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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】分流電流抑制装置
(51)【国際特許分類】
   H02H 9/04 20060101AFI20241209BHJP
   H01F 3/00 20060101ALI20241209BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H02H9/04 A
H01F3/00
H01F5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020098386
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192567
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】柳川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博樹
(72)【発明者】
【氏名】下川 英男
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087351(JP,A)
【文献】特開平09-271138(JP,A)
【文献】特開2010-207057(JP,A)
【文献】特開2007-006583(JP,A)
【文献】特開2008-166104(JP,A)
【文献】特開2005-237157(JP,A)
【文献】特開2006-324455(JP,A)
【文献】米国特許第04743997(US,A)
【文献】高橋健彦,接地・等電位ボンディング設計の実務知識,第1版,日本,株式会社 オーム社,2003年10月20日,第164-165頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H9/00-9/08
H01F3/00-3/14
H01F5/00-5/06
H02G13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの建築物の間に、気体または液体を供給する金属管が敷設され、かつ、前記建築物の構成部材であって接地された金属製構造材と前記金属管とが等電位ボンディングされると共に、前記金属管の途中に配置された絶縁継手とその耐電圧破壊を防止するためのサージ防護素子との並列接続部を備え、
何れかの前記建築物への落雷時に、当該建築物を構成する前記金属製構造材から前記金属管を介して他方の建築物に流れる雷電流の分流電流に対して高インピーダンスとなるインダクタンス素子を、前記二つの建築物の一方又は両方の近傍の前記金属管の地上部分に装着したことを特徴とする分流電流抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載した分流電流抑制装置において、
前記金属管がガス管または水道管であることを特徴とする分流電流抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した分流電流抑制装置において、
前記インダクタンス素子を、前記金属管に着脱可能な磁性体コアによって構成したことを特徴とする分流電流抑制装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した分流電流抑制装置において、
前記インダクタンス素子を、前記金属管に接続されたコイル部材によって構成したことを特徴とする分流電流抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷のあった建築物から他の建築物に分流する雷電流を抑制するための分流電流抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物内に設置された電気設備を落雷から保護する従来技術として、特許文献1に記載された防雷設備が知られている。
図4は、この防雷設備を示す構成図である。図4において、建築物100の内部には、電源線101から高圧変圧器102を介して接続された耐雷変圧器103及び電気設備104が設置されている。
【0003】
また、建築物100の内外に連通するガス管や水道管等の金属管105は、絶縁構造部106を介して建築物100に固定されていると共に、防雷環状地線110に接続されている。この防雷環状地線110は、建築物100を包囲するように地中に埋設されており、電線111を介して避雷針112に接続されている。なお、113は電源線101に接続された避雷器である。ここで、建築物100を包囲する防雷環状地線110及び電線111はファラデーケージとして作用している。
【0004】
上記従来技術において、電源線101から侵入した雷電流は避雷器113を介して大地に流れ、また、金属管105から侵入した雷電流は防雷環状地線110及び電線111を介して避雷針112側に流れるため、建築物100内の電気設備104を落雷から保護することができる。
【0005】
一方、建築物の雷保護に関するJISZ9290-3:2019には、落雷時の雷電流を安全に流すための外部雷保護システムと、雷電流によって生じる電圧による危険な火花放電を防止するための内部雷保護システムとがそれぞれ規定されている。
建築物に設置されるガス設備においても、建築基準法に基づき、ガス管の引き込み部直近で等電位ボンディングを行うことが望ましいとされている。しかし、等電位ボンディングを行うとガス管に雷電流が分流することになり、ガス管に悪影響を与える場合がある。
【0006】
ここで、図5は、2棟の建築物1,2の間にガス管3が敷設されている場合の説明図であり、1a,2aは建築物1,2にそれぞれ設置された避雷針、1b,2bは建築物1,2の金属製構造材とガス管3とを接続して等電位化するための等電位線、4a,5aはガス管3の電蝕によるガス漏れを防止するための絶縁継手、4b,5bは絶縁継手4a,5aの耐電圧破壊を防止するためにそれぞれ並列接続された避雷管(GDT)、絶縁スパークギャップ(ISG)または金属酸化物バリスタ(MOV)等のサージ防護素子(SPD)、R,Rは建築物1,2の接地抵抗である。なお、サージ防護素子4b,5bの放電開始電圧は、絶縁継手4a,5aの絶縁耐力と協調をとった値に選定される。
また、ガス管3は、通常、金属管の周囲を樹脂コーティングした絶縁被覆管として形成されている。
【0007】
上記構成において、建築物1の避雷針1aに落雷があると、雷電流により建築物1の接地電位が上昇し、サージ防護素子4b,5bが動作することで雷電流の一部が建築物2に流入する。
例えば、建築物1,2の離隔距離が9[m]、接地抵抗R,Rが何れも3.5[Ω]、避雷針1aへの落雷電流Iが200[kA]とした場合、図6のシミュレーション結果に示すように、建築物1,2には約100[kA]の電流IT1,IT2がそれぞれ分流する。
【0008】
このようにガス管3に大電流が流れると火花放電が発生してガス管3の損傷によるガス漏れや電蝕等の悪影響を招くおそれがあるため、従来では、図示しないが、建築物1,2の間に敷設されたガス管3の途中に抵抗体を挿入し、あるいは、図7図8に示す構造を採用して建築物2への雷電流の分流を抑制している。
すなわち、図7は、埋設されたガス管3の途中に絶縁管6を挿入する例であり、また、図8は、埋設されたガス管3に擬制電極7を接続して雷電流を大地に流すことにより、建築物2への分流を抑制する例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-315169号公報([0024],[0025]、図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
雷電流の分流抑制手段として、前述したごとくガス管の途中に抵抗体を挿入し、あるいは図7に示すような構造では、ガス管3を途中で切断したうえで施工しなくてはならない。また、図8に示した構造においても、施工上の多くの手間や費用を必要とし、更に、前記絶縁管6の長さや擬制電極7を埋設する場所について敷地の制約を受ける場合もあった。
【0011】
そこで、本発明の解決課題は、既設のガス管や水道管等の金属管に対して容易に装着可能なインダクタンス素子を用いることで施工作業の手間や費用を節減できると共に、設置場所の制約も少ない低コストの分流電流抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、二つの建築物の間に、気体または液体を供給する金属管が敷設され、かつ、前記建築物の構成部材であって接地された金属製
構造材と前記金属管とが等電位ボンディングされると共に、前記金属管の途中に配置された絶縁継手とその耐電圧破壊を防止するためのサージ防護素子との並列接続部を備え、
何れかの前記建築物への落雷時に、当該建築物を構成する前記金属製構造材から前記金属管を介して他方の建築物に流れる雷電流の分流電流に対して高インピーダンスとなるインダクタンス素子を、前記二つの建築物の一方又は両方の近傍の前記金属管の地上部分に装着したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した分流電流抑制装置において、前記金属管がガス管または水道管であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した分流電流抑制装置において、前記インダクタンス素子を、前記金属管に着脱可能な磁性体コアによって構成したことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載した分流電流抑制装置において、前記インダクタンス素子を、前記金属管に接続されたコイル部材によって構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一方の建築物に落雷があると、雷電流の一部が建築物の金属製構造材からガス管等の金属管とサージ防護素子とを介して他方の建築物側に分流する。この時、金属管の途中に装着されたインダクタンス素子が高インピーダンス素子として作用することにより、他方の建築物を介して大地に流れる分流電流を抑制することができる。
また、上記インダクタンス素子を、金属管に着脱可能な磁性体コアによって構成すれば、既設の金属管への適用が容易になり、施工作業の手間や時間を削減してコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る分流電流抑制装置の構成図である。
図2図1におけるインダクタンス素子の説明図である。
図3】本発明の実施形態における落雷時のシミュレーション結果を示す電流波形図である。
図4】特許文献1に記載された防雷設備の構成図である。
図5】2棟の建築物間におけるガス管の敷設状態を示す説明図である。
図6図5における落雷時のシミュレーション結果を示す電流波形図である。
図7】2棟の建築物間に設置される従来の分流電流抑制装置を示す構成図である。
図8】2棟の建築物間に設置される従来の分流電流抑制装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る分流電流抑制装置を示しており、図5と同一の部分には同一の参照符号を付して説明を省略し、以下では図5と異なる部分を中心に説明する。
【0019】
本実施形態では、建築物1,2の間に敷設されたガス管3の地上部分に、インダクタンス素子としての磁性体コア8が装着されている。ここで、磁性体コア8は、落雷の可能性がある建築物の近傍のガス管3に装着することが望ましく、図1のごとく建築物1側、あるいは建築物2側でも良いし、建築物1,2の両方の近傍のガス管3に装着しても良い。
磁性体コア8は、図2に示すように、例えば断面半円状の一対の磁性体片8a,8bを、支点部8cを中心として開き、ガス管3を包囲してから連結部8dにて連結することにより、円筒状になってガス管3に装着される。ここで、磁性体コアの形状、構造は図2に示したものに何ら限定されず、ガス管3の適当な箇所に装着されてインダクタンス素子として機能するものであれば良い。
なお、磁性体コア8の代わりに、ガス管3と電気的に接続されてガス管の周囲に巻回されるコイル部材をインダクタンス素子として用いても良い。
【0020】
前記磁性体コア8を備えた本実施形態により、建築物1に落雷があった場合の電流分布状態をシミュレーションした結果を図3に示す。
シミュレーション条件は図6の場合と同様であり、建築物1,2の離隔距離は9[m]、接地抵抗R,Rは何れも3.5[Ω]、避雷針1aへの雷電流Iを200[kA]とした。
【0021】
この場合、図3から明らかなごとく、建築物1の接地側には雷電流Iの約95%の電流IT1(=190[kA])が流れ、他方の建築物2の接地側には、ガス管3の途中に装着した磁性体コア8によるインピーダンスの増加により、Iの約5%の電流IT2(=10[kA])しか流れないことが確認された。
すなわち、磁性体コア8をガス管3に装着したことで、雷電流Iによる建築物2側への分流電流を大幅に抑制することが可能になっている。
【0022】
なお、本発明は、実施形態として説明したガス管のほか、二つの建築物間に敷設される金属製の水道管に磁性体コアやコイル部材を装着した場合にも、一方の建築物から他方の建築物に流れる分流電流を抑制することができる。
【符号の説明】
【0023】
1,2:建築物
1a,2a: 避雷針
1b,2b:等電位線
3:ガス管 (金属管)
4a,5a: 絶縁継手
4b,5b:サージ防護素子
8:磁性体コア(インダクタンス素子)
8a,8b:磁性体片
8c:支点部
8d:連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8