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特許7600022基材と該基材上に形成された部材とを備えた物品
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  • 特許-基材と該基材上に形成された部材とを備えた物品 図1
  • 特許-基材と該基材上に形成された部材とを備えた物品 図2A
  • 特許-基材と該基材上に形成された部材とを備えた物品 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】基材と該基材上に形成された部材とを備えた物品
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20241209BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H05K1/03 610D
C23C26/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021061907
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157596
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-79157(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073604(WO,A1)
【文献】特開平2-225383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
C23C 24/00 - 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上に形成された、ガラスマトリックスおよび無機フィラーを含む板状の部材と、
を備えた物品であって、
前記無機フィラーの平均アスペクト比(短径/長径比)は0.005~0.5であり、
前記部材の厚さ方向における断面のSEM画像において観察される、前記無機フィラーの90個数%以上について、該厚さ方向または該断面に直交する方向のいずれか一方に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θの値が10°以内である、物品。
【請求項2】
前記無機フィラーの、前記短径の平均値は0.01μm以上であり、かつ、前記長径の平均値は20μm以下である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記長径の平均値は、1μm~20μmの範囲内である、請求項1または2に記載の物品。
【請求項4】
前記厚さ方向における断面に直交する方向における、前記部材の断面のSEM画像において、前記無機フィラーの占める面積の割合を、以下の式:
面積占有率=(無機フィラーの総面積/観察視野の全面積)×100(%)
に基づいて算出した場合、該面積占有率は15~70%の範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記ガラスマトリックスを構成するガラス粉末は、B-SiO系ガラスを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記ガラスマトリックスを構成するガラス粉末の、30℃から500℃までの熱膨張係数は0.3×10―5―1~2.0×10―5―1の範囲内である、請求項1~5のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記基材は、金属材料から構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記部材の平均厚みは100μm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、該基材上に形成された部材とを備えた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、回路基板、面状ヒーター等を電子部品に実装する際には、適宜、周辺部材との絶縁性を確保する必要がある。絶縁性を確保する方法の一例として、絶縁性を有する部材を介して実装する方法が挙げられる。かかる部材としては、例えば、アルミナ粒子とガラス成分とを含む焼成物を備えたガラスセラミック基板が挙げられる(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-019688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、電子部品のさらなる小型化が要求されている。これに伴い、電子部品が備える部材の薄層化(例えば、厚みが200μm以下、好ましくは100μm以下程度)が求められている。即ち、かかる薄層化された態様においても、優れた絶縁性を有し、かつ、優れた放熱性(即ち、熱伝導性)を有する部材が必要となる。
【0005】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、例えば薄層化された態様においても、絶縁性と、放熱性とを好適に両立し得る部材を備えた物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を実現するべく、本発明は、基材と、該基材上に形成された、ガラスマトリックスおよび無機フィラーを含む板状の部材とを備えた物品を提供する。上記無機フィラーの平均アスペクト比(短径/長径比)は0.005~0.5であり、上記部材の厚さ方向における断面のSEM画像において観察される、上記無機フィラーの90個数%以上について、該厚さ方向または該断面に直交する方向のいずれか一方に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θの値が10°以内である(以下、単に「配向性を有する」ともいう)。
【0007】
本発明者らは、平均アスペクト比が適切に調整され、かつ、上述したような配向性を有する無機フィラーを含む部材によると、絶縁性と、放熱性とが好適に両立されることを見出し、本発明を完成するに至った。特に限定解釈されることを意図したものではないが、無機フィラーがかかる配向性を有することで、発生した熱が、該無機フィラーが配向する方向に沿って効率よく伝導するものと考えられ得る。これによって、優れた放熱性を得ることができるものと考えられ得る。
【0008】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記無機フィラーの、上記短径の平均値は0.01μm以上であり、かつ、上記長径の平均値は20μm以下である。また、好ましい一態様では、上記長径の平均値は、1μm~20μmの範囲内である。かかる構成の無機フィラーを含む部材を備えた物品によると、絶縁性と、放熱性との両立がより好適に実現されるため、好ましい。
【0009】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記厚さ方向における断面に直交する方向における、上記部材の断面のSEM画像において、上記無機フィラーの占める面積の割合を、次の式:面積占有率=(無機フィラーの総面積/観察視野の全面積)×100(%)に基づいて算出した場合、該面積占有率は15~70%の範囲内である。かかる構成の部材によると、絶縁性と、放熱性との両立に加えて、基材との接合性に優れるため好ましい。
【0010】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記ガラスマトリックスを構成するガラス粉末は、B-SiO系ガラスを含む。かかるガラス粉末から構成されたガラスマトリックスを含む部材によると、例えば、金属材料から構成される基材等との接合性に優れるため、好ましい。
【0011】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記ガラスマトリックスを構成するガラス粉末の、30℃から500℃までの熱膨張係数は0.3×10―5―1~2.0×10―5―1の範囲内である。熱膨張係数を上記範囲内としたガラス粉末から構成されたガラスマトリックスを含む部材によると、例えば、金属材料から構成される基材等との接合性に優れるため、好ましい。
【0012】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記基材は、金属材料(単一の金属材、もしくは、2種以上の元素を含む鋼材等の合金材を包含する)から構成されている。このような基材を備えた物品は、種々の用途に用いることができるため、好ましい。
【0013】
ここで開示される物品の好ましい一態様では、上記部材の平均厚みは100μm以下である。かかる平均厚みを有する部材を備えた物品は、ここで開示される技術が適用される対象として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る物品を模式的に示す断面図である。
図2A】無機フィラーが部材の厚さ方向における断面と直交する方向に配向している図を模式的に示す図である。
図2B】無機フィラーが部材の厚さ方向に配向している図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の実施形態は、ここで開示される技術をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。また、本明細書にて示す図面では、同じ作用を奏する部材・部位に同じ符号を付して説明している。そして、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、所定の数値範囲をA~B(A、Bは任意の数値)と記すときは、A以上B以下の意味である。したがって、Aを上回り且つBを下回る場合を包含する。
【0016】
<物品1>
図1は、一実施形態に係る物品1を模式的に示す断面図である。図示するように、本実施形態に係る物品1は、大まかにいって、基材12と、該基材上に形成された、ガラスマトリックスおよび無機フィラーを含む部材10とを備えている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0017】
(部材10)
本実施形態に係る部材10は、ガラスマトリックス(図示せず)と、該ガラスマトリックス中に含まれる無機フィラー20とを含む板状の部材である。ここで、本明細書および特許請求の範囲における「板状」とは、2つの幅広面を備え、かつ、該幅広面間に厚みを有する態様ということができる。かかる幅広面は、矩形、円形、楕円等の種々の形状であり得る。また、特に限定されないが、上記幅広面の長径をs、短径をt、厚みをuとしたとき、概ねu<t<sとすることができる。また、かかるuは、u≦(1/2)t、u≦(1/3)t、u≦(1/5)t等とすることができる。
【0018】
上記ガラスマトリックスを構成するガラス粉末としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、好適例として、ホウ素成分(B)とケイ素成分(SiO)を主成分として含むB-SiO系ガラスが挙げられる。かかるB-SiO系ガラスを含む部材10によると、基材12の表面への定着性に優れるため好ましい。
【0019】
より具体的には、ホウ素成分(B)は、焼成中の流動性を高めることに寄与するため、基材12の表面に対する部材10の定着性を改善することができる。なお、上記B-SiO系ガラスにおけるBの割合は、酸化物換算のモル比で1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が特に好ましい。これによって、焼成後の部材10の定着性をより好適に改善できる。一方、Bの含有量が過剰になると、焼成中に部材10の形状を維持することが難しくなる可能性がある。このため、B-SiO系ガラスにおけるBの割合の上限は、25モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下が特に好ましい。
【0020】
次に、ケイ素成分(SiO)は、焼成後のガラス層の骨格を構成する成分である。また、SiOにも基材表面への定着性を改善する機能がある。B-SiO系ガラスにおけるSiOの割合は、酸化物換算のモル比で10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。これによって、基材12の表面への定着性をさらに改善できる。また、上記SiOの割合の上限は、80モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下が特に好ましい。また、上記B-SiO系ガラスは、BとSiO以外の成分も含み得る。かかる他の成分としては、2族元素の酸化物(RO:RはMg、Ca、Sr、Ba、Ra等)、アルミニウム成分(Al)、イットリウム成分(Y)、亜鉛成分(ZnO)などが挙げられる。これらの他の成分の含有量を調節することによって、焼成後の部材10の耐熱性や化学的耐久性等を改善することができる。
【0021】
なお、ガラス粉末は、上述したB-SiO系ガラスに限定されず、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、ガラス粉末は、一般的な非晶質ガラスの他に、結晶を含んだ結晶化ガラスであってもよい。また、ガラス粉末の成分についても特に限定されない。ガラス粉末の他の例として、SiO-RO系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Y系ガラス、SiO-RO-B系ガラス、SiO-RO-Al-B系ガラス、SiO-Al系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス等が挙げられる。また、ガラス粉末の平均粒子径としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.1~10μm程度(例えば、0.5~5.0μm程度)とすることができる。なお、本明細書における「平均粒子径」は、レーザー回折・光散乱法に基づき測定した体積基準の粒度分布において、粒子径の小さな微粒子側から累積50%に相当する粒子径D50値(メジアン径ともいう。)を意味する。
【0022】
無機フィラー20としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば、アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、イットリウムその他の希土類元素等によって安定化されたジルコニアや、マグネシア、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。なかでも、汎用性の高いアルミナやジルコニア等を好ましく用いることができる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ジルコニアの安定化剤の含有割合は特に限定されないが、無機フィラー全体を100mol%としたときに、おおよそ5~10mol%であることが好ましい。また、無機フィラー20の結晶性は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されず、単結晶でも多結晶でもよいが、部材10の機械的強度の向上という観点から、単結晶のものを好ましく用いることができる。
【0023】
また、ガラスマトリックスを構成するガラス粉末における熱膨張係数は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、被覆対象である基材の熱膨張係数に近似させることが好ましい。ガラス粉末の熱膨張係数は、例えば0.3×10-5-1~2.0×10-5-1(例えば、0.5×10-5-1~2.0×10-5-1等)とすることができる。熱膨張係数を上記範囲内としたガラス粉末から構成されたガラスマトリックスを含む部材によると、例えば、金属材料から構成される基材等との接合性に優れるため、好ましい。なお、本明細書において「熱膨張係数」とは、30℃から500℃までの温度領域において、熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均膨張係数(平均線膨張係数)であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値をいう。熱膨張係数の測定は、例えばJISR3102:1995等に準じて実施することができる。
【0024】
また、無機フィラー20の短径/長径比の平均値(即ち、平均アスペクト比)は、0.005~0.5である。特に限定するものではないが、部材10の機械的強度をより好適に向上するという観点から、上記平均アスペクト比は、好ましくは0.01以上、例えば0.02以上とすることができる。また、上記平均アスペクト比は、放熱性を向上させるという観点から、好ましくは0.4以下、例えば0.2以下、0.1以下、0.05以下とすることができる。
【0025】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「平均アスペクト比」とは、複数個の粒子の短径/長径比の平均値をいう。即ち、かかる平均アスペクト比は、粒子の平均的な粒子形状を示す値である。上記平均アスペクト比から、無機フィラー粒子は、例えば、平板状、鱗片状、フレーク状、棒状、楕円形状、繊維状、針状等の種々の形状であり得る。なかでも、配向性を具備させ易くするという観点から、平板状、鱗片状、フレーク状等である場合が好ましい。
【0026】
また、平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、測定対象の無機フィラーに含まれる所定個数(例えば、50個以上)の粒子を観察し、各々の粒子画像に外接する面積が最小となる長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その短辺の長さ(短径の値)を長辺の長さ(長径の値)で除した値を各粒子の短径/長径比(アスペクト比)として算出する。そして、上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。なお、各粒子のアスペクト比および平均アスペクト比は、一般的な画像解析ソフトウェアを用いて求めることができる。なお、無機フィラー粒子が、例えば、平板状、鱗片状、フレーク状、棒状、楕円形状等である場合は、幅広面における短径、長径を算出するものとする。
【0027】
無機フィラー20の短径の平均値(即ち、平均短径)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.01μm以上、例えば0.04μm以上(0.05μm以上)であり、絶縁性をより好適に担保するという観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上とすることができる。また、上記平均短径の上限は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね10μm以下、例えば5μm以下、4μm以下とすることができる。
【0028】
なお、本明細書および特許請求の範囲における「平均短径」とは、複数個(例えば50個以上)の粒子の短径の平均値をいう。各粒子の短径は、上述したアスペクト比と同様、SEMにより得られた各々の粒子画像に外接し、面積が最小となる長方形の短辺の長さの算術平均値として求めることができる。
【0029】
また、無機フィラー20の長径の平均値(即ち、平均長径)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.1μm以上、例えば0.5μm以上であり、絶縁性と放熱性とをより好適に担保し易くするという観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上とすることができる。また、上記平均長径の上限は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね30μm以下であり、好ましくは20μm以下、例えば10μm以下とすることができる。即ち、上記長径の平均値は、好ましくは1μm~20μmとすることができる。
【0030】
なお、本明細書および特許請求の範囲における「平均長径」は、複数個(例えば、50個以上)の粒子の長径の平均値をいう。各粒子の長径は、上述したアスペクト比と同様、SEMにより得られた各々の粒子画像に外接し、面積が最小となる長方形の長辺の長さの算術平均値として求めることができる。
【0031】
また、無機フィラー20の厚みの平均(即ち、平均厚み)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.01μm以上、例えば0.03μm以上とすることができる。そして、上記平均厚みの上限は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、概ね0.1μm以下、例えば0.05μm以下とすることができる。
【0032】
なお、本明細書における「平均厚み」とは、複数個(例えば50個以上)の粒子の厚みの平均値をいう。各粒子の平均厚みは、電子顕微鏡(SEM)観察により求めることができる。具体的な手順としては、例えば、測定対象の粒子を樹脂で固めた試料を作製し、その試料の断面を走査型電子顕微鏡で観察する。そして、該断面に含まれる所定個数(例えば50個以上)の粒子の厚み(最も厚い部分における差渡し長さ)を測定し、該所定個数の粒子の厚みを算術平均することにより、平均厚みを求めることができる。なお、無機フィラー粒子の厚みに関して、例えば、無機フィラーが平板状、鱗片状、フレーク状、棒状、楕円形状等である場合は、幅広面の間の長さということができる。また、特に限定されないが、無機フィラーの長径をs、短径をt、厚みをuとしたとき、概ねu<t<sとなり得る。そして、特に限定されないが、u≦1/2t、u≦(1/3)t、u≦1/5t等とすることができる。
【0033】
また、部材10の厚さ方向(即ち、Y方向)における断面(即ち、XY面)のSEM画像において観察される、無機フィラー20の90個数%以上について、該無機フィラーの90個数%以上について、該厚さ方向または該断面に直交する方向のいずれか一方に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θ(図2Aの無機フィラー20aがなす角θ図2Bの無機フィラー20bがなす角θを参照)の値が10°以内であることを特徴とする。なお、上記SEM画像は、無作為的に1枚以上取得するものとする。また、上記SEM画像の倍率は特に制限されないが、例えば1000~5000程度とすることができる。かかるθの値を10°以下とした態様によると、絶縁性と、放熱性とが好適に両立された部材を備えた物品を得ることができる。かかるθの値は10°以下であればよく、物品の放熱性をより好適に実現するという観点からは、好ましくは9°以下、より好ましくは7°以下とすることができる。なお、上記「90個数%以上」という記載は、SEM画像中に確認される無機フィラーの個数をn個とした場合、0.9×n個以上という意味であり得る。例えば、n=20である場合、18個以上のθの値が10°以下であればよい。上記nの値は、測定する断面によるため一概に規定することはできないが、測定精度および再現性を高めるという観点から、好ましくは20以上であり、より好ましくは30以上、さらに好ましくは50以上(例えば、100以上)とすることができる。また、例えばSEM画像を2枚以上取得した場合は、各画像で観察される無機フィラーの個数を合計し、そのうちの90個数%以上のθの値が10°以下であればよい。
【0034】
好ましい一態様では、厚さ方向における断面(即ち、XY断面)に直交する方向における、部材10の断面のSEM画像において、無機フィラー50の占める面積の割合を、次の式:面積占有率=(無機フィラーの総面積/観察視野の全面積)×100(%)に基づいて算出した場合、該面積占有率は15~70%の範囲内である。かかる構成の部材10によると、絶縁性と、放熱性との両立に加えて、基材12との接合性に優れるため好ましい。また、かかる接合性の向上という観点から、上記面積占有率は、より好ましくは15~50%の範囲内とすることができる。なお、かかる面積占有率の算出方法の詳細については、後述の実施例を参照されたい。
【0035】
また、部材10は、ここで開示される技術の効果を大きく阻害しない限りにおいて、その他の成分を含んでいてもよい。かかる任意成分として、例えば、無機フィラー以外の粒子成分が含まれる場合には、当該粒状成分も、無機フィラーと同様な平均アスペクト比を有していることが好ましい。なお、上記その他の成分は、この種の部材に含まれ得る従来公知の成分を特に制限なく選択することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため詳しい説明を省略する。
【0036】
部材10の平均厚み(即ち、Y方向の長さ)は特に限定されないが、例えば小型化された電子部品等に用いる場合は、概ね、200μm以下とすることができ、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、特に好ましくは50μm以下とすることができる。また、クラック等の不具合の発生を抑制する観点からは、上記厚みは、概ね10μm以上、例えば20μm以上等とすることができる。なお、上記部材の平均厚みとは、例えば部材の厚みを3点以上(例えば5点)測定したときの平均値とすることができる。
【0037】
(基材12)
基材12としては、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、例えば、金属材料から構成される基材や、セラミック基材(例えば、アルミナ基材や窒化ホウ素基材)等の種々の基材を用いることができる。なかでも、金属材料から構成される基材を用いた場合、種々の工業用途に用いることができるため好ましい。かかる基材としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、炭素鋼、銅、超硬合金等が挙げられる。また、基材12の厚みは特に制限されないが、概ね0.1~10mm程度(例えば、0.5~5mm程度)とすることができる。
【0038】
<物品1の製造方法>
次に、一実施形態に係る物品1の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、部材形成用組成物を用意する用意工程(ステップ1)と、基材上に部材形成用組成物を塗工する塗工工程(ステップ2)と、焼成工程(ステップ3)とを包含する。以下、各工程について説明する。
【0039】
用意工程(ステップ1):
本工程では、先ず、上述したようなガラス粉末と、無機フィラーと、必要に応じてバインダと、分散媒とを含むスラリー状(インク状、ペースト状を包含する)の部材形成用組成物を調製する。ここで、上記ガラス粉末の配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、部材形成用組成物の全体を100質量%としたとき、概ね1~20質量%の範囲内とすることができる。また、上記無機フィラーの配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、部材形成用組成物の全体を100質量%としたとき、概ね0.1~40質量%の範囲内とすることができる。
【0040】
上記分散媒としては、特に限定されず、従来公知の分散媒を適宜選択して用いることができる。一例として、N-メチルピロリドン(NMP)、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤等や、これらの混合溶媒等が挙げられる。上記分散媒の配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、部材形成用組成物の全体を100質量%としたとき、概ね20~95質量%の範囲内とすることができる。
【0041】
上記バインダとしては、特に制限されないが、例えば熱可塑性を有し、且つ、焼成工程(典型的には、200℃以上の加熱焼成)によって焼失する樹脂材料を好適に用いることができる。かかるバインダを添加することによって、グリーンシートの成形性を向上させることができる。一好適例として、カラギーナン、キサンタンガム等の天然高分子化合物、エチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキル系樹脂などが挙げられる。上記バインダの配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、部材形成用組成物の全体を100質量%としたとき、概ね1~20質量%の範囲内とすることができる。
【0042】
また、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、従来公知の添加剤を組成物に添加してもよい。かかる添加剤の一例として、分散剤、可塑剤、消泡剤、離型剤、酸化防止剤、増粘剤、造孔材(気孔形成材)等が挙げられる。上記添加剤の配合量は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されないが、部材形成用組成物の全体を100質量%としたとき、概ね1~10質量%の範囲内とすることができる。
【0043】
上記部材形成用組成物の調製には、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等の従来公知の種々の攪拌混合装置を使用できる。例えば、上記ガラス粉末と、無機フィラーと、バインダと、分散媒と、添加剤を任意の撹拌混合装置に投入し、所定の時間(例えば、1~2時間程度)、撹拌混合することによって均質な組成物を調製し得る。なお、部材形成用組成物の粘度は、概ね50~10000mPa・sec(25℃-100rpm)程度(好ましくは、200~5000mPa・sec程度)とすることが好ましい。かかる粘度は、例えば市販の粘度計を用いて測定することができる。
【0044】
塗工工程(ステップ2):
本工程では、次に、上記のとおり調製した部材形成用組成物を、上述したような基材上に塗工する。ここで、従来公知の塗工方法(例えば、ブレードコーティング法,スプレーコーティング法,スクリーン印刷法,ロールコンパクション成形法,浸漬コーティング法等)によると、無機フィラーに上述したような配向性を持たせることが困難であった(即ち、無機フィラーが乱雑に配置される傾向にあった)。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、条件が適切に調整された塗工方法によると、無機フィラーに上述したような配向性を具備させることが可能であることが分かった。かかる塗工方法の好適例としては、適切な粘度(上述したような粘度等)に調整された部材形成用組成物を、適切な径のノズルから吐出させることで塗工を行う、スプレーコーティング(静電塗布)法が挙げられる。かかる塗工方法において、例えば、無機フィラーを部材の厚さ方向に配向させる(図2Bを参照)場合、上記ノズルとワーク(ここでは、基材)との間の距離を短くし、かつ、上記部材形成用組成物の吐出速度を速くする。さらに、塗工領域を狭く絞ってコーティングを行ってもよい。一方、例えば、無機フィラーを部材の厚さ方向における断面と直交する方向に配向させる(図2Aを参照)場合、上記ノズルとワークとの距離を長くし、かつ、上記部材形成用組成物の吐出速度を遅くする。かかる工夫によって、無機フィラーに所望の配向性を具備させることができる(詳しくは、後述の実施例を参照されたい)。
そして、上述したような塗工を行った後、必要に応じて、所定の温度(例えば、100~200℃程度)で所定の時間(例えば、1~2時間程度)乾燥させることによって、基材上に部材形成用組成物が塗工された物品の前駆体を得ることができる。
【0045】
焼成工程(ステップ3)
本工程では、上記のとおり作製した物品の前駆体を焼成する。これによって、基材12と、該基材上に部材10が形成された物品1が作製される。本工程における焼成温度は、例えば700℃~1000℃程度とすることができる。また、焼成時間は、例えば1時間~5時間程度とすることができる。
【0046】
[他の形態]
上記実施形態では、基材上に部材が形成された物品について説明したが、これに限定されず、例えば部材が2つの基材によって挟持された態様(即ち、サンドイッチ構造)であってもよい。この場合、上記と同様な方法で、基材上に部材形成用組成物を塗布し、乾燥させた後、さらに他の基材を積層し、焼成することによって作製することができる。
【0047】
以下、ここで開示されるに関する試験例について説明するが、本発明をかかる試験例に限定することを意図したものではない。
【0048】
<第1の試験例>
本試験例では、平均アスペクト比の異なる無機フィラーを含む部材を備えたサンプルの絶縁性と、放熱性とを評価した。
【0049】
(サンプルの作製)
先ず、ガラス粉末(平均粒子径:0.5μm)と、表1の該当欄に示す市販の無機フィラー(アルミナフィラー,平均長径:8.0μm)と、バインダ(アクリル樹脂)と、溶剤(NMP)とを、5:0.5:1.5:93の質量比で混錬した。これによって、部材形成用組成物を得た。ここで、上記ガラス粉末としては、酸化換算のモル比で次の組成:B;13.3モル%、Al;14.6モル%、SiO;20.3モル%、ZnO;8.7モル%、SrO;0.8モル%、Y;1.1モル%、BaO;41.2モル%のものを用いた。また、かかるガラス粉末の30℃から500℃までの線熱膨張係数を、Rigaku社製のTMA8310で測定した結果、1.0×10―5―1であった。そして、かかる部材形成用組成物の粘度は、2000mPa・sec程度(25℃-100rpm,Blookfield社製のB型粘度計で測定)であった。なお、粘度が高い場合や低い場合は、適宜溶剤量を調整することで対応した。
【0050】
ここで、各例に係る無機フィラーの平均短径は、例1:0.04μm、例2および例3:0.2μm、例4:0.8μm、例5:4.0μmであった。また、例6および例7は略球状であり、平均粒子径がそれぞれ5.6μm、1.0μmであった。また、特に明記していないが、第1~3の試験例で使用している無機フィラーの平均厚みは、0.01μm程度であった。
【0051】
続いて、上記で用意した部材形成用組成物を、縦25mm×横25mm×2mmの基材(SUS430)上にスプレーコーティング(静電塗布)した後、1000℃程度で熱処理を行った。これによって、各例に係るサンプルを得た。なお、上記スプレーコーティングは、以下の条件で行った。
【0052】
[スプレーコーティングの条件]
装置 :ナガセテクノエンジニアリング社製のミストコーターPDR-08
電圧 :6kV
ワークの温度 :80℃
ノズルの内径(直径):300μm
例1,2,4~7に係る部材形成用組成物については、ノズルとワーク(ここでは、SUS430)までの距離を50mmとし、かつ、部材形成用組成物の吐出速度を0.05mL/分とした。また、例3に係る部材形成用組成物については、ノズルとワークまでの距離を15mmとし、かつ、吐出速度を0.1mL/分とした。そして、かかる供給後のグリーンシートを、乾燥させることで、厚みが約50μmの部材を備えた各例に係るサンプルを得た。
【0053】
(無機フィラーの配向方向の評価)
上記のとおり得られた各例に係るサンプルについて、部材の厚さ方向における断面(即ち、XY断面)における縦:0.05mm×横:0.03mm断面のSEM画像(倍率:2000倍)を、無作為的に1枚以上取得した。かかる取得は、日本電子(株)製のJSM-6610LAを用いて行った。ここで、例1,2,4,5に係るSEM画像では、無機フィラーが概ね上記断面に直交する方向に配置されていることが確認され、例3に係るSEM画像では、無機フィラーが概ね上記厚さ方向に配置されていることが確認された。また、例6,7に係るSEM画像では、無機フィラーが乱雑に配置されている(即ち、配向性を有さない)様子が観察された。
【0054】
続いて、例1,2,4,5に係るSEM画像において観察される無機フィラーの、上記断面に直交する方向に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θ(図2Aの部材10aにおけるθに相当)の値を測定した。また、例3に係るSEM画像において観察される無機フィラーの、上記厚さ方向に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θ(図2Bの部材10bにおけるθに相当)の値を測定した。なお、ここでは、各例において、少なくとも100個以上の無機フィラーについて測定を行った。その結果、例1~5に係るSEM画像において、観察される無機フィラーの90個数%以上について、上記θ(例1,2,4,5ではθ,例3ではθに相当)の値が10°以下であることが確認された。表1の「無機フィラーの配向方向」の欄に、かかる結果を示した。
【0055】
(放熱性の評価)
上記のとおり得られた各例に係るサンプルの放熱性を評価した。具体的には、上記サンプルと同じ形状のアルミ板を、炉内で大気雰囲気下、400℃で加熱して安定させた。次に、かかる加熱したアルミ板の上に、上記サンプルを載せ、さらにサンプルと同じ形状のアルミ板を載せた後、炉の電源を切って加熱を停止した。続いて、サンプルの上に載せたアルミ板における該サンプルと接触していない面の温度を経時的に測定し、常温(25℃)に戻るまでの時間を測定した。そして、常温に戻るまでの時間が10分未満であった場合を放熱性が「◎」、常温に戻るまでの時間が10分以上15分未満であった場合を放熱性が「○」、常温に戻るまでの時間が15分以上20分未満であったものを放熱性が「△」、常温に戻るまでの時間が20分以上であった場合を放熱性が「×」とした。その結果を、表1の「放熱性」の欄に示した。
【0056】
(絶縁性の評価)
上記のとおり得られた各例に係るサンプルが備える部材の表面のシート抵抗値(Ω/□)を測定した。かかる測定には、高抵抗率計ハイレスタ-UP((株)三菱化学製、MCP-HT450)を用いて測定した。なお、かかる測定では、リングプローブ(同製、URSプローブ、MCP-HTP14)を用い、測定印加電圧を1000Vとして測定した。そして、シート抵抗値が1.0×1014Ω/□以上であった場合を絶縁性が「◎」、シート抵抗値が1.0×1013Ω/□以上1.0×1014Ω/□未満であった場合を絶縁性が「○」、シート抵抗値が1.0×1012Ω/□以上1.0×1013Ω/□未満であった場合を絶縁性が「△」、シート抵抗値が1.0×1012Ω/□未満であった場合を絶縁性が「×」とした。その結果を、表1の「絶縁性」の欄に示した。
【0057】
また、表1では表記していないが、例4のアルミナを用い、配向性を具備させなかった場合、絶縁性は担保されていたものの、放熱性は好ましくないことが分かった。
【0058】
【表1】
【0059】
<第2の試験例>
本試験例では、平均短径・平均長径の値が異なる無機フィラーを含む部材を備えたサンプルの絶縁性と、放熱性とを評価した。
【0060】
(サンプルの作製)
先ず、上記と同様なガラス粉末と、表1の該当欄に示す市販の無機フィラー(アルミナフィラー,平均アスペクト比:0.02)と、バインダ(アクリル樹脂)と、溶剤(NMP)とを、5:0.5:1.5:93の質量比で混錬した。これによって、部材形成用組成物を得た。ここで、かかる部材形成用組成物の粘度は、2000mPa・sec程度(25℃-100rpm,Blookfield社製のB型粘度計で測定)であった。
【0061】
ここで、各例に係る無機フィラーの平均短径は、例8:0.01μm、例9:0.02μm、例10:0.1μm、例11:0.16μm、例12:0.4μm、例13:0.6μmであった。
【0062】
続いて、上記のとおり調製した部材形成用組成物を、縦25mm×横25mm×厚さ2mmの基材(SUS430)上に、第1の試験例の例1と同様な条件(即ち、無機フィラーを、部材の厚さ方向における断面に直交する方向に配向させる条件)でスプレーコーティングを行った後、1000℃程度で熱処理を行った。これによって、厚みが約50μmの部材を備えた各例に係るサンプルを得た。
【0063】
(放熱性の評価)
第1の試験例と同様な方法によって、各例に係るサンプルの放熱性を評価した。その結果を、表2の「放熱性」の欄に示した。
【0064】
(絶縁性の評価)
第1の試験例と同様な方法によって、各例に係るサンプルの絶縁性を評価した。その結果を、表2の「絶縁性」の欄に示した。
【0065】
【表2】
【0066】
<第3の試験例>
本試験例では、無機フィラーの含有率を変化させた場合に得られる部材の、厚さ方向における断面に直交する方向における断面の無機フィラーの面積占有率を算出した。そして、各例に係る部材と基材との接合強度を評価した。また、各部材を備えたサンプルの絶縁性、放熱性も併せて評価した。
【0067】
(サンプルの作製)
先ず、上記と同様なガラス粉末と、市販の無機フィラー(アルミナフィラー,平均アスペクト比:0.02,平均短径:0.2μm,平均長径:8.0μm)と、バインダ(アクリル樹脂)と、溶剤(NMP)とを混錬した。ここで、部材形成用組成物の全体を100質量%としたときに、ガラス粉末を5質量%、無機フィラーを表1の該当欄に示す質量%、バインダを1.5質量%、残部を溶剤とした。これによって、部材形成用組成物を得た。ここで、かかる部材形成用組成物の粘度は、2000mPa・sec程度(25℃-100rpm,Blookfield社製のB型粘度計で測定)であった。なお、粘度が高い場合や低い場合は、適宜溶剤量を調整することで対応した。
続いて、上記のとおり調製した部材形成用組成物を、縦25mm×横25mm×厚さ2mmの基材(SUS430)上に、第1の試験例の例1と同様な条件(即ち、無機フィラーを、部材の厚さ方向における断面に直交する方向に配向させる条件)でスプレーコーティングを行った後、800℃程度で熱処理を行った。これによって、厚みが約50μmの部材を備えた各例に係るサンプルを得た。
【0068】
(放熱性の評価)
第1の試験例と同様な方法によって、各例に係るサンプルの放熱性を評価した。その結果を、表3の「放熱性」の欄に示した。
【0069】
(絶縁性の評価)
第1の試験例と同様な方法によって、各例に係るサンプルの絶縁性を評価した。その結果を、表3の「絶縁性」の欄に示した。
【0070】
(無機フィラーの面積占有率の測定)
上記のとおり得られた各例に係るサンプルについて、部材の厚さ方向における断面に直交する方向における断面のSEM画像において、無機フィラーの占める面積の割合を測定した。具体的には、取得したSEM画像から、ガラス部分と無機フィラー部分を2値化し、全面積に対する無機フィラーの面積比率を無機フィラーの面積占有率とした。かかる測定は、日本電子(株)製のJSM-6610LAを用い、SEMによる2000倍(反射電子)の観察領域において実施した。
【0071】
また、画像解析ソフトには、日本ローパー社製のImage-Pro Plusを用いた。かかる画像解析においては、先ず、無機フィラー部分の輪郭をとる(トレースする)ことによって、面積を算出した。無機フィラーの輪郭のトレースは、コントラスト調整をしたSEMについて実施した。かかるコントラスト調整は、画像解析ソフトの「コントラスト最適合わせ込み」コマンド等を利用することで、自動的に実施することができる。また、二値化「Segmentation(色抽出)」コマンドを利用することで、無機フィラー部分を背景から高精度に分離・抽出することができる。具体的には、例えば、二値化では、コントラスト調整をした無機フィラーを白とする白黒画像に変換する。そして、次式:面積占有率=(無機フィラー部分の総面積)/(観察視野全面積)×100(%)とし、無機フィラーに対応する画素で50ピクセル以上の塊となった部分の総ピクセル数/観察視野の全ピクセル数;に基づき面積占有率を算出した。その結果を、表3の「無機フィラーの面積占有率」の欄に示した。
【0072】
(接合強度の評価)
サンプルにおける部材と基材との接合性を評価するために、JIS K5600-5-6:1999(塗料一般試験方法、第5部:塗膜の機械的性質、第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、クロスカット試験を実施した。先ず、部材の端部から5mm以上離れた位置に、1mmの間隔で6本の平行なカットを格子状に入れることで、25マスの格子パターンを形成した。そして格子パターンを覆うように幅24mmの透明感圧付着テープ(付着強さ4.01N/mm)を貼り付け、テープのなす角が約60°となる方向に引き剥がしたのち、クロスカットの全面積(25マス)に占める剥がれた部分の面積割合(欠損部面積率)x(%)を算出した。そして下記に示すように、部材の欠損部面積率xに対応した評価記号を表2の「接合性」の欄に示した。なお、下記の評価記号は、日本塗料検査協会の碁盤目試験の評価点数と概ね対応しており、「×」は2点以下に、「△」は4点に、「〇」は6点に、「◎」は8~10点に対応する。
【0073】
なお、表3には表記していないが、無機フィラーを含有しない部材形成用組成物を用いて作製したサンプルでは、放熱性、絶縁性がともに「×」であった。
【0074】
【表3】
【0075】
表1に示すように、基材(ここでは、SUS430)と、該基材上に形成された、ガラスマトリックスおよび無機フィラーを含む板状の部材とを備え、上記無機フィラーの平均アスペクト比(短径/長径比)は0.005~0.5であり、上記部材の厚さ方向における断面のSEM画像において観察される、上記無機フィラーの90個数%以上について、該厚さ方向または該断面に直交する方向のいずれか一方に対する該無機フィラーの長径のなす鋭角θの値が10°以内である例1~例5に係るサンプルでは、無機フィラーの平均アスペクト比が上記範囲外であり、かつ、配向性を具備しない例6,7に係るサンプルと比較して、絶縁性と、放熱性との両立が好適に実現することができることが確認された。また、例2および例3に係るサンプルの評価結果を参照すると、無機フィラーが部材の厚さ方向に配向する態様において、放熱性により優れることが確認された。
【0076】
表2に示すように、無機フィラーの平均長径の値が1μm~20μmである例9~12に係るサンプルでは、無機フィラーの平均長径の値が上記範囲外である例8および例13に係るサンプルと比較して、放熱性と、絶縁性との両立がより好適に実現されることが確認された。そして、例9~12に係るサンプルの中でも、平均長径の値が5μm以上である例10~12に係るサンプルに関して、絶縁性が特に優れることが確認された。
また、表3に示すように、部材の厚さ方向における断面に直交する方向における、該部材の断面のSEM画像において、無機フィラーの占める面積の割合(即ち、面積占有率)が15~70%の範囲内である例15~21に係るサンプルでは、無機フィラーの面積占有率が上記範囲外である例14および例22に係るサンプルと比較して、放熱性と、絶縁性の両立に加えて、基材と部材との接合性に優れることが確認された。
【0077】
以上より、ここで開示される技術によると、例えば薄層化された(本試験例では50μm程度)態様においても、絶縁性と、放熱性とを好適に両立し得る部材を備えた物品を提供することができる。そして、このような物品は、種々の工業用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 物品
10,10a,10b 部材
12 基材
20,20a,20b 無機フィラー

図1
図2A
図2B