IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-記録方法及び記録装置 図1
  • 特許-記録方法及び記録装置 図2
  • 特許-記録方法及び記録装置 図3
  • 特許-記録方法及び記録装置 図4
  • 特許-記録方法及び記録装置 図5
  • 特許-記録方法及び記録装置 図6
  • 特許-記録方法及び記録装置 図7
  • 特許-記録方法及び記録装置 図8
  • 特許-記録方法及び記録装置 図9
  • 特許-記録方法及び記録装置 図10
  • 特許-記録方法及び記録装置 図11
  • 特許-記録方法及び記録装置 図12
  • 特許-記録方法及び記録装置 図13
  • 特許-記録方法及び記録装置 図14
  • 特許-記録方法及び記録装置 図15
  • 特許-記録方法及び記録装置 図16
  • 特許-記録方法及び記録装置 図17
  • 特許-記録方法及び記録装置 図18
  • 特許-記録方法及び記録装置 図19
  • 特許-記録方法及び記録装置 図20
  • 特許-記録方法及び記録装置 図21
  • 特許-記録方法及び記録装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】記録方法及び記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241209BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 107
B41J2/21
B41J2/01 213
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2020217095
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102396
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-058504(JP,A)
【文献】特開2009-061774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、
記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、
前記記録ヘッドは、第1のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列と、前記第1のインクとは異なる第2のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列とを有し、前記2N+1回の前記記録走査のそれぞれに対応する前記記録許容率は、前記第1のインクと前記第2のインクとで異なることを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率は等しいことを特徴とする請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、最後の前記記録走査の前記記録許容率は、最初の前記記録走査の前記記録許容率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の記録方法。
【請求項4】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は等しいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記単位領域に対する前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも高く、偶数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも低いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記単位領域に対する前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記記録許容率は前記所定の方向の中央部から端部に向けて低くなり、偶数回目の前記記録走査では、前記記録許容率は前記所定の方向の中央部から端部に向けて高くなることを特徴とする請求項5に記載の記録方法。
【請求項7】
前記Nは、1又は2であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれにおいて、前記単位領域には、前記2N+1回の前記記録走査よりも低い記録許容率の記録走査が、前記2N+1回の前記記録走査に対し更に連続して行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項9】
前記第1のインクはブラックインクであり、前記第2のインクはカラーインクであり、前記単位領域に対する前記第1のインクの偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、前記単位領域に対する前記第2のインクの偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも高いことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項10】
前記単位領域に対する前記第1のインクの前記2N+1回の前記記録走査の記録許容率は等しいことを特徴とする請求項9に記載の記録方法。
【請求項11】
前記記録許容率は、前記複数のノズルを前記所定の方向に分割して得られる2N+1個の分割領域のそれぞれについて、記録媒体の各画素領域に対するドットの記録の許容又は非許容を定めるマスクパタンによって設定されることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項12】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させることにより記録走査を行う走査手段と、
前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送手段と、
画像データに従った画像を記録媒体に記録するために、前記記録ヘッド、前記走査手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と
を備える記録装置であって、
前記記録ヘッドは、第1のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列と、前記第1のインクとは異なる第2のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列とを有し、
前記制御手段は、記録媒体の単位領域の画像が、2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録され、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の記録許容率が、奇数回目の前記記録走査の記録許容率よりも低くなるように、且つ前記2N+1回の前記記録走査のそれぞれに対応する前記記録許容率が前記第1のインクと前記第2のインクとで異なるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率が等しくなるように制御することを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【請求項14】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、最後の前記記録走査の前記記録許容率が、最初の前記記録走査の前記記録許容率よりも高くなるように制御することを特徴とする請求項12に記載の記録装置。
【請求項15】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率が等しくなるように制御することを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項16】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記単位領域に対する前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも高くなり、偶数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも低くなるように制御することを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項17】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記単位領域に対する前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記記録許容率が前記所定の方向の中央部から端部に向けて低くなり、偶数回目の前記記録走査では、前記記録許容率が前記所定の方向の中央部から端部に向けて高くなるように制御することを特徴とする請求項16に記載の記録装置。
【請求項18】
前記Nは、1又は2であることを特徴とする請求項12から17のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項19】
前記制御手段は、前記第1のインクと前記第2のインクとのそれぞれについて、前記単位領域に対し、前記2N+1回の前記記録走査よりも低い記録許容率の記録走査を、前記2N+1回の前記記録走査に連続して行うように制御することを特徴とする請求項12から18のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項20】
前記第1のインクはブラックインクであり、前記第2のインクはカラーインクであり、前記単位領域に対する前記第1のインクの偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、前記単位領域に対する前記第2のインクの偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも高いことを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項21】
前記制御手段は、前記単位領域に対する前記第1のインクの前記2N+1回の前記記録走査の記録許容率が等しくなるように制御することを特徴とする請求項20に記載の記録装置。
【請求項22】
前記制御手段は、前記複数のノズルを前記所定の方向に分割して得られる2N+1個の分割領域のそれぞれについて、記録媒体の各画素領域に対するドットの記録の許容又は非許容を定めるマスクパタンに従って、前記記録許容率を制御することを特徴とする請求項12から21のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項23】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、
記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、最後の前記記録走査の前記記録許容率は、最初の前記記録走査の前記記録許容率よりも高いことを特徴とする記録方法。
【請求項24】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、
記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は等しいことを特徴とする記録方法。
【請求項25】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、
記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、
前記単位領域において、前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも高く、偶数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも低いことを特徴とする記録方法。
【請求項26】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、
記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、
前記単位領域には、前記2N+1回の前記記録走査よりも低い記録許容率の記録走査が、前記2N+1回の前記記録走査に対し更に連続して行われることを特徴とする記録方法。
【請求項27】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させることにより記録走査を行う走査手段と、
前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送手段と、
画像データに従った画像を記録媒体に記録するために、前記記録ヘッド、前記走査手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と
を備える記録装置であって、
前記制御手段は、記録媒体の単位領域の画像が、2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録され、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の記録許容率が、奇数回目の前記記録走査の記録許容率よりも低くなるように、且つ
前記2N+1回の前記記録走査のうち、最後の前記記録走査の前記記録許容率が、最初の前記記録走査の前記記録許容率よりも高くなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項28】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させることにより記録走査を行う走査手段と、
前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送手段と、
画像データに従った画像を記録媒体に記録するために、前記記録ヘッド、前記走査手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と
を備える記録装置であって、
前記制御手段は、記録媒体の単位領域の画像が、2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録され、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の記録許容率が、奇数回目の前記記録走査の記録許容率よりも低くなるように、且つ
前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率が等しくなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項29】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させることにより記録走査を行う走査手段と、
前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送手段と、
画像データに従った画像を記録媒体に記録するために、前記記録ヘッド、前記走査手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と
を備える記録装置であって、
前記制御手段は、記録媒体の単位領域の画像が、2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録され、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の記録許容率が、奇数回目の前記記録走査の記録許容率よりも低くなるように、且つ
前記単位領域において、前記2N+1回の前記記録走査のうち、奇数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも高くなり、偶数回目の前記記録走査では、前記所定の方向の中央部の前記記録許容率が端部の前記記録許容率よりも低くなるように制御することを特徴とする記録装置。
【請求項30】
インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させることにより記録走査を行う走査手段と、
前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送手段と、
画像データに従った画像を記録媒体に記録するために、前記記録ヘッド、前記走査手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と
を備える記録装置であって、
前記制御手段は、記録媒体の単位領域の画像が、2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録され、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の記録許容率が、奇数回目の前記記録走査の記録許容率よりも低くなるように、且つ
前記単位領域に対し、前記2N+1回の前記記録走査よりも低い記録許容率の記録走査を、前記2N+1回の前記記録走査に連続して行うように制御することを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリアル型のインクジェット記録装置においては、記録ヘッドが1回の記録走査で記録可能な領域の画像を、記録ヘッドの記録幅よりも短い距離の搬送動作を介在させながら、複数回の記録走査によって完成させるマルチパス記録を行うことがある。このようなマルチパス記録を行うことにより、記録ヘッドに配列する複数のノズル間に吐出特性ばらつきが含まれていたとしても、この吐出特性ばらつきに起因する濃度ムラを、画像内で目立たなくすることができる。
【0003】
一方、シリアル型のインクジェット記録装置では、スループットを向上させるために、記録ヘッドの往路走査と復路走査の両方でインクを吐出して画像を記録する双方向記録を行うものがある。
【0004】
しかしながら、上記マルチパス記録を双方向記録で行った場合には、時間差ムラという新たな課題が発生することがある。ここで、時間差ムラとは、単位領域の画像を完成させるために必要な複数の記録走査の間に経過する時間が、上記単位領域の記録媒体上の位置に応じて異なることが要因となって発生する濃度ムラや発色ムラを示す。
【0005】
特許文献1では、各搬送動作における搬送量と搬送方向を変更しながら、各単位領域に対する1パス目の記録Dutyを2パス目の記録Dutyよりも大きくすることにより、2パス双方向のマルチパス記録において時間差ムラを低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-236287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、インクジェット記録装置においては、記録媒体の種類や画像の用途などに応じてマルチパス記録のマルチパス数を変更するのが一般である。しかしながら、特許文献1では、2パス双方向のマルチパス記録を行う場合についての開示はあるが、3パス以上のマルチパス記録については説明がされていない。即ち、従来のインクジェット記録装置では、3パス以上のマルチパス記録を行う場合に、時間差ムラを低減することは困難な状況であった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、3パス以上の双方向マルチパス記録において、時間差ムラが低減された高品位な画像を記録することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために本発明は、インクを吐出する複数のノズルが所定の方向に配列された記録ヘッドを、前記所定の方向と交差する方向に、記録媒体に対して往路方向及び復路方向に交互に移動させる記録走査と、前記記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送させる搬送動作とを行うことにより、記録媒体に画像を記録するための記録方法であって、記録媒体の単位領域の画像を、予め定められた記録許容率に従う2N+1回(Nは自然数)の前記記録走査によって記録し、前記2N+1回の前記記録走査のうち、偶数回目の前記記録走査の前記記録許容率は、奇数回目の前記記録走査の前記記録許容率よりも低く、前記記録ヘッドは、第1のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列と、前記第1のインクとは異なる第2のインクを吐出する複数のノズルが前記所定の方向に配列されたノズル列とを有し、前記2N+1回の前記記録走査のそれぞれに対応する前記記録許容率は、前記第1のインクと前記第2のインクとで異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3パス以上の双方向マルチパス記録において、時間差ムラが低減された高品位な画像を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクジェット記録装置の記録部の概要を示す図
図2】記録ヘッドHの吐出口面を説明するための図
図3】インクジェット記録システムの制御の構成を説明するためのブロック図
図4】画像処理の工程を説明するためフローチャート
図5】ドット配置パタンを説明するための図
図6】3パス双方向のマルチパス記録を説明するための図
図7】3パス双方向のマルチパス記録におけるインク付与タイミングを示す図
図8】インク付与タイミングを領域間で比較するための模式図
図9】インク付与量とタイミングに応じたインク浸透状態を示す模式図
図10】3パス双方向のマルチパス記録で一般的に使用されるマスクパタンを示す図
図11】第1の実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図12】変形例1で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図13】変形例2で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図14】変形例2で使用するマスクパタンとインクの付与工程の別例を示す図
図15】変形例3で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図16】5パス双方向のマルチパス記録を説明するための図
図17】5パス双方向のマルチパス記録で一般的に使用されるマスクパタンを示す図
図18】第2の実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図19】4パス双方向のマルチパス記録を説明するための図
図20】4パス双方向のマルチパス記録で一般的に使用されるマスクパタンを示す図
図21】第3の実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図
図22】第3の実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程の別例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明で使用可能なインクジェット記録装置100(以下、単に記録装置とも言う)の記録部の概要を示す図である。図中、X方向は記録ヘッドHの走査方向を示し、Y方向は記録媒体Pの搬送方向を示し、Z方向は記録ヘッドHの吐出方向と逆向きの方向を示す。本実施形態においてZ方向は重力と逆向きの方向となる。
【0013】
本実施形態の記録ヘッドHはキャリッジ108に対し着脱可能に搭載される。記録ヘッドHを搭載したキャリッジ108は、ガイドレール109及び110に案内支持されながら、キャリッジモータ305M(図3参照)を駆動源として±X方向に移動可能である。記録ヘッドHの吐出口面が対向する位置には、プラテン103が配され、記録ヘッドHによって記録が行われる領域の記録媒体Pを下方から支持する。
【0014】
搬送方向(Y方向)において、プラテン103の上流側には、搬送ローラ101及びこれに従動するピンチローラ102が配されている。また、プラテン103の下流側には、排出ローラ105及びこれに従動する拍車106が配されている。搬送ローラ101とピンチローラ102によるニップ、排出ローラ105と拍車106によるニップ、及びプラテン103の支持により、記録ヘッドHに対向する領域の記録媒体Pは、記録ヘッドHの吐出口面に対して平滑に維持される。
【0015】
本実施形態の記録ヘッドHは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色のインクを吐出することが可能である。記録装置100には、これら4色のインクを個別に収容するインクタンク110を交換可能に装着するためのタンク装着部104が設けられている。インクタンク110が収容するインクは、インクチューブ111を介して記録ヘッドHに供給される。
【0016】
キャリッジ108が所定の速度で+X方向又は-X方向に移動しながら、記録ヘッドHが記録データに従ってインクを吐出することにより、記録媒体Pに1バンド分の画像が記録される。このような1バンド分の記録走査が終了すると、搬送モータ304M(図3参照)を駆動源として、搬送ローラ101及び排出ローラ105が回転し、記録媒体Pを所定量だけ記録走査方向と交差するY方向に搬送する。以上のような記録走査と搬送動作を交互に繰り返すことにより、記録媒体Pには段階的に画像が形成されていく。
【0017】
記録が完了した記録媒体Pは、排出ローラ105の回転に伴ってY方向に搬送され、排紙トレイ107に排出される。
【0018】
図2(a)及び(b)は、記録ヘッドHの吐出口面を説明するための図である。図2(a)は、吐出口面の全体図である。記録ヘッドHの吐出口面には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のインクを吐出するノズル列が2列ずつ、X方向に対称となるように配されている。具体的には、X方向の両端には、ブラックインクを吐出するK1列とK2列が配され、その内側にシアンインクを吐出するC1列とC2列が配されている。その内側にマゼンタインクを吐出するM1列とM2列が配され、更にその内側にイエローインクを吐出するY1列とY2列が配されている。
【0019】
このような記録ヘッドを用いて記録走査を行った場合、+X方向への往路走査でも、-X方向への復路走査でも、記録媒体に対するインクの付与順序は、ブラック→シアン→マゼンタ→イエロー→イエロー→マゼンタ→シアン→ブラックとなる。即ち、双方向記録を行っても記録媒体に対するインクの付与順序が一定に保たれ、シリアル型のインクジェット記録装置で課題となりやすい、インクの付与順序の違いに起因する色順ムラを抑えることができる。以下、このように、複数のインクのノズル列がX方向に対称となるように配されているヘッドを対称ヘッドと呼ぶ。
【0020】
図2(b)は、K1列を拡大して示した図である。ここではK1列を例に説明するが、他の列についても同様の構成である。K1列は、Even列とOdd列とを有しており、Even列とOdd列のそれぞれには、5plのインクを吐出可能なノズル201が、600dpi(ドット/インチ)のピッチでY方向に120個ずつ配列されている。また、Even列とOdd列は、Y方向において半ピッチ分(1200dpi)ずれて配置されている。
【0021】
各ノズル201の直下(+Z方向)には、不図示のヒータが設置されている。記録データに従ってヒータが加熱されると、ヒータ直上のインク中に膜沸騰が生じ、生成された泡の成長エネルギにより個々のノズル201からインクが滴として吐出される。
【0022】
このような構成の下、記録ヘッドHを±X方向に移動させながら、記録データに従って各ノズル201からインクを吐出させることにより、記録媒体には、Y方向において1200dpiの解像度でドットを記録することができる。
【0023】
図3は本実施形態に適用可能なインクジェット記録システムの制御の構成を説明するためのブロック図である。本実施形態におけるインクジェット記録システムは、インクジェット記録装置100と画像処理装置200を含む。
【0024】
インクジェット記録装置100において、記録装置主制御部301は、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、記録装置全体を制御する。記録バッファ302は、記録ヘッドHに転送する前の記録データを、ラスタデータとして格納する。ヘッドドライバ303は、記録バッファ302に格納された記録データに従って、記録ヘッドHの駆動制御を行う。
【0025】
搬送モータドライバ304は、搬送モータ304Mを駆動して、記録媒体Pの給紙、搬送及び排出の制御を行う。キャリッジモータドライバ305は、キャリッジモータ305Mを駆動して、キャリッジ108の移動制御を行う。
【0026】
記録装置インタフェイス(I/F)306は、画像処理装置200との間でデータ信号の授受を行う。データバッファ307は、画像処理装置200から受信した画像データを一時的に格納する。システムバス308は、記録装置100の各機能を接続する。
【0027】
画像処理装置200において、画像処理装置主制御部309は、CPU、ROM、RAMなどによって構成され、画像処理装置全体を制御する。画像処理装置インタフェイス(I/F)310は、記録装置100との間でデータ信号の授受を行う。表示部311は、LCDなどによって構成され、ユーザに対し様々な情報を表示する。操作部312は、ユーザが操作を行うための操作部であり、例えばキーボードやマウスを適用することができる。システムバス313は、画像処理装置200の各機能を接続する。
【0028】
I/F信号線314は、記録装置100と画像処理装置200とを接続する。I/F信号線314の種類としては、例えばセントロニクス社の仕様のものを適用することができる。
【0029】
図4は、記録コマンドが発生したときに本実施形態のインクジェット記録システムで行う画像処理の工程を説明するためフローチャートである。本処理は、画像処理装置200のアプリケーションなどで生成した画像を記録する際に、ユーザが操作部312を介して記録コマンドを入力することにより開始される。本処理は、画像処理装置主制御部309と記録装置主制御部301が連携して行うものであり、どこまでの工程を画像処理装置主制御部309が行い、どこからの工程を記録装置主制御部301が行うという制限はない。ここでは、S404の量子化処理までを画像処理装置主制御部309が行い、S405のインデックス展開処理以降を、記録装置主制御部301が行うものとして説明する。
【0030】
記録コマンドが発生すると、まずステップS401において、処理対象となる画像データに対し色補正処理が行われる。本実施形態において、画像処理装置200のアプリケーションが生成する画像データは、600dpiの8ビットRGBデータとする。色補正処理では、s-RGB空間で表現される8ビットのRGBデータを、記録装置100が表現可能な色空間に対応する8ビットのRGBデータに変換する。具体的には、予め用意されたルックアップテーブルなどを用い、画素値(R、G、B)を他の値の画素値(R´、G´、B´)に変換する。
【0031】
ステップS402では、色補正処理後の画像データに対し色変換処理が行われる。色変換処理では、輝度値である8ビットのRGBデータを、濃度値である8ビットのCMYKデータに変換する。ここで、CMYKは、記録装置100が使用するシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのインク色にそれぞれ対応する。具体的には、予め用意されたルックアップテーブルなどを用い、8ビット(256階調)の画素値(R´、G´、B´)を、8ビット(256階調)の画素値(C、M、Y、K)に変換する。
【0032】
ステップS403では、色変換処理後の画像データに対し階調補正処理が行われる。一般に、記録媒体に記録されるドットの数と、その数のドットによって記録媒体で実現される光学濃度は線形関係にはない。よって、この関係を線形にすべく、濃度値である画素値C、M、Y、Kのそれぞれを補正する。具体的には、インク色ごとに用意された1次元のルックアップテーブルを用い、8ビット(256階調)の画素値C、M、Y、Kのそれぞれを、同じく8ビットの画素値C´、M´、Y´、K´に変換する。
【0033】
ステップS404では、階調補正後の画像データに対し量子化処理が行われる。量子化処理の方法は特に限定されないが、本実施形態では画素ごとの閾値が予め定められているディザパタンを参照する。そして、8ビット(256階調)の画素値C´、M´、Y´、K´を、0~2のレベルで表現される2ビット(3階調)の画素値C″、M″、Y″、K″に変換する。
【0034】
ステップS405では、量子化処理後の画像データに対しインデックス展開処理が行われる。インデックス展開処理では、600dpi×600dpiの各画素が有する画素値(0~2)に基づき、X方向600dpi×Y方向1200dpiの各画素における、ドットの記録または非記録を設定する。この際、ドットの記録が設定された画素については、列1によって記録するか、列2によって記録するかが設定される。
【0035】
図5(a)及び(b)は、インデックス展開処理で参照されるドット配置パタンを説明するための図である。図5(a)は、600dpi×600dpiの1画素領域に対応する画素値(左側)と、ドット配置パタン(右側)の関係を示す図である。X方向600dpi×Y方向600dpiの1画素領域は、X方向600dpi×Y方向1200dpiの解像度において、Y方向に隣接する2画素領域に対応する。そして、2つの画素領域のうち、上段はOdd列のノズルによって記録可能な画素領域であり、下段はEven列のノズルによって記録可能な画素領域である。図では、これら2つの画素領域のうち、黒画素はドットを記録する画素領域、白画素はドットを記録しない画素領域を示している。
【0036】
画素値が0の場合、その画素に対応する2つの画素領域のうち、どちらの画像領域にもドットは記録されない。
【0037】
画素値が1の場合、その画素に対応する2つの画素領域のうち、いずれか1つにドットが記録される。また、そのドットはノズル列1又はノズル列2のどちらか一方によって記録される(図2(a)参照)。すなわち、画素値が1の場合、ドットの記録方法は、A~Dに示す4つのパタンが存在する。ここで、パタンAは、上段の画素領域にノズル列1によってドットを記録することを示す。パタンBは、下段の画素領域にノズル列1によってドットを記録することを示す。パタンCは、上段の画素領域にノズル列2によってドットを記録することを示す。パタンDは、下段の画素領域にノズル列2によってドットを記録することを示す。
【0038】
このように、本実施形態ではA~Dに示す4つのドット配置パタンを用意する。画素値が2の場合についても、A~Dに示す4つのドット配置パタンを用意する。そして、本実施形態では、このような4つのパタンを記録媒体上の位置に応じて順次切り替えながら使用する。
【0039】
図5(b)は、A~Dのドット配置パタンのうち、いずれを使用するかを600dpi×600dpiの画素位置(XY座標位置)に対応付けて設定したインデックステーブルを示す。ここでは、8画素×8画素のインデックステーブルを示しているが、インデックステーブルはさらに大きくしてもよいし小さくしてもよい。このようなインデックステーブルは、X方向及びY方向において繰り返し使用される。A~Dのドット配置パタンを、インデックステーブルの中で偏りなく設定しておくことにより、記録ヘッドHに配列する複数のノズル列の吐出頻度を均等にしたり、各ノズルにおけるリフィルを安定化させたりすることができる。なお、図5(a)に示すドット配置パタンや図5(b)に示すインデックステーブルは、予めROMなどに保存されている。
【0040】
図4のフローチャートに戻る。ステップS406では、インデックス展開処理後の画像データに対しマスク処理が行われる。マスク処理では、各ノズル列において、ドットの記録(1)と設定された画素に対し、いずれの記録走査でドットを記録するかが決定される。
【0041】
図6は、本実施形態で採用するマルチパス記録を説明するための図である。本実施形態では、3パス双方向のマルチパス記録を採用する。3パスのマルチパス記録を行う場合、1つのノズル列(Odd列又はEven列)に配列する120個のノズルは40個ずつの3つの領域に分割され、各分割領域には各画素についてドットの記録の許容(1)又は非許容(0)を定めるマスクパタンが宛がわれる。図6では、Y方向において最も上流側の第1分割領域で使用するマスクパタンをP1、中央の第2分割領域で使用するマスクパタンをP2、最も下流側の第3分割領域で使用するマスクパタンをP3として示している。マスクパタンP1、P2及びP3は、互いに補完関係を有する。インデックス展開処理で決定された各画素の記録データと、マスクパタンP1~P3との間で論理積演算を行うことにより、各記録走査で実際に記録するべき記録データが決定する。
【0042】
第1記録走査では、第1分割領域を用い、往路方向(+X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第1画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。第1走査が完了すると、記録媒体Pは、分割領域に対応した距離(40ノズル分)だけ+Y方向に搬送される。図6では、説明のため、記録媒体Pに対し記録ヘッドHを-Y方向に移動させる形態で示している。
【0043】
第2記録走査では、第1分割領域と第2分割領域を用い、復路方向(-X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第2画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、第1画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。第2記録走査が完了すると、記録媒体Pは、40ノズル分だけ+Y方向に搬送される。
【0044】
第3記録走査では、第1~第3分割領域を用い、往路方向(+X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第3画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、第2画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。第1画像領域には、マスクパタンP1及びP2に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP3に従うドットパタンが重ねて記録される。マスクパタンP1、P2及びP3は互いに補完の関係を有するので、第3記録走査が終了した時点で第1画像領域の画像は完成する。第3記録走査が完了すると、記録媒体Pは、40ノズル分だけ+Y方向に搬送される。
【0045】
以後、第1~第3分割領域を用いた復路方向の記録走査と往路方向の記録走査が交互に行われ、各記録走査の間に40ノズル分の搬送動作が行われる。記録走査が行われるたびに、1つの画像領域の画像が完成する。
【0046】
図7は、上記3パス双方向のマルチパス記録を行った場合の、領域ごとのインク付与タイミングを説明するための図である。図7に示す第1~第4記録走査は、図6に示す第1~第4記録走査に相当する。
【0047】
図6でも説明したように、第1画像領域は、往路走査である第1記録走査と、復路走査である第2記録走査と、往路走査である第3記録走査とによって記録される。このため、第1画像領域の左端に位置する領域R1は、第1記録走査の最初と第2記録走査の最後と第3記録走査の最初によってインクが付与される。一方、第2画像領域は、復路走査である第2記録走査と、往路走査である第3記録走査と、復路走査である第4記録走査とによって記録される。このため、第2画像領域の左端に位置する領域R2は、第2記録走査の最後と第3記録走査の最初と第4記録走査の最初にインクが付与される。
【0048】
即ち、Y方向に隣接する領域R1とR2は、どちらも3回の記録走査でインクが付与されるものの、インクが付与される間隔が互いに異なっている。なお、領域R2に隣接する第3画像領域の左端に位置する領域は領域R1と同じ間隔でインクが付与され、その領域に隣接する第4画像領域の左端に位置する領域は領域R2と同じ間隔でインクが付与される。即ち、記録媒体の左端においては、インクが付与される間隔が互いに異なる2種類の領域が、Y方向に交互に配置することになる。
【0049】
図8(a)及び(b)は、上記インク付与タイミングを領域間で比較するための模式図である。
【0050】
領域R1において、第1記録走査でインクが付与されてから第2記録走査でインクが付与されるまでの間には、キャリッジ108が右端まで移動する時間と、搬送動作を行う時間と、キャリッジ108が左端まで移動する時間TLが経過する。これに対し、第2記録走査でインクが付与されてから第3記録走査でインクが付与されるまでの間には、搬送動作を行う時間TSのみが経過する。即ち、領域R1において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長く、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短い。
【0051】
一方、領域R2において、第2記録走査でインクが付与されてから第3記録走査でインクが付与されるまでの間には、搬送動作を行う時間TSのみが経過する。これに対し、第3記録走査でインクが付与されてから第4記録走査でインクが付与されるまでの間には、キャリッジ108が往路走査で右端まで移動する時間と、搬送動作を行う時間と、キャリッジが復路走査で左端まで移動する時間が経過する。即ち、領域R2において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短く、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長い。
【0052】
図8(a)では領域R1,R2にインクを付与するタイミングを、時間軸に沿って示している。一方、図8(b)では領域R1,R2にインクを付与するタイミングを、より長い経過時間TLを基準に示している。以後、経過時間TLよりも前に行われる記録走査を先記録、後に行われる記録走査を後記録と呼ぶ。即ち、領域R1では、マスクパタンP1に従った記録が先記録、マスクパタンP2及びP3に従った記録が後記録となる。一方、領域R2では、マスクパタンP1及びP2に従った記録が先記録、マスクパタンP3に従った記録が後記録となる。
【0053】
ここで、キャリッジ108の走査幅を8インチ、走査速度を20インチ/秒とすると、往路方向の走査時間と復路方向の走査時間はいずれも0.4秒となる。また、搬送動作にかかる時間は約0.1秒とする。この場合、3回のインク付与の間に発生する2つの経過時間において、長い経過時間TLは約0.9秒となり、短い経過時間TSは約0.1秒となる。
【0054】
図9(a)~(d)は、インク付与量やタイミングに応じたインクの浸透状態を説明するための模式図である。ここでは記録媒体Pに対しインクが付与される状態を断面図で示している。記録媒体Pの内部には、比較的インクが浸透しやすい大毛管と比較的インクが浸透し難い小毛管がある。
【0055】
図9(a)及び(b)は、インクを付与するタイミングとインクの浸透状態の関係を説明するための図である。図9(a)は、記録媒体Pに対し、所定量のインクを付与した後、比較的直ぐに同量のインクを付与した場合のインクの浸透状態を示す。この場合、後続インクが付与されるとき、先行インクは大毛管には浸透しているが小毛管には浸透していない状態にある。よって、後続インクは、先行インクを避けて深さ方向に浸透し先行インクよりも深い位置で定着する。図9(a)では、インクの深さ方向の浸透距離をD1で示している。
【0056】
図9(b)は、記録媒体Pに対し、所定量のインクを付与した後、比較的長時間経過した後に同量のインクを付与した場合のインクの浸透状態を示す。この場合、後続インクが付与されるとき、先行インクは既に小毛管に浸透している。よって、後続インクは、あまり深さ方向に進行することなく表面近くの大毛管に浸透し、小毛管に浸透した先行インクと同等の表面近くで定着する。図9(b)では、インクの深さ方向の浸透距離をD2で示している。図9(a)と(b)を比較した場合、より多くのインクが表面で定着する図9(b)の方が、図9(a)よりも光学濃度が高くなる(D1>D2)。
【0057】
図9(c)及び(d)は、インクを付与する量とインクの浸透状態の関係を説明するための図である。図9(c)は、記録媒体Pに対し、少量のインクを付与した後に、所定の期間を置いて多量のインクを付与した場合のインクの浸透状態を示す。先行インクは少量であるため、表面近くの大毛管に浸透した後、表面近くの小毛管に浸透し定着する。一方、後続インクは先行インクが通過した後の大毛管に浸透し定着する。図9(c)では、インクの深さ方向の浸透距離をD3で示している。
【0058】
図9(d)は、記録媒体Pに対し、多量のインクを付与した後に、所定の期間を置いて少量のインクを付与した場合のインクの浸透状態を示す。多量の先行インクは大毛管に沿って深さ方向に浸透する。先行インクは周囲の小毛管に浸透するが、多くは大毛管に残る。少量の後続インクが付与されると、後続インクは、大毛管の先行インクを避けて深さ方向に浸透し、先行インクよりも深い位置で定着する。図9(d)では、インクの深さ方向の浸透距離をD4で示している。図9(c)及び(d)を比較した場合、より多くのインクが表面で定着する図9(c)の方が、図9(d)よりも光学濃度が高くなる(D3<D4)。
【0059】
ここで、再度図8(b)を参照すると、領域R1は図9(b)と(c)の組み合わせによってインクが付与され、領域R2は図9(b)と(d)の組み合わせによってインクが付与されるとみなすことができる。即ち、記録媒体の左端部においては、光学濃度が高い領域R1と光学濃度が低い領域R2とがY方向に交互に配置することになり、これが時間差ムラとして感知される。
【0060】
このような時間差ムラは、画像の右端部にも同様に発生する。但し、第1画像領域(奇数番目の画像領域)の右端部の光学濃度と、第2画像領域(偶数番目の画像領域)の右端部の光学濃度の高低関係は左端部と逆転した関係になる。また、このような時間差ムラは、中央によりも両端部で目立ち易くなる。
【0061】
以上説明したように、3パス双方向のマルチパス記録において、時間差ムラの程度は、先記録と後記録との間の経過時間、及び先記録と後記録で付与されるインクの量(記録デューティ)に依存する。しかしながら、前者すなわち先記録と後記録との間の経過時間については、機構上の制約から容易に変更することはできない。一方、後者すなわち先記録と後記録で付与されるインクの量(記録デューティ)については、既に説明したマスクパタンP1~P3を調整することによって制御することが可能である。本発明者らは、以上の状況に鑑み、3パス双方向のマルチパス記録において、時間差ムラが目立ち難いマスクパタンを作成した。
【0062】
ここでまず、図10(a)及び(b)を用い、3パス双方向のマルチパス記録において一般的に使用されるマスクパタンについて説明する。図10(a)の左側は、任意のノズル列のOdd列又はEven列が使用する一般的なマスクパタンP0を示す。マスクパタンP0は、X方向に100画素×Y方向に120画素の画素領域を有する。各画素は600dpi×600dpiの1画素に対応し、個々の画素領域についてドットの記録の許容(黒)または非許容(白)が定められている。Y方向の画素数はOdd列又はEven列のノズル数に対応し、上流側の1~40画素の領域がマスクパタンP1、中央の41~80画素の領域がマスクパタンP2、下流側の81~120画素の領域がマスクパタンP3となる(図6参照)。X方向については、マスクパタンP0が繰り返し使用される。このようなマスクパタンは、各ノズル列のOdd列とEven列のそれぞれに用意される。
【0063】
図中、マスクパタンの右側には、記録ヘッドHのノズル列と、各ノズルに対応する記録許容率を示す。ノズル列において、Y方向の上流側から40個のノズルは、マスクパタンP1を使用する第1分割領域に相当する。中央の40個のノズルは、マスクパタンP2を使用する第2分割領域に相当する。下流側の40個のノズルは、マスクパタンP3を使用する第3分割領域に相当する。
【0064】
本明細書において、記録許容率とは、1回の記録走査で記録される複数の画素領域のうち、記録が許容される画素領域の割合を示す。3パスのマルチパス記録で使用される一般的なマスクパタンP0において、Y方向の各画素領域の記録許容率は、図10(a)に示すようにほぼ均等な値(33%≒100%/3)となっている。
【0065】
図10(b)は、図10(a)のマスクパタンP0を用いた場合のインクの付与工程を、領域R1及びR2で比較する図である。領域R1では、先記録(第1走査)で約33%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約67%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約67%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約33%の記録が行われる。即ち、領域R1は、後記録のインク付与量が先記録のインク付与量よりも多い図9(c)の方法によってインクが付与される。一方、領域R2は、先記録のインク付与量が後記録のインク付与量よりも多い図9(d)の方法によってインクが付与される。その結果、記録媒体の両端部においては、時間差ムラが感知されるおそれが生じる。
【0066】
図11(a)及び(b)は、3パス双方向のマルチパス記録において、本実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図である。図11(a)に示すように、本実施形態では、第1分割領域のマスクパタンP1と第3分割領域のマスクパタンP3の記録許容率を等しく49%とする。一方、第2分割領域のマスクパタンP2の記録許容率は、マスクパタンP1及びP3よりも低い2%とする。
【0067】
この場合、図11(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約49%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約51%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約51%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約49%の記録が行われる。即ち、本実施形態のマスクパタンP0を用いれば、領域R1と領域R2において、先記録のインク付与量と後記録のインク付与量を略同等とすることができる。つまり、領域R1と領域R2との間で、先記録と後記録の間の経過時間TLと、先記録と後記録のインク付与量の比(5:5)を、略一定に保つことが可能となる。その結果、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0068】
(変形例1)
図11(a)のマスクパタンを用いた場合、領域R1では、往路走査の記録許容率が98%となり復路走査の記録許容率は2%となる。また、領域R2では、往路走査の記録許容率が2%となり復路走査の記録許容率は98%となる。このように、殆どのドットが往路走査で記録される領域R1と、殆どのドットが復路走査で記録される領域R2とが隣接することにより、往路走査の記録特性と復路走査の記録特性の違いが、画像内で目立ってしまうことがある。例えば、往路走査と復路走査でX方向のドット着弾位置にずれが生じている場合、Y方向に延在する罫線は±X方向に交互にガタつく状態となる。また、往路走査と復路走査でサテライトの発生状態が異なる場合、サテライトが多い画像領域とサテライトが少ない画像領域がY方向に交互に配置され、これが濃度ムラとなって感知される場合もある。以下、このような往路走査と復路走査における記録特性の違いが原因で現れる画像弊害を双方向ムラと呼ぶ。
【0069】
図11(a)のマスクパタンの場合、双方向ムラの発生は、第2分割領域における記録許容率を、第1、第3分割領域に比べて低く抑えすぎたことが原因である。よって、本変形例では、先記録と後記録のインク付与量の差に起因する時間差ムラと、往路走査と復路走査の記録許容率の差に起因する双方向ムラが、共に許容範囲に収まるようなマスクパタンを用意する。
【0070】
図12(a)及び(b)は、3パス双方向のマルチパス記録において、本変形例で使用するマスクパタンP0とインクの付与工程を示す図である。図12(a)に示すように、本変形例では、第1分割領域のマスクパタンP1と第3分割領域のマスクパタンP3の記録許容率を38%とし、第2分割領域のマスクパタンP2の記録許容率を24%とする。
【0071】
この場合、図12(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約38%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約62%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約62%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約38%の記録が行われる。
【0072】
このように、本変形例において、第2分割領域のマスクパタンP2の記録許容率は、図10(a)に示す従来のマスクパタンよりは低く、図11(a)に示すマスクパタンよりは高く設定されている。このため、先記録と後記録のインク付与量の差に起因する時間差ムラと、往路走査と復路走査の記録許容率の差に起因する双方向ムラとを、共に許容範囲に抑えることが可能となる。
【0073】
なお、ここでは、記録許容率を38%と24%とする例を説明したが、このような値は、時間差ムラと双方向ムラのそれぞれの目立ち方に応じて適宜調整すればよい。例えば、写真画像を記録する場合には、時間差ムラを低減することを優先して図11(a)のマスクパタンを用い、文字や罫線を記録する場合には、双方向ムラを軽減することを優先して、図12(a)や図10(a)のマスクパタンを使用してもよい。また、記録許容率は、各色の間で異ならせてもよい。例えば、カラーインクでは図11(a)のマスクパタンを用い、ブラックインクでは図12(a)や図10(a)のマスクパタンを用いるようにしてもよい。
【0074】
(変形例2)
図11(a)のマスクパタンを用いた場合、搬送動作の誤差に伴って、画像領域間で白スジや黒スジが発生することがある。具体的には、搬送量が設計値よりも大きくなってしまった場合は隣接する画像領域の間に白スジが発生し、搬送量が設計値よりも小さくなってしまった場合は黒スジが発生する。
【0075】
このような白スジや黒スジは、隣接する分割領域において記録許容率の差が大きすぎる場合に目立ち易くなる。よって、本変形例では、第1分割領域と第2分割領域の境界部、及び第2分割領域と第3分割領域の境界部において、記録許容率を段階的に変化させるようなマスクパタンを用意する。
【0076】
図13(a)及び(b)は、3パス双方向のマルチパス記録において、本変形例で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図である。図13(a)に示すように、本変形例では、第1分割領域のマスクパタンP1の記録許容率を、Y方向に41%、49%、41%と段階的に変化させる。また、第2分割領域のマスクパタンP2の記録許容率を、Y方向に18%、2%、18%と段階的に変化させる。更に、第3分割領域のマスクパタンP3の記録許容率をY方向に41%、49%、41%と段階的に変化させる。即ち、本変形例において、第1分割領域と第3分割領域では、中央部の記録許容率を端部の記録許容率よりも高く設定し、第2分割領域では、中央部の記録許容率を端部の記録許容率よりも低く設定する。
【0077】
この場合、図13(b)に示すように、領域R1及びR2のそれぞれは、3つの領域に分割して考えることができる。領域R1の±Y方向の端部では、先記録(第1走査)で約41%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約59%の記録が行われる。領域R1の中央部では、先記録(第1走査)で約49%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約51%の記録が行われる。一方、領域R2の±Y方向の端部では、先記録(第2走査と第3走査)で約59%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約41%の記録が行われる。領域R2の中央部では、先記録(第2走査と第3走査)で約51%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約49%の記録が行われる。
【0078】
本変形例のマスクパタンによれば、第1分割領域と第2分割領域の境界部及び第2分割領域と第3分割領域の境界部における記録許容率の差は23%(=41%-18%)となる。また、各分割領域の中で記録許容率が変化する境界においても、記録許容率の差は5%か16%であり、十分小さい値である。即ち、本変形例のマスクパタンP0を用いれば、搬送動作に誤差が含まれたしまった場合でも、白スジや黒スジを目立たせることなく、時間差ムラを低減することが可能となる。
【0079】
図14は、図13(a)のマスクパタンP0に対し、各分割領域内での記録許容率を、勾配をつけて変化させたマスクパタンを示している。このようなマスクパタンを用いた場合でも、図13(a)のマスクパタンと同様、白スジや黒スジを目立たせることなく、時間差ムラを低減することが可能となる。
【0080】
(変形例3)
図15(a)及び(b)は、3パス双方向のマルチパス記録において、本変形例で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図である。図15(a)に示すように、本変形では、第1分割領域のマスクパタンP1の記録許容率を39%、第2分割領域のマスクパタンP2の記録許容率を2%、第3分割領域のマスクパタンP3の記録許容率を59%とする。
【0081】
この場合、図15(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約39%の記録が行われた後、後記録(第2走査と第3走査)で約61%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約41%の記録が行われた後、後記録(第4走査)で約59%の記録が行われる。即ち、本変形例のマスクパタンP0を用いれば、領域R1と領域R2において、先記録のインク付与量と後記録のインク付与量の比を略4:6に統一することができる。つまり、領域R1と領域R2との間で、先記録と後記録の間の経過時間と、先記録と後記録のインク付与量の比(4:6)を、略一定に保つことが可能となる。その上で、本変形例では、最初の記録走査のインク付与量を抑え、最後の記録走査のインク付与量を高めることにより、図9(b)及び(c)で説明したような光学濃度や発色を向上させる効果も得られる。即ち、本変形例のマスクパタンを用いれば、図11で説明したマスクパタンを用いた場合に比べ、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを同等に抑えつつ、光学濃度や発色を更に向上させることができる。
【0082】
なお、先記録のインク付与量と後記録のインク付与量の比については、適宜変更可能である。例えば、表面近くに多くの色材が存在すると記録媒体の表層が剥がれる懸念がある場合や、定着性を向上させたい場合などは、第1分割領域の記録許容率を第3分割領域の記録許容率よりも高く設定してもよい。
【0083】
以上説明したように本実施形態では、3パス双方向のマルチパス記録において、端部領域に対する1回目の走査から2回目の走査までの経過時間と2回目の走査から3回目の走査までの経過時間のうち、長い方の経過時間TLを境として先記録と後記録を定める。そして、先記録のインク付与量と後記録のインク付与量の比が略一定となるように、第1分割領域と第3分割領域の記録許容率に対して、第2分割領域の記録許容率を小さく抑えたマスクパタンを用いる。これにより、先記録と後記録の間の経過時間と、先記録と後記録のインク付与量の比を略一定に保ち、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0084】
(第2の実施形態)
本実施形態においても、図1~3で説明したインクジェット記録装置を用い、図4及び5で説明した画像処理を行う。但し、本実施形態では、5パス双方向のマルチパス記録を行うものとする。
【0085】
図16は、本実施形態で採用するマルチパス記録を説明するための図である。5パスのマルチパス記録を行う場合、ノズル列に配列する120個のノズルは24個ずつの5つの領域に分割され、各分割領域に対し互いに補完関係を有するマスクパタンP1~P5が宛がわれる。本実施形態においても、インデックス展開処理で決定された各画素の記録データと、ドットの記録の許容(1)又は非許容(0)を定めるマスクパタンとの間で論理積演算を行うことにより、各画素のドットの記録又は非記録が決定される。
【0086】
第1記録走査では、記録ヘッドHの第1分割領域を用い、往路方向(+X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第1画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。第1記録走査が完了すると、記録媒体Pは、分割領域に対応した距離(24ノズル分)だけ+Y方向に搬送される。
【0087】
第2記録走査では、記録ヘッドHの第1分割領域と第2分割領域を用い、復路方向(-X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第2画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、第1画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。第2記録走査が完了すると、記録媒体Pは、24画素分だけ+Y方向に搬送される。
【0088】
第3記録走査では、記録ヘッドHの第1~第3分割領域を用い、往路方向(+X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第3画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、第2画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。第1画像領域には、マスクパタンP1及びP2に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP3に従うドットパタンが重ねて記録される。
【0089】
第4記録走査では、記録ヘッドHの第1~第4分割領域を用い、復路方向(-X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第4画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、記録媒体Pの第3画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。記録媒体の第2画像領域には、マスクパタンP1及びP2に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP3に従うドットパタンが重ねて記録される。記録媒体の第1画像領域には、マスクパタンP1~P3に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP4に従うドットパタンが重ねて記録される。
【0090】
第5記録走査では、記録ヘッドHの第1~第5分割領域を用い、往路方向(+X方向)の記録走査を行う。これにより、記録媒体Pの第5画像領域には、マスクパタンP1に従うドットパタンが記録される。また、記録媒体Pの第4画像領域には、マスクパタンP1に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP2に従うドットパタンが重ねて記録される。記録媒体の第3画像領域には、マスクパタンP1及びP2に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP3に従うドットパタンが重ねて記録される。記録媒体の第2画像領域には、マスクパタンP1~P3に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP4に従うドットパタンが重ねて記録される。記録媒体の第1画像領域には、マスクパタンP1~P4に従って記録されたドットパタンの上に、マスクパタンP5に従うドットパタンが重ねて記録される。
【0091】
マスクパタンP1~P5は互いに補完の関係を有するので、第5記録走査が終了した時点で第1画像領域の画像は完成する。第5記録走査が完了すると、記録媒体Pは、24画素分だけ+Y方向に搬送される。
【0092】
以後、記録ヘッドHの第1~第5分割領域を用いた復路方向の記録走査と往路方向の記録走査が交互に行われ、各記録走査の間に24画素分の搬送動作が行われる。そして、各記録走査が行われるたびに、1つ分の画像領域の記録が完了する。
【0093】
図17(a)及び(b)は、5パスのマルチパス記録において一般的に使用されるマスクパタンを説明するための図である。図17(a)の左側は、任意のノズル列のOdd列又はEven列が使用する一般的なマスクパタンP0を示す。マスクパタンの右側には、Y方向の各画素領域に対応する記録許容率を示す。5パスのマルチパス記録で使用される一般的なマスクパタンP0において、Y方向の各画素領域の記録許容率は、図17(a)に示すようにほぼ均等な値(20%=100%/5)となっている。
【0094】
図17(b)は、図17(a)のマスクパタンP0を用いた場合のインクの付与工程を、第1画像領域の左端に位置する領域R1と第2画像領域の左端に位置する領域R2とで比較する図である。5パス双方向のマルチパスにおいて、領域R1では、第1記録走査でインクが付与されてから第2走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。第2記録走査でインクが付与されてから第3記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。また、第3記録走査でインクが付与されてから第4記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。更に、第4記録走査でインクが付与されてから第5記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。即ち、領域R1において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TLと、3回目にインクが付与されてから4回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長い。これに対し、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TSと、4回目にインクが付与されてから5回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短い。
【0095】
一方、領域R2において、第2記録走査でインクが付与されてから第3記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。第3記録走査でインクが付与されてから第4記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。また、第4記録走査でインクが付与されてから第5記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。更に、第5記録走査でインクが付与されてから第6記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。即ち、領域R2において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TSと、3回目にインクが付与されてから4回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短い。これに対し、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TLと、4回目にインクが付与されてから5回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長い。
【0096】
図17(b)では領域R1,R2にインクを付与するタイミングを、長い方の経過時間TLを基準に示している。図中、2回の経過時間TLよりも前に行われる記録走査を先記録、2回の経過時間TLの間に行われる記録を中記録、2回の経過時間TLの後に行われる記録走査を後記録として示している。即ち、領域R1では、マスクパタンP1に従った記録が先記録、マスクパタンP2及びP3に従った記録が中記録、マスクパタンP4及びP5に従った記録が後記録となる。一方、領域R2では、マスクパタンP1及びP2に従った記録が先記録、マスクパタンP3及びP4に従った記録が中記録、マスクパタンP5に従った記録が後記録となる。
【0097】
この場合、領域R1では、先記録(第1走査)で約20%の記録が行われた後、中記録(第2走査と第3走査)で約40%の記録が行われ、更に後記録(第4走査と第5走査)で約40%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約40%の記録が行われた後、中記録(第4走査と第5走査)で約40%の記録が行われ、後記録(第6走査)で約20%の記録が行われる。即ち、領域R1では中記録と後記録によって多くのインクが付与され、領域R2では先記録と中記録によって多くのインクが付与される状態となる。その結果、記録媒体の両端部においては、時間差ムラが感知されるおそれが生じる。
【0098】
図18(a)及び(b)は、5パス双方向のマルチパス記録において、本実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を示す図である。図18(a)に示すように、本実施形態では、第1分割領域のマスクパタンP1と第3分割領域のマスクパタンP3と第5分割領域のマスクパタンP5の記録許容率を32%とする。一方、第2分割領域のマスクパタンP2と第4分割領域のマスクパタンP3の記録許容率は、マスクパタンP1、P3及びP5よりも低い2%とする。
【0099】
この場合、図18(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約32%の記録が行われた後、中記録(第2走査と第3走査)で約34%の記録が行われ、後記録(第4走査と第5走査)で約34%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約34%の記録が行われた後、中記録(第4走査と第5走査)で約34%の記録が行われ、後記録(第6走査)で約32%の記録が行われる。即ち、本実施形態のマスクパタンを用いれば、領域R1と領域R2において、先記録のインク付与量と中記録のインク付与量と、後記録のインク付与量とを略同等とすることができる。つまり領域R1と領域R2との間で、先記録、中記録及び後記録の間の経過時間TLと、先記録、中記録及び後記録のインク付与量の比(3:3:3)を、略一定に保つことが可能となる。その結果、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0100】
なお、本実施形態においても、各分割領域における記録許容率については、適宜変更可能である。例えば、カラーインクについては、時間差ムラを低減することを優先して、図18(a)のマスクパタンを使用し、ブラックインクについては、双方向ムラを軽減することを優先して、図17(a)のマスクパタンを使用してもよい。
【0101】
(第3の実施形態)
本実施形態においても、図1~3で説明したインクジェット記録装置を用い、図4及び5で説明した画像処理を行う。但し、本実施形態では、4パス双方向のマルチパス記録を行うものとする。
【0102】
図19は、本実施形態で採用するマルチパス記録を説明するための図である。4パスのマルチパス記録を行う場合、任意のノズル列のOdd列又はEven列に配列する120個のノズルは30個ずつの4つの領域に分割され、各分割領域に対し互いに補完関係を有するマスクパタンが宛がわれる。図19では、Y方向において最も上流側から、各分割領域に対して、マスクパタンP1~P4を宛がった状態を示している。本実施形態においても、インデックス展開処理で決定された各画素の記録データと、ドットの記録の許容(1)又は非許容(0)を定めるマスクパタンとの間で論理積演算を行うことにより、各画素におけるドットの記録(1)又は非記録(0)が決定される。
【0103】
図20(a)及び(b)は、4パスのマルチパス記録において一般的に使用されるマスクパタンを説明するための図である。図20(a)の左側は、任意のノズル列のOdd列又はEven列が使用する一般的なマスクパタンP0を示す。また、マスクパタンの右側には、Y方向の各画素領域に対応する記録許容率を示す。4パスのマルチパス記録で使用される一般的なマスクパタンP0において、Y方向の各画素領域の記録許容率は、図20(a)に示すようにほぼ均等な値(25%=100%/4)となっている。
【0104】
図20(b)は、図20(a)のマスクパタンP0を用いた場合のインクの付与工程を、第1画像領域の左端に位置する領域R1と第2画像領域の左端に位置する領域R2とで比較する図である。4パス双方向のマルチパスにおいて、領域R1では、第1記録走査でインクが付与されてから第2記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。第2記録走査でインクが付与されてから第3記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。また、第3記録走査でインクが付与されてから第4記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。即ち、領域R1において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TLと、3回目にインクが付与されてから4回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長い。これに対し、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短い。
【0105】
一方、領域R2では、第2記録走査でインクが付与されてから第3走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。第3記録走査でインクが付与されてから第4記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TLが経過する。また、第4記録走査でインクが付与されてから第5記録走査でインクが付与されるまでの間には経過時間TSが経過する。即ち、領域R2において、最初にインクが付与されてから2回目にインクが付与されるまでの経過時間TSと、3回目にインクが付与されてから4回目にインクが付与されるまでの経過時間TSは短い。これに対し、2回目にインクが付与されてから3回目にインクが付与されるまでの経過時間TLは長い。
【0106】
図20(b)では領域R1,R2にインクを付与するタイミングを、経過時間TLを基準に示している。この場合、領域R1では、マスクパタンP1に従った記録が先記録、マスクパタンP2及びP3に従った記録が中記録、マスクパタンP4に従った記録が後記録となる。一方、領域R2では、マスクパタンP1及びP2に従った記録が先記録、マスクパタンP3及びP4に従った記録が中記録となり、後記録は存在しない。即ち、中記録が実質的な後記録となる。
【0107】
この場合、領域R1では、先記録(第1走査)で約25%の記録が行われた後、中記録(第2走査と第3走査)で約50%の記録が行われ、更に後記録(第4走査)で約25%の記録が行われる。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約50%の記録が行われた後、中記録(第4走査と第5走査)で約50%の記録が行われ、後記録は行われない。即ち、領域R1では先記録と中記録と後記録によって3段階に分けてインクが付与されるが、領域R2では先記録と中記録の2段階でインクが付与される状態となる。このように、長い経過時間TLを境としてインクを付与するタイミングを割り振った場合、偶数パス双方向のマルチパス記録では、インクを付与するタイミングの回数が隣接する領域間(R1とR2)で異なる。その結果、記録媒体の両端部においては、時間差ムラが感知されるおそれが生じる。
【0108】
図21(a)及び(b)は、4パス双方向のマルチパス記録において、本実施形態で使用するマスクパタンとインクの付与工程を説明するための図である。図21(a)に示すように、本実施形態では、第1分割領域のマスクパタンP1と第3分割領域のマスクパタンP3の記録許容率を36%とする。また、第2分割領域の記録許容率は第1分割領域や第3分割領域よりも低い23%とし、第4分割領域の記録許容率は更に低い5%とする。
【0109】
この場合、図21(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約36%の記録が行われた後、中記録(第2走査と第3走査)で約59%の記録が行われ、後記録(第4走査)で約5%の記録が行われる。即ち、殆どのインクが先記録と中記録の2回で付与される。一方、領域R2では、先記録(第2走査と第3走査)で約59%の記録が行われた後、中記録(第4走査と第5走査)で約41%の記録が行われ、後記録はない。
【0110】
このように、本実施形態においては、第4分割領域の記録許容率を小さく抑えることにより、領域R1に対する後記録のインク付与量を低減する。これにより、領域R1と領域R2のどちらにおいてもインクを付与するタイミングの回数は略2回ずつとなり、3パス双方向のマルチパス記録を行う第1実施形態と略同じ状況を生成することができる。その上で、第1実施形態と同様に、第2分割領域の記録許容率を第1分割領域や第3分割領域よりも小さく抑えることにより、第1実施形態と同様、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0111】
(変形例)
図22(a)及び(b)は、第4の実施形態で使用可能なマスクパタンの変形例を示す図である。本変形例では、第2分割領域のマスクパタンP2と第4分割領域のマスクパタンP4の記録許容率を36%とする。また、第3分割領域の記録許容率は第2分割領域や第4分割領域よりも低い23%とし、第1分割領域の記録許容率は更に低い5%とする。
【0112】
この場合、図22(b)に示すように、領域R1では、先記録(第1走査)で約5%の記録が行われた後、中記録(第2走査と第3走査)で約59%の記録が行われ、後記録(第4走査と第5走査)で約36%の記録が行われる。即ち、殆どのインクが中記録と後記録の2回で付与される。一方、領域R2では、先記録はなく、中記録(第2走査と第3走査)で約41%の記録が行われた後、後記録(第4走査と第5走査)で約59%の記録が行われる。
【0113】
このように、本変形例においては、第1分割領域の記録許容率を小さく抑えることにより、領域R1に対する先記録のインク付与量を低減する。これにより、領域R1と領域R2のどちらにおいてもインクを付与するタイミングの回数は略2回ずつとなり、3パス双方向のマルチパス記録を行う第1実施形態と略同じ状況を生成することができる。その上で、第1実施形態と同様に、第3分割領域の記録許容率を第2分割領域や第4分割領域よりも小さく抑えることにより、第1実施形態と同様、記録媒体の両端部に発生する時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0114】
なお、本実施形態においても、各分割領域における記録許容率については、適宜変更可能である。例えばカラーインクでは図21(a)に示したマスクパタンを用い、ブラックインクでは図22(a)に示したマスクパタンを用いてもよい。
【0115】
(その他の実施形態)
以上の実施形態では、3パス、4パス及び5パスのマルチパス記録を例に説明した。しかしながら、上記記録方法は、更に多くのマルチパス数のマルチパス記録にも応用することができる。例えば、マルチパス数が奇数回、即ち2N+1回(Nは自然数)である場合は、領域R1や領域R2のような単位領域に対する偶数回目の記録走査のインク付与量が、奇数回目の記録走査のインク付与量よりも少なくなるように制御されればよい。そして、そのためには、単位領域に対する偶数回目の記録走査に対応する分割領域の記録許容率が、奇数回目の記録走査に対応する分割領域の前記記録許容率よりも低く設定されたマスクパタンを使用すればよい。このようにすれば、経過時間TLを境として区分される先記録や後記録のような各記録工程におけるインク付与量の比を、単位領域間で略一定に保ち、時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0116】
一方、マルチパス数が偶数回、即ち2N回(Nは自然数)である場合は、単位領域に対する最初又は最後の記録走査におけるインク付与量が、これに連続する他の2N-1回の記録走査におけるインク付与量よりも少なくなるように制御されればよい。その上で、上記2N-1回の記録走査の中で、偶数回目の記録走査に対応する分割領域の記録許容率が、奇数回目の記録走査に対応する分割領域の前記記録許容率よりも低く設定されたマスクパタンを使用すればよい。言い換えると、単位領域においては、マルチパス数が奇数回(2N-1回)である場合の上記制御に従う記録走査が行われた上で、その連続する(2N-1回)の記録走査の前又は後に、これらよりも低い記録許容率の記録走査が行われればよい。このようにすれば、経過時間TLを境として区分される主にインクが付与される記録工程の回数と、各記録工程におけるインク付与量の比を、単位領域間で略一定に保ち、時間差ムラを軽減することが可能となる。
【0117】
なお、以上説明した実施形態や変形例は、互いに組み合わせることができる。例えば普通紙に記録する時は第1実施形態で説明した3パス双方向のマルチパス記録を行い、コート紙に記録する時は第2実施形態で説明した5パス双方向のマルチパス記録を行うなどとしてもよい。また、第1の実施形態を採用しながらも、ブラックインクには図15(a)で示した変形例3のマスクパタンを用い、カラーインクには図14に示したマスクパタンを用いるようにしてもよい。
【0118】
また、以上の実施形態では、カラーのインクジェット記録装置で課題となりやすいインクの付与順序の差に起因する色順ムラを、図2で説明した対象ヘッドを用いることによりって抑えることを前提に説明した。しかしながら、上記実施形態において、対称ヘッドを使用することは必須の要件ではない。例えば、ブラックインクのみを用いた単色のインクジェット記録装置や各色のノズル列が搬送方向(Y方向)に配列したインクジェット記録装置では、双方向記録を行っても色順ムラは発生しない。しかしながら、このようなインクジェット記録装置であっても、マルチパスの双方向記録を行えば時間差ムラは発生する。即ち、シリアル型のインクジェット記録装置において双方向のマルチパス記録を行う場合であれば時間差ムラは発生し、上記実施形態で説明したマスクパタンを用いれば、時間差ムラを低減し画質を向上させることができる。
【0119】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0120】
100 インクジェット記録装置
201 ノズル
H 記録ヘッド
P 記録媒体
R1、R2 単位領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22