(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドとその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
(21)【出願番号】P 2020201148
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】清水 直子
(72)【発明者】
【氏名】中窪 亨
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】寺西 豊志
(72)【発明者】
【氏名】鹿目 修
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014172(JP,A)
【文献】特開2017-121795(JP,A)
【文献】特開2017-121788(JP,A)
【文献】特開2020-075418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314600(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1417031(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置し、
前記第1~第nのピッチ変換流路
の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであ
り、
互いに隣り合う第nのピッチ変換流路の間に、第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路がn個以上配置され、
前記第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路は、ピッチ変換流路の長さが単調増加する一の区間とピッチ変換流路の長さが単調減少する一の区間のみからなることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置し、
前記第1~第nのピッチ変換流路の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであり、
前記組に含まれる第1~第nのピッチ変換流路の数をQ1、Q2、・・・、Qnとしたとき、Q1>Qn、且つQ1≧Q2≧・・・≧Qnを満たす
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置し、
前記第1~第nのピッチ変換流路の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであり、
前記ピッチ変換流路を含むピッチ変換部と、
前記第1~第nの共通流路を含む共通流路部と、
前記ピッチ変換流路の高さ方向からみて、前記共通流路部と重なり前記ピッチ変換部と重ならない、前記ピッチ変換部の欠損部と、を
さらに有している
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記欠損部は、前記ピッチ変換部の配列方向における端部領域だけに設けられる、請求項
3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記欠損部の高さは、前記ピッチ変換流路の高さの0.5倍から2倍である、請求項
3または
4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
第iのピッチ変換流路(iはnより小さい整数)の両側に第(i+1)のピッチ変換流路が配置され、前記第iのピッチ変換流路及びその両側の前記第(i+1)のピッチ変換流路と対向する前記ピッチ変換部の外周部は直線状である、請求項
3から
5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記高さ方向からみて、前記直線状の外周部の内側且つ前記外周部の直近に位置する前記共通流路の高さが、他の前記共通流路の高さよりも高い、請求項
6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
第iのピッチ変換流路(iはnより小さい整数)の両側に第(i+1)のピッチ変換流路が配置され、前記第iのピッチ変換流路及びその両側の前記第(i+1)のピッチ変換流路と対向する前記ピッチ変換部の外周部は、外側外周部と内側外周部で形成された段差をなし、前記外側外周部は直線状であり、前記内側外周部は前記第iのピッチ変換流路に向かって引き込んでいる、請求項
3から
5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記高さ方向からみて、前記外側外周部の内側且つ前記外側外周部の直近に位置する前記共通流路の高さが、他の前記共通流路の高さよりも高い、請求項
8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
第iのピッチ変換流路(iはnより小さい整数)の一方の側に第1~第(i-1)のピッチ変換流路のいずれかが配置され、他方の側に第(i+1)~第nのピッチ変換流路のいずれかが配置され、前記第iのピッチ変換流路及びその両側の前記ピッチ変換流路と対向する前記ピッチ変換部の外周部は直線状である、請求項
3から
5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記ピッチ変換部に接続され、前記ピッチ変換部とともに前記欠損部を囲む延長部を有する、請求項
3から1
0のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記延長部の両端は前記ピッチ変換部に接続され、前記延長部は前記ピッチ変換部とともに前記欠損部を完全に取り囲んでいる、請求項1
1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置し、
前記第1~第nのピッチ変換流路の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであり、
前記第1~第nのピッチ変換流路と、前記第1~第nのピッチ変換流路と前記第1~第nの共通流路とを接続する連通孔と、が一体の部材で形成されている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置し、
前記第1~第nのピッチ変換流路の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであり、
前記第1~第nのピッチ変換流路と、前記第1~第nのピッチ変換流路と前記第1~第nの共通液室とを接続する基板接続流路と、が一体の部材で形成されている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項15】
液体を吐出する複数の吐出口と、
並列に配置され、前記液体が流通し、対応する前記吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、
第1~第nの順で並列に配置され、前記液体が流通する第1~第nの共通流路と、
前記第1~第nの共通流路と前記第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続する第1~第nのピッチ変換流路と、を有し、
前記第1~第nの共通液室は前記第1の共通流路の側に位置する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記第1~第nのピッチ変換流路の周囲を樹脂で形成する工程を含み、
前記第1~第nのピッチ変換流路の配列は、前記第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有し、
前記組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、
第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかであ
り、
互いに隣り合う第nのピッチ変換流路の間に、第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路がn個以上配置され、
前記第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路は、ピッチ変換流路の長さが単調増加する一の区間とピッチ変換流路の長さが単調減少する一の区間のみからなることを特徴とする、液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置において、印字速度を高めるために、記録媒体の全幅にわたって吐出口が配列したページワイド型の液体吐出ヘッドが使用されることがある。こうした液体吐出ヘッドでは、複数の吐出口列を有する素子基板に液体を供給するために、ピッチ変換流路が用いられることがある。液体は、吐出口の配列方向に延びる共通流路から、ピッチ変換流路を介して各素子基板の共通液室に供給される。ピッチ変換流路を形成する部材は、樹脂等の成形部品が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コストダウンのための吐出口の高密度化や、印字速度向上や高粘度液体への対応のための供給口の増加などを実現するため、ピッチ変換流路を高密度に配置することが求められている。ピッチ変換流路が高密度に配置された部材を他の部材と確実に接合するためには、ピッチ変換流路の接合面に高い平面度が求められる。しかし、ピッチ変換流路が形成された部材を樹脂等の成形によって形成する場合、ピッチ変換流路の複雑な構成によって樹脂の流れが妨げられ、ヒケが発生しやすくなる場合がある。これにより、部材の平面度が悪化し、部材の接合信頼性が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、ピッチ変換流路が形成された部材の成形性が改善された液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口と、並列に配置され、液体が流通し、対応する吐出口に接続された第1~第nの共通液室(nは3以上の整数)と、第1~第nの順で並列に配置され、液体が流通する第1~第nの共通流路と、第1~第nの共通流路と第1~第nの共通液室とをそれぞれ接続し、周囲が樹脂で形成された第1~第nのピッチ変換流路と、を有している。第1~第nの共通液室は第1の共通流路の側に位置している。第1~第nのピッチ変換流路の配列は、第1~第nのピッチ変換流路をそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる組が繰り返し配置された繰り返しパターンを有している。一組に含まれるピッチ変換流路の数はnより大きく、第mのピッチ変換流路(mは1~n-2のすべての整数)に隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路のいずれかである。第1の態様では、互いに隣り合う第nのピッチ変換流路の間に、第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路がn個以上配置され、第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路は、ピッチ変換流路の長さが単調増加する一の区間とピッチ変換流路の長さが単調減少する一の区間のみからなる。第2の態様では、組に含まれる第1~第nのピッチ変換流路の数をQ1、Q2、・・・、Qnとしたとき、Q1>Qn、且つQ1≧Q2≧・・・≧Qnを満たしている。第3の態様では、ピッチ変換流路を含むピッチ変換部と、第1~第nの共通流路を含む共通流路部と、ピッチ変換流路の高さ方向からみて、共通流路部と重なりピッチ変換部と重ならない、ピッチ変換部の欠損部と、をさらに有している。第4の態様では、第1~第nのピッチ変換流路と、第1~第nのピッチ変換流路と第1~第nの共通流路とを接続する連通孔と、が一体の部材で形成されている。第5の態様では、第1~第nのピッチ変換流路と、第1~第nのピッチ変換流路と第1~第nの共通液室とを接続する基板接続流路と、が一体の部材で形成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピッチ変換流路が形成された部材の成形性が改善された液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの素子基板の概略図である。
【
図3】素子基板と液体流路ユニットの分解斜視図である。
【
図4】液体流路ユニットを構成する部材の開口配置を示す図である。
【
図5】第1の実施形態と比較例のピッチ変換流路の配置を示す図である。
【
図6】ピッチ変換流路配置のバリエーション(n=3)を示す図である。
【
図7】ピッチ変換流路配置のバリエーション(n=4)を示す図である。
【
図8】ピッチ変換流路配置のバリエーション(n=5)を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る液体流路ユニットの概略図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る液体流路ユニットの概略図である。
【
図11】その他の変形例に係る液体流路ユニットの概略図である。
【
図12】その他の変形例に係る液体流路ユニットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明のいくつかの実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。本実施形態の液体吐出ヘッドでは、発熱抵抗素子により気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式が採用されている。しかし、本発明は、インクに吐出のためのエネルギーを与えることができる限り、ピエゾ方式及びその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも適用することができる。本実施形態では液体はインクであるが、液体はインクに限定されない。本実施形態の液体吐出ヘッドは、記録媒体の全幅にわたって吐出口が配列した一体型構成であるが、記録媒体の幅に合わせて複数の液体吐出ヘッドを配列する構成であってもよい。
【0010】
以下の説明において、記録媒体の幅方向をX方向、記録媒体の搬送方向をY方向という。X方向とY方向は直交している。X方向及びY方向と直交する方向をZ方向という。Z方向はピッチ変換流路の高さ方向に一致する。本発明はライン型液体吐出ヘッドに好適に適用できるが、記録媒体の幅方向に移動するキャリッジに搭載された液体吐出ヘッドにも適用可能である。その場合、X方向は記録媒体の搬送方向に一致し、Y方向は記録媒体の幅方向に一致していてもよい。
【0011】
各実施形態において、液体吐出ヘッドは4種類のインク(例えば、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(黒))を吐出する。また、インクが流通する液室、流路等は、インク供給用とインク回収用とに区分されている。そこで、以下の説明では、インクの種類と、供給用、回収用の区別のため、添字a~hを付する場合がある。なお、インクの色数は4色に限定されず、n種類ないしn色(nは3以上の整数)のインクが使用可能である。従って、一般的には、共通液室、共通流路、ピッチ変換流路は、各色で供給用と回収用の2つがあるため、第1~第2nの共通液室、第1~第2nの共通流路、第1~第2nのピッチ変換流路ということができる。また、インク供給用の液室、流路等とインク回収用の液室、流路等は逆にしてもよい。本実施形態の液体吐出装置では、インクを液体供給ユニットと液体吐出ヘッドとの間で循環させるが、インクは循環させなくてもよい。この場合、インク回収用の液室、流路等は省略することもできる。インクの種類と、供給用、回収用の区別が不要な場合、添字a~hを省略することがある。
【0012】
(第1の実施形態)
図1(a)と
図1(b)はそれぞれ、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド1の、吐出口側とその反対側からみた斜視図である。液体吐出ヘッド1は、複数の素子基板2と、液体流路ユニット3と、筐体4と、複数の電気配線基板5と、電気接続基板6と、を備えている。複数の素子基板2と複数の電気配線基板5は記録可能な最大幅の記録媒体の全幅Wに渡って配列されている。複数の電気配線基板5は対応する素子基板2と接続されている。インクは、液体流路ユニット3に接続された液体供給ユニット(図示せず)から、液体流路ユニット3を通して素子基板2に供給され、再び液体流路ユニット3を通して液体供給ユニットに回収される。素子基板2にエネルギー発生素子25(
図2参照)が配置されている。電気接続基板6及び電気配線基板5を通してエネルギー発生素子25を駆動することにより、それに対応する吐出口からインクが吐出される。
【0013】
図2(a)は素子基板2の吐出口形成面側からみた平面図、
図2(b)は素子基板2の、液体流路ユニット3との接続面側(すなわち、吐出口形成面の裏側)からみた平面図である。
図2(c)は
図2(b)のA-A断面に沿った素子基板2内の流路を示す模式的断面図である。素子基板2は四隅が鋭角または鈍角の平行四辺形の外形を有している。素子基板2には、各色のインクに対応し、各色のインクを吐出する複数の吐出口26が設けられている。吐出口26は吐出するインクの色ごとに列(吐出口列)21a~21dを形成している。従って、素子基板2には4種類のインクを吐出するための4列の吐出口列21a~21dと、それに対応したエネルギー発生素子25の列が配置されている。吐出口列21a~21dはX方向に対してわずかに傾いて配置されているが、X方向と平行でもよい。同色のインクを吐出する吐出口列は、複数の素子基板2にまたがり、記録媒体の全幅Wに渡って連続的に配置されている。
【0014】
図2~
図5(a)を参照して、インクの供給経路と回収経路について説明する。
図3(a)は液体流路ユニット3と素子基板2とを示す分解斜視図である。
図3(b)は液体流路ユニット3と素子基板2の模式的断面図である。
図4は液体流路ユニット3を構成する部材の開口の配置を示す図である。
図4(a),4(b)はそれぞれ基板接続部材9の表(おもて)面と裏面、
図4(c),4(e)はそれぞれピッチ変換部材8の表面と裏面、
図4(f),4(g)はそれぞれ共通流路部材7の表面と裏面の開口配置を示している。なお、各部材において素子基板2側を表(おもて)としたとき、
図4(d)は、
図3(b)のB-B線に沿ったピッチ変換部材8の断面図である。
図5(a)は共通流路31a~31hとピッチ変換流路32a~32hの配置を示す模式図である。液体流路ユニット3は、共通流路部材7と、ピッチ変換部材8と、基板接続部材9の3つの部材から構成されている。ピッチ変換部材8は第1~第4のピッチ変換流路32a~32hを含むピッチ変換部132(
図3(b)参照)を構成する。共通流路部材7とピッチ変換部材8は、第1~第4の共通流路31a~31hを含む共通流路部131(
図3(b)参照)を構成する。共通流路部材7とピッチ変換部材8と基板接続部材9は、樹脂の射出成形により形成される。従って、液体吐出ヘッド1の製造方法は、第1~第4のピッチ変換流路32a~32hの周囲を樹脂で形成する工程を含む。液体流路ユニット3のうち、ピッチ変換流路32の周囲以外の部分が樹脂と異なる材料で形成されてもよい。
【0015】
図2(c)に示すように、素子基板2の内部には、インクが流通する共通液室22が、インク毎に2つずつ設けられている。8個の共通液室22a~22hは並列に、より具体的には互いに平行に配置されている。共通液室22は、個別液室24を介して、対応する吐出口26に接続されている。
図2(b)に示すように、素子基板2の液体流路ユニット3との接合面には、第1~第4の開口部23a~23hが設けられている。開口部23は、共通液室22及び後述する共通流路31と連通している。開口部23a~23hはそれぞれ、1つまたは複数個設けられている。共通流路31から供給されたインクは、開口部23a~23dと共通液室22a~22dを通って個別液室24に流入する。インクはさらに共通液室22e~22hと開口部23e~23hを通って、共通流路31e~31hに回収される。個別液室24は各吐出口26及び各エネルギー発生素子25に対応して設けられている。
【0016】
図3(b)及び
図5(a)に示すように、液体流路ユニット3はインクが流通する第1~第4の共通流路31a~31hを有している。インク供給用の共通流路31a~31dは第1~第4の順で並列に配置され、インク回収用の共通流路31e~31hも第1~第4の順で並列に配置されている。より具体的には、8個の共通流路31a~31hは互いに平行に配置されている。インク供給用の共通流路31a~31dは、液体流路ユニット3のY方向における半部に設けられ、インク回収用の共通流路31e~31hは、液体流路ユニット3のY方向における他の半部に設けられている。また、共通流路31a~31hは、第4の共通流路31a,31hが液体流路ユニット3のY方向端部側、第1の共通流路31d,31eが液体流路ユニット3のY方向中央側となるよう配置されている。素子基板2は液体流路ユニット3のY方向中央部に設けられており、共通液室22は第1の共通流路31d,31eの側に位置している。
【0017】
共通流路部材7には共通流路31a~31hの一部となる第1~第4の下部溝部72a~72hと、不図示の液体供給ユニットと第1の下部溝部72a~72hとを接続する第1~第4のジョイント部71a~71hと、が設けられている。
【0018】
ピッチ変換部材8には、共通流路31a~31hの一部となる第1~第4の上部溝部81a~81hが設けられている。上部溝部81a~81hは第1の下部溝部72a~72hと対向する位置に設けられている。第1の下部溝部72a~72hと上部溝部81a~81hが連通するように共通流路部材7とピッチ変換部材8とを接合することで、共通流路31a~31hが形成される。ピッチ変換部材8には、第1~第4のピッチ変換流路32a~32hを形成する第1~第4のピッチ変換流路溝83a~83hが設けられている。
図3,5(a)に示すように、素子基板2は液体流路ユニット3と比べて非常に幅が狭いため、共通液室22a~22hのY方向の配列ピッチは共通流路31a~31hのY方向の配列ピッチよりも小さい。ピッチ変換流路32a~32hは、共通流路31a~31hのY方向の配列ピッチを共通液室22a~22hのY方向の配列ピッチに変換するために設けられている。ピッチ変換流路32a~32hはY方向に延びているが、Y方向に対して傾斜して延びていてもよい。さらに、ピッチ変換部材8には、第1~第4のピッチ変換流路溝83a~83hと第1~第4の上部溝部81a~81hとを連通させる第1~第4の連通孔82a~82hが設けられている。
【0019】
基板接続部材9には、素子基板2の第1~第4の開口部23a~23hと対向する位置に、第1~第4の基板接続流路91a~91hが設けられている。ピッチ変換流路溝83a~83hの連通孔82a~82hと反対側の端部は、基板接続流路91a~91hと対向している。ピッチ変換部材8と基板接続部材9とを接合することにより、基板接続流路91a~91hに連通するピッチ変換流路32a~32hが形成される。以上の構成により、液体流路ユニット3から素子基板2へのインクの供給、及び素子基板2から液体流路ユニット3へのインクの回収を行う液体供給路が形成される。
【0020】
続いて、
図5を参照して、ピッチ変換流路32a~32hの配置について説明する。以下の説明では、第1~第4のピッチ変換流路32a~32dを、ピッチ変換流路P1~P4と呼ぶ。説明は省略するが、第1~第4のピッチ変換流路32e~32hも、第1~第4のピッチ変換流路32a~32dと同様に構成されている。
図5(b)は、比較例の共通流路31a~31hとピッチ変換流路P1~P4の配置を示した模式図である。
図5(a)に示す実施形態と
図5(b)に示す比較例では、共通流路31a~31hの構成は同じであり、ピッチ変換流路P1~P4の構成が異なる。ピッチ変換流路P1~P4は共通流路3の延びる方向(X方向)に沿って配列している。ピッチ変換流路P1~P4は、共通流路31a~31dと共通液室22a~22dとを接続する。各ピッチ変換流路P1~P4の数は限定されないが、本実施形態では、ピッチ変換流路P1~P4の各々は複数個設けられている。共通流路31a~31hのY方向の配列ピッチに対する、ピッチ変換流路P1~P4のX方向の配列ピッチの比は好ましくは1/3~3の範囲にある。ピッチ変換流路P1~P4のX方向の配列ピッチが小さすぎると樹脂の充填性が低下し、配列ピッチが大きすぎるとインクの流路長さが増加し、圧力損失の増加につながる。
【0021】
以下の説明では、素子基板2に対して+Y方向(矢印の方向)、-Y方向(矢印の逆方向)のいずれか一方(
図5の説明では+Y方向)に配置された共通流路31の数をn(nは3以上の整数)とする。また、共通流路31に接続されるピッチ変換流路32を、素子基板2に近いものから順に、P1、P2、・・・、Pnとする。ピッチ変換流路の配列は、ピッチ変換流路P1~Pnをそれぞれ1つ以上含む条件でピッチ変換流路の数が最小となる「組」が繰り返し配置された繰り返しパターンを有している。この最小の数をピッチ変換流路の配列の繰り返し周期Cとする。
図5(a)に示す例ではC=8、n=4であり、
図5(b)に示す例ではC=4、n=4である。ピッチ変換流路は1つの素子基板2あたり1周期で配列されているが、1つの素子基板2に複数の周期が含まれてもよい。
【0022】
ピッチ変換流路P1~Pnの配置は以下に示す条件1~5の少なくとも一部を満たす。以下、これらの条件について詳細に説明する。このうち、条件1と条件2は本実施形態の必須条件であり、条件3~条件5は本実施形態の効果がより高められる条件である。ピッチ変換流路P1~Pnの配置は、条件1、条件2を満たす限り以下に示す例に限定されない。条件1~5について説明する前に、
図6~8について説明する。
図6~8は、ピッチ変換流路の配置のバリエーションと条件1~5の適合性をまとめたものである。
図6のケース3-1~3-6はn=3の場合、
図7のケース4-1~4-6はn=4の場合、
図8のケース5-1~5-4はn=5の場合の配置例である。各図において太線で囲んだケースが実施例、それ以外が比較例である。
【0023】
・条件1:一つの組に含まれるピッチ変換流路P1~Pnの数はnより大きい。
すなわち、ピッチ変換流路の配列の少なくとも一部の領域において、C>nが成り立つ。
図5(a)に示す実施形態では、ピッチ変換流路が-X方向にP1→P2→P3→P4→P3→P4→P1→P2の順に配列されているので、n=4、C=8となり、C>nが成り立つ。これに対し、
図5(b)に示す比較例では、ピッチ変換流路が-X方向にP1→P3→P2→P4→P1→P3→P2→P4の順に配列されているので、n=4、C=4となり、C>nが成り立たない。
【0024】
・条件2
いずれのピッチ変換流路Pm(mは1~n-2のすべての整数)についても、第mのピッチ変換流路Pmに隣接する2本のピッチ変換流路のうち、少なくとも一方は第1~第(m+1)のピッチ変換流路P1~Pm+1のいずれかである。
この条件は、あるピッチ変換流路をPx、ピッチ変換流路Pxのいずれかの側で隣接するピッチ変換流路をPyとしたときに、Pyが接続される共通流路31が、Pxが接続される共通流路31より2本以上Y方向外側に位置していないことを意味する。換言すれば、両側のPyのうち、少なくとも一方の長さが、Pxの長さより2段階以上長くないことを意味する。つまり、「Pxの両側で隣接する2つのPyの長さが、ともにPxより2段階以上長い」ケースが排除されることを意味する。mは1~n-2のすべての整数である。m=n-1を除外したのは、ピッチ変換流路Pn-1はどのピッチ変換流路P1~Pnと隣接しても、必ずP1~P(m+1)の条件を満たすからであり、m=nを除外したのも同様の理由による。
図5(a)に示す実施形態ではこの条件が満たされている。これに対し、
図5(b)に示す比較例では、両隣にピッチ変換流路P3,P4が配置されたピッチ変換流路P1があるため、この条件は満たされない。
【0025】
条件1と2の効果について説明する。
図5(a),5(b)には、ピッチ変換部材8のY方向端部における樹脂の流れを矢印で示している。
図5(b)に示す比較例では、ピッチ変換流路P4より外側の樹脂は外周部を直線的に流れるのに対し、ピッチ変換流路P4の内側に入り込んだ樹脂は、細かい周期で複雑な分岐と合流を繰り返す。さらに、ピッチ変換流路P1がピッチ変換流路P3、P4に挟まれて配置されているため、この部分では、外側からピッチ変換流路P1に向かって狭い幅で深く入り込む樹脂の流れが発生する。このように、繰り返しの周期が短い場合(条件1が不成立)や、あるピッチ変換流路がその長さよりも大幅に長いピッチ変換流路に挟まれて配置されている場合(条件2が不成立)には、細かい周期で樹脂の流動方向が変化し、樹脂の分岐や合流が多くなる。この結果、外周部の流れに対して急角度で狭い領域に樹脂を充填することとなる。これにより、樹脂を充填する際の圧力損失が大きくなり、その結果、ゲートから遠い地点において圧力が十分にかけられず、ヒケが大きくなる可能性がある。例えば、
図5(c)に示すように、ゲートGがピッチ変換部材8の長手方向の中央部に設けられている場合、長手方向の両端部が最終充填領域Rとなる。比較例のピッチ変換流路配置では、樹脂がゲートGから最終充填領域Rに到達するまでの圧力損失が大きく、最終充填領域Rの近傍においては圧力を十分にかけられない。この結果、
図5(d)に示すようなヒケSが発生する可能性がある。ヒケSはピッチ変換部材8の表面の凹みであるが、ピッチ変換部材8の表面は基板接続部材9との接合面でもある。従って、ピッチ変換部材8の接合面の平面度が悪化し、ピッチ変換部材8と基板接続部材9の接合不良が生じる可能性がある。
【0026】
これに対し、
図5(a)に示す本実施形態のピッチ変換流路配列では、ピッチ変換流路P1~P4の配列の繰り返し周期Cをn(=4)よりも大きい8にすることで、樹脂の分岐や合流地点を減らしている。また、いずれのピッチ変換流路P1~P4も、その長さよりも2段階以上長いピッチ変換流路に挟まれることがない。これにより、樹脂の分岐や合流の角度が緩やかになり、樹脂の充填性が向上する。
【0027】
図6~8を参照すると、ケース3-1、4-1、5-1(いずれも比較例)に示すように、C=nとなる配置では、樹脂の流れの変動が細かい周期で発生し、圧力損失が大きくなりやすい。また、ケース3-2、4-2、5-2(いずれも比較例)に示すように、両隣を2段階以上長いピッチ変換流路にはさまれたピッチ変換流路が存在すると、その部分の樹脂の流動が急激に変化し、充填が困難となる。これに対し、ケース3-3~3-6、4-3~4-6、5-3~5-4は、条件1、2を満たすことで、開けた領域での樹脂流動を実現し、充填性を向上させることが可能である。
【0028】
・条件3:互いに隣り合う第nのピッチ変換流路の間に、第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路がn個以上配置されている。
すなわち、最も長いピッチ変換流路Pnの配置間隔をCnとすると、Cn>nとなる領域が存在する。配置間隔Cnとは、互いに隣り合うピッチ変換流路Pnの間に、Pn以外のピッチ変換流路が(Cn-1)個存在することを意味する。
図5(a)では、隣り合うピッチ変換流路P4の間に合計5つのピッチ変換流路P1,P2,P3が挟まれた領域(Cn=6)が存在する。ケース3-4~3-6、4-4~4-6、5-3~5-4もこの条件を満たしている。条件3を満たすことにより、樹脂の流動の変化がより緩やかになり、充填性が向上する。この際、ケース3-4やケース4-4に示すように、P1~Pnを降順に配列する箇所と昇順に配列する箇所とを交互に設けることで、樹脂の流動がよりスムーズになる。つまり、第nのピッチ変換流路に挟まれた第nのピッチ変換流路以外のピッチ変換流路は、ピッチ変換流路の長さが単調増加する一の区間とピッチ変換流路の長さが単調減少する一の区間のみからなっている。
図5(a)では、ピッチ変換流路P4の間に他のピッチ変換流路が1本挟まれた部分が発生するが、このピッチ変換流路はP3であるため、条件2を満たす。従って、樹脂流動の変動は小さく抑えられる。
【0029】
・条件4:第nのピッチ変換流路に隣接するピッチ変換流路のうち少なくとも一方は別の第nのピッチ変換流路または第(n-1)のピッチ変換流路である。
図5(a)では、ピッチ変換流路P4に隣接するピッチ変換流路のうち一方はピッチ変換流路P3となっている。なお、「隣接」とは間にピッチ変換流路が存在しないことを意味し、上述の「隣り合う」とは間に他の種類のピッチ変換流路が介在することを意味する。ケース3-3~3-6、4-3~4-6、5-4もこの条件を満たしている。条件4を満たすことによって、樹脂流動の変化がより緩やかになり、充填性が向上する。ケース5-3では、最も長いピッチ変換流路P5は両隣のピッチ変換流路P3から突出しているが、ケース5-4では条件4を満たすため、最も長いピッチ変換流路P5の突出し長さが低減し、よりスムーズな樹脂流動を実現可能である。
【0030】
・条件5:一つの組に含まれる第1~第nのピッチ変換流路の数をQ1、Q2、・・・、Qnとしたとき、Q1>Qn、且つQ1≧Q2≧・・・≧Qnを満たす。
すなわち、第1~第nのピッチ変換流路の少なくとも一つは他の第1~第nのピッチ変換流路と数が異なり、且つ長いピッチ変換流路の数がそれより短いピッチ変換流路の数より多くなることがない。本条件は、短いピッチ変換流路の数が長いピッチ変換流路の数に対して相対的に多いことを意味している。ケース3-6ではピッチ変換流路P1,P2が3つあり、ピッチ変換流路P3が2つある。ケース4-6ではピッチ変換流路P1,P2が3つあり、ピッチ変換流路P3,P4が2つある。本条件は、例えば、インク循環条件に応じて、供給側と回収側でピッチ変換流路の数を異ならせる場合や、吐出口列21毎のインクの種類や使用される印字デューティに応じてピッチ変換流路の数を異ならせる場合などに適用可能である。より短いピッチ変換流路の数が多くなるため、外周部から急角度で内部に入り込む樹脂の流れが抑えられ、本発明の効果がより大きなものとなる。
【0031】
さらに、同じ種類(長さ)のピッチ変換流路を隣接して配置してもよい。これによって、樹脂流動の変化がより緩やかになり、充填性が向上する。例えば、ケース3-3,3-4やケース4-4ではピッチ変換流路P1が隣接して配置されている。これらのピッチ変換流路P1が一つの素子基板2に接続される場合、共通液室22に接続する開口部23が近接して配置され、その結果、共通液室22内でのインクの流動距離が長くなり、圧力損失が大きくなる可能性がある。液体吐出ヘッド1の使用形態によっては、圧力損失を小さく抑える必要がある。その場合にはケース3-5やケース4-5のように、1つの素子基板2内で同じ種類のピッチ変換流路が隣接しない配置にすることも可能である。これらの配置は使用形態を考慮して適宜選定することができる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、樹脂をスムーズに充填することが可能となる。これにより、ゲートから遠い地点においても圧力を十分に伝えることが可能となる。その結果、ピッチ変換流路を高密度化した場合にも、ヒケが抑制され、接合信頼性の高い液体吐出ヘッド1が提供可能となる。
【0033】
(第2の実施形態)
図9を参照して、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態における液体吐出ヘッド1の全体構成及びピッチ変換流路の配置は第1の実施形態と同様であるため省略する。
図9(a)は、ピッチ変換部材8の一部を基板接続部材9側からみた平面図、
図9(b)は
図9(a)のC-C断面に沿った模式的断面図である。本実施形態においては、ピッチ変換部132のピッチ変換流路32の周囲に一定幅の接合領域133を設け、その外側にピッチ変換部132の欠損部84が設けられている。ピッチ変換部132の欠損部84とは、Z方向からみて、共通流路部131と重なりピッチ変換部132と重ならない、樹脂の充填されない空間である。欠損部84は肉抜き部と同義であるため、以下、欠損部84の代わりに肉抜き部84ということがある。
【0034】
肉抜き部84を設けることにより、ピッチ変換部材8のヒケをさらに抑制することが可能となる。例えば、
図5(b)に示す比較例のように、長さの大きく異なるピッチ変換流路に挟まれたピッチ変換流路がある場合、肉抜き部84の形状が複雑となる。このため、金型の強度や成形時の離型性の観点から、肉抜き部84を設けることが困難な場合がある。これに対し、本実施形態によれば、大きくまとまった肉抜き部84を設けることができ、金型の強度や離型性の課題を軽減できる。また、比較例では、肉抜き部84を設けることができたとしても、樹脂の流動領域の形状が複雑であり、充填時の圧力損失が大きくなりやすい。一方、本実施形態によれば、肉抜き部84を設けた場合の樹脂の流動領域の形状は比較例と比べて単純であり、樹脂のスムーズな充填が可能である。肉抜き部84の深さ(高さ)t1は、
図9(b)に示すように、ピッチ変換流路32(ピッチ変換流路溝83)の深さt2に近い深さとすることが好ましい。肉抜き部(欠損部)84の深さは、ピッチ変換流路32(ピッチ変換流路溝83)の高さの0.5倍から2倍の範囲であることが好ましい。離型抵抗を下げる手段として、肉抜き部84の側面に抜き勾配を付与したり、エッジにR形状を設けたりしてもよい。
【0035】
図9(c),9(d)は第2の実施形態の第1の変形例を示す、
図9(a),9(b)と同様の図である。第iのピッチ変換流路Pi(iはnより小さい整数)の両側に第(i+1)のピッチ変換流路Pi+1が配置され、ピッチ変換流路Pi及びその両側のピッチ変換流路Pi+1と対向するピッチ変換部132の外周部88は直線状である。図示の例では、例えばピッチ変換流路P1の両側にピッチ変換流路P2が設けられ、ピッチ変換流路P1とピッチ変換流路P2と対向する外周部88はX方向と平行な直線となっている。すなわち、ピッチ変換流路の両隣にそのピッチ変換流路よりも長いピッチ変換流路が配置されている箇所では、肉抜きを行わない樹脂充填部85が設けられている。これによって、細い領域への金型の突出し長さを減らし、より成形しやすい構造となる。当該部分の樹脂体積が多くなるため、肉抜きをする場合に対し、ヒケは拡大する可能性もあるが、隣接するピッチ変換流路との長さの差が小さいことから、その影響は軽微である。
【0036】
図9(e),9(f)は第2の実施形態の第2の変形例を示す、
図9(a),9(b)と同様の図である。第1の変形例と同様、樹脂充填部85が設けられている。
図9(e)では、Z方向からみて、直線状の外周部88の内側且つ外周部88の直近に位置する共通流路31fの深さが、他の共通流路31の深さよりも深くされている。樹脂充填部85と対向する共通流路31fは領域86まで延びており、共通流路31fの上部天井部の厚さが揃えられている。領域86は、
図9(f)のハッチング部に示すように、X方向に細長い形状とされている。このような構成をとることにより、肉抜き部84の離型性の課題を軽減することができる。また、樹脂体積が低減することから、ヒケの悪化を抑制することが可能である。
【0037】
図10(a),10(b)は第2の実施形態の第3の変形例を示す、
図9(a),9(b)と同様の図である。第iのピッチ変換流路Pi(iはnより小さい整数)の両側に第(i+1)のピッチ変換流路Pi+1が配置されている。図示の例では、例えばピッチ変換流路P1の両側にピッチ変換流路P2が設けられている。ピッチ変換流路Pi(図示の例ではピッチ変換流路P1)及びその両側のピッチ変換流路Pi+1(図示の例ではピッチ変換流路P2)と対向するピッチ変換部132の外周部88は、外側外周部881と内側外周部882で形成された段差をなしている。つまり、ピッチ変換流路Piの両隣にピッチ変換流路Piよりも長いピッチ変換流路が配置されている箇所では、他の箇所に対して肉抜きが浅い領域87が設けられる。外側外周部881は直線状であり、内側外周部882はピッチ変換流路Piに向かって引き込んでいる。この様な構成によれば樹脂体積が低減することから、ヒケの悪化を抑制することが可能である。
【0038】
図10(c),10(d)は第2の実施形態の第4の変形例を示す。
図10(c)はピッチ変換部材8の模式的断面図、
図10(d)はピッチ変換部材8の斜視図である。第2の変形例と同様、Z方向からみて、外側外周部881の内側且つ外側外周部881の直近に位置する共通流路31fの深さが、他の共通流路31の深さよりも深くされている。本変形例は第2の変形例と同様の効果を奏する。以上の変形例は成形の難易度と平面度の要求レベルに応じて適切なものを選択すればよい。
【0039】
図11(a)は第2の実施形態の第5の変形例を示すピッチ変換部材8の平面図である。第iのピッチ変換流路Pi(iはnより小さい整数)の一方の側に第1~第(i-1)のピッチ変換流路P1~Pi-1のいずれかが配置され、他方の側に第(i+1)~第nのピッチ変換流路Pi+1~Pnのいずれかが配置されている。図示の例では、例えばピッチ変換流路P2の両側にピッチ変換流路P1,P3が配置されている。第iのピッチ変換流路Pi(図示の例ではピッチ変換流路P2)及びその両側のピッチ変換流路(図示の例ではピッチ変換流路P1,P3)と対向するピッチ変換部132の外周部88は直線状である。すなわち、ピッチ変換流路32の周囲に設ける接合領域133のZ方向の厚さは必ずしも同一である必要はなく、外周部88はより滑らかな形状としてもよい。これによってスムーズな樹脂流動を実現し、充填性を向上させることが可能となる。
【0040】
図11(b)は第2の実施形態の第6の変形例を示すピッチ変換部材8の平面図である。本実施形態では、ピッチ変換部132に接続され、ピッチ変換部132とともに欠損部84を囲む延長部134を有する。延長部134の両端はピッチ変換部132に接続され、延長部134はピッチ変換部132とともに欠損部84を完全に取り囲んでいる。図示は省略するが、延長部134の一端だけがピッチ変換部132に接続されていてもよい。ピッチ変換流路32の周囲から離れた領域に、接合領域133と同一高さの接合面があるため、接合性が改善される。
【0041】
図11(c)は第2の実施形態の第7の変形例を示すピッチ変換部材8の平面図である。肉抜き部84はピッチ変換部材8の全長ではなく、一部の領域のみに設けられる。例えば、ゲート近傍に肉抜き部84を設けず、ヒケが発生しやすい最終充填領域Rやその近傍(これらを合わせて端部領域Eという)のみに肉抜き部84を設けることで、全体の離型抵抗を小さく抑えつつ、必要な部位でヒケを抑制することが可能である。本実施形態では、ゲートGがピッチ変換部材8の長手方向(X方向)中央部に設けられるため、欠損部84はピッチ変換部132の配列方向(X方向)における端部領域Eだけに設けられる。
【0042】
以上の2つの実施形態においては、液体供給路(及び液体回収路)を共通流路部材7、ピッチ変換部材8、基板接続部材9の3つで構成したが、液体供給路は異なる部材構成で形成してもよい。
図12(a)に示す例では、ピッチ変換部材8がピッチ変換流路32と連通孔82とを有している。すなわち、ピッチ変換流路32と、ピッチ変換流路32と共通流路31とを接続する連通孔82とが一体の部材(ピッチ変換部材8)で形成されている。この場合、
図9、10と同様に部材の表(おもて)面からの肉抜きが可能である。
【0043】
図12(b)に示す例では、ピッチ変換部材8が、ピッチ変換流路32と、ピッチ変換流路32と共通液室22とを接続する基板接続流路91と、を有している。すなわち、ピッチ変換流路32と基板接続流路91が一体の部材(ピッチ変換部材8)で形成されている。ピッチ変換流路32は素子基板2側とは反対側の面に開口するように設けられており、この面に他の部材10を接合することでピッチ変換流路32が形成される。部材10はピッチ変換流路32と共通流路31とを接続する連通孔82を有している。
図12(c)に示す例では、ピッチ変換部材8がピッチ変換流路32のみを有している。ピッチ変換部材8に他の部材10を接合することでピッチ変換流路32が形成される。すなわち、ピッチ変換流路32を有する部材(ピッチ変換部材8)と、連通孔82を有する部材10と、基板接続流路91を有する部材(基板接続部材9)と、が別々の部材として形成されている。ピッチ変換流路32は両側に開口しており、両面に基板接続部材9と部材10を接合することでピッチ変換流路32が形成される。
図12(b),12(c)の例では、部材の表(おもて)面または裏面から、ある深さを持った肉抜きを設けてもよいし、表(おもて)面から裏面まで貫通する肉抜きを設けてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 液体吐出ヘッド
22 共通液室
26 吐出口
31 共通流路
32 ピッチ変換流路