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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】記録装置およびメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20241209BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B41J2/165 307
B41J2/01 121
B41J2/01 123
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021050257
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148531
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 洋典
(72)【発明者】
【氏名】竹腰 里枝
(72)【発明者】
【氏名】石見 啓太
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158477(JP,A)
【文献】特開2016-043596(JP,A)
【文献】特開2014-162135(JP,A)
【文献】特開2005-238780(JP,A)
【文献】特開2012-011736(JP,A)
【文献】特開2020-199685(JP,A)
【文献】特開2020-142503(JP,A)
【文献】特開2011-167921(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0035996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に沿って延設されてインクを吐出可能な第1吐出口列と、前記所定方向に沿って延設されて該インクと反応する反応液を吐出可能な第2吐出口列とが同一平面上に、前記所定方向と交差する方向に並んで形成された記録手段と、
前記記録手段から吐出されるインクおよび反応液を受容可能であり、前記第1吐出口列および前記第2吐出口列が形成された前記記録手段の吐出口面を払拭可能なメンテナンス手段と、
前記記録手段と前記メンテナンス手段とのうちの少なくとも一方を相対移動して、前記所定方向に沿って前記メンテナンス手段により前記吐出口面を払拭するように前記記録手段と前記メンテナンス手段とを制御する制御手段と、を有する記録装置であって、
前記制御手段は、前記払拭を行う前に、前記メンテナンス手段における、前記払拭の際に前記第1吐出口列が当接する領域と前記第2吐出口列が当接する領域との間の領域に、インクを吐出する予備吐出を実行することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記メンテナンス手段は、前記吐出口面を押圧しながら、前記第1吐出口列および前記第2吐出口列を同時に払拭し、
前記制御手段は、前記予備吐出を実行する際に、前記メンテナンス手段における、前記払拭の際に前記吐出口面を押圧する領域に対応する位置のインクの吐出量を最も多くすることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記記録手段と前記メンテナンス手段と停止させた状態で前記予備吐出を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記記録手段と前記メンテナンス手段とのうちの少なくとも一方を相対移動しながら前記予備吐出を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第1吐出口列を構成するインクの吐出口のそれぞれに予め設定されたインクの発数に基づいて前記予備吐出を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第1吐出口列を構成するインクの吐出口のそれぞれに予め設定された吐出デューティに基づいて前記予備吐出を行うことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録手段の温度を検知可能な検知手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記検知手段による検知結果に基づいて前記予備吐出の際のインクの吐出量を変更することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記検知手段は、前記第2吐出口列の前記所定方向の少なくとも一方の端部側に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前回の前記払拭から行われた記録において吐出されたインクの吐出量の、該記録において前記第1吐出口列から吐出可能なインクの最大吐出量に対する比率に基づいて、前記予備吐出の際のインクの吐出量および前記払拭の回数を決定することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記比率が大きいほど、前記回数を多くすることを特徴とする請求項9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記回数が多いほど、前記予備吐出の際のインクの吐出量を多くすることを特徴とする請求項9または10に記載の記録装置。
【請求項12】
前記メンテナンス手段は、
繊維間を融着あるいは機械的、化学的作用により結合あるいは絡み合わせたシート・ウェブまたはパット状の不織布を備え、
前記不織布により、前記記録手段から吐出されるインクを受容するとともに、前記吐出口面を払拭することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記第1吐出口列から吐出されるインクは、固形分を含むインクであり、
前記第2吐出口列から吐出される反応液は、固形分と反応して凝集またはゲル化させる反応性成分を含有する液体であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
所定方向に沿って延設されてインクを吐出可能な第1吐出口列と、前記所定方向に沿って延設されて該インクと反応する反応液を吐出可能な第2吐出口列とが同一平面上に、前記所定方向の交差する方向に並んで形成された記録手段と、
前記記録手段から吐出されるインクおよび反応液を受容可能であり、前記第1吐出口列および前記第2吐出口列が形成された前記記録手段の吐出口面を払拭可能なメンテナンス手段と、を備えた記録装置のメンテナンス方法であって、
前記メンテナンス手段による払拭を行う前に、前記メンテナンス手段における、前記払拭の際に前記第1吐出口列が当接する領域と前記第2吐出口列が当接する領域との間の領域に、インクを吐出する予備吐出を実行する工程と、
前記記録手段と前記メンテナンス手段との少なくとも一方を相対移動して、前記所定方向に沿って前記メンテナンス手段により前記吐出口面を払拭する工程と、を有することを特徴とするメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対してインクを吐出する記録ヘッドの吐出口が形成された吐出口面を払拭する記録装置および当該記録ヘッドからのインクの吐出状態を良好に維持、回復するメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクを吐出する吐出口が形成された記録ヘッドの吐出口面に付着したインクなどの付着物を除去する技術が開示されている。具体的には、シート状のクリーニング部材を吐出口面に押し当て、吐出口面に付着した付着物を払拭して除去するようにしている。なお、付着物とは、インク吐出時の吐出口でのインク溜まりや跳ね返りによる付着ミスト、大気中の塵埃、記録媒体に由来する繊維などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8342638号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術では、クリーニング部材により吐出口面を払拭するため、クリーニング部材が各吐出口のメニスカス面に当接する。このため、吐出口内のインクがクリーニング部材に浸み出してしまう。特に、インクに分散した固形分の凝集を促進させる反応液を吐出口から吐出可能な記録装置では、反応成分が溶媒に溶解している反応液が用いられていると、インクに分散した状態の固形分よりも、反応液がクリーニング部材のより広い範囲に浸み出す。吐出口から浸み出した反応液が、クリーニング部材においてインクを払拭した領域まで到達すると、当該インクの顔料などの固形分が凝集し、払拭動作時に凝集物を吐出口面に付着させて、吐出口からの吐出不良を生じさせる虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、払拭動作時の反応液とインクとの反応によって生じる吐出口における吐出不良を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、所定方向に沿って延設されてインクを吐出可能な第1吐出口列と、前記所定方向に沿って延設されて該インクと反応する反応液を吐出可能な第2吐出口列とが同一平面上に、前記所定方向と交差する方向に並んで形成された記録手段と、前記記録手段から吐出されるインクおよび反応液を受容可能であり、前記第1吐出口列および前記第2吐出口列が形成された前記記録手段の吐出口面を払拭可能なメンテナンス手段と、前記記録手段と前記メンテナンス手段とのうちの少なくとも一方を相対移動して、前記所定方向に沿って前記メンテナンス手段により前記吐出口面を払拭するように前記記録手段と前記メンテナンス手段とを制御する制御手段と、を有する記録装置であって、前記制御手段は、前記払拭を行う前に、前記メンテナンス手段における、前記払拭の際に前記第1吐出口列が当接する領域と前記第2吐出口列が当接する領域との間の領域に、インクを吐出する予備吐出を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、払拭動作時に、反応液とインクとの反応によって生じる吐出口における吐出不良を抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態による記録装置の概略構成図。
図2図1の記録装置の要部の概略構成図。
図3】吐出口列が形成された基板を示す図。
図4図3のIV-IV線断面図。
図5】吐出口面に形成された吐出口列の配置の一例を示す図。
図6】記録ヘッドの移動領域およびメンテナンス部の移動領域を示す図。
図7】メンテナンス部の概略構成図。
図8】記録装置の制御系のブロック構成図。
図9】メンテナンス処理のフローチャート。
図10図9のメンテナンス処理のサブルーチンである予備吐出処理のフローチャート。
図11】メンテナンス部における予備吐出される位置を示す図。
図12図9のメンテナンス処理のサブルーチンである払拭処理のフローチャート。
図13】払拭処理時のメンテナンス部の動作を説明する図。
図14】吐出口列の各吐出口における予備吐出時のインクの発数を示すグラフ。
図15】他の実施形態の予備吐出処理のフローチャート。
図16】メンテナンス部における予備吐出される領域を示す図。
図17】吐出デューティに基づいて行われる予備吐出を説明する図。
図18】他の実施形態の予備吐出処理のフローチャート。
図19】記録ヘッドの温度と、予備吐出時のインクの発数に乗算する係数とが対応付けられたテーブル。
図20】他の実施形態のメンテナンス処理のフローチャート。
図21図20のメンテナンス処理のサブルーチンである払拭処理のフローチャート。
図22】打込比率と、払拭回数および予備吐出時のインクの発数に乗算する係数とが対応付けられたテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、記録装置およびメンテナンス方法の実施形態の一例を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成の相対位置、形状などはあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。
【0010】
(第1実施形態)
まず、図1乃至図14を参照しながら、第1実施形態による記録装置について説明する。図1の記録装置10は、インクジェット方式により、搬送される記録媒体に対して、搬送の方向と交差(本実施形態では直交)する所定方向に移動しながらインクを吐出する、所謂、シリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置である。
【0011】
<記録装置の構成>
図1(a)は、実施形態による記録装置の概略構成図である。図2(a)は、記録装置における加熱部を説明する図であり、図2(b)は、記録装置における回復部を説明する図である。
【0012】
記録装置10は、搬送部(不図示)により搬送される記録媒体Pを支持するプラテン12と、プラテン12により支持される記録媒体Pに記録する記録部14とを備えている。また、記録装置10は、記録後の記録媒体Pに対してその記録面Pfを加熱する加熱部16と、記録部14におけるインクの吐出状態を良好に維持・回復するための回復部18とを備えている。なお、記録装置10の全体の動作は、制御部100によって制御される。
【0013】
記録部14は、ガイドシャフト20に移動可能に設けられたキャリッジ22と、キャリッジ22に搭載され、プラテン12に支持された記録媒体Pに対してインクを吐出する記録ヘッド24とを備えている。ガイドシャフト20は、記録媒体Pが搬送されるY方向と交差(本実施形態では直交)するX方向に延設されており、キャリッジ22は、ガイドシャフト20に沿って+X方向および-X方向に往復移動可能に構成されている。記録ヘッド24は、インクを吐出する吐出口32(図3参照)を複数備え、吐出口32が形成された吐出口面34(図2(a)参照)が、プラテン12と対向するようにキャリッジ22に搭載されている。これにより、記録装置10では、記録ヘッド24が、±X方向に往復移動しながらインクを吐出可能な構成となっている。
【0014】
なお、記録装置10には、X方向に延在するリニアエンコーダ30(図2(b)参照)が設けられており、リニアエンコーダ30の信号に基づいて、記録ヘッド24はその位置が制御される。また、記録ヘッド24は、4色のインクと、これらのインクと反応してその固形分を凝集させる反応液RSとを吐出可能な構成となっている。本実施形態では、4色のインクは、ブラック(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクとする。
【0015】
記録装置10では、記録部14、つまり、記録ヘッド24が+X方向に移動する際にインクを吐出して記録するとともに、-X方向に移動する際にもインクを吐出して記録する、所謂、双方向記録方式で記録を行う。記録装置10は、記録が開始されると、記録ヘッド24を記録開始位置まで移動させるとともに、搬送部により記録媒体Pを記録ヘッド24により記録可能な位置まで給送する。次に、記録データに基づいて、+X方向(または-X方向)へ記録ヘッド24を移動(走査)しながらインクを吐出する記録動作を行い、当該記録動作が完了すると、搬送部により記録媒体Pを所定量だけ搬送する搬送動作を行う。その後、-X方向(または+X方向)へ記録ヘッド24を移動しながらインクを吐出する記録動作を行い、当該記録動作が完了すると、再度搬送部により記録媒体Pを所定量だけ搬送する搬送動作を行う。このように、記録装置10では、記録動作と搬送動作とを交互に繰り返し実行することによって、記録媒体Pに記録を行う。なお、本実施形態では、例えば、記録媒体上の単位領域について、記録部14を複数回走査させることで記録するマルチパス記録を実行するものとする。
【0016】
加熱部16は、記録部14からインク(および反応液)が吐出されて記録された記録媒体Pの記録面Pfに対して温風を当てて、記録面Pfおよび記録面Pfに付与されたインクを加熱して、記録面Pfに当該インクを定着させる。
【0017】
回復部18は、プラテン12のX方向の一方の端部に隣接する位置に設けられた吸引部26と、プラテン12のX方向の他方の端部に隣接する位置に設けられたメンテナンス部28とを備えている。即ち、吸引部26は、プラテン12が支持する記録媒体Pに対して記録部14からインクが吐出される記録領域Spの一方の端部側の領域S1に位置している。また、メンテナンス部28は、記録領域Spの他方の端部側の領域S2に位置している。なお、メンテナンス部28の詳細な説明については、後述する。
【0018】
吸引部26は、記録ヘッド24においてインクを吐出する複数の吐出口32から強制的にインクを吸引することで、吐出口32内のインクを吐出に適した状態に維持、回復する吸引処理を行うための構成である。吸引部26は、記録ヘッド24の吐出口面34を覆うキャップ36と、キャップ36に連通するチューブ38に設けられたポンプ40と、キャップ36を昇降する昇降部42とを備えている。
【0019】
キャップ36は、吐出口面34において、反応液RSを吐出するすべての吐出口32RSを含む所定の領域を覆うキャップ36aと、4色のインクのすべての吐出口32含む所定の領域を覆うキャップ36bとを備えている。具体的には、キャップ36bは、Kインクを吐出する吐出口32K、Cインクを吐出する吐出口32C、Mインクを吐出する吐出口32M、およびYインクを吐出する吐出口32Yを覆う。なお、キャップ36bについては、インク色ごとに独立したキャップによって覆われる構成としてもよい。
【0020】
キャップ36が吐出口面34と当接して、対応する吐出口32を含む所定の領域を覆った状態で、キャップ36内に負圧を生じさせ、当該負圧によって各吐出口32からインクおよび反応液を強制的に吸引する。なお、ポンプ40はキャップ36bにのみ負圧を生じさせる構成して、4色のインクについてのみ強制的に吸引可能な構成としてもよい。
【0021】
昇降部42は、キャップ36を+Z方向に移動、つまり、上昇させることで、キャップ36を吐出口面34に当接して、対応する吐出口32を含む所定の領域を覆う。また、キャップ36を-Z方向に移動、つまり、下降させることで、キャップ36を吐出口面34から離間させて、対応する吐出口32を含む所定の領域を解放する。
【0022】
<記録ヘッドの構成>
次に、記録ヘッド24の構成について説明する。記録ヘッド24の吐出口面34には、各色のインクと反応液とを吐出するための複数の吐出口32が形成された基板44が配設されている。図3は、複数の吐出口による吐出口列が形成された基板44を示す図である。図4は、図3のIV-IV線断面図である。図5は、吐出口面34を示す図である。なお、図3および図5は、吐出口面34側から見た図となっている。
【0023】
基板44には、インク(または反応液)を液滴として吐出する吐出口32が、600dpi間隔(1インチ当たり600個の密度)でY方向に沿って2列形成されている(図3参照)。この2つの列は、一方の列に対して他方の列がY方向に1200dpiだけずれて形成されている。そして、本実施形態では、基板44には、1536個の吐出口32によって形成された2つの列から吐出口列33が形成されている。
【0024】
また、基板44には、吐出口列33のY方向における両端部近傍に、基板44の温度を検出することが可能な温度センサ46が設けられている。温度センサ46は、例えば、ダイオードのアノード-カソード間電圧の温度依存性を利用して温度を検出する。
【0025】
基板44では、基材48上に、上板部材50が形成されている(図4参照)。基材48と上板部材50との間には、共通液室52が形成されている。共通液室52には、吐出するインクあるいは反応液が供給される液体供給口54が連通している。共通液室52からは液体流路56が延設されており、この液体流路56は、上板部材50に形成された吐出口32に連通している。
【0026】
液体流路56における吐出口32側の端部には発泡室58が形成されており、この発泡室58には吐出口32と対向する位置に発熱素子60が配置されている。基板44では、上板部材50と基材48との間に、吐出口32と共通液室52とを連通する液体流路56が形成され、隣接する液体流路56間には仕切り壁62が形成されている。
【0027】
吐出口32から液体(インクおよび反応液)を吐出する際には、制御部100から出力される記録信号に基づいて、記録ヘッドドライバ114(図8参照)を介して発熱素子60が駆動される。発熱素子60の駆動によって、発熱素子60から発生する熱によって、発泡室58内において局所的に液体が加熱される。これによって、発泡室58内の液体に膜沸騰を生じさせ、これにより生じる圧力によって吐出口32から液体が吐出される。本実施形態では、記録ヘッド24において、各吐出口32から吐出される液滴は4ngであり、最大で21kHzの吐出周波数で液滴を吐出することが可能となっている。
【0028】
吐出口面34では、各色のインクおよび反応液に対応した基板44が、吐出口列33がY方向と平行となるように設けられている(図5参照)。即ち、吐出口面34には、+X方向に沿って順に、Yインクを吐出する基板44Y、Mインクを吐出する基板44M、Cインクを吐出する基板44C、Kインクを吐出する基板44K、反応液RSを吐出する基板44RSが並設されている。なお、基板44Yには、Yインクを吐出する複数の吐出口32から構成される吐出口列33Yが形成されている。基板44Mには、Mインクを吐出する複数の吐出口32から構成される吐出口列33Mが形成されている。基板44Cには、Cインクを吐出する複数の吐出口32から構成される吐出口列33Cが形成されている。基板44Kには、Kインクを吐出する複数の吐出口32から構成される吐出口列33Kが形成されている。基板44RSには、反応液RSを吐出する複数の吐出口32から構成される吐出口列33RSが形成されている。このように、記録ヘッド24では、反応液RSを吐出する吐出口列33と、各インクを吐出する吐出口列33とが同一平面上に形成されている。
【0029】
本実施形態では、吐出口列33RSと吐出口列33Kとの間は、インクを吐出する隣接した吐出口列33間の距離よりも長くなっている。この距離については、本実施形態では、例えば、5mmより長い。また、本実施形態では、反応液は、有色インク中の固形分、具体的には、有色インクに含まれる顔料などと反応して、その凝集を促進するものとする。これにより、記録装置10では、液体を吸収しない記録媒体(例えば、樹脂シート)に記録を行う場合に、記録媒体上で反応液と有色インクとを混ぜることによって顔料凝集による増粘が促進され、ビーディングが抑制された良好な画像形成が可能となる。
【0030】
<メンテナンス部>
次に、回復部18におけるメンテナンス部28について説明する。図6は、メンテナンス部の移動領域と、記録ヘッドの移動領域とを示す図である。図7は、メンテナンス部の概略構成図であり、図7(a)は、+X方向から見た側面図であり、図7(b)は、-Y方向から見た正面図である。なお、図7(a)(b)では、理解を容易にするために、一部の構成を破線で示している。
【0031】
メンテナンス部28は、記録領域Spの他方の端部側の領域S2において、Y方向に移動可能に設けられている。メンテナンス部28の移動領域Smは、図6のように、X方向に移動する記録ヘッド24の移動領域Shとその一部が重なっている。メンテナンス部28は、-Y方向において記録ヘッド24の移動領域Shと重ならない第1位置と、+Y方向において移動領域Shと重ならない第2位置とを往復移動可能となっている。
【0032】
メンテナンス部28は、記録ヘッド24の吐出口面34に対して、メンテナンス処理(後述する)を実行する際には、メンテナンス部28の移動領域Smと記録ヘッド24の移動領域Shとが重なった領域Sc内のメンテナンス開始位置に位置することとなる。また、メンテナンス部28は、メンテナンス処理を行っていないときには、移動領域Smの最も後端(-Y方向の端部)に位置する待機位置に位置するようにしてもよいし、第1位置となる任意の位置するようにしてもよい。なお、記録ヘッド24は、メンテナンス処理(払拭処理)の際には、領域Sc内であり、かつ、移動領域Shの他方の端部近傍に位置する払拭位置に位置することとなる。
【0033】
メンテナンス部28は、メンテナンス処理の際にインクを受容するとともに、吐出口面34に当接して吐出口面34に付着した付着物を払拭するためのクリーニング部材70を備えている。また、メンテナンス部28は、クリーニング部材70を巻き取る巻取部72と、クリーニング部材70を所定の圧力で吐出口面34に当接させるためにクリーニング部材70を押圧する押圧部材74とを備えている。
【0034】
クリーニング部材70としては、不織布を用いることができる。より詳細には、繊維間を融着あるいは機械的、化学的作用により結合あるいは絡み合わせたシート・ウェブまたはパット状の不織布を用いることが好ましい。クリーニング部材70では、不織布における微細な細孔による毛管圧によって、付与されたインクや吐出口面34に付着したインク(反応液)などを瞬間的に吸収することができる。本実施形態では、クリーニング部材70が、吐出口面34を払拭する払拭部材として機能している。
【0035】
巻取部72は、未使用のクリーニング部材70が巻き回された回転部材72aと、使用されたクリーニング部材70を巻き取る回転部材72bとを備えている。回転部材72bは、回転部材72aに対して+Y方向側に配置されている。回転部材72bには、クリーニング部材70の先端が取り付けられており、回転部材72bは、制御部100の制御によって回転することにより、クリーニング部材70を巻き取る。回転部材72a、72bは、クリーニング部材70が巻き回される芯部78のX方向の両端部に、一対の円板部材80a、80bが設けられている。円板部材80a、80bの直径は、芯部78の直径よりも大きくなっている。
【0036】
メンテナンス部28では、回転部材72aから回転部材72bに亘って位置するクリーニング部材70が、上方(-Y方向)から見た際に露出した状態となっている。露出するクリーニング部材70の大きさは、メンテナンス開始位置にあるメンテナンス部28において、領域Sc内に位置する記録ヘッド24の各吐出口列33から吐出されるインクおよび反応液を、クリーニング部材70で受容可能な大きさである。また、当該露出部分の大きさは、押圧部材74により押圧された状態で、移動領域Smを移動する際に、クリーニング部材70によって、少なくとも各吐出口列33をX方向に亘って同時に払拭可能な大きさである。
【0037】
押圧部材74は、回転部材72aと回転部材72bとの間において、回転部材72aから回転部材72bに亘って位置するクリーニング部材70を、付勢部材76の付勢力によって+Z方向に押圧する。押圧部材74のX方向の長さL1は、払拭位置にある記録ヘッド24の各吐出口列33を、クリーニング部材70を介してX方向に亘って同時に押圧可能な長さとなる。また、押圧部材74のY方向の長さL2は、所定長さ、例えば、約5mmとする。
【0038】
また、メンテナンス部28は、押圧部材74を下降させる下降部(不図示)を備えている。この下降部は、制御部100の制御によって、付勢部材76の付勢力に抗して押圧部材74を下降させる。これにより、クリーニング部材70を吐出口面34に当接させることなく、メンテナンス部28を移動領域Sm内で移動させることができるようになる。
【0039】
<記録装置の制御構成>
次に、記録装置10の制御系の構成について説明する。図8は、記録装置10の制御系のブロック構成図である。
【0040】
記録装置10の全体の制御を行う制御部100は、中央処理装置(CPU)102、ROM104、RAM106、およびゲートアレイ108を備えている。CPU102は、各種のプログラムに基づいて記録装置10における各構成部材の動作制御や入力された画像データに対する処理などを行う。ROM104は、CPU102が実行する各種の制御および画像データの処理プログラムを格納するメモリとして機能している。RAM106は、記録装置の制御に用いられる各種データ(画像データや記録ヘッド24に出力する記録信号など)を保存する。ゲートアレイ108は、記録ヘッド24に記録信号の供給を行うとともに、インターフェース110(後述する)、CPU102、RAM106間のデータ送信を行う。
【0041】
制御部100は、インターフェース110に接続され、インターフェース110を介して、外部装置112から出力された情報が入力される。ユーザは、外部装置112を介して、画像データや各種の情報を記録装置10に入力することとなる。また、制御部100は、記録ヘッドドライバ114と、走査モータドライバ116と、搬送モータドライバ118とに接続される。記録ヘッドドライバ114は、制御部100から出力された記録信号に基づいて記録ヘッド24(発熱素子)を駆動してインクを吐出する。走査モータドライバ116は、リニアエンコーダ30からの信号に応じて制御部100から出力された信号に基づいて、走査モータ120を駆動してキャリッジ22をX方向で移動する。搬送モータドライバ118は、搬送部における搬送量に対応した情報を取得するエンコーダ124からの信号に応じて制御部100から出力された信号に基づいて、搬送モータ122を駆動して搬送部による記録媒体の搬送を行う。
【0042】
制御部100では、CPU102およびゲートアレイ108は、インターフェース110を介して外部装置112から入力された画像データを記録データに変換してRAM106に格納する。さらに、制御部100では、記録ヘッドドライバ114、走査モータドライバ116、および搬送モータドライバ118を同期して起動することで、記録部14による記録動作および搬送部による搬送動作を行う。これにより、記録データに基づく画像が記録媒体上に記録される。
【0043】
また、制御部100は、記録ヘッド24における基板44に設けられた温度センサ46と接続され、基板44、つまり、基板44から吐出されるインク(反応液)の温度情報を取得することができる。本実施形態では、温度センサ46が、基板44を備えた記録ヘッド24の温度を検知可能な検知部として機能している。また、制御部100は、加熱部16と接続され、加熱部16に対して、加熱部16を駆動して記録後の記録媒体を加熱するための信号を出力する。さらに、制御部100は、吸引部26およびメンテナンス部28と接続され、吸引部26、メンテナンス部28、記録ヘッド24、および走査モータ120を駆動して、吸引部26による吸引処理、メンテナンス部28によるメンテナンス処理を行う。本実施形態では、制御部100が、メンテナンス処理を実行するために記録ヘッド24およびメンテナンス部28などを制御する制御部として機能している。
【0044】
<インクおよび反応液>
次に、記録装置10で用いるインクおよび反応液について説明する。本実施形態では、記録装置10は、顔料を含む有色インクと、顔料を含まない、または、微量の顔料を含む水溶性樹脂微粒子インクとを用いることができる。これら有色インクおよび水溶性樹脂微粒子インクは、水溶性有機溶剤を含有している。なお、記録装置10で使用する有色インクおよび水溶性樹脂微粒子インクについては、必要に応じて所望の特性をもたせるために、各種の界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤などを適宜に添加することができる。
【0045】
有色インクには、記録媒体と色材とを密着させ、記録画像の耐擦過性(定着性)を向上させるための水溶性樹脂微粒子を含有する。樹脂微粒子は熱で溶解し、ヒータ(加熱部16など)により樹脂微粒子の造膜と、インクに含有する溶剤の乾燥が行われる。本実施形態では、樹脂微粒子とは、水中に分散している状態で存在するポリマー微粒子である。また、水中に分散している状態で存在するポリマー微粒子とは、解離性基を有するモノマーを単独重合、または複数種を共重合させて得られる樹脂微粒子の形態、所謂、自己分散型樹脂微粒子分散体でもよい。Kインクでは、顔料としてカーボンブラックを用い、Cインクでは、顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を用い、Mインクでは、顔料としてC.I.ピグメントレッドを用い、Yインクでは、顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を用いた。
【0046】
記録装置10で用いる反応液RSは、各インクに含まれる顔料と反応して、該顔料を凝集またはゲル化させる反応性成分を含有する。反応性成分とは、イオン性基の作用によって水性媒体中に安定に分散されている顔料を有するインクと混合された際に、該インクの分散安定性を破壊することができる成分である。
【0047】
<メンテナンス処理>
以上の構成において、記録装置10では、記録データに基づいて記録媒体に対して記録する記録処理が開始されると、記録処理中の所定のタイミングでメンテナンス処理を行う。所定のタイミングとしては、例えば、記録部14の+X方向および-X方向での記録を伴う走査である記録動作をそれぞれ10回、つまり、10往復分の記録動作を行ったタイミングとする。
【0048】
図9は、メンテナンス処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図10は、図9に示す処理ルーチンのサブルーチンである予備吐出処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図11は、各インクの予備吐出位置を示す図である。図12は、図9に示す処理ルーチンのサブルーチンである払拭処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図13(a)(b)(c)は、メンテナンス部の払拭動作を説明する図である。
【0049】
図9、10、12のフローチャートで示される一連の処理は、CPU102がROM104に記憶されているプログラムコードをRAM106に展開して実行されることにより行われる。あるいはまた、図9、10、12におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。なお、各処理の説明における符号Sは、当該フローチャートにおけるステップであることを意味する。また、他の実施形態で説明する予備吐出処理および払拭処理の説明についても同様である。
【0050】
記録処理中に10往復分の記録動作が行われると、制御部100では、記録ヘッド24へのメンテナンス処理が開始される。なお、メンテナンス処理が終了すると、制御部100は、記録処理を再開し、再度10往復分の記録動作が行われると再度メンテナンス処理を実行することとなる。
【0051】
メンテナンス処理が開始されると、まず、記録媒体上への画像の記録に寄与しないインクの吐出である予備吐出を行う予備吐出処理を実行する(S902)。その後、吐出口面34をクリーニング部材70で払拭する払拭処理を実行し(S904)。このメンテナンス処理を終了する。
【0052】
=予備吐出処理=
予備吐出処理では、まず、CPU102が、メンテナンス部28をメンテナンス開始位置まで移動させる(S1002)。S1002では、記録ヘッド24の移動領域Shと重ならない待機位置(または第1位置)にあるメンテナンス部28を、メンテナンス部28の移動領域Smと移動領域Shとが重なった領域Sc内に設定されたメンテナンス開始位置まで移動する(図6参照)。これにより、クリーニング部材70が、領域Sc内まで移動してきた記録ヘッド24の吐出口面34と、対向するようになる。なお、この予備吐出処理の実行中は、メンテナンス部28では、押圧部材74はクリーニング部材70を押圧しない。
【0053】
次に、CPU102は、記録ヘッド24を、Kインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置においてKインクを所定量だけ吐出する(S1004)。ここで、Kインクを予備吐出する予備吐出位置について説明する。図11では、メンテナンス開始位置にあるメンテナンス部28に対して、記録ヘッド24が、後述する払拭処理の際に位置する払拭位置に位置しているときの、吐出口面34および吐出口列33の位置が破線で示されている。払拭処理の際には、払拭位置にある記録ヘッド24に対して、押圧部材74でクリーニング部材70が押圧された状態でメンテナンス部28がY方向に移動して吐出口面34を払拭することとなる。このため、各吐出口列33は、クリーニング部材70の押圧部材74により押圧された領域において、当接することとなる。Kインクを予備吐出する予備吐出位置は、X方向において、払拭処理の際に吐出口列33RSが当接する領域1100と、吐出口列33Kが当接する領域1102との間に位置する領域SB内にKインクを吐出可能な位置とする。
【0054】
Kインクの予備吐出が完了すると、次に、CPU102は、記録ヘッド24を、Cインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置においてCインクを所定量だけ吐出する(S1006)。Cインクを予備吐出する予備吐出位置は、領域SB内にCインクを吐出可能な位置とする。
【0055】
Cインクの予備吐出が完了すると、次に、CPU102は、記録ヘッド24を、Mインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置においてMインクを所定量だけ吐出する(S1008)。Mインクを予備吐出する予備吐出位置は、領域SB内にMインクを吐出可能な位置とする。
【0056】
Mインクの予備吐出が完了すると、次に、CPU102は、記録ヘッド24を、Yインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置においてYインクを所定量だけ吐出する(S1010)。Yインクを予備吐出する予備吐出位置は、領域SB内にMインクを吐出可能な位置とする。
【0057】
S1004~S1010については、メンテナンス部28がメンテナンス開始位置で停止した状態であり、かつ、記録ヘッド24が、予備吐出するインクの予備吐出位置に停止した状態で、予備吐出が実行される。こうして各インクの予備吐出が完了すると、S904の払拭処理に進む。各インクを予備吐出する際の所定量については、予め設定されている。この所定量は、使用するインクおよび反応液の種類によって変更されるものであり、例えば、実験的に求められて設定される。この所定量の具体的な求め方は、後述する。所定量としては、例えば、吐出周波数5kHzで、各吐出口から100発のインク滴を吐出する。
【0058】
各インクの予備吐出位置については、対応するインクを領域SB内に吐出することができれば、同じ位置であってもよいし、それぞれ異なる位置であってもよい。また、S1004~S1010の各処理については、上記した順番で処理することに限定されるものではなく、記録ヘッド24や記録装置10の構成などに応じて適宜に変更してもよい。さらに、Kインク、Cインク、Mインク、およびYインクのすべてのインクについて予備吐出を実行するようにしたが、これに限定されるものでない。即ち、予め設定したインク色についてのみ予備吐出を行うようにしてもよい。つまり、上記した予備吐出処理では、少なくとも1色のインクについての予備吐出を行えばよい。
【0059】
領域SBについては、X方向において吐出口列33が図5に示す順で設けられているために吐出口列33RSと吐出口列33Kとの間の領域としたが、領域SBをこれに限定するものではない。即ち、領域SBについては、吐出口列33RSと、吐出口列33RSの隣に位置する、インクを吐出する吐出口列33との間の領域となる。
【0060】
=払拭処理=
払拭処理では、まず、CPU102が、記録ヘッド24を払拭位置まで移動させる(S1202)。払拭位置は、図11に示すように、吐出口面34の全面が、メンテナンス開始位置にあるメンテナンス部28のクリーニング部材70に対向する位置である。また、CPU102が、予備吐出処理においてメンテナンス開始位置に位置していたメンテナンス部28を、払拭開始位置まで移動させる(S1204)。払拭開始位置は、押圧部材74でクリーニング部材70を押圧した状態で、クリーニング部材70がキャリッジ22および記録ヘッド24に当接しない位置であり、かつ、記録ヘッド24よりも-Y方向側の位置である(図13(a)参照)。
【0061】
次に、CPU102が、押圧部材74によりクリーニング部材70を押圧した状態とし(S1206)、当該状態を維持したまま、メンテナンス部28を、+Y方向に、払拭終了位置まで移動させる(S1208)。メンテナンス部28が、払拭開始位置から+Y方向に移動すると、クリーニング部材70の押圧部材74により押圧された部分が、吐出口面34に当接する。このとき、吐出口面34は、付勢部材76の付勢力によってクリーニング部材70により所定の圧力で押圧される。そして、さらなる+Y方向への移動を行うことで、クリーニング部材70によって押圧された状態で吐出口面34が払拭され、吐出口面34に付着した付着物がクリーニング部材70によって除去される(図13(b)参照)。このように、S1208では、吐出口面34へのメンテナンス部28による払拭動作を行っている。払拭終了位置は、押圧部材74でクリーニング部材70を押圧した状態で、クリーニング部材70がキャリッジ22および記録ヘッド24に当接しない位置であり、かつ、記録ヘッド24よりも+Y方向側の位置である(図13(c)参照)。
【0062】
ところで、吐出口面34をクリーニング部材70の押圧部材74による押圧部分で払拭する際には、各吐出口列33における吐出口32からインクおよび反応液が浸み出す虞がある。本実施形態では、払拭処理の前にインクの予備吐出処理を行っており、予備吐出処理では、インクを、反応液RSを吐出する吐出口列33RSが当接する領域1100と、Kインクを吐出する吐出口列33Kが当接する領域1102との間の領域SBに吐出している。
【0063】
このため、クリーニング部材70では、S1208での払拭動作の際に反応液RSが吐出口32から浸み出しても、浸み出した反応液RSは、吐出口列33Kが当接する領域に到達する前に、予備吐出されたインクと接触する。これにより、浸み出した反応液RSと予備吐出されたインクとが反応して、浸み出した反応液RSは、領域1102や浸み出したKインクに接触し難くなる。従って、クリーニング部材70における領域1102やその近傍において、Kインクと反応液RSとの反応による凝集物の発生が抑制され、こうした凝集物によって生じる吐出不良が抑制されることとなる。
【0064】
このように、本実施形態では、浸み出した反応液RSについて、予備吐出したインクによって、その広がりを規制するようにしている。従って、予備吐出処理において、各インクを予備吐出する際の発数としての所定量については、例えば、次のようにして設定する。ここで、インクや反応液は、払拭処理の際に吐出口列33にクリーニング部材70が当接する領域から浸み出すこととなる。即ち、反応液RSについては、領域1100から浸み出し、Kインクについては、領域1102から浸み出す。従って、所定量としてのインクの発数としては、記録ヘッド24の最大周波数を超えない周波数で、領域1100からの反応液RSの浸み出しの、領域1102(またはその近傍)への広がりを規制できる発数の下限値が設定される。あるいは、所定量としてのインクの発数は、当該下限値よりも一定値だけ多くした値が設定される。
【0065】
その後、CPU102は、払拭終了位置において、押圧部材74によるクリーニング部材70への押圧を解除する(S1210)。S1210では、CPU102が下降部(不図示)を駆動して、付勢部材76の付勢力に抗して押圧部材74を下降させる。そして、CPU102が、押圧部材74によるクリーニング部材70への押圧を解除した状態を維持したまま、メンテナンス部28を、-Y方向に、払拭開始位置まで移動させる(S1212)。S1212では、クリーニング部材70への押圧部材74の押圧が解除されているため、払拭開始位置までの移動において、クリーニング部材70が吐出口面34に接触することはない。
【0066】
メンテナンス部28が払拭開始位置まで移動すると、CPU102が、回転部材72bを駆動してクリーニング部材70を巻き取り(S1214)、この払拭処理を終了することで、メンテナンス処理を終了する。S1214でのクリーニング部材70の巻き取り量は、押圧部材74のY方向の長さに応じた量とする。例えば、本実施形態では、押圧部材74のY方向の長さが約5mmであるため、これに相当する量だけクリーニング部材70を巻き取る。あるいは、払拭の際のインクおよび反応液のクリーニング部材70への浸み出しなどを考慮して、押圧部材74のY方向の長さより一定量だけ長くクリーニング部材70を巻き取るようにしてもよい。S1214においてクリーニング部材70を巻き取った後では、クリーニング部材70において、領域1100や領域1102などに払拭した付着物が付着していない状態となる。
【0067】
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、クリーニング部材70により吐出口面34を払拭する払拭処理の前に、クリーニング部材70に対してインクを予備吐出する予備吐出処理を実行するようにした。予備吐出処理の際には、クリーニング部材70の、反応液を吐出する吐出口列と、当該吐出口列に隣接し、インクを吐出する吐出口列との間の領域SBに対して、インクを吐出するようにした。これにより、払拭動作の際に、クリーニング部材70に吐出口32から反応液RSが浸み出しても、浸み出した反応液RSは、予備吐出したインクと反応して、反応液RSの吐出口列に隣接する吐出口列が当接する領域への広がりが規制される。このため、払拭処理の際に、クリーニング部材70に浸み出した反応液とインクとの反応に起因する吐出不良の発生が抑制される。
【0068】
(第2実施形態)
次に、図14を参照しながら、第2実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0069】
第2実施形態は、各吐出口列33において、予備吐出時のインクの吐出量(発数)を、吐出口32の位置に応じて変化させるようにした点において、上記第1実施形態と異なっている。
【0070】
以下、各インクの予備吐出処理における吐出量について詳細に説明する。払拭動作の際には、クリーニング部材70の押圧部材74により押圧された部分が吐出口面34と接触するため、反応液RSは、当該部分の吐出口列33RSが接触する領域と重なる領域1100から浸み出して広がることとなる(図11参照)。このため、反応液RSが浸み出す量は、領域1100を中心に、領域1100から離れるほど減少していく。従って、浸み出した反応液RSの広がりを規制するためのインク量、つまり、予備吐出時のインクの発数は、領域1100から離れた位置では、領域1100近傍の位置よりも少なくて済む。
【0071】
そこで、本実施形態では、予備吐出処理において、予備吐出するインクの吐出量について、クリーニング部材70において押圧部材74で押圧されている部分で最も多くなり、当該部分から離れるほど少なくなるようにした。なお、本実施形態では、メンテナンス開始位置にあるメンテナンス部28における押圧部材74が、Y方向において、払拭位置にある記録ヘッド24における吐出口列33の略中心位置に位置しているものとする。
【0072】
図14は、予備吐出するインクの吐出量を変化させた一例を示す図である。予備吐出処理では、S1004、1006、1008、1010において、吐出口列33における吐出口32でのインクの吐出発数を、図14のように設定し、吐出周波数5kHzで吐出するようにした。具体的には、各吐出口列33は1536個の吐出口32が形成されており、各吐出口32には、Y方向の一方の端部から他方の端部に向かって順に0~1535の吐出口No.が付されている。そして、クリーニング部材70において押圧部材74が押圧する部分に対応した吐出口No.511~1023までの吐出口32については、100発のインク滴を吐出させる。そして、吐出口No.511から吐出口No.0に向かって、吐出口No.511から離れた位置にあるほど吐出発数を少なくし、吐出口No.0の吐出口32では、20発のインク滴を吐出させる。また、吐出口No.1023から吐出口No.1535に向かって、吐出口No.1023から離れた位置にあるほど吐出発数を少なくし、吐出口No.1535の吐出口32では、20発のインク滴を吐出させる。
【0073】
本願発明者による実験によれば、これにより、クリーニング部材70において、吐出口列33RSから浸み出した反応液RSの、吐出口列33Kが接触する領域1102およびその近傍への広がりを、予備吐出したインクによって規制することができた。
【0074】
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、予備吐出するインクの吐出量(発数)について、クリーニング部材70における押圧部材74で押圧された部分が最も多くなるようにし、当該部分から離間するほど少なくなるようにした。これにより、本実施形態による記録装置では、上記第1実施形態での効果に加えてさらに、インクの消費量を抑制することができるようになる。
【0075】
(第3実施形態)
次に、図15乃至図17を参照しながら、第3実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0076】
第3実施形態は、各吐出口列33において、予備吐出時のインクの吐出量を、吐出口32の位置に応じて変化させるようにした点において、上記第1実施形態と異なっている。また、第3実施形態は、予備吐出の際に、記録ヘッド24を移動させながらインクを吐出するようにした点において、上記第2実施形態と異なっている。
【0077】
以下、予備吐出処理の際に、記録ヘッド24を移動させながらインクを吐出する形態について説明する。図15は、本実施形態における予備吐出処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図16は、記録ヘッド24を移動させながら予備吐出した際の、予備吐出された領域を示す図である。
【0078】
本実施形態の予備吐出処理では、まず、CPU102が、メンテナンス部28をメンテナンス開始位置まで移動させる(S1502)。S1502の具体的な処理内容は、S1002と同じである。次に、CPU102は、吐出口列33Yから吐出したインクが、吐出口列33RSが当接する領域1100の近傍に設定された予備吐出開始位置Pbに吐出可能な位置にまで、記録ヘッド24を移動させる(S1504)。そして、記録ヘッド24を-X方向に移動させながら、各色のインクについて、図13に示した発数で予備吐出を行い(S1506)、S904の払拭処理に進む。S1506では、記録ヘッド24を-X方向に移動しながら、各インクに対応する吐出口列33が予備吐出開始位置Pbに吐出可能な位置に到達すると、当該位置に到達した吐出口列33の吐出口32からインクを吐出する予備吐出動作が行われる。この予備吐出動作では、領域SB内にすべてのインクが吐出される。例えば、記録ヘッド24は、-X方向に600dpi単位にスピード10ipsで走査しながら、吐出周波数6kHzでインクを吐出する。そして、吐出口列33が予備吐出終了位置Peに吐出可能な位置に到達すると、当該位置に到達した吐出口列33の所定の吐出口32からインクを吐出した後に予備吐出動作を終了する。図13に示した発数で予備吐出を行った場合には、各インクによって予備吐出された予備吐出領域1600は、図16に示すようになる。
【0079】
予備吐出領域1600では、予備吐出開始位置Pbでは、各インクの吐出口列のすべての吐出口からインクが吐出され、予備吐出開始位置Pbから約0,8mmに達すると、そこから徐々にインクを吐出する吐出口が少なくなる。そして、予備吐出開始位置Pnから約4.2mmに達すると、吐出口No.511~1023の吐出口32からのみインクが吐出されるようになり、この位置に吐出口列33が達した時点で当該吐出口列33からのインクの吐出が終了する。なお、本実施形態で示す各値については、適宜に変更可能である。また、インクが予備吐出される領域については、予備吐出領域1600に限定されるものではない。即ち、予備吐出領域は、領域SB内に位置するように、記録ヘッド24の走査スピードと予備吐出発数との関係で、最大吐出周波数を超えず、予備吐出発数などによって変更することができる。
【0080】
また、上記説明では、各インクを吐出口32から図13に示す発数に基づいて予備吐出時の各吐出口32からの予備吐出を制御するようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、例えば、図17(a)(b)に示すように、吐出口列33の吐出口32の位置に応じて、吐出デューティを異ならせるようにして予備吐出時の各吐出口32からのインクの発数を制御するようにしてもよい。図17(a)は、吐出デューティを異ならせた際の予備吐出領域の一例を示す図である。図17(b)は、吐出口に対応する吐出デューティを示す図である。
【0081】
具体的には、図17(b)のように、吐出口No.511~1023までは、吐出デューティ100%で記録し、吐出口No.511から吐出口No.0に向かって徐々に吐出デューティが減少して、吐出口No.0では、吐出デューティ20%となるようにする。また、吐出口No.1023から吐出口No.1535に向かって徐々に吐出デューティが減少して、吐出口No.1535では、吐出デューティが20%となるようにする。
【0082】
こうして吐出口32から対応した吐出デューティに基づいて予備吐出を行うと、図17(a)に示すような予備吐出領域1700となる。この予備吐出領域1700の中央部分の領域1704は、吐出口No.511~1023に対応する領域で、吐出デューティ100%で記録されている。予備吐出領域1700の+Y方向側に位置する領域1702は、吐出口No.0~510に対応する領域で、吐出口No.0に向かって吐出デューティが徐々に減少して記録され、吐出口No.0では、吐出デューティ20%で記録されている。予備吐出領域1700の-Y方向に位置する領域1706は、吐出口No.1024~1535に対応する領域で、吐出口No.1535に向かって吐出デューティが徐々に減少して記録され、吐出口No.1535では、吐出デューティ20%で記録されている。
【0083】
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、予備吐出するインクの吐出量(発数)について、クリーニング部材70における押圧部材74で押圧された部分が最も多くなるようにし、当該部分から離間するほど少なくなるようにした。また、予備吐出時に記録ヘッド24を走査させながらインクを吐出するようにした。これにより、本実施形態による記録装置では、上記第1実施形態での効果に加えてさらに、インクの消費量を抑制することができるようになる。また、予備吐出時のインクの吐出量を、吐出デューティにより制御することができるようになる。
【0084】
(第4実施形態)
次に、図18および図19を参照しながら、第4実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0085】
第4実施形態では、記録ヘッド24の温度に応じて、予備吐出時のインクの吐出量を変化させるようにした点において、上記第1実施形態と異なっている。
【0086】
より詳細には、基板44の温度が高くなるほど、基板44に形成された吐出口32内のインクや反応液の粘度は低くなる。インクや反応液の粘度が低い状態で、払拭動作を行うと、クリーニング部材70が吐出口列33に接触したときに、クリーニング部材70に浸み出すインクや反応液の量が多くなる。クリーニング部材70に浸み出す反応液RSの量が多くなると、クリーニング部材70での反応液RSの広がりを規制するために、予備吐出時のインクの吐出量を多くする必要がある。
【0087】
そこで、本実施形態では,吐出口列33RSのY方向の両端部近傍に設けられた温度センサ46により、記録ヘッド24の温度を検知し、検知した温度が高くなるほど、予備吐出時のインクの吐出量が多くなるようにした。これにより、記録ヘッド24の温度に応じて変化する、クリーニング部材70に浸み出した反応液RSの量に対応できるようになり、インクと反応液RSとの反応に起因する吐出不良の発生を,より確実に抑制することができるようになる。
【0088】
以下、記録ヘッド24の温度に応じて、予備吐出時のインクの吐出量を変更する形態について説明する。図18は、本実施形態における予備吐出処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図19は、記録ヘッド24の温度に対応付けられた、予備吐出時のインクの発数に対して乗算する係数を示すテーブルである。
【0089】
本実施形態の予備吐出処理では、まず、CPU102が、メンテナンス部28をメンテナンス開始位置まで移動させる(S1802)。S1802の具体的な処理内容は、S1002と同じである。次に、CPU102は、記録ヘッド24の温度を取得する(S1804)。S1804では、吐出口32内の反応液RSの温度に近似した温度を検出するために、CPU102が、記録ヘッド24の基板44RSに設けられた温度センサ46から出力される信号に基づいて、記録ヘッド24の温度を取得する。
【0090】
そして、取得した温度に基づいて、予備吐出するインクについて、その発数を算出する(S1806)。つまり、S1806では、Kインク、Cインク、Mインク、およびYインクについて、吐出口列33における各吐出口32において、実際に予備吐出する際に吐出するインクの発数を算出することとなる。なお、算出された値は、RAM106に保存される。
【0091】
S1806では、ROM104に格納されたテーブル(図19参照)に基づいて、係数を取得する。そして、吐出口32に対して設定された、予備吐出する際のインクの発数に対して、取得した係数を乗算して当該インクの発数を補正することで、予備吐出時に実際に吐出するインクの発数を算出する。例えば、記録ヘッド24の温度が32℃であったとすると、図19に示すテーブルから係数は「1.1」となる。従って、100発吐出するよう設定された吐出口No.511では、予備吐出の際に実際に吐出されるインクの発数は、110(1.1×100)発と算出される。また、20発吐出するよう設定された吐出口No.0では、予備吐出の際に実際に吐出されるインクの発数は、22(1.1×20)発と算出される。なお、図19に示される、温度と係数との関係は、あくまで一例であって、使用する反応液RSの種類、クリーニング部材70の種類などに応じて適宜に変更することができる。
【0092】
反応液の温度が高いほど、クリーニング部材70における反応液の浸み出し量が多くなる。このため、図19のテーブルでは、記録ヘッド24の温度に応じて、クリーニング部材70に浸み出した反応液の、吐出口列33Kが当接する領域1100(またはその近傍)への広がりを規制することができるインクの発数とする係数が設定されている。
【0093】
その後、CPU102は、記録ヘッド24を、Kインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置において、吐出口列33Kの各吐出口32からKインクを、S1806で算出した発数だけ吐出する(S1808)。また、CPU102は、記録ヘッド24を、Cインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置において、吐出口列33Cの各吐出口32からCインクを、S1806で算出した発数だけ吐出する(S1810)。さらに、CPU102は、記録ヘッド24を、Mインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置において、吐出口列33Mの各吐出口32からMインクを、S1806で算出した発数だけ吐出する(S1812)。さらにまた、CPU102は、記録ヘッド24を、Yインクを予備吐出する予備吐出位置まで移動し、当該予備吐出位置において、吐出口列33Yの各吐出口32からYインクを、S1806で算出した発数だけ吐出し(S1814)、S904の払拭処理に進む。こうした予備吐出動作は、記録装置10で用いられる記録ヘッド24の最大吐出周波数を超えない周波数で行われる。
【0094】
上記実施形態では、各基板44に温度センサ46が設けられる構成とし、基板44RSの温度センサ46による記録ヘッド24の温度を検知し、この検知結果に基づいて予備吐出時のインクの発数を補正するようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、各基板44に設けられた温度センサ46での検知結果に基づいてインクの発数を補正する係数を決定するようにしてもよい。また、各基板44では、温度センサ46を吐出口列33のY方向の両端部に設けるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、温度センサ46は、吐出口列33のY方向の少なくともいずれか一方の端部にのみ設けるようにすればよい。
【0095】
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、上記第1実施形態で説明した予備吐出処理を実行する際に、記録ヘッド24の温度が高いほど、予備吐出する際のインクの吐出量が多くなるようにした。これにより、払拭動作の際にクリーニング部材70への反応液RSの浸み出しが多くなるときには、浸み出した反応液に対応可能なインク量で予備吐出を行うことができる。このため、クリーニング部材70に浸み出した反応液RSの領域1102への広がりが、予備吐出されたインクによって規制される。従って、インクと反応液RSとの反応に起因する吐出不良を、より確実に抑制することができるようになる。
【0096】
(第5実施形態)
次に、図20および図22を参照しながら、第5実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0097】
第5実施形態では、前回のメンテナンス処理から実行した記録動作におけるインクの吐出発数に基づく打込比率を算出し、当該打込比率に基づいて、払拭回数および予備吐出するインクの吐出量を変更するようにした点において、上記第1実施形態と異なっている。
【0098】
上記第1実施形態では、記録ヘッド24が10往復分の記録動作を行うたびにメンテナンス処理を実行するようにしたが、記録処理中に頻繁にメンテナンス処理が実行されると、記録処理に要する時間が長くなる。このため、効率性などの観点から、記録処理中に実行されるメンテナンス処理の回数は少ないほうがよい。例えば、20往復分の記録動作を行うごとにメンテナンス処理を行うことで、記録時間に要する時間を短縮することができ、効率的な記録を行うことができるようになる。しかしながら、この場合、前回のメンテナンス処理から、2倍の記録動作が実行されており、吐出口面34には、インクなどの付着物がより多く付着している虞がある。
【0099】
そこで、本実施形態では、メンテナンス処理間に実行される記録動作におけるインクの打込比率を算出し、この打込比率に基づいて払拭回数および予備吐出するインクの吐出量を変更して、吐出口面34に付着した付着物に対応するようにした。なお、本実施形態では、打込比率とは、記録データに基づいて実際にインクを吐出して記録した際のインクの吐出量の、該記録の際に吐出可能なインクの最大吐出量に対する比率である。
【0100】
以下、メンテナンス処理間のインクの打込比率に応じて、払拭回数および予備吐出するインクの吐出量を変更する形態について説明する。図20は、本実施形態におけるメンテナンス処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図21は、図20のサブルーチンである払拭処理の詳細な処理ルーチンを示すフローチャートである。図22は、打込比率に対応付けられた、払拭回数、および予備吐出時のインクの発数に対して乗算する係数を示すテーブルである。
【0101】
本実施形態による記録装置10では、CPU102が、記録開始からの記録動作において、インクの総吐出数を、記録動作20往復ごとにカウントする構成となっている。制御部100に当該カウントを行うカウンタ(不図示)を設ける構成としてもよい。
【0102】
本実施形態におけるメンテナンス処理では、まず、CPU102は、記録動作20往復ごとのインクの総吐出数のカウント値と、20往復の記録動作で吐出可能なインクの最大吐出数とを用いて打込比率Dを算出する(S2002)。20往復の記録動作で吐出可能なインクの最大吐出数とは、記録動作を20往復した際に、吐出口列33K、33C、33M、33Yの吐出口32から吐出可能なインクの吐出数の最大値である。S2002では、打込比率Dについて、カウント値を最大吐出数で除算して取得する。
【0103】
次に、CPU102は、算出した打込比率Dに基づいて、払拭処理時の払拭動作の回数である払拭回数、および予備吐出するインクの発数に対して乗算する係数を取得する(S2004)。S2004では、算出した打込比率Dと、図22に示すテーブルとに基づいて、払拭回数および係数を取得することとなる。図22のテーブルには、打込比率Dに対して、払拭回数および係数が対応付けられている。このテーブルでは、打込比率Dが高い場合には、打込比率Dが低い場合よりも、払拭回数が多く、かつ、予備吐出時のインクの発数に乗算する係数が大きく、つまり、予備吐出時のインクの吐出量が多くなるようになっている。
【0104】
なお、図22に示す打込比率、払拭回数、および係数については、あくまで一例であって、使用するインク、反応液の種類、クリーニング部材70の種類などに応じて適宜に変更可能である。また、図22では、打込比率Dに対して払拭回数および予備吐出時のインクの吐出発数に乗じる係数が対応付けられるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、浸み出した反応液の拡散の規制に効果の高いインクの種類など、変更することで反応液の拡散を規制する効果に違いのある要件が、打込比率Dに対応付けられるようにしてもよい。また、メンテナンス部28の移動スピードや押圧部材74による押圧力など、その値を変更することで払拭効果に違いのある要件が、打込比率に対応付けられるようにしてもよい。これらの場合、以降の予備吐出処理および払拭処理は、打込比率Dに対応付けられた要件について、その値や種類に応じて処理が実行されることとなる。さらに、打込比率Dを2段階に分割して、各段階に払拭回数などを対応付けるようにしていたが、これに限定されるものではなく、打込比率Dを、3段階上に分割してもよい。
【0105】
その後、取得した係数に基づいて、予備吐出時のインクの発数を算出し(S2006)、算出したインクの発数に基づいて、予備吐出処理を実行する(S2008)。予備吐出処理の具体的な処理内容については、S2006で算出したインクの発数について各インクを吐出すること以外は、図10の予備吐出処理を一致する。即ち、S2008の予備吐出処理では、S1004において、記録ヘッド24をKインクの予備吐出位置まで移動し、吐出口列33Kの各吐出口32からKインクを、S2006で算出したインクの発数に基づいて吐出する。また、S1006では、記録ヘッド24をCインクの予備吐出位置まで移動し、吐出口列33Cの各吐出口32からCインクを、S2006で算出したインクの発数に基づいて吐出する。さらに、S1008 では、記録ヘッド24をMインクの予備吐出位置まで移動し、吐出口列33Mの各吐出口32からMインクを、S2006で算出したインクの発数に基づいて吐出する。さらにまた、S1010では、記録ヘッド24をYインクの予備吐出位置まで移動し、吐出口列33Yの各吐出口32からYインクを、S2006で算出したインクの発数に基づいて吐出する。
【0106】
予備吐出処理が終了すると、次に、払拭処理を行う(S2010)。S2010の払拭処理については、図21を参照しながら説明する。S2010の払拭処理では、まず、CPU102が、記録ヘッド24を払拭位置まで移動させる(S2102)。また、CPU102が、メンテナンス部28を払拭開始位置まで移動させる(S2104)。S2102、S2104の具体的な処理内容は、上記S1202、1204と同じである。
【0107】
次に、CPU102は、払拭回数を表す変数「n」について「1」を設定する(S2106)。そして、CPU102が、押圧部材74によりクリーニング部材70を押圧した状態とし(S2108)、当該状態を維持したまま、メンテナンス部28を+Y方向に、払拭終了位置まで移動させる(S2110)。メンテナンス部28を払拭終了位置まで移動させると、次に、CPU102は、払拭終了位置において、押圧部材74によるクリーニング部材70への押圧を解除する(S2112)。そして、CPU102は、メンテナンス部28を払拭開始位置まで移動させる(S2114)。S2108~S2114までの具体的な処理内容は、上記S1206~S1212と同じである。
【0108】
その後、CPU102は、変数nが、S2004で取得した払拭回数に達したか否かを判定する(S2116)。S2116において、変数nが、S2004で取得した払拭回数に達していないと判定されると、nをインクリメントし(S2118)、S2108に戻り、以降の処理を実行する。また、S2116において、変数nが、S2004で取得した払拭回数に達したと判定されると、CPU102は、回転部材72bを駆動してクリーニング部材70を巻き取り(S2120)、この払拭処理を終了することで、メンテナンス処理を終了する。なお、S2118の具体的な処理内容は、上記S1214と同じである。
【0109】
なお、上記した説明では、記録動作を20往復実行するごとに、メンテナンス処理を実行するようにしたが、メンテナンス処理を実行するタイミングは、これに限定されるものではない。即ち、こうしたタイミングは、記録ヘッド24の構成などに応じて適宜に変更してもよい。また、記録動作を10往復実行するごとにメンテナンス処理を実行してもよく、この場合、打込比率に応じて、払拭回数および係数を変更することができ、記録動作時のインクの吐出量状況に応じたメンテナンスが可能となる。
【0110】
以上において説明したように、本実施形態による記録装置10では、前回のメンテナンス処理からの記録動作での打込比率を算出し、この打込比率に基づいて、予備吐出時のインクの発数に乗算する係数と、払拭回数とを取得するようにした。この際、打込比率が大きいときは、打込比率が小さいときと比較して、係数が大きく予備吐出時にインクの吐出量が多くなるとともに、払拭回数が多くなるようにした。
【0111】
これにより、メンテナンス処理による効果を維持したまま、メンテナンス処理の頻度を減少させることができ、記録時間の短縮に寄与することができる。また、打込比率に基づく吐出口面34の汚れの程度に応じて、メンテナンス処理における予備吐出処理および払拭処理の程度が変化するため、効率的なメンテナンス処理を実行することができるようになる。
【0112】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形してもよい。
【0113】
(1)上記実施形態では、色材として顔料を含むKインク、Cインク、Mインク、およびYインクを予備吐出する構成としたが、予備吐出するインクとしては、これに限定されるものではない。具体的には、固形分を含み、反応液RSと反応する液体であれば、顔料を含まないインク(例えば、クリアインク)を、領域SBに吐出するようにしてもよい。また、顔料を含んだインクとしても、Kインク、Cインク、Mインク、およびYインクに限定されるものではないし、これらのインク数についても4色に限定されるものではない。
【0114】
(2)上記実施形態では、記録装置10において、記録ヘッド24がX方向に移動し、メンテナンス部28がY方向に移動する構成としたが、これに限定されるものではない。即ち、記録ヘッド24およびメンテナンス部28の一方が固定的に配置され、他方がX方向およびY方向に移動するようにしてもよく、記録ヘッド24とメンテナンス部28とは相対移動可能な構成であればよい。
【0115】
(3)上記第2実施形態および第3実施形態では、予備吐出の際に、記録ヘッド24をX方向に移動しながらインクを吐出するようにしたが、これに限定されるものではない。具体的には、メンテナンス部28がX方向にも移動可能な構成とし、記録ヘッド24を移動することなく、メンテナンス部28をX方向に移動させながら予備吐出するようにしてもよい。
【0116】
(4)上記実施形態では、予備吐出の際のインクの吐出量について、各インクで同じものとしたが、これに限定されるものではない。即ち、反応液RSとのの反応性が高いインクにについて、予備吐出時により多くのインクを吐出するようにしてもよい。
【0117】
(5)上記実施形態および(1)乃至(4)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0118】
10 記録装置
24 記録ヘッド
28 メンテナンス部
100 制御部
図1
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