(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】油分散組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/55 20060101AFI20241209BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20241209BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20241209BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20241209BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20241209BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/04
A61K8/31
A61K8/19
A61K8/37
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2020194942
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-10-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトによる公開 「IFSCC 2020 Congress 横浜大会」プログラムリスト 1 ウェブサイトの掲載日:令和2年9月10日 2 ウェブサイトのアドレス: http://ifscc2020.com/scientific_program.html (2)ウェブサイトによる公開 「IFSCC 2020 Congress 横浜大会」論文集 1 ウェブサイトの掲載日:令和2年10月14日 2 ウェブサイトのアドレス:https://www.ifscc2020.com/virtual_congress.html (3)ウェブサイトによる公開 1 ウェブサイトの掲載日:令和2年10月26日 2 ウェブサイトのアドレス:https://www.naris.co.jp/news_release/496/ (4)記者クラブへの公開 1 公開日:令和2年10月22日 2 公開場所:大阪商工記者会(大阪市中央区本町橋2-5マイドームおおさか5F) (5)記者クラブへの公開 1 公開日:令和2年10月22日 2 公開場所:重工業研究会(東京都中央区日本橋茅場町3-2-10(鉄鋼会館)) (6)ウェブサイト上で行われた研究集会での公開 「IFSCC 2020 Congress 横浜大会」 1 ウェブサイトの掲載日:令和2年10月21日(研究集会開催日:令和2年10月21日~令和2年10月30日) 2 ウェブサイトのアドレス:http://ifscc2020.com/virtual_congress.html (7)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社週刊粧業(東京都台東区上野1-18-9 黒門平成ビル3階) (8)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社石鹸新報社(大阪市北区天神橋2-2-11 阪急産業南森町ビル7階) (9)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:国際商業出版株式会社(東京都中央区銀座6-14-5) (10)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社訪販ニュース社(東京都文京区本郷2-11-6 谷口ビル4F)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (11)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社日用品化粧品新聞社(東京都中央区日本橋人形町1-1-21 人形町ビル6F) (12)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社朝日新聞社(大阪市北区中之島2-3-18) (13)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社新日本海新聞社(大阪市北区中津6-7-1) (14)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社日本経済新聞社(東京都千代田区大手町1-3-7、大阪府大阪市中央区高麗橋1-4-2) (15)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社日経BP(東京都港区虎ノ門4丁目3番12号) (16)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社毎日放送(大阪市北区茶屋町17番1号) (17)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社ベネッセコーポレーション(岡山県岡山市北区南方3-7-17) (18)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社KADOKAWA(東京都千代田区富士見二丁目13番3号) (19)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社INFASパブリケーションズ(東京都港区六本木6-1-24 ラピロス六本木4階) (20)出版社への公開 1 公開日:令和2年10月26日 2 公開場所:株式会社小学館(東京都千代田区一ツ橋2-3-1) (21)刊行物による公開 1 公開日:2020年11月9日 2 刊行物:訪販ジャーナル 2020年11月9日号(第4045号)3ページ~4ページ
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】伊達 正剛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 広之
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-039827(JP,A)
【文献】特開2011-098914(JP,A)
【文献】特開2012-062265(JP,A)
【文献】特開2003-073230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0324506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):リン脂質
を0.1質量%~5質量%
成分(B):固形油及び/または半固形油
成分(C):液状油
を含む、固体の油性粒子からなる油相と
成分(D):水膨潤性粘土鉱物
を含む水相からなり、
前記油性粒子の平均粒子径が20μm以上300μm未満である油分散組成物。
【請求項2】
油分散組成物全量中における成分(B)と成分(C)の配合量の関係が
式1:50質量%≧(B)+(C)≧0.5質量%
式2:(C)/(B)≧1
上記式1および式2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の油分散組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の油分散組成物を含む化粧料。
【請求項4】
成分(A):リン脂質およびHLB5.5~12の界面活性剤から選ばれる1種または2種以上
を0.1質量%~5質量%
成分(B):固形油及び/または半固形油
成分(C):液状油
を含む油相を加熱溶解後に上昇融点以下まで冷却するステップと、
成分(D):水膨潤性粘土鉱物
を含む水相を加熱溶解後に前記油相の上昇融点以下まで冷却するステップと、
前記油相と前記水相を前記油相の上昇融点以下で撹拌混合するステップを有する
油分散組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定成分を含む固体の油性粒子からなる油相を水相に分散させた組成物であって、皮膚内への浸透による閉塞性の低下を防ぐ目的で大きな油性粒子を持ちながら、皮膚に適用した際に組成物中の油性成分が皮膚上に均一に塗布できることを特徴とする。さらに、組成物中の油性成分によって組成物中の水性成分の皮膚内への浸透が妨げられることのない、塗布後の油性成分と水性成分の配置を制御した油分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、保湿効果、すなわち、皮膚内に水分を与える目的としての水分供給と、皮膚内の水分蒸散を抑制する目的としての油性成分による皮膚閉塞性が求められ、両者を満たす剤型として、水性成分と油性成分を含む乳化物が使用されてきた。ただし、乳化物は熱力学的には不安定な系であり、油性粒子の合一を防ぐために、通常は油相と水相を加熱して溶解した状態で、かつ界面活性剤を用いて水油界面の界面張力を低下し、機械的なエネルギーによって油性粒子を小さくすることで安定化させている。また、油性粒子を小さくすることは、油性成分の皮膚への浸透を高めて皮膚感触を柔らかくし、使用者に保湿感を感じさせる目的でも行われていた。
【0003】
乳化物の皮膚への塗布による保湿効果を最大限に発揮するためには、製剤中の水性成分は皮膚内に浸透することが望ましく、製剤中の油性成分は皮膚表面を閉塞して水分蒸散を抑制することが望ましい。その点、一般的な乳化物は界面活性剤を使用するなどして、皮膚に対する水性成分の肌なじみ向上には努めているが、元来親油性の皮膚には油性成分との親和性が高いため、先に皮膚上に展延した油性成分によって、水性成分の皮膚への浸透が阻まれる場合があった。また、安定化と使用感のために油性粒子を小さくしているため、油性成分が皮膚内に浸透しやすく、皮膚表面に残る油が減少することで十分な皮膚閉塞性を得ることができなかった。そのため、皮膚閉塞性を高めるには、反対に油性粒子を大きくして油性成分の浸透を減少させる必要があった。
【0004】
乳化物の油性粒子を大きくする試みとして、常温で固体の両親媒性物質を含む油相を水相中で分散させることで、平均粒子径が100μm以上の油性粒子を有する油分散組成物を得られることが報告されている(特許文献1)。該発明は、内容組成物として油性成分を含有した油性カプセルに関し、油性成分の安定的な内包と使用感を両立することを目的とした発明であって、油性成分による皮膚表面の閉塞を目的としたものではないため、該発明における油性成分の皮膚表面への残留性や閉塞に足る塗布膜の均一性等については全く検討されていなかった。さらに油性粒子が固形であることで一般的な乳化物に比べると水相の皮膚への接触機会は増すが、水相には界面活性剤が配合されていないため、水性成分の皮膚に対する肌なじみの良さは期待できない。
【0005】
特許文献1と同様に、油相に固形油分を含有する油の組成物として、特許文献2が開示されている。該発明は、界面活性剤を添加しなくても、固形油分を含有する油相を微粒子として水相中に安定に分散させ得る製造方法の発見に基づくもので、油の微細分散組成物に関する。該発明の微細分散組成物を外用剤として皮膚に適用した際に、微粒子を形成した油性成分が水性成分の皮膚への浸透を阻害しないため、最初に皮膚にみずみずしさを付与でき、次第に油の微粒子がつぶされて皮膚全体を油性成分が覆うため、最後には皮膚にしっとり感をもたらすことができるとされている。しかし、油性粒子は微細に分散されており、浸透のしやすさから油性成分の皮膚表面への残留性は期待できない。また、水性成分の皮膚への浸透よりも早く油の微粒子がつぶされて皮膚全体を油性成分が覆うため、大部分の水は皮膚に浸透することなく空気中に蒸散して失われる。
【0006】
すなわち、皮膚内への浸透による閉塞性の低下を防ぐ目的で大きな油性粒子を持ちながら、塗布後の皮膚を油性成分で均一に覆い、同時に水性成分の皮膚内への浸透を高める工夫が凝らされた油分散組成物は全く知られていなかった。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-73230号公報
【文献】特開2006-256971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、皮膚内への浸透による閉塞性の低下を防ぐ目的で大きな油性粒子を持ちながら、皮膚に適用した際に油性成分が皮膚上に均一に塗布できるとともに、組成物中の油性成分によって水性成分の皮膚内への浸透が阻害されないよう、塗布後の油性成分と水性成分の配置を制御した油分散組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、
成分(A):リン脂質およびHLB5.5~12の界面活性剤から選ばれる1種または2種以上
成分(B):固形油及び/または半固形油
成分(C):液状油
を含む個体の油性粒子からなる油相と、
成分(D):水膨潤性粘土鉱物
を含む水相からなり、
油性粒子の平均粒子径が20μm以上300μm未満である油分散組成物とすることで上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
上記手段を取ることにより、皮膚内への浸透による閉塞性の低下を防ぐ目的で大きな油性粒子を持ちながら、皮膚に適用した際、皮膚表面の皮溝と皮丘に油性成分が均一に付着するとともに、組成物中の油性成分と水性成分が共に皮膚表面に付着して水性成分の皮膚内への浸透が阻害されないよう、水性成分と油性成分が混在した状態で皮膚表面に付着する配置に制御することで、皮膚閉塞性と皮膚内への水分供給を同時に満たし、高い保湿効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1および比較例3に赤色色素を配合した各組成物を皮膚に塗布した際のマイクロスコープ写真。
【
図2】実施例1および比較例7に油溶性の蛍光色素と水溶性の蛍光色素を配合した各組成物を人工皮革に塗布した際の蛍光顕微鏡写真。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の油分散組成物は、特定の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含む固体の油性粒子である油相と、特定成分(D)を含む水相とから成り、前記油相は、平均粒子径が20μm以上300μm未満の油性粒子として前記水相中に分散していることを特徴とする。なお、一般的な乳化物は油相が液状だが、本発明では油相は常温(25℃)で固体であり流動性を示さないことを特徴とする。
【0014】
本発明における分散方法について、好ましい方法としては油相の上昇融点以下の温度で、油相を水相中で外力をかけて分散することで、溶液状の油相に外力を与えて調製する一般的な乳化組成物と異なり、所望する粒子径の油性粒子が得やすい利点がある。
【0015】
本発明におけるHLBは、親水親油バランス(親水性親油性比)で、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値である。本明細書において、HLB(Hydrophilic-Lypophilic Balance)は、メーカーの資料に記載がない場合は、次のグリフィン(Griffin)の式により求める。
【0016】
【0017】
本発明に用いる成分(A)のうちリン脂質は、油溶性で界面活性能を有するもので、天然物であっても化学合成したものであってもよい。リン脂質の由来としては特に限定されないが、卵黄や大豆由来の水素添加リン脂質やリゾリン脂質等が好適である。また、水素添加リン脂質である水添レシチンが好適に用いられ、安定性および使用感に優れた油分散組成物を得ることができるという観点から好ましい。
【0018】
本発明に用いる成分(A)のうちHLB5.5~12の界面活性剤は、親水性親油性バランス(HLB)が5.5~12の界面活性剤が好ましく、HLBが9~12の界面活性剤がさらに好ましい。界面活性剤のHLBがこの範囲であれば特に限定されないが、具体的には、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0019】
成分(A)は単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0020】
本発明の油分散組成物中、成分(A)の好ましい配合量は0.1~5質量%、より好ましい配合量は0.5~2質量%であり、この範囲では油分散組成物の安定性および使用感に優れている。
【0021】
本発明に用いる成分(B)は、常温(25℃)で固形または半固形の油性成分を指す。特に限定はされないが、固形油としては炭化水素系固形油、エステル系固形油等が使用できる。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、セレシン等の炭化水素系固形油、水添ホホバ油、ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等のエステル系固形油、ラノリン、モクロウ、シア脂、カカオ脂、硬化ヒマシ油、硬化ヤシ油、パーム油等の種動植物油脂等が挙げられる。中でも、融点の高いパラフィンやミツロウは油性成分の分散性を高めるとともに油性成分の流動性を低下させて皮膚上での均一な塗布を可能にする。また、半固形油としては、炭化水素系半固形油、エステル系半固形油、エーテル系半固形油等が使用できる。例えば、ワセリン等の炭化水素系半固形油やジペンタエリトリット脂肪酸エステル、硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、コレステロール脂肪酸エステル、フィトステロール脂肪酸エステル、水添ヤシ油、および水添パーム油等の水添植物油等が挙げられる。中でもワセリンが好適で、固形油よりも柔らかい膜感で、肌なじみのよい油分散組成物を得ることができる。
【0022】
成分(B)は単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0023】
本発明の油分散組成物中、成分(B)の好ましい配合量は0.1~15質量%、より好ましい配合量は1~10質量%であり、この範囲では油性成分の塗膜による保湿感に優れている。
【0024】
本発明に用いる成分(C)は、常温(25℃)で流動性を有する油性成分を指す。
成分(B)の固形油や半固形油を溶解することができれば特に限定はされないが、例えば、オリーブ油、アボガド油、マカデミアナッツ油、月見草油、ホホバ油、ナタネ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、コメヌカ油、ヒマワリ油、アーモンド油、トウモロコシ油、アマニ油、メドゥフォーム油、スクワレン、スクワラン、植物性スクワラン、ホホバアルコール、流動パラフィン、ポリブテン、水添ポリイソブテン、エチルヘキサン酸セチル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、オクタン酸セチル、テトラオクタン酸ペンタエリスリル、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸2-ヘキシルデシル、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキシルパルミテート、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、オレイン酸デシル、オレイン酸オレイル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、コハク酸2-エチルヘキシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、ジメチコン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、トリグリセリン、オレイン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。中でも、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルが皮膚に適用した際に肌なじみがよいという観点から好ましい。
【0025】
成分(C)は単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0026】
成分(C)の配合量は特に限定されないが、(B)成分と(C)成分の合計量は本発明の油分散組成物全体の0.5質量%以上50質量%以下が好ましく10質量%以上30%以下がさらに好ましい。さらに(B)成分に対する(C)成分の配合量比が1以上であればなお好ましい。この範囲では油分散組成物の安定性が非常に良好であり、さらに皮膚に適用した際に油性粒子がつぶれやすく、塗布性に優れている。
【0027】
本発明に用いる成分(D)の水膨潤性粘土鉱物は、層状無機添加剤として知られている。特に限定はされないが、具体的にはベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、およびスチーブンサイト等のスメクタイト類を挙げることができ、天然物であっても合成物であってもいずれもよい。中でも、ヘクトライトであるケイ酸(Na/Mg)やフルオロケイ酸(Na/Mg)、サポナイトであるケイ酸(Al/Mg)、ベントナイトを含むことが、組成物塗布後の油分と水分の配置を制御することができ、水分の供給に優れた油分散組成物が得られるという観点から好ましい。
【0028】
成分(D)は単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0029】
本発明の油分散組成物中、成分(D)の好ましい配合量は0.5~5質量%であり、この範囲ではのびや肌なじみが良く使用性に優れている。
【0030】
本発明の油分散組成物は、本発明の効果が得られる範囲であれば、水系または乳化系、顔料分散系であってもよい。水系であれば、みずみずしい使用感の液状化粧料を調製することができ、乳化系であれば、油の種類や粘度によって乳液状からクリーム状まで様々な使用感を演出することができる。また、顔料分散系であれば、本製剤の特性である高い保湿効果を生かしたメーキャップ化粧料に応用することも可能である。
【0031】
本発明の油分散組成物には、必要に応じて本発明の効果を妨げない質的、量的範囲内で、通常化粧料に使用される成分、油性成分、成分(A)を除く界面活性剤、水性成分、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分、防腐剤、香料などを適宜配合することも可能である。
【0032】
本発明の油分散組成物の製造方法は、例えば成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有する油相を、成分(B)の融点より高い温度で均一に混合し、その後油相の上昇融点より低い温度まで冷却する工程;成分(D)を水相に分散し、加熱して十分に膨潤させた後、油相の上昇融点より低い温度まで冷却する工程;および前記油相と水相を混合して、前記油相を水相中に分散させる工程;を含むことを特徴とする。油相の上昇融点以下の温度で混合分散することによって、油性成分の浮遊物や凝集物を形成することなく、所望の平均粒子径の油分散組成物を作成することができる。
【0033】
本発明における油相の上昇融点とは、25℃で固体である油相が温度の上昇によって溶解し始める温度である。油相と水相の混合分散時の温度が油相の上昇融点以下であれば、油相は乳化されず分散して大きな粒子を調製することができる。上昇融点の測定方法は、成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有する油相を、90℃以上まで攪拌しながら昇温させて完全に溶解させた後、ヘマトクリット管に1cmの長さにサンプリングした。その後、20℃のインキュベーターで4時間放置し、化粧品原料基準の融点測定法第2法により上昇融点を測定した。
【0034】
本発明における「混合」とは、せん断混合や、撹拌混合を意味する。せん断混合の例としては、ホモミキサー、ホモディスパー等の高速せん断分散装置が挙げられ、撹拌混合の例としては、プロペラミキサーやパドルミキサー等の撹拌混合装置が挙げられる。撹拌速度は、製造スケールによっても異なるが、ホモミクサーMARK2-2.5型を取り付けた攪拌機(製品名:T.K.ロボミックス、プライミクス社製)を用いて200gのバルクをせん断混合する際は、1400~4000rpm程度の回転数で1分間処理することにより、油性粒子の平均粒子径を20μm以上に調製することができる。また、攪拌パドルを取り付けた撹拌機(製品名:スリーワンモーター、新東科学社製)を用いて100gのバルクを攪拌混合する際は、100~300rpm程度の回転数で15分間処理することにより油性粒子の平均粒子径を20μm以上に調製することができる。
【0035】
本発明の油分散組成物における油性粒子の平均粒子径は、製造直後で20~300μmが好ましく、40~200μmがさらに好ましい。そのような油分散組成物が特に使用感に優れており、皮膚に適用した際に、油性成分の皮膚上への均一塗布に優れている。反対に、油性粒子の平均粒子径が300μmを超えると、油性成分の皮膚上への均一塗布ができず、塗布面の使用感も好ましくない。なお、本発明における平均粒子径とは、個々の油性粒子の体積平均径を意味している。
【0036】
本発明において油性粒子の形状は特に限定されず、不規則なものであっても安定性や使用感に問題ない。また、せん断時のせん断混合の条件によって、油性粒子は部分的に微粒子化していても問題ない。
【実施例】
【0037】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。尚、配合量は特記しない限り質量%で示す。
【0038】
以下の製法で油分散組成物を調製した表1~4の処方について、各種効果・性状を確認した。
(油分散組成物の調製方法)
表1~4の各処方に基づき、水に成分(D)または(D´)を添加してディスパーで十分に分散させたものを80℃まで加熱して溶解させた後ディスパー分散を止め、手撹拌しながら30℃まで冷却したものを水相とした。一方、成分(A)、(B)および(C)を混ぜて80℃で加熱溶解させ、比較例1を除き30℃まで冷却(比較例1は60℃まで冷却)したものを油相とした。これら水相と油相の総量100gを200mLのビーカー内に投入し、外径6cm内径4cmの攪拌パドルを取り付けたスリーワンモーターを用い回転数300rpmで15分間攪拌混合し、油分散組成物を得た。
【0039】
<平均粒子径の測定方法>
平均粒子径の測定方法は、各処方中の水相で個々の油性粒子を観察可能な濃度(例えば組成物:水相=1:4で希釈)まで希釈した油分散組成物をドクターブレード(塗布厚300μm)でスライドガラス上に延ばし、40倍の倍率で観察した。得られた光学顕微鏡写真から、無作為に選択した観察が可能な油性粒子50個以上のフェレー径をもとに体積平均径を算出し、平均粒子径とした。
【0040】
<平均粒子径の評価>
平均粒子径が異なることによる油分散組成物の性状への影響を評価するため、表1のみ調製時の撹拌方法を変更した。各製法で調製した油分散組成物について塗布均一性を評価した結果を表1に示す。なお、各評価項目において、攪拌パドルを取り付けたスリーワンモーターによる撹拌は15分間の処理を、ホモミキサーによる攪拌は1分間の処理を行った。
【0041】
<塗布均一性の評価>
各組成物における皮膚上での塗布均一性は、処方中の油相に赤色色素を配合して調製した各組成物を前腕内側部に塗布し、30分後にデジタルマイクロスコープ(製品名:VHX-5000、キーエンス社製)で観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。なお、代表的な判断例は
図1に記載する。
(評価基準)
◎:皮溝と皮丘に均一に塗布されており、偏りがない。
○:皮溝への局在が少なく、皮丘への塗布が多い。
△:皮溝への局在が多く、皮丘への塗布が少ない、
×:皮溝に局在し、偏りがある。
【0042】
【0043】
表1から明らかなように、実施例1、2は攪拌方法が異なるため平均粒子径に差はあるものの、どちらも20μm以上の油分散組成物が得られ、皮膚上への塗布均一性も優れていた。一方、比較例1は、油相の上昇融点を超える温度で強く攪拌混合しているため、平均粒子径が20μm未満の組成物となり、固形油による油性成分の流動性低下効果が減弱し、塗布均一性は悪くなってしまった。
【0044】
【0045】
表2から明らかなように、成分(B)は、種類を選ばずに目的の油分散組成物を得ることができた(実施例3~5)。成分(C)は、シリコーン油、炭化水素、およびエステル油のいずれを用いても、目的の油性粒子を得ることができた(実施例6~8)。成分(A)である油溶性の界面活性剤が水添レシチン(実施例1)、あるいはHLB=5.5~12(実施例9~11)の界面活性剤であれば、平均粒子径が20μm以上の油分散組成物が調製できた。一方、成分(A)がHLB=5.5より低い界面活性剤の時(比較例2)は、分散性が低く油相が凝集してしまった。逆に、成分(A)がHLB=12より高い界面活性剤の時(比較例3)は、分散性が高すぎて平均粒子径が20μm未満の小さな粒子となり所望の油分散組成物を得ることができなかった。また、塗布均一性の代表例として
図1に実施例1と比較例3の観察画像を示したが、実施例1は皮溝と皮丘に偏りなく均一に塗布されているが、比較例3は皮溝に局在し均一な塗布はできていなかった。一方、界面活性剤ではないが両親媒性物質である高級アルコールを配合した比較例4は、油相が凝集して分散しなかったことから、所望の油分散組成物を得ることができなかった。
【0046】
<保湿感の評価>
10名の専門パネルに試料を使用してもらい、6時間後の保湿感(しっとり感)について、下記の評価基準で判定した。
(評価基準)
◎:8~10人が保湿感を感じると回答した。
○:5~7人が保湿感を感じると回答した。
△:2~4人が保湿感を感じると回答した。
×:0~1人が保湿感を感じると回答した。
【0047】
<油水配置の確認>
油水配置とは、人工皮革に組成物を塗布する過程で組成物の油性成分の分散状態が変化し、人工皮革上に形成される油性成分と水性成分の立体配置である。以下の各組成物の油水配置を確認した。各組成物における油水配置は、処方中に油溶性の蛍光色素(ナイルレッド)と水溶性の蛍光色素(フルオレセインナトリウム)を配合して調製した各組成物を、濡れ性が皮膚に近い人工皮革(製品名:サプラーレ、出光テクノファイン社製)の塗布領域(6cm
2)にそれぞれ10μL塗布し、指で10往復してなじませ、オールインワン蛍光顕微鏡(製品名:BZ-X700、キーエンス社製)のセクショニング機能を用いて観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。なお、代表的な判断例は
図2に記載する。
(確認結果)
A:油性成分と水性成分が混在して人工皮革の表面に付着している。
B:油性成分が人工皮革の表面に付着しており、水性成分が人工皮革に付着していない。
【0048】
【0049】
表3から明らかなように、成分(D)が水膨潤性粘土鉱物であれば、いずれの配合量であっても20μm以上の油分散組成物を得ることができた(実施例12~16)。一方、水相の増粘剤が水膨潤性粘土鉱物ではない場合、一部の増粘剤(比較例5、6)では油相と水相が分離し、目的の油分散組成物を調製することができなかった。また、油水配置の代表例として
図2に実施例1と比較例7の観察画像を示したが、実施例1は塗布後の油性成分と水性成分の存在位置が共局在しており、比較例7は人工皮革側に油性成分、空気側に水性成分というように層が分かれていた。そのため、実施例1は油分散組成物中の水分の浸透が油性成分に妨げられないため保湿感に優れていたものの、比較例7は水性成分の浸透が油性成分によって妨げられているため保湿感は十分ではなかったと考えられる。比較例8、9も比較例7と同様の油水配置であったため、ずるついてなじみが悪く、十分な保湿感を得ることはできなかったと考えられる。つまり、成分(D)が水膨潤性粘土鉱物(実施例1、12~16)であれば、種類を選ばずに油性成分と水性成分が混在した油水配置に制御できるが、水膨潤性粘土鉱物以外の増粘剤では、油性成分が皮膚表面側に付着するため、水性成分がはじかれて保湿効果が不十分であったと考えられる。
【0050】
【0051】
表4から明らかなように、成分(A)が0.1質量%~5質量%(実施例1、17~22)であれば、平均粒子径が20μm以上で、塗布均一性、油水配置、保湿感に優れた油分散組成物を得ることができた。しかし、(A)成分を配合しないと(比較例10)油相が凝集して分散せず、成分(A)が10質量%(比較例11)だと過度の分散性により平均粒子径が20μm未満となり、塗布均一性の低さから十分な保湿感を得ることができなかった。
また、成分(B)に対する成分(C)の配合量比である(C)/(B)が1以上(実施例20~22)であれば、塗布後の残り感として適度な油性の膜感があり、高い保湿感が得られた。しかし、(C)/(B)が1未満(実施例23)だと、本発明の効果を得られる範囲ではあるが成分(B)である固形油の割合が多くなるため油性粒子が硬くなり、塗布面の均一性が低下し保湿感がやや劣る傾向にあった。さらに、(C)/(B)が1以上であっても、(B)+(C)が50質量%を超える(実施例24)と、本発明の効果を得られる範囲ではあるが固形油の配合量が多くなるため、膜感により保湿感がやや劣る傾向にあった。
【0052】
以下に本発明の油分散組成物の処方例を挙げる。実施例に記載した油分散組成物の調製方法により油分散組成物を得ることが出来る。いずれも、皮膚内への浸透による閉塞性の低下を防ぐ目的で大きな油性粒子を持ちながら、皮膚に適用した際に、油分が水分のなじみを阻害することなく塗布が可能であるため水分供給に優れ、組成物が肌になじむ過程で油性成分が皮膚上に均一に塗布され、高い閉塞効果を与えることができる油分散組成物であった。
【0053】
<高保湿乳液>
表示名 配合量(%)
流動イソパラフィン 5.0
スクワラン 2.0
テトラエチルヘキサン酸セチル 3.0
ジメチコン 3.0
水添レシチン 1.0
ミツロウ 2.0
ワセリン 3.0
精製水 残余
1,3-ブチレングリコール 7.0
グリセリン 3.0
ケイ酸(Na/Mg) 1.5
pH調整剤 適量
防腐剤 適量
合計 100
【0054】
<高保湿ジェルクリーム>
表示名 配合量(%)
ホホバ油 10.0
トリエチルヘキサノイン 5.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 5.0
水添ポリイソブテン 3.0
ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 5.0
精製水 残余
BG 5.0
グリセリン 10.0
ジグリセリン 3.0
グリチルリチン酸2K 0.05
フルオロケイ酸(Na/Mg) 3.0
キサンタンガム 0.2
ヒアルロン酸Na 0.05
pH調整剤 適量
防腐剤 適量
合計 100