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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】チップ抵抗器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20241209BHJP
   H01C 17/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H01C7/00 110
H01C17/00 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021005107
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109674
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-11-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】牛山 和久
【審査官】相澤 祐介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-005601(JP,U)
【文献】特開平08-306503(JP,A)
【文献】特開2002-151303(JP,A)
【文献】特開平10-041102(JP,A)
【文献】特開平11-345701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形寸法が規格化された低抵抗チップ抵抗器であって、
直方体形状の絶縁基板と、
前記絶縁基板の表面の長手方向両端部に所定間隔離間して対向配置された一対の表面電極と、
前記一対の表面電極間に形成された抵抗体と、
前記絶縁基板の所定領域を被覆する矩形状のガラス保護膜であって、前記抵抗体への抵抗値調整用のトリミング溝の形成に伴って形成されたトリミング溝を有する当該ガラス保護膜と、
を備え、
前記抵抗体と前記一対の表面電極は、前記絶縁基板の短手方向において前記ガラス保護膜の境界を超えない範囲で前記絶縁基板の長手方向両縁部に近接した位置まで形成されており、
前記一対の表面電極は、該一対の表面電極と前記抵抗体との接続部位において前記絶縁基板の短手方向における前記抵抗体の幅寸法よりも広い幅寸法を有する拡張部と、前記抵抗体の幅寸法と略同一の幅寸法を有しながら前記拡張部より前記絶縁基板の長手方向端部に至る部位とからなり、
前記ガラス保護膜は、前記抵抗体の表面全体と、前記拡張部とを含む前記所定領域において、平面視したとき該ガラス保護膜の四隅部分が前記一対の表面電極と重ならず、かつ、前記絶縁基板の表面の長手方向両縁部を回避して形成されている、
ことを特徴とする低抵抗チップ抵抗器。
【請求項2】
前記拡張部の幅寸法は、前記絶縁基板の長手方向両端部に向かうにしたがい前記抵抗体の幅寸法に近づくよう徐々に変化することを特徴とする請求項1に記載の低抵抗チップ抵抗器。
【請求項3】
外形寸法が規格化された低抵抗チップ抵抗器を多数個取りするための大判絶縁基板の表面に直交する格子状の一次分割溝と二次分割溝を形成する工程と、
前記大判絶縁基板の表面において前記一次および二次分割溝で区画される複数の領域に所定間隔で互いに対向する複数の電極を形成する工程と、
前記対向して配置された複数の電極間それぞれを跨ぐように複数の抵抗体を形成する工程と、
前記複数の抵抗体それぞれの表面全体、および該複数の抵抗体それぞれと前記複数の電極それぞれとの接続部位を含む所定領域を個別に被覆する矩形状のガラス保護膜を形成する工程と、
前記ガラス保護膜を形成した後、前記複数の抵抗体それぞれにトリミング溝を形成して抵抗値を調整する工程と、
前記大判絶縁基板を前記一次分割溝に沿って分割して短冊状基板を得る工程と、
前記短冊状基板の分割面に端面電極を形成する工程と、
前記端面電極が形成された前記短冊状基板を前記二次分割溝に沿って分割してチップ抵抗の単体を得る工程と、
を備え、
前記複数の電極それぞれと前記複数の抵抗体それぞれは、前記一次分割溝方向において前記ガラス保護膜の境界を超えない範囲で前記二次分割溝に近接した位置まで形成されており、
前記複数の電極それぞれは、前記接続部位において前記一次分割溝方向における前記抵抗体の幅寸法よりも広い幅寸法を有する拡張部と、該抵抗体の幅寸法と略同一の幅寸法を有しながら前記拡張部より前記二次分割溝方向における前記チップ抵抗の単体の端部に至る部位とからなり、
前記ガラス保護膜は、前記所定領域において、平面視したとき該ガラス保護膜の四隅部分が前記複数の電極それぞれと重ならず、かつ、前記二次分割溝を回避して形成されていることを特徴とする低抵抗チップ抵抗器の製造方法。
【請求項4】
前記一次分割溝に沿って帯状に延びる複数の樹脂保護膜を形成する工程をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の低抵抗チップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電流検出等に使用するチップ抵抗器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等にはチップ抵抗器等の多くのチップ部品が使用されており、部品そのものの小型化のみならず高い信頼性が益々要求されている。例えば、電流検出等に使用する低抵抗値のチップ抵抗器は、サイズの小型化とともに、電流検出精度の向上のため、より一層の低抵抗化が求められている。
【0003】
一般的なチップ抵抗器は、絶縁基板の上面に形成された抵抗体と、その抵抗体の両端部に電気的に接続された電極を備え、抵抗体の表面と電極の一部表面がガラス保護膜で覆われる構成を有する。ガラス保護膜は、さらに樹脂保護膜で覆われ、電極の表面、絶縁基板の端面等には端面電極と、その端面電極に重なるめっき層とが形成されている。
【0004】
ガラス保護膜は、チップ抵抗器の抵抗値を調整する工程において使用するレーザから抵抗体を保護する目的で形成される。多数個取り用の大判基板を用いてチップ抵抗器を製造する場合、例えば、特許文献1に記載されているように、大判基板上の複数の抵抗体をまとめて覆うように帯状にガラス保護膜を形成する方法がある。
【0005】
しかし、複数の抵抗体に対して一括してガラス保護膜を形成すると、ガラス保護膜として印刷されたペースト状のガラス材料が、大判基板を個片に分割するために設けたスリット(分割溝)に入り込む。そのため、大判基板の分割工程において、基板が分割溝に沿って割れない、あるいは割れた基板に形状不良が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、このような不具合を回避するため、多数個取り用の大判基板上の複数の抵抗体をガラス保護膜で帯状に覆わずに、複数の抵抗体を個別に覆うように島状にガラス保護膜を形成する方法も、従来より使用されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-191406号公報
【文献】特許第5115968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した、多数個取り用の大判基板上の複数の抵抗体を個別に覆うガラス保護膜は、例えば図12(a)に示すガラス保護膜94のように矩形状に形成されることから、その矩形状のガラス保護膜の角部分が、スクリーン印刷時のガラスペーストの押出しにより滲み、大判基板に設けたスリット(分割溝)に流れ込むという問題がある。
【0009】
このような問題は、チップ抵抗器のサイズの小型化に伴い顕著になる。すなわち、チップ抵抗器の小型化により、絶縁基板の表面において抵抗体や電極が形成されている部分の占める割合が大きくなり、電極や抵抗体はスリット(分割溝)に近接した位置まで形成されることとなる。その結果、電極や抵抗体の表面を覆うガラス保護膜も必然的にスリット(分割溝)に近接した位置まで形成される。
【0010】
このとき、図12(a)に示すように矩形状のガラス保護膜94の角部分G1~G4の下地に電極93a,93bの境界(電極が形成されている部分と形成されていない部分の境界)が存在すると、電極の厚みにより、わずかな段差が生じる。この段差がガラスペーストの印刷に影響を与えて、図12(b)において白抜き矢印で示すように、ガラス保護膜94の角部分G1~G4が滲んで、個別のチップ領域である各絶縁基板の長手方向両側縁部となるスリット(分割溝)1aまで広がるという不具合が生じる。
【0011】
このようなガラス保護膜の角部分の滲みは、大判基板を個片に分割する際に割れ不良が発生するという問題に加えて、絶縁基板の長辺方向の側面から保護膜のガラスが露出することで、ガラスがめっき工程においてダメージを受け、耐酸性低下に影響を与える可能性がある。また、矩形状の角部分から滲んだガラスは絶縁基板の長辺方向から点在するように露出する状態となり、それがチップ抵抗器の形状等に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0012】
一方、上述した電流検出用の低抵抗値のチップ抵抗器の場合、例えば、絶縁基板上に形成する電極間の距離を近づける等により抵抗体の面積(形成領域)を小さくして、さらに低抵抗化することが考えられる。しかし、チップ抵抗器は外形寸法が規格化されているため、抵抗体の面積が小さくなると、それに伴って絶縁基板上における電極の面積が広くなる。
【0013】
通常、チップ抵抗器の電極は絶縁基板の表面に矩形状に形成されるが、上記のように抵抗体の面積を小さくすることにより、広い面積(形成領域)に矩形の電極を形成すると、多くの電極材料が必要となる。この場合、電極材料に含まれるAg、Pdの影響によりチップ抵抗器のコストアップという問題が生じる。
【0014】
本発明は、上述した課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、多数個取り用の大判基板上に複数のチップ抵抗器用の素子を形成する工程において、ガラス保護膜のスリット(分割溝)への流れ込みを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として、例えば、以下の構成を備える。すなわち、本発明は、外形寸法が規格化された低抵抗チップ抵抗器であって、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の表面の長手方向両端部に所定間隔離間して対向配置された一対の表面電極と、前記一対の表面電極間に形成された抵抗体と、前記絶縁基板の所定領域を被覆する矩形状のガラス保護膜であって、前記抵抗体への抵抗値調整用のトリミング溝の形成に伴って形成されたトリミング溝を有する当該ガラス保護膜とを備え、前記抵抗体と前記一対の表面電極は、前記絶縁基板の短手方向において前記ガラス保護膜の境界を超えない範囲で前記絶縁基板の長手方向両縁部に近接した位置まで形成されており、前記一対の表面電極は、該一対の表面電極と前記抵抗体との接続部位において前記絶縁基板の短手方向における前記抵抗体の幅寸法よりも広い幅寸法を有する拡張部と、前記抵抗体の幅寸法と略同一の幅寸法を有しながら前記拡張部より前記絶縁基板の長手方向端部に至る部位とからなり、前記ガラス保護膜は、前記抵抗体の表面全体と、前記拡張部とを含む前記所定領域において、平面視したとき該ガラス保護膜の四隅部分が前記一対の表面電極と重ならず、かつ、前記絶縁基板の表面の長手方向両縁部を回避して形成されていることを特徴とする。
【0016】
例えば、前記拡張部の幅寸法は、前記絶縁基板の長手方向両端部に向かうにしたがい前記抵抗体の幅寸法に近づくよう徐々に変化することを特徴とする
【0017】
また、本発明に係る外形寸法が規格化された低抵抗チップ抵抗器の製造方法は、チップ抵抗器を多数個取りするための大判絶縁基板の表面に直交する格子状の一次分割溝と二次分割溝を形成する工程と、前記大判絶縁基板の表面において前記一次および二次分割溝で区画される複数の領域に所定間隔で互いに対向する複数の電極を形成する工程と、前記対向して配置された複数の電極間それぞれを跨ぐように複数の抵抗体を形成する工程と、前記複数の抵抗体それぞれの表面全体、および該複数の抵抗体それぞれと前記複数の電極それぞれとの接続部位を含む所定領域を個別に被覆する矩形状のガラス保護膜を形成する工程と、前記ガラス保護膜を形成した後、前記複数の抵抗体それぞれにトリミング溝を形成して抵抗値を調整する工程と、前記大判絶縁基板を前記一次分割溝に沿って分割して短冊状基板を得る工程と、前記短冊状基板の分割面に端面電極を形成する工程と、前記端面電極が形成された前記短冊状基板を前記二次分割溝に沿って分割してチップ抵抗の単体を得る工程とを備え、前記複数の電極それぞれと前記複数の抵抗体それぞれは、前記一次分割溝方向において前記ガラス保護膜の境界を超えない範囲で前記二次分割溝に近接した位置まで形成されており、前記複数の電極それぞれは、前記接続部位において前記一次分割溝方向における前記抵抗体の幅寸法よりも広い幅寸法を有する拡張部と、該抵抗体の幅寸法と略同一の幅寸法を有しながら前記拡張部より前記二次分割溝方向における前記チップ抵抗の単体の端部に至る部位とからなり、前記ガラス保護膜は、前記所定領域において、平面視したとき該ガラス保護膜の四隅部分が前記複数の電極それぞれと重ならず、かつ、前記二次分割溝を回避して形成されていることを特徴とする。
【0018】
えば、前記一次分割溝に沿って帯状に延びる複数の樹脂保護膜を形成する工程をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、抵抗体の上面等に形成した矩形状のガラス保護膜の角部分が滲んで外側(分割溝)に広がるという不具合を解消したチップ抵抗器とその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態例に係るチップ抵抗器の外観斜視面である。
図2図1に示すチップ抵抗器をz方向から見たときの平面図である。
図3】実施の形態例に係るチップ抵抗器の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図4】大判の絶縁基板に形成された裏面電極を示す図である。
図5】大判の絶縁基板に形成された表面電極を示す図である。
図6】大判の絶縁基板の表面電極間に形成した抵抗体を示す図である。
図7】大判の絶縁基板の抵抗体の表面全体と表面電極の一部を覆うように形成したガラス保護膜を示す図である。
図8】大判の絶縁基板における抵抗体の抵抗値調整用の切れ込み(トリミング溝)を示す図である。
図9】大判の絶縁基板にガラス保護膜等を覆うように形成した樹脂保護膜を示す図である。
図10】表面電極の拡張部の形状の変形例を示す図である。
図11】抵抗体の形状の変形例を示す図である。
図12】従来技術の課題を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態例を詳細に説明する。図1は、本実施の形態例に係るチップ抵抗器の外観斜視面であり、図2は、図1に示すチップ抵抗器をz方向から見たときの平面図である。
【0022】
図1等に示すチップ抵抗器10の絶縁基板1は、所定の厚さと形状(直方体形状)を有する、例えば、アルミナ(Al)等の電気絶縁性の基板であり、後述する大判基板を縦横の分割溝(スリット)に沿って分割して、多数個取りされた個々の基板である。
【0023】
絶縁基板1の上面(表面)には、抵抗体2が形成されている。抵抗体2は、例えば、酸化ルテニウム(RuO)系、銅(Cu)系、銀-パラジウム(Ag-Pd)系等の抵抗体材料からなる抵抗ペーストを、絶縁基板1の表面に長方形状にスクリーン印刷した後、焼成して形成された厚膜抵抗体である。抵抗体2には、抵抗値を調整するための切れ込み(トリミング溝)8が入っている。
【0024】
チップ抵抗器10のサイズは、規格に対応した寸法、例えば1.6mm×0.8mmである。チップ抵抗器10を電流検出等の用途で使用するために低抵抗化する場合、電気抵抗の低い抵抗体材料が好ましいが、要求される特性によって、抵抗体2として金属皮膜等の薄膜抵抗体を用いることもできる。
【0025】
なお、低抵抗のチップ抵抗器は、例えばバッテリー等の保護回路、電流検出回路等に使用され、その抵抗値は、例えば100Ω、あるいはそれ以下である。
【0026】
絶縁基板1の上面の長手方向(y方向)両端部には、抵抗体2と電気的に接続された一対の表面電極(上部電極)3a,3bが形成されている。また、絶縁基板1の下面端部には、絶縁基板1を挟んで表面電極と対応する位置に、不図示の裏面電極(下部電極)が形成されている。
【0027】
図示を省略するが、絶縁基板1の長手方向の各端部側面には、表面電極と裏面電極間を電気的に接続する端部電極が形成されている。さらにチップ抵抗器10には、各裏面電極と各端部電極および樹脂保護膜(不図示)の一部を覆うように、不図示の外部電極(メッキ)が形成されている。
【0028】
抵抗体2の表面全体と、表面電極3a,3bの表面の少なくとも一部は、例えば、ホウケイ酸ガラスペーストをスクリーン印刷してなるガラス保護膜4で覆われている。さらにガラス保護膜4の上には、図示を省略するが、最外層にあたる絶縁膜として機能する樹脂保護膜が形成されている。
【0029】
後述するようにガラス保護膜4は、多数個取り用の大判基板上において複数の抵抗体等を個別に覆うように島状に形成された保護膜である。なお、ガラス保護膜4は、透明あるいは半透明のガラスで形成されるため、図1等では点線で示されている。
【0030】
図2に示すように、本実施の形態例に係るチップ抵抗器10において、表面電極3a,3bは、抵抗体2との接続部位(抵抗体2と重なり合う部分であり、拡張部A1,A2とも言う)の幅寸法(x方向の寸法)W1が、それ以外の部位であって拡張部A1,A2に連続する部位の幅寸法W2よりも幅広に形成され、かつ、拡張部A1,A2以外の部分の幅寸法W2が、抵抗体2の幅寸法W3と略同じ幅に形成されている。
【0031】
このように表面電極3a,3bに、抵抗体2よりも幅広に形成された拡張部A1,A2を設ける理由の一つは、表面電極3a,3bと略同じ幅寸法を有する抵抗体2の印刷位置のずれを許容するためである。また、拡張部A1,A2があることで、絶縁基板上においてガラス保護膜4の角部分(四隅部分)C1~C4と表面電極3a,3bの境界とが重なるのを防止できる。
【0032】
一方、抵抗体2の幅寸法と、表面電極3a,3bの拡張部A1,A2を除く幅寸法が略同一となるように形成することで、電流経路が確保されて電流密度が一定になるため、特定箇所への電流の集中による発熱を抑制できる。また、表面電極3a,3bの幅広部分(拡張部A1,A2)以外において、抵抗値測定用のプローブを当てるのに十分な面積を確保できる。
【0033】
さらには、抵抗体2と表面電極3a,3bの幅寸法を略同一としたことで表面電極から抵抗体への電流経路が偏りにくくなり、それが抵抗体の小面積化、すなわち、チップ抵抗器の低抵抗化に寄与する。
【0034】
ガラス保護膜4は、図2に示すように略矩形状をなしており、上述したように、その角部分C1~C4の下地には表面電極3a,3bの境界が存在しないように配置されている。換言すれば、ガラス保護膜4、平面視したとき(z方向から見たとき)、その角部分C1~C4が表面電極3a,3bと重ならない位置に形成されている。
【0035】
このような配置とすることで、ガラス保護膜4の角部分C1~C4において、表面電極3a,3bの厚みによる段差が生じることがなくなり、印刷するガラスペーストの滲みを防止できる。この段差は、絶縁基板表面と比較した場合、数μmから数十μm程度であるが、小型チップ抵抗器には顕著な段差となる。
【0036】
また、ガラス保護膜4を上記のように配置することで、後述する多数個取り用の大判基板に形成した分割溝へのガラス保護膜の流れ込みが防止され、分割不良等が起こりにくくなる。
【0037】
さらには、ガラス保護膜の流れ込みの防止により、設計の自由度が向上する。例えば、表面電極3a,3bおよび抵抗体2の幅寸法を広く取ることができ、かつ、表面電極を比較的厚く(例えば、10μm以上)形成したり、あるいは、2層以上重ねて形成することもできる。その結果、体積増加によるチップ抵抗器の高電力化(電流検出用等の大電流用途のシャント抵抗器)を実現できる。
【0038】
加えて、図1および図2に示すように、表面電極3a,3bの拡張部A1,A2をガラス保護膜4によって完全に覆うことで、製造工程において、分割溝で区分された隣接する領域の電極との電気的絶縁を確保して漏れ電流を防止できるので、抵抗値調整時の測定精度が向上する。その結果、抵抗値許容差を狭くして、例えば高精度の低抵抗値を有する低抵抗チップ抵抗器を得ることができる。
【0039】
次に、本実施の形態例に係るチップ抵抗器の製造方法を説明する。図3は、本実施の形態例に係るチップ抵抗器の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【0040】
最初に、図3のステップS11において絶縁基板を準備する。ここでは、例えば、アルミナ(Al)基板、セラミック基板等で形成された多数個取り用の大判の絶縁基板を準備する。続くステップS13において、絶縁基板の表面に分割用の溝(スリット)として、基板の一方向に一次分割溝を形成し、さらに、その方向と直交する方向に二次分割溝を形成する。なお、これらの分割溝は、絶縁基板の表面のみならず裏面にも形成してもよい。
【0041】
ステップS15において、上記の分割溝で区分された領域それぞれにおいて裏面電極を形成する。例えば、図4に部分的に示すように、銀(Ag)系ペーストの電極材料(裏面電極)33をスクリーン印刷する。電極材料33は、絶縁基板の裏面において一次分割溝31を跨ぎながら、その一次分割溝31に沿った方向に延びるとともに、二次分割溝41が延びる方向に所定幅を有する。裏面電極は図4に示すように電極材料33を帯状にスクリーン印刷して形成しても良く、あるいは分割溝で区分された領域それぞれに独立して島状にスクリーン印刷して形成しても良い。印刷後の電極材料33は、乾燥した後、例えば850℃で焼成する。
【0042】
ステップS17において表面電極を形成する。例えば、図5に示すように、絶縁基板の上面(表面)において一次分割溝31を跨ぐとともに、二次分割溝41のうち隣接する2本の二次分割溝41で挟まれる位置に、その二次分割溝41に沿う方向に所定間隔で対向させて、銀(Ag)系ペーストの電極材料(表面電極)35をスクリーン印刷する。電極材料35は、乾燥後、例えば850℃で焼成する。
【0043】
印刷された電極材料(表面電極)35は、大判の絶縁基板を分割した個々の絶縁基板において、その中央側に幅広の拡張部を有し、端部側が、その拡張部と比較して狭く、かつ、次工程で印刷する抵抗体と同じ幅になる形状を有している。
【0044】
上記のステップS15,S17で形成された電極は、それぞれが、個々のチップ抵抗器において、その絶縁基板の下面側において一対の裏面電極を構成し、絶縁基板の上面側において一対の表面電極を構成する。
【0045】
なお、裏面電極と表面電極を、上記のように同一の電極材料で形成してもよいし、あるいは、異なる電極材料を使用してもよい。また、裏面電極と表面電極の形成順序は、上記に限定されず、表面電極を形成した後、裏面電極を形成してもよい。あるいは、裏面電極と表面電極を同一工程で形成してもよい。
【0046】
ステップS19において表面電極間に抵抗体を形成する。ここでは、例えば、図6に示すように絶縁基板の表面の個片領域(一次分割溝と二次分割溝で囲まれた個々の領域)内であって、対向する一対の表面電極35の間に、その一部を表面電極35に重複させて電気的に接続した抵抗体37を形成する。抵抗体37は、例えば酸化ルテニウム(RuO)等からなる抵抗ペーストをスクリーン印刷して形成し、乾燥させた後、例えば850℃で焼成する。
【0047】
なお、抵抗体37は、上記のようにその一部が表面電極35と重複して形成されるが、重複部分の垂直方向(z方向)の位置関係は任意である。すなわち、図1等に示すように、抵抗体2の端部が表面電極3a,3bの上部に位置してもよいし、あるいは、絶縁基板上に抵抗体を形成した後、その両端上部に表面電極の端部が位置するように形成してもよい。
【0048】
ステップS21において、例えば、図7に示すように、上記のステップS19で形成した抵抗体37の表面全体と、表面電極35の拡張部(図5を参照)の全体とそれ以外の部分の一部を覆う略矩形状のガラス保護膜39を個別に形成する。
【0049】
その際、上述したように、平面視したときガラス保護膜39の角部分(四隅部分)が表面電極35と重ならない位置であって、図7に示すように、絶縁基板表面の個片領域の両縁部、すなわち、二次分割溝41を回避した位置にガラス保護膜39を形成する。
【0050】
ガラス保護膜39は、後述するチップ抵抗器の抵抗値調整工程において使用するレーザから抵抗体37を保護し、トリミング精度を向上させる等の目的で形成される。
【0051】
ガラス保護膜39は、例えば、ホウケイ酸鉛ガラスからなる保護膜用ペーストを、上記の位置にスクリーン印刷し、乾燥・焼成して形成する。保護膜用ペーストを、例えば600℃で焼成してガラス保護膜を形成する。
【0052】
ステップS23において、例えば、図8に示すように、上記のステップS21で形成したガラス保護膜39の上部から、レーザビームにより抵抗体に切れ込み(トリミング溝)43を入れて、抵抗体の抵抗値調整(トリミング)を行う。
【0053】
抵抗体の抵抗値は、例えば電極同士の距離(幅)、抵抗体の厚み、抵抗体の一部にトリミング溝を形成する等の方法で所望の値に調整できる。ここでは、表面電極間の抵抗値をもとにレーザビームにより抵抗体に切れ込みを入れることによって、目標とする抵抗値となるように調整する。トリミング溝の本数や形状は目標とする抵抗値に応じて変更する。
【0054】
なお、上記のようにステップS23のトリミング工程を、ステップS21のガラス保護膜形成工程の後に行うことで、ガラス保護膜が抵抗体の保護膜として機能するとともに、トリミング工程におけるレーザによる抵抗体内へのマイクロクラックの発生を抑制できる。
【0055】
さらには、ステップS23のトリミング工程を実施する際、すでにステップS21のガラス保護膜形成工程によって表面電極の拡張部の全体がガラス保護膜で覆われているので、スリット(分割溝)を介して隣り合う表面電極間の絶縁性が高められる。これにより、レーザトリミングによる抵抗値調整時に、測定電流が隣接する表面電極へリークすることを抑制でき、精度良く抵抗値を測定、調整できる。
【0056】
ステップS25において樹脂保護膜を形成する。ここでは、図9に示すように、ガラス保護膜39の表面全体と、表面電極35の全体または一部を覆うように、一次分割溝に沿った方向に連続した帯状の樹脂ペーストをスクリーン印刷する。そして、それを乾燥後、例えば200℃で加熱硬化させることにより樹脂保護膜45を形成する。
【0057】
樹脂保護膜45は、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ系樹脂にフィラーを添加した熱硬化性樹脂ペーストからなる。したがって樹脂保護膜は柔軟性があるので、基板のスリット(分割溝)上に印刷しても、その後に行われる基板の分割を妨げることはない。
【0058】
ステップS27において、ステップS13で大判の絶縁基板に設けた一次分割溝31に沿って、その絶縁基板を短冊状に分割する(一次分割)。続くステップS29において、上記のステップS27で短冊状に分割した基板を積み重ね、一方の破断面(両側面部)に対して、例えば、NiCr系の合金材料をスパッタリングにより着膜して端面電極を形成する。
【0059】
なお、上記のスパッタリングに代えて、例えば、樹脂銀(Ag)ペーストを塗布して乾燥、焼成し、端面電極を形成してもよい。
【0060】
ステップS31において、上記のように短冊状に分割して端面電極を形成した基板を、ステップS13で大判の絶縁基板に設けた二次分割用の溝41に沿って、さらにチップ状に分割する。これにより、図1等に示すチップ抵抗器10と同等の大きさのチップ単体(個片)を得る。
【0061】
ステップS33において、端面電極と裏面電極の全体、および表面電極と樹脂保護膜の一部を覆うように、例えばニッケル(Ni)、錫(Sn)、金(Au)、銅(Cu)等により、めっき層(外部電極)を形成する。
【0062】
めっき層は、ニッケル等で下地めっきを施した後、はんだめっき処理する等により積層構造にしてもよい。なお、基板を短冊に分割後、個片に分割する前にめっき層を形成してもよい。
【0063】
<変形例>
本実施の形態例に係るチップ抵抗器は上述した構成に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、表面電極の拡張部(抵抗体との重複部分)の形状は、図1等に示す例に限定されない。例えば、図10において点線円E1~E4で囲んで示すように、表面電極23a,23bの拡張部B1,B2それぞれの両側端部を、その幅寸法が、絶縁基板1の表面の長手方向(y方向)両端側に向かうにつれて抵抗体2の幅寸法に近づくよう、徐々になだらかに変化する形状としてもよい。
【0064】
こうすることで、表面電極23a,23bと抵抗体2間の電流経路に偏りがなくなり、通電時における電流の集中による発熱を抑えることができる。
【0065】
一方、抵抗体の形状も、図1等に示す例に限定されない。例えば、図11に示すように、抵抗体22をミアンダ(蛇行)パターンとしてもよい。これによって、より分割溝(上述した一次分割溝)に近い位置に電極を形成して、電極間において抵抗体22を長く引き回すことができ、特に中抵抗値、高抵抗値領域のチップ抵抗器に有利な構成となる。
【0066】
以上説明したように本実施の形態例に係るチップ抵抗器は、樹脂ペーストからなる樹脂保護膜には生じない問題であって、分割溝を形成後、その分割溝で区分される領域に個別にガラスペーストを押出してガラス保護膜を形成することで生じる特有の問題を解決できる。
【0067】
すなわち、矩形状のガラス保護膜の角部分の下地に電極の境界が存在しないように(電極の辺部分が保護膜の角部に重ならないように)ガラス保護膜を形成して電極の厚みにより生じる段差をなくす構成とすることで、多数個取りの大判基板においてチップ抵抗器のチップ単体に個別にガラスペーストを印刷する工程において、ガラス保護膜の角部分が基板の外側に滲んで広がるという不具合を解消できる。
【0068】
さらには、多数個取り用の基板上の形成された表面電極において、抵抗体との接続部分を、抵抗体よりも幅広の拡張部を有する形状にして、抵抗体とともにその拡張部もガラス保護膜で覆った後、抵抗値調整のためのトリミングを行う。こうすることで、トリミング用の測定電流が隣接する電極へリークするのを防止して、高精度の抵抗値測定が可能になり抵抗値許容差を狭くすることができる。
【0069】
加えて、上記の構成とすることで、規格化された外形寸法を有する小型チップ抵抗器において抵抗体の面積を小さくして低抵抗化を図る際にも電極の面積が大きくなるのを抑えて、コスト面でのメリットが得られる。
【符号の説明】
【0070】
1 絶縁基板
2,22,37 抵抗体
3a,3b,23a,23b,35,53a,53b 表面電極
4,39 ガラス保護膜
8,43 抵抗値調整用切れ込み(トリミング溝)
10 チップ抵抗器
31 一次分割溝
33 裏面電極
41 二次分割溝
45 樹脂保護膜
A1,A2,B1,B2 拡張部
C1~C4 ガラス保護膜の角部分(四隅部分)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12