(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/08 20060101AFI20241209BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C23C18/08
B22F7/04 A
(21)【出願番号】P 2021014502
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100201455
【氏名又は名称】横尾 宏治
(72)【発明者】
【氏名】谷川 智子
(72)【発明者】
【氏名】口山 崇
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/059789(WO,A1)
【文献】特開2005-019248(JP,A)
【文献】国際公開第2016/038914(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/156675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅体上に銀を含む酸化剤が接した状態
で加熱し、有機化合物を含む還元剤によって前記酸化剤が還元され、前記銅体上に銀層が積層された積層体であって、
前記銅体と前記銀層の界面に、銅成分と銀成分を含んだ合金層が形成されており、
前記還元剤は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有するヒンダードアミン系光安定剤であり、
前記銀層の表面には、
2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有する化合物を含む保護層が積層し
ており、
前記合金層と前記銀層の界面には、前記還元剤由来の成分を含む残渣層が形成されている、積層体。
【請求項2】
前記合金層の電子線回折像を取得したときに、前記電子線回折像のパターンが、空間群Fm-3mで銅成分と銀成分が1対1合金の電子線回折像のシミュレーションパターンと一致する、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記合金層の平均膜厚は、前記銀層の平均膜厚の30%以上60%以下である、請求項1
又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記合金層と前記銀層の界面には、前記銀層に隣接する空隙部があり、
前記空隙部は、内壁の少なくとも一部が前記残渣層によって構成されている、請求項
1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記酸化剤は、酸化銀である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅板上に銀層を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1,2)。
特許文献1のコネクタ用銀めっき端子は、銅板上に電気めっきにより銀めっき層を形成したものである。特許文献1のコネクタ用銀めっき端子は、銅又は銅合金からなる母材の表面に第1の銀めっき層と、第1の銀めっき層に比べて結晶粒径が小さい第2の銀めっき層をこの順に積層することで、母材の銅成分の第2の銀めっき層への拡散を抑制でき、第2の銀めっき層の表面での銅成分の酸化を抑制できるとされている。
【0003】
また、特許文献2の銀の作製方法では、酸化銀と、1,3-ジ-4-ピペリジルプロパンと、蒸留水と、ガラスビーズとを粉砕し分散し、得られた分散液を基材に塗布し、電気炉で酸化銀の分解開始温度である200℃の温度で加熱処理を施している。こうすることで、基材上に銀層を形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-169408号公報
【文献】特開2004-58466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のコネクタ用銀めっき端子は、表面に銀めっき層が形成されているため、熱や光により、銀めっき層が腐食しやすい問題がある。銀めっき層が腐食すると、抵抗が増加するとともに黒色化し、見栄えも悪くなるおそれがある。
また、特許文献2の銀の作製方法では、酸化銀の分解開始温度といわれる200℃以上の高温に加熱する必要があり、使用できる用途に大きく制限がある。
【0006】
そこで、本発明は、従来に比べて熱や光による腐食を抑制できる積層体、及び従来に比べて低温で銅体上に銀層を積層できる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための本発明の一つの様相は、銅体上に銀を含む酸化剤が接した状態で、有機化合物を含む還元剤によって前記酸化剤が還元され、前記銅体上に銀層が積層された積層体であって、前記銅体と前記銀層の界面に、銅成分と銀成分を含んだ合金層が形成されており、前記銀層の表面には、前記還元剤の成分を含んだ保護層が積層している、積層体である。
【0008】
本様相によれば、銅体と銀層の界面に合金層が形成されているため、銅体と銀層の界面抵抗を低下させることができる。
本様相によれば、銀層の表面に保護層が形成されているため、光や熱による銀層の酸化等を抑制できる。
本様相によれば、保護層が還元剤に由来する層であるため、別途保護層を設ける必要がなく、低コストで銀層の酸化抑制効果を奏することができる。
【0009】
好ましい様相は、前記保護層は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有する化合物を含むことである。
【0010】
本様相によれば、より良好な熱や光に対する耐腐食性を備えることができる。
【0011】
好ましい様相は、前記合金層は、銅成分に対する銀成分の比率が2/3以上3/2以下であることである。
【0012】
好ましい様相は、前記合金層の電子線回折像を取得したときに、前記電子線回折像のパターンが、空間群Fm-3mで銅成分と銀成分が1対1合金の電子線回折像のシミュレーションパターンと一致することである。
【0013】
好ましい様相は、前記合金層の平均膜厚は、前記銀層の平均膜厚の30%以上60%以下であることである。
【0014】
ここでいう「平均膜厚」とは、任意の三か所での膜厚の算術平均値をいう。以下、同様とする。
【0015】
好ましい様相は、前記合金層と前記銀層の界面には、前記還元剤由来の成分を含む残渣層が形成されていることである。
【0016】
より好ましい様相は、前記合金層と前記銀層の界面には、前記銀層に隣接する空隙部があり、前記空隙部は、内壁の少なくとも一部が前記残渣層によって構成されていることである。
【0017】
好ましい様相は、前記酸化剤は、酸化銀であることである。
【0018】
好ましい様相は、前記還元剤は、ヒンダードアミン系光安定剤であることである。
【0019】
好ましい様相は、前記還元剤は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を2つ以上有し、且つ、分子量が700以下であるヒンダードアミン化合物を含むことである。
【0020】
好ましい様相は、前記酸化剤は、酸化銀であることである。
【0021】
本発明の一つの様相は、銅体上に銀層が積層された積層体であって、前記銅体と前記銀層の界面に、銅成分と銀成分を含んだ合金層が形成されており、前記銀層の表面には、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基又は1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基を有した化合物を含む保護層が積層している、積層体である。
【0022】
本様相によれば、銅体と銀層の界面に合金層が形成されているため、銅体と銀層の界面抵抗を低下させることができる。
本様相によれば、銀層の表面に2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基又は1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基を有した化合物を含む保護層が形成されているため、光や熱による銀層の腐食を抑制でき、耐久性が向上できる。
【0023】
本発明者が酸化銀を還元する還元剤について鋭意検討した結果、従来、樹脂の光安定剤として使用され、無機金属の還元剤として使用しないヒンダードアミン系光安定剤を還元剤として使用することで、従来から一般的な酸化銀の分解開始温度といわれる200℃よりも低温で酸化銀を還元し、銀層を形成できることを発見した。
【0024】
この発見から導き出された本発明の一つの様相は、還元剤と酸化銀を混合し、混合物を形成する混合工程と、前記混合物を銅体上に塗布する塗布工程と、前記混合物が塗布された前記銅体を第1加熱温度で加熱する加熱工程を含み、前記還元剤は、ヒンダードアミン系光安定剤であり、前記第1加熱温度は、200℃未満である、積層体の製造方法である。
【0025】
本様相によれば、一般的な酸化銀の分解温度よりも低い温度で酸化銀を還元して銀層を形成でき、簡単に積層体を形成できる。
【0026】
本発明の一つの様相は、還元剤と酸化銀を混合し、混合物を形成する混合工程と、前記混合物を銅体上に塗布する塗布工程と、前記混合物が塗布された前記銅体を第1加熱温度で加熱する加熱工程を含み、前記還元剤は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有するヒンダードアミン化合物を含み、前記第1加熱温度は、200℃未満である、積層体の製造方である。
【0027】
本様相によれば、一般的な酸化銀の分解温度よりも低い温度で酸化銀を還元して銀層を形成でき、簡単に積層体を形成できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の積層体によれば、従来に比べて熱や光による腐食を抑制できる。
本発明の積層体の製造方法によれば、従来に比べて低温で銅体上に銀層を積層できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1実施形態の積層体の断面図である。
【
図2】実験例1のSTEM観察の結果であり、(a)は低倍率のSTEM画像であり、(b)は(a)をトレースした図面である。
【
図3】実験例1のSTEM観察の結果であり、(a)は高倍率のSTEM画像であり、(b)は(a)をトレースした図面である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0031】
本発明の第1実施形態の積層体1は、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ等の反射フィルム、配線、電極等の導電性材料、装飾材料、記録材料、抗菌材料等に好適に用いられるものである。
積層体1は、
図1のように、銅板2(銅体)上に合金層3、銀層5がこの順に積層された多層構造体である。すなわち、積層体1は、銅板2と銀層5の間に合金層3が介在している。
積層体1は、
図1の拡大図のように、合金層3と銀層5の界面であって合金層3の表面に残渣層6が形成されており、銀層5の表面に保護層7が形成されている。積層体1は、
図1のように、合金層3と銀層5の界面に複数の空隙部8が形成されている。
【0032】
銅板2は、面状に広がりをもった銅製の板状体であり、第1主面と第2主面を有し、第1主面で銀層5を支持する支持基材である。
銅板2は、第1主面10と第2主面11とで表面粗さが相違しており、第1主面10に表面凹凸が形成され、第1主面10の表面粗さが第2主面11の表面粗さよりも大きくなっている。
【0033】
合金層3は、銅板2上に形成され、銅成分と銀成分を含む銅-銀合金層である。
合金層3は、銅成分に対する銀成分の比率が2/3以上3/2以下であることが好ましい。
合金層3の平均膜厚は、銀層5の平均膜厚よりも薄く、銀層5の平均膜厚の10%以上90%以下であることが好ましく、20%以上60%以下であることが好ましい。
なお、合金層3の平均膜厚は、例えば、合金層3の断面を走査電子顕微鏡(SEM)像や透過型電子顕微鏡(TEM)像によって観察し、任意の三箇所での算術平均値を算出することで求めることができる。
合金層3は、銅成分と銀成分が1対1で含み、空間群Fm-3mの結晶構造を有することが好ましい。
【0034】
銀層5は、合金層3上に形成された銀薄膜層である。
銀層5の平均膜厚は、1μm以下であり、十分な導電率を確保する観点から、50nm以上500nm以下であることが好ましく、150nm以上300nm以下であることがより好ましい。
なお、銀層5の平均膜厚は、例えば、銀層5の断面を走査電子顕微鏡(SEM)像や透過型電子顕微鏡(TEM)像によって観察し、任意の三箇所での算術平均値を算出することで求めることができる。
【0035】
残渣層6は、合金層3の表面に形成される層である。
残渣層6は、後述する積層体1の製造方法において使用する還元剤由来の成分を有するものであり、積層体1の製造工程中に生じる残渣を主成分とするものである。
ここでいう「主成分」とは、全体の50%超過占める成分をいう。
本実施形態の残渣層6は、還元剤由来の炭素元素を含んでいる。
残渣層6の平均膜厚は、1nm以上20nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、合金層3と銀層5との間の電気伝導を阻害にしにくい。
【0036】
保護層7は、光安定性と熱安定性を有し、光や熱から銀層5を保護する層である。
保護層7は、後述する積層体1の製造方法において銀層5の形成に使用する還元剤に由来する層であり、酸化剤と反応した還元剤の生成物又は未反応の還元剤によって構成されている。
本実施形態の保護層7は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有する化合物を含むものである。
この化合物中の1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基及び2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基の個数は特に限定されない。
この化合物中の1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基及び2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基におけるアルキル基の炭素数は、それぞれ独立に1~4であることが好ましい。
【0037】
保護層7の平均膜厚は、1nm以上20nm以下であることが好ましい。この範囲であれば、銀層5を光や熱から十分に保護することができる。
保護層7の平均膜厚は、例えば、保護層7の断面を走査電子顕微鏡(SEM)像や透過型電子顕微鏡(TEM)像によって観察し、任意の三箇所での算術平均値を算出することで求めることができる。
【0038】
空隙部8は、銀層5を構成する銀粒子間の隙間や銀粒子と銅板2との隙間に由来する空隙である。
各空隙部8は、銀層5側に偏っており、銀層5に隣接するように設けられている。
本実施形態の空隙部8は、0.5nm以上30nm以下であることが好ましい。
【0039】
続いて、本実施形態の積層体1の製造方法について説明する。
【0040】
本実施形態の積層体1の製造方法は、銅板2上に銀を含む酸化剤を接した状態で有機化合物を含む還元剤によって酸化剤を還元し、銅板2上に銀層5を積層するものである。
酸化剤としては、銀を含み、還元剤との関係で酸化剤として機能するものであれば、特に限定されるものではない。酸化剤としては、例えば、酸化銀や、炭酸銀、酢酸銀、アセチルアセトン銀錯体が使用できる。
以下の説明においては、酸化剤の一例として酸化銀を使用した場合について説明する。
【0041】
まず、酸化銀を還元剤と混合して混合物を形成する(混合工程)。
【0042】
このとき、還元剤は、アミン系還元剤であり、1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基及び2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を有するヒンダードアミン系光安定剤であることが好ましく、N-CH3型又はN-H型のヒンダードアミン系光安定剤であることがより好ましい。
N-CH3型のヒンダードアミン系光安定剤としては、Bis(1,2,2,6,6-pentamethyl-4-piperidyl) sebacateなどが使用できる。
N-H型のヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、Tetrakis(1,2,2,6,6-pentamethyl-4-piperidyl) butane-1,2,3,4-tetracarboxylate、Tetrakis(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl) butane-1,2,3,4-tetracarboxylate、Bis(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidyl) sebacateなどが使用できる。
また、別の観点から視ると、還元剤は、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基及び1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基の少なくとも1種を2つ以上有し、且つ、分子量が700以下であるヒンダードアミン化合物を含むことが好ましい。
このヒンダードアミン化合物は、1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基又は2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基のピペリジン環の4位の炭素がカルボン酸とエステル結合を構成していることが好ましい。
このヒンダードアミン化合物における1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基及び2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基の個数は特に限定されない。
また、1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基及び2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基におけるアルキル基の炭素数は、それぞれ独立に1~4であることが好ましい。
還元剤は、常温で固体であっても液体であってもよいが、融点が後述する加熱工程における第1加熱温度未満であることが好ましい。
これらアミン化合物の融点が第1加熱温度未満であれば、後述する加熱工程において酸化銀とともに加熱する際に、還元剤が固体であっても、第1加熱温度に至る前に、還元剤が融解して液体状となるので、酸化銀との接触面積が大きくなり、酸化銀の還元を効率良く行うことができる。
本実施形態では、還元剤として下記の構造式(1)を有したアミン化合物を含んでいる。
【0043】
【0044】
上記構造式(1)において、R1とR2は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、pは1以上18以下の正の整数である。
【0045】
続いて、混合工程により、混合された混合物を銅板2の第1主面上の任意の範囲に塗布する(塗布工程)。
【0046】
このときの塗布方法については、特に限定されるものではない。例えば、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法などが挙げられる。
【0047】
続いて、混合物が塗布された銅板2を加熱装置に入れ、第1加熱温度で加熱し、酸化銀を還元剤で還元して銅板2上に銀層5を形成する(加熱工程)。
【0048】
このときの第1加熱温度は、酸化銀と還元剤との反応が進行する温度であれば、特に限定されるものでないが、短時間で酸化銀を還元する観点から、100℃以上200℃未満であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましい。
このとき、銅板2の表面では、銅成分が銀層5側に拡散し、銀層5との合金層3が形成され、合金層3の表面では酸化剤と反応した還元剤の一部による残渣層6が形成される。また、合金層3と銀層5の界面には、銀層5を構成する銀粒子の粒子間の隙間や銀粒子と銅板2との隙間に準じた空隙部8が形成される。
銀層5の表面には、酸化剤と反応した還元剤の一部又は未反応の還元剤が覆って保護層7が形成される。
【0049】
続いて、銀層5が形成された銅板2を洗浄溶媒で洗浄する(洗浄工程)。
【0050】
このとき使用される洗浄溶媒は、銀と実質的に反応しないものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、アセトンなどの揮発性の有機溶媒が使用できる。
【0051】
第1実施形態の積層体1によれば、銅板2と銀層5の界面に合金層3が形成されているため、銅板2と銀層5の界面抵抗を低下させることができる。
第1実施形態の積層体1によれば、銀層5の表面に保護層7が形成されているため、銀層5の酸化等を抑制できる。
第1実施形態の積層体1によれば、銀層5の表面に形成された保護層7が2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基又は1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基を有した化合物を含むため、光や熱による銀層5の腐食を抑制でき、耐久性が向上できる。
【0052】
第1実施形態の積層体1の製造方法によれば、一般的な酸化銀の分解温度よりも低い温度で酸化銀を還元して銀層5を形成でき、簡単に積層体1を形成できる。
【0053】
上記した実施形態では、銅板2の第1主面10に銀層5を形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。銅板2の両面10,11に銀層5を形成してもよい。すなわち、銅板2の第1主面10上及び第2主面11上に銀層5を形成してもよい。
【0054】
上記した実施形態では、銀層5を支持する銅体として銅板2を使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。銅体は支持体に対して積層された銅層であってもよい。例えば、銅体は、銅層が積層されたガラス基板であってもよい。
【0055】
上記した実施形態では、銀層5を支持する銅体として板状の銅板2を使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。銅箔や銅シートなどのフィルム状体やシート状体であってもよい。
【0056】
上記した実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる限り、各実施形態間で各構成部材を自由に置換や付加できる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例として各実験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例により限定されるものではない。
【0058】
(実験例1)
実験例1は、酸化銀(富士フィルム和光純薬株式会社製、酸化銀特級、最大粒径10μm)100重量部と、液体状のセバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(株式会社ADEKA製、アデカスタブLA-72)100質量部を混合してペースト状の混合物を得た。
続いて、得られた混合物を銅基板上の5cm×5cmの範囲に塗布し、150℃で60分間保持した。その後、銅基板上の混合物の表面をアセトンで洗浄し、銅基板に接着した銀膜を得た。
このようにして得られた積層体を実験例1とした。
【0059】
(実験例2)
実験例1において、還元剤として、固体状のセバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)(株式会社ADEKA製、アデカスタブLA-77Y、融点82℃~87℃)を使用したこと以外は同様にして、これを実験例2とした。
【0060】
(STEM観察)
実験例1において、集束イオンビーム(FIB)による断面加工を行い、走査透過型電子顕微鏡(STEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、HD-2700)によって断面のSTEM観察及びエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行った。
また、実験例1において電子線回折像を観察し、Mat Navi(https://mits.nims.go.jp/)の結晶データベースに基づいて、電子線回折像のシミュレーションを行い、実施例1の電子線回折像をシミュレーションパターンと重ねて同定を行った。
【0061】
実験例1における低倍率のSTEMの二次電子像(以下、SE像ともいう)を
図2(a)に示し、
図2(a)のSE像をトレースしたものを
図2(b)に示す。
また実験例1における高倍率のSTEMの透過電子像(以下、TE像ともいう)を
図3(a)に示し、
図3(a)のTE像をトレースしたものを
図3(b)に示す。
実験例1において、
図2のようにSE像を観察したところ、銅基板と銀層との間に銀と銅の合金層が確認され、合金層の銀層側に複数の空隙部が形成されていた。
同様に実験例2においても、SE像を観察したところ、銅基板と銀層との間に銀と銅の合金層が確認され、合金層の銀層側に複数の空隙部が形成されていた。
実験例1において、
図3のように高倍率のTE像を観察したところ、銅基板と銀層との間に銀と銅の合金層が確認され、銀層の表面に還元剤に由来する数nm~十数nmの保護層が確認された。また、合金層と銀層の間に残渣層が確認された。
図3(b)に示される測定点1~6においてEDXによる元素分析を行ったところ、銀層の位置に対応する測定点2では、銀のピークが検出される一方で炭素及び窒素のピークが検出されなかったのに対して、保護層の位置に対応する測定点1では、銀のピークだけではなく、炭素及び窒素のピークが検出された。
また、合金層に対応する測定点4では、銀、銅、及び炭素のピークが検出されたものの窒素のピークが検出されなかった。残渣層の位置に対応する測定点3では、測定点4と同様、銀、銅、炭素のピークが検出されたものの窒素のピークが検出されなかったものの、炭素のピークが測定点4に比べて大きなピークが検出し、検出量が多かった。
合金層と銅基板の界面の位置に対応する測定点5及び銅基板の位置に対応する測定点6では、銅のピークが検出され、窒素のピークは検出されなかった。
【0062】
実験例1において、
図3(b)に示される測定点4において電子線回折を行い、電子線回折像を観察したところ、電子線回折像のパターンが銅成分と銀成分が1:1の銅銀合金のシミュレーションパターンと概ね一致した。
なお、この銅銀合金のシミュレーションパターンは、結晶構造(空間群番号225、空間群Fm-3mの結晶構造(a=0.38765nm,b=0.38765nm,c=0.38765nm,α=90°,β=90°,γ=90°)に基づいて算出した。
【0063】
測定点1の結果において、窒素のピークと炭素のピークが検出されたことから、加熱によって還元剤の残渣が銀薄膜層の表面でブリードアウトし、銀薄膜層上に還元剤に由来する1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基を有した化合物を含む保護層が形成されていると推定された。
測定点4の結果において、炭素が隣接する銀層や合金層に対して多量に検出されたこと、TE像において合金層と銀薄膜層の間に合金層及び銀薄膜層に対して色が薄い部分が確認されたことから、還元剤が酸化され分解したことによる軽金属層が残渣層として銀層と合金層の間に形成されていることが推定された。
【0064】
以上をまとめると以下の通りの結果となった。
(1)STEM観察の結果から、1,2,2,6,6-ペンタアルキルピペリジニル基を有するN-CH3型のヒンダードアミン系光安定剤や2,2,6,6-テトラアルキルピペリジニル基を有するN-H型のヒンダードアミン系光安定剤を還元剤として使用することで、銅基板上の酸化銀を還元してナノオーダーの銀薄膜層を形成できることがわかった。
(2)STEM観察の結果から、ヒンダードアミン系光安定剤を還元剤として使用することで、銅基板上の酸化銀を還元して銀薄膜層を形成できるとともに銀薄膜層の表面に保護層が形成され、合金層の表面に残渣層が形成されることが確認され、EDX分析の結果から、銀層の表面の保護層や銀層と合金層の界面の残渣層が還元剤由来であることが示唆された。
【符号の説明】
【0065】
1 積層体
2 銅板(銅体)
3 合金層
6 残渣層
5 銀層
7 保護層
8 空隙部