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特許7599867脳脊髄液に含まれるHex4,lyso-GM1,Fuc-GlcNAc-Asn,及びlyso-sulfatideの定量法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】脳脊髄液に含まれるHex4,lyso-GM1,Fuc-GlcNAc-Asn,及びlyso-sulfatideの定量法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241209BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241209BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241209BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20241209BHJP
   G01N 33/66 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/72 C
G01N30/88 N
G01N30/04 P
G01N33/66 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020140031
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2021036232
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2019153280
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 里和
(72)【発明者】
【氏名】深津 智樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 登
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-060837(JP,A)
【文献】特表2016-506501(JP,A)
【文献】特表2004-501365(JP,A)
【文献】PIRAUD, M. et al.,Contribution of tandem mass spectrometry to the diagnosis of lysosomal storage disorders,Journal of Inherited Metabolic Disease,2018年03月19日,Vol. 41,pp. 457-477,doi:10.1007/s10545-017-0126-3
【文献】HEREBIAN, D. et al.,Coexisting variants in OSTM1 and MANEAL cause a complex neurodegenerative disorder with NBIA-like br,European Journal of Human Genetics,2017年06月14日,Vol. 25,pp. 1092-1095,doi:10.1038/ejhg.2017.96
【文献】Metreya's 2017-2018 Catalog,Metreya Newsletter,2016年,pp. 1-4
【文献】KRUGER, R. et al.,Quantification of the Fabry marker lysoGb3 in human plasma by tandem mass spectrometry,Journal of Chromatography B,2011年11月18日,Vol. 883-884,pp. 128-135,doi:10.1016/j.jchromb.2011.11.020
【文献】WOLF, H. et al.,A mouse model for fucosidosis recapitulates storage pathology and neurological features of the milde,Disease Models & Mechanisms,2016年09月07日,Vol. 9,pp. 1015-1028,doi:10.1242/dmm.025122
【文献】LOBATO, J. B. et al.,Biomarkers in Lysosomal Storage Diseases,Diseases,2016年12月17日,Vol. 4, No. 40,pp. 1-17,doi:10.3390/diseases4040040
【文献】PETTAZZONI, M.,LC-MS/MS multiplex analysis of lysosphingolipids in plasma and amniotic fluid: A novel tool for the,PLOS ONE,2017年07月27日,Vol. 12, No. 0181700,pp. 1-19,doi:10.1371/journal.pone.0181700
【文献】MICHALSKI, J.C. and KLEIN, A.,Glycoprotein lysosomal storage disorders: a- and b-mannosidosis, fucosidosis and a-N-acetylgalactosa,Biochimica et Biophysica Acta,1999年,Vol. 1455,pp. 69-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 33/66
G01N 30/04
G01N 30/72
G01N 30/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量する方法であって,
該脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,
該内部標準物質を添加した脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものであ
該内部標準物質が,下記の式[IX]で示されるものである,方法。
【化9】
【請求項2】
該液体クロマトグラフィーが順相クロマトグラフィー又は陰イオン交換クロマトグラフィーである,請求項に記載の方法。
【請求項3】
該Fuc-GlcNAc-Asnが内部標準物質と比較して測定されるものである,請求項又はに記載の方法。
【請求項4】
該脳脊髄液が,Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが体内に蓄積する疾患の患者から得られたものである,請求項の何れかに記載の方法。
【請求項5】
該疾患がフコシドーシスである,請求項に記載の方法。
【請求項6】
該患者が,体内に存在するFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させる治療を受けたものである,請求項又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,脳脊髄液に含まれるHex4,lyso-GM1,Fuc-GlcNAc-Asn,又はlyso-sulfatideの定量法に関し,詳しくは,該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,該溶出液を質量分析に供するステップとを含んでなるものである定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンペ病は酸性α―グルコシダーゼの欠損を原因とする糖原病の一種(II型糖原病)である。酸性α―グルコシダーゼは,リソソーム酵素の一種であり,リソソーム中でグリコーゲンをグルコースに分解する活性を有する。本酵素が欠損すると,リソソーム内にグリコーゲンが蓄積する。本酵素は汎細胞性であるが,ポンペ病では心筋,骨格筋,及び横隔膜への侵襲による症状が中心となる。臨床上,ポンペ病は乳児古典型,幼児型,成人型の三種類に分類されるが,何れにおいても心筋,骨格筋及び横隔膜へのグリコーゲン蓄積による筋力低下,呼吸障害が認められる。呼吸障害については,横隔膜の筋収縮能の障害のみが原因ではなく,呼吸器を制御する横隔神経の障害も原因のひとつであるとする報告がある(非特許文献1)。
【0003】
ポンペ病の治療法として,酸性α―グルコシダーゼを点滴静注することにより患者に補充する酵素補充療法が行われている。酵素補充療法の効果を評価する方法としては,筋組織中のグリコーゲン濃度を定量する方法が一般的に行われている。
【0004】
グリコーゲン以外のポンペ病のバイオマーカーとしては,ヘキソーステトラサッカライド(Hex4)が報告されており(特許文献1,非特許文献2~7),ポンペ病患者の尿,血中で上昇することが報告されている(非特許文献5)。Hex4は,グリコーゲンの代謝産物と考えられており,主要な構成成分として,Glc4(Glc α1-6 Glc α1-4 Glc α1-4 Glc)やM4(Glc α1-4 Glc α1-4 Glc α1-4 Glc)がある(非特許文献3)。
【0005】
GM1ガングリオシドーシスはβ―ガラクトシダーゼの欠損を原因とする遺伝病の一種である。β―ガラクトシダーゼは,リソソーム酵素の一種であり,リソソーム中でスフィンゴ脂質の一種であるモノシアロガングリオシドGM1を単糖に分解する活性を有する。本酵素が欠損すると,脳や内臓にモノシアロガングリオシドGM1が蓄積する。臨床上,GM1ガングリオシドーシスは乳児期早期から発症し,痙性対麻痺をはじめ広汎な中枢神経障害がみられ,眼底のチェリーレッドスポット,肝脾腫,骨の異常などが進行する乳児型(1型),1歳前後から発症し,中枢神経障害が進行する若年型(2型),学童期から構音障害などの症状が現れ,歩行障害,ジストニアなどの錐体外路症状が中心となる成人型(3型),及び中枢神経症状はなく骨変形が強いモルキオ病B型の四種類に分類される。
【0006】
GM1ガングリオシドーシスの治療法は対症療法に限られ,現在,臨床応用されている酵素補充療法はない。
【0007】
スフィンゴ脂質が蓄積するリソソーム病では,バイオマーカーとして,基質物質そのものだけでなく,蓄積物質のリゾ体(脱アシル化体)を評価する事例が報告されており(非特許文献8),モノシアロガングリオシドGM1のリゾ体であるリゾ―モノシアロガングリオシドGM1(lyso-GM1)がGM1ガングリオシドーシス患者の血中で上昇することが報告されている(非特許文献9)。
【0008】
フコシドーシスはα-L-フコシダーゼ(FUCA1)の欠損を原因とする遺伝病の一種である。FUCA1は,リソソーム酵素の一種であり,リソソーム中でα-L-フコシドをL-フコースとアルコールに加水分解する活性を有する。本酵素が欠損すると,脳や内臓にフコースを含む糖脂質や糖蛋白質(α-L-フコシド等)が蓄積する。臨床上,フコシドーシスは乳幼児期に発症し,顔貌異常,精神運動発達遅滞を伴い,汗に含まれるNaClの濃度上昇を特徴とする進行の速い重症型(1型),及び,1~2歳から発症し,主に被角血管腫がみられ,汗に含まれるNaClの濃度は正常であり進行の遅い軽症型(2型)の二種類に分類される。
【0009】
フコシドーシスの治療法は神経症状に対する支持療法に限られ,現在,臨床応用されている酵素補充療法はない。
【0010】
α-L-フコシド等が蓄積するフコシドーシスでは,バイオマーカーとして,Fuc1-α-6GlcNAc1-β-Asn(以下,Fuc-GlcNAc-Asnという。)を評価する方法が報告されている。Fuc1-α-6GlcNAc1-β-Asnはフコシドーシス患者の尿やフコシドーシスモデル犬の脳で蓄積することが報告されている(非特許文献10~14)。
【0011】
異染性白質ジストロフィーはアリールスルファターゼA(ARSA)の欠損を原因とする遺伝病の一種である。ARSAは,リソソーム酵素の一種であり,リソソーム中でスフィンゴ脂質の一種であるスルファチドをガラクトシルセラミドに分解する活性を有する。本酵素が欠損すると,脳白質,末梢神経,腎臓等にスルファチド等が蓄積する。臨床上,異染性白質ジストロフィーは2歳までに発症し,筋緊張低下,深部腱反射消失,歩行障害を呈する乳児型,4~6歳頃に発症し,視神経委縮,知能障害,痙性麻痺などを呈する若年型,及び10歳代後半以降に情緒障害,言語障害,痴呆,精神症状などで発症し,5~10年の経過で進行する成人型の三種類に分類される。
【0012】
異染性白質ジストロフィーの治療法は対症療法に限られ,現在,臨床応用されている酵素補充療法はない。
【0013】
異染性白質ジストロフィーの蓄積物質としては,スルファチドだけでなく,スルファチドのリゾ体であるリゾ―スルファチド(lyso-sulfatide)が異染性白質ジストロフィー患者の脳,腎臓や肝臓で上昇することが報告されている(特許文献2,非特許文献15~19)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特表2004-501365号公報
【文献】特表2016-506501号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】DeRuisseau LR. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 106(23), 9419-24 (2009)
【文献】Chien YH. et al., JIMD Rep. 19, 67-73 (2015)
【文献】Sluiter W. et al., Clin Chem. 58(7), 1139-47 (2012)
【文献】Young SP. et al., Genet Med. 11(7), 536-41 (2009)
【文献】An Y. et al., Mol Genet Metab. 85(4), 247-54 (2005)
【文献】Young SP. et al., Anal Biochem. 316(2), 175-80 (2003)
【文献】Rozaklis T. et al., Clin Chem. 48(1), 131-9 (2002)
【文献】JB Lobato et al., Diseases. 4(4): 40 (2016)
【文献】Pettazzoni et al., PLoS ONE. 12(7): e0181700 (2017)
【文献】Strecker G et al. Biochimie. 60(8): 725-34 (1978)
【文献】Abraham D et al. Biochem J. 222(1): 25-33 (1984)
【文献】Michalski JC et al. Eur J Biochem. 201(2): 439-58 (1991)
【文献】Michalski JC et al. Biochim Biophys Acta. 1455(2-3): 69-84 (1999)
【文献】Wolf H et al. Dis Model Mech. 9(9): 1015-28 (2016)
【文献】Toda K et al. Biochem Biophys Res Commun. 159(2): 605-11 (1989)
【文献】Blomqvist M et al. Lipids Health Dis. 10 28 (2011)
【文献】Dali C et al. Ann Clin Transl Neurol. 2(5): 518-33 (2015)
【文献】Mirzaian M et al. J Lipid Res. 56(4): 936-43 (2015)
【文献】Blomqvist M et al. J Lipid Res. 58(7): 1482-1489 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は,脳脊髄液に含まれるHex4,lyso-GM1,Fuc-GlcNAc-Asn,又はlyso-sulfatideを定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,実験動物から採取した脳脊髄液に含まれるHex4,lyso-GM1,Fuc-GlcNAc-Asn,又はlyso-sulfatideを,質量分析法により感度よく定量することができることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.脳脊髄液中に含まれる物質を定量する方法であって,
該内部標準物質を添加した脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,
該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,
該溶出液を質量分析に供するステップと,
を含んでなるものである,方法。
2.該脳脊髄液中に含まれる物質がHex4である,上記1に記載の方法。
3.該液体クロマトグラフィーが親水性相互作用液体クロマトグラフィーである,上記2に記載の方法。
4.該Hex4が内部標準物質と比較して測定されるものである,上記2又は3に記載の方法。
5.該内部標準物質が,下記の式[VII]又は式[XXV]で示されるものである,上記2~4の何れかに記載の方法。
【化7】
[式中,星印で示される炭素原子の中で,少なくとも1つは炭素13である。]
【化25】
[式中,星印で示される炭素原子の中で,少なくとも1つは炭素13である。]
6.該脳脊髄液が,Hex4及び/又はグリコーゲンが体内に蓄積する疾患の患者から得られたものである,上記2~5の何れかに記載の方法。
7.該疾患がポンペ病である,上記6に記載の方法。
8.該患者が,体内に存在するHex4及び/又はグリコーゲンを減少させる治療を受けたものである,上記6又は7に記載の方法。
9.該脳脊髄液中に含まれる物質がリゾ―モノシアロガングリオシドGM1である,上記1に記載の方法。
10.該液体クロマトグラフィーが逆相クロマトグラフィーである,上記9に記載の方法。
11.該リゾ―モノシアロガングリオシドGM1が内部標準物質と比較して測定されるものである,上記9又は10に記載の方法。
12.該内部標準物質が,下記の式[VIII]で示されるものである,上記9~11の何れかに記載の方法。
【化8】
13.該脳脊髄液が,リゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が体内に蓄積する疾患の患者から得られたものである,上記9~12の何れかに記載の方法。
14.該疾患がGM1ガングリオシドーシスである,上記13に記載の方法。
15.該患者が,体内に存在するリゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1を減少させる治療を受けたものである,上記13又は14に記載の方法。
16.該脳脊髄液中に含まれる物質がFuc-GlcNAc-Asnである,上記1に記載の方法。
17.該液体クロマトグラフィーが順相クロマトグラフィー,又は陰イオン交換クロマトグラフィーである,上記16に記載の方法。
18.該Fuc-GlcNAc-Asnが内部標準物質と比較して測定されるものである,上記16又は17に記載の方法。
19.該内部標準物質が,下記の式[IX]で示されるものである,上記16~18の何れかに記載の方法。
【化9】
20.該脳脊髄液が,Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが体内に蓄積する疾患の患者から得られたものである,上記16~19の何れかに記載の方法。
21.該疾患がフコシドーシスである,上記20に記載の方法。
22.該患者が,体内に存在するFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させる治療を受けたものである,上記20又は21に記載の方法。
23.該脳脊髄液中に含まれる物質がリゾ―スルファチドである,上記1に記載の方法。
24.該液体クロマトグラフィーが逆相クロマトグラフィーである,上記23に記載の方法。
25.該リゾ―スルファチドが内部標準物質と比較して測定されるものである,上記23又は24に記載の方法。
26.該内部標準物質が,下記の式[X]で示されるものである,上記23~25の何れかに記載の方法。
【化10】
27.該脳脊髄液が,リゾ―スルファチド及び/又はスルファチドが体内に蓄積する疾患の患者から得られたものである,上記23~26の何れかに記載の方法。
28.該疾患が異染性白質ジストロフィーである,上記27に記載の方法。
29.該患者が,体内に存在するリゾ―スルファチド及び/又はスルファチドを減少させる治療を受けたものである,上記27又は28に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,中枢神経系にHex4及び/又はグリコーゲンが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したHex4及び/又はグリコーゲンを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。
【0019】
また,本発明によれば,中枢神経系にリゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したリゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1を減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。
【0020】
また,本発明によれば,中枢神経系にFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。
【0021】
また,本発明によれば,中枢神経系にリゾ―スルファチド及び/又はスルファチドが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したリゾ―スルファチド及び/又はスルファチドを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】Hex4の検量線を示す図。縦軸は面積比(Hex4検出ピーク面積/H-IS検出ピーク面積),横軸はHex4の濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。
図2】野生型マウス及びポンペ病モデルマウスにおける脳中Hex4濃度測定の結果を示す図。縦軸は脳中Hex4の濃度(μg/湿組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はポンペ病モデルマウス(KO)の脳中Hex4の濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=5,KO:n=4)。
図3】野生型マウス及びポンペ病モデルマウスにおける脳脊髄液(CSF)中Hex4濃度測定の結果を示す図。縦軸はCSF中Hex4の濃度(ng/mL)を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はポンペ病モデルマウス(KO)のCSF中Hex4の濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=5,KO:n=3)。
図4】野生型マウス及びポンペ病モデルマウスにおける脳中グリコーゲン濃度測定の結果を示す図。縦軸はグリコーゲンの濃度(mg/湿組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はポンペ病モデルマウス(KO)の脳中グリコーゲンの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=5,KO:n=4)。
図5】同一マウス個体における脳中グリコーゲン濃度と脳中Hex4濃度の関係を示す図。縦軸は脳中グリコーゲン濃度(mg/湿組織重量(g))を示し,横軸は脳中Hex4濃度(μg/湿組織重量(g))をそれぞれ示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),黒ダイヤはポンペ病モデルマウス(KO)をそれぞれ示す。
図6】同一マウス個体における脳中グリコーゲン濃度とCSF中Hex4濃度の関係を示す図。縦軸は脳中グリコーゲン濃度(mg/湿組織重量(g))を示し,横軸はCSF中Hex4濃度(ng/mL)を示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),黒ダイヤはポンペ病モデルマウス(KO)をそれぞれ示す。
図7】同一マウス個体における脳中Hex4濃度とCSF中Hex4濃度の関係を示す図。縦軸は脳中Hex4濃度(μg/湿組織重量(g))を示し,横軸はCSF中Hex4濃度(ng/mL)を示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),黒ダイヤはポンペ病モデルマウス(KO)をそれぞれ示す。
図8】lyso-GM1の検量線を示す図。縦軸は面積比(lyso-GM1検出ピーク面積/G-IS検出ピーク面積),横軸はlyso-GM1の濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。
図9】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における脳中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は脳中lyso-GM1の濃度(μg/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図10】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における脊髄中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は脊髄中lyso-GM1の濃度(μg/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図11】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における肺中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は肺中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図12】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における肝臓中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は肝臓中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図13】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における腎臓中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は腎臓中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図14】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における大腿四頭筋中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は大腿四頭筋中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図15】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における心臓中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は心臓中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図16】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における脾臓中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は脾臓中lyso-GM1の濃度(ng/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図17】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における血漿中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は血漿中lyso-GM1の濃度(ng/mL)を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図18】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)におけるCSF中lyso-GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸はCSF中lyso-GM1の濃度(ng/mL)を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks,KO12wks:n=1,WT38wks,KO38wks:n=2)。
図19】野生型マウス(WT),β―Gal KOホモマウス(KO)及びβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero)における脳中GM1濃度測定の結果を示す図。縦軸は脳中GM1の濃度(mg/湿組織重量(g))を示す。12wksは12週齢,38wksは38週齢をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT12wks,Hetero12wks:n=1,WT38wks,KO12wks,KO38wks:n=2)。
図20】同一マウス個体における脳中lyso-GM1濃度とCSF中lyso-GM1濃度の関係を示す図。縦軸は脳中lyso-GM1濃度(μg/湿組織重量(g))を示し,横軸はCSF中lyso-GM1濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),白丸はβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero),黒ダイヤはβ―Gal KOホモマウス(KO)をそれぞれ示す。
図21】同一マウス個体における脳中GM1濃度とCSF中lyso-GM1濃度の関係を示す図。縦軸は脳中GM1濃度(mg/湿組織重量(g))を示し,横軸はCSF中lyso-GM1濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),白丸はβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero),黒ダイヤはβ―Gal KOホモマウス(KO)をそれぞれ示す。
図22】同一マウス個体における脳中lyso-GM1濃度と脳中GM1濃度の関係を示す図。縦軸は脳中GM1濃度(mg/湿組織重量(g))を示し,横軸は脳中lyso-GM1濃度(μg/湿組織重量(g))をそれぞれ示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),白丸はβ―Gal KOヘテロマウス(Hetero),黒ダイヤはβ―Gal KOホモマウス(KO)をそれぞれ示す。
図23】Fuc-GlcNAc-Asnの検量線を示す図。縦軸は面積比(Fuc-GlcNAc-Asn検出ピーク面積/F-IS検出ピーク面積),横軸はFuc-GlcNAc-Asnの濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。
図24】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける脳中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は脳中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(mg/乾燥組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の脳中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図25】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける肝臓中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は肝臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(mg/乾燥組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の肝臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図26】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける腎臓中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は腎臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(mg/乾燥組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の腎臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図27】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける脾臓中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は脾臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(mg/乾燥組織重量(g))を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の脾臓中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図28】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける血漿中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は血漿中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(μg/mL)を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の血漿中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図29】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおける尿中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸は尿中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(μg/mg)を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)の尿中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=2,KOのみエラーバー無し)。
図30】野生型マウス及びフコシドーシスモデルマウスにおけるCSF中Fuc-GlcNAc-Asn濃度測定の結果を示す図。縦軸はCSF中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度(μg/mL)を示す。白棒は野生型マウス(WT),黒棒はフコシドーシスモデルマウス(KO)のCSF中Fuc-GlcNAc-Asnの濃度の測定値をそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT:n=3,KO:n=3)。
図31】同一マウス個体における脳中Fuc-GlcNAc-Asn濃度とCSF中Fuc-GlcNAc-Asn濃度の関係を示す図。縦軸は脳中Fuc-GlcNAc-Asn濃度(mg/乾燥組織重量(g))を示し,横軸はCSF中Fuc-GlcNAc-Asn濃度(μg/mL)をそれぞれ示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),黒ダイヤはフコシドーシスモデルマウス(KO)をそれぞれ示す。
図32】lyso-sulfatideの検量線を示す図。縦軸は面積比(lyso-sulfatide検出ピーク面積/S-IS検出ピーク面積),横軸はlyso-sulfatideの濃度(ng/mL)をそれぞれ示す。
図33】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸は脳中lyso-sulfatideの濃度(μg/乾燥組織重量(g))を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。
図34】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸は脊髄中lyso-sulfatideの濃度(μg/乾燥組織重量(g))を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。
図35】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸は坐骨神経中lyso-sulfatideの濃度(μg/乾燥組織重量(g))を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。
図36】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸は腎臓中lyso-sulfatideの濃度(μg/乾燥組織重量(g))を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。BLOQは測定値が定量下限であることを示す。
図37】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸は血漿中lyso-sulfatideの濃度(ng/mL)を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。BLOQは測定値が定量下限であることを示す。
図38】野生型マウス,ARSA KOホモマウス,及びARSA KOヘテロマウスにおける脳中lyso-sulfatide濃度測定の結果を示す図。縦軸はCSF中lyso-sulfatideの濃度(ng/mL)を示す。WT(young)は20~23週齢野生型マウス,WTは93~100週齢野生型マウス,KO(young)は20~23週齢ARSA KOホモマウス,KOは93~100週齢ARSA KOホモマウス,Heteroは93~100週齢ARSA KOヘテロマウスをそれぞれ示す。エラーバーは標準偏差を示す(WT,WT(young):n=2,KO,KO(young):n=3,Hetero:n=4)。BLOQは測定値が定量下限であることを示す。
図39】同一マウス個体における脳中lyso-sulfatide濃度とCSF中lyso-sulfatide濃度の関係を示す図。縦軸は脳中lyso-sulfatide濃度(μg/乾燥組織重量(g))を示し,横軸はCSF中lyso-sulfatide濃度(ng/mL)を示す。白ダイヤは野生型マウス(WT),白丸はARSA KOヘテロマウス(Hetero),黒ダイヤはARSA KOホモマウス(KO)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において「グルコーステトラサッカライド」というときは,4分子のD-グルコースがそれぞれ順にα1-6結合,α1-4結合,及びα1-4結合を介して結合したものをいい,下記の式(I)で示される化合物である。式(I)で示される化合物の塩及びその等価物もグルコーステトラサッカライドに含まれる。グルコーステトラサッカライドはGlc4と略して表記することができる。実施例2で用いられる6-α-D-Glucopyranosyl Maltotrioseとの語はグルコーステトラサッカライドと同義である。
【0024】
【化1】
【0025】
本発明において「リゾ―モノシアロガングリオシドGM1」というときは,下記の式(II)で示されるスフィンゴ脂質であるモノシアロガングリオシドGM1が,脱アシル化されたリゾ体である,下記の式(III)で示される化合物のことであり,下記の式(III)で示される化合物の塩及びその等価物もリゾ―モノシアロガングリオシドGM1に含まれる。モノシアロガングリオシドGM1はGM1と略して表記することができ,リゾ―モノシアロガングリオシドGM1はlyso-GM1と略して表記することができる。
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
本発明において「Fuc1-α-6GlcNAc1-β-Asn」というときは,下記の式(IV)で示される化合物のことであり,下記の式(IV)で示される化合物の塩及びその等価物もFuc1-α-6GlcNAc1-β-Asnに含まれる。Fuc1-α-6GlcNAc1-β-AsnはFuc-GlcNAc-Asnと略して表記することができる。
【0029】
【化4】
【0030】
本発明において「リゾ―スルファチド」というときは,下記の式(V)で示される糖脂質であるスルファチドが,脱アシル化されたリゾ体である,下記の式(VI)で示される化合物のことであり,下記の式(VI)で示される化合物の塩及びその等価物もリゾ―スルファチドに含まれる。リゾ―スルファチドはlyso-sulfatideと表記することができる。
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
本発明の脳脊髄液中に含まれるHex4を定量する方法は,好ましくは,脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,該溶出液を質量分析に供するステップと,を含んでなるものである。
【0034】
本発明の脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1を定量する方法は,好ましくは,脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,該溶出液を質量分析に供するステップと,を含んでなるものである。
【0035】
本発明の脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量する方法は,好ましくは,脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,該溶出液を質量分析に供するステップと,を含んでなるものである。
【0036】
本発明の脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideを定量する方法は,好ましくは,脳脊髄液を含む溶液に内部標準物質を添加するステップと,該脳脊髄液を含む溶液を液体クロマトグラフィーに付して溶出液を得るステップと,該溶出液を質量分析に供するステップと,を含んでなるものである。
【0037】
本発明において,「内部標準物質」というときは,検量線を作成するための標準試料,及び測定試料に一定量添加される物質であって,測定された内部標準物質に由来する測定値と,分析対象成分に由来する測定値との比の値を求めることによって,分析対象成分の量を相対的に算出する方法のために添加される物質のことをいう。
【0038】
脳脊髄液が由来する生物種に特に制限はないが,マウス,ラット,サルを含む実験動物,又はヒトである。
【0039】
脳脊髄液に含まれるHex4の定量値は,脳中に含まれるグリコーゲンの定量値と正の相関を有する。従って,脳脊髄液に含まれるHex4を定量することにより,脳中に含まれるグリコーゲンを間接的に定量することができる。また,脳脊髄液に含まれるHex4の濃度の変化を測定することにより,脳中に含まれるグリコーゲンの濃度の変化を間接的に定量することができる。従って,例えば,実験動物の脳脊髄液に含まれるHex4を定量することにより,脳脊髄液に蓄積したHex4及び/又はグリコーゲンを減少させる薬効を有する薬剤をスクリーニングすることができる。また,ヒトの脳脊髄液に含まれるHex4を定量することにより,中枢神経系にHex4及び/又はグリコーゲンが蓄積する疾患に罹患した患者の診断を行うことができる。更に,かかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したHex4及び/又はグリコーゲンを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。中枢神経系にグリコーゲンが蓄積する疾患としては,例えば酸性α-グルコシダーゼ(GAA)を遺伝的に欠損することにより発症するポンペ病が挙げられる。ポンペ病の患者に対して体内に蓄積したグリコーゲンを減少させるために行われる治療としては,例えば,GAAを補充する酵素補充療法がある。但し,この酵素補充療法は,中枢神経系に蓄積したグリコーゲンを減少させるために行われるものではない。
【0040】
脳脊髄液に含まれるlyso-GM1の定量値は,脳中に含まれるlyso-GM1の定量値と正の相関を有する。従って,脳脊髄液に含まれるlyso-GM1を定量することにより,脳中に含まれるlyso-GM1を間接的に定量することができる。また,脳脊髄液に含まれるlyso-GM1の濃度の変化を測定することにより,脳中に含まれるlyso-GM1の濃度の変化を間接的に定量することができる。従って,例えば,実験動物の脳脊髄液に含まれるlyso-GM1を定量することにより,脳脊髄液に蓄積したlyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1を減少させる薬効を有する薬剤をスクリーニングすることができる。また,ヒトの脳脊髄液に含まれるlyso-GM1を定量することにより,中枢神経系にlyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が蓄積する疾患に罹患した患者の診断を行うことができる。更に,かかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したlyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1を減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。中枢神経系にモノシアロガングリオシドGM1が蓄積する疾患としては,例えばβ―ガラクトシダーゼ(β―Gal)を遺伝的に欠損することにより発症するGM1ガングリオシドーシスが挙げられる。GM1ガングリオシドーシスの患者に対して体内に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1を減少させるために行われる治療としては,例えば,β―Galを補充する酵素補充療法が想定されるが,この酵素補充療法は,中枢神経系に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1を減少させるために行われるものではない。
【0041】
脳脊髄液に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの定量値は,脳中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの定量値と正の相関を有する。従って,脳脊髄液に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量することにより,脳中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを間接的に定量することができる。また,脳脊髄液に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度の変化を測定することにより,脳中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度の変化を間接的に定量することができる。従って,例えば,実験動物の脳脊髄液に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量することにより,脳脊髄液に蓄積したFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させる薬効を有する薬剤をスクリーニングすることができる。また,ヒトの脳脊髄液に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量することにより,中枢神経系にFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが蓄積する疾患に罹患した患者の診断を行うことができる。更に,かかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。中枢神経系にα-L-フコシドが蓄積する疾患としては,例えばα-L-フコシダーゼ(FUCA1)を遺伝的に欠損することにより発症するフコシドーシスが挙げられる。フコシドーシスの患者に対して体内に蓄積したα-L-フコシドを減少させるために行われる治療としては,例えば,FUCA1を補充する酵素補充療法が想定されるが,この酵素補充療法は,中枢神経系に蓄積したα-L-フコシドを減少させるために行われるものではない。
【0042】
脳脊髄液に含まれるlyso-sulfatideの定量値は,脳中に含まれるlyso-sulfatideの定量値と正の相関を有する。従って,脳脊髄液に含まれるlyso-sulfatideを定量することにより,脳中に含まれるlyso-sulfatideを間接的に定量することができる。また,脳脊髄液に含まれるlyso-sulfatideの濃度の変化を測定することにより,脳中に含まれるlyso-sulfatideの濃度の変化を間接的に定量することができる。従って,例えば,実験動物の脳脊髄液に含まれるlyso-sulfatideを定量することにより,脳脊髄液に蓄積したlyso-sulfatide及び/又はスルファチドを減少させる薬効を有する薬剤をスクリーニングすることができる。また,ヒトの脳脊髄液に含まれるlyso-sulfatideを定量することにより,中枢神経系にlyso-sulfatide及び/又はスルファチドが蓄積する疾患に罹患した患者の診断を行うことができる。更に,かかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したlyso-sulfatide及び/又はスルファチドを減少させるために行われる治療の効果を調べること等ができる。中枢神経系にスルファチドが蓄積する疾患としては,例えばアリールスルファターゼA(ARSA)を遺伝的に欠損することにより発症する異染性白質ジストロフィーが挙げられる。異染性白質ジストロフィーの患者に対して体内に蓄積したスルファチドを減少させるために行われる治療としては,例えば,ARSAを補充する酵素補充療法が想定されるが,この酵素補充療法は,中枢神経系に蓄積したスルファチドを減少させるために行われるものではない。
【0043】
本発明において脳脊髄液は,実験動物等の被験体から採取したものを直ちに分析してもよいが,凍結させて保存したものを解凍して分析することもできる。多数の脳脊髄液を分析する場合は,脳脊髄液を凍結保存しておき,これらを一度に分析することで作業効率を上げることができる。
【0044】
本発明の一実施形態において,脳脊髄液は液体クロマトグラフィーに付され,Hex4を含む溶出液が分画される。この液体クロマトグラフィーで用いられる固定相の材料に,脳脊髄液からHex4を含む溶出液が分画できるものである限り特に制限はないが,好ましくは,Hex4を一旦吸着させた後に溶出させることのできるものである。固定相の材料は,Hex4をイオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により吸着させることのできるものが好ましい。Hex4は,極性が高い。従って,これを一旦吸着させた後に溶出させることのできる材料としては,親水性相互作用によりHex4を保持することができるものが好適に使用できる。このような高速液体クロマトグラフィーの好ましい固定相の材料の一例としては,第一級アミド基を含むものが挙げられる。下記の実施例6において使用されているACQUITY UPLC BEH Amide Column(日本ウォーターズ社)は,第一級アミド基を含む固定相材料の好適な一例である。
【0045】
本発明の一実施形態において,脳脊髄液は液体クロマトグラフィーに付され,lyso-GM1を含む溶出液が分画される。この液体クロマトグラフィーで用いられる固定相の材料に,脳脊髄液からlyso-GM1を含む溶出液が分画できるものである限り特に制限はないが,好ましくは,lyso-GM1を一旦吸着させた後に溶出させることのできるものである。固定相の材料は,lyso-GM1をイオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により吸着させることのできるものが好ましい。lyso-GM1は,炭素鎖が長い。従って,これを一旦吸着させた後に溶出させることのできる材料として,疎水性相互作用によりlyso-GM1を保持することができるものが好適に使用できる。このような高速液体クロマトグラフィーの好ましい固定相の材料の一例としては,ODS(オクタデシルシリル基)で表面が修飾された多孔性シリカゲルが挙げられる。下記の実施例16において使用されているCadenza CW-C18(インタクト社)は,ODSカラムの好適な一例である。
【0046】
本発明の一実施形態において,脳脊髄液は液体クロマトグラフィーに付され,Fuc-GlcNAc-Asnを含む溶出液が分画される。この液体クロマトグラフィーで用いられる固定相の材料に,脳脊髄液からFuc-GlcNAc-Asnを含む溶出液が分画できるものである限り特に制限はないが,好ましくは,Fuc-GlcNAc-Asnを一旦吸着させた後に溶出させることのできるものである。固定相の材料は,Fuc-GlcNAc-Asnをイオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により吸着させることのできるものが好ましい。Fuc-GlcNAc-Asnは,極性が高い。従って,これを一旦吸着させた後に溶出させることのできる材料としては,親水性相互作用によりFuc-GlcNAc-Asnを保持することができるものが好適に使用できる。このような高速液体クロマトグラフィーの好ましい固定相の材料の一例としては,アミノプロピル基で表面が修飾された多孔性シリカゲルが挙げられる。下記の実施例26において使用されているUnison UK-Amino(インタクト社)は,アミノプロピル型カラムの好適な一例である。
【0047】
本発明の一実施形態において,脳脊髄液は液体クロマトグラフィーに付され,lyso-sulfatideを含む溶出液が分画される。この液体クロマトグラフィーで用いられる固定相の材料に,脳脊髄液からlyso-sulfatideを含む溶出液が分画できるものである限り特に制限はないが,好ましくは,lyso-sulfatideを一旦吸着させた後に溶出させることのできるものである。固定相の材料は,lyso-sulfatideをイオン性相互作用,疎水性相互作用,親水性相互作用等により吸着させることのできるものが好ましい。lyso-sulfatideは,炭素鎖が長い。従って,これを一旦吸着させた後に溶出させることのできる材料としては,疎水性相互作用によりlyso-sulfatideを保持することができるものが好適に使用できる。このような高速液体クロマトグラフィーの好ましい固定相の材料の一例としては,ODS(オクタデシルシリル基)で表面が修飾された多孔性シリカゲルが挙げられる。下記の実施例35において使用されているCadenza CW-C18(インタクト社)は,ODSカラムの好適な一例である。
【0048】
脳脊髄液には,液体クロマトグラフィーに付す前に,一定量の内部標準物質が添加される。本発明の一実施形態において内部標準物質は,特に,下記の式(VII)で示されるGlc4分子中,星印を付した6個の炭素原子の何れか一つ又は複数が13Cであるものであり,好ましくは,これら6個の炭素原子の全てが13CであるGlc4(6-a-D-Glucopyranosyl maltotriose-13C6)である。この内部標準物質は,特に脳脊髄液中に含まれるHex4を定量する場合に添加される。
【0049】
【化7】
【0050】
脳脊髄液中に含まれるHex4を定量する場合に添加される内部標準物質として,下記の式(XXV)で示されるM4分子中,星印を付した6個の炭素原子の何れか一つ又は複数が13Cであるものを使用することもできる。これら6個の炭素原子の全てが13CであるM4は内部標準物質として好適である。
【0051】
【化25】
【0052】
脳脊髄液には,液体クロマトグラフィーに付す前に,一定量の内部標準物質が添加される。本発明の一実施形態において内部標準物質は,特に,下記の式(VIII)で示される化合物N-Glycinated lyso-ceramide trihexosideである。この内部標準物質は,特に脳脊髄液中に含まれるリゾ―モノシアロガングリオシドGM1を定量する場合に添加される。
【0053】
【化8】
【0054】
脳脊髄液には,液体クロマトグラフィーに付す前に,一定量の内部標準物質が添加される。本発明の一実施形態において内部標準物質は,特に,下記の式(IX)で示される化合物Fuc1-α-3GlcNAc1-β-OMe(Fuc-GlcNAc-OMe)である。この内部標準物質は,特に脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを定量する場合に添加される。
【0055】
【化9】
【0056】
脳脊髄液には,液体クロマトグラフィーに付す前に,一定量の内部標準物質が添加される。本発明の一実施形態において内部標準物質は,特に,下記の式(X)で示される化合物N-Glycinated lyso-sulfatideである。この内部標準物質は,特に脳脊髄液中に含まれるリゾ―スルファチドを定量する場合に添加される。
【0057】
【化10】
【0058】
液体クロマトグラフィーの流出口からの流路は,質量分析装置に連結されており,液体クロマトグラフィーからの溶出液は,順次,質量分析に送り込まれる。
【0059】
このとき用いることのできる質量分析装置に特に限定はない。例えば,質量分析装置は,分析対象の分子をイオン化するためのイオン源として,光イオン化法(APPI),電子イオン化法(EI),化学イオン法,電気脱離法,高速原子衝撃法(FAB),マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI),及びエレクトロスプレーイオン化法(ESI)を含む,何れのイオン化法を採用したものであってもよい。また,質量分析装置は,イオン化された分子を分離するための分析部が,磁場偏向型,四重極型,イオントラップ型,及びタンデム四重極型を含む,何れの型のものであってもよい。
【0060】
陽イオンモードで作動させるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)で運用されるイオン源と,タンデム四重極型の分析部とを有する質量分析装置は,本発明の方法において好適に用いることができる。タンデム四重極型質量分析装置は,マスフィルターとして機能する四重極(Q1),衝突(コリジョン)セルとして機能する四重極(Q2),及びマスフィルターとして機能する四重極(Q3)を直列に配置した質量分析装置である。四重極(Q1)において,イオン化により生じた複数のイオンから,イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて,目的のプレカーサーイオンが分離される。次いで,コリジョンセル(Q2)でプレカーサーイオンを不活性ガス等(例えばアルゴン)と衝突させてプロダクトイオン(フラグメントイオン)を生成させる。次いで,四重極(Q3)において,得られたプロダクトイオンを質量電荷比(m/z)に基づいて,選択的に検出することができ,ひいてはプロダクトイオンの元である物質を定量できる。
【0061】
以下にHex4の一つであるGlc4を例にとり,タンデム四重極型質量分析装置により,Glc4から,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,Glc4をイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が665.1のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XI)に示す。
【0062】
【化11】
【0063】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が179.0のプロダクトイオン([M-H]-)が得られる。プロダクトイオン([M-H]-)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XII)に示す。
【0064】
【化12】
【0065】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,Glc4から生じたプロダクトイオンを測定することにより,試料中に含まれるGlc4の量を測定することができる。なお,脳脊髄液にはGlc4とGlc4以外のHex4が存在し,Glc4以外のHex4の中には,液体クロマトグラフィーによりGlc4とは完全に分離せず,かつ,タンデム四重極型質量分析装置測定値により生成されるプロダクトイオンが同一のものも存在する。従って,脳脊髄液の測定値には,Glc4以外のHex4に由来する値も含まれることになるが,脳脊髄液に存在するHex4の多くは,式(XII)で示されるプロダクトイオンを生じると考えられることから,Glc4の測定値をHex4の測定値とみなすこともできる。例えば,式(XXV)で示されるM4も,上記処理により,式(XII)で示されるプロダクトイオンを生じると考えられる。脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が179.0のプロダクトイオン(XII)に対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。この面積を,同溶出液に含まれる内部標準物質に由来するプロダクトイオンに対応するピーク(内部標準ピーク)の面積で除した値を求める。なお,内部標準物質が,上記の式(VII)で示されるGlc4分子中,星印を付した6個の炭素原子の全てが13Cであるものである場合,内部標準物質に由来するプロダクトイオンの質量電荷比(m/z)は185.0となる。
【0066】
検量線用標準試料を,液体クロマトグラフィーと質量分析法とにより同様にして分析し,各検量線用標準試料について検出ピークの面積を内部標準ピークの面積で除し,得られた値に基づいて検量線を作成する。そして,この検量線に,脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を分析して得られた値を内挿することにより,試料中に含まれるHex4の濃度とみなすことのできる値を測定することができる。本発明の一実施形態において,Hex4の濃度というときは,このようにして得られた測定値のことである。内部標準物質としてGlc4に代えてM4を用いることもできる。
【0067】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,lyso-GM1から,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,lyso-GM1をイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が640.8のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XIII)に示す。
【0068】
【化13】
【0069】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が282.3のプロダクトイオン([M+2H]2+)が得られる。プロダクトイオン([M+2H]2+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XIV)に示す。
【0070】
【化14】
【0071】
次にタンデム四重極型質量分析装置により,内部標準物質N-Glycinated lyso-ceramide trihexosideから,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,N-Glycinated lyso-ceramide trihexosideをイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が843.5のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XV)に示す。
【0072】
【化15】
【0073】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が264.3のプロダクトイオン([M+H]+)が得られる。プロダクトイオン([M+H]+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XVI)に示す。
【0074】
【化16】
【0075】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,lyso-GM1から生じたプロダクトイオンを測定することにより,試料中に含まれるlyso-GM1の量を測定することができる。脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が282.3のプロダクトイオン(XIV)に対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。この面積を,同溶出液に含まれる内部標準物質に由来するプロダクトイオンに対応するピーク(内部標準ピーク)の面積で除した値を求める。なお,内部標準物質に由来するプロダクトイオンの質量電荷比(m/z)は264.3となる。
【0076】
検量線用標準試料を,液体クロマトグラフィーと質量分析法とにより同様にして分析し,各検量線用標準試料について検出ピークの面積を内部標準ピークの面積で除し,得られた値に基づいて検量線を作成する。そして,この検量線に,脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を分析して得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるlyso-GM1の濃度を測定することができる。
【0077】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,Fuc-GlcNAc-Asnから,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,Fuc-GlcNAc-Asnをイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が482.2のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XVII)に示す。
【0078】
【化17】
【0079】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が336.1のプロダクトイオン([M+H]+)が得られる。プロダクトイオン([M+H]+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XVIII)に示す。
【0080】
【化18】
【0081】
次にタンデム四重極型質量分析装置により,内部標準物質Fuc-GlcNAc-OMeから,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,Fuc-GlcNAc-OMeをイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が382.2のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XIX)に示す。
【0082】
【化19】
【0083】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が204.1のプロダクトイオン([M+H]+)が得られる。プロダクトイオン([M+H]+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XX)に示す。
【0084】
【化20】
【0085】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,Fuc-GlcNAc-Asnから生じたプロダクトイオンを測定することにより,試料中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの量を測定することができる。脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が336.1のプロダクトイオン(XVIII)に対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。この面積を,同溶出液に含まれる内部標準物質に由来するプロダクトイオンに対応するピーク(内部標準ピーク)の面積で除した値を求める。なお,内部標準物質に由来するプロダクトイオンの質量電荷比(m/z)は204.1となる。
【0086】
検量線用標準試料を,液体クロマトグラフィーと質量分析法とにより同様にして分析し,各検量線用標準試料について検出ピークの面積を内部標準ピークの面積で除し,得られた値に基づいて検量線を作成する。そして,この検量線に,脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を分析して得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度を測定することができる。
【0087】
以下にタンデム四重極型質量分析装置により,lyso-sulfatideから,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,lyso-sulfatideをイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が542.3のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XXI)に示す。
【0088】
【化21】
【0089】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が282.3のプロダクトイオン([M+H]+)が得られる。プロダクトイオン([M+H]+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XXII)に示す。
【0090】
【化22】
【0091】
次にタンデム四重極型質量分析装置により,内部標準物質N-Glycinated lyso-sulfatideから,プレカーサーイオン及びプロダクトイオンを生成させる方法の具体例を例示する。まず,N-Glycinated lyso-sulfatideをイオン化することにより,質量電荷比(m/z)が599.3のプレカーサーイオンが得られる。プレカーサーイオンの理論的に考えられる化学式の一つを下記の式(XXIII)に示す。
【0092】
【化23】
【0093】
上記のプレカーサーイオンを分離し,コリジョンセル(Q2)で開裂させることにより,質量電荷比(m/z)が339.3のプロダクトイオン([M+H]+)が得られる。プロダクトイオン([M+H]+)の理論的に考えられる化学式を下記の式(XXIV)に示す。
【0094】
【化24】
【0095】
上記の液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを用いた方法により,lyso-sulfatideから生じたプロダクトイオンを測定することにより,試料中に含まれるlyso-sulfatideの量を測定することができる。脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を,タンデム四重極型質量分析装置を用いて分析することにより,質量電荷比(m/z)が282.3のプロダクトイオン(XXII)に対応するクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を算出する。この面積を,同溶出液に含まれる内部標準物質に由来するプロダクトイオンに対応するピーク(内部標準ピーク)の面積で除した値を求める。なお,内部標準物質に由来するプロダクトイオンの質量電荷比(m/z)は339.3となる。
【0096】
検量線用標準試料を,液体クロマトグラフィーと質量分析法とにより同様にして分析し,各検量線用標準試料について検出ピークの面積を内部標準ピークの面積で除し,得られた値に基づいて検量線を作成する。そして,この検量線に,脳脊髄液を液体クロマトグラフィーに付して得られた溶出液を分析して得られた値を検量線に内挿することにより,試料中に含まれるlyso-sulfatideの濃度を測定することができる。
【0097】
グリコーゲンが体内に蓄積する疾患の一つにポンペ病が挙げられる。ポンペ病の治療法として,酸性α―グルコシダーゼを点滴静注することにより患者に補充する酵素補充療法が行われている。酵素補充療法の効果を評価する方法としては,筋組織中のグリコーゲン濃度を定量する方法が一般的に行われている。しかしながら,中枢神経系(CNS)の異常に対しては,酵素が血液脳関門(Blood-Brain Barrier,BBB)を通過できないことから有効ではない。従って,通常の酵素補充療法の効果を評価するという目的においては,脳脊髄液中に含まれるグリコーゲン濃度は測定対象とされていない。
【0098】
ポンペ病はGAA活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。この酵素の欠損又は欠失により,患者の体内にはグリコーゲンが蓄積する。ポンペ病の症状は心筋,骨格筋,及び横隔膜への侵襲症状が中心となる。臨床上,ポンペ病は乳児古典型,幼児型,成人型の三種類に分類されるが,何れにおいても心筋,骨格筋及び横隔膜へのグリコーゲンの蓄積による筋力低下,呼吸障害が認められる。近年,ポンペ病に伴う呼吸障害については,横隔膜の筋収縮能の障害のみが原因ではなく,呼吸器を制御する横隔神経の障害も原因のひとつであると考えられている。してみると,中枢神経系に異常を伴わないと考えられていたポンペ病についても,中枢神経系に蓄積したグリコーゲンを除去することが重要と考えられる。しかしながら,中枢神経系の組織中に蓄積したグリコーゲンを測定することは中枢神経系の細胞を生検する必要があり現実的ではない。
【0099】
実施例10に示すとおり,本発明の一実施形態の方法で測定された脳脊髄液中に含まれるHex4の定量値は,同一個体の脳組織中に含まれるグリコーゲンの濃度と相関する。すなわち,本発明の方法によれば,脳脊髄液中に含まれるHex4を測定することにより,中枢神経系に蓄積したグリコーゲン量を評価することができる。
【0100】
上述したとおり,ポンペ病についても,中枢神経系に蓄積したグリコーゲンを除去することが重要と考えられる。静脈注射等により投与した薬物を中枢神経系に到達させるためには,血液脳関門を通過させる必要がある。血液脳関門を通過することができ,中枢神経系で効果を発揮しうるポンペ病の治療薬を開発する場合には,中枢神経系での薬効を評価する必要が生じる。本発明の方法は,かかる要請に応えるものである。血液脳関門を通過させることなく中枢神経系に直接投与するタイプの薬剤を開発する場合についても,同様のことがいえる。
【0101】
ポンペ病に限らず,Hex4及び/又はグリコーゲンが中枢神経系に蓄積する疾患の患者は,本発明の一実施形態の方法により,脳脊髄液中に含まれるHex4の濃度を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0102】
Hex4及び/又はグリコーゲンが中枢神経系に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療の前及び治療の後で患者の脳脊髄液中に含まれるHex4の濃度を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の血液中に含まれるHex4の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0103】
モノシアロガングリオシドGM1が体内に蓄積する疾患の一つにGM1ガングリオシドーシスが挙げられる。GM1ガングリオシドーシスの治療法として,β―ガラクトシダーゼを点滴静注することにより患者に補充する酵素補充療法が想定されるが,現在,臨床応用されている当該治療法はない。仮に酵素補充療法を行った場合,その効果を評価する方法としては,筋組織中のモノシアロガングリオシドGM1濃度を定量する方法が想定される。しかしながら,中枢神経系(CNS)の異常に対しては,酵素が血液脳関門(Blood-Brain Barrier,BBB)を通過できないことから有効ではない。従って,通常の酵素補充療法の効果を評価するという目的においては,脳脊髄液中に含まれるモノシアロガングリオシドGM1濃度は測定対象とされない。
【0104】
GM1ガングリオシドーシスはβ―ガラクトシダーゼ活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。この酵素の欠損又は欠失により,患者の体内にはモノシアロガングリオシドGM1が蓄積する。GM1ガングリオシドーシスの症状は中枢神経障害が中心となる。臨床上,GM1ガングリオシドーシスは乳児型,若年型,成人型,及びモルキオ病B型の四種類に分類されるが,モルキオ病B型を除く何れにおいても中枢神経障害が認められる。従って,GM1ガングリオシドーシスについては中枢神経系に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1を除去することが重要と考えられる。しかしながら,中枢神経系の組織中に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1を測定することは中枢神経系の細胞を生検する必要があり現実的ではない。
【0105】
実施例20に示すとおり,本発明の一実施形態の方法で測定された脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1の定量値は,同一個体の脳組織中に含まれるモノシアロガングリオシドGM1の濃度と相関する。すなわち,本発明の方法によれば,脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1を測定することにより,中枢神経系に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1量を評価することができる。
【0106】
上述したとおり,GM1ガングリオシドーシスについても,中枢神経系に蓄積したモノシアロガングリオシドGM1を除去することが重要と考えられる。静脈注射等により投与した薬物を中枢神経系に到達させるためには,血液脳関門を通過させる必要がある。血液脳関門を通過することができ,中枢神経系で効果を発揮しうるGM1ガングリオシドーシスの治療薬を開発する場合には,中枢神経系での薬効を評価する必要が生じる。本発明の方法は,かかる要請に応えるものである。血液脳関門を通過させることなく中枢神経系に直接投与するタイプの薬剤を開発する場合についても,同様のことがいえる。
【0107】
GM1ガングリオシドーシスに限らず,lyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が中枢神経系に蓄積する疾患の患者は,本発明の一実施形態の方法により,脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1の濃度を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0108】
lyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が中枢神経系に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療の前及び治療の後で患者の脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1の濃度を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の血液中に含まれるlyso-GM1の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0109】
α-L-フコシドが体内に蓄積する疾患の一つにフコシドーシスが挙げられる。フコシドーシスの治療法として,α-L-フコシダーゼを点滴静注することにより患者に補充する酵素補充療法が想定されるが,現在,臨床応用されている当該治療法はない。仮に酵素補充療法を行った場合,その効果を評価する方法としては,筋組織中のα-L-フコシド濃度を定量する方法が想定される。しかしながら,中枢神経系(CNS)の異常に対しては,酵素が血液脳関門(Blood-Brain Barrier,BBB)を通過できないことから有効ではない。従って,通常の酵素補充療法の効果を評価するという目的においては,脳脊髄液中に含まれるα-L-フコシド濃度は測定対象とされない。
【0110】
フコシドーシスはα-L-フコシダーゼ活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。この酵素の欠損又は欠失により,患者の体内にはα-L-フコシドが蓄積する。フコシドーシスの症状は中枢神経障害が中心となる。臨床上,フコシドーシスは重症型及び軽症型の二種類に分類されるが,何れにおいても中枢神経障害が認められる。従って,フコシドーシスについては中枢神経系に蓄積したα-L-フコシドを除去することが重要と考えられる。しかしながら,中枢神経系の組織中に蓄積したα-L-フコシドを測定することは中枢神経系の細胞を生検する必要があり現実的ではない。
【0111】
実施例29に示すとおり,本発明の一実施形態の方法で測定された脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの定量値は,同一個体の脳組織中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度と相関する。すなわち,本発明の方法によれば,脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnを測定することにより,中枢神経系に蓄積したFuc-GlcNAc-Asn量を評価することができる。
【0112】
上述したとおり,フコシドーシスについても,中枢神経系に蓄積したα-L-フコシドを除去することが重要と考えられる。静脈注射等により投与した薬物を中枢神経系に到達させるためには,血液脳関門を通過させる必要がある。血液脳関門を通過することができ,中枢神経系で効果を発揮しうるフコシドーシスの治療薬を開発する場合には,中枢神経系での薬効を評価する必要が生じる。本発明の方法は,かかる要請に応えるものである。血液脳関門を通過させることなく中枢神経系に直接投与するタイプの薬剤を開発する場合についても,同様のことがいえる。
【0113】
フコシドーシスに限らず,Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが中枢神経系に蓄積する疾患の患者は,本発明の一実施形態の方法により,脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0114】
Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが中枢神経系に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療の前及び治療の後で患者の脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の血液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0115】
スルファチドが体内に蓄積する疾患の一つに異染性白質ジストロフィーが挙げられる。異染性白質ジストロフィーの治療法として,アリールスルファターゼA(ARSA)を点滴静注することにより患者に補充する酵素補充療法が想定されるが,現在,臨床応用されている当該治療法はない。仮に酵素補充療法を行った場合,その効果を評価する方法としては,筋組織中のスルファチド濃度を定量する方法が想定される。しかしながら,中枢神経系(CNS)の異常に対しては,酵素が血液脳関門(Blood-Brain Barrier,BBB)を通過できないことから有効ではない。従って,通常の酵素補充療法の効果を評価するという目的においては,脳脊髄液中に含まれるスルファチド濃度は測定対象とされていなかった。
【0116】
異染性白質ジストロフィーはアリールスルファターゼA(ARSA)活性を遺伝的に一部又は全て欠く疾患である。この酵素の欠損又は欠失により,患者の体内にはスルファチドが蓄積する。異染性白質ジストロフィーの症状は中枢神経障害が中心となる。臨床上,異染性白質ジストロフィーは乳児型,若年型,成人型の三種類に分類されるが,何れにおいても中枢神経障害が認められる。従って,異染性白質ジストロフィーについては中枢神経系に蓄積したスルファチドを除去することが重要と考えられる。しかしながら,中枢神経系の組織中に蓄積したスルファチドを測定することは中枢神経系の細胞を生検する必要があり現実的ではない。
【0117】
実施例38に示すとおり,本発明の一実施形態の方法で測定された脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideの定量値は,同一個体の脳組織中に含まれるlyso-sulfatideの濃度と相関する。すなわち,本発明の方法によれば,脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideを測定することにより,中枢神経系に蓄積したlyso-sulfatide量を評価することができる。
【0118】
上述したとおり,異染性白質ジストロフィーについても,中枢神経系に蓄積したスルファチドを除去することが重要と考えられる。静脈注射等により投与した薬物を中枢神経系に到達させるためには,血液脳関門を通過させる必要がある。血液脳関門を通過することができ,中枢神経系で効果を発揮しうる異染性白質ジストロフィーの治療薬を開発する場合には,中枢神経系での薬効を評価する必要が生じる。本発明の方法は,かかる要請に応えるものである。血液脳関門を通過させることなく中枢神経系に直接投与するタイプの薬剤を開発する場合についても,同様のことがいえる。
【0119】
異染性白質ジストロフィーに限らず,lyso-sulfatide及び/又はスルファチドが中枢神経系に蓄積する疾患の患者は,本発明の一実施形態の方法により,脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideの濃度を測定し,得られた測定値に基づいてスクリーニングすることができる。測定値が正常ヒトより異常に高値である場合,被験者は当該疾患の患者であると判断できる。本発明の方法は,かかる判断を行う目的で実施することができる。
【0120】
lyso-sulfatide及び/又はスルファチドが中枢神経系に蓄積する疾患の患者を治療した際の,その治療の効果は,治療の前及び治療の後で患者の脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideの濃度を測定し,治療後のこれらの減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,患者の血液中に含まれるlyso-sulfatideの濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。
【0121】
本発明の一実施形態の方法は,Hex4及び/又はグリコーゲンが中枢神経系に蓄積する疾患の治療剤を,モデル動物を用いて探索する際にも使用し得る。Hex4及び/又はグリコーゲンが中枢神経系に蓄積する疾患のモデル動物に薬剤を投与した際の,その治療の効果は,投与の前及び投与の後でモデル動物の脳脊髄液中に含まれるHex4の濃度を測定し,投与後のその減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,その薬剤の治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,モデル動物の血液中に含まれるHex4の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。ここで,モデル動物の動物種に特に制限はないが,例えば,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコであり,好ましくはサル,マウス,及びラットである。
【0122】
つまり分析対象となる脳脊髄液が取得される生物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒト,サル,マウス,及びラットである。
【0123】
本発明の一実施形態の方法は,lyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が中枢神経系に蓄積する疾患の治療剤を,モデル動物を用いて探索する際にも使用し得る。lyso-GM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が中枢神経系に蓄積する疾患のモデル動物に薬剤を投与した際の,その治療の効果は,投与の前及び投与の後でモデル動物の脳脊髄液中に含まれるlyso-GM1の濃度を測定し,投与後のその減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,その薬剤の治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,モデル動物の血液中に含まれるlyso-GM1の濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。ここで,モデル動物の動物種に特に制限はないが,例えば,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコであり,好ましくはサル,マウス,及びラットである。
【0124】
つまり分析対象となる脳脊髄液が取得される生物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒト,サル,マウス,及びラットである。
【0125】
本発明の一実施形態の方法は,Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが中枢神経系に蓄積する疾患の治療剤を,モデル動物を用いて探索する際にも使用し得る。Fuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが中枢神経系に蓄積する疾患のモデル動物に薬剤を投与した際の,その治療の効果は,投与の前及び投与の後でモデル動物の脳脊髄液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度を測定し,投与後のその減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,その薬剤の治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,モデル動物の血液中に含まれるFuc-GlcNAc-Asnの濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。ここで,モデル動物の動物種に特に制限はないが,例えば,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコであり,好ましくはサル,マウス,及びラットである。
【0126】
つまり分析対象となる脳脊髄液が取得される生物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒト,サル,マウス,及びラットである。
【0127】
本発明の一実施形態の方法は,lyso-sulfatide及び/又はスルファチドが中枢神経系に蓄積する疾患の治療剤を,モデル動物を用いて探索する際にも使用し得る。lyso-sulfatide及び/又はスルファチドが中枢神経系に蓄積する疾患のモデル動物に薬剤を投与した際の,その治療の効果は,投与の前及び投与の後でモデル動物の脳脊髄液中に含まれるlyso-sulfatideの濃度を測定し,投与後のその減少量を測定することにより,確認することができる。その減少量が大きい程,その薬剤の治療効果が高いと判断できる。本発明の方法は,かかる治療効果の確認を行う目的で実施することができる。例えば,モデル動物の血液中に含まれるlyso-sulfatideの濃度が,それぞれ治療前後に,好ましくは10%以上減少した場合に,例えば20%以上,30%以上,又は50%以上減少した場合に,治療効果があったと判断できる。ここで,モデル動物の動物種に特に制限はないが,例えば,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,及びネコであり,好ましくはサル,マウス,及びラットである。
【0128】
つまり分析対象となる脳脊髄液が取得される生物種に特に限定はないが,例えば,ヒト,サル,マウス,ラット,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウマ,ウシ,ブタ,イヌ,ネコであり,特にヒト,サル,マウス,及びラットである。
【実施例
【0129】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0130】
以下,実施例1~10はHex4の測定に関するものである。
【0131】
〔実施例1〕試薬溶液の調製
移動相A:25%水酸化アンモニウム溶液(Merck社)4 mLと水996 mLを混合し,これを移動相Aとした。
【0132】
移動相B:25%水酸化アンモニウム溶液(Merck社)4 mLとアセトニトリル(LC/MS用,富士フィルム和光純薬社)996 mLを混合し,これを移動相Bとした。
【0133】
〔実施例2〕Hex4測定用標準溶液の調製
Hex4測定用標準原液:6-a-D-Glucopyranosyl maltotriose(Glc4,Carbosynth社)1 mgを0.5 mLの純水に溶解して2 mg/mL溶液を調製し,これをHex4測定用標準原液とした。
【0134】
Hex4測定用検量線用標準溶液(H-SS-1~H-SS-8):メタノールを用い,下記の表1に従ってHex4測定用標準原液を順次希釈したものを調製し,これをHex4測定用検量線用標準溶液(H-SS-1~H-SS-8)とした。
【0135】
【表1】
【0136】
Hex4測定用QC用標準溶液(H-QS-1~H-QS-4):メタノールを用い,下記の表2に従ってHex4測定用検量線用標準溶液H-SS-8を順次希釈したものを調製し,これをHex4測定用QC用標準溶液(H-QS-1~H-QS-4)とした。
【0137】
【表2】
【0138】
〔実施例3〕Hex4測定用内部標準溶液の調製
Hex4測定用内部標準原液:6-a-D-Glucopyranosyl maltotriose-13C6(Toronto Research Chemicals社)(H-IS)1 mgを0.5 mLの純水に溶解して2 mg/mL溶液を調製し,これをHex4測定用内部標準原液とした。
【0139】
Hex4測定用内部標準溶液(H-IS-1, H-IS-2):メタノールを用い,下記の表3に従ってHex4測定用内部標準原液を順次希釈したものを調製し,これをHex4測定用内部標準溶液(H-IS-1, H-IS-2)とした。
【0140】
【表3】
【0141】
〔実施例4〕脳組織抽出液の調製及びCSFの分取
野生型マウス(C57BL/6,53週齢,オリエンタルバイオサービス社)及びポンペ病モデルマウスであるGAA KOマウス(C57BL/6,hTfR KI,GAA KO,50週齢,オリエンタルバイオサービス社)の脳を摘出し湿重量を秤量し,5 mL自立型メイリングチューブ(ワトソン社)に脳組織,脳組織の湿重量の20倍の純水,及びSUSビーズΦ5 mm(タイテック社)15個を添加し,ビーズ破砕機(μT-12,タイテック社)で組織を破砕した(2500 rpm,120 秒間)。破砕後の組織液を1.5 mLサンプリングチューブ(ザルスタット社)に移し,100℃で5分間加熱処理を行い,氷上に静置した。次いで,微量高速遠心機(MX-307,トミー精工社)を用い,13,000 rpm,4℃の条件で5分間遠心を行い,上清を回収して脳組織抽出液とした。また,脳を採取した各個体から脳脊髄液(CSF)を約15 μLずつ分取した。
【0142】
〔実施例5〕各種試料の調製
Hex4測定用検量線用標準試料(H-S0~H-S7):実施例2で調製したHex4測定用検量線用標準溶液(H-SS-1~H-SS-8)各100 μLと,実施例3で調製したHex4測定用内部標準溶液(H-IS-1)100 μLを,それぞれ下記の表4に従って混合し,攪拌した後,微量高速遠心機(MX-307,トミー精工社)を用い,16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,Hex4測定用検量線用標準試料(H-S0~H-S7)とした。
【0143】
【表4】
【0144】
Hex4測定用QC用標準試料(H-Q1~H-Q4):実施例2で調製したHex4測定用QC用標準溶液(H-QS-1~H-QS-4)各100 μLと,実施例3で調製したHex4測定用内部標準溶液(H-IS-1)100 μLを,それぞれ下記の表5に従って混合し,攪拌した後,16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,Hex4測定用QC用標準試料(H-Q1~H-Q4)とした。
【0145】
【表5】
【0146】
測定試料(脳):実施例4で得られた脳組織抽出液70 μLにメタノール 630 μLを添加し,攪拌した後, 16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清500 μLを分取し,遠心濃縮機(CC-105,トミー精工社)を用いて溶媒を留去した後,実施例3で調製したHex4測定用内部標準溶液H-IS-1を25 μL,及びメタノールを25 μL添加し,再溶解した。攪拌した後,16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0147】
測定試料(CSF):実施例4で得られたCSF 2 μLに,実施例3で調製したHex4測定用内部標準溶液H-IS-1 10 μL,メタノール 8 μLを添加し,攪拌した後,16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0148】
〔実施例6〕LC/MS/MS分析
LC/MS/MS分析は,親水性相互作用超高性能液体クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,NexeraX2(島津製作所)をセットした。また,分析カラムとしてACQUITY UPLC BEH Amide Column, 2.1 mm X 5 mm(日本ウォーターズ社)を,ガードカラムとしてACQUITY UPLC BEH Amide VanGuard Pre-column, 2.1mm X 50 mm(日本ウォーターズ社)を,それぞれ用いた。移動相として,実施例1で調製した移動相A及び移動相Bを用いた。また,カラム温度は40℃に設定した。
【0149】
45%(v/v)の移動相Aと55%(v/v)の移動相Bからなる混合液でカラムを平衡化した後,10 μLの試料を注入し,表6に示す移動相の条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流速は0.4 mL/分とした。
【0150】
【表6】
【0151】
MS/MS装置のイオン源パラメータ,MS内部パラメータ,及びバルブ切り替えプログラムを,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)の使用説明書に従って,それぞれ表7~9に示すように設定した。
【0152】
【表7】
【0153】
【表8】
【0154】
【表9】
【0155】
測定値(ng/mL)及び真度(%)は,それぞれ有効数字3桁とした。また,真度(%)については下記の計算式に基づいて算出した。
真度(%)=測定値/理論濃度×100
なお,上記計算式中の理論濃度とは,Hex4測定用検量線用標準試料又はHex4測定用QC用標準試料に添加されたHex4の濃度のことをいう。
【0156】
〔実施例7〕Hex4測定用検量線及び定量範囲の評価
実施例5で調製したHex4測定用検量線用標準試料及びHex4測定用QC用標準試料を測定し,各Hex4測定用検量線用標準試料及びHex4測定用QC用標準試料に含まれるHex4に由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。Hex4測定用検量線用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表10に,Hex4測定用QC用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表11に示す。1~1000 ng/mLの範囲において,Hex4測定用検量線用標準試料は真度96.8~109%で測定可能であり,Hex4測定用QC用標準試料は真度93.8~103%で測定可能であった。
【0157】
【表10】
【0158】
【表11】
【0159】
また,各Hex4測定用検量線用標準試料に含まれていたHex4に由来する検出ピークの面積(Hex4検出ピーク面積)の,Hex4測定用内部標準溶液に由来する検出ピーク(H-IS検出ピーク面積)に対する面積比(Hex4検出ピーク面積/H-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各Hex4測定用検量線用標準試料のHex4の濃度(Hex4濃度)を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出しHex4測定用検量線を作成した。得られたHex4測定用検量線は,1~1000 ng/mLの範囲において良好な直線性を示した(図1)。相関係数(r)は1.0000であった。
【0160】
〔実施例8〕脳及びCSF中におけるHex4濃度の測定
実施例7で得られたHex4測定用検量線及び実施例5で調製した測定試料を用い,野生型マウス及びポンペ病モデルマウスそれぞれの脳及びCSFにおけるのHex4濃度を算出した。測定結果を図2,3にそれぞれ示す。脳中及びCSF中のどちらにおいても,野生型マウスと比較して,ポンペ病モデルマウスではHex4の濃度が高いという結果が得られた。この結果は,脳中及びCSF中におけるHex4の濃度が,ポンペ病モデルマウスにおいて,野生型マウスと比較して増加することを示す。
【0161】
〔実施例9〕脳中グリコーゲン濃度の測定
実施例8で得られた脳及びCSF中におけるHex4濃度の測定値と脳中グリコーゲン濃度との相関を評価するために,野生型マウス及びポンペ病モデルマウスそれぞれの脳中グリコーゲン濃度を測定した。脳中のグリコーゲン濃度の測定は,Glycogen Assay Kit(Biovision社)を用いて測定した。Glycogen Assay Kitは,試料中に含まれるグリコーゲンをグルコースにまで分解し,このグルコースを定量することにより,グリコーゲンを定量するものである。
【0162】
脳及びCSF中のHex4濃度の測定に用いた,実施例4で調製した,脳組織抽出液及びCSFをグリコーゲン濃度測定試料とした。なお,検量線上限濃度を超えることが予測されたグリコーゲン濃度測定試料は,適宜希釈した。
【0163】
グリコーゲン検量線用標準溶液の調製:Glycogen Assay Kit内のスタンダード溶液 10 μLと水 990 μLを混合し,20 μg/mL グリコーゲン溶液を調製した。次いで,Glycogen Assay Kit内のHydrolysis Bufferを用い,下記の表12に従って20 μg/mL グリコーゲン溶液を希釈してグリコーゲン検量線用標準溶液(STD. 1~STD. 7,Blank)を調製した。
【0164】
【表12】
【0165】
脳中グリコーゲン濃度測定:F96 Black plate(ThermoFisher Scientific社)の各ウェルに,グリコーゲン検量線用標準溶液及びグリコーゲン濃度測定試料を50 μLずつ添加した。測定は,全てのグリコーゲン検量線用標準試料及びグリコーゲン濃度測定用組織抽出液について,2ウェルずつ使用して行った。Glycogen Assay Kit内のHydrolysis Enzyme Mixをグリコーゲン検量線用標準溶液2ウェル及びグリコーゲン濃度測定用組織抽出液1ウェルに1 μLずつ添加混合し,室温にて30分間反応させた。試料中に含まれる内因性のグルコース濃度を測定するために,Hydrolysis Enzyme Mixを未添加のウェルを設けた。Glycogen Assay Kit内のDevelopment Buffer,Development Enzyme Mix,及びOxiRed Probeを,48.7:1:0.3の割合となるように混合し,反応溶液とした。全てのウェルに反応溶溶液を50 μLずつ添加し,遮光下,室温で30分間反応させた。蛍光プレートリーダー(Gemini XPS,モレキュラーデバイスジャパン社)を用いて蛍光測定を実施した。(Ex/Em = 535/587 nm)
【0166】
脳中グリコーゲン濃度算出:グリコーゲン検量線用標準溶液の理論濃度とシグナル平均値からLinear fit curveにより検量線を作成し,各グルコース濃度を算出した。希釈した試料についてはその希釈率で補正した。Hydrolysis Enzyme Mixを添加した測定試料の値(総グルコース濃度値)から,Hydrolysis Enzyme Mixを添加していない測定試料のグルコース濃度(内因性グルコース濃度値)を減じた値をグリコーゲン濃度とした。
【0167】
結果:脳中グリコーゲン濃度の測定結果を図4に示す。脳中グリコーゲン濃度は,実施例8で得られた脳中Hex4濃度(図2)及びCSF中のHex4濃度(図3)と同様に,野生型マウスと比較してポンペ病モデルマウスで,その値が増加することが示された。
【0168】
〔実施例10〕脳及びCSF中におけるHex4濃度の脳中グリコーゲン濃度との比較
同一マウス個体における脳中のグリコーゲン濃度と脳中のHex4濃度の関係,脳中のグリコーゲン濃度とCSF中のHex4濃度の関係,及び脳中のHex4濃度とCSF中のHex4濃度の関係について,それぞれプロットした結果を図5~7に示す。決定係数(R)はそれぞれ0.9227,0.9345,0.9467であり,いずれにおいても高い相関性が認められた。
【0169】
これらの結果は,CSF中におけるHex4濃度が脳中のHex4濃度及びグリコーゲン濃度を反映することを示しており,脳中にHex4及び/又はグリコーゲンが蓄積する疾患の中枢神経系のバイオマーカーとして,CSF中のHex4濃度を用いることができることを示す。特に,CSF中のHex4濃度は,ポンペ病における中枢神経系のバイオマーカーとして用いることができることを示す。
【0170】
以下,実施例11~20はlyso-GM1の測定に関するものである。
【0171】
〔実施例11〕試薬溶液の調製
移動相C:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)1 mLと水499 mLを混合し,これを移動相Cとした。
【0172】
移動相D:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)1 mLとアセトニトリル(LC/MS用,富士フィルム和光純薬社)499 mLを混合し,これを移動相Dとした。
【0173】
60%メタノール溶液:メタノール及び水を60:40(v/v)の割合で混合し,これを60%メタノール溶液とした。
【0174】
65%メタノール溶液:メタノール及び水を65:35(v/v)の割合で混合し,これを65%メタノール溶液とした。
【0175】
90%メタノール溶液:メタノール及び水を90:10(v/v)の割合で混合し,これを90%メタノール溶液とした。
【0176】
〔実施例12〕lyso-GM1測定用標準溶液の調製
lyso-GM1測定用標準原液:lyso-Monosialoganglioside GM1(NH4+ salt)(lyso-GM1,Matreya LLC社)0.5 mgを0.5 mLのメタノールに溶解して1 mg/mL溶液を調製し,これをlyso-GM1測定用標準原液とした。
【0177】
lyso-GM1測定用検量線用標準溶液(G-SS-1~G-SS-8):メタノールを用い,下記の表13に従ってlyso-GM1測定用標準原液を順次希釈したものを調製し,これをlyso-GM1測定用検量線用標準溶液(G-SS-1~G-SS-8)とした。
【0178】
【表13】
【0179】
lyso-GM1測定用QC用標準溶液(G-QS-1~G-QS-4):メタノールを用い,下記の表14に従ってlyso-GM1測定用検量線用標準溶液G-SS-8を順次希釈したものを調製し,これをlyso-GM1測定用QC用標準溶液(G-QS-1~G-QS-4)とした。
【0180】
【表14】
【0181】
〔実施例13〕lyso-GM1測定用内部標準溶液の調製
lyso-GM1測定用内部標準原液:N-glycinated lyso-ceramide trihexoside(Matreya LLC社)(G-IS)1 mgを1 mLの純水に溶解して1 mg/mL溶液を調製し,これをlyso-GM1測定用内部標準原液とした。
【0182】
lyso-GM1測定用内部標準溶液(G-IS-1~G-IS-3):メタノールを用い,下記の表15に従ってlyso-GM1測定用内部標準原液を順次希釈したものを調製し,これをlyso-GM1測定用内部標準溶液(G-IS-1~G-IS-3)とした。
【0183】
【表15】
【0184】
〔実施例14〕組織抽出液,血漿及びCSFの調製
β―Gal KOホモマウス(C57BL/6,12週齢及び38週齢,オリエンタルバイオサービス社),β―Gal KOヘテロマウス(C57BL/6,12週齢,オリエンタルバイオサービス社),及び野生型マウス(C57BL/6,12週齢及び38週齢,オリエンタルバイオサービス社)の各組織(脳・脊髄・肺・肝臓・脾臓・腎臓・心臓・大腿四頭筋)を摘出した。各組織の湿重量をそれぞれ秤量し,5 mL自立型メイリングチューブ(ワトソン社)に組織,組織の湿重量の9倍の純水,及びSUSビーズΦ5 mm(タイテック社)15個を添加し,ビーズ破砕機(μT-12,タイテック社)で組織を破砕した(2500 rpm,300 秒間)。破砕後の組織液を約1 mLずつ分取し,組織抽出液とした。脳及び脊髄については,組織液を純水で10倍希釈したものも調製し,適宜測定に用いることとした。また,各個体から血漿を約300 μLずつ分取した。さらに,各個体から脳脊髄液(CSF)を約15 μLずつ分取した。
【0185】
〔実施例15〕各種試料の調製
lyso-GM1測定用検量線用標準試料(G-S0~G-S7):実施例12で調製したlyso-GM1測定用検量線用標準溶液(G-SS-1~G-SS-7)各150 μLと,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液(G-IS-1)150 μLを,それぞれ下記の表16に従って混合し,攪拌した後,微量高速遠心機(MX-307,トミー精工社)を用い,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,検量線用標準試料(G-S0~G-S7)とした。
【0186】
【表16】
【0187】
lyso-GM1測定用QC用標準試料(G-Q1~G-Q4):実施例12で調製したlyso-GM1測定用QC用標準溶液(G-QS-1~G-QS-4)各150 μLと,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液(G-IS-1)150 μLを,それぞれ下記の表17に従って混合し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,QC用標準試料(G-Q1~G-Q4)とした。
【0188】
【表17】
【0189】
測定試料(脳,脊髄,肺,肝臓,腎臓,大腿四頭筋,血漿):実施例14で得られた脳,脊髄,肺,肝臓,腎臓,大腿四頭筋の組織抽出液及び血漿各70 μLにそれぞれ純水210 μL及びメタノール408 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清590 μLを分取し,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液G-IS-2を10 μL添加し,得られた溶液600 μLのうち500 μLをOasis HLB 1 cc Vac Cartridge(30 mg, 30 μm,日本ウォーターズ社)に負荷した。60%メタノール溶液1 mLで洗浄した後,90%メタノール溶液1 mLで溶出した。遠心濃縮機(CC-105,トミー精工社)を用いて溶出画分800 μLの溶媒を留去した後,メタノール40 μLを添加し,再溶解した。攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0190】
測定試料(心臓):実施例14で得られた心臓の組織抽出液70 μLに純水210 μL及びメタノール408 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清590 μLを分取し,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液G-IS-2を10 μL添加して,得られる溶液600 μLのうち500 μLをOasis HLB 1 cc Vac Cartridge(30 mg, 30 μm,日本ウォーターズ社)に負荷した。60%メタノール溶液1 mL,続いて65%メタノール溶液250 μLで洗浄した後,90%メタノール溶液1 mLで溶出した。遠心濃縮機(CC-105,トミー精工社)を用いて溶出画分800 μLの溶媒を留去した後,メタノール40 μLを添加し,再溶解した。攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0191】
測定試料(脾臓):実施例14で得られた脾臓の組織抽出液70 μLに純水210 μL及びメタノール408 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清590 μLを分取し,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液G-IS-2を10 μL添加して,得られる溶液600 μLのうち500 μLをOasis HLB 1 cc Vac Cartridge(30 mg, 30 μm,日本ウォーターズ社)に負荷した。60%メタノール溶液1 mLで洗浄した後,90%メタノール溶液400 μLで溶出した。遠心濃縮機(CC-105,トミー精工社)を用いて溶出画分320 μLの溶媒を留去した後,メタノール40 μLを添加し,再溶解した。攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0192】
測定試料(CSF):実施例14で得られたCSF 2 μLに,実施例13で調製したlyso-GM1測定用内部標準溶液G-IS-1 10 μL,メタノール 8 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0193】
〔実施例16〕LC/MS/MS分析
LC/MS/MS分析は,逆相クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500又はTripleQuad6500+(エービー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,NexeraX2(島津製作所)をセットした。また,分析カラムとしてCadenza CW-C18 2 mm X 150 mm(インタクト社)を,ガードカラムとしてCW-C18 5 X 2 mm(インタクト社)を,それぞれ用いた。移動相として,実施例11で調製した移動相C及び移動相Dを用いた。また,カラム温度は40℃に設定した。
【0194】
62.5%(v/v)の移動相Cと37.5%(v/v)の移動相Dからなる混合液でカラムを平衡化した後,10 μLの試料を注入し,表18に示す移動相の条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流速は0.4 mL/分とした。
【0195】
【表18】
【0196】
MS/MS装置のイオン源パラメータ,MS内部パラメータ,及びバルブ切り替えプログラムを,QTRAP5500又はTripleQuad6500+(エービー・サイエックス社)の使用説明書に従って,それぞれ表19~21に示すように設定した。
【0197】
【表19】
【0198】
【表20】
【0199】
【表21】
【0200】
測定値(ng/mL)及び真度(%)は,それぞれ有効数字3桁とした。また,真度(%)については下記の計算式に基づいて算出した。
真度(%)=測定値/理論濃度×100
なお,上記計算式中の理論濃度とは,lyso-GM1測定用検量線用標準試料又はlyso-GM1測定用QC用標準試料に添加されたlyso-GM1の濃度のことをいう。
【0201】
〔実施例17〕lyso-GM1測定用検量線及び定量範囲の評価
実施例15で調製したlyso-GM1測定用検量線用標準試料及びlyso-GM1測定用QC用標準試料を測定し,各lyso-GM1測定用検量線用標準試料及びlyso-GM1測定用QC用標準試料に含まれるlyso-GM1に由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,lyso-GM1測定用内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。lyso-GM1測定用検量線用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表22に,lyso-GM1測定用QC用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表23に示す。1~1000 ng/mLの範囲において,lyso-GM1測定用検量線用標準試料は真度91.1~105%で測定可能であり,lyso-GM1測定用QC用標準試料は真度98.2~107%で測定可能であった。
【0202】
【表22】
【0203】
【表23】
【0204】
また,各lyso-GM1測定用検量線用標準試料に含まれていたlyso-GM1に由来する検出ピークの面積(lyso-GM1検出ピーク面積)の,lyso-GM1測定用内部標準溶液に由来する検出ピーク(G-IS検出ピーク面積)に対する面積比(lyso-GM1検出ピーク面積/G-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各lyso-GM1測定用検量線用標準試料のlyso-GM1の濃度(lyso-GM1濃度)を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出しlyso-GM1測定用検量線を作成した。得られたlyso-GM1測定用検量線は,1~1000 ng/mLの範囲において良好な直線性を示した(図8)。相関係数(r)は0.9999であった。
【0205】
〔実施例18〕野生型マウス及びモデルマウスの各組織,CSF,及び血漿中におけるlyso-GM1濃度の測定
実施例17で得られたlyso-GM1測定用検量線及び実施例15で調製した測定試料を用い,野生型マウス,β―Gal KOホモマウス及びβ―Gal KOヘテロマウスそれぞれの各組織,血漿,及びCSF中におけるlyso-GM1濃度を算出した。測定結果を図9~18にそれぞれ示す。いずれの組織,血漿,及びCSFにおいても,野生型マウスと比較して,β―Gal KOホモマウスではlyso-GM1の濃度が高いという結果が得られた。また,β―Gal KOヘテロマウスではlyso-GM1の濃度が低く,野生型マウスと同様であった。これらの結果は,各組織,血漿,及びCSF中におけるlyso-GM1の濃度が,β―Gal KOホモマウスにおいて,野生型マウスと比較して増加することを示す。なお,β―Gal KOホモマウスでの脳,CSF,及び脊髄,すなわち中枢神経系においては週齢依存的なlyso-GM1の濃度増加が確認できる。
【0206】
〔実施例19〕野生型マウス及びモデルマウスの脳組織中GM1濃度の測定
実施例18で得られた脳及びCSF中におけるlyso-GM1濃度の測定値と脳組織中GM1濃度との相関を評価するために,野生型マウス,β―Gal KOホモマウス及びβ―Gal KOヘテロマウスそれぞれの脳組織中GM1濃度を測定した。
【0207】
脳及びCSF中のlyso-GM1濃度の測定に用いた,実施例15で調製した,測定試料(脳)を脳組織中GM1濃度測定試料とし,以下の通り測定を行った。
【0208】
〔GM1測定用試薬溶液の調製〕
0.5 M酢酸アンモニウム溶液:酢酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬社)19.27 gに水を加えて全量500 mLとし,0.5 M酢酸アンモニウム溶液とした。
【0209】
25 mM酢酸アンモニウム溶液:0.5 M酢酸アンモニウム溶液25 mLと水475 mLを混合し,25 mM酢酸アンモニウム溶液とした。
【0210】
50 mM酢酸アンモニウム溶液:0.5 M酢酸アンモニウム溶液1 mLと水9 mLを混合し,50 mM酢酸アンモニウム溶液とした。
【0211】
移動相C’:0.5 M酢酸アンモニウム溶液25 mLとアセトニトリル(富士フィルム和光純薬社)400 mLを混合した後,水を加えて全量500mLとし,これを移動相C’とした。
【0212】
移動相D’:0.5 M酢酸アンモニウム溶液25 mLとアセトニトリル(富士フィルム和光純薬社)350 mLを混合した後,水を加えて全量500mLとし,これを移動相D’とした。
【0213】
〔GM1測定用標準溶液の調製〕
GM1測定用標準原液:Monosialoganglioside GM1(NH4+ salt)(GM1,Matreya LLC社)5 mgを1 mLのメタノールに溶解して5 mg/mL溶液を調製し,これをGM1測定用標準原液とした。
【0214】
GM1測定用検量線用標準溶液(GM1-SS-1~GM1-SS-8):ジメチルスルホキシド(DMSO)を用い,下記の表24に従ってGM1測定用標準原液を順次希釈してGM1測定用検量線用標準溶液(GM1-SS-1~GM1-SS-8)を調製した。
【0215】
【表24】
【0216】
〔GM1測定用内部標準溶液の調製〕
GM1測定用内部標準原液:N-omega-CD3-Octadecanoyl monosialoganglioside GM1(NH4+ salt)(Matreya LLC社)(以下,GM1-ISという。)0.5 mgを0.5 mLのメタノールに溶解して1 mg/mL溶液を調製し,これをGM1測定用内部標準原液とした。
【0217】
GM1測定用内部標準溶液(GM1-IS-1,GM1-IS-2):DMSOを用い,下記の表25に従ってGM1測定用内部標準原液を順次希釈してGM1測定用内部標準溶液(GM1-IS-1,GM1-IS-2)を調製した。
【0218】
【表25】
【0219】
〔各種試料の調製〕
GM1測定用検量線用標準試料(GM1-S0~GM1-S8):GM1測定用検量線用標準溶液(GM1-SS-1~GM1-SS-8)各50 μL,GM1測定用内部標準溶液(GM1-IS-1)50 μL,25 mM酢酸アンモニウム溶液100 μL,及びアセトニトリル800 μLを,それぞれ下記の表26に従って混合し,GM1測定用検量線用標準試料(GM1-S0~GM1-S8)とした。
【0220】
【表26】
【0221】
〔LC/MS/MS分析〕
LC/MS/MS分析は,逆相クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,Nexera LC-30A(島津製作所)をセットした。また,一次カラムとしてUK amino column 2.1 X 150 mm(インタクト社)を,二次カラムとしてKinetex HILIC 2.1 X 150 mm(フェノメネクス社)を,それぞれ用いた。移動相として,上記で調製した移動相C’及び移動相D’を用いた。また,カラム温度は60℃に設定した。
【0222】
移動相C’及び移動相D’で一次カラム及び二次カラムをそれぞれ平衡化した後,10 μLの試料を注入し,表27に示す移動相の条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相C’の流速は0.2 mL/分とし,移動相D’の流速は0.25 mL/分とした。
【0223】
【表27】
【0224】
MS/MS設定,GM1検出イオン種,各GM1イオン種検出条件,及びESIパラメーターを,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)の使用説明書に従って,それぞれ表28~表31に示すように設定した。検出イオンについては,各Isoform(GM1_d18:1_C18:0,GM1_d20:1_C18:0,GM1_d18:1_C16:0,GM1_d16:1_C18:0)で検出されたイオンクロマトグラム上のピークを積算後,1つのGM1ピークとして,解析に使用した。
【0225】
【表28】
【0226】
【表29】
【0227】
【表30】
【0228】
【表31】
【0229】
測定値(ng/mL)は,有効数字3桁とした。
【0230】
各GM1測定用検量線用標準試料に含まれていたGM1に由来する検出ピークの面積(GM1検出ピーク面積)の,GM1 内部標準溶液に由来する検出ピーク(GM1-IS検出ピーク面積)に対する面積比(GM1検出ピーク面積/GM1-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各GM1測定用検量線用標準試料のGM1の濃度(GM1濃度)を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出しGM1測定用検量線を作成した。
【0231】
〔野生型マウス及びモデルマウスの脳組織中におけるGM1濃度の測定〕
上記で得られたGM1測定用検量線及び実施例15で調製した測定試料(脳)を用い,野生型マウス,β―Gal KOホモマウス及びβ―Gal KOヘテロマウスそれぞれの脳組織中におけるGM1濃度を算出した。測定結果を図19に示す。野生型マウスと比較して,β―Gal KOホモマウスではGM1の濃度が高いという結果が得られた。また,β―Gal KOヘテロマウスではGM1の濃度が低く,野生型マウスと同様であった。この結果は,脳組織中におけるGM1の濃度が,β―Gal KOホモマウスにおいて,野生型マウスと比較して増加することを示す。なお,β―Gal KOホモマウスにおいては週齢依存的なGM1の濃度増加が確認できる。
【0232】
〔実施例20〕脳及びCSF中におけるlyso-GM1濃度と脳中GM1濃度の比較
同一マウス個体における脳中のlyso-GM1濃度とCSF中のlyso-GM1濃度の関係,脳中のGM1濃度とCSF中のlyso-GM1濃度の関係,及び脳中のlyso-GM1濃度と脳中のGM1濃度の関係について,それぞれプロットした結果を図20~22に示す。決定係数(R)はそれぞれ0.9909,0.9051,0.9375であり,いずれにおいても高い相関性が認められた。
【0233】
これらの結果は,CSF中におけるlyso-GM1濃度が脳中のlyso-GM1濃度及びGM1濃度を反映することを示しており,脳中にlyso-GM1及び/又はGM1が蓄積する疾患の中枢神経系のバイオマーカーとして,CSF中のlyso-GM1濃度を用いることができることを示す。特に,CSF中のlyso-GM1濃度は,GM1ガングリオシドーシスにおける中枢神経系のバイオマーカーとして用いることができることを示す。
【0234】
以下,実施例21~29はFuc-GlcNAc-Asnの測定に関するものである。
【0235】
〔実施例21〕試薬溶液の調製
移動相E:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)2 mLと水998 mLを混合し,これを移動相Eとした。
【0236】
移動相F:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)2 mLとアセトニトリル(LC/MS用,富士フィルム和光純薬社)998 mLを混合し,これを移動相Fとした。
〔実施例22〕Fuc-GlcNAc-Asn測定用標準溶液の調製
Fuc-GlcNAc-Asn測定用標準原液:Fuc1-α-6GlcNAc1-β-Asn(Fuc-GlcNAc-Asn,ペプチド研究所社)3.3 mgを16.5 mLの純水に溶解して0.2 mg/mL溶液を調製し,これをFuc-GlcNAc-Asn測定用標準原液とした。
【0237】
Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準溶液(F-SS-1~F-SS-7):純水を用い,下記の表32に従ってFuc-GlcNAc-Asn測定用標準原液を順次希釈したものを調製し,これをFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準溶液(F-SS-1~F-SS-7)とした。
【0238】
【表32】
【0239】
Fuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準溶液(F-QS-1~F-QS-4):純水を用い,下記の表33に従ってFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準溶液F-SS-7を順次希釈したものを調製し,これをFuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準溶液(F-QS-1~F-QS-4)とした。
【0240】
【表33】
【0241】
〔実施例23〕Fuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液の調製
Fuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準原液:Fuc1-α-3GlcNAc1-β-OMe(Fuc-GlcNAc-OMe,Toronto Research Chemicals社)(F-IS)2 mgを1 mLのメタノールに溶解して2 mg/mL溶液を調製し,これをFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準原液とした。
【0242】
Fuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液(F-IS-1~F-IS-3):アセトニトリルを用い,下記の表34に従ってFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準原液を順次希釈したものを調製し,これをFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液(F-IS-1~F-IS-3)とした。
【0243】
【表34】
【0244】
〔実施例24〕組織抽出液の調製,血漿,CSF及び尿の分取
野生型マウス(C57BL/6,13~15週齢,オリエンタルバイオサービス社)及びフコシドーシスモデルマウスであるFUCA1 KOマウス(C57BL/6,13~15週齢,オリエンタルバイオサービス社)の各組織(脳・肝臓・腎臓・脾臓)を摘出した。各組織を凍結乾燥させてからそれぞれ秤量し,5 mL自立型メイリングチューブ(ワトソン社)に組織,組織の凍結乾燥重量の39倍の純水,及びSUSビーズΦ5 mm(タイテック社)15個を添加し,ビーズ破砕機(μT-12,タイテック社)で組織を破砕した(2500 rpm,120 秒間)。破砕後の組織液を約1 mLずつ分取し,組織抽出液とした。また,各個体から,血漿を約300 μLずつ,脳脊髄液(CSF)を約15 μLずつ,及び尿を約1 mLずつ分取した。
【0245】
〔実施例25〕各種試料の調製
Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料(F-S0~F-S7):実施例22で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準溶液(F-SS-1~F-SS-7)各20 μLと,実施例23で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液(F-IS-1)80 μLを,それぞれ下記の表35に従って混合し,攪拌した後,微量高速遠心機(MX-307,トミー精工社)を用い,16,000 rpm,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料(F-S0~F-S7)とした。
【0246】
【表35】
【0247】
Fuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料(F-Q1~F-Q4):実施例22で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準溶液(F-QS-1~F-QS-4)各20 μLと,実施例23で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液(F-IS-1)80 μLを,それぞれ下記の表36に従って混合し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,Fuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料(F-Q1~F-Q4)とした。
【0248】
【表36】
【0249】
測定試料(脳,肝臓,腎臓,脾臓):実施例24で得られた脳,肝臓,腎臓及び脾臓の組織抽出液を,必要に応じ純水で100倍希釈した。各組織抽出液(又は100倍希釈した各組織抽出液)4 μLにそれぞれ純水4 μL及び実施例23で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液F-IS-1 32 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0250】
測定試料(CSF,血漿):実施例24で得られたCSF及び血漿を,必要に応じ純水で10倍希釈した。CSF又は血漿(又は10倍希釈したCSF又は血漿)4 μLに,純水4 μL及び実施例23で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液F-IS-1 32 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0251】
測定試料(尿):実施例24で得られた尿2 μLに純水18 μLを添加して10倍希釈した尿を調製した。10倍希釈した尿を,必要に応じさらに純水で100倍希釈して,1000倍希釈した尿とした。10倍希釈した尿(又は1000倍希釈した尿)4 μLに,純水4 μL及び実施例24で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液F-IS-1 32 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,測定試料とした。
【0252】
〔実施例26〕LC/MS/MS分析
LC/MS/MS分析は,順相クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,NexeraX2(島津製作所社)をセットした。また,分析カラムとしてUnison UK-Amino 2 mm X 150 mm(インタクト社)を,ガードカラムとしてガードカートリッジUK-Amino 5 X 2 mm(インタクト社)を,それぞれ用いた。移動相として,実施例21で調製した移動相E及び移動相Fを用いた。また,カラム温度は40℃に設定した。
【0253】
48%(v/v)の移動相Eと52%(v/v)の移動相Fからなる混合液でカラムを平衡化した後,10 μLの試料を注入し,表37に示す移動相の条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流速は0.4 mL/分とした。
【0254】
【表37】
【0255】
MS/MS装置のイオン源パラメータ,MS内部パラメータ,及びバルブ切り替えプログラムを,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)の使用説明書に従って,それぞれ表38~40に示すように設定した。
【0256】
【表38】
【0257】
【表39】
【0258】
【表40】
【0259】
測定値(ng/mL)及び真度(%)は,それぞれ有効数字3桁とした。また,真度(%)については下記の計算式に基づいて算出した。
真度(%)=測定値/理論濃度×100
なお,上記計算式中の理論濃度とは,Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料又はFuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料に添加されたFuc-GlcNAc-Asnの濃度のことをいう。
【0260】
〔実施例27〕Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線及び定量範囲の評価
実施例25で調製したFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料及びFuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料を測定し,各Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料及びFuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料に含まれるFuc-GlcNAc-Asnに由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,Fuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表41に,Fuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表42に示す。0.3~300 ng/mLの範囲において,Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料は真度95.7~107%で測定可能であり,Fuc-GlcNAc-Asn測定用QC用標準試料は真度93.1~106%で測定可能であった。
【0261】
【表41】
【0262】
【表42】
【0263】
また,各Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料に含まれていたFuc-GlcNAc-Asnに由来する検出ピークの面積(Fuc-GlcNAc-Asn検出ピーク面積)の,Fuc-GlcNAc-Asn測定用内部標準溶液に由来する検出ピーク(F-IS検出ピーク面積)に対する面積比(Fuc-GlcNAc-Asn検出ピーク面積/F-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各Fuc-GlcNAc-Asn測定用検量線用標準試料のFuc-GlcNAc-Asnの濃度(Fuc-GlcNAc-Asn濃度)を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出しFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線を作成した。得られたFuc-GlcNAc-Asn測定用検量線は,0.3~300 ng/mLの範囲において良好な二次曲線性を示した(図23)。相関係数(r)は0.9999であった。
【0264】
〔実施例28〕野生型マウス及びモデルマウスの各組織,CSF,血漿,及び尿中におけるFuc-GlcNAc-Asn濃度の測定
実施例27で得られた検量線及び実施例25で調製した測定試料を用い,野生型マウス及びFUCA1 KOマウスそれぞれの各組織,血漿,尿,及びCSF中におけるFuc-GlcNAc-Asn濃度を算出した。測定結果を図24~30にそれぞれ示す。いずれの組織,血漿,尿,及びCSFにおいても,野生型マウスと比較して,FUCA1 KOマウスではFuc-GlcNAc-Asnの濃度が高いという結果が得られた。この結果は,各組織,血漿,尿,及びCSF中におけるFuc-GlcNAc-Asnの濃度が,FUCA1 KOマウスにおいて,野生型マウスと比較して増加することを示す。
【0265】
〔実施例29〕脳及びCSF中におけるFuc-GlcNAc-Asn濃度の比較
同一マウス個体における脳中のFuc-GlcNAc-Asn濃度とCSF中のFuc-GlcNAc-Asn濃度の関係について,プロットした結果を図31に示す。決定係数(R)は0.981であり,高い相関性が認められた。
【0266】
この結果は,CSF中におけるFuc-GlcNAc-Asn濃度が脳中のFuc-GlcNAc-Asn濃度を反映することを示しており,脳中にFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが蓄積する疾患の中枢神経系のバイオマーカーとして,CSF中のFuc-GlcNAc-Asn濃度を用いることができることを示す。
【0267】
以下,実施例30~38はlyso-sulfatideの測定に関するものである。
【0268】
〔実施例30〕試薬溶液の調製
移動相G:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)1 mLと純水499 mLを混合し,移動相Gとした。
【0269】
移動相H:ぎ酸(富士フィルム和光純薬社)1 mLとアセトニトリル(LC/MS用,富士フィルム和光純薬社)499 mLを混合し,移動相Hとした。
【0270】
60%メタノール溶液:メタノール及び水を60:40(v/v)の割合で混合し,60%メタノール溶液とした。
【0271】
90%メタノール溶液:メタノール及び水を90:10(v/v)の割合で混合し,90%メタノール溶液とした。
【0272】
〔実施例31〕lyso-sulfatide測定用標準溶液の調製
lyso-sulfatide測定用標準原液:lyso-Sulfatide (NH4+ salt)(lyso-sulfatide,Matreya LLC社)1 mgを1 mLのメタノールに溶解して1 mg/mL溶液を調製し,これをlyso-sulfatide測定用標準原液とした。
【0273】
lyso-sulfatide測定用検量線用標準溶液(S-SS-1~S-SS-8):メタノールを用い,下記の表43に従ってlyso-sulfatide測定用標準原液を順次希釈してlyso-sulfatide測定用検量線用標準溶液(S-SS-1~S-SS-8)を調製した。
【0274】
【表43】
【0275】
lyso-sulfatide測定用QC用標準溶液(S-QS-1~S-QS-4):メタノールを用い,下記の表44に従ってlyso-sulfatide測定用検量線用標準溶液S-SS-8を順次希釈してlyso-sulfatide測定用QC用標準溶液(S-QS-1~S-QS-4)を調製した。
【0276】
【表44】
【0277】
〔実施例32〕lyso-sulfatide測定用内部標準溶液の調製
lyso-sulfatide測定用内部標準原液:N-glycinated lyso-sulfatide(S-IS,Matreya LLC社)1 mgを1 mLのメタノールに溶解して1 mg/mL溶液を調製し,これをlyso-sulfatide測定用内部標準原液とした。
【0278】
lyso-sulfatide測定用内部標準溶液(S-IS-1~S-IS-3):メタノールを用い,下記の表45に従ってlyso-sulfatide測定用内部標準原液を順次希釈してlyso-sulfatide測定用内部標準溶液(S-IS-1~S-IS-3)を調製した。
【0279】
【表45】
【0280】
〔実施例33〕組織抽出液,血漿及びCSFの調製
ARSA KOホモマウス(C57BL/6,20~23週齢及び93~100週齢,オリエンタルバイオサービス社),ARSA KOヘテロマウス(C57BL/6,93~100週齢,オリエンタルバイオサービス社),及び野生型マウス(C57BL/6,20~23週齢及び93~100週齢,オリエンタルバイオサービス社)の各組織(脳・脊髄・坐骨神経・腎臓)を摘出し凍結乾燥した後,乾燥重量をそれぞれ秤量し,2 mL Shatter Resistant tube(サイエンティフィック スペシャルティーズ社)又は5 mL自立型メイリングチューブ(ワトソン社)に組織,組織の乾燥重量の39倍の純水,及びSUSビーズΦ5 mm(タイテック社)3個又は15個を添加し,ビーズ破砕機(μT-12,タイテック社)で組織を破砕した(2500 rpm,300 秒間)。破砕後の組織液を随時攪拌しながら30分以上氷上で静置し,約1 mLずつ分取し,組織抽出液とした。また,各個体から血漿を約300 μLずつ分取した。さらに,各個体から脳脊髄液(CSF)を約15 μLずつ分取した。
【0281】
〔実施例34〕各種試料の調製
lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料(S-S0~S-S7):実施例31で調製したlyso-sulfatide測定用検量線用標準溶液(S-SS-1~S-SS-7)各50 μLと,実施例32で調製したlyso-sulfatide測定用内部標準溶液(S-IS-1)50 μLを,それぞれ下記の表46に従って混合し,攪拌した後,微量高速遠心機(MX-307,トミー精工社)を用い,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料(S-S0~S-S7)とした。
【0282】
【表46】
【0283】
lyso-sulfatide測定用QC用標準試料(S-Q1~S-Q4):実施例31で調製したlyso-sulfatide測定用QC用標準溶液(S-QS-1~S-QS-4)各50 μLと,実施例31で調製したlyso-sulfatide測定用内部標準溶液(S-IS-1)50 μLを,それぞれ下記の表47に従って混合し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をバイアルに充填し,lyso-sulfatide測定用QC用標準試料(S-Q1~S-Q4)とした。
【0284】
【表47】
【0285】
測定試料(脳,脊髄,坐骨神経及び腎臓):実施例33で得られた脳,脊髄,坐骨神経及び腎臓の組織抽出液各80 μLにそれぞれ純水240 μL及びメタノール467.2 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清590.4 μLを分取し,lyso-sulfatide測定用内部標準溶液S-IS-2を9.6 μL添加して,得られる溶液600 μLのうち500 μLをOasis HLB 1 cc Vac Cartridge(30 mg, 30 μm,日本ウォーターズ社)に負荷した。60%メタノール溶液1 mLで洗浄した後,90%メタノール溶液1 mLで溶出した。攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清20 μLをサンプルカップIA(信和化工社)に充填し,測定試料とした。
【0286】
測定試料(血漿):実施例33で得られた血漿80 μLに純水240 μL及びメタノール467.2 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,上清を得た。得られた上清590.4 μLを分取し,lyso-sulfatide測定用内部標準溶液S-IS-2を9.6 μL添加して,得られる溶液600 μLのうち500 μLをOasis HLB 1 cc Vac Cartridge(30 mg, 30 μm,日本ウォーターズ社)に負荷した。60%メタノール溶液1 mLで洗浄した後,90%メタノール溶液1 mLで溶出した。溶出画分400 μLの溶媒を遠心濃縮器(CC-105,トミー精工社)を用いて留去した後,メタノール40 μLを添加し,再溶解した。攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清20 μLをサンプルカップIA(信和化工社)に充填し,測定試料とした。
【0287】
測定試料(CSF):実施例33で得られたCSF 4 μLに,実施例32で調製したlyso-sulfatide測定用内部標準溶液S-IS-1 10 μL,メタノール 6 μLを添加し,攪拌した後,16,000×g,20℃の条件で5分間遠心を行い,得られた上清をサンプルカップIA(信和化工社)に充填し,測定試料とした。
【0288】
〔実施例35〕LC/MS/MS分析
LC/MS/MS分析は,逆相クロマトグラフィーとタンデム四重極型質量分析装置とを組み合わせたものを用いて実施した。質量分析装置(MS/MS装置)として,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)を用い,これにHPLC装置として,NexeraX2(島津製作所社)をセットした。また,分析カラムとしてCadenza CW-C18 2 mm X 150 mm(インタクト社)を,ガードカラムとしてCW-C18 5 X 2 mm(インタクト社)を,それぞれ用いた。移動相として,実施例30で調製した移動相G及び移動相Hを用いた。また,カラム温度は40℃に設定した。
【0289】
62.5%(v/v)の移動相Gと37.5%(v/v)の移動相Hからなる混合液でカラムを平衡化した後,10 μLの試料を注入し,表48に示す移動相の条件で,クロマトグラフィーを実施した。なお,移動相の流速は0.4 mL/分とした。
【0290】
【表48】
【0291】
MS/MS装置のイオン源パラメータ,MS内部パラメータ,及びバルブ切り替えプログラムを,QTRAP5500(エービー・サイエックス社)の使用説明書に従って,それぞれ表49~51に示すように設定した。
【0292】
【表49】
【0293】
【表50】
【0294】
【表51】
【0295】
測定値(ng/mL)及び真度(%)は,それぞれ有効数字3桁とした。また,真度(%)については下記の計算式に基づいて算出した。
真度(%)=測定値/理論濃度×100
なお,上記計算式中の理論濃度とは,lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料又はlyso-sulfatide測定用QC用標準試料に添加されたlyso-sulfatideの濃度のことをいう。
【0296】
〔実施例36〕lyso-sulfatide測定用検量線及び定量範囲の評価
実施例34で調製したlyso-sulfatide測定用検量線用標準試料及びlyso-sulfatide測定用QC用標準試料を測定し,各lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料及びlyso-sulfatide測定用QC用標準試料に含まれるlyso-sulfatideに由来するプロダクトイオンのクロマトチャート上に検出されるピーク(検出ピーク)の面積を求めた。また,lyso-sulfatide測定用内部標準溶液に由来するプロダクトイオンの検出ピークの面積を求めた。lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表52に,lyso-sulfatide測定用QC用標準試料の各調製濃度(理論濃度)における真度を表53に示す。0.01~10 ng/mLの範囲において,lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料は真度95.3~105%で測定可能であり,lyso-sulfatide測定用QC用標準試料は真度98.3~103%で測定可能であった。
【0297】
【表52】
【0298】
【表53】
【0299】
また,各lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料に含まれていたlyso-sulfatideに由来する検出ピークの面積(lyso-sulfatide検出ピーク面積)の,lyso-sulfatide測定用内部標準溶液に由来する検出ピーク(S-IS検出ピーク面積)に対する面積比(lyso-sulfatide検出ピーク面積/S-IS検出ピーク面積)を求めた。この値を縦軸にとり,各lyso-sulfatide測定用検量線用標準試料のlyso-sulfatideの濃度(lyso-sulfatide濃度)を横軸にとり,二次計画法を用いて回帰式を算出しlyso-sulfatide測定用検量線を作成した。0.01~10 ng/mLの範囲において良好な近似曲線が得られた(図32)。相関係数(r)は0.9999であった。
【0300】
〔実施例37〕野生型マウス及びモデルマウスの各組織,血漿,及びCSF中におけるlyso-sulfatide濃度の測定
実施例36で得られたlyso-sulfatide測定用検量線及び実施例34で調製した測定試料を用い,野生型マウス,ARSA KOホモマウス及びARSA KOヘテロマウスそれぞれの各組織,血漿,及びCSF中におけるlyso-sulfatide濃度を算出した。測定結果を図33~38にそれぞれ示す。いずれの組織,血漿,及びCSFにおいても,野生型マウスと比較して,ARSA KOホモマウスではlyso-sulfatideの濃度が高いという結果が得られた。また,ARSA KOヘテロマウスではlyso-sulfatideの濃度が低く,野生型マウスと同様であった。この結果は,各組織,血漿,及びCSF中におけるlyso-sulfatideの濃度が,ARSA KOホモマウスにおいて,野生型マウスと比較して増加することを示す。なお,ARSA KOホモマウスでの各組織,CSF,及び血漿中においては週齢依存的なlyso-sulfatideの濃度増加が確認できる。
【0301】
〔実施例38〕脳及びCSF中におけるlyso-sulfatide濃度の比較
同一マウス個体における脳中のlyso-sulfatide濃度とCSF中のlyso-sulfatide濃度の関係について,プロットした結果を図39に示す。決定係数(R)は0.9187であり,高い相関性が認められた。
【0302】
この結果は,CSF中におけるlyso-sulfatide濃度が脳中のlyso-sulfatide濃度を反映することを示しており,脳中にlyso-sulfatide及び/又はスルファチドが蓄積する疾患の中枢神経系のバイオマーカーとして,CSF中のlyso-sulfatide濃度を用いることができることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0303】
本発明によれば,中枢神経系にグルコーステトラサッカライド及び/又はグリコーゲンが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したグルコーステトラサッカライド及び/又はグリコーゲンを減少させるために行われる治療の効果を調べるための方法,及び診断キットを提供することができる。
【0304】
更に,本発明によれば,中枢神経系にリゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1が蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したリゾ―モノシアロガングリオシドGM1及び/又はモノシアロガングリオシドGM1を減少させるために行われる治療の効果を調べるための方法,及び診断キットを提供することができる。
【0305】
更に,本発明によれば,中枢神経系にFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したFuc-GlcNAc-Asn及び/又はα-L-フコシドを減少させるために行われる治療の効果を調べるための方法,及び診断キットを提供することができる。
【0306】
更に,本発明によれば,中枢神経系にリゾ―スルファチド及び/又はスルファチドが蓄積することにより発症する疾患の診断を行うこと,及びかかる疾患に対して行われる,中枢神経系に蓄積したリゾ―スルファチド及び/又はスルファチドを減少させるために行われる治療の効果を調べるための方法,及び診断キットを提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
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