(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20241209BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20241209BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20241209BHJP
C08G 63/695 20060101ALI20241209BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087 325
C08L67/00
C08L33/04
C08G63/695
C08F220/10
(21)【出願番号】P 2021031660
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020063233
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】石上 恒
(72)【発明者】
【氏名】北村 伸
(72)【発明者】
【氏名】菅原 庸好
(72)【発明者】
【氏名】柴田 隆穂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】大山 一成
(72)【発明者】
【氏名】西村 悠
(72)【発明者】
【氏名】辻本 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中島 良
(72)【発明者】
【氏名】佐野 仁思
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219647(JP,A)
【文献】国際公開第2019/225207(WO,A1)
【文献】特開2012-242448(JP,A)
【文献】特開2002-012657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
C08L 67/00
C08L 33/04
C08G 63/695
C08F 220/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び重合体Aを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は下記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂を含有し、
式(B)中、R
Xは、それぞれ独立して水素原子、メチル基又はフェニル基を表し、
Aは、ポリエステル部位を表し、
Bは、ポリエステル部位、又は、-R
20OH、-R
20COOH、
、及び-R
20NH
2からなる群から選択されるいずれかの官能基を表し、R
20は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
平均繰り返し数nは10~80であり、
該重合体Aが、下記式(I)で表される構造を有する第一のモノマーユニット、及び該第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有し、
式(I)中、R
Z1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表し、
該重合体A中の該第一のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、5.0モル%~60.0モル%であり、
該重合体A中の該第二のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、20.0モル%~95.0モル%であり、
該第一のモノマーユニットのSP値をSP1(J/cm
3)
0.5とし、該第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm
3)
0.5とし、該式(B)で表される構造中の-(Si(R
X)
2O)
n-Si(R
X)
2-で表されるシリコーン部位のSP値をSP3(J/cm
3)
0.5としたとき、下記式(1)~(3)を満たすことを特徴とするトナー。
SP1≦18.4 ・・・(1)
21.0≦SP2 ・・・(2)
SP1-SP3<SP2-SP1 ・・・(3)
【請求項2】
前記第二のモノマーユニットが、下記式(II)及び(III)からなる群から選ばれる少なくとも一である請求項1に記載のトナー。
式(II)中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示す。
R
1は、-C≡N、
-C(=O)NHR
10(R
10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。)、
ヒドロキシ基、
-COOR
11(R
11は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数1~6のヒドロキシアルキル基を表す。)、
-NHCOOR
12(R
12は炭素数1~4のアルキル基を表す)、
-NH-C(=O)-N(R
13)
2(2つのR
13はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。)、
-COO(CH
2)
2NHCOOR
14(R
14は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH
2)
2-NH-C(=O)-N(R
15)
2(2つのR
15はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基を表す。)
である。R
2は、水素原子又はメチル基を表す。
式(III)中、R
3は、炭素数1~4のアルキル基を表し、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。
【請求項3】
前記重合体Aの含有量が、前記結着樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上10.0質量部以下である請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記式(I)において、R
Z1が水素原子であり、Rが、炭素数22のアルキル基である請求項1~3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中の前記シリコーン部位の含有量が、0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項6】
前記式(B)中、R
Xがいずれもメチル基である請求項1~5のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項7】
前記SP2が、下記式(2)’を満たす請求項1~6のいずれか一項に記載のトナー。
25.0≦SP2≦30.0 ・・・(2)’
【請求項8】
前記結着樹脂中の前記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の含有量が、50質量%以上である請求項1~7のいずれか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真方式、静電記録方式、静電印刷方式及びトナージェット方式等に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成に際して、印刷画像の色味安定性の高いトナーが求められている。具体的には、長期の画像出力においても、現像効率を安定させるために、帯電量が変化しにくいトナーが求められている。
例えば、特許文献1にはポリエステル樹脂にシリコーンオイルを結合させた複合ポリエステル樹脂を用いることで、帯電安定性を向上させる取り組みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
夏季長期休暇明け等、空調設備が切れた環境下から複写機を稼働させた際には上記文献に記載のようなトナーも帯電量が低下しており、さらなる改善が必要であることがわかった。
一方で、フルカラー印刷機の印刷市場への適用が始まり、印刷画像の耐画像キズ性が重要視されている。紙との密着性が低いトナーによる印刷画像を爪等で削ると、紙からトナーが剥がれる場合がある。
上記のような複合ポリエステルをトナーのメインバインダーとして使用すると、極性が低いためにトナーと紙との密着性が低くなる。その結果、「画像キズ」が発生し、さらなる改善が必要であることがわかった。
本開示は、帯電安定性をさらに改善し、耐画像キズ性に優れたトナーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、結着樹脂及び重合体Aを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は下記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂を含有し、
下記式(B)中、R
Xは、それぞれ独立して水素原子、メチル基又はフェニル基を表し、
Aは、ポリエステル部位を表し、
Bは、ポリエステル部位、又は、-R
20OH、-R
20COOH、
、及び-R
20NH
2からなる群から選択されるいずれかの官能基を表し、R
20は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
平均繰り返し数nは10~80であり、
該重合体Aが、下記式(I)で表される構造を有する第一のモノマーユニット、及び該第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有し、
下記式(I)中、R
Z1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表し、
該重合体A中の該第一のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニ
ットの総モル数を基準として、5.0モル%~60.0モル%であり、
該重合体A中の該第二のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、20.0モル%~95.0モル%であり、
該第一のモノマーユニットのSP値をSP1(J/cm
3)
0.5とし、該第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm
3)
0.5とし、該式(B)で表される構造中の-(Si(R
X)
2O)
n-Si(R
X)
2-で表されるシリコーン部位のSP値をSP3(J/cm
3)
0.5としたとき、下記式(1)~(3)を満たすトナーに関する。
SP1≦18.4 ・・・(1)
21.0≦SP2 ・・・(2)
SP1-SP3<SP2-SP1 ・・・(3)
【0006】
【発明の効果】
【0007】
本開示は、帯電安定性をさらに改善し、耐画像キズ性に優れたトナーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。
「モノマーユニット」とは、ポリマー中のモノマー物質の反応した形態をいい、ポリマー中のビニル系モノマーが重合した主鎖中の、炭素-炭素結合1区間を1ユニットとする。
ビニル系モノマーとは下記式(Z)で示すことができる。
【化2】
[式(Z)中、Z
1は、水素原子、又はアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基)を表し、Z
2は、任意の置換基を表す。]
結晶性樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)測定において明確な吸熱ピークを示す樹脂を指す。
【0009】
本開示は、結着樹脂及び重合体Aを含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は下記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂を含有し、
下記式(B)中、R
Xは、それぞれ独立して水素原子、メチル基又はフェニル基を表し、
Aは、ポリエステル部位を表し、
Bは、ポリエステル部位、又は、-R
20OH、-R
20COOH、
、及び-R
20NH
2からなる群から選択されるいずれかの官能基を表し、R
20は、単結合又は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
平均繰り返し数nは10~80であり、
該重合体Aが、下記式(I)で表される構造を有する第一のモノマーユニット、及び該第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有し、
下記式(I)中、R
Z1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基を表し、
該重合体A中の該第一のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、5.0モル%~60.0モル%であり、
該重合体A中の該第二のモノマーユニットの含有割合が、該重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、20.0モル%~95.0モル%であり、
該第一のモノマーユニットのSP値をSP1(J/cm
3)
0.5とし、該第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm
3)
0.5とし、該式(B)で表される構造中の-(Si(R
X)
2O)
n-Si(R
X)
2-で表されるシリコーン部位のSP値をSP3(J/cm
3)
0.5としたとき、下記式(1)~(3)を満たすトナーに関する。
SP1≦18.4 ・・・(1)
21.0≦SP2 ・・・(2)
SP1-SP3<SP2-SP1 ・・・(3)
【0010】
【0011】
式(B)で表される構造中の-(Si(RX)2O)n-Si(RX)2-で表される部位、すなわち、式(B)のうちA及びBを除く構造を、シリコーン部位ともいう。
本発明者らが鋭意検討した結果、上記式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂に添加する重合体Aの式(I)で表されるモノマーユニットのモル比率、SP値、SP値の大小関係を特定の範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。
上記課題を解決するに至った理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0012】
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂は、極性が高いポリエステル部位と極性が低いシリコーン部位が結合(例えば、共有結合)した樹脂である。シリコーン部位は極性が低いため、帯電安定性が良好となるが、極性が高いポリエステル部位から電荷漏洩が生じるため、長期間の放置では帯電安定性にさらなる改善が必要であった。さらに、シリコーン部位は紙との密着性が低いため、耐画像キズ性に課題があった。
【0013】
そこで本発明者らは、SP値の高いモノマーユニットが結合した結晶性のビニル系樹脂を式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂に添加したトナーを検討した。その結果、帯電安定性がさらに良好になると共に、耐画像キズ性が良好になることを見出した。
重合体Aの第一のモノマーユニットが上記式(1):SP1≦18.4を満たすと、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のシリコーン部位と重合体Aの第一のモノマーユニットの親和性が高くなる。
重合体Aの第二のモノマーユニットが上記式(2):21.0≦SP2を満たすと、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のポリエステル部位と重合体Aの第二のモノマーユニットの親和性が高くなる。そのため、重合体Aがシリコーン部位の分散剤として機能し、シリコーン部位のトナー中の分散性が向上する。その結果、ポリエステル部位からの電荷漏洩をシリコーン部位が抑制することができ、帯電安定性を良好にすることができた。
また、重合体Aは結晶性樹脂であるため、式(B)で表される構造を有するポリエステ
ル樹脂に比べて定着時に粘性が低くなり、トナー粒子表面に析出する。表面自由エネルギーが小さいシリコーン部位が存在するため、重合体Aは紙に対して溶け拡がることができる。上記式(3):SP1-SP3<SP2-SP1を満たすと、重合体Aの第二のモノマーユニットに対してトナー内部の疎水性が高まり、重合体Aの第二のモノマーユニットは紙側に配向しやすくなるため、紙と擬似的な架橋構造を形成できる。その結果、画像と紙との密着性が向上し、耐画像キズ性が良化する。
【0014】
重合体Aは下記式(I)で表される構造を有する第一モノマーユニット、及び該第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有する。そして、重合体Aは、第一のモノマーユニット中に存在する長鎖アルキル基に由来する結晶性部位を有する。
第一のモノマーユニットは、炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つである第一の重合性単量体に由来する。
上記範囲の炭素数にすることで、重合体Aと、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のシリコーン部位と、の親和性が高まり、帯電安定性及び耐画像キズ性が良好となる。
第一(又は第二)のモノマーユニットは、例えば、第一(又は第二)の重合性単量体が付加重合(ビニル重合)したモノマーユニットである。
【0015】
【0016】
[式(I)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、Rは、炭素数18~36のアルキル基(好ましくは炭素数18~30の直鎖のアルキル基)を表す。]
【0017】
炭素数18~36のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコサニル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸リグノセリル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸オクタコシル、(メタ)アクリル酸ミリシル、(メタ)アクリル酸ドトリアコンチル等]及び炭素数18~36の分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデシル等]が挙げられる。
これらの内、低温定着性の観点から、好ましくは炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一であり、より好ましくは炭素数18~30の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一である。さらに好ましいのは直鎖の(メタ)アクリル酸ステアリル及び(メタ)アクリル酸ベヘニルからなる群から選択される少なくとも一であり、直鎖の(メタ)アクリル酸ベヘニルからなる群から選択される少なくとも一がさらにより好ましい。
第一の重合性単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、重合体A中の第一のモノマーユニットの含有割合は、重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、5.0モル%~60.0モル%である。好ましくは、20.0モル%~40.0モル%である。
含有割合が上記範囲であることで、シリコーン部位をトナー中に分散させることができるため、帯電安定性が良好になると共に、定着時の重合体Aの溶け拡がりが促進されるため、耐画像キズ性が良好となる。
重合体A中の第一のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは40.0質量%~85.0質量%であり、より好ましくは50.0質量%~80.0質量%であり、さらに好ましくは60.0質量%~75.0質量%である。
【0019】
また、重合体A中の第一のモノマーユニットのSP値をSP1(J/cm3)0.5としたとき、下記式(1)を満たす。さらに下記式(1)’を満たすことが好ましい。
SP1≦18.4 ・・・(1)
18.2≦SP1≦18.4 ・・・(1)’
ここで、SP値とは、溶解度パラメータ(solubility parameter)の略であり、溶解性の指標となる値である。算出方法については後述する。
SP値の単位は、(J/cm3)0.5であるが、1(cal/cm3)0.5=2.045×103(J/cm3)0.5によって(cal/cm3)0.5の単位に換算することができる。
第一のモノマーユニットのSP値が上記範囲であることで、第一のモノマーユニットと、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のシリコーン部位と、の親和性が高まり、帯電安定性及び耐画像キズ性が良好となる。
【0020】
また、重合体Aは、第一のモノマーユニットとは異なる第二のモノマーユニットを有する。第二のモノマーユニットのSP値をSP2(J/cm3)0.5としたとき、下記式(2)を満たす。さらに下記式(2)’を満たすことが好ましい。
21.0≦SP2 ・・・(2)
25.0≦SP2≦30.0 ・・・(2)’
第二のモノマーユニットのSP値が上記範囲であることで、第二のモノマーユニットとポリエステル部位との親和性が高まり、帯電安定性が良好になると共に、紙とトナーが架橋構造を形成でき、耐画像キズ性が良好となる。
【0021】
また、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中のシリコーン部位(-(Si(RX)2O)n-Si(RX)2-)のSP値をSP3(J/cm3)0.5としたとき、下記式(3)を満たす。
SP1-SP3<SP2-SP1 ・・・(3)
SP1、SP2及びSP3が上記式を満たすことは、第一のモノマーユニットとシリコーン部位との親和性が、第一のモノマーユニットと第二のモノマーユニットとの親和性よりも高いことを意味する。上記を満たすことで、シリコーン部位のトナー中の分散性が良くなり、帯電安定性が良好になると共に、定着時の重合体Aの溶け拡がりが促進されるため、耐画像キズ性が良好となる。
【0022】
また、重合体A中の第二のモノマーユニットの含有割合は、重合体Aの全モノマーユニットの総モル数を基準として、20.0モル%~95.0モル%である。好ましくは30.0モル%~70.0モル%であり、より好ましくは40.0モル%~60.0モル%である。
含有割合が上記範囲であることで、第二のモノマーユニットとポリエステル部位との親和性が高まり、帯電安定性が良好になると共に、紙と第二のモノマーユニットが架橋構造を形成できるため、耐画像キズ性が良好となる。
重合体A中の第二のモノマーユニットの含有割合は、好ましくは10.0質量%~50.0質量%であり、より好ましくは15.0質量%~40.0質量%であり、さらに好ましくは15.0質量%~30.0質量%である。
【0023】
第二のモノマーユニットは、下記式(II)で表されるモノマーユニット及び下記式(III)で表されるモノマーユニットからなる群から選択される少なくとも一であることが好ましい。
【0024】
【0025】
(式(II)中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示す。
R1は、ニトリル基(-C≡N)、
アミド基(-C(=O)NHR10(R10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。))、
ヒドロキシ基、
-COOR11(R11は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のヒドロキシアルキル基を表す。)、
ウレタン基(-NHCOOR12(R12は炭素数1~4のアルキル基を表す))、
ウレア基(-NH-C(=O)-N(R13)2(2つのR13はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。))、
-COO(CH2)2NHCOOR14(R14は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH2)2-NH-C(=O)-N(R15)2(2つのR15はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。)
である。R2は、水素原子又はメチル基を表す。)
(式(III)中、R3は、炭素数1~4のアルキル基を表し、R4は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0026】
該第二のモノマーユニットが、上記式(II)及び(III)からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことで、ポリエステル部位との親和性が高まり、帯電安定性が良好になると共に、紙との架橋構造を形成できるため、耐画像キズ性が良好となる。
第二のモノマーユニットは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、重合体A中に第一のモノマーユニットを2種以上併用する場合、モノマーユニットの含有割合は、それぞれのモノマーユニットの含有割合を足し合わせた値となる。第二のモノマーユニットに関しても同様である。
【0027】
第二のモノマーユニットを形成する第二の重合性単量体としては、例えば以下のうち、式(2)及び(3)を満たす重合性単量体を用いることができる。第二の重合性単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
ニトリル基を有する単量体;例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
ヒドロキシ基を有する単量体;例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル等。
アミド基を有する単量体;例えば、アクリルアミド、炭素数1~30のアミンとエチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のカルボン酸(アクリル酸及びメタクリル酸等)を公知の方法で反応させた単量体等。
【0028】
ウレタン基を有する単量体;例えば、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~22のアルコール(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、ビニルアルコール等)と、炭素数1~30のイソシアネート[モノイソシアネート化合物(ベンゼンスルフォニルイソシアネート、トシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、t-ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、2-エチルヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、アダマンチルイソシアネート、2,6-ジメチルフェニルイソシアネート、3,5-ジメチルフェニルイソシアネート及び2,6-ジプロピルフェニルイソシアネート等)、脂肪族ジイソシアネート化合物(トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)、脂環族ジイソシアネート化合物(1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート及び水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート等)、及び芳香族ジイソシアネート化合物(フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等)等]とを公知の方法で反応させた単量体、及び
炭素数1~26のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t-ブチルアルコール、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、ノナデシルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、エルシルアルコール等)と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネート[2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル(メタ)アクリレート及び1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等]とを公知の方法で反応させた単量体等。
【0029】
ウレア基を有する単量体;例えば、炭素数3~22のアミン[1級アミン(ノルマルブチルアミン、t-ブチルアミン、プロピルアミン及びイソプロピルアミン等)、2級アミン(ジノルマルエチルアミン、ジノルマルプロピルアミン、ジノルマルブチルアミン等)、アニリン及びシクロキシルアミン等]と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体等。
カルボキシ基を有する単量体;例えば、メタクリル酸、アクリル酸、(メタ)アクリル酸-2-カルボキシエチル等。
【0030】
中でも、ニトリル基、アミド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、又はウレア基を有する単量体を使用することが好ましい。より好ましくは、ニトリル基、アミド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、及びウレア基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体である。
【0031】
第二の重合性単量体として、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルといったビニルエステル類も好ましく用いられる。
【0032】
第二の重合性単量体は、エチレン性不飽和結合を有することが好ましく、エチレン性不飽和結合を一つ有することがより好ましい。
また、第二の重合性単量体は、下記式(C)及び(D)からなる群から選ばれる少なくとも一つであることがより好ましい。
【0033】
【0034】
(式(C)中、Xは単結合又は炭素数1~6のアルキレン基を示す。
R1は、ニトリル基(-C≡N)、
アミド基(-C(=O)NHR10(R10は水素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基を表す。))、
ヒドロキシ基、
-COOR11(R11は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のヒドロキシアルキル基を表す。)、
ウレタン基(-NHCOOR12(R12は炭素数1~4のアルキル基を表す))、
ウレア基(-NH-C(=O)-N(R13)2(2つのR13はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。))、
-COO(CH2)2NHCOOR14(R14は炭素数1~4のアルキル基を表す。)、又は
-COO(CH2)2-NH-C(=O)-N(R15)2(2つのR15はそれぞれ独立して、水素原子若しくは炭素数1~6(好ましくは1~4)のアルキル基を表す。)
である。R2は、水素原子又はメチル基を表す。)
(式(D)中、R3は、炭素数1~4のアルキル基を表し、R4は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0035】
重合体A中に上記第一のモノマーユニットの要件を満たすモノマーユニットが複数種類存在する場合、式(3)におけるSP1の値はそれぞれのモノマーユニットのSP値を加重平均した値とする。例えば、SP値がSP11のモノマーユニットAを第一のモノマーユニットの要件を満たすモノマーユニット全体のモル数を基準としてAモル%含み、SP値がSP12のモノマーユニットBを第一のモノマーユニットの要件を満たすモノマーユニット全体のモル数を基準として(100-A)モル%含む場合のSP値(SP1)は、
SP1=(SP11×A+SP12×(100-A))/100
である。第一のモノマーユニットの要件を満たすモノマーユニットが3以上含まれる場合も同様に計算する。
第二のモノマーユニット及び/又はシリコーン部位が複数存在する場合も、式(3)の計算においては、SP2及び/又はSP3は、SP1と同様に決定される。
【0036】
重合体Aは、ビニル重合体であることが好ましい。ビニル重合体は、例えば、エチレン性不飽和結合を含むモノマーの重合体が挙げられる。エチレン性不飽和結合とは、ラジカル重合することが可能な炭素-炭素二重結合を指し、例えば、ビニル基、プロペニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等が挙げられる。
重合体Aの酸価Avは、30.0mgKOH/g以下であることが好ましく、20.0mgKOH/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、好ましくは0mgKOH/g以上である。酸価が30.0mgKOH/g以下であると、重合体Aの結晶化を阻害しにくく、融点が良好に保たれる。
【0037】
また、重合体Aは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるテトラヒドロフラン(THF)可溶分の重量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、20000以上150000以下であることがより好ましい。Mwが上記範囲内であることで、室温付近での弾性を維持しやすくなる。
また、重合体Aの融点は、50℃以上80℃以下であることが好ましく、53℃以上70℃以下であることがより好ましい。融点が50℃以上であると、帯電安定性が良好になり、80℃以下であると、耐画像キズ性が良好になる。
【0038】
重合体Aは、上述した第一の重合性単量体に由来する第一のモノマーユニット、第二の重合性単量体に由来する第二のモノマーユニットのモル比率を損ねない範囲で、上記式(1)又は(2)のいずれの範囲に含まれない(すなわち、第一の重合性単量体、及び第二の重合性単量体とは異なる)第三の重合性単量体を構成成分とする第三のモノマーユニットを含んでいてもよい。第三のモノマーユニットは第三の重合性単量体が付加重合した構造を有する。
第三の重合性単量体としては、上記第二の重合性単量体の項に挙げた単量体のうち、式(2)を満たさない単量体を用いることができる。
また、上記ニトリル基、アミド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、ウレア基、又はカルボキシ基を有さない、以下の単量体も用いることができる。
例えば、スチレン、o-メチルスチレン等のスチレン及びその誘導体、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシルのような(メタ)アクリル酸エステル類。
第三の重合性単量体は、スチレン、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
なお、これらが、式(2)を満たす場合には、第二の重合性単量体として用いることができる。
【0039】
重合体Aの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上10.0質量部以下が好ましく、3.0質量部以上8.0質量部以下がより好ましい。重合体Aの含有量が上記範囲内にあることにより、重合体Aと式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂との相互作用が促進され、帯電安定性及び耐画像キズ性がより良好となる。
【0040】
第一のモノマーユニットはベヘニルアクリレートに由来するモノマーユニットであることが特に好ましい。すなわち、式(I)において、RZ1が水素原子であり、Rが、炭素数22のアルキル基であることが特に好ましい。
ベヘニルアクリレートを用いることで、式(B)で表される構造を有するポリエステル
樹脂のシリコーン部位をトナー中に分散させ、帯電安定性がより良好となるとともに、定着時の重合体Aの溶け拡がり効果を得ることができ、耐画像キズ性がより良好となる。
【0041】
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂は、-(Si(RX)2O)n-Si(RX)2-で表されるシリコーン部位を有する。すなわち、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂は、下記式(B´)で表されるシリコーン部位を有する。
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中のシリコーン部位の含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。
シリコーン部位の含有量が上記範囲内であることにより、重合体Aとの相互作用によりシリコーン部位のトナー中の分散性が良くなると共に、定着時の表面自由エネルギーを効果的に下げられるため、重合体Aの溶け拡がりを促進できる。
【0042】
【0043】
式(B´)中、RX及びnは、式(B)と同様である。RXは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はフェニル基を表す。nは、シロキサンユニットの繰り返し数の平均値であり、10~80(好ましくは20~65)の整数を表す。)
式(B)及び(B´)中、RXが、いずれもメチル基であることが好ましい。これにより、重合体Aの第一のモノマーユニットとの親和性が高まり、帯電安定性及び耐画像キズ性がより良好となる。
【0044】
トナーに使用される結着樹脂について説明する。
結着樹脂は、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂を含有する。式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂に加え、結着樹脂は、その他の樹脂を含有してもよい。
その他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂、並びにこれらのうち2種以上の樹脂が結合したハイブリッド樹脂等が挙げられる。
結着樹脂中、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の含有量は、50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上が好ましい。上限は特に制限されないが、好ましくは100質量%以下である。これらの数値は任意に組み合わせることができる。式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂が結着樹脂の主成分であることにより、上述した重合体Aとの相互作用を効果的に得ることが可能となる。
【0045】
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂は、式(B´)で表されるシリコーン部位及びポリエステル部位を有する。式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のポリエステル部位は、非晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のポリエステル部位を構成する成分について詳述する。なお、以下の成分は種類や用途に応じて種々のものを一種又は二種以上用いることができる。
ポリエステル部位を構成する2価のカルボン酸成分としては、以下のジカルボン酸又はその誘導体が挙げられる。
フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸のようなベンゼンジカルボン酸類又はその無水物若しくはその低級アルキルエステル;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸のようなアルキルジカルボン酸類又はその無水物若しくはその低級アルキルエステル;炭素数の平均値が1以上50以下のアルケニルコハク酸類又はアルキルコハク酸類、又はその無水物若しくはその低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸のような不飽和ジカルボン酸類又はその無水物若しくはその低級アルキルエステル。
【0046】
一方、ポリエステル部位を構成する2価のアルコール成分としては、以下のものが挙げられる。
エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、水素化ビスフェノールA、式(I-1)で表されるビスフェノール及びその誘導体:及び式(I-2)で示されるジオール類。
【0047】
【0048】
(式中、Rはエチレン又はプロピレン基であり、x、yはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0以上10以下である。)
【0049】
【0050】
(式中、R’はエチレン又はプロピレン基であり、x’、y’はそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x’+y’の平均値は0以上10以下である。)
【0051】
ポリエステル部位の構成成分は、上述の2価のカルボン酸成分及び2価のアルコール成分以外に、3価以上のカルボン酸成分、3価以上のアルコール成分を含有してもよい。
3価以上のカルボン酸成分としては、特に制限されないが、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。また、3価以上のアルコール成分としては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
ポリエステル部位の構成成分は、上述した化合物以外に、1価のカルボン酸成分及び1価のアルコール成分を構成成分として含有してもよい。具体的には、1価のカルボン酸成分としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、テトラコンタン酸、ペンタコンタン酸等が挙げられる。
また、1価のアルコール成分としては、ベヘニルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、テトラコンタノール等が挙げられる。
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中のポリエステル部位の含有量は、95.0質量%以上99.5質量%以下が好ましく、96.0質量%以上98.0質量%以下がより好ましい。
【0052】
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂のシリコーン部位を構成する成分について詳述する。なお、以下の成分は種類や用途に応じて種々のものを一種又は二種以上用いることができる。
シリコーン部位は、前記式(B´)で表される構造(-(Si(RX)2O)n-Si(RX)2-)を有する。
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂にシリコーン部位を形成させる成分としては、式(B´)の末端にポリエステルと化学的に反応する官能基を有するシリコーンオイルを用いる事ができる。ポリエステルと反応する官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0053】
シリコーンオイルの末端の官能基は、ポリエステルとの反応性を制御する上で、ヒドロキシ基又はカルボキシ基が好ましい。
シリコーンオイルの官能基の価数は、好ましくは1価、2価又は3価以上である。ポリエステルの主骨格にシリコーン部位を導入することで、重合体Aとの相互作用を制御し、帯電安定性と耐画像キズ性が良好となることから、シリコーンオイルの両末端に官能基を有する2価のシリコーンオイルを用いる事が好ましい。
より好ましくは、式(B´)の両末端にヒドロキシ基を含む置換基を有するシリコーンオイルである。ヒドロキシ基を含む置換基は、例えば、
-(CH2)p-O-(CH2)q-OH
で表される。式中pは1~3の整数であり、qは1~3の整数である。
【0054】
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、前述の2価のカルボン酸成分及び2価のアルコール成分並びに官能基を有するシリコーンオイルをエステル化反応又はエステル交換反応、及び縮合反応を経て重合し、式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂を製造する。
重合温度は、特に制限されないが、180℃以上290℃以下の範囲が好ましい。ポリエステル樹脂の重合に際しては、例えば、チタン系触媒、スズ系触媒、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の重合触媒を用いることができる。
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の軟化点は、85℃以上150℃以下であることが好ましく、100℃以上150℃以下がより好ましい。式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の軟化点が上記範囲であることにより、帯電安定性が向上すると共に、耐画像キズ性もより良好となる。
【0055】
トナーは、ワックスを含有してもよい。ワックスとしては、例えば以下のものが挙げられる。
低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アルキレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスのような炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスのような炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物;カルナバワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの。
これらのワックスの中でも、低温定着性、耐ホットオフセット性を向上させるという観点で、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスのような炭化水素系ワックス、又はカルナバワックスのような脂肪酸エステル系ワックスが好ましい。
【0056】
ワックスの含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1.0質量部以上20.0質量部以下で使用されることが好ましい。
また、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される昇温時の吸熱曲線において、温度30℃以上200℃以下の範囲に存在するワックスの最大吸熱ピークのピーク温度(融点
)が、50℃以上140℃以下であることが好ましい。より好ましくは、60℃以上105℃以下である。
【0057】
トナーには着色剤を用いてもよい。着色剤としては、以下のものが挙げられる。
黒色着色剤としては、カーボンブラック;イエロー着色剤とマゼンタ着色剤及びシアン着色剤とを用いて黒色に調色したものが挙げられる。着色剤には、顔料を単独で使用してもかまわないが、染料と顔料とを併用してその鮮明度を向上させた方がフルカラー画像の画質の点からより好ましい。
マゼンタトナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48:2、48:3,48:4、49、50、51、52、53、54、55、57:1、58、60、63、64、68、81:1、83、87、88、89、90、112、114、122、123、146、147、150、163、184、202、206、207、209、238、269、282;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バットレッド1、2、10、13、15、23、29、35。
マゼンタトナー用染料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、27;C.I.ディスパーバイオレット1のような油溶染料、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、28のような塩基性染料。
【0058】
シアントナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントブルー2、3、15:2、15:3、15:4、16、17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45、フタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1~5個置換した銅フタロシアニン顔料。
シアントナー用染料としては、C.I.ソルベントブルー70がある。
イエロートナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、62、65、73、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、185;C.I.バットイエロー1、3、20。
イエロートナー用染料としては、C.I.ソルベントイエロー162がある。
着色剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0059】
トナーには、必要に応じて荷電制御剤を含有させることもできる。
ネガ系荷電制御剤としては、サリチル酸金属化合物、ナフトエ酸金属化合物、ジカルボン酸金属化合物、スルホン酸又はカルボン酸を側鎖に持つ高分子型化合物、スルホン酸塩又はスルホン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、カルボン酸塩又はカルボン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンが挙げられる。荷電制御剤はトナー粒子に対して内添してもよいし外添してもよい。
荷電制御剤の添加量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下が好ましい。
【0060】
トナーには、必要に応じて無機微粒子を含有させてもよい。無機微粒子は、トナー粒子
に内添してもよいし、外添剤としてトナー粒子と混合してもよい。
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウムのような無機微粒子が好ましい。より好ましくは、シリカ、チタン酸ストロンチウムのような、低抵抗粒子が現像安定性の観点で望ましい。無機微粒子は、シラン化合物、シリコーンオイル又はそれらの混合物のような疎水化剤で疎水化されていることが好ましい。
流動性向上のための外添剤としては、比表面積が50m2/g以上400m2/g以下の無機微粉末が好ましく、耐久性安定化のためには、比表面積が10m2/g以上50m2/g以下の無機微粉末であることが好ましい。流動性向上や耐久性安定化を両立させるためには、比表面積が上記範囲の無機微粒子を併用してもよい。
外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して0.1質量部以上10.0質量部以下が好ましい。トナー粒子と外添剤との混合は、ヘンシェルミキサーのような公知の混合機を用いることができる。
【0061】
トナーは、一成分系現像剤としても使用できるが、長期にわたり安定した画像が得られるという点で、磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として用いることがより好ましい。
磁性キャリアとしては、例えば、表面を酸化した鉄粉、あるいは、未酸化の鉄粉や、鉄、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、希土類のような金属粒子、それらの合金粒子、酸化物粒子、フェライト等の磁性体や、磁性体と、この磁性体を分散した状態で保持するバインダー樹脂とを含有する磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)等、一般に公知のものを使用できる。
トナーを磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として使用する場合、その際のキャリア混合比率は、二成分系現像剤中のトナー濃度として、好ましくは2質量%以上15質量%以下、より好ましくは4質量%以上13質量%以下にすると通常良好な結果が得られる。
【0062】
[製造方法]
トナー粒子の製造方法は、特に制限されず、乳化凝集法、溶融混練法、溶解懸濁法など従来公知の製造方法を採用できる。
得られたトナー粒子はそのままトナーとして用いてもよい。得られたトナー粒子に対し外添剤を混合(外添)して、トナーを得てもよい。
外添剤は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム等の無機微粒子や、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂粒子等があげられる。これらの無機微粉体や樹脂粒子は、帯電性制御、流動性助やクリーニング助剤等の外添剤として機能する。
混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
以下、溶融混練法における、トナーの製造方法について具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
<溶融混練法>
まず、原料混合工程では、トナー原料として、結着樹脂及び重合体A、並びに必要に応じてワックス、着色剤及びその他の添加剤等を所定量秤量して配合し、混合する。
混合に使用される装置の一例としては、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウタミキサ、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)等がある。
【0064】
次に、得られた混合物を溶融及び混練して、結着樹脂を溶融し、その中に重合体Aなど
を分散させる(溶融混練工程)。
溶融混練に使用される装置の一例としては、TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);ニーデックス(三井鉱山社製)等が挙げられる。連続生産できる等の優位性から、バッチ式練り機よりも、1軸又は2軸押出機といった連続式の練り機が好ましい。
次に、得られた溶融混練物は、2本ロール等で圧延され、水冷等で冷却する。
【0065】
得られた冷却物は、所望の粒径にまで粉砕される。まず、クラッシャー、ハンマーミル、又はフェザーミル等で粗粉砕され、さらに、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)等で微粉砕され、樹脂粒子を得る。
得られた樹脂粒子は、所望の粒径に分級して、トナー粒子としてもよい。分級に使用される装置としては、ターボプレックス、ファカルティ、TSP、TTSP(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)等がある。
【0066】
次に、各物性の測定方法について記載する。
<重合体A中の各モノマーユニットの含有割合の測定方法>
重合体A中の各種重合性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合の測定は、1H-NMRにより以下の条件にて行う。
測定装置 :FT NMR装置 JNM-EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :64回
測定温度 :30℃
試料 :測定試料50mgを内径5mmのサンプルチューブに入れ、溶媒として重クロロホルム(CDCl3)を添加し、これを40℃の恒温槽内で溶解させて調製する。
得られた1H-NMRチャートより、第一のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S1を算出する。同様に、第二のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークの中から、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S2を算出する。
さらに、第三のモノマーユニットを有する場合は、第三のモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークから、他に由来するモノマーユニットの構成要素に帰属されるピークとは独立したピークを選択し、このピークの積分値S3を算出する。
第一のモノマーユニットの含有割合は、上記積分値S1、S2、及びS3を用いて、以下のようにして求める。なお、n1、n2、n3はそれぞれの部位について着眼したピークが帰属される構成要素における水素の数である。
第一のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S1/n1)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
同様に、第二のモノマーユニット、第三のモノマーユニットの含有割合は以下のように求める。
第二のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S2/n2)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
第三のモノマーユニットの含有割合(モル%)=
{(S3/n3)/((S1/n1)+(S2/n2)+(S3/n3))}×100
なお、重合体Aにおいて、ビニル基以外の構成要素に水素原子が含まれない重合性単量体が使用されている場合は、13C-NMRを用いて測定原子核を13Cとし、シングルパルスモードにて測定を行い、1H-NMRにて同様にして算出する。
また、トナーが懸濁重合法によって製造される場合、離型剤やその他の樹脂のピークが重なり、独立したピークが観測されないことがある。それにより、重合体A中の各種重合
性単量体に由来するモノマーユニットの含有割合が算出できない場合が生じる。その場合、離型剤やその他の樹脂を使用しないで同様の懸濁重合を行うことで、重合体A’を製造し、重合体A’を重合体Aとみなして分析することができる。
【0067】
<SP値の算出方法>
SP1及びSP2などのSP値は、Fedorsによって提案された算出方法に従い、以下のようにして求める。
それぞれの重合性単量体について、分子構造中の原子又は原子団に対して、「Polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」に記載の表から蒸発エネルギー(Δei)(cal/mol)及びモル体積(Δvi)(cm3/mol)を求め、(4.184×ΣΔei/ΣΔvi)0.5をSP値(J/cm3)0.5とする。
なお、SP1、SP2は、該重合性単量体の二重結合が重合によって開裂した状態の分子構造の原子又は原子団に対して、上記の算出方法によって算出する。
【0068】
<結着樹脂のガラス転移温度(Tg)、重合体Aの融解ピーク温度(融点)の測定>
結着樹脂、重合体Aなど樹脂のTg及び融点は、示差走査熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、樹脂約3mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用いて、以下の条件で測定する。
昇温速度:10℃/min
測定開始温度:30℃
測定終了温度:180℃
測定範囲30~180℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。一度180℃まで昇温させ10分間保持し、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程で、温度30~100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、樹脂のガラス転移温度(Tg)とする。
さらに、温度40℃~90℃の範囲における温度―吸熱量曲線の最大吸熱ピークになる温度を融解ピーク温度(Tp)とする。
【0069】
<軟化点Tmの測定方法>
軟化点の測定は、定荷重押し出し方式の細管式レオメータ「流動特性評価装置 フローテスターCFT-500D」(島津製作所社製)を用い、装置付属のマニュアルに従って行う。本装置では、測定試料の上部からピストンによって一定荷重を加えつつ、シリンダに充填した測定試料を昇温させて溶融し、シリンダ底部のダイから溶融された測定試料を押し出し、この際のピストン降下量と温度との関係を示す流動曲線を得ることができる。
「流動特性評価装置 フローテスターCFT-500D」に付属のマニュアルに記載の「1/2法における溶融温度」を軟化点とする。なお、1/2法における溶融温度とは、次のようにして算出されたものである。まず、流出が終了した時点におけるピストンの降下量Smaxと、流出が開始した時点におけるピストンの降下量Sminとの差の1/2を求める(これをXとする。X=(Smax-Smin)/2)。そして、流動曲線においてピストンの降下量がXとSminの和となるときの流動曲線の温度が、1/2法における溶融温度Tm(℃)である。
測定試料は、約1.3gのサンプルを、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機(例えば、NT-100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて約10MPaで、約60秒間圧縮成型し、直径約8mmの円柱状としたものを用いる。
CFT-500Dの測定条件は、以下の通りである。
試験モード:昇温法
開始温度:50℃
到達温度:200℃
測定間隔:1.0℃
昇温速度:4.0℃/min
ピストン断面積:1.000cm2
試験荷重(ピストン荷重):10.0kgf/cm2(0.9807MPa)
予熱時間:300秒
ダイの穴の直径:1.0mm
ダイの長さ:1.0mm
【0070】
<GPCによる重合体Aの分子量測定>
重合体AのTHF可溶分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
まず、室温で24時間かけて、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マイショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。なお、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF-801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10ml
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-8
0、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソ-社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0071】
<重合体Aの酸価の測定>
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。重合体Aの酸価はJIS K 0070-1992に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
(1)試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95体積%)90mLに溶かし、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
特級水酸化カリウム7gを5mLの水に溶かし、エチルアルコール(95体積%)を加えて1Lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。該水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/L塩酸25mLを三角フラスコに取り、該フェノールフタレイン溶液を数滴加え、該水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した該水酸化カリウム溶液の量から求める。該0.1モル/L塩酸は、JIS K 8001-1998に準じて作製されたものを用いる。
(2)操作
(A)本試験
粉砕した重合体Aの試料2.0gを200mLの三角フラスコに精秤し、トルエン/エ
タノール(2:1)の混合溶液100mLを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として該フェノールフタレイン溶液を数滴加え、該水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。なお、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
A=[(C-B)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料の質量(g)である。
【0072】
<トナー粒子の重量平均粒径(D4)の測定>
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
なお、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0073】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー粒子約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音
波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカー内に、ピペットを用いてトナー粒子を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【0074】
<トナーからの各材料の分離方法>
トナーに含まれる各材料の溶剤への溶解度の差を利用して、トナーから各材料を分離することができる。
第一分離:23℃のメチルエチルケトン(MEK)にトナーを溶解させ、可溶分(式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂)と不溶分(重合体A、ワックス、着色剤、無機微粒子など)を分離する。
第二分離:100℃のMEKに、第一分離で得られた不溶分(重合体A、ワックス、着色剤、無機微粒子など)を溶解させ、可溶分(重合体A、ワックス)と不溶分(着色剤、無機微粒子など)を分離する。
第三分離:23℃のクロロホルムに、第二分離で得られた可溶分(重合体A、ワックス)を溶解させ、可溶分(重合体A)と不溶分(ワックス)を分離する。
上記分離に基づき、各材料の分析及び各材料の含有量の算出が可能である。
【0075】
<式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の構造の確認>
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂の構造の確認には以下の方法を用いる。
式(B)のRXのうちの炭化水素基並びにシリコーン部位は、13C-NMR及び固体29Si-NMRにより確認する。
(13C-NMRの測定条件)
装置:JEOL RESONANCE製 JNM-ECX500II
試料管:3.2mmφ
試料:NMR測定用の試料の重クロロホルム可溶分
測定温度:室温
パルスモード:CP/MAS
測定核周波数:123.25MHz(13C)
基準物質:アダマンタン(外部標準:29.5ppm)
試料回転数:20kHz
コンタクト時間:2ms
遅延時間:2s
積算回数:1024回
当該方法にて、ケイ素原子に結合しているメチル基(Si-CH3)又はフェニル基(Si-C6H5)などに起因するシグナルの有無により、式(B)のRXのうちの炭化水素基を確認する。
【0076】
固体29Si-NMRの測定条件は、具体的には下記の通りである。
装置:JNM-ECX5002 (JEOL RESONANCE)
温度:室温
測定法:DD/MAS法 29Si 45°
試料管:ジルコニア3.2mmφ
試料:試験管に粉末状態で充填
試料回転数:10kHz
relaxation delay :180s
Scan:2000
【0077】
<式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中のシリコーン部位の含有量の測定>
式(B)で表される構造を有するポリエステル樹脂中のシリコーン部位及び重合体Aの含有量は上述した装置を用いて、1H-NMRにより確認する。
(1H-NMRの測定条件)
試料:重クロロホルム可溶分
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数:64回
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、以下の処方において、特に断りのない限り部は、質量基準である。
【0079】
<結着樹脂P1の製造例>
・ビスフェノールAエチレンオキサイド(2.2モル付加物): 50.0モル部
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド(2.2モル付加物): 50.0モル部
・テレフタル酸: 90.0モル部
・無水トリメリット酸: 10.0モル部
ポリエステル部位を形成するための上記モノマー97部及び両末端にヒドロキシ基を有するシリコーンオイル(KF-6001、信越化学工業(株)製)3部を、チタンテトラブトキシド500ppmと共に5リットルオートクレーブに混合した。
そこに、還流冷却器、水分分離装置、N2ガス導入管、温度計及び攪拌装置を付し、オートクレーブ内にN2ガスを導入しながら230℃で縮重合反応を行った。所望の軟化点になるように反応時間を調整し、反応終了後容器から取り出し、冷却、粉砕して結着樹脂P1を得た。
結着樹脂P1中のシリコーン部位の含有量は、3.0質量%であった。物性を表1に示す。
【0080】
<結着樹脂P2~P8の製造例>
シリコーン部位の含有量が表1に示す値になるようにシリコーンオイルの添加量を変更し、反応時間を調整してTm、Tgを変更した以外は結着樹脂P1の製造例に従い、結着樹脂P2~P8を得た。
【0081】
【表1】
KF-6001により、式(B)において、R
Xがいずれもメチル基であり、nが38
である構造が得られる。
BPA-PO ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(平均付加モル数2.2mol)
BPA-EO ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(平均付加モル数2.2mol)
TPA テレフタル酸
TMA 無水トリメリット酸
【0082】
<重合体A1の製造例>
・溶媒:トルエン 100.0部
・単量体組成物 100.0部
(単量体組成物は以下のアクリル酸ベヘニル・メタクリロニトリル・スチレンを以下に示す割合で混合したものである)
(アクリル酸ベヘニル(第一単量体) 67.0部(28.9モル%))
(メタクリロニトリル(第二単量体) 22.0部(53.8モル%))
(スチレン(第三単量体) 11.0部(17.3モル%))
・重合開始剤t-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV) 0.5部
還流冷却管、攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、上記材料を投入した。反応容器内を200rpmで撹拌しながら、70℃に加熱して12時間重合反応を行い、単量体組成物の重合体がトルエンに溶解した溶解液を得た。続いて、上記溶解液を25℃まで降温した後、1000.0部のメタノール中に上記溶解液を撹拌しながら投入し、メタノール不溶分を沈殿させた。得られたメタノール不溶分をろ別し、更にメタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥して重合体A1を得た。重合体A1の重量平均分子量は68400、融解ピーク温度(融点)は62℃、酸価0.0mgKOH/gであった。
上記重合体A1をNMRで分析したところ、アクリル酸ベヘニル由来のモノマーユニットが28.9モル%、メタクリロニトリル由来のモノマーユニットが53.8モル%、スチレン由来のモノマーユニットが17.3モル%含まれていた。また、モノマーユニットのSP値を算出した。
【0083】
<重合体A2~A17の製造例>
重合体A1の製造例において、それぞれの単量体及び質量部数を表2となるように変更した以外は同様にして反応を行い、重合体A2~A17を得た。物性を表2に示す。
【0084】
【表2】
表中、「1st」は第一のモノマーユニット(重合性単量体)を、「2nd」は第二の
モノマーユニット(重合性単量体)を、「3rd」は第三のモノマーユニット(重合性単量体)を示す。酸価の単位はmgKOH/gであり、融点の単位は℃であり、分子量は重量平均分子量である。
【0085】
表2中の略号は以下の通り。
BEA:ベヘニルアクリレート
SA:ステアリルアクリレート
MYA:ミリシルアクリレート
OA:オクタコシルアクリレート
HA:ヘキサデシルアクリレート
MN:メタクリロニトリル
AN:アクリロニトリル
HPMA:メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル
AM:アクリルアミド
VA:酢酸ビニル
MA:アクリル酸メチル
St:スチレン
MM:メタクリル酸メチル
【0086】
<トナー1の製造例>
・結着樹脂P1 100.0部
・重合体A1 5.0部
・フィッシャートロプシュワックス(最大吸熱ピークのピーク温度90℃)6.0部
・C.I.ピグメントブルー15:3 9.0部
該処方で示した原材料をヘンシェルミキサー(FM75J型、三井三池化工機(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、温度130℃、バレル回転数200rpmに設定した二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(T-250、ターボ工業(株)製)にて微粉砕した。さらに回転型分級機(200TSP、ホソカワミクロン社製)を用い、分級を行い、トナー粒子1を得た。得られたトナー粒子1の重量平均粒径(D4)は6.5μmであった。
得られたトナー粒子1:100.0部に、疎水性シリカ(BET:200m2/g)2.0部をヘンシェルミキサー(FM75J型、三井三池化工機(株)製)で回転数30s-1、回転時間5minで混合し、目開き54μmの超音波振動篩を通過させトナー1を得た。
【0087】
<トナー2~31の製造例>
トナー1の製造例において、結着樹脂及び重合体Aの種類及び量を表3に記載のものに変更した以外は同様にして製造し、トナー2~31を得た。得られたトナー粒子2~31の重量平均粒径(D4)は、いずれも6.5μmであった。
【0088】
【0089】
<磁性コア粒子の製造例>
(工程1:秤量・混合工程)
・Fe2O3 62.7部
・MnCO3 29.5部
・Mg(OH)2 6.8部
・SrCO3 1.0部
上記材料を上記組成比となるようにフェライト原材料を秤量した。その後、直径1/8インチのステンレスビーズを用いた乾式振動ミルで5時間粉砕及び混合した。
(工程2:仮焼成工程)
得られた粉砕物をローラーコンパクターにて、約1mm角のペレットにした。このペレットを目開き3mmの振動篩にて粗粉を除去し、次いで目開き0.5mmの振動篩にて微粉を除去した。その後、バーナー式焼成炉を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度0.01体積%)で、温度1000℃で4時間焼成し、仮焼フェライトを作製した。得られた仮焼フェライトの組成は、下記のとおりであった。
(MnO)a(MgO)b(SrO)c(Fe2O3)d
上記式において、a=0.257、b=0.117、c=0.007、d=0.393
【0090】
(工程3:粉砕工程)
仮焼フェライトをクラッシャーで0.3mm程度に粉砕した後に、直径1/8インチのジルコニアビーズを用い、仮焼フェライト100部に対し、水を30部加え、湿式ボールミルで1時間粉砕した。さらに、得られたスラリーを、直径1/16インチのアルミナビ
ーズを用いた湿式ボールミルで4時間粉砕し、フェライトスラリー(仮焼フェライトの微粉砕品)を得た。
(工程4:造粒工程)
フェライトスラリーに、仮焼フェライト100部に対して分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム1.0部、及びバインダーとしてポリビニルアルコール2.0部を添加した。そして、スプレードライヤー(製造元:大川原化工機(株))を用いて、球状粒子に造粒した。得られた粒子を粒度調整した後、ロータリーキルンを用いて、温度650℃で2時間加熱し、分散剤やバインダーの有機成分を除去した。
【0091】
(工程5:焼成工程)
焼成雰囲気をコントロールするために、電気炉にて窒素雰囲気下(酸素濃度1.00体積%)で、室温から温度1300℃まで2時間で昇温し、その後、温度1150℃で4時間焼成した。その後、4時間をかけて、温度60℃まで降温し、窒素雰囲気から大気に戻し、温度40℃以下で取り出した。
(工程6:選別工程)
凝集した粒子を解砕した後に、磁力選鉱により低磁力品をカットし、目開き250μmの篩で篩分して粗大粒子を除去し、体積分布基準のメジアン径が37.0μmの磁性コア粒子1を得た。
【0092】
[被覆樹脂の調製]
・シクロヘキシルメタクリレート 26.8質量%
・メチルメタクリレート 0.2質量%
・メチルメタクリレートマクロモノマー 8.4質量%
(片末端にメタクリロイル基を有する重量平均分子量5000のマクロモノマー)
・トルエン 31.3質量%
・メチルエチルケトン 31.3質量%
・アゾビスイソブチロニトリル 2.0質量%
上記材料のうち、シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートマクロモノマー、トルエン、及びメチルエチルケトンを、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた四つ口のセパラブルフラスコに入れた。
セパラブルフラスコ内に、窒素ガスを導入して窒素ガスで系内を置換した。その後、温度80℃まで加温し、アゾビスイソブチロニトリルを添加して5時間還流し重合させた。
得られた反応物にヘキサンを注入して共重合体を沈殿析出させ、沈殿物を濾別後、真空乾燥して被覆樹脂1を得た。得られた被覆樹脂1:30部を、トルエン40部、メチルエチルケトン30部に溶解させて、重合体溶液1(固形分30質量%)を得た。
【0093】
[被覆樹脂溶液の調製]
・重合体溶液1(樹脂固形分濃度30%) 33.3質量%
・トルエン 66.4質量%
・カーボンブラック 0.3質量%
(一次粒径25nm、窒素吸着比表面積94m2/g、DBP吸油量75mL/100g)
上記材料を、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーで1時間分散を行った。得られた分散液を、5.0μmのメンブランフィルターで濾過を行い、被覆樹脂溶液1を得た。
【0094】
[磁性キャリアの製造例]
(樹脂被覆工程)
常温で維持されている真空脱気型ニーダーに被覆樹脂溶液1を磁性コア粒子1:100部に対して樹脂成分として2.5部になるように投入した。投入後、回転速度30rpm
で15分間撹拌し、溶媒が一定以上(80質量%)揮発した後、減圧混合しながら温度80℃まで昇温し、2時間かけてトルエンを留去した後冷却した。
得られた磁性キャリアを、磁力選鉱により低磁力品を分別し、開口70μmの篩を通した後、風力分級器で分級し、体積分布基準のメジアン径が38.2μmの磁性キャリア1を得た。
【0095】
<二成分系現像剤1~31の製造例>
トナー1~31のそれぞれと磁性キャリア1(個数平均粒径35μm)とで、トナー濃度が9質量%になるようにV型混合機(V-10型:株式会社徳寿製作所)で0.5s-1、5分間で混合し、二成分系現像剤1~31を得た。
【0096】
<トナー評価>
評価を行う画像形成装置として、キヤノン製フルカラー複写機imagePRESS C800改造機を用いた。この画像形成装置は、像坦持体として静電潜像を形成させる感光体を有し、感光体の静電潜像を二成分現像器によりトナー像として現像する現像工程を有する。さらに、現像されたトナー像を中間転写体に転写し、その後に中間転写体のトナー像を紙に転写する転写工程を有し、紙上のトナー像を熱により定着する定着工程を有する。該画像形成装置は、定着の温度やプロセススピードを変更できるように改造を行った。
【0097】
[帯電安定性評価]
静電潜像担持体上のトナーの電荷量を、ファラデー・ケージ(Faraday-Cage)によって測定し、帯電安定性の評価を行った。
ファラデー・ケージとは、同軸の2重筒のことで内筒と外筒は絶縁されている。この内筒の中に電荷量Qの帯電体を入れたとすると、静電誘導によりあたかも電荷量Qの金属円筒が存在するのと同様になる。この誘起された電荷量をエレクトロメーター(ケスレー6517A ケスレー社製)で測定し、内筒中のトナー質量M(kg)で電荷量Q(mC)を割ったもの(Q/M)を単位質量当たりの電荷量とした。
紙:CS-680(68.0g/m2)(キヤノンマーケティングジャパン株式会社)
評価画像:上記A4用紙の中心に2cm×5cmの画像を配置
紙上のトナーの載り量:0.35mg/cm2
(現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、及びレーザーパワーにより調整)
試験環境:高温高湿環境(温度30℃/湿度80%RH(以下H/H))
プロセススピード:377mm/s
上記画像形成装置のシアンステーションの現像器に、二成分系現像剤1を投入し、評価を行った。評価機の安定化として、画像比率0.1%の帯チャートを用いて、A4用紙に10枚出力を行った。
その後、静電潜像担持体上に上記評価画像を形成し、中間転写体に転写される前に、静電潜像担持体の回転を止め、静電潜像担持体上のトナーを、金属円筒管と円筒フィルターにより吸引捕集した。その際金属円筒管を通じてコンデンサーに蓄えられた電荷量Q及び捕集されたトナー質量Mを測定し、それより単位質量当たりの電荷量Q/M(mC/kg)を計算し、初期の静電潜像担持体上Q/M(mC/kg)を測定した。
引き続き、H/H環境において評価機内に現像器を入れたまま2週間放置した後、評価機を起動してすぐに、放置前と同様の操作の方法で、放置後の静電潜像担持体上Q/M(mC/kg)を測定した。そして、下記式を用いて、耐久後の静電潜像担持体上Q/Mの維持率を算出した。得られた耐久後の静電潜像担持体上Q/Mの維持率を下記の評価基準に従って評価した。
耐久後の静電潜像担持体上Q/Mの維持率=
{耐久後の静電潜像担持体上Q/M/初期の静電潜像担持体上Q/M}×100
(評価基準)
A:Q/M維持率が95%以上
B:Q/M維持率が90%以上95%未満
C:Q/M維持率が85%以上90%未満
D:Q/M維持率が80%以上85%未満
E:Q/M維持率が75%以上80%未満
F:Q/M維持率が75%未満
【0098】
[耐画像キズ性評価]
紙:SPLENDLUX135(135.0g/m2)(Fedrigoni社製)
評価画像:上記A4用紙の中心に2cm×15cmの画像を配置
紙上のトナー載り量:0.90mg/cm2
(現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、及びレーザーパワーにより調整)
試験環境:常温常湿環境下(温度23℃湿度50%RH(以下N/N))
プロセススピード:248mm/s
上記画像形成装置のシアンステーションとマゼンタステーションの現像器に、二成分現像剤1を投入し、評価を行った。定着温度170℃で、上記評価画像を印刷した。
上記評価画像が形成された記録紙を、新東科学株式会社製の表面性試験機HEIDON
TYPE14FWを用い、200gの重りを乗せ、Φ0.75mmの針で速度60mm/min、長さ30mmで引掻き、画像キズ性を評価した。なお、トナーが剥がれた面積比率は画像処理により、2値化して求めた。
(評価基準)
A:画像キズがない。
B:画像キズが発生。トナーが剥がれた面積比率1.0%未満
C:画像キズが発生。トナーが剥がれた面積比率1.0%以上2.0%未満
D:画像キズが発生。トナーが剥がれた面積比率2.0%以上4.0%未満
E:画像キズが発生。トナーが剥がれた面積比率4.0%以上6.0%未満
F:画像キズが発生。トナーが剥がれた面積比率6.0%以上
【0099】
二成分現像剤2~31についても二成分現像剤1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0100】