってもよいし、塩基配列XとYとが部分的に異なっていてもよい。例えば、塩基配列Xの相補配列からなるポリヌクレオチドと、塩基配列Yからなるポリヌクレオチドとが、10ヌクレオチド中に1ミスマッチ、20ヌクレオチド中に1ミスマッチ、又は30ヌクレオチド中に1ミスマッチ等、いくつかのミスマッチが存在していてもよい。典型的には、塩基配列Xと「相同な」塩基配列Yというとき、塩基配列XとYとが以下の関係のいずれかを満たすことを指す。
(A)塩基配列Yが、塩基配列Xと同一の塩基配列である、或いは、塩基配列Xにおいて1若しくは数個の塩基が欠失、置換、付加及び/又は挿入された塩基配列である。
(B)塩基配列Yが、塩基配列Xと70%以上の同一性を有する塩基配列である。
(C)塩基配列Yからなるポリヌクレオチドが、配列番号Xと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下においてハイブリダイズすることができる。
(D)塩基配列Xと塩基配列Yの一方における任意の位置のチミン(T)が、他方におけるウラシル(U)に置換されている。
【0020】
前記(A)において「1若しくは数個」とは好ましくは1~5個、より好ましくは1~4個、より好ましくは1~3個、特に好ましくは1個又は2個を指し、最も好ましくは1個である。
【0021】
前記(B)において、同一性の値は、複数の塩基配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA DNASIS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。塩基配列の同一性の値は、一致度が最大となるように一対の塩基配列をアライメントした際に一致する塩基の数を算出し、当該一致する塩基の数の、比較した塩基配列の全塩基数に対する割合として算出される。ここで、ギャップがある場合、上記の全塩基数は、1つのギャップを1つの塩基として数えた塩基数である。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。
【0022】
前記(B)において、同一性はより好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性である。
【0023】
前記(C)において、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning, 4th ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェントな条件を設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーション工程では、ナトリウム濃度が25~500 mM、好ましくは25~300 mMであり、温度が40~68℃、好ましくは40~65℃である。より具体的には、ハイブリダイゼーションは、1~7×SSC、0.02~3% SDS、温度40℃~60℃で行うことができる。また、ハイブリダイゼーションの後に洗浄工程を行っても良く、洗浄工程は、例えば0.1~2×SSC、0.1~0.3% SDS、温度50~65℃で行うことができる。
【0024】
<プライマーセット>
本発明におけるプライマーセットとはフォワードプライマーとリバースプライマーからなり、反応系に対し、単一のプライマーセットのみを用いても、複数種のプライマーセットを混合してマルチプレックス化して用いてもよい。
【0025】
本発明における第1のプライマーセットは、3'末端に配列番号1と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(A)と、3'末端に配列番号2と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(B)から構成され、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessusに由来するDNAを特異的に増幅するように設計されている。一例として、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus ATCC19977のゲノムDNAを鋳型としてPCRを実施すると、各プライマーに挟まれた102 bpの領域が特異的に核酸増幅産物として得られる。
【0026】
本発明における第2のプライマーセットは、3'末端に配列番号3と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(C)と、3'末端に配列番号4と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(D)から構成され、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletiiに由来するDNAを特異的に増幅するように設計されている。一例として、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii BDのゲノムDNAを鋳型としてPCRを実施すると、各プライマーに挟まれた122 bpの領域が特異的に核酸増幅産物として得られる。
【0027】
本発明における第3のプライマーセットは、3'末端に配列番号5と相同なポリヌクレオチドを含むフォワードプライマー(E)と、3'末端に配列番号6と相同なポリヌクレオチドを含むリバースプライマー(F)から構成され、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseに由来するDNAを特異的に増幅するように設計されている。一例として、Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense JCM15300のゲノムDNAを鋳型としてPCRを実施すると、各プライマーに挟まれた88 bpの領域が特異的に核酸増幅産物として得られる。
【0028】
ここで「特異的に核酸増幅産物が得られる」とは、典型的には、各プライマーセットによる核酸増幅産物が、対応する亜種に由来するDNAを鋳型として用いた場合のみにおいて得られ、対応しない亜種やその他の抗酸菌や細菌とは交差しないことを指す。
【0029】
プライマー(A~F)は、3'末端に配列番号1~6と相同なポリヌクレオチドを含むものであればよく、5’末端側には更に他の塩基配列や修飾が付加されていてもよい。
配列番号1~6を表1に記載する。
【0030】
【表1】
【0031】
フォワードプライマー(A, C, E)は、前記ポリヌクレオチドのみからなっていてもよいし、後述する標識部又は結合部を更に含んでもよい。前記ポリヌクレオチドと標識部又は結合部とは、後述する適当なスペーサーを介して化学的に連結することができる。前記フォワードプライマーにおいて、標識部及び結合部の一方が前記ポリヌクレオチドに連結される位置は、前記ポリヌクレオチドと標的領域を含むポリヌクレオチド又はその相補鎖とのアニーリング及び核酸増幅反応における伸長を阻害しない位置であれば特に限定されないが、好ましくは、前記ポリヌクレオチドの5’末端である。
【0032】
リバースプライマー(B, D, F)は、前記ポリヌクレオチドのみからなっていてもよいし、後述する標識部又は結合部を更に含んでもよい。前記ポリヌクレオチドと標識部又は結合部とは、後述する適当なスペーサーを介して化学的に連結することができる。前記リバースプライマーにおいて、標識部及び結合部の一方が前記ポリヌクレオチドに連結される位置は、前記ポリヌクレオチドと標的領域を含むポリヌクレオチド又はその相補鎖とのアニーリング及び核酸増幅反応における伸長を阻害しない位置であれば特に限定されないが、好ましくは、前記ポリヌクレオチドの5’末端である。
【0033】
フォワードプライマー及びリバースプライマーの少なくとも一方が、標識部を含む場合、これを用いた核酸増幅反応では、標識部を含む核酸増幅産物が得られるため、核酸増幅産物の検出が容易である。
【0034】
フォワードプライマー及びリバースプライマーの少なくとも一方が、結合部を含む場合、これを用いた核酸増幅反応では、結合部を含む核酸増幅産物が得られるため、核酸増幅産物を固相担体に固定することが可能であり、核酸増幅産物の検出が容易である。
【0035】
より好ましくは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの一方が、標識部を更に含み、他方が、結合部を更に含む。この態様のプライマーセットを用いた核酸増幅反応では、標識部と結合部とを含む二本鎖の核酸増幅産物が得られるため、核酸クロマトグラフィーによる検出が容易である。以下に、この態様について説明する。
【0036】
<本発明のプライマーセットの好適な態様>
<標識部>
標識部は、標識物質と結合可能なタグ又は標識物質のいずれかであり、好ましくは標識物質と結合可能なタグである。本明細書では、標識物質と結合可能なタグを標識用タグと呼ぶ場合がある。標識部が標識用タグである場合、核酸増幅反応の核酸増幅産物と標識物質とを接触させることにより核酸増幅産物の一端に含まれるタグを標識することができる。標識部が標識物質である場合、核酸増幅反応の核酸増幅産物として標識物質を一端に含む核酸増幅産物を得ることができる。
【0037】
標識物質は核酸増幅産物の検出を可能とするものであればよく特に限定はされないが、好ましくは核酸増幅産物の目視検出を可能とするものである。このような標識物質としては、着色粒子、色素、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ等)等が挙げられるが、好ましくは着色粒子である。「着色粒子」とは、金属(例えば、金、銀、銅、白金等)粒子、金属ロッド、着色されたラテックス粒子、色素を包含するシリカナノ粒子等が挙げられるが、これらに限定はされない。標識物質の大きさは核酸増幅産物を後述する固相担体に捕捉するのを妨げるものでなければよい。標識物質は検出の際に発色のよいものであることが好ましく、後述する固相担体や、固相担体を備える核酸検出デバイスの各種多孔質部材の孔径よりも小さなサイズとなるように、適宜選択することができる。例えば、標識物質の大きさはおよそ500 nm以下、好ましくはおよそ0.1 nm~250 nm、より好ましくはおよそ1 nm~100 nmの粒径とすることができる。色素として、蛍光色素(フルオロセイン、シアニン等)等も使用可能であるが、その場合は各蛍光色素の励起波長光を照射し、検出することが好ましい。
【0038】
標識部として利用可能な標識用タグは、標識物質と結合可能なものであればよく、標識物質の構造に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば核酸(DNA、RNA等)、タンパク質、ペプチド、もしくは他の化合物(例えば、ビオチン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ジゴキシゲニン(DIG)等の低分子化合物)、又はそれらの組合せからなるものを利用することができる。標識用タグの一つの好ましい形態としては、ポリヌクレオチドを含むか、ポリヌクレオチドからなるものである。標識用タグに含まれ得る該ポリヌクレオチドは、本発明のプライマーセットによる核酸増幅反応の実質的な支障とならないものであれば特に限定されないが、塩基数が例えば5~50、好ましくは10~35であるポリヌクレオチドであり、より好ましくは、配列番号7に示す塩基配列又はその部分塩基配列或いはそれらの相補塩基配列を含む(又はからなる)ポリヌクレオチドを用いることができる。標識用タグのもう一つの好ましい形態としては、ビオチン、FITC、DIG等の低分子化合物からなるものである。標識部が上記の標識用タグである場合、標識物質と標識用タグとの結合は、直接的結合であっても、間接的結合であってもよく、結合手段は利用する標識物質と標識用タグとの組合せに応じて適宜好適なものを選択することができる。例えば、標識用タグがポリヌクレオチドを含む場合、標識物質を当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド(例えば、当該ポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な配列を含むポリヌクレオチド)に結合させ、両者のポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションさせることによって、標識物質と標識用タグとを間接的に結合することができる。標識物質とポリヌクレオチドとの結合はペプチド、タンパク質、核酸等を介して行ってもよいし、適当な官能基を介して行ってもよい。ハイブリダイゼーションの条件は、ハイブリダイゼーションが生じる条件であればよく特に限定はされないが、例えば20℃~40℃にて、10 mM~50 mMのリン酸を含む緩衝液(pH6~7)中で反応させることにより行うことができる。ハイブリダイゼーション効率を高めるべく、緩衝液にはさらに塩化ナトリウム等の塩を含めることができる。
【0039】
また、標識用タグが低分子化合物の場合、それと特異的に結合するタンパク質(例えばビオチンに結合するアビジン、FITCに結合するタンパク質)、抗体(例えば抗DIG抗体)、アプタマー等の結合性物質と連結した標識物質により標識することができる。この場合、標識用タグと結合性物質とは、各種中性付近の緩衝液を用いて結合させることができる。
【0040】
標識部(標識用タグ又は標識物質)と、フォワードプライマーに含まれるポリヌクレオチド、又は、リバースプライマーに含まれるポリヌクレオチドとは任意の手段により結合することができ、直接的に、又は間接的に結合することができる。ただし、標識部のうち少なくとも前記ポリヌクレオチドと接続する部分がポリヌクレオチドよりなる場合、核酸増幅反応により当該部分が前記ポリヌクレオチドと共に二本鎖化されないように、DNAポリメラーゼ反応の進行を抑制又は停止することが可能なスペーサーを介して、前記ポリヌクレオチドと標識部とが結合される。このような「スペーサー」としては、DNAポリメラーゼ反応の進行を抑制又は停止することができ、標識部の二本鎖化を防ぐものであればよく、例えば、強固なヘアピン構造やシュードノット構造を有する核酸配列、L型核酸、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid(BNA)もしくはLocked Nucleic Acid(LNA))、フルオレセイン、Cy3、Cy5、式Iで表されるアゾベンゼン構造を含む二価基、脂肪鎖(アルキレン鎖又はポリオキシアルキレン鎖)、5’-5’結合、3’-3’結合のような逆位配列構造を含む二価基等が挙げられるがこれらに限定はされない。
【0041】
【化1】
【0042】
式Iで表される二価基を介して2つのポリヌクレオチド分子を接続する場合、該二価基の一方の端のリン酸基は、一方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のヌクレオチドのリン酸基を指し、他方の端の酸素原子は、他方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のヌクレオチドのリン酸基とリン酸エステル結合を形成する。
【0043】
脂肪鎖のスペーサーとしては、例えば、以下の式(II)で表されるスペーサーが挙げられる。
-O-CmH2m-O- 式(II)
(式中、一方の端の酸素原子は、一方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、他方の端の酸素原子は、他方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、mは1以上40以下の整数を表す。Hは、置換基により置換されていてもよい。)
【0044】
式(II)においてmは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(II)中のHは、置換基により置換されていてもよく、置換基としては、典型的には、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。置換基としてのアルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1~8であることが好ましく、より好ましくは1~4である。また、2以上の置換基を有する場合には、置換基は同一であっても異なっていてもよい。さらに、置換基を有していないことも好ましい。
【0045】
また、他のスペーサーとしては、以下の式(III)で表されるスペーサーが挙げられる。
-(OCnH2n)L-O- 式(III)
(式中、一方の端の酸素原子は、一方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、他方の端の酸素原子は、他方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、nは2以上4以下の整数を表し、Lは1以上の整数であって、(n+1)×Lは40以下となる整数を表す。Hは、置換基により置換されていてもよい。)
式(III)において(n+1)×Lは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(III)中のHの置換基は、式(II)中の置換基と同様の態様が適用される。
【0046】
他の脂肪鎖のスペーサーとしては、例えば、以下の二価基が挙げられる。
【化2】
【0047】
これらの二価基を介して2つのポリヌクレオチド分子を接続する場合、各二価基の一方の端のリン酸基は、一方のポリヌクレオチド分子の3’末端又は5’末端のヌクレオチドにリン酸基を指し、他方の端の酸素原子は、他方のポリヌクレオチド分子の5’末端又は3’末端のヌクレオチドのリン酸基とリン酸エステル結合を形成する。
【0048】
<結合部及び固相担体>
結合部は、後述する固相担体と結合可能なタグである。本明細書では、固相担体と結合可能なタグを固定化用タグと呼ぶ場合がある。
結合部として利用可能な固定化用タグは、固相担体と結合可能なものであればよく、固相担体の構造に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えばポリヌクレオチド(DNA、RNA等)、タンパク質、ペプチド、もしくは他の化合物(例えば低分子化合物)、又はそれらの組合せからなるものを利用することができる。固定化用タグは、好ましくは、ポリヌクレオチドを含むか、ポリヌクレオチドからなるものである。固定化用タグに含まれ得る該ポリヌクレオチドは、本発明のプライマーセットによる核酸増幅反応の実質的な支障とならないものであれば特に限定されないが、塩基数が例えば5~50、好ましくは10~35であるポリヌクレオチドであり、より好ましくは、配列番号8~10に示す塩基配列又はその部分塩基配列或いはそれらの相補塩基配列を含む(又はからなる)ポリヌクレオチドを用いることができる。
【0049】
本発明のプライマーセットが、前記第1のプライマーセット、前記第2のプライマーセット及び前記第3のプライマーセットのうち2又は3を含む場合、各プライマーセットの一方のプライマーに連結される固定化用タグは、固相担体上の異なる位置に結合できることが好ましい。例えば、固定化用タグがポリヌクレオチドである場合、互いに相同でなく、異なるポリヌクレオチドにハイブリダイズできるよう設計されていることが好ましい。
【0050】
固相担体は特に限定はされないが、樹脂、金属、多糖類、鉱物等からなるものを利用することができ、メンブレン、フィルム、不織布、プレート、ゲル等の形状とすることができる。好ましくは固相担体は、溶液中の核酸増幅産物や標識物質が展開できるように多孔質構造を有するものである。本発明において利用可能な固相担体としては、例えば、ろ紙、ニトロセルロースメンブレン、ポリエーテルスルフォンメンブレン、ナイロンメンブレン、乾燥させた各種ゲル(シリカゲル、アガロースゲル、デキストランゲル、ゼラチンゲル)、シリコン、ガラス、プラスチック等が挙げられる。固相担体の大きさ及び形態は、各種操作や検出に適切なものを適宜選択することができる。
【0051】
固相担体は、少なくとも一部の部分が固定化用タグと結合可能なように構成されていればよく、より好ましくは一部の部分のみが固定化用タグと結合可能なように構成されている。固相担体の特定の部分のみを固定化用タグと結合可能なように構成することによって、固相担体に捕捉された核酸増幅産物は前記部分のみに限局して検出されるため、陽性又は陰性の判別を容易にすることができる。
【0052】
固相担体と固定化用タグとの結合は、直接的結合であっても、間接的結合であってもよく、結合手段は利用する固相担体と固定化用タグとの組合せに応じて適宜好適なものを選択することができる。例えば、固定化用タグがポリヌクレオチドを含む場合、固相担体に当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド(例えば、当該ポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な配列を含むポリヌクレオチド)を固定化してタグ捕捉手段とし、両者のポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションさせることによって、固相担体と固定化用タグとを間接的に結合することができる。固相担体へのポリヌクレオチドの固定化はペプチド、タンパク質、核酸等を介して行ってもよいし、適当な官能基を介して行ってもよい。ハイブリダイゼーションの条件は、標識用タグと標識物質との結合に関して上記した条件により行うことができる。ポリヌクレオチドを固相担体に固定化する場合、特定の部分に限局して固定化することによって、捕捉された核酸増幅産物は所定の部分のみに限局して検出されるため、陽性又は陰性の判別を容易にすることができる。
【0053】
特に、本発明のプライマーセットが、前記第1のプライマーセット、前記第2のプライマーセット及び前記第3のプライマーセットのうち2又は3を含む場合、好ましくは、核酸増幅反応による反応産物を検出するための固相担体は、異なる位置に、互いに異なるタグ捕捉手段を保持する。例えば、固定化用タグが互いに相同でないポリヌクレオチドである場合、固定化用タグの1つのポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドがタグ捕捉手段として固相担体の異なる位置に保持されていることが好ましい。
【0054】
結合部(固定化用タグ)と、フォワードプライマーに含まれるポリヌクレオチド、又は、リバースプライマーに含まれるポリヌクレオチドとは任意の手段により結合することができ、直接的に、又は間接的に結合することができる。ただし、固定化用タグのうち少なくとも前記ポリヌクレオチドと接続する部分が核酸よりなる場合、核酸増幅反応により当該部分が前記ポリヌクレオチドと共に二本鎖化されないように、DNAポリメラーゼ反応の進行を抑制又は停止することが可能なスペーサーを介して、前記ポリヌクレオチドと固定化用タグとが結合される。結合部とポリヌクレオチドとの間に設けるスペーサーの具体例は、標識部とポリヌクレオチドとの間に設けるスペーサーに関して上述したものと同様である。
配列番号7~10を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
<検出対象>
本発明において対象となる試料としては、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii、又は、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseを含んでいる可能性のある試料であればよく、例えば、動物植物等の生体の一部(器官、組織、細胞等)、糞便、体液(血液、唾液、尿、喀痰、リンパ液等)、飲食品、微生物培養物、核酸増幅反応の生成物等を含む試料が挙げられる。尚、マイコバクテロイデス(Mycobacteroides)属はマイコバクテリウム(Mycobacterium)属と記載される場合がある。
【0057】
検出しようとするポリヌクレオチドは、天然に存在するポリヌクレオチドであってもよいし、天然に存在するポリヌクレオチドから人為的に調製されたポリヌクレオチドであってもよい。このようなポリヌクレオチドとしては、例えばゲノムDNA、該ゲノムDNAから転写されたmRNA、該mRNAから調製されたcDNA、これらのポリヌクレオチドを増幅して得た核酸増幅産物等が挙げられ、ゲノムDNA又はその核酸増幅産物が特に好ましい。ゲノムDNA、mRNA、cDNA等の各用語はその断片も包含する。検出しようとするポリヌクレオチドは二本鎖の形態で試料中に存在するものであってもよい。
【0058】
<本発明のプライマーセットを用いる検出方法>
本発明の検出方法の一態様は、試料中のポリヌクレオチドを鋳型とし、前記第1のプライマーセット、前記第2のプライマーセット、及び、前記第3のプライマーセットのいずれか1以上を含む本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行う工程1、及び、核酸増幅反応により増幅した核酸増幅産物の有無を解析する工程2を含む。
【0059】
工程1で鋳型として用いるポリヌクレオチドは、典型的にはDNAである。該ポリヌクレオチドは、試料から抽出され精製された形態であってもよいし、試料から抽出され粗精製された形態であってもよい。あるいは、細胞や組織の一部等の比較的高濃度でポリヌクレオチドを含む試料であれば、試料自体をそのまま核酸増幅反応に含めることもできる。
【0060】
工程1における核酸増幅反応は、PCR法の他、RPA法、HDA法、ICAN法、LAMP法等の等温核酸増幅法に従って行うことができる。すなわち、Mycobacteroides abscessus complexに由来するポリヌクレオチドが存在すると仮定し、本発明のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行った場合に、所定の標的領域の断片が増幅される反応条件にて行うことができる。
【0061】
一例として、PCRに用いるDNAポリメラーゼは、耐熱性のDNAポリメラーゼであればよく、特に限定はされない。本発明においては、市販のDNAポリメラーゼを利用することが可能であり、例えばTaKaRa Ex Taq(登録商標)等を好適に利用することができる。また、温度、時間、緩衝液の組成等は、用いるDNAポリメラーゼや、各プライマーの濃度等に応じて、適宜選択することができる。
【0062】
ホットスタートPCR法は、プライマーダイマーの形成を抑制する効果が期待できることから有用である。ホットスタートPCR法は、TaKaRa Ex Taq(登録商標) Hot Start Version(タカラバイオ)等の市販のホットスタートPCR用試薬を用いて行うことができる。また、TaKaRa Taq HS PCR Kit, UNG plus(登録商標)を使用することもでき、このキットを用いることで核酸増幅産物のキャリーオーバーコンタミネーションを抑制する効果も期待できる。
【0063】
PCR法でのサイクル数は25サイクル以上が好ましく、30サイクル以上がより好ましい。サイクル数の上限は特に限定されないが通常は60サイクル以下、好ましくは50サイクル以下である。
【0064】
PCR法での反応系中の開始時のプライマー濃度は特に限定されず、鋳型となるポリヌクレオチド等に応じて適宜調整することができる。反応系中の反応開始時の好ましいプライマー濃度としては、フォワードプライマー及びリバースプライマーが各々0.05 μM以上、1.0 μM以下という濃度が挙げられる。0.05 μM未満の場合、検出感度が低下して基準となる検出感度の低下が生じる可能性がある。また、プライマー濃度の上限は特に限定されないが、好ましくは1.0 μMである。
【0065】
工程1では、試料中にMycobacteroides abscessus complexに由来するポリヌクレオチドが含まれている場合、特異的な核酸増幅産物として所定の標的領域を含む核酸増幅産物が生じる。
【0066】
工程2では、工程1での核酸増幅反応により増幅した核酸増幅産物の有無を解析する。工程2は工程1と同時に実施してもよく、工程1の完了後に実施してもよい。
【0067】
工程2における検出方法は特に限定されず、例えば、工程1の核酸増幅反応を、SYBR Green I等の二本鎖DNAに結合する蛍光色素の存在下で行い、本発明のプライマーセットによる核酸増幅が生じたことを示す蛍光強度の上昇を指標として、核酸増幅産物の有無を解析してもよい。また、工程1の核酸増幅反応を、ポリヌクレオチドの5’末端にレポーター蛍光物質が連結され、3’末端にクエンチャー色素を連結されたプローブの存在下で行い、所定の標的領域を含む核酸増幅産物が生じたことを示す蛍光を指標として、核酸増幅産物の有無を解析することも工程2の一態様である。また工程1完了後に、核酸増幅反応の反応液又はその生成物に、所定の標的領域を含む核酸増幅産物に特異的な標識化されたポリヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、複合体を検出する方法が例示できる。また、本発明のプライマーセットが、フォワードプライマー及びリバースプライマーの一方が、標識物質と結合可能なタグ又は標識物質である標識部を更に含み、他方が、固相担体と結合可能なタグである結合部を更に含む場合、以下の固相担体を用いた検出工程を工程2として行うことができる。
【0068】
<固相担体を用いた検出工程>
この検出工程では、前記の工程1における核酸増幅反応の生成物を、結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体に接触させ、標識部を指標として固相担体の前記部分での核酸増幅産物を検出する。
【0069】
標識部が上述の標識用タグである場合には、標識物質を標識用タグに結合させる標識工程を更に行えばよい。標識工程の詳細は後述する。標識部が上述の標識物質である場合には標識工程は不要である。検出工程において「標識部を指標として」とは、標識部が標識用タグである場合には標識工程を経て結合した標識物質を指標として核酸増幅産物を検出することを指し、標識部が標識物質である場合には該標識物質を指標として核酸増幅産物を検出することを指す。
核酸増幅反応の生成物とは、増幅産物を含んでいる可能性のある核酸増幅反応の反応液や、該反応液から核酸増幅産物を更に高濃度化した試料等を指す。
固相担体の詳細は既述の通りである。
【0070】
固相担体の結合部と結合可能な部分への、前記生成物の接触は、固相担体と結合部との組合せに応じて、前記生成物中に核酸増幅産物が含まれていた場合に前記部分に核酸増幅産物の結合部が結合するように適宜調節された条件(例えば、ハイブリダイゼーションの条件、もしくはpH5~9程度の緩衝液条件)で行えばよい。
【0071】
核酸増幅産物の検出は、固相担体に捕捉された核酸増幅産物に結合した前記標識物質を検出、好ましくは目視検出することにより行うことができる。核酸増幅産物が存在する場合には、固相担体に捕捉・結合された核酸増幅産物の標識物質が検出される。当該検出の有無を指標にして、核酸増幅反応の反応系中の核酸増幅産物(標的領域を含む核酸増幅産物)の有無を判別することができるとともに、試料中でのMycobacteroides abscessus complex及び/又はMycobacteroides abscessus complexに由来するポリヌクレオチドの有無を判別することができる。
【0072】
<標識工程>
標識工程は、本発明のプライマーセットに含まれる前記標識部が上述の標識用タグである場合に行う工程であり、核酸増幅反応の生成物と標識物質とを接触させ、標識用タグに標識物質に結合させることにより行う。標識工程は、核酸増幅反応の生成物を固相担体に接触させる前に行ってもよいし、接触させた後に行ってもよいし、接触させると同時に行ってもよい。
【0073】
標識物質と前記生成物との接触は、標識物質と標識用タグとの組合せに応じて、前記生成物中に核酸増幅産物が含まれていた場合に標識物質と核酸増幅産物の標識用タグとが結合するように適宜調節された条件(例えば既述のハイブリダイゼーションの条件、もしくはpH 5~9程度の緩衝液条件)で行えばよい。
【0074】
<検出デバイス>
上述の検出工程及び標識工程は、核酸クロマトグラフィーを利用する核酸検出デバイスを用いて行うことができる。当該核酸検出デバイスを利用することにより、核酸増幅反応の反応系中の核酸増幅産物(標的領域を含む核酸増幅産物)の有無を、特殊な装置を必要とすることなく検出・判別することができ、簡便かつ迅速に結果を得ることができる。
【0075】
核酸検出デバイスは、核酸クロマトグラフィー法により標識された核酸増幅産物を検出するために利用される公知の核酸検出デバイス(WO2012/070618)を利用することができる。
【0076】
本発明にて利用可能な核酸検出デバイスの一実施形態の模式図を図1及び図2に示すが、核酸検出デバイスは本実施形態に限定されるものではない。なお、以下の説明において、各部材に付された符号は、図1及び図2中に示される符号に対応する。
【0077】
図1の核酸検出デバイス10は、基材5の上に、核酸増幅反応の反応系を受容するための反応系受容部であるサンプルパッド3、標識物質を保持するコンジュゲートパッド2、核酸増幅産物に含まれる結合部と結合可能な部分6を一部に含む多孔質固相担体1、及び吸収パッド4を互いがこの順に接触するように配置して形成される。固相担体1の部分6は、核酸増幅産物を捕捉するための手段(捕捉手段)(例えば、上記オリゴヌクレオチド等)が限局して配置・固定化された部分である。図示しないが、固相担体1の表面はフィルムにより覆われていてもよい。サンプルパッド3、コンジュゲートパッド2、固相担体1及び吸収パッド4は上記固相担体として利用可能な多孔質構造を有する部材により構成することができる。これらは同一の部材より構成されていてもよいし、異なる部材より構成されていてもよい。基材5はその上に配置された各種部材を支持することができ、核酸検出デバイスの操作を容易にするものであればよく、例えば樹脂、金属、鉱物等からなるものを利用することができる。標識物質を展開溶液中に混合する場合や、標識部が標識物質である場合には、コンジュゲートパッド2は省略することができる。
【0078】
工程1により得られた核酸増幅反応の反応系をサンプルパッド3に添加する。前記反応系をそのまま添加してもよいし、適当な展開溶液(例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、グッド緩衝液、SSC緩衝液)と共に添加してもよい。展開溶液には必要に応じて、界面活性剤、塩、タンパク質、核酸等をさらに含めることができる。サンプルパッド3に添加された前記反応系は、図1中の矢印で示す方向に上流から下流に向かってキャピラリー現象により展開する。
【0079】
また別の態様としては、核酸増幅反応の生成物及び/又は展開溶液を保持した容器(例えば、PCRチューブ、エッペンチューブ、96穴プレート等)に当該核酸検出デバイスを入れ、サンプルパッド3を核酸増幅反応の生成物及び/又は展開溶液に浸漬させる方法で展開することもできる。その場合、核酸増幅反応の生成物及び/又は展開溶液を保持した容器にサンプルパッド3が入るように、サンプルパッド3の幅は2.0~10.0 mmにすることが好ましく、2.0~5.0 mmにすることがより好ましい。
【0080】
前記標識部が標識用タグである実施形態では、反応系中の核酸増幅産物は標識物質が保持されたコンジュゲートパッド2を通過する際に、標識物質と接触し、標識用タグを介して標識物質により標識される。
【0081】
次いで、反応系中の核酸増幅産物は、固相担体1を通過する際に、部分6に固定された捕捉手段と接触し、固定化用タグを介して固相担体1に捕捉・結合される。
【0082】
試料中に標的核酸が存在する場合には、捕捉手段を含む固相担体1の部分6に捕捉・結合された核酸増幅産物に結合した標識物質が部分6に検出される。標識物質が目視確認できるものであれば、標識物質に起因して部分6が呈色する。当該標識物質の検出(呈色)の有無を指標にして、試料中の標的核酸の有無を判別することができる。
【0083】
部分6は1以上あってもよく、複数種の核酸増幅産物を別個の部分6にて検出してもよい。例えば図2に示す核酸検出デバイス10の例では、固相担体1の部分6が、位置が異なる3つの部分61、62、63からなり、それぞれに核酸増幅産物を捕捉するための手段(捕捉手段)(例えば、上記オリゴヌクレオチド等)が限局して配置・固定化されている。図示しないが、検出すべき核酸増幅産物が2種類である場合、2つの異なる部分に捕捉手段が保持された固相担体を含む核酸検出デバイスを用いることができる。
【0084】
<プローブを用いる検出方法>
本発明の検出方法の他の一態様は、試料中のポリヌクレオチド、又は、試料中のポリヌクレオチドを鋳型とし核酸増幅反応を行い増幅した核酸増幅産物と、前記核酸増幅産物とハイブリダイズするプローブとを、ハイブリダイズ可能な条件下でインキュベートする工程3、及び、前記ポリヌクレオチド又は前記核酸増幅産物と、前記プローブとのハイブリダイゼーションを検出する工程4を含む。
【0085】
工程3において、試料中のポリヌクレオチドを鋳型とし核酸増幅反応を行い増幅した核酸増幅産物とは、本発明のプライマーセットを用いた上記の工程1の核酸増幅反応での核酸増幅産物である。
工程3における「ハイブリダイズ可能な条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばGreen and Sambrook, Molecular Cloning 4th Ed (2012), Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照して適宜決定することができる。具体的には前記<用語>において説明した「ストリンジェントな条件」と同様の条件が例示できる。
工程4において、前記ポリヌクレオチド又は前記核酸増幅産物と、前記プローブとのハイブリダイゼーションを検出する手段は特に限定されない。
【0086】
例えば、プローブが前記の標識部を有する場合、工程3でのインキュベーション後の反応混合物から未反応のプローブを除去し、前記ポリヌクレオチド又は前記核酸増幅産物と前記プローブとの複合体を、標識部からの標識を指標として検出することができる。標識部が標識用タグである場合には必要に応じて標識物質を付加する標識工程を行えばよい。
【0087】
また、プローブが前記の結合部を有する場合、前記ポリヌクレオチド又は前記核酸増幅産物と前記プローブとの複合体を、結合部を介して固相担体に固定させてから、適当な手段で固相担体上の前記複合体を検出することができる。結合部を含むプローブは、結合部を介して予め固相担体に固定した状態で提供してもよい。
【0088】
<キット>
本発明はまた、
本発明のプライマーセットを含む、Mycobacteroides abscessus complexに由来するポリヌクレオチドを検出するためのキットに関する。
該キットは、本発明の検出方法において利用することができる。
【0089】
本発明のキットには、更に、核酸増幅反応のための各種試薬(例えばDNAポリメラーゼ、核酸増幅反応用緩衝液、dNTPs等)、インキュベーションのための各種試薬(インキュベーション用緩衝液)、精度管理用の標準物質、操作や機器の正常であったことを担保するための内部標準物質等を含めることができる。
【0090】
本発明のプライマーセットが前記の結合部を有する場合、本発明のキットは更に、前記結合部と結合可能な部分を少なくとも一部に含む固相担体を含むことができる。固相担体の具体例としては上記の検出デバイスが特に好ましい。
【0091】
本発明のプライマーセットが前記の標識部を含み、標識部が標識用タグである場合には、本発明のキットは更に、標識用タグを標識するための標識物質を更に含むことが好ましい。
【実施例
【0092】
Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus由来DNAを特異的に増幅する配列番号1及び2の塩基配列からなる第1のプライマーセットを設計した。
【0093】
Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii由来DNAを特異的に増幅する配列番号3及び4の塩基配列からなる第2のプライマーセットを設計した。
【0094】
Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense由来DNAを特異的に増幅する配列番号5及び6の塩基配列からなる第3のプライマーセットを設計した。
【0095】
これら第1~3のプライマーセットが、標的菌種を特異的に増幅できるか確認するための検証実験を行った。検証方法は、本発明のプライマーセットを含有するPCR液を用いて、PCR法により増幅反応を行い、核酸増幅産物の有無を解析することにより、正しい核酸増幅産物が得られることを確認した。また、核酸増幅産物の有無により、Mycobacteroides abscessus complex亜種を適切に識別検出可能であることを確認した。具体的には実施例1及び2において説明する。
【0096】
<実施例1>
表1に記載の配列番号1~6からなるプライマーを用いて、TaKaRa TaqHS perfect Mixのマニュアルに従い、下記のPCR用反応液を調製した。プライマーは配列番号1及び2の組み合わせを第1のプライマーセット、配列番号3及び4の組み合わせを第2のプライマーセット、配列番号5及び6の組み合わせを第3のプライマーセットとして用いた。
【0097】
【表3】
【0098】
鋳型には、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus ATCC19977、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii BD、Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense JCM15300より調製した精製ゲノムDNAを用いた。ネガティブコントロールとして、上記鋳型DNA溶液の代わりに滅菌蒸留水を1 μl用いた以外は同様の組成のPCR反応液を調製した。5μMプライマー溶液は所定のプライマーを5μMの濃度となるように滅菌蒸留水に溶解させたものである。
【0099】
PCR反応液を、リアルタイムPCR装置(Roche社、LightCycler 96)にセットし、94℃で1分間反応後、94℃-5秒/60℃-10秒/72℃-15秒のサイクルを50回繰り返した。Cp値の結果を表4に示す。
【0100】
【表4】
【0101】
第1のプライマーセットを用いた試験においては、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus由来ゲノムDNAを鋳型とした場合のみ核酸増幅が確認された。第2のプライマーセットを用いた試験においては、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii由来ゲノムDNAを鋳型とした場合のみ核酸増幅が確認された。第3のプライマーセットを用いた試験においては、Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense由来ゲノムDNAを鋳型とした場合のみ核酸増幅が確認された。いずれのプライマーセットを用いた場合においても、ネガティブコントロールにおける核酸増幅産物は確認されなかった。これより各プライマーセットに対応する核酸増幅産物の有無により、Mycobacteroides abscessus complexの3亜種を識別検出可能であることが確認された。またアガロースゲル電気泳動法により核酸増幅産物のサイズを確認したところ、第1のプライマーセットにてMycobacteroides abscessus subsp. abscessus由来ゲノムDNAを鋳型とした場合は、102 bpの核酸増幅産物が、第2のプライマーセットにて、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii由来ゲノムDNAを鋳型とした場合は122 bpの核酸増幅産物が、第3のプライマーセットにてMycobacteroides abscessus subsp. massiliense由来ゲノムDNAを鋳型とした場合は88 bpの核酸増幅産物が確認された。
【0102】
<比較例>
特開2019-97493号公報に記載のプライマーセット(第1のプライマー:フォワードプライマーgttcggatcgcatggcgttgtgctg、リバースプライマーgggatgctgtgatcgaggtcggc、第2のプライマー:フォワードプライマーgagggcacgggagagaccaccggag、リバースプライマーccatttcYctatcYcgcccg(Yはc又はt))を用いて実施例1と同様の条件にて試験を実施した。その結果、全てのMycobacteroides abscessus complex亜種(Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii、Mycobacteroides abscessus subsp. massiliense)由来ゲノムDNAを鋳型とした場合、核酸増幅産物が確認され、核酸増幅産物の有無のみによる亜種判別は不可であり、識別検出のためには、アガロースゲル電気泳動等による核酸増幅産物サイズの解析が必要であった。
【0103】
【表5】
【0104】
<実施例2>
表1に記載の配列番号1~6を3’末端に含むプライマーを用いて、multiplex-PCR産物を検出する核酸クロマトグラフィー検出系を構築した。この検出系を用いてMycobacteroides abscessus complexの3亜種を識別検出可能であることを確認した。
【0105】
(I)プライマーの構造
核酸クロマトグラフィーでの検出に対応するため、各プライマーの5’末端にポリメラーゼ反応を阻害するアゾベンゼン構造を含む、上記式Iで表される二価基を介して、以下のタグ配列からなるDNAを連結した。このとき、上記式Iに示すアゾベンゼンの構造を含む二価基の酸素原子の側の端(5’端)と、タグ配列からなるDNAの3’末端のヌクレオチドのリン酸基とがリン酸エステル結合を形成し、該二価基のリン酸基の側の端(3’端)と、前記プライマーのプライマー部分の5’末端のヌクレオチドのデオキシリボースの5’位の水酸基とがリン酸エステル結合を形成する。
【0106】
配列番号1を含むプライマーの5’末端には、アゾベンゼン構造を介して配列番号9の固定化用タグ配列を付加した。配列番号2を含むプライマーの5’末端には同様に配列番号7の標識用タグ配列を、配列番号3を含むプライマーの5’末端には同様に配列番号7の標識用タグ配列を、配列番号4を含むプライマーの5’末端には同様に配列番号10の固定化用タグ配列を、配列番号5を含むプライマーの5’末端には同様に配列番号8の固定化用タグ配列を、配列番号6を含むプライマーの5’末端には同様に配列番号7の標識用タグ配列を付加した。
【0107】
配列番号1及び2を含むプライマーの組み合わせは第1のプライマーセット、配列番号3及び4を含むプライマーの組み合わせは第2のプライマーセット、配列番号5及び6を含むプライマーの組み合わせは第3のプライマーセットとして用いた。
【0108】
(II)オリゴヌクレオチド結合金コロイドの作製
Gold Colloid (40 nm, 9.0×1010(粒子数/ml)、British Biocell International社製)と表6の配列番号11で表されるチオール基含有オリゴヌクレオチドを混合し、50℃で16時間インキュベートした。6000 rpmで15分間遠心分離し、上清を除去し、0.05 M塩化ナトリウム、5 mMリン酸バッファー(pH 7)を添加し混和後、再度50℃で40時間インキュベートした。
【0109】
インキュベート後、遠心(6000 rpm、15分間)を行い、上清を除去し、5 mMリン酸バッファー(pH 7)を添加した。このバッファー置換を再度行った。
調製した金コロイド溶液をグラスファイバー製パッドに均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。
【0110】
(チオール基含有オリゴヌクレオチド)
チオール基含有オリゴヌクレオチドは、配列番号11のオリゴヌクレオチドからなり、3’末端の3’位のリン酸基と、HO-(CH2)m-SH (mは6)で表される化合物の水酸基とがリン酸エステル結合により結合したものである。
【0111】
(III)タグ捕捉手段を固定化したメンブレンの作製
タグ捕捉手段として、表6の配列番号12で表されるオリゴヌクレオチドプローブ1を含む溶液、配列番号13で表されるオリゴヌクレオチドプローブ2を含む溶液、及び配列番号14で表されるオリゴヌクレオチドプローブ3を含む溶液を、それぞれメルクミリポア社製ニトロセルロースメンブレン(Hi-Flow180)に、ディスペンサーを用いて、展開方向と直交する幅1 mmのライン状に塗布した。その後40℃で30分間乾燥させることでタグ捕捉手段を備えたメンブレンとした。配列番号12のオリゴヌクレオチドプローブ1が塗布されたラインをT1ライン、配列番号13のオリゴヌクレオチドプローブ2が塗布されたラインをT2ライン、配列番号14のオリゴヌクレオチドプローブ3が塗布されたラインをT3ラインと設定した。
【0112】
【表6】
【0113】
(IV)ラテラルフロー型核酸検出デバイスの作製
作製したラテラルフロー型核酸検出デバイスは、図2の模式図に示される検出デバイスに準拠して作製した。
すなわち、基材5としてポリプロピレン製バッキングシート(Lohmann社)、コンジュゲートパッド2として上記(II)で作製したコンジュゲートパッド、3つの部分61、62、63にタグ捕捉手段として上記(III)で作製したオリゴヌクレオチドプローブ1、オリゴヌクレオチドプローブ2、オリゴヌクレオチドプローブ3をそれぞれ備えたメンブレン(固相担体)1、サンプルパッド3としてグラスファイバー製のサンプルパッド、吸収パッド4としてセルロース製の吸収パッドを、それぞれ図2に示すように互いに重なり合わせて貼り合わせ、ラテラルフロー型核酸検出デバイス10を作製した。オリゴヌクレオチドプローブ1を保持する部分61をT1ライン、オリゴヌクレオチドプローブ2を保持する部分62をT2ライン、オリゴヌクレオチドプローブ3を保持する部分63をT3ラインとした。
【0114】
(V)multiplex-PCR
上記の第1~第3のプライマーセットをそれぞれ用いて、TaKaRa TaqHS perfect Mixのマニュアルに従い、下記のPCR用反応液を調製した。
【0115】
【表7】
【0116】
鋳型DNAとしては、表8(表8-1及び8-2)に記載の抗酸菌種から精製したDNAを用いた。ネガティブコントロールとして、上記鋳型DNA溶液の代わりに滅菌蒸留水を1μL用いた以外は同様の組成のPCR反応液を調製した。5 μM Fwプライマー溶液及び5 μM Rvプライマー溶液は所定のプライマーを5 μMの濃度となるように滅菌蒸留水中に溶解させたものである。
【0117】
PCR反応液を、リアルタイムPCR装置(Roche社、LightCycler 96)にセットし、94℃で1分間反応後、94℃-5秒/60℃-10秒/72℃-15秒のサイクルを35回繰り返した。結果を表8に示す。
【0118】
なお、試験に用いたMycobacteroides abscessus complex亜種は、別途次世代シーケンサー解析(NGS)(Lipworth S, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2018;63 pii: e01204-18. doi: 10.1128/AAC.01204-18.)の方法に従い同定した。
【0119】
(VI)核酸クロマトグラフィー検出系を用いた検出
上記条件でのPCR後の反応液を、ラテラルフロー型核酸検出デバイス10に適用して、核酸増幅産物の検出を試みた。具体的には、前記デバイス10上のサンプルパッド3にPCR後の反応液5μLを添加し、さらに80μLの展開溶液(界面活性剤を配合したクエン酸緩衝液)を添加することで、反応液を展開した。室温で10分後、メンブレン1上のライン状に固定化されたタグ捕捉手段を含む部分61、62、63のT1、T2、T3ラインの着色の有無を目視で確認した。
【0120】
T1ラインの着色が確認された場合、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseに由来する核酸増幅産物が得られたことを示し、T2ラインの着色が確認された場合、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessusに由来する核酸増幅産物が得られたことを示し、T3ラインの着色が確認された場合、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletiiに由来する核酸増幅産物が得られたことを示す。
結果を表8に示す。
表8において、着色が確認できた場合は「+」、確認できなかった場合は「-」と表記した。
【0121】
【表8-1】
【0122】
【表8-2】
【0123】
試験の結果、構築したクロマトグラフィー検出系は、Mycobacteroides abscessus subsp. abscessus、Mycobacteroides abscessus subsp. bolletii、Mycobacteroides abscessus subsp. massilienseを、各プライマーセットに対応する核酸増幅産物の有無のみにより適切に識別検出可能であり、その他の抗酸菌種と交差反応のないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のプライマーセット、キット、及び方法は、Mycobacteroides abscessus complex亜種の簡便な識別検出法として有用である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
【配列表】
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