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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】血液粘度測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20241209BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20241209BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
A61B5/1455
G01N21/3577
G01N11/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020201807
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089423
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】520479032
【氏名又は名称】合同会社ミューフロー
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592059448
【氏名又は名称】原田電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 匡
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】原田 証英
【審査官】阿部 知
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-508765(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239980(WO,A1)
【文献】特表平10-501141(JP,A)
【文献】特開2004-198160(JP,A)
【文献】特表2020-502512(JP,A)
【文献】特表2010-540964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
G01N 21/00 -21/01
G01N 21/17 -21/61
G01N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の血液の粘度を非侵襲で測定する装置において、
前記被測定者の光が透過する共通の測定箇所を間に挟んで互いに対向するのに適した投光部および受光部の組を3組有する投受光ユニットと、
前記投受光ユニットの前記3組の投光部および受光部の各々の前記投光部から出て前記共通の測定箇所を透過し前記受光部で受光した3種類の波長の透過光の強さを前記受光部からの信号によって計測する透過光強さ計測手段と、
前記3種類の波長の透過光の強さから、前記被測定者の血管中のヘモグロビンによる光の吸収の強さと、前記被測定者の生体内の水による光の吸収の強さと、前記被測定者の生体組織による光の散乱の強さとをそれぞれ測定し、それらの強さに基づき、前記被測定者の血管中の血液のヘマトクリット値を演算で求め、そのヘマトクリット値に基づき、ヘマトクリット値と血液粘度との関連から血液粘度を求めて出力する血液粘度出力手段と、
を具え
前記3種類の波長は、生体組織により散乱されやすい波長と、生体内の水により吸収されやすい波長と、血液中のヘモグロビンにより吸収されやすい波長と、に設定され、
前記生体組織により散乱されやすい波長は805nmまたは810nmとされ、前記生体内の水分により吸収されやすい波長は1450nmまたは1300nmとされ、前記血液中のヘモグロビンにより吸収されやすい波長は何れも酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンとの光の吸収量が等しくなる波長から選択された550nmまたは525nmとされることを特徴とする血液粘度測定装置。
【請求項2】
前記共通の測定箇所は前記被測定者の耳朶に設定されることを特徴とする、請求項1記載の血液粘度測定装置。
【請求項3】
前記投受光ユニットは、投光光量と受光光量との関係特性を、前記生体組織による散乱と、前記生体内の水による吸収と、前記血液中のヘモグロビンによる吸収とで予め揃えるために光学フィルタを用いることを特徴とする、請求項1または2記載の血液粘度測定装置。
【請求項4】
前記投受光ユニットは、前記3組の投光部および受光部の組における各投光部からの光をその光軸が共通光軸に一致するように集中させて前記共通の測定箇所に透過させる光学素子と、その透過光を分散させて前記3組の投光部および受光部の組における各受光部に受光させる光学素子とを有することを特徴とする、請求項1からまでの何れか1項記載の血液粘度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体の血管内を流れる血液の粘度を非侵襲で測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体の血管内を流れる血液の粘度が通常よりも高いと、心筋梗塞や脳梗塞等の血流障害が引き起こされ、突然死に至る可能性が高まることは一般に知られている。このため近年は、特に高齢や高血圧、糖尿病等の持病によって血管壁が弱くなっている人に対し、血流障害の発生防止のために薬剤やサプリメント等の服用で血液の粘度を低く維持することが求められている。
【0003】
ところで、血液の粘度を測定する度に血液を人体から取り出すのでは被測定者の負担が極めて大きくなる。このため、血液を人体から取り出さずに、すなわち非侵襲で血液の粘度を測定することが検討されており、このような測定装置として従来、例えば特許文献1記載の装置が知られている。
【0004】
この従来の装置は、被測定者の心電信号を計測する心電計と、前記被測定者の血液の脈波を計測する脈波計と、前記被験者の血圧を計測する血圧計と、前記心電信号と前記脈波との時間差とそれらの計測位置間の距離とから見かけの脈波伝搬速度を求め、その見かけの脈波伝搬速度と前記血圧とから血液情報を示す血液状態指数を演算して出力する演算手段とを具えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4323560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらこの従来の装置では、心電計と脈波計と血圧計とを用い、それらを被測定者に正確に装着する必要があるため、血液状態の測定に手間と費用が掛かり、人体の血管内を流れる血液の粘度を非侵襲で簡易に測定することはできないという問題があった。その一方、人体の血管内を流れる血液中で赤血球が占める割合を示すヘマトクリット値と、血液粘度との間には一定の関連があることが従来から知られており、へマトクリット値が30%以下では血液粘度はヘマトクリット値にほぼ比例して増加するが、成人等でヘマトクリット値が30%より高い場合には血液粘度はヘマトクリット値の増加に対し指数関数的に増加する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は血液のヘマトクリット値から血液粘度を求めることで上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、この発明の血液粘度測定装置は、
被測定者の血液の粘度を非侵襲で測定する装置において、
前記被測定者の光が透過する共通の測定箇所を間に挟んで互いに対向するのに適した投光部および受光部の組を3組有する投受光ユニットと、
前記投受光ユニットの前記3組の投光部および受光部の各々の前記投光部から出て前記共通の測定箇所を透過し前記受光部で受光した3種類の波長の透過光の強さを前記受光部からの信号によって計測する透過光強さ計測手段と、
前記3種類の波長の透過光の強さから、前記被測定者の血管中のヘモグロビンによる光の吸収の強さと、前記被測定者の生体内の水による光の吸収の強さと、前記被測定者の生体組織による光の散乱の強さとをそれぞれ測定し、それらの強さに基づき、前記被測定者の血管中の血液のヘマトクリット値を演算で求め、そのヘマトクリット値に基づき、ヘマトクリット値と血液粘度との関連から血液粘度を求めて出力する血液粘度出力手段と、
を具えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
かかるこの発明の血液粘度測定装置にあっては、投受光ユニットの3組の投光部および受光部が、被測定者の光が透過する共通の測定箇所を間に挟んで互いに対向し、透過光強さ計測手段が、投受光ユニットの3組の投光部および受光部の各々の投光部から出てその共通の測定箇所を透過し受光部で受光した3種類の波長の透過光の強さを受光部からの信号によって計測し、血液粘度出力手段が、それら3種類の波長の透過光の強さから、被測定者の血管中のヘモグロビンによる光の吸収の強さと、被測定者の生体内の水による光の吸収の強さと、被測定者の生体組織による光の散乱の強さと、をそれぞれ測定し、それらの強さに基づき、被測定者の血管中の血液のヘマトクリット値を演算で求め、そのヘマトクリット値に基づき、ヘマトクリット値と血液粘度との関連を示す関係式や対比表等から血液粘度を求めて出力する。
【0009】
従って、この発明の血液粘度測定装置によれば、被測定者の光が透過する共通の測定箇所に3組の投光部および受光部がその測定箇所を間に挟んで互いに対向するように投受光ユニットを装着するだけで、被測定者の測定箇所の血管内を流れる血液の粘度を非侵襲で簡易に測定することができる。
【0010】
なお、この発明の血液粘度測定装置においては、前記共通の測定箇所は前記被測定者の耳朶に設定されると、肉厚が比較的薄いため光の散乱が弱く、しかも血管が通っていて生体内の水と血管中の血液のヘモグロビンとによる光の吸収が生じやすいため好ましい。
【0011】
また、この発明の血液粘度測定装置においては、前記3種類の波長は、生体組織によ散乱されやすい波長と、生体内の水によ吸収されやすい波長と、血液中のヘモグロビンによ吸収されやすい波長と、に設定される。これにより測定者の血管中のヘモグロビンによる光の吸収の強さと、被測定者の生体内の水による光の吸収の強さと、被測定者の生体組織による光の散乱の強さと、をそれぞれ確実に測定することができ
【0012】
その場合に、前記血液中のヘモグロビンによ吸収されやすい波長は、酸化ヘモグロビンと脱酸化(還元)ヘモグロビンとの光の吸収量が等しくなる波長から選択して設定される。これにより、他の波長で設定した場合と比較してヘモグロビンの酸化・脱酸化により濃度が変化しないため、被測定者の血管中のヘモグロビンによる光の吸収の強さをより正確に測定することができる
【0013】
さらに、この発明の血液粘度測定装置においては特に、前記生体組織によ散乱されやすい波長810nmとされ、前記生体内の水によ吸収されやすい波長1300nmとされ、前記血液中のヘモグロビンによ吸収されやすい波長525nmとされると、それらの波長のLEDが市場で入手しやすいため好ましい。
【0014】
さらに、この発明の血液粘度測定装置においては、前記投受光ユニットは、投光光量と受光光量との関係特性を、前記生体組織による散乱と、前記生体内の水による吸収と、前記血液中のヘモグロビンによる吸収とで予め揃えるために光学フィルタを用いると、血液の粘度を演算で求めやすいため好ましい。
【0015】
そして、この発明の血液粘度測定装置においては、前記投受光ユニットは、前記3組の投光部および受光部の組における各投光部からの光をその光軸が共通光軸に一致するように集中させて前記共通の測定箇所に透過させる光学素子と、その透過光を分散させて前記3組の投光部および受光部の組における各受光部に受光させる光学素子とを有すると、3組の投光部および受光部の組の測定箇所が分散しないので計測精度を高めることができるため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の血液粘度測定装置の一実施形態の構成を示すブロック線図である。
図2】(a)および(b)は、図1に示す実施形態の血液粘度測定装置の投受光ユニットを示す概略組立て斜視図および分解斜視図である。
図3図2に示す投受光ユニットの光路を示す断面図である。
図4】(a)は人体を透過する光の波長と吸光係数および散乱度との関係をヘモグロビンと水分と生体組織とについて示す特性図、(b)は(a)に示す光の波長と吸光係数との関係を酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとについて抽出および拡大して示す特性図である。
図5図2に示す投受光ユニットの動作説明図である。
図6】3種類の波長の発光光量と減衰光量との関係を示す特性図であり、(a)は特性を揃える前、(b)は発光光量を50%および80%減光した時の3種類の波長の減衰光量、(c)はそれらの発光光量と減衰光量との関係から2点補正で3種類の波長の特性を揃えた後の発光光量と減衰光量との関係を示している。
図7】3種類の波長の各々における散乱とヘモグロビンと水との減衰比率を示す説明図であり、(a)は波長805nmの場合、(b)は波長1450nmの場合、(c)は波長550nmの場合をそれぞれ示している。
図8】上記実施形態の血液粘度測定装置における各変数の設定を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づき詳細に説明する。図1はこの発明の血液粘度測定装置の一実施形態の構成を機能ブロックで示すブロック線図である。この図に示すように、この実施形態の血液粘度測定装置は、投受光ユニット1と、透過光強さ計測手段2と、血液粘度出力手段3とを具えている。
【0018】
図2(a)および図2(b)は、図1に示す実施形態の血液粘度測定装置における投受光ユニットを示す概略組立て斜視図および分解斜視図、図3は、図2に示す投受光ユニットの光路を示す断面図である。これらの図に示すように、投受光ユニット1は、各々前壁に光路用の開孔1aを持つとともに後部開口部に開閉可能な蓋1bを持つ投光部ケース1cおよび受光部ケース1dと、それら投光部ケース1cおよび受光部ケース1dを互いの接近および離間方向に直線移動可能に連結する連結部1eとを有している。
【0019】
投光部ケース1c内には光学素子として、全体的に透明若しくは半透明の概略裁頭三角錐体状の樹脂またはガラス製のLEDホルダ1fが配置され、LEDホルダ1fは、この実施形態では互いに波長の異なる光を発光する投光部としての3本のLED(発光ダイオード)1gを、当該LEDホルダ1fの中心軸線と一致する共通光軸CにそれらのLED1gの光軸が向かうように傾斜させて保持するとともに、その共通光軸C上で当該LEDホルダ1fの先端部に拡散板1hを有しており、投光部ケース1cの開口1aには、LEDホルダ1fの共通光軸Cに光軸が一致するように集光レンズ1iが配置されている。
【0020】
また受光部ケース1d内には光学素子として、全体的に透明若しくは半透明の概略裁頭三角錐体状の樹脂またはガラス製のディテクタホルダ1jが配置され、ディテクタホルダ1jは、この実施形態では互いに波長の異なる光を受光する受光部としての3本のディテクタ(フォトトランジスタ)1kを、当該ディテクタホルダ1jの中心軸線と一致する共通光軸Cにそれらのディテクタ1kの光軸が向かうように傾斜させて保持するとともに、その共通光軸C上で当該ディテクタホルダ1jの先端部に拡散板1hを有しており、受光部ケース1d内には、ディテクタホルダ1jの共通光軸Cに光軸が一致するように集光レンズ1iが配置されている。
【0021】
これにより、投光部ケース1c内の3本のLED(発光ダイオード)1gの何れから出た光も、LEDホルダ1f内で共通光軸Cに向かい、拡散板1hを透過して多方向に拡散された後にLEDホルダ1fの前の集光レンズ1iで共通光軸Cの延在方向に集光されて受光部ケース1dに向かい、ディテクタホルダ1jの前の集光レンズ1iで集光された後に拡散板1hを透過してディテクタホルダ1j内の多方向に拡散されてディテクタホルダ1j内の3本のディテクタ(フォトトランジスタ)1kのそれぞれに到達し、その光の波長に対応するディテクタ1kで受光されて、そのディテクタ1kから光電変換により受光強さを示す信号を出力させる。
【0022】
そして連結部1eは、投光部ケース1cの底部に一体に形成された溝形のガイドカバー1l内に、棒状のスライダ1mとそのスライダ1mを例えばボールガイドを介して支持する溝形のホルダ1nとを持ちそのホルダ1nに対するスライダ1mのその長手方向への直線的な往復移動を案内するリニアガイド機構1oを有しており、そのリニアガイド機構1oのホルダ1nは、投光部ケース1cの溝形のガイドカバー1l内に固定され、そのリニアガイド機構1oのスライダ1mは、受光部ケース1dの底部に一体に形成されて投光部ケース1cの溝形のガイドカバー1l内に摺動可能に嵌合された細長い板状のブラケット1pの下面に固定されている。
【0023】
さらに、投受光ユニット1は、その投光部ケース1cおよび受光部ケース1dの各々の前壁に、互いに対向するように図示しない両面テープ等で粘着面1qを設けられており、これにより投受光ユニット1は、その使用の際には図2に示すように、被測定者Pの例えば耳朶ELに設定された測定箇所を間に置いて向き合った状態で投光部ケース1cおよび受光部ケース1dが互いに接近移動されて、投光部ケース1cの前壁と受光部ケース1dの前壁とが耳朶ELの表面と裏面とに粘着され、耳朶ELの血行を妨げないように耳朶ELを軽く挟んだ状態で被測定者Pの耳朶ELの測定箇所に装着固定される。
【0024】
図4(a)は、人体を透過する光の波長と吸光係数および散乱度との関係をヘモグロビンと水分と生体組織とについて示す特性図、図4(b)は、図4(a)に示す光の波長と吸光係数との関係を酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとについて抽出および拡大して示す特性図である。生体内を光が伝播する際、吸収および散乱により透過できる光量が減少する。吸収および散乱の要因には主に、ヘモグロビンによる吸収(図4(a)中特性線Bで示す)、水による吸収(図4(a)中特性線Wで示す)、そして生体組織による散乱(図4(a)中特性線Aで示す)がある。
【0025】
上記吸収および散乱の強さは、光の波長に強く依存する。吸収および散乱のスペクトルを示すと図4(a)に示すようになる。そこで、この実施形態の装置では、ヘモグロビンによる吸収,生体組織による散乱、および水による吸収の測定に適した波長として、550nm,805nm,1450nmをそれぞれ選択した。ここで、550nmは、ヘモグロビン(Hb)による吸収度が大きく、感度がよい(Hb(約260)>散乱(約100)>>水(0))、酸化Hbと脱酸化Hbの吸収度が等しい(等吸収点)、水による吸収がない、といった特徴があり、805nmは、水およびヘモグロビンの吸収度が小さい(散乱(約70)>>Hb(約4))、酸化Hbと脱酸化Hbの吸収度が等しい(等吸収点)、といった特徴があり、1450nmは、水の吸収度が比較的大きい(水(約26>Hb(約1))、LEDの入手が比較的容易である、といった特徴がある。
【0026】
投光部ケース1c内の3本のLED1gは、互いに異なる3種類の波長の光である、ヘモグロビンに吸収されやすい550nmの波長の光と、生体組織で散乱されやすい805nmの波長の光と、水に吸収されやすい1450nmの波長の光と、をそれぞれ発光するものとされ、また受光部ケース1d内の3本のディテクタ1kは、互いに異なる3種類の波長の光である、ヘモグロビンに吸収されやすい550nmの波長の光と、生体組織で散乱されやすい805nmの波長の光と、水に吸収されやすい1450nmの波長の光と、をそれぞれ受光するものとされており、これにより3本のLED1gと3本のディテクタ1kとは、同じ種類の波長のLED1gとディテクタ1kとで組となり、投光部および受光部の組を3組構成している。
【0027】
図1に示す実施形態の血液粘度測定装置における透過光強さ計測手段2と血液粘度出力手段3とは、具体的には例えば、中央処理ユニットと、処理データの一時記憶用のメモリと、処理プログラムや処理結果等のデータの長期記憶用のハードディスク装置と、マウスやキーボード等の入力装置と、液晶ディスプレイやプリンタ等の出力装置とを有する通常のパーソナルコンピュータにより構成され、予め与えられて記憶した処理プログラムに基づくそのパーソナルコンピュータの作動によって、各々の機能を奏することができる。
【0028】
すなわち透過光強さ計測手段2は、投受光ユニット1の3組の投光部および受光部の組の各々のLED1gから出て被測定者Pの耳朶ELの測定箇所を透過し、3組の投光部および受光部の組の各々のディテクタ1kで受光した3種類の波長の透過光の強さを、ディテクタ1kからの信号によって計測する。その際、この実施形態では先に図5に示すように、被測定者Pの耳朶ELの測定箇所と3組の投光部および受光部の組の各々のディテクタ1kとの間に50%減フィルタを介在させた場合と20%減フィルタを介在させた場合との発光光量と減衰光量との関係を調べ、図6に示すように、それらの関係から2点補正で3種類の波長の光の発光光量と減衰光量との関係線の感度(高さと傾き)を1直線上に揃える感度較正を行う。そしてその後は上記のフィルタを外した状態にして、3種類の波長の透過光の強さを計測する。
【0029】
なお、透過光強さ計測手段2は、投受光ユニット1の3組の投光部および受光部の組を順次に作動させ、例えば550nmの波長の光の投光および受光と、805nmの波長の光の投光および受光と、1450nmの波長の光の投光および受光とを、それぞれ単独で順次に行う。このようにすることで、互いに異なる波長の光同士の干渉を回避し得て、各波長での減衰光量をより正確に計測することができる。
【0030】
透過光強さ計測手段2が上記のようにして各波長での減衰光量を測定した結果から、血液粘度出力手段3は、以下のようにして体内水分量とヘモグロビン量、さらにはヘマトクリット値を算出し、そのヘマトクリット値から血液粘度を求めて出力する。
【0031】
図7は、上記の3種類の波長の各々における散乱とヘモグロビンと水との減衰比率を示す説明図であり、図7(a)は波長805nmの場合、図7(b)は波長1450nmの場合、図7(c)は波長550nmの場合をそれぞれ示している。
【0032】
この実施形態の装置では、血液粘度出力手段3は先ず、図7(a)に示すように、805nmの波長での減衰光量を求める。この減衰光量はほぼ生体組織での散乱によるものであることが、図4(a)のグラフから判明している。次いで血液粘度出力手段3は、図7(b)に示すように、1450nmの波長での減衰光量を求める。この減衰光量から、先に求めた散乱による減衰光量を引けば、水による吸収量、ひいては体内水分量が求まる。次いで血液粘度出力手段3は、図7(c)に示すように、550nmの波長での減衰光量を求める。この減衰光量から、先に求めた散乱による減衰光量を引けば、ヘモグロビンによる吸収量、ひいては血液中のヘモグロビン量が求まる。最後に血液粘度出力手段3は、このヘモグロビン量からヘマトクリット値を演算で求める。
【0033】
図8は、上記実施形態の血液粘度測定装置における各変数の設定(定義)を示す説明図である。すなわち、波長805nm,550nm,1450nmのそれぞれに対し、LED1gの発光量P0とディテクタ1kの受光量Pを、
【数1】
とし、投光部ケース1cの前壁と受光部ケース1dの前壁とが被測定者Pの耳朶ELの測定箇所を挟んで対向する距離をl、測定箇所における血液量(ヘモグロビン量)をC、水分量をCとし、
血液吸光係数Bと水吸光係数Wと生体散乱係数Aとをそれぞれ、
【数2】
とする。
【0034】
ランベルト・ベールの法則によれば、波長805nmでの関係式は、
【数3】
【0035】
また、波長550nmでの関係式は、
【数4】
【0036】
805nm,550nmの波長では水による吸光はほぼ0のため、
【数5】
また、図4(a)に示す散乱および吸収度のグラフから805nmと550nmの係数比率を求めてK,Kとする。

【数6】
【0037】
以上のことを考慮して、(1),(2)の式は、以下のように記述できる。
【数7】
【0038】
(3),(4)の式から、
【数8】
従って、
【数9】
これにより血液量(ヘモグロビン量)Cが求まる。
【0039】
さらに、波長1450nmでの関係式は、
【数10】
【0040】
(5)の式は、以下のように記述される。
【数11】
これにより水分量Cが求まる。ここで、上記各式の説明中の「グラフ」は、図4に示す波長と吸収係数との関係のグラフである。
【0041】
上述の如くして求めた血液量(ヘモグロビン量)Cおよび水分量Cと、実験により決定される定数Xとから、以下の式(12)によりヘマトクリット値Cが求められる。
【数12】
【0042】
なお、ヘモグロビンに吸収されやすい波長として550nmの代わりに525nmを用い、生体組織で散乱されやすい波長として805nmの代わりに810nmを用い、水に吸収されやすい波長として1450nmの代わりに1300nmを用いても同様にしてヘマトクリット値を求めることができ、これらの波長のLEDは、より容易に市場で入手することができる。
【0043】
血液粘度出力手段3はさらに、このようにして演算で求めたヘマトクリット値Cから、ヘマトクリット値と血液粘度との関連を示す、例えば実験によって求めた関係式あるいは既知の関係式を用いて血液の粘度を求め、その粘度を液晶ディスプレイ等の出力装置に出力する。なお、ヘマトクリット値Cと血液粘度との関係式を対応表の形にして用い、その対応表中で、上記演算で求めたヘマトクリット値Cからそれに対応する血液粘度を求めてもよい。これにより、自分の血液の粘度を迅速かつ容易に知って、自己の健康管理に役立てることができる。
【0044】
以上、図示の実施形態に基づいて説明したが、この発明の血液粘度測定装置は上述の実施形態に限定されるものでなく特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができ、例えば、透過光強さ計測手段2は、3つのLED1gに3種類の波長の光を同時に投光させて3つのディテクタ1kで同時に受光するようにしてもよい。また、血液粘度出力手段3は、上記以外の計算方法を用いて3種類の波長の透過光の強度から血液の粘度を求めるようにしてもよい。
【0045】
さらに、投光部および受光部の組を4組以上具えて、透過光強度の計測に使用する透過光の波長の種類をさらに増やし、あるいは被測定者に投受光ユニットを装着固定したまま複数の測定箇所を測定できるようにしてもよい。また、血液粘度出力手段3は、被測定者Pが対応表や関係式のグラフ等を用いて自己の血液粘度を求め得るように、上記演算で求めたヘマトクリット値Cを液晶ディスプレイ等の出力装置に出力してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
かくしてこの発明の血液粘度測定装置によれば、被測定者の光が透過する測定箇所に3組の投光部および受光部がその測定箇所を間に挟んで互いに対向するように投受光ユニットを装着するだけで、被測定者の測定箇所の血管内を流れる血液の粘度を非侵襲で簡易に測定することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 投受光ユニット
1a 開孔
1b 蓋
1c 投光部ケース
1d 受光部ケース
1e 連結部
1f LEDホルダ
1g LED
1h 拡散板
1i 集光レンズ
1j ディテクタホルダ
1k ディテクタ
1l ガイドカバー
1m スライダ
1n ホルダ
1o リニアガイド機構
1p ブラケット
1q 粘着面
2 透過光強さ計測手段
3 血液粘度出力手段
C 共通光軸
P 被測定者
EL 耳朶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8