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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】光偏向器
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20241209BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021082273
(22)【出願日】2021-05-14
(65)【公開番号】P2022175658
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅利 友隆
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/246245(WO,A1)
【文献】特開2016-212221(JP,A)
【文献】特開2012-063413(JP,A)
【文献】特開2002-214560(JP,A)
【文献】特開2017-129783(JP,A)
【文献】米国特許第09946062(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第111751980(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10
G02B 26/08
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラー部と、
前記ミラー部を包囲するように設けられた枠体と、
前記ミラー部の中心を通る軸線上で、各々の一端部が前記ミラー部と結合され、各々の他端部が前記枠体と結合されている1対のトーションバーと、
前記枠体上に設けられ、前記トーションバーを前記軸線の周りに往復回動させる圧電アクチュエータと、を備え、
前記トーションバーと前記ミラー部との接続部を第1接続部とし、前記トーションバーと前記枠体との接続部を第2接続部としたとき、前記トーションバーは、前記第1接続部と前記第2接続部における横幅が最も広く、長さ方向の中心部に向かって徐々に横幅が狭くなるくびれ形状を有し
前記トーションバーの前記第1接続部又は前記第2接続部の横幅をW1とし、前記トーションバーの長さ方向の中心部の横幅W2とし、(W 1 -W 2 )/2=W 3 と定めたとき、
前記第1接続部又は前記第2接続部と前記長さ方向の中心部との中央における前記トーションバーの横幅W 4 は、W 2 +0.30×W 3 以上W 2 +0.35×W 3 以下で与えられることを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
前記ミラー部が円形状又は楕円形状を有しているとき、前記トーションバーの前記第1接続部側の端部は、前記軸線と直交した、前記ミラー部の前記円形状又は楕円形状の接線上にあることを特徴とする請求項に記載の光偏向器。
【請求項3】
前記枠体が円形状又は楕円形状を有しているとき、前記トーションバーの前記第2接続部側の端部は、前記枠体の前記円形状又は楕円形状を構成する曲線の終点を結ぶ直線上にあることを特徴とする請求項1または2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記トーションバーは、長さ方向の中心部を含む直線部分を有し、
前記直線部分は、前記トーションバーの全体の長さの25%以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の光偏向器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションバーを利用してミラー部を往復回動させる光偏向器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術で作製された光偏向器、当該光偏向器を備えた光走査装置が知られている。光偏向器は、回転軸周りに往復回動するミラー部を有しており、光源からの光をミラー部の振れ角に応じた方向に反射して、所定の領域を光走査する。
【0003】
特許文献1の光走査装置において、可動板部は、反射面裏側の可動板とトーション梁の各接続部分付近に、補強のためのリブをそれぞれ設けている。この光走査装置によれば、歪みの大きい回動中心に近い部分が補強されるため、可動板部分の重量と慣性モーメントの増加を抑えることができる(特許文献1/段落0026、図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5168659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この光走査装置では、上記リブを設けることでトーション梁の付け根部分の剛性が不連続になる可能性がある。可動板部を駆動させ、さらに光の走査速度を向上させたときに発生する応力がトーション梁の一部分に集中すると、破損につながるおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、剛性が高く、小型化、薄型化しても破損し難い光偏向器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光偏向器は、光を反射するミラー部と、前記ミラー部を包囲するように設けられた枠体と、前記ミラー部の中心を通る軸線上で、各々の一端部が前記ミラー部と結合され、各々の他端部が前記枠体と結合されている1対のトーションバーと、前記枠体上に設けられ、前記トーションバーを前記軸線の周りに往復回動させる圧電アクチュエータと、を備え、
前記トーションバーと前記ミラー部との接続部を第1接続部とし、前記トーションバーと前記枠体との接続部を第2接続部としたとき、前記トーションバーは、前記第1接続部と前記第2接続部における横幅が最も広く、長さ方向の中心部に向かって徐々に横幅が狭くなるくびれ形状を有していることを特徴とする。
【0008】
本発明の光偏向器では、圧電アクチュエータが、一対のトーションバーを利用してミラー部を軸線周りに往復回動させる。トーションバーは、各々の一端部が第1接続部にてミラー部と接続し、各々の他端部が第2接続部にて圧電アクチュエータが設けられた枠体と接続している。
【0009】
トーションバーにかかる捩じり運動の応力を緩和するため、トーションバーを、第1接続部と第2接続部の横幅が最も広く、長さ方向の中心部に向かって徐々に横幅が狭くなるくびれ形状とする。本発明の光偏向器は、中心部の横幅が広く、かつ直線状のトーションバー(従来構造)と比較して、当該中心部の横幅が狭く、回転トルクが小さくなる。その分、本発明の光偏向器では、歪みが抑えられ、剛性が高まるため、小型化、薄型化しても破損し難い光偏向器とすることができる。
【0010】
本発明の光偏向器において、前記トーションバーの前記第1接続部又は前記第2接続部の横幅をW1とし、前記トーションバーの長さ方向の中心部の横幅W2とし、(W1-W2)/2=W3と定めたとき、前記第1接続部又は前記第2接続部と前記長さ方向の中心部との中間部における前記トーションバーの横幅W4は、W2+0.30~0.35×W3で与えられることが好ましい。
【0011】
ミラー部を往復回動させたときの共振周波数及び限界振れ角は、トーションバーの形状に依存する。トーションバーの横幅W4を上記範囲とすることで、ミラー部の共振周波数及び限界振れ角の特性を高めることができる。
【0012】
また、本発明の光偏向器において、前記ミラー部が円形状又は楕円形状を有しているとき、前記トーションバーの前記第1接続部側の端縁は、前記軸線と直交した、前記ミラー部の前記円形状又は楕円形状の接線上にあることが好ましい。
【0013】
ミラー部が円形状又は楕円形状であるとき、トーションバーの第1接続部側(ミラー部側)の端縁は、上記接線上にあるとする。これにより、トーションバーの長さを明確にすることができる。
【0014】
また、本発明の光偏向器において、前記枠体が円形状又は楕円形状を有しているとき、前記トーションバーの前記第2接続部側の端縁は、前記枠体の前記円形状又は楕円形状を構成する曲線の終点を結ぶ直線上にあることが好ましい。
【0015】
枠体が円形状又は楕円形状であるとき、トーションバーの第2接続部側(枠体側)の端縁は、上記直線上にあるとする。これにより、トーションバーの長さを明確にすることができる。
【0016】
また、本発明の光偏向器において、前記トーションバーは、長さ方向の中心部を含む直線部分を有し、前記直線部分は、前記トーションバーの全体の長さの25%以下であることが好ましい。
【0017】
トーションバーは、その長さ方向の中心部に直線部分を有していてもよい。当該直線部分の長さがトーションバーの全体の長さの25%以下であれば、曲線のみからなるくびれ形状のトーションバーと同性能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】光スキャナモジュールの構成図。
図2】本発明の光偏向器の詳細を説明する図。
図3図2中の領域Rの拡大図。
図4図3中の領域Sの拡大図。
図5】(a)トーションバーの全体斜視図。(b)トーションバーのI-I断面図。
図6】トーションバー(変更形態)を説明する図。
図7】(a)トーションバー(参考例A)を説明する図。(b)トーションバー(参考例B)を説明する図。
図8】トーションバーの各形状による性能比較を説明する図。
図9】トーションバーの従来構造と新規構造の性能比較を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(全体構成)
初めに、図1を参照して、光スキャナモジュール1の構成を説明する。
【0020】
光スキャナモジュール1は、例えば、ピコプロジェクタ、スマートグラス(ウェアラブル機器)、ADB(Adaptive Driving Beam)用のヘッドランプ等に使用される部品であり、光偏向器2、光源3、制御装置5等から構成される。
【0021】
(光偏向器)
光偏向器2は、半導体プロセスとMEMS技術とを利用して作製される。光偏向器2は、一定方向から入射する光を、軸線周りに回動するマイクロミラー(ミラー部9)で反射し、走査光として出射するデバイスである。
【0022】
光偏向器2のインナーフレームである可動枠8(本発明の「枠体」)には、ミラー部9、圧電アクチュエータ10、トーションバー13等が設けられている。光源3から出射されたレーザ光4aは、ミラー部9に入射して反射され、反射光(レーザ光4b)が、例えば、ピコプロジェクタの投影面を走査する。
【0023】
(光源)
光源3は、中心波長が約450nmのレーザダイオード(LD:Laser Diode)であり、青色光(レーザ光4a)を出射する。なお、光源として、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等を用いてもよい。
【0024】
(制御装置)
制御装置5は、可動枠8及び光源3に制御信号を送信する。この制御信号により可動枠8内の圧電アクチュエータ10が駆動され、トーションバー13が捩れることで、ミラー部9が往復回動する。また、光源3のレーザ光4aは、制御信号によりオン、オフや輝度が制御される。
【0025】
次に、図2を参照して、本実施形態の光偏向器2の詳細を説明する。
【0026】
(ミラー部)
ミラー部9は、初期状態において、その中心Oから正面側に延び出す法線を、光偏向器2において、まっすぐ前方に向けて配設されている。ミラー部9は、Y軸線(本発明の「軸線」)方向のトーションバー13(13a,13b)に支持され、可動枠8の略中心に配置されている。
【0027】
ミラー部9の反射面は、Au,Pt,Al等の金属薄膜を、例えば、スパッタ法や電子ビーム蒸着法により形成する。なお、ミラー部9の形状は円形に限られず、楕円形やその他の形状であってもよい。
【0028】
(可動枠)
可動枠8は、内側枠体8aと外側枠体8bとの二重構造を有し、ミラー部9を包囲するように設けられている。圧電アクチュエータ10は、正面視左側の半環状圧電アクチュエータ10a、正面視右側の半環状圧電アクチュエータ10bとで構成され、内側枠体8aの上面に設けられている。すなわち、内側枠体8aは、複数の圧電体部が環状に並べて配置された環状の駆動部である。
【0029】
(トーションバー)
トーションバー13は、正面視上側のトーションバー13aと、正面視下側のトーションバー13bとで構成されている。トーションバー13a,13bは、各々の一端部がミラー部9と結合され、各々の他端部が内側枠体8aと結合されている。トーションバー13a,13bがこのように結合されていることで、ミラー部9のY軸線方向の往復回動が安定する。なお、トーションバーの形状の詳細については後述する。
【0030】
(半環状圧電アクチュエータ)
半環状圧電アクチュエータ10a,10b(本発明の「圧電アクチュエータ」)は、内側枠体8a上に設けられている。また、内側枠体8aは、Y軸上でトーションバー13a,13bと結合され、X軸上で外側枠体8bと結合されている。
【0031】
半環状圧電アクチュエータ10a,10bは、半導体プロセスにより、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電膜を下部電極及び上部電極で挟み込んだ構造である。下部電極、上部電極を介して圧電膜に電圧を印加することで、半環状圧電アクチュエータ10a,10bを屈曲変形させ、トーションバー13a,13bを捩るという仕組みである。
【0032】
(蛇腹状圧電アクチュエータ)
光偏向器2では、外枠支持体11の中央に可動枠8が配設され、可動枠8の両脇には、蛇腹状圧電アクチュエータ6a,6bが配設されている。蛇腹状圧電アクチュエータ6a,6bは、外側枠体8b及び外枠支持体11のX軸上の端部と結合されている。
【0033】
蛇腹状圧電アクチュエータ6a,6bは、複数のカンチレバーを長手方向が隣り合う向きに並べ、上下方向端部で折り返して直列結合した構造になっている。蛇腹状圧電アクチュエータ6a,6bを駆動させることにより、可動枠8がX軸線周りを往復回動する。
【0034】
この結果、光偏向器2は、レーザ光4aをミラー部9で反射する際、光を光偏向器2の前方に出射して、さらにX軸線方向とY軸線方向の2方向に走査することができる。
【0035】
(電極パッド)
外枠支持体11の正面視左側には、電極パッド7a-1~7a-8(以下、電極パッド7aという)が配設され、外枠支持体11の正面視右側には、電極パッドb-1~7b-8(以下、電極パッド7bという)が配設されている。電極パッド7a,7bは、蛇腹状圧電アクチュエータ6a,6b及び半環状圧電アクチュエータ10a,10bの各電極に駆動電圧を印加できるように電気的に接続されている。
【0036】
次に、図3図5を参照して、本実施形態のトーションバーの詳細を説明する。
【0037】
(トーションバーの構造)
まず、図3に、図2中の領域Rの拡大図を示す。本実施形態のトーションバー13a,13bは端部の横幅が最も広く、トーションバー13a,13bの長さ方向の中心部に向かって、横幅が徐々に狭くなるくびれ形状を有している。以下では、トーションバー13bを例に説明する。
【0038】
図示するように、ミラー部9が円形状を有しているとき、Y軸線と直交するミラー部9(円形状)の接線s1が、トーションバー13bとミラー部9との接続部(本発明の「第1接続部」)の端縁となる。
【0039】
なお、ミラー部9が楕円形状を有しているときは、トーションバー13bとミラー部9との接続部の端縁は、Y軸線と直交するミラー部9(楕円形状)の接線上にある。
【0040】
また、図示するように、可動枠8が楕円形状を有しているとき、可動枠8(楕円形状)を構成する曲線の終点(曲率が変化する点)を結ぶ直線s2が、トーションバー13bと可動枠8との接続部(本発明の「第2接続部」)の端縁となる。
【0041】
なお、可動枠8が円形状を有しているときは、トーションバー13bと可動枠8との接続部の端縁は、同様に可動枠8(円形状)を構成する曲線の終点を結ぶ直線上にある。
【0042】
トーションバー13bとミラー部9との接続部の端縁(接線s1)と、トーションバー13bと可動枠8との接続部の端縁(直線s2)とを以上のように定義することで、トーションバー13bの長さを明確にすることができる。
【0043】
次に、図4に、図3中の領域Sの拡大図を示す。ここでは、トーションバー13b(以下、トーションバー13という)の各部分のサイズについて説明する。
【0044】
上述の光偏向器2において、トーションバー13のミラー部9側の端縁は接線s1であり、トーションバー13の可動枠8側の端縁は直線s2である。従って、接線s1と直線s2の間の距離がトーションバー13の長さLとなる。
【0045】
本実施形態のトーションバー13は、端縁の横幅W1が320[μm]であり、トーションバー13の長さ方向の中心部(端縁からの距離がL/2:直線m上)の横幅W2が160[μm]である。トーションバー13は、端縁から長さ方向の中心部に向かって横幅が徐々に広くなるように、曲線のみで構成されている。なお、従来の直線状のトーションバーの横幅(W1=W2)は、220[μm]である(図示省略)。
【0046】
また、図中の距離W3は、W3=(W1-W2)/2で与えられる。このとき、トーションバー13の端縁(接線s1又は直線s2)と、トーションバー13の長さ方向の中心部との中間部(端縁からの距離がL/4:直線n上)におけるトーションバー13の横幅W4は、W2+N×W3(N=0.30~0.35)の条件を満たすこと好ましい。
【0047】
例えば、横幅W1=320[μm]、横幅W2=160[μm]のとき、N=0.325として、距離W3=80[μm]、横幅W4=186[μm]と算出することができる。従って、横幅W1、横幅W2、横幅W4を満たすように、トーションバー13の曲線形状を設計すればよい。
【0048】
ここで、図5を参照して、本実施形態のトーションバー13が高性能を有する原理について説明する。
【0049】
図5(a)は、トーションバー13の斜視図である。図示するように、トーションバー13は、端縁における横幅W1が最も広く、長さ方向の中心部に向かって横幅が徐々に狭くなるくびれ形状を有している。トーションバー13は両端が捩じり運動の固定端となるため、長さ方向の中心部は固定端から最も離れた位置となり、大きな応力を受ける。
【0050】
図5(b)は、図5(a)のトーションバー13のI-I断面図である。断面図(上)に示すように、切り口は横幅W2(=160μm)と、厚みTの長方形となる。この横幅W2は、従来の直線状のトーションバーの横幅(220μm)よりも狭くなる。横幅W2の減少により、回転軸(Y軸線)からの腕の長さが短くなって慣性モーメントが小さくなるため、回転トルク(=慣性モーメント×角加速度)が抑えられ、歪みも減少する。
【0051】
本実施形態のトーションバー13は、中心部が両端部と比較して捩れ易い構造となっているが、従来構造と比較して歪みを抑えることができるため、破損し難くい。従って、トーションバー13は、高い共振周波数特性を維持しつつ、ミラー部9の限界振れ角を増大させることができる。
【0052】
なお、トーションバー13の厚みTは、トーションバー13の横幅W2の25%程度である。本実施形態のトーションバー13は、横幅W2が160[μm]であるため、厚みTは40[μm]以下に薄型化することができる。
【0053】
図5に示したトーションバー13と横幅W1及び横幅W2が等しく、その一部に直線部分を有するトーションバーとしてもよい。図6は、直線部分Dを有する変更形態のトーションバー20である。
【0054】
直線部分Dは、トーションバー20の長さ方向の中心部を含むため、横幅W2は、トーションバー20の横幅が最も狭い部分である。直線部分Dは、トーションバー20の全体の長さLの25%以下であることが好ましい。この条件を満たせば、図4のトーションバー13と同等の特性を有する(詳細は後述する)。
【0055】
次に、図7を参照して、くびれ形状を有するといえるが、本実施形態と比較して性能が低下するトーションバー(参考例)について説明する。
【0056】
図7(a)に示すトーションバー30(参考例A)は、横幅W4が上述の理想値より小さい場合(N<0.30)である。図示するように、トーションバー30は、その長さ方向の中心部(直線m)付近において、直線部分Dが比較的長い形状となっている。この形状(D>0.25×L)では、共振周波数の低下が見られた(詳細は後述する)。
【0057】
また、図7(b)に示すトーションバー40(参考例B)は、横幅W4が上述の理想値より大きい場合(N>0.35)である。図示するように、トーションバー40は、その長さ方向の中心部(直線m)付近を横幅W2よりも横幅の広い部分が占める。そのため、回転トルクが大きくなり、限界振れ角が減少する傾向が見られた(詳細は後述する)。
【0058】
図8は、トーションバーの各形状による性能を比較したシミュレーション結果である。本シミュレーションは、市販のソフトウェア(IntelliSuite)を使用し、従来の直線状を基準とする共振周波数[Hz]及び限界振れ角[°]を計測した。
【0059】
図4のトーションバー13(図8中の「新規1」)は、N=0.325として横幅W4を決定した形状(くびれ形状)であるが、共振周波数が102%、限界振れ角が134%と、何れも従来(直線状)を上回る特性が得られた。このため、本実施形態のトーションバー13の形状が性能の向上につながることの証明となった。
【0060】
図6のトーションバー20(図8中の「新規2」)は、N=0.325として横幅W4を決定した、直線部分Dを含む形状であるが、共振周波数が99%、限界振れ角が147%と、限界振れ角について従来を上回る特性が得られた。共振周波数についても、従来とほとんど差のない結果であったため、トーションバーは直線部分Dを含む態様でもよいといえる。
【0061】
図7(a)のトーションバー30(図8中の「参考例A」)は、N=0.150として横幅W4を決定した形状であるが、共振周波数が106%、限界振れ角が98%という結果が得られた。また、図7(b)のトーションバー40(図8中の「参考例B」)は、N=0.500として横幅W4を決定した形状であるが、共振周波数が109%、限界振れ角が89%という結果が得られた。ミラー部9は、限界振れ角が減少すると走査範囲が狭くなってしまうため、これら参考例は、性能が低下すると態様と判断した。
【0062】
最後に、図9を参照して、トーションバーの従来構造と新規構造の性能比較について説明する。
【0063】
従来の直線状のトーションバーは、中心部(直線m)の横幅W2が220[μm]、共振周波数が19,849[Hz]、限界振れ角が11.9[°]であった。なお、回転トルクは「比率」で比較するため、従来構造を「1」とした。
【0064】
これに対し、新規のくびれ形状のトーションバー13は、中心部(直線m)の横幅W2が160[μm]で、従来の73%である。トーションバー13の共振周波数は19,886[Hz]であり、従来構造とほぼ等しく、限界振れ角は13.8[°]であり、従来の116%に上昇した。また、回転トルクは、従来の40%に抑えることに成功した。
【0065】
以上から、新規構造のトーションバー13は、従来構造と比較して破損し難いだけでなく、高いデバイス特性が得られる。本発明の光偏向器は、小型化、薄型化の要請が高い製品への適用も可能である。
【0066】
上述の実施形態は一例に過ぎず、様々な変更形態が考えられる。ミラー部9が矩形状を有しているときは、トーションバー13bと隣接するミラー部9の辺が接続部の端縁となる。また、可動枠8が矩形状を有しているときは、トーションバー13bと隣接する可動枠8の辺が接続部の端縁となる。
【符号の説明】
【0067】
1…光スキャナモジュール、2…光偏向器、3…光源、4a,4b…レーザ光、5…制御装置、6a,6b…蛇腹状圧電アクチュエータ、7a1~7a8,7b1~7b8…電極パッド、8…可動枠、8a…内側枠体、8b…外側枠体、9…ミラー部、10a,10b…半環状圧電アクチュエータ、11…外枠支持体、13,13a,13b,20,30,40…トーションバー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9