IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7599991電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置及び電子写真感光体の製造方法
<>
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置及び電子写真感光体の製造方法 図1
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置及び電子写真感光体の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ、電子写真装置及び電子写真感光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/10 20060101AFI20241209BHJP
   G03G 5/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G03G5/10 B
G03G5/00 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021031207
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131948
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 正之
(72)【発明者】
【氏名】山田 基也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝治
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-211537(JP,A)
【文献】特開平10-288844(JP,A)
【文献】特開2013-109035(JP,A)
【文献】特開平06-011848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/10
G03G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の支持体及び該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、該支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Aが下記の条件を満たすことを特徴とする電子写真感光体。
A≧0.75
(1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をa、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Aは、a/zを示す。)
【請求項2】
前記支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Bが、下記の条件を満たすことを特徴とする、請求項に記載の電子写真感光体。
B≦0.20
(831cm-1以上1015cm-1以下の範囲のピーク面積をb、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Bは、b/zを示す。)
【請求項3】
前記支持体において、X線光電子分光法により求める支持体の最表面のO/Alの元素比率をXとして、X±0.1Xの値を満たす領域の深さをDとした場合、Dが40nm以上1μm以下である請求項1又は2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記支持体が、Al合金で形成されており、合金の全質量に対して、
Si:0.6質量%以下、Fe:0.7質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.20質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.5質量%以下、Zn:0.10質量%以下の成分を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を有する電子写真装置。
【請求項7】
円筒状の支持体及び該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体の製造方法において、
該支持体を形成する工程は、Al及び/又はAl合金で形成された円筒体を純水で浸漬処理して該支持体を得る工程を有し、
該純水の温度が、91℃以上98℃以下であり、浸漬時間が、60秒以上300秒以下であり、
かつ、該支持体が、該支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Aが下記の条件を満たすことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
A≧0.75
(1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をa、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Aは、a/zを示す。)
【請求項8】
前記支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Bが、下記の条件を満たすことを特徴とする、請求項7に記載の電子写真感光体の製造方法。
B≦0.20
(831cm-1以上1015cm-1以下の範囲のピーク面積をb、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Bは、b/zを示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ、電子写真装置及び電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、像担持体として電子写真方式の画像形成装置(例えば、プリンター、及び複合機)において用いられる。電子写真感光体は、支持体及び支持体上に形成される感光層を有する。支持体の表面は、支持体の材質に応じて粗さが変動する。支持体の粗さは、電子写真プロセスにおける潜像形成に影響を与え画像欠陥が生じる場合がある。
特許文献1には、支持体表面の粗さに起因する画像欠陥の抑制のために、円筒状の支持体を表面処理する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-29852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、特許文献1に記載の電子写真感光体では、支持体に起因する画像欠陥を抑制できる一方で、長期電位変動が大きいという課題があった。そこで、画像欠陥の抑制と長期電位変動の低減の両立を達成できる、円筒状の支持体の表面処理技術について検討を行った。
【0005】
本発明の目的は、支持体に起因する画像欠陥を抑制し、かつ長期電位変動の小さい電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
即ち、本発明にかかる電子写真感光体は、円筒状の支持体及び該支持体上に形成された感光層を有し、該支持体の表面が、Al及び/又はAl合金で形成されており、該支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Aが下記の条件を満たすことを特徴とする。
A≧0.75
(1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をa、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Aは、a/zを示す。)
【0007】
又、本発明に係るプロセスカートリッジは、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であることを特徴とする。
又、本発明に係る電子写真装置は、上記電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
又、本発明に係る電子写真感光体の製造方法は、円筒状の支持体及び該支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体の製造方法において、
該支持体を形成する工程は、Al及び/又はAl合金で形成された円筒体を純水で浸漬処理して該支持体を得る工程を有し、
該純水の温度が、91℃以上98℃以下であり、浸漬時間が、60秒以上300秒以下であり、
かつ、該支持体が、該支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Aが下記の条件を満たすことを特徴とする。
A≧0.75
(1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をa、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとしたときに、該IRピーク面積比Aは、a/zを示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、支持体に起因する画像欠陥を抑制し、かつ長期電位変動の小さい電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】本発明で定義されるIRピーク面積比A及びBを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
[電子写真感光体]
本実施形態に係る電子写真感光体は、支持体の表面のIRピーク面積比Aが所定の値の範囲を示すように、該支持体に対して表面処理を行った電子写真感光体である。従来技術である、支持体表面を酸化処理する構成の電子写真感光体においては、支持体由来の画像欠陥の隠蔽性に優れる一方で、繰返し帯電を行うと、長期の電位変動が大きくなるという課題があることがわかった。この課題を解決する為に、支持体の表面処理方法を改良し、支持体表面の組成を最適化すべく検討を行った。検討の結果、表面処理によって支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Aを、下記の条件、
A≧0.50
(1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をa、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとした時に、IRピーク面積比Aは、a/zを示す。)
でコントロールすることで、支持体に起因する画像欠陥を隠蔽しつつ、従来に比べ長期電位変動を抑制できることがわかった。
又、Aの値を大きくしていくと、長期電位変動の抑制効果も高くなっていくことが明らかになった。
【0012】
長期電位変動が抑制できる真因は明らかになっていない部分もあるが、上記の結果から推測されるメカニズムとして、従来構成の電子写真感光体では、酸化部への電荷蓄積によって電位変動が生じていたのに対して、該IRピーク比率における構成では、電荷蓄積しにくい組成の構造が支持体の表面に十分に成長していることが考えられる。以上のように、支持体の適切な処理方法を選択し、支持体表面を最適な組成にすることによって、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0013】
より好ましい場合は、下記の条件、
A≧0.75
でコントロールする場合である。
【0014】
又、支持体の表面をフーリエ変換赤外分光分析法により求めるIRピーク面積比Bを、下記の条件、
B≦0.20
(831cm-1以上1015cm-1以下の範囲のピーク面積をb、650cm-1以上1130cm-1以下の範囲のピーク面積をzとした時に、IRピーク面積比Bは、b/zを示す。)
でコントロールする場合が好ましい。
【0015】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、支持体及び、感光層を有することを特徴とする。
本発明の電子写真感光体を製造する方法としては、後述する各層の塗布液を調製し、所望の層の順番に塗布して、乾燥させる方法が挙げられる。このとき、塗布液の塗布方法としては、浸漬塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布、ロール塗布、ダイ塗布、ブレード塗布、カーテン塗布、ワイヤーバー塗布、リング塗布などが挙げられる。これらの中でも、効率性及び生産性の観点から、浸漬塗布が好ましい。
以下、各層について説明する。
【0016】
<支持体>
本発明において、電子写真感光体は、支持体を有する。支持体の形状としては、円筒状の支持体を用いる。また、支持体の表面に、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
支持体の材質としてはAl(アルミニウム)及び/又はAl合金を用いたアルミニウム製支持体を使用する。使用するアルミニウム合金に特に制限はないが、例としては、A3003系、A5052系、A6063系等が挙げられる。中でも、IRピーク面積比Aに対してラチチュードが広いことから、A3003系アルミニウム合金を使用することが好ましい。Al合金の、Al以外の含有成分としては、合金の全質量に対して、Si:0.6質量%以下、Fe:0.7質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.20質量%以下、Mn:1.0質量%以上1.5質量%以下、Zn:0.10質量%以下のものが好ましい。
【0017】
本発明において、
支持体表面のIRピーク面積比Aを、下記条件、
A≧0.50
とするための手法としては、特に制限はないが、例えば90℃を超える純水による熱水処理及びpH及び浸漬時間を適切にコントロールした塩基性水溶液処理等が挙げられる。
好ましい手法としては、Al及び/又はAl合金で形成された円筒体を純水で浸漬処理する方法が挙げられ、純水の温度が、91℃以上98℃以下、浸漬時間が、60秒以上300秒以下の場合である。
【0018】
<導電層>
本発明において、支持体の上に、導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0019】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0020】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などを更に含有してもよい。
【0021】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0022】
導電層は、上述の各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0023】
<下引き層>
本発明において、支持体又は導電層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
【0024】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0025】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などを更に含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上述の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤を更に含有してもよい。
【0026】
下引き層の平均膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0027】
下引き層は、上述の各材料及び溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0028】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0029】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0030】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0031】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0033】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を更に含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0034】
電荷発生層の平均膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0035】
電荷発生層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0036】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。 電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0038】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0039】
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0040】
電荷輸送層は、上述の各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤または芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0041】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂及び溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0042】
<保護層>
本発明において、感光層の上に、保護層を設けてもよい。保護層を設けることで、耐久性を向上することができる。
保護層は、導電性粒子及び/又は電荷輸送物質と、樹脂とを含有することが好ましい。
【0043】
導電性粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。
電荷輸送物質としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0044】
また、保護層は、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として形成してもよい。その際の反応としては、熱重合反応、光重合反応、放射線重合反応などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。重合性官能基を有するモノマーとして、電荷輸送能を有する材料を用いてもよい。
【0045】
保護層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0046】
保護層の平均膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることが好ましい。
【0047】
保護層は、上述の各材料及び溶剤を含有する保護層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、スルホキシド系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0048】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明のプロセスカートリッジは、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
また、本発明の電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする。
【0049】
図1に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正又は負の所定電位に帯電される。尚、図においては、ローラ型帯電部材によるローラ帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段を別途設けず、上記付着物を現像手段などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、本発明のプロセスカートリッジ11を電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0050】
本発明の電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、及び、これらの複合機などに用いることができる。
【実施例
【0051】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0052】
<表面処理された支持体の製造例>
[製造例1~4]
支持体として、直径30.5mm、長さ370mm、A3003合金のアルミニウム円筒体を用いた。該円筒体を、35℃の界面活性剤(商品名:ケミコールCT、常磐化学(株)製)含有水槽にて80秒間100kHzで超音波洗浄した後、40℃の純水槽にて80秒間100kHzで超音波洗浄した。その後、水温と浸漬時間を適宜調整して純水槽に浸漬することで表面処理を施し支持体を得、支持体表面におけるIRピーク比をA≧0.75となる範囲で変化させた。以上の工程を経て、感光体作製用の表面処理された本発明に係る支持体S1~S4を得た。それぞれの条件を表1に示す。
【0053】
[製造例5~7]
95℃の熱水に180秒浸漬する代わりに、熱水温度と浸漬時間を適宜調整して、IRピーク面積比をA≧0.50かつB≦0.20となる範囲で変化させた。それ以外の条件は製造例1と同様にして、支持体S5~S7を得た。それぞれの条件を表1に示す。
【0054】
[製造例8~11]
95℃の熱水に180秒浸漬する代わりに、熱水温度と浸漬時間を適宜調整して、IRピーク面積比をA≧0.50かつB>0.20となる範囲で変化させた。それ以外の条件は製造例1と同様にして、支持体S8~S11を得た。それぞれの条件を表1に示す。
【0055】
[比較製造例1~5]
水温と浸漬時間を適宜調整して、IRピーク面積比をA<0.50となる範囲で変化させた以外は、製造例1と同様にして支持体R1~R5を得た。それぞれの条件を表1に示す。
【0056】
[比較製造例6]
超音波洗浄をした後に、熱水に浸漬して表面処理を施す代わりに常温の純水に浸漬した以外は、製造例1と同様にして支持体R6を得た。作製条件を表1に示す。
【0057】
[比較製造例7]
超音波洗浄をした後に、熱水に浸漬して表面処理を施す代わりに支持体表面を陽極酸化処理した以外は、製造例1と同様にして支持体R7を得た。陽極酸化は硫酸濃度180g/l、溶存アルミニウム濃度7g/lの電解液を用い、電流密度1.2A/dmで行った。さらに、陽極酸化した支持体を水洗した後に95℃の酢酸ニッケル水溶液に30分浸漬し、封孔処理を施した。作製条件を表1に示す。
【0058】
[比較製造例8]
超音波洗浄をした後に、95℃の熱水に20秒浸漬し、さらに120℃に熱したオーブンで20分間酸化処理を施した以外は、製造例1と同様にして支持体R8を得た。作製条件を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
<電子写真感光体の製造例>
[実施例1]
支持体として、S1を用いた。
酸化亜鉛粒子(比表面積:19m2/g、粉体抵抗:4.7×106Ω・cm)100部をトルエン500部と撹拌混合し、これにシランカップリング剤0.8部を添加し、6時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去して、130℃で6時間加熱乾燥し、表面処理された酸化亜鉛粒子を得た。シランカップリング剤としては、信越化学工業(株)製のKBM-602(化合物名:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン)を用いた。
【0061】
次に、ポリオール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(重量平均分子量:40000、商品名:BM-1、積水化学工業(株)製)15部及びブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住化コベストロウレタン(株)(旧:住化バイエルウレタン(株))製)15部をメチルエチルケトン73.5部と1-ブタノール73.5部の混合溶液に溶解させた。この溶液に上記表面処理された酸化亜鉛粒子80.8部、及び2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン(東京化成工業(株)製)0.8部を加え、これを直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下で3時間分散した。分散後、シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レダウコーニング(株)製)0.01部、及び架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMER SSX-103、積水化成品工業(株)製、平均一次粒径3μm)を5.6部加えて攪拌し、下引き層用塗布液を調製した。
この下引き層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を40分間160℃で乾燥させて、膜厚が18μmの下引き層を形成した。
【0062】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.1°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)4部及び下記式(1)で示される化合物0.04部をシクロヘキサノン100部にポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX-1、積水化学工業(株)製)2部を溶解させた液に加えた。
【化1】
その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いたサンドミルにて温度23±3℃の雰囲気下で1時間分散処理し、分散処理後、酢酸エチル100部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間温度90℃で乾燥させることによって、膜厚が0.21μmの電荷発生層を形成した。
【0063】
次に、下記式(2)で示される化合物(電荷輸送物質)30部、下記式(3)で示される化合物(電荷輸送物質)60部、下記式(4)で示される化合物10部、ポリカーボネート(商品名:ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ビスフェノールZ型)100部、下記式(5)で示される2つの構造単位を有するポリカーボネート(粘度平均分子量Mv:20000)0.02部をo-キシレン272部、安息香酸メチル256部、及び、ジメトキシメタン(メチラール)272部と混合させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を50分間115℃で乾燥させることによって、膜厚18μmの電荷輸送層を形成した。
【化2】
【0064】
次に、下記式(6)で示される化合物95部、下記式(7)で示される化合物であるビニルエステル化合物(東京化成工業(株)製)5部、シロキサン変性アクリル化合物(BYK-3550、ビックケミー・ジャパン(株)製)3.5部、下記式(8)で示されるウレア化合物5部を、1-プロパノール200部及び1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(商品名:ゼオローラH、日本ゼオン(株)製)100部と混合し、撹拌した。
その後ポリフロンフィルター(商品名:PF-020、アドバンテック東洋(株)製)でこの溶液を濾過することによって、表面層用塗布液(保護層用塗布液)を調製した。
この表面層用塗布液を電荷輸送層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間50℃で乾燥させた。その後、窒素雰囲気下にて、加速電圧70kV、ビーム電流5.0mAの条件で支持体(被照射体)を200rpmの速度で回転させながら、1.6秒間電子線を塗膜に照射した。なお、このときの電子線の吸収線量を測定したところ、15kGyであった。その後、窒素雰囲気下にて、塗膜の温度が25℃から117℃になるまで30秒かけて昇温させ、塗膜の加熱を行った。電子線照射から、その後の加熱処理までの酸素濃度は15ppm以下であった。次に、大気中において、塗膜の温度が25℃になるまで自然冷却し、塗膜の温度が105℃になる条件で30分間加熱処理を行い、膜厚5μmの保護層(表面層)を形成した。
【化3】
【0065】
作製した電子写真感光体の表面は、感光体表面に当接されうる部材との摩擦力を低減させるために表面加工処理を施すことも考えられる。表面加工処理は、研磨加工処理、形状加工処理等がある。
【0066】
[評価]
<評価用支持体片の準備>
評価用の支持体片は、表面処理された円筒状の支持体、又は感光層塗布後の電子写真感光体の、支持体上端より180mmの位置から、1cm四方に切り出して準備する。本評価においては、サンプル片を支持体の周方向に8点用意し、それぞれのサンプル片の測定結果の平均値を採用した。感光体から支持体片を採取する際は、支持体表面が露出するように感光層を除去する。除去方法としては、有機溶媒による溶解、バフ研磨機による除去等がある。研磨による除去を行う際は、支持体の最表面が削られすぎないように、感光層の研磨レートから適切な研磨時間・研磨剤を決定する。
【0067】
<表面組成評価>
支持体表面の組成評価方法として、FT-IRスペクトルを使用した。FT-IRスペクトルは、ユニバーサルATR測定アクセサリー(Universal ATR Sampling Accessory)を装着したフーリエ変換赤外分光分析装置(Spectrum One;PerkinElmer社製)を用い、ATR法で測定した。具体的な測定手順と、a、b、z及びA、Bの算出方法は以下の通りである。
赤外光の入射角は45°に設定する。ATR結晶としては、GeのATR結晶(屈折率=4.0)を用いる。その他の条件は以下の通りである。
Range
Start:4000cm-1
End:600cm-1(GeのATR結晶)
Duration
Scan number:16
Resolution:4.00cm-1
Advanced:CO2/H2O補正あり
【0068】
[ピーク強度比の算出方法]
(1)GeのATR結晶(屈折率=4.0)を装置に装着する。
(2)Scan typeをBackground、UnitsをEGYに設定し、バックグラウンドを測定する。
(3)Scan typeをSample、UnitsをAに設定する。
(4)支持体片をATR結晶の上に、表面がATR結晶側になるように設置する。
(5)圧力アームでサンプルを加圧する。(Force Gaugeは80)
(6)サンプルを測定する。
(7)得られたFT-IRスペクトルを、Automatic Correctionでベースライン補正する。
(8)ベースライン補正後のスペクトルを、ATR補正する。
(9)1016cm-1以上1130cm-1以下の範囲の吸収ピーク強度の積分値aを算出する。
(10)831cm-1以上1015cm-1以下の範囲の吸収ピーク強度の積分値bを算出する。
(11)650cm-1以上1130cm-1以下の範囲の吸収ピーク強度の積分値zを算出する。
(12)a/z=Aとする。
(13)b/z=Bとする。
(14)A、Bのそれぞれについて、算出値の大小を評価する。
【0069】
IRスペクトルの概略図を図2に示す。ここで、Aの値が大きい程、長期電位変動をより抑制できることが分かっている。これは、支持体表面における電荷蓄積を起こしにくい組成の割合が大きくなり、長期電位変動の抑制について優位な状態となっているからであると推測される。また、A≧0.5かつB≦0.2の範囲でも、長期電位変動を抑制しやすいことが分かっている。これは、支持体表面における電荷蓄積を起こしやすい組成の割合が小さくなるためであると推測される。
評価結果を表2に示す。
【0070】
<深さ方向組成評価>
深さ方向の組成評価方法として、X線光電子分光法であるESCAを使用した。分析条件は以下の通りである。
使用装置:アルバック・ファイ社製 VersaProbeII
X線源:Al Kα1486.6eV(25W15kV)
測定エリア:φ100μm
分光領域:300×200μm、角度45°
Pass Energy:58.70eV
Step Size:0.125eV
スパッタガス:Ar
スパッタ条件:1kV 4×4
【0071】
以上の条件により測定された各元素のピーク強度から、アルバック・ファイ社提供の相対感度因子を用いて表面原子濃度(atoms%)を算出する。採用した各元素の測定ピークトップ範囲は以下のとおりである。
O:電子軌道1s由来の光電子のエネルギー:525~545eV
Al:電子軌道2p由来の光電子のエネルギー:68~80eV
支持体の最表面のO/Alの元素比率をXとして、X±0.1Xを満たす支持体の最表面から深さ方向への領域をDとして評価した。Dは、40nm以上1μm以下であることが好ましい。Dが40nm未満の場合では、画像欠陥の隠蔽性が落ちたり、長期電位変動の抑制効果が小さくなったりすることがある。又、Dが、1μmより大きい場合では、長期電位変動の抑制効果が小さくなることがあるためである。評価結果を表1に示す。
【0072】
<電気特性評価>
評価装置として、キヤノン社製の電子写真装置(複写機)(商品名:imagePRESS C910)の改造機を用いた。
電子写真感光体の表面電位の測定は、評価装置から現像用カートリッジを抜き取り、そこに電位プローブ(商品名:model6000B-8、トレック社製)を固定し、表面電位計(model344:トレック社製)を使用して行った。
初めに、評価に用いる電子写真感光体の暗部電位(Vd)が-600Vになるように調整した。次に、露光装置の露光光量の条件一定の下、電子写真感光体の表面の明部電位(Vl)を測定した。明部電位の値として、感光体上端から180mm位置において、感光体1周中の平均値を採用し、評価した。次に、27℃/60%RH環境下で、imagePRESS C910を用いて100,000枚通紙を行った後、同様に表面電位の測定を行った。評価基準は下記の通り設定した。
◎:従来に比べ極めて優位である(電位変動5V未満)
〇:従来に比べ優位である(電位変動5V以上10V未満)
●:従来に比べやや優位である(電位変動10V以上15V未満)
△:従来と同等である(電位変動15V以上30V未満)
評価結果を表1に示す。
【0073】
<画像評価>
続いて、露光光量の条件一定の下、A3用紙にハーフトーン画像を出力し、画像欠陥の有無を確認した。評価基準は下記の通り設定した。
〇:画像欠陥が存在しない
△:実用上問題ない画像欠陥が存在する
評価結果を表1に示す。
【0074】
[実施例2~11]
支持体としてS1の代わりにS2~S11を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0075】
[比較例1~8]
支持体としてS1の代わりにR1~R8を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
評価結果より、IRピーク面積Aがより大きい程、長期電位変動を抑制できていることがわかる。加えて、Aが同程度の値を示す場合、IRピーク面積Bがより小さい程、長期電位変動を抑制できていることがわかる。また、いずれの実施例においても、支持体の表面処理が十分になされており、画像欠陥を抑制できていることがわかる。
【符号の説明】
【0078】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段
図1
図2