IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関西ペイント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20241209BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20241209BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241209BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241209BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20241209BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241209BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D5/06 B
B05D5/06 G
B05D7/24 303B
C09D5/00 D
C09D7/41
C09D7/61
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021039499
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022008000
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2020047664
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020184042
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権谷 晴之
(72)【発明者】
【氏名】柳館 直人
(72)【発明者】
【氏名】新小田 尚一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 亨
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-060698(JP,A)
【文献】特開平04-246478(JP,A)
【文献】特開平05-293434(JP,A)
【文献】特開平11-221881(JP,A)
【文献】特開平11-302549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0171375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して、波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(2):該第1着色塗膜上に、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法であって、
前記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が10%以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記第2着色塗膜の硬化膜厚(μm)と、第2着色塗料(Y)中のカーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度(%)を乗じた値が、5~25の範囲内である請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記第2着色塗料(Y)中のカーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度が、0.2~5%の範囲内である請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記第2着色塗料(Y)が前記ペリレンブラック顔料(B1)を含有し、該ペリレンブラック顔料(B1)の顔料重量濃度が、3~12%の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記第2着色塗料(Y)が前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料、及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)を含有し、該顔料(B2)の合計顔料重量濃度が、3~12%の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年03月18日に出願された、日本国特許出願第2020-047664号明細書及び2020年11月04日に出願された、日本国特許出願第2020-184042号明細書(これらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。本発明は、複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代自動車技術の重要技術として、自動運転に注目が集まっている。自動運転を可能にするためには、様々なセンシング技術を活用する必要があり、その中の一つとして、LIDAR(Light Detection and Ranging)が挙げられる。LIDARは、赤外線レーザーを照射し、対象物から戻ってきた反射光を検出することで対象物までの距離を測定することができ、中長距離用の高精度センサーとして、有用である。
【0003】
例えば、特許文献1には、光検出と測距(LIDAR)装置であって、ターゲット走査領域と関連する方位の範囲を走査するように、光線を発射する、光源と、前記光線を受光し、前記ターゲット走査領域に向けてリダイレクトするように配置される第1の微小電気機械システム(MEMS)ミラーであって、前記光源に対して複数の方向に傾動して、前記光線を複数の角度でリダイレクトするように配置される、第1のMEMSミラーと、前記ターゲット走査領域内に位置する一つ又は複数の対象から反射された光線を受光する光検出器であって、前記第1のMEMSミラーが傾動することにより、前記光源が発射した前記光線を複数の角度で反射すると共に、光検出器に、複数の角度で反射された光線を受光させて、前記一つ又は複数の対象の多角度分解能を取得する、光検出器と、を含む、光検出と測距(LIDAR)装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-132524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LIDARは、赤外線レーザーを照射し、対象物から戻ってきた反射光を検出することで対象物までの距離を測定するセンシング技術であるため、赤外線レーザーの反射が弱い対象物(例えば黒色のような漆黒性の高い対象物)に対しては、検出感度が著しく低下してしまうという問題がある。
【0006】
一方で、自動車塗色として、漆黒性に優れた塗色は高級感が醸し出されるとして人気の高い色である。このため、需要が多く、漆黒性に優れた塗色でも赤外線レーザーを反射できることが求められている。
【0007】
また、塗装には、美観の付与とともに素材の保護も求められており、高い耐水性等の優れた塗膜性能が必要となる。
【0008】
したがって、本発明は、漆黒性に優れ、赤外線レーザーの反射率が高く、かつ、高い塗膜性能を発揮できる複層塗膜を形成することができる複層塗膜形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の項に記載の主題を包含する。
【0010】
項1.工程(1):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して、波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(2):該第1着色塗膜上に、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法であって、
前記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が10%以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【0011】
項2.前記第2着色塗膜の硬化膜厚(μm)と、第2着色塗料(Y)中のカーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度(%)を乗じた値が、5~25の範囲内である項1に記載の複層塗膜形成方法。
【0012】
項3.前記第2着色塗料(Y)中のカーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度が、0.2~5%の範囲内である項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。
【0013】
項4.前記第2着色塗料(Y)が前記ペリレンブラック顔料(B1)を含有し、該ペリレンブラック顔料(B1)の顔料重量濃度が、3~12%の範囲内である項1~3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【0014】
項5.前記第2着色塗料(Y)が前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料、及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)を含有し、該顔料(B2)の合計顔料重量濃度が、3~12%の範囲内である項1~3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複層塗膜形成方法によれば、漆黒性に優れ、赤外線レーザーの反射率が高く、かつ、耐水性等の優れた塗膜性能を示す複層塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
工程(1)
本発明の方法によれば、まず、工程(1)において、第1着色塗料(X)が塗装され、第1着色塗膜が形成される。第1着色塗料(X)は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率を高める塗料であって、酸化チタン顔料を含有する。
【0017】
上記酸化チタン顔料の含有量は、下地の隠蔽性及び赤外線レーザーの反射率を高める複層塗膜を得る等の観点から、第1着色塗料(X)中の樹脂固形分100質量部を基準として、1~150質量部の範囲内であることが好ましく、20~120質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0018】
上記第1着色塗膜は、波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上である。
【0019】
本明細書において、拡散反射率とは、積分球を搭載した分光光度計(島津製作所製、商品名、「Solid Spec 3700」)を使用して測定される鏡面反射を含まない(SCE:Specular Component Excluded)反射率であって、標準白板の反射率を100%とした場合の反射率(相対反射率)である。また、標準白板として、フッ素系樹脂(Labsphere社製商品名、Spectralon(スペクトラロン))を使用する。
【0020】
上記第1着色塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上であることにより、赤外線レーザーの反射率の高い複層塗膜を形成することができる。
【0021】
上記第1着色塗膜の波長905nmにおける拡散反射率は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率を高める観点から、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。上記第1着色塗膜の波長905nmにおける拡散反射率の上限は限定されないが、例えば、99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下等が挙げられる。
【0022】
前記第1着色塗膜の波長1550nmにおける拡散反射率は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率を高める観点から、45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましい。上記第1着色塗膜の波長1550nmにおける拡散反射率の上限は限定されないが、例えば、99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下等が挙げられる。
【0023】
また、上記第1着色塗膜はLh表色系における明度L(45°)は、赤外線レーザーの反射率を高める観点から、55以上であることが好ましく、75以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましい。
【0024】
「Lh表色系」は、1976年に国際照明委員会で規定され且つJIS Z 8781-4(2013)においても採用されているL表色系を極座標表示したものであって、L値は明度を表し、C値は原点からの距離としての彩度を表し、そしてh値はL表色系におけるa赤方向の軸を0°として、ここから反時計方向の色相に対して移動した色相角度を表す。
【0025】
ここで、明度L(45°)は、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に45°の角度で受光した光について測定した明度Lを表し、多角度分光光度計(x-rite社製、商品名、「MA-68II」)を使用し、分光反射率から計算された明度の数値として定義する。
【0026】
第1着色塗料(X)は、酸化チタン顔料に加え、さらに、樹脂成分、水及び/又は有機溶剤からなる媒体とを含有する塗料であることが好ましい。
【0027】
前記樹脂成分は通常、基体樹脂及び硬化剤を含有するものであり、当該分野で慣用されている公知の樹脂や化合物を使用することができる。基体樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0028】
第1着色塗料(X)は、水性塗料及び溶剤系塗料のいずれであってもよいが、環境負荷軽減の観点から、水性塗料であることが好ましい。第1着色塗料(X)が水性塗料である場合、上記基体樹脂として、樹脂を水溶性化もしくは水分散するのに十分な量の親水性基、例えばカルボキシル基、水酸基、メチロール基、アミノ基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン基等、最も好ましくはカルボキシル基を含有する樹脂を使用し、該親水性基を中和することにより基体樹脂を水溶性化もしくは水分散化することができる。
【0029】
第1着色塗料(X)はさらに、所望により、酸化チタン顔料以外の着色顔料、体質顔料、光輝性顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、表面調整剤等を適宜含有してもよい。
【0030】
上記酸化チタン顔料以外の着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化亜鉛、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、複合金属酸化物顔料等が挙げられる。なかでも、形成される複層塗膜の下地の隠蔽性の観点からは、カーボンブラックを使用することが好ましく、形成される複層塗膜の明度および赤外線レーザーの反射率の観点からは、黒色の複合金属酸化物顔料を使用することが好ましい。
【0031】
上記黒色の複合金属酸化物顔料は、2種以上の元素の金属酸化物の複合体から成る黒色の焼成顔料である。具体的には、例えば、Ca-Ti-Mn系、Fe-Cr系、Mn-Bi系等の酸化物を挙げることができる。
【0032】
また、上記黒色の複合金属酸化物顔料の市販品としては、例えば、「タイぺークブラックSG-101」(Ca-Ti-Mn系、石原産業社製)、「Black 30C940」(Fe-Cr系、Shepherd社製)、「Black 6350」(Fe-Cr系、旭日産業社製)、「Black 6301」(Mn-Bi系、旭日産業社製)、「Black 9596」(Fe-Cr系、大日精化工業社製)等を挙げることができる。
【0033】
第1着色塗料(X)が上記酸化チタン顔料以外の着色顔料を含有する場合、その含有量は、第1着色塗料(X)中の樹脂固形分100質量部を基準として、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~20質量部の範囲内である。
【0034】
前記体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられ、なかでも、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましい。
【0035】
第1着色塗料(X)が上記体質顔料を含有する場合、その含有量は、第1着色塗料(X)中の樹脂固形分100質量部を基準として、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~20質量部の範囲内である。
【0036】
また、前記光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムも含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、ガラスフレーク、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタン及び/又は酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタン及び/又は酸化鉄で被覆された雲母等が挙げられる。
【0037】
第1着色塗料(X)が上記光輝性顔料を含有する場合、その含有量は、第1着色塗料(X)中の樹脂固形分100質量部を基準として、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~20質量部の範囲内である。
【0038】
第1着色塗料(X)の塗装は、通常の方法に従って行なうことができ、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の方法が挙げられる。第1着色塗料(X)の塗装の際は、必要に応じて、静電印加されていてもよく、中でも、回転霧化方式の静電塗装及びエアスプレー方式の静電塗装が好ましく、回転霧化方式の静電塗装が特に好ましい。
【0039】
また、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装又は回転霧化塗装をする場合には、第1着色塗料(X)は、適宜、水及び/又は有機溶剤ならびに必要に応じて粘性調整剤、消泡剤等の添加剤を含有して塗装に適した固形分含有率及び粘度に調整されることが好ましい。
【0040】
第1着色塗料(X)の固形分含有率は10~60質量%、好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは20~50質量%の範囲内である。また、第1着色塗料(X)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が500~5000mPa・sの範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0041】
また、第1着色塗膜の硬化膜厚は、下地の隠蔽性及び赤外線レーザーの反射率の高い複層塗膜を得る等の観点から、好ましくは5.0~40μm程度、より好ましくは8.0~35μm、さらに好ましくは10~30μm程度である。
【0042】
工程(2)
本発明の方法によれば、次に、工程(1)で形成された第1着色塗膜上に、第2着色塗料(Y)が塗装され、第2着色塗膜が形成される。第2着色塗料(Y)は、カーボンブラック顔料(A)を含有し、当該第2着色塗料(Y)はさらにペリレンブラック顔料(B1)及び下記顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する:
顔料(B2):青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料。
該第2着色塗料(Y)は、赤外線レーザーの透過率が比較的高く、かつ、優れた漆黒性を有する塗膜を形成することができる。
【0043】
なお、本発明において優れた漆黒性とは、Lh表色系における明度L(45°)及び彩度C(45°)がともに低いことを意味する。
【0044】
ここで、彩度C(45°)は、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に45°の角度で受光した光について測定した彩度Cを表し、多角度分光光度計(x-rite社製、商品名、「MA-68II」)を使用し、分光反射率から計算された彩度の数値として定義する。
【0045】
上記カーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、漆黒性を付与する観点から、0.2~5%の範囲内であることが好ましく、0.25~3%の範囲内であることがより好ましく、0.3~2%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0046】
本明細書において、顔料重量濃度は、塗料中の固形分総量を基準とした顔料の重量濃度として定義する。
【0047】
前記ペリレンブラック顔料(B1)は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、明度を下げることができる顔料である。
【0048】
上記ペリレンブラック顔料(B1)としては、例えば、C.I.Pigment Black 31、C.I.Pigment Black 32等を挙げることができる。ここで、C.I.とはColor Indexの略称を指す。
【0049】
第2着色塗料(Y)が、ペリレンブラック顔料(B1)を含有する場合、形成される複層塗膜の明度及び耐水性の観点から、その顔料重量濃度は、3~12%の範囲内であることが好ましく、5~10%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0050】
また、第2着色塗料(Y)が、ペリレンブラック顔料(B1)を含有する場合、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率、漆黒性及び耐水性の観点から、カーボンブラック顔料(A)とペリレンブラック顔料(B1)の含有割合は、カーボンブラック顔料(A)/ペリレンブラック顔料(B1)の質量比で、2/98~50/50であることが好ましく、3/97~30/70であることがさらに好ましい。
【0051】
前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)は、当業者には既知である減法混色により、形成される第2着色塗膜の赤外線レーザーの吸収を抑制しつつ、該第2着色塗膜の明度を下げることができる顔料の組み合わせである。
【0052】
上記青系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15:1、C.I.Pigment Blue 15:2、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 15:4、C.I.Pigment Blue 15:6、C.I.Pigment Blue 28、C.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 75等を挙げることができる。
【0053】
上記青系顔料の中でも、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の観点から、波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上である青系顔料であることが好ましい。
【0054】
上記波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上の青系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 15:1、C.I.Pigment Blue 15:2、C.I.Pigment Blue 15:6、C.I.Pigment Blue 75等を挙げることができる。
【0055】
上記波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率は、塗料組成物中に、着色顔料を含む塗料組成物をポリプロピレン板上に塗装し、乾燥後、ポリプロピレン上から塗膜を剥離し、該塗膜に対し、積分球を搭載した分光光度計(島津製作所製、商品名、「Solid Spec 3700」)を使用して透過率を測定することにより、得ることができる。
【0056】
具体的にはまず、水酸基含有アクリル樹脂及びメラミン樹脂からなる塗料の樹脂固形分100質量部あたり、1種類の着色顔料を10質量部配合して攪拌混合し、溶媒を添加して固形分約25%に希釈する。次いで、得られた塗料を水平に固定したポリプロピレン板上に硬化塗膜として15μmの膜厚となるようにバーコーターを使用して塗装し、室温にて10分間放置後、熱風乾燥機を用いて100℃で60分間加熱乾燥する。次いで、得られた塗膜をポリプロピレン板から剥離し、該塗膜に対し、積分球を搭載した分光光度計(島津製作所製、商品名、「Solid Spec 3700」)を使用して透過率を測定することにより、得ることができる。
【0057】
第2着色塗料(Y)が、青系顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、0.1~6%の範囲内であることが好ましく、0.5~4%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
前記赤系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 101、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Red 168、C.I.Pigment Red 179、C.I.Pigment Red 202、C.I.Pigment Red 224、C.I.Pigment Red 254、C.I.Pigment Red 255 、C.I.Pigment Red 264、C.I.Pigment Orange 36、C.I.Pigment Violet 19等を挙げることができる。
【0059】
上記赤系顔料の中でも、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の観点から、波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上である赤系顔料であることが好ましい。
【0060】
上記波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上の赤系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 178、C.I.Pigment Red 179、C.I.Pigment Red 202、C.I.Pigment Red 264、C.I.Pigment Violet 19等を挙げることができる。
【0061】
第2着色塗料(Y)が、赤系顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、0.2~10%の範囲内であることが好ましく、1~6%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0062】
前記黄色系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 42、C.I.Pigment Yellow 110、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 138、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 150、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 154、C.I.Pigment Yellow 184、C.I.Pigment Yellow 213等を挙げることができる。
【0063】
上記黄色系顔料の中でも、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の観点から、波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上である黄色系顔料であることが好ましい。
【0064】
上記波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上の黄色系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 129、C.I.Pigment Yellow 150、C.I.Pigment Yellow 213等を挙げることができる。
【0065】
第2着色塗料(Y)が、黄色系顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、0.1~6%の範囲内であることが好ましく、0.5~4%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0066】
前記緑系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7、C.I.Pigment Green 26、C.I.Pigment Green 36等を挙げることができる。
【0067】
上記緑系顔料の中でも、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の観点から、波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上である緑系顔料であることが好ましい。
【0068】
上記波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率が80%以上の緑系顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7、C.I.Pigment Green 36等を挙げることができる。
【0069】
第2着色塗料(Y)が、緑系顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、0.1~6%の範囲内であることが好ましく、0.5~4%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0070】
前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、明度を下げる観点から、青系顔料、赤系顔料及び黄色系顔料の3種であることが好ましい。
【0071】
また、上記青系顔料、赤系顔料及び黄色系顔料の3種の含有割合は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、明度を下げる観点から、青系顔料/赤系顔料/黄色系顔料の質量比で、10~40/20~80/10~40であることが好ましい。
【0072】
第2着色塗料(Y)が、前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)を含有する場合、形成される複層塗膜の明度及び耐水性の観点から、その合計顔料重量濃度は、3~12%の範囲内が好ましく、5~10%の範囲内がさらに好ましい。
【0073】
また、第2着色塗料(Y)が、前記青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)を含有する場合、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率、漆黒性及び耐水性の観点から、カーボンブラック顔料(A)と青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の含有割合は、カーボンブラック顔料(A)/青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の質量比で、2/98~50/50であることが好ましく、3/97~30/70であることがさらに好ましい。
【0074】
第2着色塗料(Y)は、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)に加え、さらに、樹脂成分、水及び/又は有機溶剤からなる媒体を含有する塗料であることが好ましい。
【0075】
前記樹脂成分は通常、基体樹脂及び硬化剤を含有するものであり、当該分野で慣用されている公知の樹脂や化合物を使用することができる。基体樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0076】
第2着色塗料(Y)は、水性塗料及び溶剤系塗料のいずれであってもよいが、環境負荷軽減の観点から、水性塗料であることが好ましい。第2着色塗料(Y)が水性塗料である場合、上記基体樹脂として、樹脂を水溶性化もしくは水分散するのに十分な量の親水性基、例えばカルボキシル基、水酸基、メチロール基、アミノ基、スルホン酸基、ポリオキシエチレン基等、最も好ましくはカルボキシル基を含有する樹脂を使用することができる。かかる実施形態において、該親水性基を中和することにより基体樹脂を水溶性化もしくは水分散化することができる。
【0077】
第2着色塗料(Y)はさらに、所望により、上記カーボンブラック顔料(A)、ペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)以外の着色顔料、体質顔料、光輝性顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、表面調整剤等を適宜含有してもよい。
【0078】
上記カーボンブラック顔料(A)、ペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)以外の着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、ジオキサジン系顔料等が挙げられる。
【0079】
第2着色塗料(Y)が上記カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)以外の着色顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~12%の範囲内である。
【0080】
前記体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられ、なかでも、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましい。
【0081】
第2着色塗料(Y)が上記体質顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、30%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~20%の範囲内である。
【0082】
また、前記光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムも含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、ガラスフレーク、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタン及び/又は酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタン及び/又は酸化鉄で被覆された雲母等が挙げられる。
【0083】
第2着色塗料(Y)が上記光輝性顔料を含有する場合、その顔料重量濃度は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01~12%の範囲内である。
【0084】
第2着色塗料(Y)の塗装は、通常の方法に従って行なうことができ、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装等の方法が挙げられる。第2着色塗料(Y)の塗装の際は、必要に応じて、静電印加されていてもよく、中でも、回転霧化方式の静電塗装及びエアスプレー方式の静電塗装が好ましく、回転霧化方式の静電塗装が特に好ましい。
【0085】
また、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装又は回転霧化塗装をする場合には、第2着色塗料(Y)は、適宜、水及び/又は有機溶剤ならびに必要に応じて粘性調整剤、消泡剤等の添加剤を含有して塗装に適した固形分含有率及び粘度に調整されることが好ましい。
【0086】
第2着色塗料(Y)の固形分含有率は10~60質量%、好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは20~50質量%の範囲内である。また、第2着色塗料(Y)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が500~5000mPa・sの範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0087】
第2着色塗膜の硬化膜厚は、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、漆黒性を付与する等の観点から、好ましくは5.0~40μm程度、より好ましくは8.0~35μm、さらに好ましくは10~30μm程度である。本発明において、第2着色塗膜は1つの層のみからなっても、複数層により構成されてもよい。ただし、第2着色塗膜が複数層により構成される場合であっても、工程(i):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(v)を塗装して、波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(ii):該第1着色塗膜上に、(a1)ペリレンブラック顔料、(a2)黒色複合金属酸化物顔料、及び(a3)青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料からなる群より選択される少なくとも一つを含有する第2着色塗料(w)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(iii):該第2着色塗膜上に、カーボンブラック顔料を含有する第3着色塗料(x)を塗装して、第3着色塗膜を形成する工程、
工程(iv):該第3着色塗膜上に、クリヤ塗料(y)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(v):前記工程(i)で形成された第1着色塗膜、前記工程(ii)で形成された第2着色塗膜、前記工程(iii)で形成された第3着色塗膜、および前記工程(iv)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程を含む複層塗膜形成方法であって、
前記複層塗膜の明度L*(45°)が3以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C*(45°)が1以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が10%以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法は本発明に包含されない。また、前述のように、第2着色塗膜は第2着色塗料(Y)の塗装により形成される。また、前述のように、第2着色塗料(Y)は、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する。従って、第2着色塗膜が複数層により構成される場合、当該複数層を構成する各層がカーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有することとなる。
【0088】
また、形成される複層塗膜の赤外線レーザーの反射率の低下を抑制しつつ、漆黒性を付与する等の観点から、第2着色塗膜の硬化膜厚(μm)と、第2着色塗料(Y)中のカーボンブラック顔料(A)の顔料重量濃度(%)を乗じた値が、5~25の範囲内であることが好ましく、7~15の範囲内であることがさらに好ましい。
【0089】
工程(3)
本発明の複層塗膜形成方法によれば、上記の如くして第2着色塗料(Y)を塗装して得られた第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装して、クリヤ塗膜を形成する。
【0090】
本発明の方法において使用するクリヤ塗料(Z)としては、それ自体既知のクリヤ塗料を制限なく使用することができる。具体的には例えば基体樹脂及び硬化剤からなる樹脂成分を必須成分とし、さらに必要に応じて、塗料用添加剤、水もしくは有機溶剤等の溶媒等を配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状もしくは粉体状のクリヤ塗料を挙げることができる。
【0091】
基体樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基等の架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂等の樹脂が挙げられる。硬化剤としては、該基体樹脂の官能基と反応しうる官能基を有する化合物又は樹脂、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシリル基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。
【0092】
該樹脂成分中における基体樹脂と硬化剤の割合には特に制限はないが、一般に、硬化剤は、基体樹脂固形分総量に対して、10~100質量%、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~60質量%の範囲内で使用することができる。
【0093】
クリヤ塗料(Z)には、必要に応じて、水、有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、沈降防止剤等の塗料用添加剤を適宜配合することができる。
【0094】
クリヤ塗料(Z)には、また、塗膜の透明性を損なわない範囲内において、着色顔料を適宜使用することができる。着色顔料としては、インク用又は塗料用としてそれ自体既知の顔料を単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。その配合量は、使用される着色顔料の種類等により異なるが、クリヤ塗料中の樹脂成分の固形分総量に対して、通常、30質量%以下、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%の範囲内とすることができる。
【0095】
クリヤ塗料(Z)は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレー等の方法により塗装することができ、クリヤ塗膜の膜厚は、硬化塗膜に基づいて10~60μm程度、より好ましくは15~50μm、さらに好ましくは20~40μm程度である。
【0096】
クリヤ塗料(Z)の固形分含有率は10~65質量%、好ましくは15~55質量%、さらに好ましくは20~50質量%の範囲内である。また、クリヤ塗料(Z)の粘度を、塗装に適した範囲、通常、フォードカップNo.4粘度計において、20℃で15~60秒程度、特に20~50秒程度の範囲内となるように、水及び/又は有機溶剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0097】
工程(4)
本発明の複層塗膜形成方法によれば、前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる。
【0098】
なかでも、省エネルギー化等の観点から、上記第1着色塗膜、上記第2着色塗膜及びクリヤ塗膜は、同時に加熱することが好ましい。
【0099】
加熱は公知の手段により行うことができ、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の乾燥炉を適用できる。加熱温度は好ましくは70~150℃、より好ましくは80~140℃の範囲内である。加熱時間は、特に制限されないが、好ましくは10~40分間、より好ましくは20~30分間の範囲内である。
【0100】
基材
本発明の複層塗膜形成方法を適用することができる基材には特に制限はなく、例えば、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属からなる部材;これら金属の合金からなる部材;これらの金属によるメッキ又は蒸着が施された部材;ガラス、プラスチック、各種素材の発泡体等からなる部材等を挙げることができ、なかでも、自動車車体を構成する鋼材及びプラスチック材料が適しており、特に鋼材が適している。これらの部材には、必要に応じて適宜、脱脂処理、表面処理等の処理を施すことができる。
【0101】
また、上記部材に下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を形成した後、基材として用いることもでき、一般にそのようにすることが好ましい。
【0102】
下塗り塗膜は、部材表面を隠蔽したり、部材に防食性及び防錆性等を付与するために部材表面に適用されるものであり、下塗り塗料を塗装し硬化させることによって形成することができる。この下塗り塗料は、特に限定されるものではなく、それ自体既知のもの、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を用いることができる。
【0103】
また、中塗り塗膜は、部材表面及び下塗り塗膜のような下地を隠蔽したり、下地と上塗り塗膜との間の付着性向上、塗膜への耐チッピング性の付与等のために下地に適用されるものであり、部材表面及び下塗り塗膜のような下地表面に、中塗り塗料を塗装し硬化させることによって形成することができる。この中塗り塗料は、特に限定されるものではなく、それ自体既知のものを使用することができ、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料等を含有してなる有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好適に使用することができる。
【0104】
本発明の複層塗膜形成方法において、基材として、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が形成された部材を用いる場合には、予め下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜を加熱し硬化させた後に、工程(1)の、第1着色塗料(X)を塗装することができる。また、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が未硬化の状態で、第1着色塗料(X)を塗装することもできる。
【0105】
複層塗膜の形成
本発明の複層塗膜形成方法に従えば、
工程(1):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して、波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(2):該第1着色塗膜上に、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(3):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(4):前記工程(1)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程、に従い、複層塗膜を形成させ、
前記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が10%以上であることにより、漆黒性に優れ、赤外線レーザーの反射率が高く、かつ、耐水性等の優れた塗膜性能を示す複層塗膜を形成することができる。
【0106】
上記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、彩度C(45°)が2以下であることにより、漆黒性に優れた複層塗膜を形成することができる。なかでも、漆黒性に優れた複層塗膜を形成する観点から、上記複層塗膜の明度L(45°)は、3.5以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。本発明の典型的な実施形態において、上記複層塗膜の明度L(45°)が4以下とは4.0以下であることを示し、3以下とは3.0以下であることを示す。本発明の典型的な実施形態において、上記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下とは2.0以下であることを示す。上記複層塗膜の明度L(45°)の下限は限定されないが、例えば、例えば、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.5以上等が挙げられる。また、上記複層塗膜の彩度C(45°)は、漆黒性に優れた複層塗膜を形成する観点から、1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。上記複層塗膜の彩度C(45°)の下限は限定されないが、例えば、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.05以上等が挙げられる。
【0107】
また、前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率の少なくとも一方が10%以上であることにより、赤外線レーザーの反射率に優れた複層塗膜を形成することができる。
【0108】
なかでも、上記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率は、赤外線レーザーの反射率に優れた複層塗膜を形成する観点から、11%以上であることが好ましく、12%以上であることがさらに好ましい。上記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率の上限は限定されないが、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下等が挙げられる。
【0109】
また、上記複層塗膜の波長1550nmにおける拡散反射率は、赤外線レーザーの反射率に優れた複層塗膜を形成する観点から、12%以上であることが好ましく、14%以上であることがさらに好ましい。上記複層塗膜の波長1550nmにおける拡散反射率の上限は限定されないが、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下等が挙げられる。
【0110】
本発明の複層塗膜形成方法は、漆黒性に優れ、赤外線レーザーの反射率が高く、かつ、耐水性等の優れた塗膜性能を示す複層塗膜を形成する観点から、なかでも、下記の複層塗膜形成方法(a)又は(b)であることが好ましい。
【0111】
複層塗膜形成方法(a):
工程(1a):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して、波長905nmにおける拡散反射率が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(2a):該第1着色塗膜上に、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(3a):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(4a):前記工程(1a)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2a)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3a)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程、に従い、複層塗膜を形成させ、
前記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長905nmにおける拡散反射率が10%以上である複層塗膜形成方法。
【0112】
複層塗膜形成方法(b):
工程(1b):酸化チタン顔料を含有する第1着色塗料(X)を塗装して、波長1550nmにおける拡散反射率が40%以上である第1着色塗膜を形成する工程、
工程(2b):該第1着色塗膜上に、カーボンブラック顔料(A)、並びにペリレンブラック顔料(B1)及び青系顔料、赤系顔料、黄色系顔料及び緑系顔料からなる群より選択される2種以上の顔料(B2)の少なくとも一方(B)を含有する第2着色塗料(Y)を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(3b):該第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)を塗装してクリヤ塗膜を形成する工程、及び、
工程(4b):前記工程(1b)で形成された第1着色塗膜、前記工程(2b)で形成された第2着色塗膜および前記工程(3b)で形成されたクリヤ塗膜を別々に又は同時に加熱することにより、硬化させる工程、に従い、複層塗膜を形成させ、
前記複層塗膜の明度L(45°)が4以下であり、かつ、
前記複層塗膜の彩度C(45°)が2以下であり、かつ、
前記複層塗膜の波長1550nmにおける拡散反射率が10%以上である複層塗膜形成方法。
【0113】
かくして、本発明の複層塗膜形成方法は、各種工業製品、特に自動車車体の外板に複層塗膜を形成するのに好適に使用することができる。
【実施例
【0114】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものであり、膜厚は硬化塗膜に基づくものである。
【0115】
[1]基材の作製
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JIS G 3141、大きさ400mm×300mm×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロンGT-10」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネート化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚が20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させ、電着塗膜を形成せしめた。
【0116】
[2]塗料の作製
水酸基含有アクリル樹脂エマルション(a)の製造
製造例1
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水70.7部及び「アクアロンKH-10」(商品名、第一工業製薬社製、乳化剤、有効成分97%)0.52部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで、下記のモノマー乳化物のうちの全量の1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5部を反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成した後、5%2-(ジメチルアミノ)エタノール水溶液40部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、固形分濃度45%の水酸基含有アクリル樹脂エマルション(a)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は43mgKOH/g、酸価は12mgKOH/gであった。
【0117】
モノマー乳化物:脱イオン水50部、スチレン10部、メチルメタクリレート40部、エチルアクリレート35部、n-ブチルメタクリレート3.5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10部、アクリル酸1.5部、「アクアロンKH-10」1.0部及び過硫酸アンモニウム0.03部を混合攪拌して、モノマー乳化物を得た。
【0118】
水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(b)の製造
製造例2
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン174部、ネオペンチルグリコール327部、アジピン酸352部、イソフタル酸109部及び1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物101部を仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、生成した縮合水を水分離器により留去させながら230℃で保持し、酸価が3mgKOH/g以下となるまで反応させた。この反応生成物に、無水トリメリット酸59部を添加し、170℃で30分間付加反応を行った後、50℃以下に冷却し、2-(ジメチルアミノ)エタノールを酸基に対して当量添加し中和してから、脱イオン水を徐々に添加することにより、固形分濃度45%の水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(b)を得た。得られた水酸基含有ポリエステル樹脂は、水酸基価が128mgKOH/g、酸価が35mgKOH/g、重量平均分子量が13,000であった。
【0119】
顔料分散ペースト(P-1)~(P-5)の製造
製造例3
製造例2で得た水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(b)56部(固形分25部)、「タイペーク UT-771」(商品名、ルチル型二酸化チタン顔料、石原産業社製)100部、「カーボン MA-100」(商品名、カーボンブラック顔料、三菱ケミカル社製)0.03部及び脱イオン水5部を混合し、2-(ジメチルアミノ)エタノールでpH8.0に調整した。次いで、得られた混合液を広口ガラスビン中に入れ、分散メジアとして直径約1.3mmφのガラスビーズを加えて密封し、ペイントシェイカーにて30分間分散して、顔料分散ペースト(P-1)を得た。
【0120】
製造例4~7
着色顔料の配合組成を下記第1表に示すものとする以外は、製造例3と同様にして、各顔料分散ペースト(P-2)~(P-5)を得た。なお第1表に示す着色顔料の配合組成は、各成分の固形分質量による。
【0121】
【表1】
【0122】
UT-771(注1):ルチル型二酸化チタン顔料、商品名、「タイペーク UT-771」、石原産業社製、
MA-100(注2):カーボンブラック顔料、商品名、「カーボン MA-100」、三菱ケミカル社製、
SG-101(注3):複合金属酸化物顔料、CaO・TiO・MnO、商品名、「タイぺークブラックSG-101」、石原産業社製。
【0123】
第1着色塗料(X-1)~(X-5)の製造
製造例8
製造例3で得た顔料分散ペースト(P-1)161.03部、製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂エマルション(a)44.4部(固形分20部)、「ユーコートUX-8100」(商品名、ウレタンエマルション、三洋化成工業社製、固形分35%)71.4部(固形分25部)及び「サイメル325」(商品名、メラミン樹脂、日本サイテックインダストリーズ社製、固形分80%)37.5部(固形分30部)を均一に混合した。次いで、得られた混合物に、「UH-752」(商品名、ADEKA社製、増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、pH8.0、塗料固形分25%、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの第1着色塗料(X-1)を得た。
【0124】
製造例9~12
配合組成を下記第2表に示すものとする以外は、製造例8と同様にして、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの各第1着色塗料(X-2)~(X-5)を得た。
【0125】
第1着色塗膜の評価
上記で得られた第1着色塗料(X-1)~(X-5)を用い、第1着色塗膜の波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率を、分光光度計として「Solid Spec 3700」(商品名、島津製作所社製)を使用し、鏡面反射を含まない(SCE:Specular Component Excluded)相対反射率を測定するための標準白板として、フッ素系樹脂(Labsphere社製商品名、Spectralon(スペクトラロン))を使用して測定した。
また、該第1着色塗膜の明度L(45°)を、「MA-68II」(商品名、x-rite社製)を使用して評価した。第1着色塗膜は、前記[1]で製造した基材上に、第1着色塗料(X-1)~(X-5)のいずれかをミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度23℃、湿度68%の条件で、硬化塗膜として30μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、熱風循環式乾燥炉内にて140℃で30分間加熱することにより得た。評価結果を併せて第2表に記す。
【0126】
【表2】
【0127】
水酸基含有アクリル樹脂エマルション(c)の製造
製造例13
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水130部及び「アクアロンKH-10」0.52部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで下記のモノマー乳化物(1)のうちの全量の1%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液5.3部を反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物(1)を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、下記のモノマー乳化物(2)を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%ジメチルエタノールアミン水溶液40部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、固形分濃度30%の水酸基含有アクリル樹脂エマルション(c)を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基価が25mgKOH/g、酸価が33mgKOH/gであった。
【0128】
モノマー乳化物(1):脱イオン水42部、「アクアロンKH-10」0.72部、メチレンビスアクリルアミド2.1部、スチレン2.8部、メチルメタクリレート16.1部、エチルアクリレート28部及びn-ブチルアクリレート21部を混合攪拌して、モノマー乳化物(1)を得た。
【0129】
モノマー乳化物(2):脱イオン水18部、「アクアロンKH-10」0.31部、過硫酸アンモニウム0.03部、メタクリル酸5.1部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.1部、スチレン3部、メチルメタクリレート6部、エチルアクリレート1.8部及びn-ブチルアクリレート9部を混合攪拌して、モノマー乳化物(2)を得た。
【0130】
水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(d)の製造
製造例14
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、トリメチロールプロパン109部、1,6-ヘキサンジオール141部、ヘキサヒドロ無水フタル酸126部及びアジピン酸120部を仕込み加熱し、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、230℃で4時間縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物にカルボキシル基を付加するために、さらに無水トリメリット酸38.3部を加え、170℃で30分間反応させた後、2-エチル-1-ヘキサノールで希釈し、固形分濃度70%である水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(d)を得た。得られた水酸基含有ポリエステル樹脂は、水酸基価が150mgKOH/g、酸価が46mgKOH/g、重量平均分子量が6,400であった。
【0131】
顔料分散ペースト(P-6)~(P-24)の製造
製造例15
製造例14で得た水酸基含有ポリエステル樹脂溶液(d)35.7部(固形分25部)、「RAVEN 5000 ULTRA I I I BEADS」(商品名、カーボンブラック顔料、COLUMBIAN CARBON CO.社製)0.5部、「Paliogen Black L0086」(商品名、ペリレンブラック顔料、C.I.Pigment Black 32、BASF社製)6部及び脱イオン水5部を混合し、2-(ジメチルアミノ)エタノールでpH8.0に調整した。次いで、得られた混合液を広口ガラスビン中に入れ、分散メジアとして直径約1.3mmφのガラスビーズを加えて密封し、ペイントシェイカーにて30分間分散して、顔料分散ペースト(P-6)を得た。
【0132】
製造例16~33
着色顔料の配合組成を下記第3表に示すものとする以外は、製造例13と同様にして、各顔料分散ペースト(P-7)~(P-24)を得た。なお第3表に示す着色顔料の配合組成は、各成分の固形分質量による。
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
R5000(注4):カーボンブラック顔料、商品名、「RAVEN 5000 ULTRA I I I BEADS」、COLUMBIAN CARBON CO.社製、
L0086(注5):ペリレンブラック顔料、C.I.Pigment Black 32、商品名、「Paliogen Black L0086」、BASF社製、
5206M(注6):青色顔料、C.I.Pigment Blue 15:1、商品名、「CYANINE BLUE 5206M」、大日精化工業社製、
R6438(注7):赤色顔料、C.I.Pigment Red 179、商品名、「MAROON 179 229-6438」、サンケミカル社製、
Y5688(注8):黄色顔料、C.I.Pigment Yellow 150、商品名、「BAYFAST YELLOW Y-5688」、LANXESS社製、
L8730(注9):緑色顔料、C.I.Pigment Green 7、商品名、「HELIOGEN GREEN L8730」、BASF社製。
【0136】
青色顔料、赤色顔料、黄色顔料及び緑色顔料の評価
上記で使用した青色顔料、赤色顔料、黄色顔料及び緑色顔料の、波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率を、以下の方法で評価した。
【0137】
波長905nmにおける赤外線透過率及び波長1550nmにおける赤外線透過率
下記水酸基含有アクリル樹脂溶液70部及び「サイメル350」(商品名、メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製)30部からなる塗料の樹脂固形分100部あたり、測定に供する顔料を10部配合して攪拌混合し、脱イオン水を添加して固形分約25%に希釈した。次いで、得られた塗料を水平に固定したポリプロピレン板上に硬化塗膜として15μmの膜厚となるようにバーコーターを使用して塗装し、室温にて10分間放置後、熱風乾燥機を用いて100℃で60分間加熱乾燥した。次いで、得られた塗膜をポリプロピレン板から剥離し、該塗膜を積分球を搭載した分光光度計(島津製作所製、商品名、「Solid Spec 3700」)を使用して透過率を測定し、評価した。評価結果を第4表に記す。
【0138】
水酸基含有アクリル樹脂溶液:温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器にプロピレングリコールモノプロピルエーテル35部を仕込み85℃に昇温後、メチルメタクリレート30部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、n-ブチルアクリレート29部、2-ヒドロキシエチルアクリレート15部、アクリル酸6部、プロピレングリコールモノプロピルエーテル15部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2.3部の混合物を4時間かけて滴下し、滴下終了後1時間熟成した。その後さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテル10部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1部の混合物を1時間かけて滴下し、滴下終了後1時間熟成した。さらにジエタノールアミン7.4部を加え、固形分55%の水酸基含有アクリル樹脂溶液を得た。得られた水酸基含有アクリル樹脂溶液は酸価が47mgKOH/g、水酸基価が72mgKOH/g、重量平均分子量が58,000であった。
【0139】
【表5】
【0140】
第2着色塗料(Y-1)~(Y-19)の製造
製造例34
製造例15で得た顔料分散ペースト(P-6)47.2部、製造例13で得た水酸基含有アクリル樹脂エマルション(c)83.3部(固形分25部)、「ユーコートUX-8100」(商品名、ウレタンエマルション、三洋化成工業社製、固形分35%)57.1部(固形分20部)及び「サイメル325」(商品名、メラミン樹脂、オルネクス社製、固形分80%)37.5部(固形分30部)を均一に混合した。次いで、得られた混合物に、「UH-752」(商品名、ADEKA社製、増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、pH8.0、塗料固形分25%、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの第2着色塗料(Y-1)を得た。
【0141】
製造例35~52
配合組成を下記第5表に示すものとする以外は、製造例34と同様にして、B型粘度計を用いて20℃において回転数6rpmで測定したときの粘度が3000mPa・sの各第1着色塗料(Y-2)~(Y-19)を得た。なお、表中の樹脂成分の()内の数値は固形分量を表す。
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
【表8】
【0145】
[3]試験板の作成
試験板の作成
実施例1
(第1着色塗料(X)の塗装)
上記[1]で作製した基材上に、上記[2]で製造した第1着色塗料(X-1)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度23℃、湿度68%の条件で、硬化塗膜として30μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、未硬化の第1着色塗膜を得た。
【0146】
(第2着色塗料(Y)の塗装)
上記未硬化の第1着色塗膜上に、上記[2]で製造した第2着色塗料(Y-1)をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度23℃、湿度68%の条件で、硬化塗膜として15μmの膜厚となるように塗装し、室温にて3分間放置し、80℃で3分間プレヒートを行い、未硬化の第2着色塗膜を得た。
【0147】
(クリヤ塗料(Z)の塗装)
上記未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤ塗料(Z)(「マジクロンKINO-1210」、関西ペイント社製、商品名、アクリル樹脂系酸/エポキシ硬化溶剤型上塗クリヤ塗料)を、ミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度23℃、湿度68%の条件で、硬化塗膜として35μmとなるように塗装し、室温にて7分間放置した後、熱風循環式乾燥炉内にて140℃で30分間加熱し、第1着色塗膜、第2着色塗膜及びクリヤ塗膜からなる複層塗膜を同時に乾燥硬化せしめて試験板を作製した。
【0148】
実施例2~13、比較例1~10
第6表に記載の塗料、膜厚とする以外は全て実施例1と同様にして試験板を得た。
【0149】
塗膜評価
上記のようにして得られた各試験板について、以下の方法で塗膜を評価し、第6表にその結果を示した。
【0150】
明度L(45°)
各試験板について、「MA-68II」(商品名、x-rite社製)を使用して、明度L(45°)を測定した。
【0151】
彩度C(45°)
各試験板について、「MA-68II」(商品名、x-rite社製)を使用して、彩度C(45°)を測定した。
【0152】
波長905nmにおける拡散反射率及び波長1550nmにおける拡散反射率(赤外線レーザーの反射率の測定)
各試験板について、「Solid Spec 3700」(商品名、島津製作所社製)を使用して、鏡面反射を含まない(SCE:Specular Component Excluded)反射率を測定した。
【0153】
耐水付着性:各試験板について、40℃の温水に240時間浸漬し、引き上げて表面の水分をふき取り後すぐ、塗面にJIS K 5600-5-6(1990)に準じて塗膜に2mm×2mmのゴバン目100個を作り、その面に粘着テープを貼着し、急激に剥がした後に、塗面に残ったゴバン目塗膜の数を評価した。◎及び○が合格である。
【0154】
◎:残存個数/全体個数=100個/100個で縁欠けなし
○:残存個数/全体個数=100個/100個で縁欠けあり
△:残存個数/全体個数=99個~90個/100個
×:残存個数/全体個数=89個以下/100個。
【0155】
【表9】
【0156】
【表10】