(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】高い光沢を有する成形品を製造するための組成物および熱可塑性成形コンパウンド
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241209BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20241209BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C08L69/00
C08F279/02
C08L55/02
(21)【出願番号】P 2020551985
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2019057584
(87)【国際公開番号】W WO2019185627
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-24
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス、ザイデル
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-518472(JP,A)
【文献】特開2014-001293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0319128(US,A1)
【文献】特表2016-501298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08F 279/02
C08L 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性成形コンパウンドを製造するための組成物であって、次の構成要素:
A)ポリカーボネートおよびポリエステルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のポリマー、
B)ゴム変性ビニル共重合体であって、
B.1)前記ゴム変性ビニル共重合体Bに対して85重量%~93重量%の、
B.1.1)成分B.1に対して65重量%~85重量%のスチレン、
B.1.2)成分B.1に対して15重量%~35重量%のアクリロニトリルから得られる構造単位、
B.2)前記ゴム変性ビニル共重合体Bに対して7重量%~15重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、B.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベースからバルク重合法により形成され、
(i)分散相であって
(i.1)構造単位B.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(i.2)同様に構造単位B.1から構成される、別個の分散相として前記ゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体からなる相、
ならびに
(ii)構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックスを含んでなるゴム変性ビニル共重合体B、
C)ゴム変性ビニル共重合体であって、
C.1)前記ゴム変性ビニル共重合体Cに対して85重量%~93重量%の、
C.1.1)成分C.1に対して60重量%~75重量%のスチレン、
C.1.2)成分C.1に対して15重量%~30重量%のアクリロニトリル、
C.1.3)成分C.1に対して2重量%~8重量%のn-ブチルアクリレートから得られる構造単位、
C.2)前記ゴム変性ビニル共重合体Cに対して7重量%~15重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、C.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベースからバルク重合法により形成され、
(iii)分散相であって、
(iii.1)構造単位C.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(iii.2)同様に構造単位C.1から構成される、別個の分散相として前記ゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体からなる相、
ならびに
(iv)構造単位C.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックスを含んでなるゴム変性ビニル共重合体C
を含むか、またはそれらからなり、
成分BおよびCの重量比が20:80~90:10の範囲であり、
成分Bが、構造単位B.1からなる、前記ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、前記ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(ii)を、Bに対して60重量%~95重量%の割合x(ii)で含み、
成分Cが、構造単位C.1からなる、前記ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(iv)を、Cに対して60重量%~95重量%の割合x(iv)で含み、
30~90重量%の成分A、
5~50重量%の成分B、
3~40重量%の成分C、
更なる成分Dとして0~20重量%のポリマー添加剤
を含んでなり、かつ
1.5重量%~7.5重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる、
組成物。
【請求項2】
成分BおよびCがそれぞれバルク重合によって製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
平均分子量gMw
gMw=[x(ii)・Mw(ii)・x(B)+x(iv)・Mw(iv)・x(C)]/[x(ii)・x(B)+x(iv)・x(C)]が125~160kDaの範囲であり、
ここで、
Mw(ii)が、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分B中の前記ビニル共重合体マトリックス(ii)の平均分子量Mwであり、
x(B)は組成物中の成分Bの重量%での割合であり、
Mw(iv)が、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分C中の前記ビニル共重合体マトリックス(iv)の平均分子量Mwであり、
x(C)が前記組成物中の重量%での成分Cの割合である、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ビニル共重合体マトリックス(ii)が、140~200kg/molの、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された平均分子量Mwを有し、前記ビニル共重合体マトリックス(iv)が、110~130kg/molの、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された平均分子量Mwを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
成分BおよびCが重量比60:40~80:20で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
成分Bの前記分散相(i)が、0.3~2.0μmの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有し、成分Cの前記分散相(iii)が、0.3~2.0μの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有し、前記2つの分散相(i)および(iii)の少なくとも1つが、0.7~1.5μmの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
成分BおよびCが、8~22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、樹脂酸、アルキルおよびアルキルアリールスルホン酸、ならびに脂肪酸アルコール硫酸塩を含まず、成分BおよびCがそれぞれ、20ppm未満のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
成分B.2およびC.2が、1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみからなり、成分BおよびCがそれぞれ、8重量%~12重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位の含有量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
成分Dとして、難燃剤、潤滑剤および離型剤、安定剤、流動促進剤、相溶化剤、ならびに染料および顔料からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含んでなり、
乳化重合によって調製されたいずれの更なるグラフト重合体も含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物から製造される、成形コンパウンド。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物または請求項1
0に記載の成形コンパウンドから得られる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性成形コンパウンドを製造するための組成物、好ましくはポリカーボネート組成物、その成形コンパウンド、成形品を製造するための組成物または成形コンパウンドの使用、および成形品自体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性成形コンパウンド、とりわけポリカーボネート組成物を製造するための組成物は、かなり以前から知られている。組成物およびそれから製造された成形コンパウンドは、多くの用途、例えば自動車分野、建設分野およびエレクトロニクス分野向けの成形品を製造するために使用される。
【0003】
そのような熱可塑性成形コンパウンドから製造される成形品の特性は、組成物の成分の選択およびこれらの成分が組成物中で使用される量の範囲を介して、それぞれの用途の要求に合わせて調整することができる。
【0004】
とりわけ低温での靭性を増加させるために、エラストマー特性を有するブレンドパートナーが衝撃改質剤としてポリカーボネートに添加される。一方で衝撃改質剤は、弾性成分の化学組成、そうでなければその形態が異なりうる。くわえて、衝撃改質剤の製造過程で導入される不純物は、ポリカーボネート、したがってポリカーボネート組成物、ならびにポリカーボネートから製造される成形コンパウンドおよび成形品の特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体は、ポリカーボネート組成物向けのエラストマー特性を有するブレンドパートナーとして大規模に使用されている。低温での靭性および例えば引張試験での破断伸びなどの更なる機械的特性を向上するだけでなく、ほとんどの場合にABSはまた、ポリカーボネート組成物から製造される熱可塑性成形コンパウンドの溶融流動性を促進し、したがって成形品を得るための加工を容易にする。
【0006】
多くの用途において、製造された成形品は張力を受けており、同時に化学物質と接触している。このような条件下では、応力亀裂による成形品の破損が生じる可能性がある。したがって、応力亀裂耐性は、エラストマー成分の使用を通して向上すべき更なる特性である。
【0007】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体はフリーラジカル重合によって製造することができる。一般的に使用される方法はバルク重合法であり、高純度で好ましいレオロジー特性を有する生成物をもたらす。バルク重合法によって製造されたそのようなABSポリマーの高純度により、特定のエージング効果に対して良好な安定性、特に、成形コンパウンドから製造された成形品が使用中に曝露されうる暖かく湿った条件下で向上した安定性を有するPC+ABS成形コンパウンドの製造に適したポリカーボネートを含んでなる組成物が可能になる。
【0008】
例えば、国際公開第2007/009622A1号には、向上した加水分解安定性に関して特筆すべき、リチウム含有量が低いポリカーボネートバルクABS組成物が開示されている。
【0009】
また、ABS成分の改質は、ポリカーボネートABS成形コンパウンドの機械的およびレオロジー的特性をさらに向上し、したがって、それらを特定の要求に適合できることも知られている。
【0010】
国際公開第01/62851A1号には、3本以上のアームを有する星状分岐ゴムを含んでなるバルクABSを含んでなる射出成形部品において、成形加工性が向上し、耐衝撃性が向上したPC+バルクABS組成物が開示されている。
【0011】
国際公開第01/70884A1号には、芳香族モノビニリデンモノマー、エチレン性不飽和ニトリルモノマーおよびアクリル酸のエステルの共重合体を含んでなるマトリックス相を有するバルクABSを含んでなる、異方性靱性の低下を特徴とし、アクリル酸のエステルの含有量が共重合体の0.1重量%~15重量%の範囲であるPC+バルクABS組成物が開示されている。
【0012】
使用される1つのABS成分を変えることだけでなく、2つ以上のそのようなブレンドパートナーの混合を介しても、特定の特性プロファイルに関して更なる最適化を達成することがポリマーブレンド系で可能である。
【0013】
国際公開第2007/065577A1号には、異なる分子量の遊離(共)重合体を含有する2つの異なるバルクABSポリマーの混合物をベースとし、低温でも強靭性と溶融流動性のバランスが向上し、くわえて、湿った暖かい状態の影響下で良好なエージング耐性、良好な加工安定性および良好な化学的安定性を有するPC+ABS成形用化合物が開示されている。
【0014】
バルク重合法によって製造されたABS(バルクABS)の使用により、上記の利点を有するバランスの良い特性プロファイルを有するPC+ABS組成物を得ることが可能である。しかし、一般にこの方法は、どちらかと言えば、そのようなPC+バルクABS成形コンパウンドのPC+バルクABS組成物から製造される成形品の表面の印象に悪影響を与えうる比較的粗いゴム含有グラフト粒子を含有するABSポリマーを作り出す。より具体的には、そのようなPC+バルクABS組成物またはPC+バルクABS成形コンパウンドから製造される成形品の光沢は、多くの用途には不十分である。
【0015】
したがって、高い表面光沢を有する成形品を製造するために使用できる熱可塑性PC+バルクABS成形コンパウンドを製造するための組成物を提供することが望ましい。好ましくは、組成物は、それから製造された成形コンパウンドの高い流動性および加工安定性と、特に低温でも良好な(ノッチ付き衝撃)靭性と、組成物から製造された成形コンパウンドから製造された成形品の化学薬品の影響下での応力亀裂耐性との良好なバランスをさらに特徴とすべきである。さらに好ましくは、組成物から製造された成形用化合物およびそれから製造された成形品は、湿った暖かい状態への曝露に対して良好なエージング耐性を有するべきである。
【0016】
より好ましくは、破断伸びも向上すべきである。
【発明の概要】
【0017】
今般、驚くべきことに、所望の特性は、
-以下の構成要素を含んでなる、またはそれらからなり、
かつ
-組成物中の成分BとCの重量比が、20:80~90:10の範囲、好ましくは40:60~85:15の範囲、より好ましくは60:40~80:20の範囲である
熱可塑性成形コンパウンドを製造するための組成物に備わっていることが見出された:
A)芳香族ポリカーボネートおよび芳香族ポリエステルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のポリマー、
B)ゴム変性ビニル共重合体であって、
B.1)前記ゴム変性ビニル共重合体Bに対して80重量%~95重量%の、
B.1.1)成分B.1に対して60重量%~90重量%のスチレン、
B.1.2)成分B.1に対して10重量%~40重量%のアクリロニトリル
から得られる構造単位、
B.2)ゴム変性ビニル共重合体Bに対して5重量%~20重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、B.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成され、
(i)分散相であって、
(i.1)構造単位B.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(i.2)同様に構造単位B.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(ii)構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス
を含んでなるゴム変性ビニル共重合体B、
C)ゴム変性ビニル共重合体であって、
C.1)ゴム変性ビニル共重合体Cに対して80重量%~95重量%の、
C.1.1)成分C.1に対して60重量%~85重量%のスチレン、
C.1.2)成分C.1に対して10重量%~35重量%のアクリロニトリル、
C.1.3)成分C.1に対して0.5重量%~15重量%の少なくとも1種のアルキルメタクリレート
から得られる構造単位、
C.2)ゴム変性ビニル共重合体Cに対して5重量%~20重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、C.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成され、
(iii)分散相であって、
(iii.1)構造単位C.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(iii.2)同様に構造単位C.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(iv)構造単位C.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス。
【0018】
好ましくは、本組成物は、30重量%~90重量%、さらに好ましくは40重量%~80重量%、より好ましくは55重量%~75重量%の成分Aを含む。
【0019】
好ましくは、本組成物は、5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは15重量%~35重量%の成分Bを含む。
【0020】
好ましくは、本組成物は、3重量%~40重量%、好ましくは5重量%~30重量%、より好ましくは6重量%~15重量%の成分Cを含む。
【0021】
好ましくは、本組成物は、0重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%、さらに好ましくは0.2重量%~5重量%のポリマー添加剤を更なる成分Dとして含む。
【0022】
好ましくは、本組成物は、
30重量%~90重量%、さらに好ましくは40重量%~80重量%、より好ましくは55重量%~75重量%の成分A、
5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは15重量%~35重量%の成分B、
3重量%~40重量%、好ましくは5重量%~30重量%、より好ましくは6重量%~15重量%の成分C、
更なる成分Dとして、0重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%、さらに好ましくは0.2重量%~5重量%のポリマー添加剤
を含んでなる、またはそれらからなる。
【0023】
好ましくは、本組成物は少なくとも90重量%の程度で成分A~Dからなる。より好ましくは、本組成物は成分A~Dのみからなる。
【0024】
さらに好ましくは、本組成物は、1.5重量%~7.5重量%、好ましくは2.0重量%~6.0重量%、より好ましくは2.5重量%~4.5重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む。
【発明の具体的説明】
【0025】
成分A
成分Aは、ポリカーボネートおよびポリエステルカーボネートからなる群からの少なくとも1種のポリマーから選択される熱可塑性樹脂または異なる熱可塑性樹脂の混合物である。
【0026】
好ましくは、成分Aは、芳香族ポリカーボネートおよび芳香族ポリエステルカーボネートからなる群からの少なくとも1種のポリマーから選択され、最も好ましい実施形態では、成分A)は、芳香族ポリカーボネートまたは異なる芳香族ポリカーボネートの混合物である。
【0027】
「ポリカーボネート」は、本発明において、ホモポリカーボネートとコポリカーボネートの両方を意味すると理解される。これらのポリカーボネートは直鎖でもよく、またはよく知られた様式で分岐していてもよい。本発明によれば、ポリカーボネートの混合物も使用することができる。
【0028】
本発明に従って使用されるポリカーボネート中のカーボネート基の最大で80モル%、好ましくは20モル%から最大50モル%の部分は、好ましくは芳香族ジカルボン酸エステル基で置換されている。炭酸からの酸ラジカルおよび好ましくは芳香族ジカルボン酸からの酸ラジカルの両方を分子鎖に組み込むこの種のポリカーボネートは、芳香族ポリエステルカーボネートと呼ばれる。
【0029】
カーボネート基は、本質的に化学量論的に、また定量的に、芳香族ジカルボン酸エステル基で置換され、したがって、共反応物のモル比も、完成したポリエステルカーボネートに反映される。芳香族ジカルボン酸エステル基は、ランダムにまたはブロックで組み込むことができる。
【0030】
熱可塑性ポリエステルカーボネートを含む熱可塑性ポリカーボネートは、GPC(ポリカーボネート標準を用いた塩化メチレンのゲル浸透クロマトグラフィー)によって決定された平均分子量Mwが、15kg/mol~50kg/mol、好ましくは20kg/mol~35kg/mol、より好ましくは23kg/mol~33kg/molである。
【0031】
好ましい芳香族ポリカーボネートおよび/または芳香族ポリカーボネートは、ジフェノール、炭酸または炭酸誘導体、およびポリエステルカーボネートの場合には、好ましくは芳香族ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体、任意選択で連鎖停止剤および分岐剤から既知の方法で調製される。
【0032】
ポリカーボネートの製造の詳細は、過去約40年間に多くの特許明細書に記載されてきた。ここで例として、Schnell, "Chemistry and Physics of Polycarbonates", Polymer Reviews, Volume 9, Interscience Publishers, New York, London, Sydney 1964、D. Freitag, U. Grigo, P.R. Mueller, H. Nouvertne, BAYER AG, "Polycarbonates" in Encyclopedia of Polymer Science and Engineering, Volume 11, Second Edition, 1988, pages 648-718、および最後にU. Grigo, K. Kirchner and P.R. Mueller "Polycarbonate" [Polycarbonates] in Becker/Braun, Kunststoff-Handbuch [Plastics Handbook], volume 3/1, Polycarbonate, Polyacetale, Polyester, Celluloseester [Polycarbonates, Polyacetals, Polyesters, Cellulose Esters], Carl Hanser Verlag Munich, Vienna 1992, pages 117-299を参照することができる。
【0033】
芳香族ポリカーボネートおよびポリエステルカーボネートは、例えば、ジフェノールをハロゲン化カルボニル、好ましくはホスゲンおよび/またはハロゲン化芳香族ジカルボニル、好ましくはハロゲン化ベンゼンジカルボニルと界面法(interfacial process)で、任意選択で連鎖停止剤を使用して、任意選択で3官能性以上の分岐剤を使用して反応させることによって調製され、炭酸誘導体の一部を芳香族ジカルボン酸またはジカルボン酸の誘導体で置換し、芳香族ポリカーボネート中で置換されるカーボネート構造単位に応じて芳香族ジカルボン酸エステル構造単位で置換することによってポリエステルカーボネートを調製する。別の可能性としては、例えば、ジフェノールとジフェニルカーボネートの反応を介した溶融重合法による調製がある。
【0034】
ポリカーボネートの製造に適したジヒドロキシアリール化合物は、式(1)のものである:
HO-Z-OH (1)
〔式中、
Zは、6~30個の炭素原子を有し、1つまたは複数の芳香環を含んでいてもよく、置換されていてもよく、架橋要素として脂肪族もしくは脂環式ラジカル、またはアルキルアリールまたはヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ラジカルである〕。
【0035】
好ましくは、式(1)のZは式(2)のラジカルである:
【化1】
〔式中、
R
6およびR
7は、独立して、H、C
1-C
18-アルキル、C
1-C
18-アルコキシ、ClもしくはBrなどのハロゲン、またはいずれの場合も任意選択で置換されるアリールもしくはアラルキル、好ましくはHまたはC
1-C
12-アルキル、より好ましくはHまたはC
1-C
8-アルキル、最も好ましくはHまたはメチルであり、
Xは、単結合、-SO
2-、-CO-、-O-、-S-、C
1-C
6-アルキレン、C
2-C
5-アルキリデン、またはC
1-C
6-アルキル、好ましくはメチルまたはエチルで置換されうるC
5-C
6-シクロアルキリデン、また更なるヘテロ原子を含む芳香環に任意選択で縮合されうるC
6-C
12-アリーレンである〕。
【0036】
好ましくは、Xは、単結合、C
1-C
5-アルキレン、C
2-C
5-アルキリデン、C
5-C
6-シクロアルキリデン、-O-、-SO-、-CO-、-S-、-SO
2-、
または式(2a):
【化2】
のラジカルである。
【0037】
ポリカーボネートの調製に適したジフェノールの例としては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジヒドロキシジフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、α,α’-ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン、イサチンまたはフェノールフタレインの誘導体に由来するフタルイミドならびにその環アルキル化、環状アリール化および環状ハロゲン化化合物が挙げられる。
【0038】
好ましいジフェノールは、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ジメチルビスフェノールA、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンである。
【0039】
特に好ましいジフェノールは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンおよびジメチルビスフェノールAである。
【0040】
最高に好ましいのは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)である。
【0041】
これらの好適なジフェノールおよび更なる好適なジフェノールは、例えば、米国特許第3 028 635A号、米国特許第2 999 825A号、米国特許第3 148 172A号、米国特許第2 991 273A号、米国特許第3 271 367A号、米国特許第4 982 014A号および米国特許第2 999 846A号、独国特許出願公開第1 570 703A号、独国特許出願公開第A号2063 050、独国特許出願公開第2 036 052A号、独国特許出願公開第2 211 956A号および独国特許出願公開第3 832 396A号、仏国特許出願公開第561 518A号、研究論文「H. Schnell, Chemistry and Physics of Polycarbonates, Interscience Publishers, New York 1964」、ならびに特開1986-62039号(JP-A 62039/1986)、特開1986-62040号(JP-A 62040/1986)および特開1986-105550号(JP-A 105550/1986)に記載されている。
【0042】
ホモポリカーボネートの場合にはジフェノールを1つのみ使用し、コポリカーボネートの場合には2つ以上のジフェノールを使用する。使用されるジフェノールは、合成に添加されるすべての他の化学物質や助剤と同様に、それら自身の合成、取り扱いおよび保存から生じる不純物が混入している可能性がある。しかし、可能な限り高い純度の原料を使用することが望ましい。
【0043】
好適な炭酸誘導体の例としては、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートが挙げられる。
【0044】
ポリカーボネートの調製に使用できる好適な連鎖停止剤はモノフェノールである。好適なモノフェノールの例としては、フェノール自体、クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、クミルフェノールなどのアルキルフェノールおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0045】
好ましい連鎖停止剤は、直鎖または分岐状C1-C30-アルキル基、好ましくは非置換またはtert-ブチル置換によって一置換または多置換されたフェノールである。特に好ましい連鎖停止剤は、フェノール、クミルフェノールおよび/またはp-tert-ブチルフェノールである。
【0046】
連鎖停止剤の使用量は、いずれの場合も使用するジフェノールのモルに対して好ましくは0.1~5モル%である。連鎖停止剤は、炭酸誘導体との反応前、反応中または反応後に加えることができる。
【0047】
好適な分岐剤は、ポリカーボネート化学において既知の3官能性以上の化合物、特に3個または3個より多いフェノール性OH基を有するものである。
【0048】
好適な分岐剤の例としては、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、トリ(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,4-ビス(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4-(4-ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタン、1,4-ビス((4’,4”-ジヒドロキシトリフェニル)メチル)ベンゼン、および3,3-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-オキソ-2,3-ジヒドロインドールが挙げられる。
【0049】
任意選択の使用のための分岐剤の量は、いずれの場合も使用されるジフェノールのモルに対して好ましくは0.05モル%~2.00モル%である。
【0050】
分岐剤は、水性アルカリ相中でジフェノールおよび連鎖停止剤を最初に充填するか、またはホスゲン化の前に有機溶媒に溶解して添加することができる。エステル交換プロセスの場合、分岐剤はジフェノールとともに使用される。
【0051】
特に好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールAをベースとするホモポリカーボネート、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンをベースとするホモポリカーボネートならびに2つのモノマービスフェノールAおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンをベースとするコポリカーボネートである。
【0052】
ポリエステルカーボネートを含む、本発明による使用のためのポリカーボネートの調製の好ましいモードは、公知の界面プロセスおよび公知の溶融エステル交換プロセスである(例えば、国際公開第2004/063249A1号、国際公開第2001/05866A1号、国際公開第2000/105867号、米国特許第5,340,905A号、米国特許第5,097,002A号、米国特許第5,717,057A号(US-A 5,717,057 A)を参照)。
【0053】
成分Aとして最も好ましく使用されるのは、ビスフェノールAをベースとする芳香族ポリカーボネートである。
【0054】
成分B
成分Bは、
B.1)ゴム変性ビニル共重合体Bに対して、80重量%~95重量%、好ましくは85重量%~93重量%、さらに好ましくは88重量%~92重量%の、
B.1.1)成分B.1に対して、60重量%~90重量%、好ましくは65重量%~85重量%、より好ましくは70重量%~80重量%のスチレン、
B.1.2)成分B.1に対して、10重量%~40重量%、好ましくは15重量%~35重量%、より好ましくは20重量%~30重量%のアクリロニトリル
から得られる構造単位、および
B.2)ゴム変性ビニル共重合体Bに対して、5重量%~20重量%、好ましくは7重量%~15重量%、さらに好ましくは8重量%~12重量%の、<-50℃、好ましくは<-60℃、より好ましくは<-70℃ガラス転移温度Tgを有し、B.2に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは100重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成されるゴム変性ビニル共重合体を含んでなり、
ゴム変性ビニル共重合体Bは、
(i)分散相であって、
(i.1)構造単位B.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(i.2)同様に構造単位B.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(ii)構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス
を含んでなる。
【0055】
好ましくは、分散相(i)は、超遠心分離法によって測定された中位径D50が0.3~2.0μm、さらに好ましくは0.5~1.5μm、とりわけ0.7~1.2μmである。
【0056】
本発明で特に明記されない限り、ガラス転移温度Tgは、すべての成分について、加熱速度10K/分にてDIN EN61006(1994年版)に従って動的示差走査熱量測定(DSC)によって測定され、Tgは中点温度(接線法)として決定される。
【0057】
成分Bのゴム変性ビニル共重合体は、メルトボリュームフローレート(MFR)が、ISO1133(2012年版)に従って、220℃、ラム荷重10kgで測定され、好ましくは2~20g/10分、より好ましくは3~15g/10分、とりわけ4~8g/10分である。多数のゴム変性ビニル共重合体の混合物が成分Bとして使用される場合、好ましいMFR範囲は、混合物中の成分の質量による割合で加重した成分B中の個々の成分のMFRの平均に当てはまる。
【0058】
そのようなゴム変性ビニル共重合体Bは、B.1およびB.2を好ましくはバルク重合によって上記重量割合で重合することによって調製される。
【0059】
ゴム変性グラフト共重合体Bの製造に好ましく採用されるバルク重合法は、ビニルモノマーB.1の重合と、そのようにして形成されたビニル共重合体のゴム弾性グラフトベースB.2上でのグラフト化の両方を含んでなる。くわえて、この反応レジメン(reaction regime)では、自己組織化(相分離)が、
(i.1)構造単位B.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(i.2)同様に構造単位B.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる分散相(i)を形成し、
このゴム含有分散相(i)は、構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(ii)に分散される。
【0060】
ゴムを含まないビニル共重合体(ii)は、成分Bの他のビニル共重合体画分とは対照的に、好適な溶媒、例えばアセトンによって浸出することができる。
【0061】
このようにして調製されたゴム変性ビニル共重合体Bの分散相(i)のサイズは、例えば、ポリマーの温度、得られる粘度、および攪拌の結果としての剪断などの反応レジメンの条件を介して調整される。
【0062】
中央粒径値D50は、50重量%の粒子がそれを超え、50重量%がそれ未満の直径である。本発明で特に明記されない限り、中央粒径値は、すべての成分について、超遠心測定(W. Scholtan, H. Lange, Kolloid-Z. und Z. Polymere 250 (1972), 782-796)によって決定される。
【0063】
好ましいグラフトベースB.2は、ブタジエンを含有するジエンゴム、またはブタジエンを含有するジエンゴムの混合物、またはブタジエンを含有するジエンゴムの共重合体、またはそれらと更なる共重合可能モノマー(例えばB.1による)との混合物である。
【0064】
特に好ましいグラフトベースB.2は純粋なポリブタジエンゴムである。更なる好ましい実施形態では、B.2はスチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴムである。
【0065】
好ましくは、成分Bは、ポリブタジエン含有量が、5重量%~18重量%、さらに好ましくは7重量%~14重量%、とりわけ8重量%~12重量%である。
【0066】
成分Bの特に好ましいゴム変性ビニル共重合体は、例えば、独国特許出願公開第2 035 390A号(=米国特許第3 644 574A号)または独国特許出願公開第2 248 242A号(= 英国特許第1 409 275A号)、またはUllmann's, Enzyklopaedie der Technischen Chemie [Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry], Vol. 19 (1980), p. 280 ffに記載のバルクABSポリマーである。
【0067】
ゴムベースB.2に化学的に結合しておらず、ゴム粒子に取り込まれていないビニル共重合体(ii)は、上述のように、グラフト重合体Bの重合での調製の結果として生じうる。同様に、ゴムベースB.2に化学的に結合しておらず、ゴム粒子に取り込まれていないゴム変性ビニル共重合体成分Bのこのビニル共重合体(ii)の一部は、その調製の結果として生じ、他の部分は別個に重合され、成分Bの構成要素として成分Bに添加される可能性がある。ビニル(共)重合体(ii)の割合x(ii)は、その起源にかかわらず、成分B中のアセトン可溶性画分として測定され、成分Bに対して、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも75重量%である。ビニル共重合体(ii)の割合x(ii)は、その起源にかかわらず、成分B中のアセトン可溶性画分として測定され、成分Bに対して、好ましくは95%重量以下、より好ましくは90%重量以下、さらに好ましくは85%重量以下である。
【0068】
成分Bのゴム変性ビニル共重合体中のこのビニル共重合体(ii)は、重量平均分子量Mw(ii)が、好ましくは140~200kg/mol、さらに好ましくは150~180kg/molである。
【0069】
本発明の文脈では、成分B中のビニル共重合体の重量平均分子量Mw(ii)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。
【0070】
好ましくは、成分Bは、8~22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、樹脂酸、アルキルおよびアルキルアリールスルホン酸、ならびに脂肪酸アルコール硫酸塩を含まない。
【0071】
成分Bは、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満、最も好ましくは20ppm未満のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンを含む。
【0072】
成分C
成分Cは、
C.1)ゴム変性ビニル共重合体Cに対して、80重量%~95重量%、好ましくは85重量%~93重量%、さらに好ましくは88重量%~92重量%の、
C.1.1)成分C.1に対して60重量%~85重量%、好ましくは65重量%~80重量%、より好ましくは67重量%~75重量%のスチレン、
C.1.2)成分C.1に対して10重量%~35重量%、好ましくは15重量%~30重量%、より好ましくは20重量%~28重量%のアクリロニトリル、
C.1.3)成分C.1に対して0.5重量%~15重量%、好ましくは2重量%~8重量%、より好ましくは3重量%~6重量%の少なくとも1種のアルキルメタクリレート、
から得られる構造単位、および
C.2)ゴム変性ビニル共重合体Cに対して、5重量%~20重量%、好ましくは7重量%~15重量%、さらに好ましくは8重量%~12重量%の、<-50℃、好ましくは<-60℃、より好ましくは<-70℃のガラス転移温度Tgを有し、C.2に対して、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは100重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成されるゴム変性ビニル共重合体を含んでなり、
ゴム変性ビニル共重合体Cは、
(iii)分散相であって、
(iii.1)構造単位C.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(iii.2)同様に構造単位C.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(iv)構造単位C.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス
を含んでなる。
【0073】
分散相(iii)は、超遠心分離法によって測定された中位径D50が、好ましくは0.3~2.0μm、さらに好ましくは0.4~1.5μm、とりわけ0.4~0.7μmである。
【0074】
成分Cのゴム変性ビニル共重合体は、メルトボリュームフローレート(MFR)が、ISO1133(2012年版)に従って、220℃、ラム荷重10kgで測定され、好ましくは2~60g/10分、より好ましくは10~50g/10分、とりわけ20~40g/10分である。多数のゴム変性ビニル共重合体の混合物が成分Cとして使用される場合、好ましいMFR範囲は、混合物中の成分の質量による割合で加重した個々の成分のMFRの平均に当てはまる。
【0075】
そのようなゴム変性ビニル共重合体Cは、C.1およびC.2を好ましくはバルク重合によって上記重量割合で重合することによって調製される。
【0076】
ゴム変性グラフト共重合体Cの製造に好ましく採用されるバルク重合法は、ビニルモノマーC.1の重合と、そのようにして形成されたビニル共重合体のゴム弾性グラフトベースC.2上でのグラフト化の両方を含んでなる。くわえて、この反応レジメンでは、自己組織化(相分離)が、
(iii.1)構造単位C.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(iii.2)同様に構造単位C.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる分散相(iii)を形成し、
このゴム含有分散相(iii)は、構造単位C.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(iv)に分散される。
【0077】
ゴムを含まないビニル共重合体(iv)は、成分Cの他のビニル共重合体画分とは対照的に、好適な溶媒、例えばアセトンによって浸出することができる。
【0078】
このようにして調製されたゴム変性ビニル共重合体Cの分散相(iv)のサイズは、例えば、ポリマーの温度、得られる粘度、および攪拌の結果としての剪断などの反応レジメンの条件を介して調整される。
【0079】
中央粒径値D50は、50重量%の粒子がそれを超え、50重量%がそれ未満の直径である。本発明で特に明記されない限り、中央粒径値は、すべての成分について、超遠心測定(W. Scholtan, H. Lange, Kolloid-Z. und Z. Polymere 250 (1972), 782-796)によって決定される。
【0080】
モノマーC.1.3は、アルキルメタクリレート、好ましくは(C1-C8)-アルキルメタクリレートである。
【0081】
さらに好ましいモノマーC.1.3は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレートおよびtert-ブチルアクリレートである。最も好ましくは、C.1.3はn-ブチルアクリレートである。
【0082】
好ましいグラフトベースC.2は、ブタジエンを含有するジエンゴム、またはブタジエンを含有するジエンゴムの混合物、またはブタジエンを含有するジエンゴムの共重合体、またはそれらと更なる共重合可能モノマー(例えばC.1による)との混合物である。
【0083】
特に好ましいグラフトベースC.2は純粋なポリブタジエンゴムである。更なる好ましい実施形態では、C.2はスチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴムである。
【0084】
成分Cは、ポリブタジエン含有量が、好ましくは5重量%~18重量%、さらに好ましくは7重量%~14重量%、とりわけ8重量%~12重量%である。
【0085】
成分Bの特に好ましいゴム変性ビニル共重合体は、独国特許出願公開第2 035 390A号(=米国特許第3 644 574A号)もしくは独国特許出願公開第2 248 242A号(=英国特許第1 409 275A号)の開示、またはUllmann's, Enzyklopaedie der Technischen Chemie [Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry], Vol. 19 (1980), p. 280 ffに類似の方法で調製することができる。
【0086】
ゴムベースC.2に化学的に結合しておらず、ゴム粒子に取り込まれていないビニル共重合体(iv)は、上述のように、グラフト重合体Cの重合での調製の結果として生じうる。同様に、ゴムベースC.2に化学的に結合しておらず、ゴム粒子に取り込まれていないゴム変性ビニル共重合体成分Cのこのビニル共重合体(iv)の一部は、その調製の結果として生じ、他の部分は別個に重合され、成分Cの構成要素として成分Cに添加される可能性がある。ビニル共重合体(iv)の割合x(iv)は、その起源にかかわらず、成分C中のアセトン可溶性画分として測定され、成分Cに対して、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらに好ましくは少なくとも75重量%である。ビニル(共)重合体(iv)の割合x(iv)は、その起源にかかわらず、成分C中のアセトン可溶性画分として測定され、成分Cに対して、好ましくは95%重量以下、より好ましくは90%重量以下、さらに好ましくは85%重量以下である。
【0087】
成分Cのゴム変性ビニル共重合体中のこのビニル共重合体(iv)は、好ましくは重量平均分子量Mw(iv)が110~130kg/molである。
【0088】
本発明の文脈では、成分C中のビニル共重合体の重量平均分子量Mw(iv)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。
【0089】
成分Cは、好ましくは、8~22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、樹脂酸、アルキルおよびアルキルアリールスルホン酸、ならびに脂肪酸アルコール硫酸塩を含まない。
【0090】
成分Cは、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満、最も好ましくは20ppm未満のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンを含む。
【0091】
成分BおよびCはそれぞれ、上記で指定された分子量Mw(ii)およびMw(iv)を有するビニルポリマーマトリックスを含む。これにより、次式によって計算される平均分子量gMwがもたらされる。
gMw=[x(ii)・Mw(ii)・x(B)+x(iv)・Mw(iv)・x(C)]/[x(ii)・x(B)+x(iv)・x(C)]
ここで、
Mw(ii)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分B中のビニル共重合体マトリックス(ii)の平均分子量Mwであり、
x(B)は組成物中の成分Bの重量%での割合であり、
Mw(iv)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分C中のビニル共重合体マトリックス(iv)の平均分子量Mwであり、
x(C)は組成物中の成分Cの重量%での割合である。
【0092】
好ましくは、平均分子量gMwは125~160kg/molの範囲、さらに好ましくは135~155kg/molの範囲、より好ましくは140~150kg/molの範囲である。
【0093】
好ましくは、成分B中の分散相(i)および成分C中の分散相(iii)は、上記の中央粒径D50を有する。さらに好ましくは、2つの分散相(i)および(iii)の少なくとも1つは、超遠心分離法によって測定された中位径D50が0.7~1.5μmである。
【0094】
成分D
成分Dとして、本発明による組成物は、好ましくは次からなる群より選択される1つまたは複数のポリマー添加剤を含んでなることができる。難燃剤、ドリップ防止剤、難燃性相乗剤、煙抑制剤(smoke inhibitor)、潤滑剤および離型剤、核剤、帯電防止剤、導電性添加剤、安定剤(例えば加水分解、熱老化およびUV安定剤、およびエステル交換阻害剤)、流動促進剤、相溶化剤、構成要素BおよびC以外の更なる衝撃改質剤(コアシェル構造の有無にかかわらない、例えば、乳化重合によって調製されるコアシェル構造(MBS)をもつメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体)、成分A、BおよびC以外の更なるポリマー構成要素(例えば機能性ブレンドパートナー)、フィラーおよび強化剤、ならびに染料および顔料。
【0095】
好ましい実施形態では、本組成物はいかなるフィラーも強化剤も含まない。
【0096】
好ましい実施形態では、本組成物は、潤滑剤および離型剤、安定剤、流動促進剤、相溶化剤、更なる衝撃改質剤、更なるポリマー構成要素、染料および顔料からなる群より選択される少なくとも1種のポリマー添加剤を含む。
【0097】
好ましい実施形態では、本組成物はペンタエリトリトールテトラステアラートを離型剤として含む。
【0098】
好ましい実施形態では、本組成物は、安定剤として、立体障害フェノール、有機ホスファイトおよび硫黄系共安定剤からなる群より選択される少なくとも1つの代表的なものを含む。
【0099】
特に好ましい実施形態では、本組成物は、安定剤として、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートおよびトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトからなる群より選択される少なくとも一つの代表的なものを含む。
【0100】
特に好ましい実施形態では、本組成物は、成分Dとして、潤滑剤および離型剤、安定剤、流動促進剤ならびに染料および顔料からなる群より選択される少なくとも1つの代表的なものを含み、成分Dの他のポリマー添加剤を含まない。
【0101】
さらに好ましい実施形態では、本組成物は、成分Dとして、少なくとも1種の離型剤、少なくとも1種の安定剤ならびに任意選択で少なくとも1種の染料および/または1つの顔料を含み、成分Dの更なるポリマー添加剤を含まない。
【0102】
本組成物が、成分Dとしてまたは成分Dの構成要素として、乳化重合によって調製されたグラフト重合体を含む場合には、成分BおよびCの重量割合の合計の好ましくは15%、さらに好ましくは成分BおよびCの重量割合の合計の10%、より好ましくは成分BおよびCの重量割合の合計の7重量%を超えない重量割合で使用される。
【0103】
さらに好ましくは、本組成物は、成分Dとして、乳化重合によって調製されたグラフト重合体を、6重量%以下、好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下の量で含む。最も好ましい実施形態では、本組成物は、グラフト重合体も乳化重合によって調製された他のポリマーも含まない。
【0104】
成形コンパウンドおよび成形品の製造
本発明による組成物を使用して、熱可塑性成形コンパウンドを製造することができる。本発明による熱可塑性成形コンパウンドは、例えば、組成物の各構成要素を混合し、内部混練機、押出機および二軸スクリューシステムなどの慣用の装置で、好ましくは200℃~320℃の温度、より好ましくは240℃~310℃、最も好ましくは260℃~300℃にて既知の方法で溶融混練および溶融押出することによって製造することができる。本出願の文脈において、この過程は一般に、コンパウンディングと呼ばれる。
【0105】
したがって、成形コンパウンドという用語は、組成物の構成要素が溶融混練および溶融押出されたときに得られる生成物を意味するものと理解される。
【0106】
組成物の個々の構成要素は、連続的にまたは同時に、約20℃(室温)またはより高い温度で既知の方法で混合することができる。これは、例えば、いくつか構成要素は、押出機の主な取り入れ口を介して添加されてもよく、残りの構成要素は、その後、補助押出機を介して混錬過程に加えられてもよいことを意味する。
【0107】
本発明による成形コンパウンドは、あらゆる種類の成形品を製造するために使用することができる。これらは、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形法によって製造することができる。別の形態の加工は、以前に製造されたシートまたはフィルムから熱成形によって成形物を製造することである。本発明による成形コンパウンドは、押出、ブロー成形および熱成形法による加工に特に適している。
【0108】
組成物の成形品はまた、射出成形機または押出ユニットに直接計量し、成形物に加工することができる。
【0109】
本発明による組成物および成形コンパウンドから製造できるそのような成形物の例は、フィルム、プロファイル、あらゆる種類の筐体部品、例えばジュースプレス、コーヒーマシン、ミキサーなどの家庭用器具用;モニター、フラットスクリーン、ノートブック、プリンター、コピー機などの事務機器用;シート、パイプ、電気設備ダクト、窓、ドアおよび他の建設分野向けプロファイル(内部装具(internal fitout)と外部用途)、スイッチや、プラグ、ソケットなどの電気および電子部品、商用車向け、特に自動車分野向けの部品である。本発明による組成物はまた、次の成形物または成形品の製造に適する。鉄道車両、船舶、航空機、バスおよび他の自動車向け内部装具部品、自動車用車体構成部品、小型変圧器が入った電気機器の筐体、情報の処理および伝送用機器の筐体、医療機器用の筐体および表面仕上げ、マッサージ機およびそのための筐体、子ども用自動車玩具、シート様壁要素、安全装置用筐体、断熱輸送コンテナ、衛生および風呂道具用の成型部品、換気口用保護格子ならびに庭道具用筐体。
【0110】
以下、本発明の更なる実施形態1~41を記載する。
1.熱可塑性成形コンパウンドを製造するための組成物であって、次の構成要素:
A)ポリカーボネートおよびポリエステルカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のポリマー、
B)ゴム変性ビニル共重合体であって、
B.1)ゴム変性ビニル共重合体Bに対して80重量%~95重量%の、
B.1.1)成分B.1に対して60重量%~90重量%のスチレン、
B.1.2)成分B.1に対して10重量%~40重量%のアクリロニトリル
から得られる構造単位、
B.2)ゴム変性ビニル共重合体Bに対して5重量%~20重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、B.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成され、
(i)分散相であって、
(i.1)構造単位B.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(i.2)同様に構造単位B.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(ii)構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス、
を含んでなるゴム変性ビニル共重合体B、
C)ゴム変性ビニル共重合体であって、
C.1)ゴム変性ビニル共重合体Cに対して80重量%~95重量%の、
C.1.1)成分C.1に対して60重量%~85重量%のスチレン、
C.1.2)成分C.1に対して10重量%~35重量%のアクリロニトリル、
C.1.3)成分C.1に対して0.5重量%~15重量%の少なくとも1種のアルキルメタクリレート
から得られる構造単位、
C.2)前記ゴム変性ビニル共重合体Cに対して5重量%~20重量%の、<-50℃のガラス転移温度を有し、C.2に対して少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含む1種または複数種の弾性グラフトベース
から形成され、
(iii)分散相であって、
(iii.1)構造単位C.1から構成されるビニル共重合体でグラフトされたゴム粒子および
(iii.2)同様に構造単位C.1から構成される、別個の分散相としてゴム粒子に組み込まれたビニル共重合体
からなる相、
ならびに
(iv)構造単位C.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に組み込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス
を含んでなるゴム変性ビニル共重合体C
を含むまたはそれらからなり、
成分BとCの重量比が20:80~90:10の範囲である
組成物。
【0111】
2.成分Aが、芳香族ポリカーボネートおよび芳香族ポリエステルカーボネートからなる群より選択される実施形態1に記載の組成物。
【0112】
3.ビスフェノールAをベースとする芳香族ポリカーボネートが成分Aとして使用される実施形態2に記載の組成物。
【0113】
4.成分Aが、23 000g/mol~33 000g/molの、標準としてポリカーボネートを用いた塩化メチレン中のゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した平均分子量Mwを有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0114】
5.成分Bが、構造単位B.1からなる、ゴム粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(ii)を、Bに対して60重量%~95重量%の割合x(ii)で含み、かつ
成分Cが、構造単位C.1からなる、粒子に結合しておらず、これらのゴム粒子に取り込まれていない、ゴムを含まないビニル共重合体マトリックス(iv)を、Cに対して60重量%~95重量%の割合x(iv)で含む
前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0115】
6.平均分子量gMw
gMw=[x(ii)・Mw(ii)・x(B)+x(iv)・Mw(iv)・x(C)]/[x(ii)・x(B)+x(iv)・x(C)]
が125~160kg/molの範囲であり、
ここで、
Mw(ii)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分B中のビニル共重合体マトリックス(ii)の平均分子量Mwであり、
x(B)は組成物中の成分Bの重量%での割合であり、
Mw(iv)は、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された、成分C中のビニル共重合体マトリックス(iv)の平均分子量Mwであり、
x(C)は組成物中の成分Cの重量%での割合である
実施形態5に記載の組成物。
【0116】
7.gMwが135~155kg/molの範囲である実施形態6に記載の組成物。
【0117】
8.gMwが140~150kg/molの範囲である実施形態6に記載の組成物。
【0118】
9.ビニル共重合体マトリックス(ii)が、140~200kg/molの、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された平均分子量Mwを有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0119】
10.ビニル共重合体マトリックス(ii)が、150~180kg/molの、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された平均分子量Mwを有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0120】
11.ビニル共重合体マトリックス(iv)が、110~130kg/molの、標準としてポリスチレンに対してテトラヒドロフラン中でゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された平均分子量Mwを有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0121】
12.成分C.1.3が、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレートおよびtert-ブチルアクリレートからなる群より選択される前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0122】
13.成分C.1.3がn-ブチルアクリレートである前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0123】
14.C.1.1)が成分C.1に対して65重量%~80重量%の量で、
C.1.2)が成分C.1に対して15重量%~30重量%の量で、
C.1.3)が成分C.1に対して2重量%~8重量%の量で
存在する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0124】
15.C.1.1)が成分C.1に対して67重量%~75重量%の量で、
C.1.2)が成分C.1に対して20重量%~28重量%の量で、
C.1.3)が成分C.1に対して3重量%~6重量%の量で
存在する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0125】
16.55~75重量%の成分A
を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0126】
17.15~35重量%の成分B
を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0127】
18.6~15重量%の成分C
を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0128】
19.30~90重量%の成分A、
5~50重量%の成分B、
3~40重量%の成分C、
更なる成分Dとして0~20重量%のポリマー添加剤
を含んでなる前述の実施形態1~15のいずれかに記載の組成物。
【0129】
20.40~80重量%の成分A、
10~40重量%の成分B、
5~30重量%の成分C、
更なる成分Dとして0.1~10重量%のポリマー添加剤
を含んでなる前述の実施形態1~15のいずれかに記載の組成物。
【0130】
21.0.2~5重量%の成分D
を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0131】
22.55~75重量%の成分A、
15~35重量%の成分B、
6~15重量%の成分C、
更なる成分Dとして0.2~5重量%のポリマー添加剤
を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0132】
23.1.5重量%~7.5重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0133】
24.2.0重量%~6.0重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0134】
25.2.5重量%~4.5重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0135】
26.成分BおよびCが重量比40:60~85:15で存在する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0136】
27.成分BおよびCが重量比60:40~80:20で存在する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0137】
28.成分Bの分散相(i)が、0.3~2.0μmの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有し、成分Cの分散相(iii)が、0.3~2.0μmの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0138】
29.2つの分散相(i)および(iii)の少なくとも1つが、0.7~1.5μmの超遠心分離法によって測定された中位径D50を有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0139】
30.成分BおよびCが、8~22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはホスホニウム塩、樹脂酸、アルキルおよびアルキルアリールスルホン酸、ならびに脂肪酸アルコール硫酸塩を含まない前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0140】
31.成分BおよびCがそれぞれ、20ppm未満のアルカリ金属およびアルカリ土類金属のイオンを含む前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0141】
32.成分BおよびCがそれぞれ、バルク重合によって調製される前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0142】
33.成分B.2およびC.2が、1,3-ブタジエンに由来する構造単位のみからなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0143】
34.成分BおよびCがそれぞれ、8重量%~12重量%の1,3-ブタジエンに由来する構造単位の含有量を有する前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0144】
35.成分Dとして、難燃剤、ドリップ防止剤、難燃性相乗剤、煙抑制剤、潤滑剤および離型剤、核剤、帯電防止剤、導電性添加剤、安定剤、流動促進剤、相溶化剤、成分BおよびC以外の更なる衝撃改質剤、成分A、BおよびC以外の更なるポリマー構成要素、フィラーおよび強化剤、ならびに染料および顔料からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0145】
36.成分Dとして、難燃剤、潤滑剤および離型剤、安定剤、流動促進剤、相溶化剤、ならびに染料および顔料からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含んでなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0146】
37.乳化重合によって調製されたいずれの更なるグラフト重合体も含まない前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0147】
38.少なくとも90重量%の程度の構成要素A~Dからなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0148】
39.成分A~Dからなる前述の実施形態のいずれかに記載の組成物。
【0149】
40.実施形態1~39のいずれかに記載の組成物から製造される成形コンパウンド。
【0150】
41.実施形態1~39のいずれかに記載の組成物または実施形態40に記載の成形材料から得られる成形品。
【実施例】
【0151】
成分A
ビスフェノールAをベースとし、(BPA-PC標準に対して溶媒として塩化メチレン中で室温にてGPCによって測定される)重量平均分子量MWが30 000g/molの直鎖ポリカーボネート。
【0152】
成分B-1
バルク重合法によって調製され、アクリロニトリル共重合体でグラフトされており、グラフトベースとして純粋なポリブタジエンゴムを主成分とするゴム粒子から構成される分散相を含み、スチレン-アクリロニトリル共重合体の介在物(inclusions)およびゴムに結合していないスチレン-アクリロニトリル共重合体マトリックスを含むアクリロニトリル(A)-ブタジエン(B)-スチレン(S)ポリマー。成分B-1は、A:B:S比が23:9:68重量%であり、アセトンに不溶な割合として求めたゲル含有量が20重量%である。したがって、成分B-1中のテトラヒドロフラン可溶性スチレン-アクリロニトリル共重合体は、80重量%の割合x(ii)で存在し、重量平均分子量Mw(ポリスチレンを標準として溶媒として、テトラヒドロフラン中でGPCによって測定)が160kg/molである。分散相の中央粒径値D50は、超遠心分離法で測定して0.9μmである。成分B-1のメルトフローレート(MFR)は、ISO1133(2012年版)に従って、220℃、ラム荷重10kgで測定して6.5g/10分である。
【0153】
成分B-2
バルク重合法によって調製され、スチレン-アクリロニトリル共重合体でグラフトされており、ブタジエン含有量が75重量%のスチレン-ブタジエンブロック共重合体ゴムを主成分とするゴム粒子から構成される分散相を含み、スチレン-アクリロニトリル共重合体の介在物およびゴムに結合していないスチレン-アクリロニトリル共重合体マトリックスを含むアクリロニトリル(A)-ブタジエン(B)-スチレン(S)ポリマー。成分B-2は、A:B:S比が22:10:68重量%であり、アセトンに不溶な割合として求めたゲル含有量が19重量%である。したがって、成分B-2中のテトラヒドロフラン可溶性スチレン-アクリロニトリル共重合体は、81重量%の割合x(ii)で存在し、重量平均分子量Mw(ポリスチレンを標準として溶媒として、テトラヒドロフラン中でGPCによって測定)が110kg/molである。成分B-2のメルトフローレート(MFR)は、ISO1133(2012年版)に従って、220℃、ラム荷重10kgで測定して30g/10分である。
【0154】
成分C-1
バルク重合法によって調製され、スチレン-アクリロニトリル-n-ブチルアクリレート共重合体でグラフトされており、グラフトベースとして純粋なポリブタジエンゴムを主成分とするゴム粒子から構成される分散相を含み、スチレン-アクリロニトリル-n-ブチルアクリレート共重合体の介在物およびゴムに結合していないスチレン-アクリロニトリル-n-ブチルアクリレート共重合体マトリックスを含むアクリロニトリル(A)-ブタジエン(B)-スチレン(S)-n-ブチルアクリレート(BA)ポリマー。成分C-1は、A:B:S:BA比が22.5:10:63:4.5重量%であり、アセトンに不溶な割合として求めたゲル含有量が19重量%である。したがって、成分C-1中のテトラヒドロフラン可溶性スチレン-アクリロニトリル-n-ブチルアクリレート共重合体は、81重量%の割合x(iv)で存在し、重量平均分子量Mw(ポリスチレンを標準として溶媒として、テトラヒドロフラン中でGPCによって測定)が115kg/molである。分散相の中央粒径値D50は、超遠心分離法で測定して0.5μmである。成分C-1のメルトフローレート(MFR)は、ISO1133(2012年版)に従って、220℃、ラム荷重10kgで測定して28g/10分である。
【0155】
成分D-1
ペンタエリトリトールテトラステアラート
【0156】
成分D-2
イルガノックス(Irganox)(商標)B900(BASF、ドイツ、ルートヴィヒスハーフェン)
80重量%のトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(イルガフォス(Irgafos)(商標)168)と20重量%の2,6-ジ-tert-ブチル-4-(オクタデカノキシカルボニルエチル)フェノール(イルガノックス(商標)1076)との混合物。
【0157】
本発明による成形コンパウンドの製造および試験
成分をコペリオン、ヴェルナー&プフライデラー(Coperion, Werner & Pfleiderer)ZSK25二軸押出機(ドイツ、シュツットガルト)で、溶融温度260℃および10mbar(絶対)の減圧を加えて混合した。成形品は、Arburg270E射出成形機で、260℃または300℃で、かつ金型温度80℃で製造した。
【0158】
IZODノッチ付き衝撃強さは、-30℃で、ISO180-1A(1982年版)に従って、10個の寸法が80mm×10mm×4mmの試験片についてそれぞれ測定し、10回の個々の測定の平均値として記録した。
【0159】
破断伸びは、室温でISO527(1996年版)に従って測定した。
【0160】
特に重要な熱加工条件をシミュレーションする目的で、熱加工安定性に用いた尺度は、300℃の高い融液温度で射出成形によって作製した寸法60mm×60mm×2mmの試験片について測定した低温延性の保持であった。このようにして作製した10個の試験片について、ISO6603-2(2002年4月版)に従って、試験片を潤滑化して、低温延性を-30℃にてパンクチャー試験で確認した。ここで低温延性に対して用いた評価基準は、亀裂のない、または安定した亀裂のある破壊プロファイルをもたらす、すなわち、ISO6603-2(2002年4月版)の§3.10の詳細に従って、「YD」(降伏、続いて深絞り、ISO6603-2の
図1)または「YS」(降伏、続いて少なくとも部分的な安定亀裂、ISO6603-2の
図2)の破壊プロファイルの評価を伴う個々の試験の割合であった。
【0161】
溶融流動性の尺度としての溶融粘度はISO11443(2014年版)に従って、温度260℃、剪断速度1000s-1で測定した。
【0162】
耐薬品性に用いた尺度は、菜種油中の応力亀裂耐性(ESC)であった。260℃の融液温度で射出成形した寸法80mm×40mm×4mmの試験片の室温での応力亀裂誘起破壊までの時間を、試験片にクランピングテンプレート(clamping template)を用いて2.4%の外繊維歪みをかけ、菜種油に完全に浸漬させることによって測定した。測定はDIN EN ISO22088(2006年版)に従って行った。7日(168時間)後、その期間内に破損が生じなかった場合には測定を中止した(この場合、測定を>168時間として記録)。
【0163】
ビューイングアングル60°で測定した表面光沢は、DIN67530(1982年版)に従って、BYK-Gardner GmbH(ドイツ、ゲーレッツリート)製のHaze-Gloss装置を用いて、溶融温度300℃で射出成形した寸法60mm×60mm×2mmの試験片に反射させて測定した。高光沢に研磨した射出成形物をこれらの試験片の製造に使用した。
【0164】
表1および表2は、本発明の組成物および比較組成物ならびにそれらから製造した成形品の特性をまとめたものである。表1は、PC:ABS比が70:30重量部であることに起因して、ISO306(2013年版)に従って、寸法80mm×10mm×4mmの試験片上でラム荷重50N、加熱速度120℃/時にて測定されるVicat B/120熱歪み抵抗が129℃+/-2℃の領域にあるそれらの組成物を列挙する。表1は、PC:ABS比が60:40重量部で、ビカットB/120が120℃+/-5℃の領域にあるそれらの組成物をまとめたものである。熱歪み抵抗が異なることに起因して、表1および表2の組成物は、異なる用途に適し、したがって、自動車産業で規定されるさまざまな材料クラスをカバーする。
【0165】
【0166】
【0167】
表1および表2のデータは、比較組成物V1と比較して本発明の組成物2~4が、かつ比較組成物V5およびV9~V11と比較して本発明の組成物6~8が、驚くべきことに高い光沢を有し、したがって本発明の目的を達成することを示している。
【0168】
さらに、本発明の組成物6は、比較組成物V10と比較して破断伸びが向上されていることならびに本発明の組成物6および7は、同等の比較組成物V10およびV11と比較して流動性が向上されていることをデータは示している。これらの向上は、加工安定性、低温延性および化学的安定性の悪化を伴わず、したがって、本発明の組成物は、比較組成物と比較して、光沢を向上するだけでなく、さらに、溶融流動性、化学的安定性/応力亀裂耐性低温延性、破断伸びおよび加工安定性のバランスを向上している。
【0169】
本発明の組成物2~4および6~8はいずれも光沢の向上を示し、したがって本発明の主要目的を達成するが、低温延性と化学的安定性/応力亀裂耐性のバランスに関して、組成物2と3が4よりも優先され、さらに組成物2が3よりも優先され、また、組成物6と7が8よりも優先され、さらに組成物6が7よりも優先されることがわかった。