(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
B41J2/175 133
B41J2/175 117
B41J2/175 141
B41J2/175 171
(21)【出願番号】P 2020117930
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 英明
(72)【発明者】
【氏名】武田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】濱野 徹
(72)【発明者】
【氏名】土岐 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】亀山 文恵
(72)【発明者】
【氏名】島田 晧樹
(72)【発明者】
【氏名】麻田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】武永 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑典
(72)【発明者】
【氏名】荒木 裕太
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰司
(72)【発明者】
【氏名】松山 淳志
(72)【発明者】
【氏名】楢谷 友輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 広弥
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-240328(JP,A)
【文献】特開2000-79705(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0340449(US,A1)
【文献】特開2018-140604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列と、該ノズル列に対して負圧を付与する負圧発生手段と、を備えた記録ヘッドと、
インクを収容する収容部と、該収容部を大気と連通させる大気連通口と、前記収容部へインクを注入するための注入口と、を備えたインクタンクと、
前記記録ヘッドと前記インクタンクとを接続し、前記インクタンクからインクを前記記録ヘッドに供給するチューブと、を備え、
前記ノズル列からインクを吐出して画像を記録する記録動作中、前記記録ヘッドと前記インクタンクは前記チューブを介して接続されており、
鉛直方向における前記インクタンクのインク液面の最高位置は前記記録ヘッドのノズル列の位置より高く、かつ、前記インクタンクのインク液面の最高位置と前記記録ヘッドのノズル列の位置との差によって生じる水頭圧の絶対値は前記負圧発生手段によって発生する負圧の絶対値以下であ
り、
前記負圧発生手段は、多孔質体、或いは、バネを含むバネ袋を含むことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列と、該ノズル列に対して負圧を付与する負圧発生手段と、を備えた記録ヘッドと、
インクを収容する収容部と、該収容部を大気と連通させる大気連通口と、前記収容部へインクを注入するための注入口と、を備えたインクタンクと、
前記記録ヘッドと前記インクタンクとを接続し、前記インクタンクからインクを前記記録ヘッドに供給するチューブと、を備え、
前記インクタンクは、
前記収容部と前記大気連通口との間に、鉛直方向において前記収容部より上側に設けられ、前記収容部から流出したインクを収容可能なバッファ室とを有し、
鉛直方向における前記バッファ室のインク液面の最高位置は前記記録ヘッドのノズル列の位置より高く、かつ、前記バッファ室のインク液面の最高位置と前記記録ヘッドのノズル列の位置との差によって生じる水頭圧の絶対値が前記負圧発生手段によって発生する負圧の絶対値以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記負圧発生手段は、多孔質体、或いは、バネを含むバネ袋を含むことを特徴とする請求項
2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記バネ袋はさらに、
インクが内部に流入する流入口と、
前記流入口を開閉する弁と、
前記弁の開閉を制御するレバーと、を有し、
前記バネは前記バネ袋を予め定められた方向に広げるように付勢するよう設けられ、
前記レバーは前記弁の開閉と前記バネの伸縮と連動するように設けられ、
前記バネ袋のインクの消費に伴う前記バネの収縮により前記レバーが前記弁を開いて前記流入口を介してインクが前記バネ袋に流入し、前記バネ袋がインクで満たされると前記バネの伸長により前記レバーが前記弁を閉じることを特徴とする請求項
1又は3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記注入口に対して取り外しが可能なキャップを備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクタンクは、前記収容部の内部のインク液面を視認可能な視認面と、該視認面に設けられインク液面の最高位置を規定する規定部と、を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インクタンクは、インクの流路を形成する筒状の注入補助部材が装着または一体的に形成されることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記注入補助部材の下端が前記インクタンクのインク液面の最高位置を規定することを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記大気連通口は気液分離膜が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記チューブは前記インクタンクに対して接離可能であり、
前記チューブの先端には針が設けられ、
前記インクタンクには弾性素材で構成されるシール部材が取り付けられており、
前記チューブを前記インクタンクに接続する場合には、前記針が前記シール部材を貫通して前記チューブと前記インクタンクとが連通状態となることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記インクタンクのインク液面の最高位置と前記インクタンクの底面との差によって生じる水頭圧の絶対値が前記負圧発生手段によって発生する負圧の絶対値以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクタンクに収容されたインクを記録ヘッドに供給し、その記録ヘッドからインクを吐出して記録するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、移動可能なキャリッジに搭載された記録ヘッドと、そのキャリッジとは独立してチューブにより連結されたインクタンクを備え、そのインクタンクに対してユーザがインクを注入可能な構成を採用した記録装置が知られている。このような記録装置の中でも、大気導入路を記録ヘッドのノズルより低い位置に配置し、インクタンク内のインク液面が記録ヘッドのノズルより高い位置に収容可能とすることでインクの安定供給を実現し、インクタンクの配置自由度が高い装置が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された記録装置では、インク注入口を蓋の一部で覆うことで注入口のインクタンクのキャップが外れ、記録ヘッドへのインク安定供給性が損なわれるのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来例の構成では、インク注入口を蓋で覆ったとしてもユーザの操作ミス等でタンクキャップが装着されない等、封止が不完全であると、次のような不具合が発生することがある。即ち、記録ヘッドのノズルよりもインクタンク内のインク液面が高い場合、記録ヘッドのノズルが加圧され、インクの安定供給性が損なわれる。
【0006】
また従来より、インクタンク内のインク液面を記録ヘッドのノズルよりも低くしたインクタンクを備える記録装置も知られているがインクタンクの配置自由度が低いため、装置高が高くなり、装置が大型化してしまうという問題もある。
【0007】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、記録ヘッドに安定的にインクを供給するとともに、インクタンクの配置自由度が高い小型のインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のインクジェット記録装置は、次のような構成からなる。
【0009】
即ち、インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列と、該ノズル列に対して負圧を付与する負圧発生手段と、を備えた記録ヘッドと、インクを収容する収容部と、該収容部を大気と連通させる大気連通口と、前記収容部へインクを注入するための注入口と、を備えたインクタンクと、前記記録ヘッドと前記インクタンクとを接続し、前記インクタンクからインクを前記記録ヘッドに供給するチューブと、を備え、前記ノズル列からインクを吐出して画像を記録する記録動作中、前記記録ヘッドと前記インクタンクは前記チューブを介して接続されており、鉛直方向における前記インクタンクのインク液面の最高位置は前記記録ヘッドのノズル列の位置より高く、かつ、前記インクタンクのインク液面の最高位置と前記記録ヘッドのノズル列の位置との差によって生じる水頭圧の絶対値は前記負圧発生手段によって発生する負圧の絶対値以下であり、前記負圧発生手段は、多孔質体、或いは、バネを含むバネ袋を含むことを特徴とする。
【0010】
また、インクジェット記録装置は次のような特徴を備えても良い。
【0011】
即ち、インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列と、該ノズル列に対して負圧を付与する負圧発生手段と、を備えた記録ヘッドと、インクを収容する収容部と、該収容部を大気と連通させる大気連通口と、前記収容部へインクを注入するための注入口と、を備えたインクタンクと、前記記録ヘッドと前記インクタンクとを接続し、前記インクタンクからインクを前記記録ヘッドに供給するチューブと、を備え、前記インクタンクは、前記収容部と前記大気連通口との間に、鉛直方向において前記収容部より上側に設けられ、前記収容部から流出したインクを収容可能なバッファ室とを有し、鉛直方向における前記バッファ室のインク液面の最高位置は前記記録ヘッドのノズル列の位置より高く、かつ、前記バッファ室のインク液面の最高位置と前記記録ヘッドのノズル列の位置との差によって生じる水頭圧の絶対値が前記負圧発生手段によって発生する負圧の絶対値以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクタンクが封止が不完全な状態であっても記録ヘッドのノズルへの加圧を防止できるという効果がある。これにより、インクを安定して記録ヘッドに供給することが可能になる。
【0013】
また、インク液面と記録ヘッドのノズルとの高さ制約が少なく、インクタンクの配置自由度が高くなるという効果がある。これにより、インクジェット記録装置の高さを低く抑えた小型化が可能となる。
【0014】
さらに、インクタンクへのインク充填後に、インクタンクの姿勢変化により、インクタンクの上部の空間にインクが流入し、そのインク液面が高い位置になったとしても、記録ヘッドのノズル列が加圧されることはなく、インクの安定供給が可能になる。これによって、高い信頼性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成概略を示す部分破断斜視図である。
【
図2】
図1に示す記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施例1に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図3に示したインク供給構成においてインク注入時の状態を模式的に示す図である。
【
図5】
図3に示したインク供給構成においてチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施例2に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。
【
図7】
図6に示したインク供給構成においてインク注入時の状態を模式的に示す図である。
【
図8】
図6に示したインク供給構成においてチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の実施例3に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。
【
図10】
図9に示したインク供給構成において、インクタンクと記録ヘッドとが供給チューブによって互いに接続した状態を模式的に示す図である。
【
図11】
図9に示したインク供給構成において、記録ヘッドとインクタンクとが接続された場合でもチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の実施例4に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。
【
図13】記録ヘッドの内部の負圧発生手段の別の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0018】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0019】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0020】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0021】
以下に用いる記録ヘッド用基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0022】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0023】
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置(以下、記録装置)の構成概略を示す斜視図である。
【0024】
図1に示す記録装置50における記録時には、記録媒体は給紙ローラ(不図示)により給紙され、搬送ローラ1とこれに従動するピンチローラ2との間に挟まれ、搬送ローラ1の回転により、プラテン3上に案内支持されながら図中矢印A方向に搬送される。搬送ローラ1は表面に微細な凹凸を形成して大きな摩擦力を発生できるように加工した金属製のローラである。ピンチローラ2はバネ(不図示)等により搬送ローラ1に対して弾性的に付勢されている。プラテン3は、記録ヘッド4のインク吐出面とこれに対向する記録媒体の表面との距離を一定もしくは所定の距離に維持するように記録媒体の裏面を支持する。
【0025】
プラテン3上に搬送された記録媒体はその後、排出ローラ(不図示)とこれに従動する回転体である拍車との間に挟まれ、搬送される。排出ローラは大きな摩擦係数を有するゴムローラである。拍車はバネ(不図示)等により排出ローラに対して弾性的に付勢されている。画像記録後、排出ローラの回転によりプラテン3上から装置外に排出される。
【0026】
記録ヘッド4は記録媒体に向かってインクを吐出する姿勢で、上下に配置されたガイドレール5,6に沿ってキャリッジモータ等により往復移動されるキャリッジ7に着脱可能に搭載されている。キャリッジ7の移動方向は記録媒体の搬送方向(矢印A方向)と交差する方向であり主走査方向とも呼ばれる。これに対し、記録媒体の搬送方向は副走査方向と呼ばれる。
【0027】
記録ヘッド4は、インクジェット記録方式の中でもインク吐出のために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒータ)を備え、その熱エネルギーによりインクの状態変化(膜沸騰)を生起させる方式を用いる。これにより記録の高密度化、高精細化を達成している。なお、このような熱エネルギーによる方式に限らず、ピエゾ素子を備え、これにより発生する振動エネルギーを利用した方式を用いても良い。
【0028】
記録ヘッド4のインク吐出面にはそれぞれ異なる色のインクを吐出するための複数のノズル列が設けられている。記録ヘッド4から吐出されるインクの色に対応して、複数の独立したインクタンク8が装置本体に装着固定されている。インクタンク8と記録ヘッド4は、インク各色に対応した複数の供給チューブ10によってジョイント(不図示)により接続され、各インクタンク8内に収納された色のインクをインク各色に対応する記録ヘッド4の各ノズル列に独立して供給することができる。
【0029】
さらに、記録ヘッド4の往復移動範囲内で、かつ、記録媒体P搬送時の通過範囲外の領域である非記録領域には、回復ユニット11が記録ヘッド4のインク吐出面と対面するように配置されている。回復ユニット11は記録ヘッド4のインク吐出面をキャッピングするためのキャップ、インク吐出口面をキャッピングした状態で記録ヘッド4から強制的にインクを吸引するための吸引機構、インク吐出面の汚れを払拭するためのクリーニングブレード等を有する。
【0030】
図2は
図1に示す記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0031】
図2に示すように、記録装置50は、例えば、USBインタフェース等によって、プリンタドライバ391がインストールされたホストコンピュータ390と接続されている。プリンタドライバ391は、ユーザによるプリント指令に応じて、ユーザ所望の文書や写真等の画像データからプリントデータを生成し、これを記録装置50へと送信する。ホストコンピュータ390から記録装置50へと送信されたプリントデータ等は受信バッファ310で一時的に保持される。
【0032】
記録装置50には装置全体を制御するCPU300、制御ソフトウエアを内蔵するROM330、記録装置50は制御ソフトウエアを動作させる際に一時的に使用するRAM320、電源供給はなくとも情報を保持するNVRAM340が備えられる。受信バッファ310に保持されたプリントデータ等は、CPU300の管理下で、RAM320に転送されて、一次的に記憶される。CPU300は、RAM320、ROM330、NVRAM340などにアクセスしながら、演算、制御、判定、設定等の各種動作を実行する。
【0033】
また、CPU300は、ヘッドドライバ350を介して記録ヘッド4を駆動し、操作パネルコントローラ380を介して操作パネル54を制御し、モータドライバ360を介して各種モータ365を駆動する。各種モータ360は、キャリッジモータや搬送モータ、キャップを上下動させるためのモータなどを含む。さらに、CPU300は、センサコントローラ370を介して各種センサ375を制御する。
【0034】
次に、以上のような構成の記録装置において、インクタンクから記録ヘッドまでインクを供給する構成についてのいくつかの実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
図3は本発明の実施例1に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。
【0036】
図3によれば、インクタンク8は、
図1にも示唆されているように、対応するインク色毎に設けられており、各々に供給チューブ10が取り付けられている。インクタンク8には大気連通口28が設けられ、バッファ室29~30、連通部24を通じてインク収容部(第1の空間)33と連通している。インクタンク8の上部には、インク注入口21が開口されており、インク注入口21に対して、タンクキャップ22が取り付けられている。ユーザはタンクキャップ22を外すことでインク収容部33へのインク注入が可能となる。
【0037】
インクタンク8の少なくとも一部の側面は透明な材質の部材で形成された視認面25となっており、ユーザはこれを通してインクタンク8内のインク液面を視認可能である。視認面25には突起部26と27が設けられており、それぞれが正常な記録動作が行えるインク液面の最高位置と最低位置を示している。記録動作中は記録ヘッド4からインクを吐出した分、インク収容部33の底面部に設けられたインク供給部23から供給チューブ10を通してインクが連続供給される。記録動作によりインクが消費され、突起部27の位置までインク液面が低下した状態では、インク注入口21からインクを注入する必要がある。ユーザは突起部27から突起部26までの範囲にインクを注入することでインク切れすることなく記録動作が可能である。なお、インク液面の最高位置と最低位置を規定する規定部は突起部26、27に限らず、視認面25に記される線等によっても代替可能である。
【0038】
バッファ室(第2の空間)29~30は装置本体の輸送等で本体が天地逆になった場合、温度変化等でインク収容部33内の空気が膨張して流出したインクを収容可能である。これによって大気連通口28を通ってインクがインクタンク外に漏出するのを防止できる。輸送後、正常姿勢に戻すとバッファ室29~30に流入したインクはインク収容部33に戻り、正常な記録動作が可能となる。
【0039】
なお、
図3に示したインクタンク8の例では、2つのバッファ室を備えた構成としたが、バッファ室の数は1つでも良いし、3つ以上のバッファ室を備えた構成でも良い。
【0040】
図4は
図3に示したインク供給構成においてインク注入時の状態を模式的に示す図である。特に、
図4はインクタンク8からタンクキャップ22を外した状態を示している。
【0041】
図3~
図4に示されているように、記録ヘッド4内には多孔質体32が設けられており、毛細管力による負圧力がノズル列31に付与されている。この負圧力は記録ヘッド4内に収納される多孔質体32の圧縮率とインク量で決定される。圧縮率が高い場合に負圧力が大きく(強く)なり、圧縮率が低い場合は負圧力が小さく(弱く)なる。一方、インク量が多い場合には負圧力(弱く)が小さくなり、インク量が多い場合は負圧力は大きく(強く)なる。
【0042】
以降、説明の圧力単位は水頭高さとの関連を容易にするため水柱ミリメートルであるmmAqとし、インクの比重は1として説明する。
【0043】
多孔質体32は発生する負圧力が-50~-80mmAqになるような圧縮率とインク充填量で収納されている。メインタンク8のインク液面の最高位置の指標である突起部26はノズル列31よりも鉛直方向で高さH分高い位置に配置されるため、高さH分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例で、Hは20mmに設定している。ここでは、多孔質体32が付与する負圧力とインクタンク8のインク液面との高さH分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31の部分の圧力は-30~-60mmAqとなり、0以下の圧力(即ち、負圧)となる。即ち、高さHにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0044】
図5は
図3に示したインク供給構成においてチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
図5に示すようなチューブ10内にインクがなくなる場合としては、長期放置等でチューブ表面から空気が侵入してしまう場合や、ユーザがインク注入をし忘れた状態などが考えられる。即ち、チューブ表面から入り込んだ空気によってチューブ10内のインクがインクタンク8に押し出される現象が生じる。なお、チューブ10の材質としては比較的安価でガスバリア性の良いスチレン系熱可塑性エラストマーを使用している。
【0045】
図5に示すように、チューブ10内にインクがない場合は、インクタンク8内の最高インク液面からインクタンク8の底面までの深さD分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例では、深さDは40mmに設定している。ここでは多孔質体32が付与する負圧力と高さD分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31の部分の圧力は-10~-40mmAqとなり、0以下の圧力(負圧)となる。即ち、深さDにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、この場合にもノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0046】
従って以上説明した実施例に従えば、インクタンク内のインク液面の変動範囲の内に記録ヘッドのノズル列の位置を配置できるので、記録装置自体の高さを低くおさえることが可能になる。さらに、タンクキャップの閉め忘れなどのユーザ操作ミスが生じた場合や記録装置の長期放置があってもノズル列が加圧されることはなく、インクの安定供給が可能になる。これによって、記録装置の小型化が達成され、高い信頼性が維持される。
【実施例2】
【0047】
図6は本発明の実施例2に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。なお、
図6において、
図3~
図5を参照して説明した実施例1と同様の構成については同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0048】
図6に示すように、インクタンク8には流路を形成する筒状のインク注入補助部材34が装着されており、インクタンク8の外部とインク収容部33とを連通している。インク注入時以外は、インク注入補助部材34はタンクキャップ40により封止されている。
【0049】
なお、インク注入補助部材34はインクタンク8と一体的に形成されていてもよい。また、インク注入補助部材34の内側流路は、この実施例では2つであるが、3つ以上形成されてもよい。即ち、インク補給容器としてのインクボトル41からインクタンク8へ向けてインクが流れる流路と、インクタンク8からインクボトル41へ向けて空気が流れる流路の、少なくとも2つの流路が設けられていればよい。
【0050】
図7は
図6に示したインク供給構成においてインク注入時の状態を模式的に示す図である。
【0051】
図7において、(a)はタンクキャップ40を取り外し、インク注入が可能な状態を示している。インクボトル41は中にインクが収容され、薄い弾性ゴムにスリットが入ったスリットバルブ42により、逆さにしてもインクが漏れ出さない構造となっている。これに対して、(b)はインクボトル41をインク注入補助部材34に連結した状態を示している。スリットバルブ42のスリットにインク注入補助部材34の先端が貫通することでインクボトル41の中に収容されたインクをメインタンク8のインク収容部33に注入可能である。インク注入は、
図7(b)に示すように、インク収容部33の液面がインク補助部材34の下端に到達した時点で止まり、注入終了となる。つまり、注入終了時点の液面がインクタンク8のインク液面の最高位置26となるように、インク補助部材34の長さが設計されている。インク注入が終了すると、ユーザはインクボトル41を上方に引き抜き、タンクキャップ43を装着する。
【0052】
インクタンク8のインク液面の最高位置26は、
図6に示すように、ノズル列31よりも鉛直方向で高さH分高い位置に配置されるため、高さH分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例でHは20mmに設定している。ここでは、多孔質体32が付与する負圧力と高さH分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31に加わる圧力(負圧)は-30~-60mmAqとなり、0以下の圧力となる。即ち、高さHにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0053】
図8は
図6に示したインク供給構成においてチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
【0054】
図8に示した構成では、インクタンク8内の最高インク液面(最高位置26)からインクタンク8までの底面の深さD分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例では深さDは40mmに設定している。ここでは、多孔質体32が付与する負圧力と高さD分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31の部分の圧力は-10~-40mmAqとなり、0以下の圧力(負圧)となる。即ち、深さDにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0055】
従って以上説明した実施例に従えば、実施例1で述べた効果に加え、インクボトルからインクタンクへインク補充する際に最大量が補充された時点で自動的にインク注入が停止するので、ユーザによるインク補充操作がより簡単になる。
【実施例3】
【0056】
図9は本発明の実施例3に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。なお、
図9において、
図3~
図5を参照して説明した実施例1と同様の構成については同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
図9は、インクタンク8と記録ヘッド4が互いに対して分離した状態を示している。
【0057】
これに対して、
図10は
図9に示したインク供給構成において、インクタンク8と記録ヘッド4とが供給チューブ10によって互いに接続した状態を模式的に示す図である。
【0058】
以上のことから分かるように、この実施例におけるインクタンク8は記録装置本体と脱着可能に構成となっている。
【0059】
図9に示されているように、インクタンク8のインク収容部33内には規定量のインクが充填されている。インクタンク8の上部には大気連通路を覆う位置に気液分離膜52が取り付けられている。気液分離膜52は気体を透過し、液体は遮断する性質をもった材質で構成されている。インクタンク8を
図9に示した状態に対して異方向(例えば、90°回転して横方向)にした載置した場合、インクタンク8内のインクが大気連通口28を通り気液分離膜52までは到達するが、上記の性質により外部に漏れだすことはない。
【0060】
また、
図9~
図10に示されているように、記録装置50の本体側の供給チューブ10の先端には供給針51が取り付けられている。一方、インクタンク8にはゴム等の弾性素材で構成されるシール部材50が取り付けられている。インクタンク8を記録装置の本体に装着する際、
図10に示されているように、供給針51の先端がシール部材50を貫通して供給チューブ10内の流路とインク収容部33は連通状態となる。
【0061】
インクタンク8内に注入される最高インク量はノズル列31よりも鉛直方向で高さH分高い位置に規定されている。従って、高さH分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例では、高さHは20mmに設定している。ここでは、多孔質体32が付与する負圧力と高さH分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31部分の圧力は-30~-60mmAqとなり、0以下の圧力(負圧)となる。即ち、高さHにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されることはない。
【0062】
図11は
図9に示したインク供給構成において、記録ヘッドとインクタンクとが接続された場合でもチューブ内にインクがない状態を模式的に示す図である。
【0063】
図11に示されているように、インクタンク8内の最高インク液面からインクタンク8の底面までの深さD分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例では、深さDは40mmに設定している。ここで、多孔質体32が付与する負圧力と高さD分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31の部分の圧力は-10~-40mmAqとなり、0以下の圧力(負圧)となる。即ち、深さDにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0064】
従って以上説明した実施例に従えば、インクタンクと記録ヘッド(チューブ)とが接離可能な構成でもインクタンク内のインク液面の変動範囲の内に記録ヘッドのノズル列の位置を配置できるので、記録装置自体の高さを低くおさえることが可能になる。さらに、記録装置の長期放置があってもノズル列が加圧されることはなく、インクの安定供給が可能になる。これによって、記録装置の小型化が達成され、高い信頼性が維持される。
【実施例4】
【0065】
図12は本発明の実施例4に従うインクタンクから記録ヘッドまでのインク供給構成を模式的に示す図である。なお、
図12において、
図3~
図5を参照して説明した実施例1と同様の構成については同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0066】
図12に示されているように、通常の状態では、インクタンク8の内部にあるバッファ室29~30はインク収容部33に対して鉛直方向に上側に位置する配置となる。また、
図12において、(a)はメインタンク8にインクを注入した状態を示しており、(b)はインクタンク8へインク充填後に、天地逆転に設置されバッファ室29~30へインクが流入した後、正常な姿勢に戻った状態(通常の状態)を示している。
【0067】
なお、ここでは、多孔質体32で発生する負圧力が-50~-80mmAqになるような圧縮率およびインク充填量で収納されている。また、
図12(b)に示すように、バッファ室29~30へインク流入しても、最高インク液面の高さはノズル列31よりも鉛直方向で高さC分、高い位置に配置されるため、高さC分の正水頭圧がノズル列31に付与される。この実施例では、高さCは40mmに設定している。従って、多孔質体32が付与する負圧力と高さC分の正水頭圧を合算した場合に、ノズル列31の部分の圧力は-10~-40mmAqとなり、0以下の圧力(負圧)となる。即ち、高さCにより生じる水頭圧の絶対値は、多孔質体32により発生する負圧の絶対値以下となるように設定されている。よって、ノズル列31が加圧されてノズル列31からインクが漏れることは抑制される。
【0068】
従って以上説明した実施例に従えば、インクタンクにインク充填後にインクタンクの姿勢が天地逆転するなどにより、インクタンクのバッファ室へインクが流入し、そのインク液面がノズル列より高い位置になったとしても、ノズル列が加圧されることはない。これにより、インクの安定供給が可能になる。これによって、高い信頼性が維持される。また、
図12に示した構成からも分かるように、記録ヘッドのノズル列の位置をインクタンクに対して高くする必要もないので、記録装置自体の高さを低くおさえることが可能になり、記録装置の小型化に貢献する。
【0069】
なお、以上説明した実施例において、記録ヘッドの内部に備えられる負圧発生手段は、多孔質体32であるとしたが本発明はこれによって限定されるものではない。
【0070】
図13は記録ヘッドの内部の負圧発生手段の別の構成を模式的に示す図である。
【0071】
図13に示すように、記録ヘッド4の内部に負圧を発生させる手段として、多孔質体32の代わりに、インクを貯留可能なバネ袋54とバネ袋54を広げる方向(矢印A方向)に付勢されたバネ55とにより負圧状態を保つ構成を用いた例を示している。この構成では、さらにバネ袋54の内部のインク量を適正に制御するための弁56を備える。弁56が開くと、流入口58を通してチューブ10及び記録ヘッド4のインク液室4aからバネ袋54の内部にインクが流入する。弁56の開閉はレバー57が回転軸57aの周りに矢印B方向に回転することにより制御される。
【0072】
図13において、(a)はレバー57がバネ袋54の端部54aに当接してバネ55により収縮しないようにしている状態を示している。この時、弁56は閉じて流入口58を塞ぎ、インクがバネ袋54の内部に流入することはない。一方、(b)はレバー57が矢印B方向に回転して端部54aへの当接状態から外れ、バネ55の収縮によりバネ袋54は矢印C方向に収縮している状態を示している。この時、弁56は開かれ流入口58を開き、インクがバネ袋54の内部に流入する。
【0073】
なお、弁56の開閉動作はレバー57の回転と連動しており、レバー57が端部54aに当接している状態では弁56は閉じた状態であり、レバー57が端部54aの当接状態から外れた状態では弁56は開いた状態になる。
【0074】
図13(a)に示されるように、記録ヘッド4のインク液室4aとバネ袋54とがインクで満たされた場合、バネ55は矢印A方向に広がり、その結果、バネ袋54の全体も矢印A方向に伸長し、この時、バネ袋54の伸縮により発生する負圧は最小となる。この時、弁56は閉じた状態であり、流入口58からバネ袋54へのインク流入はない。
【0075】
一方、記録ヘッド4のノズルからインクが吐出され、バネ袋54の内部のインクが消費されると、その消費分だけ
図13(b)に示されるように、バネ55の収縮力により矢印C方向にバネ袋54が収縮する。バネ袋54の収縮に伴って、レバー57の端部54aへの当接状態が緩み、矢印B方向へレバー57が回転して弁56が開き、インクが記録ヘッド4へ導入、さらに流入口58を介してバネ袋54の内部に流入する。この流入によりバネ袋54が再び膨張し、バネ55が矢印A方向に伸長する。
【0076】
このようにして、バネ袋54の内部がインクで満たされると、
図13(a)に示す状態となり弁56が閉じる。
【0077】
図13に示すように、記録ヘッド4の内部の負圧発生手段がバネ袋の場合でも、負圧力が-50~-80mmAqになるようなバネ圧およびインク充填量で収納することで、負圧発生手段として用いる構成が多孔質体32である場合と同様の効果が得られる。このように、バネなどの弾性部材の弾性力を利用する構成を負圧発生手段として採用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 搬送ローラ、2 ピンチローラ、3 プラテン、4 記録ヘッド、
5、6 ガイドレール、7 キャリッジ、8 インクタンク、10 供給チューブ、
11 回復ユニット、40 インク注入補助部材、41 インクボトル、
50 インクジェット記録装置、50 シール部材、51 供給針、52 気液分離膜