(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】インプリント装置及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241209BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2021001045
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】首藤 伸一
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017726(JP,A)
【文献】特開2013-125817(JP,A)
【文献】特開2017-068087(JP,A)
【文献】特開2005-353858(JP,A)
【文献】特開2020-043160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/30
G03F 7/00
B29C 59/00
B29C 53/00
B29C 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型を用いて基板上にインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を行うインプリント装置であって、
前記型を保持する保持部材と、
前記保持部材を支持するベース部に前記保持部材を連結するばね部材と、
前記保持部材と前記ベース部との間に設けられ、前記ベース部に対して前記保持部材を鉛直方向に駆動する駆動部と、
前記駆動部による前記保持部材の鉛直方向の駆動範囲のうち前記ベース部の側の駆動端を規制する規制面と、を有し、
前記駆動部は、
前記基板上のインプリント材に前記型を接触させるための第1駆動と、前記規制面に前記保持部材を押し当てるための第2駆動と、を行い、
前記第2駆動において、前記規制面に前記保持部材を押し当てた状態で発熱
し、
前記規制面は、
前記型を保持した状態の前記保持部材にかかる重力と、前記ばね部材の弾性力とがつり合うときの前記保持部材の第1位置に対して前記ベース部の側に配置され、
前記規制面と前記第1位置との間の距離が、前記基板上のインプリント材と前記型とが接触するときの前記保持部材の第2位置と前記第1位置との間の距離よりも短くなるように配置されていることを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記駆動部は、前記第1駆動では、前記保持部材を前記ベース部の側とは反対側の方向に駆動し、前記第2駆動では、前記保持部材を前記ベース部の側の方向に駆動することを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記インプリント処理において、前記第1駆動を行い、前記インプリント処理を開始する前のアイドル状態において、前記第2駆動を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記保持部材を駆動するために前記駆動部に与える電流値を制御する制御部を更に有し、
前記制御部は、前記第2駆動において、前記駆動部に与える電流の二乗平均電流値が、前記インプリント処理を連続的に行うときに前記駆動部に与える電流の二乗平均電流値と等しくなるように、前記駆動部に与える電流値を制御することを特徴とする請求項1乃至
3のうちいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記保持部材を駆動するために前記駆動部に与える電流値を制御する制御
部を更に有し、
前記制御部は、前記インプリント処理に用いる型の厚さに応じて、前記インプリント処理を開始する前のアイドル状態において前記駆動部に与える待機電流値を変更することを特徴とする
請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記インプリント処理に用いる型の厚さを計測する計測部を更に有し、
前記制御部は、前記計測部で計測された厚さに応じて、前記待機電流値を変更することを特徴とする請求項
5に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記待機電流値は、基準厚さを有する基準型を用いて前記インプリント処理を連続的に行うときに前記駆動部に与える基準電流値と、前記基準厚さと前記インプリント処理に用いる型の厚さとの差分から得られる差分電流値と、を含み、
前記制御部は、前記差分電流値を変更することで前記待機電流値を変更することを特徴とする請求項
5又は
6に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記基準型を用いて前記インプリント処理を連続的に行ったときに前記駆動部に与えた電流の二乗平均電流値と等しい電流値を、前記基準電流値とすることを特徴とする請求項
7に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記基準型を用いて前記インプリント処理を連続的に行うときの前記駆動部による前記保持部材の駆動プロファイルから得られる電流値を、前記基準電流値とすることを特徴とする請求項
7に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記保持部材の温度を調整する調整部と、
制御部と、を
更に有し、
前記制御部は、
前記インプリント処理を開始する前のアイドル状態において、前記駆動部に与える電流の二乗平均電流値が、前記インプリント処理を連続的に行うときに前記駆動部に与える電流の二乗平均電流値と等しくなるように、前記駆動部に与える電流値を制御しながら、前記保持部材の温度が目標温度に調整されるように前記調整部を制御し、
前記保持部材の温度が前記目標温度に調整されて所定時間が経過した後に、前記インプリント処理を連続的に行うことを特徴とする
請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記調整部は、流体を用いて前記保持部材の温度を調整することを特徴とする請求項
10に記載のインプリント装置。
【請求項12】
前記流体は、液体又は気体を含むことを特徴とする請求項
11に記載のインプリント装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記保持部材の温度が前記目標温度に調整されたら、前記流体の温度、流量及び圧力の少なくとも1つを一定に維持することを特徴とする請求項
11又は
12に記載のインプリント装置。
【請求項14】
請求項1乃至
13のうちいずれか1項に記載のインプリント装置を用いてパターンを基板に形成する工程と、
前記工程で前記パターンが形成された前記基板を処理する工程と、
処理された前記基板から物品を製造する工程と、
を有することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィ技術に加えて、基板上のインプリント材を型(モールド)で成形して、型に形成された微細な凹凸パターンを基板上に形成する微細加工技術が注目されている。かかる微細加工技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細なパターン(構造体)を形成することができる。
【0003】
インプリント技術では、インプリント材の硬化法の1つとして光硬化法がある。光硬化法は、基板上のショット領域に供給されたインプリント材と型とを接触させた状態で光を照射してインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材から型を引き離すことでインプリント材のパターンを基板上に形成する。
【0004】
インプリント技術を用いたインプリント装置において、型保持部(押印部)は、型を保持する保持部材(可動部)と、保持部材の駆動源であるアクチュエータと、保持部材を支持するベース部とを含む。保持部材とベース部とは、アクチュエータ及び保持部材(の重量)を保持及び補償するばね部材を介して連結されている。型保持部では、アクチュエータとばね部材とが並列に配置され、保持部材がばね部材で保持されている。従って、アクチュエータは、保持部材を駆動する際に、保持部材の位置に対応するばね部材の伸縮に応じた力を発生させればよいため、駆動負荷が低減される。
【0005】
このようなインプリント装置を用いて、インプリント処理を連続的に行うと、アクチュエータの発熱に起因して保持部材の温度が上昇する。保持部材の熱時定数は大きく、保持部材の温度が一定とみなせる状態(定常状態)になるまでには、インプリント処理を開始してから数十分程度の時間を要するため、その間にも、少なくとも複数の基板が処理されることになる。従って、保持部材が熱的に過渡状態であるときに処理された基板と、保持部材が熱的に定常状態であるときに処理された基板とでは、保持部材の温度状態が異なることに起因して、インプリント処理の結果、例えば、オーバーレイ精度にばらつきが生じる。
【0006】
そこで、インプリント処理の開始初期に現れる保持部材の温度の過渡現象を抑制するための技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、保持部材をアイドル状態とする際に、アクチュエータに与える電流の二乗平均電流値を、インプリント処理を連続的に行うときと等しくすることで、ばね部材とのつり合い位置よりも高い位置(待機位置)に保持部材を待機させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、インプリント装置に対しては、スループットの更なる向上が要求され、かかる要求を満たすために、例えば、型保持部の駆動性能を向上させることが考えられる。但し、型保持部の駆動性能を向上させるためには、保持部材を駆動するアクチュエータに与える電流を大きくする必要があるため、アクチュエータでの発熱量の増加につながる。従って、特許文献1に開示された技術においては、保持部材をアイドル状態にする際に、保持部材を待機させる待機位置をアクチュエータでの発熱量に応じて高くしなければなれない。このような状況で、装置電源が意図せずに喪失した場合を考えると、ばね部材で保持されている保持部材が鉛直方向に落下して振動し、その振幅は、保持部材の待機位置の高さに比例して大きくなる。このため、保持部材(の姿勢)が傾斜した状態で落下した場合には、保持部材に保持された型と基板とが接触して、型又は基板、或いは、その両方が破損する可能性がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、型を保持する保持部材の温度の過渡現象を抑制しながら型の破損を防止するのに有利なインプリント装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、型を用いて基板上にインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を行うインプリント装置であって、前記型を保持する保持部材と、前記保持部材を支持するベース部に前記保持部材を連結するばね部材と、前記保持部材と前記ベース部との間に設けられ、前記ベース部に対して前記保持部材を鉛直方向に駆動する駆動部と、前記駆動部による前記保持部材の鉛直方向の駆動範囲のうち前記ベース部の側の駆動端を規制する規制面と、を有し、前記駆動部は、前記基板上のインプリント材に前記型を接触させるための第1駆動と、前記規制面に前記保持部材を押し当てるための第2駆動と、を行い、前記第2駆動において、前記規制面に前記保持部材を押し当てた状態で発熱し、前記規制面は、前記型を保持した状態の前記保持部材にかかる重力と、前記ばね部材の弾性力とがつり合うときの前記保持部材の第1位置に対して前記ベース部の側に配置され、前記規制面と前記第1位置との間の距離が、前記基板上のインプリント材と前記型とが接触するときの前記保持部材の第2位置と前記第1位置との間の距離よりも短くなるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、型を保持する保持部材の温度の過渡現象を抑制しながら型の破損を防止するのに有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一側面としてのインプリント装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図1に示すインプリント装置の型保持部の構成を示す図である。
【
図3】
図2に示す型保持部の保持部材の位置関係を示す図である。
【
図4】
図1に示すインプリント装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図1に示すインプリント装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図1に示すインプリント装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置100の構成を示す概略図である。インプリント装置100は、物品としての半導体素子、液晶表示素子、磁気記憶媒体などのデバイスの製造工程であるリソグラフィ工程に採用され、基板にパターンを形成するリソグラフィ装置である。インプリント装置100は、基板上に供給された未硬化のインプリント材と型とを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型のパターンが転写された硬化物のパターンを形成する。
【0016】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料(硬化性組成物)が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。
【0017】
硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。
【0018】
インプリント材は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与されてもよい。また、インプリント材は、液体噴射ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0019】
基板には、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられ、必要に応じて、その表面に基板とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。具体的には、基板は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスなどを含む。
【0020】
本明細書及び添付図面では、基板1の表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θY及びθZとする。
【0021】
インプリント装置100は、基板1を保持して水平方向(X方向やY方向)に駆動する基板保持部10と、基板収納部(不図示)と基板保持部10との間で基板1を搬送する基板搬送部31とを有する。また、インプリント装置100は、型2を保持して鉛直方向(Z方向)に駆動する型保持部20(押印部)と、型収納部(不図示)と型保持部20との間で型2を搬送する型搬送部32とを有する。
【0022】
基板保持部10は、例えば、基板1を真空吸着することで基板1を保持し、その保持位置を維持する。型保持部20は、例えば、型2を真空吸着することで型2を保持し、その保持位置を維持する。なお、基板保持部10や型保持部20は、吸着方式ではなく、静電方式によって、基板1や型2を保持してもよい。
【0023】
また、インプリント装置100は、インプリント装置100の筐体HG(固定面)に設けられた第1計測部41と、基板保持部10に設けられた第2計測部42とを有する。
【0024】
第1計測部41に対して基板保持部10を水平方向に走査することで、第1計測部41は、基板保持部10に保持された基板1までの距離を計測することができる。型2に対して基板保持部10を水平方向に走査することで、基板保持部10に設けられた第2計測部42は、型2までの距離を計測することができる。第1計測部41及び第2計測部42には、例えば、レーザ変位計や分光干渉計などが用いられるが、非接触で正確に距離を計測することが可能であれば、別の計測器を用いてもよい。
【0025】
また、インプリント装置100は、型保持部20の温度を調整する調整部50を有する。調整部50は、液体や気体を含む流体の冷媒を用いて、具体的には、流体の冷媒を型保持部20に流すことで、型保持部20を冷却する。調整部50は、クリーンドライエア(CDA)などを用いた空冷方式、或いは、純水やブラインなどを用いた液冷方式を採用するが、流体の冷媒を限定するものではない。調整部50において、型保持部20の温度を調整するための流体の制御対象は、流体の温度、流量及び圧力の少なくとも1つである。例えば、調整部50において、圧縮されたクリーンドライエアとボルテックスクーラーとを用いた場合、流体の温度、流量及び圧力のいずれを変化させても型保持部20の温度を制御することが可能である。但し、型保持部20の温度制御の観点では、流体の温度、流量及び圧力のうちのいずれか1つを可変として、他を固定する(一定に維持する)ことで、温度制御に要する負荷(例えば、演算など)を低減することができる。
【0026】
また、インプリント装置100は、CPUやメモリなどを含むコンピュータで構成される制御部60を有する。制御部60は、例えば、記憶部に記憶されたプログラムに従ってインプリント装置100の各部を統括的に制御してインプリント装置100を動作させる。制御部60は、型2を用いて基板上のインプリント材のパターンを形成するインプリント処理を制御する。制御部60は、本実施形態では、アクチュエータ22に与える電流値を制御したり、調整部50から供給する流体の制御対象を制御(例えば、フィードバック制御)したりする。
【0027】
図2を参照して、型保持部20について具体的に説明する。
図2は、型保持部20の構成を示す図である。型保持部20は、
図2に示すように、型2を保持する保持部材21bと、保持部材21bを支持するベース部21aとを含む。ベース部21aは、インプリント装置100の筐体HGに設けられている。保持部材21bは、それぞれが並列に配置された複数のアクチュエータ22及び複数のばね部材23を介して、ベース部21aに連結されている。
【0028】
アクチュエータ22は、保持部材21
bとベース部21
aとの間に設けられ、ベース部21aに対して保持部材21
bを鉛直方向に駆動する駆動部として機能する。また、型2を保持する保持部材21
bは、アクチュエータ22によって、鉛直方向に駆動する可動部として機能する。アクチュエータ22は、例えば、ボイスコイルアクチュエータで構成され、マグネット側の固定子22aと、コイル側の可動子22bとを含む。本実施形態では、
図2に示すように、固定子22aがベース部21aに設けられ、可動子22bが保持部材21bに設けられているが、可動子22bをベース部21aに設け、固定子22aを保持部材21bに設けてもよい。また、アクチュエータ22は、電流制御又は電圧制御によって保持部材21bを鉛直方向に駆動(直動可動)することが可能な別の駆動部に置換することもできる。
【0029】
ばね部材23は、型2を支持するベース部21aに保持部材21bを連結する。ばね部材23は、型2及び保持部材21b(の重さ)を支えることで、アクチュエータ22の駆動負荷を低減する。また、ばね部材23は、ゴムなどを含む弾性部材に置換することも可能である。
【0030】
アクチュエータ22及びばね部材23は、型保持部20(保持部材21b)の中心に対して、各アクチュエータの駆動負荷が均等となるように、等間隔(等角度)で設けられている。
【0031】
ここで、アクチュエータ22に電流を与えていない状態において、型2を保持した状態の保持部材21bの自重(保持部材21bにかかる重力)と、ばね部材23の張力(弾性力)とがつり合うときの保持部材21bの位置をつり合い位置とする。なお、アクチュエータ22に電流を与えていない状態とは、アクチュエータ22において、保持部材21bを駆動する力(駆動力)を発生させていない状態である。
【0032】
アクチュエータ22によるつり合い位置からの保持部材21bの駆動量をD(t)、そのときにアクチュエータ22に与える電流値をI(t)、アクチュエータ22の合成推力定数をKm、ばね部材23の合成ばね定数をKsとする。この場合、アクチュエータ22が発生させている力F(駆動力)は、以下の式(1)で表される。
F=Km×I(t)=Ks×D(t) ・・・(1)
【0033】
式(1)を参照するに、保持部材21bの駆動量D(t)と、電流値I(t)とは、比例関係にある。
【0034】
また、型保持部20は、
図2に示すように、保持部材21bの鉛直方向における位置(鉛直方向位置)を計測する位置計測部24と、温調対象部分25と、保持部材21bの温度を計測する温度計測部26とを更に含む。
【0035】
位置計測部24は、ベース部21aに設けられ、保持部材21bの駆動に応じて、保持部材21bの鉛直方向位置を計測する。位置計測部24には、例えば、エンコーダが用いられる。保持部材21bの駆動は、アクチュエータ22に与える電流値に基づいて制御されてもよいし、位置計測部24の計測結果に基づいて制御されてもよい。
【0036】
温調対象部分25は、ベース部21aとアクチュエータ22(固定子22a)との間に設けられた、調整部50の温度調整の対象となる部分である。調整部50からの温度調整された流体を温調対象部分25に供給することで、アクチュエータ22を介して、保持部材21bの温度を調整する(保持部材21bを冷却する)ことができる。例えば、調整部50が空冷方式を採用している場合には、温調対象部分25を介して、固定子22aと可動子22bとの間に温度調整された気体を流すことで、保持部材21bの温度を調整することができる。また、調整部50が液冷方式を採用している場合には、固定子22aに直接接している温調対象部分25に温度調整された液体を流すことで、保持部材21bの温度を調整することができる。なお、本実施形態では、温調対象部分25を、ベース部21aとアクチュエータ22との間に設けているが、アクチュエータ22(可動子22b)と保持部材21bとの間に設けてもよい。
【0037】
また、温調対象部分25に関しては、調整部50が空冷方式や液冷方式のいずれの方式を採用する場合であっても、冷却効率や冷却能力の他に、流体の流れが保持部材21bの外乱要素とならないように配慮する必要がある。例えば、調整部50が液冷方式を採用している場合、温調対象部分25が固定子22aに直接接しているため、冷却効率や冷却能力(伝熱効率)は、調整部50が空冷方式を採用している場合よりも高い。但し、液体が流れることに起因する温調対象部分25の脈動が保持部材21bの外乱要素となることがある。
【0038】
温度計測部26は、少なくとも1つ設けられていればよい。また、温度計測部26は、本実施形態では、保持部材21bに設けられているが、アクチュエータ22に設けられていてもよい。
【0039】
更に、型保持部20は、アクチュエータ22による保持部材21bの鉛直方向の駆動範囲(駆動領域)を抑制するために、規制部材27を含む。規制部材27は、保持部材21bの鉛直方向の駆動範囲のうちベース部21aの側の駆動端(駆動範囲の上端)を規制する規制面27aを形成する。規制部材27は、規制面27aで保持部材21bの駆動範囲を規制することができれば、ベース部21a及び保持部材21bのいずれに設けられていてもよいし、アクチュエータ22の固定子22a及び可動子22bのいずれに設けられていてもよい。
【0040】
規制部材27は、アルミニウム合金やステンレス合金などの金属部材、又は、POMやPTFEなどの樹脂部材で構成される。但し、規制部材27は、上述したように、ベース部21a又は保持部材21b、或いは、固定子22a又は可動子22bに直接接触するため、樹脂部材で構成するとよい。また、本実施形態では、規制部材27は、ベース部21aに固定されているが、これに限定されるものではない。例えば、規制部材27を、アクチュエータを介してベース部21aに設けて鉛直方向及び水平方向に駆動可能とし、規制部材27の位置、即ち、規制面27aの位置を可変にしてもよい。
【0041】
図3(a)乃至
図3(e)は、型保持部20、詳細には、保持部材21bの位置関係を示す図である。
図3(a)は、型2を保持した状態の保持部材21bの自重と、ばね部材23の張力とがつり合うときの保持部材21bの位置であるつり合い位置Zwt(第1位置)を示している。
図3(b)は、基板上のインプリント材と型2とが接触するときの保持部材21bの位置である押印位置Zimp(第2位置)を示している。
図3(b)に示すように、つり合い位置Zwtと押印位置Zimpとの間の距離をD_impとする。
【0042】
図3(c)は、保持部材21bを押印位置Zimpから+Z方向に駆動して基板上のインプリント材から型2を引き離す離型動作が完了するときの保持部材21bの位置であるホーム位置(離型完了位置)Zhomeを示している。インプリント処理を連続的に行う際には、保持部材21bをホーム位置Zhomeから-Z方向に駆動する押印動作が開始される。また、ホーム位置Zhomeは、つり合い位置Zwtと同じ位置に設定される場合もある。
図3(c)に示すように、つり合い位置Zwtとホーム位置Zhomeとの間の距離をD_homeとする。
【0043】
図3(d)は、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値I_meanと等しい電流値で、保持部材21bを+Z方向に駆動したときの保持部材21bの位置である待機電流位置Zidleを示している。
図3(d)に示すように、つり合い位置Zwtと待機電流位置Zidleとの間の距離をD_idleとする。
【0044】
図3(e)は、保持部材21bと規制部材27の規制面27aとが接触するときの保持部材21bの位置である規制位置Zfixを示している。
図3(e)に示すように、つり合い位置Zwtと規制位置Zfixとの間の距離をD_fixとする。
【0045】
また、本実施形態では、
図3(e)に示すように、規制部材27は、つり合い位置Zwtに対してベース部21aの側(+Z方向)、即ち、つり合い位置Zwtよりも上方に規制面27aが位置するように設けられている。更に、本実施形態では、規制部材27は、規制面27aとつり合い位置Zwtとの間の距離が、押印位置Zimpとつり合い位置Zwtとの間の距離よりも短くなるように設けられている。
【0046】
図3(b)、
図3(c)、
図3(d)及び
図3(e)のそれぞれに示す保持部材21bの位置に対応してアクチュエータ22に与えられる電流値を、それぞれ、I_imp、I_home、I_idle及びI_fixとする。この場合、各距離D_imp、D_home、D_idle、D_fixの関係と、電流値I_imp、I_home(I_mean)、I_idle、I_fixの関係は、以下の式(2)及び(3)で表される。
D_imp>D_idle>D_fix≧D_home≧0 ・・・(2)
I_imp>I_idle=I_mean>I_fix≧I_home≧0 ・・・(3)
【0047】
図3(e)を参照するに、保持部材21bが規制位置Zfixに位置する(規制位置Zfixを維持する)ために必要となる電流値はI_fixである。但し、
図3(e)では、二乗電流平均値I_meanと等しい電流値をアクチュエータ22に与えて、保持部材21bを規制部材27の規制面27aに押し当てている(押し付けている)。量産時を考えると、インプリント装置100に用いる型2(の重さ)に応じて、押印位置Zimp(距離D_imp)は異なる。例えば、距離D_impが実質的に短くなる、厚さが厚い型2を用いた場合であっても、アクチュエータ22に二乗平均電流値I_meanを与えた際に、保持部材21bが規制部材27の規制面27bに接触することが好ましい。従って、型2の厚さの製造誤差(距離
D_impの変化)をD_errとすると、規制位置Zfixに対応する距離D_fixは、以下の式(4)を満たすことが好ましい。
D_fix<D_idle-D_err ・・・(4)
【0048】
また、規制部材27の規制面27aが保持部材21bから受ける力(保持部材21bが規制面27aを押し込む力)F_fixは、アクチュエータ22の合成推力定数Kmを用いて、以下の式(5)で表される。
F_fix=Km×(I_mean-I_fix) ・・・(5)
【0049】
本実施形態では、アイドル状態において、保持部材21bを規制位置Zfixに維持するために必要な電流値I_fixに加えて、保持部材21bが規制面27aを押し込む力F_fixに対応する電流値をアクチュエータ22に与える。これにより、アクチュエータ22には、二乗電流平均値I_meanと等しい電流値が与えられることになるため、アクチュエータ22の発熱量を、インプリント処理を連続的に行うときのアクチュエータ22の発熱量と等価にすることができる。なお、アイドル状態とは、インプリント処理を開始する前の状態である。
【0050】
このように、本実施形態では、アイドル状態において、
図3(e)に示すように、規制部材27の規制面27aに保持部材21bを押し当て、その状態でアクチュエータ22が発熱するようにする。具体的には、アクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値が、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値と等しくなるように、アクチュエータ22に与える電流値を制御する。これにより、アイドル状態からインプリント処理を連続的に行う際に、インプリント処理の開始初期に現れる保持部材21bの温度の過渡現象を抑制することができる。
【0051】
更に、本実施形態では、つり合い位置Zwtよりも上方に、規制面27aとつり合い位置Zwtとの間の距離が、押印位置Zimpとつり合い位置Zwtとの間の距離よりも短くなるように規制部材27を設けている。従って、アイドル状態、即ち、保持部材21bを規制面27aに押し当てている状態において、装置電源が意図せずに喪失して、保持部材21bが振動したとしても、保持部材21bに保持された型2と基板1とが接触することがない。このため、型2と基板1との接触に起因する型2や基板1の破損を防止することができる。
【0052】
また、本実施形態では、インプリント処理を連続的に行う状態と、インプリント処理を開始する前のアイドル状態とを例に説明したが、これに限定されるものではない。アクチュエータ22は、基板上のインプリント材に型2を接触させるための第1駆動(インプリント処理のための駆動)と、規制部材27の規制面27aに保持部材21bを押し当てるための第2駆動(アイドル状態のための駆動)と、を行っている。この際、アクチュエータ22は、第1駆動では、保持部材21bをベース部21aの側とは反対側の方向(-Z方向)に駆動し、第2駆動では、保持部材21bをベース部21bの側の方向(+Z方向)に駆動する。この場合、第2駆動において、規制部材27の規制面27aに保持部材21を押し当てた状態でアクチュエータ22が発熱するようにすればよい。
【0053】
図4を参照して、インプリント装置100の動作について説明する。かかる動作は、制御部60がインプリント装置100の各部を統括的に制御することで行われる。
図4は、インプリント装置100の動作を説明するためのフローチャートである。ここでは、特に、インプリント処理を連続的に行うまでのシーケンスに注目して説明する。
【0054】
上述したように、インプリント装置100において、基板上のインプリント材と型2とが接触するときの保持部材21bの位置(押印位置Zimp)は、インプリント装置100に用いられる型2の厚さによって異なる。従って、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値も、インプリント装置100に用いられる型2の厚さによって異なる。インプリント装置100では、型2は消耗品であるため、定期的に、又は、不定期で新たな型2に交換される。従って、インプリント装置100に用いられる型2に応じて、インプリント処理を実際に行うことなく、アイドル状態での待機電流値、即ち、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値を求める必要がある。
【0055】
図4を参照するに、S402では、インプリント装置100に、基準厚さを有する基準型を搬入する。具体的には、型搬送部32を介して、インプリント装置100の外部から内部に基準型を搬送して、かかる基準型を型保持部20(保持部材21b)で保持する。
【0056】
S404では、S402で搬入された基準型の厚さ(高さ)を取得する。具体的には、基準型に対して基板保持部10を水平方向に走査しながら、第2計測部42で基準型までの距離を計測することで、基準型の厚さH_mld_refを取得する。
【0057】
S406では、基準型と基板1とを実際に接触させるコンタクト処理を行う。インプリント装置100に用いられている部品には、製造誤差や組立誤差などがあるため、正確な押印位置(つり合い位置と押印位置との間の距離)を得るためには、コンタクト処理を行う必要がある。
【0058】
S408では、コンタクト処理の結果に基づいて、基準型と基板1とが接触するときの保持部材21bの位置である基準押印位置、及び、基準押印位置電流値を取得する。具体的には、基準型と基板1とが接触したときの位置計測部24の計測結果を用いて、基準押印位置D_imp_refを取得する。また、保持部材21bが基準押印位置に到達した際にアクチュエータ22に与えた電流値を、基準押印位置電流値I_imp_refとして取得する。
【0059】
S410では、基準型を用いてインプリント処理を連続的に行う。具体的には、基板上に配置されたインプリント材と基準型とを接触させ、その状態でインプリント材を硬化させ、基板上の硬化したインプリント材から基準型を引き離す。このような処理を、例えば、基板上の各ショット領域に対して繰り返すことで、インプリント処理を連続的に行う。
【0060】
S412では、基準型を用いてインプリント処理を連続的に行ったときにアクチュエータ22に与えた電流の二乗平均電流値である基準二乗平均電流値を取得する。例えば、アクチュエータ22に与えた電流をI(t)、インプリント処理を連続的に行う時間(連続インプリント処理時間)をTとすると、基準二乗平均電流値I_mean_refは、以下の式(6)を、0からTの範囲で積分することで求められる。
I_mean_ref=∫{I(t)2÷T}dt ・・・(6)
【0061】
なお、基準二乗平均電流値I_mean_refは、基準型を用いてインプリント処理を連続的に行わなくても、インプリント処理を連続的に行うときのアクチュエータ22による保持部材21bの駆動プロファイルから取得することも可能である。具体的には、保持部材21bの駆動プロファイルをDm(t)とすると、インプリント処理時の保持部材21bの位置に対応する電流値Im(t)は、以下の式(7)で表される。
Im(t)=I_imp_ref×(Dm(t)÷D_imp_ref) ・・・(7)
【0062】
また、基板上のインプリント材と基準型とを接触させた状態において、基準型は所定の力で基板1を押しているが、基準型を保持している保持部材21bの位置は変わらない。このとき、基準型が基板1を押している力をF_impとすると、かかる力F_impに対応する電流値If(t)は、以下の式(8)で表される。
If(t)=F_imp(t)÷Km ・・・(8)
【0063】
力F_imp(t)は、基板上のインプリント材と基準型とが接触していないときはゼロであるため、電流値If(t)も、基板上のインプリント材と基準型とが接触していないときはゼロである。インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流I(t)は、電流値Im(t)及びIf(t)を用いて、以下の式(9)で表される。
I(t)=Im(t)+If(t) ・・・(9)
【0064】
連続インプリント処理時間Tは、保持部材21bが同一動作を連続的に行う場合、保持部材21bが少なくとも1回の同一動作を行う時間を含んでいればよい。例えば、1ロットの基板1の全てに対してインプリント処理を行った結果を用いてもよいし、1枚の基板1だけに対してインプリント処理を行った結果を用いてもよい。更には、保持部材21bの同一動作の最小単位が1つのショット領域に対するインプリント処理であれば、1つのショット領域に対してインプリント処理を行った結果を用いてもよい。
【0065】
基板1の全域にインプリント材を一度に供給して連続的にインプリント処理を行う場合や1つのショット領域ごとにインプリント材を供給してインプリント処理を行う場合がある。この場合、1つのショット領域に対するインプリント処理における電流I(t)から基準二乗平均電流値を取得してもよい。
【0066】
また、異なる数のショット領域に対して連続的にインプリント処理を行う場合や基板1の周辺のショット領域とそれ以外のショット領域とで保持部材21bの駆動プロファイルが異なる場合がある。この場合、基板上の全てのショット領域に対してインプリント処理を行った結果から基準二乗平均電流値を取得した方がよい。ここでの押印プロファイルは、保持部材21bが押印位置に位置する時間及びそのときの姿勢を含む。但し、保持部材21bの姿勢に関しては、基板1の周辺のショット領域とそれ以外のショット領域とで保持部材21bの傾き差が0.2~0.3mrad以下であれば、影響度が1~2%以下と小さいため、無視することが可能である。
【0067】
S414では、S412で取得した基準二乗平均電流値に基づいて、インプリント処理を開始する前(直前)のアイドル状態において、アクチュエータ22に与える基準待機電流値(基準電流値)を決定する。本実施形態では、以下の式(10)に示すように、基準二乗平均電流値I_mean_refを基準待機電流値I_idle_refとする。
I_idle_ref=I_mean_ref ・・・(10)
【0068】
このようにして得られた基準型に関する各種情報は、インプリント装置100が有する記憶部に格納される。なお、基準型に関する各種情報は、基準型の厚さH_mld_refと、基準押印位置D_imp_refと、基準押印位置電流値I_imp_refと、基準二乗平均電流値I_mean_refと、基準待機電流値I_idle_refとを含む。
【0069】
S416では、インプリント装置100から基準型を搬出する。具体的には、型搬送部32を介して、型保持部20(保持部材21b)から基準型を取り外して、かかる基準型をインプリント装置100の内部から外部に搬送する。
【0070】
S402乃至S416の工程は、毎回実施する必要はなく、例えば、インプリント装置100を設置した際などに少なくとも1回実施すればよい。
【0071】
S418では、インプリント装置100に、型2を搬入する。具体的には、型搬送部32を介して、インプリント装置100の外部から内部に型2を搬送して、かかる型2を型保持部20(保持部材21b)で保持する。
【0072】
S420では、S418で搬入された型2の厚さ(高さ)を取得する。具体的には、S404と同様に、型2に対して基板保持部10を水平方向に走査しながら、第2計測部42で型2までの距離を計測することで、型2の厚さH_mldを取得する。
【0073】
S422では、S404で取得した基準型の厚さH_mld_refと、S420で取得した型2の厚さH_mldとを比較する。
【0074】
S424では、S422での比較結果に基づいて、基板上のインプリント材と型2とが接触するときの保持部材21bの位置である押印位置、及び、押印位置電流値を取得する。具体的には、まず、以下の式(11)に従って、押印位置D_impを取得する。
D_imp=D_imp_ref-H_mld+H_mld_ref ・・・(11)
【0075】
また、保持部材21bの駆動量は、アクチュエータ22に与えられている電流値と比例関係にあるため、保持部材21bが押印位置に到達した際にアクチュエータ22に与えられている押印位置電流値I_impは、以下の式(12)で表される。
I_imp=I_imp_ref×(D_imp÷D_imp_ref) ・・・(12)
【0076】
S426では、基準型を用いてインプリント処理を連続的に行う場合と、型2を用いてインプリント処理を連続的に行う場合とにおける、アクチュエータ22に与えられる二乗平均電流値の差分を取得する。基準型を用いた場合と、型2を用いた場合とにおいて、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与えられる二乗平均電流値の差分は、押印位置の差分に起因する電流値の差である。従って、連続インプリント処理時間Tにおいて、保持部材21bが押印位置に位置している時間をTsとすると、基準型を用いた場合と、型2を用いた場合とでの二乗平均電流値の差分I_mean_difは、以下の式(13)で表される。
I_mean_dif=(I_imp2-I_imp_ref2)×Ts÷T ・・・(13)
【0077】
S428では、S426で取得した二乗平均電流値の差分に基づいて、インプリント処理を開始する前(直前)のアイドル状態における、基準型と型2との差分による差分待機電流値(差分電流値)を取得する。差分待機電流値I_idle_difは、以下の式(14)で表される。
I_idle_dif=I_mean_dif ・・・(14)
【0078】
S430では、インプリント処理を開始する前のアイドル状態において、アクチュエータ22に与える待機電流値を決定する。本実施形態では、以下の式(15)に示すように、基準待機電流値I_idle_refと、差分待機電流値I_idle_difとの和を、待機電流値I_idleとして決定する。
I_idle=I_idle_ref+I_idle_dif ・・・(15)
【0079】
S432では、S430で決定した待機電流値をアクチュエータ22に与えて、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動する。これにより、保持部材21bは規制部材27の規制面27aに押し当てられる。また、アイドル状態において、アクチュエータ22の発熱量を、型2を用いてインプリント処理を連続的に行うときのアクチュエータ22の発熱量と等価にすることができる。従って、保持部材21bを規制部材27の規制面27aに押し当てている状態を所定時間維持することで、保持部材21bの温度を、インプリント処理を連続的に行うときの定常状態と等価な状態にすることができる。
【0080】
S434では、型2を用いてインプリント処理を連続的に行う。具体的には、基板上に配置されたインプリント材と型2とを接触させ、その状態でインプリント材を硬化させ、基板上の硬化したインプリント材から型2を引き離す。このような処理を、例えば、基板上の各ショット領域に対して繰り返すことで、インプリント処理を連続的に行う。
【0081】
S434では、インプリント装置100から型2を搬出する。具体的には、型搬送部32を介して、型保持部20(保持部材21b)から型2を取り外して、かかる型2をインプリント装置100の内部から外部に搬送する。
【0082】
本実施形態によれば、インプリント装置100に用いられる型2に応じて、インプリント処理を実際に行うことなく、インプリント処理の開始初期に現れる保持部材21bの温度の過渡現象を抑制することができる。
【0083】
また、インプリント処理に用いる型2の厚さに応じて、インプリント処理を開始する前のアイドル状態においてアクチュエータ22に与える待機電流値を変更するという観点も本発明の一側面を構成する。この場合、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動して規制部材27の規制面27aに押し当てること、即ち、規制部材27は必ずしも必要ではない。このような構成においても、型2の厚さに応じた押印位置の変動に対応してアイドル状態における保持部材21bの待機位置を変更することが可能である。従って、保持部材21bの温度を、インプリント処理を連続的に行うときの定常状態と等価な状態にすることができる。
【0084】
また、
図4では、インプリント装置100から基準型を搬出し、インプリント装置100に型2を搬入した後に、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動して規制部材27の規制面27aに押し当てている。但し、
図5に示すように、インプリント装置100から基準型を搬出した後、インプリント装置100に型2を搬入する前に、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動して規制部材27の規制面27aに押し当ててもよい。例えば、S416とS418との間のS417において、S414で決定した基準待機電流値をアクチュエータ22に与えて、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動する。これにより、保持部材21bは規制部材27の規制面27aに押し当てられ、保持部材21bの温度を、インプリント処理を連続的に行うときの定常状態に近づけることができる。従って、インプリント装置100に型2を搬入した後、インプリント処理を開始するまでに必要である待機時間(S432において、保持部材21bを規制部材27の規制面27aに押し当てている状態を維持する所定時間)を短縮することができる。
【0085】
また、
図6に示すように、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動して規制部材27の規制面27aに押し当てた後に、保持部材21bの温度を制御(調整)してもよい。なお、
図6では、基準型に関連する工程、即ち、S402~S416の工程の図示を省略している。
【0086】
S602では、保持部材21bの温度制御を開始する。具体的には、温度計測部26で保持部材21bの温度を計測し、温度計測部26で計測した温度に基づいて、保持部材21bが目標温度となるように、調整部50から温調対象部分25に流体を供給する。調整部50から温調対象部分25に供給される流体は、保持部材21bの温度が目標温度となるように、流量、温度及び圧力の少なくとも1つが調整されている。
【0087】
S604では、温度計測部26で計測される温度が目標温度に到達したことを確認する。温度計測部26で計測される温度が目標温度に到達したら、更に、かかる温度が目標温度の閾値に収まるように維持され、調整部50から供給される流体の制御対象(流量、温度及び圧力の少なくとも1つ)が概ね一定となる状態まで待機する。
【0088】
S605では、調整部50から供給される流体の制御対象が概ね一定となり、所定時間が経過した後に、調整部50から供給される流体の制御対象を一定に維持(固定)する。
【0089】
このように、温度計測部26で計測される温度、即ち、保持部材21の温度が目標温度に調整されて所定時間が経過した後に、インプリント処理を連続的に行うことで、インプリント処理の開始初期に現れる保持部材21bの温度の過渡現象を抑制することができる。また、保持部材21bの温度シフト成分も調整することができる。例えば、基板保持部10に温度計測部を設けることで、保持部材21bの温度と基板保持部10の温度を合わせることも可能となる。更に、調整部50から温調対象部分25に供給される流体の制御対象を一定に維持することで、かかる流体に起因する外乱も抑制することが可能となり、オーバーレイ精度を向上させることができる。
【0090】
なお、本実施形態では、保持部材21bを規制部材27の規制面27aに押し当てた後に保持部材21bの温度制御を開始する場合を例に説明したが、保持部材21bの温度制御は、インプリント装置100に型2を搬入する前から開始してもよい。
【0091】
また、アイドル状態において、保持部材21bの温度が目標温度に調整されるように調整部50を制御し、保持部材21bの温度が目標温度に調整されて所定時間が経過した後に、インプリント処理を連続的に行うという観点も本発明の一側面を構成する。なお、アイドル状態では、上述したように、アクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値が、インプリント処理を連続的に行うときにアクチュエータ22に与える電流の二乗平均電流値と等しくなるように、アクチュエータ22に与える電流値を制御する。この場合、保持部材21bを鉛直方向(+Z方向)に駆動して規制部材27の規制面27aに押し当てること、即ち、規制部材27は必ずしも必要ではない。このような構成においても、調整部50から温調対象部分25に供給される流体の制御対象を一定に維持することが可能であるため、かかる流体に起因する外乱を抑制し、オーバーレイ精度を向上させることができる。
【0092】
インプリント装置100を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは、各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型などである。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMなどの揮発性又は不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAなどの半導体素子などが挙げられる。型としては、インプリント用のモールドなどが挙げられる。
【0093】
硬化物のパターンは、上述の物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入などが行われた後、レジストマスクは除去される。
【0094】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図7(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0095】
図7(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。
図7(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0096】
図7(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0097】
図7(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。
図7(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0098】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0099】
100:インプリント装置 1:基板 2:型 20:型保持部 21a:ベース部 21b:保持部材 22:アクチュエータ 23:ばね部材 27:規制部材 27a:規制面 60:制御部