(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ランプ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/32 20060101AFI20241209BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20241209BHJP
F21S 41/141 20180101ALI20241209BHJP
F21S 45/00 20180101ALI20241209BHJP
【FI】
G01S7/32 210
G01S13/931
F21S41/141
F21S45/00
(21)【出願番号】P 2020159859
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上永 祐太
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/189685(WO,A1)
【文献】特開2012-154719(JP,A)
【文献】特開2020-051974(JP,A)
【文献】特開平10-142330(JP,A)
【文献】特開2004-101450(JP,A)
【文献】国際公開第2018/052087(WO,A1)
【文献】特開2010-286245(JP,A)
【文献】中国実用新案第205484774(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両への取り付け部であるハウジングと、
ランプユニットと、
レーダ波を
送信波として送信し、
前記送信波の対象物からの反射波を受信するアンテナを有するレーダユニットと、
前記ランプユニット及び前記レーダユニットを内部に収容するように前記ハウジングの前面側を覆って取り付けられ、前記レーダ波を透過する透光性カバーと、
前記ハウジングの前記透光性カバーに対向する面またはその反対側の面に設けられた電波吸収部と、
前記レーダユニットに接続された信号処理部と、
を含み、
前記信号処理部は、対象物強度/距離算出部と、不要反射強度/距離算出部と、を含み、
前記対象物強度/距離算出部は、前記送信波と前記反射波との時間差と、前記反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記不要反射強度/距離算出部は、前記送信波と前記送信波が所定の電波吸収率を有する前記電波吸収部により減衰されて前記アンテナに到達する不要反射波との時間差と、前記不要反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記信号処理部は、前記アンテナが受信した前記反射波と前記不要反射波に基づく信号を前記対象物強度/距離算出部と前記不要反射強度/距離算出部とで処理することにより、前記対象物から前記レーダユニットまでの距離を算出するランプ装置。
【請求項2】
前記電波吸収部は、前記アンテナの送信面又は受信面の法線方向に沿って前記レーダユニットを投影した前記ハウジング上の領域を少なくとも包含する領域に設けられている、請求項
1に記載のランプ装置。
【請求項3】
前記電波吸収部は、少なくとも前記アンテナの送信面又は受信面の法線方向に沿って前記アンテナを投影した前記ハウジング上の領域を包含する領域に設けられている、請求項1
または2に記載のランプ装置。
【請求項4】
車両への取り付け部であるハウジングと、
ランプユニットと、
レーダ波を
送信波として送信し、
前記送信波の対象物からの反射波を受信するアンテナを有するレーダユニットと、
前記ランプユニット及び前記レーダユニットを内部に収容するように前記ハウジングの前面側を覆って取り付けられ、前記レーダ波を透過する透光性カバーと、
前記レーダユニットに接続された信号処理部と、
を含み、
前記信号処理部は、対象物強度/距離算出部と、不要反射強度/距離算出部と、を含み、
前記対象物強度/距離算出部は、前記送信波と前記反射波との時間差と、前記反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記不要反射強度/距離算出部は、前記送信波と前記送信波が所定の電波吸収率を有する前記ハウジングにより減衰されて前記アンテナに到達する不要反射波との時間差と、前記不要反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記信号処理部は、前記アンテナが受信した前記反射波と前記不要反射波に基づく信号を前記対象物強度/距離算出部と前記不要反射強度/距離算出部とで処理することにより、前記対象物から前記レーダユニットまでの距離を算出するものであり、
前記ハウジングには前記レーダ波を吸収する電波吸収材が含まれているランプ装置。
【請求項5】
前記ハウジングのうち、前記電波吸収材が含まれる電波吸収材含有領域は、前記アンテナの送信面又は受信面の法線方向に沿って前記レーダユニットを投影した前記ハウジング上の領域を少なくとも包含する領域に設けられている、請求項
4に記載のランプ装置。
【請求項6】
前記ハウジングのうち、前記電波吸収材が含まれる電波吸収材含有領域は、少なくとも前記アンテナの送信面又は受信面の法線方向に沿って前記アンテナを投影した前記ハウジング上の領域を包含する領域に設けられている、請求項
4または5に記載のランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランプ装置、特にレーダ装置を内蔵した車両用のランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援及び自動運転のために、加速度センサやGPSセンサに加え、カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、ミリ波センサなど様々なセンサが用いられる。
【0003】
特に、ミリ波レーダは、夜間や逆光などの環境、濃霧、降雨及び降雪などの悪天候の影響を受けず、高い耐環境性能を維持する。また、対象物までの距離や方向、対象物との相対速度を直接検出できる。従って、近距離の対象物であっても高速かつ高精度に検出できるという特徴を有している。
【0004】
特許文献1には、ミリ波レーダを灯室内に搭載し、前面カバーとミリ波レーダとの間にミリ波を透過させる導光部材を設けた車両用灯具が開示されている。
【0005】
特許文献2には、光源ユニットとミリ波レーダを搭載し、車体の外観に表れる樹脂カバーを備え、樹脂カバーの一部に不透明な意匠部を設け、意匠部によってミリ波レーダを遮蔽した車両用灯具が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、灯具ユニットとレーダユニットとの間の空間を仕切るように配設され、灯具ユニットとレーダユニットとの間における輻射熱及び電磁波の伝達を遮蔽するセパレータが設けられた車載ライト装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4842161号公報
【文献】特許第5130192号公報
【文献】特開2020-51974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーダユニット前面部に配置される部材、例えば前面カバーあるいはエクステンション等によってレーダ波が反射され、当該反射波及び多重反射波によってゴースト(実際には存在しない障害物)が生じると、レーダ装置の検出機能を低下させることになる。
【0009】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、レーダ波の反射及び多重反射を効果的に抑制でき、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きいなど高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することを目的としている。
【0010】
また、車体を構成する部分によって反射され、灯体内部に戻る反射レーダ波による多重反射を効果的に抑制でき、高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1実施形態によるランプ装置は、
車両への取り付け部であるハウジングと、
ランプユニットと、
レーダ波を送信波として送信し、前記送信波の対象物からの反射波を受信するアンテナを有するレーダユニットと、
前記ランプユニット及び前記レーダユニットを内部に収容するように前記ハウジングの前面側を覆って取り付けられ、前記レーダ波を透過する透光性カバーと、
前記ハウジングの前記透光性カバーに対向する面またはその反対側の面に設けられた電波吸収部と、
前記レーダユニットに接続された信号処理部と、を含み、
前記信号処理部は、対象物強度/距離算出部と、不要反射強度/距離算出部と、を含み、
前記対象物強度/距離算出部は、前記送信波と前記反射波との時間差と、前記反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記不要反射強度/距離算出部は、前記送信波と前記送信波が所定の電波吸収率を有する前記電波吸収部により減衰されて前記アンテナに到達する不要反射波との時間差と、前記不要反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記信号処理部は、前記アンテナが受信した前記反射波と前記不要反射波に基づく信号を前記対象物強度/距離算出部と前記不要反射強度/距離算出部とで処理することにより、前記対象物から前記レーダユニットまでの距離を算出する。
【0012】
本発明の他の実施形態によるランプ装置は、
車両への取り付け部であるハウジングと、
ランプユニットと、
レーダ波を送信波として送信し、前記送信波の対象物からの反射波を受信するアンテナを有するレーダユニットと、
前記ランプユニット及び前記レーダユニットを内部に収容するように前記ハウジングの前面側を覆って取り付けられ、前記レーダ波を透過する透光性カバーと、
前記レーダユニットに接続された信号処理部と、を含み、
前記信号処理部は、対象物強度/距離算出部と、不要反射強度/距離算出部と、を含み、
前記対象物強度/距離算出部は、前記送信波と前記反射波との時間差と、前記反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記不要反射強度/距離算出部は、前記送信波と前記送信波が所定の電波吸収率を有する前記ハウジングにより減衰されて前記アンテナに到達する不要反射波との時間差と、前記不要反射波の信号強度との関係を算出するものであり、
前記信号処理部は、前記アンテナが受信した前記反射波と前記不要反射波に基づく信号を前記対象物強度/距離算出部と前記不要反射強度/距離算出部とで処理することにより、前記対象物から前記レーダユニットまでの距離を算出するものであり、
前記ハウジングには前記レーダ波を吸収する電波吸収材が含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態のランプ装置の内部構造の一例を模式的に示す図である。
【
図2A】レーダユニット15の構成及び配置を模式的に示す図である。
【
図2B】レーダユニット15に設けられているミリ波センサモジュール30の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】ミリ波センサモジュール30が実行する対象物識別の手順を示すフロ-チャートである。
【
図4】パルスレーダ方式における送信波TXと反射波RXとの時間差(Δt)の関係を示すタイムチャートである。
【
図5】ミリ波センサモジュール30による対象物識別の原理を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態のランプ装置10における、車体構成部分からの反射について説明する図である。
【
図7A】本発明の第2の実施形態のランプ装置40の内部構造の一例を模式的に示す図である。
【
図7B】本発明の第2の実施形態における電波吸収体20の配置及び大きさを説明する図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態のランプ装置50の内部構造の一例を模式的に示す図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態のランプ装置60の内部構造の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、あるいは組合せて適用してもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態のランプ装置10の内部構造の一例を模式的に示す図である。ランプ装置10は、自動車などの車両に搭載される。例えば前照灯であるが、テールライト等のランプ装置として用いることもできる。
【0015】
なお、以下においては、車両として自動車を例に説明するが本発明はこれに限定されない。すなわち、本明細書において、車両は、例えば船、航空機などの乗り物(Vehicle)、及び有人及び無人の輸送手段を意味する。
【0016】
図1は、車両の左前方に搭載された状態のランプ装置10(左前照灯)を上面から見た場合の、水平面(又は路面に平行な面)における断面を模式的に示している。
【0017】
ランプ装置10において、基体(ハウジング)11と基体11の前面側又は前方側に取り付けられた透光性カバー(前面カバー)12とによってランプ筐体(ケーシング)13が構成されている。
【0018】
すなわち、透光性カバー12は、基体11の前面側を覆うように基体11に取り付けられ、基体11が車体側に取り付けられることによって、ランプ装置10が車体(図示しない)に搭載される。また、透光性カバー12は、赤色、黄色などの白色以外の光を透過する透光性を有するものを含む。
【0019】
基体11はプラスティック(樹脂)によって形成されている。例えば、前照灯ではPP(ポリプロピレン)によって形成され、テールランプでは、ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリルゴム)によって形成されているが、これらに限定されない。また、部分的に金属などが用いられていてもよい。
【0020】
また、透光性カバー12は、例えばポリカーボネート(PC)やアクリル(PMMA)などの透光性樹脂によって形成されている。
【0021】
ランプ筐体13内には、ランプユニット(光源部)である前照灯ユニット14、レーダ装置であるミリ波レーダユニット(以下、単にレーダユニットという。)15、発光ユニット16及びエクステンション19が内蔵されている。また、基体11は、レーダユニット15の送受信面(後述のアンテナ面15S)を除く面、例えばレーダユニット15から見て後方側に配置されている。
【0022】
本実施形態において、基体11上にはレーダ波を吸収する電波吸収部として電波吸収体20が設けられている。より具体的には、電波吸収体20は、ランプ装置10内のレーダユニット前面に配置される部材、特に透光性カバー12によって反射され、車両構成部分に向かう反射レーダ波、及び当該車両構成部分により反射され、ランプ装置10内に向かう反射レーダ波を吸収する位置に配置されている。すなわち、当該反射レーダ波は往復で電波吸収体20によって吸収される。なお、
図1において電波吸収体20は基体11の内側、すなわち透光性カバー12を向いた側に配置されているが、外側、すなわち透光性カバー12とは反対側に設けられてもよい。
【0023】
当該車両構成部分は、レーダ波を反射する部分、例えば、特にエンジン、シャシ-、ラジエータ等の金属からなる車両部分である。
【0024】
なお、本明細書において、ランプ装置10は、前照灯光源に限らず、テールランプ、バックライトなどの外部に向けて光を発する目的、機能を有する発光装置をいう。
【0025】
前照灯ユニット14は、LED(Light Emitting Diode)等の光源と、当該光源からの光を配光及び照射するためのレンズ又はリフレクタを有している。前照灯ユニット14は、光軸AX1に沿って配され、ロービーム(すれ違い用ビーム)及びハイビーム(走行用ビーム)の照射光LBを前方(図中、FRONT)方向に照射するように設けられている。
【0026】
レーダユニット15は、その前面にミリ波の送受信アンテナ15Xが設けられた送受信面15Sを有する。本明細書においては、レーダユニット(レーダ装置)15の送受信面(レーダユニット15の前方の面)をアンテナ面15Sとも称する。
【0027】
レーダユニット15は、送受信アンテナ15Xからミリ波を送出し、対象物によって反射された反射波を受信する。
【0028】
受信された信号は制御装置、例えば、信号処理装置によって信号処理が行われ、対象物との間の距離、速度及び角度が検出される。レーダユニット15では、例えば76-81GHz帯のミリ波、特に79GHz帯のミリ波が好適に用いられるが、この周波数帯に限定されない。
【0029】
発光ユニット16は、光源16Aと、光源16Aからの光を導光する少なくとも1つの導光部材とからなる導光体16Bとを有している。発光ユニット16は、DRL(Daytime Running Lights)又はターンランプ(TURNランプ)として機能する。光源16Aは、例えばLED、白熱電球などを有し、その光を導光体16Bに供給する。
【0030】
レーダユニット15のアンテナ面15Sの法線方向AX2は、前照灯ユニット14の光軸AX1に対して(又は車両の進行方向に対して)外側方向(すなわち、左前照灯の場合には左方向)に角度θ(本実施形態では45°)だけ傾くように配されている。
【0031】
また、ランプ筐体13内には、エクステンション19が設けられている。エクステンション19は、光を反射し、又は光を導光し、あるいは内部の構造物等を外部から視認し難くするために設けられている意匠部品である。
【0032】
なお、発光ユニット16及びエクステンション19は必ずしも設けられていなくともよい。
【0033】
本実施形態においては、レーダユニット15からのレーダ波(送信波TX)は直接透光性カバー12を経て外部に照射されるようになっている。
【0034】
なお、レーダユニット15の前方に、レーダユニット15を外部から視認し難くするための遮蔽部材が設けられていてもよい。
【0035】
図2Aは、レーダユニット15の構成及び配置を模式的に示す図である。レーダユニット15は、送信アンテナ(TXアンテナ)15TX及び受信アンテナ(RXアンテナ)15RXと、ミリ波センサ装置(以下、ミリ波センサモジュールともいう。)30とを有している。なお、送信アンテナ15TX及び受信アンテナ15RXは、レーダ方式によっては共通のアンテナ15Xとして構成し得る。以下、送信アンテナ及び受信アンテナを特に区別しない場合には、送受信アンテナ15Xとして説明する。
【0036】
図2Bは、レーダユニット15に設けられているミリ波センサモジュール30の構成の一例を示すブロック図である。
【0037】
ミリ波センサモジュール30は、例えば、パルスレーダ方式やFMCW(周波数変調連続波)方式などにより物体(対象物)を検知する。より具体的には、ジェネレータ(シンセサイザ方式)31は送信波を生成する。パルスレーダ方式の場合では繰り返しパルス波を送信波として生成し、FMCW方式の場合では変調波を送信波として生成する。
【0038】
ジェネレータ31によって生成された送信波(TX波)は送信部32によって送信アンテナ15TXから送信波として送信される。
【0039】
物体により反射された反射波(RX波)は、受信アンテナ15RXにより受信される。送信波及び受信された反射波(受信波)は信号処理部35によって信号処理され、当該物体の距離、速度及び角度が検知される。
【0040】
信号処理部35は、受信波の信号強度(受信信号強度)VR及び検知対象物である物体の距離(又は遅れ時間Δt)を算出する対象物距離/強度算出部35A、及び、算出された信号強度及び距離によって物体からの信号を識別する信号識別部35Bを有する。
【0041】
信号識別部35Bは、正しく検知すべき物体である対象物からの信号強度VR及び距離(時間差Δt)との対応関係を表す関係式を有している。
【0042】
信号識別部35Bは、当該対応関係と、電波吸収体20による電波吸収率又は信号強度減衰率に基づいて、検知すべき対象物からの信号と、反射によるゴースト又はノイズ(不要反射波)とを識別する。すなわち、信号識別部35Bは不要信号識別部として機能する。
【0043】
より具体的には、例えば、信号識別部35Bは、電波吸収体20により減衰されてアンテナ15Xに到達する不要反射波のレーダ波の送信時点からの遅れ時間(時間差)と、当該不要反射波の信号強度との関係を算出する不要反射距離/強度算出部と、を有している。
【0044】
なお、FMCW方式の場合には、送信波(変調波)及び受信波を混合してIF(中間周波数)信号を生成するミキサ、AD変換器(アナログーデジタル変換器:ADC)などが設けられている。
【0045】
ミリ波センサモジュール30は、物体の距離(又は遅れ時間)及びレーダ波の信号強度を検出し、物体(対象物)からの信号であるか否かを識別できるように構成されている。
【0046】
図3は、ミリ波センサモジュール30が実行する対象物識別の手順を示すフロ-チャートである。
図4は、パルスレーダ方式における送信波TXと反射波RXとの時間差(Δt)の関係を示すタイムチャートである。
【0047】
また、
図5は、ミリ波センサモジュール30による対象物識別の原理を示すグラフである。
図6は、本実施形態のランプ装置10における、車体構成部分からの反射について説明する図である。
【0048】
図3を参照して対象物識別のフロ-について説明する。まず、ミリ波センサモジュール30はジェネレータ31によって生成された送信波TXを送信アンテナ15TXから送信する(ステップS11)。次に、物体によって反射された反射波RXを受信アンテナ15RXで受信する(ステップS12)。
【0049】
続いて、信号処理部35は、反射波RXの強度VR及び送信波TXと反射波RXとの時間差(Δt)を算出する(ステップS13)。当該時間差(Δt)は送信波TXを反射した物体までの距離と等価である。
【0050】
ここで、
図4を参照すると、物体によって反射された反射波RXは、送信波TX(強度VX)の送信時(時刻T=0)から時間差(Δt)だけ遅れて受信される。
【0051】
例えば、レーダユニット15から相対的に遠距離にある物体(検知対象物PF)からの反射波RXの時間差(Δt1)は、相対的に近距離にある物体(検知対象物PN)からの反射波RXの時間差(Δt2)よりも大きい(Δt1>Δt2)。
【0052】
また、反射波RXの信号強度VRに関しては、相対的に遠距離にある物体(検知対象物PF)からの反射波RXの信号強度(V1)は、相対的に近距離にある物体(検知対象物PN)からの反射波RXの信号強度(V2)よりも小さい(V1<V2)。
【0053】
一方、
図6に示すように、ランプ装置10の内部には、前方カバーである透光性カバー12、前照灯ユニット14、エクステンション19などの装置内構成部品によって反射又は多重反射された反射レーダ波(以下、単に反射波)RWが存在する。
【0054】
本実施形態のランプ装置10によれば、反射波RWのうちランプ装置10の内部から車両構成部分90に向かう反射波RP、及び、車両構成部分90により反射され、ランプ装置10の内部に向かう車両反射波RQは電波吸収体20によって吸収され、その強度は大きく減少する。
【0055】
従って、車両構成部分90からの反射波(車両内部反射波)は、近距離(Δtが小さい)であるにもかかわらず、その信号強度はランプ装置10の外部の検知すべき対象物(近距離対象物PN)からの反射波に比べると電波吸収体20による吸収分だけ小さい。例えば、
図4に示すように、近距離対象物PNと同じ時間差(Δt2)であっても信号強度は近距離対象物PNの信号強度よりも小さい(V3<V2)。
【0056】
再度、
図3及び
図5を参照して説明すると、信号処理部35は、正しく検知すべき物体である対象物からの信号強度VR及び距離(時間差Δt)との対応関係を表す基準関数(VR-Δt関数)を有している。信号識別部35Bは、当該対応関係と、電波吸収体20による信号強度減衰率に基づいて、検知すべき対象物と、不要反射によるゴースト又はノイズとを識別する(ステップS14)。
【0057】
より具体的には、例えば、基準関数(VR-Δt)から電波吸収体20による信号強度減衰量を減じた閾値関数(Vth-Δt)を基準とし、当該閾値以上の信号を対象物の検知信号として出力する(ステップS15)。
【0058】
一方、当該閾値未満の信号(
図5のハッチング領域内の信号)をゴースト又はノイズ(不要反射波)として、検知対象から外す(ステップ
S15において「NO」)。
【0059】
あるいは、信号処理部35は、閾値関数(Vth-Δt)を保持し、直接当該閾値関数から検知すべき対象物と、反射によるゴースト又はノイズとを識別してもよい。上記した基準関数又は閾値関数あるいはこれらと等価な関係式は、例えば数式として、又はテーブルとして保持されていてもよい。
【0060】
なお、上記においてはパルスレーダ方式を例に説明したが、FMCW(周波数変調連続波)方式など他のレーダ方式においても同様に適用することができる。
【0061】
電波吸収体20として、例えば、カーボンシート、又はカーボン(カーボン粉末、カーボンナノチューブまたは炭素繊維など)やフェライトなど電波吸収材を含有した樹脂を用いることができる。例えばレーダ波の透過率が40%(すなわち、減衰率60%)程度のカーボンシートを電波吸収体20として用いることができる。あるいは、ポリカーボネート(PC)の透過率は20%程度であるが、透過率が20%(すなわち、減衰率80%)程度のカーボン含有PCを電波吸収体20として用いることができる。更には、レーダ波の透過率が10%以下(すなわち、減衰率90%以上)のカーボンシートまたはカーボン含有PCを電波吸収体20として用いるとより好適である。
【0062】
透光性カバー12は、レーダ波の周波数に対して最適化された厚さでない場合は、大きな反射波(例えば-5dB程度)が生じる。透光性カバー12から反射されたレーダ波は反射波として基体11方向に戻ってくる。これを十分に吸収できるように、電波吸収体20は、前面カバーである透光性カバー12の反射減衰率(電波反射率)の2倍以上の減衰率を有していることが好ましい。この場合、透光性カバー12により反射されたレーダ波が、車両構成部によって反射され、レーダユニット15に戻る反射波の強度が約1/10以下に減じられるため、十分に高いノイズ識別精度が得られる。
【0063】
なお、電波吸収体20としては、上記に例示したものに限らず、誘電性電波吸収材、磁性電波吸収材、導電性電波吸収材など、種々の材料、又はこれらの組合せを用いることができる。
【0064】
また、電波吸収体20によって反射されたレーダ波が十分に吸収され、十分な精度で検知すべき対象物を検知できるのであれば、閾値関数(Vth-Δt)による不要信号の識別処理(ステップS14)は不要の場合がある。
【0065】
本実施形態のランプ装置によれば、透光性カバー(前面カバー)12などのランプ装置内の構成部により反射されたレーダ波が、エンジン等の車両構成部分によって反射され、当該反射波がランプ装置内に戻る不要反射レーダ波(及びその多重反射波)によるゴースト又はノイズを効果的に抑制することができる。また、基体11は、レーダユニット15のアンテナ面15Sを除く面に配置され、当該基体11上に電波吸収体20が配置されていることにより、レーダユニット15前面部に配置される部材からの不要反射レーダ波(及びその多重反射波)を効率よく吸収できる。
【0066】
従って、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きいなど高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することができる。また、信号とノイズとの識別が容易となり、高速かつ高精度のレーダ機能を実現することができる。
【0067】
また、特に、車両斜め前方又は斜め後方の対象物検知を行うクロス・トラフィック・アラートに用いられるクロス・トラフィック・レーダにおいては、比較的近距離の対象物検知を行うため、車両構成部分からの反射によるゴースト又はノイズ(不要反射波)との識別が難しい。本発明によれば、特に比較的近距離の対象物検知の際の対象物検知信号と不要反射波との識別を高精度に行うことができる。
[第2の実施形態]
図7Aは、本発明の第2の実施形態のランプ装置40の内部構造の一例を模式的に示す図であり、
図7Bは、電波吸収体20の配置及び大きさを説明する図である。
【0068】
本実施形態において、電波吸収体20は、基体11上の一部に設けられていてもよい。電波吸収体20(電波吸収部)は、車両に取り付けられたときに、レーダユニット15と車両構成部分90との間、すなわち、レーダユニット15と車両構成部分90とを仕切る基体11上の一部上に配置されるように設けられている。
【0069】
より具体的には、電波吸収体20は、少なくとも透光性カバー12による反射波が車両構成部分90によって反射され、ランプ装置40の内部に向かう反射波RQを減衰する位置及び大きさを有して設けられている。
【0070】
換言すれば、電波吸収体20は、基体11の透光性カバー(前面カバー)12が対向する面上の領域の少なくとも一部に設けられている。すなわち、電波吸収体20は、ランプ装置40の後方面上の少なくとも一部の領域に設けられている。なお、電波吸収体20は、ランプ装置40の内部側及び外部側のいずれに設けられていてもよい。
【0071】
図7Bは、電波吸収体20の配置を説明するための模式的な部分拡大図である。
図7Bに示すように、電波吸収体20(電波吸収部)は、レーダユニット15のアンテナ15Xの送信面及び/又は受信面(アンテナ面15S)の法線方向AX2に沿って基体11上にレーダユニット15を投影したときの基体11上の領域R1よりも大きく、当該投影領域R1を包含する位置及び大きさの領域PRを有するように設けられていることが好ましい。
【0072】
あるいは、少なくとも電波吸収体20が、当該法線方向AX2に沿ってアンテナ15Xを基体11上に投影したときの基体11上の領域R2よりも大きく、当該投影領域R2を包含する位置及び大きさ(電波吸収体20の領域PR)で設けられていることが好ましい。
【0073】
第2の実施形態のランプ装置40によれば、エンジン等の車両部分からの反射レーダ波がアンテナ15Xに入射してノイズを生じさせたり、アンテナ15Xからの送信波に影響を与えたりすることを回避することができる。また、レーダユニット15に入射した車両部分からの反射レーダ波がレーダユニット15内で多重反射してレーダユニット15のレーダ機能を阻害することを回避することができる。
【0074】
本実施形態のランプ装置によれば、透光性カバーなどにより反射されたレーダ波が車両構成部分によって反射され、ランプ装置内部に戻る反射レーダ波及びその多重反射波によるゴースト又はノイズを効果的に抑制することができる。
【0075】
従って、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きいなど高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することができる。また、信号とノイズとの識別が容易となり、高速かつ高精度のレーダ機能を実現することができる。
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態のランプ装置50の内部構造の一例を模式的に示す図である。
【0076】
本実施形態のランプ装置50は、第1の実施形態のランプ装置10の基体11に代わり、基体11Aがカーボン等の電波吸収材を含有した電波吸収材含有樹脂からなる点である。
【0077】
より具体的には、基体11Aは、例えばポリカーボネート(PC)にカーボンを含有したカーボン含有樹脂からなる。基体11Aとして、例えば、レーダ波の透過率が40%以下のカーボン含有樹脂が好適に用いられ、さらに、透過率が10%以下のカーボン含有樹脂がさらに好適に用いられる。
【0078】
なお、基体11A全体が電波吸収材含有樹脂からなる場合に限らない。上記したように、アンテナ面15Sの法線方向AX2にレーダユニット15又はアンテナ15Xを基体11上に投影したときの基体11上の領域R1を少なくとも包含する位置及び大きさの領域PRを有するように、電波吸収材が基体11の樹脂に含有され、電波吸収材含有領域(電波吸収部)が設けられていればよい。
【0079】
本実施形態のランプ装置50によれば、簡便な構造で、電波吸収部を基体11Aと一体的に形成することができ、上記した実施形態と同様な利点を有するレーダ機能を有するランプ装置を提供することができる。
【0080】
本実施形態においては、レーダユニット15の前方であって、透光性カバー(前方カバー)12との間に遮蔽部材(エクステンション)18が設けられている。
【0081】
遮蔽部材18は、レーダユニット15を外部から視認し難くするため、レーダユニット15の前面を覆うように設けられている。また、遮蔽部材18は、レーダユニット15の送受信アンテナ15Xの送受信面(アンテナ面)15Sの全面を覆うように設けられている。
【0082】
また、電波吸収体20(電波吸収部)が、レーダユニット15のアンテナ面15Sの法線方向AX2にレーダユニット15を基体11上に投影したときの領域R1を包含する位置及び大きさの領域PRを有するように設けられている(
図7B参照)。
【0083】
従って、遮蔽部材18によって反射された反射波が、車両構成部分によって反射され、当該反射波がランプ装置内部に戻ってゴースト又はノイズを生じさせることを効果的に抑制することができる。また、上記した実施形態と同様な利点を有する。従って、ノイズが小さく、ダイナミックレンジが大きい高速かつ高精度のレーダ機能を有するランプ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
10,40,50,60:ランプ装置
11:基体
12:透光性カバー
14:ランプユニット
15:レーダユニット
15S:アンテナ面
15X:送受信アンテナ
16:発光ユニット
16A:光源
16B:導光体
18:遮蔽部材
19:エクステンション
20:電波吸収体
30:ミリ波センサモジュール
31:ジェネレータ
35:信号処理部
35A:距離/信号強度算出部
35B:信号識別部