(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】眼科装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20241209BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20241209BHJP
G02B 7/34 20210101ALI20241209BHJP
G03B 13/36 20210101ALI20241209BHJP
【FI】
A61B3/14
G03B15/00 T
G02B7/34
G03B13/36
(21)【出願番号】P 2021014432
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】花坂 剛史
【審査官】渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-083358(JP,A)
【文献】特開2018-197771(JP,A)
【文献】特開2009-003122(JP,A)
【文献】特開2009-261573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0324359(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 ~ 3/18
G03B 15/00
G02B 7/34
G03B 13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子により被写体を撮像した画像を用いて
被験眼の検査を行う
眼科装置であって、
前記撮像素子から取得される複数の信号の位相差を検出することにより焦点検出を行う検出手段と、
画角にて前記焦点検出を行う領域を決定する決定手段と、を備え、
前記決定手段は第1の被写体の焦点検出精度が閾値より低い場合、前記第1の被写体を通る探索域
として円環または同心円領域を決定し、前記探索域にて前記焦点検出精度が前記閾値より高い第2の被写体が含まれる領域を、前記焦点検出を行う領域として決定する
ことを特徴とする
眼科装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記複数の信号の位相差を検出してデフォーカス量を算出し、
前記決定手段は、前記デフォーカス量に基づく焦点検出精度から前記探索域として円環または同心円領域を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の
眼科装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記第1の被写体の焦点検出精度が閾値より低い場合、前記決定手段により決定された領域に含まれる前記第2の被写体に対して焦点検出を行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の
眼科装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記同心円領域の大きさを変更する
ことを特徴とする請求項2に記載の
眼科装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記同心円領域の大きさを、画角の中央方向と周辺方向でと異なる幅に変更する
ことを特徴とする請求項4に記載の
眼科装置。
【請求項6】
前記焦点検出精度が閾値より低い場合にパターン光を投光する投光手段を備える
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の
眼科装置。
【請求項7】
前記撮像素子は、複数のマイクロレンズと、各マイクロレンズに対応する複数の光電変換部を備える
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の
眼科装置。
【請求項8】
撮像素子により被写体を撮像した画像を用いて
被験眼の検査を行う
眼科装置にて実行される制御方法であって、
前記撮像素子から取得される複数の信号の位相差を検出することにより焦点検出を行う検出工程と、
画角にて前記焦点検出を行う領域を決定する決定工程と、を有し、
前記検出工程にて第1の被写体の焦点検出精度が閾値より低い場合、前記決定工程では前記第1の被写体を通る探索域
として円環または同心円領域が決定され、前記探索域にて前記焦点検出精度が前記閾値より高い第2の被写体が含まれる領域を、前記焦点検出を行う領域として決定する処理が行われる
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物を光学的に検査する検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼科医院等では被験眼の眼底撮影を行う眼科装置が使用される。眼科装置において被験眼にピントを合わせるために、2つに分割されたスプリット像の位置関係からオートフォーカス(以下、AFともいう)を行う方法がある。さらに位相差AFとの組み合わせに基づく高精度なAF方法が知られている。
【0003】
特許文献1では、被験眼に固有の収差がある場合でも、正確なフォーカス合わせを可能とする眼底カメラが開示されている。フォーカス指標像を用いてAFを行う手段のみでは必ずしも眼底に対する合焦状態(ベストピント)とはならない場合があることを踏まえて、上記のAF終了後に位相差AFが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、位相差AF時の被写体に関し、焦点合わせの対象(血管等)のコントラストが低い場合に位相差AFが行えない可能性がある。
本発明の目的は、被験眼に対して位相差に基づく焦点検出を可能にする眼科装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態の装置は、撮像素子により被写体を撮像した画像を用いて被験眼の検査を行う眼科装置であって、前記撮像素子から取得される複数の信号の位相差を検出することにより焦点検出を行う検出手段と、画角にて前記焦点検出を行う領域を決定する決定手段と、を備え、前記決定手段は第1の被写体の焦点検出精度が閾値より低い場合、前記第1の被写体を通る探索域として円環または同心円領域を決定し、前記探索域にて前記焦点検出精度が前記閾値より高い第2の被写体が含まれる領域を、前記焦点検出を行う領域として決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被験眼に対して位相差に基づく焦点検出を可能にする眼科装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】撮像素子の画素の概略平面図と概略断面図である。
【
図4】撮像素子における画素と瞳分割との関係を示す概略説明図である。
【
図5】撮像素子と瞳部分領域を示す概略説明図である。
【
図6】デフォーカス量と像ずれ量の概略関係図である。
【
図8】瞳を通過した照明光による眼底像を示す模式図である。
【
図9】焦点検出精度マップの例を示す模式図である。
【
図10】位相差AFを行う場合の処理を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態2における焦点検出精度マップの例を示す模式図である。
【
図12】実施形態3における同心円領域の拡大を示す概略図である。
【
図13】実施形態4における同心円領域の拡大幅を示す概略図である。
【
図14】実施形態5におけるパターン投光を用いた焦点検出の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。各実施形態では、本発明に係る検査装置を、被験眼の光学的な検査を行う眼科装置へ適用した例を示す。
【0010】
[実施形態1]
図1は、本実施形態に関わる眼科装置1の全体構造を概略的に示す図である。撮像装置10は、撮像素子11と焦点検出部12と領域決定部13を備える。眼科装置1の光学系において第1乃至第3の光軸O1,O2,O3を示す。第1の光軸O1上には照明光源14および投光光源15、穴あきミラー16が配置されている。照明光源14は被験眼17を照明するための光源である。投光光源15は被験眼17に対してパターン像を投光するための光源である。
【0011】
照明光源14と投光光源15からそれぞれ出射した光は、第1の光軸O1に沿って進行し、穴あきミラー16で反射する。穴あきミラー16での反射光は、第2の光軸O2に沿って進行して被験眼17へと入射する。被験眼17で反射した光は、第2の光軸O2に沿って進行し、穴あきミラー16の穴を通過する。穴あきミラー16の穴を通過した光は第3の光軸O3に沿って進行して撮像装置10へと入射する。なお、
図1では図示していないが、光軸O1上にリング状絞りが配置され、光軸O2上に対物レンズが配置され、光軸O3上にはフォーカスレンズ等の光学部材が配置されている(特許文献1:
図1参照)。
【0012】
図2を参照して、撮像素子11の撮像画素および焦点検出画素の配列について説明する。
図2は、2次元CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサの画素配列に関し、撮像画素の配列を4列×4行の範囲で示し、焦点検出画素の配列を8列×4行の範囲で示す図である。
図2の紙面に垂直な方向をZ軸方向とし、Z軸方向と直交するX軸方向およびY軸方向をそれぞれ定義する。X軸方向は水平方向に相当し、Y軸方向は垂直方向に相当する。Z軸方向については被写体側をプラス側とする。またX軸方向について
図2の右側をプラス側とし、Y軸方向について
図2の上側をプラス側とする。
【0013】
図2に示す2列×2行の画素群20は、分光感度の異なる画素20R、20G、20Bにより構成される。
・画素20R:R(赤)の分光感度を有し、画素群20にて左上に位置する。
・画素20G:G(緑)の分光感度を有し、画素群20にて右上と左下に位置する。
・画素20B:B(青)の分光感度を有し、画素群20にて右下に位置する。
【0014】
さらに、各画素は2列×1行に配列された第1の焦点検出画素21と第2の焦点検出画素22により構成されている。つまり、1つの画素部内に複数の焦点検出画素を有する構成である。
図2に示される4列×4行の撮像画素(8列×4行の焦点検出画素)が平面上に多数配置された構成により、撮像画像信号のみならず焦点状態検出信号の取得が可能である。
【0015】
図3は、撮像素子を構成する画素部の構造を模式的に示す図である。
図3(A)は、
図2に示される撮像素子の1つの画素20Gを、撮像素子の受光面側(+Z側)から見た場合の平面図である。
図3(B)は、
図3(A)におけるa-a線での断面を、-Y側から見た場合の断面図である。
【0016】
図3に示すように、各画素部の受光側には入射光を集光するためのマイクロレンズ35が形成されている。瞳分割構成の画素部にて、X軸方向における分割数をNHと表記し、Y軸方向の分割数をNVと表記する。
図3にはNH=2、NV=1の例を示し、光電変換部31と光電変換部32が形成されている。光電変換部31と光電変換部32はそれぞれ、第1の焦点検出画素21と第2の焦点検出画素22に対応する。
【0017】
光電変換部31,32は、例えばp型層とn型層との間にイントリンシック層を挟んだpin構造フォトダイオードを有する。または必要に応じて、イントリンシック層を省略し、pn接合フォトダイオードとして形成されてもよい。各画素部には、マイクロレンズ35と、光電変換部31,32との間に、カラーフィルター36が形成される。あるいは必要に応じて、光電変換部ごとにカラーフィルターの分光透過率を変えてもよいし、カラーフィルターを省略してもよい。
【0018】
図3の画素20Gに入射した光はマイクロレンズ35により集光され、カラーフィルター36での分光後に光電変換部31,32でそれぞれ受光される。光電変換部31,32では、受光量に応じて電子とホールが対生成し、空乏層で分離された後、負電荷の電子はn型層(不図示)に蓄積される。一方、ホール(正孔)は定電圧源(不図示)に接続されたp型層を通じて撮像素子11の外部へ排出される。光電変換部31と光電変換部32のn型層(不図示)に蓄積された電子は、転送ゲートを介して静電容量部(FD)に転送され、電圧信号に変換される。
【0019】
図4は、
図3の画素構造と瞳分割との対応関係を示す概略説明図である。
図3(A)に示した画素構造のa-a線での切断面を+Y側から見た場合の断面図と、撮像素子11の瞳面(瞳距離DS)を
図4に示す。
図4では、撮像素子11の瞳面の座標軸と対応をとるために、断面図のX軸方向とY軸方向を
図3に対して反転させている。撮像素子11は撮像光学系の結像面近傍に配置され、被写体からの光は撮像光学系の瞳領域40を通過して、それぞれの画素に入射する。瞳領域40は、光電変換部31と光電変換部32(第1および第2の焦点検出画素21,22に対応する)を全て合わせた際の画素20G全体で受光可能な瞳領域である。
【0020】
図4において第1の焦点検出画素21に対応する第1の瞳部分領域41は、瞳面上で+X側に重心が偏心している。第1の瞳部分領域41は、重心が-X側に偏心している光電変換部31の受光面と、マイクロレンズによって、概ね共役関係になっている。つまり第1の瞳部分領域41は、第1の焦点検出画素21が受光可能な瞳領域を表している。また、第2の焦点検出画素22に対応する第2の瞳部分領域42は、瞳面上で-X側に重心が偏心している。第2の瞳部分領域42は、重心が+X側に偏心している光電変換部32の受光面と、マイクロレンズによって、概ね共役関係になっている。つまり第2の瞳部分領域42は第2の焦点検出画素22が受光可能な瞳領域を表している。
【0021】
撮像面位相差AFでは、撮像素子のマイクロレンズを利用して瞳分割を行うので回折の影響を受ける。例えば、
図4にて撮像素子の瞳面までの瞳距離DSが数十mm(ミリメートル)であるのに対し、マイクロレンズの直径は数μm(マイクロメートル)である。そのため、マイクロレンズの絞り値が数万となり、数十mmレベルの回折ボケが発生する。よって、光電変換部の受光面の像は、明瞭な瞳領域や瞳部分領域とはならずに、受光感度特性(受光率の入射角分布)となる。
【0022】
図5は、本実施形態の撮像素子と瞳分割領域との対応関係を示す概略図である。第1および第2の瞳部分領域41,42をそれぞれ通過した光は、撮像素子の各画素部に異なる角度で入射し、第1および第2の光電変換部31,32は入射面500から受光する。本実施形態では瞳領域が水平方向に2つに瞳分割される例を示す。必要に応じて垂直方向に瞳分割を行って4分割、9分割等とする実施形態がある。
【0023】
撮像素子11は、第1および第2の焦点検出画素を有する複数の画素部が配列された構造である。例えば第1の光電変換部31は、撮像光学系の第1の瞳部分領域41を通過する光を受光してA像信号を出力する。第2の光電変換部32は、撮像光学系の第2の瞳部分領域42を通過する光を受光してB像信号を出力する。A像信号とB像信号との位相差を検出することによってデフォーカス量を取得することができる。また、撮像画素は、撮像光学系の第1および第2の瞳部分領域を合わせた瞳領域40を通過する光を受光してA+B像信号を出力する。
【0024】
本実施形態では、撮像画素が第1および第2の焦点検出画素から構成される例を説明した。必要に応じて、撮像画素に対して第1および第2の焦点検出画素を個別の画素構成とてもよい。この場合、画素配列の一部に、第1の焦点検出画素と第2の焦点検出画素が部分的に配置された構成である。
【0025】
また本実施形態では、各画素の第1の焦点検出画素の受光信号から第1の焦点検出信号(A像信号)が生成され、各画素の第2の焦点検出画素の受光信号から第2の焦点検出信号(B像信号)が生成されて、焦点検出が行われる。撮像素子の画素ごとに、第1の焦点検出画素の受光信号と第2の焦点検出画素22の受光信号を加算することで、解像度が有効画素数Nの撮像画像に対応する信号が生成される。信号生成方法には、例えば、第2の焦点検出信号を、撮像信号と第1の焦点検出信号との差分から生成する方法もある。この場合、例えばA像信号とA+B像信号が取得され、A+B像信号からA像信号を減算することでB像信号が生成される。
【0026】
図6を参照して、撮像素子により取得される第1および第2の焦点検出信号に係るデフォーカス量と像ずれ量との関係について説明する。
図6はデフォーカス量(aと表記する)と、焦点検出信号間の像ずれ量について概略的に示す関係図である。撮像面50には撮像素子(不図示)が配置され、
図4、
図5と同様に、撮像光学系の瞳面が、第1の瞳部分領域41と第2の瞳部分領域42に2分割される。
【0027】
デフォーカス量aは、その大きさ|a|が被写体像の結像位置から撮像面50までの距離を表す。デフォーカス量aの符号については、被写体像の結像位置が撮像面50より被写体側にある前ピン状態では負符号(a<0)とし、被写体像の結像位置が撮像面50より被写体の反対側にある後ピン状態では正符号(a>0)とする。被写体像の結像位置が撮像面(合焦位置)にある合焦状態ではa=0である。
図6の被写体60は合焦状態(a=0)の例を示し、被写体61は前ピン状態(a<0)の例を示している。前ピン状態(a<0)と後ピン状態(a>0)とを併せてデフォーカス状態(|a|>0)とする。
【0028】
前ピン状態(a<0)では、被写体61からの光束のうち、第1の瞳部分領域41(または第2の瞳部分領域42)を通過した光束は、いったん集光した後、光束の重心位置G1(またはG2)を中心として幅Γ1(またはΓ2)に広がる。この場合、撮像面50上上でボケ像となる。ボケ像は、撮像素子に配列された各画素を構成する第1の焦点検出画素21(または第2の焦点検出画素22)により受光され、第1の焦点検出信号(または第2の焦点検出信号)が生成される。よって、第1の焦点検出信号(または第2の焦点検出信号)は、撮像面50上の重心位置G1(またはG2)に、幅Γ1(またはΓ2)をもった被写体像(ボケ像)の画像データとしてメモリに記憶される。幅Γ1(またはΓ2)はデフォーカス量aの大きさ|a|が増加するのに伴い、概ね比例して増加する。同様に、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号との間の被写体像の像ずれ量b(=光束の重心位置の差「G1-G2」)の大きさ|b|も、デフォーカス量aの大きさ|a|が増加するのに伴い、概ね比例して増加する。なお、後ピン状態(a>0)では、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号との間の被写体像の像ずれ方向が前ピン状態とは反対となるが、同様の傾向がある。
【0029】
第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号、または、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号を加算した撮像信号のデフォーカス量の大きさが増加するのに伴い、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号との間の像ずれ量の大きさが増加する。したがって焦点検出部12は、撮像信号のデフォーカス量の大きさが増加するのに伴い、第1の焦点検出信号と第2の焦点検出信号との間の像ずれ量の大きさが増加するという関係性から、デフォーカス量を算出する。つまり第1の瞳部分領域41と第2の瞳部分領域42の重心間距離を表す基線長に基づいて算出された変換係数を用いて、像ずれ量を検出デフォーカス量に変換することができる。
【0030】
次に、眼底を撮影する眼科装置で位相差AFを行う場合の焦点検出精度について説明する。この場合、一般用デジタルカメラで位相差AFを行う場合と比べると焦点検出精度は低くなる傾向がある。眼底の反射率は数%程度と低いこともあり、一般用デジタルカメラ等で位相差AFを行う際の被写体と比較すると、被写体のコントラストを確保し難い傾向がある。被写体のコントラストが低くなると、
図6で説明した像ずれ量を算出する際に信号がノイズに埋もれてしまう可能性がある。例えば偽合焦が生じる等の理由から、焦点検出精度が低下する可能性がある。また、
図1で説明した眼科装置1では、穴あきミラー16によって眼科装置内の光束に円形のケラレが生じてしまう。そのため、焦点検出部12に到達する光束は狭くなり、つまり、F値が大きくなる。
図6で説明した像ずれ量が小さくなることにより焦点検出精度が低下する。
【0031】
図7は瞳71を含む被験眼を示す模式図である。照明光源14や投光光源15からの光のうち、瞳71を通過した光のみが眼底に到達する。
図8は瞳71を通過した照明光源14の光による眼底像を示す模式図である。ただし、本実施形態では、眼球の光軸と眼科装置1の光軸とが一致していることを前提としている。画角81は穴あきミラー16による光束のケラレで円形になっている様子を示している。
【0032】
眼底には多数の血管が存在しているが、
図8には被写体82と被写体85として眼底の血管を示している。被写体82は、ユーザ(検査者)が焦点を合わせるために指定した、眼底に存在する血管の1つであり、領域83に含まれている。被写体82に焦点を合わせるために、焦点検出部12は領域83内において
図5で説明した焦点検出を行う。
【0033】
ここで、焦点検出精度が既定の精度(閾値精度)を満たさない場合の処理方法について説明する。例えば被写体82に対する焦点検出精度が既定の精度を満たさない場合を想定する。この場合、領域決定部13は領域83を通る円環84(点線参照)を決定する。眼球の光軸と眼科装置1の光軸とが一致している場合、穴あきミラー16によるケラレで円形になった画角と中心を同じくする部分が円環84である。眼球は球形に近似できるので、
図8で示すように、眼球の光軸と眼科装置1の光軸とが一致している場合には、領域83を通る円環84上でのデフォーカス量は領域83と同じデフォーカス量となる。領域83に含まれる被写体82に焦点を合わせることをユーザが意図しても、被写体82のコントラストが低い等の理由により、十分な焦点検出精度が得られないことがありうる。その時には円環84上にある、領域86において焦点検出部12が焦点検出を行う。領域86は円環84上にあって、既定の焦点検出精度を満たし、かつ被写体82より焦点検出精度が高い被写体85を含む領域である。フォーカスレンズの駆動制御により、被写体85に対して焦点合わせが実行される。
【0034】
図8(A)では円環84でのデフォーカス量が領域83でのデフォーカス量と同じであるとして説明した。これに限らず、ユーザが求める要求精度によっては、
図8(B)で示す同心円領域87を同じデフォーカス量の領域とみなしてもよい。つまり、2つの同心円を境界とする同心円領域87は、領域83を通る円環84と同じ中心であって幅dの領域である。同心円領域87内においては、要求精度以内で同じデフォーカス量であるとみなすことができる。よって、領域83に含まれる被写体82に焦点を合わせたい場合には、同心円領域87内の被写体85に焦点を合わせればよい。このことにより、被写体82と要求精度以内で同じデフォーカス量を取得することができる。
【0035】
図9を参照して、
図8の被写体85および領域86の決定方法について説明する。
図9は焦点検出部12が算出したデフォーカスマップに基づく焦点検出精度マップの例を模式的に示す図である。焦点検出精度の高低を濃淡によって示している。領域91と領域93はそれぞれ、
図8の領域83と領域86に対応する領域である。円環92は
図8の円環84に対応している。なお、図示は省略するが、領域91、領域93にはそれぞれ異なる被写体(血管)が含まれている。
【0036】
図9の領域91に含まれる被写体は、例えばコントラストが低い等の理由で既定の精度を満たさないものとする。つまりユーザは焦点検出精度が低い被写体が含まれる領域91を選択したとする。このような場合、焦点検出精度マップ上で、領域91を通る円環92上であって、最も焦点検出精度が高い被写体が含まれる領域93を決定する処理が行われる。あるいは円環92に代えて、
図8(B)に示す同心円領域87のように所定の幅を有する領域を用いてもよい。同心円領域内にあって最も焦点検出精度が高い被写体が含まれる領域を決定する処理が行われる。
【0037】
図10を参照して、本実施形態における処理について説明する。
図10は位相差AFを行う場合のフローチャートである。以下の処理は、例えば眼科装置内または撮像装置内のCPU(中央演算処理装置)がプログラムを実行することによって実現される。焦点検出処理が開始すると、S100ではユーザ操作による被写体の選択処理が行われる。ここで被写体1が選択されたものとする。次のS101で焦点検出部12は被写体1に対して焦点検出を行う。そしてS102で焦点検出部12は被写体1に対する焦点検出精度が閾値より高いかどうかを判定する。被写体1に対する焦点検出精度が閾値より高く、既定の焦点検出精度を満たしていると判定された場合、S106に進み、焦点検出処理を終了する。既定の焦点検出精度が満たされていないと判定された場合にはS103の処理に進む。
【0038】
S103で領域決定部13は、被写体1が含まれる領域を通る円環(
図8(A):84参照)、または同心円領域(
図8(B):87参照)を決定する。次に、S104で領域決定部13はS103で決定した円環上、または同心円領域内にある被写体1よりも焦点検出精度が高く、かつ既定の焦点検出精度を満たす被写体2を探索する。探索により被写体2が決定された場合、S105で焦点検出部12は被写体2に対する焦点検出を行う。被写体2を含む領域に対応するAF枠(焦点検出枠)が表示される。その後、S106に進み、焦点検出を終了する。焦点検出後に眼科装置1または撮像装置10が備える制御部はフォーカスレンズの駆動機構部を制御し、フォーカスレンズを光軸O3上で移動させることで焦点調節(位相差AF)を行う。AF制御に関しては公知であるため、その説明を省略する。
【0039】
本実施形態によれば、被験眼における任意の被写体に対して位相差AFを行い、焦点を合わせることが可能な眼科装置を提供することができる。
【0040】
[実施形態2]
次に本発明の実施形態2を説明する。実施形態1では被験眼の光軸と眼科装置の光軸とが一致している場合について説明したが、本実施形態では、これらの光軸が一致していないときの解決方法を示す。本実施形態にて実施形態1との相違点のみを説明し、重複する説明を省略する。このような説明の省略方法については後述の実施形態でも同じである。
【0041】
図11(A)は被験眼の光軸と眼科装置の光軸とが一致している場合の、デフォーカスマップに基づく焦点検出精度マップの例を示す。
図11(B)は被験眼の光軸と眼科装置の光軸とが一致していない場合の、デフォーカスマップに基づく焦点検出精度マップの例を示す。
図11(B)の場合には、同一のデフォーカス量である領域は、画角とは異なる位置を中心とする円環の領域になり、画角内で円弧状の領域である。領域1100は、ユーザにより選択された被写体が含まれる領域を示している。
【0042】
図11(C)には、領域1100のデフォーカス量と同一のデフォーカス量であるとみなされた一部領域(円弧)だけを区別して示している。例えば、円環1101は最小二乗法等により円近似した場合の円環であり、
図8の円環84に対応する。また実施形態1の場合と同様に、円環に代えて、要求精度に応じた同心円領域を用いてもよい。
図10のS104で領域決定部13は、円環1101上において、ユーザが指定した被写体よりも焦点検出精度が高く、かつ既定の焦点検出精度を満たす被写体を探索する。
【0043】
本実施形態によれば、被験眼の光軸と眼科装置の光軸とが一致していない場合でも、被験眼における任意の被写体に焦点を合わせることが可能である。
【0044】
[実施形態3]
図12を参照して、本発明の実施形態3について説明する。前記実施形態では、ユーザが指定した被写体1に対する焦点検出精度が既定の焦点検出精度を満たさない場合、円環上または同心円領域内の別の被写体2に対する焦点検出が行われる。しかし、被写体2でも既定の焦点検出精度を満たさない場合がありうる。そこで本実施形態では、円環または同心円領域を拡大する処理例を示す。
【0045】
図12は同心円領域の拡大の様子を示す模式図である。
図12(A)、
図12(B)はそれぞれ
図8(A)、
図8(B)に対応しているので、それらの詳細な説明は割愛する。
図12(C)は、
図12(B)の同心円領域87の幅を大きくすることで同心円領域1203まで広げた様子を示している。なお、同心円領域1203をさらに画角全域まで広げることも可能である。
【0046】
図10のS104にて領域決定部13は、拡大した同心円領域内において、被写体82より焦点検出精度が高く、かつ既定の焦点検出精度を満たす被写体1201の探索を行う。その結果、被写体1201が含まれる領域1202に対して焦点検出が行われる。なお、本実施形態で説明した同心円領域については眼科装置が自動的に広げながら
図10のS104の処理を実行することも可能である。また同心円領域の拡大に伴い、既定の焦点検出精度を自動的に緩和する処理が実行される場合、ユーザに焦点検出精度の変更を通知する処理が行われる。
【0047】
本実施形態によれば、円環または同心円領域の拡大処理によって、被験眼における任意の被写体に焦点を合わせることが可能である。
【0048】
[実施形態4]
図13を参照して、本発明の実施形態4について説明する。本実施形態では同心円領域の拡大処理に関して画角の周辺方向と中央方向とで拡大幅を異ならせる方法を示す。
図13は、円環84に対して画角の周辺方向において幅d1、かつ中央側において幅d2の拡大を行った同心円領域1300の例を示している。
【0049】
撮像面位相差AFでは、一般に周辺部ほど焦点検出精度が低くなることから、被写体探索(
図10:S104)が優先的に画角中央寄りの範囲で行われるように、「d1<d2」として同心円領域が拡大される。
【0050】
本実施形態によれば、画角の周辺方向と中央方向とで異なる幅の拡大処理によって、被験眼における任意の被写体に焦点を合わせることが可能である。
【0051】
[実施形態5]
図14を参照して、本発明の実施形態4について説明する。本実施形態では同心円領域を画角81の全面まで拡大しても既定の焦点検出精度を満たす被写体が存在しない場合への対策を示す。この場合、本実施形態では被験眼へのパターン投光が行われる。
【0052】
図14は投光光源15より被験眼にパターン投光を行う様子を示す。例えば、被験眼に対して赤外光帯域のパターン光が照射される。画角81内にて縦縞状の投光像1400を含む領域1401で焦点検出が行われる。
【0053】
本実施形態によれば、所定パターンの投光を行うことによって、被験眼における任意の被写体に焦点を合わせることが可能である。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0055】
[その他の実施形態]
前記実施形態では被験眼の光学的な検査装置において、第1の被写体の焦点検出精度が閾値より低い場合に第1の被写体を通る探索域として、円環や同心円領域を用いる例を示した。これに限らず、領域決定部13は、被検査物に応じた被写体の探索域として適合する形状(例えば楕円形、多角形等)を決定する。決定された探索域にて焦点検出精度が閾値より高い第2の被写体が検出された場合、第2の被写体が含まれる領域に対して焦点検出が行われる。
【0056】
また、光源により3点以上の投光を行う実施形態がある。この場合、眼科装置1はワーキングドットの回転または消灯の制御が可能である。あるいは光源により円形状のパターン投光を行う実施形態がある。
【符号の説明】
【0057】
1 眼科装置
10 撮像装置
11 撮像素子
12 焦点検出部
13 領域決定部